JP2017214629A - リング部材の成膜方法および成膜装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】複数のピストンリングの内周面および上面および下面を効率的に同時に成膜処理を行うこと目的とする。
【解決手段】成膜装置1は、複数のリング部材51によって円筒状リング集合体60が形成されるように、当該複数のリング部材51を互いに当該リング部材51の軸方向に沿って所定の間隔δで離間して支持する支持部3を備えている。前記間隔δは、複数のリング部材51に電圧を印加したときに前記円筒状リング集合体60の内部空間61においてホローカソード放電が発生して当該ホローカソード放電によってホローカソードプラズマP1が生成されるように、設定される。ホローカソードプラズマP1の密度は、円筒状リング集合体60の外部空間62において生成される外部プラズマP2の密度よりも高い。
【選択図】図1
【解決手段】成膜装置1は、複数のリング部材51によって円筒状リング集合体60が形成されるように、当該複数のリング部材51を互いに当該リング部材51の軸方向に沿って所定の間隔δで離間して支持する支持部3を備えている。前記間隔δは、複数のリング部材51に電圧を印加したときに前記円筒状リング集合体60の内部空間61においてホローカソード放電が発生して当該ホローカソード放電によってホローカソードプラズマP1が生成されるように、設定される。ホローカソードプラズマP1の密度は、円筒状リング集合体60の外部空間62において生成される外部プラズマP2の密度よりも高い。
【選択図】図1
Description
本発明は、ピストンリングなどのリング部材の成膜方法および成膜装置に関する。
従来、ピストンリングなどの円環形状を有するワーク、すなわち、リング部材に関する成膜処理が種々行われている。例えば、ピストンリングは、自動車のエンジンの燃焼圧をシールする重要な部品であり、その耐久性や摺動特性を向上するために、各種の表面処理が施される。ピストンリングの外周面(図4の外周面53参照)は、エンジンのシリンダーの内面に接触しながら移動するので、当該外周面における耐摩耗性、耐焼き付き性および低摩擦化は重要な課題である。そのため、CrN(窒化クロム)やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの硬質皮膜を当該外周面にコーティングすることが一般的に行われている。
一方、上記と異なる観点で、ピストンリングの内周面や当該内周面の上側および下側の縁につながる上面および下面(図4の内周面52、上面54、および下面55参照)、あるいは、これら内周面と上面または下面との間のコーナー部への保護膜の形成も検討されている。
ピストンリングは、ピストンの外周面に形成された溝に嵌合された状態で使用されるので、ピストンリングの上記の内周面、上面、および下面は、溝の内壁に接触した位置、または当該内壁に接触可能な非常に近い位置にある。したがって、エンジンの駆動中に、これら内周面、上面、および下面の箇所とピストンの内壁とが擦れ合うことにより、これらの接触部分において焼き付きや凝着、更にはピストン側の摩耗が生じるおそれがある。特に、ピストンがアルミ合金などで作られる場合には、焼き付き等の問題が生じやすい。
そこで、これらの焼き付き等を抑制する目的で、ピストンの内周面、上面および下面にDLC膜やSi(シリコン)を含有するDLC膜が形成されることが提案される。そのようなピストンリングの内周面、上面および下面の成膜に関する技術は、以下の特許文献1〜2に開示されている。
特許文献1には、特定の潤滑油下で使用するピストンリングの少なくとも摺動面におけるDLC膜の形成が開示されている。特に、特許文献1には、プラズマCVD(化学気相成長)法などの成膜方法によって、内周面とそれに隣接する上面および下面の一方の面との間の面取りコーナー部の成膜を行うことが開示されている。このコーナー部への成膜により、ピストンリングがピストンの外周面に形成されたピストンリング溝に嵌合された構成では、ピストンがピストンリング溝の内壁に対して摺動することによるピストンリング溝の内壁の摩耗が低減される。
特許文献2では、プラズマCVD法などの成膜方法によって、ピストンリングの内周面を含めた全表面に成膜することが開示されている。この特許文献2には、複数個のピストンリングを一定の間隔で互いに離間した状態で複数の支持棒によって当該ピストンリングの内周側から支持した状態で、プラズマCVD法によりピストンリングの全表面(すなわち、外周面、側面および内周面)に非晶質硬質炭素膜の形成を行うことが開示されている。
上記の特許文献1〜2に記載されるプラズマCVD法を用いた成膜方法では、一般的に、ピストンリングに電圧を印加してピストンリングとチャンバ内壁との間で放電させることによってピストンリングの内部および外部を両方覆うプラズマを一様に発生させ、ピストンリングの表面がプラズマで分解や活性化された原料ガスに曝されることにより、ピストンリングの外周面、側面および内周面に均一な厚さで皮膜が形成される。
しかしながら、上記の特許文献1〜2記載の成膜方法では、いずれもプラズマCVD法においてピストンリングの内部および外部を両方覆うプラズマを一様に発生させ、ピストンリングの全表面に均一な膜厚で皮膜が形成されるので、複数のピストンリングの全表面のうち内周面および上面および下面を効率的に成膜処理することが難しいという問題がある。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、複数のピストンリングの内周面および上面および下面を効率的に同時に成膜処理を行うことが可能な成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためのものとして、本発明のリング部材の成膜装置は、複数のリング部材の成膜処理を行う成膜装置であって、前記複数のリング部材が収容可能な空間部を有する真空容器と、前記複数のリング部材によって円筒状リング集合体が形成されるように、当該複数のリング部材を互いに当該リング部材の軸方向に沿って所定の間隔で離間して支持する少なくとも1つの支持部と、成膜原料となる原料ガスを含むプロセスガスを前記空間部に供給するプロセスガス供給部と、前記支持部を介して前記複数のリング部材に電圧を印加するプラズマ発生電源とを備えており、前記間隔は、前記プラズマ発生電源が前記支持部を介して前記複数のリング部材に電圧を印加したときに前記円筒状リング集合体の内部空間においてホローカソード放電が発生して当該ホローカソード放電によってホローカソードプラズマが生成されるように、設定され、前記ホローカソードプラズマの密度は、前記複数のリング部材に電圧を印加したときに前記円筒状リング集合体の外部空間において生成される外部プラズマの密度よりも高い、ことを特徴とする。
