以下、図面を参照しながら、本発明の電気デバイス用負極活物質およびこれを用いてなる電気デバイスの実施形態を説明する。但し、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
以下、本発明の電気デバイス用負極活物質が適用されうる電気デバイスの基本的な構成を、図面を用いて説明する。本実施形態では、電気デバイスとしてリチウムイオン二次電池を例示して説明する。
まず、本発明に係る電気デバイス用負極活物質を含む負極の代表的な一実施形態であるリチウムイオン二次電池用の負極およびこれを用いてなるリチウムイオン二次電池では、セル(単電池層)の電圧が大きく、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる。そのため本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなるリチウムイオン二次電池では、車両の駆動電源用や補助電源用として優れている。その結果、車両の駆動電源用等のリチウムイオン二次電池として好適に利用できる。このほかにも、携帯電話などの携帯機器向けのリチウムイオン二次電池にも十分に適用可能である。
すなわち、本実施形態の対象となるリチウムイオン二次電池は、以下に説明する本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなるものであればよく、他の構成要件に関しては、特に制限されるべきものではない。
例えば、上記リチウムイオン二次電池を形態・構造で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得るものである。
リチウムイオン二次電池内の電解質層の種類で区別した場合には、電解質層に非水系の電解液等の溶液電解質を用いた溶液電解質型電池、電解質層に高分子電解質を用いたポリマー電池など従来公知のいずれの電解質層のタイプにも適用し得るものである。該ポリマー電池は、さらに高分子ゲル電解質(単にゲル電解質ともいう)を用いたゲル電解質型電池、高分子固体電解質(単にポリマー電解質ともいう)を用いた固体高分子(全固体)型電池に分けられる。
したがって、以下の説明では、本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなる非双極型(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池につき図面を用いてごく簡単に説明する。但し、本実施形態のリチウムイオン二次電池の技術的範囲が、これらに制限されるべきものではない。
<電池の全体構造>
図1は、本発明の電気デバイスの代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体12の両面に正極活物質層15が配置された正極と、電解質層17と、負極集電体11の両面に負極活物質層13が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。
これにより、隣接する正極、電解質層、および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層15が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
正極集電体12および負極集電体11は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板27および負極集電板25がそれぞれ取り付けられ、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27および負極集電板25は、それぞれ必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体12および負極集電体11に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
上記で説明したリチウムイオン二次電池は、負極に特徴を有する。以下、当該負極を含めた電池の主要な構成部材について説明する。
<活物質層>
活物質層13または15は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
[正極活物質層]
正極活物質層15は、正極活物質を含む。
(正極活物質)
正極活物質としては、例えば、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、Li(Ni−Mn−Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。より好ましくはリチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が用いられ、さらに好ましくはLi(Ni−Mn−Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LiaNibMncCodMxO2(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.6であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば、プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)は、材料の純度向上および電子伝導性向上という観点から、容量および出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中の遷移金属を一部置換するものである。サイクル特性の観点からは、遷移元素の一部が他の金属元素により置換されていることが好ましく、特に一般式(1)において0<x≦0.3であることが好ましい。Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
より好ましい実施形態としては、一般式(1)において、b、cおよびdが、0.44≦b≦0.51、0.27≦c≦0.31、0.19≦d≦0.26であることが、容量と寿命特性とのバランスを向上させるという観点からは好ましい。例えば、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2は、一般的な民生電池で実績のあるLiCoO2、LiMn2O4、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2などと比較して、単位重量あたりの容量が大きく、エネルギー密度の向上が可能となることでコンパクトかつ高容量の電池を作製できるという利点を有しており、航続距離の観点からも好ましい。なお、より容量が大きいという点ではLiNi0.8Co0.1Al0.1O2がより有利であるが、寿命特性に難がある。これに対し、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2並みに優れた寿命特性を有しているのである。
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
