上述のように、養液栽培に関して様々な従来技術が提案されているが、養液栽培における以下の課題は、これらの従来技術によっても未だに解決されていない。
第一に、従来の養液栽培技術では、連作障害の発生を回避することができない。土耕栽培における連作障害の主な原因は、同じ耕作地で同じ植物を連続的に生産することによって養分やpHのバランスが崩れ、土壌の状態が悪化することである。一方で、従来の養液栽培においては、連作障害への対応という考え方自体がなかった。これは、苗の状態から収穫までを1サイクルとすると、従来の養液栽培ではサイクル毎に養液を廃棄することが当然のことと考えられているからである。サイクル毎に養液を廃棄し、次のサイクルでは新たな養液を使用するため、従来の養液栽培では連作障害を考慮する必要がなかったというのが現実である。養液をサイクル毎に廃棄することは、環境に与える負荷や栽培コストを考えれば、決して推奨されることではない。しかし、養液を廃棄すること無く連続して使い続けると、土壌と同様に養液の状態のバランスが崩れ、連作障害が発生することになる。このように養液栽培において連作障害を回避するという考え方及びそのための方法について、上述の特許文献を始めとする従来技術においては全く考慮されていない。
次に、従来の養液栽培技術では、限られた品目の植物しか栽培することができない。従来、1つの施設で同時に栽培される植物は、1品目若しくは数品目の葉菜類のみ、1品目又若しくは数品目の果菜類のみ、又はこれらのうちせいぜい数品目の組み合わせに過ぎないのが現状である。これは、発芽や収穫の時期、生長速度などが異なる多品目の植物を同時に栽培するには、植物の種類に応じて栽培環境や養液の成分を個々に変えることが必要であると考えられており、従来の養液栽培技術では、こうした様々な栽培環境を同時に成り立たせるための条件が見出されていないためである。上述の特許文献に記載されているように、複数の品目を栽培するための技術が提案されているものの、こうした技術では、本発明のような葉菜類、果菜類及び豆類などといったあらゆる品目の植物を同時に栽培することはできない。例えば特許文献2においては、1つの施設内で複数の品目を栽培できるとされているものの、このような技術では、一施設内に多品目の植物を栽培するための異なる複数の環境を構築する必要があり、管理及びコスト面で課題が多い。
さらに、従来の養液栽培技術では十分な養液の溶存酸素濃度を達成することは難しく、さらに同じ養液を使い続けて栽培を行おうとすると、溶存酸素濃度が低下して根腐れや根の生長不良が発生することは避けられない。養液をサイクル毎に廃棄する場合には、実際には養液の溶存酸素濃度の低下が生じているものの、次のサイクルでは新たな養液を使用するため溶存酸素濃度の低下は問題にならないが、同じ養液を廃棄することなく使用し続ける場合には、従来の技術では、必要な濃度を維持することは難しい。また、従来の技術でも、例えば特許文献4又は特許文献5などに示されるように、養液の溶存酸素濃度を高めるための工夫は行われているものの、こうした技術では、達成可能な溶存酸素濃度に限界があるだけでなく、養液に供給される空気の質については何ら考慮されていないため、養液の溶存酸素濃度を必要な濃度まで十分に高めることはできない。
さらに、従来の養液栽培技術においては、栽培槽内における好気性バクテリアの安定的な活性化については考慮されていない。養液栽培方法においては、養液中の養分を植物が吸収できる状態に分解する役割を果たすバクテリアの活性化が重要であり、とりわけ、分解能力に優れる好気性バクテリアの活性化が重要である。例えば特許文献6には、好気性バクテリアをユニット化した水槽内に効果的にとどめる点について開示されているものの、この技術は、栽培槽内において養液が流れるシステムにおいて好気性バクテリアを安定的に活性化させることができるものではない。また、上述の他の特許文献における技術では、好気性バクテリアを安定的に活性化させる点については全く考慮されていない。
本発明者らは、後述するように、単質養液を連続的に用いても、連作障害を発生させることなく、多品目の植物を同時に栽培することを可能にするためには、複数の条件を同時に満たす植物栽培環境を構築する必要があることを見出した。特許文献1〜特許文献6を含む従来技術は、本発明者らが見出した条件のうちの一部のみが別個に開示されているに過ぎないだけでなく、見出した条件の他の一部については開示も示唆もされていない。従って、これらの技術を単に組み合わせただけでは、本発明の目的を達成することはできない。
本発明は、このような点に鑑み前記課題を解決せんと提案されたものであり、その目的は、単質の養液を循環させて、葉菜類、果菜類、結球野菜類及び豆類などといったあらゆる品目の植物を、連作障害を発生させずに通年で同時に生産するための植物栽培システム、装置及び方法を提供することである。
前記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る植物栽培システムは、単質養液を用いて、連作障害を生じさせることなく多品目の植物を同時に栽培する植物栽培システムであって、
植物を保持する栽培槽の内部を所定速度で流れる単質養液に、前記栽培槽の単質養液の溶存酸素濃度を所定濃度にするのに適した状態になるように空気を改質した改質空気を、所定温度にして、単質養液を前記所定濃度にするのに必要な流量で、バクテリア定着部の近傍から供給するようにしたことを特徴とする。
また、本発明の請求項2にかかる植物栽培システムは、請求項1において、改質空気は、多孔質体を介して気泡状態で単質養液内に供給されることを特徴とし、
また、本発明の請求項3にかかる植物栽培システムは、請求項2において、前記多孔質体を前記バクテリア定着部として用い、改質空気が前記バクテリア定着部を通って栽培槽内に供給されるようにしたことを特徴とし、
また、本発明の請求項4にかかる植物栽培システムは、請求項1乃至3のいずれかにおいて、改質空気は、前記栽培槽の内部において複数の箇所から単質養液に供給されることを特徴とし、
また、本発明の請求項5にかかる植物栽培システムは、請求項1乃至4のいずれかにおいて、改質空気は、空気から窒素を除去したものであることを特徴とし、
また、本発明の請求項6にかかる植物栽培システムは、請求項1乃至5のいずれかにおいて、改質空気は、内部の温度が一定の温度に維持された改質空気貯留室において、前記一定の温度と同じ温度になるまで保持された後に、単質養液内に供給されることを特徴とする。
また、本発明の請求項7にかかる植物栽培システムは、請求項1において、単質養液の養分溶解度を表す電気伝導度は2.5mS/cm〜3.5mS/cmであることを特徴とし、
また、本発明の請求項8にかかる植物栽培システムは、栽培槽内を流れる単質養液の前記所定速度は、栽培される植物の根に与えられる圧力が土壌内における圧力と概ね同程度となるように調整された単質養液の流速であり、前記所定濃度は、植物の根及び好気性バクテリアの活動を活性化させるのに適した溶存酸素の濃度であり、前記所定温度は、植物の根に悪影響を及ぼさない改質空気の温度であることを特徴とする。
また、本発明の請求項9にかかる植物栽培システムは、請求項1または請求項8において、前記所定速度は3cm/秒〜5cm/秒であることを特徴とし、
また、本発明の請求項10にかかる植物栽培システムは、請求項1または請求項8において、前記所定濃度は8ppm〜12ppmであることを特徴とし、
また、本発明の請求項11にかかる植物栽培システムは、請求項1または請求項8において、前記所定温度は18℃〜22℃であることを特徴とし、
また、本発明の請求項12にかかる植物栽培システムは、請求項1または請求項8において、改質空気の1時間当たりの前記流量は、栽培槽とタンクを循環する単質養液全体の体積に対して3倍〜5倍であることを特徴とし、
また、本発明の請求項13にかかる植物栽培システムは、請求項1において、単質養液が、栽培槽とタンクとを結ぶ循環路内において滞留することなく混合されて循環するように構成されたことを特徴とする。
さらに、本発明の請求項14にかかる植物栽培装置は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、単質養液を用いて、連作障害を生じさせることなく多品目の植物を同時に栽培する植物栽培装置であって、
植物と、所定速度で流れる単質養液とを保持する、栽培槽と、
前記栽培槽の単質養液の溶存酸素濃度を所定濃度とするのに適した状態になるように空気を改質した改質空気にする、空気改質手段と、
改質空気の温度が所定温度になるように調整する改質空気温度調整手段と、
単質養液を前記所定濃度にするために必要な流量の改質空気を前記栽培槽の内部の単質養液に供給する改質空気供給手段と、
前記改質空気供給手段の改質空気供給部の近傍に配置されたバクテリア定着部と、
単質養液を前記栽培槽とタンクとの間で循環させる、単質養液循環手段と、
を備えることを特徴とする。
また、本発明の請求項15にかかる植物栽培装置は、請求項14において、前記改質空気供給部は多孔質体であることを特徴とし、
また、本発明の請求項16にかかる植物栽培装置は、請求項15において、前記多孔質体は前記バクテリア定着部であることを特徴とし、
また、本発明の請求項17にかかる植物栽培装置は、請求項14乃至16のいずれかにおいて、前記改質空気供給部は、前記栽培槽の内部において複数設けられたことを特徴とし、
また、本発明の請求項18にかかる植物栽培装置は、請求項14において、前記空気改質手段は、空気から窒素を除去するためのフィルタを含むことを特徴とし、
また、本発明の請求項19にかかる植物栽培装置は、請求項14において、前記改質空気温度調整手段は、内部の温度が一定の温度に維持された改質空気貯留室を含み、改質空気は、前記改質空気貯留室内において前記一定の温度と同じ温度になるまで保持された後に、前記改質空気供給手段によって供給されることを特徴とし、
また、本発明の請求項20にかかる植物栽培装置は、請求項14において、単質養液の養分溶解度を表す電気伝導度は2.5mS/cm〜3.5mS/cmであることを特徴とする。
また、本発明の請求項21にかかる植物栽培装置は、請求項14において、栽培槽内を流れる単質養液の前記所定速度は、栽培される植物の根に与えられる圧力が土壌内における圧力と概ね同程度となるように調整された単質養液の流速であり、前記所定濃度は、植物の根及び好気性バクテリアの活動を活性化させるのに適した溶存酸素の濃度であり、前記所定温度は、植物の根に悪影響を及ぼさない改質空気の温度であることを特徴とし、
また、本発明の請求項22にかかる植物栽培装置は、請求項14または請求項21において、前記所定速度は3cm/秒〜5cm/秒であることを特徴とし、
また、本発明の請求項23にかかる植物栽培装置は、請求項14または請求項21において、前記所定濃度は8ppm〜12ppmであることを特徴とし、
また、本発明の請求項24にかかる植物栽培装置は、請求項14または請求項21において、前記所定温度は18℃〜22℃であることを特徴とし、
また、本発明の請求項25にかかる植物栽培装置は、請求項14において、改質空気の1時間当たりの前記流量は、栽培槽とタンクを循環する単質養液全体の体積に対して3倍〜5倍であることを特徴し、
また、本発明の請求項26にかかる植物栽培装置は、請求項14において、前記単質養液循環手段は、単質養液を循環させるポンプと、栽培槽から排出された単質養液を混合する第1のタンクと、栽培槽に供給されることになる単質養液を混合する第2のタンクと、前記第1のタンクと前記第2のタンクとの間を接続する交差配管とを備えることを特徴とする。
