A.実施形態:
A−1.装置構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1のII−IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1のIII−IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
また、図1および図3に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
インターコネクタ150は、Z方向視で単セル110より大きい略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(発電単位102が並ぶ配列方向)に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で電解質層112および空気極114を支持する燃料極支持形の単セルである。
電解質層112は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。空気極114は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。燃料極116は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。燃料極116の構成については、後に詳述する。このように、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。本実施形態では、燃料極側集電体144は、Ni箔により形成されている。電極対向部145における燃料極116に対向する側の表面の略全面には、導電性の接合層310が配置されている。本実施形態では、接合層310は、NiO(酸化ニッケル)により形成されている。電極対向部145の表面に配置された接合層310は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面(すなわち、燃料極116における燃料極側集電体144に対向する側の表面であり、以下、「集電部材対向面S1」という)に接触している。また、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144および接合層310は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
図4に示すように、本実施形態では、燃料極側集電体144は、矩形の平板形状部材に切り込みを入れ、複数の矩形部分を曲げ起こすように加工することにより製造される。曲げ起こされた矩形部分が電極対向部145となり、曲げ起こされた部分以外の穴あき状態の平板部分がインターコネクタ対向部146となり、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ部分が連接部147となる。なお、図4に示す部分拡大図では、燃料極側集電体144の製造方法を示すため、複数の矩形部分の一部の曲げ起こし加工が完了する前の状態を示している。また、本実施形態では、電極対向部145および接合層310は、Z方向視で略格子状(格子の各交点上)に配置されている。Z方向視で、各電極対向部145の面積(すなわち、接合層310の面積)は、例えば1〜1000(mm2)である。
なお、本明細書では、各発電単位102において、単セル110の燃料極116側に位置する接合層310と燃料極側集電体144とインターコネクタ150との集合体を、燃料極側集電部材400という。燃料極側集電部材400は、上述した通りの構成であるため、Z方向視で単セル110より大きい平板形状部材(インターコネクタ150)と、燃料極116の集電部材対向面S1に接する複数の凸部(燃料極側集電体144における電極対向部145と、該電極対向部145の表面に設けられた接合層310との集合体であり、以下、「集電部材凸部410」という)とを有すると言える(図6参照)。燃料極側集電部材400は、特許請求の範囲における集電部材に相当し、複数の集電部材凸部410は、特許請求の範囲における複数の凸部に相当する。また、各集電部材凸部410における一部分を構成する電極対向部145は、特許請求の範囲における集電体本体に相当し、電極対向部145(集電体本体)と燃料極116の集電部材対向面S1との間に介在し、各集電部材凸部410における燃料極116の集電部材対向面S1に接する部分を構成する接合層310は、特許請求の範囲における接合層に相当する。また、本明細書では、単セル110と燃料極側集電部材400(燃料極側集電体144、接合層310、インターコネクタ150)とから構成される構造体を、集電部材−燃料電池単セル複合体(以下、単に「集電部材−単セル複合体」という)107という。
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。なお、本実施形態では、空気極側集電体134とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材の内の、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の凸部である集電体要素135が空気極側集電体134として機能する。また、空気極側集電体134とインターコネクタ150との一体部材は、導電性のコートによって覆われていてもよく、空気極114と空気極側集電体134との間には、両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。
A−2.燃料電池スタック100の動作:
図2および図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGに含まれる酸素と燃料ガスFGに含まれる水素との電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2および図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3および図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
