JP2018038590A - 生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキット、生体活性セメントペーストおよびその製造方法 - Google Patents

生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキット、生体活性セメントペーストおよびその製造方法 Download PDF

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【課題】適度な流動性を有してシリンダに充填した際に小さな押出力で取り扱うことができる生体活性セメントペーストおよび高い圧縮強度を有しかつ生体内で吸収されて骨と置換される生体活性セメントを製造するためのキットならびに生体活性セメントペーストおよびその製造方法を提供することを課題とする。【解決手段】セメント粉としてのリン酸水素カルシウム二水和物およびリン酸四カルシウムを含む粉体と、硬化剤としてのカルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンを含む水溶液との組み合わせを特徴とする生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキットにより、上記の課題を解決する。【選択図】図4

Description

本発明は、生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキット、生体活性セメントペーストおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、適度な流動性を有してシリンダに充填した際に小さな押出力で取り扱うことができる生体活性セメントペーストおよび高い圧縮強度を有しかつ生体内で吸収されて骨と置換される生体活性セメントを製造するためのキットならびに生体活性セメントペーストおよびその製造方法に関する。
近年、疾患や事故などによる骨折や骨欠損の修復のために、生体内で水和硬化する骨補填材が一般に用いられている。例えば、骨粗鬆症や骨腫瘍による椎体の圧迫骨折では、骨補填材としての骨セメントを穿刺針により経皮的に椎体内に注入して椎体を再建する経皮的椎体形成術が行われている。
骨セメントとしては、現在、ポリメチルメタクリレート(PMMA)セメントおよびリン酸カルシウムセメント(CPC)が主に用いられている。
PMMAセメントは、硬化速度および硬化後の強度に優れているが、骨伝導能がないため骨組織との親和性に乏しく、未反応モノマーの毒性や重合熱の発生による周辺組織の損傷などの問題がある。
一方、CPCは、PMMAセメントに比べて硬化速度および硬化後の強度の点で劣るが、生体内で骨類似ハイドロキシアパタイトに転化するので骨伝導能に優れている。CPCの材料であるリン酸カルシウム系化合物には、生体内で分解・吸収されることによって自然に消滅し、自家骨と置換されるという性質を有するものが多いことから、骨置換型のCPCの開発も進んでいる。また、生体適合性物質であるキトサンをCPCに配合することにより、機械的特性を改善したCPCも開発されている。
例えば、本願出願人は、リン酸四カルシウムと、リン酸水素カルシウム二水和物と、平均分子量が10,000以上310,000以下のキトサンと、硬化液としてのリンゴ酸水溶液(硬化剤)とを混和してなる、自己硬化型キトサン含有リン酸カルシウム組成物およびその組成物を製造するためのキット(特開2015−211811号公報:特許文献1)および互いに異なる粒径を有する2つの群のリン酸四カルシウムと、リン酸水素カルシウム二水和物と、キトサンと、硬化液としてのリンゴ酸水溶液(硬化剤)とを混和してなり、リン酸四カルシウムの2つの群が、分級により得られた、300μm未満の粒径を有する少なくとも3つの群から選択されたものである、自己硬化型リン酸カルシウム組成物およびその組成物を製造するためのキット(特開2015−211810号公報:特許文献2)を提案している。
また、近年では、内部に気孔と呼ばれる微小な空隙を多数有する多孔質のCPCも開発されている。このような多孔体では、気孔内に骨芽細胞や新生骨などが進入することにより気孔内で骨形成がなされ、母床骨と一体化することが期待される。また、多孔質とすることにより表面積が増大するので、生体内での骨置換が起こり易くなる。
さらに、ハイドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウム系化合物を主成分とし、生体内で分解・吸収される物質を含む補填材が提案されている。この補填材は、生体内に用いられた後、上記の物質が生体内で分解・吸収されることにより多孔化する。
他方、国際公開第WO2009/090950号(特許文献3)には、医薬品添加物、飲食物および化粧品に応用可能で産業上有用なキトサン含有組成物が開示されている。この組成物は、キトサンと、酸性高分子化合物と、炭酸水素ナトリウムのような炭酸塩とを含み、水溶液の状態でpH7.0〜9.5の範囲にある、水溶液、ゲルまたは乾燥粉末の状態にある。このようなキトサンと炭酸水素ナトリウムとの組み合わせは、後述する本発明の硬化剤の構成成分と共通するが、本発明と特許文献3に記載の発明とは発明の課題が異なり、特許文献3には、本発明の生体活性セメントペーストの用例はない。
特開2015−211811号公報 特開2015−211810号公報 国際公開第WO2009/090950号
