本発明の一形態によれば、SiSnTiAl合金からなる電気デバイス用負極活物質であって、組成範囲として、Si:60〜69質量%、Ti:28〜31質量%、Sn:1.5〜8質量%、Al:0.5〜2質量%、及び、残部が不可避的不純物からなる組成を有し、微細組織として、一部にSnを含み、非晶質又は低結晶性のケイ素を主成分とするa−Si相が、チタンのケイ化物を主成分とするシリサイド相中に分散され、前記シリサイド相中にAlを含有することを特徴とする電気デバイス用負極活物質が提供される。
以下、図面を参照しながら、本発明の電気デバイス用負極活物質並びにこれを用いてなる電気デバイスの実施形態を説明する。但し、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
以下、本発明の電気デバイス用負極活物質が適用されうる電気デバイスの基本的な構成を、図面を用いて説明する。本実施形態では、電気デバイスとしてリチウムイオン二次電池を例示して説明する。
まず、本発明に係る電気デバイス用負極活物質を含む負極の代表的な一実施形態であるリチウムイオン二次電池用の負極及びこれを用いてなるリチウムイオン二次電池では、セル(単電池層)の電圧が大きく、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる。そのため本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなるリチウムイオン二次電池では、車両の駆動電源用や補助電源用として優れている。その結果、車両の駆動電源用等のリチウムイオン二次電池として好適に利用できる。このほかにも、携帯電話などの携帯機器向けのリチウムイオン二次電池にも十分に適用可能である。
すなわち、本実施形態の対象となるリチウムイオン二次電池は、以下に説明する本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなるものであればよく、他の構成要件に関しては、特に制限されるべきものではない。
例えば、上記リチウムイオン二次電池を形態・構造で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池及び双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得るものである。
リチウムイオン二次電池内の電解質層の種類で区別した場合には、電解質層に非水系の電解液等の溶液電解質を用いた溶液電解質型電池、電解質層に高分子電解質を用いたポリマー電池など従来公知のいずれの電解質層のタイプにも適用し得るものである。該ポリマー電池は、さらに高分子ゲル電解質(単にゲル電解質ともいう)を用いたゲル電解質型電池、高分子固体電解質(単にポリマー電解質ともいう)を用いた固体高分子(全固体)型電池に分けられる。
したがって、以下の説明では、本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなる非双極型(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池につき図面を用いてごく簡単に説明する。但し、本実施形態のリチウムイオン二次電池の技術的範囲が、これらに制限されるべきものではない。
<電池の全体構造>
図1は、本発明の電気デバイスの代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体12の両面に正極活物質層15が配置された正極と、電解質層17と、負極集電体11の両面に負極活物質層13が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層15とこれに隣接する負極活物質層13とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層及び正極がこの順に積層されている。
これにより、隣接する正極、電解質層、及び負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層15が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極及び負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の片面又は両面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
正極集電体12及び負極集電体11は、各電極(正極及び負極)と導通される正極集電板27及び負極集電板25がそれぞれ取り付けられ、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出される構造を有している。正極集電板27及び負極集電板25は、それぞれ必要に応じて正極リード及び負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体12及び負極集電体11に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
上記で説明したリチウムイオン二次電池は、負極に用いる負極活物質に特徴を有する。以下、当該負極活物質を含めた電池の主要な構成部材について説明する。
<活物質層>
活物質層13又は15は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
[正極活物質層]
正極活物質層15は、正極活物質を含む。
(正極活物質)
正極活物質としては、例えば、LiMn2O4、LiCoO2、LiNiO2、Li(Ni−Mn−Co)O2及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。より好ましくはリチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が用いられ、さらに好ましくはLi(Ni−Mn−Co)O2及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、Ni及びCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LiaNibMncCodMxO2(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.6であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)は、材料の純度向上及び電子伝導性向上という観点から、容量及び出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中の遷移金属を一部置換するものである。サイクル特性の観点からは、遷移元素の一部が他の金属元素により置換されていることが好ましく、特に一般式(1)において0<x≦0.3であることが好ましい。Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr及びCrからなる群から選ばれる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
より好ましい実施形態としては、一般式(1)において、b、c及びdが、0.44≦b≦0.51、0.27≦c≦0.31、0.19≦d≦0.26であることが、容量と寿命特性とのバランスを向上させるという観点からは好ましい。例えば、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2は、一般的な民生電池で実績のあるLiCoO2、LiMn2O4、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2などと比較して、単位重量あたりの容量が大きく、エネルギー密度の向上が可能となることでコンパクトかつ高容量の電池を作製できるという利点を有しており、航続距離の観点からも好ましい。なお、より容量が大きいという点ではLiNi0.8Co0.1Al0.1O2がより有利であるが、寿命特性に難がある。これに対し、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2はLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2並みに優れた寿命特性を有しているのである。
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
正極活物質層15に含まれる正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜30μmであり、より好ましくは5〜20μmである。なお、本明細書において、「粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用いて観察される活物質粒子(観察面)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。また、本明細書において、「平均粒子径」の値は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。他の構成成分の粒子径や平均粒子径も同様に定義することができる。
正極活物質層15は、バインダを含みうる。
(バインダ)
バインダは、活物質同士又は活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。正極活物質層に用いられるバインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアミドイミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となる。これらのバインダは、1種単独で用いてもよいし、2種併用してもよい。
