本発明は、固体状の金属からなる蒸着原料を真空環境下で気化させて被処理物の表面に付着させる真空蒸着装置に関する。
従来から、固体状の金属からなる蒸着原料を真空環境下で気化させて被処理物の表面に付着させる真空蒸着装置がある。例えば、下記特許文献1には、蒸着原料および被処理物を収容する処理炉(真空炉)の中心部に蒸着原料が配置されるとともにこの蒸着原料の外側に被処理物を公転および自転可能に保持するワーク保持手段(ホルダ)が設けられた真空蒸着装置(真空成型装置)が開示されている。
しかしながら、上記特許文献1に記載された真空蒸着装置においては、固体状の蒸着原料から気化した蒸着原料が放射状に発散することを考慮して処理炉内で蒸着原料の周囲に被処理物を配置する構成であるため、大型の被処理物への蒸着処理に不向きであるという問題があった。
すなわち、従来の真空蒸着装置において大型の被処理物に蒸着処理を行う場合には、蒸着原料の周囲に大型の被処理物の収容スペースを確保しなければならず処理炉が大型化して設置スペースの確保が困難になるとともに、処理炉内の空気を排気して真空状態とする所謂真空引きおよび真空状態の維持に多大な時間およびエネルギが必要になって処理効率が低くなるという問題があった。
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、大型の被処理物に対する蒸着処理にも適した真空蒸着装置を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、固体状の金属からなる蒸着原料を真空環境下で気化させて被処理物の表面に付着させる真空蒸着装置において、蒸着原料および被処理物をそれぞれ収容する処理炉と、処理炉内にて蒸着原料を保持して加熱する原料気化手段と、処理炉内にて被処理物を保持するワーク保持手段と、処理炉内の空気を吸引して同処理炉内を真空状態とする炉内真空手段とを備え、処理炉は、平面視で方形に形成されており、原料気化手段は、処理炉内における内壁に隣接するとともに同処理炉内の対角線上に対向した状態で配置されていることにある。
このように構成した本発明の特徴によれば、真空蒸着装置は、蒸着原料を気化させる原料気化手段が処理炉内の内壁に隣接配置、換言すれば、処理炉内における最も外側に配置されているため、処理炉内の中央部に蒸着原料が配置された従来の処理炉に比べて処理炉内の容積が同じであってもより大きな被処理物を収容して蒸着処理を行うことができる。すなわち、本発明に係る真空蒸着装置によれば、大型の被処理物に蒸着処理を行う場合であっても省スペースで行うことができるとともに、処理炉内の真空状態の生成および維持に要する時間的負担およびエネルギ的負担を抑えて蒸着処理を効率的に行うことができる。
また、本発明の特徴によれば、真空蒸着装置は、平面視で方形に形成された処理炉内における対角線上に対向した状態で原料気化手段が配置されているため、原料気化手段を被処理物に対して適当な距離(気化した蒸着物質が被処理物の半面に放射可能な位置)を確保して配置しつつ処理炉内における隅部を有効活用することができる。この場合、処理炉は、平面視で長方形または正方形に形成した直方体状または立方体状に構成することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記真空蒸着装置において、原料気化手段は、ワーク保持手段の周囲を取り囲んで配置されていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、真空蒸着装置によれば、原料気化手段がワーク保持手段の周囲を取り囲んで配置されているため、被処理物に対して複数の位置から効率的に蒸着処理を行うことができる。なお、原料気化手段は、ワーク保持手段の全周に亘って蒸着処理を行う場合には均等配置されることが好ましいが、被処理物における特定の部分に蒸着処理を行う場合には当該蒸着処理部分に対応した位置に配置するとよい。
また、本発明の他の特徴は、前記真空蒸着装置において、ワーク保持手段は、被処理物を保持して原料気化手段が配置された方向に沿って回転させることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、真空蒸着装置は、ワーク保持手段が被処理物を保持して原料気化手段の配置方向に沿って回転させるため、被処理物の全体に対して効率的に蒸着処理を行うことができる。
削 除
また、本発明の他の特徴は、前記真空蒸着装置において、原料気化手段は、処理炉内における床面側と天井面側との間の上下方向に沿って延びる正負一対の電極と、正負一対の電極間に前記上下方向に沿って複数架設された電熱線で構成されて蒸着原料を保持する原料保持具とを有することにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、真空蒸着装置は、原料気化手段が被処理物の高さ方向に沿って蒸着原料を複数保持しているため、長尺の被処理物に対して精度良く蒸着処理を行うことができる。