しかしながら、特許文献1の自己硬化型キトサン含有リン酸カルシウム組成物および特許文献2の自己硬化型リン酸カルシウム組成物などの生体活性セメント組成物(ペースト)は、固く、適度な流動性を有さず、シリンダに充填した際に小さな押出力で取り扱うことが困難であるという課題があった。
特許文献1および2を含む先行技術は、生体活性セメントペーストの硬化時間の短縮やその硬化後の圧縮強度などの物性向上を課題としており、ペーストの流動性や押出力に関する課題はなく、それらに関する記載も示唆もない。
そこで、本発明は、適度な流動性を有してシリンダに充填した際に小さな押出力で取り扱うことができる生体活性セメントペーストおよび高い圧縮強度を有しかつ生体内で吸収されて骨と置換される生体活性セメントを製造するためのキットならびに生体活性セメントペーストおよびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者は、特許文献3の実施例9に記載のようなキトサンおよび炭酸水素ナトリウムに、リン酸二水素カリウムのようなカルシウム非含有のリン酸塩を加えた水溶液を硬化剤とし、これにセメント粉としてリン酸四カルシウムおよびリン酸水素カルシウム二水和物を加えて混和した組成物(ペースト)が、適度な流動性を有し、シリンダに充填した際の押出力の低下、さらにはその中性化を実現できることを意外にも見出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明によれば、セメント粉としてのリン酸水素カルシウム二水和物およびリン酸四カルシウムを含む粉体と、硬化剤としてのカルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンを含む水溶液との組み合わせを特徴とする生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキットが提供される。
また、本発明によれば、セメント粉としてのリン酸水素カルシウム二水和物およびリン酸四カルシウムを含む粉体に、前記セメント粉が硬化するために必要な量の硬化剤としてのカルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンを含む水溶液を添加・混和して生体活性セメントペーストを得ることを特徴とする生体活性セメントペーストの製造方法が提供される。
さらに、本発明によれば、上記のセメント粉と硬化剤との混和物である生体活性セメントペーストが提供される。
本発明によれば、適度な流動性を有してシリンダに充填した際に小さな押出力で取り扱うことができる生体活性セメントペーストおよび高い圧縮強度を有しかつ生体内で吸収されて骨と置換される生体活性セメントを製造するためのキットならびに生体活性セメントペーストおよびその製造方法を提供することができる。
本発明のペーストは不定形混合物であり、セメント粉と硬化剤とを混和した直後には、任意の形状に変化させることやチューブへの充填操作が可能である。そして、本発明のペーストは、時間経過により自己硬化し、水中または生体内において水和反応によりさらに硬化してCPCの一種である硬化体になる。したがって、本発明のペーストは、骨補填材の前駆体として好適に用いることができる。
また、本発明の生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキットは、少なくとも次のいずれか1つの要件を満足する場合に、上記の効果をさらに発揮する。
(1)カルシウム非含有のリン酸塩が、正リン酸および亜リン酸のアルカリ金属塩、ならびにリン酸水素アンモニウムから選択される。
(2)リン酸水素カルシウム二水和物とリン酸四カルシウムとの配合割合が、モル比で1:1である。
(3)硬化剤中のカルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンの濃度が、それぞれ1重量%以上10重量%以下、1重量%以上10重量%以下および1重量%以上40重量%以下である。
(4)セメント粉Pと硬化剤Lとの配合割合P/Lが、重量比で1〜5である。
比較例2の(a)1日浸漬後、(b)3日浸漬後および(c)7日浸漬後の硬化体試料の圧縮試験における応力−ひずみ曲線である。 比較例3(PL比3)の(a)1日浸漬後、(b)3日浸漬後および(c)7日浸漬後の硬化体試料の圧縮試験における応力−ひずみ曲線である。 比較例3(PL比4)の1日浸漬後の硬化体試料5検体の圧縮試験における応力−ひずみ曲線である。 実施例1の(a)1日浸漬後、(b)3日浸漬後および(c)7日浸漬後の硬化体試料の圧縮試験における応力−ひずみ曲線である。 実施例1の(a)1日浸漬後、(b)3日浸漬後および(c)7日浸漬後の硬化体試料のX線回折図である。
(1)生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキット
本発明の生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキット(以下、単に「キット」ともいう)は、セメント粉としてのリン酸水素カルシウム二水和物およびリン酸四カルシウムを含む粉体と、硬化剤としてのカルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンを含む水溶液との組み合わせを特徴とする。
本発明において「生体活性セメントペースト(以下、単に「ペースト」ともいう)」とは、上記セメント粉と硬化剤とを混和した直後、少なくともシリンダに充填して押出すまでの混和物をいう。後述するように、ペーストは混和直後から徐々に初期硬化が始まり、生体内でさらに水和反応により硬化体(生体活性セメント)になる。
