<概略>
一般に無線アクセスサービスを面的に展開する場合、サービスを提供すべきエリア(以下「サービスエリア」という。)を複数のエリア(以下「セル」という。)に分割し、複数の周波数チャネルを用いて全セルをカバーするのが一般的である。この時、利用可能な周波数チャネルの数に制限がある場合には、複数のセルに対して複数の周波数チャネルの棲み分けを行い、同一周波数チャネルを用いるセル間を所定の間隔以上に隔離した上で同一周波数チャネルを再利用する「周波数リユース技術」が一般に用いられる。
図1は、周波数リユース技術の概要を示す図である。図1は、セル651〜656の6つのセルを示す。ここでは簡単のため、各セルを同一サイズの6角形とし、サービスエリアには各セルが最密充填状に隙間なく敷き詰められていると仮定する。また、ここではF1、F2及びF3の3つの周波数チャネルを用いる場合を仮定する。具体的には、セル651及びセル655は同一周波数チャネルF1を用いてサービス提供を行い、セル652及びセル656は同一周波数チャネルF2を用いてサービス提供を行い、セル653及びセル654は同一周波数チャネルF3を用いてサービス提供を行う。
この場合、同一周波数チャネルを用いるセル651及びセル655は所定の距離だけ隔離されており、隣接するセルでは同一周波数チャネルが用いられることはない。これは、同一周波数チャネルを用いるセル652及びセル656と、セル653及びセル654とについても同様である。電波には伝搬距離が長くなるに従い減衰する傾向がある。例えば、セル651の中心に配置された基地局装置から送信された電波は、伝搬経路上である程度減衰して655内に到達する。その結果、セル651とセル655との間では、相互の与被干渉が低減されることになる。これは、同一周波数チャネルを用いる他のセルの組み合わせについても同様のことが言える。
さらに、この伝搬減衰について、見通し環境の場合には、距離Rに対し1/R2に比例して電波が減衰することが知られている。これは一般に自由空間伝搬損失と呼ばれる。また、見通し環境以外の場合には、距離Rに対し1/Rα(α≧2)に比例して電波が減衰することが知られている。このαの値が大きいほど、電波は距離Rに対して急速に減衰することになり、これは周波数を再利用する観点で好都合である。しかしながら、現実には遮蔽物(例えば人)の遮蔽の仕方次第で減衰の仕方は必ずしも等方的ではなくなる。そのため、伝搬経路の状況によってはセル端でなくても通信が困難になる場合がある。理想的な通信環境とは、セル内では比較的安定して高い受信レベルを確保できる一方で、セル外では急激に受信レベルが低下するような通信環境である。このような理想的な通信環境では、同一周波数チャネルを用いるセル間の電波干渉が抑制される。
この周波数リユースの技術は携帯電話サービスなどで広く用いられている。この場合、基地局装置を比較的高所に設置することによって、平面的な周波数の再利用を効率的かつ安定的に実現できる可能性がある。このような周波数リユースの実現により、例えば野球やサッカーのスタジアムなどの狭い範囲に多数の人が集中するような場所の無線通信環境が向上することが期待される。基地局装置の設置方法の一例として、セルごとに設置されたポール上部に基地局装置を設置する方法が考えられる。より具体的には、基地局装置は、このポール上の観客の身長よりも若干高い位置に設置される。この程度の高さに設置される基地局の場合、状況に応じてユーザ端末は見通し環境であったり、見通し外環境であったりする。仮に見通しが確保できる位置にユーザ端末がある場合、電波は距離Rに対して1/R2に比例して減衰するため、同一周波数チャネルを利用するセル間で十分に電波が減衰しない。例えば、図1において、セル651の中心に配置された基地局装置から送信された電波は、同一周波数チャネルを使用するセル655の端点A(基地局装置からセル半径の2倍の距離だけ隔離された位置)で1/22倍にしか減衰せず、SIR(Signal-to-Interference Ratio:希望信号対干渉信号電力比)は6dB程度となる。これは通信環境としてはあまり好ましくない。
そこで例えば、スタジアムの天井などの高所に指向性アンテナを設置し、スタジアムの観客席を複数のセルに分割してサービスを行う場合を考える。ひとつひとつの指向性アンテナによって形成されるビームでそれぞれのサービスエリアを制限する。このように、基地局装置を非常に高所に設置する場合、ユーザに対しては概ね見通しが確保できるようになる。このように天井などの高所に指向性アンテナを設置してスタジアムの観客席を複数のセルに分割することで、それぞれのサービスエリア内では良好な受信特性が得られるようにすることができる。その一方で、指向性アンテナの形成するビームから外れるエリアでは急激に受信特性が低下し、同一周波数チャネルを使用するサービスエリア間での与被干渉が抑圧された良好な通信環境を提供することができる。
この場合、スタジアムの高所に基地局装置を設置する際の設置容易性が重要になる。膨大な数のユーザ端末を概ね各サービスエリアで均等に基地局に収容するためには、観客席を概ね同程度のサイズのセルに分割し、高所に設置される指向性アンテナが正確にそのセルをカバーする必要がある。例えば、上述の指向性アンテナとしてホーンアンテナや平面パッチアンテナなどのアンテナを用いることができるが、これらのアンテナの指向性を事前に設計されたセルに正確に向けるのは難しい。
また、アンテナの設置位置や観客席の構造によっては、観客席を概ね均等な面積のセルに分割すること自体が困難であり、ユーザ数を同程度に分割して収容すること(以下「ユーザ分割」という。)が極めて難しい場合もある。このため、効率的かつ正確なユーザ分割を実現するためには、ある程度大雑把に設置される基地局のそれぞれが、設置位置や観客席の構造等に対して適応的にユーザ分割を行えることが望ましい。
さらに、スタジアムの全ユーザに対して十分な帯域の通信環境を提供するためには、高所に設置される基地局装置に対して、例えば光ファイバなどのバックホール回線を敷設する必要がある。しかし、高所に設置される指向性アンテナ同士の相関を低減し、相互の与被干渉を抑圧するためには、基地局装置をある程度隔離して設置する必要があり、高所に設置される複数の基地局装置に対して個別にバックホール回線を敷設する必要がある。しかしながら、このようなバックホール回線を高所に敷設するコストは高く、実際には経済性の観点から可能な限り少数の場所に集約して基地局装置を設置することが求められる。
以下、高所の1カ所に設置され、下方の複数のセルに対して適応的に指向性の形成を行いつつ、隣接する複数のセル間で周波数リユースを実現する基地局装置及び送受信方法の実施形態について詳細に説明する。まず、本発明の実施形態の基本原理の概要について説明する。
<基本原理の概要>
特定の無線局装置に対して送受信ビームの指向性をピンポイントで形成するためには、無線通信システムが基地局集中制御型である必要がある。これは、例えば受信ビームの形成において、基地局装置は、端末局装置が自局に対して信号を送信しようとしていることを予め検知しておく必要があるためである。しかしながら、Wi−Fi等の自律分散型の無線通信システムでは、基地局集中制御型の無線通信システムと異なり、基地局装置が端末局装置の送信を事前に検知することができない。このような場合、基地局装置は送受信ビームの指向性をピンポイントで形成するのではなく、サービスエリアの全域に対して必要な指向性利得を確保しつつ、サービスエリア外の領域に対しては急激に指向性利得が低下するような環境を予め準備しておく必要がある。
一般に、Massive MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)は、見通し環境においては、所定の方向に最大の指向性利得を持つようにビームの指向性を形成しつつ、その周辺に対しても所定のビーム幅の範囲で有効な指向性利得を確保することができる。このビーム幅は複数のアンテナ素子が形成するアレーアンテナの開口部の大きさに反比例する関係があり、比較的小型のアレーアンテナを構成すれば最大の指向性利得を得るユーザ(以下「ターゲットユーザ」という。)の周辺数mの範囲内においても有効な指向性利得を確保することができる。そして、複数のターゲットユーザに対して形成される指向性ビームを合成すると、全体として各指向性利得が足し合わされた複合的なビームを形成することができる。
