用語“拡張機能障害(diastolic dysfunction)”は当技術分野で周知である。好ましくは、この用語は心室充満障害のため心臓のポンプ機能が低下していることを表わす。よって、この用語は、好ましくは、拡張期における一方または両方の心室の性能低下を表わす。一般的手段で拡張機能障害を診断する方法は当技術分野で周知である(参照:実施例のセクション、またはたとえばShuai et al., Eur J Heart Fail, 2011; 13: 737-745;もしくはSchaefer and Dieterle, Therapeutische Umschau 2011; 68 (2): 81 - 87, もしくはPaulus et al., Eur Heart J (2007) 28 (20): 2539-2550;これらのすべてをそれらの開示内容全体に関して本明細書に援用する)。
拡張期充満パターンによれば、拡張機能障害は下記のようにグレーディングできる(Nishimura et al. Journal of the American College of Cardiology, 1997;30:8-18も参照):
・グレード1=正常な充満圧を伴なう弛緩障害パターン
・ 1a=充満圧増大を伴なう弛緩障害パターン
・グレード2=偽正常パターン
・グレード3=可逆性拘束性パターン
・グレード4=不可逆性拘束性パターン
本明細書中で用いる用語“拡張機能障害”には拡張機能障害グレード1、1a、2、3および4が含まれ、特にこの用語には拡張機能障害グレード3および/または4が含まれる(特にNishimuraに定義されるもの;それをその開示内容全体に関して本明細書に援用する)。好ましくは、そのパターンは不可逆性である。
句“拡張機能障害に関連する構造異常または機能異常”は当業者に周知である。その異常は拡張機能障害に関連する心臓の異常であることを理解すべきである。好ましくは、異常は実施例のセクション(参照:特に、実施例1、実施例2、または実施例1の表2)におけるIGFBP7レベルの増大(または、ある場合には低減)を伴なう患者におけるパラメーターの増大(または、ある場合にはパラメーターの低減)である。より好ましくは、拡張機能障害に関連する心臓の少なくとも1つの構造異常または機能異常は、実施例のセクションの表2(参照:第1縦列)、特にその表のパートC(“拡張機能およ充満圧推定値”)、または表4に挙げた、パラメーターの増大(または、ある場合には低減)である。よりいっそう好ましくは、異常はそれについての表2のp−値が0.01未満、特に0.005未満である、パラメーターの増大(または低減)である。最も好ましくは、拡張機能障害に関連する構造異常または機能異常は下記のものからなる群から選択される少なくとも1つの異常である:左房サイズの増大(好ましくは、左房上下径の増大)、左房容積指数の増大、Eピーク速度(すなわち、経僧帽弁ドップラーE波速度)の増大、Aピーク速度の低減(すなわち、より低い経僧帽弁ドップラーA波速度)、経僧帽弁(transmitral)E/A比の増大、僧帽弁流入E速度−対−組織ドップラーE’速度比の増大(すなわち、E/E’比の増大)、E’/A’比の増大、肺静脈収縮期ピーク速度の低減、肺静脈拡張期ピーク速度の増大、肺静脈収縮/拡張比の低減、右室面積の増大、右室収縮期圧(RVSP)の増大、右室拡張の増大、右房サイズの増大(好ましくは、右房上下径の増大)、軽度を超える僧帽弁逆流、および軽度を超える三尖弁逆流。パラメーターの説明およびその決定については、実施例のセクション(心エコー検査プロトコル)も参照されたい。さらなる好ましい異常はMcMurray et al. (European Heart Journal (2012) 33, 1787-1847)、またはSpencer et al. (J Am Soc Echocardiogr 2013;26:567-81.)に開示されており、それらを両方ともそれらの開示内容全体に関して本明細書に援用する)。
パラメーター“左房サイズ”および“左房容積指数”は、それぞれ左房(LA)のサイズおよび容積に関するパラメーターである。
好ましくは、LAサイズが約58mmより大きければ、特に約60または約62mmより大きければ、左房サイズ、特に左房径が増大している。実施例2においては、左房サイズをLA径と呼ぶ。
好ましくは、、左房容積指数(LAVi)は、LAViが約28ml/m2より大きければ、特に約32ml/m2より大きければ、または約36ml/ml2より大きければ増大している。実施例2においては、LAViをLA平方(LA square)とも呼ぶ。
パラメーター“Eピーク速度”、“Aピーク速度”、“経僧帽弁E/A比”、“E/E’比”、“E’/A’比”、“肺静脈収縮期ピーク速度”、“肺静脈拡張期ピーク速度”、“肺静脈収縮/拡張比”は、拡張機能についてのパラメーターであり、充満圧の推定値である。E’/A’比は、好ましくは拡張初期/後期充満速度比である。
好ましくは、Eピーク速度は、それが約79ミリ秒より大きければ、特に約98または約120ミリ秒より大きければ、増大している。
好ましくは、Aピーク速度は、それが約54ミリ秒より小さければ、特に約44または約36ミリ秒より小さければ、低減している。
好ましくは、経僧帽弁E/A比は、それが約1.8より大きければ、特に約2.25または約3.2より大きければ、増大している。実施例2においては、経僧帽弁E/A比をE/Aと呼ぶ。
好ましくは、E/E’比は、それが約10.8より大きければ、特に約15または約20.2より大きければ、増大している。
好ましくは、E’/A’比は、それが約1.3より大きければ、特に約1.45または約2.54より大きければ、増大している。
好ましくは、肺静脈収縮期ピーク速度は、それが約36ミリ秒より小さければ、特に約32または約26ミリ秒より小さければ、低減している。
好ましくは、肺静脈拡張期ピーク速度は、それが約54ミリ秒より大きければ、特に約60または約76ミリ秒より大きければ、増大している。
好ましくは、肺静脈収縮/拡張比は、それが約1より小さければ、特に約0.49または約0.38より小さければ、低減している。
好ましくは、RVSPは、それが約43mmHgより大きければ、特に約53または約60mmHgより大きければ、増大している。
パラメーター“右房サイズ”は右房パラメーターである。このパラメーターは、それが約48mmより大きければ、特に約54または約60mmより大きければ、増大している。
異常/パラメーターは当技術分野で周知であり、当業者がさらなる労苦なしに査定できる。異常/パラメーターは、たとえば実施例のセクションの記載に従って決定できる。前記に述べた“拡張機能障害”および異常/パラメーターは、Wan et al. JACC Vol. 63, No. 5, 2014: 407-16により概説されており、それをその開示内容全体も本明細書に援用する。さらに、本明細書に述べた拡張機能障害および異常はMcMurray et al. および Spencer et al. (前記の引用文献を参照)により記載されている。
本明細書中で用いる用語“少なくとも1つ”は、1または1より多い、たとえば2、3、4などを意味する。よって、1または1より多い異常を診断/グレーディングすることを想定する。ある態様において、用語“少なくとも1つ”は“a”を意味する。
本明細書中で用いる用語“診断する”は、本明細書に述べる患者が拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患しているか否かを査定することを意味する。この用語は、本発明による方法が患者を拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常を伴なうとして、あるいはそれらの機能障害または異常を伴なわないとして分類することを示すために用いられる。基準レベルを超えるIGFBP7の(および場合により、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの)レベルを、拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常の診断を提供するために使用する。
本明細書中で用いる用語“拡張機能障害をグレーディングする”および/または“拡張機能障害に関連する少なくとも1つの構造異常または機能異常をグレーディングする”は、好ましくは、その機能障害および/または異常の重症度を査定することに関する。ある態様において、それは軽症型と重症型のその機能障害および/または異常に分類される。
当業者に理解されるように、前記の査定、すなわちグレーディングまたは診断は、通常は診断/グレーディングすべき患者のすべて(すなわち、100%)について正確であることを意図しない。ただし、この用語は統計的に有意部分の患者(たとえば、コホート研究におけるコホート)を同定できることを要求する。ある部分が統計的に有意であるかどうかは、多様な周知の統計評価ツール、たとえば信頼区間の決定、p−値の決定、スチューデントのt検定(Student's t-test)、マン−ホイットニー検定(Mann-Whitney test)などを用いて、当業者がさらなる労苦なしに決定できる。詳細はDowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983にみられる。好ましい信頼区間は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p−値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005または0.0001である。より好ましくは、本発明の方法によりある集団の患者のうち少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%を適正に診断/グレーディングすることができる。
本明細書に述べる疾患および/または異常あるいは軽症型または重症型のそれらの疾患および/または異常に“患者が罹患していることを指示する”という句は、そのバイオマーカーのレベルがきわめて価値があるけれども誤りなしの診断ではないことを説明するために用いられる。当業者が認識しているように、多くの疾患において、100%の特異度と同時に100%の感度をもつ生化学的マーカーはない。そのような場合、たとえば疾患/異常におけるIGFBP7の(および場合により、少なくとも1つのさらなるバイオマーカー)のレベルに関する査定は、特定の尤度で、たとえば特定レベルの特異度または特定レベルの感度で行なわれる。当業者は特異度、感度、陽性予測値、陰性予測値、基準値または全誤差を計算するために用いる数学的/統計的方法を十分に承知している。
本明細書中で用いる句“診断/査定/グレーディング/モニタリングを提供する”は、患者の試料におけるIGFBP7(および場合により、後記に述べる少なくとも1つのさらなるマーカーの)のレベルに関して得られた情報またはデータを、本明細書中で述べる患者における拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する少なくとも1つの構造異常または機能異常を診断/査定/グレーディング/モニターするために使用することを表わす。情報またはデータは書面、口頭または電子によるものなど、いずれの形態であってもよい。ある態様において、得られた情報またはデータの使用には、通信、提示、報告、記憶、送信、転送、供給、伝達、分配すること(communicating, presenting, reporting, storing, sending, transferring, supplying, transmitting, dispensing)、またはその組合わせが含まれる。ある態様において、通信、提示、報告、記憶、送信、転送、供給、伝達、分配すること、またはその組合わせは、コンピューティングデバイス、分析ユニット、またはその組合わせにより行なわれる。あるさらなる態様において、通信、提示、報告、記憶、送信、転送、供給、伝達、分配すること、またはその組合わせは、実験または医療の専門家により行なわれる。ある態様において、情報またはデータは基準レベルに対するIGFBP7の(および場合により、以下に記載する少なくとも1つのさらなるマーカーの)レベルの比較を含む。ある態様において、情報またはデータは、その患者が本明細書中に述べる疾患/異常について診断/査定/グレーディングされる指標を含む。
本明細書中で述べる“対象”または“患者”は、好ましくは、哺乳動物である。哺乳動物には家畜(たとえば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(たとえば、ヒトおよび非ヒト霊長類、たとえばサル)、ウサギ、およびげっ歯類(たとえば、マウスおよびラット)が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、患者はヒト患者である。用語“対象”、“患者”および“個体”は、本明細書中で互換性をもって使用できる。
本発明によれば、検査すべき患者は心不全に罹患しているはずである。用語“心不全”は当技術分野で周知である。本明細書中で用いるこの用語は、好ましくは、当業者に知られている心不全の症状を随伴する心臓の機能障害に関する。したがって、患者は好ましくは症候性心不全に罹患している。したがって、患者は進行性心不全に罹患しているであろう。本明細書中で用いる用語“心不全”は、特にACC/AHA分類のC期および/またはD期あるいはNYHA分類のクラスIIIおよび/またはIVを表わすものとする。これらの病期において、患者は心不全の典型的な症状を示し、すなわち患者は明らかに健康ではない。心不全を伴ない、C期またはD期に分類された患者は、その心筋に永続的な不可逆性の構造変化および/または機能変化を生じており、これらの変化の結果、完全な健康回復は不可能である。
ACC/AHA分類は、American College of Cardiologyとthe American Heart Associationが開発した心不全分類である(参照: J. Am. Coll. Cardiol. 2001;38;2101-2113, updated in 2005, 参照:J. Am. Coll. Cardiol. 2005;46;e1-e82)。4つの期A、B、CおよびDが規定される。AおよびB期はHF(心不全)ではないが、“実際に”HFを発症する前に早期に患者を同定するのに役立つと考えられる。AおよびB期の患者はHF発症のリスク因子をもつ者と定義するのが最良である。たとえば、冠動脈疾患、高血圧症または糖尿病を伴ない、まだ左室(LV)機能障害、肥大または幾何学的房室ひずみを呈していない患者はA期とみなされ、これに対し無症候性であるけれどもLV肥大(LVH,心室の壁が肥厚する現象)および/またはLV機能障害を呈している患者はB期と表示されるであろう。次いでC期は、現在または過去の潜在的な構造性心疾患に関連するHFの症状を伴なう患者(HFを伴なう患者の大部分)を表わし、D期は真に難治性のHFを伴なう患者を表わす。
前記に述べたように、検査すべき患者は、好ましくはACC/AHA分類による心不全CもしくはD期(前記の引用文献を参照)、および/またはNYHA分類による心不全NYHA クラスIIIもしくはIVに罹患しているであろう。よって、患者はより進行した形態の心不全に罹患しているであろう。同様に好ましくは、本発明に従って検査すべき患者は、約800pg/mlより大きい、より好ましくは約1000pg/mlより大きい、最も好ましくは約1200pg/mlより大きい血清または血漿NT−proBNPレベルをもつ。
本明細書中で述べる心不全は、いかなる原因の心不全であってもよい。ある態様において、心不全は左室収縮機能障害によるもの(特に、左室収縮機能障害により引き起こされるもの)である。したがって、心不全に罹患している患者は収縮機能障害、特に左室収縮機能障害にも罹患している。用語“収縮機能障害”は当技術分野で周知である。本明細書中で用いるこの用語は、好ましくは心室の収縮性低下による心臓のポンプ機能低下を表わす。
本明細書中で述べる心不全に罹患している患者は、特に、左室駆出分画(LVEF)が低減しているであろう。用語“左室駆出分画”は当技術分野で周知である。LVEFが低減している患者は、好ましくは50%未満、より好ましくは45%未満、最も好ましくは40%未満のLVEFをもつ。さらに、患者は30%未満のLVEFをもつことが想定される。
しかし、本発明のある態様において、患者は保存されたLVEF(たとえば、50%より大きい)をもつ可能性がある。患者が保存されたLVEFをもつ場合、患者は好ましくはACC/AHA分類による心不全A、BもしくはC期および/またはNYHA分類による心不全NYHA クラスI、IIもしくはIIIに罹患している。保存されたLVEFをもつ患者は、好ましくは50%より大きい、より好ましくは55%より大きい、または最も好ましくは60%より大きいLVEFをもつ。患者が保存されたLVEFをもつ場合、たとえば実施例2に述べるパラメーターを診断またはグレーディングすることが想定される。
LVEFを査定する方法は当技術分野で周知である。ある態様において、LVEFはガイドラインの記載に従って決定できる;前記の引用文献を参照されたい(McMurray, たとえば1800頁以下を参照)。
ある態様において、患者には電気除細動器(cardioverter-defibrillator)が埋め込まれている。
拡張機能障害をグレーディングする場合、または拡張機能障害に関連する少なくとも1つの構造異常または機能異常をグレーディングする場合、検査すべき患者は拡張機能障害または拡張機能障害に関連する少なくとも1つの構造異常または機能異常に罹患しているであろう。
好ましくは、本発明の方法、使用、キットおよびデバイスによる患者は左室肥大を伴なう(すなわち、それに罹患している)であろう。よって、患者は増大した左室重量をもつであろう。
用語“左室肥大”は当技術分野で周知である。左室肥大についての詳細な総説は、たとえば標準的なテキストブック中に見ることができる(参照: Swamy Curr Cardiol Rep (2010) 12:277-282)。LVHは心電図検査、心エコー検査、または心臓の磁気共鳴イメージング(MRI)により検出できる。好ましくは、LVHは心エコー検査により検出される。さらに、LVHの診断のための基準は当技術分野で周知である(Mancia et al., European Heart J. 2007, 28: 1462, Die Innere Medizin: Referenzwerk fur den Facharzt - Wolfgang Gerok - 2007, page 293., Swamy Curr Cardiol Rep (2010) 12:277-282)。
LVHの診断には、好ましくは隔壁径、左室後壁厚および拡張終期径の測定が含まれ、当技術分野で既知の公式に従って左室重量を計算する。LVHの診断および左室重量指数の決定のための特に好ましい基準は、たとえばガイドライン(Mancia et al., European Heart J. 2007, 28: 1462)に開示されている。
好ましくは、コーネル電位基準(Cornell voltage criteria)、コーネル積基準(Cornell product criteria)、ソコロー−リオン電位基準(Sokolow-Lyon voltage criteria)、ロムヒルト−エステスポイントスコアシステム(Romhilt-Estes point score system)を用いる(Mancia et al., European Heart J. 2007, 28: 1462)。
本明細書中で用いる用語“左室肥大(left ventricular hypertrophy)”(略号“LVH”)は、好ましくは心室壁の肥厚に関する。LVHは、好ましくは、心臓に対する仕事量の慢性的な増大に対する応答である。LVHは動脈性高血圧症に罹患している患者にみられ、処置を必要とする疾患である。
好ましくは、男性患者は、体表面積に対する左室重量の比が112g/m2より大きければ、あるいはより好ましくはその比が125g/m2より大きければ、LVHに罹患している。好ましくは、女性患者は、体表面積に対する左室重量の比が89g/m2より大きければ、あるいはより好ましくはその比が110g/m2より大きければ、LVHに罹患している。(参照:たとえば、Drazner MH, Dries DL, Peshock RM, Cooper RS, Klassen C, Kazi F, Willett D, Victor RG. Left ventricular hypertrophy is more prevalent in blacks than whites in the general population: the Dallas Heart Study. Hypertension. 2005;46:124 -129)。
本発明のある態様において、LVHに罹患している患者は126g/m2より大きい左室重量指数をもつ。本発明の他の態様において、患者は150g/m2より大きい左室重量指数をもつ。
ある態様において、本発明の状況における患者は腎機能障害をもたない。好ましくは、患者は腎不全に罹患しているべきではなく、特に患者は急性、慢性および/または末期の腎不全に罹患しているべきではない。さらに、患者は、好ましくは腎性高血圧症に罹患しているべきではない。患者が腎機能障害を示すかどうかを査定する方法は当技術分野で周知である。腎障害は既知の適切であると思われるいずれかの手段により診断できる。特に、腎機能は糸球体濾過速度(glomerular filtration rate)(GFR)により査定できる。たとえば、GFRはコックグロフト・ゴールト(Cockgroft-Gault)式またはMDRD式(Levey 1999, Annals of Internal Medicine, 461-470)により計算できる。GFRは、単位時間当たり腎糸球体毛細血管からボーマン嚢内へ濾過される流体の体積である。臨床的に、これは腎機能を判定するためにしばしば用いられる。GFRは最初は、イヌリンを血漿に注入することにより推定された(GFRは決して決定できず、すべての計算値はコックグロフト・ゴールト式またはMDRD式から誘導されたものであって推定値を与えるにすぎず、“真の”GFRではない)。イヌリンは糸球体濾過後に腎臓により再吸収されないので、それの排出速度は糸球体フィルターを通る水および溶質の濾過速度に正比例する。しかし、臨床実務においてはGFRを測定するためにクレアチニンクリアランスが用いられる。クレアチニンは体内で合成される内因性分子であり、それは糸球体によって容易に濾過される(ただし、ごく少量が尿細管により分泌もされる)。したがって、クレアチニンクリアランス(CrCl)はGFRの近似値である。GFRは一般にミリリットル/分(mL/分)で記録される。男性についてのGFRの正常範囲は97〜137mL/分であり、女性についてのGFRの正常範囲は88〜128ml/分である。よって、腎機能障害を示さない患者のGFRは特にこの範囲内にあるものとする。さらに、その患者は好ましくは0.9mg、/dl未満、より好ましくは1.1mg、/dl未満、最も好ましくは1.3mg、/dl未満の血中クレアチニンレベル(特に、血清クレアチニンレベル)をもつ。