かかる構成によれば、真空容器内部では、成膜処理される複数のリング部材は、支持部によって、互いに当該リング部材の軸方向に沿って所定の間隔で離間して支持される。それによって、これら複数のリング部材によって円筒状リング集合体が形成される。複数のリング部材の間隔は、複数のリング部材によって形成された円筒状リング集合体の内部空間にホローカソード放電を発生することが可能な間隔に設定されているので、プラズマ発生電源が支持部を介して複数のリング部材に電圧を印加することにより、円筒状リング集合体の内部空間にホローカソード放電を発生させることが可能である。このホローカソード放電により、円筒状リング集合体の内部空間には円筒状リング集合体の外部空間に生成される外部プラズマと比較して密度の高いホローカソードプラズマが生成される。
円筒状リング集合体の内部空間では、このホローカソードプラズマによって、プロセスガス供給部から真空容器に供給されるプロセスガスに含まれる原料ガスが分解し、プロセスガスが活性化される。このため内部空間を取り囲むリング部材の内周面には効率的に皮膜が形成される。また、複数のリング部材は互いに離間して配置されているので、円筒状リング集合体内部で生成されたホローカソードプラズマによって分解や活性化された原料ガスおよび活性化したプロセスガスは、リング部材間の隙間を通って円筒状リング集合体の外部空間に拡散する。したがって、その隙間に露出するリング部材の上面および下面にも効果的に皮膜が形成される。このように、複数のリング部材が集合して一つの円筒状リング集合体が形成され、その円筒状リング集合体の内部空間においてホローカソード放電によってホローカソードプラズマが生成されるので、当該共通のホローカソードプラズマによって複数のリング部材の成膜処理を同時に行うことが可能である。その結果、複数のピストンリングの内周面および上面および下面を効率的に同時に成膜処理を行うことが可能である。
また、前記支持部は、前記円筒状リング集合体の中心軸が水平方向を向くように、前記複数のリング部材を支持するように構成されているのが好ましい。
かかる構成によれば、前記複数のリング部材が支持部によって支持されることによって、水平方向に延びる円筒状リング集合体を形成することが可能であり、成膜されるリング部材の数を増やしても成膜装置の高さを低く抑えることが可能である。
さらに、前記支持部は、水平方向に延びる棒状の本体部を有し、前記本体部は、前記複数のリング部材の内部に挿入された状態で各リング部材の内周面に当接することにより、前記リング部材を当該本体部に吊るした状態で支持するのが好ましい。
かかる構成によれば、複数のリング部材を水平方向に延びる支持部の棒状の本体部に吊るすことにより、水平方向に延びる円筒状リング集合体を容易に形成することが可能である。
また、前記リング部材は、一部が欠損して隙間を有する円弧形状を有しており、前記本体部は、前記隙間の幅よりも大きい幅を有しており、前記本体部は、前記リング部材における前記隙間の両側の端部にそれぞれ当接することにより、前記リング部材を吊るした状態で支持するのが好ましい。
かかる構成によれば、リング部材が互いに離間する一対の端部を有する形状、例えば、ピストンリングのように円環の一部が欠損して隙間(合い口)を有している形状の場合などであっても、棒状の本体部が一対の端部において当該リング部材の内周面に当接することにより、前記リング部材を吊るした状態で支持することが可能である。これにより、リング部材の内周面が支持部の棒状の本体部に重なり合う部分が減少するので、リング部材の内周面における成膜厚さのばらつきを抑えることが可能である。
さらに、前記本体部は、当該本体部の長手方向において前記間隔で離間して配置され、前記リング部材に係合可能な複数の係合部を有するのが好ましい。
かかる構成によれば、棒状の本体部の長手方向において前記間隔で離間した複数の係合部にリング部材をそれぞれ係合させることにより、複数のリング部材を前記間隔に離間して容易かつ正確に配置することが可能である。
また、前記係合部は、前記本体部に形成された溝であるのが好ましい。
また、前記係合部は、前記本体部に形成された溝であるのが好ましい。
かかる構成によれば、棒状の本体部に溝を形成することによってリング部材の係合部を容易に形成することが可能である。また、リング部材を溝に係合させるだけで当該リング部材の配置を容易かつ正確に行うことが可能である。
さらに、前記間隔は、1〜5mmの範囲内であるのが好ましい。
かかる構成によれば、この範囲であれば、リング部材の間にプラズマによって分解や活性化された原料ガスが通ってリング部材の上面および下面に成膜を十分に行うことが可能であり、かつ、成膜処理可能なリング部材の個数の減少を抑えることが可能である。
また、前記プロセスガス供給部は、前記円筒状リング集合体の内部空間へ向けて前記プロセスガスを供給するのが好ましい。
かかる構成によれば、円筒状リング集合体の内部空間へ円滑にプロセスガスを供給することが可能である。
さらに、前記プロセスガス供給部は、前記円筒状リング集合体の外部空間に配置されていてもよい。
かかる構成によれば、プロセスガス供給部を円筒状リング集合体内部で発生したホローカソードプラズマから離して配置することが可能であり、プロセスガス供給部の表面における皮膜の形成を抑えることが可能である。
また、前記プラズマ発生電源は、パルス直流電圧または交流電圧を前記複数のリング部材に印加するのが好ましい。
かかる構成によれば、直流電圧をリング部材に印加する場合と比較して、リング部材に形成される皮膜における異常放電の発生を抑えることが可能である。
さらに、複数の前記支持部のそれぞれは、前記複数のリング部材を支持するのが好ましい。
かかる構成によれば、複数の支持部のそれぞれに複数のリング部材が支持されることにより、複数の円筒状リング集合体が形成され、各円筒状リング集合体の内部空間においてホローカソード放電を利用した成膜を行うことが可能になり、より効率よくリング部材の成膜を行うことが可能である。
また、前記複数の前記支持部は、第1の群および第2の群のいずれかに属し、前記プラズマ発生電源の一方の電極は、前記第1の群に属する前記支持部に接続され、前記プラズマ発生電源の他方の電極は、前記第2の群に属する前記支持部に接続され、前記プラズマ発生電源は、前記一方の電極と前記他方の電極との間に交流電圧を印加するのが好ましい。
かかる構成によれば、第1の群に属する支持部と第2の群に属する支持部との間に交流電圧を印加することにより、真空容器にプラズマ発生電源を接続しない状態で、第1の群および第2の群に属する支持部にそれぞれ支持されたリング部材の成膜を行うことが可能である。その結果、真空容器の内壁における皮膜の形成を抑えることが可能である。