<基本原理を適用した実施形態>
図2は、指向性の形成に必要な情報を取得するポイント(以下「測定ポイント」という。)の具体例を示す図である。図2において、セル651及びセル655は同一周波数チャネルを用いるセルである。セル651はa−1、b−1、c−1、d−1、e−1、f−1、g−1で示される7つの測定ポイントを有し、セル655はa−5、b−5、c−5、d−5、e−5、f−5、g−5で示されるセル651と同様の測定ポイントを有する。
まず、上述の様にスタジアムの天井などの高所に設置された基地局装置には光ファイバなどのバックホール回線が引かれており、これらの回線を通じて基地局装置の遠隔操作が行えるものとする。また、基地局装置は多数のアンテナ素子を備えているものとする。無線通信サービスの提供者は、ユーザに無線通信サービスを提供する前の段階において、指向性の形成に必要な情報を取得するためのトレーニング信号を送信する装置(以下「測定用送信装置」という。)をセル651の測定ポイントa−1に設置する。測定用送信装置は、周波数チャネルF1を用いてトレーニング信号を送信する。測定用送信装置から送信されたトレーニング信号は、スタジアムの天井などの高所に設置された基地局装置側で受信される。サービス提供者は、測定用送信装置がトレーニング信号を送信した際に、基地局装置の各アンテナ素子が受信したトレーニング信号に基づいて、基地局装置が測定ポイントa−1の無線局装置に対してビームの指向性を形成するために必要となるデジタル信号処理における送受信ウエイト、ないしは各アンテナ素子に対応する移相器に設定すべき複素位相の値を決定する。この移相器は、指向性形成をアナログ信号上で実現するために基地局装置に備えられる機能部である。移相器についての詳細は後述する。
なお、指向性形成はデジタル信号処理により実現することも、アナログ信号処理により実現することも可能であるが、ここでは消費電力やサイズの観点及び経済性に優れるアナログ信号上での指向性形成を行う場合(第1の実施形態)と、部品点数が比較的少ないデジタル信号処理上での指向性形成を行う場合(第2の実施形態)とについて、順番に説明する。
サービス提供者は、他の測定ポイントb−1、c−1、d−1、e−1、f−1及びg−1についても測定ポイントa−1と同様の方法で移相器に設定する複素位相の値(デジタル信号処理の場合は送受信ウエイトに相当)を決定する。サービス提供者は、セル651の各測定ポイントで測定されたアンテナ素子毎の移相器に設定すべき複素位相の値、ないしは測定ポイント別送受信ウエイトを算出する。アナログ信号処理の場合には、各移相器に取得した複素位相の回転量を、デジタル信号処理の場合には同一セル内の複数の測定ポイント別送受信ウエイトをアンテナ素子毎に加算して得られる送受信ウエイトを、それぞれ基地局装置に設定する。基地局装置は、各測定ポイントについて取得されたアンテナ素子毎の移相器に設定すべき複素位相の値に基づいて移相器を動作させること、ないしは測定ポイント別送受信ウエイトを加算して得られた送受信ウエイトをサンプリングデータ単位で乗算することにより、測定ポイントa−1、b−1、c−1、d−1、e−1、f−1及びg−1の各方向に指向性を持つビームを合成したビームを形成して信号を送出する。このようにセル651内の複数地点に指向性を持つビームを合成することにより、セル651内においては必要な指向性利得を確保しつつ、セル651外の領域に対しては急激に指向性利得が低下するような無線通信環境を作り出すことができる。
図3は、指向性利得の空間的な分布特性の具体例を示す図である。図3のグラフに示される各曲線は、基地局装置が形成するビームの指向性利得(各場所における受信電力に対応)を表す曲線(以下「利得曲線」という。)である。利得曲線661−1〜661−3は、セル651内の各測定ポイントに向けて形成されるビームの指向性利得を表す。同様に、利得曲線662−1〜662−3は、セル655内の各測定ポイントに向けて形成されるビームの指向性利得を表す。利得曲線663は、セル651内の各測定ポイントに向けて形成されるビームを合成した指向性利得を表す。利得曲線664は、セル655内の各測定ポイントに向けて形成されるビームを合成した指向性利得を表す。図3は、セル651の中心とセル655の中心とを結ぶ直線上の各位置における指向性利得を表している。
図3に示されるように、各測定ポイントに向けて形成されるビームの指向性は、それぞれの測定ポイント付近では高い指向性利得を示す。そして、それらのビームがセルごとに合成されたビーム(以下「合成ビーム」という。)の指向性利得は、利得曲線663及び664が示すように、概ね各セル内において高い値となる一方で、セル外では急激に低い値となる。この場合、基地局装置が、セル651に対して形成した合成ビームで信号t1を送信し、セル655に対して形成した合成ビームで信号t2を送信すると、セル651内の全ての端末局装置が信号t1を受信できることができる一方で、信号t2は殆ど受信することができない。同様に、セル655内の全ての端末装置が信号t2を受信できることができる一方で、信号t1は殆ど受信することができない。そのため、同一周波数F1を用いた場合であっても、セル651とセル655との相互の予被干渉を低減することが可能となる。
以下に、指向性形成をアナログ信号処理により実現する第1の実施形態と、デジタル信号処理により実現する第2の実施形態について、個別に説明を行う。
[第1の実施形態]
図4は、本発明第1の実施形態の基地局装置1の機能構成の具体例を示すブロック図である。一般に、基地局装置の構成は、送受信アンテナの態様によって送受信アンテナ分離型と送受信アンテナ共用型とに分類される。上述した基本原理は、送受信アンテナ分離型と送受信アンテナ共用型とのいずれにも適用可能であるが、ここでは一例として送受信アンテナ分離型の構成を示す。
図4に示す第1の実施形態の基地局装置1は、ベースバンド信号処理回路150と、送信部794と、受信部795と、を備える。ベースバンド信号処理回路150は、変調器(MOD)120−1〜120−N、復調器(DEM)130−1〜130−N及び信号分離回路141を備える。ここでNは、基地局装置1が無線通信サービスを同時に提供することができるセルの数に対応する。以下では、N個のセルのうちのn(n=1,…,N)番目のセルをセルnと記載する。変調器120−nは、セルn内の端末装置に対する送信信号の変調処理を行う。送信信号が無い場合には、変調器120−nはサンプリングデータとしてゼロ信号を出力する。復調器130−nは、セルn内の端末装置から受信された受信信号の復調処理を行うことによって、受信信号の送信元が送信した送信信号を復元する。また、復調器130−nは常に信号を受信している訳ではないので、信号の有無の判断を常に行い、実際の受信信号がある場合に復調処理を行うことになる。信号分離回路141は、受信部795から出力されたN系統の受信信号のクロストーク成分を必要に応じて抑圧して信号分離を行い、分離された各信号を対応する復調器130−1〜130−Nに出力する。
送信部794は、アンテナ素子701−1〜701−M、分配結合器(HYB)751−1〜751−M及び送信信号処理回路792−1〜792−N(第1の回路)を備える。送信信号処理回路792−n(n=1,…,N)は、対応する変調器120−nから出力された送信信号をM系統に分離し、分離したそれぞれの送信信号を自身に対応するセルnに割り当てられた周波数にアップコンバートする。ここで、Mは、アンテナ素子の数に対応している。送信信号処理回路792−nは、アップコンバートした各系統の送信信号が対応するアンテナ素子701−1〜701−Mから送信される際の指向性を形成するためのアナログ信号処理(詳細は後述する)を各系統の送信信号に施す。送信信号処理回路792−nは、アナログ信号処理を施した各系統の送信信号を、それぞれのアンテナ素子701−1〜701−Mに対応する分配結合器751−1〜751−Mに出力する。分配結合器751−m(m=1,…,M)は、送信信号処理回路792−1〜792−Nのそれぞれから出力された送信信号を結合して対応するアンテナ素子701−mに出力する。アンテナ素子701−mは、分配結合器751−mから出力された送信信号を無線送信する。