正極活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
正極(正極活物質層)は、通常のスラリーを塗布(コーティング)する方法のほか、混練法、スパッタ法、蒸着法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法及び溶射法のいずれかの方法によって形成することができる。
[負極活物質層]
負極活物質層13は、負極活物質を含む。
(負極活物質)
本実施形態において、負極活物質は、SiSnTiAl合金(Si−Sn−Ti−Alで表される四元系の合金)組成を有し、その微細組織が、一部にSnを含み、非晶質又は低結晶性のケイ素を主成分とするa−Si相が、チタンのケイ化物を主成分とするシリサイド相中に分散され、前記シリサイド相中にAlを含有することを特徴とするSiSnTiAl合金(単にSi含有合金ともいう)からなるものである。好ましくは、前記a−Si相中にもAlが分散することが好ましい。
〈Si含有合金の組成〉
上述したように、本実施形態における負極活物質を構成するSi含有合金は、まず、Si−Sn−Ti−Alで表される四元系の合金組成を有している。より具体的には、本実施形態における負極活物質を構成するSi含有合金は、組成範囲として、Si:60〜69質量%、Ti:28〜31質量%、Sn:1.5〜8質量%、Al:0.5〜2質量%、及び、残部が不可避的不純物からなる組成を有するものである。本実施形態に係るSiSnTiAl合金(Si含有合金)は、上記組成範囲を有することで、高いサイクル耐久性の実現が可能となる。
また、本明細書において「不可避不純物」とは、Si含有合金において、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするものを意味する。当該不可避不純物は、本来は不要なものであるが、微量であり、Si合金の特性に影響を及ぼさないため、許容されている不純物である。
本実施形態においては、負極活物質(Si含有合金)の添加元素としてシリサイド形成元素であるTiを選択することで、Li合金化の際に、アモルファス−結晶の相転移を抑制してサイクル寿命を向上させることができる。また、これによって、従来の負極活物質(例えば、炭素系負極活物質)よりも高容量のものとなる。負極活物質(Si含有合金)への添加元素として、シリサイド形成元素であるTiを選択し、さらに第2添加元素としてSn、第3添加元素としてAlを添加することで、Li合金化の際に、より一層アモルファス−結晶の相転移を抑制してサイクル寿命を向上させることができる。また、これによって、従来の負極活物質(例えば、炭素系負極活物質)よりも高容量のものとなる。
ここで、Si系負極活物質では、充電時にSiとLiとが合金化する際、a−Si相がアモルファス状態から結晶状態へと転移して大きな体積変化(約4倍)を起こす。その結果、活物質粒子自体が割れて(壊れて)しまい、活物質としての機能が失われてしまうという問題がある。そこで、本実施形態では、負極活物質が上記組成範囲及び上記微細組織を有すること、特にAlを微量添加することにより、SiSnTi合金活物質の圧縮強度を向上することができ、合金活物質粒子の割れを抑制しつつ、電極構造を維持できる。その結果、導電ネットワークからのSi(活物質粒子)の脱落を防止し、不可逆容量化するのを防ぐことができる。また、合金活物質粒子の割れによる合金新生面が生じ難いため、当該新生面と電解液との反応を防止し、電解液の分解を防ぐことで、サイクル耐久性の劣化を効果的に防止することができる。そのため、当該SiSnTiAl合金(負極活物質)が用いられる電気デバイスの高容量を保持しつつ、サイクル耐久性を向上することができる。更に充電時におけるa−Si相のアモルファス−結晶の相転移を抑制することでも粒子自体の崩壊を抑制することができ、活物質としての機能(高容量)が保持され、サイクル寿命も向上させることができる。
上述したように、本実施形態に係るSi含有合金は、Si、Sn、Ti及びAlの四元系の合金であり、その組成範囲(各構成元素の質量比)の合計は100質量%であり、その組成範囲(各構成元素の質量比)は以下の通りである。
Siの組成範囲(含有量)は、60〜69質量%である。Siの組成範囲(含有量)は、好ましくは65〜69質量%であり、より好ましくは66〜69質量%であり、さらに好ましくは67〜69質量%であり、特に好ましくは67.5〜69質量%であり、中でも好ましくは68.5〜69質量%である。かかる範囲であると、充放電(Liイオンの挿入脱離)に対する耐久性の保持及び(初期)容量のバランスという点で優れており、耐久性を十分に向上させ高容量を得ることができ、本発明の効果をより効率的に発現することができる。
Snの組成範囲(含有量)は、1.5〜8質量%である。Snの組成範囲(含有量)は、好ましくは1.5〜5質量%であり、より好ましくは1.5〜4質量%であり、更に好ましくは1.5〜3質量%、特に好ましくは1.5〜2.5質量%であり、中でも好ましくは2.0〜2.5質量%である。かかる範囲であると、a−Si相中に固溶し、該a−Si相中のSi正四面体間距離を増大させることにより、充放電時の可逆的Liイオンの挿入脱離を可能にするという点で優れている。これにより、耐久性を十分に向上させることができ、本発明の効果をより効率的に発現することができる。
Tiの組成範囲(含有量)は、28〜31質量%である。Tiの組成範囲(含有量)は好ましくは28〜30.5質量%であり、より好ましくは28〜30質量%であり、更に好ましくは28〜29.5質量%であり、中でも好ましくは28〜28.5質量%である。かかる範囲であると、充放電(Liイオンの挿入脱離)に対する耐久性の保持及び容量のバランスという点で優れており、耐久性を十分に向上させ高容量を得ることができ、本発明の効果をより効率的に発現することができる。
Alの組成範囲(含有量)は、0.5〜2質量%である。Alの組成範囲(含有量)は、好ましくは0.5〜1.5質量%であり、より好ましくは0.5〜1.0質量%である。かかる範囲であると、一部にSnを含み、非晶質又は低結晶性のケイ素を主成分とするa−Si相が、シリサイド(TiSi2)相中に分散され、該シリサイド相中にAlを含有することができる。また、a−Si相をアモルファス化でき、該a−Si相中にもAlが含有(分散)することができる。特にAlがa−Si相中にも分散、固溶することでSi正四面体間距離を増大させるとともに、a−Si相中に均一に分散することで、a−Si相中に存在するSnをより微細に分散させるという点で優れている。これらにより、耐久性を十分に向上させ高容量を得ることができ、本発明の効果をより効率的に発現することができる。
ここで、Si−Tiは非常に強い結合性、Si−Snは反発性、Ti−Snは結合性を示すことにより上述したような効果が得られるが、本実施形態であるSi−Ti−SnにAlを微量添加した四元系合金では、Si−Alは反発性、Ti−Alは結合性とAlはSnと同様の働きをすることに加え、Si−Alは液相状態では隣接が安定であるという性質を有する。これにより、SnよりもAlの方がa−Si相へ固溶・分散しやすく、a−Si相の正四面体間距離を広げられることにより、充放電(Liイオンの挿入脱離)に伴うa−Si相の膨張収縮に対する耐久性をより効果的に向上することができるものと考えられる。さらに、AlはSiとは価電子数が異なることから、a−Si相にAlが均一に分散することによりa−Si相の導電性が向上し、a−Si相中での充放電(Liイオンの挿入脱離)が均一に進行しやすくなる。よってこの点からも、Alの添加により充放電サイクル耐久性を効果的に向上させることができるものと考えられる。さらに、シリサイド相にAlを含有することにより、合金活物質の圧縮強度を向上することができ、合金活物質粒子の割れを抑制しつつ、電極構造を維持できる。その結果、導電ネットワークからのSi(活物質粒子)の脱落を防止し、不可逆容量化するのを防ぐことができる。また、合金活物質粒子の割れによる合金新生面が生じ難いため、当該新生面と電解液との反応を防止し、電解液の分解を防ぐことで、サイクル耐久性の劣化を効果的に防止することができる。そのため、当該SiSnTiAl合金(負極活物質)が用いられる電気デバイスの高容量を保持しつつ、サイクル耐久性を向上することができる。
すなわち、本実施形態において、Si含有合金の組成範囲として、Si:60〜69質量%、Ti:28〜31質量%、Sn:1.5〜8質量%、Al:0.5〜2質量%である。このように、Siを主成分としつつ、Tiを比較的多めに含ませ、Snについてもある程度含ませ、なおかつAlを少量含ませることで、本実施形態に係るSi含有合金の微細組織(構造)を得ることができる。ただし、上述した各構成元素の組成範囲(構成比)の好適な数値範囲はあくまでも好ましい実施形態を説明するものに過ぎず、特許請求の範囲に含まれている限り、本発明の技術的範囲内のものである。上記Si、Sn、Ti及びAlの組成範囲において、各組成範囲の合計は、最大100質量%(100質量%を超えない)である。
またSi含有合金の主成分Siへのシリサイド形成元素としてTiを選択し、第2添加元素としてSnを上記組成範囲内で添加し、第3添加元素としてAlを上記組成範囲内で少量添加することで、a−Si相中の一部にSn(更にAl)を分散(固溶)することができる。また、Alはa−Si相やシリサイド相の全域に割と均一に分散することができる。そのため、Si−Sn−Ti合金にAlを添加するで、Si合金のアモルファス形成能が増大でき、アモルファス度合いを高められる。そのため、充放電に伴うLiの挿入脱離に対しても、a−Si相の化学構造が変化しにくくなり、さらに高いサイクル耐久性が得られる。