正極活物質層15に含まれる正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜30μmであり、より好ましくは5〜20μmである。なお、本明細書において、「粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用いて観察される活物質粒子(観察面)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。また、本明細書において、「平均粒子径」の値は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。他の構成成分の粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
正極活物質層15は、バインダを含みうる。
(バインダ)
バインダは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。正極活物質層に用いられるバインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となる。これらのバインダは、1種単独で用いてもよいし、2種併用してもよい。
正極活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
正極(正極活物質層)は、通常のスラリーを塗布(コーティング)する方法のほか、混練法、スパッタ法、蒸着法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法および溶射法のいずれかの方法によって形成することができる。
[負極活物質層]
負極活物質層13は、負極活物質を含む。
(負極活物質)
本実施形態において、負極活物質は、ケイ素含有合金からなる。以下、本実施形態に係るケイ素含有合金の組成や構造、物性について説明する。
〔ケイ素含有合金の組成〕
本実施形態における負極活物質を構成するケイ素含有合金は、まず、Si−Sn−Tiで表される三元系の合金組成を有している。より具体的に、本実施形態における負極活物質を構成するケイ素含有合金は、下記化学式(1)で表される組成を有するものである。
上記化学式(1)において、Aは不可避不純物であり、x、y、z、及びaは、質量%の値を表し、この際、0<x<100、0<y<100、0<z<100、0≦a<0.5であり、x+y+z+a=100である。
上記化学式(1)から明らかなように、本実施形態に係るケイ素含有合金(SixSnyTizAaの組成を有するもの)は、Si、SnおよびTiの三元系である。かような組成を有することで、高いサイクル耐久性の実現が可能となる。また、本明細書において「不可避不純物」とは、Si含有合金において、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするものを意味する。当該不可避不純物は、本来は不要なものであるが、微量であり、Si合金の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。
本実施形態において、負極活物質(ケイ素含有合金)への添加元素としてTiを選択することで、Li合金化の際に、アモルファス−結晶の相転移を抑制してサイクル寿命を向上させることができる。また、これによって、従来の負極活物質(例えば、炭素系負極活物質)よりも高容量のものとなる。
ここで、Si系負極活物質では、充電時にSiとLiとが合金化する際、Si相がアモルファス状態から結晶状態へと転移して大きな体積変化(約4倍)を起こす。その結果、活物質粒子自体が壊れてしまい、活物質としての機能が失われてしまうという問題がある。このため、充電時におけるSi相のアモルファス−結晶の相転移を抑制することで粒子自体の崩壊を抑制することができ、活物質としての機能(高容量)が保持され、サイクル寿命も向上させることができる。
上述したように、本実施形態に係るケイ素含有合金(SixSnyTizAaの組成を有するもの)は、Si、SnおよびTiの三元系である。ここで、各構成元素の構成比(質量比x、y、z)の合計は100質量%であるが、x、y、zのそれぞれの値について特に制限はない。xについては、充放電(Liイオンの挿入脱離)に対する耐久性の保持および初期容量のバランスという観点から、好ましくは58≦x≦73であり、より好ましくは59≦x≦70であり、さらに好ましくは59≦x≦65であり、特に好ましくは59≦x≦63である。また、yについては、Si相中に固溶し、Si相中のSi正四面体間距離を増大させることにより、充放電時の可逆的Liイオンの挿入脱離を可能にするという観点から、好ましくは2≦y≦15であり、より好ましくは5≦y≦13であり、さらに好ましくは7≦y≦11である。そして、zについては、xと同様に充放電(Liイオンの挿入脱離)に対する耐久性の保持および初期容量のバランスという観点から、好ましくは25≦z≦35であり、より好ましくは27≦z≦33であり、さらに好ましくは28≦z≦30である。このように、Siを主成分としつつ、Tiを比較的多めに含ませ、かつ、Snについてもある程度含ませることで、本実施形態に係るケイ素含有合金の微細組織構造を達成しやすくなる。ただし、上述した各構成元素の構成比の数値範囲はあくまでも好ましい実施形態を説明するものに過ぎず、特許請求の範囲に含まれている限り、本発明の技術的範囲内のものである。
なお、Aは上述のように、原料や製法に由来する上記3成分以外の不純物(不可避不純物)である。前記aは、0≦a<0.5であり、0≦a<0.1であることが好ましい。負極活物質(ケイ素含有合金)が上記化学式(1)の組成を有するか否かは、蛍光X線分析(XRF)による定性分析、および誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法による定量分析により確認することが可能である。
〔ケイ素含有合金の構造〕
続いて、本実施形態における負極活物質を構成するケイ素含有合金は、非晶質または低結晶性ケイ素を主成分とするa−Si相がシリサイド相中に分散されてなる構造を有する点にも特徴がある。すなわち、連続相としてのシリサイド相からなる海の中に、分散相としてのa−Si相からなる島が分散しているいわゆる海島構造を有することが、本実施形態に係るケイ素含有合金の特徴の1つである。なお、ケイ素含有合金がこのような微細組織構造を有しているか否かは、例えば、ケイ素含有合金を高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)を用いて観察した後、観察画像と同じ視野についてEDX(エネルギー分散型X線分光法)により元素強度マッピングを行うことにより確認することができる。
〈a−Si相〉
ここで、本実施形態に係るケイ素含有合金において、a−Si相は、ケイ素の結晶構造の内部にスズが固溶してなる非晶質または低結晶性のケイ素を含む相である。このa−Si相は、本実施形態の電気デバイス(リチウムイオン二次電池)の作動時にリチウムイオンの吸蔵・放出に関与する相であり、電気化学的にリチウムと反応可能(すなわち、重量あたりおよび体積あたりに多量のリチウムを吸蔵・放出することが可能)な相である。また、a−Si相を構成するケイ素の結晶構造の内部にはスズが固溶しているが、ケイ素は電子伝導性に乏しいことから、母相にはリンやホウ素などの微量の添加元素や遷移金属などが含まれていてもよい。a−Si相のサイズについて特に制限はないが、充電時の膨張を抑制するという観点から、a−Si相のサイズは小さいほど好ましく、具体的には10nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましい。一方、a−Si相のサイズの下限値についても特に制限はないが、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは2nm以上であり、さらに好ましくは5nm以上であり、特に好ましくは8nm以上である。