以下、図面を参照しつつ本発明に係るモニタ装置及びモニタ方法の実施形態について詳細に説明する。なお、各図では、説明の理解を容易にすべく各部を誇張して描写する場合があるため、図面上の寸法比は必ずしも実物とは一致しない。
本実施形態に係るモニタ装置及びモニタ方法は、光ファイバを用いてセメント系材料を含む施設の劣化度合いを長期間に亘って監視するためのものである。このモニタ装置及びモニタ方法では、光ファイバを用いてセメント系材料の劣化度合いを間接的に把握し、把握した当該劣化度合いが予め想定された劣化度合いの範囲内であるか否かを監視することで、施設の劣化度合いを監視する。施設の劣化は、施設におけるセメント系材料の劣化を意味する。セメント系材料は、当該セメント系材料に水が浸潤して当該セメント系材料からアルカリ分が溶出することにより劣化する。セメント系材料の劣化度合い(施設の劣化度合い)は、セメント系材料からのアルカリ分の溶出の進展度合いを意味する。
図1〜図3を参照しながら、本実施形態に係るモニタ装置及びモニタ方法が適用される施設の一例として、放射性廃棄物の余裕深度処分施設100について説明する。図1は、一実施形態に係るモニタ装置及びモニタ方法が適用されるコンクリート構造物の一例を示す斜視図である。図2は、図1のコンクリート構造物の断面図である。図3は、図1のコンクリート構造物の一部破断斜視図である。
図1に示されるように、放射性廃棄物の余裕深度処分施設100は、低レベル放射性廃棄物のうち放射能レベルが比較的高い放射性廃棄物の地層処分を行うための施設である。放射性廃棄物の余裕深度処分施設100は、地面G上に設けられた建屋Fと、地面Gに埋設されたコンクリート構造物(施設)101及び坑道120と、を含む。建屋Fは、余裕深度処分施設100の入口に設けられた建物である。建屋Fは、コンクリート構造物101に通じる坑道120と接続されている。
コンクリート構造物101は、鉄鋼製の容器に放射性廃棄物(放射性物質)が封入されて形成された廃棄体103を収容する。コンクリート構造物101は、廃棄体103を収容するトンネル105を有し、全体としてトンネル状をなしている。トンネル105内では、廃棄体103同士の隙間に充填材107が充填され、更にその周囲を多層に囲むように順に、コンクリートピット(セメント系人工バリア)109、低拡散層(セメント系人工バリア)111、緩衝層(ベントナイト系人工バリア)113が形成されている。緩衝層113とトンネル105の壁面との間の空間には埋め戻し層115が設けられている。
以下の説明では、図2及び図3に示すように、トンネル105の幅方向にX軸、トンネル105の長手方向(図2の紙面に直交する方向)にY軸、鉛直方向にZ軸を取ったXYZ座標系を設定し、各構成要素の位置関係の説明にX,Y,Zを用いる場合がある。また、「右側」、「左側」といったような「左右」の概念をもつ文言を用いる場合には、+X方向を「右」、−X方向を「左」とする。また、「上部」、「下部」といったような「上下」の概念をもつ文言を用いる場合には、+Z方向を「上」、−Z方向を「下」とする。
コンクリートピット109は、例えば鉄筋コンクリートで形成され、コンクリート構造物101の強度を確保する構造体をなす。コンクリートピット109は、廃棄体103を囲むように形成されている。コンクリートピット109は、YZ平面に平行な一対の側壁部109a,109aと、XY平面に平行な上壁部109bと、XY平面に平行な下壁部109cと、を有する。上壁部109bは、側壁部109a,109aの上端部同士を連結する。下壁部109cは、側壁部109a,109aの下端部同士を連結する。
低拡散層111は、例えばプレキャストコンクリートで形成され、廃棄体103からの放射線を拡散させる拡散場を形成する。低拡散層111は、コンクリートピット109を囲むように形成されている。低拡散層111は、YZ平面に平行な側壁部分である一対の側部低拡散層111a,111aと、XY平面に平行な上壁部分である上部低拡散層111bと、XY平面に平行な下壁部分である下部低拡散層111cと、を有する。上部低拡散層111bは、側部低拡散層111a,111aの上端部同士を連結する。下部低拡散層111cは、側部低拡散層111a,111aの下端部同士を連結する。側部低拡散層111a,111aは、コンクリートピット109の側壁部109a,109aと接するように設けられている。上部低拡散層111bは、コンクリートピット109の上壁部109bと接するように設けられている。下部低拡散層111cは、コンクリートピット109の下壁部109cと接するように設けられている。
緩衝層113は、例えば吹付け工法により吹き付けられたベントナイトで形成され、遮水層として機能する。緩衝層113は、低拡散層111を囲むように形成されている。緩衝層113は、YZ平面に平行な側壁部分である一対の側部緩衝層113a,113aと、XY平面に平行な上壁部分である上部緩衝層113bと、XY平面に平行な下壁部分である下部緩衝層113cと、を有する。上部緩衝層113bは、側部緩衝層113a,113aの上端部同士を連結する。下部緩衝層113cは、側部緩衝層113a,113aの下端部同士を連結する。側部緩衝層113a,113aは、低拡散層111の側部低拡散層111a,111aと接するように設けられている。上部緩衝層113bは、低拡散層111の上部低拡散層111bと接するように設けられている。下部緩衝層113cは、低拡散層111の下部低拡散層111cと接するように設けられている。