また、本発明の他の特徴は、前記真空蒸着装置において、処理炉は、同処理炉内における壁面および/または構成部品の各表面に蒸着原料と同じ材料で構成された箔状または板状のカバー体が設けられていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、真空蒸着装置は、処理炉の内壁面や原料気化手段およびワーク保持手段の少なくとも一部に蒸着原料(例えば、アルミニウム材)と同じ材料で構成された箔状(例えば、アルミ箔)または板状(例えば、アルミ板)のカバー体が設けられているため、気化した蒸着原料のうちの被処理物に付着しなかった蒸着原料をカバー体に付着させることによって処理炉内の汚損を防止することができるとともに被処理物に付着しなかった蒸着原料を効率的に回収してカバー体ごと一体的にリサイクルに供することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記真空蒸着装置において、さらに、処理炉における床面側に同処理炉内に蒸着促進ガスを導入するためのガス供給口が設けられていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、真空蒸着装置は、処理炉における床面側に同処理炉内に蒸着促進ガスを導入するためのガス供給口が設けられているため、処理炉内における底部に配置される重量物からなる被処理物に対しても効率的に蒸着促進ガスを供給することができる。なお、処理炉内に供給される蒸着促進ガスとしては、蒸着原料としてアルミニウム材を用いる場合にはアルゴンガスを用いるとよく、蒸着原料として窒化チタン材や酸化チタン材を用いる場合には窒素ガスを用いるとよく、蒸着原料としてガラス材を用いる場合には酸素を用いるとよい。
本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置の外観構成の概略を示す一部省略正面図であるである。
図1に示した2−2線から見た真空蒸着装置における処理炉の内部構成を概略的に示す断面図である。
図1に示した真空蒸着装置の作動を制御する制御システムのブロック図である。
図1に示した真空蒸着装置における原料気化機構の外緩効性の概略を示す正面図である。
図1に示した真空蒸着装置に図1に示した被処理物とは異なる被処理物をセットした状態を示す一部省略正面図である。
図5に示した6−6線から見た真空蒸着装置における処理炉の内部構成を概略的に示す断面図である。
以下、本発明に係る真空蒸着装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る真空蒸着装置100の外観構成の概略を示す一部省略正面図であるである。図2は、図1に示す2−2線から見た真空蒸着装置100における処理炉の内部構成の概略を示す断面図である。図3は、図1に示した真空蒸着装置100の作動を制御する制御システムのブロック図である。この真空蒸着装置100は、樹脂材、金属材、セラミック材または木材などからなる被処理物WKの表面に気化させたアルミニウム材、酸化チタン材、窒化チタン材または二酸化ケイ素からなる蒸着原料Mを膜状または層状に付着させる機械装置である。
(真空蒸着装置100の構成)
真空蒸着装置100は、処理炉101を備えている。処理炉101は、被処理物WKおよび蒸着原料Mを収容して被処理物WKの表面に気化させた蒸着原料Mを付着させる蒸着処理を行うための金属製(例えば、ステンレス製)容器であり、真空蒸着装置100が設置される床面Gに対して上方に向かって延びる直方体状に形成されている。この処理炉101は、内部空間を真空状態とした場合であっても変形することなく形状を維持することができる十分な剛性を持って構成されて金属製の基台103を介して床面上に固定的に設置されている。
また、この処理炉101は、床面G上から起立する4つの側面のうちの1つがヒンジ104を介して開閉可能な扉105を備えており、処理炉101の内部を密閉状態および外部に対して開口部106を介して開放された状態の2つの状態を選択的に行えるように構成されている。扉105は、剛性を確保するために外側に向かって凸状に湾曲して形成されているとともに、ヒンジ104とは反対側の端部の外表面にロックハンドル103aが設けられている。なお、本実施形態においては、処理炉101は、処理炉101の内部空間の大きさである内寸で幅が1300mm、奥行きが1300mm、高さが2500mmに形成されている。
