本発明を実施するための具体的な形態について、次に説明する。
<シート状物>
本発明のシート状物は、極細繊維からなる繊維質基材と、高分子弾性体とを含むシート状物において、前記高分子弾性体が紫外線吸収剤と共有結合により結合しており、前記高分子弾性体同士が共有結合により結合しており、フォギング特性が85%以上で、かつ、マーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が10mg以下である。なお、本明細書において、極細繊維からなる繊維質基材をシートと記載する場合がある。
前記極細繊維からなる繊維質基材としては、極細繊維からなる織物、編物および不織布等の布帛を好ましく採用することができる。中でも、表面起毛処理した際のシート状物の表面品位が良好であることから、極細繊維からなる不織布が好ましく用いられる。前記極細繊維からなる繊維質基材においては、極細繊維からなる織物、編物および不織布等を適宜積層して併用することができる。
前記極細繊維からなる繊維質基材として極細繊維からなる不織布を用いる場合、短繊維不織布および長繊維不織布のいずれも用いることができるが、均一な起毛長からなる表面品位が得られる点で短繊維不織布が好ましく用いられる。
短繊維不織布における短繊維の繊維長は、好ましくは25mm〜90mmであり、より好ましくは35mm〜75mmである。繊維長を25mm以上とすることにより、絡合により耐摩耗性に優れたシート状物が得られやすくなる。また、繊維長を90mm以下とすることにより、より品位に優れたシート状物が得られやすくなる。
前記極細繊維からなる繊維質基材を構成する極細繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリ乳酸などのポリエステル、6−ナイロンおよび66−ナイロンなどのポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、および熱可塑性セルロースなどの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂からなる極細繊維を用いることができる。中でも、強度、寸法安定性および耐光性の観点から、ポリエステルからなる極細繊維が好ましく用いられる。また、極細繊維からなる繊維質基材としては、異なる素材の極細繊維が混合して構成されることも許容される。
前記極細繊維の横断面形状は、加工操業性の観点から、丸型断面にすることが好ましいが、楕円、扁平および三角などの多角形、扇型および十字型、中空型、Y型、T型、およびU型などの異形断面のものを採用することが出来る。
また、前記極細繊維からなる繊維質基材を構成する極細繊維の単繊維の平均繊維直径は、0.1〜7μmであることが好ましく、より好ましくは0.3〜5μmである。単繊維の平均繊維直径を7μm以下にすることにより、極細繊維からなる繊維質基材の触感はより柔軟となる。一方、単繊維の平均繊維直径を0.1μm以上とすることにより、染色後の発色性に一層優れる。
前記極細繊維からなる繊維質基材が極細繊維からなる不織布の場合、強度を向上させるなどの目的で、極細繊維ではない繊維からなる織物や編物を組み合わせることができる。中でも、形態安定性向上および強力向上が期待できる観点から、織物を用いることが好ましい態様である。なお、本発明において、単に織物、編物と記載されている場合、極細繊維ではない繊維からなる織物、編物を指す。また、極細繊維からなる不織布と織物、編物を組み合わせる場合、極細繊維からなる不織布と織物、編物とを合わせた全体を、極細繊維からなる繊維質基材という。極細繊維からなる不織布と、織物や編物との組み合わせは、織物や編物が極細繊維からなる不織布に積層された組み合わせ、織物や編物が極細繊維からなる不織布内に挿入された組み合わせ等のいずれの組み合わせも採用することができる。
織物や編物を構成する単糸(経糸と緯糸)としては、ポリエステル繊維やポリアミド繊維などの合成繊維からなる単糸が挙げられるが、染色堅牢度の点から、繊維質基材を構成する極細繊維と同素材の繊維からなる単糸であることが好ましい態様である。
このような単糸の形態としては、フィラメントヤーンや紡績糸などが挙げられるが、好ましくはこれらの強撚糸が使用される。また、紡績糸は、表面毛羽の脱落が惹起される場合があることから、フィラメントヤーンが好ましく用いられる。
強撚糸を用いる場合、撚数は、1000T/m以上4000T/m以下であることが好ましく、より好ましくは1500T/m以上3500T/m以下である。撚数が1000T/mより小さくなると、ニードルパンチ処理による強撚糸を構成する単繊維切れが多くなり、製品の物理特性の低下や単繊維の製品表面への露出が多くなる傾向を示す。また、撚数が4000T/mより大きくなると、単繊維切れは抑えられるが、織物や編物を構成する強撚糸が硬くなりすぎるため、風合の硬化を惹起する傾向を示す。
本発明のシート状物に用いられる高分子弾性体としては、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマーおよびスチレン・ブタジエンエラストマー等を用いることができるが、柔軟性とクッション性の観点から、ポリウレタンが好ましく用いられる。