受信部795は、アンテナ素子741−1〜741−M、分配結合器(HYB)752−1〜752−M及び受信信号処理回路793−1〜793−N(第2の回路)を備える。アンテナ素子741−m(m=1,…,M)は信号を受信し、受信した信号を対応する分配結合器752−mに出力する。
分配結合器752−mは、アンテナ素子741−mから出力された受信信号をN系統に分離して受信信号処理回路793−1〜793−Nに出力する。受信信号処理回路793−n(n=1,…,N)は、分配結合器752−1〜752−Mのそれぞれから出力された受信信号に対して、アンテナ素子741−1〜741−Mにてターゲットとするセル方向に指向性を形成するためのアナログ信号処理(詳細は後述する)を施すことにより1系統に合成された受信信号を生成する。受信信号処理回路793は、1系統に合成された信号を自身に対応するセルnに割り当てられた周波数にダウンコンバートし、ダウンコンバートしたそれぞれの受信信号を結合して信号分離回路141に出力する。
なお、基地局装置1は、必ずしも複数の周波数チャネルの全てのセルに関する通信処理を行う必要はなく、所定の周波数チャネルを用いるセル(ないしは、その一部のセルであっても良い)に関してのみ通信処理を行うように構成されてもよい。この場合、無線通信システムは、異なる周波数チャネルの通信処理を行う複数の基地局装置を用いて構成されてもよい。
また、送信信号処理回路792−1〜792−Nは、それぞれ同様の構成を持つ。同様に、受信信号処理回路793−1〜793−Nは、それぞれ同様の構成を持つ。以下では、説明を簡単にするため、特に区別する必要の無い場合においては、送信信号処理回路792−1〜792−Nのそれぞれを送信信号処理回路792と記載する。同様に以下では、受信信号処理回路793−1〜793−Nのそれぞれを受信信号処理回路793と記載する。
図5は、送信信号処理回路792及び受信信号処理回路793の機能構成の具体例を示すブロック図である。送信信号処理回路792は、D/A変換器122、アップコンバータ123、分配結合器707−1〜707−M、移相器712−1〜712−M、分配結合器714−1〜714−M’、移相器722−1〜722−M及び分配結合器727を備える。ここでM’は、図2に示した各セルの測定ポイントの数を表す。図2の例では、セル651及び655共に7点の測定ポイントを有しているため、この場合にはM’=7となる。また図4に示す様に、各送信信号処理回路792とアンテナ701との間には、各送信信号処理回路792−1が出力する信号と、その他の送信信号処理回路792−2〜792−Nから出力される信号を合成するための分配結合器751−1〜751−M’が配置される。図5においては、分配結合器751−1〜751−Mが送信信号処理回路792−1に接続される状況を選択的に示している。
また、受信信号処理回路793は、A/D変換器125、ダウンコンバータ124、相関算出回路705(複素位相回転量算出部)、位相シフト制御回路706、分配結合器708−1〜708−M、スイッチ713−1〜713−M、スイッチ723−1〜723−M、分配結合器728、移相器732−1〜732−M、分配結合器734−1〜734−M’及び移相器742−1〜742−Mを備える。送信信号処理回路792と同様に、各受信信号処理回路793とアンテナ741との間には、各受信信号処理回路793−1とその他の受信信号処理回路793−2〜793−Nとに信号を分配するための分配結合器752−1〜752−M’が配置される。図5においては、分配結合器752−1〜751−Mが受信信号処理回路793−1に接続される状況を選択的に示している。
なお、「移相器712−1〜712−M」と「移相器722−1〜722−M」は図5では2系統のみを代表して表示したが、実際には分配結合器714−1〜714−M’によりM’系統の移相器群が存在する。この意味では、「移相器712−1〜712−M」は「移相器712−1−1〜712−1−M」と、「移相器722−1〜722−M」は「移相器712−M’−1〜712−M’−M」と標記すべきであるが、煩雑となるために「移相器712−1〜712−M」と「移相器722−1〜722−M」と表記している。また「移相器732−1〜732−M」と「移相器742−1〜742−Mについても同様である。
以下、図4及び図5を参照し、具体的な信号処理の流れについて説明する。
[1.送信の流れ]
ここでは簡単のため、セル1(n=1)の端末装置に対する送信の流れを説明する。この場合、まず送信信号処理回路792−1に、変調器120−1から出力されたベースバンド信号を入力する。ここで入力されるベースバンド信号は、デジタル形式のベースバンド信号(以下「デジタル・ベースバンド信号」という。)である。変調器120−1から出力されたデジタル・ベースバンド信号は、まずD/A変換器122に入力される。D/A変換器122は、デジタル・ベースバンド信号をアナログ形式のベースバンド信号(以下「アナログ・ベースバンド信号」という。)に変換してアップコンバータ123に出力する。
アップコンバータ123は、アナログ・ベースバンド信号をベースバンドから無線周波数帯の信号に変換して分配結合器727に出力する。分配結合器727は、無線周波数帯の信号に変換されたアナログ・ベースバンド信号を、セル1内の測定ポイント数(すなわちM’)だけ分配して出力する。この分配数は、換言すれば、ひとつのセルをカバーするように形成される合成ビームの元となる個々のビームの数に相当する。例えば、図1及び図2の例で言えば、セル651内の端末装置との通信における分配数は、合成ビームの利得曲線663を構成する利得曲線661−1〜661−3に対応する各ビームの数に相当する。ここでは、アナログ・ベースバンド信号は、図5に示されるように分配結合器714−1〜714−M’のM’系統に分配される。
分配結合器727から分配された各アナログ・ベースバンド信号は、出力先の分配結合器714−1〜714−M’によって、アンテナ素子701の数に応じたM系統の移相器にさらに分配される。具体的には、分配結合器714−1に出力されたアナログ・ベースバンド信号は、移相器712−1〜712−Mに分配され、分配結合器714−M’に出力されたアナログ・ベースバンド信号は移相器722−1〜722−Mに分配される。
移相器712−1〜712−M及び移相器722−1〜722−Mは、無線周波数帯のアナログ・ベースバンド信号に対して以下に示す手順で求める所定量の複素位相回転を与え、対応する分配結合器707に出力する。
分配結合器707−m(m=1,2,…,M)は、移相器712−1〜712−M及び移相器722−1〜722−Mのそれぞれから出力された位相回転後のアナログ・ベースバンド信号を合成して対応するアンテナ素子701−mに出力する。各アンテナ素子701は、対応する分配結合器707から出力された合成後のアナログ・ベースバンド信号を送信する。
このように送信された各送信信号は、移相器712−1〜712−M及び722−1〜722−Mの複素位相回転によって、対応する測定ポイント方向に指向性を持つ。基地局装置1は、セル1内の各測定ポイントに指向性を持つ送信信号を同時に送信することによって合成ビームを形成する。基地局装置1は、このように構成される合成ビーム上に、セルごとに一つの信号系列を載せて送信することにより、セル1内に存在する無線局装置と通信する。
[2.受信の流れ]
まず、アンテナ素子741−1〜741−Mによってセル1内に存在する無線局装置から送信された信号が受信される。アンテナ素子741−1〜741−Mは、受信信号を対応する分配結合器708に出力する。分配結合器708−1〜708−Mは、受信信号をセル1内の測定ポイント数だけ分配して対応する移相器に出力する。例えば、分配結合器708−1は、受信信号を移相器732−1及び742−1に出力する。
