JP2018002753A - インク組成物、インクセットおよび捺染方法 - Google Patents

インク組成物、インクセットおよび捺染方法 Download PDF

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博之 兼子
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大輔 佐久間
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大輔 佐久間
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勇貴 涌島
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Abstract

【課題】得られる画像の色域を拡大し、布帛の種類による色相差を低減するインク組成物、インクセットおよび捺染方法。【解決手段】インク組成物は、下記式で表される第1染料と、モノクロロトリアジン構造及び又はモノクロロピリミジン構造を有する第2染料を含むインクジェット捺染用のインク組成物を含む。【選択図】なし

Description

本発明は、インク組成物、インクセットおよび捺染方法に関する。
従来、インクジェットプリンターを用いたインクジェット法によって、布帛などをインク組成物で染色(捺染)するインクジェット捺染が知られていた。インクジェット捺染は、スクリーン捺染において用いる版(スクリーンマスク)が不要であり、多品種少量生産に向くことに加え、インク組成物をピコリットルレベルの液滴として、布帛に吐出し染色を行うことから、高精細な画像が得られる。このような特長を産業または商業分野にて活かすために、近年、高画質化の要望が高まっている。特に、布帛の種類によらず色再現領域の拡大(色再現性の向上)を求める声が大きくなっており、様々なインク組成物の研究が進められている。
例えば、特許文献1には、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各インク組成物に、バイオレットのインク組成物を組み合わせた5色を用いて、得られる画像の色相範囲を拡大しようとするインクジェット捺染方法が提案されている。また、例えば、特許文献2には、バイオレット染料と有機溶剤のチオグリコールとを含むインク組成物が提案され、綿100%の生地の捺染における、鮮明性および滲み性が評価されている。
特開平6−057654号公報 特開平5−272077号公報
しかしながら、特許文献1に記載のインク組成物では、得られる画像の色域(ガマット)を拡大することが難しいという課題があった。詳しくは、組み合わせるインク組成物の数が少ないと、色域の拡大が困難な場合があった。また、マゼンタ系のインク組成物において、複数の染料を組み合わせて色域を拡大しようとする場合、組み合わせる染料同士の相性を検討する必要があった。そのため、特に、バイオレットの色相範囲において、単にマゼンタ系のインク組成物を混合するだけでは、所望の色相を得ることが難しかった。
また、特許文献2に記載のインク組成物では、植物性繊維や動物性繊維などの異なる種類の布帛間において、得られる画像の色相差に関する数値が明示されていない。インク組成物の色材として染料を用いる場合、染料が布帛の形成材料に染着して染色がなされる。そのため、植物性繊維や動物性繊維などの布帛の種類によって、染着の状態や程度が変化しやすく、色相差が大きくなりやすいという課題があった。すなわち、従来のインク組成物は、布帛の種類によって、色相が少なからず変わって色再現性が低下すると、所望の色相を得ることが難しく、産業または商業用途に不向きとなることがあった。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例]本適用例に係るインク組成物は、下記式(Dye1)で表される第1染料と、
Figure 2018002753
・・・(Dye1)
(ただし、式(Dye1)において、R1は、CH3、または、C25であり、
2、R3は、それぞれ独立に、H、SO3X、またはCOOXのいずれかであり、
4は、HまたはOHであり、
Xは、H、Li、Na、または、NH4 +のいずれかである。)
下記式(Dye2)で表される第2染料と、
Figure 2018002753
・・・(Dye2)
(ただし、式(Dye2)において、R1はSO3X、または、下記式(A)で表されるモノクロロトリアジン基であり、
Figure 2018002753
・・・(A)
2、R3、R4は、それぞれ独立に、H、Cl、SO3X、または、下記式(B)で表されるモノクロロピリミジン基のいずれかであり、
Figure 2018002753
・・・(B)
Xは、H、Li、Na、K、または、NH4 +のいずれかであり、
アスタリスクは、結合してもよい位置を示す。)
を含む。
本適用例によれば、第1染料および第2染料を含むことにより、従来と比べて、得られる画像の色域を拡大することができる。特に、バイオレットの色相範囲において、所望の色相が得られやすくなる。また、植物性繊維や動物性繊維などの異なる種類の布帛において、従来よりも、得られる画像の色相差を小さくすることができる。詳しくは、第1染料または第2染料が、モノクロロトリアジン構造またはモノクロロピリミジン構造を有することにより、特に綿などの植物性繊維において、染着の状態が安定化される。そのため、植物性繊維や動物性繊維などの異なる種類の布帛に対して、従来よりも色相差を低減することができる。これらにより、従来よりも色域を拡大し、種類の異なる布帛間で色再現性を向上させた、産業または商業用途に適したインクジェット捺染用のインク組成物を提供することができる。
上記適用例に記載のインク組成物は、pHが6.0以上、8.5以下であることが好ましい。
これによれば、インク組成物の経時安定性が向上し、得られる画像の色相が従来よりも変化しにくくなる。そのため、布帛に対して所定のデザインを意図した色調で色再現性良く、染色を施すことができる。
上記適用例に記載のインク組成物は、pH調整剤を含むことが好ましい。
これによれば、インク組成物の保存期間が長い場合など、pHの変化が生じやすい環境におかれても、インク組成物のpHの範囲が安定かつ良好に保たれる。これにより、得られる画像において、インク組成物の履歴の影響が低減され、意図した色調で染色を施すことができる。
上記適用例に記載のインク組成物は、沸点が260℃を超える多価アルコールの含有量が、インク組成物全質量に対して5質量%以下であることが好ましい。
これによれば、染色における染着の阻害要因となる、アルコール性水酸基の数が低減され、従来よりも濃く染めることができる。詳しくは、染料の反応基と、植物性繊維などが有する水酸基とが反応して染着が進行する。アルコール性水酸基は、植物性繊維などの水酸基と同様に染料の反応基と反応することがあり、インク組成物中に多く存在すると、染着が阻害される場合がある。アルコール性水酸基を複数有し、沸点が260℃を超える多価アルコールであっても、インク組成物全質量に対する含有量が5質量%以下であれば、インク組成物を布帛に付着させた後の残留量が抑えられる。そのため、布帛に付着させたインク組成物中のアルコール性水酸基の数が低減され、植物性繊維などの水酸基と、染料の反応基との反応が阻害されにくくなる。これにより、染着の状態が安定となり、ムラなどの発生を抑えて濃く染めることが可能となる。
上記適用例に記載のインク組成物は、第1染料が、C.I.リアクティブレッド31、およびC.I.リアクティブレッド218の中から少なくとも1種選ばれ、第2染料が、C.I.リアクティブバイオレット1、およびC.I.リアクティブバイオレット33の中から少なくとも1種選ばれることが好ましい。
これによれば、得られる画像の色域を、特にバイオレットの色相範囲において、さらに拡大することができる。また、第1染料および第2染料が、モノクロロトリアジン構造またはモノクロロピリミジン構造を有するため、異なる種類の布帛に対して、さらに色相差を低減することができる。
[適用例]本適用例に係るインクセットは、マゼンタインク組成物として、上記適用例に記載のインク組成物と、C.I.リアクティブイエロー95、またはC.I.リアクティブイエロー2を含むイエローインク組成物、C.I.リアクティブブルー72、またはC.I.リアクティブブルー15:1を含むシアンインク組成物、C.I.リアクティブブラック39を含むブラックインク組成物、の中から選ばれる少なくとも1種のインク組成物と、を含む。
本適用例によれば、マゼンタインク組成物の色再現性が向上する。そのため、フルカラーの画像などを染色によって形成する場合などに、意図した色調が得られやすくなる。また、異なる種類の布帛に対して、得られる画像の色相差を低減したインクセットを提供することができる。
