以下、本発明の実施形態である電池モジュール10について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である電池モジュール10の分解斜視図である。また、図2は、負極バスバ板24の平面図、図3は、電池モジュール10のYZ平面での断面図である。なお、以下の説明では、電池モジュール10の長手方向を「X方向」、筒型電池12の軸方向を「Z方向」、X方向およびZ方向に直交する方向を「Y方向」と呼ぶ。
電池モジュール10は円筒型の電池素子(以下「筒型電池」と呼ぶ)12を複数備えている。筒型電池12は、充放電可能な二次電池であり、例えば、円筒型のケースに収められたニッケル水素電池、リチウムイオン電池等である。筒型電池12の軸方向両端には、筒型電池12の電極である正極端子および負極端子が設けられている。図1に図示する電池モジュール10は、60個の筒型電池12を有しており、この60個の筒型電池12は、4列15行の配列で並べられている。60個の筒型電池12は、15個ごとにグループ分けされ、4つの電池グループを構成する。同一の電池グループに属する15個の筒型電池12は、後述する負極バスバ板24および正極バスバ板23により並列接続される。また、15個の筒型電池12を並列接続した電池グループは、後述するグループ間バスバ26により、他の電池グループまたは外部出力端子に直列接続される。
筒型電池12の負極端子側の端面には、筒型電池12内で生じたガスの放出を許容する排出弁(図示せず)が設けられている。この排出弁は、筒型電池12の内圧が上昇したときに開放できるのであれば、その構成は特に限定されない。排出弁は、例えば、筒型電池12の外装ケースを局所的に薄肉にして構成できる。過充電や過放電、短絡等に起因して筒型電池12の内部でガスが発生し、当該筒型電池12の内圧が上昇すると、当該排出弁(薄肉部)が破断して、ガスが筒型電池12の外部へ放出される。
各筒型電池12は、正極端子および負極端子の向きを揃えた状態で起立保持される。本実施形態では、筒型電池12は、負極端子がある端面を下(排煙カバー20側)に向けた起立姿勢で保持される。各筒型電池12は、その下端部が電池ホルダ14に設けられた挿通孔15に収容されて、電池ホルダ14に保持される。電池ホルダ14は略板形状であり、板平面に挿通孔15が二次元的に配置されている。この実施形態では、挿通孔15は、4列15行の配列で並べられており、隣の列の挿通孔15同士は、半ピッチずれて配置されている。
各挿通孔15は、筒型電池12の円筒形状と嵌まり合う丸孔形状となっている。筒型電池12は、この丸孔内に挿入され、接着剤60により、固定される(図3参照)。本実施形態では、この筒型電池12を固定する接着剤60として熱可塑性の接着剤を用いているが、その理由については、後に詳説する。
挿通孔15の中心軸線方向の長さは、保持した筒型電池12がぐらつかないよう十分な長さとなっている。挿通孔15は、電池ホルダ14を、その板厚方向において貫通しており、筒型電池12の下端は下方に露出している。また、挿通孔15の直径は、筒型電池12の直径よりも大きくなっており、挿通孔15の内周面と筒型電池12の外周面との間には、0.1mm〜1mm程度の間隙が形成されている。電池ホルダ14は、アルミニウム等の高伝熱材料からなる。これは、一部の筒型電池12から発生した熱を均等に分散して筒型電池12間での温度のバラツキを低減するためである。筒型電池12の性能や寿命は、温度によって変化するため、筒型電池12の温度のバラツキが低減することで、複数の筒型電池12の性能や寿命が均一化される。
電池ホルダ14で保持された複数の筒型電池12の周囲は、保護ケース16により覆われている。保護ケース16は、絶縁性を有した樹脂からなり、底部が完全開口した略箱型である。保護ケース16の下端は、電池ホルダ14の周縁に締結されている。この締結態様は、電池モジュール10が振動等を受けた際に、保護ケース16が電池ホルダ14とともに動ける締結態様であれば、特に限定されない。したがって、保護ケース16は、例えば、嵌合や螺合、溶接等により電池ホルダ14に締結される。なお、後述するように、正極バスバ板23は、保護ケース16と一体化されている。したがって、正極バスバ板23は、保護ケース16を介して、電池ホルダ14に締結されていると言える。
