JP2017186644A - 高強度冷延鋼板、高強度溶融亜鉛めっき鋼板 - Google Patents

高強度冷延鋼板、高強度溶融亜鉛めっき鋼板 Download PDF

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道高 経澤
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【課題】引張強度980MPa以上の高強度領域において、高降伏比であり、延性および曲げ性に優れた高強度鋼板を提供する。【解決手段】所定の成分組成を満足し、[0.40×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値Xが8以下、[0.75×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値Yと前記Xの差の値Y−Xが30.0以上、45未満、[0.90×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値Zと、前記Yの差の値Z−Yが48.0以上、全組織に対する残留オーステナイトの体積率が2%以下である高強度冷延鋼板。IQを電子線後方散乱回折パターンの鮮明度として、上記IQmaxは全測定点中のIQの最大値であり、上記IQminは全測定点中のIQの最小値である。【選択図】図1

Description

本発明は、高強度冷延鋼板及び高強度溶融亜鉛めっき鋼板に関し、より詳細には、延性、曲げ性に優れ高降伏比である引張強度980MPa以上の高強度冷延鋼板、または高強度溶融亜鉛めっき鋼板に関する。以下では、これら高強度冷延鋼板と高強度溶融亜鉛めっき鋼板をまとめて、単に高強度鋼板と呼ぶ場合がある。
近年、自動車用鋼板や輸送機械用鋼板等の部材の高強度化に伴い、延性、曲げ性といった加工性が低下しており、複雑形状の部材をプレス成形することは困難であった。よって、高強度鋼板であっても、上記加工性に優れた技術の提供が求められている。
また、自動車用鋼板は、車体構造用部材に適用した場合、同じ引張強度では降伏比が高い程、衝撃吸収エネルギーが優れる。一方、降伏比が高すぎる場合、スプリングバックが大きくなる等、成形した際の形状凍結性が悪化する。従って、YR(Yield Ratio)で表される降伏比が、例えば、79%以上、90%未満程度である鋼板が求められている。なお前記YRとは、0.2%耐力であるYS(Yield Strength)を、引張強度であるTS(Tensile Strength)で除して100をかけた値である。
上記要求特性のうち、高強度鋼板の加工性向上技術として、下記特許文献が提案されている。特許文献1には、マルテンサイト、ベイナイト、もしくはそれらを複合させたミクロ組織とし、且つ、鋼板の表層を軟質とすることによって、強度−曲げ性バランスを向上できることが示されている。しかし、特許文献1は、高強度化および上記成形性について検討されているに留まり、降伏比、延性(伸び)については、考慮されていない。
特許文献2には、Ti、Nb、Vから選択される一種以上の元素を添加し、且つBの添加を必須とし、ベイナイト、マルテンサイト主体の組織、且つベイナイトの平均結晶粒径を7μm以下に制御することによって、高い降伏比と優れた延性(伸び)を確保した、高強度鋼板が示されている。しかし、上記特許文献2の実施例に具体的に開示されている鋼板は、且つ、曲げ性は考慮されていない。
特開2014−237887号公報 特開2013−147736号公報
上記特許文献では、引張強度、降伏比、延性、および曲げ性の全てを満足するような検討はされていない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、引張強度980MPa以上の高強度領域において、高降伏比であり、延性および曲げ性に優れた高強度鋼板を提供することにある。
上記目的を達成した本発明は、質量%で、C:0.12〜0.19%、Si:0%超、0.4%以下、Mn:1.80〜2.45%、P:0%超、0.020%以下、S:0%超、0.0040%以下、Al:0.015〜0.06%、Ti:0.010〜0.035%、およびB:0.0025〜0.0040%を含有し、残部が鉄および不可避不純物であり、下記(1)で定義されるXが8以下であり、下記(2)で定義されるYと前記Xの差の値Y−Xが30.0以上、45未満であり、下記(3)で定義されるZと前記Yの差の値Z−Yが48.0以上であり、全組織に対する残留オーステナイトの体積率が2%以下であり、引張強度が980MPa以上の高強度冷延鋼板である。
(1)Xは、[0.40×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値であり、
(2)Yは、[0.75×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値であり、
(3)Zは、[0.90×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値であり、
上記(1)〜(3)におけるIQは、電子線後方散乱回折パターンの鮮明度であり、IQmaxは全測定点中のIQの最大値であり、IQminは全測定点中のIQの最小値である。
本発明の高強度冷延鋼板は、更に、質量%で、(a)Cu:0%超、0.3%以下、Ni:0%超、0.3%以下、Cr:0%超、0.25%以下、Mo:0%超、0.1%以下、V:0%超、0.05%以下およびNb:0%超、0.08%以下よりなる群から選ばれる1種以上を含有することや、(b)Ca:0%超、0.005%以下を含有することが好ましい。
本発明は、上記高強度冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板も包含する。
本発明によれば、鋼中成分および残留オーステナイト体積率およびIQ(Image Quality、イメージクオリティ)が適切に制御されているため、延性、曲げ性に優れた引張強度980MPa以上、且つ、高降伏比の高強度を有する冷延鋼板、および溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
