本発明は、フレークアイス製造装置に関する。
本発明は、氷、冷媒、氷の製造方法、及び被冷却物の製造方法に関する。
本発明は、動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法、及び動植物又はその部分の冷蔵剤に関する。
本発明は、被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法、被解凍物又はその加工物、及び生鮮動植物又はその部分の凍結剤に関する。
従来より、生鮮海産物の鮮度や品質を保持するために、生鮮海産物を氷で冷却する方法がとられている。例えば、漁船が漁に出る際には、大量の氷を漁船に積み込み、水氷(氷と海水の混合物)を満たした容器に、捕獲した魚を入れて輸送している。
しかしながら、真水から作った氷の場合、氷が溶けると、鮮度保持に使用している海水の塩分濃度が低下する。その結果、浸透圧により、水氷に浸している魚の体内に水が浸入して、魚の鮮度や味覚が落ちてしまうという問題がある。
そこで、特許文献1では、生鮮食品の鮮度保持に用いるために、略0.5〜2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成してなる塩含有水の製氷方法において、ろ過殺菌をした海水等の原水を塩分調整して約1.0〜1.5%前後の塩分濃度の塩含有水となし、該塩含有水に急速冷却を行なうことにより前記塩分濃度に対応する−5〜−1℃の氷点温度を持つスラリー状塩含有氷を生成する方法が開示されている。
また、従来より、魚の鮮度を保持すること等を目的として、氷が被冷却物の冷却に用いられている。
特許文献2には、食塩水からなる氷を魚に接触させることで魚を冷却し、魚の鮮度を保持する方法が開示されている。特許文献2には、食塩水からなる氷の製造方法として、塩水溶液を容器に溜め外部より冷却する方法が開示されている。
また、生鮮海産物等の動植物又はその部分は、氷水で冷却して鮮度を保持することが従来行われている。しかしながら、真水から作った氷の場合、氷が溶けると、鮮度保持に使用している海水の塩分濃度が低下する。その結果、浸透圧により、水氷に浸している動植物又はその部分の体内に水が浸入して、鮮度等が落ちてしまうという問題がある。
そこで、特許文献3では、略0.5〜2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成してなる塩含有水の製氷方法において、ろ過殺菌をした海水等の原水を塩分調整して約1.0〜1.5%前後の塩分濃度の塩含有水となし、該塩含有水に急速冷却を行なうことにより前記塩分濃度に対応する−5〜−1℃の氷点温度を持つスラリー状塩含有氷を生成する方法が開示されている。
また、特許文献4では、0.2〜5.0%(w/v)の食塩水ににがりを添加して、−3〜10℃の水温に保持した液中に、鮮魚を一定時間浸漬して凍結する方法が開示されている。
また、生鮮海産物等の生鮮動植物又はその部分の鮮度を保持するため、生鮮海産物等を氷で冷却することで被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造することが従来より行われている。例えば、漁船が漁に出る際には、大量の氷を漁船に積み込み、水氷(氷+海水)を満たした容器に、捕獲した魚を入れて輸送している。しかしながら、真水から作った氷の場合、氷が溶けると、鮮度保持に使用している海水の塩分濃度が低下する。その結果、浸透圧により、水氷に浸している魚の体内に水が浸入して、魚の鮮度や味覚が落ちてしまうという問題がある。
そこで、特許文献3では、製造された被冷凍動植物又はその部分の鮮度保持に用いるために、略0.5〜2.5%の塩分濃度を有する塩含有水の凍結により得られた塩含有氷をスラリー状に形成してなる塩含有水の製氷方法において、ろ過殺菌をした海水等の原水を塩分調整して約1.0〜1.5%前後の塩分濃度の塩含有水となし、該塩含有水に急速冷却を行なうことにより前記塩分濃度に対応する−5〜−1℃の氷点温度を持つスラリー状塩含有氷を生成する方法が開示されている。
また、特許文献4では、0.2〜5.0%(w/v)の食塩水ににがりを添加して、−3〜10℃の水温に保持した浸漬液中に、鮮魚を一定時間浸漬する方法が開示されている。
特開2002−115945号公報
特開2000−3544542号公報
特開2002−115945号公報
特開2006−158301号公報
しかしながら、特許文献1を含め従来の技術では、生鮮海産物中の水分は凍結すると結晶化するが、生鮮海産物中の氷の結晶が大きくなるため、生鮮海産物の細胞組織が破壊され、鮮度、味覚を維持できないという問題がある。また、特許文献1に記載されている従来方法の場合、スラリー状塩含有氷の氷点温度や浸漬液の水温がさほど低くないため、短期間しか生鮮海産物の鮮度を保持できず、被保冷物毎に要求される保冷温度に対応することができない。
また、塩水を凍らせた氷は、凍結点の高い真水の部分から凍結し始め、最終的に凍結する部分には、少量の塩水が凍結した部分や、氷の周りに析出した塩が付着している状況となり、氷の塩分濃度は不均一となってしまう。そして、融解時には、最終的に凍結した部分が先に融解し、高濃度の塩水が出てくるため、融解水は、融解の過程で塩分濃度が大幅に変化したり、温度が0℃に向けて上昇するといった技術的な課題があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、塩分濃度を略均一とするフレークアイスを容易に製造することを目的とする。また、冷却能に優れたフレークアイスの製造方法、及び分離しない状態を長く持続させることができるフレークアイスの製造方法を提供することができる。
また、特許文献2に記載された外部より冷却することで製造されたような氷では、冷却中に氷自身の温度が上がりやすく、被冷却物を冷却する能力が十分なものではなかった。
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、冷却能に優れた氷、その製造方法、被冷却物の製造方法、及び冷媒を提供することを目的とする。また、本発明は、分離しない状態である氷及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、動植物又はその部分を凍結させると、その中の水分が結晶化し、動植物又はその部分の細胞組織を破壊するため、鮮度等を維持しにくいという問題がある。そこで、動植物又はその部分が凍結しないが十分に低温な状態へと動植物又はその部分を維持することが望まれる。
しかし、従来の塩含有水から作成される氷では、融解過程で高濃度の塩水が逐次溶出し、やがて氷の温度が0℃へと上昇してしまう。このため、動植物又はその部分が凍結しないが十分に低温な状態で維持することは難しい。
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、動植物又はその部分が凍結しないが十分に低温な状態で維持することができる、動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法、および動植物又はその部分の冷蔵剤を提供することを目的とする。
また、生鮮動植物中の水分は凍結すると結晶化するが、従来方法の場合、生鮮動植物中の氷の結晶が大きくなるため、生鮮動植物の細胞組織が破壊され、鮮度、味覚を維持できないという問題がある。また、特許文献1や2に記載されている従来方法の場合、スラリー状塩含有氷の氷点温度や浸漬液の水温がさほど低くないため、短期間しか生鮮動植物の鮮度を保持できず、遠距離輸送ができないという課題がある。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、生鮮動植物又はその部分を凍結させても鮮度、味覚が落ちることがなく、遠隔地まで長時間輸送することが可能な被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法、被解凍物又はその加工物、及び生鮮動植物又はその部分の凍結剤を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の一態様のフレークアイス製造装置は、
内筒と、当該内筒を囲繞する外筒と、当該内筒と当該外筒との間に形成されるクリアランスとを含むドラムと、
前記クリアランスに対して冷媒を供給する冷媒供給部と、
前記ドラムの中心軸を軸として回転する回転軸と、
前記回転軸と共に回転し、前記内筒の内周面に向けてブラインを噴射する噴射部と、
前記噴射部から噴射された前記ブラインが、前記クリアランスに供給された前記冷媒により冷却された前記内筒の内周面に付着し、その結果として生成されたフレークアイスを掻き取る掻取部と、
を備える。
また、前記ブラインは、
所定の条件を満たす、溶質を含有する水溶液と、
前記水溶液を含む液体の氷よりも高い熱伝導率を有する固体(例えば金属)を含有することができる。
また、前記液体は、
さらに油を含有することができる。
また、前記溶質は、
凝固点降下度が異なる2種以上の溶質を含むことができる。
また、本発明の一態様のフレークアイス製造装置は、
前記回転軸の回転速度を可変制御する速度制御部
をさらに備えることができる。
また、前記冷媒供給部は、
前記冷媒として、液化天然ガスを前記クリアランスに供給することができる。
また、本発明者らは、所定の方法により凝固点が低下した水溶液自身の氷を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
(1) 以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体の氷。
(a)融解完了時の温度が0℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
(2) 前記液体が、さらに油を含有する、(1)に記載の氷。
(3) 前記溶質は、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を含む、(1)又は(2)に記載の氷。
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の氷を含む、冷媒。
(5) さらに、前記氷に含まれる溶質と同一の溶質を含有する水を含み、
前記氷における前記溶質の濃度と、前記水における前記溶質の濃度との比が、75:25〜20:80である、(4)に記載の冷媒。
(6) さらに、前記氷より高い熱伝導率を有する固体を含有する、(4)又は(5)に記載の冷媒。
(7) 溶質を含有する水溶液を含む液体の氷の製造方法であって、
溶質を含有する水溶液を含む液体を、該水溶液の凝固点以下の温度に保持された壁面に対して噴霧することによって、前記壁面上に前記水溶液を含む液体の氷を生成する工程と、
前記壁面上において生じた前記氷を回収する工程と、有する方法。
(8) 前記氷を生成する工程において、前記壁面が前記水溶液の凝固点より5℃以上低い温度に保持される、(7)に記載の方法。
(9) 前記氷を回収する工程は、前記壁面上に前記氷を保持する時間を調整する工程を含む、(7)又は(8)に記載の方法。
(10) 冷却された被冷却物の製造方法であって、
(4)から(6)のいずれかに記載の冷媒を用いて被冷却物を冷却する工程を有する、方法。
(11) 前記冷却する工程において、前記冷媒に含まれる氷と前記被冷却物との間に、前記氷より高い熱伝導率を有する固体が介在する、(10)に記載の方法。
また、本発明者らは、(a)融解完了時の温度が0℃未満であり、かつ(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である氷は、その融解過程の温度を一定に維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下を提供する。
(1) 動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法であって、
以下の(a)〜(c)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液の氷を用いて、前記動植物又はその部分を冷蔵する工程を有する方法。
(a)融解完了時の温度が0℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
(c)温度が、前記動植物又はその部分の凍結点〜前記凍結点+0.5℃である
(2) 前記水溶液は、動植物又はその部分と等張である(1)記載の方法。
(3) 前記冷蔵は、前記動植物又はその部分と前記氷とを直接接触させて行う(1)又は(2)記載の方法。
(4) 前記動植物は食用である(1)から(3)いずれか記載の方法。
(5) 前記動植物は海水魚であり、前記水溶液のNaCl濃度は0%超2%未満である(4)記載の方法。
(6) 前記動植物の部分は、動物の臓器である(1)から(3)いずれか記載の方法。
(7) 前記氷は、海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水、の氷である(1)から(6)いずれか記載の方法。
(8) 以下の(a)〜(c)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液の氷を含む、動植物又はその部分の冷蔵剤。
(a)融解完了時の温度が0℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
(c)温度が、前記動植物又はその部分の凍結点〜前記凍結点+0.5℃である
また、上記目的を達成するため、本発明に係る被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法は以下の工程を備える。
(1)塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程
(2)前記氷スラリーに生鮮動植物又はその部分を浸漬し、該生鮮動植物又はその部分を瞬間凍結させる工程
生鮮動植物中の水分は凍結すると結晶化するが、生鮮動植物を緩慢凍結させた場合、氷の結晶が大きくなるため、生鮮動植物の細胞組織が破壊され、生鮮動植物の鮮度、味覚が劣化する。一方、本発明では、生鮮動植物を瞬間凍結させるので、生鮮動植物の組織内に発生する氷の結晶が小さくなり、生鮮動植物組織の損傷が少なく、生鮮動植物の鮮度、味覚が保持される。
本発明では、生鮮動植物を瞬間凍結させるため、氷スラリーの原料である塩水の塩分濃度を従来に比べて大幅に高くしている。塩分濃度が13.6%である塩水の理論飽和凍結点は−9.8℃、塩分濃度が23.1%である塩水の理論飽和凍結点は−21.2℃である。塩水の塩分濃度が13.6%未満の場合、製造した氷スラリーによる生鮮動植物の凍結速度が遅くなる。一方、塩水の塩分濃度が23.1%超の場合、塩分が結晶として析出するため、塩水の飽和凍結点が上昇する。
なお、塩分濃度が高くても、生鮮動植物の表面が瞬間凍結して氷結するため、生鮮動植物中に塩分が侵入することはない。
また、本発明に係る生鮮動植物の被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法では、混合する前記氷と前記塩水の塩分濃度が同程度であることを好適とする。
氷の塩分濃度が塩水の塩分濃度より高い場合、氷の温度が塩水の飽和凍結点より低いため、塩分濃度が低い塩水を混合した直後に水分が凍結する。一方、氷の塩分濃度が塩水の塩分濃度より低い場合、氷の飽和凍結点よりも塩水の飽和凍結点のほうが低いため氷が溶解し、氷スラリーの温度が低下する。従って、氷スラリーの状態を変動させないようにするためには、混合する氷と塩水の塩分濃度を同程度とすることが好ましい。
また、本発明に係る被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法では、混合する前記氷と前記塩水の質量比が氷:塩水=75:25〜20:80であることを好適とする。
氷の質量比が75質量%を超えると、固形分の比率が高くなるため、生鮮動植物と氷スラリーとの間に隙間が発生し、生鮮動植物に氷スラリーが密着しなくなる。一方、氷の質量比が20質量%未満であると、製造した氷スラリーによって生鮮動植物を瞬間凍結しづらくなる。
また、本発明に係る被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法では、瞬間凍結させた前記生鮮動植物を前記氷スラリーから取り出して、該生鮮動植物を瞬間凍結時の温度以下で冷凍保存することを好適とする。これにより、遠隔地まで長時間輸送しても生鮮動植物鮮度、味覚が落ちることがない。
本発明に係る被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法において、生鮮動植物としては、例えば、海水魚等の生鮮海産物、生鮮野菜等が挙げられる。生鮮動植物の部分としては、動物(ヒト等)の臓器が挙げられる。
また、本発明に係る被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法では、塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水を凍結させた氷は、以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液の氷であることが好ましい。
(a)融解完了時の温度が−5℃未満である
(b)融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
水に食塩等の溶質を融解した場合、その水溶液の凝固点が低下するという凝固点降下が生じることが知られている。凝固点降下の作用により、従来の食塩等の溶質が融解した水溶液は、凝固点降下により凝固点が低下している。つまり、そのような水溶液からなる氷は、真水からなる氷より低い温度で凝固した氷である。ここで、氷が水に変化するときに必要な熱を「潜熱」というが、この潜熱は温度変化を伴わない。このような潜熱の効果により、凝固点が低下した氷は、融解時に真水の凝固点以下の温度で安定な状態が続くため、冷熱エネルギーを蓄えたような状態が持続することになる。よって、本来であれば、被冷却物の瞬間凍結能が真水からなる氷より高くなるために、瞬間凍結に適しているはずである。しかし、従来の外部より冷却することで製造されたような氷は、瞬間凍結させるための冷却の際に自身の温度が経時的に早く上がる等、被冷凍生鮮動植物を冷却する能力が十分なものではないために瞬間凍結には適さないことを本発明者らは発見し、その理由を検討した。その結果、従来の方法では、食塩等の溶質を含有する水溶液から氷を製造したとしても、実際は、水溶液が凍る前に溶質を含まない氷が先に製造されてしまい、結果として製造されるのは溶質を含まない氷と溶質との混合物となってしまうか、あるいは、凝固点の低下した氷はほんの僅かしか生成されないため、瞬間凍結能の高い氷が製造されていなかったことがわかった。
しかしながら、本発明者らは、所定の方法により(詳細は後述する)、凝固点が低下した水溶液の氷を製造することに成功した。そのような氷が、本発明において用いられる氷であり、生鮮動植物又はその部分の瞬間凍結するのに適している。そして、本発明における氷で生鮮動植物又はその部分の瞬間凍結した場合、その解凍物の鮮度、味覚が落ちにくいことを見出した。このような本発明の製造方法で用いられる氷の好ましいものは、上述の(a)及び(b)の条件を満たすものである。以下、上述の(a)及び(b)の条件について説明する。
上記(a)に関して、本発明における氷は、溶質(食塩)を所定量含む水溶液であるため、真水(溶質を含まない水)の凝固点より凝固点の温度が低下している。特に、そのため、融解完了時の温度が−5℃未満(−6℃以下、−7℃以下、−8℃以下、−9℃以下、−10℃以下、−11℃以下、−12℃以下、−13℃以下、−14℃以下、−15℃以下、−16℃以下、−17℃以下、−18℃以下、−19℃以下、−20℃以下等)であることが好ましい。他方、凝固点を、被冷凍生鮮動植物の凍結点に近づけた方が好ましい場合もあり(例えば、生鮮動植物の損傷を防ぐため等)、このような場合は、融解完了時の温度が高すぎない方が好ましく、例えば、−21℃以上(−20℃以上、−19℃以上、−18℃以上、−17℃以上、−16℃以上、−15℃以上、−14℃以上、−13℃以上、−12℃以上、−11℃以上、−10℃以上、−9℃以上、−8℃以上、−7℃以上、−6℃以上等)であることが好ましい。「融解完了時の温度」とは、本発明の氷を融点以上の環境下(例えば、室温、大気圧下)に置くことで氷の融解を開始させ、全ての氷が融解して水になった時点におけるその水の温度のことを指す。