本発明のリング部材の成膜方法は、複数のリング部材の成膜処理を行う成膜方法であって、前記複数のリング部材を、所定の間隔で互いに離間して配置することによって円筒状リング集合体を形成する工程であって、前記間隔は、前記円筒状リング集合体に電圧を印加したときに当該円筒状リング集合体の内部空間にホローカソード放電が発生することが可能な間隔である、工程と、前記円筒状リング集合体が真空容器の内部に配置された状態で、成膜原料となる原料ガスを含むプロセスガスを前記真空容器の内部に供給する工程と、前記円筒状リング集合体に電圧を印加することにより、当該円筒状リング集合体の内部空間にホローカソード放電を発生させることによりプラズマを生成し、前記プラズマにより前記原料ガスを分解や活性化して前記リング部材の内周面および上面および下面に付着させることによって皮膜を形成する工程とを含むことを特徴とする。
かかる特徴によれば、複数のリング部材を互いに離間して配置されることによってホローカソード放電が発生可能な円筒状リング集合体を形成しておき、当該円筒状リング集合体に電圧を印加することによって、円筒状リング集合体の内部にホローカソード放電を発生させて円筒状リング集合体の内部に高い密度のプラズマを生成させることが可能である。この高密度のプラズマを用いて、原料ガスを分解や活性化してリング部材の内周面および上面および下面に付着させて皮膜を形成することが可能である。その結果、複数のリング部材の内周面および上面および下面に効率よく成膜処理を行うことが可能である。
以上説明したように、本発明のリング部材の成膜装置および成膜方法によれば、複数のピストンリングの内周面および上面および下面を効率的に同時に成膜処理を行うことができる。
以下、図面を参照しながら本発明の成膜装置および成膜方法の実施形態についてさらに詳細に説明する。
成膜装置1は、図1〜2に示されるように、複数のリング部材の成膜処理を行う装置であり、本実施形態では、成膜対象であるリング部材の一例として複数のピストンリング51の成膜を一括して行う。各ピストンリング51は、図4に示されるように、円筒状の内周面52を有する円環状の部材である。具体的には、ピストンリング51は、一部が欠損して隙間51cを有する円弧状のリング本体51aを有する。リング本体51aは、隙間51cの両側において一対の端部51bを有する。
成膜装置1は、真空容器2と、複数のピストンリング51を支持する支持部3と、プロセスガス供給部4と、プラズマ発生電源5とを備えている。
真空容器2は、密閉性の高い容器であり、複数のピストンリング51が収容可能な広さを有する空間部6を有する。
支持部3は、複数のピストンリング51によって円筒状リング集合体60(以下、円筒60という)が形成されるように、当該ピストンリング51の軸方向(本実施形態では水平方向A)に沿って所定の間隔δで当該複数のピストンリング51を互いに離間して支持することが可能な構成を有する。
本実施形態の支持部3は、円筒60の中心軸Cが水平方向Aを向くように、複数のピストンリング51を支持するように構成されている。具体的には、支持部3は、水平方向Aに延びる棒状の本体部3aと、当該本体部3aが水平方向Aに向いた状態で当該本体部3aを真空容器2の側壁に固定する絶縁体からなる固定部3bとを有する。
本体部3aは、ピストンリング51の隙間51cの幅よりも大きい幅W(図2参照)を有しているので、当該ピストンリング51の一対の端部51bがそれぞれ当該本体部3aに係合することが可能である。
本体部3aは、ピストンリング51に係合可能な複数の係合部として、本体部3aに形成された複数の溝3cを有する。複数の溝3cは、当該本体部3aの長手方向(本実施形態では水平方向A)において前記間隔δで離間して配置されている。溝3cは、ピストンリング51の一対の端部51bの少なくとも下部がそれぞれ挿入可能な深さおよび長さを有する。
本体部3aは、複数のピストンリング51の内部に挿入された状態で各ピストンリング51の内周面52に当接することにより、ピストンリング51を当該本体部3aに吊るした状態で支持する。具体的には、本体部3aは、ピストンリング51の一対の端部51bが溝3cに係合することにより、ピストンリング51を吊るした状態で支持する。
ピストンリング51の間隔δは、プラズマ発生電源5が支持部3を介して複数のピストンリング51に電圧を印加したときに円筒60の内部空間61においてホローカソード放電が発生して当該ホローカソード放電によってホローカソードプラズマP1が生成されるように、設定されている。ホローカソード放電によって発生するホローカソードプラズマP1の密度は、複数のピストンリング51に電圧を印加したときに円筒60の外部空間62において生成される外部プラズマP2(図2参照)の密度よりも高くなる。そのため、この高密度のホローカソードプラズマP1を用いて、複数のピストンリング51の内周面52および上面54および下面55の成膜処理を行い、これら内周面52および上面54および下面55に対して皮膜57、58、59(図5参照)をそれぞれ形成することが可能である。
円筒60内部に円筒60外部よりも密度の高いホローカソードプラズマP1を生成するためには、軸方向に互いに離間するピストンリング51同士の間隔δがある閾値より小さいことが必要である。間隔δが閾値より大きくなるとホローカソード放電が発生しなくなり、円筒60の内外でのプラズマ密度に大きな差は無くなる。このような状態では、ピストンリング51の全表面に一様な厚さの被覆が成されるため、ピストンリング51の内周面52および上面54および下面55に重点的に成膜することができなくなる。この閾値は、ピストンリング51の形状、サイズや圧力等の条件で異なる。ピストンリング51の間隔δがこの閾値より小さければ、円筒60の内部でホローカソード放電が発生して高密度のホローカソードプラズマP1が生成されるので、閾値を容易に判別することが可能である。
前記間隔δは、1〜5mmの範囲内であるのが好ましい。この範囲内であれば、ピストンリング51の間にプラズマによって分解や活性化された原料ガスが通ってピストンリング51の上面54および下面55に成膜を十分に行うことが可能であり、かつ、成膜処理可能なピストンリング51の個数の減少を抑えることが可能である。δが5mm以下の理由は、δが5mmを超えると高密度のホローカソードプラズマが生成できなくなったり、成膜処理可能なピストンリングの個数が減少したりするからである。δが1mm以上とする理由は、1mm未満だと間隔δを通る分解・活性化された原料ガスの量が減り、特に上面下面の成膜ができにくくなるからである。
例えば、自動車用のピストンリング51は、図4に示される外径Dが50〜200mm、厚さtが1〜4mm程度の範囲にあるので、上記のように間隔δを1〜5mm程度にすれば、上面54および下面55の領域に成膜が十分に広がり、かつ、一括して成膜処理が可能なピストンリング51の個数の減少を抑える効果を確実に発揮することが可能である。
