JP2018016550A - 有色カビの除去方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】建築物における内外装の天板や壁面等に菌糸成長した真菌、特にカビ(黴)胞子内で産生された色素による汚れを、布等による通例の清拭や高圧水洗浄等の簡易な方法によって完全除去し、原状復帰させることを可能にする。【解決手段】pH緩衝性を持たせたpH=5〜6及び有効塩素濃度100〜1000mg/Lの次亜塩素酸水溶液をカビが発生した建築物の内外装及び調度品・備品の表面に噴霧して風乾した後、pH=7〜8及び有効塩素濃度100〜1000mg/Lのモノクロラミン水溶液を再度噴霧して風乾する、建築物内外装面の有色カビ汚れの剥離方法。又、建築物内外装面の抗カビ処理状況に応じて該2液処理を繰り返し、最終的に該次亜塩素酸水溶液を浸み込ませた布又はペーパータオルで浮き出た有色のカビ残渣を清拭する。【選択図】図1

Description

本発明は、建築物における内外装の壁面や天板等に菌糸成長した真菌、特にカビ(黴)の胞子内に産生された色素による汚れを剥離し、布等による通例の清拭や高圧水洗浄等の簡易な方法によって除去、原状復帰させる有色カビの除去方法に関する。
真菌の胞子は、住居に限らず建築物のありとあらゆる場所に、通気に伴って飛来し付着する。又、その後に付着場所から離脱し再度飛散することもある。
付着した場所には往々にして澱粉を始め種々の天然養分が含まれ、高湿度である場合にはカビにとって「成長・増殖の快適環境条件」になっている。やがてカビは増殖・成長、菌糸を延ばすと共に胞子を形成、目視できる程に大きな群落となる。こうした現象を俗に「カビが生えた」という。
又、多くのカビが胞子内に色素を有し、ペニシリウム(学名Penicillium)属には「アオカビ」、アルテルナリア(学名Alternaria)属には「ススカビ」、クラドスポリウム(学名Cladosporium)属には「クロカビ」等、色素に由来する和名が付けられている。他に、アスペルギルス(学名Aspergillus)属には「コウジカビ」の別称があり、総じて「米麹」から連想される白色を有す。
なお、カビ関連の一般的性状としては、真菌に属するものとして、カビの他に菌糸体を形成しない粒状の酵母(病原体の具体例にカンジダ属やマラセチア属等)及びキノコが挙げられる。但し、天井・壁面・床面等の美観の面では「カビによる着色汚れ」が嫌われる筆頭で、他種真菌の関わりは少ない。
このようなカビ除去の方法としては、強力な酸化力を持つ高濃度塩素剤で該汚れを漂白、同系薬剤の多くに添加している界面活性剤の泡の中に分解残渣を分散、表面洗浄によって泡と共に流して汚れを除去するなどの方法が知られている。
ところが、高濃度の薬剤は、微生物だけでなく壁材など建材にもかまわず作用し腐蝕、脱色斑や耐久性劣化を招く弊害を併せ持っていた。薬剤種を他剤に代替しても、高濃度になるにつれ却って該弊害が顕在化する傾向にある。因って、洗浄率向上を狙った高濃度策は洗濯機による洗浄と同様に期待できない。又、汎用の塩素剤は無論のこと、既存の過酸化水素、オゾン水、二酸化塩素水等の酸化系漂白剤も失効し易く、総じて短寿命である。故に、該薬剤の分解速度を制御・調節することも極めて難しい。それにも拘らず、該薬剤に共通する課題であった「反応速度に関する検討」が十分行なわれたとは言い難い。