処理炉101の内部には、主として、ワーク保持機構110および原料気化機構120がそれぞれ設けられている。ワーク保持機構110は、処理炉101内において被処理物WKを固定的または可動的に保持する機具であり、処理炉101内における中央部に上下方向に沿って設けられている。このワーク保持機構110は、主として、ベース体111、サイド支柱113、支持天板114およびワーク支持柱116をそれぞれ備えている。
ベース体111は、ワーク支持柱116を介して被処理物WKを支持する金属製(例えば、ステンレス製)の部品であり、処理炉101内の底部中央部に図示しない軸受を介して回転自在に取り付けられている。このベース体111は、平板リング状に形成されたリング部111aとこのリング部111aにおける外周部から径方向外側に向かって互いに反対方向にそれぞれ張り出す張出部111bを備えて構成されている。これらのうち、リング部111aには、4つの支柱受け体112a〜112dが互いに均等配置されている。
支柱受け体112a〜112dは、ワーク支持柱116を起立した状態で支持するための部品であり、ワーク支持柱116を挿し込み可能な孔部を有したリング状に形成されている。これらの支柱受け体112a〜112dのうち、リング部111a上で互いに同一直線上に形成された支柱受け体112aおよび支柱受け体112bは、リング部111aに対して固定的に設けられており、ワーク支持柱116をリング部111a上で固定的に支持する。
一方、リング部111a上で互いに同一直線上に形成された支柱受け体112cおよび支柱受け体112dは、リング部111aに対して回転可能な状態で設けられており、ワーク支持柱116をリング部111a上で回転可能に支持する。より具体的には、支柱受け体112c,112dは、ベース体111の内部においてベース体111に対して図示しない歯車を介して連結されており、ベース体111の回転駆動に応じて回転駆動する。すなわち、支柱受け体112c,112dに支持されたワーク支持柱116は、ベース体111の回転駆動によってリング部111aの周方向に沿って回転駆動(公転)するとともに、支持受け体112c,112dを回転中心として回転駆動(自転)する。
このベース体111は、張出部111bにそれぞれ起立した状態で設けられたサイド支柱113を介して支持天板114に連結されている。サイド支柱113は、支持天板114をベース体111に連結して支持天板114の回転駆動力をベース体111に伝達するための金属製(例えば、ステンレス製)の部品であり、処理炉101内において上下方向に沿って延びる棒状に形成されている。
支持天板114は、後述する駆動モータ118の回転駆動力をベース体111に伝達するとともに、ベース体111と協働してワーク支持柱116を支持する金属製(例えば、ステンレス製)部品であり、処理炉101の上面に設けられた駆動モータ118に連結された状態で処理炉101内の天井面の直下に吊り下げられた状態で設けられている。この支持天板114は、ベース体111の張出部111bに対応する方向に延びるとともに、同方向に直交する方向、すなわち、支柱受け体112b,112dに対向する方向にそれぞれ延びる平面視で十字状に形成されている。そして、支持天板114におけるベース体111に対向する下面には、支柱受け体112a〜112dに対応する位置にワーク支持柱116がそれぞれ着脱自在に嵌合する支柱嵌合部115a〜115d(115dは図示せず)がそれぞれ設けられている。
ワーク支持柱116は、被処理物WKを支持する金属製(例えば、ステンレス製)の部品であり、ベース体111と支持天板114とによって起立した状態で支持されて被処理物WKを支持する金属製(例えば、ステンレス製)の部品であり、ベース体111および支持天板114にそれぞれ挿し込み可能な長さの棒状に延びて形成されている。このワーク支持柱116には、被処理物WKを着脱自在に保持するための保持棒117がワーク支持柱116の長手方向に沿って略等間隔に平面視で十字状の枝状に張り出した状態で設けられている。
駆動モータ118は、支持天板114を介してワーク保持機構110全体を回転駆動させるための電動機である。この駆動モータ118は、処理炉101の上面に配置されており、後述する制御装置150によって回転駆動が制御される。このワーク保持機構110が、本発明に係るワーク保持手段に相当する。
原料気化機構120は、図4に示すように、蒸着原料Mを保持して気化させるための機具であり、主として、電極121および原料保持具123によって構成されている。電極121は、原料保持具123に電気を流すための導体(例えば、銅材)からなる部品であり、正極となる電極と陰極となる電極との正負一対の電極によって構成されている。この電極121は、処理炉101の底部から上方に向かって互いに平行にそれぞれ延びる棒状に形成されている。この場合、電極121は、支持天板114が設けられた高さまで延びている。そして、これら正負一対の電極121は、給電装置122にそれぞれ接続されている。給電装置122は、制御装置150に制御されて電極121を介して原料保持具123に対して交流電流を供給する。