図1は、本発明で規定するIQの要件を説明するための模式図である。 図2は、本発明の高強度鋼板を得るために推奨される焼鈍工程の構成を模式的に表したグラフである。
本発明者らは、引張強度が980MPa以上で、且つ、高降伏比である高強度鋼板であって、延性、および曲げ性(以下、加工性と呼ぶことが有る)に優れる高強度鋼板を提供するため、鋼中成分、残留オーステナイト体積率、IQ(イメージクオリティ)に着目して鋭意検討を重ねてきた。その結果、鋼中成分、残留オーステナイト体積率、IQを、それぞれ以下の範囲に調整すれば良いことを突き止めた。なお、本明細書において高強度とは、引張強度が980MPa以上であることを意味する。
まず、本発明を最も特徴付けるIQ(イメージクオリティ)について詳細を説明する。IQとは、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction、電子線後方散乱回折)パターンの鮮明度である。IQは結晶中の歪量に影響を受けることが知られており、具体的にはIQが小さいほど、結晶中に歪が多く存在する傾向にある。例えば、マルテンサイトは高転位密度で結晶構造の乱れを含むためIQが低下し、フェライトは低転位密度のためIQが高くなる傾向にある。そのため、従来では、IQの絶対値を指標として、例えばIQが4000以上の組織をフェライトと判定する方法などが提案されている。しかし、本発明者らの検討結果によれば、IQの絶対値に基づく方法は、組織観察のための研磨条件や検出器などの影響を受け易く、IQの絶対値が変動し易いことが分かった。
そこで本発明者らは、鋼板中の歪の分散状態、すなわちEBSDパターンの鮮明度であるIQの分布状態が降伏比、延性、曲げ性に与える影響を調査した。その結果、IQが後述する要件を満足することが、良好な延性、曲げ性、および高降伏比のいずれをも達成するために重要であることを見出した。IQの測定方法の詳細は後述する実施例の欄で説明する。
本発明では、下記(1)で定義されるXが8以下であり、下記(2)で定義されるYと前記Xの差の値Y−Xが30.0以上、45未満であり、下記(3)で定義されるZと前記Yの差の値Z−Yが48.0以上である。下記(1)〜(3)におけるIQは、電子線後方散乱回折パターンの鮮明度であり、IQmaxは全測定点中のIQの最大値であり、IQminは全測定点中のIQの最小値である。
(1)Xは、[0.40×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値である。
(2)Yは、[0.75×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値である。
(3)Zは、[0.90×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値である。
X、Y、Zによって特定される事項を図1に模式的に表す。図1の横軸はIQ値であり、縦軸は各IQ値を示す測定点の個数割合(%)を示す。Xとは、IQ値が[0.40×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下となる測定点の、全測定点に対する個数割合(百分率での頻度)である。Yとは、IQ値が[0.75×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点の、全測定点に対する個数割合(百分率での頻度)である。Zとは、IQ値が[0.90×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点の、全測定点に対する個数割合(百分率での頻度)である。従って、Xが8以下であるということは、IQ値が[0.40×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下となる測定点の、全測定点に対する割合が8%以下であるということである。また、Y−Xの値が30.0以上、45未満であるということは、IQ値が[0.40×(IQmax−IQmin)+IQmin]を超え、且つ[0.75×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点の、全測定点に対する割合が30.0%以上、45%未満であることを意味する。また、Z−Yの値が48.0以上であるということは、IQ値が[0.75×(IQmax−IQmin)+IQmin]を超え、且つ[0.90×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点の、全測定点に対する割合が48.0%以上であることを意味する。
Xの値が8を超えると降伏比が低くなり、曲げ性も劣化する。この理由は必ずしも明確ではないが、Xの値が大きくなることは、歪の多い結晶が増えることを意味し、歪の多い結晶が増えることにより、可動転移が増加し、降伏比が低下すると考えられる。曲げ性劣化については、歪の多い結晶の周辺で破壊の起点となるミクロクラックが増加したことに起因すると考えている。Xの値は、好ましくは6以下、より好ましくは5以下である。Xの値の下限は特に限定されないが、例えば0.5である。
本発明では上記した通り、Xが8以下であると共に、Y−Xの値が30.0以上、45未満である。Y−Xの値が30.0未満となると、降伏比が低下する。一方、Y−Xの値が45以上になると、降伏比が高くなりすぎ、且つ、延性が低下する。この理由は、必ずしも明確ではないが、Y−Xの値が大きくなるに従い、鋼板中の歪分布が均質となり、降伏比が増加し延性が低下したと考えられる。Y−Xの値は、好ましくは33.0以上、44.0以下であり、より好ましくは35.0以上、43.0以下である。