なお、Si含有合金において、Si、Sn、Ti、Alの各構成元素の組成範囲(構成比)以外の残部は、原料や製法に由来するSi、Sn、Ti、Alの4成分以外の不純物(不可避不純物)である。残部の不可避不純物は、極力含まないのがよく、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%未満である。
負極活物質(Si含有合金)が上記組成範囲を有するか否かは、蛍光X線分析(XRF)による定性分析、及び誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法による定量分析により確認することが可能である。
(Si含有合金の微細組織構造)
上述したように、本実施形態における負極活物質を構成するSi含有合金は、その微細組織として、a−Si相がシリサイド相中に分散され、前記シリサイド相中にAlを含有してなる構造を有する点にも特徴がある。さらに前記a−Si相中にSn、好ましくはSn、Alを含有(分散)してなる構造を有するものである。すなわち、連続相としてのシリサイド相からなる海の中に、分散相としてのa−Si相からなる島が分散しているいわゆる海島構造を有することが、本実施形態に係るSi含有合金の特徴の1つである。そしてこの連続相のシリサイド相(海構造)中にAlを含有し、分散相のa−Si相(島構造)中にSn、好ましくはSn、Al(分散)を含有してなる海島構造を有するものである。なお、Si含有合金がこのような微細組織構造を有しているか否かは、例えば、後述する実施例の欄において説明するように、Si含有合金を高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)を用いて観察した後、観察画像と同じ視野についてEDX(エネルギー分散型X線分光法)により元素強度マッピングを行うことにより確認することができる。
〈a−Si相〉
ここで、本実施形態に係るSi含有合金(SiSnTiAl合金)において、a−Si相は、一部にSnを含み、好ましくは、a−Si相中にもAlが含有(分散)してなるものである。より好ましくはSiの結晶構造の内部にSn(好ましくは、Sn、Al)が分散(固溶)してなる非晶質又は低結晶性のSiを主成分とする相である。このa−Si相は、本実施形態の電気デバイス(リチウムイオン二次電池)の作動時にリチウムイオンの吸蔵・放出に関与する相であり、電気化学的にリチウムと反応可能(すなわち、重量あたり及び体積あたりに多量のリチウムを吸蔵・放出することが可能)な相である。また、a−Si相を構成するSiの結晶構造の内部にはSn(好ましくは、Sn、Al)が分散、固溶しているが、Siは電子伝導性に乏しいことから、母相にはリンやホウ素などの微量の添加元素や遷移金属などが含まれていてもよい。a−Si相のサイズについて特に制限はないが、充電時(微細構造中へのLiイオン挿入時)と放電時(微細構造中からのLiイオン脱離時)とのa−Si相の寸法変化を小さくするという観点から、a−Si相のサイズは小さいほど好ましく、具体的には10nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましい。一方、a−Si相のサイズの下限値についても特に制限はないが、好ましくは5nm以上である。なお、a−Si相のサイズ(直径)の値については、HAADF−STEMでの高倍率(25nmスケールバー)のSiのEDX元素マッピング及びTiのEDX元素マッピングを比較し、Siが存在しTiが存在しない領域をSi相とみなし、MのEDX元素マッピングで強度が最大値の1/10を閾値とし、この閾値以下となる領域について二値化画像処理を行い、得られた二値化画像より、各Si相の寸法を読み取るという手法により5個以上の相について測定して得られた測定値の相加平均値として得ることができる。同様に、後述するシリサイド相のサイズ(直径)の値については、Cs−STEMでの高倍率(25nmスケールバー)のSiのEDX元素マッピング及びTiのEDX元素マッピングを比較し、Siが存在しTiも存在する領域をシリサイド相とみなし、TiのEDX元素マッピングで強度が最大値の1/10を閾値とし、この閾値以上となる領域について二値化画像処理を行い、得られた二値化画像より、各シリサイド相の寸法を読み取るという手法により5個以上の相について測定して得られた測定値の相加平均値として得ることができる。
このa−Si相は、後述するシリサイド相よりもアモルファス化していることが好ましい。かような構成とすることにより、負極活物質(Si含有合金)をより高容量なものとすることができる。なお、a−Si相がシリサイド相よりもアモルファス化しているか否かは、高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)を用いたa−Si相及びシリサイド相のそれぞれの観察画像を高速フーリエ変換(FFT)して得られる回折図形から判定することができる。すなわち、この回折図形に示される回折パターンは、単結晶相については二次元点配列のネットパターン(格子状のスポット)を示し、多結晶相についてはデバイシェラーリング(回折環)を示し、非晶質相についてはハローパターンを示す。これを利用することで、上記の確認が可能となる。本実施形態において、a−Si相は、非晶質又は低結晶性であればよいが、より高いサイクル耐久性を実現するという観点から、a−Si相は、非晶質のものであることが好ましい。
上記a−Si相において、非晶質又は低結晶性のSiを「主成分とする」とは、a−Si相の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上が上記Siである。しかし、合金中には、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりする不可避不純物が含まれうる。よって、100質量%の第二の相を得るのは実際上、困難である。
上記a−Si相において、「一部にSnを含み」としたのは、a−Si相にSnをほとんど含まない部分(Si部分が活物質として機能する部分)もあるが、a−Si相の一部にSnを含む部分が見られるためである(図3(b)〜(d)参照)。またa−Si相にSnを含む部分では、Si中にSnが分散固溶している、或いはSi中に内包された形で分散している(Sn−Si固溶体や内包されたSnが活物質として機能する)。a−Si相にSnが分布(分散)することで、a−Si相のアモルファス度を高めることができ耐久性に優れる。また、a−Si相中にSn(Siの結晶構造の内部に分散、固溶してなる、或いはSi中に内包された形で分散しているSn)が含まれる場合、当該Snもカーボン負極材料(炭素負極材料)に比べて重量あたり及び体積あたりに多量のLiを吸蔵・放出することが可能である。
〈シリサイド相〉
一方、上述した海島構造の海(連続相)を構成するシリサイド相は、チタンのケイ化物(シリサイド)を主成分とする結晶相である。このシリサイド相は、チタンのケイ化物(TiSi2)を含むことでa−Si相との親和性に優れ、特に充電時の体積膨張における結晶界面での割れを抑制することができる。さらに、シリサイド相はa−Si相と比較して電子伝導性及び硬度の観点で優れている。このように、シリサイド相はa−Si相の低い電子伝導性を改善し、かつ膨張時の応力に対して活物質の形状を維持する役割をも担っている。本実施形態においては、このような特性を有するシリサイド相が海島構造の海(連続相)を構成することで、負極活物質(Si含有合金)の電子伝導性をよりいっそう向上させることができ、しかもa−Si相の膨張時の応力を緩和して活物質の割れを防止することができ、サイクル耐久性の向上に寄与しているものと考えられる。
シリサイド相には複数の相が存在していてもよく、例えばTiとSiとの組成比が異なる2相以上(例えば、TiSi2及びTiSi)が存在していてもよい。チタン元素は、ケイ化物を形成した際に他の元素のケイ化物よりも高い電子伝導度を示し、かつ高い強度を有するものである。特にチタンのケイ化物(シリサイド)の1種であるTiSi2は、非常に優れた電子伝導性を示すため、好ましい。シリサイドのこのような特性と、上述した非晶質Siの優れた特定に鑑みると、チタンのケイ化物(シリサイド)はTiSi2であり、かつ、a−Si相は非晶質であることが好ましい。
特に、シリサイド相に組成比が異なる2相以上(例えば、TiSi2及びTiSi)が存在する場合は、シリサイド相の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%がTiSi2相である。
上記シリサイド相において、シリサイドを「主成分とする」とは、シリサイド相の50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは98質量%以上がシリサイドである。なお、理想的にはシリサイドが100質量%である。しかし、合金中には、原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりする不可避不純物が含まれうる。よって、100質量%の第一の相を得るのは実際上、困難である。
上記シリサイド相のサイズについて特に制限はないが、好ましい実施形態において、シリサイド相のサイズは50nm以下であり、より好ましくは30nm以下であり、さらに好ましくは25nm以下である。かような構成とすることにより、負極活物質(Si含有合金)をより高容量なものとすることができる。一方、シリサイド相のサイズの下限値についても特に制限はないが、Li挿入脱離に伴うa−Si相の膨張・収縮を抑え込むという観点から、シリサイド相のサイズ(直径)は上述したa−Si相のサイズ(直径)よりも大きいことが好ましく、その絶対値としては、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは15nm以上である。