用語“試料”は、体液の試料、分離細胞の試料、または組織もしくは臓器に由来する試料を表わす。体液の試料は周知の手法により得ることができ、血液、血漿、尿、リンパ液、喀痰、腹水、もしくは他のいずれかの身体分泌液、またはその派生物を含む。組織または臓器の試料は、いずれかの組織または臓器から、たとえば生検により得ることができる。分離細胞は体液または組織もしくは臓器から、遠心分離またはセルソーティングなどの分離法により得ることができる。たとえば、細胞、組織または臓器の試料は、バイオマーカーを発現または産生する細胞、組織または臓器から得ることができる。試料は凍結したもの、新鮮なもの、固定したもの(たとえば、ホルマリン固定したもの)、遠心したもの、および/または包埋したもの(たとえば、パラフィン包埋したもの)などであってもよい。細胞試料には、もちろん、試料におけるマーカーのレベルを査定する前に多様な周知の採集後調製法および貯蔵法(たとえば、核酸および/またはタンパク質の抽出、固定、貯蔵、凍結、限外濾過、濃縮、蒸発、遠心分離など)を施すことができる。同様に、生検試料に採集後調製法および貯蔵法、たとえば固定を施すこともできる。
好ましい態様において、試料は血液、血漿または血清の試料である。
バイオマーカーであるインスリン様増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7)は当技術分野で周知である。このバイオマーカーは、細胞の増殖および分化に際して重要な役割を果たすインスリン様増殖因子結合タンパク質(IGFBP)系に属する。この系は、2種類のリガンド IGF−IおよびIGF−II、2種類の受容体 1型および2型IGF受容体、ならびに1995年以後は6種類のIGF結合タンパク質(IGFBP) IGFBP−1〜−6を含む(Jones, J.I., et al., Endocr. Rev. 16 (1995) 3-34)。最近、IGFBPファミリーは、IGFBPとの有意の構造類似性をもつIGFBP−関連タンパク質(IGFBP-related protein)(IGFBP−rP)を含むように拡大された(Hwa, V., et al., Endocr. Rev 20 (1999) 761-787)。よって、IGFBPスーパーファミリーには、IGFに対して高い親和性をもつ6種類の一般的IGFBP、ならびにIGFBPの保存されたアミノ末端ドメインを共有するだけでなくIGFおよびインスリンに対してある程度の親和性をも示す少なくとも10種類のIGFBP−rPが含まれる。IGFBP−rPは、多様な細胞機能、たとえば細胞増殖、細胞の接着および移動、ならびに細胞外マトリックスの合成を制御する一群のシステインリッチタンパク質である。さらに、これらのタンパク質は、組織の増殖および分化、生殖、血管形成、創傷修復、炎症、繊維形成、ならびに腫瘍形成のような生物学的プロセスに関与している可能性がある(Hwa, V., et al., Endocr. Rev 20 (1999)761-787)。
IGF結合タンパク質7(=IGFBP7)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、および上皮細胞により分泌されることが知られている30−kDaのモジュール状糖タンパク質である(Ono, Y., et al., Biochem Biophys Res Comm 202 (1994) 1490-1496)。その文献中で、この分子はFSTL2;IBP 7;IGF結合タンパク質関連タンパク質I;IGFBP 7;IGFBP 7v;IGFBP rPl;IGFBP7;IGFBPRP1;インスリン様増殖因子結合タンパク質7;インスリン様増殖因子結合タンパク質7前駆体;MAC25;MAC25タンパク質;PGI2刺激因子;およびPSFまたはプロスタサイクリン刺激因子とも呼ばれている。ノーザンブロット試験によりこの遺伝子は、心臓、脳、胎盤、肝臓、骨格筋、および膵臓を含めたヒト組織に広く発現していることが明らかになった(Oh, Y., et al., J. Biol. Chem. 271 (1996) 30322-30325)。
IGFBP7は最初に、正常な軟髄膜細胞および哺乳動物上皮細胞にそれらの対応する腫瘍細胞と比較して差示的発現する遺伝子として同定され、髄膜腫関連cDNA(meningioma-associated cDNA)(MAC25)と命名された(Burger, A.M., et al., Oncogene 16 (1998) 2459-2467)。発現したタンパク質は、腫瘍由来接着因子(のちにアンギオモジュリンと再命名)として(Sprenger, C.C., et al., Cancer Res 59 (1999) 2370-2375)、またプロスタサイクリン刺激因子として(Akaogi, K., et al., Proc Natl Acad Sci USA 93 (1996) 8384-8389)、独立して精製された。それはさらに、T1Al2、すなわち乳癌においてダウンレギュレートされる遺伝子として報告された(StCroix, B., et al., Science 289 (2000) 1197-1202)。
好ましくは、用語“IGFBP7”は、ヒトIGFBP7を表わす。そのタンパク質の配列は当技術分野で周知であり、たとえばGenBank(NP_001240764.1)を介して入手できる。本発明に用いるIGFBP7は、好ましくは特定のIGFBP7ポリペプチドのバリアントをも包含する。
本明細書中で述べるバイオマーカー、特にポリペプチドのレベルを“測定する”という用語は、本明細書のいずれかの箇所に記載する適宜な検出方法を用いてバイオマーカーを定量して、試料におけるバイオマーカーのレベルを決定することを表わす。用語“測定する”と“決定する”は本明細書中で互換性をもって使用できる。同じことが用語“レベル”と“量”にも適用される。
ある態様において、バイオマーカーのレベルは、試料を各マーカーに特異的に結合する検出剤と接触させ、それにより検出剤とそのマーカーの間に複合体を形成させ、複合体のレベルを検出し、それによりそのマーカーのレベルを測定することにより測定される。
本明細書中に述べるバイオマーカーは、当技術分野で一般に知られている方法を用いて検出できる。検出方法には、一般に試料におけるバイオマーカーのレベルを定量するための方法(定量法)が含まれる。好ましくは、バイオマーカーはポリペプチドである。下記の方法のいずれがバイオマーカーの定性検出および/または定量検出に適切であるかは当業者に一般に知られている。市販のウェスタン法、およびイムノアッセイ、たとえばELISA、RIA、蛍光ベースのイムノアッセイを用いて、試料をたとえばタンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するためのさらなる適切な方法には、そのペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、たとえばそれの厳密な分子質量またはNMRスペクトルを測定することが含まれる。それらの方法には、たとえばバイオセンサー、イムノアッセイに連携した光学デバイス、バイオチップ、分析デバイス、たとえば質量分析計、NMR分析計、またはクロマトグラフィーデバイスが含まれる。さらに、方法にはマイクロプレートELISAベースの方法、全自動またはロボット式イムノアッセイ(たとえばElecsys(商標) 分析器で実施できる)、CBA(酵素コバルト結合アッセイ(Cobalt Binding Assay),たとえばRoche−Hitachi(商標) 分析器で実施できる)、およびラテックス凝集アッセイ(たとえばRoche−Hitachi(商標) 分析器で実施できる)が含まれる。
本明細書中で述べるバイオマーカータンパク質の検出には、そのようなアッセイフォーマットを用いる広範囲のイムノアッセイ法を利用できる;たとえば、U.S. Pat. No.4,016,043、4,424,279、および4,018,653を参照。これらには、非競合タイプの単一サイト(single-site)および2サイト(two-site)または“サンドイッチ”アッセイ、ならびに伝統的な競合結合アッセイが含まれる。これらのアッセイには、ターゲットバイオマーカーへの標識抗体の直接結合も含まれる。
サンドイッチアッセイは最も有用な慣用されるイムノアッセイのひとつである。
電気化学発光現象を測定するための方法は周知である。そのような方法は特殊な金属錯体が酸化によって励起状態になり、そこから基底状態へ減衰して電気化学発光を放出する能力を利用する。総説については、Richter, M.M., Chem. Rev. 104 (2004) 3003-3036を参照されたい。
バイオマーカーは、下記を含めた一般に知られている方法により検出することもできる:磁気共鳴分光法(NMR分光法)、ガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)、高速および超高速HPLCなどのHPLC、たとえば逆相HPLC、たとえば二重UV波長検出を備えたイオン対HPLC、レーザー誘導蛍光検出を備えたキャピラリー電気泳動、アニオン交換クロマトグラフィー、および蛍光検出、薄層クロマトグラフィー。
好ましくは、本明細書中で述べるバイオマーカーのレベルの測定は、下記の工程を含む:(a)その強度がペプチドまたはポリペプチドのレベルの指標となる細胞応答を誘発できる細胞を、そのペプチドまたはポリペプチドと、適宜な期間接触させる、(b)その細胞応答を測定する。細胞応答を測定するために、試料または処理済み試料を、好ましくは細胞培養物に添加し、内部または外部細胞応答を測定する。細胞応答には、測定可能なレポーター遺伝子発現、または物質、たとえばペプチド、ポリペプチドもしくは小分子の分泌を含めることができる。その発現または物質は、そのペプチドまたはポリペプチドのレベルに相関する強度信号を発生すべきである。
同様に好ましくは、ペプチドまたはポリペプチドのレベルの測定は、試料中のペプチドまたはポリペプチドから得られる特異的な強度信号を測定する工程を含む。前記のように、そのような信号は、質量スペクトルにおいて観察されるそのペプチドもしくはポリペプチドに特異的なm/z変量で観察される信号強度、またはそのペプチドもしくはポリペプチドに特異的なNMRスペクトルであってもよい。
ペプチドまたはポリペプチドのレベルの測定は、好ましくは下記の工程を含むことができる:(a)ペプチドを特異的な結合剤と接触させる、(b)(場合により)結合していない結合剤を除去する、(c)結合した結合剤、すなわち工程(a)で形成された、結合剤の複合体のレベルを測定する。好ましい態様によれば、それらの接触、除去および測定の工程は、本明細書に開示するシステムの分析ユニットにより実施できる。ある態様によれば、それらの工程は、そのシステムの単一分析ユニットにより、あるいは互いに作動可能な状態で連絡した1より多い分析ユニットにより実施できる。たとえば、特定の態様によれば、本明細書に開示するそのシステムは、接触と除去の工程を実施するための第1分析ユニット、および輸送ユニット(たとえば、ロボットアーム)により第1分析ユニットに作動可能な状態で連絡した、測定工程を実施する第2分析ユニットを含むことができる。
結合した結合剤、すなわち結合剤、または結合剤/ペプチド複合体は、強度信号を発生するであろう。本発明による結合には、共有結合と非共有結合の両方が含まれる。本発明による結合剤は、本明細書に記載するペプチドまたはポリペプチドに結合するいずれかの化合物、たとえばペプチド、ポリペプチド、核酸または小分子であってもよい。好ましい結合剤には、抗体、核酸、ペプチドまたはポリペプチド、たとえば前記ペプチドまたはポリペプチドに対する受容体または結合パートナー、およびそのフラグメントであって前記ペプチドに対する結合ドメインを含むもの、ならびにアプタマー、たとえば核酸アプタマーまたはペプチドアプタマーが含まれる。そのような結合剤を調製する方法は当技術分野で周知である。たとえば、適宜な抗体またはアプタマーの同定および製造は業者によっても提供される。当業者は、そのような結合剤のより高い親和性または特異性を備えた誘導体を開発する方法を熟知している。たとえば、核酸、ペプチドまたはポリペプチドにランダム変異を導入することができる。これらの誘導体を次いで当技術分野で既知のスクリーニング法、たとえばファージディスプレイ法に従って結合について試験することができる。本明細書中で述べる抗体には、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の両方、およびそのフラグメントであって抗原またはハプテンを結合できるもの、たとえばFv、FabおよびF(ab)2フラグメントが含まれる。本発明には、一本鎖抗体、および目的とする抗原特異性を示す非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列がヒトアクセプター抗体の配列と結合したヒト化ハイブリッド抗体も含まれる。ドナー配列は通常は少なくともドナーの抗原結合性アミノ酸残基を含むであろうが、ドナー抗体の他の構造関連および/または機能関連アミノ酸残基も含むことができる。そのようなハイブリッドは当技術分野で周知である幾つかの方法により製造できる。好ましくは、結合剤または作用剤は前記のペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合する。本発明による特異的結合は、リガンドまたは作用剤が、分析すべき試料中に存在する他のペプチド、ポリペプチドまたは物質に実質的に結合(と“交差反応”)すべきではないことを意味する。好ましくは、特異的に結合されるペプチドまたはポリペプチドは、他のいずれかのペプチドまたはポリペプチドより少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高い、よりさらに好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合されるべきである。非特異的結合は、たとえばウェスタンブロット上でのそれのサイズにより、または試料中におけるそれの相対的に高い存在量により、それをなお明白に識別および測定できれば許容できる。結合剤の結合は、当技術分野で既知であるいずれかの方法により測定できる。好ましくは、その方法は半定量的または定量的である。ポリペプチドまたはペプチドを決定するのに適したさらなる手法を以下に記載する。
結合剤の結合は直接的に、たとえばNMRまたは表面プラズモン共鳴により測定できる。結合剤の結合の測定は、好ましい態様によれば、本明細書に開示するシステムの分析ユニットにより実施できる。その後、測定した結合のレベルを本明細書に開示するシステムのコンピューティングデバイスにより計算することができる。結合剤が目的ペプチドまたはポリペプチドの酵素活性の基質としても作用するのであれば、酵素反応生成物を測定できる(たとえば、プロテアーゼのレベルは開裂した基質のレベルを、たとえばウェスタンブロットで測定することにより測定できる)。あるいは、結合剤が酵素特性そのものを示す可能性があり、“結合剤/ペプチドまたはポリペプチド”複合体、すなわちそれぞれペプチドまたはポリペプチドが結合した結合剤を、強度信号の発生により検出できる適宜な基質と接触させることができる。酵素反応生成物を測定するためには、好ましくは基質のレベルは飽和状態である。反応前に基質を検出可能な標識で標識することもできる。好ましくは、試料を適宜な期間、基質と接触させる。適宜な期間とは、検出可能なレベル、好ましくは測定可能なレベルの生成物が生成するのに必要な時間を表わす。生成物のレベルを測定する代わりに、特定の(たとえば、検出可能な)レベルの生成物が出現するのに必要な時間を測定することができる。第3に、結合剤の検出および測定を可能にする標識に結合剤を共有結合または非共有結合させることができる。標識化は直接法または間接法により行なうことができる。直接標識化は標識を結合剤に直接に(共有または非共有)結合させることを伴なう。間接標識化は、二次結合剤を第1結合剤に(共有または非共有)結合させることを伴なう。二次結合剤は第1結合剤に特異的に結合すべきである。その二次結合剤は、適切な標識と結合させることができ、および/または二次結合剤に結合する三次結合剤のターゲット(受容体)であってもよい。信号を増強するために二次、三次、またはさらに高次の結合剤の使用がしばしば採用される。適切な二次およびより高次の結合剤には、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン−ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)が含まれる。結合剤または基質に当技術分野で既知である1以上のタグを“タグ付け”することもできる。その際、そのようなタグはより高次の結合剤のターゲットであってもよい。適切なタグには、ビオチン、ジゴキシゲニン、His−タグ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc−タグ、インフルエンザAウィルスヘマグルチニン(HA)、マルトース結合タンパク質などが含まれる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは好ましくはN−末端および/またはC−末端にある。適切な標識は適宜な検出法により検出できるいずれかの標識である。一般的標識には、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダン(acridan)エステル、ルミノール、ルテニウム、酵素活性標識、放射性標識、磁性標識(たとえば、常磁性および超常磁性標識を含む“磁性ビーズ”)、および蛍光標識が含まれる。酵素活性標識には、たとえば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびその誘導体が含まれる。検出に適した基質には、ジ−アミノ−ベンジジン(DAB)、3,3’−5,5’−テトラメチルベンジン、NBT−BCIP(4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート,Roche Diagnosticsから既成原液として入手できる)、CDP−Star(商標)(Amersham Bio−sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が含まれる。適切な酵素−基質の組合わせは有色反応生成物、蛍光または化学発光を生じることができ、それらを当技術分野で既知の方法に従って測定できる(たとえば、感光性フィルムまたは適切なカメラシステムを使用)。酵素反応の測定について、前記に挙げた基準を同様に適用できる。一般的な蛍光標識には、蛍光性タンパク質(たとえば、GFPおよびそれの誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびアレクサ(Alexa)色素(たとえば、Alexa 568)が含まれる。さらなる蛍光標識を、たとえばMolecular Probes(オレゴン州)から入手できる。蛍光標識としての量子ドットの使用も考慮される。放射性標識は既知の適宜な方法、たとえば感光性フィルムまたはホスホイメージャー(phosphor imager)により検出できる。
ペプチドまたはポリペプチドのレベルは、同様に好ましくは、下記に従って決定できる:(a)前記に特定したペプチドまたはポリペプチドに対する結合剤を含む固体支持体を、そのペプチドまたはポリペプチドを含む試料と接触させる、そして(b)支持体に結合したペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定する。好ましくは核酸、ペプチド、ポリペプチド、抗体およびアプタマーからなる群から選択される結合剤は、好ましくは固体支持体上に固定化された形態で存在する。そのような固体支持体を作成するための材料は当技術分野で周知であり、特に市販のカラム材料、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンのチップおよび表面、ニトロセルロースのストリップ、膜、シート、デュラサイト、反応トレーのウェルおよび壁、プラスチックチューブなどを含む。結合剤または作用剤を多種多様なキャリヤーに結合させることができる。周知のキャリヤーの例には、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然および改質セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、および磁鉄鉱が含まれる。キャリヤーの性質は、本発明の目的のために可溶性または不溶性のいずれかの可能性がある。その結合剤を固定/固定化するのに適した方法は周知であり、イオン性、疎水性、共有結合性の相互作用などを含むが、これらに限定されない。本発明によるアレイとして“懸濁アレイ”を用いることも考慮される(No-lan 2002, Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。そのような懸濁アレイ中には、マイクロビーズまたはマイクロスフェアが懸濁状態で存在する。このアレイは、種々の結合剤を保有する種々のマイクロビーズまたはマイクロスフェア(おそらく標識されたもの)からなる。そのようなアレイの作成方法、たとえば固相化学および光不安定保護基に基づくものが一般に知られている(US 5,744,305)。
本発明のある態様において、本明細書中で述べるバイオマーカーのレベルは実施例のセクションに記載するアッセイ法を用いて測定される。
本発明方法の他の態様において、工程a)およびb)における測定は分析ユニットにより、特に本明細書のいずれかの箇所に定める分析ユニットにより実施できる。
用語“結合剤”または“検出剤”は、対応する各バイオマーカーを特異的に結合する結合部分を表わす。“結合剤”または“検出剤”の例は、アプタマー、抗体、抗体フラグメント、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学物質である。
用語“特異的結合”または“特異的に結合する”は、結合対分子が他の分子に有意には結合しない条件下で相互結合を示す結合反応を表わす。