なお、a−Si相の直径の値については、HAADF−STEMでの高倍率(25nmスケールバー)のSiのEDX元素マッピングおよびTiのEDX元素マッピングを比較し、Siが存在しTiが存在しない領域をSi相とみなし、TiのEDX元素マッピングで強度が最大値の1/10を閾値とし、この閾値以下となる領域について二値化画像処理を行い、得られた二値化画像より、各Si相の寸法を読み取るという手法により5個以上の相について測定して得られた測定値の相加平均値として得ることができる。同様に、後述するシリサイド相の直径の値については、Cs−STEMでの高倍率(25nmスケールバー)のSiのEDX元素マッピングTiのEDX元素マッピングを比較し、Siが存在しTiも存在する領域をシリサイド相とみなし、TiのEDX元素マッピングで強度が最大値の1/10を閾値とし、この閾値以上となる領域について二値化画像処理を行い、得られた二値化画像より、各シリサイド相の寸法を読み取るという手法により5個以上の相について測定して得られた測定値の相加平均値として得ることができる。
このa−Si相は、後述するシリサイド相よりもアモルファス化していることが好ましい。かような構成とすることにより、負極活物質(ケイ素含有合金)をより高容量なものとすることができる。なお、a−Si相がシリサイド相よりもアモルファス化しているか否かは、高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)を用いたa−Si相およびシリサイド相のそれぞれの観察画像を高速フーリエ変換(FFT)して得られる回折図形から判定することができる。すなわち、この回折図形に示される回折パターンは、単結晶相については二次元点配列のネットパターン(格子状のスポット)を示し、多結晶相についてはデバイシェラーリング(回折環)を示し、非晶質相についてはハローパターンを示す。これを利用することで、上記の確認が可能となる。本実施形態において、a−Si相は、非晶質または低結晶性であればよいが、より高いサイクル耐久性を実現するという観点から、a−Si相は、非晶質のものであることが好ましい。
なお、本実施形態に係るケイ素含有合金はスズを必須に含むが、スズはケイ素との間でシリサイドを形成しない元素であることから、シリサイド相ではなくa−Si相に存在することになる。そしてスズの含有量が少ない場合には全てのスズ元素はa−Si相においてケイ素の結晶構造の内部に固溶して存在する。一方、スズの含有量が多くなると、a−Si相のケイ素中に固溶しきれなくなったスズ元素は凝集してスズ単体の結晶相として存在する。本実施形態において、このようなスズ単体の結晶相は存在しないことが好ましい。
〈シリサイド相〉
一方、上述した海島構造の海(連続相)を構成するシリサイド相は、チタンのケイ化物(シリサイド)を主成分とする結晶相である。このシリサイド相は、チタンのケイ化物を含むことでa−Si相との親和性に優れ、特に充電時の体積膨張における結晶界面での割れを抑制することができる。さらに、シリサイド相はa−Si相と比較して電子伝導性および硬度の観点で優れている。このように、シリサイド相はa−Si相の低い電子伝導性を改善し、かつ膨張時の応力に対して活物質の形状を維持する役割をも担っている。本実施形態においては、このような特性を有するシリサイド相が海島構造の海(連続相)を構成することで、負極活物質(ケイ素含有合金)の電子伝導性をよりいっそう向上させることができ、しかもa−Si相の膨張時の応力を緩和して活物質の割れを防止することができ、サイクル耐久性の向上に寄与しているものと考えられる。
シリサイド相には複数の相が存在していてもよく、例えばTiとSiとの組成比が異なる2相以上(例えば、TiSi2およびTiSi)が存在していてもよい。Tiは、ケイ化物を形成した際に他の元素のケイ化物よりも高い電子伝導度を示し、かつ高い強度を有するものである。特にシリサイドの1種であるTiSi2は、非常に優れた電子伝導性を示すため、好ましい。シリサイドのこのような特性と、上述した非晶質Siの優れた特定に鑑みると、シリサイドはTiSi2であり、かつ、a−Si相は非晶質であることが好ましい。
特に、シリサイド相に組成比が異なる2相以上(例えば、TiSi2およびTiSi)が存在する場合は、シリサイド相の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%がTiSi2相である。
上記シリサイド相のサイズについて特に制限はないが、好ましい実施形態において、シリサイド相のサイズは50nm以下であり、より好ましくは30nm以下であり、さらに好ましくは25nm以下である。かような構成とすることにより、負極活物質(ケイ素含有合金)をより高容量なものとすることができる。一方、シリサイド相のサイズの下限値についても特に制限はないが、Li挿入脱離に伴うa−Si相の膨張・収縮を抑え込むという観点から、シリサイド相の直径は上述したa−Si相の直径よりも大きいことが好ましく、その絶対値としては、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは15nm以上である。
なお、チタンのダイシリサイド(TiSi2)には、C49構造およびC54構造という2種類の結晶構造が存在する。C49構造は抵抗率が60μΩ・cm程度と高抵抗率を示す相(準安定相)であり、底心−斜方晶系の構造である。一方、C54構造は抵抗率が15〜20μΩ・cm程度と低抵抗率の相(安定相)であり、面心−斜方晶系の構造である。ここで、本実施形態に係るケイ素含有合金(負極活物質)のシリサイド相に含まれるダイシリサイド(TiSi2)の結晶構造はC54構造であることが好ましい。C54構造を有するダイシリサイド(TiSi2)は、C49構造を有するものと比較して低抵抗率かつ高硬度である。よって、本形態に係る負極活物質は高い電子伝導性を示し、しかも充放電時の活物質におけるa−Si相の膨張収縮によって生じる応力を緩和する効果に優れるものと考えられ、このことも高いサイクル耐久性の実現に寄与しているものと思われる。以上のことから、本発明の好ましい実施形態では、シリサイド相に含まれるチタンのケイ化物がチタンのダイシリサイド(TiSi2)であるときに、当該TiSi2がC54構造を有するものを主成分(質量比で50質量%以上)とするものである。ここで、「主成分」とは、シリサイド相100質量%に占めるC54構造を有するTiSi2の質量比が50質量%超であることを意味し、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
〔ケイ素含有合金のピーク強度の関係〕
また、本実施形態において、ケイ素含有合金は、示差走査熱量測定(DSC)法により得られるスペクトルにおいて1200〜1350℃に観察されるSiピークのピーク強度をI(1)とし、1400〜1500℃に観察されるTiSi2ピークのピーク強度をI(2)とし、a−Si相が含まれないと仮定した場合のSi量に相当するピーク強度と前記Siピークのピーク強度との差として定義されるa−Siピークのピーク強度をI(3)としたときに、
I(2)/I(1)>0.59、および、
I(3)/I(1)>0.56
の関係を満たす点にも特徴がある。ここで、示差走査熱量測定(DSC)法とは、物質および基準物質の温度をプログラムによって変化させながら、その物質および基準物質に対するエネルギー入力の差を温度の関数として測定する方法である。本発明におけるケイ素含有合金の示差走査熱量測定(DSC)は、後述する実施例の欄に記載の手法を用いて行うものとする。