さらに、本実施形態に係るSi含有合金は、Snを必須に含むが、SnはSiとの間でシリサイドを形成しない元素であることから、シリサイド相ではなくa−Si相に存在することになる。即ちa−Si相は、一部にSnを含む(好ましくは分散、固溶してなる)ものである。そしてSnの含有量が少ない場合には全てのSn元素はa−Si相においてSiの結晶構造の内部に固溶(分散)して存在する。一方、Snの含有量が多くなると、a−Si相のSi中に固溶(分散)しきれなくなったSn元素は凝集してSn単体の結晶相として存在する。本実施形態において、このようなSn単体の結晶相は存在しないことが好ましい。
さらに本実施形態に係るSi含有合金は、Alも必須に含むが、Si−Alは反発性であるため、AlもSiとの間でシリサイドを形成しない元素であるが、Si−Tiは非常に強い結合性、Ti−Alは結合性を有する。そのため、シリサイド相にAlを(均一に)分散(固溶)することができる。シリサイド(SiTi2)相にAlが入ることで、靱性が高くなり、弾性が増し、合金の圧縮強度を向上させることができ、合金活物質粒子の割れを抑制しつつ、電極構造を維持できる。その結果、導電ネットワークからのSi(活物質粒子)の脱落を防止し、不可逆容量化するのを防ぐことができる。さらに、a−Si相にもAlを(均一に)分散(固溶)するのが好ましい。a−Si相にもAlが入ることで、より一層靱性が高くなり、合金の圧縮強度を向上させることができ、合金活物質粒子の割れを効果的に抑制しつつ、電極構造を維持できる。その結果、導電ネットワークからのSi(活物質粒子)の脱落を防止し、不可逆容量化するのを効果的に防ぐことができる。また、上記した各原子間の相互作用により、SnよりもAlの方がa−Si相へ固溶・分散しやすく、a−Si相の膨張収縮に対する耐久性をより効果的に向上することができる。さらに、AlはSiとは価電子数が異なることから、a−Si相にAlが均一に分散することによりa−Si相の導電性が向上し、a−Si相中での充放電(Liイオンの挿入脱離)が均一に進行しやすくなる。よって、Alの添加により充放電サイクル耐久性を効果的に向上させることができる。さらに、シリサイド相にAlを含有することにより、合金活物質の圧縮強度を向上することができ、合金活物質粒子の割れを抑制しつつ、電極構造を維持できる。その結果、導電ネットワークからのSi(活物質粒子)の脱落を防止し、不可逆容量化するのを防ぐことができる。また、合金活物質粒子の割れによる合金新生面が生じ難いため、当該新生面と電解液との反応を防止し、電解液の分解を防ぐことで、サイクル耐久性の劣化を効果的に防止することができる。そのため、当該SiSnTiAl合金(負極活物質)が用いられる電気デバイスの高容量を保持しつつ、サイクル耐久性を向上することができる。このようにAlは、好ましくはシリサイド相及びa−Si相の双方に分散(固溶)し、Alが上記組成範囲に示すように少量含まれる場合、全てのAl元素はシリサイド相及びa−Si相に均一に分散(固溶)し、Al単体の結晶相は存在しないのが好ましい。
a−Si相にもAlを分散する場合、a−Si相中のAlの量が、シリサイド相中のAlの量よりも多いことがより好ましい。これにより、靱性がより高くでき、合金の圧縮強度をより一層向上させることができ、合金活物質粒子の割れをより効果的に抑制しつつ、電極構造を維持できる。その結果、導電ネットワークからのSi(活物質粒子)の脱落を防止し、不可逆容量化するのをより効果的に防ぐことができる。ここで、a−Si相中のAlの量とシリサイド相中のAlの量の多寡は、a−Si相及びシリサイド相のEDXスペクトルにより得られるAlの量(質量%)又はピーク高さ(カウント数量)を比較することで確認できる(例えば、実施例1の図4、5参照。また実施例2〜4の合金も同様である)。
さらに、本実施形態において好ましくは、活物質として機能しうるSi相であるavailable−Si相とシリサイド相との質量比が所定の範囲内の値であると、より一層優れたサイクル耐久性が実現可能である。具体的に、同様に、Si含有合金におけるavailable−Si相の質量(m1)に対するシリサイド相の質量(m2)の比(シリサイド相/active−Si相の比=m2/m1)の値は、好ましくは1.75以上であり、より好ましくは1.75〜2.00であり、さらに好ましくは1.75〜1.80である。ここで、当該実施形態において、Si含有合金におけるavailable−Si相の質量比についても特に制限はないが、他の構成元素の特性を発揮させつつ十分な容量を確保するという観点から、Si含有合金100質量%に占めるavailable−Si相の質量(m1)の比は、好ましくは33質量%以上であり、より好ましくは34質量%以上であり、さらに好ましくは35質量%以上であり、特に好ましくは35質量%〜合金中のSi全量(質量%)であり、なかでも好ましくは35〜45質量%である。本実施形態によれば、Sn(原子量=118.7)の一部をAl(原子量=26.98)によって置き換えることで、SnとAlとの合計原子数(原子モル数)が一定の場合でもこれらの質量比を低下させることが可能となる。その結果、m2/m1の値を比較的高めに維持したまま、Si含有合金からなる負極活物質の容量を増大させることが可能となる。また、AlはSnと比較して極めて安価であることから、負極活物質のコストの低減にも大きく寄与することができる。
また、同様の観点から、Si含有合金におけるavailable−Si相の質量及びシリサイド相の質量をそれぞれm1及びm2としたときに、m1≧61−14.3×(m2/m1)を満足することが好ましい。なお、m2/m1の値を算出するためのSi含有合金におけるavailable−Si相の質量(m1)及びシリサイド相の質量(m2)については、合金組成における構成金属元素の質量%を原子%へ変換し、Tiが全てTiSi2になるものと仮定して、下記式により算出される理論値であり、後述する実施例においてもこの手法にてavailable−Si量及びTiSi2量を算出している。
available−Si量(質量%)=
([at%Si]−[at%Ti]×2)×28.0855(Si原子量)/{([at%Si]−[at%Ti]×2)×28.0855(Si原子量)+[at%Sn]×118.71(Sn原子量)+[at%Ti]×104.038(TiSi2式量)}
ここで、組成がSi60Sn2Ti28.5Al0.5の四元系合金を例に挙げて計算すると、合金のat%Si=79.6原子%、合金のat%Ti=19.3原子%であることから、available−Si量(質量%)は35.1質量%と算出される。
同様に、シリサイド(TiSi2)量は、
TiSi2量(質量%)=
([at%Ti]×104.038(TiSi2式量))/{([at%Si]−[at%Ti]×2)×28.0855(Si原子量)+[at%Sn]×118.71(Sn原子量)+[at%Ti]×104.038(TiSi2式量)}
にて算出可能である。ここでも組成がSi60Sn2Ti28.5Al0.5の四元系合金を例に挙げて計算すると、合金のat%Si=79.6原子%、合金のat%Ti=19.3原子%であることから、シリサイド(TiSi2)量(質量%)は62.4質量%と算出される。
本実施形態における負極活物質を構成するSi含有合金の粒子径は特に制限されないが、平均粒子径として、好ましくは0.1〜20μmであり、より好ましくは0.2〜10μmである。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー回折散乱法により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(D50)を意味する。
(負極活物質の製造方法)
本実施形態に係る電気デバイス用負極活物質の製造方法について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。本実施形態では、上記した特定の組成範囲を有し、微細組織として、Snを含むa−Si相がチタンシリサイド相中に分散され、該シリサイド相中にAlを含有するSi含有合金からなる負極活物質の製造方法の一例としてはメカニカルアロイ法(メカニカルアロイング処理による合金の作製)が好ましい。但し、液体急冷凝固法による急冷薄帯の作製及びメカニカルアロイング処理による合金の作製を併用する製造方法を用いてもよい。すなわち、本発明の他の実施形態によれば、上記した特定の組成範囲及び微細組織を有するSi含有合金からなる電気デバイス用負極活物質の製造方法であって、必要に応じて、前記Si含有合金と同一の組成を有する母合金を用いた液体急冷凝固法により急冷薄帯を作製する。次に前記急冷薄帯(の粉砕物)或いは前記Si含有合金と同一の組成を有する母合金に対してメカニカルアロイング処理を施して前記Si含有合金からなる電気デバイス用負極活物質を得る、電気デバイス用負極活物質の製造方法が提供される。このように、メカニカルアロイング処理の前に液体急冷凝固法を実施して負極活物質(Si含有合金)を製造してもよい。いずれの方法にせよ、最終的にメカニカルアロイング処理を施すことで、上述した特定の組成範囲及び微細組織構造を有する合金を製造することが可能となる。以下、本形態に係る製造方法について、工程ごとに説明する。
〈液体急冷(ロール)凝固法〉
必要に応じて、まず、所望のSi含有合金と同一の組成を有する母合金を用いて液体急冷(ロール)凝固法を実施する。これにより、急冷薄帯を作製する。
ここで、母合金を得るために、原料として、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)のそれぞれについて、高純度の原料(単体のインゴット、ワイヤ、板など)を準備する。続いて、最終的に製造したいSi含有合金(負極活物質)の組成を考慮して、アーク溶解法などの公知の手法により、インゴット等の形態の母合金を作製する。