[適用例]本適用例に係る捺染方法は、上記インク組成物または、上記インクセットに含まれるイエローインク組成物、シアンインク組成物、ブラックインク組成物、の中から選ばれる少なくとも1種のインク組成物を、ノズルプレート表面の少なくとも一部にフッ素を含有し、かつ、ノズルプレートの表面から1μm未満の領域にシロキサン結合を有するインクジェット記録ヘッドから吐出させることを含む。
本適用例によれば、インクジェット記録ヘッドにおいて、ノズルプレート表面の少なくとも一部にフッ素を含有し、かつ、ノズルプレートの表面から1μm未満の領域にシロキサン結合を有することから、インク組成物がこれらにはじかれやすくなる。そのため、上記インク組成物に対して、長時間にわたって良好な耐腐食性が保たれる。これにより、ノズルプレート表面の撥液性が維持され、インクジェット記録ヘッドから、インク組成物を安定的に吐出する捺染方法を提供することができる。
実施形態1に係るインクジェット記録装置を示す概略斜視図。 インクジェット記録ヘッドを示す概略斜視図。 ノズルプレート表面の状態を示す概念図。
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
<インク組成物>
本実施形態に係るインク組成物は、特定の第1染料と、特定の第2染料とを含み、インクジェット法により布帛に付着させて行う捺染方法に用いられる。
[第1染料]
本実施形態のインク組成物に含まれる第1染料は、下記式(Dye1)で表される。
Figure 2018002753
・・・(Dye1)
(ただし、式(Dye1)において、R1は、CH3、または、C25であり、
2、R3は、それぞれ独立に、H、SO3X、またはCOOXのいずれかであり、
4は、HまたはOHであり、
Xは、H、Li、Na、または、NH4 +のいずれかである。)
すなわち、第1染料は、C.I.(Colour Index Generic Name)リアクティブレッド(番号)(C.I.Reactive Red ##)の系統のいくつかの態様に該当する。ここで、本明細書では染料を略記することがあり、例えば、「C.I.リアクティブレッド31」、「C.I.リアクティブバイオレット1」などを略記して、それぞれ「RR31」、「RV1」などと記載することがある。
このような第1染料の具体例としては、例えば、下記式(Dye3)で表されるC.I.リアクティブレッド31(CAS:12237−00−2)、
Figure 2018002753
・・・(Dye3)
下記式(Dye4)で表されるC.I.リアクティブレッド218(CAS:84045−65−8またはCAS:113653−03−5)、
Figure 2018002753
・・・(Dye4)
などを挙げることができる。
第1染料が、式(Dye1)で表される構造(骨格)を有することにより、植物性繊維や動物性繊維などの異なる種類の布帛において、従来よりも、得られる画像の色相差を小さくすることができる。詳しくは、第1染料が、モノクロロトリアジン構造を有することにより、特に綿などの植物性繊維において、染着の状態が安定化される。そのため、植物性繊維や動物性繊維などの異なる種類の布帛に対して、従来よりも得られる画像などの色相差を低減することができる。さらに、後述する第2染料との併用により、色域を従来よりも拡大することができる。これらの効果は、第1染料と第2染料との相互作用に基づくものと推察される。
第1染料は、以上に挙げたC.I.リアクティブレッド31、C.I.リアクティブレッド218の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの第1染料を用いることにより、併用する第2染料の選択に依存するものの、布帛の種類による色相差をより低減し、色域をさらに拡大することができる。
インク組成物における第1染料の含有量は、所定の色相を得るために適宜に調節され得るが、いわゆるマゼンタ色のインク組成物とする場合は、インク組成物の全量に対して、合計で0.1質量%以上、20質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、2質量%以上、15質量%以下、さらに好ましくは、5質量%以上、12質量%以下である。第1染料の含有量を上記範囲とすることにより、色域が充分に広いインク組成物とすることができる。
[第2染料]
本実施形態のインク組成物に含まれる第2染料は、下記式(Dye2)で表される。
Figure 2018002753
・・・(Dye2)
(ただし、式(Dye2)において、R1はSO3X、または、下記式(A)で表されるモノクロロトリアジン基であり、
Figure 2018002753
・・・(A)
2、R3、R4は、それぞれ独立に、H、Cl、SO3X、または、下記式(B)で表されるモノクロロピリミジン基のいずれかであり、
Figure 2018002753
・・・(B)
Xは、H、Li、Na、K、または、NH4 +のいずれかであり、
アスタリスクは、結合してもよい位置を示す。)
すなわち、第2染料は、C.I.リアクティブバイオレット(番号)(C.I.Reactive Violet ##)の系統のいくつかの態様に該当する。
このような第2染料の具体例としては、例えば、下記式(Dye5)で表されるC.I.リアクティブバイオレット1(CAS:12239−45−1、CAS:69721−07−9またはCAS:70880−03−4)、
Figure 2018002753
・・・(Dye5)
下記式(Dye6)で表されるC.I.リアクティブバイオレット33(CAS:66456−81−3またはCAS:69121−25−1)、
Figure 2018002753
・・・(Dye6)
などを挙げることができる。
第2染料が、式(Dye2)で表される構造(骨格)を有することにより、得られる画像の色域を拡大することができる。特に、バイオレットの色相範囲において、所望の色相が得られやすくなる。また、インク組成物におけるpHの経時変化が抑制されて、従来よりもインク組成物の保存安定性を向上させることができる。さらに、第1染料との併用により、従来よりも色域を拡大することができる。これらの効果は、第1染料と第2染料との相互作用に基づくものと推察される。
第2染料は、以上に挙げたC.I.リアクティブバイオレット1、C.I.リアクティブバイオレット33の中から少なくとも1種選ばれることが好ましい。これらモノクロロトリアジン構造またはモノクロロピリミジン構造を有する第2染料を用いることにより、併用する第1染料の選択に依存するものの、布帛の種類による色相差をより低減し、色域をさらに拡大することができる。
インク組成物における第2染料の含有量は、所定の色相を得るために適宜に調節され得るが、いわゆるマゼンタ色のインク組成物とする場合は、インク組成物の全質量に対して、合計で0.1質量%以上、10質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.5質量%以上、8質量%以下、さらに好ましくは、1質量%以上、5質量%以下である。第2染料の含有量を上記範囲とすることにより、色域が充分に広いインク組成物とすることができる。
インク組成物全質量に対する、第1染料の含有量をA質量%、第2染料の含有量をB質量%とすると、A/B(第1染料と第2染料との質量比)は20から1.5の範囲であることが好ましい。より好ましくは、40から1.5である。さらに好ましくは、20から5である。第1染料と第2染料との質量比を上記の範囲とすることにより、得られる画像の色域をさらに拡大することができる。また、植物性繊維や動物性繊維などの異なる種類の布帛において、得られる画像の色相差をさらに小さくすることができる。
[水]
本実施形態に係るインク組成物は、水を含んでもよい。水は、本実施形態のインク組成物の主な媒体である。布帛に染色が施されると、主媒体は布帛から乾燥によって蒸発飛散するが、水を主な媒体とすることで、蒸発飛散物による人体に対する危害の恐れを抑えることができ、また、布帛の乾燥を早くすることができるため、好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水、ならびに超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものを用いることができる。また、紫外線照射や過酸化水素の添加などによって滅菌した水を使用すると、インク組成物を長期間保存する場合に、カビやバクテリアの発生を防止することができる。
インク組成物に含まれる水の含有量は、特に限定されないが、インク組成物の全質量に対して、例えば、30質量%以上、90質量%以下であることが好ましい。より好ましくは40質量%以上、85質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上、80質量%以下である。水の含有量を上記の範囲とすることにより、インク組成物の粘度を調整して、インク組成物をインクジェット記録ヘッドから吐出する際の、吐出安定性を向上させることができる。なお、インク組成物中の水という場合には、例えば、原料や添加剤に含まれている水を含めていうこととする。