例えば、衣類等の移動可能な物体は漂白液に浸漬できるが、上述のススカビやクロカビによって汚れた壁面等の建築物の場合、移動及び浸漬は不可能といってよい。そこで浸漬に代えて高濃度の漂白液を噴霧することになるが、撥水面ができないよう均一に噴霧しなればならない。因って、漂白剤に界面活性剤を添加して撥水を抑え、泡沫消火の如く、噴霧過程で形成される「泡沫の膜」で壁面を覆う工夫がなされてきた。漂白液の消費量はこうした工夫により確かに少なくできるが、有効成分の分解・失効速度も噴霧することで高まってしまう。
縦になる側壁面では泡の破裂に伴い「液垂れ」も生じ易くなる。従って、凹凸のあるタイル張り壁面等の目地では液溜まりにより比較的効果を発揮するが、概ね平滑な壁面全体を漂白するには「薬剤と接触する時間」の確保に難があった。更に、天井面(天板)のカビ取り作業では、「足場組み」及び「液垂れを受け集めるシート張り」等の、大掛かりで経費がかさむ準備作業を必要とした。
更に、上述の理由で全面完全漂白は事実上困難になり、薬液噴霧後の自然乾燥(風乾)面を布等で拭いても、着色部は斑(マダラ)状に残った。又、当該作業の請負業者が、契約条項に従って防カビ塗料の塗付を慣例的に実施することもある。この場合、事前の拭き取り作業で有色汚れの原因であるカビの胞子を却って分散させ、カビの再成長を促す結果を生んでいる事例も少なくない。漂白剤が強塩基性(強アルカリ性)塩素剤とは異なる上述の過酸化水素水、オゾン水、二酸化塩素水であっても、結果は上述事例と大差なく、衛生的な職場環境を強く求められる特に食品加工工場では困り果てていた。
主因を油脂とする一般的な有色汚れに対して、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)液等のアルカリ剤で落とすのが通例である。不飽和脂肪酸が空気酸化したもの、或いは高分子化したものでも鹸化し、水溶性にできる作用機構に基づく。合成界面活性剤との混合や併用による汚れ落しも、基本となるのは上述の鹸化・溶解の原理に基づく機構と同じで、汚れのミセル化を狙いとしている。
汚れの対象となる物質が油脂ではなく微生物、しかも真菌に属するカビであれば、この汚れを落とすには、付着面内部まで延びた菌糸にまで到達し作用する薬剤でなれば、胞子内の色素でさえ完全漂白することはできない。一方、カビは真核・多細胞生物であり、動物と異なり細胞膜の外側に細胞壁を有す。抗菌剤は、該細胞壁及び細胞膜を壊して細胞内部まで浸透するか、細胞壁・細胞膜の分子篩を直接透過し、細胞内部の色素に作用するまで安定して存在しなければ、カビを根元から引き抜く「物理的な剥離と除去」はできない。
一方、カビに似た強い付着力を持つ汚れに水中スライムがある。莢膜を有す細菌等微生物が分泌する多糖体(グリコカリックス)を主成分とする粘液であり、細菌は固体表面からの離脱を防ぐことで該多糖体の網籠の中で増殖する。実用化されている用水の消毒でさえ、これまでは遊離塩素消毒または結合塩素消毒のいずれか一方の通年実施になっている。近年、レジオネラ症が社会問題化し、その対策として双方を随時切り換え併用する特許文献1に記載の消毒法が発明された。その副次的効果として、モノクロラミンが該スライムを剥がし易くする作用を有することも、特許文献1や非特許文献1に開示されている。但し、「カビ取り」にまでこの手法の応用を試みた事例報告はなく、その効果も全く知られていなかった。
又、最近になってマスメディアで広く紹介されるようになった方法がある。カビの菌糸が根を張った物体表面に約65℃の熱風を当てたり、浴室等の水回り施設壁面に約80℃の熱湯を掛けたりして、カビの着床箇所温度を50℃以上に高め約90秒間維持することで胞子を殺し、カビの再発を防ぐ方法である。該手法は確かに再発防止になるが、生え揃ってしまったカビに対しては無力で、胞子内色素は漂白等の別法での除去を余儀なくされる。因って、実際の作業はそれほど簡単ではない。食品加工工場内等の大規模な建築物では、上述の「足場組み」及び「シート張り」をして作業せざるを得ない。