また、本発明では、Y−Xの値が30.0以上、45未満であると共に、Z−Yの値が48.0以上である。Z−Yの値を48.0以上とすることにより、延性を向上できる。この理由は、必ずしも明確ではないが、上記Y−Xの値を制御することによって降伏比を所定範囲に調整でき、Z−Yの値が大きくなるに従い、鋼板中の歪が少ない結晶を導入できるため、延性が向上したと考えられる。Z−Yの値は、好ましくは49.0以上、より好ましくは50.0以上である。Z−Yの値の上限は特に限定されないが、例えば65である。
また、本発明では、全組織に対する残留オーステナイトの体積率を2%以下とする。残留オーステナイト体積率が大きくなると、降伏比が低下する。残留オーステナイト体積率は、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1%以下であり、最も好ましくは0%である。残留オーステナイトの体積率は、後記する実施例でも記載する通り、ISIJ Int.Vol.33.(1933),No.7,P.776に記載の方法によって測定される値である。
本発明の高強度鋼板のミクロ組織は、主としてマルテンサイト組織およびベイナイト組織であり、全組織に対するこれら組織の合計割合は、例えば95面積%以上である。
更に、本発明では上記のようにIQと残留オーステナイトの体積率を制御することに加えて、鋼板中の化学成分を下記の通り制御する必要がある。なお、本明細書において、化学成分はいずれも質量%を意味する。
C:0.12〜0.19%
Cは、鋼板の強度を確保するために必要な元素であり、C量が不足すると、引張強度が低下する。そのためにC量の下限を0.12%以上とする。C量の下限は、好ましくは0.13%以上であり、より好ましくは0.14%以上である。しかし、C量が過剰になるとIQの値に基づいて算出される上記X値が高く、上記Y−X値が低くなり、降伏比、曲げ性が低下する。また、残留オーステナイトが過剰に生成するため、降伏比が低下する。そこで、C量の上限を0.19%以下とする。C量の上限は、好ましくは0.18%以下であり、より好ましくは0.17%以下である。
Si:0%超、0.4%以下
Siは、過剰に添加すると、IQの値に基づいて算出される上記X値が高く、上記Y−X値が低くなり、降伏比、延性が低下する。そのためSi量の上限を0.4%以下とする。Si量の上限は、好ましくは0.3%以下であり、より好ましくは0.2%以下である。Siは含有しなくてもよいが、その量を0%にすることは工業生産上困難である。なお、Siは固溶強化元素として知られており、延性の低下を抑えつつ、引張強度を向上させることに有効に作用する元素である。更にSiは、曲げ性を向上させる元素でもある。このような効果を有効に発揮させるには、Si量は0.01%以上が好ましく、より好ましくは0.1%以上である。
Mn:1.80〜2.45%
Mnは、鋼板の高強度化に寄与する元素である。Mnが少なすぎると、IQの値に基づいて算出される上記Y−X値が低くなり、降伏比が低下する。このような効果を有効に発揮させるために、Mn量の下限を1.80%以上とする。Mn量は好ましくは1.9%以上であり、より好ましくは2.0%以上である。しかし、Mn量が過剰になると、IQの値に基づいて算出される上記X値が高く、上記Y−X値が低くなり、降伏比、曲げ性が低下する。そのため、Mn量の上限を2.45%以下とする。Mn量の上限は、好ましくは2.35%以下であり、より好ましくは2.25%以下である。
P:0%超、0.020%以下
Pは、不可避的に含有する元素であり、粒界に偏析して粒界脆化を助長する元素であり、曲げ性を劣化させるため、P量はできるだけ低減することが推奨される。そのため、P量の上限は、0.020%以下とする。P量の上限は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。なお、Pは鋼中に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%にすることは工業生産上不可能である。
S:0%超、0.0040%以下
SもPと同様に不可避的に含有する元素であり、介在物を生成し、曲げ性を劣化させるため、S量はできるだけ低減することが推奨される。そのため、S量の上限は、0.0040%以下とする。S量の上限は、好ましくは0.003%以下、より好ましくは0.002%以下である。なお、Sは鋼中に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%にすることは工業生産上不可能である。
Al:0.015〜0.06%
Alは、脱酸剤として作用する元素である。こうした作用を有効に発揮させるには、Al量の下限を0.015%以上とする。Al量の下限は、好ましくは0.025%以上であり、より好ましくは0.030%以上である。しかし、Al量が過剰になると鋼板中にアルミナなどの介在物が多く生成し、曲げ性を劣化させることがあるため、Al量の上限を0.06%以下とする。Al量の上限は、好ましくは0.055%以下であり、より好ましくは0.050%以下である。
Ti:0.010〜0.035%
Tiは、炭化物や窒化物を形成して強度を向上させる元素である。また、Bの焼入れ性を有効に活用するための元素でもある。詳細には、Ti窒化物形成により鋼中Nを低減し、B窒化物の形成を抑制し、Bが固溶状態となり、有効にBの焼入れ性を発揮できる。このように、Tiは焼入れ性を向上させることにより、鋼板の高強度化に寄与する。このような効果を有効に発揮させるために、Ti量の下限を、0.010%以上とする。Ti量の下限は、好ましくは0.013%以上であり、より好ましくは0.015%以上である。しかし、Ti量が過剰になると、Ti炭化物やTi窒化物が過剰となり、IQの値に基づいて算出される上記X値が高く、上記Y−X値が低くなり、曲げ性を劣化させ、且つ、降伏比も低下する。Ti量の上限を0.035%以下とする。Ti量の上限は、好ましくは0.030%以下である。より好ましくは0.025%以下である。
B:0.0025〜0.0040%