移相器732−1〜732−M及び742−1〜742−Mは、アナログ信号である受信信号に対して所定量の複素位相回転を与え、対応する分配結合器にスイッチを介して出力する。例えば、移相器732−1は、分配結合器708−1から出力された受信信号に対して所定量の複素位相回転を行い、スイッチ713−1を介して分配結合器734−1に出力する。分配結合器734−1〜734−M’は、対応する各移相器から出力された受信信号を合成して分配結合器728に出力する。分配結合器728は、対応する各分配結合器から出力された受信信号をさらに合成してダウンコンバータ124に出力する。ダウンコンバータ124は、分配結合器728から出力された受信信号を無線周波数帯からベースバンドにダウンコンバートしてアナログ・ベースバンド信号に変換する。ダウンコンバータ124は変換後のアナログ・ベースバンド信号をA/D変換器125に出力する。A/D変換器125は、ダウンコンバータ124から出力されたアナログ・ベースバンド信号をデジタル形式の信号(デジタル・ベースバンド信号)に変換して信号分離回路141に出力する。
このような受信処理において、移相器712−1〜712−M及び移相器722−1〜722−Mのそれぞれが、アナログ形式のベースバンド信号に所定量の複素位相回転を加えることで、アンテナ素子701−1〜701−Mを介して送信される信号について所定の指向性を形成することができる。基地局装置1は、このような指向性を形成することにより、その指向性方向に位置するセル内に存在する無線局装置と通信を行う。
[3.複素位相の回転量の算出]
まず、ここで想定するシステムにおける基地局装置は、サービス運用中において固定的な指向性ビームを形成し、個別のセル間の信号の混信を回避する。固定的な指向性は、サービスの運用開始前に事前に取得する情報を基に形成することが可能であり、以下に示す処理はサービス運用開始前に事前に行う処理とすることが可能である。更に、サービス運用期間中においても、必要に応じて例えば夜間などのサービス休止時間を利用して、逐次情報を更新することも可能である。また以下の説明における各スイッチ713−1〜713−M及びスイッチ723−1〜723−Mや移相器732−1〜732−M及び742−1〜742−Mは、本図に記載されていない基地局全体の制御・管理を行う通信制御部によって直接的に制御・管理されても良いし、その通信制御部の指示に従って相関算出回路705などが制御・管理しても良い。
まず複素位相の回転量は、各測定ポイントの測定用送信装置から連続してトレーニング信号を送信し、基地局装置1の相関算出回路705がこれらのトレーニング信号の受信信号に基づいて算出する。ここで、相関算出回路705は、スイッチ713のいずれかひとつがON状態にあり、他のスイッチがOFF状態にある状況で複素位相の回転量を算出する。各スイッチのON又はOFFの切り替えは、図示しない制御回路の指示に基づいて相関算出回路705が制御する。この際、移相器732−1〜732−M及び移相器742−1〜742−Mの位相回転量には予め所定の値が設定され、相関算出回路705によって算出された所定の複素位相回転量の値に更新される。
相関算出回路705によって算出される複素位相の回転量は、予め設定される所定の位相回転量に対する差分として設定される。例えば、移相器732−1〜732−M及び移相器742−1〜742−Mの位相回転量は予め全てゼロ(又は全て同一の値)に設定されてもよい。この場合、相関算出回路705によって算出された複素位相回転量がそのまま新たな位相回転量として用いられてもよい。また例えば、移相器732−1〜742−Mの位相回転量が“+10度”、“+20度”、“+30度”、・・・に予め設定され、相関算出回路705によって算出された複素位相回転量が“+α度”、“+β度”、“+γ度”である場合、新たな位相回転量は“+(α+10)度”、“+(β+20)度”、“+(γ+30)度”と設定される。
以下、複素位相の回転量の算出の流れについて説明する。まず、基地局装置1は、各セル内の複数の測定ポイントに設置された測定用送信装置から送信されるチャネル推定用のトレーニング信号を、アンテナ素子741−1〜741−Mを介して受信する。アンテナ素子741−1〜741−Mによって受信された信号は、対応する分配結合器708−1〜708−MによってM×M’系統に分配される。M×M’系統に分配された信号はそれぞれ移相器732−1〜732−M及び移相器742−1〜742−Mのうちの対応する移相器にそれぞれ出力される。移相器732−1〜732−M及び742−1〜742−Mは、アナログ信号である受信信号に対して所定量の複素位相回転を行う。移相器732−1〜732−M及び742−1〜742−Mは、複素位相回転を施した受信信号を、スイッチ713−1〜M及び723−1〜723−Mのいずれかを介して対応する分配結合器734−1〜734−M’に出力する。スイッチ713−1〜M及び723−1〜723−Mは、複素位相の回転量の算出のためのトレーニング信号受信時には、スイッチ713−1〜M及び723−1〜723−Mの中のひとつのみのスイッチが接続状態となり、他のスイッチは非接続状態となる様に管理される。この結果、アンテナ素子741−1〜741−Mのうちのいずれか一つのアンテナ素子にて受信された信号のみが選択的にイッチ713−1〜M及び723−1〜723−Mの何れかを経由して出力される。出力された信号は分配結合器734−1〜734−M’で各測定ポイントに対応する信号毎に合成される。分配結合器728は、各分配結合器734−1〜734−M’から出力された受信信号をさらに合成してダウンコンバータ124に出力する。ダウンコンバータ124は、分配結合器728から出力された受信信号を無線周波数帯からベースバンドにダウンコンバートしてアナログ・ベースバンド信号に変換する。ダウンコンバータ124は変換後のアナログ・ベースバンド信号をA/D変換器125に出力する。A/D変換器125は、ダウンコンバータ124から出力されたアナログ・ベースバンド信号をデジタル形式の信号(デジタル・ベースバンド信号)に変換して相関算出回路705に出力する。
相関算出回路705では、以下に示す手順で各移相器712−1〜712−M、移相器722−1〜722−M、移相器732−1〜732−M及び移相器742−1〜742−Mで与える複素位相の回転量を算出する。まず、移相器732−1〜732−M及び移相器742−1〜742−Mが付与する位相回転量は、時間軸ビームフォーミング(例えば非特許文献1〜4参照)において用いられる次の式(1)〜式(3)を用いて算出される。
上記の式において、Si(n)は、第iアンテナが受信したトレーニング信号のうちの第nサンプルのサンプリングデータを表し、Si(n)*は、Si(n)の複素共役を表す。NFFTは所定の周期性を表すパラメータである。例えば、NFFTはOFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)のFFT(Fast Fourier Transform)ポイント数のように相関検出において意味を持つ周期性の値を示す。ψjは時間軸ビームフォーミングで実施する(受信側の)複素位相の回転量である。関数angle(x)は複素数xの複素位相を表す関数であり、xの実部及び虚部の比と、実部及び虚部の符号とにより定まる値である。なお、キャリブレーション処理が必要な場合には、式(1)〜式(3)においてキャリブレーション係数を考慮することによって、送信側の複素位相の回転量が求められる。
ここで式(2)より明らかな様に、上記式(1)で与えられる複素係数cjの複素位相と、上記式(2)で与えられる時間軸ウエイトwjの複素位相は符号が反転したものとなっている。この意味で、後述する本発明の実施形態において、相対的なチャネル情報に対応する式(1)で与えられる複素係数cjの複素位相を求めることと、時間軸ウエイトwjの複素位相を求めることは等価である。