[有機溶剤]
本実施形態のインク組成物には、有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤を添加することにより、粘度、表面張力などのインク組成物の物性や、布帛上での乾燥、浸透などのインク組成物の挙動を制御することができる。また、水との相溶性から水溶性の有機溶剤を用いることが好ましい。
水溶性の有機溶剤としては、例えば、1,2−ペンタンジオール、メチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ブチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)、ブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、2−メチル−3−フェノキシ−1,2−プロパンジオール、3−(3−メチルフェノキシ)−1,2−プロパンジオール、3−ヘキシルオキシ−1,2−プロパンジオール、2−ヒドロキシメチル−2−フェノキシメチル−1,3−プロパンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。
水溶性の有機溶剤の含有量は、インク組成物の全質量に対して、0.2質量%以上、30質量%以下が好ましい。より好ましくは0.4質量%以上、20質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上、15質量%以下であり、特に好ましくは0.7質量%以上、10質量%以下である。
[表面張力調整剤]
本実施形態のインク組成物には、表面張力調整剤を添加してもよい。表面張力調整剤を添加することにより、インク組成物の表面張力を低くすることができる。これによって、布帛に対するインク組成物の濡れ性が向上し、ムラなどの発生を抑えて染色を施すことができる。表面張力調整剤としては、低い表面張力を有する水溶性の有機溶剤や、界面活性剤が挙げられる。
低い表面張力を有する水溶性の有機溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール類、ブチレングリコール、1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのジオール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールモノエーテル類が挙げられ、これらを少なくとも1種用いることができる。
界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤から適宜選択できる。これらの中でも、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤を用いることが好ましい。これらの界面活性剤を用いることにより、少量の添加で表面張力を低くすることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D、ダイノール604、607(以上商品名、Air Products and Chemicals, Inc.社)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、E1020、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、PD−005、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、EXP.4123、EXP.4200、EXP.4300、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上商品名、日信化学工業社)、アセチレノールE00、E00P、E40、E60、E100(以上商品名、川研ファインケミカル社)などが挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物を用いることが好ましい。ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、BYK−349(以上商品名、BYK社)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学工業社)、シルフェイスSAG002、005、503A、008(以上商品名、日信化学工業社)などが挙げられる。
表面張力調整剤の含有量は、インク組成物の全質量に対して、0.01質量%以上、2質量%以下が好ましい。より好ましくは0.03質量%以上、2.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上、2質量%以下である。表面張力調整剤の含有量を上記の範囲とすることにより、インク組成物の泡立ち(起泡)を抑えて、布帛に対する濡れ性を向上させることができる。
[保湿剤]
本実施形態のインク組成物には、保湿剤を添加してもよい。保湿剤としては、特に限定されず、インク組成物に保湿機能を付与可能な化合物を用いることができる。保湿剤の沸点は、180℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。保湿剤の沸点を上記とすることにより、インク組成物の保管などにおいて、乾燥や固化を抑えることができる。なお、本明細書における「沸点」とは標準沸点を指している。
保湿剤としては、例えば、ジエチレングリコール(244℃)、トリエチレングリコール(287℃)、テトラエチレングリコール(314℃)、ペンタメチレングリコール(1,5−ペンタンジオール)(239℃)、トリメチレングリコール(1,3−プロパンジオール)(214℃)、2−ブテン−1,4−ジオール(234℃)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(244℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(197℃)、プロピレングリコール(189℃)、ジプロピレングリコール(230℃)、トリプロピレングリコール(273℃)、イソブチレングリコール(2−メチル−1,2−プロパンジオール)(176℃)、グリセリン(290℃)、ジグリセリン、メソエリスリトール(330℃)、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール(276℃)、ジペンタエリスリトール(356℃)などのポリオール類、2−ピロリドン(245℃)、N−メチル−2−ピロリドン(202℃)、ε−カプロラクタム(267℃)、ヒドロキシエチルピロリドン(309℃)などのラクタム類、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、1,3−ジメチルイミダゾリジノン類などの尿素誘導体、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオースなどの単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類およびこれらの糖類の誘導体、グリシン、トリメチルグリシンのベタイン類などが挙げられる。なお、上記化合物名の後に付記した括弧内の温度は、沸点を示している。上記に列挙した保湿剤のうち、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどは、上述した水溶性の有機溶剤にも挙げられた化合物であり、双方の機能を有している。
保湿剤を添加する場合の含有量は、インク組成物の全質量に対して、0.2質量%以上、30質量%以下が好ましい。より好ましくは0.4質量%以上、20質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上、15質量%以下である。保湿剤の含有量を上記の範囲とすることにより、インク組成物の粘度の増大を抑えて、保湿性を確保することができる。
