JP2017218646A - 大規模な二酸化炭素排出源(火力発電所等)で貯留した二酸化炭素の電解還元・メタノール同時合成のための二酸化炭素電解処理システム - Google Patents

大規模な二酸化炭素排出源(火力発電所等)で貯留した二酸化炭素の電解還元・メタノール同時合成のための二酸化炭素電解処理システム Download PDF

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Abstract

【課題】大規模なCO2排出源で貯留したCO2を、既存の固定化処理技術に比してコストを抑制でき、尚且つ我が国の地理的な条件にも適合し得るCO2電解処理システム処理システムを提供する。【解決手段】大規模なCO2排出源で貯留したCO2の電解還元・メタノール同時合成のためのCO2電解処理システムであって、前記CO2電解処理システム用カソード触媒が、白金酸化物を用いた触媒であり、アノード触媒が、白金、白金基合金、銅、鉛基合金の少なくとも1種を用いた触媒であることを特徴とするCO2電解処理システム。【選択図】図5

Description

本発明は、大規模なCO排出源(火力発電所等)で貯留したCOの電解還元・メタノール(CHOH)同時合成のためのCO電解処理システムに関する。
地球全体の二酸化炭素(CO)濃度の上昇には依然として歯止めがかからず(図1参照)、酷暑や台風などの過酷な気象現象として、その影響が顕在化している。さらに、生物種の大規模な絶滅を引き起こす可能性も指摘されている。一方、石炭や石油などの化石エネルギーを使用する火力発電所からのCO排出量は、原子力や太陽光発電に比して著しく大きい。ところが、東日本大震災以降、原子力発電所の休止に伴って火力発電所の稼働率が高まり、我が国におけるCO排出量は大幅に増大している。そのため、火力発電所から多量に排出されるCOを分離・回収するとともに、その処理と有効利用に関するシステムの構築が喫緊の課題となっている。
これまで、火力発電所で(排気ガス中から吸着材を用いた吸収と再生によってCOを分離・回収(濃縮)して)貯留されるCOについては、地中深部(例えば、油田中など)や海底やその下地層(例えば、深海底など)に搬入し固定化するなどの処理方法が検討されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
特開平6−91160号公報 特開平6−182191号公報
しかしながら、特許文献1、2に示されているCOの固定化処理技術は、コストが膨大な上に、我が国の地理的な条件に適合した処理システムとは言い難いという問題があった。
そこで、本発明の目的は、大規模なCO排出源(火力発電所等)で(排気ガス中から分離・回収(濃縮)して)貯留したCOを、既存の固定化処理技術に比してコストを抑制でき、尚且つ我が国の地理的な条件にも適合し得るCO処理システムを提供するものである。
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、大規模なCO排出源(火力発電所等)で貯留したCOの処理システムにつき鋭意研究を重ねた。その結果、COを電解還元によって処理するシステムのカソード触媒として白金酸化物触媒を用いることで、大量に発生するCOの電解還元(の反応速度)及びメタノール(CHOH)生成の反応速度は、代表的な電極触媒である白金触媒に比して1オーダー大きいことを見出したものである(図9参照)。更にカソード触媒として白金酸化物触媒を用いて、CO飽和電解液中でCOの電解還元処理を実施した際の反応生成物(還元生成物)は、化学物質として有用なメタノール(CHOH)のみであることを見出し、本発明に至ったものである。
すなわち、本発明は、大規模なCO排出源(火力発電所等)で貯留したCOを電解還元によって処理すると同時に、化学物質として有用なメタノール(CHOH)を合成する電解処理システムであって(図2参照)、白金酸化物触媒をカソード触媒に用いてなることを特徴とするものである。
詳しくは、以下の大規模なCO排出源(火力発電所等)で貯留したCOの電解還元・メタノール同時合成のためのCO電解処理システムにより達成されるものである。
本発明のCO電解処理システムは、大規模なCO排出源(火力発電所等)で貯留したCOの電解還元・メタノール同時合成のためのCO電解処理システムであって、前記CO電解処理システム用カソード触媒が、白金酸化物を用いた触媒であり、アノード触媒が、白金、白金基合金、銅、鉛基合金の少なくとも1種を用いた触媒であることを特徴とするものである。
本発明によれば、CO電解還元・メタノール同時合成のためのCO電解処理システムの電極触媒として、触媒活性が極めて高く優れた触媒性能を有する代表的な電極触媒である白金触媒に代えて、触媒活性を持たないと思われていた白金酸化物触媒をカソード触媒として使用することで、卓越した活性を発現し、メタノール生成(及びCOの電解還元)の反応速度が白金触媒に比して1オーダー大きくすることができる。これにより、図5のような大型のCO電解処理システムを用いて連続的に処理することで、大規模なCO排出源(火力発電所等)で(排気ガス中から分離・回収(濃縮)して)貯留した多量のCOの処理と有効利用を図ることができる。すなわち、貯留した多量のCOを地中深部や海底下地層等に固定化するのではなく、有用な化学物質(工業用原料)であるメタノール(CHOH)に効率良く変換できる(生産効率に優れる)という経済的な優位性と技術的な進歩性がある。このように、貯留した多量のCOを既存の固定化処理技術に比して処理コストを抑制(低減)でき、我が国の地理的な条件にも適合し得るコンパクトで貯留COの処理効率及びメタノールの生産効率に優れるCO電解処理システムを提供することができる。例えば、得られたメタノール(工業用原料)を多岐にわたる化学工業分野等において有効活用する(特に長期間安定に使用される製品等にするなどしてCOの長期固定化を図る)ことで環境にやさしく地球温暖化防止にも貢献し得るCO電解処理システムを提供することができるものである。
地球全体のCO濃度の経年変化の様子を表す図面である。 火力発電所における貯留COの電解処理システムの概要を模式的に表す図面である。 本発明のCO電解処理システムの構成及び反応を説明するための概略図である。 図3の電解槽に代えて電解単セルの構成を示す概略図である。 図4の電解単セルを複数連結してなる処理能力を大幅に増大させた大容量電解マルチセルを電解槽として用いたCO電解処理システムの構成を示す概略図である。 スパッタ装置の構成を示す概略図である。 実施例で用いたCO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システムの構成を示す概略図である。 図7のCO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システムに用いた回転ディスク電極の内部を示す概略図である。 図9(a)は白金触媒を用いた際のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。図9(b)は白金酸化物触媒を用いた際のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。 GC−MSによる、実験後の電解液試料を加熱し、試料から出たガス(特にCO電解還元生成物)の分析結果を示すグラフである。 白金触媒および白金酸化物触媒でのメタノール酸化電気量を、図9(a)及び図9(b)に示された電極電位0.6V vs.NHE(付近)における電流密度i(mA/cm)から求めた電気量Q(C)で、比較した結果を表したグラフである。 図12(a)は、白金触媒(白金電極)を用いた際のサイクリックボルタモグラムを示すと共に、このサイクリックボルタモグラム中にQ1(C)およびQ2(C)部分を薄く塗りつぶして表記したグラフである。図12(b)は、白金酸化物触媒(白金酸化物電極)を用いた際のサイクリックボルタモグラムを示すと共に、このサイクリックボルタモグラム中にQ1(C)およびQ2(C)部分を薄く塗りつぶして表記したグラフである。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本発明によるCO電解処理システムは、白金酸化物をカソード触媒とする。カソード触媒に白金酸化物触媒を用いることで、高いメタノール生成活性(COの電解還元活性)が発現し、メタノール生成(COの電解還元)の反応速度が、白金触媒に比して1オーダー大きくなる。以下、実施形態により詳細に説明する。
<CO電解処理システム>
本実施形態に係るCO電解処理システムは、大規模なCO排出源(火力発電所等)で貯留したCOの電解還元・メタノール同時合成のためのCO電解処理システムであって、前記CO電解処理システム用カソード触媒が、白金酸化物を用いた触媒であり、アノード触媒が、白金、白金基合金、銅、鉛基合金の少なくとも1種であることを特徴とするものである。