A−3.燃料極116の詳細構成:
図6は、燃料極116の詳細構成を示す説明図である。図6には、図4のX1部の構成が拡大して示されている。図6に示すように、燃料極116は、基板層220と活性層210とを備える。基板層220は、Z方向において燃料極側集電体144に近い側(下側)の部分であり、集電部材対向面S1を含む部分である。また、活性層210は、Z方向において基板層220と電解質層112との間に位置する部分であり、燃料極116における電解質層112に対向する表面を含む部分である。
燃料極116の基板層220は、主として、単セル110を構成する他の層(活性層210、電解質層112、空気極114)を支持すると共に、燃料室176から供給される燃料ガスFGを拡散させ、さらに、発電反応により得られた電気を集電する場として機能する層である。また、活性層210は、主として、電解質層112から供給される酸化物イオンと燃料室176から基板層220を介して供給される燃料ガスFGに含まれる水素との反応の場として機能する層である。なお、本実施形態では、活性層210の活性を高めるため、活性層210におけるNiの含有率(vol%)は、基板層220におけるNiの含有率より高い。また、基板層220の強度を高めるため、Z方向において、基板層220の厚さは、活性層210の厚さより厚い。また、基板層220のガス拡散性を高めるために、基板層220の気孔率は、活性層210の気孔率より高い。
本実施形態では、燃料極116の活性層210および基板層220は、共に、導電性金属であるNiと酸化物イオン伝導性セラミックスであるYSZの粒子とのサーメットにより形成されている。なお、上述したように、本実施形態では、燃料極側集電部材400の集電部材凸部410を構成する燃料極側集電体144の電極対向部145および接合層310も導電性金属であるNiを含んでいる。そのため、燃料極116と集電部材凸部410(燃料極側集電体144の電極対向部145および接合層310)とは、同一の金属元素(Ni)を含んでいると言える。
本実施形態では、基板層220における集電部材対向面S1から厚さTxの領域(以下、「表層領域SP」という)を、Z方向に直交する方向(以下、「面方向」という)に並ぶ第1の部分PA1と第2の部分PA2とに分けると、第1の部分PA1における導電性金属(Ni)の含有率(vol%)は、第2の部分PA2における導電性金属の含有率より高くなっている。ここで、第1の部分PA1は、Z方向視で、集電部材凸部410(電極対向部145と接合層310との集合体)の先端面(すなわち、接合層310の燃料極116に対向する側の表面)と重なる凸部重複領域AR1に含まれる部分であり、第2の部分PA2は、Z方向視で、集電部材凸部410の先端面と重ならない凸部非重複領域AR2に含まれる部分である。すなわち、本実施形態では、面方向において、第2の部分PA2は2つの第1の部分PA1の間に位置している。このように、本実施形態では、基板層220における表層領域SPの内、集電部材凸部410に接する部分(第1の部分PA1)において、導電性金属の含有率が、集電部材凸部410に接しない部分(第2の部分PA2)より高くなっていると言える。
なお、第1の部分PA1における導電性金属の含有率を高くするために、酸化物イオン伝導性セラミックスの含有率を低くすると、第1の部分PA1の強度が低下するため好ましくない。そのため、本実施形態では、第1の部分PA1における導電性金属の含有率を高くするために、第1の部分PA1における気孔率を低下させている。換言すれば、第1の部分PA1における気孔率は、第2の部分PA2における気孔率よりも低くなっていると言える。
また、本実施形態では、表層領域SPの厚さ(すなわち、第1の部分PA1および第2の部分PA2の厚さ)Txは、基板層220の厚さTaの25%以下となっている。そのため、基板層220全体に占める第1の部分PA1の割合は比較的小さくなっている。なお、本実施形態では、基板層220における表層領域SP以外の領域の構成(導電性金属の含有率や気孔率)は、第2の部分PA2の構成と略同一となっている。また、活性層210の気孔率は、基板層220のいずれの部分の気孔率よりも低くなっている。そのため、本実施形態では、基板層220の厚さTaは、燃料極116における集電部材対向面S1から、気孔率が第1の部分PA1の気孔率をはじめて下回る位置までの厚さであると言える。
また、本実施形態では、第1の部分PA1における導電性金属の含有率は30(vol%)以上であり、かつ、第1の部分PA1における酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率は30(vol%)以上である。また、第2の部分PA2における酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率は30(vol%)以上であり、かつ、第2の部分PA2における気孔率は30(vol%)以上である。
A−4.燃料電池スタック100の製造方法:
上述した構成の燃料電池スタック100の製造方法は、例えば、以下の通りである。はじめに、単セル110を作製する。単セル110の作製方法は、例えば、以下の通りである。
(燃料極基板層用グリーンシートの作製)