用語“特異的結合”または“特異的に結合する”は、結合剤としてのタンパク質またはペプチドについて述べる場合、結合剤が対応するターゲット分子に少なくとも10−7Mの親和性で結合する結合反応を表わす。用語“特異的結合”または“特異的に結合する”は、好ましくはそれのターゲット分子に対する少なくとも10−8M、またはよりさらに好ましくは少なくとも10−9Mの親和性を表わす。用語“特異的”または“特異的に”は、ターゲット分子に対して特異的な結合剤に、試料中に存在する他の分子が有意には結合しないことを示すために用いられる。好ましくは、ターゲット分子以外の分子への結合のレベルは、ターゲット分子に対する親和性のわずか10%以下、より好ましくはわずか5%以下の結合親和性を生じるにすぎない。
用語“特異的結合”または“特異的に結合する”は、結合剤としての核酸について述べる場合、結合剤またはプローブが目的ターゲット配列に対して厳密または実質的に相補的なハイブリダイズ領域を含むハイブリダイゼーション反応を表わす。十分にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で結合剤またはプローブを用いて実施されるハイブリダイゼーションアッセイにより、特異的ターゲット配列の選択的検出が可能になる。ハイブリダイズ領域は、好ましくは約10から約35ヌクレオチドまでの長さ、より好ましくは約15から約35ヌクレオチドまでの長さである。ハイブリダイゼーション安定性に影響を及ぼす、当技術分野で周知である修飾塩基または塩基アナログの使用によって、匹敵する安定性を備えたより短いかまたはより長いプローブの使用が可能になる。結合剤またはプローブは全体としてハイブリダイズ領域からなるか、あるいはプローブの検出または固定化を可能にするけれどもハイブリダイズ領域のハイブリダイゼーション特性に有意に影響を及ぼさない追加特徴を含むことができる。
用語“特異的結合”または“特異的に結合する”は、結合剤としての核酸アプタマーについて述べる場合、核酸アプタマーが対応するターゲット分子に低nMないしpMの範囲の親和性で結合する結合反応を表わす。
“結合剤(binding agent)”、“検出剤(detection agent)”または“作用剤(agent)”の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメント、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学物質である。好ましい作用剤は、測定すべきバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。本明細書において用語“抗体”は最も広い意味で用いられ、多様な抗体分子構造体を包含し、それにはモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(たとえば、二重特異性抗体)、および目的とする抗原結合活性を示す限り抗体フラグメントが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体である。より好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。
適用できる他の結合剤は、ある観点において、試料中の少なくとも1つのマーカーに特異的に結合するアプタマーであってもよい。用語“特異的結合”または“特異的に結合する”は、結合剤としての核酸アプタマーについて述べる場合、核酸アプタマーが対応するターゲット分子に低nMないしpMの範囲の親和性で結合する結合反応を表わす。
さらにある観点において、結合剤と少なくとも1つのマーカーとの間に形成された複合体のレベルを測定する前に、形成された複合体から試料を分離する。したがって、ある観点において、結合剤を固体支持体に固定化することができる。さらにある観点において、洗浄溶液の適用により、固体支持体上に形成された複合体から試料を分離することができる。形成された複合体は、試料中に存在する少なくとも1つのマーカーのレベルに正比例するはずである。適用する結合剤の特異度および/または感度が試料中に含まれる特異的に結合できる少なくとも1つのマーカーの比例度を決めることは理解されるであろう。この決定を実施できる方法の詳細は本明細書のいずれかの箇所にもある。形成された複合体のレベルを、試料中に実際に存在するレベルを反映する少なくとも1つのマーカーのレベルに換算すべきである。そのようなレベルは、ある観点において本質的に試料中に存在するレベルであってもよく、あるいは他の観点において、形成された複合体と元の試料中に存在していたレベルとの関係によって、それのある割合のレベルであってもよい。
本明細書中で用いる用語“レベル”は、本明細書中で述べるバイオマーカーの絶対量、本明細書中で述べるバイオマーカーの相対量または濃度、およびそれに関係するかまたはそれから誘導できるいずれかの数値またはパラメーターを包含する。そのような数値またはパラメーターは、それらのペプチドから測定により得られるすべての特異的な物理的または化学的特性に由来する強度信号値、たとえば質量スペクトルまたはNMRスペクトルにおける強度値を含む。さらに、本明細書のいずれかの箇所に明記した間接測定により得られるすべての数値またはパラメーター、たとえば生物学的読出し系からペプチドに応答して測定された応答レベル、または特異的に結合したリガンドから得られる強度信号が包含される。上記のレベルまたはパラメーターと相関する数値をあらゆる標準的数学操作により得ることができることも理解すべきである。
本明細書中で用いる用語“比較する”は、個体または患者からの試料におけるバイオマーカー(単数または複数)のレベルを、本明細書のいずれかの箇所に明記したバイオマーカーの基準レベル(単数または複数)と比較することを表わす。本明細書中で用いる比較が通常は対応するパラメーターまたは数値との比較を表わすことを理解すべきである;たとえば、絶対量を絶対基準量と比較し、一方、濃度を基準濃度と比較し、あるいは試料中のバイオマーカーから得られた強度信号を基準試料から得られた同じタイプの強度信号と比較する。比較は手動で、またはコンピューター支援により実施できる。よって、比較をコンピューティングデバイス(たとえば、本明細書に開示するシステムの)により実施できる。個体または患者からの試料におけるバイオマーカーの測定レベルまたは検出レベルと基準レベルの数値を、たとえば相互に比較することができ、またその比較は比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータープログラムにより自動的に実施できる。その評価を実施するコンピュータープログラムは目的とする査定を適切な出力フォーマットで提供するであろう。コンピューター支援による比較のために、測定量の数値を、データベースに記憶された適切な基準に対応する数値とコンピュータープログラムにより比較することができる。コンピュータープログラムは比較の結果をさらに評価することができ、すなわち目的とする査定を適切な出力フォーマットで自動的に提供することができる。コンピューター支援による比較のために、測定量の数値を、データベースに記憶された適切な基準に対応する数値とコンピュータープログラムにより比較することができる。コンピュータープログラムは比較の結果をさらに評価することができ、すなわち目的とする査定を適切な出力フォーマットで自動的に提供することができる。
本明細書中で述べるバイオマーカーのレベル(単数または複数)を基準レベルと(または複数の基準レベルと)比較する。本明細書中で用いる基準レベルは、好ましくは、本明細書中で述べる機能障害または異常(すなわち、拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する構造異常もしくは機能異常)を診断またはグレーディングし、よって患者がその機能障害または異常に(またはその軽症型もしくは重症型に)罹患しているか否かを鑑別することができる。
基準量を用いて閾値レベルを規定および確立することができる。閾値レベルは、好ましくは前記の患者をグレーディング/診断することができる。その診断またはグレーディングは、本明細書に開示するシステムのコンピューティングデバイスにより、計算した“レベル”を基準または閾値と比較することに基づいて提供できる。たとえば、システムのコンピューティングデバイスは、診断またはグレーディングの指標となる言語、記号または数値の形の指標を提供できる。個々の患者に適用できる基準レベルは、多様な生理的パラメーター、たとえば年齢、性別または亜集団に応じて、また本明細書中で述べるポリペプチドまたはペプチドの決定に用いる手段に応じて、変動する可能性がある。適切な基準レベルは、被験試料と一緒に、すなわち同時またはその後に分析する基準試料から決定できる。
基準レベルは、原則として、前記に明記した機能障害もしくは少なくとも1つの異常(本明細書中で述べるもの)に罹患している患者またはその機能障害もしくは少なくとも1つの異常に罹患していない患者のコホートについて、特定のバイオマーカーについての平均値(averageまたはmean value)に基づき、標準的な統計的方法を適用することにより計算できる。特に、ある検査、たとえばある事象の有無を診断することを目標とした方法の正確度は、それの受信者動作特性(receiver-operating characteristics)(ROC)によって最も良く記述される(参照:特に、Zweig 1993, Clin. Chem. 39:561-577)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を連続的に変動させることにより生じるすべての感度/特異度対のプロットである。診断方法の臨床性能は、それの正確度、すなわちそれが患者を特定の査定、予後または診断に正確に配属する能力に依存する。ROCプロットは、識別を行なうのに適した閾値の全範囲についての感度を1−特異度に対してプロットすることにより、2つの分布間のオーバーラップを指示する。y−軸には感度または真の陽性画分があり、それは真の陽性検査結果の数と偽陰性検査結果の数の積に対する真の陽性検査の数の比として定義される。これは疾患または状態の存在下での陽性度とも呼ばれている。それは罹患サブグループのみから計算される。x−軸には偽陽性画分、または1−特異度があり、それは真の陰性結果の数と偽陽性結果の数の積に対する偽陽性結果の数の比として定義される。それは特異度の指数であり、すべて非罹患サブグループから計算される。真の陽性画分と偽陽性画分は2つの異なるサブグループの検査結果を用いてまったく別個に計算されるので、ROCプロットはそのコホートにおけるその事象の罹患率とは無関係である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する感度/特異度の対を表わす。完全識別(2つの結果の分布にオーバーラップが無い)を伴なう検査は上左隅を通るROCプロットをもち、その際、真の陽性画分は1.0、すなわち100%(完全感度)であり、偽陽性画分は0(完全特異度)である。識別されない(2グループについて結果の分布が同一)検査についての理論的プロットは、下左隅から上右隅への45°の対角線である。大部分のプロットはこれら両極端の間にある。ROCプロットが完全に45°対角線より下にあれば、これは“陽性”についての基準を“より大きい”から“未満”に逆転することによって容易に救済でき、あるいは逆も成り立つ。定性的に、プロットが上左隅に近いほどその検査の全般的正確度は高い。目的とする信頼区間に応じて、特定の事象についてそれぞれ感度と特異度の適正なバランスで診断または予測できる閾値をROC曲線から導くことができる。したがって、前記の本発明方法に使用するための基準は、好ましくは閾値またはカットオフ量であってもよく、好ましくはそのコホートについて前記に従ってROCを確立し、それから閾値量を導くことにより作成できる。診断方法について希望する感度および特異度に応じて、ROCプロットは適切な閾値を導くことができる。
基準レベルは当技術分野で周知であり、当業者がさらなる労苦なしに決定できる。ある態様において、本明細書における用語“基準レベル”は前決定された値を表わす。当業者が認識しているように、基準レベルは前決定され、たとえば特異度および/または感度に関するルーティンな要求を満たすように設定される。これらの要求は、たとえば規制機関毎に異なる可能性がある。それは、たとえばアッセイの感度または特異度それぞれを、一定の限度、たとえばそれぞれ80%、90%、95%または98%に設定しなければならないことであろう。これらの要求は正または負の予測値により規定することもできる。それでもなお、本発明において得られる教示に基づいて当業者がそれらの要求を満たす基準レベルに常に到達することは可能であろう。好ましくは、基準レベルは、本明細書中で述べる疾患もしくは異常 (すなわち、拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する構造異常もしくは機能異常)またはそれの重症型もしくは軽症型(グレーディングを行なう場合)に罹患している患者から導かれる。同様に好ましくは、基準レベルは、本明細書中で述べる疾患もしくは異常(すなわち、拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する構造異常もしくは機能異常)またはそれの重症型もしくは軽症型(グレーディングを行なう場合)に罹患していない患者から導かれる。
基準レベルは、1態様において、その患者が属する疾患実体からの基準試料において前決定されている。特定の態様において、基準レベルは、調べた疾患実体における数値の全分布の25%〜75%のいずれかのパーセントに設定できる。他の態様において、基準レベルは、たとえば調べた疾患実体からの基準試料における数値の全分布から決定した中央値、三分位数または四分位数に設定できる。1態様において、基準レベルは、たとえば調べた疾患実体における数値の全分布から決定した中央値数に設定される。基準レベルは、多様な生理的パラメーター、たとえば年齢、性別または亜集団に応じて、および本明細書中で述べるIGFBP7の決定に用いる手段に応じて変動する可能性がある。1態様において、基準試料は、本発明の方法を施される個体または患者からの試料と本質的に同じタイプの細胞、組織、臓器または体液源からのものである;たとえば、本発明に従って個体におけるIGFBP7のレベルを測定するための試料として血液を使用するならば、基準レベルも血液またはその一部において測定される。
本明細書中で述べる診断に関して適用する基準レベルがグレーディングのために適用する基準レベルと異なる可能性があることを理解すべきである。たとえば、診断のための基準レベルはグレーディングのためのものより低い可能性がある。しかし、これは当業者が考慮に入れるであろう。よって、本明細書中で述べる拡張機能障害または少なくとも1つの異常を診断するためにはその拡張機能障害またはその少なくとも1つの異常を診断できる基準レベルを適用し、これに対し、拡張機能障害または少なくとも1つの異常をグレーディングするためにはその拡張機能障害またはその少なくとも1つの異常をグレーディングできる基準レベルを適用する。
IGFBP7について本発明に従って適用するのに好ましい基準レベルは、約100〜140ng/ml、特に約110〜約130ng/ml、または約115〜約120ng/mlの範囲内である。IGFBP7の決定のために適用するアッセイに応じて、基準レベルは異なる可能性がある。これは当業者が考慮に入れるであろう。
好ましくは、本明細書中で用いる用語“約”は、特定量に対して±20%の範囲、より好ましくは±10%の範囲、よりさらに好ましくは±5%の範囲、最も好ましくは±2%の範囲であり、たとえば“約100”の量の指示は80から120までの範囲の量を包含するものとする。用語“約”はその量そのものも表わす。好ましくは、レベルは実施例の記載に従って測定される。
診断を行なう場合は下記を診断アルゴリズムとして適用する。好ましくは、
a)基準レベルを超えるIGFBP7のレベルは、その患者が拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患していることを指示し、および/または
b)基準レベル未満のIGFBP7のレベルは、その患者が拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患していないことを指示する。
グレーディングを行なう場合は下記を診断アルゴリズムとして適用する。好ましくは、
a)基準レベルを超えるIGFBP7のレベルは、その患者が重症型の拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する重症型のその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患していることを指示し、および/または
b)基準レベル未満のIGFBP7のレベルは、その患者が軽症型の拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する軽症型のその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患していることを指示する。
特定の態様において、用語“基準レベルを超える”は、本明細書に記載する方法により測定して、個体または患者からの試料において基準レベルを超えるバイオマーカーのレベル、あるいは基準レベルと比較して全般的に5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、100%またはそれ以上の増大を表わす。特定の態様において、増大という用語は個体または患者からの試料におけるバイオマーカーレベルの増大を表わし、その際、増大は、たとえば基準試料から前決定した基準レベルと比較して少なくとも約1.5−、1.75−、2−、3−、4−、5−、6−、7−、8−、9−、10−、15−、20−、25−、30−、40−、50−、60−、70−、75−、80−、90−、または100−倍高い。
特定の態様において、本明細書において用語“低減する”または“未満”は、本明細書に記載する方法により測定して、個体または患者からの試料において基準レベル未満のバイオマーカーのレベル、あるいは基準レベルと比較して全般的に5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の低減を表わす。特定の態様において、低減という用語は個体または患者からの試料におけるバイオマーカーレベルの低減を表わし、その際、低減レベルは、たとえば基準試料から前決定した基準レベルの、最大で約0.9−、0.8−、0.7−、0.6−、0.5−、0.4−、0.3−、0.2−、0.1−、0.05−、または0.01−倍であり、あるいはより低い。
本発明のある態様において、患者からの試料における少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定し、そして(適切な)基準レベル(その少なくとも1つのさらなるバイオマーカーについての)と比較する。ある態様において、そのその少なくとも1つのさらなるマーカーはオステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15(増殖分化因子15)からなる群から選択される。少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの測定によって、拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常の、より信頼性のある査定が可能になる。
したがって、本発明は、心不全に罹患している患者において拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常を診断および/またはグレーディングするための方法に関するものであり、その方法は下記の工程を含む:
a)心不全に罹患している患者からの試料におけるバイオマーカーIGFBP7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)のレベル、ならびに場合により、オステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15(増殖分化因子15)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定し、そして
b)a)において測定したIGFBP7のレベルおよび少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを基準レベルと比較する。
尿酸は、対象生物におけるプリン代謝の最終生成物である。IUPAC名は7,9−ビヒドロ−3H−プリン−2,6,8−トリオンである。この化合物はしばしばウレート、リシン酸(Lithic acid)、2,6,8−トリオキシプリン、2,6,8−トリヒドロキシプリン、2,6,8−トリオキソプリン、1H−プリン−2,6,8−トリオールとも呼ばれる(化合物の式C5H4N4O3,PubChem CID 1175,CAS番号69−93−2)。
尿酸測定は、腎不全、痛風、白血病、乾癬、飢餓その他の消耗性状態を含めた多数の腎障害および代謝障害、ならびに細胞毒を投与されている患者の診断および治療に用いられる。尿酸の酸化はこのプリン代謝産物の定量測定のための2つの方法の基礎を提供する。1法は、アルカリ性溶液中でのホスホタングステン酸からタングステンブルーへの還元であり、それを測光法により測定する。PraetoriusおよびPoulsonが記載した第2法は尿酸を酸化するために酵素ウリカーゼを利用する;この方法により化学的酸化に固有の干渉が排除される(Praetorius E, Poulsen H. Enzymatic Determination of Uric Acid with Detailed Directions. Scandinav J Clin Lab Investigation 1953;3:273-280)。ウリカーゼは尿酸消費のUV測定を伴なう方法に、あるいは他の酵素との組合わせで比色アッセイを提供するために使用できる。他の方法は、Townらが開発した比色法である(Town MH, Gehm S, Hammer B, Ziegenhorn J. J Clin Chem Clin Biochem 1985;23:591)。試料をまず、アスコルビン酸オキシダーゼおよび清澄系(clearing system)を含有する試薬混合物と共にインキュベートする。この試験系においては、試料中に存在するアスコルビン酸をいずれも予備反応で除去することが重要である;これにより後続のPOD指示薬反応のアスコルビン酸干渉がいずれも排除される。開始試薬を添加すると、ウリカーゼによる尿酸の酸化が開始する。マーカー尿酸を測定するのであれば、このマーカーを測定できる検出剤は前記に述べた酵素であってもよい。この場合、試料をその酵素と接触させる。