本実施形態に係るCO電解処理システムの一例について説明する。
図3は、本実施形態に係るCO電解処理システムの構成及び該システムによるCO電解還元・メタノール同時合成反応を説明するための概略図である。
本実施形態は、火力発電所等の大規模なCO排出源で(排気ガス中から分離・回収(更に必要に応じて濃縮)して)貯留したCOを電解処理するシステムである。このシステムにおいては、大規模なCO排出源で貯留したCOを電解槽に導入し、卓越した活性を有する白金酸化物触媒をカソード電極に用いて電気化学還元すると同時に、有用なメタノール(CHOH)に変換できる点において優れている。
ここで、大規模なCO排出源としては、特に制限されるものではなく、例えば、火力発電所(石炭火力発電所、石油火力発電所等)、高炉一貫製鉄所(高炉、コークス炉、転炉など)、セメント製造所(セメントキルンなど)などが挙げられるが、これらに何ら制限されるべきものではない。
大規模なCO排出源の排気ガス中から分離・回収(濃縮)して貯留する方法としては、特に制限されるものではない。例えば、大規模なCO排出源の排気ガス(燃焼排ガス)から化学吸収液でCOを吸収後、化学吸収液を加熱しCOを分離・回収させる化学吸収法など、従来公知の方法を適宜利用することができる。当該化学吸収法では、化学吸収液を加熱する際の熱源を、併設する火力発電所や高炉一貫製鉄所等で大量に発生する排熱を利用することができる。現在の火力発電所や高炉一貫製鉄所等では、排熱の有効利用が進んでおり、高温〜中低温の排熱は、火力発電所や高炉一貫製鉄所等内で多段階に利用され、火力発電所や高炉一貫製鉄所等内では再利用困難な低温の排熱が排出されている。化学吸収法では、高温〜中低温の排熱を用いなくても、火力発電所や高炉一貫製鉄所等内に併設される為、搬送時の(熱エネルギー)ロスを最小限に抑えることができる。そのため、火力発電所や高炉一貫製鉄所等内で有効利用されて出てきた低温の排熱を、化学吸収液を加熱する際の熱源として有効活用することができる点で優れている。分離・回収したCOは、例えば、深冷分離法などを用いて液化濃縮することにより、分離・回収後、濃縮して貯留することができる。また、上記した化学吸収法以外にも、大規模なCO排出源の排気ガス(燃焼排ガス)からのCO分離・回収(濃縮)して貯留する方法としては、圧力スイング吸着法(PSA)を適宜利用することができる。PSAでは、システムとして、排気ガス中のCO(ドライベースで数%から数十%(例えば10%)程度含まれるCO)をPSA単段で分離し、さらに後段で深冷分離法にて液化濃縮することにより、分離・回収後、濃縮して貯留することができる。例えば、ゼオライト13X系の吸着材を用い、PSA操作条件を最適化することにより、PSA単段でCO濃度約70%、回収率90%以上に到達することができる。また、後段の深冷分離プロセスにおいて、オフガスをPSA入口に還元することで、CO濃度99%以上、回収率も90%を越えるシステムが構築できる。
本実施形態のCO電解処理システム11は、COの電解還元処理と同時に、化学物質として有用なメタノールの合成を行うための電解槽13を有する。電解槽13には、陽イオン交換膜15を挟んでアノード17とカソード19を有する。アノード17及びカソード19の各電極は、電極触媒を含む反応層を有していればよいが、機械的強度の観点から、基材上に電極触媒を含む反応層が設けられているのが好ましい。電解槽13のカソード側には、貯留COを含む電解液(好ましくはCO飽和電解液)を供給するインレット(入口)21と、反応生成物(還元生成物)であるメタノールを含む溶液(メタノール濃縮液)を排出するアウトレット(出口)23が取り付けられている。
アノード17およびカソード19には、導電線25を介して外部電源(直流電源)27が接続されている。この電極(アノードとカソード)間に電気的な負荷を与えることで、COの電解還元と同時に、還元生成物であるメタノールが合成され、アウトレット(出口)から取り出されることになる。
CO電解処理システムのアノードおよびカソードでの電気化学反応は、下記(1)〜(2)式で表される(図3参照)。
電解槽13を満たす電解液は、アノード17表面のアノード触媒(例えば、白金触媒;アノード電極上の黒丸参照)では、上記(1)式の反応により、電解液(例えば,0.5M HSO水溶液)中のHOが電気分解によって酸素(O)と水素イオン(H)と電子(e)を発生する。電子は導電線25および外部電源27を介してカソード側に移動し、カソード触媒(白金酸化物;カソード電極上の黒丸参照)に達する。水素イオン(H)は、陽イオン交換膜15を透過してカソード側に移動し、カソード触媒に達する。発生した酸素(O)は、電解液中に溶存しないものは、気泡(酸素ガス)となって、アノード側の電解槽13の電解液表面から外部に放出される。かかる酸素ガスは、温暖化ガスではなく、環境にやさしいため、そのまま大気中に放出してもよいし、必要に応じて、回収して、有効利用してもよい。本実施形態のCO電解処理システム11は、通常、火力発電所等に併設されることから、わざわざ遠方の化学プラント施設などに液化して運搬することなく、隣接する火力発電所等で使用される酸素源として有効活用を図ることができる点で優れている。
一方、電解槽13のカソード側に設けられたインレット(入口)21を通じて供給(導入)されたCO(CO飽和電解液)は、カソード19表面のカソード触媒に達する。カソード触媒では、上記(2)式の反応により、カソード触媒に達したCOと、アノード側から移動して来た電子(e)と水素イオン(H)とが結合してメタノール(CHOH)を発生する。この反応生成物(還元生成物)であるメタノール(CHOH)を含む溶液(メタノール濃縮液)は、アウトレット(出口)23から排出される。また、このときHOが発生する。発生した水はアウトレット(出口)23から排出されるものもあれば、陽イオン交換膜15を透過してアノード側に移動し、アノード触媒に達し、上記(1)式の反応に供されるものもある。なお、アウトレット(出口)23から排出されたメタノール(CHOH)を含む溶液(メタノール濃縮液)から、メタノール分離槽(図示せず)などを利用してメタノールを分離・回収することで、メタノールの有効活用を図ることができる。分離・回収したメタノール(CHOH)の用途としては、特に制限されるものではなく、樹脂材料、溶媒、その他の化学工業分野において幅広く利用することができる。
次に、本実施形態に係るCO電解処理システムの他の一例について説明する。
図4は、図3の電解槽に代えて処理能力を大幅に増大させた大容量電解マルチセルに用いられる電解単セル33aの構成を示す概略図である。また図5は、図4の電解単セル33aを複数連結してなる大容量電解マルチセル33を電解槽として用いたCO電解処理システムの構成を示す概略図である。
図4、5より、CO電解処理システム31の電解槽(大容量電解マルチセル)に用いられる各電解単セル33aの基本構成は、図3で説明したCO電解処理システム11の電解槽13の構成と概ね同様である。ただし、各電解単セルが連結できるように、アノード37およびカソード39の各電極には基材上に設けられた電極触媒を含む反応層の他に、集電体39aが設けられている。また、各電解単セルのアノード側にも、電解液(例えば、0.5M HSO水溶液)を供給するインレット(入口)40と、反応生成物(O)を含む溶液を排出するアウトレット(出口)42が取り付けられている。
すなわち、図5に示すCO電解処理システム31は、COの電解還元処理と同時に、化学物質として有用なメタノールの合成を行うための電解槽(大容量電解マルチセル)33を有する。電解槽33は、図4に示す電解単セル33aが複数連結されて形成されている。各電解槽33を構成する各電解単セル33aは、陽イオン交換膜35を挟んでアノード37とカソード39を有する。
アノード37は、最外層側から順にアノード集電体37a、導電性基材37b、反応層(アノード触媒(例えば、白金触媒等)37c’+カーボン粉末、陽イオン(カチオン)交換樹脂)37cで構成されるアノード電極37’を有する。更にアノード電極37’の反応層37cと陽イオン交換膜35との間にアノード側の電解液流路37dが形成された構成となっている。
カソード39は、最外層側から順にカソード集電体39a、導電性基材39b、反応層(カソード触媒(白金酸化物触媒)39c’+カーボン粉末、カチオン交換樹脂)39cで構成されるカソード電極39’を有する。更にカソード電極39’の反応層39cと陽イオン交換膜35との間にカソード側の電解液流路39dが形成された構成となっている。
また、1つの電解単セルのアノード集電体37aと、これに隣接する他の電解単セルのカソード集電体39aとが電気的に接続されている。同様に、1つの電解単セルのカソード集電体39aと、これに隣接する電解単セルの別のアノード集電体37aとが電気的に接続されている。こうして隣接する電解単セル同士の集電体を電気的に接合することで、図4に示す電解単セル33aが複数連結した電解槽(大容量電解マルチセル)33が形成されている(図5参照)。
