JP2018053706A - コンクリート構造物の補修方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の面部材・壁式構造物をあと施工で補強しつつ補修することができるようにする。
【解決手段】せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材である隔壁11を貫通する貫通孔1が形成されると共に当該貫通孔1に補強筋2が挿し入れられ、鉄筋コンクリート製の部材である隔壁11から突出する補強筋2の両端部のそれぞれに補強筋2毎に別個の板部材3とナット4とが取り付けられるようにした。
【選択図】図1

Description

本発明は、コンクリート構造物の補修方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えばせん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の面部材や壁式構造物の補修・復旧に用いて好適な技術に関する。
鉄筋コンクリート柱の従来の補強技術として、一部を重ね合わせて互いにスライド可能にした複数枚の囲い鋼板(1)で、その下端とスラブ床との間に空隙部分を設けず、かつ上端と上部く体との間に空隙部分を設けて鉄筋コンクリート柱の周囲を囲い、当該空隙部分を、一部を重ね合わせて互いにスライド可能にした複数枚の囲い鋼板(2)で、その上端と上部く体との間に空隙部分を設けず、かつ囲い鋼板(1)の外周にその上部と重ね合わせて囲うとともに、これら囲い鋼板に帯状連続繊維シートを巻き付けて結束する一方、囲い鋼板(1)及び(2)と鉄筋コンクリート柱との間に設けた間隔にグラウト材を注入してなるものがある(特許文献1)。
特開2014−234603号公報
しかしながら、特許文献1の補強技術は、コンクリート柱の周囲を鋼板で囲う(言い換えると、巻立てる)ようにしているため、コンクリート製の柱部材に対して適用することはできても、コンクリート製の例えばボックスカルバートの隔壁などの面部材や壁式構造物に対して適用することはできないという問題がある。
また、特許文献1の補強技術は、破損・破壊する前の健全状態であるコンクリート柱に対して適用することが想定されており、つまり例えばせん断破壊が発生したコンクリート製の部材に対して適用することは想定されていないという問題がある。しかしながら、コンクリート製の構造物が例えば地震によって損傷した場合においても構造物を再構築しなくても継続利用を可能にし得るような復旧工法を、具体的にはせん断破壊した構造物に対する復旧工法を検討し準備しておくことは重要である。
そこで、本発明は、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の面部材・壁式構造物をあと施工で補強しつつ補修し復旧させることができるコンクリート構造物の補修方法を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明のコンクリート構造物の補修方法は、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材を貫通する貫通孔が形成されると共に当該貫通孔に補強筋が挿し入れられ、鉄筋コンクリート製の部材から突出する補強筋の両端部のそれぞれに補強筋毎に別個の板部材とナットとが取り付けられるようにしている。
したがって、このコンクリート構造物の補修方法によると、補強筋の両端部のそれぞれに補強筋毎に別個の板部材が取り付けられるようにしており、コンクリート構造物の鉄筋コンクリート製の部材の周囲を鋼板で囲うものではないので、鉄筋コンクリート製の種々の壁などの面部材や壁式構造物に対して適用され得る。
このコンクリート構造物の補修方法によると、また、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材に対して適用した場合に当該部材の耐力が回復することが発明者によって確認された手法であり、せん断破壊した鉄筋コンクリート製の部材があと施工で補強されつつ補修される。