一方、微生物汚れといっても、現実には、該汚れのすべてを真菌が占めることはあり得ない。「雑菌」とも称される一般細菌の混在が通例で、個数でみれば真菌数を上回る場所や事例も多々存在する。又、該細菌、真菌、原虫、マイコプラズマや最小のウイルスまで含め、それぞれの種類を問わず不活性化できる薬剤で、汎用になっているものは塩素剤である。「不活性化力」を通称の「殺菌力」と言い換えれば、塩素剤が持つ殺菌力を効果的に発揮させる最大の要因がpHであることも周知事実である。
更に、栄養摂取の観点で細菌と真菌とは競合関係にあり、自らの種を保存しようと互いに争っている。現場の壁面各所に付着した細菌及び真菌は薬剤処理を全く行わなくても増減を繰り返しており、常時飽和状態ではない。因って、薬剤の効果判定をする際、対照としての培養試験値が採取時刻ごとにある程度変動するのは避けられない。
加えて、一般流通している6〜12%の次亜塩素酸ナトリウム液を希釈し、塩酸等で中和して殺菌力を高め、細菌と真菌を共に殺そうとしても、次亜塩素酸(HOCl)は、菌体表面に露出している活性基に作用する選択性は低く、真菌数が多ければ単細胞である細菌の生き残りを許し、再度増殖し易くなる。細菌の生き残り数及び生存率は、反応相手である微生物密度の偏りだけでなく、作用する場の室温(液温)及びpH等の環境条件によっても変動する。生活環境から隔離された無菌室を除き、ありとあらゆる固体表面上で該現象は起きるが、生き残り細菌は顕微鏡観察によらなければ見ることはできない。
「カビ取り剤」や「カビキラー」等の名称で知られる薬剤は、上述の次亜塩素酸ナトリウムを主成分とし、「有効塩素濃度」を表示して流通している。そして、「有効塩素濃度」の表示義務化は、「流通過程における失活・失効を無視できない」ことの裏返しでもある。処理時に起きる化学反応に伴い、次亜塩素酸ナトリウム液や同液滴のpHも変化し易いが、該薬液にpH緩衝性を持たせ安定化すれば、該化学反応の速度も制御し易くなる。現実に、pH緩衝性を持たせたことで、有効塩素濃度が約400mg/L以下であれば年単位の長期間にわたり失活・失効しない処方の消毒液に関する特許技術もある(特許文献2)。
但し、該薬剤は比較的低濃度で強い殺菌力を発揮する反面、衣類の染料やカビ胞子中色素の漂白はできないことが、発明者の研究で判っている。従って、「漂白によらない、カビの有色汚れ落し方法」の案出が社会的課題及び要求として浮上してきた。
次に、菌糸体の構造を完全破壊した固形物表面にカビの胞子が新たに飛来して付着する想定をした場合、真菌が有している生活環が次段階に進む所謂「成長」を阻害すればカビは生えない。こうした要求に応えるために、銀を担持したケイ(珪)藻土を火薬で燻煙する薬剤、或いは「2−メルカプトピリジン−N−オキシド(互変異性体の別称:ピリチオン)とポリビニルピロリドン及びヨウ素との複合錯体を主成分とする薬剤」(特許文献3)が登場、市場流通するようになった。そして、本願発明者らの研究で、前者はクラドスポリウム属のカビに限定して発育を強く抑制し、後者は幅広い種類の真菌に対して発育抑制と胞子形成阻害の強い薬効を発揮することが判った。但し、双方の薬剤は「一度生えて成長・増殖したカビを死滅させる効果」は弱く、「カビの有色汚れ落し方法」としては不向きであることも判明している。
特願2007−110824号公報 特願2012−149500号公報 特願2013−218519号公報