このようにして本発明に係るケイ素含有合金に対して示差走査熱量測定(DSC)を実施すると、例えば図3(後述する実施例2において作製されたケイ素含有合金について測定されたスペクトル)に示すように、600〜700℃付近の温度(図3に示す点fに対応する温度)でベースラインのシフトが観測される。この際の温度が、この合金のガラス転移温度(Tg)である。そして、その後も昇温を継続すると、1200〜1350℃付近の温度で比較的大きくシャープな吸熱ピークが観測され(図3に示す点cはこのピークトップであり、当該吸熱ピークは結晶性Siの融解熱を表す)、さらに1400〜1500℃付近の温度で比較的小さくブロードな吸熱ピークが観測される(図3に示す点eはこのピークトップであり、当該吸熱ピークはTiSi2の融解熱を表す)。本発明における「Siピークのピーク強度」とは、ベースラインに向けて点cから引いた垂線と当該ベースラインとの交点(図3に示す点a)と点cとの距離(線分acの長さ)の相対値を意味する。また、本発明における「TiSi2ピークのピーク強度」とは、点eからベースラインに向けて引いた垂線とベースラインとの交点(図3に示す点d)と点eとの距離(線分deの長さ)の相対値を意味する。一方、本発明に係るケイ素含有合金では、a−Si相を含むことによってガラス転移温度(Tg)が存在することとなり、その結果としてベースラインのシフトが観察される。したがって、ガラス転移温度(Tg)よりも低温側におけるベースラインを外挿した仮想ベースラインに向けて点cから引いた垂線と当該仮想ベースラインとの交点(図3に示す点b)と点cとの距離(線分bcの長さ)の相対値は、a−Si相が含まれないと仮定した場合のSi量(すべてのSiが結晶性Siであると仮定した場合の全Si量)に相当するピーク強度を表す。言い換えれば、線分bcの長さ(a−Si相が含まれないと仮定した場合のSi量に相当するピーク強度)から線分acの長さ(実際の結晶性Si量)を減算した長さ(すなわち、点bと点aとの距離(線分abの長さ))の相対値はケイ素含有合金に含まれるa−Si量に相当することになる。よって、本明細書においては、この線分abの長さに相当するピーク強度を「a−Si相が含まれないと仮定した場合のSi量に相当するピーク強度と前記Siピークのピーク強度との差として定義されるa−Siピークのピーク強度」と称することとしている。
上述したように、本実施形態に係るケイ素含有合金からなる負極活物質は、I(2)/I(1)>0.59、および、I(3)/I(1)>0.56を満たす点に特徴がある。かような規定を満足するケイ素含有合金においては、Siのアモルファス化を十分に進行させるとともに、ケイ素を主成分とする相を硬いシリサイド相によって囲むことで活物質の膨張収縮時の体積変化を抑制することが可能となる。その結果、リチウムイオン二次電池等の電気デバイスのサイクル耐久性を向上させることが可能となるものと考えられる。
本発明の好ましい実施形態においては、よりいっそうサイクル耐久性に優れるという観点から、I(2)/I(1)の値は、好ましくはI(2)/I(1)≧0.70を満足し、より好ましくはI(2)/I(1)≧0.76を満足し、さらに好ましくはI(2)/I(1)≧1.27を満足し、特に好ましくはI(2)/I(1)≧1.69を満足するものである。また、同様によりいっそうサイクル耐久性に優れるという観点から、I(3)/I(1)の値は、好ましくはI(3)/I(1)≧0.60を満足し、より好ましくはI(3)/I(1)≧0.76を満足し、さらに好ましくはI(3)/I(1)≧1.00を満足し、特に好ましくはI(3)/I(1)≧1.31を満足するものである。なかでも、好ましくはI(2)/I(1)≧0.76およびI(3)/I(1)≧0.76を満足し、より好ましくはI(2)/I(1)≧1.27およびI(3)/I(1)≧1.00を満足し、さらに好ましくはI(2)/I(1)≧1.69およびI(3)/I(1)≧1.31を満足する。
一方、サイクル耐久性に優れる本実施形態に係るケイ素含有合金(負極活物質)において、放電容量の値はサイクル耐久性との間でトレードオフの関係を示す。したがって、十分なサイクル耐久性を達成しながらもある程度の放電容量を確保するという観点からは、I(2)×I(3)/{I(1)}2<0.50の関係をさらに満たすことが好ましく、I(2)×I(3)/{I(1)}2<0.48の関係をさらに満たすことがより好ましく、I(2)×I(3)/{I(1)}2<0.45の関係をさらに満たすことが特に好ましく、I(2)×I(3)/{I(1)}2<0.42の関係をさらに満たすことが最も好ましい。
なお、上述した負極活物質の組成や構造、物性の規定に関しては、これらを満たすようにするための制御手段について特に制限はないが、ケイ素含有合金を製造する際に用いる原料の組成を調節することや、後述する本発明の他の形態に係る製造方法を採用したり、Tiの配合量が一定の場合にはSnの配合量を相対的に少なめに設定したりすることによっても、上記規定を満たすように制御することが可能である。
本実施形態における負極活物質を構成するケイ素含有合金の粒子径は特に制限されないが、平均粒子径として、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.2〜10μmである。
(負極活物質の製造方法)
本実施形態に係る電気デバイス用負極活物質の製造方法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうるが、本願では、a−Si相がシリサイド相中に分散されてなる構造を有し、かつ、各ピーク強度の値が所定の関係を満たすケイ素含有合金からなる負極活物質の製造方法の一例として、高エネルギータイプのメカニカルアロイング処理を利用することができる。具体的には、前記ケイ素含有合金と同一の組成を有する母合金の粉末に対して、15[G]以上の遠心力が加わるようなボールミル装置を用いてメカニカルアロイング処理を施すことにより、前記ケイ素含有合金からなる電気デバイス用負極活物質が得られる。このように、比較的大きい遠心力が加わるようなボールミル装置を用いてメカニカルアロイング処理を実施して負極活物質(ケイ素含有合金)を製造することで、上述した微細組織構造を有する合金を製造することが可能となる。また、前記製造方法は、得られる合金における各ピーク強度の値も上記所定の関係を満たすように制御することが可能となるなど、負極活物質のサイクル耐久性および充放電効率の両立に有効に寄与し得る製造方法である。以下、上記製造方法についてより詳細に説明するが、下記に記載の製造方法は本実施形態を製造するための一例に過ぎず、本発明の負極活物質を製造できる方法であれば特に制限はない。
まず、母合金を得るために、原料として、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、チタン(Ti)のそれぞれについて、高純度の原料の粉末を準備する。
続いて、上記で準備した原料粉末を用いて、メカニカルアロイング処理を行う。
メカニカルアロイング処理により合金化処理を行うことで、相の状態の制御を容易に行うことができるため、メカニカルアロイング処理は、ボールミル装置を用いて、粉砕ポットに粉砕ボールおよび合金の原料粉末を投入してエネルギーを付与することで、合金化を図ることができる。すなわち、エネルギーの付与により熱が生じ、原料粉末が合金化してa−Si相のアモルファス化および当該相へのスズの固溶、並びにシリサイド相の形成が進行する。