NiO粉末(50重量部)とYSZ粉末(50重量部)との混合粉末(100重量部)に対して、造孔材である有機ビーズ(混合粉末に対して15重量%)と、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整する。有機ビーズは、例えば、ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンなどの高分子により形成された球状粒子である。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さの燃料極基板層用グリーンシートを複数作製する。なお、燃料極基板層用グリーンシートのNiO粉末とYSZ粉末との比率は、その性能を満足する限り適宜変更可能であり、例えばNiO粉末:YSZ粉末が60:40や40:60であっても構わない。つまり、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末が100重量部となるように、NiO粉末は40〜60重量部の間で適宜変更でき、残りをYSZ粉末とすることができる。
作製した複数の燃料極基板層用グリーンシートの内、上述した基板層220における表層領域SPに対応する燃料極基板層用グリーンシートの表面に、集電部材凸部410の配置に対応するパターンのマスク(焼成による収縮を考慮したもの)を用いて、上述した第1の部分PA1に対応する領域に低粘度のNiOをスプレーまたは印刷により塗布する。低粘度のNiOの塗布後、所定の時間放置することにより、対象の燃料極基板層用グリーンシートの内部にNiOが含浸する。これにより、表層領域SPに対応する燃料極基板層用グリーンシートにおける第1の部分PA1に対応する領域のNiOの含有率を高めることができる。例えば、4枚の燃料極基板層用グリーンシートの内の1枚を対象として低粘度のNiOの塗布が実行された場合には、その後に後述のように燃料極基板層用グリーンシートを用いて基板層220を作製すると、基板層220に基板層220の厚さTaの25%の厚さTxの第1の部分PA1が形成されることになる。
(燃料極活性層用グリーンシートの作製)
NiO粉末(60重量部)とYSZ粉末(40重量部)との混合粉末(100重量部)に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば、10μm〜30μm)の燃料極活性層用グリーンシートを作製する。なお、燃料極活性層用グリーンシートのNiO粉末とYSZ粉末との比率は、その性能を満足する限り適宜変更可能であり、例えばNiO粉末:YSZ粉末が50:50や40:60であっても構わない。つまり、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末が100重量部となるように、NiO粉末は40〜60重量部の間で適宜変更でき、残りをYSZ粉末とすることができる。
(電解質層用グリーンシートの作製)
YSZ粉末(100重量部)に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば、10μm)の電解質層用グリーンシートを作製する。
(電解質層112と燃料極116との積層体の作製)
燃料極基板層用グリーンシートと燃料極活性層用グリーンシートと電解質層用グリーンシートとを貼り付けて約280℃で脱脂する。さらに、約1350℃にて焼成を行うことにより、電解質層112と燃料極116(活性層210および基板層220)との積層体を得る。作製された積層体における燃料極116の基板層220には、上述した構成の第1の部分PA1および第2の部分PA2が形成されている。
(空気極114の形成)
La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3粉末と、イソプロピルアルコールとからなる混合液を作成する。作成した混合液を、上記積層体における電解質層112の表面に噴霧塗布し、1100℃で焼成することによって空気極114を形成する。以上の工程により、単セル110が作製される。
その後、残りの組み立て工程(例えば、燃料極側集電体144と単セル110(燃料極116)との接合やボルト22による締結)を行う。例えば、燃料極側集電体144と単セル110(燃料極116)との接合の際には、単セル110における燃料極116の基板層220側の表面(集電部材対向面S1)の内、燃料極側集電体144の電極対向部145に対向する領域(すなわち、第1の部分PA1の表面)に接合層用のペーストを印刷し、電極対向部145をペーストに押し付けた状態で所定の条件で焼成を行うことにより、燃料極側集電体144の電極対向部145と燃料極116の基板層220(第1の部分PA1)とを接合する接合層310を形成する。その他、残りの組み立て工程を行うことにより、上述した構成の燃料電池スタック100の製造が完了する。
A−5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態における単セル110と燃料極側集電部材400(燃料極側集電体144、接合層310、インターコネクタ150)とから構成される集電部材−単セル複合体107では、燃料極116(の基板層220)が第1の部分PA1と第2の部分PA2とを有する。第1の部分PA1は、Z方向視で集電部材凸部410(電極対向部145と接合層310との集合体)と重なる凸部重複領域AR1における集電部材対向面S1(燃料極116における燃料極側集電体144に対向する側の表面)を含む部分である。また、第2の部分PA2は、Z方向に直交する方向(面方向)において第1の部分PA1の隣に位置すると共に、Z方向視で集電部材凸部410と重ならない部分である。第1の部分PA1は、第2の部分PA2より導電性金属(Ni)の含有率(vol%)が高い。また、第1の部分PA1のZ方向における厚さTxは、燃料極116の基板層220の厚さTaの25%以下である。そのため、本実施形態の集電部材−単セル複合体107では、燃料極116と集電部材凸部410との界面付近において、燃料極116に含まれる導電性金属と集電部材凸部410に含まれる導電性金属との接触面積を増やすことができ、その結果、燃料極116と集電部材凸部410との間で導電性金属の拡散が促進されて燃料極116と集電部材凸部410とが強固に接合される。そのため、本実施形態における集電部材−単セル複合体107によれば、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を抑制することができる。