原料保持具123は、蒸着原料Mを保持して加熱するための部品であり、導線(例えば、タングステン材)をらせん状に巻いて構成されている。この原料保持具123は、電極121の長手方向に沿って所定の間隔を介して正負一対の電極121間に架設されている。本実施形態においては、原料保持具123は、電極121の長手方向に沿って略等間隔に5つ設けられているが、配置数および配置間隔は被処理物WKや処理条件に応じて適宜設定されるものであり、本実施形態に限定されるものではない。
この原料気化機構120は、処理炉101内における2つの内壁103が直交する隅部に設けられている。本実施形態においては、原料気化機構120は、処理炉101内における4つの隅部のうちの奥側の2つの隅部および扉105側でかつヒンジ104側の1つの隅部、換言すれば、扉105側でヒンジ104とは反対側の隅部以外の隅部に設けられている。この場合、各原料気化機構120は、各原料保持具123がワーク保持機構110に対向する向きでそれぞれ設けられている。この原料気化機構120が、本発明に係る原料気化手段に相当する。
処理炉101の内部には、ガス供給口130および空気圧調整孔132がそれぞれ設けられている。ガス供給口130は、被処理物WKへの蒸着処理を促進するための蒸着促進ガスを処理炉101内に導入するための配管であり、処理炉101の底部中央部に上方に向かって開口して設けられている。より具体的には、ガス供給口130は、処理路101内におけるベース体111のリング部111aの内側に蒸着促進ガスの種類ごとに設けられている。本実施形態においては、ガス供給口130は、アルゴンガス、窒素ガスおよび酸素ガスの3つの3つの蒸着促進ガスごとに設けられている。
これら3つのガス供給口130は、各蒸着促進ガスをそれぞれ貯留する図示しないガスボンベに電磁弁131を介してそれぞれ接続されている。電磁弁131は、各ガスボンベから供給される蒸着促進ガスの流量を調節するための器具であり、制御装置150によって作動が制御される。すなわち、処理炉101内に供給される各蒸着促進ガスの量は、制御装置150によって制御される。
空気圧調整孔132は、処理炉101内から空気を吸引して処理炉101内を真空状態とするとともに処理炉101内に外部からの空気を導入して大気圧状態とするための孔部であり、処理炉101の側壁を貫通して形成されている。この空気圧調整孔132は、図示しない配管を介して吸引ポンプ133に接続されているとともに、外部に連通する大気圧開放弁134が接続されている。吸引ポンプ133は、制御装置150による作動制御によって処理炉101内から空気を吸引して処理炉101内を真空状態とするための機械装置である。また、大気圧開放弁134は、制御装置150による作動制御によって処理炉101内に導入する外部からの空気量を調整するための機器である。これら空気圧調整孔132および吸引ポンプ133が、本発明に係る炉内真空手段に相当する。
また、処理炉101内の内壁103、ワーク保持機構110を構成するベース体111、サイド支持柱113、支持天板114、および原料気化機構120を構成する電極121の各外表面は、カバー体140で覆われている。カバー体140は、気化した蒸着原料Mが処理炉101の内部に露出する各部の表面に直接付着することを防止するための部品であり、蒸着原料Mと同じ材料を箔状に形成して構成されている。本実施形態にいては、カバー体140は、アルミニウム箔(所謂アルミ箔)で構成されている。なお、図1および図2においては、カバー体140を処理炉101の内壁面にのみ設けた状態を示しているが、実際には処理炉101内に存在して露出する部品(原料保持具123を除く)の各部を覆っている。
処理炉101の近傍には、制御装置150が設けられている。制御装置150は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータによって構成されており、真空蒸着装置100の全体の作動を総合的に制御する。より具体的には、制御装置150は、操作パネル151を介した作業者からの指示に従って、ROMなどの記憶装置に予め記憶された制御プログラムを実行することにより、駆動モータ118、給電装置122、電磁弁131、吸引ポンプ133および大気圧開放弁134の各作動を制御する。操作パネル151は、作業者からの支持を制御装置150に入力する操作キー151a、および制御装置150の作動状態、すなわち、真空蒸着装置100の作動状態を作業者に表示する液晶表示装置151bをそれぞれ備えたユーザインターフェースである。