また、高分子弾性体には、ポリエステル系、ポリアミド系およびポリオレフィン系等のエラストマー樹脂、アクリル樹脂、およびエチレン−酢酸ビニル樹脂等が含まれていても良い。また、高分子弾性体は、有機溶剤中に溶解していても、水中に分散していてもどちらでもよい。
高分子弾性体としてポリウレタンを用いる場合、ポリウレタンは、ポリオール、ポリイソシアネート、鎖伸長剤を適宜反応させた構造を有するものを用いることができる。
ポリウレタンが水系ポリウレタンの場合は、親水性基含有ポリウレタンを用いることができる。ポリウレタンに親水性基含有させる成分として、例えば、親水性基含有活性水素成分が挙げられる。親水性基含有活性水素成分としては、ノニオン性基および/またはアニオン性基および/またはカチオン性基と活性水素とを含有する化合物等が挙げられる。
ノニオン性基と活性水素を有する化合物としては、トリメチロールプロパンやトリメチロールブタン等のトリオール等が挙げられる。
また、アニオン性基と活性水素を有する化合物としては、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有化合物およびそれらの誘導体や、1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、3−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−1−プロパンスルホン酸等のスルホン酸基を含有する化合物およびそれらの誘導体、並びにこれらの化合物を中和剤で中和した塩が挙げられる。
また、カチオン性基と活性水素を含有する化合物としては、3−ジメチルアミノプロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン等の3級アミノ基含有化合物およびそれらの誘導体が挙げられる。
前記の親水性基含有活性水素成分は、中和剤で中和した塩の状態でも用いることができる。
水系ポリウレタンに、前述の親水性基含有活性水素成分の中で特にスルホン酸基およびカルボキシル基等を導入することにより、ポリウレタン分子の親水性を高めるだけでなく、後述する架橋剤を併用することにより、ポリウレタン分子内に3次元架橋構造を付与し、より容易に物性向上させることもできる。
前述の高分子ポリオールの中のポリエーテル系ポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等およびそれらを組み合わせた共重合ポリオールを挙げることができる。
ポリエステル系ポリオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルポリオールやラクトンを開重合することによって得られるもの等を挙げることができる。
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等の分岐アルキレングリコール、および1,4−シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族2価アルコール等から選ばれる1種または2種以上を使用することができる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびヘキサヒドロイソフタル酸から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。
ポリラクトンポリオールとしては、多価アルコールを開始剤として、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、およびε−カプロラクトン等を単独または2種以上の混合物等を開環重合したポリラクトンポリオール等が挙げられる。
ポリカーボネート系ポリオールとしては、ポリオールとジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート等のカーボネート化合物との反応によって得られる化合物を挙げることができる。
ポリカーボネート系ポリオールの製造原料のポリオールとしては、ポリエステルポリオールの製造原料で挙げたポリオールを用いることができる。ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネート等を用いることができ、ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネート等を挙げることができる。
ポリウレタンの製造に用いられる鎖伸長剤としては、ポリウレタンの従来の製造に用いられる化合物を用いることができ、その中でもイソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量600以下の低分子化合物が好ましく用いられる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、キシリレンジグリコール等のジオール類や、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等のトリオールや、ヒドラジン、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、4,4’−メチレンジアニリン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、4、4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン等のジアミン類や、ジエチレントリアミン等のトリアミン類や、アミノエチルアルコールおよびアミノプロピルアルコール等のアミノアルコール等が挙げられる。