また、電解槽33の各電解単セル33aのアノード側の電解液流路37dの一方の端部(例えば、図4の下端部側)は、電解液(例えば、0.5M HSO水溶液)を供給するインレット(入口)40となっている。電解液流路37dのもう一方の端部(例えば、図4の上端部側)は、反応生成物(O)を含む電解液を排出するアウトレット(出口)42となっている。
また、電解槽33の各電解単セル33aのカソード側の電解液流路39dの一方の端部(例えば、図4の下端部側)は、貯留COを含む電解液(好ましくはCO飽和電解液)を供給するインレット(入口)41となっている。電解液流路39dのもう一方の端部(例えば、図4の上端部側)は、反応生成物(還元生成物)であるメタノールを含む電解液(メタノール濃縮液)を排出するアウトレット(出口)43となっている。
電解槽(大容量電解マルチセル)33のうち、最も外側に位置するアノード集電体と、その反対側の最も外側の位置するカソード集電体には、導電線45を介して外部電源(直流電源)47が接続されている。この電極(アノードとカソード)集電体間に電気的な負荷を与えることで、大容量電解マルチセルを構成する各電解単セル33aにおいて、COの電解還元と同時に、還元生成物であるメタノールが合成され、アウトレット(出口)43から取り出されることになる。
尚、CO電解処理システム31の各電解単セル33aのアノードおよびカソードでの電気化学反応は、上記した(1)〜(2)式で表されるとおりである。
電解槽(大容量電解マルチセル)33の各電解単セル33aのアノード側のインレット(入口)40は、電解液(例えば、0.5M HSO水溶液)槽51と配管53により連結されている。これにより、電解液槽51から配管53を通じて電解液(例えば、0.5M HSO水溶液)がインレット(入口)40よりアノード側の電解液流路37dに供給(導入)される。なお、上記配管53上には、電解液の供給流量等の調節や供給の開閉が自在なようにマスフローコントローラー55等が適宜設けられていてもよい。
電解槽33(大容量電解マルチセル)の各電解単セル33aのアノード側のアウトレット(出口)42は、反応生成物(O)を含む溶液からOを分離・回収するための気液分離槽57の入口57aと配管59により連結されている。更に気液分離槽57の液体用取出口57bは、反応生成物(O)を含む電解液から反応生成物(O)を分離・回収した後の電解液(例えば、HSO水溶液)を再利用するために、電解液槽51と配管61により連結されている。また気液分離槽57の気体用取出口57cは、反応生成物(O)を含む電解液から分離・回収した反応生成物(O)を有効活用するために、酸素貯蔵槽63と配管65により連結されている。酸素貯蔵槽63で回収した酸素は、遠方の化学工業プラント施設などに液化して運搬することなく、併設する火力発電所等で酸素源等として有効活用することができる。
一方、電解槽(大容量電解マルチセル)33の各電解単セル33aのカソード側のインレット(入口)41は、電解液槽67と配管69により連結されている。これにより、電解液槽67から電解液(例えば、CO飽和電解液;COを飽和した電解液(例えば、0.5M HSO水溶液))が配管69を通じてインレット(入口)41よりカソード側の電解液流路37dに供給(導入)される。なお、上記配管69上には、電解液(例えば、CO飽和電解液)の供給流量等の調節や供給の開閉が自在なようにマスフローコントローラー71等が適宜設けられていてもよい。また、電解液槽67は、火力発電所等の大規模なCO排出源(図示せず)で排気ガス中から分離・回収(必要に応じ更に濃縮)したCOを貯留するためのCO貯留槽(図示せず)と配管73により連結されている。これにより、電解液槽67内の電解液中のCOが一定濃度(例えば、飽和濃度)になるようにCOを供給できる。上記配管73上にも、貯留COの供給流量等の調節や供給の開閉が自在なようにマスフローコントローラー等(図示せず)が適宜設けられていてもよい。但し、貯留COを含む電解液は、必ずしもCOを溶存する液体(例えばCO飽和電解液)でなくてもよく、例えば、電解液(例えば、0.5M HSO水溶液)中に溶存しないCOガスを含む気液混合物であってもよい。この場合、COガスが全て、電解槽(大容量電解マルチセル)33中でメタノールに変換される程度とするがよい。なお、電解槽(大容量電解マルチセル)33中でメタノールに変換されないCOガスがアウトレット(出口)43から取り出される場合であっても、当該COを再利用するための気液分離槽や配管を設けることで、COの処理及び有効利用を図るのが望ましい。
電解槽(大容量電解マルチセル)33の各電解単セル33aのカソード側のアウトレット(出口)43は、反応生成物(還元生成物)であるメタノールを含む電解液(メタノール濃縮液)からメタノールを分離・回収するためのメタノール分離槽75の取入口75aと配管77により連結されている。更にメタノール分離槽75の電解液取出口75bは、メタノールを含む電解液からメタノールを分離・回収した後の電解液(例えば、HSO水溶液)を再利用するために、電解液槽67と配管79により連結されている。またメタノール分離槽75のメタノール取出口75cは、メタノールを含む電解液から分離・回収したメタノールを有効活用するために、メタノール貯蔵槽81と配管83により連結されている。メタノール貯蔵槽81に回収したメタノール(CHOH)の用途としては、特に制限されるものではなく、樹脂材料、溶媒、その他の化学工業分野において幅広く利用することができる。
<電極触媒>
本実施形態に係るCO電解処理システムでは、カソード触媒が、白金酸化物を用いた触媒であり、アノード触媒が、白金触媒、白金基合金触媒、銅触媒、鉛基合金触媒の少なくとも1種を用いた触媒であることを特徴とする。これにより、上記した発明の作用効果を有効に発現することができるものである。
<カソード触媒>
本実施形態に係るCO電解処理システム用カソード触媒は、白金酸化物を用いた触媒である。ここで白金酸化物は、通常、酸化白金とも呼ばれる物質で、酸化白金(IV)(PtO)とも表記されるものであるが、この他にも、PtO、PtOとPtOの混合物(PtOとも称する)などのように白金酸化物の酸素割合が異なるものも含まれるものとする。
(白金酸化物触媒のO/Pt比)
白金酸化物は、電気化学還元によって触媒活性が大幅に向上する。それゆえ、白金酸化物触媒は活性化のためには、電極に担持した後に前処理として電解還元を行う必要がある。このような電解還元を施した白金酸化物(触媒)中の酸素と白金の原子比(O/Pt比)は、CO電解還元活性の観点からは、好ましくは0.005〜0.5、より好ましくは0.01〜0.1の範囲である。また、予め電気化学還元処理(前処理)を施して白金酸化物触媒のO/Pt比を上記の範囲にし、それを電極に担持することでカソードを作製してもよい。
すなわち、後述する「白金酸化物(触媒)の製造方法」で調製された(前処理前の)白金酸化物中のO/Pt比は、通常2.0程度(製法により1.0〜2.0の範囲に調整可能)である。しかし、CO電解処理システムでは常に還元電流が流されているので、カソードに担持した白金酸化物も(自ずと前処理が施されることにより電解)還元される。そして、白金酸化物(触媒)中のO/Pt比が、前処理により上記の範囲にすることで優れたCO電解還元活性を発現し得るものである。つまり、後述する「白金酸化物(触媒)の製造方法」で調製された白金酸化物(触媒)が高い活性を有するのではなく、上記した前処理後の電気化学還元された白金酸化物(触媒)が高い活性を発現するものである。ただし、白金酸化物(触媒)自体が、CO電解還元の反応式に組み込まれているわけではなく、システム稼働直後に外部からのカソード電流によって(自ずと前処理が施されることによって電解)還元される。そのようなわけで、白金酸化物(特に前処理後)はCO電解還元反応を促進するだけで、自身は変化しないので、「触媒」といえる。
なお、上記した前処理後の電気化学還元された白金酸化物(触媒)が高い活性を発現する発現機構ないし作用機構(メカニズム)は、明らかではないが、高い活性の原因の1つとして、電気化学還元(前処理)によって結晶が分割され、ナノオーダーの結晶子になることが挙げられる。それによって反応面積が大幅に増大する。また、従来の白金触媒との違いは、酸素がごくわずか残存することである。この残存酸素がCO電解還元反応の素過程(反応は幾つかの素過程でできている)に影響し、活性を高めていると推察できる。また、電気化学還元(前処理)した白金酸化物触媒は短期間で失活することなく、安定して使用することもできる。
なお、上記の発現機構ないし作用機構(メカニズム)は推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら制限されるものではない。
(白金酸化物触媒の形状)