また、本発明のコンクリート構造物の補修方法は、貫通孔のうちの少なくとも一部がせん断破壊によって鉄筋コンクリート製の部材に生じたせん断ひび割れを通過するように設けられるようにしても良い。この場合には、貫通孔に挿入される補強筋の配設位置が適切に設定されることになるので、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材を補強しつつ補修する機能が良好に発揮される。
また、本発明のコンクリート構造物の補修方法は、貫通孔が複数形成されたときのこれら貫通孔同士の縦方向に沿う配置間隔が鉄筋コンクリート製の部材の厚さ以下であるようにしても良い。この場合には、貫通孔に挿入される補強筋の配設間隔が適切に設定されることになるので、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材を補強しつつ補修する機能が良好に発揮される。
また、本発明のコンクリート構造物の補修方法は、鉄筋コンクリート製の部材と板部材との間に傾斜座金が更に配設されるようにしても良い。この場合には、鉄筋コンクリート製の部材の面外方向へのはらみ出しに対する板部材による拘束が適切に行われることになるので、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材を補強しつつ補修する機能が良好に発揮される。
本発明のコンクリート構造物の補修方法によれば、鉄筋コンクリート製の種々の壁などの面部材や壁式構造物に対して適用することができるので、周囲を鋼板で囲うような手法が適用できない部材を補修することが可能になる。
本発明のコンクリート構造物の補修方法によれば、また、せん断破壊した鉄筋コンクリート製の部材をあと施工で適切に補強しつつ補修することが可能になる。
本発明のコンクリート構造物の補修方法は、貫通孔がせん断ひび割れを通過するように設けられるようにした場合、貫通孔同士の縦方向間隔が鉄筋コンクリート製の部材の厚さ以下であるようにした場合、また、傾斜座金が配設されるようにした場合には、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材を補強しつつ補修する機能を良好に発揮させることができるので、破壊した部材を一層堅強に補修することが可能になり、延いてはコンクリート構造物の補修方法としての信頼性を向上させることが可能になる。
本発明のコンクリート構造物の補修方法の実施形態の一例を説明する図であり、ボックスカルバートの路空間の方向と直交する平面視における、実施形態において本発明が適用される隔壁の状況を示す図である。 補強筋の端部と板部材とに纏わる構成を説明する図であり、補強筋の軸方向に沿う縦断面図である。 補強筋の端部と板部材とに纏わる構成を説明する図であり、補強筋の軸方向と直交する平面図である。 鉄筋コンクリート製の部材の対向する面同士が相互に平行でない場合の補強筋の端部と板部材及び傾斜座金とに纏わる構成を説明する図であり、補強筋の軸方向に沿う立面図である。 実施例1における試験体を説明する図であり、ボックスカルバートの路空間の方向と直交する立面図(左半分)及び縦断面配筋図(右半分)である。 図5Aに示す試験体におけるA−A断面図である。 実施例1における補修後の載荷(即ち、二次載荷)による水平変位と水平荷重との間の関係を示す図である。 実施例1における補修後の載荷時(具体的には、二次載荷の負側一周目のピーク時)の補強筋のひずみを示す図である。 実施例2における試験体を説明する図であり、設計破壊モードがせん断圧縮破壊である試験体を説明する図である。(A)は部材長手軸心方向における縦断面図である。(B)は部材長手軸心方向と直交する方向における縦断面図である。 実施例2における試験体を説明する図であり、設計破壊モードが斜め引張破壊である試験体を説明する図である。(A)は部材長手軸心方向における縦断面図である。(B)は部材長手軸心方向と直交する方向における縦断面図である。 