次に、Si(n)の取得方法について説明する。上述したように、複素位相の回転量の算出時において、スイッチ713−1〜713−M及び723−1〜723−Mは、ひとつを除いて全てがOFF状態となっている。そのため、この場合、スイッチ713−1〜713−M及び723−1〜723−Mの後段にある分配結合器734−1〜734−M’には、ON状態のスイッチに対応するアンテナ素子で受信された信号のみが出力される。分配結合器734−1〜734−M’は、ON状態のスイッチを介して出力された信号を後段の分配結合器728に出力する。分配結合器728は、分配結合器734−1〜734−M’から出力された信号を合成してダウンコンバータ124に出力する。
すなわち、スイッチ713−1〜713−M及び723−1〜723−M、分配結合器734−1〜734−M’及び分配結合器728は、全体として、アンテナ素子741−1〜741−Mから1つのアンテナ素子を選択して信号を受信するように機能する。選択されたアンテナ素子によって受信された信号は、ダウンコンバータ124によってアナログ・ベースバンド信号に変換され、A/D変換器125によってアナログ・ベースバンド信号からデジタル・ベースバンド信号に変換される。変換されたデジタル・ベースバンド信号は、相関算出回路705に出力される。
なお、ある測定ポイントについて位相回転量の算出を行う場合には、対応するスイッチ群以外の全てのスイッチをOFF状態にすることによって、当該測定ポイントに関する信号処理のみを行う。例えば、測定ポイントa−1に対する指向性の形成を移相器712−1〜712−M及び732−1〜732−Mで形成し、測定ポイントg−1に対する指向性の形成を移相器722−1〜722−M及び742−1〜742−Mが形成する場合、測定ポイントa−1から送信されたトレーニング信号については移相器732−1〜732−Mに接続されるスイッチ713−1〜713−Mのうちの1つだけをON状態にすればよい。この場合、その他の全てのスイッチ723−1〜723−M等をOFF状態にする。ここで、スイッチ713−1〜713−Mの切り替えは、例えばOFDMのFFTポイント数NFFTのように相関検出において意味を持つ周期性の整数倍の周期でスイッチ713を切り替える。例えば、スイッチ713−1、スイッチ713−2、スイッチ713−3、・・・、スイッチ713−Mの順に切り替える。ないしは、時間軸ウエイトの算出における基準アンテナがアンテナ741−1である場合、アンテナ741−1に接続されたスイッチ713−1を周期的に活用してもよい。例えばこの場合、スイッチ713−1、スイッチ713−2、スイッチ713−1、スイッチ713−3、スイッチ713−1、・・・、スイッチ713−1、スイッチ713−Mの順に切り替える。いずれにしても、スイッチ713−1がONの状態で受信された所定の周期のサンプリング信号列{S1(1),S1(2),S1(3),・・・,S1(NFFT)}と、このサンプリングデータに対してスイッチ713−m(mは2〜Mの整数)が上述の周期性でON状態に制御されることによって受信された所定の周期のサンプリング信号列{Sm(1),Sm(2),Sm(3),・・・,Sm(NFFT)}とを用い、移相器732−mに設定すべき複素位相の回転量を求める。
同様に、測定ポイントg−1については、移相器742−1〜742−Mに接続されるスイッチ723−1〜723−Mのうちの1つだけをON状態にして測定ポイントg−1から送信されるトレーニング信号を受信することにより、上述の測定ポイントa−1と同様の処理で測定ポイントg−1についての複素位相回転量を求めることができる。
相関算出回路705は、上記の式(1)〜式(3)を用いて複素位相の回転量を算出する。相関算出回路705は、このようにして算出した複素位相の回転量を、位相シフト制御回路706に出力する。位相シフト制御回路706は、相関算出回路705から出力された位相回転量を各セルに対応づけて記憶し、管理する。
送信側のアンテナ素子701−1〜701−Mと受信側のアンテナ素子741−1〜741−Mとが幾何学的に同等の配置関係を持ち、且つ平行移動した位置関係にある場合、各セルに対応して受信側で形成する指向性ビームのビームパターンと、送信側で形成すべきビームパターンとを共通化することも可能である。この場合には、相関算出回路705で算出した受信時に用いる(移相器732−1〜732−M及び移相器742−1〜742−Mに与える)複素位相の回転量は、必要に応じて送信時に用いる(移相器712−1〜712−M及び移相器722−1〜722−Mに与える)複素位相の回転量に換算することが可能である。この換算は、インプリシットフィードバックにおけるキャリブレーション処理と同様に、ハイパワーアンプ(HPA)とローノイズアンプ(LNA)との複素位相の不確定性を補正することによって可能となる。この換算処理を相関算出回路705で行い、位相シフト制御回路706が、送信側に関する複素位相の回転量を各セルに対応づけて記憶し、管理する。なお、このように管理される複素位相の回転量は、基本的には送受信共にサービス運用中においては固定値として用いられることが想定される。このような場合、基地局装置1は、位相シフト制御回路706を備えずに、相関算出回路705が直接、移相器712−1〜712−M、移相器722−1〜722−M、移相器732−1〜732−M、移相器742−1〜742−Mに複素位相回転量を設定するように構成されてもよい。
なお、基地局装置1の送信側にHPA等を備え、受信側にLNA等を備えてもよい。この場合、HPAは図中の点A及び点C1〜点C3のうちのどちらか又は両方の点に配置され、LNAは図中の点B及び点D1〜点D3のうちのどちらか又は両方の点に配置される。HPAは図中の点C1〜点C3に、LNAが図中の点D1〜点D3に配置される場合には、キャリブレーション処理により送受信間及びアンテナ素子間の複素位相の不確定性を補正する必要がある。これらのキャリブレーションや複素位相の不確定性を補正する方法には、既存の如何なる方法が用いられても構わない。なお、本実施形態では、送信信号処理回路792−1〜792−N間及び受信信号処理回路793−1〜793−N間で協調して指向性を形成することを想定していないため、各アンプを点A及び点Bのみに配置する場合、HPA及びLNAにおける複素位相の不確定性を除去するキャリブレーション処理を送信信号処理回路又は受信信号処理回路ごとに行う必要はない。
以上、簡単のため、セル651〜656のうちのいずれか1つのセルに対して指向性を形成する動作例を説明したが、サービスエリアに複数のセルが存在する場合には、複数のセルに対する上記の動作が送信信号処理回路792−1〜792−N間及び受信信号処理回路793−1〜793−N間で順番に又は並列的に実行される。ここではアップコンバータ123及びダウンコンバータ124の説明において、利用する周波数チャネルに関して明示していなかったが、図1に示す様に複数の周波数チャネルを用いて周波数棲み分けを行う場合には、各アップコンバータ123及びダウンコンバータ124では対応するセルに割り当てられた周波数チャネルに対応して無線周波数とベースバンドの間の周波数変換を行う。ないしは、ひとつの基地局装置ではひとつの周波数チャネルのみのセルをカバーし、異なる周波数チャネルのセルに関しては異なる基地局装置で対応する構成としても構わない。
以上、送受信アンテナ分離型の基地局装置1について説明したが、送信信号処理回路の動作と受信信号処理回路の動作とを切り替える機構を備えることにより、基地局装置1を送信部794及び受信部795が統合された送受信アンテナ共用型の基地局装置として構成することも可能である。
図6は、第1の実施形態の基地局装置1を送受信アンテナ共用型として構成する場合における送受信信号処理回路791の機能構成の具体例を示す図である。送受信信号処理回路791(第3の回路)は、送受信アンテナ分離型の基地局装置1が備える送信信号処理回路792−1〜792−N及び受信信号処理回路793−1〜793−Nを1つの回路で実現する信号処理回路である。なお、図6においては、図5と同様の符号を付すことにより、送信信号処理回路792−1〜792−N及び受信信号処理回路793−1〜793−Nと同様の機能部についての説明を省略する。