コンクリート構造物101では、トンネル105内の下部にポンプ117が設置されている。ポンプ117は、コンクリート構造物101の建設用作業空間を確保するため、コンクリート構造物101の外部に地下水を汲み出す。例えば、余裕深度処分施設100の供用開始前においては、ポンプ117は、コンクリート構造物101の外部に地下水を汲み出す。余裕深度処分施設100の供用開始時においては、ポンプ117は、その作動を停止される。余裕深度処分施設100の供用開始時以降においては、ポンプ117は、コンクリート構造物101の外部に地下水を汲み出さない。
ポンプ117が作動されている状態(コンクリート構造物101内に地下水が浸潤していない状態)からポンプ117が停止されると、地下水は、コンクリート構造物101の周囲から中央側に向かってコンクリート構造物101に浸潤し始める。そのため、地下水の仮想的な水面は、ポンプ117が停止されてから一定時間経過後に、例えば図2における浸潤線L1の位置に達する。その後、地下水の仮想的な水面は、時間経過と共に上方へ移動し、例えば図2における浸潤線L2〜L4の位置に順に達するように推移する。このように、地下水がコンクリート構造物101に浸潤する方向(浸潤方向)は、基本的には、下方から上方に向かう方向(Z方向)に沿う方向である。
この浸潤方向及び地下水がコンクリート構造物101に浸潤する速度(浸潤速度)は、コンクリート構造物101が埋設される土壌の地下水環境等により変化し得るが、浸潤方向及び浸潤速度は、予め調査した土壌の地下水環境の調査結果等に基づいて推定することができる。推定した浸潤方向及び浸潤速度に基づいて、余裕深度処分施設100の供用開始前に予め浸潤線の推移を推定することができる。この推定には、周知の推定方法を適宜用いることができる。
余裕深度処分施設100の供用開始後、コンクリート構造物101に浸潤した地下水は、セメント系材料からアルカリ分を溶出させ、セメント系材料を劣化させる。地下水は、余裕深度処分施設100の供用開始時点から一定期間(リージョン1ともいう)においては、セメント系材料から主として1価の金属イオンを溶出させる。上記一定期間の経過後(リージョン2ともいう)においては、地下水は、セメント系材料から主として2価の金属イオンを溶出させる。リージョン2における溶出の速度は、リージョン1における溶出の速度よりも遅い。したがって、リージョン1における地下水のアルカリ性の程度(例えばpHの値)は、リージョン2における地下水のアルカリ性の程度よりも大きくなる傾向がある。
なお、コンクリート構造物101の各部位において、リージョン1の開始時点は、地下水が当該各部位に到達した時点である。浸潤線L1から浸潤線L4に向かって地下水の浸潤が推移することから、地下水は、浸潤線L1〜L4の各位置に、この順で到達する。コンクリート構造物101の劣化度合いに関する異常が無い場合、リージョン1の開始時点は、浸潤線L1が一番早く、浸潤線L1から浸潤線L4に向かうに従って順に遅くなる。また、コンクリート構造物101の劣化度合いに関する異常が無い場合、リージョン1からリージョン2への遷移が起こる時点は、浸潤線L1が一番早く、浸潤線L1から浸潤線L4に向かうに従って順に遅くなる。
図1に示されるように、建屋Fからコンクリート構造物101までは、坑道120の作業用通路121に沿って光ファイバ10が設置されている。建屋Fには、光ファイバ10の端部が引き込まれている。建屋Fには、計測器20及び分析装置30等が設置され、引き込まれた光ファイバ10の端部に計測器20が接続されている。建屋Fは、モニタ装置1の計測器20及び分析装置30を操作するオペレータを収容する。
コンクリート構造物101に至った光ファイバ10は、当該コンクリート構造物101に沿って配置される。具体的な一例としては、図2及び図3に示されるように、光ファイバ10は、コンクリート構造物101に沿って配置された光ファイバF1,F2,F3,F4,F5を含む。光ファイバF1〜F5のそれぞれは、トンネル105の延在方向に沿って配置された光ファイバ10の一部分である(図1参照)。光ファイバF1〜F5は、コンクリート構造物101におけるセメント系材料に接触するように配置されている。図2及び図3の例では、光ファイバF1〜F5は、セメント系材料の表面に沿うように配置されている。
光ファイバF1は、トンネル105の左下端部付近及び右下端部付近において、トンネル105の表面に沿うように配置されている。一対の光ファイバF2,F2は、低拡散層111の左下端部及び右下端部において、下部低拡散層111c及び下部緩衝層113cとの境界部に設置されている。光ファイバF3は、下部低拡散層111cの中央部において、下部低拡散層111c及び下部緩衝層113cとの境界部に設置されている、一対の光ファイバF4は、側部低拡散層111a,111aの上端側において、側部低拡散層111a,111a及び側部緩衝層113a,113aとの境界部に設置されている、光ファイバF5は、トンネル105の上端部において、トンネル105の表面に沿うように配置されている。すなわち、光ファイバF2,F3,F4は、セメント系人工バリア及びベントナイト系人工バリアとの境界部に設置されている、なお、境界部は、境界面をなしていてもよいし、境界線をなしていてもよい。