またさらに、本発明の請求項27にかかる植物栽培方法は、単質養液を用いて、連作障害を生じさせることなく多品目の植物を同時に栽培する植物栽培方法であって、
植物を保持する栽培槽の内部に、所定速度で単質養液を流し、
前記栽培槽の単質養液の溶存酸素濃度を所定濃度にするのに適した状態になるように空気を改質して改質空気とし、
改質空気の温度を所定温度とし、
単質養液を前記所定濃度にするのに必要な流量の改質空気を、バクテリア定着部の近傍から前記栽培槽の内部の単質養液に供給する、
工程を含むことを特徴とする。
また、本発明の請求項28にかかる植物栽培方法は、請求項27において、改質空気を単質養液に供給する工程は、改質空気を、多孔質体を介して気泡状態で単質養液に供給する工程を含むことを特徴とし、
また、本発明の請求項29にかかる植物栽培方法は、請求項28において、改質空気を単質養液に供給する工程は、改質空気を、バクテリア定着部である多孔質体を介して供給することを特徴とし、
また、本発明の請求項30にかかる植物栽培方法は、請求項27乃至29のいずれかにおいて、改質空気を単質養液に供給する工程は、改質空気を、前記栽培槽の内部において複数の箇所から単質養液に供給することを特徴とし、
また、本発明の請求項31にかかる植物栽培方法は、請求項27において、空気を改質する工程は、空気から窒素を除去する工程を含むことを特徴とし、
また、本発明の請求項32にかかる植物栽培方法は、請求項27において、改質空気の温度を所定温度にする工程は、内部の温度が一定の温度に維持された改質空気貯留室内において、改質空気が前記一定の温度になるまで改質空気を保持する工程を含むことを特徴とし、
また、本発明の請求項33にかかる植物栽培方法は、請求項27において、単質養液の養分溶解度を表す電気伝導度は2.5mS/cm〜3.5mS/cmであることを特徴とする。
また、本発明の請求項34にかかる植物栽培方法は、請求項27において、栽培槽内を流れる単質養液の前記所定速度は、栽培される植物の根に与えられる圧力が土壌内における圧力と概ね同程度となるように調整された単質養液の流速であり、前記所定濃度は、植物の根及び好気性バクテリアの活動を活性化させるのに適した溶存酸素の濃度であり、前記所定温度は、植物の根に悪影響を及ぼさない改質空気の温度であることを特徴とする。
また、本発明の請求項35にかかる植物栽培方法は、請求項27または請求項34において、前記所定速度は3cm/秒〜5cm/秒であることを特徴とし、
また、本発明の請求項36にかかる植物栽培方法は、請求項27または請求項34において、前記所定濃度は8ppm〜12ppmであることを特徴とし、
また、本発明の請求項37にかかる植物栽培方法は、請求項27または請求項34において、前記所定温度は18℃〜22℃であることを特徴とし、
また、本発明の請求項38にかかる植物栽培方法は、請求項27において、改質空気の1時間当たりの前記流量は、栽培槽とタンクを循環する単質養液全体の体積に対して3倍〜5倍であることを特徴とし、
さらに、本発明の請求項39にかかる植物栽培方法は、請求項27において、単質養液を、栽培槽とタンクとを結ぶ循環路内において滞留させることなく混合して循環させる工程さらに含むことを特徴とする。
本発明の上記構成は、次のような点に基づくものである。
本発明の発明者らは、数年にわたる様々な研究及び実験の結果、単質養液を用いて、連作障害を発生させることなく、あらゆる品目の植物を同時に栽培することを可能にするためには、複数の条件を満たす植物栽培環境を構築することが必要であることを見出した。その条件及び条件を満足するための手段は、以下のとおりである。
(1)多品目の植物を同時に栽培すること
本発明者らは、連作障害の克服を目的とする研究の過程において、雑木林や野原では、同じ土壌成分であるにもかかわらず連作障害を起こすことなく多品目の植物が共生していることに注目した。このための条件として、それらの多品目の植物が必要とする栄養が量的及び質的に十分に土壌内に存在していることと、多品目の植物が共生していることによって植物が生長過程で分泌する有機物である根酸の種類が偏っていないこととが主に考えられる。そこで、本発明者らは、養液栽培においてもこうした環境に相当する環境を再現すれば、連作障害を生じることなく植物を栽培することができると考え、本発明においても、養分溶解度が高い単質養液を用い、かつ、多品目の植物を同時に栽培している。その結果、根酸が偏らずに養液の均質化が促進され、連作障害を起こすことなく(すなわち単質養液を高頻度で廃棄することなく)植物の栽培が可能となった。
ここで、単質養液とは、多品目の植物を栽培するすべての栽培槽間で、同一の養分が全体的に均質になるように混合され、一定の状態で常に循環している養液をいう。多品目の植物は、複数品目の植物であり、好ましくは10品目以上の植物であり、かつそのうち少なくとも3割程度は果菜類と結球野菜である。本発明においては、単質養液の養分溶解度を表す電気伝導度(EC)を、通常の養液栽培では約0.4〜1mS/cm程度であるところ、約2.5mS/cm〜約3.5mS/cmという高い値に維持することができる。
(2)単質養液に酸素を高濃度で安定的に溶存させること
酸素は、植物が生長する際の根の活動と、養液内の養分を植物が吸収可能な状態に分解する好気性バクテリアの活動とにおいて不可欠であり、従って、養液栽培においては、酸素が植物の根及び好気性バクテリアの十分な活動を活性化させるのに適した濃度(本明細書においては、この濃度を所定濃度という)で養液に安定的に溶存している必要がある。本発明において用いられる養分溶解度の高い単質養液を用いるためには、溶存酸素濃度(DO)を従来より高い値に維持することが必須であり、その濃度は、約8ppm〜約12ppmであることが好ましい。こうした高い溶存酸素濃度を達成するために、本発明においては、大量の空気を単質養液に供給しており、例えば、循環している単質養液の全体積に対して、1時間あたり約3倍〜5倍の体積の空気を供給することが好ましい。また、栽培槽内には空気の供給部を複数設けて、空気をこれらの供給部から分散させることが好ましく、これによって、栽培槽内の単質養液全体に対して、大量の空気を均一かつ安定的に供給することができる。
本発明においては、空気は、単質養液の溶存酸素濃度を上記の濃度にするのに適した状態に改質されて、栽培槽内に供給される。空気は、酸素を約21%、窒素を約78%含んでおり、単なる空気を単質養液内に供給しただけでは、分圧の高い窒素が分圧の低い酸素より優先的に単質養液中に溶け込み、必要な溶存酸素濃度を達成できない。そこで、本発明においては、酸素濃度を高めた改質空気を単質養液内に供給するようにしており、例えば、空気から窒素を除去した改質空気を単質養液内に供給することが好ましい。循環している単質養液全体積に対して1時間あたり約3倍〜約5倍の体積で供給される上述の「空気」は、こうした改質空気である。栽培槽内に供給される改質空気は、さらに、アンモニア、塩、塵などの不純物が除去された状態であることが好ましい。
さらに、改質空気は、適切なサイズの気泡状態で単質養液内に供給されることが好ましい。そのために、本発明においては、例えばセラミックスからなる多孔質体を通して改質空気を単質養液内に供給することができる。多孔質体の孔のサイズは、改質空気の気泡が適切なサイズになるように選択されることが好ましい。
(3)大量に供給される改質空気の温度を根に悪影響を及ぼさない温度に維持すること
本発明においては、上述のように、大量の改質空気が栽培槽内の単質養液全体に均一に供給される。この大量の改質空気は、適切に温度管理をしなければ、その温度変化が植物の根に悪影響を与えることになる。そこで、本発明においては、改質空気を、植物の根に対して悪影響を及ぼさない温度(本明細書においては、この温度を所定温度という)に維持して単質養液内に供給する。改質空気の所定温度は、約18℃〜約22℃であることが好ましく、約20℃であることが最も好ましい。
ところで、養液栽培においては、養液の温度が適切な温度になるように維持しなければならない。従来の養液栽培においては、温水又は冷水との熱交換を利用して養液を一定の温度に維持することが一般的である。一方で、本発明においては、大量の改質空気を、その温度を管理しながら単質養液内に供給するため、結果として、単質養液の温度も改質空気の温度の影響を受けることになる。そこで、本発明の一実施形態においては、単質養液の温度を、単質養液に供給する改質空気の温度のみで制御することができるようにしている。熱伝導率が低く比熱が小さい空気によって養液の温度管理を行うのは非効率であると考えるのが一般的であるが、本発明の発明者らは、単質養液が管理温度に達するまでに要する時間については重要視しておらず、むしろ、改質空気の温度管理と単質養液の温度管理とを別個に行うより、改質空気の温度管理のみで単質養液の温度管理を行うことができれば、管理の容易性及びコストの面から従来の方法より有利であると考えている。
(4)流れのある単質養液内で好気性バクテリアを活性化させること
養液栽培においては、養液中の養分を植物が利用可能な状態に分解する好気性バクテリアが、根の近くで活性化することが必要であることは周知の技術的事項である。従って、本発明においても、植物の生長に不可欠な好気性バクテリアを、後述するように固相を形成する所定速度で流れる単質養液内において、いかにして流出しないように適切に必要な箇所に定着させつつ、その機能を発揮できるようにするかが重要である。特に、本発明において用いられる養分溶解度の高い単質養液を十分に分解するためには、好気性バクテリアの機能を十分に発揮させることが必要である。本発明においては、好気性バクテリアが栽培槽内における単質養液中にとどまって棲息又は繁殖するように複数のバクテリア定着部を設け、さらにそこでバクテリアが十分に酸素を利用して機能を発揮することができるように、所定温度に管理された改質空気の単質養液内への供給部とバクテリア定着部とが近接するようにしている。その結果、本発明においては、単質養液全体における好気性バクテリアの活性化と、好気性バクテリア量のコントロールとが可能となった。本発明においては、単質養液の電気伝導度を約3mS/cmという高い値に維持することができるが、このことは、好気性バクテリアが十分に機能しており、その結果として高い養分分解能力が達成されていることを表している。
本発明においては、バクテリア定着部と改質空気の供給部とを共通化することによって、バクテリア定着部を介して改質空気が供給されるようにすることもできる。例えば、上述の多孔質体をバクテリア定着部としても利用することによって、多孔質体の細かな凹凸や孔が好気性バクテリアの棲息又は繁殖の場所として機能するとともに、好気性バクテリアが十分に酸素を利用できるようになる。
(5)単質養液内に土壌と同様の固相に相当する環境を作り出すこと