なお、例えば、燃料極116の基板層220の表層領域SP全体を対象として、導電性金属の含有率を高めることによっても、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を抑制することができる。しかし、このような構成では、基板層220の表層領域SP全体について気孔率が低くなるため、燃料極116における燃料ガスFGの拡散性が低下し、発電性能が低下するおそれがある。これに対し、本実施形態の集電部材−単セル複合体107では、基板層220の表層領域SPの内、Z方向視で集電部材凸部410と重なる第1の部分PA1のみについて導電性金属の含有率が高められており、Z方向視で集電部材凸部410と重ならない第2の部分PA2については気孔率が高い状態に維持されているため、燃料極116における燃料ガスFGの拡散性の低下を抑制しつつ、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を抑制することができる。
また、本実施形態の集電部材−単セル複合体107では、燃料極116の基板層220における第1の部分PA1の厚さTxが、基板層220の厚さTaの25%以下とされている。そのため、基板層220におけるZ方向視で集電部材凸部410と重なる凸部重複領域AR1においても、第1の部分PA1を除く大半の部分は気孔率が高い状態に維持されている。そのため、本実施形態の集電部材−単セル複合体107によれば、燃料極116における燃料ガスFGの拡散性の低下を効果的に抑制しつつ、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を効果的に抑制することができる。
なお、燃料極116における燃料ガスFGの拡散性の低下を効果的に抑制しつつ、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を効果的に抑制するため、第1の部分PA1における導電性金属の含有率(vol%)と第2の部分PA2における導電性金属の含有率(vol%)との差は、5(vol%)以上、30(vol%)以下であることが好ましい。
また、本実施形態の集電部材−単セル複合体107では、燃料極116が酸化物イオン伝導性セラミックスであるYSZの粒子を含んでいる。また、燃料極116の基板層220における第1の部分PA1は、導電性金属(Ni)の含有率が30(vol%)以上であり、かつ、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)粒子の含有率が30(vol%)以上である。また、燃料極116の基板層220における第2の部分PA2は、酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率が30(vol%)以上であり、かつ、気孔率が30(vol%)以上である。そのため、本実施形態の集電部材−単セル複合体107では、燃料極116の基板層220における第1の部分PA1および第2の部分PA2の酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率をある程度高く保つことによって、燃料極116の強度を確保することができる。また、燃料極116の基板層220における第1の部分PA1の導電性金属の含有率をある程度高く保つことによって、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を抑制することができると共に、燃料極116の基板層220における第2の部分PA2の気孔率をある程度高く保つことによって、燃料極116における燃料ガスFGの拡散性の低下を抑制することができる。
また、本実施形態の集電部材−単セル複合体107では、燃料極側集電部材400が、集電部材凸部410における一部分を構成する電極対向部145(集電体本体)と、電極対向部145と燃料極116の集電部材対向面S1との間に介在し、各集電部材凸部410における燃料極116の集電部材対向面S1に接する部分を構成する接合層310とを備える。また、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1における導電性金属と接合層310とは、同一の金属元素(Ni)を含む。そのため、本実施形態の集電部材−単セル複合体107によれば、燃料極116の基板層220における第1の部分PA1と接合層310との接合性を高めることができ、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を効果的に抑制することができる。
A−6.性能評価:
燃料極116の基板層220の構成が互いに異なる複数の集電部材−単セル複合体107のサンプルを作成し、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生のしにくさ(耐剥離性)、および、燃料極116における燃料ガスFGの拡散性(ガス拡散性)について、性能評価を行った。図7〜図10は、性能評価結果を示す説明図である。
性能評価では、耐剥離性の評価指標として、集電部材−単セル複合体107から単セル110を引き剥がす際に、接合層310が単セル110(の燃料極116)との界面で剥がれる割合(サンプル10個あたり)を調べた。この割合が高いほど、耐剥離性が高いと言える。また、ガス拡散性の評価指標として、ボタンセルの初期電圧(温度:700℃、電流密度:0.55A/cm2、供給する酸化剤ガスOG:酸素50ml/minおよび窒素200ml/min、供給する燃料ガスFG:水素320ml/min、露点温度30℃)を調べた。初期電圧値が高いほど、ガス拡散性が高いと言える。
(第1の性能評価)