上記(b)に関して、本発明の氷は、融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率(以下、本明細書において「溶質濃度の変化率」と略称する場合がある。)が30%以内であることが好ましい。従来の方法においても、わずかに凝固点の低下した氷が生じる場合もあるが、そのほとんどは溶質を含まない水の氷と溶質の結晶との混合物であるため、瞬間凍結能が十分なものでない。このように溶質を含まない水の氷と溶質の結晶との混合物が多く含まれる場合、氷を融解条件下においた場合、融解に伴う溶質の溶出速度が不安定であり、融解開始時に近い時点である程、溶質が多く溶出し、融解が進むとともに溶質の溶出する量が少なくなり、融解が完了時に近い時点程、溶質の溶出量が少なくなる。これに対し、本発明における氷は、溶質を含む水溶液の氷からなるものであるため、融解過程における溶質の溶出速度の変化を少なくすることができる。具体的には、融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%であることが好ましい。なお、「融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率」とは、融解過程の任意の時点での発生する水溶液における溶質濃度に対する、融解完了時における水溶液の濃度の割合を意味する。なお、「溶質濃度」とは、水溶液中の溶質の質量の濃度を意味する。
本発明の氷における溶質濃度の変化率は、少ない方が凝固点の低下した水溶液の氷の純度が高いこと、つまり、瞬間凍結能が高いことを意味する。この観点から、溶質濃度の変化率は、25%以内(24%以内、23%以内、22%以内、21%以内、20%以内、19%以内、18%以内、17%以内、16%以内、15%以内、14%以内、13%以内、12%以内、11%以内、10%以内、9%以内、8%以内、7%以内、6%以内、5%以内、4%以内、3%以内、2%以内、1%以内、0.5%以内等)であることが好ましい。他方、溶質濃度の変化率は、0.1%以上(0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、19%以上、20%以上等)であってもよい。
また、本発明は、上記の方法により製造される被冷凍生鮮動植物又はその部分を解凍してなる被解凍物またはその加工物である。
また、本発明は、以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液の氷を含む、生鮮動植物又はその部分の凍結剤である。
(a)融解完了時の温度が−5℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
本発明によれば、塩分濃度を略均一とするフレークアイスを容易に製造することができる。また、冷却能に優れたフレークアイスの製造方法、及び分離しない状態を長く持続させることができるフレークアイスの製造方法を提供することができる。
本発明によれば、冷却能に優れた氷、その製造方法、被冷却物の製造方法、及び冷媒を提供することができる。また、本発明は、分離しない状態である氷及びその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、動植物又はその部分が凍結しないが十分に低温な状態で維持することができる。
本発明に係る被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法では、氷スラリーの原料である塩水の塩分濃度を従来に比べて大幅に高めることにより大幅に温度が低下した氷スラリーを生鮮動植物に接触させることで、生鮮動植物を瞬間凍結させることができる。その結果、生鮮動植物の組織の損傷が少なくなり、生鮮動植物の鮮度、味覚が保持される。また、瞬間凍結させた生鮮動植物を瞬間凍結時の温度以下で冷凍保存した状態で輸送することにより、遠隔地まで長時間輸送しても生鮮動植物の鮮度、味覚が落ちることがない。
本発明の一実施形態に係る保冷庫の構成を示す断面図である。
本発明の他の実施形態に係る保冷庫の構成を示す断面図である。
本発明の一実施形態に係るフレークアイス製造装置の概要を示す部分断面斜視図を含むイメージ図である。
図3のフレークアイス製造装置を含むフレークアイス製造システムの全体の概要を示すイメージ図である。
本発明の一実施形態に係る氷スラリー供給システムの概要を示すイメージ図である。
図3のフレークアイス製造装置によって製造されたフレークアイスから製造することができる氷スラリーの種類を示すイメージ図である。
図1の保冷庫の断熱構造の一例を示す図である。
LNGの排冷熱の利用例を示す図である。
本発明の動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法において用いられる製氷機の部分断面斜視図である。
図9に示される製氷機を用いた製氷システムの模式図である。
実施例1に係る氷と高濃度食塩水についての経時的な温度変化を示すグラフである。
実施例2に係る氷(溶液:飽和食塩水)、実施例2に係る氷(溶液:飽和食塩水+CU)、飽和食塩水(−20℃水溶液)により魚を冷却したときの、魚体芯の温度の経時変化を示す。
本発明の動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法において用いられる製氷機の部分断面斜視図である。
図13に示される製氷機を用いた製氷システムの模式図である。
実施例に係る氷により製造した被冷蔵物の海水魚と、Crushed Iceにより製造した被冷蔵物の海水魚の製造過程における温度の経時変化を示すグラフである。
本発明の一実施の形態に係る被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法に使用する製氷機の部分断面斜視図である。
同製氷機を含む製氷システムの模式図である。
<氷>
本発明の氷は、以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体(ブラインともいう。)の氷(フレークアイスともいう。)である。
(a)融解完了時の温度が0℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
水に溶質を融解した場合、その水溶液の凝固点が低下するという凝固点降下が生じることが知られている。凝固点降下の作用により、食塩等の溶質が融解した水溶液は、その凝固点が低下している。つまり、そのような水溶液からなる氷は、真水からなる氷より低い温度で凝固した氷である。
ここで、氷が水に変化するときに必要な熱を「潜熱」というが、この潜熱は温度変化を伴わない。このような潜熱の効果により、上記のような凝固点が低下した氷は、融解時に真水の凝固点以下の温度で安定な状態が続くため、冷熱エネルギーを蓄えた状態が持続することになる。
よって、本来であれば、被冷却物の冷却能が真水からなる氷より高くなるはずである。しかし、従来の技術によって製造された氷は、冷却の際に自身の温度が経時的に早く上がる等、被冷却物を冷却する能力が十分なものではないことを本発明者らは発見した。その理由について本発明者らは検討したところ、従来の技術では食塩等の溶質を含有する水溶液から氷を製造したとしても、実際は、水溶液が凍る前に溶質を含まない氷が先に製造されてしまい、結果として製造されるのは溶質を含まない氷と溶質との混合物となってしまうか、あるいは、凝固点の低下した氷はほんの僅かしか生成されないため、冷却能の高い氷が製造されていなかったことがわかった。
しかしながら、本発明者らは、所定の方法により(詳細は後述する)、凝固点が低下した水溶液を含む液体の氷を製造することに成功した。このような本発明の氷は、上述の(a)及び(b)の条件を満たすものである。以下、上述の(a)及び(b)の条件について説明する。
(融解完了時の温度)
上記(a)に関して、本発明の氷は、溶質を含む水溶液を含む液体の氷であるため、真水(溶質を含まない水)の凝固点より凝固点の温度が低下している。そのため、融解完了時の温度が0℃未満であるという特徴を有する。「融解完了時の温度」とは、本発明の氷を融点以上の環境下(例えば、室温、大気圧下)に置くことで氷の融解を開始させ、全ての氷が融解して水になった時点におけるその水の温度のことを指す。
融解完了時の温度は0℃未満であれば特に限定されず、溶質の種類、濃度を調整することで適宜変更することができる。融解完了時の温度は、より冷却能が高いという点で、温度が低い方が好ましく、具体的には、−1℃以下(−2℃以下、−3℃以下、−4℃以下、−5℃以下、−6℃以下、−7℃以下、−8℃以下、−9℃以下、−10℃以下、−11℃以下、−12℃以下、−13℃以下、−14℃以下、−15℃以下、−16℃以下、−17℃以下、−18℃以下、−19℃以下、−20℃以下等)であることが好ましい。他方、凝固点を、被冷却物の凍結点に近づけた方が好ましい場合もあり(例えば、生鮮動植物の損傷を防ぐため等)、このような場合は、融解完了時の温度が高すぎない方が好ましく、例えば、−21℃以上(−20℃以上、−19℃以上、−18℃以上、−17℃以上、−16℃以上、−15℃以上、−14℃以上、−13℃以上、−12℃以上、−11℃以上、−10℃以上、−9℃以上、−8℃以上、−7℃以上、−6℃以上、−5℃以上、−4℃以上、−3℃以上、−2℃以上、−1℃以上、−0.5℃以上等)であることが好ましい。
(溶質濃度の変化率)
上記(b)に関して、本発明の氷は、融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率(以下、本明細書において「溶質濃度の変化率」と略称する場合がある。)が30%以内であるという特徴を有する。特許文献1に記載されたような方法においても、わずかに凝固点の低下した氷が生じる場合もあるが、そのほとんどは溶質を含まない水の氷と溶質の結晶との混合物であるため、冷却能が十分なものでない。このように溶質を含まない水の氷と溶質の結晶との混合物が多く含まれる場合、氷を融解条件下においた場合、融解に伴う溶質の溶出速度が不安定であり、融解開始時に近い時点である程、溶質が多く溶出し、融解が進むとともに溶質の溶出する量が少なくなり、融解が完了時に近い時点程、溶質の溶出量が少なくなる。これに対し、本発明の氷は、溶質を含む水溶液を含む液体の氷からなるものであるため、融解過程における溶質の溶出速度の変化が少ないという特徴を有する。具体的には、融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%である。なお、「融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率」とは、融解過程の任意の時点での発生する水溶液における溶質濃度に対する、融解完了時における水溶液の濃度の割合を意味する。なお、「溶質濃度」とは、水溶液中の溶質の質量の濃度を意味する。
本発明の氷における溶質濃度の変化率は30%以内であれば特に限定されないが、その変化率が少ない方が、凝固点の低下した水溶液の氷の純度が高いこと、つまり、冷却能が高いことを意味する。この観点から、溶質濃度の変化率は、25%以内(24%以内、23%以内、22%以内、21%以内、20%以内、19%以内、18%以内、17%以内、16%以内、15%以内、14%以内、13%以内、12%以内、11%以内、10%以内、9%以内、8%以内、7%以内、6%以内、5%以内、4%以内、3%以内、2%以内、1%以内、0.5%以内等)であることが好ましい。他方、溶質濃度の変化率は、0.1%以上(0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、19%以上、20%以上等)であってもよい。
(溶質)
本発明の氷に含まれる溶質の種類は、水を溶媒としたときの溶質であれば特に限定されず、所望の凝固点、使用する氷の用途等に応じて、適宜選択することができる。溶質としては、固体状の溶質、液状の溶質等が挙げられるが、代表的な固体状の溶質としては、塩類(無機塩、有機塩等)が挙げられる。特に、塩類のうち、食塩(NaCl)は、凝固点の温度を過度に下げすぎず、生鮮動植物又はその一部の冷却に適してことから好ましい。また、食塩は海水に含まれるものであるため、調達が容易であるという点でも好ましい。また、液状の溶質としては、エチレングリコール等が挙げられる。なお、溶質は1種単独で含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。
本発明の氷に含まれる溶質の濃度は特に限定されず、溶質の種類、所望の凝固点、使用する氷の用途等に応じて、適宜選択することができる。例えば、溶質として食塩を用いた場合は、水溶液の凝固点をより下げて、高い冷却能を得ることができる点で、食塩の濃度は0.5%(w/v)以上(1%(w/v)以上、2%(w/v)以上、3%(w/v)以上、4%(w/v)以上、5%(w/v)以上、6%(w/v)以上、7%(w/v)以上、8%(w/v)以上、9%(w/v)以上、10%(w/v)以上、11%(w/v)以上、12%(w/v)以上、13%(w/v)以上、14%(w/v)以上、15%(w/v)以上、16%(w/v)以上、17%(w/v)以上、18%(w/v)以上、19%(w/v)以上、20%(w/v)以上等)であることが好ましい。他方、本発明の氷を生鮮動植物又はその一部の冷却に用いる場合等においては、凝固点の温度を過度に下げすぎない方が好ましく、この観点で、23%(w/v)以下(20%(w/v)以下、19%(w/v)以下、18%(w/v)以下、17%(w/v)以下、16%(w/v)以下、15%(w/v)以下、14%(w/v)以下、13%(w/v)以下、12%(w/v)以下、11%(w/v)以下、10%(w/v)以下、9%(w/v)以下、8%(w/v)以下、7%(w/v)以下、6%(w/v)以下、5%(w/v)以下、4%(w/v)以下、3%(w/v)以下、2%(w/v)以下、1%(w/v)以下等)であることが好ましい。
本発明の氷は冷却能に優れるため、被保冷物を冷却させる冷媒としての使用に適している。被保冷物を冷却させる低温の冷媒としては、氷以外に、エタノール等の不凍液として使用される有機溶媒が挙げられるが、これらの不凍液より氷の方が熱伝導率が高く、比熱が高い。そのため、本発明の氷のような溶質を溶解させて凝固点が低くなった氷は、不凍液のような他の0℃未満の冷媒より、冷却能が優れている点においても有用である。
本発明の氷は、上記の溶質以外の成分を含んでもよく、含まなくてもよい。
本発明において、「氷」とは、水溶液を含む液体が凍ったものを指す。
また、本発明の氷は、真水の凝固点以下の温度で安定な状態が続くため、すなわち、分離しない状態を長く持続させることができる。そのため、例えば、後述のとおり、本発明の氷を構成する液体が、上記の溶質を含有する水溶液に加え、さらに、油を含む液体であった場合、該油が均一な状態が長持ちし、つまり、分離しない状態を長く持続させることができる。
上述のとおり、本発明の氷を構成する液体は、上記の溶質を含有する水溶液に加え、さらに、油を含む液体であってもよい。そのような液体としては、生乳、水と油を含む産業廃棄物(廃棄乳等)が挙げられる。液体が生乳であった場合、その氷を食したときの官能性が向上する点で好ましい。このように、官能性が向上する理由は、生乳に含まれる油(脂肪)が氷の中に閉じ込められた状態であるからと推測される。なお、本発明の氷は、上記の溶質を含有する水溶液を凍結させたもののみから構成してもよい。
本発明の氷を構成する液体がさらに油を含む場合、液体中の水と油との比率は、特に限定されず、例えば、1:99〜99:1(10:90〜90:10、20:80〜80:20、30:80〜80:30、40〜60:40〜60等)の範囲で適宜選択してもよい。
また、本発明の氷は、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を含む水溶液の氷であってもよい。この場合、本発明の氷は、一方の溶質を含む水溶液の氷と、他方の溶質を含む水溶液の氷との混合物であってもよい。かかる場合、例えば、溶質としてエチレングリコールを含む水溶液の氷に、エチレングリコールと凝固点降下度の異なる溶質として食塩を含む水溶液の氷を加えることで、エチレングリコールを含む水溶液の氷の融解を遅らせることができる。あるいは、本発明の氷は、2種以上の溶質を同一の水溶液に溶解した水溶液の氷であってもよい。また、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を併用する場合、対象となる溶質を含む水溶液の氷の融点を下げる場合においても有用である。例えば、溶質として食塩を用いる場合に、食塩よりさらに融点を下げることができる溶質(エチレングリコール、塩化カルシウム等)を併用することで、食塩水の氷の融点を下げることができ、例えば、食塩水の氷のみではなしえない−30℃近辺での温度を実現できる。凝固点降下度の異なる2種以上の溶質の比率は、目的に応じて適宜変更することができる。
(被保冷物を冷却させる冷媒(氷スラリーともいう。))
本発明は、上記の氷を含む、被保冷物を冷却させる冷媒を包含する。上記のとおり、本発明の氷は冷却能に優れるため、被保冷物を冷却させる冷媒に好適である。
なお、被保冷物を冷却させるための冷媒と、内筒22(図3参照)を冷却させるための冷媒との混同を防ぐため、被保冷物を冷却させるための冷媒を、以下「氷スラリー」と呼ぶ。
本発明の氷スラリーは、上記の氷の他の成分を含んでもよく、例えば、上記の氷以外に水を含むことで、氷と水との混合物により構成してもよい。例えば、氷に含まれる溶質と同一の溶質を含有する水をさらに含む場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度は近い方が好ましい。その理由は、以下のとおりである。
氷の溶質濃度が水の溶質濃度より高い場合、氷の温度が水の飽和凍結点より低いため、溶質濃度が低い水を混合した直後に水分が凍結する。一方、氷の溶質濃度が水の溶質濃度より低い場合、氷の飽和凍結点よりも水の飽和凍結点のほうが低いため氷が融解し、氷と水との混合物からなる氷スラリーの温度が低下する。つまり、氷と水との混合物の状態(氷スラリーの状態)を変動させないようにするためには、上述のとおり、混合する氷と水の溶質濃度を同程度とすることが好ましい。また、氷と水との混合物の状態である場合、水は、上記氷が融解してなるものであってもよく、別途調製したものであってもよいが、上記氷が融解してなるものであることが好ましい。
具体的には、本発明の氷スラリーを氷と水との混合物により構成する場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度との比が、75:25〜20:80であることがより好ましく、70:30〜30:70であることがさらに好ましく、60:40〜40:60であることがより一層好ましく、55:45〜45:55であることがさらに一層好ましく、52:48〜48:52であることが特に好ましく、50:50であることが最も好ましい。特に、溶質として食塩を用いる場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度との比が上記範囲内にあることが好ましい。
本発明の氷の原料となる水は、特に限定されないが、溶質として食塩を使用する場合、海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水、の氷であることが好ましい。海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水は、調達が容易であり、これによりコストの削減も可能となる。