Bは、焼入れ性を向上させて鋼板の高強度化に寄与する元素である。Bが少なすぎると、IQの値に基づいて算出される上記Y−X値が低くなり、降伏比が低下する。このような効果を有効に発揮させるために、B量の下限を0.0025%以上とする。B量の下限は、好ましくは0.0027%以上、より好ましくは0.0029%以上である。しかし、B量が過剰になると、その効果が飽和し、コストが増加するため、B量の上限を0.0040%以下とする。B量の上限は、好ましくは0.0035%以下である。
本発明の高強度鋼板の基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し、原材料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物が鋼中に含まれることは当然に許容される。不可避不純物としては、上述したP、Sの他、例えば、N、Oなどが含まれ、これらはそれぞれ以下の範囲であることが好ましい。
N:0%超、0.01%以下
Nは、不純物元素として不可避的に存在し、曲げ性を劣化させる。Nの上限は0.01%以下が好ましく、より好ましくは0.006%以下、更に好ましくは0.005%以下である。N量は少なければ少ない程好ましいが、0%にすることは工業生産上困難である。
O:0%超、0.002%以下
Oは、不純物元素として不可避的に存在し、曲げ性を劣化させる。Oの上限は0.002%以下が好ましく、より好ましくは0.0015%以下、更に好ましくは0.0010%以下である。O量は少なければ少ない程好ましいが、0%にすることは工業生産上困難である。
さらに本発明では、必要に応じて以下に示す範囲で、(a)Cu、Ni、Cr、Mo、VおよびNbの1種以上を含むことや、(b)Caを含むことが好ましい。
(a)Cu、Ni、Cr、Mo、V、およびNbはいずれも強度向上に有効な元素である。これらの元素は、夫々以下に示す範囲で、単独でまたは適宜組み合わせて含有させても良い。
Cu:0%超、0.3%以下
Cuは、更に鋼板の耐食性向上に有効な元素であり、必要に応じて添加しても良い。このような効果を有効に発揮させるために、Cu量の下限を、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。しかし、Cu量が過剰になると、その効果が飽和し、コストが増加する。そのため、Cu量の上限は、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.15%以下である。
Ni:0%超、0.3%以下
Niは、更に鋼板の耐食性向上に有効な元素であり、必要に応じて添加しても良い。このような効果を有効に発揮させるために、Ni量の下限を、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。しかし、Ni量が過剰になると、その効果が飽和し、コストが増加する。そのため、Ni量の上限は、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.15%以下である。
Cr:0%超、0.25%以下
Crの高強度化の効果を有効に発揮させるために、Cr量の下限を、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.015%以上、更に好ましくは0.03%以上、特に好ましくは0.05%以上とする。しかし、Cr量が過剰になると、不めっきを発生させることがあるため、Cr量の上限は0.25%以下が好ましく、より好ましくは0.20%以下、更に好ましくは0.10%以下である。
Mo:0%超、0.1%以下
Moの高強度化の効果を有効に発揮させるために、Mo量の下限を、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。しかし、Mo量が過剰になると、その効果が飽和し、コストが増加する。そのため、Mo量の上限は0.1%以下が好ましい。
V:0%超、0.05%以下
Vの高強度化の効果を有効に発揮させるために、V量の下限は0.003%以上が好ましく、より好ましくは0.005%以上である。しかし、V量が過剰になると、その効果が飽和し、コストが増加する。そのため、V量の上限は、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下、更に好ましくは0.02%以下である。
Nb:0%超、0.08%以下
Nbの高強度化の効果を有効に発揮させるために、Nb量の下限を、0.003%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.005%以上とする。しかし、Nb量が過剰になると、曲げ性を劣化させる。そのため、Nb量の上限は、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.06%以下、更に好ましくは0.04%以下である。
(b)Ca:0%超、0.005%以下
Caは、鋼中の硫化物を球状化し、曲げ性を高めることに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるために、Ca量の下限を、好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.001%以上とする。しかし、Ca量が過剰になると、その効果が飽和し、コストが増加する。そのため、Ca量の上限は0.005%以下が好ましく、より好ましくは0.003%以下、更に好ましくは0.0025%以下である。
化学成分組成、残留オーステナイトの面積率、IQ値から算出される値X、Y、Zが上記の条件を満足している本発明の高強度鋼板は、引張強度が980MPa以上であり、且つ、降伏比、延性、曲げ性のすべてに優れている。本発明の高強度鋼板の降伏比は、例えば79%以上、90%未満であり、好ましくは79.4%以上、90%未満である。
次に、本発明の高強度鋼板を製造する方法について説明する。
上記要件を満足する本発明の高強度鋼板は、熱間圧延、冷間圧延、および焼鈍(均熱および冷却)の工程において、特に冷間圧延後の焼鈍を適切に制御して製造するところに特徴がある。以下、本発明を特徴付ける工程を、熱間圧延、冷間圧延、その後の焼鈍の順に説明する。