白金酸化物触媒の形状としては、特に制限されるものではなく、例えば、粉末(粒子状;詳しくは球状、円柱状、角柱状など)、薄片状、棒状、繊維状、不定形状あるいは薄膜状などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。大容量電解マルチセルのように大面積の電極を形成する観点からは、粉末(粒子状)の触媒を用いるのが望ましい。これは、上記触媒を含有するスラリー(塗布液)を形成し、大面積の電極基板上に当該スラリーを塗布、乾燥して、所望の厚さの反応層(触媒層)を形成することができるためである。
(白金酸化物粉末(微粒子)の平均粒子径)
白金酸化物触媒として粉末(粒子状)のものを用いる場合、当該白金酸化物粉末(微粒子)の平均粒子径は、反応面積の増大と化学的安定性の確保の観点から、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは5〜100nmの範囲である。白金酸化物粉末(微粒子)の平均粒子径は、粒度分布測定装置などにより測定することができる。
(白金酸化物(触媒)の製造方法)
(a)湿式法;酸化白金(IV)(PtO)の製造方法)
白金酸化物触媒の製造方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、塩化白金酸(HPtCl)または塩化白金酸アンモニウム((NHPtCl)を硝酸ナトリウムに溶融させて製造される。この方法では最初に硝酸白金錯体が生成し、二酸化窒素を放出する。
生成物(白金酸化物)は褐色泥状で、水で洗い流して硝酸塩を除去する。生成した(粒子状の)白金酸化物はすぐに利用しても乾燥させて使用しても良い。当該白金酸化物(酸化白金(IV)(PtO))は暗褐色の粉末で市販品が入手可能である。
(b)乾式法;PVD法
上記製造方法の他にも、例えば、スパッタ等の物理気相成長(PVD)法により(層状または膜状の)白金酸化物を作製してもよい。スパッタの際に導入する酸素(O)の量によって出来上がる白金酸化物の酸素割合を変えることができる。
スパッタは、ターゲット材料としてたとえば白金を用いる。スパッタ装置(チャンバー)内を高真空にして不活性ガスあるいは反応性ガスを導入し、装置内にある一方の電極として白金ターゲットを配置し、他方の電極にスパッタ用基材を配置する。
スパッタ用基材は白金酸化物を付着する基礎となるものである。通常は、スパッタ反応に対して安定(不活性)であり、導電性を有する材料がこの基材となる。スパッタ用基材は、カソード触媒の担体となる物質を用いてもよい。スパッタ用基材としては、付着する白金酸化物膜の表面積を増大させるために、多孔質なものがよい。たとえば、炭素や炭化物で構成された多孔質物質、カーボンナノチューブ、フラーレンなども使用できる。スパッタされて白金酸化物になったスパッタ物質は非常に小さな微粒子であり、この多孔質物質の周囲に忠実に均一に積層して行く。したがって、多孔質基材上にスパッタされて積層した白金酸化物の表面積は非常に大きくなり、白金酸化物触媒として有効な形状となる。また、スパッタ用基材としては、電気化学反応活性を示さない金属が好ましく、例えば、金(Au)などの金属(白金族元素)を用いることもできる。なお白金族元素でも、白金やパラジウムは、電気化学反応活性を示すため用いられない。電極として効率を上げるために、基材としては多孔質な状態にしておくことが望ましい。さらに導電性のあるものであれば多孔質高分子などもスパッタ用基材として使用できる。たとえば、ポリアセチレンやポリアニリンなどの導電性高分子を使用することもできる。
装置内へ導入する不活性ガスとしては、たとえばアルゴン、キセノンやクリプトンなどである。そして白金酸化物触媒を得るために、酸素(O)ガスを合わせて導入する。この状態で、低圧にして電極間に高周波(RF)電圧または直流(DC)電圧をかけると白金ターゲットから白金がスパッタされて、スパッタ用基材に白金酸化物が付着する。
白金はスパッタされて、他方の電極上の基材へ付着するまでの間にOガスと反応し白金酸化物となる。これを反応性スパッタリングと言う。アルゴンに対する酸素の割合を変化させることにより白金酸化物の酸素の割合を調節できる。白金酸化物形成の際の酸素量(スパッタ中のアルゴンに対する酸素の濃度)は、上記O/Pt比を1.0〜2.0にすることが好ましいことから、50〜100容量%とすることが好ましい。より好ましくは70〜100容量%、さらに好ましくは80〜100容量%の範囲である。なお、本明細書において酸素濃度を示す「%」はいずれも容量%(Vol.%)である。
なお、スパッタ用基材は、スパッタ装置において、白金ターゲットと他方の電極の間に配置することもできる。このような配置とした場合、基材を回転させることもできる。基材を回転させることで、基材の周囲に白金酸化物を均一に積層することができる。
なお、ターゲットは、単体の純白金等を用いることができる。
(c)乾式法;CVD法
上記製造方法の他にも、例えば、化学気相成長(CVD)法を用いて白金酸化物を生成することもできる。たとえば、有機系白金化合物(液体)を用いて、この液体をガス化(暖めるか、減圧にすると気体として取り出すことができる)して、酸化性ガス(たとえば、酸素(O)、オゾン(O)、一酸化酸素(CO)、二酸化酸素(CO)、酸化窒素(NO))と一緒にCVD装置に導入し、これらを加圧下、常圧下、または減圧下において、熱反応、プラズマ反応または光反応させて、CVD装置内に保持された基材に白金酸化物を積層させることができる。上記のガス以外にヘリウム、アルゴン、キセノンなどの不活性ガスや窒素(N)などのガスをキャリアガスとして付加してもよい。これらの気体の比率を適切に選択することにより、さらに他の条件(たとえば、圧力、温度、プラズマパワー)を変化させることにより、所望の酸素量となった白金酸化物を生成できる。CVD法は、PVD法に比べ指向性が小さい(平行平板型やバイアスCVD法は少し指向性が大きいが)ので、基材により均一に積層しやすい。また、生成する白金酸化物の粒子サイズも分子レベル(0.5nm〜100nm)で成長することができるので、非常に表面積の大きな白金酸化物も積層できる。
<白金酸化物触媒の還元処理(前処理)法>
白金酸化物は、還元処理(前処理)によって触媒活性が大幅に向上する。それゆえ、白金酸化物触媒の活性化のためには、電極に担持した後に前処理として電解還元を行う必要がある。このような電解還元(前処理)を施した白金酸化物(触媒)中の酸素と白金の原子比(O/Pt比)は、CO電解還元活性の観点からは、好ましくは0.005〜0.5、より好ましくは0.01〜0.1の範囲である。また、還元処理(前処理)による白金酸化物のO/Pt比の調整は、水素や一酸化炭素などの気流中で熱処理することによっても達成できる。さらには、還元処理(前処理)として、予め電気化学還元や水素や一酸化炭素などの気流中で熱処理によって白金酸化物触媒のO/Pt比を上記の範囲にしておき、それを電極に触媒として担持することでカソードを作製してもよい。白金酸化物触媒のO/Pt比は、蛍光X線分析装置などで測定できる。
<アノード触媒>
本実施形態に係るCO電解処理システム用アノード触媒としては、アノード反応(水の電解反応)を行うことができればよいことから、既存の白金触媒、白金基合金触媒、更には安価な銅触媒、鉛基合金触媒の少なくとも1種を用いることができる。好ましくは、触媒活性と化学的安定性の両立の観点から、白金触媒である。なお、白金基合金としては、特に制限されるものではなく、例えば、白金と、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、鉄、ニッケル、金、コバルト、パラジウム、タングステン、モリブデン及び錫からなる群より選択される一種又は二種以上の元素との白金基合金などを用いることができる。また、鉛基合金としては、特に制限されるものではなく、例えば、鉛と、カルシウム(Ca)、錫(Sn)、アルミニウム(Al)、バリウム(Ba)、銀(Ag)、ビスマス(Bi)、タリウム(Tl)、ヒ素(As)及びアンチモン(Sb)からなる群より選択される一種又は二種以上の元素との白金基合金などを用いることができる。具体的には、例えば、鉛アンチモン合金、鉛カルシウム合金、鉛アンチモンヒ素錫合金、鉛カルシウム錫アルミニウム合金、鉛銀合金などが挙げられる。
(アノード触媒の形状)
アノード触媒の形状としては、特に制限されるものではなく、例えば、粉末(粒子状;詳しくは球状、円柱状、角柱状など)、薄片状、棒状、繊維状、不定形状あるいは薄膜状などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。大容量電解マルチセルのように大面積の電極を形成する観点からは、粉末(粒子状)の触媒を用いるのが望ましい。これは、上記触媒を含有するスラリー(塗布液)を形成し、大面積の電極基板上に当該スラリーを塗布、乾燥して、所望の厚さの反応層(触媒層)を形成することができるためである。
(アノード粉末(微粒子)の平均粒子径)