図2の断面において、光ファイバF1は、その他の光ファイバF2〜F5が位置する浸潤線と同一の浸潤線上には存在しないように、その位置が設定されている。同様に、一対の光ファイバF2は、その他の光ファイバF1,F3〜F5が位置する浸潤線と同一の浸潤線上には存在しないように、その位置が設定されている。光ファイバF3は、その他の光ファイバF1,F2,F4,F5が位置する浸潤線と同一の浸潤線上には存在しないように、その位置が設定されている。一対の光ファイバF4は、その他の光ファイバF1〜F3,F5が位置する浸潤線と同一の浸潤線上には存在しないように、その位置が設定されている。光ファイバF5は、その他の光ファイバF1〜F4が位置する浸潤線と同一の浸潤線上には存在しないように、その位置が設定されている。
換言すれば、光ファイバF1は、浸潤線L1よりも下方側に位置しており、光ファイバF2は、当該浸潤線L1よりも上方側に位置している。地下水の仮想的な水面は、時間経過と共に浸潤線L1〜L4の位置に順に達するように上方へ移動することから、光ファイバF1は、浸潤線L1よりも浸潤方向の上流側に位置しており、光ファイバF2は、浸潤線L1よりも浸潤方向の下流側に位置している。したがって、光ファイバF2は、浸潤方向における光ファイバF1よりも下流側に設置されている。同様に、光ファイバF3は、浸潤方向における光ファイバF2よりも下流側に設置されている。光ファイバF4は、浸潤方向における光ファイバF3よりも下流側に設置されている。光ファイバF5は、浸潤方向における光ファイバF4よりも下流側に設置されている。すなわち、光ファイバ10は、地下水(水)の浸潤方向上流側に設置された第1光ファイバ(光ファイバF1〜F4)と、浸潤方向における第1光ファイバよりも下流側に設置された第2光ファイバ(光ファイバF2〜F5)と、を有する。したがって、浸潤してきた地下水は、光ファイバF1〜F5に、光ファイバF1から光ファイバF5への順番で、異なる時刻において到来する。
光ファイバ10について、図4を参照しつつ説明する。図4の(a)は、図1のコンクリート構造物に設置される光ファイバを例示する斜視図である。図4の(b)は、(a)の光ファイバの側面図である。
図4の(a)に示されるように、光ファイバ10は、主にガラス(SiO2)で構成される光ファイバ素線11と、当該光ファイバ素線11を覆う被覆12とを有する。被覆12は、アルカリ性に対する一定の耐久性を有しており、例えばポリアミド系材料で構成される。
光ファイバ10には、アルカリ弱部13が形成されている。アルカリ弱部13とは、光ファイバ10のうち局部的に光ファイバ素線11がアルカリ性環境の影響を受けやすい部分である。アルカリ弱部13は、アルカリ性環境下に設置された光ファイバ10のうち、光ファイバ素線11が溶解されやすいように意図的に形成した部分である。
図4の(a)の例では、アルカリ弱部13は、光ファイバ10の延在方向における位置Pnにおいて、光ファイバ10から被覆12を部分的に除去することにより形成されている。アルカリ弱部13では、アルカリ性環境下に光ファイバ10を設置すると、光ファイバ素線11がアルカリ分に接触することで光ファイバ素線11が溶解する(光ファイバ10の劣化)。光ファイバ素線11がガラス(SiO2)で構成されていることから、光ファイバ素線11の溶解は、例えば同環境下での金属の溶解と比べて非常に遅い。
光ファイバ10では、例えば図4の(b)に示されるように、光ファイバ10の延在方向における所定の位置P1,P2,P3等においてアルカリ弱部13が形成されている。位置P1,P2,P3等は、コンクリート構造物101において劣化度合いに関する異常の有無の検知を要する箇所に設定される。位置P1,P2,P3等は、例えば光ファイバ10の延在方向に沿って等間隔に離間して並ぶように設定されてもよい。
上述したような光ファイバ10を用いるモニタ装置1では、光ファイバ10のアルカリ弱部13における光の伝送強度(以下、単に「光ファイバ10の伝送強度」ともいう)を計測することで、コンクリート構造物101の劣化度合いを把握することができる。光ファイバ10の伝送強度は、モニタ装置1を用いて以下のようにして計測される。
図5は、モニタ装置の構成例を示すブロック図である。図5に示されるように、モニタ装置1では、光ファイバ10の伝送強度を計測するために、分析装置30が計測器20を介して光ファイバ10に接続される。
計測器20としては、例えばOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)を用いることができる。OTDRは、レーリー散乱光により光ファイバ10の伝送強度を計測するための計測器である。レーリー散乱光は、光ファイバ10に入射されたパルス光が光ファイバ10中を進む際に生じさせる各種散乱光のうちの一つである。レーリー散乱光は、各種散乱光のうち、入射光と同じ周波数を持ち、その光強度が光ファイバ10の各部分の損失に依存する散乱光である。
計測器20は、光信号発信部21と、分光部22と、光信号受信部23と、を有する。光信号発信部21は、光源及びパルス発生器を含む。光信号発信部21は、パルス光を発生させ、発生させたパルス光を光ファイバ10に入射させる。分光部22は、光ファイバ素線11において戻ってきたレーリー散乱光を分光する。光信号受信部23は、分光されたレーリー散乱光を受光し、受光した光の強度に関する情報を、分析装置30に送信する。
分析装置30は、光ファイバ10の伝送強度に基づいてコンクリート構造物101の劣化度合いに関する異常(以下、単に「劣化の異常」ともいう)を検知する。分析装置30は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory、及びRAM(Random Access Memory)によって構成されたコンピュータである。ROMには、分析装置30を制御するための制御プログラムが格納されている。CPUは、ROMに格納された制御プログラムに基づいて、分析装置30を制御する。RAMは、CPUがROMに格納された制御プログラムを実行する際のワークメモリとして機能する。