熱間圧延の好ましい条件は、例えば以下のとおりである。
熱間圧延前の加熱温度が低いと、オーステナイト中への、TiCなどの炭化物の固溶が低下するおそれがあるため、熱間圧延前の加熱温度の下限は、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1250℃以上である。しかし、熱間圧延前の加熱温度が高いとコストアップとなるため、熱間圧延前の加熱温度の上限は、好ましくは1350℃以下、より好ましくは1300℃以下である。
熱間圧延の仕上げ圧延温度が低いと、オーステナイト単相域で圧延できず、圧延時の変形抵抗が大きく、操業が困難になるおそれがあるため、仕上げ圧延温度は、好ましくは850℃以上、より好ましくは870℃以上である。しかし、仕上げ圧延温度が高いと結晶が粗大化するおそれがあるため、好ましくは980℃以下、より好ましくは950℃以下である。
熱間圧延の仕上げ圧延から巻取りまでの平均冷却速度は、生産性を考慮し、好ましくは10℃/秒以上、より好ましくは20℃/秒以上である。一方、平均冷却速度が大きいと設備コストが高くなるため、好ましくは100℃/秒以下、より好ましくは50℃/秒以下である。
次に、熱間圧延後の工程の好ましい条件について説明する。
熱間圧延後の巻取り温度:550℃以上
熱間圧延後の巻取り温度が、550℃未満になると、熱延板の強度が高くなり、冷間圧延で圧下し難くなる。そのため、熱間圧延後の巻取り温度は550℃以上、好ましくは570℃以上、より好ましくは600℃以上とする。一方、熱間圧延後の巻取り温度が、高くなりすぎるとスケール除去のための酸洗性が劣化する。そのため、熱間圧延後の巻取り温度は、好ましくは800℃以下、より好ましくは750℃以下である。
冷延率:20%以上、60%以下
熱間圧延鋼板は、スケール除去のために酸洗を施し、冷間圧延に供する。冷間圧延の冷延率が20%未満になると、所定厚さの鋼板を得るために熱間圧延工程で板厚を薄くしなければならず、熱間圧延工程で薄くすると鋼板長さが長くなるため、酸洗に時間がかかり、生産性が低下する。そのため、冷延率の下限を、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上とする。一方、冷延率が60%を超えると、冷間圧延機の高い能力が必要となる。そのため、冷延率の上限は、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下、更に好ましくは50%以下である。
本発明の高強度鋼板を得るためには、冷延後の焼鈍工程が、(a)加熱して保持する均熱工程、(b)均熱工程に引き続き行われる第1の冷却工程、(c)前記第1の冷却工程後に引き続いて行われる第2の冷却工程、(d)前記第2の冷却工程に引き続いて行われる第3の冷却工程、(e)前記第3の冷却工程に引き続いて行われる第4の冷却工程を含み、この(a)〜(e)の条件をそれぞれ適切に調整することが重要である。具体的には、冷間圧延後、1〜20℃/秒の平均加熱速度で加熱し、Ac3点〜Ac3点+200℃の範囲で1〜100秒保持する均熱工程と、前記均熱工程の後、15〜50℃/秒の平均冷却速度で、480〜520℃の温度範囲まで冷却する第1の冷却工程と、前記第1の冷却工程に引き続いて、0.2〜5.0℃/秒の平均冷却速度で、440〜470℃の温度範囲まで冷却する第2の冷却工程と、前記第2の冷却工程に引き続いて、20〜50℃/秒の平均冷却速度で、100〜310℃の温度範囲まで冷却する第3の冷却工程と、前記第3の冷却工程に引き続いて、1℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する第4の冷却工程とを含むことが重要である。
本発明の焼鈍工程の上記(a)〜(e)の構成を、図2に模式的に示す。
(a)均熱工程
上記冷間圧延後、Ac3点〜Ac3点+200℃の温度(均熱温度)に加熱して所定時間保持して均熱する(均熱工程)。均熱温度がAc3点未満になると、上記Xの値が高くなり、降伏比の確保が難くなる。そのため、均熱温度の下限は、Ac3点以上が好ましく、より好ましくはAc3点+25℃以上とする。一方、上記均熱温度がAc3点+200℃を超えると、工業的に生産するためのエネルギーが過剰に必要となる。そのため、上限は、Ac3点+200℃以下が好ましく、より好ましくはAc3点+150℃以下である。
上記Ac3点の温度は、下記式(a)に基づいて算出される。式中の[%(元素名)]は各元素の含有量(質量%)である。この式は、「レスリー鉄鋼材料学」(丸善株式会社発行、William C. Leslie著、p.273)に記載されている。なお、含有しない元素は、含有量を0%として計算する。
Ac3=910−203√(%C)−15.2(%Ni)+44.7(%Si)+104(%V)+31.5(%Mo)+13.1(%W)−30(%Mn)−11(%Cr)−20(%Cu)+700(%P)+400(%Al)+120(%As)+400(%Ti) ・・・(a)
上記均熱温度までの加熱速度は特に限定されないが、平均加熱速度は1℃/秒以上、20℃/秒以下であることが好ましい。上記冷間圧延後の平均加熱速度が1℃/秒未満となると、生産性が悪化する。そのため、上記平均加熱速度の下限を1℃/秒以上とすることが好ましく、より好ましくは3℃/秒以上、更に好ましくは5℃/秒以上とする。一方、上記平均加熱速度が20℃/秒を超えると、鋼板温度が制御し難くなり、設備コストも増加する。そのため、上記平均加熱速度の上限は20℃/秒以下が好ましく、より好ましくは18℃/秒以下、更に好ましくは15℃/秒以下である。
上記均熱温度では1秒以上、100秒以下均熱することが好ましい。上記均熱時間が1秒未満となると、上記Xの値が高くなり、降伏比の確保が難しくなる。そのため、上記均熱時間の下限は1秒以上が好ましく、より好ましくは10秒以上とする。一方、上記均熱時間が100秒を超えると、生産性が悪化する。そのため、上記均熱時間の上限は100秒以下が好ましく、より好ましくは80秒以下である。