その後、上記で得られた母合金を用いて液体急冷凝固法を実施する。この工程は、上記で得られた母合金を溶融させた溶融物を急冷して凝固させる工程であり、例えば、高周波誘導溶解−液体急冷凝固法(双ロール又は単ロール急冷法)によって実施することができる。これにより、急冷薄帯(リボン)合金が得られる。なお、液体急冷凝固法は非晶質合金の作製法としてよく使われており、その手法自体に関する知見は多く存在する。なお、液体急冷ロール凝固法は、市販の液体急冷凝固装置(例えば、日新技研株式会社製の液体急冷凝固装置NEV−A05型など)を用いて実施することができる。この際、チャンバー内の雰囲気は、不活性ガス(Heガス、Neガス、Arガス、N2ガス等)に置換するのが望ましい。不活性ガスで置換後、噴射圧はゲージ圧で0.03〜0.09MPa程度とするのがよい。真空チャンバー内圧はゲージ圧で−0.03〜−0.07MPa(絶対圧で0.03〜0.07MPa)とすることで、チャンバー内圧と噴射圧との差圧は0.06〜0.16MPaとすることがよい。ロールの回転数は好ましくは4000〜6000rpm(周速として40〜65m/sec)とするのがよい。
(メカニカルアロイング処理)
(1)上記で得られた薄帯状合金(急冷薄帯(リボン)合金)、或いは(2)液体急冷ロール凝固法を経ることなく準備した所望のSi含有合金と同一の組成を有する母合金に対して、メカニカルアロイング処理を行う。ここで、必要に応じて、上記で得られた急冷薄帯合金は、メカニカルアロイング処理に用いるボールミル装置等に投入しやすい大きさに、適当な粉砕機で粗粉砕を行い、得られた粉砕物に対してメカニカルアロイング処理を行ってもよい。
メカニカルアロイング処理により合金化処理を行うことで、微細組織構造(相の状態)の制御を容易に行うことができるため、メカニカルアロイング処理は、後述する実施例で用いたようなボールミル装置(例えば、遊星ボールミル装置)を用いて、粉砕ポットに粉砕ボール及び合金の原料粉末を投入し、回転数を高くして高エネルギーを付与することで、合金化を図ることができる。合金化処理は、回転数を高くして原料粉末に高エネルギーを付与することで合金化させることができる。すなわち、高エネルギー付与により熱が生じ、原料粉末が合金化してa−Si相のアモルファス化及び当該相へのSn、好ましくはSn、Alの分散(固溶)、並びにシリサイド相の形成及び当該相へのAlの分散(固溶)が進行する。合金化処理で用いる装置の回転数(付与エネルギー)を高くする(実施例で用いた装置の場合、500rpm以上、好ましくは1000rpm以上、より好ましくは1500rpm以上)ことにより、上記した特定の組成範囲を有する合金において、上記した微細組織構造を得ることができる。これにより、得られる合金の圧縮強度を向上することができ、合金活物質粒子の割れを抑制しつつ、電極構造を維持できる。その結果、導電ネットワークからのSi(活物質粒子)の脱落を防止し、不可逆容量化するのを防ぐことができる。また、合金活物質粒子の割れによる合金新生面が生じ難いため、当該新生面と電解液との反応を防止し、電解液の分解を防ぐことで、サイクル耐久性の劣化を効果的に防止することができる。そのため、当該SiSnTiAl合金(負極活物質)が用いられる電気デバイスの高容量を保持しつつ、サイクル耐久性を向上することができる。また、メカニカルアロイング処理を実施する時間を長くするほど、好適な微細組織構造を有するSi含有合金を得ることができ、上記効果をより顕著に奏することができる。かような観点から、メカニカルアロイング処理の時間は、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは24時間以上であり、さらに好ましくは30時間以上であり、いっそう好ましくは36時間以上であり、特に好ましくは42時間以上であり、最も好ましくは48時間以上である。なお、合金化処理のための時間の上限値は特に設定されないが、通常は72時間以下であればよい。
本形態では、上記合金化処理の時間の他に、使用する装置の回転数や粉砕ボール数、試料(合金の原料粉末)充填量などを変化させることによっても、Si含有合金に与えられるエネルギーが変化するため、好適な微細組織構造を制御することが可能である。
上述した手法によるメカニカルアロイング処理は、通常乾式雰囲気下で行われるが、メカニカルアロイング処理後の粒度分布は大小の幅が非常に大きい場合がある。このため、粒度を整えるための粉砕処理及び/又は分級処理を行うことが好ましい。
本実施形態では、上述した所定の組成範囲及び微細組織構造を有するSi含有合金からなる負極活物質の製造方法のより好適な一例として、付与エネルギーの大きいボールミル装置を用いたメカニカルアロイング処理により合金化処理を施す製造方法が提供される。すなわち、本発明の他の実施形態によれば、上記した所定の組成範囲及び微細組織構造を有するSi含有合金からなる電気デバイス用負極活物質の製造方法であって、前記Si含有合金と同一の組成を有する母合金の粉末に対して、20[G]以上の遠心力が加わるようなボールミル装置を用いてメカニカルアロイング処理を施すことにより、前記Si含有合金からなる電気デバイス用負極活物質を得る、電気デバイス用負極活物質の製造方法もまた、提供される。
本形態に係る製造方法では、メカニカルアロイング処理に用いられるボールミル装置によって内容物に加えられる遠心力が20[G]以上であるのが好ましい。このように比較的大きい遠心力が加わるようなボールミル装置を用いてメカニカルアロイング処理を施すことで、より短い時間の処理でも同等以上のサイクル耐久性を発揮しうるSi含有合金(負極活物質)を製造することが可能となる。また、比較的高価な原料であるSnの使用量を低減させることも可能となることから、Si含有合金(負極活物質)の製造コストを低減させることも可能となる。なお、上記遠心力の値は、好ましくは50[G]以上であり、より好ましくは100[G]以上であり、さらに好ましくは120[G]以上であり、特に好ましくは150[G]以上であり、最も好ましくは175[G]以上である。一方、遠心力の上限値について特に制限はないが、通常は200[G]程度が現実的である。
ここで、ボールミル装置において内容物に加わる遠心力の値は、下記の数式によって算出される:
上記数式において、Gnlは遠心力[G]、rsは公転半径[m]、rplは自転半径[m]、iwは自転公転比[−]、rpmは回転数[回/分]である。したがって、公転半径rsを大きくするほど、自転半径rplを小さくするほど、また、回転数を大きくするほど、遠心力Gnlの値は大きくなることがわかる。
ボールミル装置の具体的な構成について特に制限はなく、上述した遠心力の規定を満たす限り、遊星ボールミル装置、撹拌ボールミル装置など従来公知のボールミル装置が用いられうる。ただし、本形態に係る製造方法において、好ましくは撹拌ボールミル装置が用いられる。この撹拌ボールミル装置は、円筒状の内面を有する容器と、この容器内に設けられた撹拌翼とを備えている。この撹拌ボールミル装置の容器内には、原料粉末、ボール、溶媒及び処理剤が仕込まれるようになっている。遊星ボールミル装置と異なり、容器が回転することなく、容器内に設けられた撹拌翼が回転して原料粉末を合金化するようになっている。このような撹拌ボールミル装置を使用すると、撹拌翼によって容器の内容物を勢いよく撹拌することができることから、他のボールミル装置よりも大きい遠心力を容器の内容物に加えることができる。
なお、一般に、メカニカルアロイング処理を実施する時間を長くするほど、好適な微細組織構造を有するSi含有合金を得ることができるが、本形態に係る製造方法では、上述したように比較的大きな遠心力が内容物に加わるようにメカニカルアロイング処理を施すことから、メカニカルアロイング処理の時間を短縮させても同等以上のサイクル耐久性を実現することが可能となる。かような観点から、本形態に係る製造方法において、メカニカルアロイング処理の時間は、好ましくは45時間以下であり、より好ましくは30時間以下であり、さらに好ましくは20時間以下であり、いっそう好ましくは15時間以下であり、特に好ましくは10時間以下であり、最も好ましくは5時間以下である。なお、メカニカルアロイング処理の時間の下限値は特に設定されないが、通常は0.5時間以上であればよい。
なお、ボールミル装置を用いたメカニカルアロイング処理においては、従来周知のボールを使用して原料粉末の合金化を行うことができるが、好ましくは、ボールとして、1mm以下、特に0.1〜1mmの直径を有するチタン又はジルコニア製のものが使用される。特に、本形態においては、プラズマ回転電極法によって製造されたチタン製のボールが好適に使用される。このようなプラズマ回転電極法によって製造された直径が1mm以下のチタン又はジルコニア製ボールは、均一な球形を有しており、Si含有合金を得るためのボールとして特に好ましい。
また、本形態において、撹拌ボールミルの容器に仕込まれる溶媒も、特に限定されない。このような溶媒としては、例えば水(特にイオン交換水)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ジメチルケトン、ジエチルケトン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジフェニルエーテル、トルエン及びキシレンが挙げられる。これらの溶媒は、単独で、又は適宜組み合わせて使用される。
さらに、本実施形態において、容器に仕込まれる処理剤も、特に限定されない。このような処理剤としては、例えば、容器の内壁への内容物の付着を防止するためのカーボン粉末のほか、界面活性剤及び/又は脂肪酸が挙げられる。
上述した手法によるメカニカルアロイング処理は、通常乾式雰囲気下で行われるが、メカニカルアロイング処理後の粒度分布は大小の幅が非常に大きい場合がある。このため、粒度を整えるための粉砕処理及び/又は分級処理を行うことが好ましい。