本発明の状況において、尿酸は適切と思われるいずれかの方法により決定できる。好ましくは、このバイオマーカーは前記の方法により決定される。より好ましくは、尿酸は前記の比色法をわずかに改変したものを適用することにより決定される。この反応において、ペルオキシドはペルオキシダーゼ(POD)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOOS)、および4−アミノフェナゾンの存在下で反応して、キノン−ジイミン色素を形成する。形成された赤色の強度は尿酸濃度に比例し、測光法により決定される。
用語“心筋トロポニン”は、前記の特定のトロポニンの、すなわち好ましくはトロポニンIの、より好ましくはトロポニンTのバリアントをも包含する。そのようなバリアントは、少なくともその特定の心筋トロポニンと同じ本質的な生物学的および免疫学的特性をもつ。特に、それらを本明細書中に述べるものと同じ特異的アッセイにより、たとえばその心筋トロポニンを特異的に認識するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いるELISAアッセイにより決定できれば、それらは同じ本質的な生物学的および免疫学的特性を共有する。さらに、本発明に従って述べるバリアントは少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失および/または付加のため異なるアミノ酸配列をもつはずであることを理解すべきである;その際、バリアントのアミノ酸配列はなお、特定のトロポニンのアミノ酸配列と、好ましくは少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%,、または少なくとも約99%、同一である。バリアントは対立遺伝子バリアントまたは他のいずれかの種特異的なホモログ(homolog)、パラログ(paralog)またはオルソログ(ortholog)であってもよい。さらに、本明細書中に述べるバリアントには、特定の心筋トロポニンまたは前記タイプのバリアントのフラグメントが含まれる;ただし、これらのバリアントが前記に述べた本質的な免疫学的および生物学的特性をもつ限りにおいてである。好ましくは、心筋トロポニンバリアントはヒトのトロポニンTまたはトロポニンIに匹敵する免疫学的特性(すなわち、エピトープ組成)をもつ。よって、バリアントは心筋トロポニンの濃度を決定するために用いられる前記の手段またはリガンドにより認識されるはずである。よって、バリアントは心筋トロポニンの濃度を決定するために用いられる前記の手段またはリガンドにより認識されるはずである。そのようなフラグメントは、たとえばトロポニンの分解生成物であってもよい。さらに、翻訳後修飾、たとえばリン酸化またはミリスチル化のため異なるバリアントが含まれる。好ましくは、トロポニンIおよびそれのバリアントの生物学的特性は、アクトミオシンATPaseを阻害すること、または in vivo および in vitro で血管形成を阻害することであり、それはたとえばMoses et al. 1999 PNAS USA 96 (6): 2645-2650)により記載されたアッセイに基づいて検出できる。好ましくは、トロポニンTおよびそれのバリアントの生物学的特性は、トロポニンCおよびIと複合体を形成する能力、カルシウムイオンを結合する能力またはトロポミオシンに結合する能力(好ましくは、トロポニンC、IおよびTの複合体、またはトロポニンC、トロポニンI、およびトロポニンTバリアントにより形成される複合体として存在する場合)である。低濃度の循環型心筋トロポニンが多様な状態の患者において検出される可能性があることは知られているが、それらそれぞれの役割および割合を理解するためにはさらなる研究が必要である(Masson et al., Curr Heart Fail Rep (2010) 7:15-21)。
マーカーであるエンドスタチンは当技術分野で周知である。エンドスタチンは最初にネズミ血管内皮腫からXVIII型コラーゲンの20kDAタンパク質分解フラグメントとして単離された(O'Reilly, M.S. et al., Cell 88 (1997) 277-285)。コラーゲンは、組織構造統合性の維持において主要な役割を果たす超分子(supra-molecular)凝集物を形成する特徴的な三重らせんコンホメーションをもつ細胞外マトリックスタンパク質のファミリーとして存在する。過度のコラーゲン沈着は、周囲組織の正常な機能を妨げる線維形成をもたらす。コラーゲンXVIIIは、中心の三重らせんドメインに多重の介在配列をもちかつ主に基底膜内のC−末端に固有の非三重らせんドメインをもつマルチプレキシン(Multiplexin)ファミリーのコラーゲンのメンバーである。コラーゲンXVIIIの短いイソ型のヒト型アルファ1鎖の配列(SwissProt:P39060)が、たとえばWO2010/124821に開示されており、それをそれの開示内容全体に関して本明細書に援用する。
エンドスタチンはコラーゲンXVIIIのアルファ1鎖から種々のタンパク質分解酵素の作用により放出される(詳細については、Ortega, N. and Werb, Z., Journal of Cell Science 115 (2002) 4201-4214を参照−この報文の開示内容全体を本明細書に援用する)。本明細書中で用いるエンドスタチンは、WO2010/124821に開示されるように、コラーゲンXVIIIのアミノ酸位置1337からアミノ酸位置1519までの範囲のコラーゲンXVIIIフラグメントにより表わされる。コラーゲンXVIIIのアルファ鎖のC−末端にあるヒンジ領域は幾つかのプロテアーゼ感受性部位を含み、好中球エラスターゼ、カテプシン類およびマトリックスメタロプロテイナーゼを含めた多数の酵素がこの領域でコラーゲンを開裂することによりエンドスタチンを生成することが知られている。これらのプロテアーゼはエンドスタチンのみを放出するのではなく、エンドスタチン配列を含む他のより大きいフラグメントを放出する可能性もある。当業者に明らかなように、そのようなより大きいフラグメントもエンドスタチンについてのイムノアッセイにより測定されるであろう。
エンドスタチンは血管形成および血管増殖の有効な阻害物質である。エンドスタチンとサイトカインネットワークの関係は未決定であるが、エンドスタチンは広範な遺伝子の発現を変化させる可能性があることが知られている(Abdollahi, A. et al., MoI. Cell 13 (2004) 649-663)。
本明細書中で用いるエンドスタチンは、好ましくは特定のエンドスタチンポリペプチドのバリアントをも包含する。用語“バリアント”については前記を参照されたい。
ミーメカン(mimecan)は、ロイシンリッチリピート、および298アミノ酸を含む前駆体をもつスモールプロテオグリカン(small proteoglycan)である。ミーメカンの別名はOGN、オステオグリシン、OG、OIF、SLRR3Aである。
ミーメカンは、構造関連コアタンパク質をもつ分泌型のスモールロイシンリッチプロテオグリカン(small leucine rich proteoglycan)(SLRP)ファミリーのメンバーである。すべてのSLRPに共通の一般的特色は、コアタンパク質のC末端側半分にあるタンデムロイシンリッチリピート(tandem leucine-rich repeat)(LRR)単位である。しかし、N末端領域において、各クラスのSLRPは保存されたスペーシングを備えたLRR N−ドメインと呼ばれるシステインクラスターを含む固有のドメインをもつ。クラスIII SLRPは6つのカルボキシルLRRを含み、それにはミーメカン、エピフィカン(epiphycan)およびオプチシン(opticin)が含まれる。
ノックアウトマウスからのクラスIおよびIIメンバー、たとえばデコリン(decorin)、ビグリカン(biglycan)、ルーメカン(lumecan)およびフィブロモジュリン(fibromodulin)についての機能研究は、SLRP欠損マウスが異常なコラーゲン線維形成に起因する広範な欠陥を提示することを示し、それはこれらのSLRPがコラーゲンマトリックスの樹立および維持において重要な役割を果たすことを示唆する(Ameye, L. and Young, M.F., Glycobiology 12 (2002) 107R-116R)。クラスIIIミーメカンの欠損はコラーゲンフィブリル異常も引き起こした(Tasheva, E.S. et al., MoI. Vis. 8 (2002) 407-415)。
ミーメカンは細胞外マトリックスの多機能成分である。それは多様な他のタンパク質(IGF2、IKBKG、IFNBl、INSR、CHUK、IKBKB、NFKBIA、ILl 5、Cd3、レチノイン酸、APP、TNF、リポ多糖類、c−abl癌遺伝子1、受容体型チロシンキナーゼ、v−src肉腫ウイルス癌遺伝子)に結合する。これらの多様な結合活性はミーメカンが多くの組織において多様な機能を発揮する能力を説明できる。
ミーメカンは角膜、骨、皮膚およびさらなる組織中に見出されている。それの発現パターンは種々の病的状態において変化する。ミーメカンの生物学的役割についてのデータの量が増加しているにもかかわらず、それの機能は依然として明らかでない。ミーメカンは、発達、組織修復および転移に際して必須のプロセスであるコラーゲンフィブリル形成の調節に関与することが示された(Tasheva et al., MoI. Vis. 8 (2002) 407-415)。それはTGF−ベータ−1またはTGF−ベータ−2との組合わせで骨形成において役割を果たす。
ヒトのミーメカンポリペプチドの配列は当技術分野で周知であり、たとえばGenBank寄託番号NP_054776.1 GI:7661704によりアクセスできる。さらに、その配列はWO2011/012268に開示されている。本明細書中で用いるミーメカンは、好ましくは特定のミーメカンポリペプチドのバリアントをも包含する。用語“バリアント”の説明については前記を参照されたい。本発明に関して、ミーメカンは好ましくはWO2011/012268の記載に従って決定される。
オステオポンチン(Osteopontin)(本明細書中で“OPN”とも表わす)は骨シアロプロテインI(bone sialoprotein I)(BSP−1またはBNSP)、初期Tリンパ球活性化−1(early T-lymphocyte activation)(ETA−1)、分泌型ホスホプロテイン1(secreted phosphoprotein 1)(SPP1)、2arおよびリケッチア抵抗性(Rickettsia resistance)(Ric)としても知られ、広域二次構造を欠如した高度に負に荷電した細胞外マトリックスタンパク質であるポリペプチドである。それは約300個のアミノ酸(マウスにおいては297個;ヒトにおいては314個)からなり、33−kDaの発生期(nascent)タンパク質として発現する;機能的に重要な開裂部位もある。OPNは翻訳後修飾を受ける可能性があり、それによりそれの見掛け分子量が約44kDaに増大する。オステオポンチンの配列は当技術分野で周知である(ヒトオステオポンチン:UniProt P10451,GenBank NP_000573.1)。オステオポンチンは正常な血漿、尿、乳汁および胆汁中にみられる(US 6,414,219; US 5,695,761; Denhardt, D.T. and Guo, X., FASEB J. 7 (1993) 1475-1482; Oldberg, A., et al., PNAS 83 (1986) 8819-8823; Oldberg, A., et al., J. Biol. Chem. 263 (1988) 19433-19436; Giachelli, CM., et al., Trends Cardiovasc. Med. 5 (1995) 88-95)。ヒトOPNのタンパク質およびcDNAが単離および配列決定された(Kiefer M. C, et al., Nucl. Acids Res. 17 (1989) 3306)。OPNは細胞接着、走化性、マクロファージ指向インターロイキン−10において機能する。OPNは多数のインテグリン受容体と相互作用することが知られている。OPN発現増大が多数のヒト癌において報告され、それの同族受容体(cognate receptor)(av−b3、av−b5、およびav−blインテグリン、ならびにCD44)が同定された。Irby, R.B., et al., Clin. Exp. Metastasis 21 (2004) 515-523による in vitro 研究は、内因性OPN発現(安定トランスフェクションによるもの)と外因性OPN(培地に添加したもの)の両方が in vitro でヒト大腸癌細胞の運動性および浸潤能を高めたと指摘している。
用語“増殖分化因子−15(Growth-Differentiation Factor-15)”または“GDF−15”は、トランスフォーミング増殖因子(transforming growth factor)(TGF)サイトカインスーパーファミリーのメンバーであるポリペプチドに関する。用語ポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質は、本明細書全体において互換性をもって用いられる。GDF−15は最初はマクロファージ阻害性サイトカイン1としてクローニングされ、のちに胎盤性トランスフォーミング増殖因子−15、胎盤性骨形態形成タンパク質、非ステロイド系抗炎症薬活性化遺伝子1、および前立腺由来因子としても同定された(Bootcov 前掲; Hromas, 1997 Biochim Biophys Acta 1354:40-44; Lawton 1997, Gene 203:17-26; Yokoyama-Kobayashi 1997, J Biochem (Tokyo), 122:622-626; Paralkar 1998, J Biol Chem 273:13760-13767)。他のTGF関連サイトカインと同様に、GDF−15は不活性な前駆タンパク質として合成され、それがジスルフィド結合ホモ二量体化を行なう。N末端プロ−ペプチドがタンパク質分解開裂すると、GDF−15は約28kDの二量体タンパク質として分泌される(Bauskin 2000, Embo J 19:2212-2220)。GDF−15のアミノ酸配列は、WO99/06445、WO00/70051、WO2005/113585、Bottner 1999, Gene 237: 105-111, Bootcov 前掲, Tan 前掲, Baek 2001, Mol Pharmacol 59: 901-908, Hromas 前掲, Paralkar 前掲, Morrish 1996, Placenta 17:431-441 または Yokoyama-Kobayashi 前掲に開示されている。本明細書中で用いるGDF−15は先に述べた特定のGDF−15ポリペプチドのバリアントをも包含する。
本明細書中で用いる用語“BNPタイプのポリペプチド”は、pre−proBNP、proBNP、NT−proBNP、およびBNPを含む。pre−proペプチド(pre−proBNPの場合は134アミノ酸)は短いシグナルペプチドを含み、それが酵素により開裂除去されてproペプチド(proBNPの場合は108アミノ酸)を放出する。proペプチドはさらに開裂してN末端proペプチド(NT−proペプチド,NT−proBNPの場合は76アミノ酸)および活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸)になる。好ましくは、本発明によるBNPタイプのポリペプチドは、NT−proBNP、BNP、およびそのバリアントである。BNPは活性ホルモンであり、それぞれの不活性カウンターパートNT−proBNPより短い半減期をもつ。BNPは血液中で代謝され、これに対しNT−proBNPは無傷分子として血液中を循環し、そのまま腎排出される。NT−proBNPの in-vivo 半減期は、20分であるBNPのものより120分長い(Smith 2000, J Endocrinol. 167: 239-46.)。予備分析ではNT−proBNPはより強靭であり、試料を中央検査室へ容易に輸送できる(Mueller 2004, Clin Chem Lab Med 42: 942-4.)。回収率損失なしに血液試料を室温で数日間貯蔵でき、あるいは郵送または輸送できる。これと対照的に、BNPを室温または4℃で48時間貯蔵すると少なくとも20%の濃度損失が生じる(Mueller loc.cit.; Wu 2004, Clin Chem 50: 867-73.)。したがって、目的とするタイムコースまたはペプチドに応じて、活性形または不活性形ナトリウム利尿ペプチドのいずれかの測定が有利な可能性がある。本発明による最も好ましいナトリウム利尿ペプチドはNT−proBNPまたはそのバリアントである。前記において簡単に考察したように、本発明に従って述べるヒトNT−proBNPは、好ましくはヒトNT−proBNP分子のN末端部分に対応する長さ76アミノ酸を含むポリペプチドである。ヒトのBNPおよびNT−proBNPの構造は既に先行技術に詳細に記載されている;たとえば、WO 02/089657、WO 02/083913、またはBonow 前掲。好ましくは、本明細書中で用いるヒトNT−proBNPはEP 0 648 228 B1に開示されるヒトNT−proBNPである。これらの先行技術文献を、それらに開示される特定のNT−proBNPおよびそのバリアントの配列に関して本明細書に援用する。本発明に従って述べるNT−proBNPは、さらに前記に述べたヒトNT−proBNPについての特定の配列の対立遺伝子および他のバリアントを包含する。具体的には、ヒトNT−proBNPに対して、好ましくはヒトNT−proBNPの全長にわたって、アミノ酸レベルで好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、または99%同一であるバリアントポリペプチドが考慮される。2つのアミノ酸配列間の同一度は前記に従って決定できる。
2種類のバイオマーカーの(すなわち、IGFBP7とさらなるバイオマーカーの)好ましい組合わせを実施例2に開示する。
さらに、下記の組合わせが有用である:
IGFBP7+心筋トロポニン
IGFBP7+BNPタイプのペプチド
IGFBP−7+ミーメカンまたはオステオポンチン
IGFBP7+エンドスタチン
実施例2に示すように、前記マーカーはE/E’との特に強い相関性を示したが、他のパラメーターに対しても相関性を示した。
IGFBP−7と心筋トロポニン(たとえば、トロポニンT)および/またはGDF15および/または尿酸との組合わせを、本明細書中で述べる拡張機能障害および幾つかの異常をグレーディング/診断するために使用できる。
さらに、LAサイズ増大、LAVi増大および/または経僧帽弁E/A比増大という異常については、IGFBP7と尿酸を組み合わせるのが有利である。
さらに、LAサイズ増大および/またはEピーク速度増大という異常については、IGFBP7とGDF15を組み合わせるのが有利である。
IGFBP7とマーカーのさらなる好ましい組合わせを、特にある異常について(LVEFが低減した患者または保存されている患者について)実施例2(参照:2.1および2.2)に開示する。
診断を行なう場合、下記をアルゴリズムとして適用する。好ましくは、
a)基準レベルを超えるIGFBP7のレベル、および少なくとも1つのバイオマーカーについての基準レベル(単数または複数)を超える少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベル(単数または複数)は、その患者が拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患していることを指示し、および/または
b)基準レベル未満のIGFBP7のレベル、および少なくとも1つのバイオマーカーについての基準レベル(単数または複数)未満の少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベル(単数または複数)は、その患者が拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患していないことを指示する。
グレーディングを行なう場合、下記をアルゴリズムとして適用する。好ましくは、
a)基準レベルを超えるIGFBP7のレベル、および少なくとも1つのバイオマーカーについての基準レベル(単数または複数)を超える少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベル(単数または複数)は、その患者が重症型の拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する重症型のその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患していることを指示し、および/または
b)基準レベル未満のIGFBP7のレベル、および少なくとも1つのバイオマーカーについての基準レベル(単数または複数)未満の少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベル(単数または複数)は、その患者が軽症型の拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する軽症型のその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患していることを指示する。
さらなるバイオマーカーについての適切な基準レベルは前記に述べたもの(IGFBP7について)と同様に決定できる。
下記の表Aは、種々のマーカーに関する基準レベルについての好ましい範囲(第3欄)および好ましい特定の基準レベル(第4欄)を示す。当業者はさらなる労苦なしにさらなる基準レベルを決定できる。
本発明方法の好ましい態様において、本発明の方法に従って患者が拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常(またはその重症型)に罹患していれば、それらの方法はさらに、適切な療法を推奨、選択、継続および/または開始する工程を含む。