分析装置30は、機能的構成として、計測部31と、記憶部32と、劣化監視部33と、表示部34と、を有する。
計測部31は、計測器20の光信号受信部23で受光された光の強度に基づいて光ファイバ10の伝送強度を計測する。計測部31は、伝送強度を定期的に計測する。計測部31は、特に、余裕深度処分施設100の供用中において、光ファイバ10のアルカリ弱部13における伝送強度を定期的に計測する。
計測部31は、光ファイバ10の光ファイバ素線11を伝搬する光の速さが一定であることを利用して、光ファイバ10に入射されたパルス光による散乱光が、光ファイバ10の延在方向におけるどの位置で発生したかを特定する。計測部31は、光ファイバ10にパルス光が入射されてから散乱光が戻ってくるまでの経過時間を計測することで、当該散乱光に対応する光ファイバ10の伝送強度の低下が、光ファイバ10の延在方向におけるどの位置(どのアルカリ弱部13の位置)で生じているかを特定する。
図6は、図4の(b)の光ファイバにおける強度低下を例示するグラフである。図6の例では、光ファイバ10の延在方向に沿う位置P1,P2,P3において、アルカリ弱部13がそれぞれ形成されている。そして、これらのアルカリ弱部13は、被覆12がそれぞれ同程度光ファイバ10から除去されることで形成される(図4の(b)参照)と共に、同程度のアルカリ性環境下に設置されている。このアルカリ性環境は、コンクリート構造物101のセメント系材料から溶出するアルカリ分に相当する。この場合、位置P1,P2,P3において、アルカリ弱部13の光ファイバ素線11がアルカリ性環境により溶解する。光ファイバ素線11が溶解すると光ファイバ素線11の断面積が減少するため、光の強度の低下(伝送ロス)が生じる。よって、光ファイバ10の端部に計測器20及び分析装置30を繋いで伝送強度を調べることにより、計測部31は、図6に示されるように、光ファイバ10の伝送強度の低下がアルカリ弱部13に対応する位置P1,P2,P3において生じていることを特定することができる。
また、図7に示されるように、計測部31は、アルカリ弱部13における周囲のアルカリ分に応じた伝送強度の低下を計測することができる。図7の(a)は、光ファイバにおける強度低下の実験例を説明するための側面図である。図7の(b)は、図7の(a)の実験結果を示すグラフである。
図7の(a)の例では、光ファイバ10の延在方向に沿う位置P10,P13,P14において、アルカリ弱部13がそれぞれ形成されている。そして、これらのアルカリ弱部13のそれぞれは、光ファイバ10の延在方向において同程度の長さで、被覆12が光ファイバ10から除去されることで形成されている(図4の(b)参照)。これらのアルカリ弱部13は、それぞれ異なるアルカリ性環境を有する液体LQ1,LQ2,LQ3に浸漬されている。アルカリ性環境としては、液体LQ1のpHが約10であり、液体LQ2のpHが約13であり、液体LQ3のpHが約14である。
図7の(b)において、横軸は実験開始からの経過日数、縦軸は実験開始時における伝送強度を初期値とした伝送強度の低下量を示している。図7の(b)に示されるように、各アルカリ弱部13における伝送強度の経時的な低下量は、位置P10,P13,P14の順で大きくなっている。このように、アルカリ弱部13におけるアルカリ性の程度(例えばpH)が大きいほど光ファイバ素線11の溶解が速く進展する。
ここで、光ファイバ素線11の溶解に起因する伝送強度の低下速度は、光ファイバ素線11の断面積の減少を図8のようにモデル化する仮説により説明することができる。図8の(a)は、光ファイバの溶解による強度低下をモデル化して説明するための概念図である。図8の(b)は、図8の(a)のモデルにおける強度低下を例示するグラフである。
図8に示されるように、所定のアルカリ性環境である位置P
nに形成されたアルカリ弱部13において光ファイバ素線11が溶解した場合を考える。この場合、光ファイバ素線11の半径は溶解前における半径Rから半径dだけ減少し、光ファイバ素線11の断面積は断面積SA1から断面積SA2へ減少し、その結果、光ファイバ素線11の伝送強度はTP
iからTP
oへ減少する、という仮説を考えることができる。この場合、伝送強度の比TP
i/TP
oは、断面積SA1と断面積SA2との比SA1/SA2と等しいと考えられ、以下の数式1により表される。
図9の(a)は、図8の(a)の仮説に基づく光ファイバにおける強度低下の計算例を示す図である。図9の(a)は、pH=8の場合の例を示している。図9の(b)は、図9の(a)とは異なるpH(pH=10)での強度低下の計算例を示す図である。図9の(c)は、図9の(a)及び(b)とは異なるpH(pH=12)での強度低下の計算例を示す図である。
図9の(a)〜(c)の横軸は、光ファイバ素線11が溶解開始時点からの経過年数(対数軸)であり、縦軸は伝送強度の比TPi/TPo(対数軸)である。伝送強度の比TPi/TPoは、TPiを初期値とする伝送強度の低下割合を意味する。図9の(a)〜(c)では、アルカリ性環境の温度が25℃である場合及び60℃である場合の伝送強度の比TPi/TPoを示している。一般的には、アルカリ性環境の温度が高いほうが、光ファイバ素線11の溶解速度が速いため、伝送強度の比TPi/TPoの低下速度が速くなる。