本形態に係る製造方法では、メカニカルアロイング処理に用いられるボールミル装置によって内容物に加えられる遠心力が15[G]以上である点に特徴がある。このように比較的大きい遠心力が加わるようなボールミル装置を用いてメカニカルアロイング処理を施すことで、より短い時間の処理でも同等以上のサイクル耐久性を発揮しうるケイ素含有合金(負極活物質)を製造することが可能となる。また、比較的高価な原料であるSnの使用量を低減させることも可能となることから、ケイ素含有合金(負極活物質)の製造コストを低減させることも可能となる。なお、上記遠心力の値は、好ましくは50[G]以上であり、より好ましくは100[G]以上であり、さらに好ましくは120[G]以上であり、特に好ましくは150[G]以上であり、最も好ましくは175[G]以上である。一方、遠心力の上限値について特に制限はないが、通常は200[G]程度が現実的である。
ここで、ボールミル装置において内容物に加わる遠心力の値は、下記の数式によって算出される:
上記数式において、Gnlは遠心力[G]、rsは公転半径[m]、rplは自転半径[m]、iwは自転公転比[−]、rpmは回転数[回/分]である。したがって、公転半径rsを大きくするほど、自転半径rplを小さくするほど、また、回転数を大きくするほど、遠心力Gnlの値は大きくなることがわかる。
ボールミル装置の具体的な構成について特に制限はなく、上述した遠心力の規定を満たす限り、遊星ボールミル装置、撹拌ボールミル装置など従来公知のボールミル装置が用いられうる。ただし、本形態に係る製造方法において、好ましくは撹拌ボールミル装置が用いられる。この撹拌ボールミル装置は、円筒状の内面を有する容器と、この容器内に設けられた撹拌翼とを備えている。この撹拌ボールミル装置の容器内には、原料粉末、ボール、溶媒および処理剤が仕込まれるようになっている。遊星ボールミル装置と異なり、容器が回転することなく、容器内に設けられた撹拌翼が回転して原料粉末を合金化するようになっている。このような撹拌ボールミル装置を使用すると、撹拌翼によって容器の内容物を勢いよく撹拌することができることから、他のボールミル装置よりも大きい遠心力を容器の内容物に加えることができる。
なお、一般に、メカニカルアロイング処理を実施する時間を長くするほど、好適な微細組織構造を有するケイ素含有合金を得ることができるが、本形態に係る製造方法では、上述したように比較的大きな遠心力が内容物に加わるようにメカニカルアロイング処理を施すことから、メカニカルアロイング処理の時間を短縮させても同等以上のサイクル耐久性を実現することが可能となる。かような観点から、本形態に係る製造方法において、メカニカルアロイング処理の時間は、好ましくは45時間以下であり、より好ましくは40時間以下であり、さらに好ましくは36時間以下であり、いっそう好ましくは30時間以下であり、特に好ましくは24時間以下であり、最も好ましくは20時間以下である。なお、メカニカルアロイング処理の時間の下限値は特に設定されないが、通常は12時間以上であればよい。
また、高エネルギーを与えることにより短時間で合金化処理をできるため、Si酸化の進行を抑えることができ、そのため、各ピーク強度の値を上記所定の関係を満たすように制御することができる。この観点からも、上記のように、メカニカルアロイング処理で用いる装置の遠心力の値を大きくすることにより、本発明に係るケイ素含有合金を得ることが好ましい。
なお、ボールミル装置を用いたメカニカルアロイング処理においては、従来周知のボールを使用して原料粉末の合金化を行うことができるが、好ましくは、ボールとして、1mm以下、特に0.1〜1mmの直径を有するチタンまたはジルコニア製のものが使用される。特に、本形態においては、プラズマ回転電極法によって製造されたチタン製のボールが好適に使用される。このようなプラズマ回転電極法によって製造された直径が1mm以下のチタンまたはジルコニア製ボールは、均一な球形を有しており、ケイ素含有合金を得るためのボールとして特に好ましい。
また、本形態において、撹拌ボールミルの容器に仕込まれる溶媒も、特に限定されない。このような溶媒としては、例えば水(特にイオン交換水)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ジメチルケトン、ジエチルケトン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジフェニルエーテル、トルエンおよびキシレンが挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または適宜組み合わせて使用される。
さらに、本発明において、容器に仕込まれる処理剤も、特に限定されない。このような処理剤としては、例えば、容器の内壁への内容物の付着を防止するためのカーボン粉末のほか、界面活性剤および/または脂肪酸が挙げられる。
上述した手法によるメカニカルアロイング処理は、通常乾式雰囲気下で行われるが、メカニカルアロイング処理後の粒度分布は大小の幅が非常に大きい場合がある。このため、粒度を整えるための粉砕処理および/または分級処理を行うことが好ましい。
また、上述した製造方法以外に、急冷凝固などの工程を経てから、メカニカルアロイング処理を実施することもできる。急冷を経ることにより、粉末から合金化処理する場合に比べて、初期の状態でSiの非晶質化、TiSi2の合金化が進行するため、短時間で合金化処理ができる。また、本発明に係る負極活物質を製造できるものであれば、適宜に工程を組み合わせることができる。
以上、負極活物質層に必須に含まれる所定の合金について説明したが、負極活物質層はその他の負極活物質を含んでいてもよい。上記所定の合金以外の負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどのカーボン、SiやSnなどの純金属や上記所定の組成比を外れる合金系活物質、あるいはTiO、Ti2O3、TiO2、もしくはSiO2、SiO、SnO2などの金属酸化物、Li4/3Ti5/3O4もしくはLi7MnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物(複合窒化物)、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Liなどが挙げられる。ただし、上記所定の合金を負極活物質として用いることにより奏される作用効果を十分に発揮させるという観点からは、負極活物質の全量100質量%に占める上記所定の合金の含有量は、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは80〜100質量%であり、さらに好ましくは90〜100質量%であり、特に好ましくは95〜100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
続いて、負極活物質層13は、バインダを含みうる。
(バインダ)
バインダは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。負極活物質層に用いられるバインダの種類についても特に制限はなく、正極活物質層に用いられるバインダとして上述したものが同様に用いられうる。よって、ここでは詳細な説明は省略する。
なお、負極活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは負極活物質層に対して、0.5〜20質量%であり、より好ましくは1〜15質量%である。