保護ケース16は、その上端近傍に設けられ、筒型電池12の正極端子側の端面を負極端子側に向かって押さえる天井板30(図3参照)を有する。天井板30には、配列された各筒型電池12の外径よりも小径の保持開口32が設けられている。この保持開口32を介して筒型電池12の正極端子が外部に露出する一方で、保持開口32の周縁で筒型電池12の端面が負極端子側に押さえられる。天井板30の上面には、正極バスバ板23が固着されている。さらに、保護ケース16の上方には、各種配線(例えば電圧検出用配線や、温度検出用配線)が配されるが、これらの配線は、絶縁カバー18で覆われる。
保護ケース16の周面には、入口開口34(図3参照)および出口開口36(図3参照)が形成されている。入口開口34は、筒型電池12を冷却する冷却風を、電池モジュール10の内部に流入させるための開口である。また、出口開口36は、電池モジュール10の内部に流れ込んだ冷却風を外部に放出するための開口である。出口開口36は、複数の筒型電池12を挟んで、入口開口34と反対側の側壁に設けられている。入口開口34および出口開口36は、いずれも、保護ケース16の側壁に設けられた複数のスリット孔である。このスリット孔は、高さ方向(Z方向)に長尺であり、長手方向(X方向)に間隔を開けて複数設けられている。
電池ホルダ14の下方には排煙カバー20が配置される。この排煙カバー20は、その周縁が上方にせり上がった、略舟形となっている。この排煙カバー20の周縁は、電池ホルダ14の周縁に密着し、電池ホルダ14との間に密閉空間を形成する。この密閉空間は、筒型電池12から放出されたガスが流れる排煙空間28として機能する。筒型電池12から排煙空間28に放出されたガスは、負極バスバアセンブリ25の端部に形成された排気孔62、および、電池ホルダ14の端部に形成された排気通路64(図1参照)を介して、電池モジュール10の外部に排出され、ダクト等によって、適切な位置に導かれる。
排煙カバー20も、保護ケース16と同様に、電池ホルダ14に締結されている。この締結態様も、電池モジュール10が振動等を受けた際に、排煙カバー20が電池ホルダ14とともに動ける締結態様であれば、特に限定されない。本実施形態において、排煙カバー20は、当該排煙カバー20の周縁から電池ホルダ14に向かって延びる締結部20aを介して電池ホルダ14に螺合締結されている。なお、負極バスバアセンブリ25の周縁は、排煙カバー20と電池ホルダ14とで挟み込まれているため、負極バスバアセンブリ25は、排煙カバー20を介して電池ホルダ14に締結されているといえる。
筒型電池12の下側には、負極バスバアセンブリ25が設けられている。負極バスバアセンブリ25は、電池グループと同数(本実施形態では四つ)の負極バスバ板24を、樹脂からなる被覆カバー43で被覆して、一体化したものである。四つの負極バスバ板24は、互いに間隔を開けて絶縁を保った状態のまま、被覆カバー43で一体化される。
各負極バスバ板24は、一つの電池グループを構成する15個の筒型電池12の負極を互いに電気的に接続する。この負極バスバ板24は、導電性材料、例えば、銅等からなる平板状部材である。負極バスバ板24には、配列された各筒型電池12に対応する貫通開口40が設けられている。貫通開口40は個々の筒型電池12に対して1個ずつが設けられ、対応する筒型電池12の下端の面が排煙空間28に対して露出するようにしている。貫通開口40は、筒型電池12の外径よりも僅かに小径となっている。この貫通開口40を介して、筒型電池12に設けられた排出弁が排煙空間28に露出する。筒型電池12から放出されたガスは、この貫通開口40を通過して排煙空間28に至る。
貫通開口40の周縁は、上側、すなわち、筒型電池12側に向かって僅かにせり上がって堰部48を構成する(図4参照)。これは、高熱により溶融した接着剤60の流出を阻害するためであるが、これについては、後述する。