プロセスガス供給部4は、DLCなどの皮膜を成膜するための原料となる原料ガス(例えばメタンなど)を含むプロセスガスをタンク7から真空容器2の空間部6に供給する。
プロセスガス供給部4は、プロセスガスを空間部6の内部に導入する導入部4aを有している。導入部4aは、複数のピストンリング51で構成される円筒60の外部空間62に配置されている。
プロセスガス供給部4は、円筒60の外部空間62に配置されている。これにより、プロセスガス供給部4を円筒60内部で発生したホローカソードプラズマP1から離して配置することが可能であり、プロセスガス供給部4の表面における皮膜の形成を抑えることが可能である。プロセスガス供給部4の導入部4aから円筒60の外部空間62へ導入されたプロセスガスは、ピストンリング51の隙間63や円筒60の両端を通って、円筒60の内部空間61において拡散することが可能である。
プラズマ発生電源5は、支持部3を介して複数のピストンリング51に電圧を印加する。プラズマ発生電源5の陰極は、支持部3に接続され、陽極は真空容器2に接続されている。
プラズマ発生電源5から円筒60に印加される電圧は、円筒60の内部にホローカソード放電が発生して高密度のホローカソードプラズマP1が生成されることが可能な電圧であればよい。そのような電圧は、例えば、直流電圧であれば、300〜2000Vの範囲の負の直流電圧、またはその範囲のパルス直流電圧(周波数10kHz〜400kHz程度)である。または、円筒60に印加される電圧は、高周波(1~30MHz、一般的には13.56MHz)電圧、あるいは、低周波〜中間周波数(10kHz〜400kHz)の交流電圧であってもよく、その場合も高密度のホローカソードプラズマP1は生成可能である。プラズマ発生電源5は、パルス直流電圧または交流電圧を複数のピストンリング51に印加するのが好ましく、その場合、ピストンリング51に形成される皮膜において異常放電が生じにくくなる。実用的には、パルス直流電圧を印加する方式が好ましい。
以上のように構成された成膜装置1を用いて複数のピストンリング51の成膜を行う場合、以下の手順で行う。
まず、複数のピストンリング51を、所定の間隔δで互いに離間して配置することによって、当該円筒60を形成する。具体的には、支持部3の本体部3aが真空容器2の外部において水平方向に延びるように配置された状態で、ピストンリング51の一対の端部51bを本体部3aの溝3cにそれぞれ係合させることにより、複数のピストンリング51は、本体部3aに吊り下げられた状態で、上記の所定の間隔δで互いに離間して配置される。この間隔δは、前記のように円筒60に電圧を印加したときに当該円筒60の内部空間61にホローカソード放電が発生することが可能な間隔に設定されている。
例えば、図4における外径D:100mm、厚さt:3.4mm、高さH:2.5mmの寸法を有するピストンリング51が40本用意される。その40本のピストンリング51は、図1に示されるように、2.5mmの間隔δで支持部3に水平方向Aに並ぶように取り付けられ、長さ約200mmの円筒60が構成される。
ついで、複数のピストンリング51によって形成された円筒60は、真空容器2の内部に配置される。具体的には、支持部3の本体部3aは、複数のピストンリング51を円筒60の形状を維持するように支持しながら、真空容器2の内部に搬送され、固定部3bを介して真空容器2の側壁に水平方向に延びた状態で、固定される。
ついで、真空容器2の空間部6の空気は、図示しない真空ポンプによって排出され、空間部6は真空に近い圧力まで減圧された高真空の状態にされる。
つぎに、ピストンリング51は、成膜前にイオンボンバード処理が施される。具体的には、プロセスガス供給部4などからAr(アルゴン)等の不活性ガスが真空容器2の内部に導入され、真空容器2の内部を3Pa程度の圧力にした状態で、プラズマ発生電源5によって支持部3と真空容器2との間にパルス直流電圧が500Wの電力で5分間印加される。これにより、ピストンリング51の表面に断続的な放電(グロー放電)が発生し、ピストンリング51の全表面がエッチングされて清浄化される。
その後、円筒60が真空容器2の内部に配置された状態で、成膜原料となる原料ガス(アセチレンなど)を含むプロセスガスをプロセスガス供給部4によって真空容器2の内部に供給する。具体的には、原料ガスとして、アセチレンが2Paの圧力で真空容器2の内部に導入される。
そして、プラズマ発生電源5が支持部3を介して円筒60に電圧を印加(例えば750V程度のパルス直流電圧を30分間印加)することにより、当該円筒60の内部空間61にホローカソード放電が発生し、当該内部空間61に高密度のホローカソードプラズマP1が生成される。このホローカソードプラズマP1により原料ガスが分解や活性化され、ピストンリング51の内周面52に付着することにより、DLCなどの皮膜57(図5参照)が形成される。それとともに、分解や活性化された原料ガスはピストンリング51間の隙間63を通って円筒60の外部空間62に拡散するので、その隙間63に露出するピストンリングの上面54および下面55に付着することによって、上記皮膜57と同様に、DLCなどの皮膜58、59(図5参照)が形成される。
成膜処理が完了後、プラズマ発生電源5による電圧印加およびプロセスガス供給部4によるプロセスガスの導入が停止される。そして、ピストンリング51の温度が所定の温度まで低下した後に、成膜後のピストンリング51が真空容器2から取り出される。
実験によれば、上記の条件の成膜方法によって得られたピストンリング51の表面に成膜された皮膜57、58、59(図5参照)は、黒色であり、ピストンリング51の内周面52に形成された皮膜57の厚さは2.5μmであり、上面54および下面55の皮膜58、59の厚さは1.6μmであることが確認されている。
上記のピストンリング51の成膜方法では、複数のピストンリング51によって形成された円筒60の内部にホローカソード放電を発生させて円筒60の内部に高い密度のプラズマを生成させることが可能である。この高密度のプラズマを用いて、原料ガスを分解や活性化してピストンリング51の内周面52および上面54および下面55に付着させて皮膜を形成することによって、複数のピストンリング51の内周面52および上面54および下面55に効率よく成膜処理を行うことが可能である。