本明細書中で用いる句“療法を推奨する”は、患者の試料において本発明に従って述べるバイオマーカーのレベルに関して得られた情報またはデータを、適切な療法の推奨のために使用することを表わす。適切な療法は、拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常(またはその重症型)を処置できるいずれの療法であってもよい。そのような療法は、たとえば Zouein et al. J Cardiovasc Pharmacol. Volume 62, Number 1, July 2013, page 13 to 16により記載されている。ある態様において、療法は少なくとも1種類のスピロノラクトンの投与である。他の態様において、療法はシルデナフィルまたはアナキンラの投与である。
患者が拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患していると診断された(またはその重症型に罹患しているとグレーディングされた)場合、その患者は前記療法に適格である。この場合、療法を選択、開始、推奨および/または継続する。
よって、本発明は、拡張機能障害に罹患している患者を処置する方法であって、
a)心不全(前記に定義したもの)に罹患している患者からの試料におけるIGFBP7、ならびに場合により、オステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるマーカーのレベル(単数または複数)を測定し、
b)工程a)において測定したレベル(単数または複数)を適切な基準レベル(単数または複数)と比較し、そして
c)特に比較工程b)の結果に基づいて、拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常(またはその重症型)を処置できる療法に適格であるものとして患者を同定または選択する、そして
d)その療法を選択、開始、推奨および/または継続する
ことを含む方法に関する。
本明細書中で用いる句“患者を選択する”または“患者を同定する”は、患者の試料におけるIGFBP7の(および場合により、さらなるマーカーの)レベルに関して得られた情報またはデータを用いて、拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常を処置できる療法が有益となる可能性がより大きいかまたは有益となる可能性がより小さいものとして患者を同定または選択することを表わす。使用または作成した情報またはデータは、書面、口頭または電子によるものなど、いかなる形態であってもよい。ある態様において、得られた情報またはデータの使用にはそれの通信、提示、報告、記憶、送信、転送、供給、伝達、分配、またはその組合わせが含まれる。ある態様において、通信、提示、報告、記憶、送信、転送、供給、伝達、分配、またはその組合わせはコンピューティングデバイス、分析ユニット、またはその組合わせにより行なわれる。あるさらなる態様において、通信、提示、報告、記憶、送信、転送、供給、伝達、分配、またはその組合わせは検査室または医療専門家により行なわれる。ある態様において、情報またはデータは基準レベルに対するIGFBP7の(および場合により、さらなるマーカーの)レベルの比較を含む。
本明細書中で用いる句“療法を選択する”は、患者の試料におけるIGFBP7の(および場合により、さらなるマーカーの)レベルに関して得られた情報またはデータを用いて、患者のために前記に述べた療法を同定または選択することを表わす。ある態様において、句“療法を同定/選択する”は、投与する薬物の有効量を適合させる必要がある患者を同定することを含む。
前記および特許請求の範囲に挙げたすべての定義および説明は、必要な変更を加えて下記の方法、使用、キットおよびデバイスに適用される。
さらに、本発明は、i)拡張機能、および/またはii)拡張機能の少なくとも1つのパラメーター、またはiii)心不全に罹患している患者における心不全療法を、モニターするための方法、特に in vitro 方法に関するものであり、その方法は
a)心不全に罹患している患者、特に左室駆出分画(LVEF)が低減している患者からの第1および第2試料におけるバイオマーカーIGFBP7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)、ならびに場合により、オステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15(増殖分化因子15)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定し、その際、第2試料は第1試料の後に得られたものである、そして
b)第2試料において測定したバイオマーカーIGFBP7のレベルおよび場合によりその少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを第1試料におけるレベルと比較する
工程を含む。
ある態様において、本方法はさらに、特に比較工程b)の結果に基づいて、i)拡張機能、および/またはii)拡張機能の少なくとも1つのパラメーター、またはiii)心不全療法を、モニターするかまたはモニタリングを提供する工程c)を含む。
用語“心不全”は前記に定義されている。その定義を適宜適用する。
前記方法のある態様において、心不全患者は拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常に罹患しているであろう。ある態様において、その異常の基礎となるパラメーターをモニターする。さらに、前記に概説したように、患者は好ましくはLVEFが低減している。
用語“拡張機能をモニターする”または“拡張機能の少なくとも1つのパラメーターをモニターする”は、拡張機能または拡張機能の少なくとも1つのパラメーターを追跡し続けることを表わす。特にこの用語は、拡張機能またはそのパラメーターが改善しているか、あるいは劣化しているかを査定することを表わす。本明細書中で用いる用語“心不全療法をモニターする”は、心不全療法を受けている患者がその療法に応答しているか否かを査定することを表わす。その療法に応答する患者はその療法の結果としてその状態が改善する患者であり、これに対しその療法に応答しない患者はその療法の結果としてその状態が改善しない患者である。患者がその療法に応答すればその療法を継続でき、これに対し患者がその療法に応答しなければその療法を停止するかあるいは適合させるべきである。
当業者に理解されるように、そのような査定は通常はモニターすべき患者の100%について正確であることを意図しない。ただし、この用語は統計的に有意部分の患者(たとえば、コホート研究におけるコホート)について査定が正確であることを要求する。ある部分が統計的に有意であるかどうかは、多様な周知の統計評価ツール、たとえば信頼区間の決定、p−値の決定、スチューデントのt検定、マン−ホイットニー検定などを用いて、当業者がさらなる労苦なしに決定できる。詳細はDowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983にみられる。好ましい信頼区間は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p−値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005または0.0001である。
用語“拡張機能”は当技術分野で周知である。ある態様において、この用語は心臓が拡張期に充満する能力を表わす。拡張機能の好ましいパラメーターは、実施例のセクションで決定するパラメーターである(参照:たとえば実施例のセクションの実施例1および/または表2、特にセクションC、ただしセクションB、DおよびEも)。表2に示すパラメーターのうち、低いp−値をもつパラメーターが特に好ましい。
好ましくは、拡張機能のパラメーターは下記のものからなる群から選択される:左房サイズ(好ましくは、左房上下径)、左房容積指数、Eピーク速度(すなわち、経僧帽弁ドップラーE波速度)、Aピーク速度(すなわち、より低い経僧帽弁ドップラーA波速度)、経僧帽弁E/A比、僧帽弁流入E速度−対−組織ドップラーE’速度比(すなわち、E/E’比の増大)、E’/A’比、肺静脈収縮期ピーク速度、肺静脈拡張期ピーク速度、肺静脈収縮/拡張比、右室面積の増大、右室収縮期圧(RVSP)、右室拡張、および右房サイズ(好ましくは右房上下径)。同様に好ましくは、パラメーターは僧帽弁逆流または三尖弁逆流である。
モニターすべき心不全療法は、心不全を処置することができるいかなる療法であってもよい。特に、その療法は、本明細書のいずれかの箇所で処置方法に関して概説した拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連するその少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常を処置することができるいかなる療法であってもよい。モニターすべき心不全患者は、好ましくは拡張機能障害に罹患している。
あるいは、心不全療法は心不全のための療法(特に、拡張機能障害のための療法)として試験される療法であってもよい。したがって、心不全および/または拡張機能障害を処置できる化合物を同定するために、バイオマーカーIGFBP7(および場合により、本明細書に記載する少なくとも1つのさらなるバイオマーカー)を心不全患者(特に、拡張機能障害を伴なう患者)において使用できる。その化合物で処置した患者からの試料におけるIGFBP7レベル(および場合により、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベル)の低減は、その化合物が心不全および/または拡張機能障害を処置できることの指標となる。
“第1試料”は、心不全に罹患している患者からいずれかの時点で得ることができる。
心不全処置をモニターするのであれば、第1試料は心不全処置の開始前(たとえば、心不全処置を開始する1週間前)、または心不全処置の途中で得ることができる。
“第2試料”は、好ましくは第1試料における各マーカーのレベルと比較した各マーカーのレベルの変化を反映させるために得る試料であると解釈される。第2試料は第1試料の後に得られるはずである。好ましくは、第2試料を第1試料の後、約1カ月〜約12カ月以内、より好ましくは約2カ月〜約8カ月以内、最も好ましくは約3カ月〜約6カ月以内に得る。同様に好ましくは、第2試料を第1試料の少なくとも3カ月後、または少なくとも6カ月後に得る。
好ましくは、本明細書中で述べるバイオマーカーのレベルの変化をさらにモニターするために、少なくとも1つのさらなる試料(すなわち、第3試料、第4試料など)を得る。そのようなさらなる試料をその前の試料(たとえば、第2試料)の後、約1カ月〜約12カ月以内、より好ましくは約2カ月〜約8カ月以内、最も好ましくは約3カ月〜約6カ月以内に得ることができる。
第1試料と比較した患者からの第2試料(またはさらなる試料)におけるIGFBP7の(および、測定するのであれば少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの)レベルの増大は、拡張機能の劣化および/または拡張機能のその少なくとも1つのパラメーターの劣化の指標となる。
同様に好ましくは、第1試料と比較した患者からの第2試料(またはさらなる試料)におけるIGFBP7の(および、測定するのであれば少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの)レベルの増大は、心不全療法に応答しない患者の指標となる。
第1試料と比較した患者からの第2試料(またはさらなる試料)におけるIGFBP7の(および、測定するのであれば少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの)レベルの低減は、拡張機能、および/または拡張機能のその少なくとも1つのパラメーターの改善の指標となる。
同様に好ましくは、第1試料と比較した患者からの第2試料(またはさらなる試料)におけるIGFBP7の(および、測定するのであれば少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの)レベルの低減は、心不全療法に実際に応答する患者の指標となる。
特に、有意の増大(または低減)は、モニタリングのために有意である、特に統計的に有意であるとみなされる規模の増大(または低減)である。用語“有意”および“統計的に有意”は当業者に知られている。ある増大(または低減)が統計的に有意であるかどうかは、本明細書中で述べる多様な周知の統計評価ツールを用いて当業者がさらなる労苦なしに決定できる。
i)拡張機能、および/または拡張機能の少なくとも1つのパラメーターの劣化、あるいはii)心不全療法に応答しない患者の指標となることが本発明の過程で認められたIGFBP7の(および少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの)レベルの好ましい増大を以下に挙げる。
好ましくは、第1試料におけるレベルと比較して、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも5%、よりいっそう好ましくは少なくとも7%、最も好ましくは少なくとも10%、またはさらには20%の、第2試料(またはさらなる試料)におけるIGFBP7の(および、測定するのであれば少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの)レベルの増大は、有意であるとみなされ、よってi)拡張機能、および/または拡張機能の少なくとも1つのパラメーターの劣化、あるいはii)心不全療法に応答しない患者の指標となる。
絶対レベルに関しては、下記を適用できる:好ましくは、第1試料におけるレベルと比較して、好ましくは少なくとも4ng/ml、より好ましくは少なくとも7ng/ml、よりいっそう好ましくは少なくとも10ng/ml、または最も好ましくは少なくとも15ng/mlの、第2試料におけるIGFBP7のレベルの増大は、有意であるとみなされ、よってi)拡張機能、および/または拡張機能の少なくとも1つのパラメーターの劣化、あるいはii)心不全療法に応答しない患者の指標となる。
本発明の経過に際して、i)拡張機能、および/または拡張機能の少なくとも1つのパラメーターの改善、あるいはii)心不全療法に応答する患者の指標となることが認められたIGFBP7の(および少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの)レベルの好ましい低減を以下に挙げる。
好ましくは、第1試料におけるレベルと比較して、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、または最も好ましくは少なくとも20%の、第2試料(またはさらなる試料)におけるIGFBP7の(および、測定するのであれば少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの)レベルの低減は、有意であるとみなされ、よってi)拡張機能、および/または拡張機能の少なくとも1つのパラメーターの改善、あるいはii)心不全療法に応答する患者の指標となる。
絶対レベルに関しては、下記を適用できる:好ましくは、第1試料におけるレベルと比較して、好ましくは少なくとも4ng/ml、より好ましくは少なくとも5ng/ml、よりいっそう好ましくは少なくとも10ng/ml、または最も好ましくは少なくとも15ng/mlの、第2試料におけるIGFBP7のレベルの低減は、有意であるとみなされ、よってi)拡張機能、および/または拡張機能の少なくとも1つのパラメーターの改善、あるいはii)心不全療法に応答する患者の指標となる。
前記方法のある態様において、バイオマーカーIGFBP7の(および場合により、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの)レベルを、患者から得られた一連の試料において測定する。この場合、測定したバイオマーカーのレベル(単数または複数)を工程b)で基準レベル(単数または複数)と比較する。さらに、バイオマーカー(単数または複数)について基準レベルを超えた状態で過ごした時間のパーセントを計算する。
したがって、本発明は、i)拡張機能、および/またはii)拡張機能の少なくとも1つのパラメーター、またはiii)心不全に罹患している患者における心不全療法を、モニターするための方法、特に in vitro 方法に関するものであり、その方法は
a)心不全に罹患している患者、特に左室駆出分画(LVEF)が低減している患者から間隔をおいて得られた一連の試料におけるバイオマーカーIGFBP7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)、ならびに場合により、オステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15(増殖分化因子15)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定し、
b)それらの試料において測定したバイオマーカーIGFBP7のレベルおよび場合によりその少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを基準レベルと比較し、そして
c)工程b)の結果に基づいて、バイオマーカーIGFBP7および場合により少なくとも1つのさらなるバイオマーカーについて基準レベルを超えた状態で過ごした時間のパーセントを計算する
工程を含む。
用語“患者”は本明細書のいずれかの箇所に定義されている。前記に述べたように、患者は心不全に罹患しているはずである。好ましくは、患者はLVEFが低減している。しかし、患者のLVEFが保存されていることをさらに考慮する(参照:本明細書のいずれかの箇所)。
前記方法によれば、バイオマーカーIGFBP7のレベルを一連の試料において、好ましくは同じタイプの一連の試料において、たとえば一連の血液、一連の血清、または一連の血漿試料において測定すべきである。一連の試料は、好ましくは少なくとも4つの試料〜少なくとも20の試料、またはさらにそれ以上を含む。より好ましくは、一連の試料は少なくとも4つ、よりいっそう好ましくは少なくとも6つ、または最も好ましくは少なくとも8つの試料を含む。
一連のものからなる試料は患者から間隔をおいて得るべきである。好ましくは、それらの試料は相互に早すぎずに得られる。したがって、間隔は好ましくはほぼ少なくとも1カ月、より好ましくはほぼ少なくとも2カ月、または最も好ましくはほぼ少なくとも3カ月の間隔である。同様に好ましくは、その間隔は約1カ月から約6カ月までの範囲であり、より好ましくはその間隔は約1カ月からほぼ数カ月までの範囲であり、最も好ましくはその間隔は約2カ月から4カ月までの範囲である。ある態様において、その間隔は約3カ月(たとえば、±3週間)の間隔である。
好ましくは、下記の診断アルゴリズムを適用する。好ましくは、
・基準レベル(測定したバイオマーカー(単数または複数)について)を超えた状態で過ごした時間のパーセントの増大は、i)拡張機能の劣化、および/またはii)拡張機能のその少なくとも1つのパラメーターの劣化、またはiii)療法に応答しない患者の指標となる、および/または
・基準レベル(測定したバイオマーカー(単数または複数)について)を超えた状態で過ごした時間のパーセントの低減は、i)拡張機能の改善、および/またはii)拡張機能のその少なくとも1つのパラメーターの改善、またはiii)療法に実際に応答する患者の指標となる。
基準レベルを超えた状態で過ごした時間のパーセントは、バイオマーカー(単数または複数)の最初の測定から最終測定までの(全)時間に対する、基準レベルを超えた状態で過ごした時間のパーセントである。
それが好ましくは60%より大きい、より好ましくは70%より大きい、または最も好ましくは80%より大きいパーセント(特に、全検査期間に対して)であれば、そのパーセントは上昇/増大しているとみなされる。それが好ましくは55%未満、より好ましくは50%未満、または最も好ましくは40%未満のパーセントであれば、そのパーセントは低減しているとみなされる。
前記に挙げた説明は、必要な変更を加えて本発明の以下の主題に適用される。
さらに、本発明は、心不全に罹患している患者における死亡および/または心血管事象のリスクを予測する方法、特に in vivo 方法に関するものであり、その方法は
a)心不全に罹患している患者、特に左室駆出分画(LVEF)が低減している患者から間隔をおいて得られた一連の試料におけるバイオマーカーIGFBP7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)のレベルを測定し、
b)それらの試料において測定したバイオマーカーIGFBP7のレベルを基準レベルと比較し、そして
c)工程b)の結果に基づいて、バイオマーカーIGFBP7ついて基準レベルを超えた状態で過ごした時間のパーセントを計算する
工程を含む。
上記方法は、患者が死亡および/または心血管事象のリスクを伴なうかどうかを予測し、または予測を提示する、工程d)を含むことができる。
本明細書中で用いる用語“予測する” は、規定した時間ウインドウ(予測ウインドウ)内に将来患者が死亡する(たとえば、心不全により起きる死亡)確率、および/または心血管事象、好ましくは急性心血管事象、たとえば急性冠動脈症候群(acute coronary syndrome)(ACS)を発症する確率を査定することを表わす。予測ウインドウは、予測した確率に従って患者が心血管事象を発症するかあるいは死亡するまでの間隔である。予測ウインドウは、本発明の方法により分析した際の患者の全余命であってもよい。しかし、好ましくは、予測ウインドウは本発明の方法を実施した後(より好ましくは、かつ厳密には、本発明の方法により分析すべき試料を得た後)、1、2、3、4、5、10、15または20年の間隔である。最も好ましくは、その予測ウインドウは1または5年の間隔である。予測ウインドウは、LVEFが低減した患者については1年、LVEFが保存されている患者については5年であってもよい。当業者に理解されるように、そのような査定は通常は分析すべき患者の100%について正確であることを意図しない。ただし、この用語は分析すべき患者の統計的に有意である部分について査定が有効であることを要求する。ある部分が統計的に有意であるかどうかは、多様な周知の統計評価ツール、たとえば信頼区間の決定、p−値の決定、スチューデントのt検定、マン−ホイットニー検定などを用いて、当業者がさらなる労苦なしに決定できる。詳細はDowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983にみられる。好ましい信頼区間は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p−値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005または0.0001である。好ましくは、本発明により想定される確率は、特定のコホートの患者のうち少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%について予測が正確であることを可能にする。