実施例2における載荷実験の結果得られた荷重−変位関係を示す図であり、設計破壊モードが斜め引張破壊であって本発明が適用されない場合の結果を示す図である。 実施例2における載荷実験の結果得られた荷重−変位関係を示す図であり、設計破壊モードがせん断圧縮破壊であって本発明が適用されない場合の結果を示す図である。 実施例2における載荷実験の結果得られた荷重−変位関係を示す図であり、設計破壊モードが斜め引張破壊であって本発明が適用された場合の結果を示す図である。 実施例2における載荷実験の結果得られた荷重−変位関係を示す図であり、設計破壊モードがせん断圧縮破壊であって本発明が適用された場合の結果を示す図である。
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
図1乃至図4に、本発明のコンクリート構造物の補修方法の実施形態の一例を示す。本実施形態では、本発明のコンクリート構造物の補修方法が、図1に示すように、曲げ降伏後のせん断破壊によって斜めせん断ひび割れ13が発生した鉄筋コンクリート製のボックスカルバート10の隔壁11に対して適用された場合を例に挙げている。
なお、本発明のコンクリート構造物の補修方法は、せん断破壊は発生しているものの軸方向破壊は発生しておらず内部のコンクリートが破壊していない状態の鉄筋コンクリート製の部材に対して適用され得る。図1に示す例では、隔壁11の軸方向は地面から天井へと向かう方向(つまり、鉛直方向)であり、軸方向の破壊は上からの力を支えられなくなって潰れる態様の破壊である。
本実施形態のコンクリート構造物の補修方法は、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材である隔壁11を貫通する貫通孔1が形成されると共に当該貫通孔1に補強筋2が挿し入れられ、鉄筋コンクリート製の部材である隔壁11から突出する補強筋2の両端部のそれぞれに補強筋2毎に別個の板部材3とナット4とが取り付けられるようにしている。
具体的には、まず、せん断破壊が発生した隔壁11を厚み方向(言い換えると、隔壁11の表面11aと直交する若しくは概ね直交する方向)に貫通する貫通孔1が形成される。貫通孔1は、言い換えると、せん断破壊によって隔壁11に生じたせん断ひび割れ13のひび割れ面と平行でない方向(つまり、交差する方向)に、更に言えばひび割れ面と直交する若しくは概ね直交する方向に形成される。
貫通孔1は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、湿式のダイヤモンドコアドリルが用いられて削孔/穿孔されて形成される。
貫通孔1は、基本的には、せん断破壊によって隔壁11に生じたせん断ひび割れ13を通過するように設けられる。ただし、隔壁11内においてせん断ひび割れ13が発生している範囲が外観からでは明確に特定できない場合があり得ることなども考慮し、一部の貫通孔1がせん断ひび割れ13を通過することなく設けられても構わない。
貫通孔1は、せん断ひび割れ13が隔壁11の表面11a(言い換えると、壁面11a)へと至って表面ひび割れ13aとして現出している場合には、当該表面ひび割れ13a上を避けて形成される。貫通孔1は、また、隔壁11の内部にもとより配設されている鉄筋を避けて形成される。なお、隔壁11の内部にもとより配設されている鉄筋の位置は、例えば施工時の配筋図や非破壊試験の結果などが参照されて確認される。
ここで、貫通孔1は、上記のように隔壁11の壁面11aの表面ひび割れ13a及び内部の鉄筋を避けた上で格子配筋となるように形成されることが好ましい。ただし、千鳥配筋としても良い。なお、貫通孔1の形成は、特定の個数に限定されるものではなく、補修対象の鉄筋コンクリート製の部材に発生しているせん断ひび割れの範囲などが考慮された上で、適当な個数に適宜設定される。
複数の貫通孔1同士の鉛直方向(言い換えると、縦方向)に沿う配置間隔(即ち、ピッチ)は、特定の数値に限定されるものではないものの、隔壁11の厚さD以下に設定されることが好ましい。また、複数の貫通孔1同士の水平方向(言い換えると、横方向)に沿う配置間隔(ピッチ)は、特定の数値に限定されるものではないものの、隔壁11の厚さD以下に設定されることが好ましい。