本発明のキットは、セメント粉を含む粉体と、硬化剤を含む水溶液とがそれぞれ別個の容器に収められた二試薬型のキットであることが好ましい。
それらの容器の形状は特に限定されず、例えば、粉体を水溶液との混和が可能な混練注入器に収め、水溶液も注入器に収めることなどが挙げられる。この場合、本発明のキットは、注入針をさらに含んでいてもよく、得られる組成物の粘度を調整するための水をさらに含んでいてもよい。
セメント粉および硬化剤の各構成成分およびそれらの配合割合などの詳細については、以下の(2)生体活性セメントペーストの製造方法および(3)生体活性セメントペーストにおいて説明する。
(2)生体活性セメントペーストの製造方法
本発明の生体活性セメントペーストの製造方法は、セメント粉としてのリン酸水素カルシウム二水和物およびリン酸四カルシウムを含む粉体に、前記セメント粉が硬化するために必要な量の硬化剤としてのカルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンを含む水溶液を添加・混和して生体活性セメントペーストを得ることを特徴とする。
[セメント粉]
セメント粉は、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)およびリン酸四カルシウム(TTCP)を含む。
DCPDとTTCPとを配合することで、自己硬化後の水和反応による硬化が進行すると共に、得られる硬化体において両者が反応してハイドロキシアパタイトへと徐々に転化する。
[リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)]
DCPDは、市販のものを用いてもよいし、公知の方法により自ら製造したものを用いてもよい。
また、DCPDに代えて、その無水物であるリン酸水素カルシウム(DCPA)を用いることもできる。DCPAは、市販のものを用いてもよいし、公知の方法により自ら製造したものを用いてもよい。
DCPDおよびDCPAの粒径は特に限定されないが、水和反応およびTTCPとのハイドロキシアパタイトの転化形成の点で、0.2〜10μmの範囲が好ましく、0.5〜5μmの範囲がより好ましい。なお、DCPDおよびDCPAの粉体が好ましい粒径でない場合には、湿式粉砕などの公知の方法で粉砕して粒径を調節してもよい。
[リン酸四カルシウム(TTCP)]
TTCPは、市販のものを用いてもよいし、公知の方法により自ら製造したものを用いてもよい。
例えば、TTCPの粉体は、炭酸カルシウムの粉体とリン酸水素カルシウム二水和物の粉体とを水性媒体中で湿式混合し、得られた混合物を1200〜1700℃で3〜6時間焼成し、得られた焼成物を粉砕することで製造することができる。
TTCPの粒径は特に限定されないが、水和反応およびDCPDとのハイドロキシアパタイトの転化形成の点で、150μm未満であるのが好ましく、75μmを超える場合には硬化体中にTTCPが残存することがあり、32μm未満であるのがより好ましい。なお、TTCPの粉体が好ましい粒径でない場合には、ふるい選別などの公知の方法で選別して粒径を調節してもよい。
[DCPDとTTPCとの割合]
DCPDとTTPCとの配合割合は、モル比で1:1であるのが好ましい。
このような配合割合のセメント粉とすることにより、均一な組成物(ペースト)を得ることができる。
[硬化剤]
硬化剤は、カルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンを含む水溶液(「硬化液」ともいう)である。
硬化剤の構成成分として、リン酸二水素カリウムのようなカルシウム非含有のリン酸塩と炭酸水素ナトリウムとの組み合わせることにより、ペーストの硬化時間および硬化体の圧縮強度を従来品と同程度としながらも、ペーストに適度な流動性を与え、シリンダに充填した際に小さな押出力で取り扱うことができるペーストを提供することができる。
[炭酸水素ナトリウム]
炭酸水素ナトリウムは、硬化剤として水溶液を形成し得るものであれば特に限定されず、市販のものを用いてもよいし、公知の方法により自ら製造したものを用いてもよい。
[カルシウム非含有のリン酸塩]
カルシウム非含有のリン酸塩は、硬化剤として水溶液を形成し得るものであれば特に限定されず、市販のものを用いてもよいし、公知の方法により自ら製造したものを用いてもよい。セメント粉の構成するリン化合物のリン成分を補足する機能を有するものと考えられる。カルシウム非含有とは、リン酸塩がカルシウムを含まないこと、すなわちカルシウム塩でないことを意味する。カルシウムは、セメント粉の硬化過程において、リン酸と反応して針状あるいは棒状の長軸方向の成長が優越した結晶を析出し、それらが立体的に交差して初期硬化に作用し、硬化に弊害を及ぼすため、本発明ではリン酸のカルシウム塩を除外する。
カルシウム非含有のリン酸塩は、正リン酸および亜リン酸のアルカリ金属塩、ならびにリン酸水素アンモニウムから選択されるのが好ましい。ここで、アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。