本明細書中で用いる用語“致死率(mortality)”は、好ましくはいずれかの原因による、より好ましくは心血管事象による致死率に関する。本明細書中で用いる用語“心血管事象”は、心血管系のいずれかの障害を表わし、好ましくはいずれかの急性心血管事象を含む。急性心血管事象は、好ましくは安定狭心症(SAP)または急性冠動脈症候群(ACS)である。ACS患者は不安定狭心症(UAP)または心筋梗塞(MI)を示す可能性がある。MIは、ST上昇MI(ST-elevation MI)(STEMI)または非ST上昇MI(non-ST-elevation MI)(NSTEMI)の可能性がある。本明細書中で用いるNSTE−ACSは、UAPおよびNSTEMIを含む。MIの発症に続いて左室機能障害(LVD)、心不全発症、または死亡すら起きる可能性がある。さらなる好ましい心血管事象は徐脈性心不整脈または頻脈性心不整脈を包含し、それには突然心臓死および卒中(脳血管事象または偶発症候)が含まれる。致死率は死亡率(death rate)または特定の患者集団に対する死亡数の比を表わす可能性もある。
本明細書中で用いる表現“死亡および/または心血管事象のリスクを予測する”は、本発明の方法により分析すべき患者を、高いリスクをもつ患者集団のグループまたは低いリスクをもつグループのいずれかに配属することを意味する。本発明に従って述べる高いリスクは、好ましくは、患者集団における心血管事象または心臓死率についての平均的なリスクと対比して、前決定した予測ウインドウ内に患者が心血管事象を発症するリスクまたは死亡のリスクが有意に上昇(すなわち、有意に増大)していることを意味する。本発明に従って述べる低いリスクは、好ましくは、患者集団における心血管事象または心臓死率についての平均的なリスクと対比して、前決定した予測ウインドウ内に患者が心血管事象を発症するリスクまたは死亡のリスクが有意に低減していることを意味する。特に、リスクの有意の増大または低減は、予後について有意とみなされる規模のリスク増大または低減、特にその増大または低減が統計的に有意であるとみなされるものである。用語“有意”および“統計的に有意”は当業者に既知である。よって、リスクの増大または低減が有意または統計的に有意であるかどうかは、多様な周知の統計評価ツールを用いて当業者がさらなる労苦なしに決定できる。
好ましくは、5年の予測ウインドウについて、死亡の(または心血管事象の)リスクの増大は8.0%〜19.0%の範囲内、より好ましくは12.0%〜17.0%の範囲内、最も好ましくは8.0%〜16.0%の範囲内である。本明細書中で用いる死亡のリスクの上昇、よって増大は、好ましくは1または5年の予測ウインドウに関して、好ましくは8.0%を超える、好ましくは12.0%を超える、より好ましくは17%を超える、よりいっそう好ましくは20%を超えるリスクに関する。本明細書中で用いる死亡の(または心血管事象の)リスクの低減は、好ましくは1または5年の予測ウインドウに関して、好ましくは8.0%未満、好ましくは6%未満、よりいっそう好ましくは4%未満、最も好ましくは3.0%〜8.0%の範囲内のリスクに関する。
好ましくは、下記を診断アルゴリズムとして適用する。好ましくは、
i)基準レベルを超えた状態で過ごした時間のパーセントの増大は死亡および/または心血管事象のリスクが高い患者の指標となる、および/または
ii)基準レベルを超えた状態で過ごした時間のパーセントの低減は死亡および/または心血管事象のリスクが低い患者の指標となる。
前記に挙げた定義および説明は下記の使用、キットおよびデバイスにも適用される。
本発明はまた、下記の使用に関する:
i)バイオマーカーIGFBP7、または
ii)IGFBP7のレベルを測定できる作用剤、特にIGFBP7に特異的に結合する作用剤(たとえば抗体)、および場合により
iii)オステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15(増殖分化因子15)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー;または
iv)その少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定できる少なくとも1つの作用剤、特にその少なくとも1つのさらなるバイオマーカーに特異的に結合する作用剤
の使用であって、
心不全に罹患している患者からの試料において、拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する心臓の少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常を、診断および/またはグレーディングするための使用、あるいは
心不全に罹患している患者からの第1および第2試料において、または間隔をおいて得られた一連の試料において、i)拡張機能、および/またはii)拡張機能の少なくとも1つのパラメーター、またはiii)心不全療法を、モニターするための使用。
本発明はまた、下記の使用に関する:
i)バイオマーカーIGFBP7、および/または
ii)IGFBP7のレベルを測定できる作用剤、特にIGFBP7に特異的に結合する作用剤(たとえば抗体)、および場合により
iii)オステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15(増殖分化因子15)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカー;または
iv)その少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定できる少なくとも1つの作用剤、特にその少なくとも1つのさらなるバイオマーカーに特異的に結合する作用剤
の使用であって、
拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する心臓の少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常を、診断および/またはグレーディングする診断用組成物の製造のための使用、あるいは
心不全に罹患している患者において、i)拡張機能、および/またはii)拡張機能の少なくとも1つのパラメーター、またはiii)心不全療法を、モニターする診断用組成物の製造のための使用。
本明細書のいずれかの箇所に述べたように、患者はLVEFが低減している可能性がある。
好ましくは、作用剤はそのマーカーに特異的に結合する抗体である。より好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、または特にモノクローナル抗体である。しかし、他の作用剤も適用できる(たとえばマーカーの定義を参照)。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の方法を実施するために適合させたデバイスが提供され、そのデバイスは下記のものを含む:
a)バイオマーカーIGFBP7に特異的に結合する作用剤、ならびに場合によりオステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定できる作用剤(単数または複数)、特にその少なくとも1つのさらなるバイオマーカーに特異的に結合する作用剤を含む分析ユニットであって、心不全に罹患している患者からの試料においてバイオマーカー(単数または複数)のレベルを測定するために適合させたユニット;
b)測定したレベル(単数または複数)を基準レベル(単数または複数)と比較し、それにより拡張機能障害、および/または拡張機能障害に関連する少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常を、診断またはグレーディングするための分析ユニット(または評価ユニット)であって、基準レベル(単数または複数)を備えたデータベースおよび比較を実施するためのアルゴリズムを含むユニット。
本発明の他の好ましい態様によれば、本発明の方法を実施するために適合させたデバイスが提供され、そのデバイスは下記のものを含む:
a)バイオマーカーIGFBP7に特異的に結合する作用剤、ならびに場合によりオステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定できる作用剤、特にその少なくとも1つのさらなるバイオマーカーに特異的に結合する作用剤を含む分析ユニットであって、心不全に罹患している患者からの第1および第2試料においてバイオマーカー(単数または複数)のレベルを測定するために適合させたユニット;
b)第2試料において測定したレベル(単数または複数)を第1試料におけるレベルと比較し、それにより心不全に罹患している患者において、i)拡張機能、および/またはii)拡張機能の少なくとも1つのパラメーター、またはiii)心不全療法を、モニターするための分析ユニット(または評価ユニット)であって、比較を実施するためのアルゴリズムを含むユニット。
本発明の他の好ましい態様によれば、本発明の方法を実施するために適合させたデバイスが提供され、そのデバイスは下記のものを含む:
a.バイオマーカーIGFBP7に特異的に結合する作用剤、ならびに場合によりオステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定できる作用剤、特にその少なくとも1つのさらなるバイオマーカーに特異的に結合する作用剤を含む分析ユニットであって、心不全に罹患している患者から間隔をおいて得られた一連の試料においてバイオマーカー(単数または複数)のレベルを測定するために適合させたユニット;
b.一連の試料において測定したレベルを基準レベル(単数または複数)と比較し、基準レベル(単数または複数)を超えた状態で過ごした時間のパーセントを計算し、それにより心不全に罹患している患者において、i)拡張機能、および/またはii)拡張機能の少なくとも1つのパラメーター、またはiii)心不全療法を、モニターするための分析ユニット(または評価ユニット)であって、基準レベル(単数または複数)を備えたデータベースならびに比較および/または計算を実施するためのアルゴリズムを含むユニット。
好ましくは、前記デバイスのアルゴリズムは本明細書のいずれかの箇所に(各方法に関連して)述べた診断アルゴリズムである。好ましくは、アルゴリズムはコンピューター実装アルゴリズムである。好ましくは、分析ユニットは比較を行なうためにタンジブルに組み込まれた(tangibly embedded)コンピュータープログラムコードを含むコンピューターを含む。
好ましい基準レベルは本明細書のいずれかの箇所に開示されている。ある態様において、基準レベル(単数または複数)は分析ユニットまたは評価ユニットに含まれるデータベースに記憶されている。
ある態様において、作用剤は各バイオマーカーに特異的に結合する作用剤、たとえば抗体である。
本明細書中で用いる用語“デバイス”は、少なくとも本開示を実行するように作動可能な状態で相互に連携した前記手段を含むシステムに関する。開示した方法のマーカーの量を決定するのに適した手段、および比較を行なうための手段は、開示した方法に関連して前記に開示されている。それらの手段を作動可能な状態で連結させる方法はそのデバイスに含まれる手段のタイプに依存するであろう。たとえば、本開示のバイオマーカーのレベルを自動的に測定するための分析ユニットを適用する場合、その自動的に作動する分析ユニットにより得られるデータは、目的結果を得るためにたとえば評価ユニットとしてのコンピューターにより処理できる。ある態様において、そのような場合、それらの手段は単一デバイスから構成される。
本開示の好ましい態様には、本発明の方法を実施するためのシステム/デバイスが含まれる。システム/デバイスの例には、化学反応または生物学的反応の結果を検出するために、あるいは化学反応または生物学的反応の進行をモニターするために用いられる臨床化学分析器、凝集化学分析器、免疫化学分析器、尿分析器、核酸分析器が含まれる。より具体的には、本開示の代表的システムはRocheのElecsys(商標) システムおよびCobas(登録商標) eイムノアッセイ分析器、AbbottのArchitect(商標) およびAxsym(商標) 分析器、SiemensのCentaur(商標) およびImmulite(商標) 分析器、ならびにBeckman CoulterのUniCel(商標) およびAcess(商標) 分析器などを含むことができる。
システムまたはデバイスの態様は、本開示を実施するための1以上の分析ユニットを含むことができる。本明細書に開示するシステムまたはデバイスの分析ユニットは、既知のように有線接続、Bluetooth、LANS、または無線信号により、本明細書に開示するコンピューティングデバイスと作動可能な状態で連絡している。そのほか、本開示によれば、分析ユニットは独立型装置またはより大型の機器内のモジュールを含むことができ、それは診断目的での検出、たとえば定性および/または定量評価のうちの一方または両方を行なう。たとえば、分析ユニットは試料および/または試薬のピペッティング、投入、混合を実行または支援することができる。分析ユニットはアッセイを実施するための試薬を保持するための試薬保持ユニットを含むことができる。試薬は、たとえば個々の試薬または一群の試薬を収容した容器またはカセットを、貯蔵コンパートメントまたはコンベア内の適宜な受器または位置に置いた形態で配置することができる。検出試薬は固体支持体上に固定化された形態であってもよく、それらを試料と接触させる。さらに、分析ユニットは個々の分析に最適化できるプロセスおよび/または検出成分を含むことができる。
ある態様によれば、分析ユニットは、試料について被検体、たとえばマーカーの、最適検出のために構成することができる。最適検出のために構成された代表的な分析ユニットは、電磁エネルギーを電気信号に変換するように構成されたデバイスを含み、それには単一素子および多重素子の両方またはアレイ状の光学検出器が含まれる。本開示によれば、光学検出器は光電磁信号をモニターして、光路内に配置された試料中の被検体の存在および/または濃度の指標となる電気出力信号または応答信号をベースライン信号に対比して提供することができる。そのようなデバイスは、たとえばフォトダイオード(アバランシェフォトダイオード(avalanche photodiode)を含む)、フォトトランジスター、光伝導検出器、リニアセンサーアレイ、CCD検出器、CMOS検出器(CMOSアレイ検出器を含む)、光電子増倍管、および光電子増倍管アレイを含むこともできる。特定の態様によれば、光学検出器、たとえばフォトダイオードまたは光電子増倍管は、電子信号をコンディショニングまたはプロセシングする追加信号を含むことができる。たとえば、光学検出器は少なくとも1つの前置増幅器(pre-amplifier)、フィルター回路、または集積回路を含むことができる。適切な前置−前置増幅器には、たとえば集積型、トランスインピーダンス、および電流利得(current gain)(カレントミラー(current mirror))前置増幅器が含まれる。
さらに、本開示による1以上の分析ユニットは、光を発するための光源を含むことができる。たとえば、検査すべき試料について被験体濃度を測定するために、またはエネルギー移動を可能にするために、分析ユニットの光源は少なくとも1つの発光素子(たとえば、発光ダイオード、電源による放射線源、たとえば白熱電球、エレクトロルミネセントランプ、ガス放電ランプ、高輝度放電ランプ、レーザー)からなることができる。
さらに、このシステムの分析ユニットは、1以上のインキュベーションユニット(たとえば、試料または試薬を特定の温度または温度範囲に維持するために)を含むことができる。ある態様において、分析ユニットは試料に反復温度サイクルを施して試料について増幅生成物の量の変化をモニターするためにサーモサイクラーを含むことができ、それにはリアルタイムサーモサイクラーが含まれる。
さらに、本明細書に開示するシステムの分析ユニットは、反応器またはキュベットへの供給ユニットを含むか、あるいは作動可能な状態でそれに接続していてもよい。代表的な供給ユニットには、液体プロセシングユニット、たとえば試料および/または試薬を反応器へ送達するためのピペッティングユニットが含まれる。ピペッティングユニットは、再使用可能なウォッシャブルニードル、たとえばスチールニードル、または使い捨てピペットティップを含むことができる。分析ユニットはさらに、1以上の混合ユニット、たとえば液体を収容したキュベットを振とうするためのシェーカー、またはキュベットもしくは試薬容器内の液体を混合するためのミキシングパドルを含むことができる。
以上から、本開示のある態様によれば本明細書に開示および記載した方法のある工程をコンピューティングデバイスにより実施できることになる。コンピューティングデバイスは、たとえば汎用コンピューターまたはポータブルコンピューティングデバイスであってもよい。本明細書に開示する方法の1以上の工程を実施するためにネットワークまたはデータを伝達するための他の方法を介して多数のコンピューティングデバイスを一緒に使用できることも理解すべきである。代表的なコンピューティングデバイスには、デスクトップコンピューター、ラップトッブコンピューター、パーソナルデータアシスタント(personal data assistant)(“PDA”)、たとえばBLACKBERRY銘柄のデバイス、セルデバイス、タブレットコンピューター、サーバーなどが含まれる。一般に、コンピューティングデバイスは複数の指示(たとえば、ソフトウェアのプログラム)を実行できるプロセッサーを含む。
コンピューティングデバイスはメモリーにアクセスできる。メモリーはコンピューター可読媒体であり、コンピューティングデバイスと共に局所に配置された、またはたとえばネットワークを通してコンピューティングデバイスにアクセスできる状態の、単一の記憶デバイスまたは複数の記憶デバイスを含むことができる。コンピューター可読媒体はコンピューティングデバイスによりアクセスできる利用可能ないかなる媒体であってもよく、揮発性媒体および不揮発性媒体の両方を含む。さらに、コンピューター可読媒体はリムーバブル媒体およびノンリムーバブル媒体のうちの一方または両方であってもよい。たとえば、限定ではなく、コンピューター-可読媒体はコンピューター記憶媒体を含むことができる。代表的なコンピューター記憶媒体には下記のものが含まれるが、それらに限定されない:RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリーまたは他のいずれかのメモリーテクノロジー、CD−ROM、ディジタルバーサタイルディスク(Digital Versatile Disk)(DVD)もしくは他の光ディスク記憶、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶デバイスもしくは他の磁気記憶デバイス、または他のいずれかの媒体であって、コンピューティングデバイスがアクセスできかつコンピューティングデバイスのプロセッサーが実行できる複数の指示を記憶するために使用できるもの。
本開示の態様によれば、ソフトウェアはコンピューティングデバイスのプロセッサーにより実行された際に本明細書に開示される1以上の工程を実施できる指示を含むことができる。ある指示は、他のマシーンの操作を制御する信号を発生するために適合させることができ、よってそれらの制御信号により作動して資料をコンピューター自体から遠く離れた場所で変換することができる。これらの記載および説明はデータ処理の技術分野の専門家が彼らの作業の内容を最も効率的に伝達するために用いる手段である。
複数の指示は、目的結果を導く自己矛盾なしの一連の工程であると一般に考えられるアルゴリズムを含むこともできる。これらの工程は物理的量の物理的操作を必要とするものである。必ずしも必要ではないが、通常はこれらの量は、記憶、伝達、変換、結合、比較その他の方法で操作できる電気パルスもしくは磁気パルスまたは他の信号の形をとる。原則として、これらの信号をそのような信号が具体化または表現される物理的な事項または発現に対する基準としての数値、文字、ディスプレーデータ、番号などとして表わすことは、共用化という理由で時には好都合であることが証明されている。しかし、これらおよびそれに類する用語はすべて適宜な物理的量と関連づけるべきものであり、ここではこれらの量に適用する好都合なラベルとして利用されるにすぎないことを留意すべきである。本開示のある態様によれば、本明細書に開示する1以上のマーカーの測定レベルと適切な基準との比較を実施するためのアルゴリズムは、指示を実行することにより具体化および実施される。結果をパラメトリックな診断生データの出力として、または絶対量もしくは相対量として得ることができる。本明細書に開示するシステムの多様な態様によれば、“診断”、“グレーディング”または“モニタリング”は、本明細書に開示するデバイスにより計算“量”と基準または閾値とのその比較に基づいて提供できる。
前記デバイスにより構成されるコンピューティングデバイスは、出力デバイスにもアクセスできる。代表的な出力デバイスには、たとえばファックス機、ディスプレイ、プリンター、およびファイルが含まれる。本開示のある態様によれば、コンピューティングデバイスは本明細書に開示する1以上の工程を実施し、その後、その方法の結果、指示、比その他の係数に関する出力を出力デバイスにより提供することができる。
最後に、本発明は好ましくは本発明の方法を実施するために適合させた、下記のものを含むキットに関する:バイオマーカーIGFBP7に特異的に結合する作用剤、および場合によりオステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーに特異的に結合する作用剤。好ましくは、キットはさらに、バイオマーカー(単数または複数)に対する標準品およびその方法を実施するための指示を含む。