土耕栽培においては、理想的な土壌形態は、土(固相)と空気(気相)と水分(液相)との比率が4:3:3であると考えられている。これに対して、従来の養液栽培、特に湛液型養液栽培においては、固相が存在せず、固相を形成するという考え方も考慮されていない。植物の根は、水と養分の吸収器官であり、根の生長の程度が植物全体の生長を左右する。根が適切に生長するためには、生長の際に根に対して適度な抵抗が与えられるように、周囲から根に圧力が与えられることが必要である。土耕栽培では、この圧力は固相すなわち土によって与えられる。本発明者らは、養液栽培技術においても、単質養液中に土耕栽培における土壌と同様の固相に相当する環境を作り出すことが必要であると考え、本発明においては、単質養液が栽培槽内を、栽培される植物の根に単質養液中で与えられる圧力が土壌内において根に与えられる圧力と概ね同程度となるような速度(本明細書においては、この速度を所定速度という)で流れるようにしている。一実施形態においては、栽培槽内における単質養液の流速は、約3cm/s〜約5cm/sに調整されることが好ましい。本発明においては、このように養液栽培において固相を作り出すことによって、結球するために根の健全な生長が不可欠な結球野菜を栽培することも可能である。
(6)単質養液を適切な状態に維持すること
上述のような各種条件を整えたとしても、養液が腐敗するなどにより劣化した場合には、養液を廃棄せざるを得ない。各々の植物は、生長の過程において吸収する養分の種類及び量並びに根からの分泌物の種類及び量が異なるため、単質養液を用いて、多品目の植物を長期間にわたって栽培する方法を構築するためには、養液全体をできるだけ均一な状態に維持して、どの植物も必要な養分をどの位置においても吸収できるようにすることが必要である。そこで、本発明の発明者らは、単質養液を劣化させることなく完全に混合して循環させることができるように、養液タンクの形状、養液配管の方法、栽培槽と給排水経路との接続方法などを検討し、単質養液の滞留防止・完全混合構造を構築した。この結果、単質養液を高頻度で廃棄することなく、単質養液の状態、例えば、pH、養分溶解度、酸素溶存濃度、酸化還元電位といった値を所望の状態に維持することができる。
以上の諸条件を備えた養液栽培環境は、いわば最適化された疑似土壌環境といえるものである。最適化された疑似土壌環境とは、養液と植物の根との関係に関して理想的な土壌内の状態を擬似的に再現した環境であって、土壌栽培で植物に好影響を与える特徴を選択的に機能させるようにするとともに、悪影響を与えるおそれのある事項を可能なかぎり排除した栽培環境である。従来の養液栽培技術においては、養液中にこのような最適化された疑似土壌環境を再現するという考え方と、そのための方法については、全く考慮されていない。
本発明の第1の態様は、単質養液を用いて、連作障害を生じさせることなく多品目の植物を同時に栽培することができる植物栽培システムを提供する。本植物栽培システムは、植物を保持する栽培槽の内部を所定速度で流れる単質養液に、栽培槽の単質養液の溶存酸素濃度を所定濃度にするのに適した状態になるように空気を改質した改質空気を、所定温度にして、単質養液を前記所定濃度にするのに必要な流量で、バクテリア定着部の近傍から供給するようにしたことを特徴とするものであり、これらの条件を満たすことによって、最適化された疑似土壌環境を再現することができる。
本発明において、好ましくは、多品目の植物は、複数品目の植物であり、好ましくは10品目以上の植物であり、かつそのうち少なくとも3割程度は果菜類と結球野菜である。また、好ましくは、改質空気は、多孔質体を介して気泡状態で単質養液内に供給され、さらに好ましくは、バクテリア定着部として用いられる多孔質体を通して栽培槽内に供給される。好ましくは、改質空気は、栽培槽の内部において複数の箇所から単質養液に供給される。好ましくは、改質空気は、空気から窒素を除去したものである。好ましくは、改質空気は、内部の温度が一定の温度に維持された改質空気貯留室において、その一定の温度と同じ温度になるまで保持された後に、単質養液内に供給される。好ましくは、単質養液の養分溶解度を表す電気伝導度は2.5mS/cm〜3.5mS/cmである。
本発明において、好ましくは、所定速度は、栽培される植物の根に与えられる圧力が土壌内における圧力と概ね同程度となるように調整された単質養液の流速であり、所定濃度は、植物の根及び好気性バクテリアの活動を活性化させるのに適した溶存酸素の濃度であり、所定温度は、植物の根に悪影響を及ぼさない改質空気の温度である。
さらに好ましくは、所定速度は3cm/秒〜5cm/秒であり、所定濃度は8ppm〜12ppmであり、所定温度は18℃〜22℃である。好ましくは、改質空気の1時間当たりの流量は、栽培槽とタンクを循環する単質養液全体の体積に対して3倍〜5倍である。
本発明において、好ましくは、本植物栽培システムは、単質養液が、循環路内において滞留することなく混合されて循環するように構成される。
本発明の第2の態様は、単質養液を用いて、連作障害を生じさせることなく多品目の植物を同時に栽培することができる植物栽培装置を提供する。本植物栽培装置は、植物と、所定速度で流れる単質養液とを保持する、栽培槽と、栽培槽の単質養液の溶存酸素濃度を所定濃度とするのに適した状態になるように空気を改質した改質空気にする、空気改質手段と、改質空気の温度が所定温度になるように調整する改質空気温度調整手段と、単質養液を所定濃度にするために必要な流量の改質空気を複数の栽培槽の内部の単質養液に供給する改質空気供給手段と、改質空気供給手段の改質空気供給部の近傍に配置されたバクテリア定着部と、単質養液を栽培槽とタンクとの間で循環させる、単質養液循環手段とを備える。
本発明において、好ましくは、改質空気供給部は多孔質体であり、さらに好ましくは、多孔質体はバクテリア定着部として用いられる。好ましくは、改質空気供給部は、栽培槽の内部において複数設けられる。好ましくは、空気改質手段は、空気から窒素を除去するためのフィルタを含む。好ましくは、改質空気温度調整手段は、内部の温度が一定の温度に維持された改質空気貯留室を含み、改質空気は、改質空気貯留室内において一定の温度と同じ温度になるまで保持された後に、改質空気供給手段によって供給される。
本発明において、好ましくは、単質養液循環手段は、単質養液を循環させるポンプと、栽培槽から排出された単質養液を収容する第1のタンクと、栽培槽に供給されることになる単質養液を収容する第2のタンクと、第1のタンクと第2のタンクとの間を接続する交差配管とを備える。
本発明の第3の態様は、単質養液を用いて、連作障害を生じさせることなく多品目の植物を同時に栽培する植物栽培方法を提供する。本植物栽培方法は、各々が植物を保持する栽培槽の内部に、所定速度で単質養液を流す工程と、栽培槽の単質養液の溶存酸素濃度を所定濃度にするのに適した状態になるように空気を改質して改質空気とする工程と、改質空気の温度を所定温度とする工程と、単質養液を所定濃度にするのに必要な流量の改質空気を、バクテリア定着部の近傍から栽培槽の内部の単質養液に供給する工程とを含む。
本発明において、改質空気を単質養液に供給する工程は、改質空気を、多孔質体を介して気泡状態で単質養液に供給する工程を含むことが好ましく、バクテリア定着部として用いられる多孔質体を通して栽培槽内に供給する工程を含むことがさらに好ましい。好ましくは、改質空気を単質養液に供給する工程は、改質空気を、栽培槽の内部において複数の箇所から単質養液に供給する工程を含む。好ましくは、空気を改質する工程は、空気から窒素を除去する工程を含む。好ましくは、改質空気の温度を所定温度にする工程は、内部の温度が一定の温度に維持された改質空気貯留室内において、改質空気が一定の温度になるまで改質空気を保持する工程を含む。好ましくは、本植物栽培方法は、単質養液を、循環路内において滞留させることなく混合して循環させる工程をさらに含む。
本発明によれば、次のような効果を奏する。
(1)連作障害を生じさせることなく同一の単質養液で多品目の植物を同一施設内で同時に栽培することができる。
(2)本発明によれば、栄養価が高く、農薬を使用しないため安全な植物の生産が可能である。
(3)また、一施設で多品目の植物を高効率かつ計画的に生産できるため、天候に影響されず、市場の動向に柔軟に対応可能な植物生産事業を確立することが可能となる。
(4)さらに、本発明によれば、養液を高頻度で廃棄することがないため環境負荷が低く、環境配慮型の持続可能な植物生産工場を実現することが可能となる。
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
[本システムの概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る植物栽培システム1の概略図を示す。植物栽培システム1は、ハウス60と、ハウス60内に収容され、植物を栽培する複数の栽培槽10と、外気Aを改質空気RAに改質するとともに、改質空気RAの温度を調整する改質空気温度調整手段を含む改質空気製造手段20とを含む。複数の栽培槽10の各々は、図1の紙面に対して垂直な方向に延びており、多品目の植物が支持されるとともに、植物を生長させるための養分が含まれる単質養液Sが内部を流れるようになっている。栽培槽10は、支持フレーム19によって支持されており、栽培される植物の種類や収穫までの期間に容易に対応可能となるように、複数の栽培槽10を多段式に構成することができる。単質養液S内には、栽培される多品目の植物の根が浸漬する。栽培槽10内を流れる単質養液S内には、改質空気RAが供給される。本明細書においては、ハウス60は、例えば後述される排出側養液タンク41を含む必要な装置が埋設された地下部分まで含むものとする。図1においては、改質空気製造手段20は、ハウス60の外部に設けられているが、ハウス60の内部に設けてもよい。
図2は、植物栽培システム1の各種手段の構成と、単質養液S及び改質空気RAの流れとを示す概略的な平面模式図である。植物栽培システム1は、多品目の植物を生長させる複数の栽培槽10と、外気を改質して、複数の栽培槽10内を流れる単質養液Sに供給される改質空気RAを作るとともに、改質空気RAの温度を調整する改質空気温度調整手段を含む、改質空気製造手段20と、製造された改質空気RAを単質養液Sに供給する改質空気供給手段30と、単質養液Sを複数の栽培槽10間で循環させる養液循環手段40とを含む。植物栽培システム1は、さらに、ハウス60内の雰囲気の温度を下げるのに用いられるハウス内冷却手段50を含んでもよい。以下において、図2に示される栽培槽10及び各々の手段20、30、40、50の詳細を説明する。
[栽培可能な植物]
植物栽培システム1においては、ホウレンソウ、リーフレタスなどの葉菜類、トマト、ナス、キュウリなどの果菜類、白菜、キャベツ、レタスなどの結球野菜類、エンドウ、ソラマメ、落花生などの豆類、いちご、メロンなどの果物類、花卉などといった多数の品目の植物を、年間を通して同時に栽培することができる。また、植物栽培システム1においては、発芽直後から収穫までにわたって、生長段階の異なる植物を混在させながら、同時に栽培することができる。同時に栽培される植物の品目は、複数品目の植物であり、好ましくは10品目以上の植物であり、かつそのうち少なくとも3割程度は果菜類と結球野菜である。
[単質養液]
植物栽培システム1においては、多品目の植物を栽培するすべての栽培槽10間で、同一の養分が全体的に均質になるように混合された養液が一定の状態で常に循環しており、本明細書においては、この養液を単質養液Sという。本発明においては、単質養液Sは、植物の品目、生長段階及び栽培時期に関わらず、同一成分の養液が連続的に用いられ、蒸発及び植物による吸収によって減少した分だけ、水及び/又は養分を適宜補充するだけでよい。植物の発芽から収穫までを1サイクルとすると、従来の養液栽培では、サイクル毎に養液を廃棄して新たな養液を用いるため、連作障害への対応という概念自体がなかった。これに対して、植物栽培システム1においては、本発明者らによるこれまでの実験で、単質養液Sを高頻度で廃棄せずに、連作障害を発生させることなく、少なくとも葉菜類について30連作以上の栽培が行われ、果菜類について5連作以上の栽培が行われている。