(正極および負極活物質層15、13に共通する要件)
以下に、正極および負極活物質層15、13に共通する要件につき、説明する。
正極活物質層15および負極活物質層13は、必要に応じて、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等を含む。
導電助剤
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量は、活物質層の総量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上の範囲である。また、活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量は、活物質層の総量に対して、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下の範囲である。上述したケイ素含有合金からなる負極活物質自体の電子伝導性は低く、導電助剤の量によって電極抵抗を低減することができ、活物質層での導電助剤の配合比(含有量)を上記範囲内に規定することで以下の効果が発現される。即ち、電極反応を阻害することなく、電子伝導性を十分に担保することができ、電極密度の低下によるエネルギー密度の低下を抑制でき、ひいては電極密度の向上によるエネルギー密度の向上を図ることができる。
また、上記導電助剤とバインダの機能を併せ持つ導電性結着剤をこれら導電助剤とバインダに代えて用いてもよいし、あるいはこれら導電助剤とバインダの一方ないし双方と併用してもよい。導電性結着剤としては、既に市販のTAB−2(宝泉株式会社製)を用いることができる。
電解質塩(リチウム塩)
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。
イオン伝導性ポリマー
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
正極活物質層および負極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水電解質二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
各活物質層(集電体片面の活物質層)の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層の厚さは、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮し、通常1〜500μm程度、好ましくは2〜100μmである。
<集電体>
集電体11、12は導電性材料から構成される。集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。
集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
集電体の形状についても特に制限されない。図1に示す積層型電池10では、集電箔のほか、網目形状(エキスパンドグリッド等)等を用いることができる。
なお、負極活物質をスパッタ法等により薄膜合金を負極集電体12上に直接形成する場合には、集電箔を用いるのが望ましい。
集電体を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が採用されうる。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
<電解質層>
電解質層17を構成する電解質としては、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
液体電解質は、有機溶媒にリチウム塩(電解質塩)が溶解した形態を有する。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)等のカーボネート類が例示される。上記有機溶媒を、単独で使用してもよく、二種以上を混合して使用しても良い。
また、リチウム塩としては、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiTaF6、LiClO4、LiCF3SO3等の電極の活物質層に添加され得る化合物を採用することができる。
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない真性ポリマー電解質とに分類される。
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質(電解液)が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導を遮断することが容易になる点で優れている。
マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
ゲル電解質中の上記液体電解質(電解液)の割合としては、特に制限されるべきものではないが、イオン伝導度などの観点から、数質量%〜98質量%程度とするのが望ましい。本実施形態では、電解液の割合が70質量%以上の、電解液が多いゲル電解質について、特に効果がある。
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質や真性ポリマー電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータ(不織布を含む)の具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜や多孔質の平板、更には不織布が挙げられる。
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が真性ポリマー電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
ゲル電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
<集電板およびリード>
電池外部に電流を取り出す目的で、集電板を用いてもよい。集電板は集電体やリードに電気的に接続され、電池外装材であるラミネートシートの外部に取り出される。
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。
正極端子リードおよび負極端子リードに関しても、必要に応じて使用する。正極端子リードおよび負極端子リードの材料は、公知のリチウムイオン二次電池で用いられる端子リードを用いることができる。なお、電池外装材29から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
<電池外装材>
電池外装材29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。
なお、上記のリチウムイオン二次電池は、従来公知の製造方法により製造することができる。
<リチウムイオン二次電池の外観構成>