(真空蒸着装置100の作動)
次に、上記のように構成した真空蒸着装置100の作動について説明する。被処理物WKに対して蒸着原料Mの蒸着処理を行う作業者は、まず、真空蒸着装置100の電源をONにして起動させた後、被処理物WKを真空蒸着装置100における処理炉101内にセットする。具体的には、作業者は、処理炉101の扉105を開けた後、被処理物WKを処理炉101内におけるワーク保持機構110のベース体111やワーク支持柱116に保持させる。
この場合、作業者は、図5および図6にそれぞれ示すように、被処理物WKの大きさが大きい場合には、ワーク保持機構110におけるワーク支持柱116をベース体111および支持天板114から取り外した状態のベース体111上に被処理物WKを直接載置する。また、作業者は、被処理物WKの大きさが小さい場合には、ワーク保持機構110におけるワーク支持柱116の保持棒117に被処理物WKを引っ掛けるなどして保持させる(図1および図2参照)。なお、図5および図6にそれぞれ示した被処理物WKは、方形の平板の四隅に棒体が設けられた机状に構成されている。また、図1および図2にそれぞれ示した被処理物WKは、底部が曲面に形成された有底筒状に形成されている。
次に、作業者は、蒸着原料Mを処理炉101内にセットする。具体的には、作業者は、処理炉101内の原料気化機構120における原料保持具123内に小片状の蒸着原料Mをセットする。この場合、作業者は、被処理物WKの大きさや蒸着面積に応じて蒸着原料Mの量や配置位置を決定する。なお、本実施形態においては、蒸着原料Mとして棒状のアルミニウム材を用いる。
次に、作業者は、処理炉101における扉105を閉めて処理炉101内を密閉した後、操作パネル151を操作して制御装置150に対して蒸着処理の処理条件の設定を行う。具体的には、作業者は、駆動モータ118の回転駆動の有無、電磁弁131の開閉による蒸着促進ガスの導入の有無や流量、および通電させる原料気化機構120の選定などを設定する。
次いで、作業者は、操作パネル151を操作して制御装置150に対して蒸着処理の開始を指示する。この指示に応答して制御装置150は、まず、吸引ポンプ133の作動を制御して処理炉101内の空気を吸引して真空状態とする。次いで、制御装置150は、処理炉101内が所定の真空状態とした後、給電装置122の作動を制御して原料気化機構120における正負一対の電極121に通電を行う。この場合、制御装置150は、作業者による前記処理条件設定内容に応じて駆動モータ118の回転駆動制御によるワーク保持機構110の回転駆動、および電磁弁131の開閉制御による蒸着促進ガスの供給を行う。
また、電極121への通電においては、制御装置150は、作業者による前記処理条件設定によって指定された原料気化機構120に対してのみ通電を行う。これにより、通電が行なわれた原料気化機構120は、原料保持具123が発熱することによって蒸着原料Mを加熱して気化させる。このため、原料保持具123に保持された固体状の蒸着原料Mから気化して放射状に発散した蒸着原料Mの一部が被処理物WKの表面に付着する。この場合、被処理物WKは、原料保持具123に面した表面に蒸着原料Mが付着するため、ワーク保持機構110を回転駆動させない場合においては被処理物WKにおける特定の表面にのみ蒸着原料Mが付着し、ワーク保持機構110を回転駆動させる場合においては被処理物WKにおける広範囲に蒸着原料Mが付着する。これにより、被処理物WKの表面に蒸着原料Mが付着して蒸着処理が行なわれる。なお、原料保持具123に保持された固体状の蒸着原料Mから放射状に発散した蒸着原料Mの他の一部が処理炉101内における各部に付着する。
次いで、制御装置150は、原料気化機構120に対して所定時間だけ通電した後、すなわち、被処理物WKに対して必要な蒸着処理を行った後、原料気化機構120の通電を停止する。この場合、制御装置150は、駆動モータ118および/または電磁弁131が作動状態にある場合には、原料気化機構120への通電停止とともに駆動モータ118および/または電磁弁131の作動も併せて停止させる。次いで、制御装置150は、大気圧開放弁134を開くように制御して処理炉101内に空気を導入して処理炉101内を大気圧にした後、処理炉101内が大気圧となった場合には大気圧開放弁123を閉じる。
これにより、作業者は、扉105を開放して処理炉101内から蒸着処理が施された被処理物WKを取り出すことができる。また、作業者は、処理炉101内の内壁面や各部品への蒸着原料Mの付着が激しい場合には、カバー体140を付け替えることができる。この場合、取り外したカバー体140はリサイクル資源として再利用することができる。