カルシウム非含有のリン酸塩としては、例えば、リン酸三ナトリウム(Na3PO4)、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4);リン酸三カリウム(K3PO4)、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、リン酸水素二カリウム(K2HPO4);亜リン酸ナトリウム(Na2PHO3)、亜リン酸水素ナトリウム(NaHPHO3);亜リン酸カリウム(K2PHO3)、亜リン酸水素カリウム(KHPHO3);リン酸二水素アンモニウム(NH42PO4)、リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)などが挙げられる。
上記のカルシウム非含有のリン酸塩の中でも、リン酸水素二カリウムおよびリン酸水素二ナトリウムがキトサン再析出を阻害する点で、特に好ましい。
[キトサン]
キトサンは、ペーストの硬化速度およびその硬化体の圧縮強度を向上させる機能、さらにはペーストのゲル化剤としての機能、ならびに硬化体を生体内に注入もしくは埋入した後に、ペーストが硬化した硬化体から溶出して硬化体を多孔化させる機能を有する。
キトサンは、カニやエビなどの甲殻類の外骨格およびキノコなどの菌類の細胞壁に含まれるキチンを濃アルカリによって脱アセチル化することで得られる天然高分子として知られているが、本発明においては、キトサンの由来は特に限定されない。
キトサンの形態は特に限定されず、粉体、溶液のいずれの形態であってもよい。
本発明において、キトサンの脱アセチル化度は特に限定されないが、生分解がより容易である点で、70〜100%であるのが好ましい。
キトサンの分子量は、一般にキトサン溶液の粘度に比例することが知られている。
本発明において、キトサンの平均分子量は、粘度に基づく分子量として10,000以上310,000以下であるのが好ましい。
平均分子量が比較的中程度の上記範囲のキトサンを含むペーストは、平均分子量が比較的小さい190,000未満のキトサンを含むペーストよりも、水和反応により得られる硬化体の破壊エネルギーが大きくなる傾向にあるので好ましい。
本明細書において、キトサン溶液の粘度は、1%酢酸水溶液にキトサンを1重量%となるように溶解させ、得られたキトサン溶液について、溶液温度20℃でB型回転粘度計により測定した値をいう。そして、測定した粘度に基づいてキトサンの固有粘度を算出し、Mark-Houwink-Sakuradaの式より、キトサンの分子量を算出する。
[その他の成分]
硬化剤は、本発明の効果を阻害しない限り、当該技術分野において公知の成分を含んでいてもよい。
クエン酸などのジカルボン酸は、キトサンの溶解に作用すると考えられる。キトサンに対する量は、30〜200重量%程度である。
デキストラン硫酸ナトリウムなどの高分子化合物は、前述のキトサン溶解液にゲル化剤として作用し、キトサン含有塩形成に働くものと考えられる。キトサンに対する量は、30〜200重量%程度である。
塩化ナトリウムなどは、塩形成に補助的に作用するものと考えられる。キトサンに対する量は、30〜800重量%程度である。
[硬化剤の組成]
本発明の硬化剤中のカルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンの濃度は、それぞれ1重量%以上10重量%以下、1重量%以上10重量%以下および1重量%以上40重量%以下であるのが好ましい。
カルシウム非含有のリン酸塩の濃度が1重量%未満では、硬化時間が極めて長くなることがある。一方、カルシウム非含有のリン酸塩の濃度が10重量%を超えると手術の手技には硬化時間が短すぎることがある。
より好ましいカルシウム非含有のリン酸塩の濃度は、3重量%以上5重量%以下である。
炭酸水素ナトリウムの濃度が1重量%未満では、硬化液のpHが酸性に偏ることがある。一方、炭酸水素ナトリウムの濃度が10重量%を超えると完全に溶解しないことがある。
より好ましい炭酸水素ナトリウムの濃度は、2重量%以上8重量%以下であり、特に好ましくは3重量%以上8重量%以下である。
キトサンの濃度が1重量%未満では、硬化体の靱性が大きくならないことがある。一方、キトサンの濃度が40重量%を超えると硬化液の粘性が高くなることがある。
より好ましいキトサンの濃度は、1重量%以上30重量%以下である。
[セメント粉Pと硬化剤Lとの比率]
セメント粉Pと硬化剤Lとの配合割合(粉液比)P/L(またはPL比)は、重量比で 1〜5であるのが好ましい。
PL比が1未満では、硬化強度が不足することがある。一方、PL比が5を超えると均等な練和が困難となることがある。
より好ましいPL比は、2〜4であり、特に好ましいPL比は、3〜4である。
[ペーストの調製]
本発明のペーストは、上記のセメント粉に、セメント粉が硬化するために必要な量の硬化剤を添加・混和(混合または練和)することにより得ることができる。
その添加・混和手段は特に限定されず、添加量(混和量)などに応じて公知の混合手段から適宜選択すればよい。
セメント粉と硬化剤との混合後、本発明のペーストは、通常3〜20分程度で自己硬化が完了する(初期硬化)。このときの温度および湿度の条件は、一般的なCPCの調製条件と特に変わるところはないが、通常、温度20〜40℃および湿度50〜100%であればよい。
(3)生体活性セメントペースト
本発明のペーストは、上記のセメント粉と硬化剤との混和物である。
[用途]
上記の混和により得られた本発明のペーストは、賦形性があり、複雑形状に変化させて成形することができ、上述のとおり、骨補填材として生体に用いることができる。そして、本発明のペーストは、生体内で上記の初期硬化からさらに水和反応により硬化体(生体活性セメント)になる。