また、ポリウレタンの製造に用いられる有機ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートや、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略記することがある。)、水添加キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、水添MDIと略記することがある。)等の脂環族系ジイソシアネートや、キシリレンジイソシアネート(以下、XDIと略記することがある。)やテトラメチル−m−キシリレンジイソシアネート等の芳香族/脂肪族ジイソシアネートや、トリレンジイソシアネート(以下、TDIと略記することがある。)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記することがある。)、トリジンジイソシアネート、およびナフタレンジイソシアネート(以下、NDIと略記することがある。)等の芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。
本発明のシート状物に用いられる高分子弾性体は、後述する2官能性以上の化合物との反応性が高い、ウレタン結合部位、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基または1級若しくは2級アミノ基を有していることが好ましい。
本発明のシート状物に用いられる紫外線吸収剤としては、公知の紫外線吸収剤でも良く、例えば、本発明で使用できるのは、後述する2官能性以上の化合物である架橋剤と反応することが可能である官能基を含有するものである。かかる官能基としては、ヒドロキシ基やカルボキシル基、アミノ基など活性水素含有したものや、イソシアネート基等が挙げられる。好ましく使用できるのは、波長260nm〜350nmの範囲に最大吸収波長を有する紫外線吸収剤であって、いわゆるヒンダート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾトリアジン系、ベンゾフェノン系などの波長260nm〜350nmの範囲に最大吸収波長を有するものである。比較的低コストであり、他の紫外線吸収剤と比較して吸収波長の範囲が広く、可視光からのポリウレタンの劣化も防ぐことが出来るベンゾトリアゾール系を用いることが特に好ましい。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2‘−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−t−オクチルフェノール](ADEKA社製;LA−31)、メチル 3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300反応生成物(BASF製;商品名TINUBIN 1130)などが挙げられる。
本発明のシート状物は、前記高分子弾性体が紫外線吸収剤と共有結合により結合しており、前記高分子弾性体同士が共有結合により結合している。前記高分子弾性体と紫外線吸収剤が共有結合していることで、高温雰囲気下においてもシート状物から紫外線吸収剤が揮発せず、耐フォギング性を大幅に向上させることが出来る。また、前記高分子弾性体同士が共有結合していることで、シート状物に優れた摩耗特性を付与することが出来る。
高分子弾性体と紫外線吸収剤との共有結合、および高分子弾性体同士の共有結合は、例えば、極細繊維からなる繊維質基材に高分子弾性体と紫外線吸収剤、および、必要に応じて、2官能性以上の化合物とを付与した後に80℃〜200℃で加熱することで、各組成物を共有結合させることが出来る。
本発明のシート状物は、前記高分子弾性体が紫外線吸収剤と2官能性以上の化合物を介して共有結合により結合しており、前記高分子弾性体同士が2官能性以上の化合物を介して共有結合により結合していることが好ましい。前記2官能性以上の化合物を介して共有結合により結合していることにより、高分子弾性体と紫外線吸収剤間の反応性が低くとも、両組成物を容易に共有結合出来るため、より強固な共有結合が得られやすい点で好ましい。前記2官能性以上の化合物としては、高分子弾性体、および紫外線吸収剤の官能基との共有結合により架橋構造を形成するものであり、架橋剤として広く使用されている公知の化合物を用いることが出来る。以下では2官能性以上の化合物を架橋剤と記述する場合がある。
架橋剤は、高分子弾性体に導入された反応性基と反応する反応性基と、紫外線吸収剤と反応する反応性基を分子内にそれぞれ1個以上有するものを使用することができ、具体的には、ポリイソシアネート系架橋剤、メラミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アジリジン系架橋剤、エポキシ架橋剤およびヒドラジン系架橋剤等が挙げられる。架橋剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用することもできる。