ここで、上述した水溶性の有機溶剤および保湿剤において、多価アルコールを複数例示した。本実施形態のインク組成物においては、沸点が260℃を超える多価アルコールの含有量がインク組成物全質量に対して5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。これによれば、染色における染着の阻害要因となる、アルコール性水酸基数が低減される。詳しくは、沸点が260℃を超える多価アルコールであっても、インク組成物全質量に対して5質量%以下の含有量であれば、インク組成物を布帛に付着させた後に、残留する量が抑えられる。そのため、布帛に付着させたインク組成物中のアルコール性水酸基の数が低減され、植物性繊維などの水酸基と、染料の反応基との染着が阻害されにくくなる。これにより、染着の状態が安定となり、ムラなどの発生を抑えて濃く染めることが可能となる。また、沸点が180℃以上、260℃以下の有機溶剤を、少なくとも1種含むことが好ましい。例えば、ジエチレングリコール(244℃)、ペンタメチレングリコール(239℃)、トリメチレングリコール(214℃)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(244℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(197℃)、プロピレングリコール(189℃)、ジプロピレングリコール(230℃)などのポリオール類、2−ピロリドン(245℃)、N−メチル−2−ピロリドン(202℃)、などのラクタム類が挙げられ、これらの中でも2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどのラクタム類が好ましい。沸点がこのような範囲の有機溶剤を含むことによって、インクジェットプリンターを用いて捺染を行う場合に、インクジェットプリンターの信頼性(吐出安定性)が向上する。なお、本明細書における沸点とは、1気圧下での沸点をいう。
[pH調整剤]
本実施形態のインク組成物は、pHを調整するために、pH調整剤を含有することが好ましい。pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸などの有機酸、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなどの有機塩基、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液などのpH緩衝液、などが挙げられる。これらの中でも、アミン系の有機塩基とカルボキシル基含有の有機酸との併用が好ましい。これにより、第1染料(上記式(Dye1))と第2染料(上記式(Dye2))との添加量比率によらず、インク組成物の製造時にpHを6以上、8.5以下の範囲に調整しやすくなり、また、貯蔵時においても上記pHの範囲を維持しやすくなる。そのため、染色によって得られる画像の色変化を小さくすること、およびインクジェット記録ヘッドのノズルプレートの撥液性を劣化させにくくすることができる。
[その他の成分]
本実施形態に係るインク組成物には、その他の染料、防腐剤、溶解助剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤、キレート化剤、樹脂粒子などの種々の添加剤を適宜添加することができる。その他の染料としては、例えば、C.I.リアクティブレッド2、14、24、32、55、79、106、111、124などが挙げられる。
<インク組成物の物性>
本実施形態のインク組成物は、25℃における表面張力が10mN/m以上、40mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN/m以上、40mN/m以下である。25℃におけるインク組成物の表面張力を、上記の範囲とすることにより、インクジェット法によって捺染を行う際に、インク組成物の吐出安定性が向上する。また、布帛に、画像などを染色して形成する場合に、高精細な画像を形成することができる。なお、インク組成物の表面張力は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社)を用いて測定することができる。具体的には、25℃の環境下にて、白金プレートの一部をインク組成物に浸漬させて測定し、求めることが可能である。
表面張力と同様な観点から、インク組成物の20℃における粘度は、2mPa・s(ミリパスカル秒)以上、15mPa・s以下であることが好ましい。より好ましくは、2mPa・s以上、5mPa・s以下であり、さらに好ましくは、2mPa・s以上、3.86mPa・s以下である。なお、インク組成物の粘度は、粘弾性試験機MCR−300(Pysica社)を用いて測定することができる。具体的には、インク組成物の温度を20℃に調整し、Shear Rateを10から1000に上げ、Shear Rateが200のときの粘度を読み取ることで求められる。
本実施形態のインク組成物のpHは、6.0以上、8.5以下であることが好ましい。より好ましくは、6.5以上、8.5以下であり、さらに好ましくは、7.0以上、8.0以下である。インク組成物の製造直後から貯蔵時に至るまで、上記pH範囲にあることが好ましい。ここで、製造直後とは、インク組成物の成分の調合後24時間以内のことを指し、貯蔵時とは、インクカートリッジなどのインク容器に充填した後から、インクジェット記録ヘッドから吐出されるまでの期間中を指す。例えば、貯蔵期間は、インクカートリッジの製品保証期間を指すことがある。なお、60℃程度の高温放置により加速評価を行って、貯蔵時のpH値を推定してもよい。
インク組成物のpHを上記の範囲とすることにより、インク組成物の経時安定性が向上し、得られる画像の色相が従来よりも変化しにくくなる。そのため、所定のデザインを、意図した色調で色再現性良く、布帛に捺染することができる。上記のpHの範囲は、上述したpH調整剤を添加することにより、調整することが可能である。
以上述べたように本実施形態に係るインク組成物によれば、以下の効果を得ることができる。第1染料および第2染料を含むことにより、従来と比べて、得られる画像の色域を拡大することができる。特に、バイオレットの色相範囲において、所望の色相が得られやすくなる。また、植物性繊維や動物性繊維などの異なる種類の布帛において、従来よりも、得られる画像の色相差を低減することができる。
また、インク組成物の保存期間が長い場合など、pHの変化が生じやすい環境におかれても、得られる画像の色相が従来よりも変化しにくくなり、意図した色調やデザインで染色を施すことができる。さらに、布帛に付着させたインク組成物中のアルコール性水酸基の数が低減されるため、染着阻害が抑えられて、より濃く染めることができる
これらにより、従来よりも色域を拡大し、種類の異なる布帛間や保管後における色再現性が向上した、産業または商業用途に適するインクジェット捺染用のインク組成物を提供することができる
<インクセット>
本実施形態に係るインクセットは、上述したインク組成物(マゼンタインク組成物)と、C.I.リアクティブイエロー95、またはC.I.リアクティブイエロー2を含むイエローインク組成物、C.I.リアクティブブルー72、またはC.I.リアクティブブルー15:1を含むシアンインク組成物、C.I.リアクティブブラック39を含むブラックインク組成物、の中から選ばれる少なくとも1種のインク組成物と、を含んでいる。
イエローインク組成物は、その他の染料、水、有機溶剤、表面張力調整剤、pH調整剤、防腐剤、溶解助剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤、キレート化剤および樹脂粒子などの種々の成分を含んでいてもよい。これらの成分は、上述した本実施形態のインク組成物と同様なものを用いることができる。イエローインク組成物に使用可能な、その他の染料としては、C.I.リアクティブイエロー7、15、22、37、42、57、69、76、81、95、102、125、135などが挙げられる。
シアンインク組成物は、その他の染料、水、有機溶剤、表面張力調整剤、pH調整剤、防腐剤、溶解助剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤、キレート化剤および樹脂粒子などの種々の成分を含んでいてもよい。これらの成分は、上述した本実施形態のインク組成物と同様なものを用いることができる。シアンインク組成物に使用可能な、その他の染料としては、C.I.リアクティブブルー2、13、21、38、41、50、69、72、109、120、143などが挙げられる。
ブラックインク組成物は、その他の染料、水、有機溶剤、表面張力調整剤、pH調整剤、防腐剤、溶解助剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤、キレート化剤および樹脂粒子などの種々の成分を含んでいてもよい。これらの成分は、上述した本実施形態のインク組成物と同様なものを用いることができる。ブラックインク組成物に使用可能な、その他の染料としては、C.I.リアクティブブラック3、4、5、8、13、14、31、34、35、39などが挙げられる。