また、上記のピストンリング51の成膜を行う場合、プロセスガスとして種々の成分のガスを用いることが可能である。例えば、プロセスガスとして、HMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)からなる原料ガスと酸素ガスとを真空容器2の空間部6に導入して成膜を行ってもよい。その場合には、例えば、原料ガスであるHMDSOは、円筒60の外部空間62に向けて供給され、酸素ガスは円筒60内部空間61に向けて供給されればよい。HMDSOと酸素ガスは、これらの流量比が1:1の状態で2.5Paの圧力で真空容器2の空間部6に導入される。プラズマ発生電源5は、パルス直流電圧(例えば1kWのパルス電力の条件下のパルス直流電圧)を支持部3を介して円筒60に印加することにより、ホローカソード放電を円筒60内部に発生させ、高密度のホローカソードプラズマP1を発生させる。それにより、上記の成膜方法と同様に、ピストンリング51の基材の内周面52および上面54および下面55に皮膜が形成される。この場合、ピストンリング51の表面には、2μmのSi、C、O、およびHを成分とする皮膜が形成される。当該皮膜は、撥水性を有し、たとえば粘着性の樹脂の付着等があっても、簡単に除去できる特性を有している。このように皮膜に付着させた粘着テープは、高圧で噴射された水によって、簡単に剥離可能である。
その他にも、皮膜材料に関わる好ましい実施の形態として、以下のプロセスガスが挙げられる。
(1)プロセスガスとしては、アセチレン、メタン、ベンゼン、トルエン、エタン、またはエチレンなどの炭化水素ガスを含むガスが真空容器2内に供給されてもよい。このガスを用いれば、皮膜として、DLCなどの水素含有の炭素膜がピストンリング51の表面に形成される。
(2)プロセスガスとして、アセチレン、メタン、ベンゼン、トルエン、エタン、またはエチレンなどの炭化水素ガスと、シラン、TMS、HMDSO,またはHMDSN等を含むガスとの混合ガスが用いられた場合には、シリコン含有DLCなどのC、Si、およびHを必須の元素として含む皮膜が形成される。
(3)プロセスガスとして、アセチレン、メタン、ベンゼン、トルエン、エタン、またはエチレンなどの炭化水素ガスを主成分として含み、これに金属を含むガス(TMS、TTIP等)を添加成分として含むガスが用いられた場合には、Me:DLCなどと呼ばれる金属元素含有の炭素膜が形成される。
(4)プロセスガスとして、TMS、HMDSO、またはHMDSNなどのSiを必須元素として含む有機シラン系のガスを含むガスが用いられた場合には、Si、C、およびHを必須の元素として含む保護皮膜が形成される。
(5)プロセスガスとして、シラン、TMS、HMDSO、またはHMDSNなどのSiを必須元素として含む有機シラン系のガスと、酸化作用を有するガス(酸素など)とが混合されたガスが用いられた場合には、Si、O、C、およびHを必須の元素として含む保護皮膜が形成される。
(6)プロセスガスとして、シラン、TMS、HMDSO,またはHMDSNなどのSiを必須元素として含む有機シラン系のガスと、窒素を含有するガス(窒素ガス、アンモニアなど)とが混合されたガスが用いられた場合には、Si、N、C、およびHを必須の元素として含む保護皮膜が形成される。
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の成膜装置1は、複数のピストンリング51によって円筒60が形成されるように、当該複数のピストンリング51を互いに当該ピストンリング51の軸方向(上記実施形態では図1の水平方向A)に沿って所定の間隔δで離間して支持する支持部3を備えている。したがって、真空容器2内部では、成膜処理される複数のピストンリング51は、支持部3によって、互いに当該ピストンリング51の軸方向(図1の水平方向A)に沿って所定の間隔δで離間して支持される。それによって、これら複数のピストンリング51によって円筒60が形成される。複数のピストンリング51の間隔δは、複数のピストンリング51によって形成された円筒60の内部空間61にホローカソード放電を発生することが可能な間隔δに設定されているので、プラズマ発生電源5が支持部3を介して複数のピストンリング51に電圧を印加することにより、円筒60の内部空間61にホローカソード放電を発生させることが可能である。このホローカソード放電により、円筒60の内部空間61には円筒60の外部空間62に生成される外部プラズマP2と比較して密度の高いホローカソードプラズマP1が生成される。
(1)
本実施形態の成膜装置1は、複数のピストンリング51によって円筒60が形成されるように、当該複数のピストンリング51を互いに当該ピストンリング51の軸方向(上記実施形態では図1の水平方向A)に沿って所定の間隔δで離間して支持する支持部3を備えている。したがって、真空容器2内部では、成膜処理される複数のピストンリング51は、支持部3によって、互いに当該ピストンリング51の軸方向(図1の水平方向A)に沿って所定の間隔δで離間して支持される。それによって、これら複数のピストンリング51によって円筒60が形成される。複数のピストンリング51の間隔δは、複数のピストンリング51によって形成された円筒60の内部空間61にホローカソード放電を発生することが可能な間隔δに設定されているので、プラズマ発生電源5が支持部3を介して複数のピストンリング51に電圧を印加することにより、円筒60の内部空間61にホローカソード放電を発生させることが可能である。このホローカソード放電により、円筒60の内部空間61には円筒60の外部空間62に生成される外部プラズマP2と比較して密度の高いホローカソードプラズマP1が生成される。
円筒60の内部空間61では、このホローカソードプラズマP1によって、プロセスガス供給部4から真空容器2に供給されるプロセスガスに含まれる原料ガスが分解や活性化し、プロセスガスの活性化が発生する。このため内部空間61を取り囲むピストンリング51の内周面52には効率的に皮膜が形成される。また、複数のピストンリング51は互いに離間して配置されているので、円筒60内部で生成されたホローカソードプラズマP1によって分解や活性化された原料ガスおよび活性化したプロセスガスは、ピストンリング51間の隙間63を通って円筒60の外部空間62に拡散する。したがって、その隙間63に露出するピストンリング51の上面54および下面55にも効果的に皮膜が形成される。このように、複数のピストンリング51が集合して一つの円筒60が形成され、その円筒60の内部空間61においてホローカソード放電によってホローカソードプラズマP1が生成されるので、当該共通のホローカソードプラズマP1によって複数のピストンリング51の成膜処理を同時に行うことが可能である。その結果、複数のピストンリングの内周面52および上面54および下面55を効率的に同時に成膜処理を行うことが可能である。
(2)
本実施形態の成膜装置1によれば、支持部3が円筒60の中心軸Cが水平方向Aを向くように、複数のピストンリング51を支持するように構成されている。これにより、複数のピストンリング51が支持部3によって支持されることによって、水平方向Aに延びる円筒60を形成することが可能であり、成膜されるピストンリング51の数を増やしても成膜装置1の高さを低く抑えることが可能である。