図9の(a)は、pHが約8のアルカリ性環境下における伝送強度の比TPi/TPoの経時的な低下を示している。図9の(a)の例では、アルカリ性環境の温度が25℃である場合及び60℃である場合のいずれにおいても、経過年数が1000年に達しても伝送強度の比TPi/TPoがほとんど低下しておらず、伝送強度の比TPi/TPoが0.1に達するほどには低下しない。
図9の(b)は、pHが約10のアルカリ性環境下における伝送強度の比TPi/TPoの経時的な低下を示している。図9の(b)の例では、アルカリ性環境の温度が25℃である場合には、経過年数が100年に達しても伝送強度の比TPi/TPoがほとんど低下していない。一方で、アルカリ性環境の温度が60℃である場合には、経過年数が100年に達する前に、伝送強度の比TPi/TPoが0.01を下回るほど低下することが判る。
図9の(c)は、pHが約12のアルカリ性環境下における伝送強度の比TPi/TPoの経時的な低下を示している。図9の(c)の例では、アルカリ性環境の温度が25℃である場合には、図9の(b)よりも伝送強度の比TPi/TPoの低下速度が速いことが判るが、経過年数が100年に達しても伝送強度の比TPi/TPoが0.1に達するほどには低下しない。一方で、アルカリ性環境の温度が60℃である場合には、経過年数が10年に達する前に、伝送強度の比TPi/TPoが0.1に達するほど低下することが判る。
以上、図8及び図9で示したように、アルカリ分によるガラス(すなわち光ファイバ素線11)の溶解の速度は、アルカリ性環境の条件に応じて例えば数百年にも及ぶ長期間に亘って伝送強度の比TPi/TPoが低下するほど遅い。このことを利用して、計測部31により、周囲のアルカリ分に応じたアルカリ弱部13における伝送強度の低下を計測し、計測した伝送強度の低下が想定通りか否かに基づいて、セメント系材料を含む施設の劣化度合いを長期間に亘って監視することが可能となる。計測した伝送強度の低下が想定通りか否かの比較は、例えば後述するコンクリート構造物101の劣化シナリオを用いて行うことができる。また、アルカリ分による光ファイバ素線11の溶解の速度は、アルカリ性環境に応じて変化する。そこで、計測部31により計測した伝送強度の低下速度の変化(特に低下速度の鈍化)に基づいて光ファイバ素線11の溶解の速度の変化を検知することで、アルカリ性環境の変化を把握することができる。
引き続き、図5を参照しつつ、分析装置30について説明する。記憶部32は、予め算出されたコンクリート構造物101の劣化シナリオ(以下、単に「劣化シナリオ」ともいう)を記憶する。記憶部32は、不揮発性の記憶領域を有する。記憶部32は、一例として、HDD(Hard Disk Drive)である。
劣化シナリオは、コンクリート構造物101に用いられるセメント系材料の組成、及び、コンクリート構造物101が埋設される土壌の地下水環境等に基づいて、どのようにコンクリート構造物101への地下水の浸潤が進展していくか、及び、浸潤した地下水によってどのようにコンクリート構造物101の劣化が進展していくか、を予め推定したものである。
具体的には、劣化シナリオは、光ファイバ10(光ファイバF1〜F5)の周囲のアルカリ性の程度(例えばpH)の経時的な変化を含む。アルカリ性の程度の経時的な変化は、コンクリート構造物101からアルカリ分が溶出する程度の経時的な変化を推定することで得られる。
劣化シナリオは、リージョン1の想定期間及びリージョン1からリージョン2への想定遷移時刻を含む。リージョン1の想定期間及びリージョン1からリージョン2への想定遷移時刻は、劣化シナリオ上のアルカリ性の程度の経時的な変化に基づいて算出されてもよいし、後述の想定強度の低下速度が鈍化するまでの期間(第2経過年数)を用いて算出されてもよい。
劣化シナリオは、想定強度の経時的な変化を示す曲線を含む。想定強度は、推定したアルカリ性の程度の経時的な変化に基づいて想定される伝送強度である。この曲線は、推定したアルカリ性の程度が一定の条件下では、図9の(a)〜(c)における伝送強度の比TPi/TPoの曲線と相似する。
劣化監視部33は、計測部31で計測した伝送強度に基づいてコンクリート構造物101の劣化度合いを監視する。劣化監視部33は、例えば、計測部31で計測した伝送強度と、記憶部32に記憶された劣化シナリオと、に基づいて、コンクリート構造物101の劣化度合いに関する異常の有無を検知する。
劣化監視部33は、計測部31で計測した伝送強度を取得する。劣化監視部33は、記憶部32に記憶された劣化シナリオに基づいて、計測部31で当該伝送強度を計測した時刻における想定強度を取得する。劣化監視部33は、伝送強度と想定強度との差が基準値以上であるか否かを判定する。劣化監視部33は、伝送強度と想定強度との差が基準値以上であると判定した場合、劣化の異常を検知する。所定の基準値としては、固定の値であってもよいし、想定強度に対する所定の割合(例えば数%)の値であってもよい。
具体的には、劣化監視部33は、一例として、図10の(a)に示されるようにして、劣化の異常を検知する。図10の(a)は、劣化シナリオに基づく異常の有無の検知を説明するための図である。図10の(a)において、一点鎖線は、劣化の異常がある場合において計測部31で計測した伝送強度の経時変化を示し、実線は、劣化の異常がない場合において計測部31で計測した伝送強度の経時変化を示し、破線は、劣化シナリオに基づき想定される想定強度の経時変化を示している。この劣化の異常は、アルカリ分がセメント系材料から想定よりも速く溶出しているという異常である。劣化監視部33は、劣化の異常が存在しない場合、計測した伝送強度が同一時刻において想定強度と同等であることを利用して、計測した伝送強度が想定強度よりも同一時刻において小さい場合に異常の存在を検知する。