(b)第1の冷却工程
上記均熱工程後、上記均熱温度から下記冷却停止温度T1までの平均冷却速度CR1は15℃/秒以上、50℃/秒以下とすることが好ましい(第1の冷却工程)。第1の冷却工程での平均冷却速度CR1が15℃/秒未満になると、生産性が悪化する。そのため、上記平均冷却速度CR1の下限は15℃/秒以上が好ましく、より好ましくは20℃/秒以上とする。一方、上記平均冷却速度CR1が50℃/秒を超えると、鋼板温度を制御し難くなり、設備コストが増加する。そのため、上記平均冷却速度CR1の上限は50℃/秒以下が好ましく、より好ましくは40℃/秒以下、更に好ましくは30℃/秒以下である。
第1の冷却工程の冷却停止温度T1は、480℃以上、520℃以下とするのが好ましい。上記冷却停止温度T1が480℃未満になると、上記Z−Yの値が低くなり、延性が低下する。そのため、上記冷却停止温度T1の下限は480℃以上が好ましく、より好ましくは490℃以上とする。一方、上記冷却停止温度T1が520℃を超えると、上記Xの値が高くなり、降伏比が低下し、且つ曲げ性が劣化する。そのため、上記冷却停止温度T1の上限は520℃以下が好ましく、より好ましくは510℃以下、更に好ましくは500℃以下である。
(c)第2の冷却工程
上記第1の冷却工程後、上記冷却停止温度T1から下記冷却停止温度T2までの平均冷却速度CR2は0.2℃/秒以上、3.5℃/秒以下とすることが好ましい(第2の冷却工程)。第2の冷却工程での平均冷却速度CR2が0.2℃/秒未満になると、生産性が悪化する。そのため、上記平均冷却速度CR2の下限は0.2℃/秒以上が好ましく、より好ましくは1℃/秒以上とする。一方、上記平均冷却速度CR2が3.5℃/秒を超えると、後述する上記冷却停止温度T1から上記冷却停止温度T2までの時間t1-2を確保することが難しくなり、上記Xの値が高くなり、降伏比が低下し、且つ曲げ性が劣化する。そのため、上記平均冷却速度CR2の上限は3.5℃/秒以下が好ましく、より好ましくは3℃/秒以下、更に好ましくは2.5℃/秒以下である。
第2の冷却工程の冷却停止温度T2は、440℃以上、470℃以下とするのが好ましい。上記冷却停止温度T2が440℃未満になると、上記Z−Yの値が低くなり、延性が低下する。そのため、上記冷却停止温度T2の下限は440℃以上が好ましく、より好ましくは450℃以上とする。一方、上記冷却停止温度T2が470℃を超えても上記Z−Yの値が低くなり、延性が低下する。そのため、上記冷却停止温度T2の上限は470℃以下が好ましく、より好ましくは465℃以下、更に好ましくは460℃以下である。
特に、第1の冷却工程の冷却停止温度T1および第2の冷却工程の冷却停止温度T2が共に440℃未満になると、上記Y−Xの値が高くなることで、降伏比が高くなりすぎ、且つ、延性が低下する。また、第1の冷却工程の冷却停止温度T1が400℃未満であり、第2の冷却工程の冷却停止温度T2が450℃を超える場合は、残留オーステナイト体積率が高くなり、降伏比が低下する。
上記冷却停止温度T1から上記冷却停止温度T2までの時間t1-2は、20秒以上、30秒以下とすることが好ましい。上記時間t1-2が20秒未満になると、上記Xの値が高くなり、降伏比が低下し、且つ曲げ性が劣化する。そのため、上記時間t1-2の下限は、好ましくは20秒以上、より好ましくは22秒以上とする。一方、上記時間t1-2が30秒を超えると、上記Y−Xの値が低くなり、降伏比が低下する。そのため、上記時間t1-2の上限は、好ましくは30秒以下、より好ましくは28秒以下である。
(d)第3の冷却工程
上記第2の冷却工程後、100℃以上、310℃以下の冷却停止温度T3までを20℃/秒以上、50℃/秒以下の平均冷却速度CR3で冷却することが好ましい(第3の冷却工程)。第3の冷却工程での平均冷却速度CR3が20℃/秒未満になると、上記Y−Xの値が高く、上記Z−Yの値が低くなることで、降伏比が高くなりすぎ、延性が劣化する。そのため、第3の冷却工程における平均冷却速度CR3の下限は20℃/秒以上が好ましく、より好ましくは25℃/秒以上とする。一方、上記平均冷却速度CR3が50℃/秒を超えると、設備コストが増加する。そのため、上記平均冷却速度CR3の上限は50℃/秒以下が好ましく、より好ましくは40℃/秒以下である。
第3の冷却工程における冷却停止温度T3が100℃未満になると、設備コストが増加する。そのため、上記冷却停止温度T3の下限は100℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上とする。一方、上記冷却停止温度T3が310℃を超えると、上記Y−Xの値が高く、上記Z−Yの値が低くなり、降伏比が高くなりすぎ、延性が劣化する。そのため、上記冷却停止温度T3の上限は、310℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以下、更に好ましくは290℃以下である。
(e)第4の冷却工程
第3の冷却工程の後、1℃/秒以上の平均冷却速度CR4で冷却することが好ましい(第4の冷却工程)。前記平均冷却速度CR4の上限は特に限定されず、例えば10℃/秒である。また第4の冷却工程の冷却停止温度T4も特に限定されず、通常、室温まで冷却すれば良い。
本発明には、高強度冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板も包含される。
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、上記第2の冷却工程で上記冷却停止温度T2に冷却した後、通常の方法により亜鉛めっき処理(例えば、460℃程度の亜鉛めっき浴に1〜5秒程度浸漬)を行って製造することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含有される。
下記表1に示す成分組成を満足し、残部が鉄およびP、S、N、O以外の不可避不純物からなる実験用スラブを製造した。下記表1には、上記式(a)に基づいて算出したAc3点およびAc3点+200℃の温度を示す。