本実施形態の成膜装置1によれば、支持部3が円筒60の中心軸Cが水平方向Aを向くように、複数のピストンリング51を支持するように構成されている。これにより、複数のピストンリング51が支持部3によって支持されることによって、水平方向Aに延びる円筒60を形成することが可能であり、成膜されるピストンリング51の数を増やしても成膜装置1の高さを低く抑えることが可能である。
(3)
本実施形態の成膜装置1によれば、複数のピストンリング51を水平方向Aに延びる支持部3の棒状の本体部3aに吊るすことにより、水平方向Aに延びる円筒60を容易に形成することが可能である。
本実施形態の成膜装置1によれば、複数のピストンリング51を水平方向Aに延びる支持部3の棒状の本体部3aに吊るすことにより、水平方向Aに延びる円筒60を容易に形成することが可能である。
なお、本発明は円筒60の向きについて水平方向に限定されるものではなく、垂直方向や斜め方向であってもよい。
(4)
本実施形態の成膜装置1によれば、支持部3の棒状の本体部3aは、ピストンリング51の隙間51cの幅よりも大きい幅Wを有しており、ピストンリング51の隙間51cの両側の端部51bにそれぞれ当接することにより、ピストンリング51を吊るした状態で支持するように構成されている。
本実施形態の成膜装置1によれば、支持部3の棒状の本体部3aは、ピストンリング51の隙間51cの幅よりも大きい幅Wを有しており、ピストンリング51の隙間51cの両側の端部51bにそれぞれ当接することにより、ピストンリング51を吊るした状態で支持するように構成されている。
したがって、ピストンリング51が円環の一部が欠損して隙間51c(合い口)を有している形状の場合などであっても、棒状の本体部3aがピストンリング51の一対の端部51bにおいて当該ピストンリング51の内周面52に当接することにより、ピストンリング51を吊るした状態で支持することが可能である。これにより、ピストンリング51の内周面52が支持部3の棒状の本体部3aに重なり合う部分が減少するので、ピストンリング51の内周面52における成膜厚さのばらつきを抑えることが可能である。
(5)
本実施形態の成膜装置1によれば、支持部3の棒状の本体部3aは、当該本体部3aの長手方向において前記間隔δで離間して配置され、ピストンリング51に係合可能な複数の係合部として溝3cを有する。したがって、棒状の本体部3aの長手方向において前記間隔δで離間した複数の溝3cにピストンリング51をそれぞれ係合させることにより、複数のピストンリング51を前記間隔δに離間して容易かつ正確に配置することが可能である。
(6)
本実施形態の成膜装置1によれば、棒状の本体部3aに溝を形成することによってピストンリング51の係合部を容易に形成することが可能である。また、ピストンリング51を溝に係合させるだけで当該ピストンリング51の配置を容易かつ正確に行うことが可能である。
本実施形態の成膜装置1によれば、支持部3の棒状の本体部3aは、当該本体部3aの長手方向において前記間隔δで離間して配置され、ピストンリング51に係合可能な複数の係合部として溝3cを有する。したがって、棒状の本体部3aの長手方向において前記間隔δで離間した複数の溝3cにピストンリング51をそれぞれ係合させることにより、複数のピストンリング51を前記間隔δに離間して容易かつ正確に配置することが可能である。
(6)
本実施形態の成膜装置1によれば、棒状の本体部3aに溝を形成することによってピストンリング51の係合部を容易に形成することが可能である。また、ピストンリング51を溝に係合させるだけで当該ピストンリング51の配置を容易かつ正確に行うことが可能である。
なお、係合部は、ピストンリング51などのリング部材に係合可能な構成であればよく、本発明では係合部を溝に限定しない。係合部は、溝以外の形態、例えば突起などでもよい。
(7)
本実施形態の成膜装置1によれば、ピストンリング51の間隔δは、1〜5mmの範囲内であるので、ピストンリング51の間にプラズマによって分解や活性化された原料ガスが通ってピストンリング51の上面54および下面55に成膜を十分に行うことが可能であり、かつ、成膜処理可能なピストンリング51の個数の減少を抑えることが可能である。
本実施形態の成膜装置1によれば、ピストンリング51の間隔δは、1〜5mmの範囲内であるので、ピストンリング51の間にプラズマによって分解や活性化された原料ガスが通ってピストンリング51の上面54および下面55に成膜を十分に行うことが可能であり、かつ、成膜処理可能なピストンリング51の個数の減少を抑えることが可能である。
(8)
本実施形態の成膜装置1によれば、プロセスガス供給部4が、円筒60の外部空間62に配置されている。したがって、プロセスガス供給部4を円筒60内部で発生したホローカソードプラズマP1から離して配置することが可能であり、プロセスガス供給部4の表面における皮膜の形成を抑えることが可能である。
本実施形態の成膜装置1によれば、プロセスガス供給部4が、円筒60の外部空間62に配置されている。したがって、プロセスガス供給部4を円筒60内部で発生したホローカソードプラズマP1から離して配置することが可能であり、プロセスガス供給部4の表面における皮膜の形成を抑えることが可能である。
(9)
本実施形態の成膜装置1によれば、プラズマ発生電源5が、パルス直流電圧または交流電圧を複数のピストンリング51に印加するので、定常的な直流電圧をピストンリング51に印加する場合と比較して、ピストンリング51に形成される皮膜における異常放電の発生を抑えることが可能である。
本実施形態の成膜装置1によれば、プラズマ発生電源5が、パルス直流電圧または交流電圧を複数のピストンリング51に印加するので、定常的な直流電圧をピストンリング51に印加する場合と比較して、ピストンリング51に形成される皮膜における異常放電の発生を抑えることが可能である。
(10)
本実施形態の成膜方法によれば、複数のピストンリング51を互いに離間して配置されることによってホローカソード放電が発生可能な円筒60を形成しておき、当該円筒60に電圧を印加することによって、円筒60の内部にホローカソード放電を発生させて円筒60の内部に高い密度のプラズマを生成させることが可能である。この高密度のプラズマを用いて、原料ガスを分解や活性化してピストンリング51の内周面52および上面54および下面55に付着させて皮膜を形成することによって、複数のピストンリング51の内周面52および上面54および下面55に効率よく成膜処理を行うことが可能である。