図10の(a)において、劣化監視部33は、年数Y1において計測部31により計測した伝送強度TPY1と、年数Y1において記憶部32から取得した想定強度TPSと、を比較する。劣化監視部33は、伝送強度TPY1と想定強度TPSとの差が基準値以上であるか否かを判定し、当該差が基準値以上でないと判定することにより、劣化の異常がないことを検知することができる。一方、劣化監視部33は、年数Y1において計測部31により計測した伝送強度TP’Y1と、年数Y1において記憶部32から取得した想定強度TPSと、を比較する。劣化監視部33は、伝送強度TP’Y1と想定強度TPSとの差が基準値以上であるか否かを判定し、当該差が基準値以上であると判定することにより、劣化の異常があることを検知することができる。
劣化監視部33は、劣化の異常を検知した場合、劣化の異常に関する情報を表示部34に表示させる。表示部34は、例えばモニタ装置1に設けられたディスプレイ装置である。表示部34は、劣化監視部33により検知した劣化の異常に関する情報を、例えば視覚的に報知する。表示部34は、主に分析装置30を操作しているオペレータ等に対して、劣化の異常に関する情報を文字及び画像等として表示する。劣化の異常に関する情報には、劣化に異常がある旨の情報と、劣化に異常がない旨の情報とが含まれる。
以上のように構成されたモニタ装置1を用いて実行されるモニタ方法の一実施形態について、図11を参照して説明する。図11は、モニタ方法の一実施形態を例示するフローチャートである。
図11に示されるように、始めに、アルカリ弱部13を有する光ファイバ10をコンクリート構造物101に沿って設置する(設置ステップ、ステップS10)。ステップS10では、例えば、浸潤方向における上流側から下流側に向かって、光ファイバF1,F2,F3,F4,F5をこの順で設置する(図2参照)。
続いて、ポンプ117を停止させる(ステップS11)。これにより、余裕深度処分施設100の供用が開始されると共に、地下水のコンクリート構造物101への浸潤が始まる。余裕深度処分施設100の供用中においては、後述のステップS12〜ステップS16を定期的に実施する。
続いて、計測部31により、余裕深度処分施設100の供用中における光ファイバ10の伝送強度TPYを計測する(ステップS12)。ステップS12では、計測器20を用いて、光ファイバ10の延在方向における位置に対する伝送強度TPYを計測部31により計測する。また、劣化監視部33により、記憶部32に記憶された想定強度TPSを取得する(ステップS13)。
続いて、劣化監視部33により、伝送強度TPYと想定強度TPSとの差が基準値以上であるか否かを判定する(ステップS14)。伝送強度TPYと想定強度TPSとの差が基準値以上であると劣化監視部33により判定された場合(ステップS14:YES)、劣化監視部33により、劣化の異常を検知する(ステップS15)。そして、劣化監視部33により、劣化に異常がある旨の情報を表示部34に表示させて報知する(ステップS16)。その後、一連の処理が終了される。
一方、伝送強度TPYと想定強度TPSとの差が基準値以上ではないと劣化監視部33により判定された場合(ステップS14:NO)、劣化に異常はないとして、劣化の異常に関する情報を報知することなく、一連の処理が終了される。なお、この場合、表示部34により、劣化に異常がない旨の情報を報知してもよい。
以上説明したように、コンクリート構造物101が劣化すると、セメント系材料からアルカリ分が溶出する。溶出したアルカリ分により、光ファイバ10の光ファイバ素線11(特にアルカリ弱部13における光ファイバ素線11)が溶解する。光ファイバ素線11が溶解すると光ファイバ素線11の断面積が減少するため、光の伝送強度の低下(伝送ロス)が生じる。よって、本実施形態に係るモニタ装置1及びモニタ方法では、光ファイバ10の端部に計測器20及び分析装置30を繋いで伝送強度を調べることで、セメント系材料の劣化度合いを推定することができる。そこで、アルカリ分によるガラス(光ファイバ素線11)の溶解の速度が遅いことを利用して、セメント系材料を含むコンクリート構造物101の劣化度合いを長期間に亘って監視することが可能となる。
モニタ装置1では、光ファイバ10は、セメント系材料を劣化させる地下水の浸潤方向上流側に設置された第1光ファイバ(例えば光ファイバF1)と、浸潤方向における第1光ファイバよりも下流側に設置された第2光ファイバ(例えば光ファイバF2)と、を有する。このように第1光ファイバ及び第2光ファイバを配置することにより、セメント系材料を劣化させる地下水の浸潤の進行度合いを把握することができる。なお、光ファイバF2,F3の組み合わせ、光ファイバF2,F4の組み合わせ等、浸潤方向上流下流の位置関係にある光ファイバ10の組み合わせは、上述の第1光ファイバ及び第2光ファイバの組み合わせに相当する。
モニタ装置1及びモニタ方法では、コンクリート構造物101は、廃棄体103を囲むように設けられセメント系材料を含むセメント系人工バリア(コンクリートピット109及び低拡散層111)と、セメント系人工バリアを囲むように設けられベントナイト系材料を含むベントナイト系人工バリア(緩衝層113)と、を有する。光ファイバ10は、セメント系人工バリア及びベントナイト系人工バリアとの境界部に設置されている。これにより、境界部に光ファイバ10を容易に設置することができる。