本発明の氷スラリーは、さらに、上記の本発明の氷より高い熱伝導率を有する固体を含有してもよく、含有さなくてもよいが、含有することが好ましい。短時間で冷却対象物を冷却しようとした場合、熱伝導率の高い固体を利用することにより達成可能であるが、この場合、その固体自身も短時間で冷熱エネルギーを失い温度が上がりやすいため、長時間の冷却には不適である。他方、熱伝導率の高い固体を利用しない方が長時間の冷却に適しているが、短時間で冷却対象物を冷却するのには不適である。しかしながら、本発明の氷は、上記のように冷却能が高いため、熱伝導率の高い固体による短時間の冷却能力を得つつ、長時間の冷却も可能としている点で有用である。本発明の氷より高い熱伝導率を有する固体としては、例えば、金属(アルミニウム、銀、銅、金、ジュラルミン、アンチモン、カドミウム、亜鉛、すず、ビスマス、タングステン、チタン、鉄、鉛、ニッケル、白金、マグネシウム、モリブデン、ジルコニウム、ベリリウム、インジウム、ニオブ、クロム、コバルト、イリジウム、パラジウム)、合金(鋼(炭素鋼、クロム鋼、ニッケル鋼、クロムニッケル鋼、ケイ素鋼、タングステン鋼、マンガン鋼等)、ニッケルクロム合金、アルミ青銅、砲金、黄銅、マンガニン、洋銀、コンスタンタン、はんだ、アルメル、クロメル、モネルメタル、白金イリジウム等)、ケイ素、炭素、セラミックス(アルミナセラミックス、フォルステライトセラミックス、ステアタイトセラミックス等)、大理石、レンガ(マグネシアレンガ、コルハルトレンガ等)等であって、本発明の氷より高い熱伝導率を有するものが挙げられる。また、本発明の氷より高い熱伝導率を有する固体は、熱伝導率が2.3W/m K以上(3W/m K以上、5W/m K以上、8W/m K以上等)の固体であることが好ましく、熱伝導率が10W/m K以上(20W/m K以上、30W/m K以上、40W/m K以上等)の固体であることがより好ましく、熱伝導率が50W/m K以上(60W/m K以上、75W/m K以上、90W/m K以上等)の固体であることがさらに好ましく、熱伝導率が100W/m K以上(125W/m K以上、150W/m K以上、175W/m K以上等)の固体であることがより一層好ましく、熱伝導率が200W/m K以上(250W/m K以上、300W/m K以上、350W/m K以上等)の固体であることがなお好ましく、熱伝導率が200W/m K以上の固体であることがなお好ましく、熱伝導率が400W/m K以上(410W/m K以上等)の固体であることが特に好ましい。
本発明の氷スラリーが、上記の本発明の氷より高い熱伝導率を有する固体を含有する場合、上記のとおり、多くの固体を含んでも長時間の冷却に適しており、例えば、本発明の氷より高い熱伝導率を有する固体の質量/氷スラリーに含まれる本発明の氷の質量(又は氷スラリーに含まれる本発明の氷と水溶液を含む液体との合計質量)は、1/100000以上(1/50000以上、1/10000以上、1/5000以上、1/1000以上、1/500以上、1/100以上、1/50以上、1/10以上、1/5以上、1/4以上、1/3以上、1/2以上等)であってもよい。
本発明における上記固体は、どのような形状であってもよいが、粒子状であることが好ましい。また、上記固体は、本発明の氷の内部に含まれた形態で含まれていてもよく、氷の外部に含まれた形態で含まれていてもよいが、氷の外部に含まれた形態で含まれていた方が冷却対象物に直接接しやすくなるため、冷却能が高くなる。このことから、氷の外部に含まれた形態で含まれていた方が好ましい。また、本発明の氷スラリーが上記固体を含有する場合、後述の本発明の氷の製造方法により氷を製造した後に上記固体と混合してもよく、あるいは、あらかじめ原料となる水に混合した状態で、氷を製造してもよい。
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
[保冷庫1]
図1は、本発明の一実施形態に係る保冷庫1の構成を示す断面図である。
図1に示すように、保冷庫1は、ケーシング4と、保冷空間5と、隔壁6と、断熱材7と、遮熱シート8とを備える。
ケーシング4は、直方体形状からなり、断熱構造となっている。また、ケーシング4の内方には、ケーシング4と対向し保冷空間5を取り囲む隔壁6が配置されている。ケーシング4を断熱構造とするための手段は特に限定されない。なお、本実施形態では、保冷庫1は、鋼製若しくはFRP(Fiber−Reinforced Plastics/繊維強化プラスチック)製の二重壁構造とし、二重壁の間の空隙に断熱材7が介装されている。断熱材7として採用する部材は、特に限定されず、具体的には、例えばウレタンフォーム、グラスウール、真空断熱材等を採用することができる。なお、「真空断熱材」とは、多孔質の芯材をラミネートフィルムで被覆し、内部を減圧して封止した断熱材を意味する。
保冷空間5は、隔壁6が取り囲むことによって形成される、被保冷物を格納するための空間である。
隔壁6は、保冷空間5を取り囲む壁であり、後述する氷スラリー50によって自らが冷却されることにより保冷空間5を冷却する。隔壁6は、熱伝導率の高い材質で構成されることが望ましい。具体的には、例えばアルミニウム、銅などの金属を採用することができる。これにより、効率良く保冷庫1の保冷空間5を冷却することができる。
ケーシング4と隔壁6との間には、空隙50が設けられている。空隙50には、氷スラリー3が充填されている。即ち、要求される氷点下の温度を維持可能なブラインを用いた氷スラリー3を空隙50に充填させることにより、要求される氷点下の温度まで保冷空間5を冷却することができる。
ここで、「ブライン」とは、凍結点の低い液体の熱媒体を含む液体を意味する。具体的には、例えば塩化ナトリウム水溶液(塩水)や塩化カルシウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、エチレングリコール等がブラインに含まれる。
また、「フレークアイス」とは、ブラインを濃度が均一になるように凍結させたフレーク(薄片)状の氷を意味する。フレークアイスは比表面積が大きいため、被保冷物を素早く冷却することができる。即ち、ブラインを凍結させたフレークアイスは、融解する際に大量の潜熱を周囲から奪うことができる。また、その間、温度が上昇することもない。従って、長時間に亘って被保冷物を保冷することができる。
また、氷スラリーは、ブラインを凍結させたフレークアイスと、当該ブラインとの混合物を含み、シャーベット状の氷が含まれる。また、氷スラリーは、硬いブロック状の氷に比べて、空隙50への充填が容易であり、また、冷却むらが生じ難い等の特徴を有する。
ケーシング4の側面上部には、空隙50に氷スラリー3を供給可能な氷スラリー供給口40が設けられている。また、ケーシング4の側面下部には、空隙50から氷スラリー3を排出可能な氷スラリー排出口41が設けられている。さらに、氷スラリー供給口40には開閉弁42が設けられ、氷スラリー排出口41には開閉弁43が設けられている。
これにより、ポンプ等を用いて供給口から空隙に氷スラリーを充填すると共に、溶けた氷スラリーを排出口から排出させることができるため、空隙50内に充填されている氷スラリーの冷却能力を高い状態で維持させることができる。
断熱材7と接する内方側の壁面には、輻射熱を反射させるための遮熱シート8が貼着されている。なお、輻射熱を反射させる手法は特に限定されないが、本実施形態では、遮熱シート8を貼着させる手法を採用している。なお、この場合には、遮熱シート8として、アルミニウムの蒸着膜の表側をフィルムで補強し、裏側には織布や発泡シート等の断熱材を接着剤で貼り合せて積層させたもの等を用いることができる。
また、図示していないが、保冷庫1の側面部には、被保冷物を搬出入するための断熱扉が設けられている。
なお、本実施形態では、断熱材7と接する内方側の壁面にのみ遮熱シート8を貼着させているが、断熱材7と接する内方側の壁面に加えて、断熱材7と接する外方側の壁面に遮熱シート8を貼着させてもよい。これにより、二重壁の内面に貼着した遮熱シートを用いて輻射熱を反射させるため、保冷空間に熱が伝達しないようにすることができる。
[保冷庫2]
図1の保冷庫1では、空隙50に対し直接氷スラリー3が充填される構成をとったが、特にこれに限定されず、空隙50には、氷スラリー3が充填された氷スラリー格納容器が収納されていてもよい。即ち、ポンプ等を用いて空隙50に氷スラリー3を充填する代わりに、氷スラリー3が充填された複数の氷スラリー格納容器9を空隙50に載置してもよい。
図2は、本発明の他の実施形態に係る保冷庫2の構成を示す断面図である。
図2に示すように、保冷庫2では、ケーシング4と隔壁6との間の空隙50に、氷スラリー3が充填された複数の氷スラリー格納容器9が載置される。
氷スラリー格納容器9の形状及び材質は特に限定されないが、空隙50に載置し易い形状であり、かつ熱伝導率の高い材質で形成されることが望ましい。なお、本実施形態に係る保冷庫2では、熱伝導率の高い金属によって形成された筒状の密閉容器であって、氷スラリー50の入れ替えが可能な氷スラリー格納容器9を採用している。
なお、図示していないが、隔壁6には、氷スラリー格納容器9を空隙50に収納するための開閉扉が設けられている。
[フレークアイス製造装置]
容器に溜められた状態の水溶液を含む液体を外部から冷却しても、本発明の氷を製造することはできない。これは、冷却速度が十分でないことに起因すると考えられる。しかしながら、本発明の一実施形態であるフレークアイス製造装置10によれば、溶質を含有する水溶液を含む液体を噴霧することで霧状となった水溶液が凝固点以下の温度に保持された壁面に直接接することにより、従来なかった急速な冷却を可能としている。これにより、上記(a)及び(b)の条件を満たす、冷却能の高い氷を生成することができると考えられる。
壁面は、例えば、後述する図3におけるドラム11のような円柱型の構造物の内壁等が挙げられるが、水溶液の凝固点以下の温度に保持できるような壁面であれば特に限定されない。壁面の温度は、水溶液の凝固点以下の温度に保持されていれば特に限定されないが、上記(a)及び(b)の条件を満たす氷の純度が高い氷を製造できる点で、水溶液の凝固点より1℃以上低い温度(2℃以上低い温度、3℃以上低い温度、4℃以上低い温度、5℃以上低い温度、6℃以上低い温度、7℃以上低い温度、8℃以上低い温度、9℃以上低い温度、10℃以上低い温度、11℃以上低い温度、12℃以上低い温度、13℃以上低い温度、14℃以上低い温度、15℃以上低い温度、16℃以上低い温度、17℃以上低い温度、18℃以上低い温度、19℃以上低い温度、20℃以上低い温度、21℃以上低い温度、22℃以上低い温度、23℃以上低い温度、24℃以上低い温度、25℃以上低い温度等)に保持されることが好ましい。
噴霧の方法は、特に限定されないが、例えば、後述する図3における噴射部13のように、噴射孔13aを備える噴射手段から、噴射することにより、噴霧をすることができる。この場合において、噴射する際の水圧は、例えば、0.001MPa以上(0.002MPa以上、0.005MPa以上、0.01MPa以上、0.05MPa以上、0.1MPa以上、0.2MPa以上等)であってもよく、1MPa以下(0.8MPa以下、0.7MPa以下、0.6MPa以下、0.5MPa以下、0.3MPa以下、0.1MPa以下、0.05MPa以下、0.01MPa以下等)であってもよい。
また、後述する図1に示すように、竪型ドラム11の中心軸上に回転可能な回転軸12を設ける等の回転手段を設け、回転させながら噴霧を行う等の連続的な噴霧により行ってもよい。
(回収工程)
本発明は、上述の氷生成工程後に、壁面上において生じた氷を回収する工程を有する。
回収する方法は、特に限定されず、例えば、後述する図3に示すように、壁面上の氷をブレード15等の手段により掻き取り、落下した氷を回収してもよい。
また、氷が生成される際に、製氷熱が発生するが、この製氷熱を帯びることで、実際の融解完了温度に影響を与える可能性がある。このように、融解完了温度は、溶質の種類、濃度のみでなく、製氷熱の影響を受けると考えられる。そのため、氷に残存する製氷熱の熱量を調整することで、実際の融解完了温度を調整することができる。製氷熱を調整するためには、本発明における回収工程において、氷を壁面上の保持時間を調整することで行うことができる。
図3は、本発明の一実施形態に係るフレークアイス製造装置10の概要を示す部分断面斜視図を含むイメージ図である。
図3に示すように、フレークアイス製造装置10は、ドラム11と、回転軸12と、噴射部13と、掻取部14と、ブレード15と、フレークアイス排出口16と、上部軸受部材17と、防熱保護カバー19と、ギヤードモータ20と、ロータリージョイント21と、冷媒クリアランス24と、ブッシュ28と、冷媒供給部29と、回転制御部27とを備える。
ドラム11は、内筒22と、内筒22を囲繞する外筒23と、内筒22と外筒23との間に形成される冷媒クリアランス24とで構成される。また、ドラム11の外周面は、円筒状の防熱保護カバー19によって覆われている。内筒22及び外筒23の材質は特に限定されない。なお、本実施形態では鋼が採用されている。
冷媒クリアランス24には、冷媒供給部29から冷媒配管35を介して冷媒が供給される。これにより内筒22の内周面が冷却される。
回転軸12は、ドラム11の中心軸上に配置され、上部軸受部材17の上方に設置されたギヤードモータ20を動力源として、当該中心軸を軸として材軸回りに回転する。なお、ギヤードモータ20の回転速度は、後述の回転制御部27によって制御される。
また、回転軸12の頂部にはロータリージョイント21が取り付けられている。なお、回転軸12の上部には、材軸方向に延在し各パイプ13と連通する竪穴12aが形成されている(図4参照)。
噴射部13は、内筒22の内周面に向けてブラインを噴射する噴射孔13aを先端部に有する複数のパイプで構成され、回転軸12と共に回転する。噴射孔13aから噴射されたブラインは、冷媒によって冷却された内筒22の内周面に付着し、分離する時間も与えられずに急速に凍結する。
噴射部13を構成する複数のパイプは、回転軸12からドラム11の半径方向に放射状に延出している。各パイプの設置高さは特に限定されないが、本実施形態では、ドラム11の内筒22高さの上部位置に設置されている。なお、パイプに代えてスプレーノズル等を採用してもよい。
掻取部14は、ドラム11の内周面に凍結した状態で付着したブラインを掻き取るブレード15を先端部に装着する複数のアームで構成される。なお、掻取部14は、ドラム11の半径方向に延出し、回転軸12と共に回転する。
掻取部14を構成する複数のアームは、回転軸12に関して対称となるように装着されている。アームの本数は特に限定されないが、本実施形態では、アームの本数を2本としている。各アームの先端部に装着されているブレード15の大きさ及び材質は、特に限定されず、凍結したブラインを掻き取ることができればよい。なお、本実施形態におけるブレード15は、内筒22の全長(全高)に略等しい長さを有するステンレス製の板材からなり、内筒22に面する端面には複数の鋸歯15aが形成されている。
凍結したブラインは、ブレード15によって掻き取られると、フレークアイスとなり、当該フレークアイスは、フレークアイス排出口16から落下する。フレークアイス排出口16から落下したフレークアイスは、フレークアイス製造装置10の直下に配置されたフレークアイス貯留タンク34(図4)内に貯えられる。
上部軸受部材17は、鍋を逆さにした形状からなり、ドラム11の上面を封止している。上部軸受部材17の中心部には、回転軸12を支持するブッシュ24が嵌装されている。なお、回転軸12は、上部軸受部材17にのみ支持され、回転軸12の下端部は軸支されていない。
即ち、ドラム11の下方には、ブレード15によって掻き取られたフレークアイスが落下する際に障害となる物がないため、ドラム11の下面はフレークアイスを排出するフレークアイス排出口16となる。
冷媒供給部29は、冷媒クリアランス24に対して、内筒22の内周面を冷却させるための冷媒を、冷媒配管35を介して供給する。なお、冷媒供給部29によって供給される冷媒は特に限定されず、内筒22の内周面を冷却させるものであればよい。具体的には例えば、冷媒として、LNG(Liquefied Natural Gas/液化天然ガス)を採用することができる。LNGを冷媒として利用する手法については、図8を参照して後述する。
本実施形態では、冷媒クリアランス24に供給される冷媒は、冷媒クリアランス24と冷媒供給部36との間を冷媒配管35を介して循環させることができる。これにより、冷媒クリアランス24に供給されている冷媒を冷却機能が高い状態で維持させることができる。
回転制御部27は、ギヤードモータ20の回転速度を調節することにより、回転軸12と共に回転する噴射部13及び掻取部14の回転速度を調節する。なお、回転制御部27が回転速度を制御する手法は特に限定されない。具体的には、例えばインバータによる制御手法を採用してもよい。
[フレークアイス製造システム]
図4は、図3のフレークアイス製造装置10を含むフレークアイス製造システム60の全体の概要を示すイメージ図である。
フレークアイス製造システム60は、フレークアイス製造装置10と、ブライン貯留タンク30と、ポンプ31と、ブライン配管32と、ブラインタンク33と、フレークアイス貯留タンク34と、冷媒配管35と、凍結点調節部36とを備える。
ブライン貯留タンク30は、フレークアイスの原料となるブラインを貯える。ブライン貯留タンク30に貯えられたブラインは、ポンプ31を作動させることによりブライン配管32を介してロータリージョイント21に送給され、フレークアイス製造装置10によってフレークアイスになる。即ち、ロータリージョイント21に送給されたブラインは、ロータリージョイント21及び回転軸12に形成された竪穴12aに送給され、竪穴12aから、噴射部13を構成する各パイプに送給される。
ブラインタンク33は、ブライン貯留タンク30内のブラインが少なくなった場合に、ブライン貯留タンク30にブラインを供給する。
なお、内筒22の内周面で凍結せずに流下したブラインは、ブライン貯留タンク30に貯えられ、ポンプ31を作動させることによりブライン配管32を介してロータリージョイント21に再び送給される。
フレークアイス貯留タンク34は、フレークアイス製造装置10の直下に配置され、フレークアイス製造装置10のフレークアイス排出口16から落下したフレークアイスを貯える。
凍結点調節部36は、ブラインタンク33によってブライン貯留タンク30に供給されるブラインの凍結点を調節する。例えばブラインが塩水である場合には塩水の凍結点は濃度によって異なるため、凍結点調節部36は、ブライン貯留タンク30に貯えられている塩水の濃度を調節する。
なお、ブラインの凍結点の調整手法は、特にこれに限定されない。例えば、次のような手法を採用することもできる。
即ち、ブライン貯留タンク30を複数個設け、凍結点が異なる複数種類のブラインを、数個のブライン貯留タンク30の夫々に貯留させる。そして、ブライン凍結点調整部37は、求められるフレークアイスの温度(例えば当該フレークアイスにより搬送される搬送品に対して、求められている保冷温度)に基づいて、所定種類のブラインを選択し、フレークアイス製造装置10に供給する。
このように、ブラインの凍結点を調節することにより、製造されるフレークアイスの温度を調節することができる。
次に、上記構成を有するフレークアイス製造装置10を含むフレークアイス製造システム60の動作について、ブラインが塩水であるとして説明する。
まず、冷媒供給部36は、冷媒クリアランス24に冷媒を供給し、内筒22の内周面の温度を塩水の凍結点より−10℃程度低くなるように設定する。これにより、内筒22の内周面に付着した塩水が凍結させることができる。
内筒22の内周面が冷却されると、回転制御部27は、ギヤードモータ20を駆動させ、回転軸12を材軸周りに回転させる。
回転軸12が回転すると、ポンプ31は、ブライン貯留タンク30からロータリージョイント21を介して回転軸12内にブラインである塩水を供給する。