図7に示す第1の性能評価に用いられた各サンプル(比較例1,2および実施例1)は、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1および第2の部分PA2の組成が互いに異なる。具体的には、実施例1では、第1の部分PA1における導電性金属(Ni)の含有率、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)粒子の含有率、気孔率は、それぞれ50、30、20(vol%)であり、第2の部分PA2における同様の含有率は、それぞれ40、30、30(vol%)である。このように、実施例1では、第1の部分PA1は第2の部分PA2と比較して、導電性金属の含有率が高く、その分、気孔率が低い。なお、実施例1では、第1の部分PA1の厚さTxは8μmであり、これは、基板層220の厚さTa(=800μm)の1%に相当する。
一方、比較例1,2では、燃料極116の基板層220の組成が、基板層220の全体にわたって一様となっている。具体的には、比較例1では、基板層220の全体にわたって、導電性金属(Ni)の含有率、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)粒子の含有率、気孔率は、それぞれ40、30、30(vol%)であり、比較例2では、基板層220の全体にわたって、含有率は、それぞれ50、30、20(vol%)である。なお、図7では、便宜上、比較例1,2についても第1の部分PA1と第2の部分PA2とに分けて基板層220の組成が記載されているが、実際には、上述したように、基板層220の組成は全体にわたって一様となっている。図8以降についても同様である。
図7に示すように、比較例1の耐剥離性およびガス拡散性を基準値とした場合、比較例2では、耐剥離性が基準値から25%向上したものの、ガス拡散性が基準値から5.5%低下した。比較例2では、燃料極116の基板層220の全体にわたって導電性金属の含有率が高いため、耐剥離性が向上した一方、燃料極116の基板層220の全体にわたって気孔率が低いため、ガス拡散性が大きく低下したものと考えられる。性能評価では、ガス拡散性の基準値からの低下率が0.1%以上である場合に不合格と判定するものとしたため、比較例2は不合格と判定された。
これに対し、実施例1では、耐剥離性が基準値から25%向上し、かつ、ガス拡散性の基準値からの低下率は0.01%とわずかであった。実施例1では、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1における導電性金属の含有率が高いため、耐剥離性が向上し、かつ、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1における気孔率は低いものの、基板層220における大半の部分、すなわち、第2の部分PA2やその他の部分(基板層220における表層領域SP以外の部分)の気孔率は比較例1と同程度であり、燃料極116の基板層220全体としての燃料ガスFGの拡散性の低下を抑制できたためであると考えられる。実施例1では、ガス拡散性の基準値からの低下率が0.1%未満であるため、合格と判定された。
図7に示す第1の性能評価結果から、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1が第2の部分PA2より導電性金属の含有率が高く、かつ、第1の部分PA1の厚さTxが基板層220の厚さの25%以下であると、燃料極116の基板層220全体としての燃料ガスFGの拡散性の低下を抑制しつつ、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を抑制することができると言える。また、第1の部分PA1は、導電性金属の含有率が30(vol%)以上であり、かつ、酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率が30(vol%)以上であることが好ましく、第2の部分PA2は、酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率が30(vol%)以上であり、かつ、気孔率が30(vol%)以上であることが好ましいと言える。
(第2の性能評価)
図8に示す第2の性能評価に用いられた各サンプル(比較例1,3および実施例2)は、上述した第1の性能評価と同様に、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1および第2の部分PA2の組成が互いに異なる。具体的には、実施例2では、第1の部分PA1における導電性金属(Ni)の含有率、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)粒子の含有率、気孔率は、それぞれ40、30、30(vol%)であり、第2の部分PA2における同様の含有率は、それぞれ30、30、40(vol%)である。このように、実施例2では、第1の部分PA1は第2の部分PA2と比較して、導電性金属の含有率が高く、その分、気孔率が低い。なお、実施例2では、第1の部分PA1の厚さTxが8μmであり、これは、基板層220の厚さTa(=800μm)の1%に相当する。
一方、比較例3では、燃料極116の基板層220の組成が、基板層220の全体にわたって一様となっている。具体的には、比較例3では、基板層220の全体にわたって、導電性金属(Ni)の含有率、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)粒子の含有率、気孔率は、それぞれ30、30、40(vol%)である。なお、比較例1は、上述した第1の性能評価における比較例1と同一である。
図8に示すように、比較例3の耐剥離性およびガス拡散性を基準値とした場合、比較例1では、耐剥離性が基準値から33%向上したものの、ガス拡散性が基準値から1.03%低下した。比較例1では、燃料極116の基板層220の全体にわたって導電性金属の含有率が高いため、耐剥離性が向上した一方、燃料極116の基板層220の全体にわたって気孔率が低いため、ガス拡散性が大きく低下したものと考えられる。比較例1では、ガス拡散性の基準値からの低下率が0.1%以上であるため、不合格と判定された。