アノード触媒として粉末(粒子状)のものを用いる場合、当該アノード触媒粉末(微粒子)の平均粒子径は、反応面積の増大と化学的安定性の確保の観点から、好ましくは0.01〜1000μm、より好ましくは0.1〜100μmの範囲である。アノード触媒粉末(微粒子)の平均粒子径は、粒度分布測定装置などにより測定することができる。
<他の主要な部材>
(a)電解槽に用いられる陽イオン交換膜(カチオン交換膜;電解槽用セパレータ)
本発明のCO電解処理システムの主要部である電解槽に用いられる陽イオン交換膜(カチオン交換膜;電解槽用セパレータ)としては、特に制限されるものではなく、従来公知の各種陽イオン交換膜(カチオン交換膜)を適宜利用することができる。例えば、耐熱性及び耐薬品性等が優れる含フッ素系重合体を用いた陽イオン交換膜等を適宜用いることができるほか、カチオンを移動させることができる膜であればよい。具体的には、パーフルオロカーボンスルフォン酸膜や、パーフルオロカーボンカルボン酸膜等のフッ素系イオン交換膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、ポリスチレンスルホン酸膜、スルホン酸化スチレン・ビニルベンゼン共重合体膜等が挙げられる。更に、カチオン交換膜の材質としては、カチオンを移動させることができ、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されず、高分子膜、無機膜又はコンポジット膜を用いることができる。このうち、高分子膜としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系電解質膜である、デュポン社製のナフィオン(登録商標)、旭化成株式会社製のアシプレックス(登録商標)、旭硝子株式会社製のフレミオン(登録商標)等の膜や、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン等の炭化水素系電解質膜等が挙げられる。また、無機膜としては、例えば、リン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウム等からなる膜が挙げられる。さらに、コンポジット膜としては、スルホン化ポリイミド系ポリマー、タングステン酸等の無機物とポリイミド等の有機物とのコンポジット等からなる膜が挙げられ、具体的にはゴア社製のゴアセレクト膜(登録商標)や細孔フィリング膜等が挙げられる。酸性溶液中での安定性と高い導電性の観点から、好ましくはパーフルオロスルホン酸系電解質膜である。
(陽イオン交換膜の膜厚)
陽イオン交換膜(カチオン交換膜;電解槽用セパレータ)の膜厚としては、導電性と耐久性の観点から、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは100〜300μmの範囲である。
(陽イオン交換膜の細孔サイズ)
陽イオン交換膜(カチオン交換膜;電解槽用セパレータ)は、イオン導電性(イオン伝導性)の観点から、膜厚方向に連通孔(貫通孔;細孔という)を有するものであればよい。かかる細孔サイズとしては、クラスター構造の観点から、好ましくは1〜20nm、より好ましくは2〜10nmの範囲である。陽イオン交換膜の細孔サイズは、細孔分布測定装置あるいはサーモポロシメトリーにより測定することができる。
(b)電解槽、特に大容量電解マルチセルに用いられる集電体
また、本発明のCO電解処理システムの主要部である電解槽、特に大容量電解マルチセルに用いられる集電体としては、特制限されるものではなく、従来公知のものを適宜用いることができる。
(集電体の大きさ)
集電体の大きさは、貯留COの処理能力に応じて決定される。即ち、貯留COの処理能力を高めるには、大容量電解マルチセルに用いられる電解単セルの数を増やしたり、電解単セルの大きさ(電解面積ないし反応面積)を高めればよい。よって、この電解単セルの大きさ(電解面積ないし反応面積)にほぼ相当する集電体の大きさも貯留COの処理能力に応じて決定されればよいといえる。例えば、高い貯留COの処理能力が要求される大容量電解マルチセルに用いられるのであれば、面積の大きな集電体を用いるのが好適である。例えば、大規模なCO発生源が出力160万kW級の石油火力発電所(例えば、東北電力 秋田火力発電所)の場合、CO排出量が、石油では0.738kg・CO/kWh(出典:電力中央研究所報告書(2010/7))であることから、貯留COの処理能力に応じて、集電体の大きさ(電解単セル)は、電解単セルの数にもよるが、薄い平板状の場合、好ましくは縦0.1〜3.0m×横0.1〜3.0m、より好ましくは縦0.5〜1.0m×横0.5〜1.0mの範囲である。
(集電体の厚さ)
集電体の厚さは、集電機能を有効に発現できる厚さであれば特に制限はない。集電体の厚さは、機械的強度と電気抵抗の観点から、好ましくは10〜3000μm、より好ましくは100〜1000μmの範囲である。
(集電体の形状)
集電体の形状については特に制限されない。図4に示す電解単セルでは、形状保持機能や貼り合わせに適した薄い平板状の集電体、或いは形状保持機能を持つ基材表面に気相蒸着法やスパッタ法等により形成した薄膜状の集電体や集電箔(アルミ箔等)を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。
(集電体を構成する材料)
集電体を構成する材料としては、例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂などを用いることができる。具体的には、金属としては、アルミニウム、鉄、ステンレスなどが挙げられる。導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェンなどが挙げられる。非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。導電性フィラーとしては、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。
(電解槽、特に大容量電解マルチセルに用いられる導電性基材)
また、本発明のCO電解処理システムの主要部である電解槽、特に大容量電解マルチセルに用いられる導電性基材としては、特制限されるものではなく、従来公知のものを適宜用いることができる。
(導電性基材の大きさ)
導電性基材の大きさは、集電体の大きさと同様に、貯留COの処理能力に応じて決定される。即ち、貯留COの処理能力を高めるには、大容量電解マルチセルに用いられる電解単セルの数を増やしたり、電解単セルの大きさ(電解面積ないし反応面積)を高めればよい。よって、この電解単セルの大きさ(電解面積ないし反応面積)にほぼ相当する導電性基材の大きさも貯留COの処理能力に応じて決定されればよいといえる。例えば、高い貯留COの処理能力が要求される大容量電解マルチセルに用いられるのであれば、面積の大きな導電性基材を用いるのが好適である。
(導電性基材の厚さ)
導電性基材の厚さは、機械的強度と電気抵抗の観点から、好ましくは10〜3000μm、より好ましくは100〜1000μmの範囲である。
(導電性基材の形状)
導電性基材の形状も、集電体の形状と同様に、図4に示す電解単セルでは、反応層の塗工・形成や形状保持機能や貼り合わせに適した薄い平板状の導電性基材、或いは形状保持機能を持つ集電体表面に気相蒸着法やスパッタ法等により形成した薄膜状の導電性基材や導電性基材箔(アルミ箔等)を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。
(導電性基材を構成する材料)
導電性基材を構成する材料としては、導電性を有するものであればよく、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、緻密カーボングラファイト、炭素板等の導電性炭素材料、あるいはステンレス等の金属製の材料など、特に制限されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
(c)反応層
本発明のCO電解処理システムの主要部である電解槽、特に大容量電解マルチセルに用いられる反応層には、上記した電極触媒(カソード触媒またはアノード触媒)のほかに、カチオン交換樹脂、カーボン粉末等の導電性材料(担体)、粘結剤など、従来公知のものを適宜用いることができる。
(反応層中のカソード触媒の含有量)
反応層中のカソード触媒の含有量は、触媒活性の向上と材料費の削減の観点から、反応層全量に対して、好ましくは0.5〜5.0質量%、より好ましくは1.0〜2.0質量%の範囲である。
(反応層中のアノード触媒の含有量)
反応層中のアノード触媒の含有量は、触媒活性の向上と材料費の削減の観点から、反応層全量に対して、好ましくは0.5〜5.0質量%、より好ましくは1.0〜2.0質量%の範囲である。
(カチオン交換樹脂)