混和直後からシリンダに充填して押出すまでのペーストの押出力が小さく、流動性が高いと、生体への注入が容易になるが、ペーストの粉液比(PL比)が低くなり、硬化体の強度が低下することになるので、ペーストは、その粉液比で規定するのが好ましい。一方、ペーストの押出力が2000g(1.2MPa)を超えると、両手を用いないとシリンダから押し出すことが困難になる。
好ましいペーストの押出力は、200g以下である。
混和直後からシリンダに充填して押出すまでの本発明のペーストは、57g(34.3×10-3MPa)〜168g(86.4×10-3MPa)程度の押出力を有する。
なお、ペーストの押出力の測定方法は、実施例において詳述する。
水和反応により得られた硬化体は、少なくとも15MPaの圧縮強度を示す。
また、水和反応により得られた硬化体は、少なくとも5.0kJ/m2を超える破壊エネルギーを示す。
さらに、硬化体は、生体内ではそこに含まれるキトサンが溶出することにより、多孔化する。このような硬化体の多孔化は、表面積を増大させ、生体内での骨置換を起こり易くさせることから、本発明のペーストは、骨補填材として好適に用いることができる。
なお、硬化体を生理食塩水に浸漬することにより硬化体の多孔化を生じさせることができる。したがって、硬化体を生理食塩水中に浸漬した後、重量測定や走査型電子顕微鏡などによる観察により、多孔化の有無およびその状態(崩壊率)を確認することができる。
本発明を以下の実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
[測定・評価方法]
実施例および比較例において得られたペースト(以下「CPC」ともいう)および硬化体について、以下の機器および条件でそれらの物性を評価した。
以下の「押出力」以外の測定および評価方法は、基本的にJIS T0330−1〜4:2012「生体活性バイオセラミックス−第1〜4部」に、「圧縮強度」についてはJIS T6602−1993「歯科用リン酸亜鉛セメント」にも準拠する。
なお、実施例および比較例において「水」は、特に断りのない限り、超純水製造装置(メルク株式会社製、超純水システム Smartシリーズ、機種:Direct−Q UV 3)を用いて精製したMilli−Q(登録商標)水「超純水」を意味する。
(1)硬化時間
ビガー針試験器(株式会社日本メリック製、型式:試験機A−004)を用いてペーストの硬化時間(分)を測定する。
所定量のセメント粉と硬化剤とを70秒間練和したペーストを、90秒以内にテフロン(登録商標)製円筒容器(内寸:φ10×5mm)に入れて測定試料とする。練和開始20分後から2.5分間隔で試料をビガー針試験機の試験台中央に設置し、ビガー針(重量(荷重)300g、先端断面積2mm2)を試料表面真上から静かに下ろし、試料表面に圧痕が残らなくなる時間を記録する。1条件につき3回測定し、それらの平均値を硬化時間(分)とする。測定操作以外の時間は、試料を温度37℃、湿度100%に設定した恒温水槽(アズワン株式会社製、型式:サーマックスTM−1)に保存する。
(2)押出力
シリンジに充填したペーストを電子天秤上で鉛直方向に押出し、その最大荷重からペーストの押出力(g)を算出する。
所定量のセメント粉と硬化剤とを70秒間練和したペーストを、90秒以内にCPC計量用シリンジ(プラスチック製、φ4.6mm)を用いて0.2mLを計量する。練和開始から120秒後に、電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、型式:EK−4100i、ひょう量:4,000g)の角皿中央にシリンジを、その筒先側を上にして外筒を手で保持して鉛直下方向に荷重を徐々に加え、シリンジが筒先から完全に出るまでに掛かった最大荷重(g)を測定する。荷重測定時には電子天秤の液晶部を動画撮影し、その動画から最大荷重を確認する。
(3)崩壊率
硬化体を生理食塩水中に浸漬し、その重量変化から崩壊率(%)を測定する。
所定量のセメント粉と硬化剤とを70秒間練和したペーストを、90秒以内にCPC計量用シリンジ(プラスチック製、φ4.6mm、先端から5mm切断)を用いて1.0mLを計量する。ペーストをステンレス金網台(外形:50×50mm、2×2mmメッシュ)上に静かに押し出して測定試料とする。練和開始から3分経過後に、生理食塩水80mLを入れたプラスチック製円筒容器(内寸:φ70×40mm)に試料と金網台を浸漬する。その後、容器の蓋を閉め、容器を温度37℃に設定したクールインキュベータ(三菱電機エンジニアリング株式会社製、型式:CN−40A)に72時間静置する。硬化した試料と共に金網台を取り出し、崩壊した試料を落下させないように、容器の生理食塩水と離脱フィルムを破棄する。試料と金網台、崩壊した試料の入ったプラスチック容器を、温度50℃に設定した定温乾燥器(アズワン株式会社製、型式:DOV−450A)で24時間乾燥し、電子天秤(前記と同様)を用いて下記の重量を測定し、下式により崩壊率(%)を算出する。
崩壊率(%)=[(c−d)/[(a−b)+(c−d)]]×100
a:硬化した試料と金網台の重量(g)
b:硬化した試料を除去し、乾燥させた金網台の重量(g)
c:崩壊した試料とプラスチック容器の重量(g)
d:崩壊した試料を除去し、乾燥させたプラスチック容器の重量(g)
(4)圧縮強度および破壊エネルギー
上記JIS規格に準拠して設定した割型を用いて作製した硬化体試料について圧縮試験を行い、その結果から硬化体の圧縮強度(MPa)を測定する。