これに対し、実施例2では、耐剥離性が基準値から33%向上し、かつ、ガス拡散性の基準値からの低下率は0.01%とわずかであった。実施例2では、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1における導電性金属の含有率が高いため、耐剥離性が向上し、かつ、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1における気孔率は低いものの、基板層220における大半の部分、すなわち、第2の部分PA2やその他の部分(基板層220における表層領域SP以外の部分)の気孔率は比較例3と同程度であり、燃料極116の基板層220全体としての燃料ガスFGの拡散性の低下を抑制できたためであると考えられる。実施例2では、ガス拡散性の基準値からの低下率が0.1%未満であるため、合格と判定された。
図8に示す第2の性能評価結果から、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1が第2の部分PA2より導電性金属の含有率が高く、かつ、第1の部分PA1の厚さTxが基板層220の厚さの25%以下であると、燃料極116の基板層220全体としての燃料ガスFGの拡散性の低下を抑制しつつ、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を抑制することができると言える。また、第1の部分PA1は、導電性金属の含有率が30(vol%)以上であり、かつ、酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率が30(vol%)以上であることが好ましく、第2の部分PA2は、酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率が30(vol%)以上であり、かつ、気孔率が30(vol%)以上であることが好ましいと言える。
(第3の性能評価)
図9に示す第3の性能評価に用いられた各サンプル(比較例3,4および実施例3,4)は、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1および第2の部分PA2の組成と、第1の部分PA1の厚さTxとが互いに異なる。具体的には、実施例3,4では、第1の部分PA1における導電性金属(Ni)の含有率、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)粒子の含有率、気孔率は、それぞれ30、30、40(vol%)であり、第2の部分PA2における同様の含有率は、それぞれ20、30、50(vol%)である。このように、実施例3,4では、第1の部分PA1は第2の部分PA2より導電性金属(Ni)の含有率が高く、その分、気孔率が低い。
また、実施例3では、第1の部分PA1の厚さTxが8μmであり、これは、基板層220の厚さTa(=800μm)の1%に相当する。また、実施例4では、第1の部分PA1の厚さTxが200μmであり、これは、基板層220の厚さTa(=800μm)の25%に相当する。
一方、比較例4では、燃料極116の基板層220の組成が、基板層220の全体にわたって一様となっている。具体的には、比較例4では、基板層220の全体にわたって、導電性金属(Ni)の含有率、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)粒子の含有率、気孔率は、それぞれ20、30、50(vol%)である。なお、比較例3は、上述した第2の性能評価における比較例3と同一である。
図9に示すように、比較例4の耐剥離性およびガス拡散性を基準値とした場合、比較例3では、耐剥離性が基準値から50%向上したものの、ガス拡散性が基準値から0.72%低下した。比較例3では、燃料極116の基板層220の全体にわたって導電性金属の含有率が高いため、耐剥離性が向上した一方、燃料極116の基板層220の全体にわたって気孔率が低いため、ガス拡散性が大きく低下したものと考えられる。比較例3では、ガス拡散性の基準値からの低下率が0.1%以上であるため、不合格と判定された。
これに対し、実施例3では、耐剥離性が基準値から50%向上し、かつ、ガス拡散性は基準値とほぼ同等であった。また、実施例4では、耐剥離性が基準値から50%向上し、かつ、ガス拡散性の基準値からの低下率は0.09%とわずかであった。実施例3,4では、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1における導電性金属の含有率が高いため、耐剥離性が向上し、かつ、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1における気孔率は低いものの、基板層220における大半の部分、すなわち、第2の部分PA2やその他の部分(基板層220における表層領域SP以外の部分)の気孔率は比較例4と同程度であり、燃料極116の基板層220全体としての燃料ガスFGの拡散性の低下を抑制できたためであると考えられる。実施例3,4では、ガス拡散性の基準値からの低下率が0.1%未満であるため、合格と判定された。
図9に示す第3の性能評価結果から、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1が第2の部分PA2より導電性金属の含有率が高く、かつ、第1の部分PA1の厚さTxが基板層220の厚さの25%以下であると、燃料極116の基板層220全体としての燃料ガスFGの拡散性の低下を抑制しつつ、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を抑制することができると言える。また、第1の部分PA1は、導電性金属の含有率が30(vol%)以上であり、かつ、酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率が30(vol%)以上であることが好ましく、第2の部分PA2は、酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率が30(vol%)以上であり、かつ、気孔率が30(vol%)以上であることが好ましいと言える。