そして、貫通孔1に補強筋2が挿し入れられる。
補強筋2は、せん断破壊後の隔壁11におけるせん断に対する補強として機能するものである。
補強筋2は、せん断ひび割れ13が発生している位置における隔壁11の厚さ(即ち、せん断ひび割れ13の発生によるはらみ出し分を含む隔壁11の厚さ)よりも大きい寸法に長さが調節される。
補強筋2としては、両端部にねじが形成された棒状・線状の部材が用いられる。補強筋2としては、具体的には例えば、寸切りボルト(長ねじボルトや全ねじとも呼ばれる)が用いられ得る。
補強筋2の径は、特定の寸法に限定されるものではないものの、補強筋として必要とされる強度を発揮し得ることが期待される数値に適宜設定される。補強筋2の径は、具体的には例えば、あくまでも一例として挙げると、φ10〜18 mm 程度の範囲内で設定され得る。
また、貫通孔1の孔径は、特定の寸法に限定されるものではないものの、補強筋2を自由に挿入させて貫通させ得る範囲で、即ち補強筋2の径よりも僅かに大きいながらも、可能な限り小さく設定されることが好ましい。貫通孔1の孔径は、具体的には例えば、あくまでも一例として挙げると、16〜24 mm 程度の範囲内で設定され得る。
貫通孔1に挿入された補強筋2の、隔壁11の対向する壁面11a,11aのそれぞれから突出している両端部の各々に、板部材3とナット4とが取り付けられる。つまり、板部材3及びナット4は、隔壁11の外部において補強筋2の端部に取り付けられる。
板部材3は、座金として機能するものであり、平面視における(言い換えると、板面3aの)中央位置若しくは概ね中央位置に補強筋2を自由に貫通させるための貫通孔3bが設けられる。
板部材3としては、具体的には例えば、貫通孔3bが形成された、平面視において矩形(尚、正方形を含む)や円形の鋼板が用いられる。板部材3の平面視における大きさ(言い換えると、板面3aの大きさ)は、特定の寸法に限定されるものではないものの、一辺や直径の寸法が例えば50〜250 mm 程度に設定される。また、板部材3の厚さは、特定の寸法に限定されるものではないものの、例えば5〜30 mm 程度に設定される。
なお、補強筋2毎に別個の板部材3が用いられる。すなわち、複数の補強筋2に対して共通の一枚の板部材3が取り付けられることはない。
そして、隔壁11の壁面11aへと板部材3の板面3aを密着させるように補強筋2の両端のねじ部においてナット4が締め付けられ、貫通孔1を貫通する補強筋2が両端部それぞれのナット4,4でねじ止めされて隔壁11に対して固定される。
これにより、隔壁11の壁面11aへと板面3aを密着させた一対の板部材3,3によって当該隔壁11に発生したせん断ひび割れ13を閉塞させると共に当該隔壁11の面外方向(即ち、隔壁11の壁面11aと直交する方向)へのはらみ出しを拘束しながら補強筋2が隔壁11に対して固定される。
ここで、せん断ひび割れ13の発生による隔壁11の面外方向へのはらみ出しにより、隔壁11の対向する壁面11a,11a同士が平行でなくなる部分が生じることが考えられる。そして、対向する壁面11a,11a同士が平行でなくなる部分において隔壁11を貫通する補強筋2を設ける場合、壁面11aに対して板部材3の板面3aが平行にならないことが考えられる。
せん断ひび割れ13の発生によって隔壁11の面外方向へのはらみ出しが起こることにより、隔壁11の壁面11aと板部材3の板面3aとが平行でない場合には、図4に示すように、壁面11aと板面3aとの間の隙間を埋めるために傾斜座金5(「テーパーワッシャー」とも呼ばれる)が用いられる。
傾斜座金5は、具体的には例えば、平面視における形状が板部材3と揃えられると共に補強筋2を貫通させるための貫通孔5aが穿孔され、また、裏面(即ち、隔壁11の壁面11aへと当接する側の面)が傾斜しているものとして、鋼によって形成される。
傾斜座金5の用いられ方として、例えば以下の1)及び2)が考えられる。