反応層に用いられるカチオン交換樹脂は、カチオンを移動させることができるものであればよい。好ましくは、電極触媒を担持した導電性材料(担体)同士を結着(固着)することができ、CO電解還元とそれに伴うメタノール生成時に安定であるものが好ましい。通常、電解槽用セパレータであるカチオン交換膜(陽イオン交換膜)35と同様の材料を好適に用いることができる。かかる観点から、反応層に用いられるカチオン交換樹脂としては、特に制限されるものではなく、カチオンを移動させることができるカチオン交換樹脂を適宜用いることができるほか、耐熱性及び耐薬品性等が優れる含フッ素系重合体を用いた陽イオン交換樹脂などを適宜用いることができる。具体的には、パーフルオロカーボンスルフォン酸やパーフルオロカーボンカルボン酸等を用いたフッ素系イオン交換樹脂、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール、ポリスチレンスルホン酸、スルホン酸化スチレン・ビニルベンゼン共重合体などが挙げられる。更に、上記カチオン交換樹脂には、高分子材料、無機材料又はコンポジット材料を用いることができる。このうち、高分子材料としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系樹脂である、デュポン社製のナフィオン(登録商標)、旭化成株式会社製のアシプレックス(登録商標)、旭硝子株式会社製のフレミオン(登録商標)等の膜や、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン等の炭化水素系樹脂等が挙げられる。また、無機材料としては、例えば、リン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウム等からなる材料が挙げられる。さらに、コンポジット材料としては、スルホン化ポリイミド系ポリマー、タングステン酸等の無機物とポリイミド等の有機物とのコンポジット等からなる材料が挙げられ、具体的にはゴア社製のゴアセレクト材や細孔フィリング材など、従来公知のものを適宜用いることができる。酸性溶液中での安定性と高い導電性の観点から、好ましくはパーフルオロスルホン酸系樹脂である。
(反応層中のカチオン交換樹脂の含有量)
反応層中のカチオン交換樹脂の含有量は、導電性ならびに触媒の露出面積の観点から、反応層1cmあたり、好ましくは0.05〜0.4mg、より好ましくは0.1〜0.2mgの範囲である。
(導電性材料(担体))
また、反応層に用いられる導電性材料は、アノード側及びカソード側の反応層内に導電性ネットワークを形成するために用いられるものである。これにより、アノード側の電解反応層内の各触媒粒子上での反応により生じた電子を導電性材料による導電性ネットワークを通じて、アノード側の導電性基材、集電体を介して直流電源(外部電源)に流すことができる。更に直流電源(外部電源)からの電子をカソード側の集電体、導電性基材を介してカソード側の反応層内の導電性材料による導電性ネットワークを通じて各触媒粒子上に供給し、カソード側の電解反応を生じさせることができるものである。更に導電性材料は、触媒粒子を担持させるための導電性担体として用いてもよい。導電性担体として用いる場合には、電極触媒(白金酸化物粉末や白金粉末等)を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、導電性部材として機能する導電性を有しているものであればよい。こうした導電性材料や導電性担体としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、活性炭、コークス、黒鉛などのグラファイト、カーボンナノチューブなどの炭素材料など、特に制限されるものではなく、従来公知のものを適宜用いることができる。
(導電性材料(担体)の形状)
導電性材料(担体)の形状としては、特に制限されるものではなく、例えば、粉末(粒子状;詳しくは球状、円柱状、角柱状など)、薄片状、棒状、繊維状、不定形状あるいは薄膜状などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。大容量電解マルチセルのように大面積の電極を形成する観点からは、粉末(粒子状)の触媒を用いるのが望ましい。これは、上記触媒を含有するスラリー(塗布液)を形成し、大面積の電極基板上に当該スラリーを塗布、乾燥して、所望の厚さの反応層(触媒層)を形成することができるためである。
(導電性材料(担体)の大きさ)
導電性材料或いは導電性担体の平均一次粒子径は、触媒粒子の分散状態の観点から、好ましくは0.01〜1000μm、より好ましくは0.1〜100μmの範囲である。導電性材料或いは導電性担体の平均一次粒子径は、粒度分布測定装置や透過型電子顕微鏡により測定することができる。
(導電性担体への電極触媒粒子の担持方法)
導電性担体への電極触媒粒子の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、電極触媒粒子を溶媒に溶解して電極触媒溶液を調製する。次に、カーボン粒子などの導電性担体、カチオン交換樹脂などを電極触媒溶液に加えた混合液を調製する。混合液から溶剤を除去、乾燥することで、カーボン粒子などの導電性材料を用いて導電性ネットワークを形成して電極触媒との電気的接合を形成してもよいし、電極触媒を導電性担体に担持(結着)させることにより電極触媒を得ることもできる。なお、反応層中の電極触媒、カチオン交換樹脂、導電性材料(担体)等の含有量は、CO電解処理システムのCO電解還元とそれに伴うメタノール生成の性能(とりわけ、メタノール生成の優れた反応速度)を損なうことなく所望の効果を発現させることができるように上記規定の範囲内で、適宜選択すればよい。
(カソード側の電解液)
本発明のCO電解処理システムの主要部である電解槽のカソード側の電解液としては処理物質を電極界面に移送する役割(目的)を十分に果たし得る観点から、好ましくは、CO飽和電解液が用いられる。なお、CO飽和電解液は、図4に示すように、適当な電解液にCOを飽和させた状態のものをいう。また、上記した適当な電解液としては、高い比伝導度を示すことが望ましいことから、好ましくは、0.05〜10M、好ましくは0.1〜1.0Mの酸性水溶液(例えば、硫酸(HSO)水溶液など)を用いることができるが、これらに制限されるものではない。
(アノード側の電解液)
本発明のCO電解処理システムの主要部である電解槽のアノード側の電解液としては、特に制限され得るものではなく、既存の電解液を用いることができる。具体的には、カソード側で用いたのと同様の電解液を用いることができる。即ち、アノード側の電解液としては、高い比伝導度を示すことが望ましいことから、好ましくは、0.05〜10M、好ましくは0.1〜1.0Mの酸性水溶液(例えば、硫酸(HSO)水溶液など)を用いることができるが、これらに制限されるものではない。
そのほかここで例示した本発明のCO電解処理システムの主要部である電解槽の各構成部材以外の他の部材については、既存のCO電解処理システムに使用されるさまざまな部材を使用することができる。
以下、本発明を適用した実施例を説明する。
本実施例では、高周波マグネトロンスパッタ装置を用い、薄膜状の白金酸化物触媒(実施例用カソード触媒)および薄膜状の白金触媒(比較例用カソード触媒及びアノード触媒)を作製した。
<薄膜状のカソード触媒の作製>
薄膜状の電極触媒はスパッタ法により以下のとおり作製した。図6はスパッタ装置の構成を示す概略図である。なお、ここで説明するスパッタ装置はあくまでも本実施例を行うための一例であり、電極触媒の製造方法がこのスパッタ装置を用いることに限定されるものではない。
このスパッタ装置100は、真空チャンバー101を備える。真空チャンバー101には酸素(O)ガスボンベ102からの酸素、アルゴン(Ar)ガスボンベ103からのアルゴンを導入するための導入管106および107が接続されている。それぞれの導入管106および107の途中には、酸素およびアルゴンの導入量を調整するための調整弁104および105が設けられている。また、真空チャンバー101には、真空チャンバー101内のガスを排気するための排気管108が接続されている。排気管108には真空ポンプ109が接続されていて真空チャンバー101内部を所定の真空度に保つことができるようになっている。
真空チャンバー101内には、ターゲット110が配置される。ターゲット110の下部には磁界をかけるための磁石111が設けられている。また、真空チャンバー101内においてはターゲット110に対向する位置に基材112が配置される。基材112上にターゲット110からの金属(ここでは、比較例触媒の白金薄膜または実施例用触媒の白金酸化物薄膜113)がスパッタリングによって蒸着される。また、図示していないが、スパッタ装置100には高周波発生源と、ターゲット110および基材112間にバイアスを印加するための電源が備えられている。本実施例では基材としてチタンロッドを用いている。
スパッタの条件は下記のとおりである。