なお、チタンのダイシリサイド(TiSi2)には、C49構造及びC54構造という2種類の結晶構造が存在する。データは示していないが、最終的にメカニカルアロイング処理を施して得られた負極活物質(Si含有合金)に含まれるダイシリサイド(TiSi2)はC54構造を有するものであることも確認されている。C54構造はC49構造と比較して低い抵抗率(高い電子伝導性)を示すことから、負極活物質としてはより好ましい結晶構造を有するものである。
以上、負極活物質層に必須に含まれる所定の合金について説明したが、負極活物質層はその他の負極活物質を含んでいてもよい。上記所定の合金以外の負極活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどのカーボン、SiやSnなどの純金属や上記所定の組成比を外れる合金系活物質、あるいはTiO、Ti2O3、TiO2、もしくはSiO2、SiO、SnO2などの金属酸化物、Li4/3Ti5/3O4もしくはLi7MnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物(複合窒化物)、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Liなどが挙げられる。ただし、上記所定の合金を負極活物質として用いることにより奏される作用効果を十分に発揮させるという観点からは、負極活物質の全量100質量%に占める上記所定の合金の含有量は、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは80〜100質量%であり、さらに好ましくは90〜100質量%であり、特に好ましくは95〜100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
続いて、負極活物質層13は、バインダを含む。
(バインダ)
バインダは、活物質同士又は活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。負極活物質層に用いられるバインダの種類についても特に制限はなく、正極活物質層に用いられるバインダとして上述したものが同様に用いられうる。よって、ここでは詳細な説明は省略する。
なお、負極活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは負極活物質層に対して、0.5〜20質量%であり、より好ましくは1〜15質量%である。
(正極及び負極活物質層15、13に共通する要件)
以下に、正極及び負極活物質層15、13に共通する要件につき、説明する。
正極活物質層15及び負極活物質層13は、必要に応じて、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等を含む。特に、負極活物質層13は、導電助剤をも必須に含む。
(導電助剤)
導電助剤とは、正極活物質層又は負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量は、活物質層の総量に対して、1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上の範囲である。また、活物質層へ混入されてなる導電助剤の含有量は、活物質層の総量に対して、15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下の範囲である。活物質自体の電子導電性は低く導電助剤の量によって電極抵抗を低減できる活物質層での導電助剤の配合比(含有量)を上記範囲内に規定することで以下の効果が発現される。即ち、電極反応を阻害することなく、電子導電性を十分に担保することができ、電極密度の低下によるエネルギー密度の低下を抑制でき、ひいては電極密度の向上によるエネルギー密度の向上を図ることができる。
また、上記導電助剤とバインダの機能を併せ持つ導電性結着剤をこれら導電助剤とバインダに代えて用いてもよいし、あるいはこれら導電助剤とバインダの一方乃至双方と併用してもよい。導電性結着剤としては、既に市販のTAB−2(宝泉株式会社製)を用いることができる。
(電解質塩(リチウム塩))
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。
(イオン伝導性ポリマー)
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系及びポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
正極活物質層及び負極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水電解質二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
各活物質層(集電体片面の活物質層)の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層の厚さは、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮し、通常1〜500μm程度、好ましくは2〜100μmである。
<集電体>
集電体11、12は導電性材料から構成される。集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。
集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
集電体の形状についても特に制限されない。図1に示す積層型電池10では、集電箔のほか、網目形状(エキスパンドグリッド等)等を用いることができる。
なお、負極活物質をスパッタ法等により薄膜合金を負極集電体12上に直接形成する場合には、集電箔を用いるのが望ましい。
集電体を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が採用されうる。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、又はこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、及びポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化又は集電体の軽量化の点において有利である。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、又はポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性又は耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料又は非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、又はリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属及び導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、及びKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金又は金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、及びフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
<電解質層>
電解質層17を構成する電解質としては、液体電解質又はポリマー電解質が用いられうる。
液体電解質は、有機溶媒にリチウム塩(電解質塩)が溶解した形態を有する。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)等のカーボネート類が例示される。
また、リチウム塩としては、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiTaF6、LiClO4、LiCF3SO3等の電極の活物質層に添加され得る化合物を採用することができる。
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない真性ポリマー電解質とに分類される。
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質(電解液)が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導を遮断することが容易になる点で優れている。
マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、及びこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
ゲル電解質中の上記液体電解質(電解液)の割合としては、特に制限されるべきものではないが、イオン伝導度などの観点から、数質量%〜98質量%程度とするのが望ましい。本実施形態では、電解液の割合が70質量%以上の、電解液が多いゲル電解質について、特に効果がある。
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質や真性ポリマー電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータ(不織布を含む)の具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜や多孔質の平板、更には不織布が挙げられる。
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が真性ポリマー電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