水溶性イソシアネート系化合物は、分子内にイソシアネート基を2個以上有するものであり、前記の有機ポリイソシアネート含有の化合物等が挙げられる。市販品としては、バイエルマテリアルサイエンス(株)製“バイヒジュール”(登録商標)シリーズ、および“デスモジュール”(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
ブロックイソシアネート系化合物は、分子内にブロックイソシアネート基を2個以上有するものである。ブロックイソシアネート基は、前記の有機ポリイソシアネート化合物をアミン類やフェノール類やイミン類やメルカプタン類や、ピラゾール類やオキシム類や活性メチレン類等のブロック化剤によりブロックしたものを意味する。その市販品としては、第一工業製薬(株)の“エラストロン”(登録商標)シリーズ、旭化成ケミカルズ(株)製の“デュラネート”(登録商標)シリーズおよび三井化学(株)製の“タケネート”(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
メラミン系架橋剤としては、分子内にメチロール基やメトキシメチロール基を2個以上有する化合物が挙げられる。市販品としては、三井化学(株)製の“ユーバン”(登録商標)シリーズ、日本サイテック(株)製の“サイメル”(登録商標)シリーズおよび住友化学(株)製の“スミマール”(登録商標)シリーズが挙げられる。
オキサゾリン系架橋剤としては、分子内にオキサゾリン基(オキサゾリン骨格)を2個以上有する化合物が挙げられる。市販品としては、日本触媒株式会社製“エポクロス”(登録商標)シリーズ等が挙げられる。カルボジイミド系架橋剤としては、分子内にカルボジイミド基を2個以上有する化合物が挙げられる。その市販品としては、日清紡績株式会社製“カルボジライト”(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
エポキシ系架橋剤としては、分子内にエポキシ基を2個以上有する化合物が挙げられる。市販品としては、ナガセケムテック社製“デナコール”(登録商標)シリーズ、坂本薬品工業のジエポキシ・ポリエポキシ系化合物、およびDIC社製“EPICRON”(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
アジリジン系架橋剤としては、分子内にアジリジニル基を2個以上有する化合物が挙げられる。ヒドラジン系架橋剤としては、ヒドラジンおよび分子内にヒドラジン基(ヒドラジン骨格)を2個以上有する化合物が挙げられる。
本発明のシート状物は、フォギング特性が85%以上で、かつ、マーチンデール摩耗試験2万回における摩耗減量が10mg以下である。フォギング特性を85%以上とすることで、長期間、高温条件下に曝されるような用途においても紫外線吸収剤の揮発を抑制することが出来る。また、摩耗減量を10mg以下とすることで、摩擦による繊維の脱落を抑えることが出来、シート状物表面の良好な外観を保つことが出来る。
<シート状物の製造方法>
次に、本発明のシート状物の製造方法について説明する。
本発明のシート状物の製造方法は、極細繊維からなる繊維質基材と、高分子弾性体とを含むシート状物の製造方法において、極細繊維からなる繊維質基材に高分子弾性体と紫外線吸収剤と2官能性以上の化合物とを付与した後に80℃〜200℃で加熱する工程を含む、シート状物の製造方法である。
本発明のシート状物の製造方法において、極細繊維からなる繊維質基材は、極細繊維束が絡合してなる不織布である。前記極細繊維からなる不織布を得る手段としては、海島型複合繊維等の極細繊維発生型繊維を用いることが好ましい。極細繊維から直接不織布を製造することは実質的に困難であることから、まず極細繊維発生型繊維から不織布を製造し、この不織布における極細繊維発生型繊維から極細繊維を発生させることにより、極細繊維束が絡合してなる不織布を得ることができる。
極細繊維発生型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分に用い、海成分を溶剤など用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状または多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。これらのうち、極細繊維を安定的に得られる点で好ましいのは、海島型複合繊維である。
海島型複合繊維には、海島型複合用口金を用い海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海成分と島成分の2成分を混合して紡糸する海島型複合繊維などがあるが、均一な繊度の極細繊維が得られる点、また十分な長さの極細繊維が得られシート状物の強度にも資する点から、海島型複合用口金を用いた海島型複合繊維が特に好ましく用いられる。
海島型複合繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステル、およびポリ乳酸などを用いることができる。海成分として用いられる成分は、組み合わる島成分と溶解性または分解剤による分解性を異にし、さらに島成分との相溶性が小さいものが好ましく用いられる。その中でも紡糸工程の安定性の面から、島成分がポリエステル及びナイロンで海成分がポリスチレンや共重合ポリエステルが好ましく用いられる。