回転軸内12に塩水が供給されると、回転軸12と共に回転する噴射部13は、内筒22の内周面の内周面に向けて塩水を噴射する。噴射部13から噴射された塩水は、内筒22の内周面の内周面に接触すると瞬時に凍結し氷となる。
このとき、回転制御部27は、回転軸12の回転速度を2〜4rpmに制御する。なお、噴射部13の構成要素としてパイプではなくスプレーノズルを使用した場合には、回転制御部27は、回転軸12の回転速度を10〜15rpmに制御する。
内筒22の内周面に生成された氷は、回転軸12と共に回転する掻取部14によって掻き取られる。掻取部14によって掻き取られた氷は、フレークアイスとして排出口16から落下する。排出口16から落下したフレークアイスは、フレークアイス製造装置10の直下に配置されたフレークアイス貯留タンク34内に貯えられる。
上述したように、氷とならず、内筒22の内周面を流下した塩水はブライン貯留タンク30に貯えられ、ポンプ31を作動させることによりブライン配管32を介してロータリージョイント21に再び送給される。なお、ブライン貯留タンク30内の塩水が少なくなった場合は、ブラインタンク33が、自身に貯えられている塩水がブライン貯留タンク30に供給する。
ここで、回転制御部27が、ギヤードモータ20の回転速度を変化させることにより、フレークアイス製造装置10により製造されるフレークアイスの温度を変化させることができる。
例えばブレインとして塩水が採用されているものとする。この場合、塩水が凍結する凍結点は、その塩分濃度のみに依存すると従来から考えられて来た。例えば塩分濃度が0.8%であれば、どんな場合でも−1.2℃で塩水が凍結すると従来から考えられて来た。
しかしながら、本出願人が、ブレインとして塩水を採用して、本実施形態のフレークアイス製造装置10を用いて、回転軸12の回転速度を変化させたところ、同一濃度の塩水から製造されるフレークアイスの温度が、回転数に応じて変化すること、特に回転数が低下すると温度が低下することを発見した。
この理由は、フレークアイスは、製氷熱を帯びた状態が融解し終わるまで維持されるためである。
これにより、ブラインの濃度を、冷蔵、冷凍対象にあわせた所望値に固定しつつ、フレークアイスの温度を調節することができる。
[氷スラリー製造手法]
次に、上述したブラインとフレークアイスとを材料とする氷スラリーを製造する手法の一例を説明する。氷スラリー3については、予め用意された複数種類のブラインを材料とすることにより、要求される保冷温度と保冷時間とに対応させたもの製造することができる。
なお、ブラインは塩水であり、被保冷物は生鮮海産物であることとし、また、上述した保冷庫1又は保冷庫2を使用せずに、氷スラリー3の中に直接被保冷物である生鮮海産物を入れることにより瞬間凍結することを想定して説明する。
生鮮海産物を瞬間凍結させるためには、氷スラリーの原料である塩水の塩分濃度を従来に比べて大幅に高く設定する。なお、塩分濃度が13.6%である塩水の理論飽和凍結点は−9.8℃となり、塩分濃度が23.1%である塩水の理論飽和凍結点は−21.2℃となる。
塩水の塩分濃度が13.6%未満の場合、製造した氷スラリー3による生鮮海産物の凍結速度は遅くなる。一方、塩水の塩分濃度が23.1%を超える場合、塩分が結晶として析出するため、塩水の飽和凍結点が上昇する。
なお、生鮮海産物を直接氷スラリー3に入れた場合、氷スラリーの塩分濃度が高くても、生鮮海産物の表面が瞬間凍結して氷結するため、生鮮海産物中に塩分が侵入することはない。
氷スラリーを製造するために混合するフレークアイスと塩水との塩分濃度は、同程度(数%以内の濃度差)であることを好適とする。フレークアイスの塩分濃度が塩水の塩分濃度より高い場合、フレークアイスの温度が塩水の飽和凍結点より低いため、塩分濃度が低い塩水を混合した直後に水分が凍結する。一方、フレークアイスの塩分濃度が塩水の塩分濃度より低い場合、フレークアイスの飽和凍結点よりも塩水の飽和凍結点のほうが低いため、フレークアイスが融解し、氷スラリー3の温度が低下する。
従って、氷スラリー3の状態を変動させないようにするためには、混合するフレークアイスと塩水の塩分濃度を同程度とすることが望ましい。
混合するフレークアイスと塩水の質量比は、フレークアイス:塩水=75:25〜20:80、好ましくはフレークアイス:塩水=60:40〜50:50とする。なお、フレークアイスの質量比が75質量%を超えると、固形分の比率が高くなるため、生鮮海産物と氷スラリー3との間に隙間が発生し、生鮮海産物に氷スラリー3が密着しなくなる。一方、氷の質量比が20質量%未満であると、製造した氷スラリーによって生鮮海産物を瞬間凍結し難くなるからである。
即ち、ブラインが塩水の場合、塩分濃度(ブラインの濃度)を13.6%〜23.1%とした塩水を用いてフレークアイス製造装置10により生成したフレークアイスと、塩分濃度が13.6%〜23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する。
本実施形態では、製造された氷スラリーの温度は−9.8℃〜−21.2℃となる。製造されたフレークアイスと混合する塩水の温度は、常温もしくはそれを下回る温度とする。なお、塩水の温度が低いほど、製氷効率は高くなる。
なお、ブラインが塩水以外の場合は、製造される氷スラリーの温度が、必要とされる温度となるように、ブラインの濃度や、混合するフレークアイスとブラインの質量比を調整する。
このように、ブラインの濃度や、混合するフレークアイスとブラインの質量比を調整することにより、複数種類の温度の氷スラリーを製造することができる。
[氷スラリー供給システム]及び[被保冷品輸送システム]
次に、上述した手法で製造された氷スラリーを保冷庫1に供給する手法、及び保冷庫1を利用した被保冷品の輸送手法について説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る氷スラリー供給システムの概要を示すイメージ図である。
図5に示すように、本実施形態に係る保冷車両44は、保冷庫1を備える貨物列車である。なお、保冷車両44は、貨物列車に限定されず、貨物運搬用車両であってもよいが、貨物列車の場合には、自動車を使用しないことによる道路渋滞の解消、排気ガスを排出しないことによるCo2排出量削減、輸送効率の向上、エネルギー消費量の節約等の効果を期待することができる。
保冷庫1の空隙50に氷スラリー3が充填されることにより保冷空間5が冷却されるため、冷却のための電力を必要とせずに保冷空間5に被保冷物を格納し運搬することができる。また、ドライアイスのように昇華によって二酸化炭素のような温室効果ガスを発生させることもない。さらに、溶けた氷スラリーを凍結させることにより冷熱源として再利用することができる。
保冷庫1は、他の保冷庫1とは独立して、保冷温度を自在に設定することができ、また、その搭載場所の温度は問わない。このため、常温の貨物(保冷庫1を使わない貨物)も含め、異なる保冷温度の貨物(保冷温度が別々に設定された複数の保冷庫1を含む貨物)を1台の保冷車両44又は常温の貨物運搬用車両に同時に搭載することができる。これにより、効率の良い貨物の運搬に寄与することができる。
さらに、上述した様に、保冷庫1は、氷スラリー供給口40から氷スラリー3を供給させ、氷スラリー排出口41から氷スラリー3を排出することができるため、氷スラリー供給装置46を備える所定の物流拠点45で氷スラリー3の入れ替えを行うことができ、また、氷スラリー3の量を変えることで、搬送時間を自在に設定できる。これにより、物流拠点45を中継地点とした長距離輸送が可能となる。ここで、「物流拠点」は物流のハブであり、本発明では、貨物列車やトラック等の保冷車両44が停車する駅やガソリンスタンド等を総称して「物流拠点」と呼ぶ。
氷スラリー供給装置46を備える物流拠点45では、氷スラリー供給装置46によって氷スラリー3が製造される。氷スラリー供給装置46によって製造された氷スラリー3は、氷スラリー供給調節部47によって保冷庫1に供給される。
即ち、氷スラリー供給装置46で製造された氷スラリー3は、保冷車両44に備えられている保冷庫1に、保冷庫1の氷スラリー供給口40からパイプ圧送される。また、既に保冷庫1に充填されていた氷スラリー3は、保冷庫1の氷スラリー排出口41を介して氷スラリー供給装置46に回収される。なお、氷スラリー供給装置46によって回収された氷スラリー3は、フレークアイスを製造するための原料として再利用することができる。
氷スラリー供給調節部47は、保冷庫1の保冷温度と保冷時間とに応じて保冷庫1に対して供給する氷スラリー3の種類と供給量とを調節する。即ち、氷スラリー3は、フレークアイスの種類によって温度が異なる。そこで、氷スラリー供給調節部47は、保冷庫1の保冷温度に応じて温度の異なる複数種類の氷スラリー3の中から好適となる種類の氷スラリーを選択する。また、保冷庫1の保冷時間に応じて好適となる氷スラリー3の充填量を調節する。
即ち、ブレインとして塩水の場合、従来は、塩水を凍らせた氷は、凍結点の高い真水の部分から凍結し始め、最終的に凍結する部分には、少量の塩水が凍結した部分や、氷の周りに析出した塩が付着している状況となり、氷の塩分濃度は不均一となってしまう。そして、融解時には、最終的に凍結した部分が先に融解し、高濃度の塩水が出てくるため、融解水は、融解の過程で塩分濃度が大幅に変化したり、温度が0℃に向けて上昇するといった技術的な課題があった。
しかし、フレークアイス製造装置10によって製造されたフレークアイスは、水と塩とが分離する時間を与えられることなく瞬間凍結されるため、塩分濃度を略均一とすることができ、融解開始から融解し終わるまでの塩分濃度も氷の温度も略一定となる。
これにより、保冷庫1内の氷スラリー3の量を調節し、保冷庫1内の保冷温度を、要求される所定の保冷温度に維持できる時間を調節することができる。具体的には、保冷庫内の氷スラリー3の量が多くすれば保冷可能時間が長くすることができ、保冷庫内の氷スラリー3の量が少なくすれば保冷可能時間が短くすることができる。このため、被保冷物の運搬時間に合わせて氷スラリー3の充填量を調節することができる。
これにより、被保冷物を好適な保冷環境の下、効率良く長距離輸送することが可能となる。
また、保冷庫2を備える保冷車両44の場合には、物流拠点45において、保冷庫2に収納されている氷スラリー格納容器9を新規な氷スラリー格納容器9と交換することにより保冷空間5の保冷状態を維持させることができる。保冷庫2も保冷庫1と同様に、種類の異なる氷スラリー格納容器9の中から、保冷庫2の保冷温度に好適な氷スラリー格納容器9を選択し、また、保冷庫2の保冷時間に応じて好適となる氷スラリー格納容器9の数量を調節する。これにより、被保冷物を好適な保冷環境の下、効率良く長距離輸送することが可能となる。
なお、上述した保冷庫1又は保冷庫2を使用することなく氷スラリー3の中に直接被保冷品を入れることにより瞬間凍結させて輸送することもできる。具体的には、例えば生鮮海産物は、氷スラリー3の中で瞬間凍結させた後に、氷スラリー3の中から取り出し、瞬間凍結時の温度以下で冷凍保存することもできる。これにより、遠隔地まで長時間輸送しても生鮮海産物の鮮度、味覚が落ちることがない。
図6は、図3のフレークアイス製造装置10によって製造されたフレークアイスから製造することができる氷スラリー3の種類を示すイメージ図である。
図6に示すように、フレークアイス製造装置10は、ブラインを塩水とした場合に、塩分濃度が1%から23.2%の範囲の塩水を凍結させることにより、−1℃から−21.3℃の範囲のフレークアイス(ソルトアイス)を製造することができる。
また、図5の氷スラリー製造装置46は、フレークアイス製造装置10によって製造されたフレークアイス(ソルトアイス)と塩水とを所定の質量比率で混合させることにより、形状や質感の異なるソルトアイスを容易に製造することができる。具体的には、例えば雪状のソルトアイスやスラリー状のソルトアイス等を製造することができる。
例えば、−21.3℃のスラリー状のソルトアイスは、遠洋漁業における生鮮海産物を瞬間凍結させることができるため、生鮮海産物の組織内に発生する氷の結晶が小さくなり、生鮮海産物組織の損傷が少なく、生鮮海産物の鮮度、味覚を保持させることができる。
また、例えば、−1℃の雪状のソルトアイスは、鮮魚を急速冷却させ、−1℃の冷蔵状態を保ったまま長距離輸送し、そのまま店頭販売することも可能となる。
即ち、真水から作った氷の場合、氷が溶けると、鮮度保持に使用している海水の塩分濃度が低下するため、浸透圧によって水氷に浸している魚の体内に水が浸入し、鮮魚の鮮度や味覚が落ちてしまうが、−1℃の冷蔵状態を保った輸送は、通常の水を凍結させた氷(0℃)を用いた保冷輸送に比べて鮮魚の鮮度を高い状態で保つことができる。
図7は、図1の保冷庫1の断熱構造の一例を示す図である。
図7に示すように、保冷庫1のケーシング4は、断熱材7の外側に2重の壁を設け、当該壁の間には送風クリアランス81が設けられている。送風クリアランス81には常時空気が送風されている。これにより、保冷庫の断熱効果をさらに高めることができる。
なお、高い断熱効果を有する保冷庫1は、様々な分野に応用が可能である。具体的には、例えば冷蔵・冷凍庫、リーファーコンテナ、冷蔵・冷凍トラック、コールドボックス、クーラーボックスに利用することができる。
また、氷スラリー製造機46をステーション化させることにより、保冷庫1をあらゆる場面で利用できるようにすることもできる。保冷庫1は、冷凍機や発電機を不要とし、冷媒となるブライン(塩水)も再利用が可能であり、また優れた断熱効果によって長距離輸送も可能である。さらに、冷凍輸送、冷蔵輸送、常温輸送に対応することができ、省エネ、Co2削減にも寄与するという効果を有する。
なお、図7に示す断熱構造は、図2の保冷庫2にも適用することができる。
図8は、LNGの排冷熱の利用例を示す図である。
従来より、輸入されたLNGは、−160℃の液体の状態でLNG貯蔵タンクに格納されており、この−160℃のLNGは、常温になるまで気化させられ、熱量調整、付臭が施されて、都市ガスまたはGT発電用に供給される。例えば、LNGの排冷熱を有効活用する手法として、LNG基地では、−160℃のLNGが常温になるまでの排冷熱を、液体酸素や液体窒素の製造、冷凍倉庫、冷熱発電、海水を熱源としたLNGの気化(ORV式)に利用する手法がとられている。
しかしながら、上述したフレークアイス製造装置10の冷媒として利用することにより、従来のような装置、エネルギー等を必要とすることなくLNGを容易に常温にさせることが可能となる。
また、−160度のLNGをフレークアイス製造装置10の冷媒として利用することにより、凍結点が−150度程度までのブラインを瞬間凍結させた超低温のフレークアイスを製造することできる。即ち、ブラインが塩水(塩化ナトリウム水溶液)の場合には飽和状態で−21.2℃、塩化マグネシウム水溶液の場合には飽和状態で−26.27℃のフレークアイスを製造することができるが、エチレングリコール塩水や塩化マグネシウム水溶液よりも凍結点が低く、従来より「不凍液」としてブラインに利用することができなかった物質についても瞬間凍結させることによりフレークアイスとして利用することができる。具体的には、例えばエチレングリコールをブラインとするフレークアイスを製造することもできる。
即ち、−160度のLNGという超低温の冷媒を利用することにより、−150℃程度の超低温のフレークアイスを製造することが可能となる。換言すると、要求される保冷温度は、被保冷物の種類に応じて個別に異なるものであり、例えば−1℃が適するものもあれば−150℃が適するものもある。本発明は、−160度のLNGという超低温の冷媒を利用することにより、幅広く要求される保冷温度にマッチさせたフレークアイスを容易に製造することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。また本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば種々の変更や上記実施の形態の組み合わせを施してもよい。
例えば、上述した実施形態では、ケーシング4の内方6面に空隙50を設け、氷スラリー3を充填しているが、ケーシングの内方1面(天井面など)のみに空隙50を設け、氷スラリー3を充填してもよい。
また、保冷庫1又は保冷庫2の形状は、上述した実施例のように直方体形状に限定されない。
また、保冷車両44は貨物列車に限られない。自動車を含む貨物運搬用の車両であってもよい。
また、ブラインは、上述した実施形態では塩水(塩化ナトリウム水溶液)としたが、特に限定されない。具体的には、例えば塩化カルシウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、エチレングリコール等を採用することができる。これにより、溶質又は濃度の違いに応じた凍結点の異なる複数種類のブラインを用意することができる。
また、上述の本発明の氷スラリーが氷より高い熱伝導率を有する固体を含有する場合、冷却する工程において、氷スラリーに含まれる氷と被冷却物との間に、氷より高い熱伝導率を有する固体が介在するように冷却を行うことが好ましい。これにより、熱伝導率の高い固体による短時間の冷却能力を得つつ、長時間の冷却も可能となる。かかる場合、目的に応じて、氷、氷より高い熱伝導率を有する固体、被冷却物とのぞれぞれの間に、別のものが介在していてもよい。例えば、氷スラリーの中に被冷却物と直接接するのが好ましくないもの(例えば、安全性の観点で被冷却物と接するのが好ましくない、氷より熱伝導率が高い固体(金属等)等)が含まれる場合、袋に氷スラリー又は被冷却物のいずれか一方を収容して、氷スラリーと被冷却物とが直接接しないようにして冷却してもよい。
以上まとめると、本発明が適用される保冷庫、貨物運搬用車両、氷スラリー供給システム、フレークアイス製造装置、フレークアイス製造システムは、次のような構成を取れば足り、各種各様な実施形態を取ることができる。
即ち、本発明が適用される保冷庫(例えば図1の保冷庫1)は、
保冷空間(例えば図1の保冷空間5)を画成するケーシング(例えば図1のケーシング4)が断熱構造とされ、前記保冷空間の少なくとも上部に前記ケーシングと対向する隔壁(例えば図1の隔壁6)が設けられ、
前記ケーシングと前記隔壁との間の空隙(例えば図1の空隙50)に、ブライン(例えば塩水)を凍結させたフレークアイスと前記ブラインとの混合物である氷スラリー(例えば図1の氷スラリー3)が充填される保冷庫である。
これにより、保冷能力が高く、二酸化炭素が発生することがなく、また、冷熱源である氷スラリーを再利用することができる保冷庫を提供することができる。また、被保冷物を遠方まで容易に輸送することができる。
また、前記氷スラリーは、
前記フレークアイスより高い熱伝導率を有する固体(例えば金属)を含有することができる。
これにより、冷却能を高くすることができる。
また、前記空隙に前記氷スラリーを供給する供給口(例えば図1の氷スラリー供給口40)と、前記空隙から前記氷スラリーを排出する排出口(例えば図1の氷スラリー排出口41)とを備えることができる。
これにより、これにより、氷スラリー排出口41から排出させた氷スラリー3を、フレークアイスを製造するための原料として再利用することができる。
前記空隙には、前記氷スラリーが充填された氷スラリー格納容器(例えば図2の氷スラリー格納容器9)が収納されることができる。
これにより、保冷庫2に収納されている氷スラリー格納容器9を新規な氷スラリー格納容器9と交換することにより保冷空間5の保冷状態を維持させることができる。
また、前記ケーシングは、断熱材(例えば図1の断熱材7)が介装された二重壁とされ、前記断熱材と接する壁面に、輻射熱を反射する遮熱シート(例えば図1の遮熱シート8)が貼着されることができる。
また、本発明が適用される貨物運搬用車両(例えば図5の保冷車両44)は、保冷庫を複数個搭載することができる。
また、本発明が適用される氷スラリー供給システムは、貨物運搬用車両に搭載される保冷庫に前記氷スラリーを供給する氷スラリー供給設備(例えば図5の氷スラリー供給装置46)を物流拠点(例えば図5の物流拠点45)に配備させることができる。
また、本発明が適用されるフレークアイス製造装置(例えば図3のフレークアイス製造装置10)は、