貫通開口40の周縁からは、上方に突出して筒型電池12の負極端子に接触する接続片42が延びている。この接続片42は、適度な弾性を有した板バネ状になっており、先端に近づくほど、筒型電池12の負極端子に近づくように傾斜している。そして、全ての接続片42の先端は、対応する筒型電池12の負極端子に接触し、15個の筒型電池12の負極端子同士を電気的に接続する。
被覆カバー43は、貫通開口40を避けて負極バスバ板24を被覆している。そのため、被覆カバー43には、貫通開口40と同心の丸孔44が形成されている。負極バスバ板24の上側における丸孔44の内径は、電池ホルダ14に形成された挿通孔15よりも大きい。したがって、電池ホルダ14の下側に、負極バスバアセンブリ25を配した際、被覆カバー43は、電池ホルダ14の底面には、接触するものの、筒型電池12の底面には、接触しない。そして、筒型電池12の底面と、負極バスバ板24との間には、被覆カバー43の厚み相当の厚みを有した空間が形成される。この空間は、溶融した接着剤60が滞留する滞留空間46として機能する。
筒型電池12の上方には、負極バスバ板24と同様の形状の導電板を有した正極バスバ板23が配されている。この正極バスバ板23は、保護ケース16に組み込まれて、保護ケース16と一体化されている。正極バスバ板23も、一つの電池グループを構成する15個の筒型電池12の正極同士を電気的に接続する。そして、この負極バスバ板24および正極バスバ板23により、一つの電池グループを構成する15個の筒型電池12が並列に接続される。
四つの電池グループは、グループ間バスバ26により、直列に接続される。具体的には、グループ間バスバ26は、一つの電池グループに接続された正極バスバ板23と、隣接する他の電池グループに接続された負極バスバ板24と、を電気的に接続する。グループ間バスバ26は、銅等の導電性材料からなる略平板状部材であり、図1、図3に示すように、保護ケース16の外側に配されている。グループ間バスバ26は、その上端が、一つの電池グループの正極バスバ板23に、その下端が、隣接する電池グループの負極バスバ板24に接続されるように、Z方向に進むにつれX方向にも進むような略平行四辺形状となっている。
ここで、これまで説明したように、本実施形態では、筒型電池12を電池ホルダ14の挿通孔15に固定するための接着剤60として、熱可塑性接着剤を用いている。このような熱可塑性接着剤を用いる理由について説明する。
筒型電池12は、温度に応じて、その性能や寿命が変化することが知られている。したがって、筒型電池12の温度や寿命のバラツキを抑えるためには、複数の筒型電池12の温度が均等であることが望ましい。そのため、本実施形態では、伝熱性に優れた電池ホルダ14で筒型電池12を保持し、各筒型電池12からの熱を電池ホルダ14を介して、均等に分散している。
しかしながら、伝熱性に優れた電池ホルダ14は、筒型電池12が異常発熱した場合には、問題となる。すなわち、筒型電池12は、その内部で異常な化学反応が生じて、多量のガスが発生することがある。ガスの発生に伴い、電池ケース内の圧力が一定以上になれば、排出弁からガスが放出される。しかし、このガス放出の直前までは、圧力上昇に伴い、筒型電池12の温度も急激に上昇し、数百度にまで達する。こうした異常発熱が生じた筒型電池12の熱が、電池ホルダ14を介して他の筒型電池12にまで迅速に伝達されると、他の筒型電池12まで連鎖的に熱劣化する。つまり、筒型電池12の保持構造は、筒型電池12が正常駆動している場合には、高い伝熱性を持つことが望まれる一方で、筒型電池12が異常発熱した場合には、遮熱性を持つことが望まれている。
こうした要望を満たすために、本実施形態では、筒型電池12を固定するための接着剤60として熱可塑性接着剤を用いている。熱可塑性接着剤は、所定の溶融温度以上になれば溶融し、その後、温度が低下すれば固化する。かかる熱可塑性の接着剤60を用いて筒型電池12を固定した場合について図4、図5を参照して説明する。図4、図5は、負極端子近傍の拡大図(図3のA部拡大図)であり、図4は、接着剤60が溶融する前の、図5は、接着剤60が溶融した後の図である。