1)相互に平行でない壁面11a,11aのそれぞれから突出している両端部のうちの一方の端部では傾斜座金が用いられる一方で他方の端部では傾斜座金が用いられない。
この場合、補強筋2は、せん断ひび割れ13の発生に伴う相互に平行でない壁面11a,11aのうちの一方の壁面11aに対しては直行すると共に他方の壁面11aに対しては傾斜する方向に沿って配設される。
2)相互に平行でない壁面11a,11aのそれぞれから突出している両端部で傾斜座金が用いられる。
この場合、補強筋2は、せん断ひび割れ13の発生に伴う相互に平行でない壁面11a,11aそれぞれの傾斜の状況に拘わらず、壁面11a,11aのそれぞれに対して任意の方向に沿って配設され得る。
付け加えると、傾斜座金5が用いられることにより、補強筋2は、対向する壁面11a,11aの傾斜の状況に拘わらず隔壁11の健全状態での軸方向(即ち、地面から天井へと向かう方向。つまり、鉛直方向)に対して直交する方向(即ち、水平方向)に沿うように配置される態様と、対向する壁面11a,11aのうちの一方の壁面に対して直交する方向(また、他方の壁面に対しては傾斜する方向)に沿うように配置される態様とが適宜選択され得るようになる。
ナット4は、例えばトルクレンチが用いられるなどして、せん断ひび割れ13として発生した間隙の拡がりを拘束するように、更に言えばせん断ひび割れ13を可能な限り閉口させるように、締め付けられることが好ましい。なお、ナットの締め付けの弛みを防止するため、補強筋2の両端のそれぞれにナットが二連に取り付けられてダブルナットとされることが好ましい。
以上のように構成されたコンクリート構造物の補修方法によれば、補強筋2の両端部のそれぞれに補強筋2毎に別個の板部材3が取り付けられるようにしており、コンクリート構造物の鉄筋コンクリート製の部材である隔壁11の周囲を鋼板で囲うものではないので、鉄筋コンクリート製の種々の壁などの面部材や壁式構造物に対して適用することができる。このため、周囲を鋼板で囲うような手法が適用できない部材を補修することが可能になる。
以上のように構成されたコンクリート構造物の補修方法によれば、また、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材に対して適用した場合に当該部材の耐力が回復することが発明者によって確認された手法であり、せん断破壊した鉄筋コンクリート製の部材をあと施工で適切に補強しつつ補修することが可能になる。
なお、上述の実施形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。
例えば、上述の実施形態では本発明が適用されるコンクリート構造物が図1に示すボックスカルバート10であって鉄筋コンクリート製の部材が前記ボックスカルバート10の隔壁11である場合を例に挙げているが、本発明が適用されるコンクリート構造物や鉄筋コンクリート製の部材は図1に示す例に限定されるものではないばかりかそもそもボックスカルバートやその隔壁に限定されるものではなく、種々の鉄筋コンクリート製の構造物を構成する様々な部材に対して本発明は適用され得る。特に、本発明は、鉄筋コンクリート製の構造物を構成する部材のうちの面部材や壁式構造物に対して適用され得る。
本発明のコンクリート構造物の補修方法による、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材の補修・復旧の効果の検証例を図5乃至図7を用いて説明する。
本実施例では、図5A及び図5Bに示す鉄筋コンクリート製ボックスカルバートが試験体として用いられた。なお、この試験体は、下側ハンチから100 mm 立ち上がった場所で打継目が設けられて二度に分けて打設が行われた。また、試験区間にせん断補強筋は配置されていない。
試験体に対し、まず、一次載荷として、荷重変位曲線において水平耐力の低下が明瞭に認められるまで静的水平載荷が行われた。具体的には、加力は、二本の500kNアクチュエーターによって頂板を押し引きする繰返し漸増載荷とされた。制御は層間変形角による変位制御とされ、各折返し点で三周することが基本パターンとされた。各折返し点で三周載荷を行ったのち、±3%を二周載荷した時点で水平耐力が十分低下したと判断され、正側に押し切られた(尚、層間変形角は5.6%であった)。