内筒(例えば図3の内筒22)と、当該内筒を囲繞する外筒(例えば図3の該当23)と、当該内筒と当該外筒との間に形成されるクリアランス(例えば図3の冷媒クリアランス24)とを含むドラム(例えば図3のドラム11)と、
前記クリアランスに対して冷媒(例えば図8のLNG)を供給する冷媒供給部(例えば図4の冷媒供給部36)と、
前記ドラムの中心軸を軸として回転する回転軸(例えば図3の回転軸12)と、
前記回転軸と共に回転し、前記内筒の内周面に向けてブラインを噴射する噴射部(例えば図3の噴射部13)と、
前記噴射部から噴射された前記ブラインが、前記クリアランスに供給された前記冷媒により冷却された前記内筒の内周面に付着し、その結果として生成されたフレークアイスを掻き取る掻取部(例えば図3の掻取部14)と、
を備える。
これにより、ブラインを凍結させたフレークアイスを容易に製造することができる。
また、前記ブラインは、
所定の条件を満たす、溶質を含有する水溶液と、
前記水溶液を含む液体の氷よりも高い熱伝導率を有する固体(例えば金属)を含有することができる。
これにより、冷却能を高くすることができる。
また、前記液体は、
さらに油を含有することができる。
また、前記溶質は、
凝固点降下度が異なる2種以上の溶質を含むことができる。
これにより、冷却能に優れたフレークアイスの製造方法、及び分離しない状態を長く持続させることができるフレークアイスの製造方法を提供することができる。
また、前記回転軸の回転速度を可変制御する速度制御部(例えば図4の回転制御部27)
をさらに備えることができる。
これにより、ギヤードモータ20の回転速度を低速にすることができるため、通常よりも低い温度のフレークアイスを製造することができる。
また、前記冷媒供給部は、
前記冷媒として、液化天然ガスを前記クリアランスに供給することができる。
また、本発明が適用されるフレークアイス製造システム(例えば図4のフレークアイス製造システム60)は、
ブラインを凍結させてフレークアイスを製造するフレークアイス製造システムであって、
前記ブラインを噴霧する噴霧部(例えば図3の噴射部13)と、
所定の冷媒(例えば図8のLNG)により前記ブラインの凍結点以下に冷却された状態で、噴霧された前記ブラインを付着させることで、当該ブラインを凍結させて前記フレークアイスを製造する部材(例えば図3のフレークアイス製造装置10)と、
前記所定の冷媒として、前記部材を前記ブラインの凍結点以下に冷却させることが可能な液化ガス(例えば図8のLNG)を前記部材に供給する冷媒供給部(例えば図4の冷媒供給部36)と、
を備える。
また、前記冷媒供給部は、前記所定の冷媒として、LNGを前記部材に供給することができる。
これにより、LNGの排冷熱を有効利用することができるため、よりエコロジカルにフレークアイスを製造することができる。
また、本発明が適用される被保冷品輸送システムは、
ブラインを凍結させたフレークアイスを含む冷却材(例えば図1の氷スラリー3)が挿入された保冷庫(例えば図1の保冷庫1)に、被保冷品を挿入して輸送する被保冷品輸送システムにおいて、
前記被保冷品に要求される保冷温度に基づいて、前記ブラインの凍結点を調整する凍結点調整手段(例えば図4の凍結点調節部36)と、
凍結点が調整された前記ブラインから、前記フレークアイスを生成するフレークアイス製造手段(例えば図3のフレークアイス製造装置10)と、
生成された前記フレークアイスについて、前記被保冷品に要求される輸送時間に基づいて、前記保冷庫への供給量を調整する供給量調整手段(例えば図5の氷スラリー供給調節部47)と、
を備える。
これにより、被保冷物を好適な保冷環境の下、効率良く長距離輸送することが可能となる。
また、前記ブラインは、塩水であり、
前記凍結点調整手段は、前記塩水の塩分濃度を調整することで、前記フレークアイス製造手段に供給され前記ブラインの凍結点を調整することができる。
また、凍結点の異なる複数種類の前記ブライン(例えば塩化マグネシウム水溶液、エチレングリコール等)が用意されており、
前記凍結点調整手段は、前記複数種類のうち所定の種類のブラインを選択することで、前記フレークアイス製造手段に供給される前記ブラインの凍結点を調整することができる。
前記保冷庫に供給される前記冷却材は、前記フレークアイスと前記ブラインとの混合物である氷スラリー(例えば図1の氷スラリー3)とすることができる。
1、2:保冷庫、3:氷スラリー、4:ケーシング、5:保冷空間、6:隔壁、7:断熱材、8:遮熱シート、9:氷スラリー格納容器、10:フレークアイス製造装置、11:ドラム、12:回転軸、12a:竪穴、13:噴射部、13a:噴射孔、14:掻取部、15:ブレード、15a:鋸歯、16:フレークアイス排出口、17:上部軸受部材、19:防熱保護カバー、20:ギヤードモータ、21:ロータリージョイント、22;内筒、23:外筒、24:冷媒クリアランス、27:回転制御部、28:ブッシュ、29:冷媒供給部、30:ブライン貯留タンク、31:ポンプ、32:ブライン配管、33:ブラインタンク、34:フレークアイス貯留タンク、35:冷媒配管、36:凍結点調節部、40:氷スラリー供給口、41:氷スラリー排出口、42、43:開閉弁、44:保冷車両、45:物流拠点、46:氷スラリー供給設備、47:氷スラリー供給調節部、50:空隙、60:フレークアイス製造システム、70:氷スラリー供給システム、81:送風クリアランス
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
<氷>
本発明の氷は、以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液を含む液体の氷である。
(a)融解完了時の温度が0℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
水に溶質を融解した場合、その水溶液の凝固点が低下するという凝固点降下が生じることが知られている。凝固点降下の作用により、上述の特許文献1に記載されたような食塩等の溶質が融解した水溶液は、その凝固点が低下している。つまり、そのような水溶液からなる氷は、真水からなる氷より低い温度で凝固した氷である。ここで、氷が水に変化するときに必要な熱を「潜熱」というが、この潜熱は温度変化を伴わない。このような潜熱の効果により、上記のような凝固点が低下した氷は、融解時に真水の凝固点以下の温度で安定な状態が続くため、冷熱エネルギーを蓄えた状態が持続することになる。よって、本来であれば、被冷却物の冷却能が真水からなる氷より高くなるはずである。しかし、特許文献1に記載された氷は、冷却の際に自身の温度が経時的に早く上がる等、被冷却物を冷却する能力が十分なものではないことを本発明者らは発見した。その理由について本発明者らは検討したところ、特許文献1に記載されたような方法では、食塩等の溶質を含有する水溶液から氷を製造したとしても、実際は、水溶液が凍る前に溶質を含まない氷が先に製造されてしまい、結果として製造されるのは溶質を含まない氷と溶質との混合物となってしまうか、あるいは、凝固点の低下した氷はほんの僅かしか生成されないため、冷却能の高い氷が製造されていなかったことがわかった。
しかしながら、本発明者らは、所定の方法により(詳細は後述する)、凝固点が低下した水溶液を含む液体の氷を製造することに成功した。このような本発明の氷は、上述の(a)及び(b)の条件を満たすものである。以下、上述の(a)及び(b)の条件について説明する。
(融解完了時の温度)
上記(a)に関して、本発明の氷は、溶質を含む水溶液を含む液体の氷であるため、真水(溶質を含まない水)の凝固点より凝固点の温度が低下している。そのため、融解完了時の温度が0℃未満であるという特徴を有する。「融解完了時の温度」とは、本発明の氷を融点以上の環境下(例えば、室温、大気圧下)に置くことで氷の融解を開始させ、全ての氷が融解して水になった時点におけるその水の温度のことを指す。
融解完了時の温度は0℃未満であれば特に限定されず、溶質の種類、濃度を調整することで適宜変更することができる。融解完了時の温度は、より冷却能が高いという点で、温度が低い方が好ましく、具体的には、−1℃以下(−2℃以下、−3℃以下、−4℃以下、−5℃以下、−6℃以下、−7℃以下、−8℃以下、−9℃以下、−10℃以下、−11℃以下、−12℃以下、−13℃以下、−14℃以下、−15℃以下、−16℃以下、−17℃以下、−18℃以下、−19℃以下、−20℃以下等)であることが好ましい。他方、凝固点を、被冷却物の凍結点に近づけた方が好ましい場合もあり(例えば、生鮮動植物の損傷を防ぐため等)、このような場合は、融解完了時の温度が高すぎない方が好ましく、例えば、−21℃以上(−20℃以上、−19℃以上、−18℃以上、−17℃以上、−16℃以上、−15℃以上、−14℃以上、−13℃以上、−12℃以上、−11℃以上、−10℃以上、−9℃以上、−8℃以上、−7℃以上、−6℃以上、−5℃以上、−4℃以上、−3℃以上、−2℃以上、−1℃以上、−0.5℃以上等)であることが好ましい。
(溶質濃度の変化率)
上記(b)に関して、本発明の氷は、融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率(以下、本明細書において「溶質濃度の変化率」と略称する場合がある。)が30%以内であるという特徴を有する。特許文献1に記載されたような方法においても、わずかに凝固点の低下した氷が生じる場合もあるが、そのほとんどは溶質を含まない水の氷と溶質の結晶との混合物であるため、冷却能が十分なものでない。このように溶質を含まない水の氷と溶質の結晶との混合物が多く含まれる場合、氷を融解条件下においた場合、融解に伴う溶質の溶出速度が不安定であり、融解開始時に近い時点である程、溶質が多く溶出し、融解が進むとともに溶質の溶出する量が少なくなり、融解が完了時に近い時点程、溶質の溶出量が少なくなる。これに対し、本発明の氷は、溶質を含む水溶液を含む液体の氷からなるものであるため、融解過程における溶質の溶出速度の変化が少ないという特徴を有する。具体的には、融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%である。なお、「融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率」とは、融解過程の任意の時点での発生する水溶液における溶質濃度に対する、融解完了時における水溶液の濃度の割合を意味する。なお、「溶質濃度」とは、水溶液中の溶質の質量の濃度を意味する。
本発明の氷における溶質濃度の変化率は30%以内であれば特に限定されないが、その変化率が少ない方が、凝固点の低下した水溶液の氷の純度が高いこと、つまり、冷却能が高いことを意味する。この観点から、溶質濃度の変化率は、25%以内(24%以内、23%以内、22%以内、21%以内、20%以内、19%以内、18%以内、17%以内、16%以内、15%以内、14%以内、13%以内、12%以内、11%以内、10%以内、9%以内、8%以内、7%以内、6%以内、5%以内、4%以内、3%以内、2%以内、1%以内、0.5%以内等)であることが好ましい。他方、溶質濃度の変化率は、0.1%以上(0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、19%以上、20%以上等)であってもよい。
(溶質)
本発明の氷に含まれる溶質の種類は、水を溶媒としたときの溶質であれば特に限定されず、所望の凝固点、使用する氷の用途等に応じて、適宜選択することができる。溶質としては、固体状の溶質、液状の溶質等が挙げられるが、代表的な固体状の溶質としては、塩類(無機塩、有機塩等)が挙げられる。特に、塩類のうち、食塩(NaCl)は、凝固点の温度を過度に下げすぎず、生鮮動植物又はその一部の冷却に適してことから好ましい。また、食塩は海水に含まれるものであるため、調達が容易であるという点でも好ましい。また、液状の溶質としては、エチレングリコール等が挙げられる。なお、溶質は1種単独で含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。
本発明の氷に含まれる溶質の濃度は特に限定されず、溶質の種類、所望の凝固点、使用する氷の用途等に応じて、適宜選択することができる。例えば、溶質として食塩を用いた場合は、水溶液の凝固点をより下げて、高い冷却能を得ることができる点で、食塩の濃度は0.5%(w/v)以上(1%(w/v)以上、2%(w/v)以上、3%(w/v)以上、4%(w/v)以上、5%(w/v)以上、6%(w/v)以上、7%(w/v)以上、8%(w/v)以上、9%(w/v)以上、10%(w/v)以上、11%(w/v)以上、12%(w/v)以上、13%(w/v)以上、14%(w/v)以上、15%(w/v)以上、16%(w/v)以上、17%(w/v)以上、18%(w/v)以上、19%(w/v)以上、20%(w/v)以上等)であることが好ましい。他方、本発明の氷を生鮮動植物又はその一部の冷却に用いる場合等においては、凝固点の温度を過度に下げすぎない方が好ましく、この観点で、23%(w/v)以下(20%(w/v)以下、19%(w/v)以下、18%(w/v)以下、17%(w/v)以下、16%(w/v)以下、15%(w/v)以下、14%(w/v)以下、13%(w/v)以下、12%(w/v)以下、11%(w/v)以下、10%(w/v)以下、9%(w/v)以下、8%(w/v)以下、7%(w/v)以下、6%(w/v)以下、5%(w/v)以下、4%(w/v)以下、3%(w/v)以下、2%(w/v)以下、1%(w/v)以下等)であることが好ましい。
本発明の氷は冷却能に優れるため、冷媒としての使用に適している。低温の冷媒としては、氷以外に、エタノール等の不凍液として使用される有機溶媒が挙げられるが、これらの不凍液より氷の方が熱伝導率が高く、比熱が高い。そのため、本発明の氷のような溶質を溶解させて凝固点が低くなった氷は、不凍液のような他の0℃未満の冷媒より、冷却能が優れている点においても有用である。
本発明の氷は、上記の溶質以外の成分を含んでもよく、含まなくてもよい。
本発明において、「氷」とは、水溶液を含む液体が凍ったものを指す。
また、本発明の氷は、真水の凝固点以下の温度で安定な状態が続くため、すなわち、分離しない状態とすることができる。そのため、例えば、後述のとおり、本発明の氷を構成する液体が、上記の溶質を含有する水溶液に加え、さらに、油を含む液体であった場合、該油が均一な状態が長持ちし、つまり、分離しない状態とすることができる。なお、本発明において「分離しない状態」とは、マクロな観点で分離していない状態(層の状態が分離していない状態)を意味しているのであり、ミクロな観点で分離している部分(例えば、一部の水と油)は含むものである。
上述のとおり、本発明の氷を構成する液体は、上記の溶質を含有する水溶液に加え、さらに、油を含む液体であってもよい。そのような液体としては、生乳、水と油を含む産業廃棄物(廃棄乳等)が挙げられる。液体が生乳であった場合、その氷を食したときの官能性が向上する点で好ましい。このように、官能性が向上する理由は、生乳に含まれる油(脂肪)が氷の中に閉じ込められた状態であるからと推測される。なお、本発明の氷は、上記の溶質を含有する水溶液を凍結させたもののみから構成してもよい。
本発明の氷を構成する液体がさらに油を含む場合、液体中の水と油との比率は、特に限定されず、例えば、1:99〜99:1(10:90〜90:10、20:80〜80:20、30:80〜80:30、40〜60:40〜60等)の範囲で適宜選択してもよい。
また、本発明の氷は、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を含む水溶液の氷であってもよい。この場合、本発明の氷は、一方の溶質を含む水溶液の氷と、他方の溶質を含む水溶液の氷との混合物であってもよい。かかる場合、例えば、溶質としてエチレングリコールを含む水溶液の氷に、エチレングリコールと凝固点降下度の異なる溶質として食塩を含む水溶液の氷を加えることで、エチレングリコールを含む水溶液の氷の融解を遅らせることができる。あるいは、本発明の氷は、2種以上の溶質を同一の水溶液に溶解した水溶液の氷であってもよい。また、凝固点降下度の異なる2種以上の溶質を併用する場合、対象となる溶質を含む水溶液の氷の融点を下げる場合においても有用である。例えば、溶質として食塩を用いる場合に、食塩よりさらに融点を下げることができる溶質(エチレングリコール、塩化カルシウム等)を併用することで、食塩水の氷の融点を下げることができ、例えば、食塩水の氷のみではなしえない−30℃近辺での温度を実現できる。凝固点降下度の異なる2種以上の溶質の比率は、目的に応じて適宜変更することができる。
<冷媒>
本発明は、上記の氷を含む冷媒を包含する。上記のとおり、本発明の氷は冷却能に優れるため、冷媒に好適である。
本発明の冷媒は、上記の氷の他の成分を含んでもよく、例えば、上記の氷以外に水を含むことで、氷と水との混合物により構成してもよい。例えば、氷に含まれる溶質と同一の溶質を含有する水をさらに含む場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度は近い方が好ましい。その理由は、以下のとおりである。
氷の溶質濃度が水の溶質濃度より高い場合、氷の温度が水の飽和凍結点より低いため、溶質濃度が低い水を混合した直後に水分が凍結する。一方、氷の溶質濃度が水の溶質濃度より低い場合、氷の飽和凍結点よりも水の飽和凍結点のほうが低いため氷が融解し、氷と水との混合物からなる冷媒の温度が低下する。つまり、氷と水との混合物の状態(氷スラリーの状態)を変動させないようにするためには、上述のとおり、混合する氷と水の溶質濃度を同程度とすることが好ましい。また、氷と水との混合物の状態である場合、水は、上記氷が融解してなるものであってもよく、別途調製したものであってもよいが、上記氷が融解してなるものであることが好ましい。
具体的には、本発明の冷媒を氷と水との混合物により構成する場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度との比が、75:25〜20:80であることがより好ましく、70:30〜30:70であることがさらに好ましく、60:40〜40:60であることがより一層好ましく、55:45〜45:55であることがさらに一層好ましく、52:48〜48:52であることが特に好ましく、50:50であることが最も好ましい。特に、溶質として食塩を用いる場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度との比が上記範囲内にあることが好ましい。
本発明の冷媒の冷却対象は、特に限定されないが、生鮮動植物又はその部分の冷却に好適である。生鮮動植物としては、例えば、海水魚等の生鮮魚、生鮮野菜等が挙げられる。生鮮動植物の部分としては、動物(ヒト等)の臓器が挙げられる。
本発明の氷の原料となる水は、特に限定されないが、溶質として食塩を使用する場合、海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水、の氷であることが好ましい。海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水は、調達が容易であり、これによりコストの削減も可能となる。