単質養液Sに含まれる成分は、特に限定されるものではなく、一般的な養液栽培において使用される成分を用いることができる。
単質養液Sは、その状態が一定に維持されるように、すなわち、少なくとも溶存酸素濃度(DO)、電気伝導度(EC)、温度Ts、水素イオン濃度指数(pH)及び酸化還元電位(ORP)といったパラメータの値が概ね一定に維持されるように、管理される。中でも、本発明において用いられる単質養液Sは、溶存酸素濃度(DO)の値及び維持の方法、電気伝導度(EC)の値、並びに温度Tsの維持の方法が、従来の養液栽培とは大きく異なる。
溶存酸素濃度(以下、「DO」ともいう)は、単質養液S中に溶解している酸素の濃度である。単質養液Sに溶解している酸素は、植物が生長する際の根の活動と、養液内の成分を植物が吸収可能な状態に分解するバクテリアの活動とにおいて不可欠である。従って、これらの活動が適切に行われるように、単質養液Sに十分な量の酸素が安定的に溶存している必要がある。本発明においては、単質養液SのDOは、従来の養液栽培における濃度より高い所定濃度(すなわち、酸素が植物の根及び好気性バクテリアの活動を活性化させるのに適した濃度)に維持され、一実施形態においては約8ppm〜約12ppmに維持されることが好ましい。DOをこのような高濃度に維持するために、単質養液Sには、所定の流量の改質空気を、好ましくは気泡状態で供給する。改質空気の製造及び供給については、後述される。
電気伝導度(以下、「EC」ともいう)は、電気の流れやすさを表す値であり、養液栽培においては、養液中の養分溶解度を示す指標として一般的に用いられる。本発明においては、単質養液SのECは、従来の養液栽培における値より著しく高い値に維持することができ、一実施形態においては約2.5mS/cm〜約3.5mS/cmに維持されることが好ましい。単質養液のECが2.5mS/cm未満でも1.0mS/cm以上であれば栽培可能であり、また、3.5mS/cmを越えても4.0mS/cmまでなら栽培可能であるが、多品目の植物を高品質に栽培するには、約2.5mS/cm〜約3.5mS/cmの範囲が好ましい。従来の養液栽培においては、養液のECは、0.4mS/cm〜1.0mS/cm程度であり、これ以上のECの養液を用いると、植物が肥料焼け(多量の養分が根の機能を害し、植物を萎れさせたり枯れさせたりする事)を起こして生長できなくなる。しかしながら、本発明のシステムにおいては、高いDOが確保されていることによって、植物の根及び好気性バクテリアの活動が適切に活性化され、ECが高くても養分が分解されて根が養分を十分に吸収することができるため、高ECの単質養液Sを用いることが可能となった。ECの高い単質養液Sを用いることによって、栄養価の高い植物を短期間で生長させることができる。
また、従来の養液栽培においては、植物は、発芽直後から収穫までの生長過程で複数の段階に分けて栽培され、その栽培段階に応じて養液に養分を追加することによって養液のECを変化させるのが一般的である。例えば、発芽直後はECが低い養液を用いて植物を栽培し、その後、植物の生長と共に養液のECを上げて行くことが行われる。これは、生長段階に応じてECを管理しなければ、植物が肥料焼けを起こす恐れがあるからである。しかしながら、生長段階に応じて適切なECを選択することは、単品目又は少品目の養液栽培であれば可能であるが、品目が多くなるほど著しく困難になる。本発明においては、ECが高い単質養液Sを用いても、高DOによる植物の根及び好気性バクテリアの活動の活性化によって、養分が適切に分解されて根が養分を十分に吸収することができ、発芽直後の植物であっても肥料焼けが発生しないため、発芽直後から収穫まで一貫して同じ高ECの単質養液Sを用いることが可能となる。
単質養液Sの温度Tsは、植物の代謝が最大限に行われ、植物の根が生長するのに最も適した温度に維持される。この温度Tsは、植物の種類によって多少の違いはあるものの、約18℃〜約22℃である。本発明においては、Tsが約18℃〜約22℃に維持され、好ましくは約20℃に維持される。本発明においては、単質養液Sの温度Tsは、単質養液Sに供給される改質空気RAの温度を所定温度に維持することによって、上述の温度に維持される。改質空気の温度維持の詳細については、後述される。
単質養液Sは、さらに、水素イオン濃度指数(以下、「pH」という)が概ね一定に維持される。単質養液SのpHの値は、高くなりすぎると植物の根が褐変して枯れ、低くなりすぎると養液中の養分の吸収効率が低下することになり、いずれの場合も、植物の生長に悪影響を及ぼすことが知られている。したがって、単質養液SのpHは、一実施形態においては、約5.5〜約7.5に維持されることが好ましく、約6.2〜約7.2に維持されることがより好ましい。
単質養液Sは、さらに、酸化還元電位(以下、「ORP」ともいう)が概ね一定に維持される。単質養液SのORPの値は、高くなりすぎても低くなりすぎても、単質養液S内の好気性バクテリアの活性化に悪影響を与えることが知られている。したがって、単質養液SのORPは、一実施形態においては、約200mv〜約350mvに維持されることが好ましく、約230mv〜約320mvに維持されることがより好ましい。
本発明においては、上述の溶存酸素濃度(DO)、電気伝導度(EC)、養液温度(Ts)、水素イオン濃度指数(pH)及び酸化還元電位(ORP)の値はいずれも、適切なセンサを用いて常時監視及び記録されており、これらの値は、所定の範囲から逸脱した場合又は逸脱する可能性がある場合に必要な対応をとることによって、概ね一定の値に維持することができる。これらの指標の値の維持は、EC、pH及びORPについては、単質養液Sに必要に応じて適量の水及び/又は養分を混合することによって行うことができる。DOについては、供給される改質空気の供給量を制御することによって行うことができる。Tsについては、供給される改質空気の温度を制御することによって行うことができる。
[栽培槽]
図3は、一実施形態に係る複数の栽培槽10の1つを示す斜視図であり、内部が見えるように、栽培槽10内の上部開口に配置される支持体としての支持基材11を一部切り欠いた状態で示されている。図3においては、平面視において略正方形状の開口部12が設けられた支持基材11と、平面視において略長方形状の開口部12が設けられた支持基材11とを含む、複数の種類の支持基材11が用いられている。支持基材11の種類は、栽培される植物の種類に応じて適宜選択することができる。図4は、小型栽培ポット13を用いた場合の栽培槽10の側断面図を示す。栽培槽10は、底面及び側面が壁面で囲まれ(すなわち上部が開放され)、内部において単質養液Sが一方向に所定速度で流れるように構成された槽である。図3及び図4においては、栽培槽10は1段のみが描かれているが、必要に応じてさらにこの上に別の栽培槽10を設置して、多段構成とすることもできる。例えば、下段では葉菜類を栽培し、上段では果菜類や結球野菜類を栽培するように、複数の栽培槽10を多段構成とすることができる。多段構成とした場合には、上下段の栽培槽10間の距離は、栽培槽10の各々において栽培される植物の成長時の大きさ及び太陽光の照射の状態に応じて決めることができる。栽培槽10は、支持フレーム19によって支持される。また、栽培槽10は、太陽光が十分に植物に照射されるように、配置されることが好ましい。
栽培槽10の各々の長さ、幅及び深さは、それぞれの栽培槽10で栽培される植物の種類や量又は栽培施設の規模などに応じて決められ、特に幅及び深さは、栽培される植物の根や茎がその本来の生長形状を維持できるように決定される。本発明の一実施形態においては、栽培される植物の種類に応じて、例えば、幅が約200mm〜約1,000mm、深さが約200mm〜約1,000mmの栽培槽10を用いることができる。
栽培槽10は、内部を流れる単質養液Sの温度が一定の温度に維持されるように、側壁及び底壁を断熱構造とすることが好ましい。栽培槽10の断熱構造は、例えば、側壁及び底壁の外面に断熱材を積層したり、側壁及び底壁を二重構造として隙間に断熱材を配設したりすることによって、実現することができる。栽培槽10の材料は、内部に単質養液Sが保持された状態で槽10自体が変形、破損しないように適切な強度が維持できるものであれば特に限定されず、例えば、金属製の栽培槽、樹脂製の栽培槽、FRP製の栽培槽などを用いることができる。
栽培槽10には、後述される供給側養液タンク44から養液供給経路45を介して単質養液Sが供給される。養液供給経路45の養液供給口45aは、図4に示されるように、栽培槽10内の単質養液Sの液面近くに位置するように設けられる。供給された単質養液Sは、栽培槽10内を、図2及び図4の矢印Sの方向に所定速度で流れる。単質養液Sの所定速度は、上述のとおり、約3cm/秒〜約5cm/秒であることが好ましい。
栽培槽10には、養液の排出口16(16a、16b)が設けられており、栽培槽10内を流れる単質養液Sは、この排出口16(16a、16b)から養液排出経路46を介して、後述される排出側養液タンク41に排出される。一実施形態においては、2つの排出口16a、16bを設けることが好ましく、第1の排出口16aは、栽培槽10の底面と同一の面に位置するように設けられており、第2の排出口16bは、単一養液Sの水面に近い場所に位置するように設けられている。第2の排出口16bを流入口とする養液排出経路46は、オーバーフロー管とすることが好ましい。単質養液Sの供給口45aと排出口16a、16bとをこのような位置関係にすることによって、栽培槽10内の単質養液Sは、液面近くから栽培槽10の底面近くまで概ね一様な流速を維持することができるとともに、栽培槽10内における滞留を効果的に防止することができる。
栽培槽10内部には、改質空気RAを単質養液Sに供給するための複数の供給部36が配置される。改質空気供給部36の詳細は、後述される。複数の改質空気供給部36は、上流から下流に向かって所定の間隔で、一実施形態においては、約50cmの間隔で、栽培槽10の底部に配置することができる。
[支持体]
栽培槽10の上部開口には、植物を支持するための支持体が配置される。支持体は、一実施形態においては、支持基材11と、栽培ポット13と、培地14とによって構成することができる。支持基材11として、栽培槽10の上部開口を塞ぐように配置されるフロート又は蓋を用いることができる。支持基材11がフロートの場合には、栽培される植物の成長による重量で単質養液Sに沈まず、かつ断熱性の高い材料で作ることが好ましい。