図2は、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図2に示すように、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極集電板59、負極集電板58が引き出されている。発電要素57は、リチウムイオン二次電池50の電池外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極集電板59および負極集電板58を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、図1に示すリチウムイオン二次電池(積層型電池)10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、正極(正極活物質層)13、電解質層17および負極(負極活物質層)15で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のもの(ラミネートセル)に制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン電池では、円筒型形状のもの(コインセル)や角柱型形状(角型セル)のもの、こうした円筒型形状のものを変形させて長方形状の扁平な形状にしたようなもの、更にシリンダー状セルであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型や角柱型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図2に示す正極集電板59、負極集電板58の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極集電板59と負極集電板58とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極集電板59と負極集電板58をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出すようにしてもよいなど、図2に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、集電板に変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
上述したように、本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなる負極ならびにリチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、好適に利用することができる。即ち、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
なお、上記実施形態では、電気デバイスとして、リチウムイオン電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池、さらには一次電池にも適用できる。また、電池だけではなくキャパシタにも適用できる。
本発明を、以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、金属の組成比は本願において、質量%の表記としている。
(比較例1)
[ケイ素含有合金(負極活物質)の製造]
以下の液体急冷凝固法により、Si59Sn11Ti30(組成比は質量比)の組成を有するケイ素含有合金を製造した。
具体的に、高純度金属Siインゴット(5N)、高純度Tiワイヤ(3N)、高純度Snショット(3N)を用い、アーク溶解法を用いて、ケイ素含有合金Si59Sn11Ti30のインゴットを作製した。
続いて、上記で得られたインゴットを母合金として用いて、液体急冷凝固法によりケイ素含有合金を作製した。具体的には、日新技研株式会社製の液体急冷凝固装置NEV−A05型を用いて、Ar置換のうえゲージ圧−0.03MPaに減圧したチャンバー内に設置した石英ノズル中に、Si59Sn11Ti30のインゴット(母合金)を入れ、高周波誘導加熱により融解した後、0.03MPaの噴射圧にて、回転数4000rpm(周速:41.9m/sec)のCuロール上に噴射して、薄帯状合金(急冷薄帯)を作製した。
その後、粉砕処理を行った。具体的には、ドイツ フリッチュ社製遊星ボールミル装置P−6を用いて、ジルコニア製粉砕ポットにジルコニア製粉砕ボールと各合金の各原料粉末を投入し、400rpmで1時間、粉砕処理を実施して、ケイ素含有合金(負極活物質)を得た。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)の平均粒子径は10μmであった。
[負極の作製]
負極活物質である上記で製造したケイ素含有合金(Si59Sn11Ti30)80質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック 5質量部と、バインダであるポリイミド 15質量部と、を混合し、脱泡混練機(Thinky AR−100)を用いてN−メチルピロリドンに分散させて負極スラリーを得た。次いで、得られた負極スラリーを、銅箔よりなる負極集電体の両面にそれぞれ負極活物質層の厚さが30μmとなるように均一に塗布し、真空中で24時間乾燥させて、負極を得た。
[リチウムイオン二次電池(コインセル)の作製]
上記で作製した負極と対極Li箔(本城金属株式会社製、直径15mm、厚さ200μm)とを対向させ、この間にセパレータ(セルガード社製 セルガード2400)を配置した。次いで、負極、セパレータ、および対極Liの積層体をコインセル(CR2032、材質:ステンレス鋼(SUS316))の底部側に配置した。さらに、正極と負極との間の絶縁性を保つためガスケットを装着し、下記電解液をシリンジにより注入し、スプリングおよびスペーサを積層し、コインセルの上部側を重ねあわせ、かしめることにより密閉して、リチウムイオン二次電池(コインセル)を得た。
なお、上記電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:1(体積比)の割合で混合した有機溶媒に、リチウム塩である六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
(実施例1)
上述した比較例1で得られた薄帯状合金(急冷薄帯)を直径で約15μmのサイズに粉砕し、得られた粉砕物に対してメカニカルアロイング処理を施した。具体的には、ドイツ フリッチュ社製遊星ボールミル装置P−6を用いて、ジルコニア製粉砕ポットにジルコニア製粉砕ボールおよび上記粉砕物を投入し、600rpm、24時間の条件でメカニカルアロイング処理を施して合金化させた。その後、400rpm、1時間の粉砕処理を施して、ケイ素含有合金(負極活物質)を得た。なお、本実施例において用いた遊星ボールミル装置において、公転半径rs=0.060[m]、自転半径rpl=0.033[m]、自転公転比iw=−1.818[−]、回転数rpm=600[回/分]であったことから、遠心力Gnl=19.4[G]と算出された。また、得られたケイ素含有合金(負極活物質)の平均粒子径は10μmであった。
ケイ素含有合金(負極活物質)として上記で得られたものを使用したこと以外は、上述した比較例1と同様の手法により、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
(実施例2)
メカニカルアロイング処理の処理時間を48時間としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、ケイ素含有合金(負極活物質)、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)の平均粒子径は10μmであった。
(実施例3)
以下のメカニカルアロイング法により、Si63Sn7Ti30(組成比は質量比)の組成を有するケイ素含有合金を製造した。