本発明の冷媒は、さらに、上記の本発明の氷より高い熱伝導率を有する固体を含有してもよく、含有さなくてもよいが、含有することが好ましい。短時間で冷却対象物を冷却しようとした場合、熱伝導率の高い固体を利用することにより達成可能であるが、この場合、その固体自身も短時間で冷熱エネルギーを失い温度が上がりやすいため、長時間の冷却には不適である。他方、熱伝導率の高い固体を利用しない方が長時間の冷却に適しているが、短時間で冷却対象物を冷却するのには不適である。しかしながら、本発明の氷は、上記のように冷却能が高いため、熱伝導率の高い固体による短時間の冷却能力を得つつ、長時間の冷却も可能としている点で有用である。本発明の氷より高い熱伝導率を有する固体としては、例えば、金属(アルミニウム、銀、銅、金、ジュラルミン、アンチモン、カドミウム、亜鉛、すず、ビスマス、タングステン、チタン、鉄、鉛、ニッケル、白金、マグネシウム、モリブデン、ジルコニウム、ベリリウム、インジウム、ニオブ、クロム、コバルト、イリジウム、パラジウム)、合金(鋼(炭素鋼、クロム鋼、ニッケル鋼、クロムニッケル鋼、ケイ素鋼、タングステン鋼、マンガン鋼等)、ニッケルクロム合金、アルミ青銅、砲金、黄銅、マンガニン、洋銀、コンスタンタン、はんだ、アルメル、クロメル、モネルメタル、白金イリジウム等)、ケイ素、炭素、セラミックス(アルミナセラミックス、フォルステライトセラミックス、ステアタイトセラミックス等)、大理石、レンガ(マグネシアレンガ、コルハルトレンガ等)等であって、本発明の氷より高い熱伝導率を有するものが挙げられる。また、本発明の氷より高い熱伝導率を有する固体は、熱伝導率が2.3W/m K以上(3W/m K以上、5W/m K以上、8W/m K以上等)の固体であることが好ましく、熱伝導率が10W/m K以上(20W/m K以上、30W/m K以上、40W/m K以上等)の固体であることがより好ましく、熱伝導率が50W/m K以上(60W/m K以上、75W/m K以上、90W/m K以上等)の固体であることがさらに好ましく、熱伝導率が100W/m K以上(125W/m K以上、150W/m K以上、175W/m K以上等)の固体であることがより一層好ましく、熱伝導率が200W/m K以上(250W/m K以上、300W/m K以上、350W/m K以上等)の固体であることがなお好ましく、熱伝導率が200W/m K以上の固体であることがなお好ましく、熱伝導率が400W/m K以上(410W/m K以上等)の固体であることが特に好ましい。
本発明の冷媒が、上記の本発明の氷より高い熱伝導率を有する固体を含有する場合、上記のとおり、多くの固体を含んでも長時間の冷却に適しており、例えば、本発明の氷より高い熱伝導率を有する固体の質量/冷媒に含まれる本発明の氷の質量(又は冷媒に含まれる本発明の氷と水溶液を含む液体との合計質量)は、1/100000以上(1/50000以上、1/10000以上、1/5000以上、1/1000以上、1/500以上、1/100以上、1/50以上、1/10以上、1/5以上、1/4以上、1/3以上、1/2以上等)であってもよい。
本発明における上記固体は、どのような形状であってもよいが、粒子状であることが好ましい。また、上記固体は、本発明の氷の内部に含まれた形態で含まれていてもよく、氷の外部に含まれた形態で含まれていてもよいが、氷の外部に含まれた形態で含まれていた方が冷却対象物に直接接しやすくなるため、冷却能が高くなる。このことから、氷の外部に含まれた形態で含まれていた方が好ましい。また、本発明の冷媒が上記固体を含有する場合、後述の本発明の氷の製造方法により氷を製造した後に上記固体と混合してもよく、あるいは、あらかじめ原料となる水に混合した状態で、氷を製造してもよい。
<氷の製造方法>
本発明は、溶質を含有する水溶液を含む液体の氷の製造方法であって、溶質を含有する水溶液を含む液体を、該水溶液の凝固点以下の温度に保持された壁面に対して噴霧することによって、壁面上に水溶液を含む液体の氷を生成する工程と、壁面上において生じた氷を回収する工程と、有する方法を包含する。かかる方法により、上記(a)及び(b)の条件を満たす本発明の氷を製造することができる。
(氷生成工程)
本発明は、溶質を含有する水溶液を含む液体の氷の製造方法であって、溶質を含有する水溶液を含む液体を、該水溶液の凝固点以下の温度に保持された壁面に対して噴霧することによって、壁面上に水溶液を含む液体の氷を生成する工程と、壁面上において生じた氷を回収する工程を有する。
上述の特許文献1のように容器に溜められた状態の水溶液を含む液体を外部から冷却しても、本発明の氷を製造することができない。これは、冷却速度が十分でないことに起因すると考えられる。しかしながら、本発明の製造方法は、溶質を含有する水溶液を含む液体を噴霧することで霧状となった水溶液が凝固点以下の温度に保持された壁面に直接接することにより従来なかった急速な冷却を可能としている。これにより、本発明は、上記(a)及び(b)の条件を満たす、冷却能の高い氷を生成することができると考えられる。
壁面は、例えば、後述する図9における竪型ドラム11のような円柱型の構造物の内壁等が挙げられるが、水溶液の凝固点以下の温度に保持できるような壁面であれば特に限定されない。壁面の温度は、水溶液の凝固点以下の温度に保持されていれば特に限定されないが、上記(a)及び(b)の条件を満たす氷の純度が高い氷を製造できる点で、水溶液の凝固点より1℃以上低い温度(2℃以上低い温度、3℃以上低い温度、4℃以上低い温度、5℃以上低い温度、6℃以上低い温度、7℃以上低い温度、8℃以上低い温度、9℃以上低い温度、10℃以上低い温度、11℃以上低い温度、12℃以上低い温度、13℃以上低い温度、14℃以上低い温度、15℃以上低い温度、16℃以上低い温度、17℃以上低い温度、18℃以上低い温度、19℃以上低い温度、20℃以上低い温度、21℃以上低い温度、22℃以上低い温度、23℃以上低い温度、24℃以上低い温度、25℃以上低い温度等)に保持されることが好ましい。
噴霧の方法は、特に限定されないが、例えば、後述する図9におけるパイプ13のように、噴射孔を備える噴射手段から、噴射することにより、噴霧をすることができる。この場合において、噴射する際の水圧は、例えば、0.001MPa以上(0.002MPa以上、0.005MPa以上、0.01MPa以上、0.05MPa以上、0.1MPa以上、0.2MPa以上等)であってもよく、1MPa以下(0.8MPa以下、0.7MPa以下、0.6MPa以下、0.5MPa以下、0.3MPa以下、0.1MPa以下、0.05MPa以下、0.01MPa以下等)であってもよい。
また、後述する図9に示すように、竪型ドラム11の中心軸上に回転可能な回転軸12を設ける等の回転手段を設け、回転させながら噴霧を行う等の連続的な噴霧により行ってもよい。
(回収工程)
本発明は、上述の氷生成工程後に、壁面上において生じた氷を回収する工程を有する。
回収する方法は、特に限定されず、例えば、後述する図10に示すように、壁面上の氷をブレード15等の手段により掻き取り、落下した氷を回収してもよい。
また、氷が生成される際に、製氷熱が発生するが、この製氷熱を帯びることで、実際の融解完了温度に影響を与える可能性がある。このように、融解完了温度は、溶質の種類、濃度のみでなく、製氷熱の影響を受けると考えられる。そのため、氷に残存する製氷熱の熱量を調整することで、実際の融解完了温度を調整することができる。製氷熱を調整するためには、本発明における回収工程において、氷を壁面上の保持時間を調整することで行うことができる。
[製氷機及び製氷システム]
本発明の氷を製造するのに利用可能な製氷機、及び製氷システムの一態様について、図9、図10を参照しながら以下に説明する。なお、以下の製氷機の例は、溶質として食塩を用いたものである。
製氷機10の部分断面斜視図を図9に、製氷機10を含む製氷システムを図10に示す。製氷機10は、冷媒により内周面が冷却される竪型ドラム11を備え、ギヤードモータ20により回転する回転軸12が竪型ドラム11の中心軸上に配置されている。回転軸12には、回転軸12と共に回転し、竪型ドラム11の内周面に向けて塩水を噴射する噴射孔13aを先端部に有する複数のパイプ13と、竪型ドラム11の半径方向に延出し、回転軸12と共に回転するアーム14が取り付けられている。アーム14の先端部には、竪型ドラム11の内周面に生成した氷を掻き取るブレード15が装着されている。
竪型ドラム11は、氷が内周面に生成する内筒22と、内筒22を囲繞する外筒23とを有している。内筒22及び外筒23は鋼製とされ、内筒22と外筒23の間にはクリアランスが設けられている。クリアランスには、配管35を介して冷凍機(図示省略)から冷媒が供給される。なお、竪型ドラム11の外周面は円筒状の保護カバー19で覆われている。
竪型ドラム11の上面は、鍋を逆さにした形状からなる上部軸受部材17で封止されている。上部軸受部材17の中心部には、回転軸12を支持するブッシュ28が嵌装されている。回転軸12は上部軸受部材17にのみ支持され、回転軸12の下端部は軸支されていない。そのため、竪型ドラム11の下方には、ブレード15によって掻き取られた氷が落下する際に障害となる物がなく、竪型ドラム11の下面は氷を排出する排出口16とされている。排出口16から落下した氷は、製氷機10の直下に配置された氷貯留タンク34内に貯えられる(図10参照)。
回転軸12は、上部軸受部材17の上方に設置されたギヤードモータ20によって材軸回りに回転する。回転軸12の上部には、材軸方向に延在し各パイプ13と連通する竪穴12aが形成されている(図10参照)。また、回転軸12の頂部にはロータリージョイント21が取り付けられている。氷の原料となる塩水は、塩水貯留タンク30から配管32を介してロータリージョイント21に送給される(図10参照)。ロータリージョイント21に送給された塩水は、ロータリージョイント21から回転軸12に形成された竪穴12aに送給され、竪穴12aから各パイプ13に送給される。
パイプ13は、回転軸12から竪型ドラム11の半径方向に放射状に延出している。各パイプ13の設置高さは竪型ドラム11の内筒22高さの上部位置とされ、内筒22の内周面の上部に向けて塩水が噴射される(図9参照)。噴射孔13aから塩水を噴射する際の水圧としては例えば、0.01MPa程度である。なお、パイプ13に代えてスプレーノズルなどを使用しても良い。この場合、噴射圧力は例えば、0.2〜0.5MPaとすることができる。
アーム14は回転軸12に関して対称となるように装着されている。本実施の形態では、アーム14の本数は2本とされている。各アーム14の先端部に装着されているブレード15は、内筒22の全長(全高)にほぼ等しい長さを有するステンレス製の板材からなり、内筒22に面する端面には複数の鋸歯15aが形成されている。
次に、上記構成を有する製氷機10及び製氷システムの動作について説明する。冷凍機を作動させることで竪型ドラム11に冷媒を供給し、竪型ドラム11の内周面の温度を−20〜−25℃にする。次いで、ギヤードモータ20を作動させて、回転軸12を材軸周りに回転させると共に、ロータリージョイント21を介して回転軸12内に塩水を供給する。回転軸12の回転速度は2〜4rpmとする。なお、パイプ13ではなくスプレーノズルを使用した場合は、回転軸12の回転速度は10〜15rpmとする。
回転軸12と共に回転するパイプ13から竪型ドラム11の内周面に向けて噴射された塩水は、竪型ドラム11の内周面に接触すると瞬時に凍結する。竪型ドラム11の内周面に生成した氷は、アーム14と共に回転するブレード15によって掻き取られる。掻き取られた氷は排出口16から落下する。排出口16から落下した氷は、製氷機10の直下に配置された氷貯留タンク34内に貯えられ、生鮮海産物の鮮度保持に使用される。
一方、氷とならず、竪型ドラム11の内周面を流下した塩水は塩水貯留タンク30に貯えられ、ポンプ31を作動させることにより配管32を介してロータリージョイント21に再び送給される(図10参照)。なお、塩水貯留タンク30内の塩水が少なくなった場合は、塩水タンク33に貯えられている塩水が塩水貯留タンク30に供給される。
<被冷却物の製造方法>
本発明は、冷却された被冷却物の製造方法であって、上述の冷媒を用いて被冷却物を冷却する工程を有する方法を包含する。
被冷却物は、特に限定されず、例えば、生鮮動植物又はその部分等が挙げられる。生鮮動植物としては、例えば、海水魚等の生鮮魚、生鮮野菜等が挙げられる。生鮮動植物の部分としては、動物(ヒト等)の臓器が挙げられる。
冷却する方法は、特に限定されず、上述の冷媒を直接被冷却物に接触させて冷却してもよく、間接的に(例えば、熱源を伝えられる熱伝導手段を冷媒により冷却させ、冷却された熱伝導手段を介して)、冷却してもよい。
また、上述の本発明の冷媒が氷より高い熱伝導率を有する固体を含有する場合、冷却する工程において、冷媒に含まれる氷と被冷却物との間に、氷より高い熱伝導率を有する固体が介在するように冷却を行うことが好ましい。これにより、熱伝導率の高い固体による短時間の冷却能力を得つつ、長時間の冷却も可能となる。かかる場合、目的に応じて、氷、氷より高い熱伝導率を有する固体、被冷却物とのぞれぞれの間に、別のものが介在していてもよい。例えば、冷媒の中に被冷却物と直接接するのが好ましくないもの(例えば、安全性の観点で被冷却物と接するのが好ましくない、氷より熱伝導率が高い固体(金属等)等)が含まれる場合、袋に冷媒又は被冷却物のいずれか一方を収容して、冷媒と被冷却物とが直接接しないようにして冷却してもよい。
<実施例1>
上述の製氷機10を用いて、溶質として食塩を23.1%含有する水溶液(飽和食塩水)の氷(以下、「実施例1に係る氷」という。)を製造した。この実施例1に係る氷は、(a)融解完了時の温度が0℃未満であった。また、融解過程での水溶液の食塩水の濃度が略一定であり、つまり(b)融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内であった。この実施例1に係る氷の温度について、外気温下において経時変化を測定した。また、実施例1に係る氷と同濃度の食塩水(図11中の「高濃度食塩水」)についても、同様に温度の経時変化を測定した。その結果を図11に示す。図11中、縦軸が温度(℃)、横軸が時間(分)である。
図11に示すように、高濃度食塩水は凍っていないため、時間の経過に比例して温度が上がっていった。これに対し、実施例1に係る氷は、融解が完了するまでの間、−20℃付近でほとんど温度変化がみられなかったことから、潜熱の効果により、高い冷却能を有することがわかった。
<実施例2> 実施例1と同様に、上述の製氷機10を用いて、溶質として食塩を23.1%含有する水溶液(飽和食塩水)の氷(以下、「実施例2に係る氷(溶液:飽和食塩水)」という。)を製造した。また、実施例2に係る氷(溶液:飽和食塩水)に、銅を加えたものを準備し、これを実施例2に係る氷(溶液:飽和食塩水+CU)とした。さらに、凍らせていない飽和食塩水(−20℃水溶液)を準備した。
実施例2に係る氷(溶液:飽和食塩水)、実施例2に係る氷(溶液:飽和食塩水+CU)、飽和食塩水(−20℃水溶液)を用いて、魚を冷却し、魚体芯温度の経時的な変化を測定した。その結果を図12に示す。図12中、縦軸が温度(℃)、横軸が時間(分)である。
図12に示すとおり、実施例2に係る氷(溶液:飽和食塩水+CU)は、実施例2に係る氷(溶液:飽和食塩水)より魚の冷却能が高いことがわかった。この結果より、銅のような氷より高い熱伝導率を有する固体をさらに加えることで、冷却能が高くなることがわかった。
<実施例3>
上述の製氷機10を用いて、23.1%含有する水溶液(飽和食塩水)の代わりに生乳を用いて、実施例1に係る氷と同様の方法で実施例3に係る生乳の氷を製造した。実施例3に係る氷を試食したところ、食べている間に分離しにくく固体状態を長持ちでき、おいしかったことが確認できた。また、同様の氷を食べずに放置して溶解させたところ、溶解して生じた生乳が分離していなかった。さらに、実施例3に係る生乳の氷を上述の製氷機10を用いて製造したときの分離状態を確認したところ、液体を噴霧した壁面から氷を回収した後においても壁面上に油が残っておらず、製造時においても分離していないことが確認できた。これらのことから、本発明の氷が分離しない状態とすることができることがわかった。
[符号の説明]
10:製氷機、11:竪型ドラム、12:回転軸、12a:竪穴、13:パイプ、13a:噴射孔、14:アーム、15:ブレード、15a:鋸歯、16:排出口、17:上部軸受部材、19:保護カバー、20:ギヤードモータ、21:ロータリージョイント、22:内筒、23:外筒、28:ブッシュ、30:塩水貯留タンク、31:ポンプ、32、35:配管、33:塩水タンク、34:氷貯留タンク
以下、本発明の実施形態について説明するが、これに特に限定されない。
<動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法>
本発明は、動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法であって、以下の(a)〜(c)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液の氷を用いて、動植物又はその部分を冷蔵する工程を有する方法である。
(a)融解完了時の温度が0℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
(c)温度が動植物又はその部分の凍結点〜凍結点+0.5℃である
本発明における氷は上記の(c)の条件を満たしているので、動植物又はその部分は凍結せず、低温な状態を維持する能力に優れている。また、上記(a)及び(b)の条件を満たしているので、低温な状態を維持する能力がより一層優れている。この点について、以下に説明する。
水に溶質を融解した場合、その水溶液の凝固点が低下するという凝固点降下が生じることが知られている。凝固点降下の作用により、従来の食塩等の溶質が融解した水溶液は、凝固点降下により凝固点が低下している。つまり、そのような水溶液からなる氷は、真水からなる氷より低い温度で凝固した氷である。ここで、氷が水に変化するときに必要な熱を「潜熱」というが、この潜熱は温度変化を伴わない。このような潜熱の効果により、凝固点が低下した氷は、融解時に真水の凝固点以下の温度で安定な状態が続くため、冷熱エネルギーを蓄えたような状態が持続することになる。よって、本来であれば、被冷却物の冷蔵能が真水からなる氷より高くなるはずである。しかし、例えば、外部より冷却することで製造されたような従来の氷では、冷却の際に自身の温度が経時的に早く上がる等、実際は被冷蔵物を冷蔵する能力が十分なものではないことを本発明者らは発見した。その理由を本発明者らは検討したところ、従来の方法では、食塩等の溶質を含有する水溶液から氷を製造したとしても、実際は、水溶液が凍る前に溶質を含まない氷が先に製造されてしまい、結果として製造されるのは溶質を含まない氷と溶質との混合物となってしまうか、あるいは、凝固点の低下した氷はほんの僅かしか生成されないため、冷蔵能の高い氷が製造されていなかったことがわかった。
これに対し、本発明者らは、所定の方法により(詳細は後述する)、凝固点が低下した水溶液の氷を製造することに成功した。このような本発明の氷は、上述の(a)〜(c)の条件を満たすものであるため、動植物又はその部分を凍結させずに冷蔵する能力に優れている。
以下、本発明の製造方法において用いられる上記の(a)〜(c)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液の氷について、詳細に説明する。
(融解完了時の温度)
上記(a)に関して、本発明の氷は、溶質を含む水溶液であるため、真水(溶質を含まない水)の凝固点より凝固点の温度が低下している。そのため、融解完了時の温度が0℃未満であるという特徴を有する。「融解完了時の温度」とは、本発明の氷を融点以上の環境下(例えば、室温、大気圧下)に置くことで氷の融解を開始させ、全ての氷が融解して水になった時点におけるその水の温度のことを指す。
融解完了時の温度は0℃未満であれば特に限定されず、溶質の種類、濃度を調整することで適宜変更することができる。融解完了時の温度は、より冷蔵能が高いという点で、温度が低い方が好ましく、具体的には、−1℃以下(−2℃以下、−3℃以下、−4℃以下、−5℃以下、−6℃以下、−7℃以下、−8℃以下、−9℃以下、−10℃以下、−11℃以下、−12℃以下、−13℃以下、−14℃以下、−15℃以下、−16℃以下、−17℃以下、−18℃以下、−19℃以下、−20℃以下等)であることが好ましい。他方、凝固点を、被冷却物の凍結点に近づけた方が好ましい場合もあり(例えば、生鮮動植物の損傷を防ぐため等)、このような場合は、融解完了時の温度が高すぎない方が好ましく、例えば、−21℃以上(−20℃以上、−19℃以上、−18℃以上、−17℃以上、−16℃以上、−15℃以上、−14℃以上、−13℃以上、−12℃以上、−11℃以上、−10℃以上、−9℃以上、−8℃以上、−7℃以上、−6℃以上、−5℃以上、−4℃以上、−3℃以上、−2℃以上、−1℃以上、−0.5℃以上等)であることが好ましい。