次に、二次載荷として、一次載荷において曲げ降伏後にせん断破壊した鉛直部材(即ち、ボックスカルバートの路空間を区画する側壁)に対する、本発明のコンクリート構造物の補修方法としてのあと施工せん断補強筋による力学性能の回復が検証された。
補強筋として径が14 mm の寸切りボルトが用いられた。寸切りボルト一本あたりの締付け力は補強筋に貼付けたひずみゲージで管理され、補強筋として用いられた寸切りボルトの0.2%降伏耐力の0.25倍に相当する100 MPa(ε≒500 μ )とされた。
施工完了後において、補強筋の締付け力によってひび割れ幅が減少し、部材の面外方向へのはらみ出し量も減少したことが確認された。
二次載荷は、一次載荷で残存耐力が正側よりも低下した負側から載荷がはじめられ、アクチュエーターのストローク限界まで正負への載荷が行われた。
二次載荷により、水平変位と水平荷重との間の関係として図6に示す結果が得られた。図6に示す結果から、最大耐力は負側一周目のサイクルで発現した307 kN であり、これは一次載荷の負側残存耐力(尚、最大耐力は、層間変形角が4.5%である時の273 kN である)の1.88倍となったことが確認された。一方、正側一周目の載荷では一次載荷の残存耐力を下回ったことが確認された。また、負側二周目の最大耐力は209 kN となり、負側一周目の最大耐力の68%となったものの、一次載荷の負側残存耐力を上回ることが確認された。
二次載荷により、さらに、負側一周目ピーク時のあと施工された補強筋のひずみとして図7に示す結果が得られた。図7に示す結果から、塑性ヒンジ区間であると共に斜めひび割れを貫く最上段の補強筋のひずみはすべて締付け力導入完了時点のひずみである500 μ を下回ったことが確認された。このことから、塑性ヒンジ区間に設置された補強筋は耐力の上昇に大きくは寄与しないと考えられた。下から二段目,三段目の割裂ひび割れを貫く位置の補強筋のひずみは同じ段でもばらつきが見られたものの、降伏ひずみに近い補強筋もあり、最上段の補強筋のひずみを上回る傾向が確認された。結果として、試験体高さ方向において補強筋のひずみに偏りが見られたものの、一次載荷で水平耐力が大きく低下した状態の部材でも本発明のコンクリート構造物の補修方法による復旧対策によって水平耐力が回復したことが確認された。
また、一次載荷の後の補強筋施工完了後における試験体の様相と一周目負側ピーク時における試験体の様相とが比較され、南側壁上側の右上から左下へと伸びる斜めひび割れのひび割れ幅の拡幅が見られたものの、新たに目立った損傷は発生していないことが確認された。これは、端部を板部材とナットとで固定した補強筋が部材の面外方向へのはらみ出しを拘束し、曲げ変形と鉄筋の伸び出しに伴う回転変形とが全変形量に占める割合が高くなったことに起因すると考えられた。
以上の結果から、本発明のコンクリート構造物の補修方法による、曲げ降伏後にせん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の面部材の補修・復旧の効果が検証され、あと施工された補強筋のひずみには高さによって偏りが見られるものの、水平耐力が大きく低下した状態でも本発明の補修方法によって水平耐力が回復することが確認された。これにより、せん断破壊した鉄筋コンクリート製の部材をあと施工で補強しつつ補修する手法として本発明は有効・有用であることが確認された。
本発明のコンクリート構造物の補修方法による、せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材の補修・復旧の効果の他の検証例を図8乃至図13を用いて説明する。
本実施例では、検証を行うための部材としてせん断破壊した鉄筋コンクリート製の梁部材が用いられるものとされ、規格材料強度に基づいて全ての試験体がせん断破壊するように設計された。