また、比較例4では、燃料極116の基板層220における導電性金属の含有率が20(vol%)とかなり低いため、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離がかなり発生しやすかった。このことからも、燃料極116の基板層220(の第1の部分PA1)における導電性金属の含有率は30(vol%)以上であることが好ましいと言える。
(第4の性能評価)
図10に示す第4の性能評価に用いられた各サンプル(比較例5,6)は、燃料極116の基板層220の第1の部分PA1および第2の部分PA2の組成が互いに異なる。具体的には、比較例5では、第1の部分PA1における導電性金属(Ni)の含有率、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)粒子の含有率、気孔率は、それぞれ30、20、50(vol%)であり、第2の部分PA2における同様の含有率は、それぞれ20、20、60(vol%)である。また、比較例6では、第1の部分PA1における導電性金属(Ni)の含有率、酸化物イオン伝導性セラミックス(YSZ)粒子の含有率、気孔率は、それぞれ40、20、40(vol%)であり、第2の部分PA2における同様の含有率は、それぞれ30、20、50(vol%)である。このように、比較例5,6では、第1の部分PA1は第2の部分PA2より導電性金属の含有率が高く、その分、気孔率が低い。
図10に示すように、比較例5,6では、単セル110に割れが発生したため、耐剥離性およびガス拡散性の評価を行うことができなかった。比較例5,6では、燃料極116の基板層220における酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率が20(vol%)とかなり低いため、燃料極116の強度を確保することができず、単セル110に割れが発生したものと考えられる。
図10に示す第4の性能評価結果から、第1の部分PA1および第2の部分PA2における酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率は30(vol%)以上であることが好ましいと言える。
A−7.燃料極116の分析方法:
燃料極116の分析方法は、例えば、以下の通りである。
(導電性金属および酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率の特定方法)
燃料極116の各位置(各領域)における導電性金属や酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率は、以下の方法により特定される。面方向に直交する単セル110の断面を設定し、該断面における上記含有率を特定すべき位置(領域)で、FIB−SEM(加速電圧1.5kV)による元素マッピング画像(例えば5000倍)を得る。得られた画像における上記位置(領域)で、対応する元素の面積割合を算出することにより、導電性金属や酸化物イオン伝導性セラミックス粒子の含有率を特定する。
(気孔率の特定方法)
燃料極116の各位置(各領域)における気孔率は、以下の方法により特定される。上述した含有率の特定方法と同様に、FIB−SEMによるSEM画像(例えば5000倍)を得て、得られた画像における上記位置(領域)で、面方向に平行な複数の線を所定の間隔(例えば1μmから5μm間隔)で引く。各直線上の気孔にあたる部分の長さを測定し、直線の全長に対する気孔にあたる部分の長さの合計の比を、当該線上における気孔率とする。気孔率を特定すべき位置(領域)に引かれた複数の直線における気孔率の平均値を算出することにより、当該位置(領域)における気孔率を特定する。
(第1の部分PA1の厚さTxの特定方法)
第1の部分PA1の厚さTxは、以下の方法により特定される。図11は、第1の部分PA1の厚さTxの特定方法を示す説明図である。図6に示すように、燃料極116の断面において、各凸部重複領域AR1を面方向において等分する仮想線L1と、各凸部非重複領域AR2を面方向において等分する仮想線L2とを設定し、各仮想線L1,L2上の各位置における導電性金属(Ni)の含有率を特定する。図11には、仮想線L1および仮想線L2上の各位置における導電性金属の含有率を示す曲線N(L1)および曲線N(L2)が示されている。
基板層220における凸部非重複領域AR2では、導電性金属の含有率が略一定であるため、仮想線L2上の各位置における導電性金属の含有率を示す曲線N(L2)は、集電部材対向面S1との交点P2からZ軸正方向に向けて略直線状となる。一方、基板層220における凸部重複領域AR1では、第1の部分PA1における導電性金属の含有率が比較的高いため、仮想線L1上の各位置における導電性金属の含有率を示す曲線N(L1)は、集電部材対向面S1との交点P1からZ軸正方向に向けて略直線状となり、第1の部分PA1と他の部分との境界付近において導電性金属の含有率が低下するような曲線となる。上述したように、基板層220における表層領域SP以外の領域の構成は、第2の部分PA2の構成と略同一である。そのため、凸部重複領域AR1における第1の部分PA1以外の部分の構成も、第2の部分PA2の構成と略同一であると言える。従って、曲線N(L2)における上記略直線状の部分と曲線N(L1)における上記略直線状の部分との両方から等距離にある仮想線Lmを特定し、仮想線Lmと曲線N(L1)との交点P3を特定し、Z方向における交点P1から交点P3までの距離を、第1の部分PA1の厚さTxとして特定するものとする。
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