所定量のセメント粉と硬化剤とを70秒間練和したペーストを、90秒以内にテフロン(登録商標)製割型円筒容器(JIS準拠の外注品、内寸:φ6×12mm)に注入する。割型円筒容器は、中央の穴がフライス盤による精度は±2μmの機械切削加工で、ペースト(練和物)がこぼれないように割型の両側をプラスチック板で押さえ、さらにクリップで留められている。注入に際しては、試料に気泡が入らないように、ステンレス製薬さじを用いてペーストを容器に注入し、適宜ガラス棒(φ5.6mm)を用いてペーストを押さえる。
ペースト入りの割型円筒容器を温度37℃に設定したクールインキュベータ(前記と同様)に保存したプラスチック製密閉容器の中に入れる。密閉容器内を湿度100%に維持するために、密閉容器の底に超純水に浸漬させたスポンジを敷き詰めておく。湿度をデータロガー(アズワン株式会社製、型式:HL3631)を用いてモニタリングする。
密閉容器中で1時間保持後、割型円筒容器を慎重に分解して固化した練和物(硬化体)の試料を取り出し、浸漬溶液50mLを入れたスクリュー管瓶中に試料を浸漬し、スクリュー管瓶中を温度37℃に設定したクールインキュベータ(前記と同様)に静置する。
浸漬溶液は、純水である。
以上のようして得られた硬化体を、圧縮試験直前に浸漬溶液から取り出し、表面の水分を拭って圧縮試験片とする。
圧縮試験片を、引張方向を圧縮方向に転換する引張−圧縮変換器を用いた5kNロードセル(株式会社島津製作所製、型式:87394)を備えた万能試験機(株式会社島津製作所製、型式:卓上型オートグラフAG−10)に装着し、ヘッドスピード0.500mm/sec、サンプリング間隔100msecの測定条件で圧縮試験を行う。1試料につき6回試験し、得られたデータを材料試験オペレーションソフトウェア(株式会社島津製作所製、トラペジウム(Trapezium))を用いて解析し、それらの測定値から硬化体の平均圧縮強度(MPa)および標準誤差を得る。
また、測定値に基づいて応力−ひずみ曲線を作成し、その曲線に囲まれた面積から破壊エネルギー(kJ/m2)を算出し、それらの計算値から硬化体の平均破壊エネルギー(kJ/m2)を得る。
(5)X線回折(XRD)
粉末X線回折により硬化体試料の結晶相を同定する。
硬化体試料を浸漬溶液から取り出し、温度50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させ、めのう乳鉢で粉砕して粉末試料とする。
封入管(ターゲットCo、2kW、波長1.790Å)を備えたX線回折装置(株式会社リガク製、型式:RINT2200)を用いて、測定角度10°〜70°、サンプリング角度0.02°、スキャン速度2.0°(min-1)、管電圧40kV、管電流20mA、スリット(DS1°、SS1°、RS0.3mm)、モノクロメーター使用の測定条件で粉末試料のX線回折を行い、解析ソフト(株式会社リガク製、型式:JADE6)を用いて同定する。
回折図における「D」、「T」および「H」は、それぞれDCPD、TTCPおよびハイドロキシアパタイトを意味する。
[原料・試薬]
実施例および比較例においては、以下のように調製した原料および試薬を用いた。
(1)リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)
DCPDを次のように調製した。
電子天秤(アズワン株式会社製、型式:IBA−200)で精秤したリン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO4・2H2O、和光純薬工業株式会社製、等級:試薬特級)15.00gおよびメスシリンダーで計量した水180mLを、ジルコニアボール(株式会社ニッカトー製、外径20mm)500gと共に、ポットミル(株式会社ニッカトー製、型式:HD−A3、外径:φ90mm、容量:400mL)に加えた。次いで、卓上型ポットミル回転台(一軸型ボールミル、日陶科学株式会社製、型式:ANZ−51S)を用いて、ポットミルを室温、回転数110rpmの条件で48時間回転させ、その内容物を湿式粉砕した。
得られた湿式粉砕生成物を、ブフナー漏斗、ろ紙(JIS、種類:5C)およびアスピレータ(東京理化器械株式会社(EYELA)製、型式:A−3S)を用いて吸引ろ過し、固形物をシャーレに入れ、温度50℃に設定した定温乾燥器(アズワン株式会社製、型式:DOV−450A)で24時間乾燥させた。得られた試料をメノー乳鉢(アズワン株式会社製、内径110mm×深さ33mm)で解砕し、DCPDとした。粉体の粒径は、0.5〜20μmであった。
(2)リン酸四カルシウム(TTCP)
TTCPを次のように調製した。
電子天秤(前記と同様)を用いて、Ca/P比が2となるように、水酸化カルシウム(Ca(OH)2、ナカライテスク株式会社製、等級:特級)とリン酸(H3(PO)4、和光純薬工業株式会社製、等級:試薬特級)とをそれぞれ31.32g(0.41mol)および23.06g(0.20mol)精秤し、それらのそれぞれをメスシリンダーで計量した水400mLおよび50mLに加えた。
次いで、得られた水酸化カルシウム水溶液に、ガラスコック付きビュレットを用いて一定量ずつ2時間かけてリン酸水溶液を滴下した。滴下中に混合液を、攪拌機(アズワン株式会社製、型式:トルネードPM−203)を用いて攪拌した。
滴下終了後、混合液を室温で24時間撹拌し、熟成させた。
その後、遠心分離機(株式会社久保田製作所製、型式:インバーター・コンパクト高速冷却遠心機6900)を用いて、混合液を回転数5,000rpmで10分間遠心分離し、上澄み液をデカンテーションで除き、さらに回転数5,000rpmで7分間遠心分離した。分離した沈殿物をブフナー漏斗およびろ紙(JIS、種類:5C)を用いてろ過および洗浄し、温度110℃に設定した定温乾燥機(前記と同様)24時間乾燥させた。