モニタ装置1は、光ファイバ10に入射させた光の散乱光のアルカリ弱部13における伝送強度を計測する計測部31と、計測部31で計測した伝送強度に基づいてコンクリート構造物101の劣化度合いを監視する劣化監視部33と、を備える。これにより、計測部31で計測した伝送強度に基づいてアルカリ弱部13における光ファイバ10の溶解を容易に把握することができる。
モニタ装置1及びモニタ方法では、劣化監視部33は、計測部31で計測した伝送強度と、予め算出された劣化シナリオと、に基づいて、コンクリート構造物101の劣化度合いに関する異常の有無を検知する。これにより、劣化シナリオを基準としてコンクリート構造物101の劣化度合いに関する異常の有無を検知するため、コンクリート構造物101の劣化度合いが想定通りか否かを把握することができる。
モニタ装置1及びモニタ方法では、劣化監視部33は、計測部31で計測した伝送強度と、劣化シナリオに基づき想定される想定強度と、を比較し、伝送強度と想定強度との差が基準値以上である場合には、施設の劣化度合いに関する異常の存在を検知する。これにより、例えば光ファイバ10が想定よりも速く溶解している場合には、アルカリ分がセメント系材料から想定よりも速く溶出しているという異常の存在を把握することができる。
次に、モニタ装置1及びモニタ方法の第2実施形態について、図12を参照して説明する。上述した第1実施形態に係るモニタ装置1及びモニタ方法では、劣化監視部33により、伝送強度TPYと想定強度TPSとの差を比較することで劣化の異常の有無を検知したが、第2実施形態に係るモニタ装置1及びモニタ方法は、劣化監視部33により、伝送強度の低下速度dTPYに基づいて劣化の異常の有無を検知する点で、第1実施形態に係るモニタ装置1及びモニタ方法と異なる。
計測部31は、光ファイバ10の伝送強度を定期的に計測する。計測部31は、計測した光ファイバ10の伝送強度を、当該伝送強度を計測した時刻と関連づけて記憶部32に記憶させる。
劣化監視部33は、計測部31で現在計測した伝送強度と、計測部31で過去に計測し記憶部32に記憶されている伝送強度と、に基づいて、伝送強度の低下速度を取得する。劣化監視部33は、取得した伝送強度の低下速度と、記憶部32に記憶された劣化シナリオと、に基づいて、コンクリート構造物101の劣化度合いに関する異常の有無を検知する。劣化監視部33は、伝送強度の低下速度を定期的に算出する。
具体的には、劣化監視部33は、計測部31で現在計測した伝送強度と、計測部31で過去に計測し記憶部32に記憶されている伝送強度と、を取得する。劣化監視部33は、記憶部32に記憶された伝送強度のうち、現在から所定時間遡った伝送強度を取得する。劣化監視部33は、現在の伝送強度と当該所定時間遡った伝送強度とにより、伝送強度の低下速度(低下勾配)を算出する。所定時間としては、例えば、伝送強度の低下速度を一定の精度で算出できるような時間間隔を用いることができる。劣化監視部33は、算出した伝送強度の低下速度を、当該低下速度を算出した時刻と関連づけて記憶部32に記憶させる。
劣化監視部33は、過去に算出し記憶部32に記憶させた伝送強度の低下速度と、現在新たに算出した伝送強度の低下速度と、に基づいて、伝送強度の低下速度の鈍化を検知する。伝送強度の低下速度の鈍化とは、リージョン1からリージョン2への遷移時刻において伝送強度の低下速度の大きさが一旦小さくなる現象を意味する。伝送強度の低下速度の鈍化は、リージョン1における地下水のアルカリ性の程度がリージョン2における地下水のアルカリ性の程度よりも大きい傾向があることに起因して、遷移時刻直前のリージョン1における伝送強度の低下速度のほうが遷移時刻直後のリージョン2における伝送強度の低下速度よりも大きくなることにより生じる。劣化監視部33は、伝送強度の低下速度の鈍化を検知し、検知した当該鈍化に基づいて、劣化の異常を検知する。
一例として、劣化監視部33は、図10の(b)に示されるようにして、伝送強度の低下速度の鈍化及び劣化の異常を検知する。図10の(b)は、劣化シナリオに基づく異常の有無の検知を説明するための他の図である。図10の(b)において、一点鎖線は、劣化の異常がある場合において計測部31で計測した伝送強度の経時変化を示し、破線は、劣化シナリオに基づき想定される想定強度の経時変化を示している。この劣化の異常は、アルカリ分がセメント系材料から想定よりも速く溶出しているという異常である。劣化監視部33は、劣化の異常が存在しない場合、計測した伝送強度の低下速度の鈍化が生じる時刻(例えば年数)が、劣化シナリオに基づいて想定される想定強度の低下速度の鈍化が生じる時刻と同等であることを利用して、計測した伝送強度の低下速度の鈍化が生じる時刻が、想定強度の低下速度の鈍化が生じる時刻よりも早い時刻で到来した場合、異常の存在を把握する。
図10の(b)の例では、年数Y2までの期間において計測した伝送強度の低下速度の大きさ(傾きの大きさ)が増加している。年数Y2以降において、計測した伝送強度の低下速度の大きさが低下速度dTPY2の大きさよりも小さくなっている。すなわち、年数Y2において、計測した伝送強度の低下速度dTPY2の大きさが極大となることから、年数Y2において、伝送強度の低下速度dTPY2が鈍化している。
劣化監視部33は、計測した伝送強度の低下速度が鈍化するまでの期間である第1経過年数を算出する。第1経過年数は、例えば、余裕深度処分施設100の供用開始時点から、計測上のリージョン1からリージョン2への遷移時刻までの年数である。第1経過年数は、計測上のリージョン1に相当する期間R1に対応し、その年数は年数Y2に等しい。