上記実施形態における燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、燃料極116が、活性層210と基板層220との2層により構成されるとしているが、燃料極116は、単層構成であってもよいし、3層以上により構成されるとしてもよい。例えば、燃料極116は、活性層210と、基板層220と、活性層210と基板層220との間に配置され、活性層210より気孔率が高く、かつ、基板層220より気孔率が低い第3の層と、を備える3層構成であるとしてもよい。
また、上記実施形態では、燃料極側集電体144の電極対向部145と燃料極116の集電部材対向面S1との間に接合層310が介在しているが、接合層310が設けられず、燃料極側集電体144の電極対向部145が燃料極116の集電部材対向面S1に直接接しているとしてもよい。すなわち、集電部材凸部410が電極対向部145により構成されるとしてもよい。このような構成においても、燃料極116の第1の部分PA1における導電性金属の含有率を第2の部分PA2における導電性金属の含有率より高くすれば、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を抑制することができる。なお、このような構成において、第1の部分PA1における導電性金属と電極対向部145とが同一の金属元素を含むとすれば、第1の部分PA1と電極対向部145との接合性を高めることができ、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を効果的に抑制することができるため好ましい。
また、上記実施形態における燃料極側集電体144の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、燃料極側集電体144は、上記実施形態における空気極側集電体134およびインターコネクタ150の一体部材と同様の構成、すなわち、Z方向に直交する平板形の部分(インターコネクタ150)と、該平板形の部分から燃料極116に向けて突出するように形成された複数の凸部(空気極側集電体134)とを備える構成であるとしてもよい。また、このような構成において、上記平板形の部分における上記複数の凸部が形成された側とは反対側の面が、平面ではなく、凹凸が形成された面であるとしてもよい。
また、上記実施形態では、燃料極116におけるすべての第1の部分PA1について、第1の部分PA1における導電性金属の含有率は、該第1の部分PA1の隣の第2の部分PA2における導電性金属の含有率より高いとしているが、必ずしもそうような構成である必要は無い。燃料極116における少なくとも1つの第1の部分PA1について、第1の部分PA1における導電性金属の含有率は、該第1の部分PA1の隣の第2の部分PA2における導電性金属の含有率より高いとすればよい。このような構成であれば、該第1の部分PA1の位置における燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を抑制することができる。なお、燃料極116と集電部材凸部410との間の剥離の発生を効果的に抑制するために、燃料極116におけるすべての第1の部分PA1の内の5割以上について、第1の部分PA1における導電性金属の含有率が、該第1の部分PA1の隣の第2の部分PA2における導電性金属の含有率より高い構成であることが好ましい。なお、燃料極116における第1の部分PA1の個数が20個以内である場合には、すべての第1の部分PA1について、上記特定方法により導電性金属等の含有率を特定するものとする。また、燃料極116における第1の部分PA1の個数が20個を超える場合には、任意の20個の第1の部分PA1について、上記特定方法により導電性金属等の含有率を特定し、特定された含有率に基づき他の第1の部分PA1の構成を推定するものとする。
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。
また、上記実施形態における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。例えば、上記実施形態では、燃料極116は、導電性金属であるNiと酸化物イオン伝導性セラミックスであるYSZの粒子とのサーメットにより形成されているとしているが、導電性金属としてNi以外の金属(例えば、CuやMo)が用いられてもよいし、酸化物イオン伝導性セラミックスとしてYSZ以外のセラミックス(例えば、CSZやScSZ)が用いられてもよい。
本明細書において、部材(または部材のある部分、以下同様)Aを挟んで部材Bと部材Cとが互いに対向するとは、部材Aと部材Bまたは部材Cとが隣接する形態に限定されず、部材Aと部材Bまたは部材Cとの間に他の構成要素が介在する形態を含む。例えば、電解質層112と空気極114との間に他の層が設けられていてもよい。このような構成であっても、空気極114と燃料極116とは電解質層112を挟んで互いに対向すると言える。
また、上記実施形態における燃料電池スタック100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、特定の燃料極基板層用グリーンシートの表面への低粘度のNiOの塗布は、電解質層112と燃料極116との積層体を作製するための焼成工程の前に行われるが、低粘度のNiOの塗布が該焼成工程の後に行われるとしてもよい。また、燃料極116に導電性金属の含有率の高い第1の部分PA1を形成するために、必ずしも導電性金属やその酸化物(例えばNiO)の塗布が行われる必要は無く、他の方法によりそのような構成の単セル110が製造されるとしてもよい。
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルや、複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2014−207120号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。