関秀行、中尾豊;レジオネラ対策としてのモノクロラミン/遊離塩素消毒併用法の実用事例報告,用水と廃水,Vol.53,ナンバー8(2011)
上述の通り、従来は、仮に、木材・金属製の板表面を塗装した天板や壁面の「カビ汚れ落しが専門」と称する業者に依頼したとしても、現実としてカビの色素を完全に落とすことはできていない。因って、該作業後に抗カビ塗料を塗布しても、「カビの種」というべき胞子が生き残ったままであるから、該塗料の撥水・防水力が衰えると、その部分からカビが発芽して更に汚れる。
従って、この永年のジレンマを解決するには全く別の発想を必要とする。即ち、「漂白によらない、有色カビ汚れ落しの方法」の発明である。それでも、「生えたカビ」が目視できるほどに増えた場合は、先ず成長を停止させなればならない。同時に、壁材等の素材損傷を極力抑えなければならない。このように、課題解決の為の条件選択肢が絞られる。
本発明は上述の背景のもとでなされたものであり、建築物における内外装の壁面や天板等に菌糸成長した真菌、特にカビ(黴)の胞子内に産生された色素による汚れを剥離し、布等による通例の清拭や高圧水洗浄等の簡易な方法によって除去して原状復帰させることを可能にした有色カビの除去方法を提供することを目的とする。
上述の課題を解決するための手段は以下の通りである。
(1)pH=5〜6及び有効塩素濃度100〜1,000mg/Lの次亜塩素酸水溶液である第1薬剤を、カビが発生した建築物の内外装及び調度品・備品などの処理対象物の処理対象領域表面に噴霧する第1薬剤噴霧工程と、前記第1薬剤噴霧工程後にこの噴霧した領域を風乾する第1風乾工程と、前記第1風乾工程後に、前記処理対象領域表面に、pH=7〜8及び有効塩素濃度100〜1,000mg/Lのモノクロラミン水溶液である第2薬剤を噴霧する第2薬剤噴霧工程と、前記第2薬剤噴霧工程後にこの噴霧した領域を風乾する第2風乾工程と、を有することを特徴とする有色カビの除去方法。
(2)前記第1薬剤噴霧工程と、前記第1風乾工程と、前記第2薬剤噴霧工程とを汚れの程度に応じ複数回繰り返すことを特徴とする(1)に記載の有色カビの除去方法。
(3)前記第2風乾工程後に、前記第1薬剤を前記処理対象領域が湿る程度に噴霧した後、前記第1薬剤を浸み込ませた布又はペーパータオルで浮き出た有色のカビ残渣を清拭する清拭工程を有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の有色カビの除去方法。
上述の手段によれば、建築物における内外装の天板や壁面等に菌糸成長した真菌、特にカビ(黴)の胞子内で産生された色素による頑固な汚れを、布等による通例の清拭又は高圧水洗浄等の簡便な方法によって除去し、原状復帰に近い状態にすることが可能になった。
本願発明は、有色汚れの漂白を狙わず、壁面内部に貫入した菌糸の根元に薬剤が浸透、菌糸を切断して剥離、布等による通例の清拭や高圧水洗浄等の簡便な方法により除去する技術である。又、「1%=10,000mg/L以上の高濃度処方」になっている汎用の塩素系カビ取り剤は使用しない方法である。すなわち、前処理殺菌剤として、弱酸性の次亜塩素酸水溶液(塩素水)を選択した。「弱酸性」の条件仕様は、殺菌力を高め且つ上述の弊害を極力抑える為であり、濃度も同じ理由で0.1%=1,000mg/L以下を目安としたものである。