筒型電池12が正常に駆動している場合、図4に示す通り、筒型電池12と挿通孔15との間に位置して、筒型電池12を挿通孔15に固着している。各筒型電池12で生じた熱は、接着剤60を介して電池ホルダ14に伝わり、他の筒型電池12に均等に分散される。
一方、筒型電池12が異常発熱し、数百度まで上昇した場合には、当該異常発熱した筒型電池12の周囲の接着剤60は、溶融する。溶融した接着剤60は、図5に示す通り、電池ホルダ14の下方へと流出する。その結果、筒型電池12の外周面と、挿通孔15の内周面との間には、空気層が形成される。この空気層は、筒型電池12から電池ホルダ14への伝熱を阻害する遮熱層として機能する。その結果、異常発熱した筒型電池12の熱の伝熱が効果的に阻害され、他の筒型電池12の熱劣化を効果的に防止できる。
ところで、既述した通り、本実施形態では、筒型電池12と負極バスバ板24との間に、滞留空間46が形成されている。また、貫通開口40の周縁は、溶融した接着剤60の流出を阻害するように、上方にせり上がって、堰部48(図4参照)を構成する。その結果、異常発熱により溶融した接着剤60は、この滞留空間46に滞留することになる。
さらに、接着剤60が溶融する筒型電池12は、その自重により下方、すなわち、負極バスバ板24側に落下する。負極バスバ板24の上には、溶融した接着剤60が滞留しているため、落下した筒型電池12の底面は、この滞留した接着剤60に接触することになる。
この状態で、筒型電池12からガスが放出されると、筒型電池12の温度は、急激に低下する。そして、温度が一定以下まで低下すると接着剤60が、筒型電池12の底面に接触した状態のまま、再度、硬化する。そして、接着剤60が、完全に硬化することで、筒型電池12は、負極バスバ板24に固定される。その結果、挿通孔15から離脱した筒型電池12の動きが規制される。ここで、筒型電池12の動きが規制されず、筒型電池12が、負極バスバ板24や電池ホルダ14等の他部材に対して自由に動ける場合には、筒型電池12が、他部材に対して振動して衝突することで、騒音が発生したり、他部材が劣化したりする。しかし、本実施形態では、電池ホルダ14から分離した筒型電池12が、再固化した接着剤60により、負極バスバ板24に固定され、その動きが規制されるため、他部材の劣化や、騒音を効果的に防止できる。
なお、ここで用いる接着剤60は、熱可塑性であれば、その種類は、特に限定されない。ただし、接着剤60は、その融点が、正常駆動時の筒型電池12の最高温度より十分に大きくなければならない。例えば、正常駆動している際、筒型電池12の温度が70度を越えないことが分かっている場合には、融点が70度よりも十分に高い接着剤を用いることが望ましい。本実施形態では、100度前後で軟化し始め、150度前後の融点を持つポリプロピレン系の接着剤を採用している。
以上の説明で明らかな通り、本実施形態では、接着剤60として熱可塑性接着剤を用いるとともに、負極バスバアセンブリ25の構成を僅かに替えているだけで、異常発熱時の伝熱を阻害している。換言すれば、本実施形態では、異常発熱時の伝熱を阻害するために、新たな部品を追加していない。その結果、部品点数の増加、および、組み付け性の悪化を招かない簡易な構成で、筒型電池12の劣化を効果的に防止できる。また、本実施形態では、異常発熱により、電池ホルダ14から分離した筒型電池12を、溶融した接着剤60を利用して、負極バスバ板24に固着している。その結果、分離後も、当該分離した筒型電池12の動きを規制することができ、他部材の劣化や、騒音を効果的に抑制できる。
なお、これまで説明した構成は、一例であり、接着剤60として熱可塑性接着剤を用いるとともに筒型電池12と負極バスバ板24との間に滞留空間46が形成されるのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、本実施形態では、溶融して滞留空間46に滞留した接着剤60と、電池ホルダ14の底面とが接触することを避けるため、堰部48の上端を、電池ホルダ14の底面より低くしている。しかし、電池ホルダ14の底面に何らかの断熱機構を設けるのであれば、堰部48の上端と電池ホルダ14の底面とを同じ高さにしてもよい。また、筒型電池12の個数や、各種部材の形状等も、適宜、変更されもよい。