送受信信号処理回路791は、D/A変換器122、アップコンバータ123、ダウンコンバータ124、A/D変換器125、TDDスイッチ127、アンテナ素子701−1〜701−M、相関算出回路705、位相シフト制御回路706、分配結合器707−1〜707−M、移相器712−1〜712−M、スイッチ713−1〜713−M、分配結合器714−1〜714−M’、移相器722−1〜722−M及びスイッチ723−1〜723−Mを備える。ここでMは、図5と同様に、送受信信号処理回路791が備えるサブアレーのアンテナ素子の数に対応している。また図4と同様に、各送受信信号処理回路791とアンテナ701との間には、各送受信信号処理回路791−1が出力する信号とその他の送受信信号処理回路791−2〜791−Nから出力される信号とを合成する、又は各受信信号処理回路791−1とその他の送受信信号処理回路791−2〜791−Nとに信号を分配するための分配結合器751−1〜751−Mが配置される。図6においては、分配結合器751−1〜751−Mが送信信号処理回路791−1に接続される状況を選択的に示している。
また、図6には図示していないが、基地局装置1がN個のセルとの間でN多重の空間多重伝送を行う場合、送受信信号処理回路791−1〜791−Nには図4と同様のベースバンド信号処理回路が接続される。送受信信号処理回路791〜791−Nとベースバンド信号処理回路とは有線で接続され、この有線接続上でデジタル・ベースバンド信号が転送される。基地局装置1が送受信アンテナ共用型として構成される場合、送受信アンテナ分離型の基地局装置1と同様に、装置全体を制御する図示しない制御回路がベースバンド信号処理回路上に備えられる。フレーム周期や送受信タイミングの他、TDDスイッチ127〜Nの切り替えや位相シフト制御回路706の切り替えもこの制御回路によって制御される。
このように構成される送受信アンテナ共用型の基地局装置1では、送信時及び受信時における信号の入出力がTDDスイッチ127によって切り換えられる。具体的には、送信時においては、TDDスイッチ127はアップコンバータ123と分配結合器726とを接続するように制御される。これにより、送信時においては、アップコンバータ123から出力されるアナログの無線周波数の信号が分配結合器726に出力される。
一方、受信時及び複素位相回転量の算出時においては、TDDスイッチ127はダウンコンバータ124と分配結合器726とを接続するように制御される。これにより、受信時においては、分配結合器726から出力される受信信号がダウンコンバータ124に出力される。このような信号の入出力の切り替えが行われることによって、送受信アンテナ共用型の基地局装置1は、送受信アンテナ分離型の基地局装置1と同様に動作することができる。
なお、キャリブレーションが必要な場合には、ハイパワーアンプは図中の点Aに配置され、ローノイズアンプは図中の点Bに配置される。また、基地局装置1が送受信アンテナ分離型である場合と同様の理由により、各アンプを点A又は点Bに配置する場合、ハイパワーアンプ及びローノイズアンプにおける複素位相の不確定性を除去するキャリブレーション処理を送信信号処理回路又は受信信号処理回路ごとに行う必要はない。
ここで、基地局装置1を送受信アンテナ共用型として構成する場合の注意点を述べる。送受信アンテナを複数のセルに対応する送受信信号処理回路791−1〜791−Nで共用する場合には、あるセルに対応する送受信信号処理回路791−mと別のセルに対する送受信信号処理回路791−m’との間の独立性が適切に確保される必要がある。もし、この独立性が確保されない場合、送信信号と受信信号とが混在して適切な信号処理が行えなくなる可能性がある。この様な問題は、通信制御回路が管理する所定のフレーム構成において各セルの送信タイミングと受信タイミングとを全てのセルで一致させることで解決することが可能である。この場合には、基地局装置1は、フレーム構成に合わせてTDDスイッチを切り替えることになる。ここで基地局装置1は、基地局装置がフレームタイミングを管理する基地局集中制御型として、ユーザ端末がフレーム周期を把握できるようにするための(ダウンリンクにおいてフレーム先頭を検出するための)同期信号を周期的に送信し、ユーザ端末はこのフレーム周期に同期して送受信タイミングを把握する。ただし、現在のWi−Fiでは基本的にフレーム周期を持たない自律分散型の制御を採用しているために、送信タイミングと受信タイミングとを各セルで同期させることができない。このため、同一セルに対しては送受信アンテナを共用することは出来ても、異なるセル間で送受信アンテナを共用することが出来ない。この意味で、Wi−Fiに適用する場合の基地局装置1の構成は図4及び図5に示した構成が適している。
以上説明した本発明第1の実施形態の基地局装置1によれば、サービスエリアを複数のセルに分割して周波数チャネルの棲み分けを行いつつ、各セル間の干渉が抑制された無線通信環境を実現することができる。具体的には、スタジアムなどの高所に基地局装置を設置することを想定した場合、各ユーザ側の無線局装置が上向きに指向性利得が高いアンテナ素子を備えることによって隠れ端末の影響を低減することができる。例えば、ユーザ端末において、指向性利得を上向きに設定して動作させる「スタジアムモード」などが設けられても良い。
また、従来の指向性形成技術を用いた場合、例えばセル651及びセル655内の無線局装置がそれぞれ基地局装置に向けて信号を送信しているような状況では、基地局装置はセル651及びセル655内の無線局装置がOFDMのシンボルタイミングを同期できていないと、それぞれセルのユーザ端末の信号を適切に分離することが出来なかった。しかしながら、本実施形態では時間軸ビームフォーミング技術を併用することが可能となる。この結果、信号分離のために時間軸の信号を周波数軸上に変換(FFT)する必要がなく、各サンプリングデータ単位で指向性が形成される。そのため、各無線局装置がOFDMのシンボルタイミングを同期させる必要もない。さらに、本実施形態のように基地局装置を図4及び図5に示す送受信アンテナ分離型として構成した場合、送信アンテナと受信アンテナとが分離されているため、あるセルからの信号を受信している最中であっても、他のセルに向けて信号送信することも可能となる。
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、指向性形成をデジタル信号処理により実現する基地局装置の構成について説明する。以下、第2の実施形態の基地局装置を基地局装置2と記載する。
図7は、本発明第2の実施形態の基地局装置2の機能構成の具体例を示すブロック図である。第1の実施形態にも記載したとおり、一般に、基地局装置の構成は、送受信アンテナの態様によって送受信アンテナ分離型と送受信アンテナ共用型とに分類される。これは、基地局装置が、指向性形成をデジタル信号処理によって実現するように構成された場合においても同様であり、以下に示す基地局装置2の構成は、送受信アンテナ分離型と送受信アンテナ共用型とのいずれにも適用可能である。ここでは一例として、基地局装置2が、送受信アンテナ分離型として構成された場合について説明する。なお、図7の説明では、第1の実施形態の基地局装置1と同じ符号を付すことにより、同様の機能部についての説明を省略する。
図7に示す第2の実施形態の基地局装置2は、ベースバンド信号処理回路150と、送信部796と、受信部797と、を備える。ベースバンド信号処理回路150は、変調器(MOD)120−1〜120−N、復調器(DEM)130−1〜130−N及び信号分離回路141を備える。送信部796は、アンテナ素子701−1〜701−M、時間軸送信ウエイト乗算回路771、加算器781、D/A変換器782、アップコンバータ783を備える。受信部797は、アンテナ素子741−1〜741−M、受信信号処理回路775−1〜775−N、ダウンコンバータ784−1〜784−M、A/D変換器785−1〜785−M、複製器786−1〜786−Mを備え、受信信号処理回路775―nは、ウエイト算出回路772−n、相関算出回路773−n、時間軸受信ウエイト乗算回路774−n(n=1,…,N)を備える。ここで、第1の実施形態と同様に、Nは基地局装置2が無線通信サービスを同時に提供することができるセルの数に対応し、Mはアンテナ素子の数に対応する。