すなわち、本願発明は、あくまでも「有色汚れの除去」を目指したものであって、本来、除去前の汚れ漂白までをも目指したものではない。ただ、類似の微生物汚れに、近年は「バイオフィルム(生物膜)」と呼ばれるようになったスライムがあることや、モノクロラミンの反応や分解が遅い為に、スライム深くまで浸透、物理的剥離を容易にする特性を持つ (特許文献1)ことを本願発明者は理解していた。そこで上述の経緯から、「菌糸体の根元に到達するまで浸透しやすい薬剤」の最有力候補として迷わずモノクロラミン水を選択、カビのコロニー(群落)に対してもスライム同様に剥離しやすくなると推測、本発明を案出するに至ったのである。薬剤の浸透に関し、対象物である莢膜成分から成るスライムとカビ等の微生物本体とは共に有機物であり、物性は大差ない筈だからである。
上述の手段(1)の初段階になる次亜塩素酸水溶液(第1薬剤)噴霧では、高度のカビ汚れ部分に共存する一般細菌に対しては殺菌効果を期待できないが、カビ(真菌)に対してはある程度の死滅効果が認められた。但し、500mg/L=0.05%の有効塩素濃度では、上述のように有色カビの漂白はできず、布等で拭っても色素を含有した胞子を広げて散らすだけで、有色汚れの除去はできない。そこで、初段階では風乾後の清拭を行なわない。上述の手段(1)の次段階になるモノクロラミン水溶液(第2薬剤)噴霧によって、分解が遅い有効成分であるモノクロラミンは予測通りカビ菌糸の根元まで浸透すると判明した。薬剤との接触時間を十分に持たせる為の30〜40分間の風乾及び静置で、根元が切れて浮き上がり、これまで頑強に付着していた有色汚れも指で擦っただけで除去できるようになった。
上述の手段(2)によって、結露の垂れ等により湿気がこもり易い壁面の下部に発生した多量のカビに対し、上述の2液を不足することなく接触させることができた。即ち、初段および次段の薬剤噴霧で接触が十分行き届かない箇所を無くすことができた。尚、繰り返し毎に30〜40分の風乾工程を挟むことで、上述の「泡沫吹き付け方法」のような液垂れ現象は起きない。
上述の手段(3)によって、手段(1)及び手段(2)によっても完全に切断できなかった菌糸の根元にまで入念に上述の第1薬剤を作用させることができるようになった。又、布等による通例の清拭又は高圧水洗浄等の簡便な方法で、色素を含有したままの胞子を含め、カビの残渣の殆どを拭取ることができた。
本発明の実施形態の作業工程を説明するための図である。 壁面汚染の代表的真菌であるクロカビ(Cladosporium)の実態を説明するための顕微鏡像トレース図である。 本発明の実施形態の作業工程を説明するための図である。 本発明の実施例2に係る方法でカビ発生の再発防止処理前の壁面状態を比較し説明するための写真である。 本発明の実施例2に係る方法で処理1ヶ月後のカビ色素消滅と脱色を説明するための比較写真である。
以下、図1及至図5を参照にしながら本発明の実施の形態にかかる有色カビの除去方法を説明する。図1に示されるように、この実施形態にかかる有色カビの除去方法は、以下の工程を有する。
(a)第1薬剤(=《1》薬剤)噴霧工程
第1薬剤を、処理対象部分である、カビが発生した建築物の内外装及び調度品・備品の表面に噴霧する。ここで、第1薬剤とは、pH=5〜6で、有効塩素濃度100〜1,000mg/Lの次亜塩素酸水溶液である。噴霧量は、50mL/mを目安とする。ただし、その最適量は、処理部分の汚れの程度に依存するので、最終的には、処理部分から第1薬剤が液垂れし始める少し手前で噴霧をやめる程度の噴霧量とする。
(b)第1風乾工程
工程aで第1薬剤を噴霧した部分を30〜40分程度風乾する。
(c)第2薬剤(=《2》薬剤)噴霧工程
工程bで風乾した後、処理対象部分に第2薬剤を噴霧する。ここで、第2薬剤とは、pH=7〜8で、有効塩素濃度100〜1,000mg/Lのモノクロラミン水溶液である。噴霧量は、50mL/mを目安とする。ただし、その最適量は、処理部分の汚れの程度に依存するので、最終的には、処理部分から第2薬剤が液垂れし始める少し手前で噴霧をやめる程度の噴霧量とする。