ターゲットは純度99.99%の白金を用いた。真空チャンバー内の到達真空度は2.0×10−4Pa、スパッタ中のガス圧力(ArまたはO)は2.0Pa(6.0ml/min)、スパッタ出力は100Wである。導入ガスはアルゴン(Ar)ガスまたは酸素ガスを後述する割合となるように導入した。また、スパッタの際のスパッタ速度は、約50nm/minであり、ターゲット温度;室温(20±10℃の範囲)、チタンロッド温度;室温(20±10℃の範囲)、スパッタ時間は、白金薄膜の場合、20分間、白金酸化物薄膜の場合、20分間とした。
本実施例では、スパッタ中のアルゴンに対する酸素の割合(酸素濃度)は、酸素濃度0%(すなわちアルゴンガス100%、酸素ガス0%;比較例用カソード触媒)、及び100%(すなわちアルゴンガス0%、酸素ガス100%;実施例用カソード触媒)である。この条件でスパッタすることでチタンロッドの上に膜厚約1μmの白金薄膜(酸素濃度0%の場合;比較例用カソード触媒)、または膜厚約1μmの白金酸化物薄膜(酸素濃度100%の場合;実施例用カソード触媒)を得た。
得られた白金薄膜と白金酸化物薄膜について、電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析を行い、O/Pt比を求めた。O/Pt比はEPMA分析における3点分析の平均値である。また、O/Pt比はEPMA分析により得られた各元素の原子比である(すなわち、「O/Pt比=EPMA分析によるOの原子数/EPMA分析によるPtの原子数」である)。なお、O/Pt比は、EPMA分析によって得られたPtおよびOのそれぞれの重量%とそれぞれの原子量から、下記数式(1)によって計算してもよい。
EPMA分析結果からO/Pt比は、白金薄膜の場合、0であり、還元処理(前処理)前の白金酸化物薄膜の場合、2.0であった。
<白金酸化物薄膜の前処理と、前処理後のカソード触媒におけるCO電解還元とメタノール合成の活性評価>
CO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システム(装置)の電極触媒には、上記スパッタ法により得られた白金酸化物を還元処理(前処理)した白金酸化物触媒(実施例用カソード触媒)および上記スパッタ法により得られた白金触媒(比較例用カソード触媒)を用いた。なお、上記スパッタ法により得られた白金酸化物の還元処理(前処理)は、CO電解処理システムの電極にスパッタ法により得られた白金酸化物を担持した後、予めシステム稼働前に外部から定電位あるいは定電流(詳しくは定電位;0.05〜0.10Vvs.NHE、定電流;10mA/cm)によってカソード電流(電気量2〜6C/cm)を印加することによって電解還元することにより作製した。これにより得られた還元処理(前処理)後の白金酸化物触媒(実施例用カソード触媒)のO/Pt比は、約0.1であった。なお、還元処理(前処理)は、その後のCO電解処理システムの稼働により流される還元電流(カソード電流;5〜20mA/cm)では、還元処理(前処理)後の白金酸化物触媒の更なる電解還元が起こらない(進みにくい)。そのため、その後のCO電解還元とメタノール合成は、O/Pt比が約0.1の白金酸化物触媒を用いて実施したものといえる。
本実施例では、CO電解還元とメタノール合成は、CO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システム(装置)を用いた。図7は、CO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システム(装置)を説明するための概略図である。なお、ここで説明するCO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システム(装置)はあくまでも本実施例を行うための一例であり、本発明がこのCO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システム(装置)を用いることに限定されるものではない。
図7に示すように、CO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システム(装置)300は、第1浴301と第2浴302を備える。第1浴301および第2浴302のそれぞれには電解液(例えば、0.5M HSO水溶液や飽和KCl水溶液など;本実施例では0.5M HSO水溶液を用いた。)が入っている。第1浴301には、回転ディスク電極310が取り付けられている。回転ディスク電極310はモーター311により回転する。モーター311の回転数はモーター制御装置312により制御される。回転ディスク電極310の先端、電解液内となる位置に試料350として上記スパッタ法により得られた白金酸化物触媒(この白金酸化物触媒を上記還元処理(前処理)したものが実施例用カソード触媒となる)ないし白金触媒(比較例用カソード触媒)がチタンロッドごと取り付けられる。この試料部分が試料極(作用極;カソード電極)となる。回転ディスク電極310の詳細は後述する。第1浴301内には、対極(アノード電極)305としてスパイラル形状の白金黒(Pt black)を取り付けている。また第1浴301には、ヒーター・熱電対装置303が備えられている。ヒーター装置303aと熱電対装置303bとがヒーターコントローラー304によって第1浴301内の電解液の温度が調整できるようになっている。さらに第1浴301には、CO供給管307が備えられている。第1浴301の電解液中のCO供給管307の先端部は、供給されるCOを微小気泡として電解液中に放出できるような構造(微細孔が設けられた構造)が設けられている(図示せず)。これにより、回転ディスク電極310の先端の試料350部分(試料極、作用極ないしカソード電極)に、電解液(例えば、0.5M HSO水溶液(電解液)中にCOを供給し飽和させたCO飽和電解液)を供給できるようになっている。一方、CO供給管307の他端は、CO貯蔵タンク(図示せず)と配管(図示せず)を通じて連結されている。また、CO貯蔵タンクの出口または配管上には流量調整可能な開閉弁(図示せず)が設けられている。
第2浴302内には、参照極320が電解液内に取り付けられている。参照極320は銀/塩化銀(Ag/AgCl)を使用しており、測定値は標準水素電極(NHE)基準に換算して表示される。第1浴301内の電解液と第2浴302内の電解液との間は塩橋(Salt Bridge)306によって接続されている。これにより参照極320として機能する。
試料350部分(試料極)、参照極320および対極305にはポテンショスタット330が接続されていて、各電極間に所定の電圧あるいは電流を印加できるようになっている。試料350部分(試料極)、参照極320、および対極305はポテンショスタット330を介してパソコン(PC)331に接続されており、各電極に加わった電圧、電流を測定して、各種処理を行うことができるようになっている。
なお、第1浴301には図示しないが電解液中の溶存酸素を脱気するために、アルゴンガス導入管が設けられている。
図8は、回転ディスク電極の内部を示す概略図である。本実施例の回転ディスク電極310は、その先端(電解液に漬ける側)に試料350部分(試料極)、すなわち、上記スパッタ法により得られた薄膜状の白金酸化物触媒(この白金酸化物触媒を上記還元処理(前処理)したものが実施例用カソード触媒となる)試料ないし薄膜状の白金触媒(比較例用カソード触媒)試料350部分が成膜されたチタンロッド112が取り付けられている。
チタンロッド112は、回転ディスク電極310内部の真鍮313に埋め込まれていて、試料350部分を露出させ、それ以外の部分をアクリル樹脂製キャップ315によって覆っている。真鍮313はモーター311への取り付け金具になっている。
上記スパッタ法により得られた白金酸化物を予め還元処理(前処理)した白金酸化物触媒(実施例用カソード触媒)試料ないし薄膜状の白金触媒(比較例用カソード触媒)試料350部分(試料極;カソード電極)のCO電解還元とメタノール合成条件は下記のとおりである。なお、白金酸化物の還元処理(前処理)については、後述するように、CO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システム(装置)300の電極にスパッタ法により得られた白金酸化物をセットした後、予めCO電解処理システム300によるCO電解還元とメタノール合成の前に外部からカソード電流を印加して電解還元することにより作製した。