海島型複合繊維の島成分としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル、6−ナイロン、66−ナイロンなどのポリアミド、アクリル、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどからなる各種合成繊維を用いることができるが、強度、寸法安定性、耐光性および染色性の観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレート等からなるポリエステル繊維が好ましく用いられる。
本発明のシート状物の製造方法で用いられる極細繊維発生型繊維からなる不織布を得る方法としては、前述のとおり、繊維ウェブをニードルパンチやウォータージェットパンチにより絡合させる方法、スパンボンド法、メルトブロー法および抄紙法などを採用することができ、中でも前述のような極細繊維束の様態とする上で、ニードルパンチやウォータージェットパンチ等の処理を経る方法が好ましく用いられる。
本発明では、前述のとおり、これらを施して得られる短繊維不織布、スパンボンド法やメルトブロー法などから得られる長繊維不織布、および抄紙法で得られる不織布などを採用することができる。中でも短繊維不織布は、立毛繊維長が均一等良好なものが得られるため、特に好ましく用いられる。
前記極細繊維発生型繊維からなる不織布と織物とを積層して用いる場合、積層一体化には、ニードルパンチやウォータージェットパンチ等が、繊維の絡合性の面から好ましく用いられる。それらの中でも、ニードルパンチがシート厚みに制限されず、極細繊維発生型繊維からなる不織布の表面に対し垂直方向に繊維を配向させることができるため好ましく用いられる。
本発明のシート状物の製造方法において、織物との組み合わせの有無に関わらず、ニードルパンチにより極細繊維発生型繊維を絡合させるに際しては、パンチ密度の範囲を300本/cm2〜6000本/cm2とすることが好ましく、1000本/cm2〜3000本/cm2とすることがより好ましい態様である。
極細繊維発生型繊維からなる不織布と織物との絡み合わせには、不織布の片面もしくは両面に織物を積層するか、あるいは複数枚の不織布の間に織物を挟んで、ニードルパンチによって繊維同士を絡ませ、未極細化繊維質基材とすることができる。なお、本発明において、未極細化繊維質基材とは、織物を用いる場合には、極細繊維発生型繊維からなる不織布と織物を組み合わせた全体を指し、織物を用いない場合には、極細繊維発生型繊維からなる不織布を指す。
ニードルパンチ処理あるいはウォータージェットパンチ処理後の極細繊維発生型繊維からなる不織布の見掛け密度は、0.15〜0.30g/cm3であることが好ましい。見掛け密度を0.15g/cm3以上とすることにより、十分な形態安定性と寸法安定性を有するシート状物が得られる。一方、見掛け密度を0.30g/cm3以下とすることにより、高分子弾性体を付与するための十分な空間を維持することができる。
このようにして得られた極細繊維発生型繊維からなる不織布は、緻密化の観点から、乾熱もしくは湿熱またはその両者によって収縮させ、さらに高密度化することが好ましい。
極細繊維発生型繊維から海成分である易溶解性ポリマーを溶解して、極細繊維とする。海成分である易溶解性ポリマーを溶解する溶剤としては、海成分がポリエチレンやポリスチレン等のポリオレフィンであればトルエンやトリクロロエチレン等の有機溶媒が用いられ、海成分がポリ乳酸や共重合ポリエステルであれば水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を用いることができる。また、極細繊維発生加工(脱海処理)は、溶剤中に極細繊維発生型繊維(極細化可能繊維)からなる不織布を浸漬し、窄液することによって行うことができる。
本発明のシート状物の製造方法において、高分子弾性体として、ポリウレタンを付与させる際に用いられる溶媒としては、N,N’−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、ポリウレタンを、水中にエマルジョンとして分散させた水系ポリウレタン液としても用いられる。
高分子弾性体を溶媒に溶解した高分子弾性体溶液に、繊維質基材を浸漬するに際して、高分子弾性体溶液を繊維質基材に付与し、その後、乾燥することによって高分子弾性体を実質的に凝固し固化させる。なお、本発明において、単に繊維質基材という場合、未極細繊維質基材、または、極細繊維からなる繊維質基材を表す。
溶剤系のポリウレタン溶液の場合は、非溶解性の溶剤に浸漬することにより凝固させることができる。また、ゲル化性を有する水系ポリウレタン液の場合は、ゲル化させた後、乾燥する乾式凝固方法等で凝固させることができる。乾燥にあたっては、繊維質基材および弾性重合体の性能が損なわない程度の温度で加熱してもよい。
極細繊維発生加工は、極細繊維からなる繊維質基材に高分子弾性体を付与する前、未極細化繊維質基材に高分子弾性体を付与した後、あるいは起毛処理後のいずれの段階で行ってもよい。
前述の極細繊維発生加工と高分子弾性体付与の順序については、高分子弾性体付与前に、極細繊維発生加工を行う場合は、極細繊維と高分子弾性体が接着しないようにポリビニルアルコールなどの溶解除去可能な仮充填剤を不織布に付与した後に高分子弾性体溶液を付与し、その後に該仮充填剤を除去することが、シート状物の柔軟性を得る上で好ましい態様である。