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、真空蒸着装置100は、蒸着原料Mを気化させる原料気化機構120が処理炉101内の内壁に隣接配置、換言すれば、処理炉101内における最も外側に配置されているため、処理炉101内の中央部に蒸着原料Mが配置された従来の処理炉に比べて処理炉内の容積が同じであってもより大きな被処理物WKを収容して蒸着処理を行うことができる。すなわち、本発明に係る真空蒸着装置100によれば、大型の被処理物WKに蒸着処理を行う場合であっても省スペースで行うことができるとともに、処理炉101内の真空状態の生成および維持に要する時間的負担およびエネルギ的負担を抑えて蒸着処理を効率的に行うことができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、真空蒸着装置100は、ワーク保持機構120におけるワーク支持柱116を支持受け体112c,112dと支柱嵌合部115c,115dとに保持させて自転させない状態で蒸着処理を行うようにした。しかし、真空蒸着装置100は、ワーク保持機構120におけるワーク支持柱116を支持受け体112a,112bと支柱嵌合部115a,115bとに保持させて自転させた状態で蒸着処理を行うようにできることは当然である。
また、上記実施形態においては、ワーク保持機構120は、処理炉101内において回転駆動するように構成した。しかし、ワーク保持機構120は、被処理物WKを保持することができればよい。したがって、ワーク保持機構120は、処理炉101内において固定的に被処理物WKを保持するように構成することもできる。
また、上記実施形態においては、処理炉101は、平面視で方形状に形成した。しかし、処理炉101は方形状以外の形状、例えば、平面視で円形、楕円形、または三角形や六角形などの多角形などの形状に形成することもできる。
また、上記実施形態においては、原料気化機構120は、処理炉101の四隅のうちの3つの隅部に配置した。しかし、原料気化機構120は、処理炉101内における内壁103に隣接して少なくとも1つ設けられていればよい。したがって、原料気化機構120は、例えば、処理炉101の四隅のすべてに配置してもよいし(図6二点鎖線参照)、処理炉101の四隅のうちの1つの隅部に配置してもよい。また、原料気化機構120は、処理炉101における1つの内壁103に隣接(例えば、内壁103の中央部)に設けるようにしてもよい。これらの場合、内壁103は、処理炉101内を構成する側壁が好ましいが、底面または天井面であってもよい。
また、上記実施形態においては、真空蒸着装置100は、処理炉101内における内壁103、ワーク保持機構110および原料気化機構120をカバー体140で覆うように構成した。しかし、真空蒸着装置100は、処理炉101内における内壁103、ワーク保持機構110および原料気化機構120をカバー体140の少なくとも一部を覆うように構成すれば、当該箇所での処理炉101内の汚損の防止や蒸着原料Mの回収を行うことができる。また、真空蒸着装置100は、処理炉101内の汚損の防止や蒸着原料Mの回収を考慮する必要がない場合には、カバー体140を省略して構成することもできる。
また、上記実施形態においては、真空蒸着装置100は、3つの原料気化機構120にそれぞれ同じ材質の蒸着原料Mをセットして蒸着処理を行った。しかし、真空蒸着装置100は、3つの原料気化機構120にそれぞれ異なる材質(例えば、窒化チタン、酸化チタン、二酸化ケイ素など)の蒸着原料Mをセットするとともに、3つの原料気化機構120を互いに異なるタイミングで通電することによって被処理物WKの表面に蒸着原料ごとの層を積層した蒸着処理を行うことができる。なお、この場合、真空蒸着装置100は、各蒸着原料Mを気化するタイミングに応じてガス供給口130から蒸着促進ガスを適宜供給するとよい。
WK…被処理物、M…蒸着原料、G…地面、
100…真空蒸着装置、
101…処理炉、102…基台、103…内壁、104…ヒンジ、105…扉、106…開口部、
110…ワーク保持機構、111…ベース体、111a…リング部、111b…張出部、112a〜112d…支柱受け体、113…サイド支柱、114…支持天板、115a〜115d…支柱嵌合部、116…ワーク支持柱、117…保持棒、118…駆動モータ、
120…原料気化機構、121…電極、122…給電装置、123…原料保持具、
130…ガス供給口、131…電磁弁、132…空気圧調整孔、133…吸引ポンプ、134…大気圧開放弁、
140…カバー体。