本実施形態の成膜方法によれば、複数のピストンリング51を互いに離間して配置されることによってホローカソード放電が発生可能な円筒60を形成しておき、当該円筒60に電圧を印加することによって、円筒60の内部にホローカソード放電を発生させて円筒60の内部に高い密度のプラズマを生成させることが可能である。この高密度のプラズマを用いて、原料ガスを分解や活性化してピストンリング51の内周面52および上面54および下面55に付着させて皮膜を形成することによって、複数のピストンリング51の内周面52および上面54および下面55に効率よく成膜処理を行うことが可能である。
(変形例)
(A)
本発明のリング部材は、円筒60の内部でホローカソード放電が発生可能な形状として、例えば円弧状の内周面を有するものであればよく、円弧状にはとくに限定されない。上記の実施形態では、本発明のリング部材の一例として、一部が欠損した円弧状のピストンリングを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、隙間51cを有しない連続した円環形状の部材であってもよい。
(A)
本発明のリング部材は、円筒60の内部でホローカソード放電が発生可能な形状として、例えば円弧状の内周面を有するものであればよく、円弧状にはとくに限定されない。上記の実施形態では、本発明のリング部材の一例として、一部が欠損した円弧状のピストンリングを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、隙間51cを有しない連続した円環形状の部材であってもよい。
(B)
本発明ではプロセスガス供給部4の位置については特に限定されるものではない。よって、本発明の他の変形例として、プロセスガス供給部4は、図1の2点鎖線に示されるように、円筒60の内部空間61へ向けて前記プロセスガスを供給してもよい。この場合、円筒60の内部空間61へ円滑にプロセスガスを供給することが可能である。
本発明ではプロセスガス供給部4の位置については特に限定されるものではない。よって、本発明の他の変形例として、プロセスガス供給部4は、図1の2点鎖線に示されるように、円筒60の内部空間61へ向けて前記プロセスガスを供給してもよい。この場合、円筒60の内部空間61へ円滑にプロセスガスを供給することが可能である。
このような円筒60の内部空間61へ向けて前記プロセスガスを供給する場合、その他の成膜条件を上記の実施形態(外部空間62へ向けて供給した場合)の成膜方法と同じ条件にして成膜処理を行った実験によれば、ピストンリング51の内周面52に形成された皮膜57の厚さは4.5μmであり、上面54および下面55の皮膜58、59の厚さは2.1μmであることが確認されている。この結果より、円筒60の内部空間61へ向けてプロセスガスを供給した場合には、上記の実施形態のように外部空間62へ向けて供給した場合(皮膜57の厚さは2.5μmであり、皮膜58、59の厚さは1.6μmである)よりも皮膜57〜59の厚さが若干大きくなり、成膜速度が向上することが理解される。
(C)
本発明の成膜方法では、円筒60が真空容器2の内部に配置された状態でプロセスガスを真空容器2の内部に供給して成膜を行うことができればよい。したがって、上記の実施形態の成膜方法では、円筒60を真空容器2の外部で形成後、真空容器2の内部に移動させて当該内部に配置するようにしているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、真空容器2の内部において、複数のリング部材(例えばピストンリング51)が支持部3によって支持されることによって円筒60を形成するようにしてもよい。
本発明の成膜方法では、円筒60が真空容器2の内部に配置された状態でプロセスガスを真空容器2の内部に供給して成膜を行うことができればよい。したがって、上記の実施形態の成膜方法では、円筒60を真空容器2の外部で形成後、真空容器2の内部に移動させて当該内部に配置するようにしているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、真空容器2の内部において、複数のリング部材(例えばピストンリング51)が支持部3によって支持されることによって円筒60を形成するようにしてもよい。
(D)
上記の実施形態では、1個の支持部3を備えた成膜装置1が示されているが、本発明では、支持部3は少なくとも1つあればよい。
上記の実施形態では、1個の支持部3を備えた成膜装置1が示されているが、本発明では、支持部3は少なくとも1つあればよい。
したがって、本発明の他の変形例として、図3に示されるように複数(図3では2個)の支持部3を備えた成膜装置1であってもよい。すなわち、図3に示されるように、成膜装置1は、複数の支持部3のそれぞれが複数のピストンリング51を支持する形態を有していてもよい。
この場合、複数の支持部3のそれぞれに複数のピストンリング51が支持されることにより、複数の円筒60が形成され、各円筒60の内部空間61においてホローカソード放電を利用した成膜を行うことが可能になり、より効率よくピストンリング51の成膜を行うことが可能である。
図3に示されるように、1つの真空容器2の内部に、複数の円筒60を配置して同時に処理を行う構成では、各円筒60毎に別個のプラズマ発生電源5が接続されても良いが、1個の共通のプラズマ発生電源5が複数の円筒60に接続されてもよい。その場合、プラズマ発生電源5の増加を抑えることが可能である。
(E)
さらに、図3に示されるように複数の支持部3を有する成膜装置1の場合には、プラズマ発生電源5を交流電源として、その両極を複数の円筒60に接続して交流電圧を印加するようにしてもよい。
さらに、図3に示されるように複数の支持部3を有する成膜装置1の場合には、プラズマ発生電源5を交流電源として、その両極を複数の円筒60に接続して交流電圧を印加するようにしてもよい。
具体的な構成としては、複数の支持部3は、第1の群および第2の群のいずれかに属し、交流のプラズマ発生電源5の一方の電極は、第1の群に属する支持部3に接続され、交流のプラズマ発生電源5の他方の電極は、前記第2の群に属する支持部3に接続され、プラズマ発生電源5は、一方の電極と他方の電極との間に交流電圧を印加するようにしてもよい。
例えば、図3では、第1の群に属する支持部3によって複数のピストンリング51が支持されることにより、第1の群に属する円筒60Aが形成される。一方、第2の群に属する支持部3によって複数のピストンリング51が支持されることにより、第2の群に属する円筒60Bが形成される。