また、本発明のシート状物の製造方法において、極細繊維からなる繊維質基材に高分子弾性体が付与された人工皮革シート基体において、高分子弾性体の付与量および極細繊維密度は、人工皮革シート基体の極細繊維束が高分子弾性体により強固にバインドされた面を得る上で重要である。
高分子弾性体の好適な使用割合については、極細繊維からなる繊維質基材質量に対する高分子弾性体質量が10質量%以上120質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以上100質量%以下である。高分子弾性体質量が10質量%より少ないと、人工皮革シート基体の起毛処理において研削量を少量に調整しても、繊維の脱落が大きく、表層部に極細繊維からなる立毛部と表層部に露出した高分子弾性体部分の境が明瞭化しないことがある。一方、高分子弾性体質量が120質量%より多いと、研削量を少量に調整することにより表層部に極細繊維からなる立毛部と表層部に露出した高分子弾性体部分の境は明瞭化するが、シート状物の風合いが硬くなる場合がある。
高分子弾性体と紫外線吸収剤、および架橋剤を反応させる方法としては、高分子弾性体分散液に紫外線吸収剤と架橋剤を含有させ、極細繊維からなる繊維質基材を該溶液に含浸した後に、加熱する方法、もしくは、高分子弾性体凝固後の人工皮革シート基体に対して、紫外線吸収剤と架橋剤を付与し、加熱する方法が挙げられる。加熱時に、高分子弾性体と紫外線吸収剤が架橋剤を介して共有結合することで、紫外線吸収剤の揮発を大幅に抑制させることが出来る。さらには、上記反応だけでなく、架橋剤により高分子弾性体同士が架橋して三次元網目構造を形成することで樹脂が高分子量化し、かつ樹脂の架橋密度が増加するため、シート状物の耐久性をも向上させることが出来る。
本発明のシート状物の製造方法としては、高分子弾性体と紫外線吸収剤と2官能性以上の化合物を付与した後に、加熱処理を行うことが重要である。高分子弾性体と紫外線吸収剤と2官能性以上の化合物を付与した後に加熱処理を行うことにより、2官能性以上の化合物を介して、高分子弾性体と紫外線吸収剤とを共有結合することが出来る。
加熱処理の方法としては、乾熱条件、湿熱条件のいずれの方法でも良いが、乾燥工程と同時に行うことが出来る点から乾熱条件で行うことが好ましい。
加熱温度としては、80℃〜200℃の範囲であることが重要である。加熱温度は、90℃〜180℃であることがよりこの好ましく、100℃〜150℃であることがさらに好ましい。加熱温度が60℃を下回る場合、架橋反応が十分に進行しない。加熱温度が200℃を超えると用いる高分子弾性体の軟化点付近まで加熱することとなり、高分子弾性体と繊維との間の付着構造に偏りが生じ、シート状物の摩耗特性が低下するだけでなく。また、風合いの硬化を招く傾向を示す。
架橋剤の添加量としては、高分子弾性体固形分対比0.5質量%以上、3.0質量%以下であることが好ましい。0.5質量%を下回る場合、高分子弾性体と一部の紫外線吸収剤とを化学的に結合させることが出来ず、紫外線吸収剤の揮発を抑制することが出来ない。一方で、3.0質量%を上回る量を添加した場合、風合いが硬くなる傾向を示す。
シート状物中の紫外線吸収剤の含有量としては、高分子弾性体固形分対比0.1質量%以上、5質量%以下であることが好ましい。紫外線吸収剤の含有量が0.1質量%を下回ると、紫外線吸収能として不十分となり耐光堅牢度が落ちる可能性がある。一方で、5質量%を上回ると、架橋剤に対して、紫外線吸収剤の含有量が過剰となり、一部の紫外線吸収剤をポリウレタンに結合出来ない可能性がある。
高分子弾性体の付与後、得られたシート状物を、シート厚み方向に半裁ないしは数枚に分割することは、生産効率に優れ、好ましい態様である。
後述する起毛処理の前に、高分子弾性体付与シート状物に、シリコーンエマルジョンなどの滑剤を付与することができる。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することは、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくする上で好ましい態様である。
シート状物の表面に立毛を形成するために、起毛処理を行うことができる。起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて研削する方法などにより施すことができる。
シート状物の厚みは、薄すぎるとシート状物の引張強力や引裂強力等の物理特性が弱くなり、厚すぎるとシート状物の風合いは硬くなることから、0.1〜5.0mm程度であることが好ましい。
シート状物は、染色することができる。染色方法としては、シート状物を染色すると同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。染色温度は、高すぎるとポリウレタンが劣化する場合があり、逆に低すぎると染料の繊維への染着が不十分となるため、繊維の種類により設定することができ、一般に80℃以上145℃以下であることが好ましく、より好ましくは110℃以上130℃以下である。
染料は、極細繊維からなる繊維質基材を構成する繊維の種類にあわせて選択される。例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用い、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用い、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行うことができる。