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、固体状の金属からなる蒸着原料を真空環境下で気化させて被処理物の表面に付着させる真空蒸着装置において、蒸着原料および被処理物をそれぞれ収容する処理炉と、処理炉内にて蒸着原料を保持して加熱する原料気化手段と、処理炉内にて被処理物を着脱自在に保持するワーク支持柱を有したワーク保持手段と、処理炉内の空気を吸引して同処理炉内を真空状態とする炉内真空手段とを備え、原料気化手段は、処理炉内における内壁に隣接して配置されており、ワーク保持手段は、処理炉内にてワーク支持柱を支持した状態で回転駆動可能に設けられたベース体を有しており、ワーク支持柱は、ベース体における回転駆動中心の外側に支持されて処理炉内にて公転することにある。
また、本発明の他の特徴は、前記真空蒸着装置において、ワーク支持柱は、ベース体上において自転駆動可能に支持されていることにある。
また、本発明の他の特徴は、前記真空蒸着装置において、ワーク支持柱は、ベース体に対して着脱自在に形成されていることにある。
また、本発明の他の特徴は、前記真空蒸着装置において、ベース体は、ワーク支持柱を自転可能に支持する支柱受け体と、ワーク支持柱を自転不能に支持する支柱受け体とを備えることにある。
また、本発明の他の特徴は、前記真空蒸着装置において、さらに、処理炉における床面側に同処理炉内に蒸着促進ガスを導入するためのガス供給口が設けられていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、真空蒸着装置は、処理炉における床面側に同処理炉内に蒸着促進ガスを導入するためのガス供給口が設けられているため、処理炉内における底部に配置される重量物からなる被処理物に対しても効率的に蒸着促進ガスを供給することができる。なお、処理炉内に供給される蒸着促進ガスとしては、蒸着原料としてアルミニウム材を用いる場合にはアルゴンガスを用いるとよく、蒸着原料として窒化チタン材や酸化チタン材を用いる場合には窒素ガスを用いるとよく、蒸着原料としてガラス材を用いる場合には酸素を用いるとよい。
これらの場合、真空蒸着装置は、固体状の金属からなる蒸着原料を真空環境下で気化させて被処理物の表面に付着させる真空蒸着装置において、蒸着原料および被処理物をそれぞれ収容する処理炉と、処理炉内にて蒸着原料を保持して加熱する原料気化手段と、処理炉内にて被処理物を保持するワーク保持手段と、処理炉内の空気を吸引して同処理炉内を真空状態とする炉内真空手段とを備え、処理炉は、平面視で方形に形成されており、原料気化手段は、処理炉内における内壁に隣接するとともに同処理炉内の対角線上に対向した状態で配置されているとよい。これによれば、真空蒸着装置は、平面視で方形に形成された処理炉内における対角線上に対向した状態で原料気化手段が配置されているため、原料気化手段を被処理物に対して適当な距離(気化した蒸着物質が被処理物の半面に放射可能な位置)を確保して配置しつつ処理炉内における隅部を有効活用することができる。この場合、処理炉は、平面視で長方形または正方形に形成した直方体状または立方体状に構成することができる。
また、これらの場合、前記真空蒸着装置において、原料気化手段は、ワーク保持手段の周囲を取り囲んで配置されているとよい。これによれば、真空蒸着装置によれば、原料気化手段がワーク保持手段の周囲を取り囲んで配置されているため、被処理物に対して複数の位置から効率的に蒸着処理を行うことができる。なお、原料気化手段は、ワーク保持手段の全周に亘って蒸着処理を行う場合には均等配置されることが好ましいが、被処理物における特定の部分に蒸着処理を行う場合には当該蒸着処理部分に対応した位置に配置するとよい。
また、これらの場合、前記真空蒸着装置において、ワーク保持手段は、被処理物を保持して原料気化手段が配置された方向に沿って回転させるとよい。これによれば、真空蒸着装置は、ワーク保持手段が被処理物を保持して原料気化手段の配置方向に沿って回転させるため、被処理物の全体に対して効率的に蒸着処理を行うことができる。
また、これらの場合、前記真空蒸着装置において、原料気化手段は、処理炉内における床面側と天井面側との間の上下方向に沿って延びる正負一対の電極と、正負一対の電極間に前記上下方向に沿って複数架設された電熱線で構成されて蒸着原料を保持する原料保持具とを有するとよい。
これによれば、真空蒸着装置は、原料気化手段が被処理物の高さ方向に沿って蒸着原料を複数保持しているため、長尺の被処理物に対して精度良く蒸着処理を行うことができる。