上記のイエロー、シアン、ブラックの各インク組成物における染料の含有量は、用途に応じて適宜調整することが可能であり特に限定されないが、例えば、インク組成物全質量に対して、0.10質量%以上、20.0質量%以下が好ましい。より好ましくは0.20質量%以上、15.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上、10.0質量%以下である。
以上述べたように本実施形態に係るインクセットによれば、以下の効果を得ることができる。マゼンタインク組成物の色再現性が向上する。そのため、フルカラーの画像などを染色によって形成する場合などに、意図した色調が得られやすくなる。また、異なる種類の布帛に対して、得られる画像の色相差を低減したインクセットを提供することができる。
<インクジェット記録装置>
次に、本実施形態に係るインクジェット記録装置について、図1を参照して説明する。インクジェット記録装置は、インク組成物の微小な液滴を吐出するインクジェット法によって、布帛の捺染部に液滴を着弾させて捺染を行う装置である。図1は、実施形態1に係るインクジェット記録装置を示す概略斜視図である。本実施形態では、インクジェット記録装置として、インクカートリッジがキャリッジに搭載されたオンキャリッジタイプのプリンターを例に挙げて説明する。なお、以下の各図においては、各部材を認識可能な程度の大きさとするため、各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
本実施形態のインクジェット記録装置としてのプリンター1は、いわゆるシリアルプリンターと呼ばれているものである。シリアルプリンターとは、所定の方向に移動するキャリッジにヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動しながら印刷を行うプリンターをいう。なお、シリアルプリンターに代えて、ラインプリンターを用いてもよい。
プリンター1は、図1に示すように、インクジェット記録ヘッドとしてのヘッド3、キャリッジ4、主走査機構5、プラテンローラー6、プリンター1全体の動作を制御する制御部(図示せず)などを有している。キャリッジ4は、ヘッド3を搭載すると共に、ヘッド3に供給されるインクを収納するインクカートリッジ7a,7b,7c,7dが着脱可能である。
主走査機構5は、キャリッジ4に接続されたタイミングベルト8、タイミングベルト8を駆動するモーター9、ガイド軸10を有している。ガイド軸10は、キャリッジ4の支持部材として、キャリッジ4の走査方向(主走査方向)に架設されている。キャリッジ4は、タイミングベルト8を介してモーター9によって駆動され、ガイド軸10に沿って往復移動が可能である。これにより、主走査機構5は、キャリッジ4を主走査方向に往復移動させる機能を有している。
プラテンローラー6は、捺染を施す布帛としての記録媒体2を、上記主走査方向と直交する副走査方向(記録媒体2の長さ方向)に、搬送する機能を有している。そのため、記録媒体2は副走査方向に搬送される。また、ヘッド3が搭載されるキャリッジ4は、記録媒体2の幅方向と略一致する主走査方向に往復移動が可能であり、ヘッド3は記録媒体2に対して、主走査方向および副走査方向へ、相対的に走査が可能となっている。
インクカートリッジ7a,7b,7c,7dは、独立した4つのインクカートリッジである。インクカートリッジ7a,7b,7c,7dには、上述したインク組成物を収納することができる。これらのインクカートリッジには、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローなどの色を呈するインク組成物が個別に収納され、任意に組み合わせて用いることが可能である。図1では、インクカートリッジの数を4個としているが、これに限定されるものではない。インクカートリッジ7a,7b,7c,7dの底部には、各インクカートリッジに収納されたインク組成物をヘッド3へ供給するための供給口(図示せず)が設けられている。
次に、ヘッド3の構成について、図2を参照して説明する。図2は、インクジェット記録ヘッドを示す概略斜視図である。
ヘッド3は、図2に示すように、導入部53、ヘッド基板55、ヘッド本体56などを有している。導入部53は、ヘッド3におけるインク組成物導入部の機能を有している。この導入部53には、接続針54が設置されている。接続針54は、上述した供給口と接続され、インク組成物をヘッド3内部へ供給する機能を有している。
ヘッド基板55は、一方の面が導入部53に隣接して設置され、他方の面がヘッド本体56に面して設置されている。また、このヘッド基板55には2連のコネクター58が設けられている。コネクター58は、フレキシブルフラットケーブル(図示せず)を介して、回路基板(図示せず)とヘッド3とを電気的に接続するための端子を構成している。
ヘッド本体56はヘッド基板55と隣接して設置され、その内部には接続針54から導入されたインク組成物の流路が形成されている。ヘッド本体56は、加圧部57、ノズルプレート51などを有している。加圧部57には、ヘッド3の駆動手段(アクチュエーター)としての圧電素子がキャビティ部(図示せず)に設置されている。ノズルプレート51の形成材料としては、特に限定されず、ステンレス鋼(例えば、SUSなど)、ポリイミドなどを用いることができる。
ノズルプレート51の、ヘッド3が上記インク組成物を吐出する面には、ノズル面51aが形成されている。ノズル面51aには、複数のノズル52が一定間隔で整列した、2つのノズル列52a,52bが平行に配置されている。これらノズル列52a,52bが2列配置されていることから、ヘッド3は所謂2連型の構成となっている。また、ノズル52は円形であって、その直径は約30μmとしている。このノズル52ごとにキャビティ部が設置されている。なお、ノズル面51aには、後述するプラズマ重合膜126およびフッ素樹脂膜128が形成されている。
上述した構成により、インク組成物がインク供給機構からヘッド3に供給され、充填される。次いで、ヘッドドライバー(図示せず)からヘッド3の圧電素子に駆動信号(電気信号)が印加されると、圧電素子の変形によって加圧部57のキャビティに体積変化が生じる。この体積変化によるポンプ作用で、キャビティ内に充填されたインク組成物が加圧され、ノズル52から吐出される構成となっている。
ここで、ヘッド3のノズル52ごとに設置される駆動手段(アクチュエーター)は、圧電素子に限定されない。例えば、アクチュエーターとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、加熱によって生じる気泡によってインク組成物をインク滴として吐出させる電気熱変換素子を用いてもよい。
<ノズルプレート>
ノズルプレート51の表面(ノズル面51a)の少なくとも一部はフッ素を含有し、かつ、ノズルプレート51の表面から1μm未満の領域にシロキサン結合を有している。なお、ノズルプレート51の表面とは、ノズルプレート51の少なくとも一部の面の性質を変化させるために、物理的または化学的に処理された膜を含む。
ノズルプレート51の形成材料がステンレス鋼の場合には、ノズルプレート51の表面およびノズル52の内表面に、シリコーン材料をプラズマ重合することによって、プラズマ重合膜126(図3参照)を形成することができる。プラズマ重合膜126の形成材料としては、シリコーン油、ジメチルポリシロキサンなどのアルコキシランが挙げられる。具体的な商品名としては、TSF451(ジーイー東芝シリコーン社)、SH200(東レ・ダウコーニング・シリコーン社)などが挙げられる。
また、プラズマ重合膜126の表面には、撥液性を有するフッ素樹脂膜128(図3参照)が形成されている。フッ素樹脂膜128は、フッ素を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシランの単分子膜であることが好ましい。フッ素を含む長鎖高分子鎖としては、分子量が1000以上の、パーフルオロアルキル鎖、パーフルオロポリエーテル鎖などが挙げられる。長鎖高分子鎖を有するアルコキシランとしては、例えば、長鎖高分子鎖を有するシランカップリング剤などが挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、ヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシランなどが挙げられ、市販品としては、オプツールDSX(商品名、ダイキン工業社)、KY−130(商品名、信越化学工業社)などが挙げられる。なお、ノズルプレート51の形成材料がポリイミドの場合には、プラズマ重合膜126を形成せずに、ノズルプレート51の表面に直接フッ素樹脂膜128を形成してもよい。
次に、ノズルプレート51の表面状態について、図3を参照して説明する。図3は、ノズルプレート表面の状態を示す概念図である。