(d)第2風乾工程
工程cで第2薬剤を噴霧した部分を30〜40分程度風乾する。
(e)清拭工程
工程dで風乾した後、第1薬剤を湿る程度に含浸させた布又はペーパータオルなどを用いて、浮き出た有色のカビ残渣をきれいに拭き取る。
(f)再発防止処理工程
工程eで拭き取った後、処理対象部分に、カビ発生の再発防止処理を施す。具体的には、例えば、2−メルカプトピリジン−N―オキシドとポリビニルピロリドン及びヨウ素との複合錯体を主成分とする薬剤を噴霧するなどの処理を施す。
なお、a〜dの工程は、カビの成長に伴う有色汚れの程度によっては、複数回繰り返すこととする。その繰り返しの回数は、eの清拭工程を始める前に、部分的な試しの拭き取りを行ってみて、その具合によって繰り返し回数を決めることとする。すなわち、試しの拭き取りで、十分な拭き取りができた場合には、そのままeの工程を行うが、十分な拭き取りができなかった場合は、拭き取り残りの量を勘案してその繰り返し回数を決めることとする。
図2は、有色カビ汚れの主因となるクロカビ(Cladosporium)の顕微鏡写真をトレースしたものである。上記第1薬剤中の次亜塩素酸は、酸化されやすい化学物質や多孔質材によって失活し易く、植物の穂状や毬状に成長した胞子間の隙間は多孔質材の空洞に似ることで触媒効果を持つ想定ができる。即ち、次亜塩素酸が該隙間に挟まった状態で該分子の外殻電子を引っ張り、分解等の失活を触媒する可能性の想定ができる。
更に、微生物を構成するタンパク質中のアミノ酸枝基にアミノ基(−NH)、メルカプト基(−SH)や二重結合があれば、次亜塩素酸はこれらと容易に反応して失活する。これが、カビ取り剤として出回っている塩基性(アルカリ性)・高濃度塩素剤で漂白しても、すぐにカビが生えてくる理由である。即ち、汎用の塩素系カビ取り剤は、基中菌糸まで浸透する以前に失活し、ゴム製パッキン剤やコーキング剤の内部まで菌糸が喰い込んで伸びていると、芽胞が生き残ってしまい、該芽胞の復活及び再成長を全面停止できない。
図3は、上述の第1薬剤及び第2薬剤の作用域を層状の断面で示したものである。遊離塩素の作用層域1は、高濃度塩素剤で漂白が目視できる層である。成長したカビの菌糸・胞子2は空隙に気泡を抱えることになり、液剤を噴霧しても該気泡で湿潤を阻止され容易には浸透しない。たとえ浸透した部分であっても、遊離塩素は胞子の破壊と色素の漂白に費やされ、遊離塩素のまま菌糸の根元まで浸透・到達はしない。
従って、上述の第1薬剤では更なる成長の停止に重点を置き、菌糸・胞子2の強度を低下させ潰すことで空隙中気泡の追い出すことを主眼とする。処理後に風乾しても潰れた菌糸・胞子は湿潤状態になっており、上述の第2薬剤は浸透層域3及び塗料・コーキング層4の表面まで容易に到達することができる。また、主成分であるモノクロラミンが静電気的中性・分子状で且つ低分子量である為、貫入した基中菌糸に沿って塗料・コーキング層4の内部まで浸透してこれを殺す。但し、モノクロラミンの浸透層域は通常2〜3mm厚である。
塗料・コーキング層4の下地は壁面素材5であり、菌糸貫入による毛管が形成されていない為に、モノクロラミンであっても浸透はできない。よって、本発明に係る第1薬剤及び第2薬剤の薬剤によって壁面素材5は損傷されない。