以下、図7を参照し、具体的な信号処理の流れについて説明する。
[1.送信の流れ]
まず、送信部796に、セル毎の変調器120から送信データのデジタル・ベースバンド信号が入力される。変調器120―nから出力される信号は時間軸送信ウエイト乗算回路771−nに入力される。時間軸送信ウエイト乗算回路771−nは、1系統の入力信号をM系統に複製し、複製されたM系統の信号に対応するアンテナ素子の時間軸送信ウエイトをサンプリングデータ単位で乗算する。乗算されたM系統の信号は、それぞれ加算器781−1〜781−Mに入力される。加算器781−1〜781−Mには、各変調器120−1〜120−Nに対応する時間軸送信ウエイト乗算回路771−1〜771−Nから出力されるN系統の信号が入力される。加算器781−1〜781−Mは、入力されたN系統の信号をサンプリングデータ単位で加算する。加算結果はD/A変換器782−1〜782−Mに入力され、デジタル信号からアナログ信号に変換される。これらの信号は、アップコンバータ783−1〜783−Mによってベースバンド信号から無線周波数帯の信号に変換された後、アンテナ素子701−1〜701−Mによって送信される。アンテナ素子701−1〜701−Mから送信される各信号は、対応するいずれかのセル方向にそれぞれ指向性を持つ。すなわち、基地局装置2の送信信号は、各セル方向に指向性を持つ複数の信号が重畳された信号となる。
[2.受信の流れ]
まず、アンテナ素子741−1〜741−Mによって各セルに存在する無線局装置から送信された信号が受信される。アンテナ素子741−1〜741−Mのそれぞれは、受信信号を対応するダウンコンバータ784−1〜784−Mに出力する。ダウンコンバータ784−1〜784−Mのそれぞれは、受信信号を無線周波数の信号からベースバンドの信号に周波数変換し、対応するA/D変換器785−1〜785−Mに出力する。A/D変換器785−1〜785−Mのそれぞれは、アナログ信号であるベースバンド信号をサンプリングしてデジタル信号に変換し、対応する複製器786−1〜786−Mに出力する。複製器786−1〜786−Mのそれぞれは、デジタル信号に変換されたベースバンド信号をN系統に複製し、複製した信号のそれぞれを対応する受信信号処理回路775―1〜775−Nに出力する。
受信信号処理回路775―n(nは1≦n≦Nの整数)にはそれぞれアンテナ素子741−1〜741−Mに対応したM系統の信号が入力される。受信信号処理回路775−n内の相関算出回路773−nは、アンテナ素子741−1〜741−M間の相関に基づいて送受信ウエイトを算出する処理を行うが、通常のデータ受信時においてはこの処理を行わず、入力されたM系統の信号をそのまま時間軸受信ウエイト乗算回路774−nに出力する。時間軸受信ウエイト乗算回路774−nは、ウエイト算出回路772−nから指示された第nセルに対応する時間軸受信ウエイトを各系統の信号にサンプリングデータ単位で乗算する。時間軸受信ウエイト乗算回路774−nは、乗算後の各系統の信号をサンプリングデータ単位で加算し、これを信号分離回路141に出力する。
このような受信処理において、時間軸受信ウエイト乗算回路774―nが第nセル方向に指向性を形成することにより、基地局装置2はその指向性方向に位置するセル内に存在する無線局装置と通信を行う。
[3.複素位相の回転量の算出]
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、基地局装置2がサービス運用中において固定的な指向性ビームを形成することにより、個別のセル間の信号の混信を回避する。固定的な指向性は、サービスの運用開始前に事前に取得する情報を基に形成することが可能であり、以下に示す処理はサービス運用開始前に事前に行う処理とすることが可能である。更に、サービス運用期間中においても、固定的な指向性は必要に応じて更新可能である。例えば夜間などのサービス休止時間を利用して更新することも可能である。
まず時間軸受信ウエイトは、第nセルの各測定ポイントに位置する各測定用送信装置から連続してトレーニング信号を送信し、基地局装置2の相関算出回路773−nがこれらのトレーニング信号の受信信号に基づいて算出する。第1の実施形態と同様に、アンテナ素子741で受信された信号は、ダウンコンバータ784、A/D変換器785、複製器786を経由して受信信号処理回路775―nにM系統の信号として入力される。受信信号処理回路775―nにおける相関算出回路773−nは、第nセルの第m測定ポイントから送信されたトレーニング信号を受信した際に、受信されたトレーニング信号に対して所定の周期性(例えばNFFTサンプル)を持つサンプリングデータを、M系統でタイミングを揃えて取得する。これをサンプリング信号列{Sn−m(1),Sn−m(2),Sn−m(3),・・・,Sn−m(NFFT)}とし、相関算出回路773−nは、基準アンテナ(例えば第1アンテナとする)との相関を、上記の式(1)を用いて取得する。
さらに、相関算出回路773−nは、式(2)により測定ポイント別受信ウエイトを算出する。なお、式(2)では規格化のために複素係数cjの絶対値で除算しているが、デジタル信号処理の場合には、最大比合成とするために規格化のための除算を省略しても良い。図2に示す様に、複数の測定ポイントについて個別に求めた測定ポイント別受信ウエイトはウエイト算出回路772−nに入力される。ウエイト算出回路772−nは、第nセルの複数の測定ポイントの測定ポイント別受信ウエイトを、アンテナ素子別に加算することによってそれぞれのアンテナ素子の受信ウエイトを算出する。このように算出された時間軸受信ウエイトは、時間軸受信ウエイト乗算回路774−nに入力される。時間軸受信ウエイト乗算回路774−nは、この時間軸受信ウエイトを記憶し、その後の受信信号処理において、サンプリングデータ単位でこの時間軸受信ウエイトを乗算する。
また、本図では明示していないが、図におけるC1〜C3の点には通常HPAが、D1〜D3の点には通常LNAが実装されるため、それぞれのアンプにおいて信号に付与される複素位相の不確定性がある。この不確定性をインプリシットフィードバックにおける一般的なキャリブレーション処理などにより適宜補正することで、時間軸受信ウエイトは時間軸送信ウエイトに変換される。ウエイト算出回路772−nは、このキャリブレーション処理を適宜実施し、これを時間軸送信ウエイト乗算回路771−nに入力する。時間軸送信ウエイト乗算回路771−nは、その後の送信時において、サンプリングデータ毎に、送信信号に時間軸送信ウエイトを乗算する。なお、第nセルの時間軸送受信ウエイトを算出する処理を実行している間は、その他の受信信号処理回路775は動作を停止していても良い。また、どのセルのどの測定ポイントからトレーニング信号を送信しているかなどは、別途、遠隔の操作により図示しない制御回路により管理・制御されるものとする。
第1の実施形態での説明と同様、図7に示す第2の実施形態でも時間軸ビームフォーミング技術を併用することが可能である。この結果、信号分離のために時間軸の信号を周波数軸上に変換(FFT)する必要がなく、各サンプリングデータ単位で指向性が形成される。そのため、各無線局装置がOFDMのシンボルタイミングを同期させる必要もない。さらに、本実施形態のように基地局装置を図7に示す送受信アンテナ分離型として構成した場合、送信アンテナと受信アンテナとが分離されているため、あるセルからの信号を受信している最中であっても、他のセルに向けて信号送信することも可能となる。
図8は、本発明第2の実施形態の基地局装置2が送受信アンテナ共用型として構成された場合の機能構成の具体例を示すブロック図である。図7の説明と同様に、図8では、第1の実施形態の基地局装置1と同じ符号を付すことにより、同様の機能部についての説明を省略する。