図3に示した、ノズルプレート51の表面(ノズル面51a)には、プラズマ重合膜126、およびプラズマ重合膜126を介して、フッ素を含む長鎖高分子鎖128aを含むフッ素樹脂膜128が形成されている。プラズマ重合膜126を形成したノズルプレート51を、フッ素を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシラン溶液に浸漬させると、プラズマ重合膜126の表面に、フッ素を含む長鎖高分子鎖を有するアルコキシランが重合したフッ素樹脂膜128が形成される。フッ素樹脂膜128に含まれるケイ素原子は、酸素原子を介してプラズマ重合膜126と結合(いわゆるシロキサン結合)する。そして、フッ素を含む長鎖高分子鎖128aは、表面側に配列された状態となる。このように、ヘッド3は、ノズルプレート51の表面(ノズル面51a)の少なくとも一部に、単分子膜のフッ素樹脂膜128に由来するフッ素を含有している。
これにより、ノズルプレート51の最表面から1μm未満の領域に、シロキサン結合を有していることになる。上述した構成により、フッ素樹脂膜128の状態は、ケイ素原子が3次元的に結合し、フッ素を含む長鎖高分子鎖同士が複雑に絡み合った状態となっている。そのため、フッ素樹脂膜128は高密度な状態となって、フッ素樹脂膜128にインク組成物がはじかれて浸透しにくくなり、インク組成物に対するフッ素樹脂膜128およびプラズマ重合膜126の耐腐食性を向上させることができる。
また、ノズルプレート51の表面にニッケルイオンとフッ素樹脂との共析メッキ膜を形成することで、ノズルプレート51の表面の少なくとも一部にフッ素を有するようにしてもよい。このような共析メッキ膜を形成する方法は、電解法あるいは無電解法を用いることが可能である。特に限定されないが、具体的には、例えばニッケルイオンと撥液性高分子樹脂粒子を電荷により分散させた電解液中に浸漬し、電解液を撹拌しながら浸漬されているノズルプレート表面に共析メッキを施す方法が好ましい。上記の共析メッキに使用する撥液性高分子樹脂粒子の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリパーフルオロアルコキシブタジエン、ポリフルオロビニリデン、ポリフルオロビニル、ポリジパーフルオロアルキルフマレートなどの樹脂を、単独あるいは混合して用いることが好ましい。また、共析メッキに用いる金属材料は、ニッケルに限定されず、例えば、銅、銀、錫、亜鉛などを適宜選択できる。共析メッキに用いる金属材料は、ニッケル、ニッケル−コバルト合金、ニッケル−ホウ素合金などの表面硬度が大きく、耐摩耗性に優れる材料がより好ましい。
<捺染方法>
本実施形態に係る捺染方法について説明する。本実施形態の捺染方法は、一般に用いられるインクジェット記録ヘッドから上記インク組成物を吐出させることを含んでもよい。好ましくは、ノズルプレート51表面の少なくとも一部にフッ素を含有し、かつ、ノズルプレート51の表面から1μm未満の領域にシロキサン結合を有するヘッド3から吐出させることを含んでもよい。また、少なくとも、上述したインク組成物をインクジェット記録装置(インクジェットプリンター)のインクジェット記録ヘッド(ヘッド3)に導入し、インクジェット法にて布帛にインク組成物を付着させる工程を含んでいる。また、ヘッド3には、上述したインクセットの各インク組成物が、それぞれ導入されていてもよい。例えば、ヘッド3が備える複数のノズル列52a,52bに対して、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、イエローインク組成物、ブラックインク組成物が割り当てられてもよい。
インク組成物を布帛にインクジェット法によって付着させる工程は、ヘッド3のノズル52からインク組成物の液滴を吐出させて布帛に付着させ、布帛に画像、テキスト、模様、色彩などのデザインを形成(捺染)するものである。これにより、布帛にインク組成物によるデザインが捺染された印捺物が得られる。
本実施形態で用いるインクジェット記録装置においては、ヘッド3からインク組成物が液滴として吐出される。このとき、上記液滴を、所定のタイミングで間欠的に、かつ所定の体積(質量)で吐出させることにより、布帛にインク組成物の液滴を付着させ、所定の画像などが捺染される。
布帛に対して、インク組成物は、付着量が1.5mg/cm2以上、6mg/cm2以下となるように付着されることが好ましい。より好ましくは、2mg/cm2以上、5mg/cm2以下である。付着量が1.5mg/cm2以上であることにより、捺染される画像などの発色が良好になる傾向がある。また、付着量が6mg/cm2以下であることにより、布帛上でインク組成物の液滴の乾燥性が向上し、捺染された画像などで滲みの発生が抑えられる。
また、本実施形態に係る捺染方法は、布帛に付着させたインク組成物(液滴)を加熱する工程を含んでいてもよい。
布帛に付着させたインク組成物を加熱する際の加熱方法としては、特に限定されないが、例えば、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、サーモフィックス法などが挙げられる。また、加熱の熱源としては、特に限定されないが、例えば赤外線(ランプ)などが挙げられる。
布帛に付着させたインク組成物を加熱する際の加熱温度としては、特に限定されないが、150℃以上、200℃以下であることが好ましい。より好ましくは、160℃以上、180℃以下である。加熱温度をこのような範囲とすることにより、布帛への熱ダメージを抑え、インク組成物の乾燥や定着を促進することができる。なお、上記加熱温度とは、布帛に形成された画像などのデザインの表面温度のことをいい、例えば、非接触温度計IT2−80(商品名、キーエンス社)を用いて測定することができる。また、加熱温度を印加する加熱時間は、特に限定されないが、例えば、30秒以上、20分以下とすることができる。
本実施形態の捺染方法によって捺染される布帛としては、上述したインク組成物によって染色可能なものが挙げられる。そのような布帛としては、特に限定されないが、例えば、綿、麻などの植物性繊維、絹、羊毛などの動物性繊維、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタンなどの合成繊維、ポリ乳酸などの生分解性繊維、およびこれらの混紡繊維で形成されたものが挙げられる。すなわち、布帛とは、上記の繊維を、織物、編物、不織布などの形態にしたものである。本実施形態に用いる布帛は、綿、麻などのセルロースを含む植物性繊維で形成されたものが、より好ましい。このような布帛を用いることにより、染色性(堅牢性)を向上させることができる。また、本実施形態で用いる布帛の目付については、特に限定されないが、1.0oz(オンス)以上、10.0oz以下、好ましくは2.0oz以上、9.0oz以下、より好ましくは3.0oz以上、8.0oz以下、さらに好ましくは4.0oz以上、7.0oz以下の範囲である。
以下に、本実施形態のインク組成物について、実施例と比較例とを示し、本実施形態の効果をより具体的に説明する。
<インク組成物の調製>
表1は、実施例および比較例のインク組成物の組成、および後述する評価結果を記載したものである。インク組成物の各成分(材料)を、表1に示した組成で混合、撹拌して、各材料を均一に混合した後、メンブレンフィルター(ポアサイズ1μm)でろ過し、実施例および比較例のインク組成物を調製した。なお、表1のインク組成物の組成欄において、数値の単位は質量%であり、合計は100質量%である。また、同じく表1のインク組成物の組成欄において、「−」は含有しないことを意味する。
Figure 2018002753
なお、表1において、オルフィンPD−002Wは、アセチレングリコール系界面活性剤(商品名、日信化学社)である。その他の成分は、試薬として市販されているものを用いた。
ここで、実施例1は、第1染料としてリアクティブレッド31と、第2染料としてリアクティブバイオレット1とを含み、プロピレングリコール、2−ピロリドン、尿素、オルフィンPD−002W、アジピン酸、トリエタノールアミン、水(純水)を配合した水準である。
実施例2は、第1染料としてリアクティブレッド218と、第2染料としてリアクティブバイオレット33とを含み、他の組成は、実施例1と同様である。
実施例3は、第1染料としてリアクティブレッド31と、第2染料としてリアクティブバイオレット33とを含み、他の組成は、実施例1と同様である。
実施例4は、第1染料としてリアクティブレッド218と、第2染料としてリアクティブバイオレット1とを含み、他の組成は、実施例1と同様である。
実施例5は、pH調整剤としてアジピン酸を用いずにトリエタノールアミンのみとした以外は、実施例1と同様である。
実施例6は、第1染料としてリアクティブレッド31と、第2染料としてリアクティブバイオレット33とを含み、他の組成は、実施例1と同様である。
実施例7は、実施例4と同様の材料(成分)を用いて、第1染料(RR218)と第2染料(RV1)との質量比A/Bを1.5とした。