また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴または染色後に、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤および抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
本発明のシート状物は、主に人工皮革として用いられ、自動車内装材を始めとして家具、椅子および壁材や、電車および航空機などの車輛室内における座席、天井および内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴および婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、およびそれらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布およびCDカーテン等の工業用資材として好適に用いることができる。
次に、実施例を挙げて、本発明のシート状物とその製造方法について、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[評価方法]
(1)耐光堅牢度(グレースケール値):
キセノンランプによる促進耐光性試験方法により評価した。
設備名:アトラス4000、温度測定B.P.T.89±3℃、湿度設定50±5%、
放射強度:48〜162W/m(300〜400nmの範囲)
放射照度比率:320nm以下を300〜400nmの範囲で1.5%未満として、変退色用グレースケール(JIS L0804)で判定した。
判定は、光照射後のサンプルの変退色を、0.5刻みの1〜5級までの9段階の級判定で行い、n数を3とし、最も良い等級と最も悪い等級を除いた残りの等級を評価結果とした。例えば、n=3の級判定が、3級、3級および4級であれば評価結果は3級であり、3級、4級および4級であれば評価結果は4級とした。
(2)フォギング特性:
直径80cmのサンプルを3枚採取した。ガラス霞み促進試験装置(ウインドウスクリーンフォギングテスター WF−2、スガ社製)で、100℃×20時間加熱してフォギングテストを行った。次に、フォギングテスト後のガラスプレート(110mm×110mmの正方形状、厚さ3mm)の反射率を、ハロゲンランプを光源とする変角光沢計(スガ社製;UGV−5)で測定した。測定角(入射角及び受光角)は60度で、サンプルを90度ずつ回転させて、1つのサンプルにつき4回(90度の4回で360度分)測定し、得られた各データR1、R2、R3、R4として、次式によりフォギングテスト後の反射率Rを算出した。
R=(R1+R2+R3+R4)/4
フォギング特性は、このR値と下記R0の値から下記式により求めた。
フォギング特性(%)=R/R0×100
すなわち、ここで、R1、R2、R3、R4はフォギングテスト後のガラスプレートの反射率(%)であり、RはR1、R2、R3、R4の平均値であり、R0はフォギングテスト前のガラスプレートの反射率(%)である。n数を3(サンプル3枚)として平均値を算出し小数点以下は四捨五入した。
(3)ピリング評価:
マーチンデール摩耗評価(耐久性評価)を行った。マーチンデール摩耗試験機として、James H.Heal&Co.製のModel 406を用いた。また、標準摩擦布として同社のABRASTIVE CLOTH SM25を用いた。シート状物試料に12kPa相当の荷重をかけ、摩耗回数20,000回の条件で摩擦させた後のシート状物の外観を目視で観察し、評価した。評価基準は、シート状物の外観が摩擦前と全く変化が無かったものを5級とし、毛玉が多数発生したものを1級とし、その間を0.5級ずつに区切った。4級〜5級を合格とした。
(4)摩耗減量
前述のピリング評価と同様の操作を行い、摩擦前後の重量を用いて、下記の式、
摩耗減量(mg)= 摩擦前の重量(mg) − 摩擦後の重量(mg)
により、摩耗減量(mg)を算出した。
(5)風合い
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を触感で判別を行い、最も多かった評価を風合いとした。本発明の良好なレベルは「◎または○」とした。
◎:非常に柔軟である。
○:柔軟である。
△:硬い
×:非常に硬い。
[化学物質の表記]
PU:ポリウレタン
PTMG:数平均分子量2000のポリテトラメチレングリコール
PCL:数平均分子量2000のポリカプロラクトン
PHMPC:数平均分子量2000の1,6−ヘキサンジオールと3−メチル−1,5−ペンタンジオールから誘導される共重合ポリカーボネートジオール
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
H12MDI:ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
PET:ポリエチレンテレフタレート
PVA:ポリビニルアルコール
<実施例1>
[ポリウレタンの種類]
有機溶剤系ポリウレタンI(PU−I)の組成
ポリイソシアネート:MDI
ポリオール :PTMG 70%、PCL 30%
鎖伸長剤 :EG
[シート状物の製造]