本明細書中で用いる用語“キット”は、好ましくは個別に、または単一容器内において提供される、前記構成要素の集合体を表わす。容器は本発明の方法を実施するための指示を含むこともできる。指示はマニュアルの形のものであってもよく、あるいはコンピューターまたはデータ処理デバイスに実装された場合に本発明の方法において述べる比較を実施してそれに従って診断を確立できるコンピュータープログラムコードにより提供されてもよい。コンピュータープログラムコードは、データ記憶媒体もしくはデバイス、たとえば光学記憶媒体(たとえば、コンパクトディスク)上に、または直接にコンピューターもしくはデータ処理デバイス上に提供することができる。さらに、キットは前記に定めた基準のための少なくとも1つの標準品、すなわち本明細書のいずれかの箇所に述べた基準レベル(単数または複数)を表わす前決定したレベル(単数または複数)の測定すべきバイオマーカー(単数または複数)を含む溶液を含むであろう。
ある態様において、本明細書に開示するキットは開示した方法を実施するための少なくとも1つの構成要素またはパッケージされた組合わせの構成要素を含む。“パッケージされた組合わせ”とは、そのキットが1以上の構成要素、たとえば本明細書に開示するプローブ(たとえば、抗体)、対照、緩衝液、試薬(たとえば、共役体および/または基質)、指示などの組合わせを含む単一パッケージを備えていることを意味する。単一容器を含むキットも、“パッケージされた組合わせ”の定義に含まれる。ある態様において、キットは少なくとも1種類のプローブ、たとえば抗体(本明細書に開示するバイオマーカーのエピトープに対する特異的親和性をもつもの)を含む。たとえば、キットは蛍光体で標識された抗体または融合タンパク質のメンバーである抗体を含むことができる。キットにおいて、プローブは固定化されていてもよく、特定のコンホメーションに固定化されていてもよい。たとえば、固定化されたプローブは、試料中のターゲットタンパク質を特異的に結合するために、ターゲットタンパク質を検出するために、および/またはターゲットタンパク質を試料から分離するために、キットに備えることができる。
ある態様によれば、キットは少なくとも1つの容器内に少なくとも1種類のプローブを含み、それは固定化されていてもよい。キットは1以上の容器内に、場合により固定化された多数種類のプローブを含むこともできる。たとえば、多数種類のプローブが単一容器内に存在することができ、あるいはたとえば別個の容器内に存在することができ、その際それぞれの容器が単一プローブを収容している。
ある態様において、キットは、1種類の固定化されていないプローブ、および固定化されたプローブを含むかまたは含まない1以上の固体支持体を含むことができる。そのようなある態様は、1種類以上のプローブを固体支持体に固定化するために必要な試薬類および供給物の一部または全部、ならびに固定化されたプローブを試料中の特異的タンパク質に結合させるために必要な試薬類および供給物の一部または全部を含むことができる。
特定の態様において、単一プローブ(同一プローブの多数コピーを含む)を固体支持体に固定化し、単一容器内において提供することができる。他の態様において、それぞれ異なるターゲットタンパク質または異なる形態の単一ターゲットタンパク質(たとえば、特異的エピトープ)に対して特異的な2種類以上のプローブを、単一容器内において提供する。そのようなある態様において、1種類の固定化プローブを多数の異なる容器内において提供することができ(たとえば、単回用形態)、あるいは多数種類の固定化プローブを多数の異なる容器内において提供することができる。さらなる態様において、プローブを多数の異なるタイプの固体支持体に固定化することができる。固定化プローブ(単数または複数)と容器(単数または複数)のいかなる組合わせも本明細書に開示するキットについて考慮され、そのいかなる組合わせも目的の使用に適切なキットを得るために選択できる。
キットの容器は、プローブ(たとえば、抗体)、対照、緩衝液、試薬(たとえば、共役体および/または基質)、指示などの組合わせを含めて本明細書に開示する1以上の構成要素をパッケージングおよび/または収容するのに適したいかなる容器であってもよい。適切な材料にはガラス、プラスチック、厚紙その他の紙製品、木材、金属、およびそのいずれかのアロイが含まれるが、これらに限定されない。ある態様において、容器は固定化プローブ(単数または複数)を完全に収容でき、あるいは埃、油などによる汚染、および露光を最小限に抑えるためにプローブを覆うだけであってもよい。あるさらなる態様において、キットは単一容器または多数の容器を含むことができ、多数の容器が存在する場合、各容器は他のすべての容器と同一であってもよく、他と異なってもよく、あるいは他のすべての容器ではなくある容器と異なってもよい。
最後に、本発明は、心不全に罹患しており、特に血液、血清または血漿におけるマーカーIGFBP7、ならびに場合によりオステオポンチン、心筋トロポニン、BNP型ペプチド、特にNT−proBNP、エンドスタチン、ミーメカン、尿酸およびGDF15からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるマーカーのレベルがそのマーカー(単数または複数)の基準レベル(単数または複数)より高い患者において、拡張機能障害および/または拡張機能障害に関連する少なくとも1つの構造異常もしくは機能異常の処置に使用するための、スピロノラクトン、シルデナフィル、アナキンラからなる群から選択される少なくとも1つの薬物に関する。
前記に述べたすべての参考文献を、それらの開示内容全体および前記記載において明白に言及したそれらの特定の開示内容に関して本明細書に援用する。
本発明をここで下記の実施例により説明する;それらは本発明の範囲を制限または限定するためのものではない。
実施例1:PROTECT試験患者
試験設計および患者集団
この試験はPartners Healthcare Institutional Review Boardにより承認され、すべての患者からインフォームドコンセントが得られた。このPROTECT試験は、LVSDによるHFを伴なう患者において、ナトリウム利尿ペプチドレベルを≦1000pg/mLに低減することを目標としたNT−proBNPガイドによる治療に対して標準心不全治療を比較した、ランダム化、単一センター、前向き、概念実証試験(proof-of-concept trial)であった。患者を最小限、年4回の来院で、1年間追跡した。このPROTECT試験の方法および結果は先に公開されている(Bhardwaj et al., Design and methods of the pro-b type natriuretic peptide outpatient tailored chronic heart failure therapy (protect) study, Am Heart J. 2010;159:532-538)。PROTECT試験の主要エンドポイント(primary endpoint)はCV事象の複合エンドポイント(composite endpoint)であり、これには先に定義したHF増悪、HF入院、有意の心室性不整脈、急性冠動脈症候群、脳虚血、および心臓死が含まれていた。PROTECT試験に参加した151人の患者のうち124人について、図3の連続IGFBP7測定のための試料およびベースライン心エコー検査を得ることができた。これら124人の被験者を平均10か月間の追跡期間中、合計882回の来院で観察した。
バイオマーカー測定
それぞれの来院時に、エチレンジアミン四酢酸を入れた真空チューブに血液を採集し、遠心し、血清をチューブに分注し、試験前は−80℃で凍結した。マイクロタイタープレート基本型ELISA(Roche Diagnostics,ドイツ、ペンツバーグ)を用いて開発および確認した新規サンドイッチイムノアッセイを用いてIGFBP7を測定した。
心エコー検査プロトコル
詳細な二次元経胸腔心エコー検査(two-dimensional transthoracic echocardiography)(TTE)を、ベースラインで、および可能な場合には平均10か月後の試験終了時に実施した。全4房室についての房室のサイズおよび機能(体表面積に対する指数)、弁逆流の重症度、右室収縮期圧(RVSP)、ならびに拡張期指数に関係する心エコー検査値が得られた。これらには、経僧帽弁ドップラー流(E波速度、A波速度、E/A比)、中隔僧帽弁輪組織(septal mitral annular tissue)ドップラー速度(E’速度およびA’速度)、および肺静脈流速が含まれていた。この試験のために、経僧帽弁流をさらにE/A <1、E/A 1.0〜1.5、およびE/A >1.5に分類した。E/E’が>15である場合は充満圧が上昇しているとみなされ、肺静脈S/D比は<1.0であれば異常とみなされた。左房容積指数(LAVi)は>28mL/m2であれば異常とみなされ(Lang et al., Recommendations for chamber quantification: A report from the American society of echocardiography’s guidelines and standards committee and the chamber quantification writing group, developed in conjunction with the European association of echocardiography, a branch of the European society of cardiology, J Am Soc Echocardiogr. 2005;18:1440-1463)、右室収縮期圧(RVSP)はグループの中央値(43mmHg)を越えれば上昇しているとみなされた。超音波の解釈は、試験配属およびバイオマーカー結果を知らされていない2人の読み手(RBWおよびALB)により行なわれた。
統計解析
すべての連続変量が正規分布値について平均±標準偏差にあるとみなされる;非正規変量はコルモゴロフ−スミルノフ検定(Kolmogorov-Smirnov test)を用いて同定され、中央値および四分位範囲(interquartile range)(IQR)として表記された。IGFBP7濃度の関数としての変量の比較は、適宜、スチューデントのt検定またはマン−ホイットニーU検定を用いて行なわれた。多重カテゴリーで表記された連続変量については、クラスカル・ウォリス検定(Kruskal Wallis test)を用いた。
IGFBP7濃度と他の連続変量との直線関係をより良く理解するために、本発明者らはまず非正規結果をln換算して正規性を得た。この換算に続いて、スピアマン相関(Spearman correlation)を実施し、対応するP値を添えてρを表記した。スピアマン解析のグラフ表示を得るために、適合直線(line of fit)および95パーセント信頼区間を表わす選択散乱プロットを作成した。単変量相関に続いて、IGFBP7濃度の従属変量の独立予測子について得られるデータを次いで検査した。多変量線形回帰モデルに含まれるためには、すべての候補変量が単変量相関において0.10以下の保持P値(retention P value)を必要とした。含まれた変量は、ベースライン臨床特徴、検査値、およびベースラインにおける心エコー検査結果からのものであった。最良適合線形モデルの構築に続いて、IGFBP7のそれぞれの予測子についてのβ係数を表示した。
先の研究に合わせて、117.8ng/mLのIGFBP7レベル(そのグループの最高三分位数に対応する)に基づいて臨床分類を行なった。さらに、拡張機能の変化を予測するIGFBP7における長期的傾向(secular trend)の探査は、試験中の時間を統合して<117.8ng/mLの状態で過ごした時間に基づいていた。最終的に、IGFBP7 <117.8ng/mLの状態で過ごした時間のパーセントを有害転帰に対するリスクを分析するためにも用いた;何らかのCV事象の発生との関連をモデル化した、単変量、続いて多変量コックス比例ハザード(Cox Proportional Hazard)を使用。多変量モデルは下記を含む疫学および臨床関連のリスク因子に合わせて調整された:PROTECTにおける治療群割当て(treatment arm allocation)、年齢、性別、New York Heart Association(NYHA)クラス、左室駆出分画(LVEF)、E/A、E/E’、LAVi、およびRVSP、ならびにベースライン推定した糸球体濾過速度およびNT−proBNP。
統計解析はPASW Version 17.0(イリノイ州シカゴ)を用いて実施され、すべてのP値は両側であり、<0.05であれば有意とみなされた。
結果
表1はこの解析における被験者のベースライン特徴を示す。平均年齢は63.4歳(±14.2歳)であり、83.9%が男性であった。ほぼ半数(50.8%)が虚血原因のHFを伴ない、58%の患者が埋込み型電気除細動器を備え、ちょうど半数以上(54.8%)はNYHAクラスIIIまたはIVのいずれかであった。大部分の患者はβ遮断薬またはアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬/アンギオテンシン受容体遮断薬(ARB)を投与されており、これに対し、40.3%はアドレナリンアンタゴニストを投与されていた。NT−proBNPおよびIGFBP7の中央値ベースラインレベルは、それぞれ1964pg/mLおよび89.9ng/mLであり、閾値≧117.8ng/mLがこのグループについての最高三分位数であった。
表1:試験参加者のベースライン特徴
NYHA:New York Heart Associationを意味する;HF:心不全を意味する;ACE:アンギオテンシン変換酵素を意味する;ECG:心電図を意味する;LBBB:左脚ブロック(left bundle branch block)を意味する;NT−proBNP:アミノ末端pro−B型ナトリウム利尿ペプチドを意味する;IGFBP7:インスリン様増殖因子−結合タンパク質7を意味する。
IGFBP7および心エコー図の測定
下記の表2は、予後閾値カットポイント117.8ng/mLを用いて分類した、試験参加者のベースライン心エコー図測定値を比較する(ベースラインにおけるIGFBP7濃度の関数としての心臓パラメーター)。
LVEF:左室駆出分画を意味する;LVEDVi:左室拡張終期容積指数を意味する;LVESVi:左室収縮終期容積指数を意味する;LVOT:左室流出路を意味する;LA:左房を意味する;AP:前後を意味する;SI:上下を意味する;LAVi:左房容積指数を意味する;PV:肺静脈を意味する;S:収縮期を意味する;D:拡張期を意味する;RVEDD:右室拡張終期径を意味する;RVESD:右室収縮終期径を意味する;RVEDV:右室拡張終期容積を意味する;RVEDA:右室拡張終期面積を意味する;RVESV:右室収縮終期容積を意味する;RVESA:右室収縮終期面積を意味する;RA:右房を意味する;4C:4房室を意味する。
IGFBP7濃度とLVのサイズおよび機能の中央値の間に明瞭な関連性は存在しなかったが、特にIGFBP7濃度と拡張機能の異常を表わす尺度の間に他の多数の有意な関連性がみられた。たとえば、より高いIGFBP7濃度を伴なうものはより高いLAViを伴なう傾向がより大きかった(32.0[IQR=23.3−48.4]対25.2[14.1−36.4]mL/m2;P=0.03);より高いIGFBP7濃度を伴なう被験者は、IGFBP7増大と、より高い経僧帽弁ドップラーE波速度、より低い経僧帽弁ドップラーA波速度の間の有意の関連性、およびより高いE/A比との対応する直接的関連性をもつ可能性もより大きかった。同様に、僧帽弁流入E速度−対−組織ドップラーE’速度比(E/E’)を用いると、IGFBP7増大を伴なう者にはより高い数値がみられ(15.2[10.8−20.2]対10.8[8.4−15.4];P<0.001)、高いIGFBP7を伴なう患者のより多数がE/E’ >15を伴なっていた(51.6%対23.2%;P<0.001)。さらに、高いIGFBP7を伴なう患者は、より拡張したRVと共に、より高いRVSPをもつ可能性が有意に、より大きかった(53.0[44.5−66.5]mmHg対43.5[36.3−55.0]mmHg;P=0.006)。さらに、高IGFBP7グループの有意に、より高いパーセントの患者が軽度を超える僧帽弁逆流(58.1%対33.3%;P=0.001)または三尖弁逆流(35.5%対12.9%;P=0.002)を伴なっていた。
次いで、ln−IGFBP7と下記の表3に詳述する種々の心エコー図パラメーターの間の相関性に注目した。
表3:IGFBP7濃度とベースライン心エコー図パラメーターの単変量相関性および多変量線形回帰分析
LV:左室を意味する;LVEF:左室駆出分画を意味する;LVESVi:左室収縮終期容積指数を意味する;LVEDVi:左室拡張終期容積指数を意味する;IV:心室内を意味する;LVOT:左室流出路を意味する;LA:左房を意味する;AP:前後を意味する;SI:上下を意味する;RV:右室を意味する;RVEDD:右室拡張終期径を意味する;RVESD:右室収縮終期径を意味する;RA:右房を意味する;S:収縮期を意味する;D:拡張期を意味する;tD:組織ドップラーを意味する。
単変量解析において、ln−IGFBP7濃度と、心臓の構造および機能、たとえば心房サイズおよびRV圧の間に多数の有意の相関性を検出した。さらに、拡張期パラメーターとの広範な有意の相関性を見出した;たとえば経僧帽弁ドップラーEおよびA波(ならびにそれらの比)、肺静脈ドップラー速度およびD波勾配(ならびに肺静脈S/D比とのわずかな相関性)、ならびに組織ドップラーイメージングにおける変量:E/E’を含む。図3は、IGFBP7濃度に対する経僧帽弁ドップラーE/A、E/E’、肺静脈S/D比、LAVi、およびRVSPの散乱プロットを示す。
その後、臨床変量および心エコー図変量を考慮に入れた多変量調整済み線形回帰(表3)において、ln−IGFBP7濃度を固有に予測する幾つかの変量を同定した。本発明者らの先の所見と一致して、これは再び異常な拡張機能の表現型を再現した。独立予測子には左房容積指数、上下寸法における右房サイズ、右室収縮期圧、およびドップラーイメージングから得られる多数の拡張期パラメーターが含まれ、これにはA波速度、E/A比、S波減速時間、E/E’、およびE’/A’が含まれる。さらに、多変量モデルに要因として含める臨床変量は年齢(β=0.271;P=0.004)、虚血原因のHF(β=0.270;P=0.003)および検査に際しての肝腫脹の存在(β=0.487; P<0.001)であり、これらはすべてIGFBP7レベルと正の相関性があった(データは示していない)。ベースラインNT−proBNP値はIGFBP7と相関していた(r=0.378;P<0.001)が、調整済み解析において、NT−proBNPはIGFBP7濃度の弱い独立予測子にすぎなかった(β=0.107;P=0.07)。
次いで被験者をIGFBP7三分位数に関して考慮し、多様な拡張期パラメーターをこの方法で記述した。図1Aに示すように、経僧帽弁ドップラーE/A比(<1、1.0〜1.5、または>1.5のグループにより分類)を伴なう患者のパーセントは直接関連していた;さらに、E/A >1.5を伴なう最高パーセントの患者が最高三分位数のIGFBP7に存在していた(p<0.001)。同様に、図1Bおよび1Cは、IGFBP7三分位数とE/E’ >15およびLAVi >28mL/m2を伴なう患者のパーセントの間の関連性を詳細に示す。これらの直接関連性と対照的に、E’とIGFBP7濃度の間の関連性は非有意傾向であるように思われることを見出した(図1D)。
IGFBP7濃度の関数としての拡張期パラメーターの経時変化
前記のように、試験参加者は試験期間中に合計880回を超える来院を行なった。これらのうち108回はマッチしたベースラインおよび最終来院時の心エコー検査を伴なっていた。これは、IGFBP7濃度の長期的傾向、およびベースライン状態のこのバイオマーカーと関連づけた拡張期パラメーターの変化を調べる理想的機会を提供した。
10か月間の追跡を通した平均で、試験参加者は彼らの時間の78%をIGFBP7 <117.8ng/mLの状態で過ごした。本発明者らはこの“応答状態で過ごした時間”をベースラインから最終までの心エコー図の拡張機能パラメーターの変化の関数として調べた。これらの結果を図2に示す。ベースラインと最終査定の両方でE/A比 <1.5を伴なっていた者においては、最初は正常E/A比であって追跡時に>1.5に上昇した者と比較した場合、より高いパーセントの時間をIGFBP7レベル117.8ng/mL未満の状態で過ごした(86%対42%,P<0.001)。類似の所見がRVSP、肺静脈流のS/D比、およびLAViについてみられた。それぞれの場合、拡張機能が増悪しつつある者は一連の測定にわたってIGFBP7レベル<117.8ng/mLの状態で過ごした時間がより短かいようであった。
転帰
慢性HFにおけるリスクを予測する関連の疫学的変量(拡張機能の心エコー図パラメーターを含む)について調整したモデルにおいて、IGFBP濃度<117.8ng/mLの状態で過ごした時間は無事象生存(event free survival)の独立予測子であった(HR=0.83,応答増大時間10%当たり;95% CI=0.73〜0.95,P=0.006)。明らかに、IGFBP7結果をこれらのモデルに含めた状態で、拡張機能の尺度はリスク予測において有意ではなかった。
考察
BNPおよびNT−proBNPはHFの診断、予後および管理のために広く調べられている(Januzzi et al., 前記を参照, Januzzi et al., The n-terminal pro-bnp investigation of dyspnea in the emergency department (pride) study, Am J Cardiol. 2005;95:948-954, Januzzi et al., Utility of amino-terminal pro-brain natriuretic peptide testing for prediction of 1-year mortality in patients with dyspnea treated in the emergency department, Arch Intern Med. 2006;166:315-320, Maisel et al., Rapid measurement of b-type natriuretic peptide in the emergency diagnosis of heart failure, N Engl J Med. 2002;347:161-167)。それらは拡張機能障害を検出するために有用な可能性があることも示唆された(Tschope et al., 前記を参照, Weiner et al., 前記を参照, Yu et al., 前記を参照)。しかし、両方のナトリウム利尿ペプチドの濃度とも、心臓の構造および機能の他の多数の変量ならびに他の心肺障害により影響を受け(Daniels et al., 前記を参照)、それはこれらの値の解釈を複雑にする可能性がある。LVSDによる通院型(ambulatory)慢性HFを伴なう被験者のこの試験において、本発明者らはIGFBP7(これまで肥大、血管形成および細胞生存と関連づけられていた)を拡張機能障害および予後についての代替マーカーとして使用することを提唱する。