得られた試料をアルミナ製ボート(株式会社ニッカトー製、型式:SSA−H2B)に入れ、電気炉(丸祥電器株式会社製、高性能小型高温電気炉SUPER MINI、型式:SPM)を用いて、大気中、温度1,500℃、昇降温速度10℃/minの条件で5時間焼成した。
焼成後、試料を電気炉から取り出し、WC+Co乳鉢(株式会社伊藤製作所製、型式:WD−1、内径44mm×深さ40mm)で粉砕し、さらにめのう乳鉢(株式会社ニッカトー製、内径110mm×深さ33mm)で微粉砕し、TTCPとした。粉体の粒径は、1〜100μmであった。
(3)セメント粉
上記(1)および(2)のようにして調製したDCPDとTTCPとを等モルで混合してセメント粉を調製した。
例えば、電子天秤(前記と同様)を用いて、それぞれDCPD3.20g(0.186mol)およびTTCP6.80g(0.186mol)を秤量し、容量50mLのネジ付試験管(アズワン株式会社製)に入れ、振とう機(アズワン株式会社製、型式:マルチシェーカーMS−300)に設置し、回転数1,300rpmで100分間振とう混合した。得られた混合物をめのう乳鉢(株式会社ニッカトー製、内径110mm×深さ33mm)で5分間乾式混合した。
(4)硬化剤成分
・キトサン:(C611NO4)n
(アルドリッチ社製、中分子量(medium molecular weight)50,000〜190,000、脱アセチル化度:約81.3%)
・リンゴ酸:C465(HOOC-CH(OH)-CH2-COOH)
(和光純薬工業株式会社製、等級:試薬特級)
・コンドロイチン硫酸ナトリウム
(和光純薬工業株式会社製、等級:試薬特級)
・クエン酸:C687(C(OH)(CH2COOH)2COOH)
(和光純薬工業株式会社製、等級:試薬特級)
・デキストラン硫酸ナトリウム
(和光純薬工業株式会社製、等級:試薬特級)
・塩化ナトリウム:NaCl
(和光純薬工業株式会社製、等級:試薬特級)
・炭酸水素ナトリウム:NaHCO3
(和光純薬工業株式会社製、等級:試薬特級)
・リン酸二水素カリウム:KH2PO4
(和光純薬工業株式会社製、等級:試薬特級)
[比較例1]
従来の硬化剤の場合
上記のようにTTCPとDCPDとを等モル混合したセメント粉を用いた。
キトサン0.5g、リンゴ酸0.5gおよび水4.0gを混合して、ゲル状の硬化剤(pH3.06)を得た。
PL比3でセメント粉Pと硬化剤Lと混和して得られたペーストおよび硬化体について、上記の方法によりそれらの物性を評価した。
得られた結果を表2に示す。
[比較例2]
コンドロイチン硫酸含有硬化剤の場合
上記のようにTTCPとDCPDとを等モル混合したセメント粉を用いた。
キトサン1.35g、リンゴ酸1.35gおよび水50mLを混合して混合液Aを得た。また、コンドロイチン硫酸ナトリウム2.15gおよび水50mLを混合して混合液Bを得た。次いで、混合液Aと混合液Bとを混合し、遠心分離機(前記と同様)を用いて、混合液を回転数900rpmで10分間遠心分離し、上澄み液をデカンテーションで除き、洗浄のためにさらに水10mLを加え、回転数900rpmで10分間遠心分離した。得られた湿潤固形物を、凍結乾燥機(アズワン株式会社製、型式:FDU−12AS)を用いて、−30℃で24時間凍結乾燥し、キトサン含有粉末Aを得た。
次いで、得られた粉末0.56g、炭酸水素ナトリウム0.16gおよび水50.0gを混合して、硬化剤(pH7.51)を得た。
PL比3でセメント粉Pと硬化剤Lと混和して得られたペーストおよび硬化体について、上記の方法によりそれらの物性を評価した。
得られた結果を表2に示す。
また、(a)1日浸漬後、(b)3日浸漬後および(c)7日浸漬後の硬化体試料の圧縮試験における応力−ひずみ曲線を図1に示す。
[比較例3]
国際公開第WO2009/090950号の実施例9の溶液を硬化剤とした場合
上記のようにTTCPとDCPDとを等モル混合したセメント粉を用いた。
キトサン0.13gを水5mLに加えて懸濁させ、さらにクエン酸0.17gを加えて攪拌し均一に溶解させて混合液Cを得た。また、デキストラン硫酸ナトリウム0.21gを水5mLに加えて攪拌して混合液Dを得た。次いで、混合液Cと混合液Dとを混合し、さらに塩化ナトリウムを1g加えて3時間攪拌した。遠心分離機(前記と同様)を用いて、生成した固形物を回転数900rpmで10分間遠心分離し、上澄みを捨て、水10mLを加え、回転数900rpmで10分間遠心分離する操作を3回繰り返した。得られた固形物に水10mLを加えて懸濁させ、凍結乾燥により乾燥固形物0.16gを得た。
次いで、得られた乾燥固形物に水10mLおよび炭酸水素ナトリウム0.40gを加えて溶解させ、透明でやや粘性の硬化剤(pH8.69)を得た。
PL比3でセメント粉Pと硬化剤Lと混和して得られたペーストおよび硬化体について、上記の方法によりそれらの物性を評価した。
得られた結果を表2に示す。
また、(a)1日浸漬後、(b)3日浸漬後および(c)7日浸漬後の硬化体試料の圧縮試験における応力−ひずみ曲線を図2に示す。
PL比4とすること以外は、上記と同様にして5検体の硬化体を作製し、1日浸漬後の硬化体試料の圧職試験を実施した。得られた圧縮強度および破壊エネルギーの結果を表1に、応力−歪み曲線を図3に示す。
[実施例1]
国際公開第WO2009/090950号の実施例9の溶液にリン酸二水素カリウムを加えた本発明の硬化剤の場合