実施例8は、トリエタノールアミンを0.1質量%とした以外は、実施例5と同様である。
実施例9は、第1染料としてリアクティブレッド31と、第2染料としてリアクティブバイオレット1とを、実施例1とは異なる含有量で含み、2−ピロリドンを抜いた以外は、実施例1と同様である。
比較例1は、第1染料としてリアクティブレッド31を含み、第2染料およびアジピン酸を含まない組成である。
比較例2は、第1染料としてリアクティブレッド218を含み、第2染料を含まず、また、チオグリコールを含み、プロピレングリコールおよびアジピン酸を含まない組成である。
比較例3は、第1染料を含まず、第2染料としてリアクティブバイオレット1を含み、アジピン酸を含まない組成である。
<色相差(綿対絹)>
実施例および比較例のインク組成物について、各インク組成物の調製直後に、インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン社)のイエローインクカートリッジに充填し、布帛11(綿100%:坪量130g/m2)、布帛12(絹100%:坪量90g/m2)を上記プリンターにセットして、インク吐出量を5%dutyから100%dutyまで段階的に調整したベタパターンを捺染(印刷)した。なお、画像解像度は、1440×720dpi(Dots Per Inch)とした。ここで、%dutyとは、%duty=1平方インチ当たりの記録ドット数/(1440×720)×100を示す。
捺染を施した布帛に対して、高温スチーマーHT−3−550(辻井染機工業社)を用いて、常圧下にて102℃で10分間のスチーミング処理を行った。次いで、界面活性剤ラッコールSTA(商品名、明成化学社)を0.2質量%含む水溶液を用いて、90℃で10分間洗浄した後、乾燥させて評価用のサンプルとした。
得られた評価サンプルを用いて、分光濃度計(商品名「Spectrolino」、X−RITE社製)、光源:D65、ステータス:DIN_NB、視野角:2度、フィルター:UV、の条件で画像のL*、a*、b*値を測定し、下記の数式1から数式4に基づいて布帛11、布帛12に捺染した場合の色相差△E*(デルタE*)を算出した。
△E*={(△L*)^2+(△a*^2)+(△b*^2)}^0.5 ・・・(数式1)
△L*=L*1−L*2 ・・・(数式2)
△a*=a*1−a*2 ・・・(数式3)
△b*=b*1−b*2 ・・・(数式4)
(L*1、a*1、b*1は布帛11のC* maxとなる部分のL*、a*、b*値を示し、L*2、a*2、b*2は布帛12のC* maxとなる部分のL*、a*、b*値を示す)
得られた値に基づいて、以下の基準に従って色相差の評価を行った。その結果を表1に示した。
A:△E*が6未満。
B:△E*が6以上7未満。
C:△E*が7以上8未満。
D:△E*が8以上。
<保存安定性>
[pH安定性]
実施例および比較例のインク組成物について、調製直後のpHを測定した。次いで、実施例および比較例のインク組成物をサンプル瓶に充填し、60℃で7日間放置した。放置後のpHを測定し、それぞれ調製直後のpHと比較して、以下の基準に従い評価を行った。その結果を表1に示した。
A:pHの変化量が1未満で、かつ放置後のpHの測定値が6以上。
B:pHの変化量が1以上2未満で、かつ放置後のpHの測定値が6以上。
C:pHの変化量が2で、かつ放置後のpHの測定値が6以上。
D:放置後のpHの測定値が6未満。
[色相差(経時)]
実施例および比較例のインク組成物について、各インク組成物をサンプル瓶に充填し、60℃で7日間放置した。この放置後のインク組成物について、上記と同様にして布帛11に捺染して評価用のサンプルを作製し、色相を測定した。布帛11における、上記色相差(綿対絹)の項で求めたインク組成物調製直後のデータと、当項で求めた60℃で7日間放置後のデータとから、上記と同様にして、放置による色相差△E*を算出した。以下の基準に従い、経時による色相差を評価し、その結果を表1に示した。
A:△E*が10未満。
B:△E*が10以上12.5未満。
C:△E*が12.5以上15未満。
D:△E*が15以上。
[吐出安定性]
実施例および比較例のインク組成物について、インクジェット記録装置(プリンター)の信頼性としての吐出安定性を評価した。具体的には、各インク組成物を、インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン社)のイエローインクカートリッジに充填し、上記プリンターにセットした。次いで、40℃環境下にて、100%dutyのベタパターンを連続的に1時間印刷させて、ヘッドのノズルに発生した不吐出などの吐出不良の発生を確認した。吐出させた全ノズル数に対する、吐出不良が発生したノズル数の割合について、以下の基準に従って評価した。その結果を表1に示した。
A:吐出不良が発生したノズルが1%未満。
B:吐出不良が発生したノズルが1%以上、3%未満。
C:吐出不良が発生したノズルが3%以上、5%未満。
D:吐出不良が発生したノズルが5%以上。
<評価結果>
以上の評価結果から、実施例1から実施例4のインク組成物は、捺染による布帛の種類による色相差(初期)、インク組成物のpH(インクpH)安定性、経時による色相差、吐出安定性のいずれの評価においても優れていることが示された。また、実施例5から実施例9のインク組成物は、上記評価のうち、2つ以上で優れた結果となり、それ以外の項目においても、Bランク(許容レベル)の評価結果が得られた。
一方、比較例1から比較例3のインク組成物は、吐出安定性に優れる他は、いずれか1つ以上の項目で最低ランクのD評価となり、実施例1から実施例9に対して大きく劣っていることが示された。
<インクセットの作製>
表2は、実施例10、11および比較例4のインクセットにおけるイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各インク組成物における染料など、および後述する評価結果を記載したものである。
Figure 2018002753
表2に示したように、実施例10のインクセットは、実施例1のマゼンタインク組成物に加えて、イエロー、シアン、ブラックの各インク組成物を調製して、それぞれインクカートリッジに充填し、計4色のインクセットとした。詳しくは、イエローインク組成物は、染料をリアクティブイエロー95とした以外は、実施例1のマゼンタインク組成物と同様にして調製した。シアンインク組成物は、染料をリアクティブブルー72とした以外は、実施例1のマゼンタインク組成物と同様にして調製した。ブラックインク組成物は、染料をリアクティブブラック39とした以外は、実施例1のマゼンタインク組成物と同様にして調製した。
実施例11のインクセットは、実施例1のマゼンタインク組成物に加えて、イエロー、シアン、ブラックの各インク組成物を調製して、それぞれインクカートリッジに充填し、計4色のインクセットとした。詳しくは、イエローインク組成物は、染料をリアクティブイエロー2とした以外は、実施例1のマゼンタインク組成物と同様にして調製した。シアンインク組成物は、染料をリアクティブブルー15:1とした以外は、実施例1のマゼンタインク組成物と同様にして調製した。ブラックインク組成物は、実施例10のインクセットのブラックインク組成物を用いた。
比較例4のインクセットは、マゼンタ、イエロー、シアン、ブラックの各インク組成物を調製して、それぞれインクカートリッジに充填し、計4色のインクセットとした。詳しくは、マゼンタインク組成物は、染料をリアクティブレッド24:1とした以外は、実施例1のマゼンタインク組成物と同様にして調製した。イエローインク組成物、シアンインク組成物、およびブラックインク組成物は、実施例10のインクセットのイエローインク組成物、シアンインク組成物、およびブラックインク組成物を用いた。
[色再現性]
実施例10、11、比較例4のインクセットを、インクジェットプリンターPX−G930(セイコーエプソン社)に装着して、各インク組成物を充填した。次いで、布帛11(綿100%:坪量130g/m2)に対して、RGB=(0,0,0)から(255,255,255)の入力に対応するルックアップテーブルを捺染(印刷)した。その後、上記色相差の評価と同様にして、スチーミング処理、洗浄、乾燥を施し、評価サンプルとした。評価サンプルについて、上記色相差の評価と同様な条件で、L*、a*、b*値を測定した。得られたL*値、a*値、b*値から、CIE(国際照明委員会)が規定するL*値、a*値、b*値がすべて1であるときのガマット体積を1として、ガマット体積(色再現範囲体積)を算出した。比較例4のインクセットによるガマット体積を100%とし、実施例10および実施例11のインクセットのガマット体積を、以下の判定基準に従って色再現性を評価し、表2に示した。
A:ガマット体積が、110%を超える。
B:ガマット体積が、100%を超え、110%以下である。
C:ガマット体積が、100%以下である。