試料350であるスパッタ法により得られた薄膜状の白金酸化物触媒(この白金酸化物触媒を上記還元処理(前処理)したものが実施例用カソード触媒となる)試料ないし薄膜状の白金触媒(比較例用カソード触媒)付きのチタンロッドを回転ディスク電極310にセットし、900rpmで回転させた。電解液は、0.5M HSO水溶液を用いた。溶液温度は298K(さらに、318Kまで5Kずつ変化させた実験を行った)、電解液中の酸素を脱気するためのアルゴンガス流量は150ml/minで、30分間流入させた。そして、回転ディスク電極に定電位あるいは定電流(詳しくは定電位;0.05〜0.10Vvs.NHE、定電流;10mA/cm)によって所定のカソード電流(詳しくは電気量2〜6C/cm)を印加し、電気化学還元処理を実施した(これにより、白金酸化物触媒のO/Pt比を約0.1に調整した)。その後、COガス流量(供給速度)を150ml/minで、30分間流入させて、CO飽和電解液とした。その後、COガス流量(供給速度)を150ml/minで導入させつつ、常にCO飽和電解液中で、CO電解還元とメタノール合成を行った。この間、電位掃引範囲は0.05〜1.20Vvs.NHE、掃引速度は5mV/sec(更に10mV/secに変えた実験を行った)とした。
CO電解還元とメタノール合成活性の評価として、上述したCO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システムを用いてサイクリックボルタモグラムを測定することにより、メタノールの反応速度を評価した。図9(a)は比較例である白金触媒を試料350部分(試料極)に用いた際のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。図9(b)は実施例である白金酸化物触媒(スパッタ法により得られた薄膜状の白金酸化物触媒を上記還元処理(前処理)したもの;実施例用カソード触媒)を試料350部分(試料極)に用いた際のサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。図9の横軸は電極電位、縦軸は電流密度である。この図では、溶液温度を298Kから318Kまで5Kずつ変化させた際の溶液温度ごとのサイクリックボルタモグラムを示す。図9(a)、(b)のサイクリックボルタモグラムによる結果から、本発明者らが開発した白金酸化物触媒(上記還元処理(前処理)した白金酸化物触媒)におけるメタノール生成の反応速度は、比較例である既存の白金触媒に比して1オーダー大きいことが判明した。
CO電解還元とメタノール合成活性の評価として、上述したCO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システムを用いて、溶液温度は303Kとし、CO飽和電解液中で、0.05Vvs.NHEで6時間定電位電解を実施し、CO電解還元とメタノール合成を行った。その後、第1浴内の電解液(溶液温度303K)を50ml採取し、この採取した電解液試料を昇温速度5℃/minで90℃に加熱し、試料から出た揮発成分(ガス)につき、ガスクロマトグラフ質量(GC−MS)分析測定を行った。GC−MS分析の測定条件を以下に示す。図10は、GC−MSによる、実験後の電解液試料を加熱し、試料から出たガス(特にCO電解還元生成物)の分析結果を示すグラフである。横軸は検出時間(保持時間)、縦軸は検出強度である。ここでも、スパッタ法により得られた薄膜状の白金酸化物触媒を上記還元処理(前処理)したものを実施例用カソード触媒として用いた。以下、スパッタ法により得られた薄膜状の白金酸化物触媒を上記還元処理(前処理)したものを、単に白金酸化物触媒という。
GC−MSの測定条件
・装置:GC−MS(スクロマトグラフ質量分析装置)
・キャピラリーカラム:HP−1
・キャリヤーガス:ヘリウム
・試料導入量:200ml
図10に示すガスクロマトグラフィー(GC−MS)による分析の結果、CO飽和電解液中で0.05V vs.NHEで定電位電解を実施した際の還元生成物はメタノールCHOHのみであることを確認できた。
さらに、図11は、白金薄膜を用いた白金触媒および白金酸化物薄膜を予め上記還元処理(前処理)して用いた白金酸化物触媒でのメタノール酸化電気量を、図9(a)、(b)に示された電極電位0.6V vs.NHE(付近)における電流密度i(mA/cm)から、時間積分により求めた電気量Q(C)で比較した結果を表したグラフである。図11の横軸は溶液温度T(K)、縦軸はメタノール酸化に関わる電気量Q(C)である。
図11の白金触媒と白金酸化物触媒でのメタノール酸化電流の比較から、白金酸化物触媒でのメタノール酸化電気量(電気量Q)は、白金触媒でのメタノール酸化電気量(電気量Q)に比較して45倍ほど多いことが分かった。
したがって、白金酸化物触媒によるCO電解還元とそれに伴うメタノール生成は、白金触媒に比較して格段に進行し易いと判断できる。加えて、白金触媒を用いた白金電極および白金酸化物触媒を用いた白金酸化物電極のCO電解還元・メタノール(CHOH)生成の電流効率Ceff(%)は以下の式で計算できる。
ここで、Q(C)はCO電解還元を含む全還元反応に使用された電気量(H吸着とCO還元に使用された電気量)であり、Q(C)は生成メタノール(CHOH)の電解酸化に使用された電気量(還元生成物(CHOH)酸化の電気量)である。
上述したCO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システムを用いて、白金触媒(白金電極)および白金酸化物触媒(白金酸化物電極)でCO電解還元とそれに伴うメタノール生成を行った際のサイクリックボルタモグラムを測定することにより、Q(C)およびQ(C)を算出した。
図12(a)は、比較例である既存の白金触媒(白金電極)を用いた際のサイクリックボルタモグラムを示すと共に、このサイクリックボルタモグラム中にQ(C)およびQ(C)部分を薄く塗りつぶして表記したグラフである。図12(b)は、実施例である白金酸化物触媒(白金酸化物電極)を用いた際のサイクリックボルタモグラムを示すと共に、このサイクリックボルタモグラム中にQ(C)およびQ(C)部分を薄く塗りつぶして表記したグラフである。図12(a)、(b)の横軸は電極電位、縦軸は電流密度である。
図12(a)、(b)では、溶液温度298K、CO飽和電解液中、試料(回転ディスク電極)の回転数900rpmで、電位掃引範囲は0.05〜1.20Vvs.NHE、掃引速度は5mV/secとした。
図12(a)、(b)のサイクリックボルタモグラムで薄く塗りつぶされた部分(各図2か所)のうち、電極電位0.6V vs.NHE(付近)における生成メタノールの酸化電流(プラスの電流密度)を示す1つのピーク部分の面積が、生成メタノール(CHOH)の電解酸化に使用された電気量(還元生成物(CHOH)酸化の電気量)Q(C)である。また、電極電位0.1V vs.NHE(付近)におけるCOの還元電流(他反応を含む)(マイナスの電流密度)を示す1つのピーク部分(ショルダーピーク部分を含む)の面積が、CO電解還元を含む全還元反応に使用された電気量Q(C)である。この薄く塗りつぶされた部分の電気量Q(C)およびQ(C)を算出し、上記式に代入することで、電流効率Ceff(%)を求めることができる。その結果、白金酸化物触媒(白金酸化物電極)によるメタノール(CHOH)生成の電流効率Ceffは36.0%(図12(b)参照)となり、白金触媒によるメタノール(CHOH)生成の電流効率Ceffである14.8%(図12(a)参照)よりも2.4倍ほど大きいことが分かった。つまり、白金酸化物触媒は、既存の白金触媒よりも高効率でCOを還元してメタノールを生成すると言える。
以上本発明を適用した実施形態および実施例について説明したが、本発明は上述した実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明は特許請求の範囲に記載された技術思想に基づいてさまざまな形態として実施可能であり、それらもまた本発明の範疇である。
11 CO電解処理システム、
13 電解槽、
15 陽イオン交換膜、
17 アノード、
19 カソード、
21 CO供給管、
23 アウトレット、
100 スパッタ装置、
101 真空チャンバー、
102 酸素ガスボンベ、
103 アルゴンガスボンベ、
110 ターゲット、
111 磁石、
112 基材(チタンロッド)、
113 白金薄膜または白金酸化物薄膜、
300 CO電解還元とメタノール合成評価用のCO電解処理システム、
301 第1浴、
302 第2浴、
305 対極、
306 塩橋、
307 CO供給管、
310 回転ディスク電極、
320 参照極、
330 ポテンショスタット、
350 試料。

Claims (2)

  1. 大規模なCO排出源で貯留したCOの電解還元・メタノール同時合成のためのCO電解処理システムであって、
    前記CO電解処理システム用カソード触媒は、白金酸化物を用いた触媒であり、アノード触媒は、白金、白金基合金、銅、鉛基合金の少なくとも1種を用いた触媒であることを特徴とするCO電解処理システム。
  2. 前記白金酸化物中の酸素と白金の原子比(O/Pt比)が、0.005〜0.5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のCO電解処理システム。
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