このような構成では、第1の群および第2の群にそれぞれ属する支持部3によって支持された複数のピストンリング51の成膜を行う場合には、プラズマ発生電源5によって、第1の群に属する支持部3と第2の群に属する支持部3との間に交流電圧(例えば、10〜200kHz程度の中間周波数領域の交流電圧)が印加される。これにより、真空容器2にはプラズマ発生電源からの電気的接続が無い状態で、第1の群および第2の群に属する支持部3にそれぞれ支持された複数のピストンリング51、すなわち、円筒60Aおよび円筒60Bを構成する各ピストンリング51に電圧を印加することにより、円筒60A、円筒60Bの内部において、ホローカソード放電を発生させ、高密度のホローカソードプラズマP1を生成することが可能である。そのため、ホローカソードプラズマP1を用いて、円筒60Aおよび円筒60Bを構成するピストンリング51の内周面52および上面54および下面55(図1参照)の成膜を行うことが可能である。その結果、真空容器2にはプラズマ発生電源5からの電力の供給が無いので、内壁における皮膜の形成を抑えることが可能である。また、真空容器2の内壁が電極として用いられないので、当該内壁の皮膜の有無がホローカソード放電に影響せず、よって、当該放電の安定性を向上させることが可能である。
1 成膜装置
2 真空容器
3 支持部
4 プロセスガス供給部
5 プラズマ発生電源
6 空間部
51 ピストンリング(リング部材)
52 内周面
53 外周面
54 上面
55 下面
60 円筒状リング集合体(円筒)
61 内部空間
62 外部空間
2 真空容器
3 支持部
4 プロセスガス供給部
5 プラズマ発生電源
6 空間部
51 ピストンリング(リング部材)
52 内周面
53 外周面
54 上面
55 下面
60 円筒状リング集合体(円筒)
61 内部空間
62 外部空間
Claims (13)
- 複数のリング部材の成膜処理を行う成膜装置であって、
前記複数のリング部材が収容可能な空間部を有する真空容器と、
前記複数のリング部材によって円筒状リング集合体が形成されるように、当該複数のリング部材を互いに当該リング部材の軸方向に沿って所定の間隔で離間して支持する少なくとも1つの支持部と、
成膜原料となる原料ガスを含むプロセスガスを前記空間部に供給するプロセスガス供給部と、
前記支持部を介して前記複数のリング部材に電圧を印加するプラズマ発生電源と
を備えており、
前記間隔は、前記プラズマ発生電源が前記支持部を介して前記複数のリング部材に電圧を印加したときに前記円筒状リング集合体の内部空間においてホローカソード放電が発生して当該ホローカソード放電によってホローカソードプラズマが生成されるように、設定され、
前記ホローカソードプラズマの密度は、前記複数のリング部材に電圧を印加したときに前記円筒状リング集合体の外部空間において生成される外部プラズマの密度よりも高い、
ことを特徴とする成膜装置。 - 前記支持部は、前記円筒状リング集合体の中心軸が水平方向を向くように、前記複数のリング部材を支持するように構成されている、
請求項1に記載の成膜装置。 - 前記支持部は、水平方向に延びる棒状の本体部を有し、
前記本体部は、前記複数のリング部材の内部に挿入された状態で各リング部材の内周面に当接することにより、前記リング部材を当該本体部に吊るした状態で支持する、
請求項2に記載の成膜装置。 - 前記リング部材は、一部が欠損して隙間を有する円弧形状を有しており、
前記本体部は、前記隙間の幅よりも大きい幅を有しており、
前記本体部は、前記リング部材における前記隙間の両側の端部にそれぞれ当接することにより、前記リング部材を吊るした状態で支持する、
請求項3に記載の成膜装置。 - 前記本体部は、当該本体部の長手方向において前記間隔で離間して配置され、前記リング部材に係合可能な複数の係合部を有する、
請求項3または4に記載の成膜装置。 - 前記係合部は、前記本体部に形成された溝である、
請求項5に記載の成膜装置。 - 前記間隔は、1〜5mmの範囲内である、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の成膜装置。 - 前記プロセスガス供給部は、前記円筒状リング集合体の内部空間へ向けて前記プロセスガスを供給する、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の成膜装置。 - 前記プロセスガス供給部は、前記円筒状リング集合体の外部空間に配置されている、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の成膜装置。 - 前記プラズマ発生電源は、パルス直流電圧または交流電圧を前記複数のリング部材に印加する、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の成膜装置。 - 複数の前記支持部のそれぞれは、前記複数のリング部材を支持する、
請求項1〜10のいずれか1項に記載の成膜装置。 - 前記複数の前記支持部は、第1の群および第2の群のいずれかに属し、
前記プラズマ発生電源の一方の電極は、前記第1の群に属する前記支持部に接続され、
前記プラズマ発生電源の他方の電極は、前記第2の群に属する前記支持部に接続され、
前記プラズマ発生電源は、前記一方の電極と前記他方の電極との間に交流電圧を印加する、
請求項11に記載の成膜装置。 - 複数のリング部材の成膜処理を行う成膜方法であって、
前記複数のリング部材を、所定の間隔で互いに離間して配置することによって円筒状リング集合体を形成する工程であって、前記間隔は、前記円筒状リング集合体に電圧を印加したときに当該円筒状リング集合体の内部空間にホローカソード放電が発生することが可能な間隔である、工程と、
前記円筒状リング集合体が真空容器の内部に配置された状態で、成膜原料となる原料ガスを含むプロセスガスを前記真空容器の内部に供給する工程と、
前記円筒状リング集合体に電圧を印加することにより、当該円筒状リング集合体の内部空間にホローカソード放電を発生させることによりプラズマを生成し、前記プラズマにより前記原料ガスを分解や活性化して前記リング部材の内周面および上面および下面に付着させることによって皮膜を形成する工程と
を含むことを特徴とするリング部材の成膜方法。
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Cited By (1)
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JP2020100877A (ja) * | 2018-12-21 | 2020-07-02 | 富士ゼロックス株式会社 | 膜形成装置、および膜形成方法 |
-
2016
- 2016-06-01 JP JP2016110366A patent/JP2017214629A/ja active Pending
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