<評価結果>
表2の評価結果から、実施例10および実施例11のインクセットは、比較例4のインクセットに対して、色再現性が向上していることが示された。これには、特にマゼンタからバイオレットまでの領域における、ガマット体積の拡大が寄与している。
<ノズルプレートの作製>
撥液膜を表面に形成したノズルプレートとして、共析メッキを施したノズルプレートと、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜を形成したノズルプレートとの2種類を、それぞれ複数個準備した。
共析メッキが施されたノズルプレートとしては、SUS316製のノズルプレートを、メッキ液(硫酸ニッケル:240g/L、塩化ニッケル:45g/L、ホウ酸:35g/L、PTFE:50g/L)に浸漬し、pH=4.0〜4.5、メッキ温度60℃、陰極電流密度を3A/dm2の条件で、緩やかに撹拌しながら共析メッキしたものを用いた。
プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレートとしては、SUS316製のノズルプレートに、ジメチルポリシロキサン:SH200(東レ・ダウコーニング・シリコーン社)をプラズマ重合することによりプラズマ重合膜を形成し、さらにヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシラン:オプツールDSX(商標、ダイキン工業社)の単分子膜を形成したものを用いた。より具体的には、以下のように行った。
プラズマ重合チャンバーに成膜(形成)前のノズルプレートを導入し、40℃に保持し、チャンバーにアルゴンガスを供給して、7Paに保持した。100Wの高周波電力を印加して、アルゴンプラズマを生成させ、ジメチルポリシロキサンをチャンバーに導入して重合反応を生じさせ、ノズルプレート表面にプラズマ重合膜を形成した。次いで、プラズマ重合膜を窒素雰囲気中で200℃でアニール処理した後、プラズマ重合膜の表面をアルゴンプラズマに1分間曝した。次に、プラズマ重合膜を大気に曝し、プラズマ重合膜の表面を終端するため、酸素原子に水素原子を結合させてOH基化させた。あらかじめ、ヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシランを溶媒:HFF−7200(製品名、住友スリーエム社)と混合して、例えば0.1質量%の濃度の溶液を作製し、プラズマ重合膜が形成されたノズルプレートを、300℃に加熱して当該溶液に浸漬し、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレートとした。
<撥液性>
実施例1、5、8および比較例1のインク組成物を、個別にテフロン(登録商標)製の容器に20g秤量し、共析メッキを施したノズルプレートと、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜を形成したノズルプレートを個々に浸漬させ、蓋をして密閉した。この状態で、容器ごと60℃で1、3、7、14日間放置し、ノズルプレート表面の撥液膜の状態を目視にて観察した。また、インク組成物をはじく時間(撥液時間)を、初期および放置後で比較した。これらの結果を、以下の評価基準に従って、各インク組成物に対する耐腐食性の指標として評価し、表3に示した。なお、撥液性が悪くなると、インク組成物をはじきにくくなるため、撥液時間は増大することになる。
A:初期状態(放置前)と同等で外観に変化がなく、撥液時間の増大なし。
B:撥液膜に外観上の変化はないが、撥液時間が増大した。
C:撥液膜に外観上の変化が有り、撥液時間が増大した。
D:撥液膜が剥離してSUSプレートが露出しており、撥液作用が見られない。
Figure 2018002753
<評価結果>
表3に示したように、共析メッキを施したノズルプレートでは、実施例8のインク組成物に浸漬した場合に、3日で外観上の変化が見られた。実施例1および実施例5のインク組成物では、それぞれ7日および14日で外観上の変化が認められた。したがって、ノズルプレートに共析メッキを施した場合には、インク組成物の種類によって、撥液膜の外観が変化する日数が異なり、使用可能な期間も異なることが予想される。また、表1のインク組成物のpH安定性の結果と比較すると、ノズルプレートに共析メッキを施した場合には、インク組成物のpHが下がるほど、撥液膜の外観が変化するまでの日数が短くなる傾向がある。これにより、共析メッキの劣化は、インク組成物のpHに対して、一次関数的な相関を有することが分かった。
プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレートは、実施例1、5、8のいずれのインク組成物に対しても、14日間の放置において、外観上変化が認められなかった。これにより、比較例1と比べて、良好な耐腐食性を有することが分かった。また、プラズマ重合膜およびフッ素樹脂膜が形成されたノズルプレートは、本実施形態のインク組成物に対して好適であることが示された。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨、あるいは思想に反しない範囲で適宜変更が可能であり、そのような変更を伴うインク組成物およびインクセットもまた、本発明の技術的範囲に含まれるものである。
1…プリンター、3…ヘッド、51…ノズルプレート、51a…ノズル面。

Claims (7)

  1. 下記式(Dye1)で表される第1染料と、
    Figure 2018002753
    ・・・(Dye1)
    (ただし、式(Dye1)において、R1は、CH3、または、C25であり、
    2、R3は、それぞれ独立に、H、SO3X、またはCOOXのいずれかであり、
    4は、HまたはOHであり、
    Xは、H、Li、Na、または、NH4 +のいずれかである。)
    下記式(Dye2)で表される第2染料と、
    Figure 2018002753
    ・・・(Dye2)
    (ただし、式(Dye2)において、R1はSO3X、または、下記式(A)で表されるモノクロロトリアジン基であり、
    Figure 2018002753
    ・・・(A)
    2、R3、R4は、それぞれ独立に、H、Cl、SO3X、または、下記式(B)で表されるモノクロロピリミジン基のいずれかであり、
    Figure 2018002753
    ・・・(B)
    Xは、H、Li、Na、K、または、NH4 +のいずれかであり、
    アスタリスクは、結合してもよい位置を示す。)
    を含む、インクジェット捺染用のインク組成物。
  2. pHが6.0以上、8.5以下である、請求項1に記載のインク組成物。
  3. pH調整剤を含む、請求項1または請求項2に記載のインク組成物。
  4. 沸点が260℃を超える多価アルコールの含有量が、インク組成物全質量に対して5質量%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のインク組成物。
  5. 前記第1染料が、C.I.リアクティブレッド31、およびC.I.リアクティブレッド218の中から少なくとも1種選ばれ、前記第2染料が、C.I.リアクティブバイオレット1、およびC.I.リアクティブバイオレット33の中から少なくとも1種選ばれる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のインク組成物。
  6. マゼンタインク組成物として、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインク組成物と、
    C.I.リアクティブイエロー95、またはC.I.リアクティブイエロー2を含むイエローインク組成物、C.I.リアクティブブルー72、またはC.I.リアクティブブルー15:1を含むシアンインク組成物、C.I.リアクティブブラック39を含むブラックインク組成物、の中から選ばれる少なくとも1種のインク組成物と、を含むインクセット。
  7. 請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインク組成物または、請求項6に記載のインクセットに含まれる前記イエローインク組成物、前記シアンインク組成物、前記ブラックインク組成物、の中から選ばれる少なくとも1種のインク組成物を、ノズルプレート表面の少なくとも一部にフッ素を含有し、かつ、前記ノズルプレートの表面から1μm未満の領域にシロキサン結合を有するインクジェット記録ヘッドから吐出させることを含む、捺染方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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