得られたスラブを1250℃まで加熱し、板厚2.8mmまで熱間圧延を施した。仕上げ圧延温度は900℃、熱間圧延の仕上げ圧延から巻取りまでの平均冷却速度は20℃/秒、巻取り温度は、600℃で行った。次いで得られた熱間圧延鋼板を酸洗した後、板厚1.4mmまで冷間圧延した。その後、図2、表2に示す条件で熱処理(焼鈍)を行った。表2に示すいずれの熱処理も、(a)均熱工程までの平均加熱速度は8℃/秒であり、(b)第1の冷却工程での平均冷却速度CR1は20℃/秒であった。表2に示した平均冷却速度CR2がマイナスの場合は、加熱を意味している。更に伸び率0.1%の調質圧延を施した。なお、表1中、「−」は添加していないことを意味する。また、表1において、P、S、N、Oは上述の通り不可避不純物であり、P、S、N、Oの欄に示した値は不可避的に含まれた量を意味する。
なお、表2に示した熱履歴のうち、(c)第2の冷却工程において冷却停止温度T2を460℃とした例は、冷延鋼板に対し、溶融亜鉛めっきを行ったときの熱履歴を模擬している。
このようにして得られた各冷延鋼板について、IQ(イメージクオリティ)、残留オーステナイト体積率、および各種特性を以下のようにして測定した。
[残留オーステナイト体積率]
残留オーステナイトは、上記焼鈍後の冷延鋼板から1.4mm×20mm×20mmの試験片を切り出し、板厚の1/4部まで研削した後、化学研磨してからX線回折法により残留オーステナイト量を測定した(ISIJ Int.Vol.33.(1933),No.7,P.776)。
[IQ(イメージクオリティ)]
また、EBSDパターンの鮮明度であるIQ(イメージクオリティ)は以下のように測定した。まず、圧延方向に平行な断面を機械研磨した試料を用意した。次いで、この試料を、テクセムラボラトリーズ社製OIMシステムにセットして70°傾斜させた状態で、100μm×100μmの領域を測定視野とし、加速電圧:20kV、1ステップ:0.25μmで18万点のEBSD測定を行い、体心正方格子(BCT:Body centered Tetragonal)を含む体心立方格子(BCC:Body Centered Cubic)結晶のIQを測定した。ここで体心正方格子は、C原子が体心立方格子内の特定の侵入型位置に固溶することで格子が一方向に伸長したものであり、構造自体は体心立方格子と同等であるため、本実施例では、体心立方格子の測定には体心正方格子を含むものとした。なお、測定箇所は、圧延に平行な面における圧延方向に垂直な方向の長さをWとしたときのW/4部、且つ板厚をtとしたときのt/4部であり、測定は1視野について実施した。
全測定点中のIQの最大値(IQmax)および最小値(IQmin)を抽出し、上記X、Y、Zの値を算出した。下記表3−1および表3−2に、Xの値、Y−Xの値、Z−Yの値を示す。
[引張特性]
引張強度(TS)、0.2%耐力(YS)、および延性(El)については、上記冷間圧延の圧延面と平行な面における圧延方向と直角な方向が試験片の長手となるように、JIS 13B号試験片(標点距離50mm、平行部幅12.5mm)を採取し、JIS Z2241に従って試験した。測定結果を下記表3−1および表3−2に示す。また、引張強度(TS)と0.2%耐力(YS)に基づいて、降伏比(YR)を算出し、下記表3−1および表3−2に示す。
[曲げ性]
曲げ性(R/t)は、圧延面において圧延方向と垂直となる方向が試験片の長手となるように、上記冷延鋼板から1.4mm×30mm×20mmの試験片を採取し、JIS Z2248のVブロック法に従って試験を行い、割れや亀裂が発生しない最小曲げ半径Rを測定した。なお、曲げ方向は試験片長手方向である。また、Vブロックの曲げ角度は90°で行った。曲げ試験により判明したRを公称板厚1.4mmで割った値をR/tとした。測定結果を下記表3−1および表3−2に示す。
本発明では、得られた鋼板の引張強度に応じて下記基準で特性を評価した。
(i)引張強度が980MPa以上1180MPa未満の鋼板
伸び(El)が10.0%以上で、且つ曲げ性(R/t)が3以下を合格とした。Elは高いほどよく(上限は特に限定されないが、通常15%程度)、R/tは小さいほど良い(下限は特に限定されないが、通常0.5)。
(ii)引張強度が1180MPa以上の鋼板
伸び(El)が9%以上、且つ曲げ性(R/t)が4以下を合格とした。Elは高いほどよく(上限は特に限定されないが、通常13%程度)、R/tは小さいほど良い(下限は特に限定されないが、通常1.0)。
下記表3−1および表3−2より、以下のように考察することができる。
表3−1および表3−2のNo.3、4、25、37〜43、47、48は、それぞれ、本発明の成分組成を満足する表1の鋼種No.1〜3、11〜17、19、20を用い、本発明の好ましい熱処理条件(表2の熱処理No.3)で製造した本発明例である。これらは、本発明の要件を満足しているため、引張強度が980MPa以上、且つ、降伏比が79%以上、90%未満であって、延性(El)および曲げ性(R/t)に優れているものが得られている。なお、表2の熱処理No.3は、溶融亜鉛めっきを模擬した熱履歴を経たものである。
なお、No.3、4、25、37〜43は、全組織に対して、ベイナイトおよびマルテンサイトの合計面積率が95%以上であることを確認している。
これに対し、本発明のいずれかの要件を満足しない下記の例は、所望とする特性が得られないことが確認された。
表3−2のNo.28〜34、45は、本発明の成分組成を満足しない表1の鋼種No.4〜10、18を用い、表2の熱処理No.3の熱処理条件で製造した例である。
No.28は、C量が少なく、引張強度(TS)を満たしていない。また、上記Y−Xの値が本発明の要件を満たしておらず、降伏比(YR)が低くなった。
No.29は、C量が多く、且つ、残留オーステナイト体積率が高く、上記X値が高く、上記Y−X値が低くなった。その結果、降伏比(YR)が低いことに加えて、曲げ性(R/t)も満たしていない。