比較例3と同様にして、乾燥固形物0.16gを得た。
次いで、炭酸水素ナトリウム0.50gおよびリン酸二水素カリウム0.50gを水10.0mLに加えて攪拌した。その後、得られた乾燥固形物0.08g加えて攪拌し、硬化剤(pH7.77)を得た。
PL比3でセメント粉Pと硬化剤Lと混和して得られたペーストおよび硬化体について、上記の方法によりそれらの物性を評価した。
得られた結果を表2に示す。
また、(a)1日浸漬後、(b)3日浸漬後および(c)7日浸漬後の硬化体試料の圧縮試験における応力−ひずみ曲線を図4に示す。
さらに、(a)1日浸漬後、(b)3日浸漬後および(c)7日浸漬後の硬化体試料のX線回折図を図5に示す。
上記の結果から次のことがわかる。
比較例1の従来の硬化剤では、ペーストの硬化時間が5分程度と短く、PL比3の硬化体の圧縮強度が30MPa程度に達するが、ペーストの押出力が3,000g程度と大きく、シリンダに充填した際に片手で押し出すことが困難である。また、硬化剤が酸性(pH3程度)であり、骨セメントとして用いた場合に骨溶解のおそれがある。
比較例2のコンドロイチン硫酸含有硬化剤では、ペーストの押出力が350g程度に低下し、シリンダに充填した際に片手でのハンドリングが可能になるが、ペーストの硬化時間が30分程度と長くなり、硬化体の圧縮強度が11MPa程度に低下する。
比較例3の硬化剤(中性硬化剤)では、ペーストの押出力が200g程度と小さいが、PL比3の硬化体(浸漬時間1日)の圧縮強度が13MPaと低い。比較例3の硬化剤とセメント粉とが混和(練和)し易いことから、PL比4に設定した試験では、硬化体(浸漬時間1日)の圧縮強度が25MPa程度に向上するが、ペーストの硬化時間が35分程度と長い。
実施例1の硬化剤では、ペーストの押出力が75g程度とさらに低下し、ペーストの硬化時間が8分程度に短縮する。PL比3の硬化体(浸漬時間1日)の圧縮強度が、20MPa程度(軟骨の圧縮強度20MPa以下と同等)に向上し、PL比4に設定することにより、硬化体の圧縮強度の向上が期待できる。
実施例1の硬化剤は、比較例3の硬化剤にリン酸水素カリウムをさらに添加したものであり、その添加が、ペーストの押出力の低下、ペーストの硬化時間の短縮および硬化体の圧縮強度の向上に寄与しているものと考えられる。
また、実施例1の硬化剤のpHは略中性であることから、骨セメントとして用いた場合の骨溶解の問題が解消されるものと考えられる。
さらに、図5の硬化体試料のX線回折図によれば、セメント粉の構成成分であるDCPD(図中「D」)とTTPC(図中「T」)とからハイドロキシアパタイト(図中「H」)が形成され、硬化体の浸漬によりDCPDおよびTTPC、特にDCPDが消失していることがわかる。これらの消失はDCPDおよびTTPCの溶解によるもので、本来、両者が共に消失することが好ましい。
以上のことから、実施例1のセメント粉と硬化剤とを混和したペーストは、適度な流動性を有してシリンダに充填した際に小さな押出力で取り扱うことができ、高い圧縮強度を有しかつ生体内で吸収されて骨と置換される生体活性セメント、すなわち実用に耐える「体内で硬化後、破骨細胞により多孔化して骨吸収可能な生体活性セメント」を与え得るものと考えられる。

Claims (7)

  1. セメント粉としてのリン酸水素カルシウム二水和物およびリン酸四カルシウムを含む粉体と、硬化剤としてのカルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンを含む水溶液との組み合わせを特徴とする生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキット。
  2. 前記カルシウム非含有のリン酸塩が、正リン酸および亜リン酸のアルカリ金属塩、ならびにリン酸水素アンモニウムから選択される請求項1に記載の生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキット。
  3. 前記リン酸水素カルシウム二水和物とリン酸四カルシウムとの配合割合が、モル比で1:1である請求項1または2に記載の生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキット。
  4. 前記硬化剤中のカルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンの濃度が、それぞれ1重量%以上10重量%以下、1重量%以上10重量%以下および1重量%以上40重量%以下である請求項1〜3のいずれか1つに記載の生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキット。
  5. 前記セメント粉Pと硬化剤Lとの配合割合P/Lが、重量比で1〜5である請求項1〜4のいずれか1つに記載の生体活性セメントペーストおよび生体活性セメントを製造するためのキット。
  6. セメント粉としてのリン酸水素カルシウム二水和物およびリン酸四カルシウムを含む粉体に、前記セメント粉が硬化するために必要な量の硬化剤としてのカルシウム非含有のリン酸塩、炭酸水素ナトリウムおよびキトサンを含む水溶液を添加・混和して生体活性セメントペーストを得ることを特徴とする生体活性セメントペーストの製造方法。
  7. 請求項1〜5のいずれか1つに記載のセメント粉と硬化剤との混和物である生体活性セメントペースト。
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