(溶質濃度の変化率)
上記(b)に関して、本発明の氷は、融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率(以下、本明細書において「溶質濃度の変化率」と略称する場合がある。)が30%以内であるという特徴を有する。特許文献1に記載されたような方法においても、わずかに凝固点の低下した氷が生じる場合もあるが、そのほとんどは溶質を含まない水の氷と溶質の結晶との混合物であるため、冷蔵能が十分なものでない。このように溶質を含まない水の氷と溶質の結晶との混合物が多く含まれる場合、氷を融解条件下においた場合、融解に伴う溶質の溶出速度が不安定であり、融解開始時に近い時点である程、溶質が多く溶出し、融解が進むとともに溶質の溶出する量が少なくなり、融解が完了時に近い時点程、溶質の溶出量が少なくなる。これに対し、本発明の氷は、溶質を含む水溶液の氷からなるものであるため、融解過程における溶質の溶出速度の変化が少ないという特徴を有する。具体的には、融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%である。なお、「融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率」とは、融解過程の任意の時点での発生する水溶液における溶質濃度に対する、融解完了時における水溶液の濃度の割合を意味する。なお、「溶質濃度」とは、水溶液中の溶質の質量の濃度を意味する。
本発明の氷における溶質濃度の変化率は30%以内であれば特に限定されないが、その変化率が少ない方が、凝固点の低下した水溶液の氷の純度が高いこと、つまり、冷蔵能が高いことを意味する。この観点から、溶質濃度の変化率は、25%以内(24%以内、23%以内、22%以内、21%以内、20%以内、19%以内、18%以内、17%以内、16%以内、15%以内、14%以内、13%以内、12%以内、11%以内、10%以内、9%以内、8%以内、7%以内、6%以内、5%以内、4%以内、3%以内、2%以内、1%以内、0.5%以内等)であることが好ましい。他方、溶質濃度の変化率は、0.1%以上(0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、16%以上、17%以上、18%以上、19%以上、20%以上等)であってもよい。
(温度)
上記の(c)に関して、本発明における氷は、温度が動植物又はその部分の凍結点〜凍結点+0.5℃であることを特徴とする。かかる範囲を満たせば、氷の温度は限定されないが、凍結点の温度に近い程、低温に維持する効果が高い。このことから、本発明における氷は、凍結点+0.4℃以下であることが好ましく、凍結点+0.3℃以下であることがより好ましく、凍結点+0.2℃以下であることがさらに好ましく、凍結点+0.1℃以下であることがより一層好ましく、凍結点+0.05℃以下であることが特に好ましい。他方、氷の温度が高いほど、動植物又はその部分の凍結を防止する効果に優れる。このことから、氷の温度は、凍結点+0.01℃以上であることがより好ましく、凍結点+0.05℃以上であることがさらに好ましく、凍結点+0.1℃以上であることがより一層好ましく、凍結点+0.2℃以上であることがさらに一層好ましく、凍結点+0.3℃以上であることがなお好ましく、凍結点+0.4℃以上であることが特に好ましい。なお、動植物又はその部分の凍結点は、「動植物又はその部分」の全体の凍結点であってもよく、「動植物又はその部分」の少なくとも一部の凍結点であってもよい。
(溶質)
本発明の氷に含まれる溶質の種類は、水を溶媒としたときの溶質であれば特に限定されず、所望の凝固点、使用する氷の用途等に応じて、適宜選択することができる。溶質としては、固体状の溶質、液状の溶質等が挙げられるが、代表的な溶質としては、塩類(無機塩、有機塩等)が挙げられる。特に、塩類のうち、食塩(NaCl)は、凝固点の温度を過度に下げすぎず、生鮮動植物又はその一部の冷却に適してことから好ましい。また、食塩は海水に含まれるものであるため、調達が容易であるという点でも好ましい。また、液状の溶質としては、エチレングリコール等が挙げられる。なお、溶質は1種単独で含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。
本発明の氷に含まれる溶質の濃度は特に限定されず、溶質の種類、冷蔵対象物等を考慮した上での所望の凝固点、使用する氷の用途等に応じて、適宜選択することができる。例えば、溶質として食塩を用いた場合は、水溶液の凝固点をより下げて、高い冷蔵能を得ることができるが、適宜その濃度を変更してもよく、例えば、食塩の濃度は0.5%(w/v)以上(1%(w/v)以上、2%(w/v)以上、3%(w/v)以上、4%(w/v)以上、5%(w/v)以上、6%(w/v)以上、7%(w/v)以上、8%(w/v)以上、9%(w/v)以上、10%(w/v)以上、11%(w/v)以上、12%(w/v)以上、13%(w/v)以上、14%(w/v)以上、15%(w/v)以上、16%(w/v)以上、17%(w/v)以上、18%(w/v)以上、19%(w/v)以上、20%(w/v)以上等)であってもよく、23%(w/v)以下(20%(w/v)以下、19%(w/v)以下、18%(w/v)以下、17%(w/v)以下、16%(w/v)以下、15%(w/v)以下、14%(w/v)以下、13%(w/v)以下、12%(w/v)以下、11%(w/v)以下、10%(w/v)以下、9%(w/v)以下、8%(w/v)以下、7%(w/v)以下、6%(w/v)以下、5%(w/v)以下、4%(w/v)以下、3%(w/v)以下、2%(w/v)以下、1%(w/v)以下等)であってもよい。
冷蔵対象である動植物又はその部分とそれを冷蔵する氷が融解した水溶液との間で浸透圧が生じると、動植物又はその部分の内部の成分がブリーディングして外に流出したり、あるいは、氷に含まれる溶質が動植物又はその部分に流入したりする現象を生じる。これを抑制するためには、上記の氷を構成する水溶液の溶質の濃度を動植物又はその部分と等張となるように調整することが好ましいが、本発明のような上記(a)及び(b)の条件を満たさない水溶液の氷では、実際に氷を冷蔵対象物に接触させても、冷蔵対象である動植物又はその部分とそれを冷蔵する氷が融解した水溶液との間で浸透圧が生じやすく、持続的な等張を実現しにくい。その理由は、本発明のような上記(a)及び(b)の条件を満たさない水溶液の氷とは、要するに、純粋な水溶液自身の氷でなく、実際は真水からなる氷と溶質との混合物がそのほとんどを占めるものであることに起因していると考えられる。このような混合物の場合、融解開始時の溶質の溶出濃度が高くなる傾向にあり、溶出濃度の変化率が大きいため、上記(b)の条件を満たさないようなものであり、水溶液を凍らせるときにおいては濃度が等張となるように調整しても、冷蔵に使用して氷が融解する際には持続的な等張を実現することができない。これに対し、本発明における水溶液の氷は、水溶液自身の氷であるために上記(b)の条件を満たすものであり、融解過程において溶質の溶出濃度の変化が少ないため、持続的な等張を実現できる。
他方、上述の等張は、溶質の濃度の調整が実現するための一要因であるが、溶質の濃度を調整することで氷の融点が変化する。そうすると、上記(c)の条件を満たすようにするために(つまり、温度が動植物又はその部分の凍結点〜凍結点+0.5℃と丁度できるようにするために)溶質の濃度を調整した場合、動植物又はその部分との等張を実現できるための濃度に調整することは困難である。しかしながら、本発明の氷は、その製造時において残存する製氷熱(詳細は後述する)を調整することで、凝固点、融点を調整することができるため、上記(c)の条件を満たし、かつ、上記の等張をより確実に実現することができる。
本発明における氷は、海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水、の氷であることが好ましい。海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水は、海水魚等を海で捕獲してその場で被冷蔵物を製造する際には、その場で調達が容易できる。また、海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水は、動植物又はその部分を食用として利用したり、移植等のための臓器として使用する場合には、安全性が高い点で有用である。さらに、海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水は、コストの削減も可能となる。
冷蔵対象である動植物又はその部分は、特に限定されないが、生鮮動植物又はその部分の冷蔵に好適である。生鮮動植物としては、例えば、海水魚等の生鮮魚、生鮮野菜等が挙げられる。生鮮動植物の部分としては、動物(ヒト等)の臓器が挙げられる。これらのうち、特に、本発明における動植物は、生鮮魚、生鮮野菜等特の食用のものであることが好ましい。また、冷蔵対象を海水魚とした場合、水溶液のNaCl濃度を0%超2%未満とすることが好ましい。これにより、冷蔵対象を海水魚とした場合において本発明における氷が上記(c)の条件を満たしかつ海水魚との等張を実現することができる。さらに、水溶液のNaCl濃度を0%超2%未満であると融解完了温度を−1℃以下にすることができるため、海水魚において微生物の繁殖を抑制できる点でも、有用である。また、冷蔵対象の動植物の部分としては、動物の臓器(例えば、移植用の臓器)が好適である。臓器は、例えば同じ人間由来で同じ等張濃度であっても、凍結点が異なる場合があるが、上述のとおり、本発明によると、氷が上記(c)の条件を満たしかつ等張を実現することができる点で有用である。
冷蔵の方法は、特に限定されず、氷を直接冷蔵対象に接触させて冷蔵してもよく、間接的に(例えば、氷を容器等に収納させ、該容器を冷蔵対象物に接触させて)冷蔵してもよい。氷を直接冷蔵対象物に接触させる方法は、乾燥も防げるという点でメリットもあるので好ましい。また、氷を冷蔵対象に直接接触させる場合、その氷が上記の(b)の条件を満たさないような氷であると、等張を実現できないため、直接接触することで冷蔵対象へ悪影響(ブリーディング、溶質成分の冷蔵対象への流入等)が生じるが、本発明における氷は上記の(b)の条件を満たすものであるため、持続的な等張を実現することで冷蔵対象への悪影響を抑制しつつ、直接接触によるメリットも享受できる。
本発明の製造方法により製造された氷は冷蔵能に優れるため、被冷蔵物の製造に適している。このような被冷蔵物の製造に使用できるものとしては、氷以外に、エタノール等の不凍液として使用される有機溶媒が挙げられるが、これらの不凍液より氷の方が熱伝導率が高く、比熱が高い。そのため、本発明における氷のような溶質を溶解させて凝固点が低くなった氷は、不凍液のような他の0℃未満の冷媒より、冷蔵能が優れている点においても有用である。
本発明の製造方法において、上記の氷以外の成分を冷蔵に用いてもよく、例えば、上記の氷以外に水を用いることで、氷と水との混合物により冷蔵してもよい。例えば、氷に含まれる溶質と同一の溶質を含有する水をさらに冷蔵に用いる場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度は近い方が好ましい。その理由は、以下のとおりである。
氷の溶質濃度が水の溶質濃度より高い場合、氷の温度が水の飽和凍結点より低いため、溶質濃度が低い水を混合した直後に水分が凍結する。一方、氷の溶質濃度が水の溶質濃度より低い場合、氷の飽和凍結点よりも水の飽和凍結点のほうが低いため氷が融解し、氷と水との混合物からなる冷媒の温度が低下する。つまり、氷と水との混合物の状態(氷スラリーの状態)を変動させないようにするためには、上述のとおり、混合する氷と水の溶質濃度を同程度とすることが好ましい。また、氷と水との混合物の状態で冷蔵する場合、水は、上記氷が融解してなるものであってもよく、別途調製したものであってもよいが、上記氷が融解してなるものであることが好ましい。
具体的には、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度との比が、75:25〜20:80であることがより好ましく、70:30〜30:70であることがさらに好ましく、60:40〜40:60であることがより一層好ましく、55:45〜45:55であることがさらに一層好ましく、52:48〜48:52であることが特に好ましく、50:50であることが最も好ましい。特に、溶質として食塩を用いる場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度との比が上記範囲内にあることが好ましい。
<氷の製造方法>
上記(a)、(b)及び(c)の条件を満たす上記の氷は、溶質を含有する水溶液を、該水溶液の凝固点以下の温度に保持された壁面に対して噴霧することによって、壁面上に水溶液の氷を生成する工程と、壁面上において生じた氷を回収する工程と、有する方法によって製造できる。以下にかかる方法について詳細に説明する。なお、上記(c)に関しては、上記(c)を満たすような凝固点の氷を下記方法により製造した後に、公知の温度調整手段によりその温度を調整すること(例えば、常温下に置く等)で満たすことができる。
(氷生成工程)
氷生成工程は、溶質を含有する水溶液の氷の製造方法であって、溶質を含有する水溶液を、該水溶液の凝固点以下の温度に保持された壁面に対して噴霧することによって、壁面上に水溶液の氷を生成する工程と、壁面上において生じた氷を回収する工程である。
従来の容器に溜められた状態の水溶液を外部から冷却するような方法で氷を製造しても、上記(a)、(b)及び(c)の条件を満たす氷を製造することができない。これは、冷却速度が十分でないことに起因すると考えられる。しかしながら、かかる製造方法は、溶質を含有する水溶液を噴霧することで霧状となった水溶液が凝固点以下の温度に保持された壁面に直接接することにより従来なかった急速な冷却を可能としている。これにより、上記(a)、(b)及び(c)の条件を満たす、冷蔵能の高い氷を生成することができると考えられる。
壁面は、例えば、後述する図13における竪型ドラム11のような円柱型の構造物の内壁等が挙げられるが、水溶液の凝固点以下の温度に保持できるような壁面であれば特に限定されない。壁面の温度は、水溶液の凝固点以下の温度に保持されていれば特に限定されないが、上記(a)、(b)及び(c)の条件を満たす氷の純度が高い氷を製造できる点で、水溶液の凝固点より1℃以上低い温度(2℃以上低い温度、3℃以上低い温度、4℃以上低い温度、5℃以上低い温度、6℃以上低い温度、7℃以上低い温度、8℃以上低い温度、9℃以上低い温度、10℃以上低い温度、11℃以上低い温度、12℃以上低い温度、13℃以上低い温度、14℃以上低い温度、15℃以上低い温度、16℃以上低い温度、17℃以上低い温度、18℃以上低い温度、19℃以上低い温度、20℃以上低い温度、21℃以上低い温度、22℃以上低い温度、23℃以上低い温度、24℃以上低い温度、25℃以上低い温度等)に保持されることが好ましい。
噴霧の方法は、特に限定されないが、例えば、後述する図13におけるパイプ13のように、噴射孔を備える噴射手段から、噴射することにより、噴霧をすることができる。この場合において、噴射する際の水圧は、例えば、0.001MPa以上(0.002MPa以上、0.005MPa以上、0.01MPa以上、0.05MPa以上、0.1MPa以上、0.2MPa以上等)であってもよく、1MPa以下(0.8MPa以下、0.7MPa以下、0.6MPa以下、0.5MPa以下、0.3MPa以下、0.1MPa以下、0.05MPa以下、0.01MPa以下等)であってもよい。
また、後述する図13に示すように、竪型ドラム11の中心軸上に回転可能な回転軸12を設ける等の回転手段を設け、回転させながら噴霧を行う等の連続的な噴霧により行ってもよい。
(回収工程)
回収工程は、上述の氷生成工程後に、壁面上において生じた氷を回収する工程である。
回収する方法は、特に限定されず、例えば、後述する図14に示すように、壁面上の氷をブレード15等の手段により掻き取り、落下した氷を回収してもよい。
また、水の融点、凝固点は溶質の種類や濃度に依存することが知られているが、それ以外にも融点、凝固点に影響を与える要因の可能性を本発明者らは発見した。すなわち、氷が生成される際に、製氷熱が発生するが、氷がこの製氷熱を帯びることで、実際の融解完了温度に影響を与える可能性があることを本発明者らは発見した。このように、融解完了温度は、溶質の種類、濃度のみでなく、製氷熱の影響を受けると考えられる。そのため、氷に残存する製氷熱の熱量を調整することで、実際の融解完了温度を調整することができる。実際の融解完了温度を調整することができれば、上記の等張を実現しつつ、所望の融解完了温度の氷を製造することができる。製氷熱を調整するためには、回収工程において、氷を壁面上の保持時間を調整することで行うことができる。
[製氷機及び製氷システム]
上記の製造方法で氷を製造するのに利用可能な製氷機、及び製氷システムの一態様について、図13、図14を参照しながら以下に説明する。なお、以下の製氷機の例は、溶質として食塩を用いたものである。
製氷機10の部分断面斜視図を図13に、製氷機10を含む製氷システムを図14に示す。製氷機10は、冷媒により内周面が冷却される竪型ドラム11を備え、ギヤードモータ20により回転する回転軸12が竪型ドラム11の中心軸上に配置されている。回転軸12には、回転軸12と共に回転し、竪型ドラム11の内周面に向けて塩水を噴射する噴射孔13aを先端部に有する複数のパイプ13と、竪型ドラム11の半径方向に延出し、回転軸12と共に回転するアーム14が取り付けられている。アーム14の先端部には、竪型ドラム11の内周面に生成した氷を掻き取るブレード15が装着されている。
竪型ドラム11は、氷が内周面に生成する内筒22と、内筒22を囲繞する外筒23とを有している。内筒22及び外筒23は鋼製とされ、内筒22と外筒23の間にはクリアランスが設けられている。クリアランスには、配管35を介して冷凍機(図示省略)から冷媒が供給される。なお、竪型ドラム11の外周面は円筒状の保護カバー19で覆われている。
竪型ドラム11の上面は、鍋を逆さにした形状からなる上部軸受部材17で封止されている。上部軸受部材17の中心部には、回転軸12を支持するブッシュ28が嵌装されている。回転軸12は上部軸受部材17にのみ支持され、回転軸12の下端部は軸支されていない。そのため、竪型ドラム11の下方には、ブレード15によって掻き取られた氷が落下する際に障害となる物がなく、竪型ドラム11の下面は氷を排出する排出口16とされている。排出口16から落下した氷は、製氷機10の直下に配置された氷貯留タンク34内に貯えられる(図14参照)。
回転軸12は、上部軸受部材17の上方に設置されたギヤードモータ20によって材軸回りに回転する。回転軸12の上部には、材軸方向に延在し各パイプ13と連通する竪穴12aが形成されている(図14参照)。また、回転軸12の頂部にはロータリージョイント21が取り付けられている。氷の原料となる塩水は、塩水貯留タンク30から配管32を介してロータリージョイント21に送給される(図14参照)。ロータリージョイント21に送給された塩水は、ロータリージョイント21から回転軸12に形成された竪穴12aに送給され、竪穴12aから各パイプ13に送給される。
パイプ13は、回転軸12から竪型ドラム11の半径方向に放射状に延出している。各パイプ13の設置高さは竪型ドラム11の内筒22高さの上部位置とされ、内筒22の内周面の上部に向けて塩水が噴射される(図13参照)。噴射孔13aから塩水を噴射する際の水圧としては例えば、0.01MPa程度である。なお、パイプ13に代えてスプレーノズルなどを使用しても良い。この場合、噴射圧力は例えば、0.2〜0.5MPaとすることができる。