図8に示す基地局装置2は、ベースバンド信号処理回路150と、送信部796と、受信部797と、TDDスイッチ777とを備える。ベースバンド信号処理回路150、送信部796及び受信部797の動作は、図7における動作と同様である。図7との差分は、図7では送信アンテナ701と受信アンテナ741が分離されていたのに対し、図8では送受信アンテナ701が共用されている点である。このアンテナの共用は、アンテナ701とアップコンバータ783及びダウンコンバータ784との間に配置されるTDDスイッチ777によって実現される。TDDスイッチ777は、信号送信時にはアンテナ701−mをアップコンバータ783−mと接続し、信号受信時にはアンテナ701−mをダウンコンバータ784−mと接続する。ここで、信号受信時であるか信号送信時であるかは、図示されていない制御回路によりTDDスイッチ777に通知される。TDDスイッチ777は、制御回路からの指示に従い接続先を切り替える。
なお、ここでは全てのセルでアンテナ素子701を共用しているため、例えば第1セルからの信号受信時に、第2セル宛ての信号を送信することはできない。したがって、全てのセルで送信タイミングと受信タイミング(アップリンクとダウンリンクのタイミング)とが同期されている必要があり、フレーム構成などを用いて制御回路がそのタイミングを管理する。この点は、第1の実施形態と同様である。
[実施形態に関する補足事項]
以下、以上説明した本発明実施形態に関する補足事項を以下に示す。
上述のアップコンバータ123及びダウンコンバータ124には、無線周波数の信号とベースバンドの信号の間の周波数変換を行うために、ローカル発振器からの信号の入力が必要となる。ただし、本発明第1の実施形態では、各送信信号処理回路792−1〜792−N間及び各受信信号処理回路793−1〜793−N間で信号処理を協調して行うことを想定していないため、必ずしも共通のローカル発振器を利用する必要はない。一方、本発明第2の実施形態では、送信部796及び受信部797内のアップコンバータ783−1〜783−M及びダウンコンバータ784−1〜784−Mは、それぞれが協調してビームを形成するため、ローカル発振器から供給する信号は共通化されている必要がある。ただし、本実施形態では、記述が煩雑になることを回避するために、ローカル発振器の図示を省略している。
一つの基地局装置で複数の周波数チャネルをサポートする場合、測定ポイントは例えば次の図9に示されるように各セルに複数地点設定される。図9は、サービスエリア内の各セルについて設定された測定ポイントの具体例を示す図である。この場合、基地局装置2は、a−1〜g−1、a−2〜g−2、・・・、a−6〜g−6のそれぞれの測定ポイントから送信されるトレーニング信号を受信して複素位相の回転量を算出する。この場合、例えば受信信号処理回路793−1〜793−Nの入力端にフィルタなどの周波数分離器を配置することによって、異なる周波数チャネル間の信号分離を行うようにしてもよい。このように構成された基地局装置2は、周波数チャネルが異なる複数のセルから同時に送信されたトレーニング信号を分離することができるため、異なるセルの位相回転量ないしは送受信ウエイトの算出を並行して行うこともできる。
一般に位相回転量ないしは送受信ウエイトの取得は、時間的な制約のないサービス提供前の準備段階で行われることが多いため、必ずしも上記のように複数セルについて並行して行う必要はなく、測定ポイントa−1〜g−1、a−2〜g−2、・・・、a−6〜g−6のそれぞれから順番にトレーニング信号を送信して位相回転量を取得するようにしてもよい。例えば、図9の例において、セル651の測定ポイントa−1〜g−1から順番にトレーニング信号が送信される場合には、受信信号処理回路793−1〜793−Nのうち、セル651に対応する受信信号処理回路793−1のみが位相回転量の算出を行うようにしてもよい。同様に、セル652の測定ポイントa−2〜g−2から順番にトレーニング信号が送信される場合には、受信信号処理回路793−1〜793−Nのうち、セル652に対応する受信信号処理回路793−2のみが位相回転量の算出を行うようにしてもよい。
なお、サービス運用開始前に複素位相の回転量を設定する作業、ないしは時間軸送受信ウエイトを算出する作業などを実施する際に、どのセルのどの測定ポイントからトレーニング信号が送信されているかは、別途、制御回路が管理することとしているが、トレーニング信号を送信していることなどを通知するために、ここでは明記していない別の通信機能が基地局装置に備えられても良い。例えば、通信速度の低い別の無線回線を用いて直接制御回路に指示を出す構成としても良いし、ベースバンド信号処理回路150が接続するネットワークを介してこの種の情報を通知しても良い。
また、この各測定ポイントからのトレーニング信号の送信機能は、データ通信を行う無線局装置に実装されても良いし、基地局装置の設置時に行う作業時にのみ用いる専用のトレーニング信号送信器(測定用送信装置)により実現されても構わない。専用のトレーニング信号送信器は、サービス運用中にも常に同じ場所に設置しておき、例えば1日に1回とか所定の周期で設定情報(複素位相の回転量や時間軸送受信ウエイトなど)の更新を行う構成とされても良いし、基地局装置の設置作業時にひとつのトレーニング信号送信器を各測定ポイントに移動して、使いまわしても構わない。なお、このトレーニング信号送信機には指向性アンテナを実装し、基地局装置の設置作業時には基地局装置方向に指向性を向けてトレーニング信号を送信することが好ましい。
なお、各測定ポイントから送信するトレーニング信号は、アンテナ素子毎の相関を算出することが可能であれば如何なるパターンの信号であっても構わない。例えば、Wi−Fiのプリアンブルの信号の様な信号であっても良いし、OFDM信号であってもガードインターバルなどを含まない、単なる正弦波または複数周波数成分の正弦波を合成した信号であっても良い。ないしは、その他の独自の信号であっても構わない。なお、基地局装置が備える複数のアンテナ素子に対してある方向から到来する信号を平面波で近似すると、各アンテナ素子が配置される平面と到来する平面波の波面との角度差により、アンテナ素子毎の経路長差が生じる。そのため、基地局装置では、このアンテナ素子毎の経路長差に伴い微妙に遅延量が異なる信号が受信されることになる。この場合、受信信号(又はダウンコンバータで無線周波数からベースバンドに変換された後の信号)が、その遅延量差より短い周期性を持つパターンの信号であると問題となり得るが、それよりも長い(正確には想定される遅延量差の2倍以上)の周期性を持つ信号であれば、如何なる信号であっても構わない。
また、式(1)における相関算出においては所定の周期性としてOFDM信号の場合にはFFTポイント数であるNFFTサンプルに渡り相関算出を行うとしたが、例えばNFFTの整数倍であっても周期性は維持される様に、その他のサンプル数に渡る相関算出を行っても構わない。
また、第1の実施形態においては無線周波数のアナログ信号上で複素位相の回転を行っていたが、アップコンバータの位置を変更し、ベースバンドまたは中間周波数のアナログ信号に対して複素位相の回転を与え、その後段または前段で無線周波数との周波数変換を行う構成としても良い。
さらには送受信アンテナを分離して運用する場合に、送信アンテナから受信アンテナへの信号の漏れ込を避けるために、壁状の障害物を配置しても良い。
前述した実施形態における基地局装置、無線局装置をコンピュータで実現する様にしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線の様に、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリの様に、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、更に前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。