具体的には、試験体のせん断力−曲率関係が求められ、この曲線上で曲げ降伏点に到達するよりも前にせん断強度に達するように設計された。せん断力−曲率関係は、原点,曲げひび割れ点,及び曲げ降伏点を通る3折れ線として、平面保持仮定とACI応力ブロックとが用いられて断面解析から求められた。試験体のせん断強度は二羽らのディープビーム式(二羽淳一郎ら:ディープビーム的なRC梁の部材の設計方法に関する提案,第5回コンクリート工学年次講演会講演論文集,pp.357−360,1983年)と修正岡村檜貝式(二羽淳一郎ら:せん断補強筋を用いないRC梁のせん断強度式の再評価,土木学会論文集,No.372/V−5,pp.167−176,1986年)が用いられて算出された。曲げ降伏後のせん断耐力の低減は、野口らのせん断劣化係数ξ(野口聡ら:鉄道ラーメン高架橋におけるコンクリートのせん断劣化を考慮した地震損傷解析,構造工学論文集,Vol.54A,2008年)が用いられて求められた。
本実施例で用いられた試験体の全体図及び梁断面図を図8及び図9に示す。梁部材断面は180 mm ×250 mm であり、引張鉄筋にはネジ筋付き鉄筋が用いられた。
試験区間は、せん断補強筋が配筋されていない片側(即ち、図8,図9の図面に向かって右側)スパンとされた。
実験パラメータは、せん断スパン比と鉄筋比とが調整されて設定された試験体の破壊モードである。具体的には、図8に示す試験体は設計破壊モードがせん断圧縮破壊であり、図9に示す試験体は設計破壊モードが斜め引張破壊である。
各試験体の設定値は以下の表1の通りであった。
本発明では、せん断破壊したコンクリート部材に対する復旧対策の考え方として、復旧工法を施した部材のせん断耐力が試験体設計時の曲げ耐力を上回り、荷重を再度受けたときにじん性に富む曲げ型の荷重−変位曲線を描くことを企図する。
本実施例における本発明の適用に纏わる構成として、貫通孔(別言すると、削孔)の径がφ20 mm とされると共に補強筋(具体的には、C種1号のPC鋼棒が用いられた)の径がφ13 mm とされ、また、板部材(別言すると、支圧板),座金(ワッシャー),及びナットにはφ13mmPC鋼棒用の規格品が用いられた。なお、削孔した貫通孔の埋め戻しは行われなかった。
本実施例における本発明の適用に纏わる構成として、また、補強筋としてのPC鋼棒に、トルクレンチが用いられて、ひび割れを閉口させるように、損傷した部材の梁せい方向に締付け力が導入された。PC鋼棒一本あたりの締付け力は、PC鋼棒に貼付されたひずみゲージで管理され、約13 kN(尚、500μに相当する)が目標とされた。
なお、本発明の適用としての復旧対策/復旧工法は、試験体DT1及び試験体SC1に対し、一次載荷において明確な耐力低下が確認された段階で実施された。この際、復旧対策は、一次載荷による変位が残留させられたままで復旧工法が適用されることによって行われた。
載荷は、具体的には、スパン中央位置に1000kNジャッキが一本用いられて3点曲げ載荷として行われた。載荷は、変位が管理されることによって制御された。
本発明の適用例としての試験体DT1及び試験体SC1については、一次載荷は試験体において明確な耐力低下が確認できるまで行われ、復旧対策後の二次載荷は耐力の低下が確認できるまで押し切ることが目標とされて行われた。
比較例としての試験体DT2及び試験体SC2については、試験体の終局時までの力学性能を確認するため、復旧対策は行われず、明確な耐力の低下が観察されるまで押し切ることが目標とされて載荷された。
各試験体に対して載荷が行われ、試験体毎の荷重−変位関係として図10乃至図13に示す結果が得られた。各図中の点線は断面解析から得られた曲げ終局耐力であり、一点鎖線は上述のせん断耐力評価式から求められた最大耐力である。各図中の△印は下端筋が引張降伏した点であり、○印は最大耐力を示した点であり、さらに、◆印はコンクリートの圧壊が明確に確認された点である。
一次載荷の結果として表2に示す結果が得られ、また、二次載荷の結果として表3に示す結果が得られた。