アーム14は回転軸12に関して対称となるように装着されている。本実施の形態では、アーム14の本数は2本とされている。各アーム14の先端部に装着されているブレード15は、内筒22の全長(全高)にほぼ等しい長さを有するステンレス製の板材からなり、内筒22に面する端面には複数の鋸歯15aが形成されている。
次に、上記構成を有する製氷機10及び製氷システムの動作について説明する。冷凍機を作動させることで竪型ドラム11に冷媒を供給し、竪型ドラム11の内周面の温度を−20〜−25℃にする。次いで、ギヤードモータ20を作動させて、回転軸12を材軸周りに回転させると共に、ロータリージョイント21を介して回転軸12内に塩水を供給する。回転軸12の回転速度は2〜4rpmとする。なお、パイプ13ではなくスプレーノズルを使用した場合は、回転軸12の回転速度は10〜15rpmとする。
回転軸12と共に回転するパイプ13から竪型ドラム11の内周面に向けて噴射された塩水は、竪型ドラム11の内周面に接触すると瞬時に凍結する。竪型ドラム11の内周面に生成した氷は、アーム14と共に回転するブレード15によって掻き取られる。掻き取られた氷は排出口16から落下する。排出口16から落下した氷は、製氷機10の直下に配置された氷貯留タンク34内に貯えられ、生鮮海産物の鮮度保持に使用される。
一方、氷とならず、竪型ドラム11の内周面を流下した塩水は塩水貯留タンク30に貯えられ、ポンプ31を作動させることにより配管32を介してロータリージョイント21に再び送給される(図14参照)。なお、塩水貯留タンク30内の塩水が少なくなった場合は、塩水タンク33に貯えられている塩水が塩水貯留タンク30に供給される。
<冷蔵剤>
本発明は、以下の(a)〜(c)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液の氷を含む、動植物又はその部分の冷蔵剤を包含する。
(a)融解完了時の温度が0℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
(c)温度が、前記動植物又はその部分の凍結点〜前記凍結点+0.5℃である
本発明の冷蔵剤の氷における(a)〜(c)の条件は、上述した本発明の「動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法」における(a)〜(c)の条件と同様のものを例示できる。また、冷蔵剤の冷蔵対象は、本発明の「動植物又はその部分の被冷蔵物の製造方法」における冷蔵対象と同様のものを例示することができる。
本発明の冷蔵剤において、上記の氷以外の成分を含んでもよく、例えば、上記の氷以外に水を含むことで、氷と水との混合物により冷蔵剤を構成してもよい。例えば、氷に含まれる溶質と同一の溶質を含有する水をさらに冷蔵剤に含む場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度は近い方が好ましい。また、氷と水との混合物の状態で冷蔵する場合、水は、上記氷が融解してなるものであってもよく、別途調製したものであってもよいが、上記氷が融解してなるものであることが好ましい。
具体的には、本発明の冷蔵剤を氷と水との混合物により構成する場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度との比が、75:25〜20:80であることがより好ましく、70:30〜30:70であることがさらに好ましく、60:40〜40:60であることがより一層好ましく、55:45〜45:55であることがさらに一層好ましく、52:48〜48:52であることが特に好ましく、50:50であることが最も好ましい。特に、溶質として食塩を用いる場合、氷における溶質の濃度と、水における溶質の濃度との比が上記範囲内にあることが好ましい。
[実施例]
上述の製氷機10を用いて、溶質として食塩(濃度は1%)を含有する水溶液の氷(以下、「実施例に係る氷」という。)を製造した。この実施例に係る氷は、(a)融解完了時の温度が0℃未満であり、かつ、(b)融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である。この実施例に係る氷の一部を融解させ、実施例に係る氷と水との混合物を得た。この実施例に係る氷と水との混合物を用いて、海水魚を冷蔵し、被冷蔵物を製造した。その際、実施例に係る氷の温度を、−1℃に調整した。かかる温度は、(c)海水魚の凍結点〜凍結点+0.5の範囲内の温度である。
また、比較例として真水を凍らせて粉砕したクラッシュアイス(Crushed Ice)を準備し、また、Crushed Iceの一部を融解させ、Crushed Iceと水との混合物を得た。Crushed Iceと水との混合物を用いて海水魚の被冷蔵物を製造した。
その結果、Crushed Iceにより製造した被冷蔵物の海水魚はブリーフィングが生じたのに対し(血液等が流出し、鮮度も落ちていた)、実施例に係る氷により製造した被冷蔵物の海水魚はブリーフィングが生じず、鮮度も良かった。このことから、等張を持続的に実現しつつ、低い温度で冷蔵できたことがわかった。
また、実施例に係る氷、Crushed Iceにより製造した被冷蔵物について、製造中の海水魚の温度の経時変化を測定した。その結果を図15に示す。図15中、縦軸が温度、横軸が時間である。
図15に示すように、Crushed Iceを用いたものは、0℃に達してさえいないのに対し、実施例に係る氷を用いたものは、0℃未満に達した後、その温度を保ち続けることができた。さらに、0℃未満に達しても、海水魚の凍結点を下回っていないため、海水魚は凍結しなかった。これらのことから、実施例に係る氷によると、動植物又はその部分が凍結しないが十分に低温な状態で維持することができることがわかった。
[符号の説明]
10:製氷機、11:竪型ドラム、12:回転軸、12a:竪穴、13:パイプ、13a:噴射孔、14:アーム、15:ブレード、15a:鋸歯、16:排出口、17:上部軸受部材、19:保護カバー、20:ギヤードモータ、21:ロータリージョイント、22:内筒、23:外筒、28:ブッシュ、30:塩水貯留タンク、31:ポンプ、32、35:配管、33:塩水タンク、34:氷貯留タンク
以下、本発明において使用される氷の製造方法の好適な態様について説明する。
[氷の製造方法]
本発明における氷は、食塩を含有する水溶液(塩水)の氷の製造方法であって、食塩を含有する水溶液を、該水溶液の凝固点以下の温度に保持された壁面に対して噴霧することによって、壁面上に水溶液の氷を生成する工程と、壁面上において生じた氷を回収する工程と、を有する方法によって製造することができる。
(氷生成工程)
本発明は、食塩を含有する水溶液の氷の製造方法であって、溶質を含有する水溶液を、該水溶液の凝固点以下の温度に保持された壁面に対して噴霧することによって、壁面上に水溶液の氷を生成する工程と、壁面上において生じた氷を回収する工程を有する。
従来の容器に溜められた状態の水溶液を外部から冷却しても、本発明の氷を製造することができない。これは、冷却速度が十分でないことに起因すると考えられる。しかしながら、本発明の製造方法は、食塩を含有する水溶液を噴霧することで霧状となった水溶液が凝固点以下の温度に保持された壁面に直接接することにより従来なかった急速な冷却を可能としている。これにより、本発明は、例えば、上記(a)及び(b)の条件を満たすような瞬間凍結能の高い氷を生成することができると考えられる。
壁面は、例えば、後述する図16における竪型ドラム11のような円柱型の構造物の内壁等が挙げられるが、水溶液の凝固点以下の温度に保持できるような壁面であれば特に限定されない。壁面の温度は、水溶液の凝固点以下の温度に保持されていれば特に限定されないが、特に上記(a)及び(b)の条件を満たす氷の純度が高い氷を製造できる点で、水溶液の凝固点より1℃以上低い温度(2℃以上低い温度、3℃以上低い温度、4℃以上低い温度、5℃以上低い温度、6℃以上低い温度、7℃以上低い温度、8℃以上低い温度、9℃以上低い温度、10℃以上低い温度、11℃以上低い温度、12℃以上低い温度、13℃以上低い温度、14℃以上低い温度、15℃以上低い温度、16℃以上低い温度、17℃以上低い温度、18℃以上低い温度、19℃以上低い温度、20℃以上低い温度、21℃以上低い温度、22℃以上低い温度、23℃以上低い温度、24℃以上低い温度、25℃以上低い温度等)に保持されることが好ましい。
噴霧の方法は、特に限定されないが、例えば、後述する図16におけるパイプ13のように、噴射孔を備える噴射手段から、噴射することにより、噴霧をすることができる。この場合において、噴射する際の水圧は、例えば、0.001MPa以上(0.002MPa以上、0.005MPa以上、0.01MPa以上、0.05MPa以上、0.1MPa以上、0.2MPa以上等)であってもよく、1MPa以下(0.8MPa以下、0.7MPa以下、0.6MPa以下、0.5MPa以下、0.3MPa以下、0.1MPa以下、0.05MPa以下、0.01MPa以下等)であってもよい。
また、後述する図16に示すように、竪型ドラム11の中心軸上に回転可能な回転軸12を設ける等の回転手段を設け、回転させながら噴霧を行う等の連続的な噴霧により行ってもよい。
(回収工程)
本発明は、上述の氷生成工程後に、壁面上において生じた氷を回収する工程を有する。
回収する方法は、特に限定されず、例えば、後述する図17に示すように、壁面上の氷をブレード15等の手段により掻き取り、落下した氷を回収してもよい。
また、氷が生成される際に、製氷熱が発生するが、この製氷熱を帯びることで、実際の融解完了温度に影響を与える可能性がある。このように、融解完了温度は、溶質の種類、濃度のみでなく、製氷熱の影響を受けると考えられる。そのため、氷に残存する製氷熱の熱量を調整することで、実際の融解完了温度を調整することができる。製氷熱を調整するためには、回収工程において、氷を壁面上の保持時間を調整することで行うことができる。
続いて、添付した図面を参照しつつ、上記の氷の製造方法に用いられる製氷機及び製氷システムの実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
[製氷機及び製氷システム]
本発明の一実施の形態に係る被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法に使用する製氷機10の部分断面斜視図を図16に、製氷機10を含む製氷システムを図17に示す。なお、以下の製氷機の例は、溶質として食塩を用いたものである。製氷機10は、冷媒により内周面が冷却される竪型ドラム11を備え、ギヤードモータ20により回転する回転軸12が竪型ドラム11の中心軸上に配置されている。回転軸12には、回転軸12と共に回転し、竪型ドラム11の内周面に向けて塩水を噴射する噴射孔13aを先端部に有する複数のパイプ13と、竪型ドラム11の半径方向に延出し、回転軸12と共に回転するアーム14が取り付けられている。アーム14の先端部には、竪型ドラム11の内周面に生成した氷を掻き取るブレード15が装着されている。
竪型ドラム11は、氷が内周面に生成する内筒22と、内筒22を囲繞する外筒23とを有している。内筒22及び外筒23は鋼製とされ、内筒22と外筒23の間にはクリアランスが設けられている。クリアランスには、配管35を介して冷凍機(図示省略)から冷媒が供給される。なお、竪型ドラム11の外周面は円筒状の保護カバー19で覆われている。
竪型ドラム11の上面は、鍋を逆さにした形状からなる上部軸受部材17で封止されている。上部軸受部材17の中心部には、回転軸12を支持するブッシュ28が嵌装されている。回転軸12は上部軸受部材17にのみ支持され、回転軸12の下端部は軸支されていない。そのため、竪型ドラム11の下方には、ブレード15によって掻き取られた氷が落下する際に障害となる物がなく、竪型ドラム11の下面は氷を排出する排出口16とされている。排出口16から落下した氷は、製氷機10の直下に配置された氷貯留タンク34内に貯えられる(図17参照)。
回転軸12は、上部軸受部材17の上方に設置されたギヤードモータ20によって材軸回りに回転する。回転軸12の上部には、材軸方向に延在し各パイプ13と連通する竪穴12aが形成されている(図17参照)。また、回転軸12の頂部にはロータリージョイント21が取り付けられている。氷の原料となる塩水は、塩水貯留タンク30から配管32を介してロータリージョイント21に送給される(図17参照)。ロータリージョイント21に送給された塩水は、ロータリージョイント21から回転軸12に形成された竪穴12aに送給され、竪穴12aから各パイプ13に送給される。
パイプ13は、回転軸12から竪型ドラム11の半径方向に放射状に延出している。各パイプ13の設置高さは竪型ドラム11の内筒22高さの上部位置とされ、内筒22の内周面の上部に向けて塩水が噴射される(図16参照)。噴射孔13aから塩水を噴射する際の水圧としては0.01MPa程度である。なお、パイプ13に代えてスプレーノズルなどを使用しても良い。この場合、噴射圧力は0.2〜0.5MPaとなる。
アーム14は回転軸12に関して対称となるように装着されている。本実施の形態では、アーム14の本数は2本とされている。各アーム14の先端部に装着されているブレード15は、内筒22の全長(全高)にほぼ等しい長さを有するステンレス製の板材からなり、内筒22に面する端面には複数の鋸歯15aが形成されている。
次に、上記構成を有する製氷機10及び製氷システムの動作について説明する。冷凍機を作動させることで竪型ドラム11に冷媒を供給し、竪型ドラム11の内周面の温度を−20〜−25℃にする。次いで、ギヤードモータ20を作動させて、回転軸12を材軸周りに回転させると共に、ロータリージョイント21を介して回転軸12内に塩水を供給する。回転軸12の回転速度は2〜4rpmとする。なお、パイプ13ではなくスプレーノズルを使用した場合は、回転軸12の回転速度は10〜15rpmとする。
回転軸12と共に回転するパイプ13から竪型ドラム11の内周面に向けて噴射された塩水は、竪型ドラム11の内周面に接触すると瞬時に凍結する。竪型ドラム11の内周面に生成した氷は、アーム14と共に回転するブレード15によって掻き取られる。掻き取られた氷は排出口16から落下する。排出口16から落下した氷は、製氷機10の直下に配置された氷貯留タンク34内に貯えられ、生鮮動植物の鮮度保持に使用される。
一方、氷とならず、竪型ドラム11の内周面を流下した塩水は塩水貯留タンク30に貯えられ、ポンプ31を作動させることにより配管32を介してロータリージョイント21に再び送給される(図17参照)。なお、塩水貯留タンク30内の塩水が少なくなった場合は、塩水タンク33に貯えられている塩水が塩水貯留タンク30に供給される。
[被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法]
本発明の一実施の形態に係る被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法の手順を以下に示す。
(1)塩分濃度を13.6〜23.1%とした塩水を用いて製氷機10により生成した氷と、塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水とを混合して氷スラリー(シャーベット状の氷)を製造する。製造した氷スラリーの温度は−9.8〜−21.2℃であるが、低い温度であるほど、生鮮動植物又はその部分内で発生する氷の結晶を小さくすることができる。製造した氷と混合する塩水の温度は、常温もしくはそれを下回る温度とする。なお、塩水の温度が低いほど、製氷効率は高くなる。また、混合する氷の塩分濃度と塩水の塩分濃度は同程度(数%以内の濃度差)であることが好ましく、混合する氷と塩水の質量比は氷:塩水=75:25〜20:80、好ましくは氷:塩水=60:40〜50:50とする。
(2)製造した氷スラリーに生鮮動植物又はその部分を浸漬し、生鮮動植物又はその部分を瞬間凍結させる。浸漬時間は、生鮮動植物の種類によって異なるが、例えば1分〜1時間程度である。氷スラリーに浸漬した生鮮動植物又はその部分は瞬時にその表面が氷結する。
(3)瞬間凍結させた生鮮動植物又はその部分を氷スラリーから取り出す。そして、取り出した生鮮動植物又はその部分を瞬間凍結時の温度(−9.8〜−21.2℃)以下で冷凍保存し、冷凍保存した状態で輸送する。
[瞬間凍結させた生鮮動植物又はその部分の解凍方法]
瞬間凍結させた生鮮動植物又はその部分の解凍を自然解凍で行う場合、生鮮動植物の種類によって解凍時間は異なるが、例えば1〜2時間程度である。これにより、新鮮な海産物とほぼ同等の味及び食感を得ることができる。
[被解凍物またはその加工物]
本発明は、上述の方法で製造される被冷凍生鮮動植物又はその部分を解凍してなる被解凍物またはその加工物を包含する。
上述の方法で製造される被冷凍生鮮動植物又はその部分は瞬間凍結されているので、その解凍物の組織損傷が少ない(例えば、外表面の損傷等が少ないという特徴を有する)。そのため、本発明によると、従来の被解凍物またはその加工物より、組織損傷が少ない新しい被解凍物またはその加工物を提供することができる。
加工物は、被解凍物の加工物であれば特に限定されず、例えば、焼く、切る等の調理されたものであってもよい。
[生鮮動植物又はその部分の凍結剤]
本発明は、以下の(a)及び(b)の条件を満たす、溶質を含有する水溶液の氷を含む、生鮮動植物又はその部分の凍結剤を包含する。
(a)融解完了時の温度が−5℃未満である
(b)融解過程で前記氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内である
本発明における氷の(a)及び(b)の条件は、上述の被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法における氷の(a)及び(b)の条件と同様の条件を例示することができる。また、溶質は、食塩に限らず、水を溶媒とする溶質であれば特に限定されず、所望の凝固点、使用する氷の用途等に応じて、適宜選択することができる。
また、本発明における凍結剤の凍結対象物は、上述の被冷凍生鮮動植物又はその部分の製造方法における生鮮動植物又はその部分と同様のものを例示することができる。
また、本発明における凍結剤は、塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水を凍結させた氷と、塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水との上述の氷スラリーであってもよい。
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、製氷機としてドラム型製氷機を使用しているが、これに限定されるものではなく、他の形式の製氷機でも良い。
[実施例]
塩分濃度が23.1%である塩水を準備し、上記の製氷機10によりこれを凍結させて氷を得た。該氷は、(a)融解完了時の温度が−5℃未満であった。また、融解過程での水溶液の食塩水の濃度が略一定であり、つまり(b)融解過程で氷から発生する水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内であった。この氷を融解させることで塩分濃度が23.1%である塩水を得、この氷と塩分濃度が13.6〜23.1%である塩水との氷スラリーを製造した。
該氷スラリーに生鮮海産物を浸漬させると、該生鮮海産物を瞬間凍結させることができた。瞬間凍結させた生鮮海産物を解凍させて試食したところ、非常においしいものであった。これにより、従来のスラリー状塩含有氷により製造したものより、鮮度、味覚が落ちることなく、高品質な被冷蔵海産物を製造できることがわかった。
[符号の説明]
10:製氷機、11:竪型ドラム、12:回転軸、12a:竪穴、13:パイプ、13a:噴射孔、14:アーム、15:ブレード、15a:鋸歯、16:排出口、17:上部軸受部材、19:保護カバー、20:ギヤードモータ、21:ロータリージョイント、22:内筒、23:外筒、28:ブッシュ、30:塩水貯留タンク、31:ポンプ、32、35:配管、33:塩水タンク、34:氷貯留タンク