島成分としてPETを、また海成分としてポリスチレンを用い、島数が36島の海島型複合用口金を用いて、島/海質量比率55/45で溶融紡糸した後、延伸、捲縮後、51mmにカットし、単繊維繊度3.1dtexの海島型複合繊維の原綿を得た。
この海島型複合繊維の原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て繊維ウェブを形成し、600本/cm2のパンチ本数でニードルパンチして極細繊維発生型繊維からなる不織布を得た。ポリエステル繊維からなる織物を極細繊維発生型繊維からなる不織布の上下に挿入し、2900本/cm2のパンチ本数でニードルパンチを施して極細繊維発生型繊維からなる不織布と織物を張り合わせ、未極細化繊維質基材を得た。
この未極細化繊維質基材を96℃の熱水で収縮させた後、5%のPVA水溶液を含浸し、乾燥温度110℃で10分間熱風乾燥することで、未極細化繊維質基材の質量に対するPVA質量が4質量%となるようにPVAを付与した。このPVAを付与した未極細化繊維質基材の海成分をトリクロロエチレン中で溶解除去し、極細繊維と織物が絡合してなる脱海シート、すなわち、極細繊維からなる繊維質基材を得た。脱海シート断面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察で、平均単繊維繊度は0.05detxであった。
この極細繊維からなる繊維質基材を、固形分濃度12%に調整したポリウレタン(PU−I)と、ポリウレタンの固形分に対して、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)を2質量%、およびブロックイソシアネート系架橋剤である三井化学(株)製の“タケネート”をポリウレタン質量対比3質量%付与出来るように調製したDMF溶液に含浸させ、DMF濃度30%の水溶液中でポリウレタンを凝固せしめた。その後、PVAおよびDMFを熱水で除去し、140℃10分間熱風乾燥することで、シート状物の極細繊維からなる繊維質基材質量に対するポリウレタン質量が20質量%となるようにポリウレタンを付与した。
そして、厚さ方向に半裁し、半裁面をサンドペーパー番手が240番のエンドレスサンドペーパーを用いた研削により立毛面を形成した。さらに、液流染色機にて、130℃の条件下で、収縮処理と染色を同時に行ったのちに、乾燥機にて乾燥を行い、シート状物を得た。
表1に示すとおり、得られたシート状物のフォギング特性、耐光堅牢度、ピリング評価、摩耗減量、風合いは、すべて良好であった。
<実施例2>
架橋剤に日本触媒(株)製のアジリジン系架橋剤“ケミタイト”を用い、PVAおよびDMFを熱水で除去した後の、加熱温度を80℃としたこと以外は実施例1と同様に処理し、シート状物を得た。
表1に示すとおり、得られたシート状物のフォギング特性、耐光堅牢度、ピリング評価、摩耗減量、風合いは、良好であった。
<実施例3>
PVAおよびDMFを熱水で除去した後の、加熱温度を200℃としたこと以外は実施例1と同様の処理を行い、シート状物を得た。
表1に示すとおり、得られたシート状物のフォギング特性、耐光堅牢度、ピリング評価、摩耗減量、風合いは、良好であった。
<実施例4>
紫外線吸収剤にベンゾフェノン系紫外線吸収剤であるCHIMASSORB 81(BASF製)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理し、シート状物を得た。
表1に示すとおり、得られたシート状物のフォギング特性、ピリング評価、摩耗減量、風合いは良好であったが、耐光堅牢度は実施例1と比較して若干悪かった。
<比較例1>
架橋剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の処理を行い、シート状物を得た。
表2に示すとおり、得られたシート状物のピリング評価、風合い、耐光堅牢度は良好であったものの、摩耗減量、フォギング特性が悪かった。
<比較例2>
紫外線吸収剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、シート状物を得た。
表2に示すとおり、得られたシート状物のフォギング特性、ピリング評価、摩耗減量、風合いは良好であったが、耐光堅牢度が悪かった。
<比較例3>
PVAおよびDMFを熱水で除去した後の、熱風乾燥条件を210℃、10分間としたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、シート状物を得た。
表2に示すとおり、得られたシート状物の耐光堅牢度は良好であったが、フォギング特性、ピリング特性、摩耗減量、風合いが悪かった。
<比較例4>
PVAおよびDMFを熱水で除去した後の、熱風乾燥条件を50℃、10分間としたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、シート状物を得た。
表2に示すとおり、得られたシート状物の風合い、耐光堅牢度、ピリング評価、摩耗減量は良かったが、フォギング特性が悪かった。
<比較例5>
ポリウレタン含浸時に紫外線吸収剤を添加せず、染色後に紫外線吸収剤を添加したこと以外は実施例1と同様の処理を行い、シート状物を得た。
表2に示すとおり、得られたシート状物の耐光堅牢度、ピリング評価、摩耗減量、風合いは良かったが、フォギング特性は悪かった。