支持基材11には、図3及び図5に示すように厚み方向に貫通する複数の開口部12が設けられ、この開口部12には、植物を支持する栽培ポット13、13Aが配置される。本実施形態においては、栽培ポット13、13Aは、支持される植物の種類に応じて、図6に示される小型栽培ポット13か、図7に示される大型栽培ポット13Aのいずれかを用いることができる。図6に示される小型栽培ポット13は、生長したときの重量が比較的大きい植物、例えば果菜類、結球野菜類などに用いられることが好ましく、図7に示される大型栽培ポット13Aは、生長したときの重量が比較的小さい植物、例えば葉菜類などに用いられることが好ましい。開口部12の形状及び数は、使用される栽培ポット13、13Aの形状及び数に応じて、適宜決めることができる。例えば、図5(a)(b)(d)に示される支持基材11は、図6に示される小型栽培ポット13を配置することができる複数の開口部12が長手方向に沿って設けられたものであり、図5(c)(e)に示される支持基材11は、図7に示される大型栽培ポット13Aを、長手方向に沿って配置することができる開口部12が設けられたものである。
支持基材11の下面は、水槽内の単質養液Sの流れが阻害されない形状とすることが好ましい。特に、支持基材11がフロートの場合には、植物の成長に伴って徐々に液面下への沈下量が大きくなり、その結果、開口部12内部の単質養液Sが滞留する可能性があるため、開口部12内における滞留が防止される形状とすることが好ましい。これらを目的として、一実施形態においては、支持基材11は、図4及び図5に示されるように、下面が単質養液Sの流れ方向に対して波状に形成されることが好ましい。本発明の一実施形態においては、栽培槽10内における単質養液Sの流速は、上述のとおり約3cm/秒〜約5cm/秒であることが好ましいが、この流速の時には、支持基材11の下面の波形の凸部間の距離は、約100mm〜約105mmであることが好ましい。また、支持基材11がフロートの場合には、フロートが沈下した場合でも開口部12内に単質養液Sが滞留しないように、下面の波形の凹部の頂点を含むある程度の範囲は、フロートの長手方向における位置が開口部12と同じ位置に存在するとともに、フロートが最大に沈下したときでも液面上に存在するようになっていることが好ましい。なお、支持基材11が蓋であって、その下面が単質養液Sの液面と接しない場合には、蓋の下面は必ずしも波形に形成される必要はない。
また、支持基材11がフロートの場合でも。図5(d)(e)に示すように端縁に係止片11aを設け、この係止片11aを栽培槽10の開口上端縁に係止して支持基材11としてのフロートを栽培槽10の開口の蓋体3のようにして使用してもよい。こうすることで植物の成長に伴ってフロートが液面下に沈下することが防止できる。
図6は、小型栽培ポットの実施の形態を示す斜視図(a)(b)である。この実施の形態に係る小型栽培ポット13は、果菜類、結球野菜類などといった、比較的重量の大きい植物の栽培に用いることが好ましい栽培ポットである。小型栽培ポット13は、略正方形の底面13bの各辺より立上がる周側壁13aで囲繞され、上部が開口する立方体形状(平面視において略正方形の箱状)に形成され、各周側壁3aおよび底面3bには、複数の開口または窓17(以下、これらを総称して窓という)が格子状に形成されており、また、図6(a)に示すように上端開口の周縁には鍔体13cが突設されている。この小型栽培ポット13は、例えば、合成樹脂などによって一体成形されることが好ましいが、これに限定されるものではない。この小型栽培ポット13の外径は、支持基材11の開口部12の形状に対応して形成され、図8に示すように支持基材11の開口部12に合致して嵌入可能となっている。小型栽培ポット13を支持基材11の開口部12に嵌入すると、鍔体13cが支持基材11の上面に係止されて支持基材11に支持される。
小型栽培ポット13内の底面13b上には培地14が保持され、植物の根は、生育に伴って、複数の窓17を通って単質養液S内に伸びることになる。従って、小型栽培ポット13は、支持基材11の開口部12に嵌入して取り付けると、その下方部分は支持基材11の下方に突出し、その下方部と培地14の全部又は一部が単質養液Sに浸漬するように、その深さ(大きさ)と鍔体13cの位置を決定して形成する。
図6(d)は、鍔体13cの位置を、小型栽培ポット13の上端開口の周縁ではなく、周側壁13aの途中に突設した場合である。このように鍔体13cの設ける位置を調節することで、支持基材11より下方への突出量が調節でき。単質養液Sへの浸漬量も調節できる。
小型栽培ポット13の周側壁13aおよび底面13bに形成された複数の窓17は、所定速度で流れる単質養液Sの流路として機能するものである。従って、該窓17の形状は植物の根が進出でき、単質養液Sの通過を許容し、空気の流通が可能な形状であればよく、本例のように格子状だけに限定されるものではなく、他の種々の形状が採用可能である。例えば、円形および三角形や台形等の多角形の形状を例示することが出来る。
また、小型栽培ポット13内の底面13b上には培地14が保持され、植物が栽培される。従って、支持基材11に取り付けた小型栽培ポット13の周囲には、育成した植物に空気が流通し、日光が当たることが好ましい。従って、小型栽培ポット13の周側壁13aは、上方より下方に向かって外径が小さくなるテーパ状に形成することが望ましい。このテーパ状は、周側壁13aの全面ではなく、少なくとも取り付けた際の支持基材11の開口部12の近傍に位置する周側壁13aに存在すればよい。これにより、テーパ状に形成された周側壁13aと支持基材11の開口部12の内側面との間に隙間が生じ、この隙間と窓17とによって通風路が形成され、植物の根元部分における通風の確保、酸素の供給、雑菌の防止を図ることができるし、日光の当たりも向上する。
この空気の流通や日光の当たりを向上させるためには、支持基材11の開口部12の内側面に切欠(図示省略)を設けてもよい。周側壁13aをテーパ状にし、開口部12の内側面に切欠を設ければ相乗効果で効果は一層向上できる。
なお、小型栽培ポット13は、その内部の底面13b上に培地14を保持し、植物を栽培するものであるので、その形状は本実施の形態に示す形状に制限されるものではなく、上部が開口する種々の立方体形状が採用可能である。例えば、円筒体、角錐状体等を挙げることができる。この場合には、支持基材11の開口部12の形状も対応させることになる。
図7は、大型栽培ポットの実施の形態を示す斜視図(a)(b)である。この実施の形態に係る大型栽培ポット13Aは、葉菜類などの比較的重量の小さい植物の栽培に用いることが好ましい栽培ポットであるが、他の植物に採用できることは言うまでもない。この実施の形態の大型栽培ポット13Aは、長尺な上部開口の直方体(平面視において長方形の箱体)である点が、前記図6に示す小型栽培ポット13と異なる点であって、他は図6に示す小型栽培ポット13と同様であるので、同様な構成要素には同一符号を付して、他の詳細な説明は省略する。従って、大型栽培ポット13Aは、平面視において長方形なので、支持基材11の開口部も図5(c)(e)に示すようにそれに対応した形状となる。
図9は、本発明の別の実施の形態に係る支持体を示す斜視図である。この支持体は、栽培槽10内に取り付けて栽培ポット13、13Aを収納する栽培ポット収納体11Aである。この支持体としての栽培ポット収納体11Aは、フレーム部材で形成され、略水平で十字状の底片7の各端部から垂直片8a、8b、8c、8dが立設され、該垂直片8aと8bの上端および垂直片8cと8dの上端が連結部材9、9で連結され、垂直片8a、8b、8c、8dで囲まれた範囲を栽培ポット13、13Aが収納できるようにしたものである。この栽培ポット収納体11Aは、垂直片8a、8b、8c、8dの上方に鍔体8eが突設され、図9に示すように栽培槽10内に挿入し、その開口の端縁部に係止して取り付けることができるようになっている。これは支持基材11の開口部12に挿入し取り付けてもよい。
この取り付けた栽培ポット収納体11Aには、小型栽培ポット13は、図10に示すように垂直片8a、8b、8c、8dで囲まれた範囲内に挿入し底片7に載置して使用し、大型栽培ポット13Aは、図11に示すように栽培ポット収納体11Aを複数取付、その間に大型栽培ポット13Aを取付ける。小型栽培ポット13の場合は、栽培ポット収納体11Aを複数列設して取り付けて使用するようにするが、これは1個の使用でもよい。
この栽培ポット収納体11Aは、フレーム部材で形成され、立設した垂直片8a、8b、8c、8dで囲まれているだけなので、栽培ポット13、13Aを収納して取り付けても、単質養液Sより上方は空間となり空気の流通および日光の当たりが良好となるので好ましい。
図4に示されるように、栽培ポット13の内部には、培地14が配置される。培地14は、発芽直後の植物を、単質養液S内に落下しないように支持するためのものである。培地14の材料は、従来の養液栽培で用いられる材料、例えば、ウレタン発泡樹脂、ロックウール、椰子繊維、不燃紙などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。本発明においては、すべての植物で同一の材料の培地14を用いることもできるし、植物毎に異なる材料の培地14を用いることもできる。葉菜類などの生長が早い(播種から収穫までの時間が短い)植物の培地14はより安価なものを用いることが好ましく、果菜類や結球野菜類などの生長が遅い(播種から収穫までの時間が長い)植物の培地14はより安価な培地を用いる必要がない。
培地14の厚み及び目の粗さは、限定されるものではないが、植物の生長過程において根が培地14をようやく貫通することができる程度であればよい。培地14の厚みは、栽培される植物の種類に応じて、約1cm〜約5cmであることが好ましい。
図12は、本発明の別の実施形態における支持体の構成を示す。この実施形態においては、図7に示される大型栽培ポット13Aの内部に、栽培シート15が配置されている。栽培シート15は、一枚のシートが大型栽培ポット13Aの幅方向に蛇腹状に折り畳まれることによって、長手方向に沿って延びる複数の山部15a及び谷部15bを有するように形成されており、山部15aと谷部15bとの間に培地14を配置することができる。培地14は、長手方向に沿って連続的に配置することもできるし、複数の培地14を間隔を空けて配置することもできる。山部15aには、長手方向に沿って適当な間隔で切欠部15cが設けられている。この切欠部15cによって、植物の背丈が谷部15bから山部15aまでの高さより小さい生長初期段階においても太陽光が遮られずに適切に植物に当たるため、効率的に生長させることができるとともに、栽培中においても、植物の根に対する適切な太陽光の照射を実現することができる。栽培シート15の材料は、単質養液Sとの化学反応がなく、単質養液Sを吸収せず、繰り返し使用に耐える耐久性があるものであればよく、例えばポリプロピレンなどといった樹脂材料を用いることが好ましい。
図13乃至図15は、栽培シートの他の取付構造を示し、図13はその一部切欠の斜視図、図14は、その分解斜視図、図15は、図13のA−A線断面図である。