ゲル電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
<集電板及びリード>
電池外部に電流を取り出す目的で、集電板を用いてもよい。集電板は集電体やリードに電気的に接続され、電池外装材であるラミネートシートの外部に取り出される。
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。
正極端子リード及び負極端子リードに関しても、必要に応じて使用する。正極端子リード及び負極端子リードの材料は、公知のリチウムイオン二次電池で用いられる端子リードを用いることができる。なお、電池外装材29から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
<電池外装材>
電池外装材29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。
なお、上記のリチウムイオン二次電池は、従来公知の製造方法により製造することができる。
<リチウムイオン二次電池の外観構成>
図2は、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図2に示すように、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極集電板59、負極集電板58が引き出されている。発電要素57は、リチウムイオン二次電池50の電池外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極集電板59及び負極集電板58を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、図1に示すリチウムイオン二次電池(積層型電池)10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、正極(正極活物質層)13、電解質層17及び負極(負極活物質層)15で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のもの(ラミネートセル)に制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン電池では、円筒型形状のもの(コインセル)や角柱型形状(角型セル)のもの、こうした円筒型形状のものを変形させて長方形状の扁平な形状にしたようなもの、更にシリンダー状セルであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型や角柱型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図2に示す正極集電板59、負極集電板58の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極集電板59と負極集電板58とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極集電板59と負極集電板58をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出すようにしてもよいなど、図2に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、集電板に変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
上記したように、本実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いてなる負極ならびにリチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車やプラグインハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、好適に利用することができる。即ち、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
なお、上記実施形態では、電気デバイスとして、リチウムイオン電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池、さらには一次電池にも適用できる。また、電池だけではなくキャパシタにも適用できる。
本発明を、以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、以下の実施例において、合金(金属)の組成比は質量%の表記としている。
(実施例1)
[Si含有合金(合金活物質)の作製]
メカニカルアロイング処理(メカニカルアロイ法)により、Si67.5Sn2Ti29Al1.5(組成比は質量比)の組成を有するSi含有合金を製造した。
具体的には、ドイツ ZOZ社製撹拌ボールミル装置C−01Mを用いて、SUS製粉砕ポットに1920gのジルコニア製粉砕ボール(φ5mm)と1gのカーボン(SGL)を投入し、その後1000rpmで10分間、プレ粉砕処理を実施した。その後、各合金の各原料粉末を100g投入し、1500rpmで45秒処理、1200rpmで15秒処理を1セットとし、合計300セット繰り返すことで5時間かけて合金化させた(合金化処理)。また、150セット(2.5時間処理)ごとにポットに固着した粉末を取り除く掻き落とし処理を行った。その後400rpmで1時間、微粉砕処理を実施して、上記組成を有するSi含有合金(負極活物質)粉末を得た。各合金の各原料粉末には高純度金属Siインゴット(5N)、高純度Tiワイヤ(3N)、高純度Snショット(3N)、高純度Alショット(4N)を用いた。なお、本実施例において用いた撹拌ボールミル装置において、公転半径rs=0.070[m]、自転半径rpl=0[m]、回転数rpm=1500[回/分]であったことから、遠心力Gnl=176.0[G]と算出された。また、得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は6.8μmであった。
[負極の作製]
負極活物質である上記で作製したSi含有合金(Si67.5Sn2Ti29Al1.5)80質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック 5質量部と、バインダであるポリアミドイミド 15質量部と、を混合し、N−メチルピロリドンに分散させて負極スラリーを得た。負極スラリーは脱泡混練機(Thinky AR−100)を用いて作製した。その後、得られた負極スラリーを、銅箔よりなる負極集電体の両面にそれぞれ負極活物質層の厚さが30μmとなるように均一に塗布し、真空中で24時間乾燥させて、負極を得た。
[リチウムイオン二次電池(コインセル)の作製]
上記で作製した負極と対極Liとを対向させ、この間にセパレータ(ポリオレフィン、膜厚20μm)を配置した。次いで、負極、セパレータ、及び対極Liの積層体をコインセル(CR2032、材質:ステンレス鋼(SUS316))の底部側に配置した。さらに、正極と負極との間の絶縁性を保つためガスケットを装着し、下記電解液をシリンジにより注入し、スプリング及びスペーサを積層し、コインセルの上部側を重ねあわせ、かしこめることにより密閉して、リチウムイオン二次電池(コインセル)を得た。
なお、上記電解液としては、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を、EC:DEC=1:2(体積比)の割合で混合した有機溶媒に、リチウム塩(支持塩)である六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を、濃度が1mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。
(実施例2)
メカニカルアロイング処理(メカニカルアロイ法)により作製するSi含有合金の組成を、Si68.5Sn1.5Ti28.5Al1.5(組成比は質量比)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でSi含有合金(負極活物質)、負極及びリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は7.1μmであった。
(実施例3)
メカニカルアロイング処理(メカニカルアロイ法)により作製するSi含有合金の組成を、Si69Sn2Ti28.5Al0.5(組成比は質量比)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でSi含有合金(負極活物質)、負極及びリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は6.4μmであった。
(実施例4)
メカニカルアロイング処理(メカニカルアロイ法)により作製するSi含有合金の組成を、Si68.5Sn2.5Ti28.5Al0.5(組成比は質量比)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でSi含有合金(負極活物質)、負極及びリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は7.8μmであった。
(比較例1)
メカニカルアロイング処理(メカニカルアロイ法)により作製するSi含有合金の組成を、Si68Sn5Ti27(組成比は質量比)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でSi含有合金(負極活物質)、負極及びリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は7.2μmであった。