また、劣化監視部33は、劣化シナリオに基づき想定される想定強度の低下速度に基づいて、想定強度の低下速度が鈍化するまでの期間である第2経過年数を算出する。第2経過年数は、例えば、余裕深度処分施設100の供用開始時点から、劣化シナリオ上のリージョン1からリージョン2への遷移時刻までの年数である。第2経過年数は、劣化シナリオ上のリージョン1に相当する想定期間R1Sに対応し、その年数は年数Y3に等しい。
劣化監視部33は、第1経過年数と第2経過年数とを比較する。劣化監視部33は、第2経過年数から第1経過年数を減算した年数が基準値以上である場合には、劣化の異常の存在を検知する。所定の基準値としては、固定の値であってもよいし、想定強度に対する所定の割合(例えば数%)の値であってもよい。
図10の(b)の例では、計測上のリージョン1に相当する期間R1が劣化シナリオ上のリージョン1に相当する想定期間R1Sよりも基準値以上早期に到来する。このことは、計測上のリージョン1における地下水のアルカリ性の程度が、劣化シナリオ上想定されるアルカリ性の程度よりも大きいことを意味する。つまり、セメント系材料からのアルカリ分の溶出が想定よりも速く進展しており、劣化の異常が存在することを示している。そこで、劣化監視部33は、第1経過年数である年数Y2と第2経過年数である年数Y3とを比較し、年数Y3から年数Y2を減算した年数が基準値以上であると判定することにより、劣化の異常の存在を検知する。
図12は、モニタ方法の第2実施形態を例示するフローチャートである。図12に示されるように、まず、アルカリ弱部13を有する光ファイバ10をコンクリート構造物101に沿って設置し(ステップS20)、ポンプ117を停止させる(ステップS21)。続いて、計測部31により、余裕深度処分施設100の供用中における光ファイバ10の伝送強度TPY2を計測する(ステップS22)。これらステップS20〜ステップS22は、上述した実施形態に係るモニタ方法におけるステップS10〜ステップS12と同様である。余裕深度処分施設100の供用中においては、ステップS22〜ステップS28を定期的に実施する。
続いて、劣化監視部33により、計測した伝送強度TPYの低下速度dTPYを取得する(ステップS23)。劣化監視部33により、計測した伝送強度TPYの低下速度dTPYの鈍化を検知する(ステップS24)。続いて、劣化監視部33により、低下速度dTPYの鈍化を検知した時刻に基づき、年数Y2を取得する(ステップS25)。ステップS25では、劣化シナリオ上のリージョン1からリージョン2への遷移時刻に基づき、年数Y3を取得する。
続いて、劣化監視部33により、年数Y2,Y3の差が基準値以上であるか否かを判定する(ステップS26)。年数Y2,Y3の差が基準値以上であると劣化監視部33により判定された場合(ステップS26:YES)、劣化監視部33により、劣化の異常を検知する(ステップS27)。そして、劣化監視部33により、劣化に異常がある旨の情報を表示部34に表示させて報知する(ステップS28)。このステップS27,S28は、上述した実施形態に係るモニタ方法におけるステップS15,S16と同様である。その後、一連の処理が終了される。
一方、年数Y2,Y3の差が基準値以上ではないと劣化監視部33により判定された場合(ステップS26:NO)、劣化に異常はないとして、劣化の異常に関する情報を報知することなく、一連の処理が終了される。なお、この場合、表示部34により、劣化に異常がない旨の情報を報知してもよい。
以上説明したように、第2実施形態に係るモニタ装置1及びモニタ方法では、劣化監視部33は、計測部31で計測した伝送強度の低下速度が鈍化するまでの第1経過年数と、劣化シナリオに基づき想定される想定強度の低下速度が鈍化するまでの第2経過年数と、を比較する。劣化監視部33は、第2経過年数から第1経過年数を減算した年数が基準値以上である場合には、劣化の異常の存在を検知する。このように、伝送強度の低下速度の鈍化が想定よりも短期間で到来していることを利用することにより、アルカリ分がセメント系材料から想定よりも速く溶出しているという異常の存在を把握することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
上記実施形態では、施設として余裕深度処分施設100を例示したが、施設はこれに限定されない。セメント系材料からアルカリ分が溶出する劣化が生じる施設であれば、上述したモニタ装置1及びモニタ方法を適用することが可能である。
上記実施形態では、被覆12を除去することによりアルカリ弱部13を形成したが、アルカリ弱部13の態様は、これに限定されない。例えば、図13の(a)に示されるように、被覆12よりも径方向の厚さを薄くした被覆12Aを形成することにより、アルカリ弱部13Aを形成してもよい。また、図13の(b)に示されるように、一旦被覆12を除去した後に、当該被覆12を除去した箇所に被覆12のアルカリ性に対する耐久性よりも低い耐久性を有する被覆12Bを形成することにより、アルカリ弱部13Bを形成してもよい。この場合、被覆12Bの径方向の厚さは、被覆12の径方向の厚さと同等であってもよいし、被覆12の径方向の厚さと異なっていてもよい。被覆12Bの材料としては、ウレタン系材料を用いることができる。
上記実施形態では、光ファイバF1〜F5は、セメント系材料の表面に沿うように配置されていたが、セメント系材料の内部に埋め込まれていてもよい。