この実施の形態の栽培シート15の取付構造は、シート受板2を備える。このシート受板2は、方形の受板本体3の周縁に短壁3aが立設する方形の短筒状で、受板本体3の内面には、シートハンガー部材4a、4bが突設されている。図14、図15に示すようにこのシートハンガー部材4aは、栽培シート15の山部15aの頂部に対応する位置に、栽培シート15の山部に対応する山形の形状で突設され、シートハンガー部材4bは、栽培シート15の山部15aから谷部15bに向かう途中に位置し、栽培シート15の傾斜面に対応する傾斜で八字状に突設されている。従って、栽培シート15の山部15aをシートハンガー部材4aに嵌合すると、栽培シート15の山部15aから谷部15bに向かう傾斜面の内側にシートハンガー部材4bが当接して支持することとなり、栽培シート15は、シートハンガー部材6a、6bにハンガーと同様のように掛けるだけで取り付けることができる。このシート受板2は、2つが互いに対向して設けられ、栽培シート15は、対向するシート受板2、2間に架設して取り付けられる。この栽培シート15の直下には、網板5と不織布6がシート受板2の短壁3aに載置されて、対向するシート受板2、2間に架設されている。このシート受板2の外周側の上部には、鍔体3cが設けられ、栽培槽10の開口から挿入すると、図13、図15に示すように鍔体3cが栽培槽10の開口縁部に係止して取り付けられることができる。これは支持体としての支持基材11であっても長尺な長方形の開口部12に挿入して取付使用することができる。シート受板2を栽培槽10に使用するときは、シート受板2の幅は栽培槽10の開口の幅に合わせ、支持基材11に使用するときは、支持基材11の開口部12の幅に合わせて形成する。
このシート受板2の受板本体3には、複数の開口3bが設けられ、単質養液Sの流れを阻害しないようになっている。この開口3bは、単質養液Sの流れを阻害しないようにその大きさや数および設ける位置が設定される。この点から受板本体3は、開口3bを格子状に設けたものや網板を採用することもできる。
[単質養液循環手段]
図2に戻ると、この図には、植物栽培システム1の養液循環手段40とともに、単質養液Sの流路が示されている。養液循環手段40は、排出側養液タンク41と、養液循環ポンプ42と、養液配管43と、供給側養液タンク44と、養液供給経路45と、養液排出経路46とを含む。
単質養液Sは、図2に示されるように、矢印Sに示される方向に所定速度で複数の栽培槽10の各々の内部を流れ、栽培槽10の各々に設けられた養液排出経路46から排出される。養液排出経路46には、単質養液Sの排出量をより精密に制御することができるように、必要に応じて、経路を開閉するバルブ(図示せず)を設けてもよい。
栽培槽10から排出された単質養液Sは、好ましくは地中に埋設された排出側養液タンク41内に入る。排出側養液タンク41内の単質養液Sは、養液循環ポンプ42によって養液配管43に送られ、好ましくは地中に埋設された供給側養液タンク42に入る。供給側養液タンク42内の単質養液Sは、養液供給経路45を通って、複数の栽培槽10の各々に供給される。養液供給経路45には、単質養液Sの供給量をより精密に制御することができるように、必要に応じて、経路を開閉するバルブ(図示せず)を設けてもよい。
本発明は、上述のように、単質養液S内に土耕栽培における土壌内の状態と同様の「固相」を作り出すことを特徴の一つとしており、本発明者らは、この特徴を達成するためには、栽培槽10内における単質養液Sの所定速度を約3cm/秒〜約5cm/秒とすることが好ましいことを見出した。この速度は、植物の根に与えられる圧力が土壌内における圧力と概ね同程度となるように調整された単質養液Sの速度である。この所定速度は、例えば、使用される栽培槽10の数及び大きさに応じて決められる必要な単質養液Sの量に対して、最上段の栽培槽10の高さ、養液配管43の径及び長さ、排出側養液タンク42及び供給側養液タンク44の容量などが設計され、こうした設計条件において栽培槽10内における単質養液Sの流速が上述の範囲となるように、養液循環ポンプ42の能力が決定されることによって、調整することができる。また、養液供給経路45及び養液排出経路46にバルブが設けられる場合には、これらのバルブの開度を調整することによって、所定速度を調整することもできる。
単質養液Sの栽培槽10内における流速が、約3cm/秒より遅い場合には、栽培槽10内において単質養液Sが滞留している状態と実質的に変わらなくなるため、根に対して土壌内における場合と同程度の圧力を与えることにならないだけでなく、滞留による養液劣化の原因にもなる。流速が、約5cm/秒より早い場合には、根に与えられる圧力が高すぎるため、根に対して過大なストレスを与えることになる。
本発明においては、単質養液Sは、劣化しないため高頻度で廃棄する必要がなく、通常は、植物による吸収や自然蒸発によって失われた水及び/又は養分を必要に応じて補充するだけでよい。このような単質養液Sの劣化防止は、単質養液Sを流路内で完全に混合して循環させるとともに、流路内における滞留を防止することによって達成されている。流路内における単質養液Sの完全混合・滞留防止は、主として以下の構成を採用することによって達成されている。
(1)栽培槽内における滞留を防止するための構成
(2)養液タンクにおいて養液を均一に混合するとともに、タンク内における滞留を防止するための構成
(3)養液配管において養液をさらに均一に混合するための構成
これらのうち(1)については、栽培槽及び支持体の説明において記載したとおりである。(2)及び(3)については、以下における養液タンク及び養液配管の記載の中で説明される。
[養液タンク]
図16は、本発明の一実施形態において用いられる排出側養液タンク41及び図17は供給側養液タンク44を示す。図16、図17に示されるタンク41、44において、右端の二重波線は、長尺のタンク41、44の途中が省略して描かれていることを示しており、省略された部分の構造は、図16、図17において明示されている構造と同様の構造を有する。図2、図3及び図4に示されるように、複数の栽培槽10から排出された単質養液Sは、養液排出経路46を経由して、排出側養液タンク41に入る。また、単質養液Sは、供給側養液タンク44から養液供給経路45を経由して複数の栽培槽10に供給される。
本実施形態においては、排出側養液タンク41は、栽培槽10からの単質養液Sの排出側の下方において、タンク41の長手方向が栽培槽10の長手方向と交わる向きに延びるように水平に配置される。また、供給側養液タンク44は、栽培槽10への単質養液Sの供給側の下方において、タンク44の長手方向が栽培槽10の長手方向と交わる向きに延びるように水平に配置される。養液タンク41及び44をこのように配置することによって、別々の栽培槽10から排出された単質養液Sが同じ排出側養液タンク41内で混合され、養液配管43から入った単質養液Sが同じ供給側養液タンク44内でさらに混合されるため、均一に混合された単質養液Sが養液循環路内を循環することになる。排出側養液タンク41及び供給側養液タンク44の材料は、いずれも、単質養液Sに含まれる養分との化学反応が生じず、かつ、耐圧性を有するものであれば、特に限定されない。一実施形態においては、排出側養液タンク41及び供給側養液タンク44は、ポリ塩化ビニル製のタンクの外側を繊維強化プラスチックで補強したものが作られていることが好ましい。
排出側養液タンク41及び供給側養液タンク44は、内部において単質養液Sがより均一に混合されるように、円筒形状とすることが好ましい。養液排出側タンク41及び供給側養液タンク44の長さは、図2に示されるように、並列に設けられた複数の栽培槽10における両端の栽培槽10から排出された単質養液Sがタンク41、44の両端部に近い部分に入るように、両端の栽培槽10間の距離と概ね同じ長さであることが好ましい。供給側養液タンク44は、タンク44内の単質養液Sの圧力を高めて栽培槽10に送出する加圧タンクとして機能するように、排出側養液タンク41より小径とすることが好ましい。一実施形態においては、排出側養液タンク41は、内径が約400mmであり、5kg/cm2の内圧に耐えられるものであり、供給側養液タンク44は、内径が約200mmであり、10kg/cm2の内圧に耐えられるものである。排出側養液タンク41及び供給側養液タンク44は、単質養液Sの温度をより安定的に管理することができるように、いずれも地下に埋設されることが好ましい。
本発明において用いられる排出側養液タンク41には、図16に示されるように、複数の栽培槽10から排出された単質養液Sを受け入れるための複数の受液口41a、41bと、タンク41内の単質養液Sを養液配管43に送り出すための複数の送液口41cとが設けられる。複数の受液口41a、41bは、栽培槽10の下方において水平に配置されたタンク41の上部に設けられ、複数の送液口41cはタンクの下部に設けられることが好ましい。受液口41a、41bと送液口41cとの位置関係をこのようにすることによって、排出側養液タンク41内の単質養液Sを均一に混合するとともに、排出側養液タンク41内で滞留させることなく養液配管43に送出することができる。
受液口41a、41bの数及び口径は、並列に設けられる栽培槽10の数及び段数に応じて適宜設計することができる。一実施形態においては、受液口41a、41bは、並列に設けられた複数列の栽培槽10の各列に対応する1つ又は複数の受液口41a及び41bを1組として、タンク41の上部に設けることができる。すなわち、栽培槽10の列ごとに1組の受液口41a、41bがタンク41に設けられる。受液口41a、41bの各組においては、栽培槽10の対応する列における段数に応じて、口径の大きい受液口41aの数と、口径の小さい受液口41bの数とが決定される。例えば、図18に示されるように5つの栽培槽10a〜10eが3段に構成された列の場合には、上段の2つの栽培槽10a及び10bから排出された単質養液Sは、図18の最も左側に位置する受液口41aに流入し、上段の2つの栽培槽10c及び10dから排出された単質養液Sは、図の最も右側に位置する受液口41aに流入し、最下段の栽培槽10eから排出された単質養液Sは、受液口41aより小口径の受液口41bに流入する。本実施形態においては、栽培槽10には、上述のように2つの排出口16a、16bが設けられているため、上段の栽培槽10の排出口16a、16bから排出された養液Sは、1つの流れにまとめられて対応する受液口41aに流入する。また、栽培槽10eの2つの排出口16a、16bから排出された養液Sは、それぞれ別の受液口41bに流入する。このように、栽培槽10の構成並びに栽培槽10から排出される単質養液Sの量及び落下距離に応じて、各組における受液口41a、41bの数及び口径を決定することによって、排出時の流体抵抗を低減して、より容易に栽培槽10内の単質養液Sの流速を所定の速度に維持することができるとともに、流入する単質養液Sによって排出側養液タンク41内において単質養液Sが均一に混合されるようになる。
並列の複数の栽培槽10の両端における栽培槽10から排出された単質養液Sの受液口41a、41bは、排出側養液タンク44の両端部にできるだけ近い位置に設けられることが好ましい。受液口41a、41bをこの位置に配置することによって、受液口41a,41bから排出側養液タンク41内に流入した単質養液Sの流れが、排出側養液タンク41両端部の隅部分の養液を押し流し、その結果、隅部分における単質養液Sの滞留を防止することができる。
本発明において用いられる供給側養液タンク44には、図17に示されるように、養液配管43から送られてきた単質養液Sを受け入れるための複数の受液口44aと、タンク44内の単質養液Sを栽培槽10に送出するための複数の送液口44bとが設けられる。複数の受液口44a及び複数の送液口44bは、栽培槽10の下方において水平に配置されたタンク44の上部に設けられることが好ましい。受液口44aと送液口44bとの位置関係をこのようにすることによって、供給側養液タンク44内の単質養液Sを均一に混合して栽培槽10に送出することができる。