また、これらの場合、前記真空蒸着装置において、処理炉は、同処理炉内における壁面および/または構成部品の各表面に蒸着原料と同じ材料で構成された箔状または板状のカバー体が設けられているとよい。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、真空蒸着装置は、処理炉の内壁面や原料気化手段およびワーク保持手段の少なくとも一部に蒸着原料(例えば、アルミニウム材)と同じ材料で構成された箔状(例えば、アルミ箔)または板状(例えば、アルミ板)のカバー体が設けられているため、気化した蒸着原料のうちの被処理物に付着しなかった蒸着原料をカバー体に付着させることによって処理炉内の汚損を防止することができるとともに被処理物に付着しなかった蒸着原料を効率的に回収してカバー体ごと一体的にリサイクルに供することができる。
(真空蒸着装置100の構成)
真空蒸着装置100は、処理炉101を備えている。処理炉101は、被処理物WKおよび蒸着原料Mを収容して被処理物WKの表面に気化させた蒸着原料Mを付着させる蒸着処理を行うための金属製(例えば、ステンレス製)容器であり、真空蒸着装置100が設置される床面Gに対して上方に向かって延びる直方体状に形成されている。この処理炉101は、内部空間を真空状態とした場合であっても変形することなく形状を維持することができる十分な剛性を持って構成されて金属製の基台102を介して床面上に固定的に設置されている。
一方、リング部111a上で互いに同一直線上に形成された支柱受け体112cおよび支柱受け体112dは、リング部111aに対して回転可能な状態で設けられており、ワーク支持柱116をリング部111a上で回転可能に支持する。より具体的には、支柱受け体112c,112dは、ベース体111の内部においてベース体111に対して図示しない歯車を介して連結されており、ベース体111の回転駆動に応じて回転駆動する。すなわち、支柱受け体112c,112dに支持されたワーク支持柱116は、ベース体111の回転駆動によってリング部111aの周方向に沿って回転駆動(公転)するとともに、支柱受け体112c,112dを回転中心として回転駆動(自転)する。
処理炉101の内部には、ガス供給口130および空気圧調整孔132がそれぞれ設けられている。ガス供給口130は、被処理物WKへの蒸着処理を促進するための蒸着促進ガスを処理炉101内に導入するための配管であり、処理炉101の底部中央部に上方に向かって開口して設けられている。より具体的には、ガス供給口130は、処理炉101内におけるベース体111のリング部111aの内側に蒸着促進ガスの種類ごとに設けられている。本実施形態においては、ガス供給口130は、アルゴンガス、窒素ガスおよび酸素ガスの3つの蒸着促進ガスごとに設けられている。
また、処理炉101内の内壁103、ワーク保持機構110を構成するベース体111、サイド支柱113、支持天板114、および原料気化機構120を構成する電極121の各外表面は、カバー体140で覆われている。カバー体140は、気化した蒸着原料Mが処理炉101の内部に露出する各部の表面に直接付着することを防止するための部品であり、蒸着原料Mと同じ材料を箔状に形成して構成されている。本実施形態にいては、カバー体140は、アルミニウム箔(所謂アルミ箔)で構成されている。なお、図1および図2においては、カバー体140を処理炉101の内壁面にのみ設けた状態を示しているが、実際には処理炉101内に存在して露出する部品(原料保持具123を除く)の各部を覆っている。
次いで、制御装置150は、原料気化機構120に対して所定時間だけ通電した後、すなわち、被処理物WKに対して必要な蒸着処理を行った後、原料気化機構120の通電を停止する。この場合、制御装置150は、駆動モータ118および/または電磁弁131が作動状態にある場合には、原料気化機構120への通電停止とともに駆動モータ118および/または電磁弁131の作動も併せて停止させる。次いで、制御装置150は、大気圧開放弁134を開くように制御して処理炉101内に空気を導入して処理炉101内を大気圧にした後、処理炉101内が大気圧となった場合には大気圧開放弁134を閉じる。
例えば、上記実施形態においては、真空蒸着装置100は、ワーク保持機構110におけるワーク支持柱116を支柱受け体112c,112dと支柱嵌合部115c,115dとに保持させて自転させない状態で蒸着処理を行うようにした。しかし、真空蒸着装置100は、ワーク保持機構110におけるワーク支持柱116を支柱受け体112a,112bと支柱嵌合部115a,115bとに保持させて自転させた状態で蒸着処理を行うようにできることは当然である。
また、上記実施形態においては、ワーク保持機構110は、処理炉101内において回転駆動するように構成した。しかし、ワーク保持機構110は、被処理物WKを保持することができればよい。したがって、ワーク保持機構110は、処理炉101内において固定的に被処理物WKを保持するように構成することもできる。