(参考例1)
メカニカルアロイング処理(メカニカルアロイ法)により作製するSi含有合金の組成を、Si65Sn5Ti30(組成比は質量比)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でSi含有合金(負極活物質)、負極及びリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。得られたSi含有合金(負極活物質)粉末の平均粒子径(D50)は5.4μmであった。
[負極活物質の微細組織構造の分析]
実施例1において作製した負極活物質(Si含有合金)の微細組織構造を分析した。
図3(a)の上段左から1枚目の写真は、実施例1の負極活物質(Si含有合金)の高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF−STEM)による観察画像(高倍率)である。また、図3(b)〜(e)の上段左から2〜4枚目及び下段の写真は、当該観察画像と同じ視野についてEDX(エネルギー分散型X線分光法)により元素強度マッピングを行った画像である。具体的には、図3(b)〜(e)の上段左から2〜4枚目及び下段の写真は、上段左からSi、Sn、Tiのそれぞれの元素に対するマッピング画像であり、下段がAl元素に対するマッピング画像である。これらの結果から、図3(a)、(b)、(d)より、Tiが存在する部位にはSiも存在することから当該部位にはシリサイド(TiSi2)相が存在するものと考えられた。また、図3(a)、(b)、(c)、(d)より、Tiが存在しない部位にもSiが存在すること、SnはTiが存在せずSiが存在する部位(a−Si相)に一部、含まれている(多くは分散している)ことがわかった。Snは、シリサイド(TiSi2)相やa−Si相の境界(周辺)にも一部存在することも分かる。また、図3(a)、(b)、(d)、(e)よりAlは、Tiが存在しSiも存在する部位(シリサイド(TiSi2)相にも、Tiが存在せずSiが存在する部位(a−Si相)に(ほぼ均一に)分散していることもわかった。また、図3(a)、(b)、(d)より、a−Si相が、シリサイド(TiSi2)相中に分散されていることがわかる。詳しくは、連続相のシリサイド(TiSi2)相からなる海の中に、分散相のa−Si相からなる島が分散しているいわゆる海島構造を有することがわかる。
続いて、図4(a)の左側の写真は、図3(a)の上段左から1枚目の写真と同じ実施例1の負極活物質(Si含有合金)のHAADF−STEMによる観察画像(超高倍率)である。図4(b)の右側のグラフ及び表は、図4(a)の左側の写真の観察画像中に太線で囲んだ部位(符号4)(図3からシリサイド(TiSi2)相が存在するものと考えられた部位)の画像について得られたEDXスペクトルである。図4(b)のEDXスペクトルのグラフ及び表では、SiとTiとがほぼ2:1の原子比で存在していたことから、当該部位はシリサイド(TiSi2)相であることが確認された。なお、図4(b)のEDXスペクトルではシリサイド(TiSi2)相にAlが含まれていることも確認され、AlはSiとの間でシリサイドを形成しないことから、Alはシリサイド(TiSi2)相に分散(固溶)していると考えられた。
同様に、図5(a)の左側の写真は、図3(a)の上段左から1枚目の写真と同じ実施例1の負極活物質(Si含有合金)のHAADF−STEMによる観察画像(超高倍率)である。図5(b)の右側のグラフ及び表は、図5(a)の左側の写真の観察画像中に太線で囲んだ部位(符号5)(図3からTiが存在せずSiが存在する部位)の画像について得られたEDXスペクトルである。図5(b)のEDXスペクトルのグラフ及び表では、Siが主成分として存在していたことから、当該部位はa−Si相であることが確認された。なお、図5(b)のEDXスペクトルではa−Si相にSn、Alが含まれていることも確認され、SnはSiとの間でシリサイドを形成しないことから、Sn、Alはa−Si相に分散(固溶)していると考えられた。図4(b)及び図5(b)より、a−Si相にもAlを分散し、a−Si相中のAlの量が、シリサイド相中のAlの量よりも多いことも確認された。
以上の結果をまとめると、実施例1の負極活物質(Si含有合金)は、一部にSnを含み、非晶質又は低結晶性のSiを主成分とするa−Si相が、Tiのケイ化物を主成分とするシリサイド相中に分散され、シリサイド相中にAlを含有する微細組織構造である。更にa−Si相中にもAlが分散する微細組織構造であることがわかった。更にa−Si相中のAlの量が、シリサイド相中のAlの量よりも多いことも確認された。更にまた、結果を図示はしていないが、実施例2〜4の負極活物質(Si含有合金)も同様の微細組織構造等を有するものであることが、HAADF−STEMの観察結果やマッピング画像、更にEDXスペクトルのグラフ及び表によって確認されている。
一方、結果を図示はしていないが、比較例1及び参考例1の負極活物質(Si含有合金)では、Alを含まない為、実施例と同様の構造は確認されなかった。
[粉体(Si含有合金)の圧壊測定(圧縮強度試験)の結果]
実施例4及び参考例1で作製した各負極活物質(Si含有合金)について以下の圧縮強度試験を行った。具体的には、実施例4及び参考例1で作製した各負極活物質(Si含有合金)粉末試料をガラス基板に分散させた後、単離した粒子の単一押し込み測定を各試料で50回行った。得られたデータ(荷重と変位の関係)を解析し、圧壊荷重を算出した。用いた装置名称及び測定条件を以下に示す。
(装置名称及び測定条件)
装置名 :Hysitron製 TriboIndenter
使用圧子:球形圧子(先端半径:100μm)
測定温度:23±1℃
測定湿度:50±10%RH。
図6は、実施例4及び参考例1で作製したSi含有合金粉体の圧壊測定(圧縮強度試験)の結果を示す図面である。図6の結果より、参考例1のSiSnTi合金に対し実施例4のSiSnTiAl合金では、Alを加えることで、圧縮強度が向上することがわかった。なお、SiSnTi合金として比較例1よりもSiの組成比(含有量)が小さい参考例1を用いたのは、合金中のSiが増えるにつれて、a−Si(Tiシリサイド等よりも脆い部分)領域が増えることで圧縮強度が落ちる。このことから、SiSnTi合金として比較例1よりも圧縮強度の高い参考例1を用いて、一方、SiSnTiAl合金のなかでも、Si含有量が相対的に多い(実施例の中では圧縮強度が相対的に落ちる)実施例4との間で圧縮強度を比較したものである。
[サイクル耐久性の評価]
実施例1〜4及び比較例1のそれぞれにおいて作製した各リチウムイオン二次電池(コインセル)について以下の充放電試験条件に従ってサイクル耐久性評価を行った。
(充放電試験条件)
1)充放電試験機:HJ0501SM8A(北斗電工株式会社製)
2)充放電条件[充電過程]0.3C、2V→10mV(定電流・定電圧モード)
[放電過程]0.3C、10mV→2V(定電流モード)
3)恒温槽:PFU−3K(エスペック株式会社製)
4)評価温度:300K(27℃)。
評価用セルは、充放電試験機を使用して、上記評価温度に設定された恒温槽中にて、充電過程(評価用電極へのLi挿入過程を言う)では、定電流・定電圧モードとし、0.3Cにて2Vから10mVまで充電した。その後、放電過程(評価用電極からのLi脱離過程を言う)では、定電流モードとし、0.3C、10mVから2Vまで放電した。以上の充放電サイクルを1サイクルとして、同じ充放電条件にて、初期サイクル(1サイクル)〜50サイクルまで充放電試験を行った。そして、1サイクル目の放電容量(初期放電容量)に対する50サイクル目の放電容量の割合(放電容量維持率[%])を求めた結果を、下記の表1に示す。また、図7は、実施例1〜4及び比較例1で作製した各リチウムイオン二次電池(コインセル)につき、容量(初期放電容量)と放電容量維持率[%]との関係を表した図面である。
上記表1の結果から、比較例1のSiSnTi三元系合金に比して、実施例1〜4のSiSnTiAl四元系合金(負極活物質)を用いたリチウムイオン電池は、高い容量を保持しつつ、50サイクル後の放電容量維持率が高くサイクル耐久性に優れることがわかる。また、Si合金負極を用いた実施例1〜4では、炭素材料を用いた負極活物質に比べて、非常に高容量である(この点は、炭素材料を用いた比較例を示すまでもなく、いわば公知(背景技術参照)であるため、当該比較例は省略した)。このように高容量を保持しつつ、高いサイクル耐久性が実現できたのは、負極活物質を構成するSi含有合金がSi−Sn−Ti−Alで表される四元系合金が特定の組成範囲を有し、更に上記した微細組織構造を有していることによるものと言える。
比較例1の負極活物質(SiSnTi三元系合金)では、Alを含まない為、実施例と同様の微細組織構造は確認されなかった。そのため、実施例のSiSnTiAl四元系合金のようにAlがSi−Siの間に入って結合を伸ばすということができず、a−Si相及びシリサイド相の靱性を高める事ができず、圧縮応力を十分に向上できなかったものと言える。これにより、合金活物質粒子の割れを十分に抑制することができず、電極構造を十分に維持することができなかったものと言える。その結果、50サイクル時点ではまだ導電ネットワークからのSi粒子の脱落までは生じず不可逆容量化は表面化していないが、粒子割れにより新生面が生じ、この新生面と電解液とが反応して電解液が分解しサイクル耐久性の大幅な低下を招いたと言える。
また、実施例1〜4で比較した場合、実施例3〜4の方が実施例1〜2よりも高容量かつサイクル耐久性に優れることがわかる。これは、実施例3〜4の方が、合金中の組成範囲、特にAl組成比(含有量)が最適化できており、その結果、上記した発明の作用効果をより顕著に発現することができたと考えられる。