受液口44a及び送液口44bの数及び口径は、栽培槽10の数及び段数に応じて適宜設計することができる。一実施形態においては、並列に設けられた複数列の栽培槽10の各列に対応して、1つの送液口44bをタンク44の上部に設けることができる。また、受液口44aは、後述される養液配管43の配管形態に対応するように、排出側養液タンク41の送液口41cの数と同じ数を、供給側養液タンク44に設けることが好ましい。送液口44bから送出された単質養液Sは、例えば図19に示されるように、複数の栽培槽10に供給される。
[養液配管]
排出側養液タンク41内で均一に混合され、その送液口41cから排出された単質養液Sは、図2に示されるように、養液循環ポンプ42によって養液配管43に送出される。養液循環ポンプ42は、排出側養液タンク41の複数の送液口41cの各々に対して1つずつ設けられることが好ましい。単質養液Sは、養液配管43を通って供給側養液タンク41に搬送される。養液配管43は、単質養液Sの温度管理の観点から、地中に埋設されることが好ましい。養液配管43の材料は、単質養液Sに含まれる養分との化学反応が生じず、かつ、ある程度の耐圧性を有するものであれば、特に限定されない。一実施形態においては、養液配管43は、ポリ塩化ビニル製の管の外側を繊維強化プラスチックで補強したものを例示することができる。
上述のとおり、排出側養液タンク41は、内部において単質養液Sが均一に混合されるように工夫がされている。しかしながら、複数の栽培槽10の各々では様々な植物が栽培されており、栽培槽10ごとに単質養液Sの養分及び酸素の消費量、植物の根から分泌される根酸の種類及び量などが異なるため、並列の栽培槽10の各列から排出される単質養液Sは、その状態、例えば含まれる養分の量、溶存酸素濃度及び根酸の量などが大きく異なっていることがある。特に、果菜類が栽培される栽培槽10から排出された単質養液Sと、葉菜類が栽培される栽培槽10から排出された単質養液Sとは、その状態が大きく異なる場合がある。したがって、栽培槽10から排出側養液タンク41内に排出された単質養液Sは、タンク41の説明において記載した上述の工夫のみでは、均一な混合状態を維持するには不十分となる場合があることも考えられる。そのため、本発明においては、単質養液Sが流れる養液配管43を、排出側養液タンク41から供給側養液タンク44までの間で交差させている。
図2を用いてこの交差の方法を具体的に説明すると、例えば図2における最も上の栽培槽10から排出され、排出側養液タンク41に入り、その位置から最も近い送液口41cから排出された単質養液Sは、養液配管43を通って、図2における最も下の栽培槽10の近くに位置する受液口44aから供給側養液タンク44に入る。一方、例えば図2における最も下の栽培槽10から排出され、排出側養液タンク41に入り、その位置から最も近い送液口41cから排出された単質養液Sは、養液配管43を通って、図2における最も上の栽培槽10の近くに位置する受液口44aから供給側養液タンク44に入る。このように、本発明においては、栽培槽10から排出された単質養液Sが、できるだけ全体的に均一に混合されるように、排出側養液タンク41から供給側養液タンク41までの養液配管43の経路を、交差させて配設している。
[空気改質手段、改質空気温度調整手段及び改質空気供給手段]
図1及び図2において、植物栽培システム1において用いられる改質空気製造手段20が示されている。改質空気製造手段20は、外気を、栽培槽10内の単質養液Sに供給するのに適した改質空気RAに改質するとともに、改質空気RAの温度を調整するための機構である。改質空気RAは、空気Aを酸素含有量が高い状態に改質したものである。改質空気製造手段20は、ハウス60の内部に設けても外部に設けてもよいが、ハウス60内において温度管理の必要な空間をより小さくするという観点から、外部に設けられることが好ましい。改質空気製造手段20は、外部に設けられる場合には、外気の影響をできるだけ低減するように、例えば閉鎖空間内に必要な設備が配置されることが好ましい。改質空気製造手段20によって改質され、温度調整された改質空気RAは、改質空気供給手段30によって、栽培槽10内の単質養液Sに供給される。
改質空気製造手段20は、空気取り入れ部21と、空気改質手段22と、吸引ファン23と、改質空気貯留室24と、地中熱利用ヒートポンプ25と、放熱部26と、配管冷却部27と、温度センサ28とを含む。空気Aは、空気取り入れ部21を介して、吸引ファン23によって、改質空気貯留室24内に取り入れられる。空気Aは、改質空気貯留室24内に取り入れられる前に、空気改質手段22によって改質される。空気改質手段22は、一実施形態においては、少なくとも脱窒フィルタを有するフィルタ部22とすることができる。脱窒フィルタを通して空気Aを取り入れることによって、窒素が除去されて単位体積あたりの酸素含有量が高い状態に改質された改質空気RAを得ることができる。空気改質手段22は、さらに、脱アンモニアフィルタ、脱塩フィルタ、防塵フィルタといった種々のフィルタを含むものとすることもできる。別の実施形態においては、改質空気RAの酸素含有量は、例えば取り入れた空気に純酸素を混合することによって高めることもでき、この場合には、空気改質手段22は、外気と純酸素とを混合する装置とすることができる。
改質空気貯留室24に取り入れられた改質空気RAは、供給量の安定化及び温度の調整の目的で、一定時間、改質空気貯留室24の内部に貯留されることが好ましい。温度の調整の詳細については、後述される。改質空気貯留室24の容積は、供給量の安定性と温度管理の容易性とを勘案して決められるが、少なくとも、栽培槽10に供給される単位時間あたりの改質空気RAの量の10倍以上の容積であることが好ましい。内部の改質空気RAの温度調整をより容易にするために、改質空気貯留室24は、壁面、屋根、扉などが断熱機能を備えることが好ましい。
改質空気RAは、改質空気供給手段30によって複数の栽培槽10に供給される。改質空気供給手段30は、改質空気供給ポンプ32と、改質空気配管34と、改質空気供給部36とを含む。改質空気RAは、改質空気貯留室24に貯留された後、改質空気供給ポンプ32によって、改質空気配管34に送出される。改質空気供給ポンプ32によって改質空気RAに加えられる圧力は、改質空気RAの1時間当たりの流量が、循環している単質養液Sの全体積に対して約3倍〜約5倍となるように設定されることが好ましい。改質空気配管34は、図2に示されるように栽培槽10の外側に設けることができるが、栽培槽10の内部を通るように設けてもよい。改質空気配管34を栽培槽10内、すなわち単質養液S内に配置することによって、改質空気配管34が蓄熱体の役目を果たし、単質養液Sの温度をより安定的に維持することができるという利点がある。改質空気配管34の材料は、特に限定されないが、改質空気配管34が栽培槽10の内部に配置される場合には、単質養液Sと化学反応を生じない材料、例えばポリ塩化ビニルなどとすることが好ましい。改質空気供給配管34と改質空気供給部36との間には、配管を開閉するためのバルブ(図示せず)を設けてもよい。バルブを設けることによって、改質空気供給部36への改質空気RAの供給量をより精密に制御することができる。
栽培槽10の各々の内部には、改質空気供給部36が設けられる。改質空気供給部36は、改質空気RAを単質養液Sに供給することができるものであれば特に限定されないが、一実施形態においては、図20に示されるように、セラミックスを高温で焼成した中空筒状の多孔質体とすることが好ましい。改質空気配管34は、筒状の多孔質体36a内部において長手方向の中心軸線上に沿って設けられた中空部36bに接続されており、中空部36bに入った改質空気RAは、多孔質体36aの孔から、孔の大きさに対応したサイズの気泡となって、単質養液S内に放出される。多孔質体36aの孔は、できるだけ均一であることが好ましく、孔のサイズは、単質養液S内に放出される気泡のサイズが、概ね数百ミクロンのオーダーより大きく、数ミリのオーダーより小さくなるようなサイズに形成されることが好ましい。この程度のサイズの気泡を用いて改質空気RAを単質養液Sに供給することによって、必要な溶存酸素濃度、すなわち約8ppm〜約12ppmをより容易に達成することができる。数百ミクロンのオーダーより小さい気泡は、単質養液Sに含まれる窒素を取り込む量が多くなるため、必要な溶存酸素濃度が達成できない場合がある。また、こうした小さいサイズの気泡は、根に当たって破裂する際に根に対して衝撃を与える可能性があるため、好ましくない。数ミリのオーダーより大きい気泡は、比表面積が小さくなるとともに、単質養液S内での滞留時間が短くなるため、単質養液Sに対して十分な酸素を供給することができない場合がある。こうした多孔質体36aは、市場においてセミラックス製品の製造者から入手することができる。改質空気供給部36をセラミックスの多孔質体36aとすることによって、多孔質体36aが蓄熱体として機能し、単質養液Sを一定の温度に維持するのにより役立つという利点もある。
改質空気供給部36の配置方法は限定されるものではないが、栽培槽10の底に所定の間隔で配置されることが好ましい。改質空気供給部36が多孔質体36aの場合には、多孔質体36aの長手方向が栽培槽10の幅方向に延びる向きに配置されることが好ましい。このように配置することによって、流れる単質養液Sが多孔質体36aの側面に当たって内部に入り、多孔質体36aから改質空気RAと一緒に放出されることになるため、単質養液Sへの酸素供給効率がより高まるという利点がある。
改質空気供給部36の長さ及び径並びに配置間隔は、栽培槽10の幅及び深さ、単質養液Sの流速などに応じて、単質養液Sに対する溶存酸素濃度が必要な値となるように適宜選択される。一実施形態においては、改質空気供給部36すなわち多孔質体は、場所に応じて長さが約10cm〜約50cm、径が約2cm〜約5cm、各々の配置間隔は約50cmとすることができる。改質空気供給部36は、その長さが栽培槽10の幅に対して短いものを用いることもできるが、その場合には、栽培槽10の長手方向に向かって左右交互に配置されることが好ましい。
[改質空気温度調整手段]
改質空気貯留室24に取り入れられた改質空気RAは、栽培槽10に供給されることになるが、栽培槽10に供給される改質空気RAの温度を、取り入れられる外気の温度にかかわらず所定温度、すなわち約18℃〜約22℃に維持するために、一実施形態においては、以下のような方法を採用している。なお、本発明において用いることが可能な、栽培槽10に供給される改質空気RAの温度を所定温度に維持するための方法は、以下の方法に限定されるものではなく、他の公知のいずれかの方法、例えば市販のボイラーや空調機等を用いて改質空気RAの温度を所定温度に維持するようにしてもよい。しかしながら、本発明者らは、以下の方法を用いることによって、エネルギー使用量を削減しながら効率的かつ確実に改質空気RAを所定温度に維持することが可能であると考えている。