一次載荷の結果として、試験体DT2は、変位3.0 mm から3.5 mm への載荷途中でせん断ひび割れが発生し、耐力が急に低下した。破壊モードは斜め引張破壊であると判断された。
試験体SC2は、変位0.85 mm から0.90 mm への載荷途中でせん断ひび割れが発生したものの、耐力は上昇を続け、変位2.5 mm で最大耐力に到達した。最大耐力に到達した直後に耐力は大きく低下した。破壊モードはせん断圧縮破壊であると判断された。
一次載荷の結果として、また、試験体DT1は、変位3.0 mm から3.5 mm への載荷途中でせん断ひび割れが発生し、耐力が急に低下した。破壊モードは斜め引張破壊であると判断された。
試験体SC1は、変位0.80 mm から0.85 mm への載荷途中でせん断ひび割れが発生したものの、耐力は上昇を続け、変位1.9 mm で最大耐力に到達した。最大耐力に到達した直後に耐力は大きく低下し始めた。破壊モードはせん断圧縮破壊であると判断された。
二次載荷の結果として、試験体DT1は、変位6.5 mm から7.0 mm への載荷途中で下端筋が引張降伏した。その後、変位が9.3 mm の点で最大耐力を発現し、以降、載荷を進めるにつれて載荷点付近でコンクリートの圧壊が確認された。二次載荷の破壊モードは曲げ破壊であると判断された。
試験体SC1は、変位3.0 mm で下端筋が引張降伏し、最大耐力には変位7.5 mm で到達した。載荷点付近のコンクリートの圧壊の進展に伴って耐力が低下したため、二次載荷の破壊モードは曲げ破壊であると判断された。
以上のように、一次載荷でせん断破壊したと判断された試験体DT1及び試験体SC1の二次載荷では、下端筋が降伏し、設計段階での曲げ終局耐力を上回る耐力が発現した。このことから、本発明に係る復旧対策が適用されることによってせん断耐力が設計段階の曲げ耐力を上回り、破壊モードが一次載荷のせん断破壊から曲げ破壊へと移行したことが確認された。
せん断破壊した鉄筋コンクリート梁に対して本発明の適用としてのPC鋼棒を用いた復旧工法を施工して力学性能/構造性能の回復を検証する載荷実験を行った以上の結果から、本発明に係るコンクリート構造物の補修方法によれば、せん断破壊が既に発生している鉄筋コンクリート梁であっても、復旧対策後はせん断耐力が曲げ耐力時せん断力を上回り、破壊モードを曲げ破壊へと移行させることが可能であることが確認された。これにより、せん断破壊した鉄筋コンクリート製の部材をあと施工で補強しつつ補修する手法として本発明は有効・有用であることが確認された。
1 貫通孔
2 補強筋
3 板部材
3a 板面
4 ナット
10 ボックスカルバート
11 隔壁
11a 隔壁の表面/壁面
13 せん断ひび割れ
13a 表面ひび割れ

Claims (4)

  1. せん断破壊が発生した鉄筋コンクリート製の部材を貫通する貫通孔が形成されると共に当該貫通孔に補強筋が挿し入れられ、前記鉄筋コンクリート製の部材から突出する前記補強筋の両端部のそれぞれに前記補強筋毎に別個の板部材とナットとが取り付けられることを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
  2. 前記貫通孔のうちの少なくとも一部が、前記せん断破壊によって前記鉄筋コンクリート製の部材に生じたせん断ひび割れを通過するように設けられることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の補修方法。
  3. 前記貫通孔が複数形成されたときのこれら貫通孔同士の縦方向に沿う配置間隔が、前記鉄筋コンクリート製の部材の厚さ以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート構造物の補修方法。
  4. 前記鉄筋コンクリート製の部材と前記板部材との間に、傾斜座金が更に配設されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート構造物の補修方法。
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