図4は、後述する実施例2において、簡単な清拭作業で拭き取れなかった有色カビ汚れが現状復帰に近い状態まできれいに拭き取れる事実を、対照例と並べて示したものである。食品加工工場内装等では、壁面素材5が損傷の恐れがある高塩基性・高濃度の塩素剤使用は実質的に敬遠される。そこで、従来の技術では、適当に希釈して処理してきたが完全漂白ができず、写真左の有色カビ汚れを残したまま抗カビ塗料を塗布して施工完了としてきた。その結果、強引に拭いても、基中菌糸まで薬剤が浸透するのを妨害していた該「有色カビ汚れ」を取ることはできず、時間経過とともに生き残った菌糸が再復活・成長することを繰り返し、図4の左の写真に示されるような斑状汚れとなっていた。
実施例1にかかる建築物内外装面の有色カビ汚れの剥離及び除去方法を、対象となる壁面及び梁に対して実施し、その実施前後の一般細菌汚染の実態を「拭き取り法」又は「スタンプ法」により培養試験した検査結果は表1に示す通りである。なお、実施例1の工程は上述の実施形態と同じあるが、その具体的条件・内容などは以下の通りである。
処理対象物:表面抗カビ塗装金属壁及び抗カビ塗料を塗布したコンクリート壁
1,000mm×1,500mmの試験区4面、梁部分及び扉面
使用薬剤:《1》薬剤 pH=5.2〜5.3に安定化された次亜塩素酸水溶液
遊離残留塩素濃度:約400mg/L
《2》薬剤 pH≒8.0のモノクロラミン水
結合残留塩素濃度:約400mg/L
《3》薬剤 主成分を2−メルカプトピリジン−N−オキシド(2−MP O)、ポリビニルピロリドン及びヨウ素の錯体とする薬剤
2−MPO濃度:約400mg/L
菌採取場所:対角線の上(1)及び(4)・中(2)及び(5)・下(3)及び(6
)の壁面並びに別の梁部(7)の7ヶ所(10cm×10cm拭き取り
培養)
採取条件:A)本法実施前の未処理参照区は、(1)及至(3)と実施後(4)(5
)は原状のままで拭き取り検体採取、実施後の(6)のみ布で空拭き
後に採取。
B)本法実施の処理区は、処理前壁面(1)及至(3)と処理後の(4) (5)は原状のまま採取、(6)のみ薬剤《1》を浸み込ませた布で 表面清拭後に拭き取り検体採取。
C)扉面は本法《1》薬剤噴霧の後に《2》薬剤噴霧し、清拭なし。
上述の実施例1では、次亜塩素酸だけでなくモノクロラミンによる処理を併用しないと99%を超える殺菌はできないことが明確になった。対照区には意図的に薬剤の直接噴霧をしなかった。付着防止のフィルム掛けをしなかった為、空気対流により煙霧微粒子の若干量付着があった。因って、薬剤の隣区噴霧の影響で見掛け上91.5%の殺菌率となったとみる。
未処理の試験区における細菌数が少ない「《1》による処理のみ」と「《1》の後に《3》」の区画においては、検体採取箇所の10cm角を同一にできない為、却って細菌数が増える結果となった。これは変動誤差範囲内とみる。測定方法上、拭き取り面ごとに多少の偏在は止むを得ない。一方、「本法《1》の後に《2》」の処理では、高濃度細菌汚染していた区画面において99.5%という完全に近い殺菌ができた。
実施例2にかかる建築物内外装面の有色カビ汚れの剥離及び除去方法を、対象となる壁面及び梁に実施し、その実施前後のカビ汚染の実態を「拭き取り法」又は「スタンプ法」で培養試験した検査結果は表2に示す通りである。なお、実施例1の工程及び条件・内容などは実施例1と同じである。
実施例2では、薬剤未処理の対照区でも拭き取りの時間差によって「見掛けのカビ殺菌率が約70%になったが、その理由は上述の薬剤噴霧実態にあり、誘導(対流)による影響が出てしまった。本法《1》薬剤の噴霧処理によって殺菌率は対照区より約20%高まり、本法「《1》薬剤の後に《2》薬剤の噴霧処理」による殺菌率は更に高まり完璧といえる99.8%まで上昇した。