No.30は、Mn量が少なく、引張強度(TS)を満たしていない。また、上記Y−Xの値が本発明の要件を満たしておらず、降伏比(YR)が低くなった。
No.31は、Mn量が多く、上記X値が高く、上記Y−X値が低くなった。その結果、降伏比(YR)が低く、且つ曲げ性も満たしていない。
No.32は、Ti量が少なく、引張強度(TS)を満たしていない。また、上記Y−Xの値が本発明の要件を満たしておらず、降伏比(YR)が低くなった。
No.33は、Ti量が多く、上記X値が高く、上記Y−X値が低くなった。その結果、降伏比(YR)が低く、且つ曲げ性(R/t)も満たしていない。
No.34は、B量が少なく、引張強度(TS)を満たしていない。また、上記Y−Xの値が本発明の要件を満たしておらず、降伏比(YR)が低くなった。
No.45は、Si量が多く、上記X値が高く、上記Y−X値が低くなった。その結果、降伏比(YR)が低く、且つ延性(El)も低くなった。
表3−1および表3−2のNo.1、2、5〜24、26、27、35、36、44、46は、本発明の成分組成を満足する表1の鋼種No.1〜3、11〜17を用い、表2の熱処理No.1、2、4〜21の熱処理条件で製造した例である。
No.1、2、7、10〜19、35、36は、冷却停止温度T1および冷却停止温度T2が低く、Y−Xの値およびZ−Yの値が本発明の要件を満たしておらず、降伏比(YR)が高く、且つ延性(El)が低くなった。
No.5は、時間t1-2が長く、Y−Xの値が本発明の要件を満たしておらず、引張強度(TS)が低く、且つ降伏比(YR)が高くなった。
No.6は、冷却停止温度T1および冷却停止温度T2が高く、Xの値およびZ−Yの値が本発明の要件を満たしておらず、降伏比(YR)が低く、延性(El)が低く、曲げ性(R/t)が悪化した。
No.8、9は、冷却停止温度T1が低く、Z−Yの値が本発明の要件を満たしておらず、延性(El)が悪化した。
No.20は、均熱温度が低く、Xの値およびZ−Yの値が本発明の要件を満たしておらず、引張強度(TS)が低く、且つ降伏比(YR)が低くなった。
No.21は、冷却停止温度T1が高く、平均冷却速度CR2が大きく、Xの値が本発明の要件を満たしておらず、降伏比(YR)が低くなった。
No.22は、冷却停止温度T2が低く、Z−Yの値が本発明の要件を満たしておらず、延性(El)が悪化した。
No.23は、冷却停止温度T2が高く、Z−Yの値が本発明の要件を満たしておらず、延性(El)が悪化した。
No.24は、平均冷却速度CR2が大きく、時間t1-2が短く、Xの値およびZ−Yの値が本発明の要件を満たしておらず、降伏比(YR)が低く、且つ曲げ性(R/t)が悪化した。
No.26は、時間t1-2が長く、Y−Xの値が本発明の要件を満たしておらず、降伏比(YR)が低くなった。
No.27は、冷却停止温度T3が高く、Y−Xの値およびZ−Yの値が本発明の要件を満たしておらず、降伏比(YR)が高く、且つ延性(El)が低くなった。
No.44は、冷却停止温度T1が低く、残留オーステナイト体積率が高く、上記Z−Y値が低くなった。その結果、降伏比(YR)が低くなった。
No.46は、均熱工程で保持しなかった例であり、Xの値およびZ−Yの値が本発明の要件を満たしておらず、引張強度(TS)が低く、且つ降伏比(YR)が低くなった。
Figure 2017186644
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Claims (4)

  1. 質量%で、
    C :0.12〜0.19%、
    Si:0%超、0.4%以下、
    Mn:1.80〜2.45%、
    P :0%超、0.020%以下、
    S :0%超、0.0040%以下、
    Al:0.015〜0.06%、
    Ti:0.010〜0.035%、および
    B :0.0025〜0.0040%
    を含有し、残部が鉄および不可避不純物であり、
    下記(1)で定義されるXが8以下であり、
    下記(2)で定義されるYと前記Xの差の値Y−Xが30.0以上、45未満であり、
    下記(3)で定義されるZと前記Yの差の値Z−Yが48.0以上であり、
    全組織に対する残留オーステナイトの体積率が2%以下であり、
    引張強度が980MPa以上であることを特徴とする高強度冷延鋼板。
    (1)Xは、[0.40×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値であり、
    (2)Yは、[0.75×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値であり、
    (3)Zは、[0.90×(IQmax−IQmin)+IQmin]以下である測定点数の合計を全測定点数で除して100を掛けた値であり、
    上記(1)〜(3)におけるIQは、電子線後方散乱回折パターンの鮮明度であり、IQmaxは全測定点中のIQの最大値であり、IQminは全測定点中のIQの最小値である。
  2. 更に、質量%で、
    Cu:0%超、0.3%以下、
    Ni:0%超、0.3%以下、
    Cr:0%超、0.25%以下、
    Mo:0%超、0.1%以下、
    V :0%超、0.05%以下および
    Nb:0%超、0.08%以下よりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1に記載の高強度冷延鋼板。
  3. 更に、質量%で、
    Ca:0%超、0.005%以下を含有する請求項1または2に記載の高強度冷延鋼板。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の表面に亜鉛めっき層を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
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