具体的には、ドイツ ZOZ社製撹拌ボールミル装置C−01Mを用いて、SUS製粉砕ポットに1620gのジルコニア製粉砕ボール(φ5mm)および1gのカーボン(SGL)を投入し、その後1000rpmで10分間、プレ粉砕処理を実施した。その後、各合金の各原料粉末を合計で100g投入し、1500rpmで20時間かけて合金化させ(合金化処理)、その後400rpmで1時間、微粉砕処理を実施して、ケイ素含有合金(負極活物質)を得た。なお、本実施例において用いた撹拌ボールミル装置において、公転半径rs=0.070[m]、自転半径rpl=0[m]、回転数rpm=1500[回/分]であったことから、遠心力Gnl=176.0[G]と算出された。また、得られたケイ素含有合金(負極活物質)の平均粒子径は10μmであった。
ケイ素含有合金(負極活物質)として上記で得られたものを使用したこと以外は、上述した比較例1と同様の手法により、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
(実施例4)
合金の組成をSi61Sn9Ti30に変更したこと以外は、上述した実施例3と同様の手法により、ケイ素含有合金(負極活物質)、負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。なお、得られたケイ素含有合金(負極活物質)の平均粒子径は10μmであった。
[ケイ素含有合金(負極活物質)についての示差走査熱量測定(DSC)]
上述した比較例および実施例1〜4のそれぞれにおいて作製したケイ素含有合金(負極活物質)について、以下の条件および装置を用いて示差走査熱量測定(DSC)法による分析を行った。
(DSC法の条件および装置)
委託会社:セイコーアイ・テクノリサーチ株式会社
実験装置:示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 DSC−6300)
温度範囲:室温〜1500℃
昇降温速度:10℃/min
雰囲気:アルゴン雰囲気
基準物質:アルミナ粉末
試料容器:アルミナ製。
ここで、上記DSC法により得られたスペクトルにおいて、1200〜1350℃に観察されるSiピークのピーク強度をI(1)とし、1400〜1500℃に観察されるTiSi2ピークのピーク強度をI(2)とし、a−Si相が含まれないと仮定した場合のSi量に相当するピーク強度と前記Siピークのピーク強度との差として定義されるa−Siピークのピーク強度をI(3)としたときの「I(2)/I(1)」の値、「I(3)/I(1)」の値、および、「I(2)×I(3)/{I(1)}2」の値を、下記の表1に示す。なお、上述した実施例2において作製された負極活物質(ケイ素含有合金)について測定された示差走査熱量測定(DSC)の結果を示すスペクトルを図3に示す。また、上述した比較例1において作製された負極活物質(ケイ素含有合金)について測定された示差走査熱量測定(DSC)の結果を示すスペクトルを図4に示す。
[ケイ素含有合金(負極活物質)の組織構造の分析]
実施例1において作製したケイ素含有合金(負極活物質)の組織構造を分析した。
図5Aの上段左の写真は、実施例1のケイ素含有合金(負極活物質)の高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)による観察画像(低倍率)である。また、図5Bの上段左の写真は、実施例1のケイ素含有合金(負極活物質)の高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)による観察画像(高倍率)である。図5Aおよび図5Bの上段右の写真は、上段左の観察画像と同じ視野についてEDX(エネルギー分散型X線分光法)により元素強度マッピングを行った画像である。そして、図5Aおよび図5Bの下段の写真は、左からSn、Si、Tiのそれぞれの元素に対するマッピング画像である。これらの結果から、Tiが存在する部位にはSiも存在することから当該部位にはシリサイド(TiSi2)相が存在するものと考えられた。また、Tiが存在しない部位にもSiが存在すること、SnはTiが存在せずSiが存在する部位に存在することもわかった。以上の結果をまとめると、実施例1のケイ素含有合金(負極活物質)は、Siの結晶構造の内部にSnが固溶してなる非晶質または低結晶性のSiを含むa−Si相が、遷移金属のケイ化物を主成分とするシリサイド(TiSi2)相中に分散されてなる構造を有するものであることがわかった。また、実施例2〜4のケイ素含有合金(負極活物質)も同様の構造を有するものであることが、それぞれ図6Aおよび図6B、図7Aおよび図7B、並びに図8Aおよび図8Bに示す観察結果によって確認された。
一方、図9Aおよび図9Bに示す観察結果からわかるように、比較例1のケイ素含有合金(負極活物質)では、実施例の構造とは異なり、シリサイド(TiSi2)の結晶の粗大化やSnの凝集体の偏析が観察された。
[充放電効率およびサイクル耐久性の評価]
上述した比較例および実施例1〜4のそれぞれにおいて作製したリチウムイオン二次電池(コインセル)について、以下の充放電試験条件に従って、充放電効率およびサイクル耐久性の評価を行った。
(充放電試験条件)
1)充放電試験機:HJ0501SM8A(北斗電工株式会社製)
2)充放電条件[充電過程]0.1mA、10mV→2V(定電流モード)
[放電過程]0.3C、2V→10mV(定電流モード)
3)恒温槽:PFU−3K(エスペック株式会社製)
4)評価温度:300K(27℃)。
評価用コインセルは、充放電試験機を使用して、上記評価温度に設定された恒温槽中にて、充電過程(評価用電極へのLi挿入過程を言う)では、定電流モードとし、0.1mAにて10mVから2Vまで充電した。その後、放電過程(評価用電極からのLi脱離過程を言う)では、定電流モードとし、0.3C、2Vから10mVまで放電した。以上の充放電サイクルを1サイクルとして、同じ充放電条件にて、初期サイクル(1サイクル)〜50サイクルまで充放電試験を行った。そして、初期充電容量に対する初期放電容量の割合(初期充放電効率)、および1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の割合(放電容量維持率[%])を求めた結果を、下記の表1に示す。
上記表1に示す結果から、本発明に係る負極活物質は、I(2)/I(1)>0.59およびI(3)/I(1)>0.56の関係を満たしていた。これによって、実施例の電気デバイス(リチウムイオン二次電池)は50サイクル後の放電容量維持率が高い値に維持されることがわかる。また、I(2)/I(1)≧0.76およびI(3)/I(1)≧0.76の関係を満たす実施例2〜4では、特に優れた放電容量維持率が達成されうることもわかる。なお、初期充放電効率の大幅な低下は確認されず、比較例1とほぼ同等かそれ以上の初期充放電効率を確保することもできた。一方、I(2)×I(3)/{I(1)}2の値が0.50未満であると、放電容量が高い値に維持され、容量とサイクル耐久性とのバランスに優れたケイ素含有合金(負極活物質)が提供されうる。
なお、比較例1で作製されたケイ素含有合金(負極活物質)の組織構造の分析では、上述したように、シリサイド(TiSi2)の結晶の粗大化やSnの凝集体の偏析が観察された。このことから、比較例1のケイ素含有合金(負極活物質)では、SnがSi相の内部に十分に固溶していないことでSiのアモルファス化が十分に進行しておらず、また、ケイ素を主成分とする相を硬いシリサイド相によって十分に囲むこともできていない結果、十分なサイクル耐久性が発現していないものと考えられる。