尚、この結果において本法《1》薬剤の後に《3》薬剤の噴霧処理をした場合の殺菌率は、対照区の結果を下回っている。しかしながら、《3》薬剤の効果は遅効性であることが発明者の研究で判っており、未処理時の真菌数も4区画中の最低であることから、薬効に関して短期間の判断は適切ではない。カビの再発生阻止と脱色の効果判定は長期放置後の比較を要す。
検査結果の表1、表2の双方をみると、細菌・真菌共に殺菌率99%以上を得るためには本法《1》及び《2》薬剤の併用が不可欠で、いずれか一方の処理では生菌の生き残りを許すことが明らかになった。又、カビの胞子中に色素が残っていても、浮き上がった汚れを清拭除去することで気中菌糸だけでなく基中菌糸を含め早期に根絶できることを発見、本願に至る画期的発明となった。
図4の写真を参照すると、本発明の実施例2の工程に係る処理1ヶ月後の扉面は、処理前にクロカビを主体に塗装面に基中菌糸が喰い込んで黒く汚れていたが、清拭を行なわなくてもカビ色素は消滅し脱色したことが判る。故に、基中菌糸さえ殺せば、カビ胞子の細胞は自然破壊し、色素は空気中酸素によっても酸化されて脱色する。但し、薬剤処理後の清拭は、効能の早期確認に有効な手段であるが、原状復帰させる方法として必須となる作業工程にはならない。
本発明は、真菌に属するカビが生えたことで衛生的外観や美観を損ねた身の回りのありとあらゆる物体表面のカビ取りに活用できる。具体例を挙げると、上述実施例の食品加工工場の内装は無論のこと、建築物の内装及び外装でカビ汚れが発生した場所若しくは箇所、疎水性又は吸水性が弱い調度品・備品・装飾品のカビ汚れ、カビにより内部まで侵蝕されていない果物等である。更に、薬剤の液垂れを嫌う浴室の天井や洗濯機の脱水籠又は該洗濯機パンチメタル円筒の外側で手が届かない箇所のカビ取りにも応用でき、カビの付着力を弱め剥離を容易にすることができる。加えて、使用する2種の薬剤(水溶液)は、わが国の『水道法』でも消毒剤・消毒方法として実質的に認められ、安全性が証明されている次亜塩素酸及びモノクロラミン(結合塩素)である為、僅かな部分を使って試用してみる必要はあるものの、美術・工芸品の修復作業においても活用の可能性が十分にある。人体の安全性確保にも支障は生じない。
1…遊離塩素の作用層域
2…成長したカビの菌糸・胞子
3…モノクロラミンの浸透層域
4…塗料層
5…壁面素材

Claims (1)

  1. (1)pH=5〜6及び有効塩素濃度100〜1,000mg/Lの次亜塩素酸水溶液である第1薬剤を、カビが発生した建築物の内外装及び調度品・備品などの処理対象物の処理対象領域表面に噴霧する第1薬剤噴霧工程と、前記第1薬剤噴霧工程後にこの噴霧した領域を風乾する第1風乾工程と、前記第1風乾工程後に、前記処理対象領域表面に、pH=7〜8及び有効塩素濃度100〜1,000mg/Lのモノクロラミン水溶液である第2薬剤を噴霧する第2薬剤噴霧工程と、前記第2薬剤噴霧工程後にこの噴霧した領域を風乾する第2風乾工程と、を有することを特徴とする有色カビの除去方法。
    (2)前記第1薬剤噴霧工程と、前記第1風乾工程と、前記第2薬剤噴霧工程とを汚れの程度に応じ複数回繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の有色カビの除去方法。
    (3)前記第2風乾工程後に、前記第1薬剤を前記処理対象領域が湿る程度に噴霧した後、前記第1薬剤を浸み込ませた布又はペーパータオルで浮き出た有色のカビ残渣を清拭する清拭工程を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有色カビの除去方法。
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