本発明者らは、増大したレベルのIGFBP7を伴なう被験者は、心エコー検査において、経僧帽弁ドップラー流、組織ドップラーイメージング、心房サイズ、およびRV圧の異常を伴なう拡張機能障害の広範な証拠をもつ可能性がより高いことを見出した;これらはすべて拡張機能障害の複雑な心エコー図判定に慣用される測定値である(Nagueh et al., 前記を参照)。多数の分析で立証されたように、IGFBP7レベルが高いほど拡張異常の重症度が増大する傾向がみられた。これは、拡張異常の存在に対するIGFBP7の関連性に加えて、IGFBP7の濃度が機能障害の程度に対する洞察を与える可能性もあることを示す。最後に、かつおそらく最も意外なことに、IGFBP7濃度の長期的傾向は経時的に増悪した拡張機能の発症と関連性があり、生存モデルにおいて心エコー図尺度の代替となった。本発明者らが知る限り、これはIGFBP7を多数の慣用される拡張機能尺度の存在および重症度と関連づける最初の公開レポートであり、このバイオマーカーを拡張機能に関連して存在、重症度およびリスクの代替マーカーとして利用できるという魅力的な示唆をもたらす。
IGFBP7はmac25およびIGFBP関連タンパク質1(IGFBP−rP1)としても知られ、タンパク質のアミノ末端に共通モチーフをもつIGFBPファミリーに属する(Hwa et al., The insulin-like growth factor-binding protein (igfbp) superfamily, Endocr Rev. 1999;20:761-787, Oh et al., Synthesis and characterization of insulin-like growth factor-binding protein (igfbp)-7, Recombinant human mac25 protein specifically binds igf-i and -ii, J Biol Chem. 1996;271:30322-30325)。IGF軸は哺乳動物細胞の成長および増殖において重要な役割を果たす。この経路はインスリン様増殖因子およびインスリン、ならびにコグネイト受容体へのそれらの結合からなる。IGFBP7はIGF−1と競合する分泌タンパク質であり、IGF受容体へのそれの結合を阻害する(Hwa et al., 前記を参照, Chen et al., Insulin-like growth factor-binding protein-7 functions as a potential tumor suppressor in hepatocellular carcinoma, Clin Cancer Res. 2011;17:6693-6701)。これは次いで、PI3K/Aktおよび関連する細胞の成長および増殖を含めた下流のIGF受容体シグナル伝達を抑制する(Evdokimova et al., Igfbp7 binds to the igf-1 receptor and blocks its activation by insulin-like growth factors, Sci Signal, 2012;5:ra92)。よって、IGFBP7は腫瘍抑制因子として示唆されており、腫瘍細胞における長期曝露はタンパク質合成および細胞成長の低減、ならびにアポトーシス増大をもたらす(Chen et al., 前記を参照, Evdokimova et al., 前記を参照)。このタンパク質は急性腎傷害においても調べられ、その際、IGFBP7はp53およびp21の発現を増大させ、続いて細胞周期をG1で停止させ、それは虚血または敗血症のため損傷を受けたDNAを含む腎上皮細胞の分裂を阻止する可能性があると提唱された(Kashani et al., Discovery and validation of cell cycle arrest biomarkers in human acute kidney injury, Crit care, 2013;17:R25)。
IGFBP7は脈管系に高度に発現する。最近の研究ではIGFBP7は炎症メディエーターおよび止血メディエーターをエキソサイトーシス(開口放出)(exocytosis)により脈管内腔へ送達する内皮細胞のバイベル−パラーデ小体(Weibel-Palade body)(貯蔵小器官)に局在する(van Breevoort et al., 前記を参照)。IGFBP7は、この貯蔵小器官内のウィルブランド因子(Willebrand factor)および他の因子との組合わせで血管形成を調節することができると思われる(van Breevoort et al., 前記を参照)。
HFにおける拡張異常の病態生理は細胞肥大を伴ない、続いてアポトーシスにより細胞が消失し、線維形成および拡張期硬直が増大する(Ouzounian et al., Diastolic heart failure: Mechanisms and controversies, Nat Clin Pract Cardiovasc Med. 2008;5:375-386)。これらのデータに基づけば、IGFBP7の濃度上昇は、筋細胞肥大および線維芽細胞分裂を阻害し、それにより心室心筋の拡張期硬直の重要な関与因子であるコラーゲンのさらなる沈着を阻止することにより、防御性であるという仮説を立てることができる(Zile et al., New concepts in diastolic dysfunction and diastolic heart failure: Part ii: Causal mechanisms and treatment, Circulation, 2002;105:1503-508)。しかし、過度のIGFBP7活性化はIGF−1およびインスリンシグナル伝達の遮断をもたらし、アポトーシスおよび細胞死の加速をもたらす可能性がある。
IGFBP7の経時動向を拡張期指数増悪の開始と関連づける本発明者らのデータはきわめて重要である。同様に、<117.8ng/mLの状態で過ごした時間を含めることも、無事象生存についてのモデルにおけるこれらの拡張異常の変量の代替となった。IGFBP7は異常な拡張機能尺度に反映される充満圧上昇をもたらす心室コンプライアンス増悪(およびそれに続く随伴リスク)を生じる因子のメディエーターであるかまたはそれらの因子に応答する可能性があると考えるのは魅力的である。本発明者らが先にIGFBP7は予後においてNT−proBNP −それ自体はIGFBP7が予測しない他の多数の意味ある心臓異常と関連性がある(Tschope et al., 前記を参照, Weiner et al., 前記を参照)− に対して相加的であることを示したのは、この示唆を支持する。TschopeらはNT−proBNPの異常はEFが保存された患者における拡張機能障害の存在および重症度と関連することを示した(Tschope et al., 前記を参照)が、この関連性はこの試験でIGFBP7と異常な拡張性(diastology)の間に見出されたものよりかなり弱い;これは、NT−proBNPとIGFBP7の組合わせがHFに存在する心臓の構造および機能の潜在的異常のより幅広い生物学的描写を提供することを示唆する。
本発明者らの試験はIGFBP7と拡張機能の関連性を詳細に示した最初の発表であるが、若干の制限がある。第1に、試料サイズが限られているが、本発明者らの結果は多数の分析を通して内部的に一致する。第2に、本発明者らの試験はLVSDを伴なう患者のみを含んでいた;LVSDを伴なう大部分の患者は拡張機能障害の要素をもつ(Yancy et al., 前記を参照, Bursi et al., Systolic and diastolic heart failure in the community, JAMA, 2006;296:2209-2216)ので、本発明者らの結果はEFが保存されたHF(HF with preserved EF)(HFpEF)を伴なう者には必ずしも適用されない。しかし、本発明者らの被験者における拡張機能障害の重症度は広範な変動性があり、本発明者らは数グレードの拡張機能障害にわたってIGFBP7の関連性を示した。第3に、本発明者らは拡張機能障害の代替尺度として多数の心エコー検査所見を用いている。Maurerらが指摘したように、異常な拡張期ドップラー心エコー図パターンは異常な心筋拡張特性が存在すると結論するには十分ではない可能性がある(Maurer et al., Diastolic dysfunction: Can it be diagnosed by Doppler echocardiography? J Am Coll Cardiol. 2004;44:1543-1549)。それにもかかわらず、HFrEFを伴なう患者の集団においては、そのような尺度が充満圧の上昇と心筋の弛緩特性損傷の混在を実際に反映するということが一般に受け入れられている;NT−proBNPに対する強い相関性の欠如は、IGFBP7濃度が必ずしも容積状態によるものではないことを示唆する。
まとめ/結論
左室収縮機能障害(LVSD)による通院型HFを伴ない、ベースラインでの詳細な二次元心エコー検査を行なった124人の患者を、平均10か月間追跡した。IGFBP7をそれぞれの来院時に連続的に測定した。高いベースラインIGFBP濃度を伴なう患者は拡張機能を表わすパラメーターの異常を伴なう可能性がより大きかった;たとえば、左房容積指数(LAVi) 32.0mL/m2対25.2mL/m2(P=0.03)、経僧帽弁E/A 2.25対1.23(P=0.008)、E/E’ 15.2対10.8(P<0.001)、および右室収縮期圧(RVSP) 53.0mmHg対43.5mmHg(P=0.006)。さらに、IGFBP7は拡張期パラメーター、たとえばLAVi(ρ=0.237,P=0.008)、経僧帽弁E/A(ρ=0.304,P=0.001)、E/E’(ρ=0.257,P=0.005)、およびRVSP(ρ=0.316,P=0.001)と相関していた。さらに、これらのパラメーターは調整済み分析においてIGFBP7の独立予測子であることが見出された。ベースラインおよび最終時の心エコー図をもつ被験者(108人の患者)のうち、連続測定においてIGFBP7値が増大した状態で過ごした時間がより長いのは、拡張機能の増悪、およびLAViまたはRVSPの増大と関連していた。IGFBP7濃度は、拡張機能障害の心エコー図尺度と無関係にCV事象のリスク増大を予測した。
IGFPB7は、LVSDによるHFを伴なう患者における拡張機能障害および予後と強く関連する新規バイオマーカーである。この固有のバイオマーカーと拡張機能の関連性を説明する生物学的機序は依然として興味深く、さらなる探査を保証する。駆出分画が保存されている心不全におけるIGFBP7の役割を確証するためには、またIGFBP7が拡張期心不全進行に対する潜在的な関与因子であるかどうかを判定するためには、さらなる試験を実施すべきである。
実施例2:TIME CHF被験患者
慢性心不全を伴なう高齢患者における標準薬物療法に対比した強化療法のTIME CHF試験から試料を抽出した。このコホートには、治療中のNYHAクラス≧IIであり、前年内に入院の経験があり、またはLVEF ≦45%であったことがあり、またはNT−proBNPレベルが高かったことがあり(すなわち、75歳未満の患者において400pg/ml、75歳以上の患者においてNT−proBNP <800pg/ml)、≧60歳の年齢であった(年齢上限はない)患者が含まれる(Pfisterer M, Buser P, Rickli H, Gutmann M, Erne P, Rickenbacher P, et al. Bnp-guided vs symptom-guided heart failure therapy The trial of intensified vs standard medical therapy in elderly patients with congestive heart failure (time-chf) randomized trial. JAMA: the journal of the American Medical Association 2009, 301:383)。
TIME CHF試験の利用できる試料を、収縮期パラメーター(LVEF)および拡張期パラメーター(E/A、E/E’、LA径、LA平方)と関連性のあるバイオマーカー分析のために抽出した。
すべての試料が収縮期パラメーターを備えていたが、サブセットのみをさらに拡張期パラメーターにより特性判定した。Roche分析器で一般的心臓マーカーをより大きな試料サブセットにおいて測定し、一方、利用できる革新的マーカーをより小さな試料サブセットにおいて検査した。
実施例2.1
TIME−CHF試験からの例:一般的マーカー(NTproBNP Elecsys、cTNThs Elecsys、GDF15 Elecsys、尿酸 Roche Cobas)を、それぞれ622、561、561および512の試料において決定した。すべての試料がLVEF(左室駆出分画)の心エコー図データをもつ患者から得られた。E/E’比は228人の患者について得られた。E/A比は314人の患者について得られた。壁厚は456人の患者について得られた。
新規マーカー(ミーメカン、エンドスタチン、IGFBP7、オステオポンチン)は、それぞれ197、198、197、184の試料において決定された。すべての試料が利用できるLVEFデータをもつ患者から採取された。E、AおよびE/Aデータは106人の患者について得られた。組織ドップラーは77人の患者について得られた。壁厚(隔壁径)は142人の患者について得られた。
表4:IGFB7、cTNThs、NTproBNP、GDF15、尿酸、エンドスタチン、ミーメカンおよびオステオポンチンと収縮期パラメーターおよび拡張期パラメーターの間の相関性
表4のデータ評価により、NTproBNPは収縮(dys)−機能と有意に(p<0.01)相関することが認められた唯一のマーカーであることが示された(LVEF,−0.24,p<0.001)。NTproBNPは拡張期パラメーター(E/A、E/E’、LAパラメーター)と有意に相関する。NTproBNPは拡張期パラメーターと対比して収縮期パラメーターとより有意に相関することが見出された。NTproBNPの最も強い相関性は収縮(dys−)機能:LVEF(−0.24,p<0.001)についてみられた;拡張期パラメーター:E/E’(0.16,p 0.02)、E/A(0.17,p=0.003)、LA平方(0.14,p:0.003),LA径(0.13,p:0.007)と対比。実施例1に示したように、NTproBNPは拡張機能障害を収縮機能障害に対して識別するのに適さない。
IGFBP−7はLVEF(収縮(dys)−機能)または隔壁径のいずれともと相関しないことが見出された。対照的に、IGFBP−7は拡張(dys−)機能の幾つかのパラメーターに対して最も有意の相関性をもつ新規マーカー候補であることが見出された。データ評価(表4)は、IGFBP−7の最も強い相関性はE/AおよびLAパラメーターについてみられたことを示す。IGFBP−7のE/A相関性は、NTproBNPおよびcTNThsを含めて調べたすべての一般的マーカーのE/A相関性より強かった(異なる試料サイズを考慮に入れて)。実施例1に示したように、IGFBP7は、収縮機能障害(LVEF:−0.01,p:0.87)および壁厚(隔壁径:0.07,p:0.43)と対比して、拡張機能障害の多数のパラメーター(E/A:0.2,p:0.04,LA平方d:0.15,p:0.08)を識別するのにきわめて好適である。IGFBP7は、試験したすべての新規マーカーおよび一般的マーカーと対比して、多数の拡張期パラメーターに対して最も特異的な関係を示す。IGFBP7は単独で、または他のマーカーとの組合わせで、拡張機能障害を検出するのに好適である。好ましいのはIGFBP7と、E/E’に対して強い相関性を示すマーカー(cTNThs、NTproBNP、ミーメカン、エンドスタチン)との組合わせである。
表4に示すように、IGFBP−7とNTproBNPの組合わせは拡張機能障害の多様な補足パラメーターを査定するのに有用であることが見出された。
データ評価は、cTNThsが収縮(dys−)機能パラメーター(LVEF:−0.07,p:0.1)と対比して拡張(dys−)機能パラメーター(E/E’:0.22,p:0.002)と最も良く相関することが認められたことを示した。cTNThsとE/E’の高度に有意の関連性がみられる。表4に立証されるように、拡張機能の補足臨床パラメーターはIGFBP−7およびcTNThsに関連する。よって、IGFBP−7とcTNThsの組合わせは拡張機能障害を検出するのに好適である。
データ評価は、ミーメカンと拡張期パラメーターおよび収縮期パラメーターとの相関性が有意に達しないことを示した。ミーメカンの最も強い相関性はE/E’(0.18,p:0.15)についてみられた。ミーメカンは拡張機能障害の検出においてIGFBP7を補足するのに適切な可能性がある。
オステオポンチンは収縮期パラメーター(LVEF: 0.13,p:0.08)と拡張期パラメーター(E:0.14,p:0.08)の両方、および壁厚(隔壁径:0.22,p:0.01)に関連することが見出された。IGFBP7とオステオポンチンの組合わせは補足情報を査定するのに有用な可能性がある。
データ評価は、エンドスタチンと拡張期パラメーターおよび収縮期パラメーターとの相関性が有意に達しないことを示した。エンドスタチンはE/E’と相関する。IGFBP7は単独で、または他のマーカーとの組合わせで、拡張機能障害を検出するのに好適である。好ましいのは、IGFBP7と、E/E’に対して強い相関性を示すマーカー(cTNThs、NTproBNP、ミーメカン、エンドスタチン)との組合わせである。IGFBP−7とエンドスタチンの組合わせは、多様な拡張期パラメーターに関連づけるのに有用な可能性がある。
GDF−15および尿酸は両方とも、収縮期パラメーターと対比して拡張期パラメーターとより良く相関することが見出された。
EおよびLA径に対するGDF15の相関性は有意に達した。
E/A、LA径およびLA平方に対する尿酸の相関性は有意に達した。
IGFBP−7とcTNThsおよび/またはGDF15および/または尿酸との組合わせは拡張機能障害の多数のパラメーターを査定するのに有用であることが見出された。
実施例2.1について好ましい組合わせ(この順)
・PRIO1 −> IGFBP7+cTNThs
・PRIO2 −> IGFBP7+NTproBNP
・PRIO3 −> IGFBP7+ミーメカン
・PRIO4 −> IGFBP7+尿酸
・PRIO5 −> IGFBP7+GDF15
・PRIO6 −> IGFBP7+エンドスタチン。
実施例2.2:TIME−CHF試験からの例:
駆出分画が保存されている患者(HFpEP)のみをこの分析で選択した。
一般的マーカー(NTproBNP Elecsys、cTNThs Elecsys、GDF15 Elecsys、尿酸 Roche Cobas)を、それぞれ112、99、100および95の試料において決定した。すべての試料が、駆出分画の保存されている患者からのものであった。
新規マーカー(ミーメカン、エンドスタチン、IGFBP7、オステオポンチン)を、駆出分画が保存されている15〜23人の患者において決定した。
表5:HFpEF患者(LVEF ≧50%)におけるIGFB7、cTNThs、NTproBNP、GDF15、尿酸、エンドスタチン、ミーメカンおよびオステオポンチンと、収縮期パラメーターおよび収縮期パラメーターの間の相関性
データ評価(表5)は、駆出分画が保存されている患者においてNT−proBNPがLVEFおよびE/E’と同等に良好に関連し、収縮機能との関連性の方がわずかに有意性が大きいことを示した。よって、NT−proBNPは拡張機能障害を収縮機能障害に対して識別するのに適さない。NTproBNPとIGFBP7の組合わせは拡張機能障害の多数のパラメーターを査定するのに有用である可能性がある。
cTNThsはLVEFとの明らかな関連性を示さなかった(−0.04,p:0.69)が、拡張機能と有意に相関することが見出された(E/E’:0.32,p:0.02)。よって、cTNThsとIGFBP7の組合わせは拡張機能障害の多数のパラメーターを査定するのに有用である可能性がある。
IGFBP7は、表5に示すように、拡張期パラメーターとのきわめて強い高度に有意の相関性をもつことが見出された(E/A:0.76,p:0.001;LA平方 0.44,p:0.04)。IGFBP7は、試験したすべての新規マーカーおよび一般的マーカーと対比して、試験した多数の拡張期パラメーターに対する最良の関連性を示し、単独で、または他のマーカーとの組合わせで、拡張機能障害を検出するのに好適である。好ましいのはIGFBP7と、E/E’に対して強い相関性を示すマーカー(オステオポンチン、cTNThs、NTproBNP、エンドスタチン、ミーメカン)との組合わせである。
表5のデータ評価は、駆出分画が保存されている患者においてオステオポンチンとE/E’の強い相関性を示した(0.49,p:0.06)。よって、オステオポンチンは拡張機能の査定に際してIGFBP7を補足するのに有用な可能性がある。IGFBP7とオステオポンチンの組合わせは、拡張機能障害を検出するのに好ましい。
表5のデータ評価は、エンドスタチンとE/E’およびLAパラメーターとのきわめて強い相関性を示した。
エンドスタチンおよび尿酸はLAパラメーターに対する有意の関連性をもつことが示され、拡張機能を査定するためのIGFBP7の関連性を補足する。IGFBP−7とエンドスタチンおよび/または尿酸の組合わせは多様な拡張期パラメーターと関連づけるのに有用な可能性がある。
ミーメカンはEとの有意の関連性を示した。ミーメカンとIGFBP7の組合わせは拡張機能障害を査定するのに有用な可能性がある。
データ評価は、収縮期パラメーターおよび拡張期パラメーターに対するGDF15の相関性が有意に達しないことを示した。
HFpEF患者において最良の組合わせ(IGFBP7との)は下記のものである:
PRIO1:オステオポンチン
PRIO2:cTNThs
PRIO3:NTproBNP
PRIO4:エンドスタチン
PRIO5:ミーメカン
PRIO6:尿酸
PRIO7:GDF15。