この実施形態においては、外気を取り入れ、改質空気供給ポンプ32及び改質空気配管35などの中間設備を経由させた上で、最終的に栽培槽10に供給されるときに、改質空気RAの温度が所定温度に維持されるようにするため、中間設備における改質空気RAの温度変化を考慮に入れた上で、これらの温度変化を補償するように改質空気RAの温度を調整する。この実施形態においては、改質空気RAを所定温度にするための改質空気温度調整手段は、地中配管21と、改質空気貯留室24と、地中熱利用ヒートポンプ25と、改質空気貯留室24内に設けられた放熱部26と、地中熱利用ヒートポンプ25の設定温度を制御する制御装置(図示せず)と、配管冷却部27とによって構成することができる。地中熱利用ヒートポンプ25からの熱は放熱部26によって改質空気貯留室24内に放熱され、この熱によって貯留室24内部の温度が一定の温度に維持される。地中熱利用ヒートポンプ25は、年間を通して比較的安定した地中熱を改質空気貯留室24内の温度調整のための熱源として利用するものであり、市場で入手可能な地中熱ヒートポンプユニットを適宜用いることができる。
本実施形態においては、まず、空気取り入れ部21を地中配管(アースチューブ)とし、外気を地中配管21に通した後に改質空気貯留室24に導入する。温度の安定した地中に埋設された地中配管21を通して外気を導入することによって、夏期は高温の外気の温度を下げ、冬期は低温の外気の温度を上げることができる。例えば、地中配管21を通して改質空気貯留室24に導入される空気の温度は、年間を通して約7℃〜約10℃に安定させることができる。
例えば脱窒フィルタを備える空気改質手段22を経由して改質空気貯留室24に取り入れられた改質空気RAは、内部が一定の温度に維持された改質空気貯留室24内で適切な時間貯留されることによって、一定の温度にされる。改質空気貯留室24内の温度の調整は、後述される改質空気供給ポンプ32における温度上昇及び改質空気配管34における温度変化を考慮した上で、栽培槽10に供給されるときの改質空気RAの温度が所定温度になるように地中熱利用ヒートポンプ25の温度を設定することによって、行われる。すなわち、改質空気供給ポンプ32における温度上昇及び改質空気配管34における温度変化によって、栽培槽10に供給される改質空気RAの温度が所定温度より高くなる場合には、地中熱利用ヒートポンプ25の設定温度は、温度上昇分だけ改質空気貯留室24内の温度が下がるように変更される。逆に、改質空気供給ポンプ32における温度上昇及び改質空気配管34における温度変化によって、栽培槽10に供給される改質空気RAの温度が所定温度より低くなる場合には、地中熱利用ヒートポンプ25の設定温度は、温度低下分だけ改質空気貯留室24内の温度が上がるように変更される。地中熱利用ヒートポンプ25の設定温度の変更は、栽培槽10に送り込まれる直前の改質空気配管34に設けられた温度センサ28からの温度データに基づいて、自動的に行われるように構成されることが好ましい。
改質空気貯留室24において温度が調整された改質空気RAは、改質空気供給ポンプ32によって改質空気配管34に送られる。本発明において必要な溶存酸素濃度を達成するには大量の改質空気RAを供給する必要があり、そのためには、ポンプ32の吐出圧力を高い圧力にしなければならない。この圧力は、空気の供給量に応じて決めることができる。このように圧力をかけられた改質空気RAは、圧縮されて、温度が、例えば約10℃〜約15℃上昇する。ポンプ32の吐出圧力を通年を通して一定に維持することによって、改質空気RAの圧縮による上昇温度幅を一定とすることができる。ポンプ32の下流側には配管冷却部27を設けることができ、ポンプ32によって改質空気RAの温度が上昇しすぎる場合には、配管冷却部27によって温度を下げることもできる。
改質空気供給ポンプ32から送出された改質空気RAは、改質空気配管34を通して、改質空気供給部36に供給される。改質空気RAの温度は、改質空気配管34内を流れる間に配管外の温度の影響を受けて変化する場合がある。改質空気配管34は、内部の改質空気RAが配管外の温度の影響をできるだけ受けないように、地下埋設したり、断熱材を用いる、及び/又は、栽培槽10内に配置することが好ましい。一部の地上配管部分における外気による温度上昇は、配管冷却部29によって相殺することもできる。
以上の方法を用いれば、季節によって温度の差が大きい外気から、改質空気温度調整手段を用いた温度の調整により、通年で所定温度に維持された改質空気RAを得ることができる。
[バクテリア定着部]
上述のとおり、養液栽培においては、所定速度で流れる単質養液S内において、好気性バクテリアをいかにして適切に必要な箇所に定着させつつ、その機能を発揮させることができるようにするかが重要である。本発明においては、好気性バクテリアが栽培槽10内における単質養液S中にとどまって棲息又は繁殖できるようにするためのバクテリア定着部38を設ける。さらに、バクテリア定着部38に棲息する好気性バクテリアが、所定温度に維持された改質空気RAを利用してその機能を十分に発揮することができるように、改質空気供給部36とバクテリア定着部38とを近接させて配置する。改質空気供給部36は、上述のように栽培槽10内において所定の間隔で配置されるため、改質空気供給部36と近接するバクテリア定着部38もまた、栽培槽10内の単質養液S中において均等に配置されることになり、その結果、栽培槽10全体で一様な好気性バクテリア量の確保が可能になる。バクテリア定着部38の材料は、好気性バクテリアが定着することができ、かつ単質養液Sと化学反応を生じないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、上述の支持体内の培地14と同じ培地、又は多孔質セラミックスなどを用いることができる。
一実施形態においては、図20に示されるように、改質空気供給部36の多孔質セラミックス36aをバクテリア定着部38として利用することができる。この実施形態においては、多孔質セラミックス36aの微細な孔が好気性バクテリアの棲息又は繁殖場所として機能するため、流れのある単質養液S中でも好気性バクテリアが容易に流出することはない。また、改質空気配管34から改質空気供給部36に供給された、酸素濃度の高い改質空気RAが、多孔質セラミックス36aの孔を介して単質養液S内に送り込まれる際に、多孔質セラミックス36aの孔の中に棲息又は繁殖する好気性バクテリアに十分な酸素を供給することができる。
別の実施形態においては、図21に示されるように、バクテリア定着部38を、改質空気供給部36の長さに対応する長辺を有する長方形の板状に形成し、改質空気供給部36から供給された改質空気RAが、定着している好気性バクテリアに十分に当たるように、例えば改質空気供給部36の真上に配置することができる。ただし、この形態の場合には、改質空気供給部36とバクテリア定着部38との間に空間が設けられることになり、その空間で単質養液Sの滞留が生じる可能性がある。
[システム全体の管理]
植物栽培システム1においては、多品目の植物を通年で同時に生産するために、システム全体の状態を監視し、必要に応じて適切に制御する必要がある。植物栽培システム1において監視すべき状態としては、まず、ハウス60内部の温度、湿度及び光の管理が挙げられ、これらの状態を植物の栽培に適した雰囲気に管理することが必要である。植物栽培システム1においては、太陽光を利用して植物を栽培するため、特に夏期にはハウス60内の温度が上がりすぎないようにしなければならない。本システム1においては、ハウス60内部及び外部の温度及び湿度は、常時監視されていることが好ましい。ハウス60には、側壁及び天井に複数の窓や換気扇が設けられており、温度及び湿度の監視データに基づいて、温度及び/又は湿度が適切な温度及び湿度の範囲から逸脱した場合、例えば温度が20℃以上、湿度が60%以上になった場合には、これらの窓の開閉及び換気扇の稼働によるハウス60内の換気が行われることになる。また、ハウス60内の温度及び湿度の制御は、本実施形態においては、フィルタ52、地中配管54及びファン56を含むハウス内冷却手段50を用いて行うこともできる。この場合には、外気は、フィルタ52及び地中配管54を通過させることによって適切な温度に調整された後、ファン56によってハウス60内に取り込まれる。或いは、例えば、市販の空調機を用いてハウス60内の温度及び湿度を制御することもできる。或いは、ハウス60の素材を断熱効果の高い素材としたり、ハウス60内への日光の照射を制御する目的で遮光カーテンを用いたり、ハウス60内の温度変化を低減させる目的でハウス60の壁面に断熱機能を付与したりといった構成を採用することもできる。
次いで、植物栽培システム1において監視すべき状態として、単質養液Sの状態が挙げられる。植物栽培システム1においては、少なくとも、単質養液Sの溶存酸素濃度(DO)、電気伝導度(EC)、温度Ts、水素イオン濃度指数(pH)及び酸化還元電位(ORP)の値が、概ね一定に維持されるように管理される。これらの値を監視するための各種センサは、例えば栽培槽10の内部に設けられることが好ましく、センサからの監視データは、常時記録されることが好ましい。また、監視データは、記録されると同時に、システムの管理者が適宜確認可能な表示装置にグラフとして表示される、及び/又は、記録紙にプリントアウトされることが好ましい。これらの値が適切な範囲を逸脱したときには、管理者に警報が発せられることが好ましい。
異常値が発見された場合には、管理者が手動で、又はシステム1が自動で、パラメータの値が正常範囲内に復帰するように、適切な操作が行われる。溶存酸素濃度(DO)が異常値を示したときには、例えば改質空気供給ポンプ32の動作、及び/又は、改質空気供給部36前のバルブ(図示せず)の開閉を制御することによって、値を正常範囲に復帰させることができる。温度Tsが異常値を示したときには、例えば改質空気製造手段20の温度調整手段による温度調整を行うことによって、値を正常範囲に復帰させることができる。電気伝導度(EC)、水素イオン濃度(pH)及び酸化還元電位(ORP)が異常値を示したときには、例えば単質養液Sに必要量の水及び/又は養分を追加することによって、値を正常範囲に復帰させることができる。
さらに、植物栽培システム1において監視すべき状態として、改質空気RAの状態が挙げられる。植物栽培システム1においては、少なくとも、改質空気RAの温度及び流量が所定の温度及び流量に維持されるように管理される。これらの値を監視するための各種センサは、例えば改質空気配管34の適切な位置に設けられることが好ましく、センサからの監視データは、常時記録されることが好ましい。また、監視データは、記録されると同時に、システムの管理者が適宜確認可能な表示装置にグラフとして表示される、及び/又は、記録紙にプリントアウトされることが好ましい。これらの値が適切な範囲を逸脱したときには、管理者に警報が発せられることが好ましい。
異常値が発見された場合には、管理者が手動で、又はシステム1が自動で、パラメータの値が正常範囲内に復帰するように、適切な操作が行われる。改質空気RAの温度が異常値を示したときには、改質空気温度調整手段による温度調整を行うことによって、値を正常範囲に復帰させることができる。改質空気RAの流量が異常値を示したときには、例えば改質空気供給ポンプ32の動作、及び/又は、改質空気供給部36前のバルブ(図示せず)の開閉を制御することによって、値を正常範囲に復帰させることができる。
さらに、外気Aを改質空気貯留室24に取り入れる際に、外気Aを通過させる脱窒フィルタ、脱アンモニアフィルタ、脱塩フィルタ、防塵フィルタといった種々のフィルタについて、その汚れなどの状態を定期的に点検するとともに、一定の期間ごとに、又は必要に応じて、交換することが好ましい。フィルタが目詰まりを生じた場合又は一定の期間毎に、交換を促すための警報が、管理者に発せられることが好ましい。