JP2017186580A - 正極膜形成用スパッタリングターゲットとその製造方法、及び正極膜の形成方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】薄膜リチウム二次電池の正極をスパッタリング法で作製する際に、高い直流電力を投入した条件下でも、アーキングが発生せず放電が持続して安定に成膜することができる正極膜形成用スパッタリングターゲットを提供する。【解決手段】ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属と、リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物焼結体からなる正極膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、該酸化物焼結体は、大半がリチウム含有遷移金属酸化物相で構成され、かつ酸化アルミニウム相を含まないか、含んでも大きさが100nm以下であることを特徴とする、正極膜形成用スパッタリングターゲットなどによって提供する。【選択図】なし
Description
本発明は、正極膜形成用スパッタリングターゲットとその製造方法、及び正極膜の形成方法に関し、より詳しくは、薄膜リチウム二次電池の正極をスパッタリング法で作製する際に、高い直流電力を投入した条件下でも、アーキングが発生せず放電が持続して安定に成膜することができる正極膜形成用スパッタリングターゲットとその製造方法、及び正極膜の形成方法に関する。
近年、携帯電話、ノートパソコン等の小型電子機器の普及に伴って、充放電可能な電源である薄膜リチウム二次電池の開発が推進されている。薄膜リチウム二次電池は、固体電解質を正極と負極とで挟んだ構造を有しているが、固体電解質にはリン酸リチウム窒化物膜が、負極には金属リチウム膜が用いられ、正極にはコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどの遷移金属とリチウムの化合物で構成された活物質の正極膜や、これらの化合物の固溶体で構成された正極膜が用いられる。
正極膜は、正極活物質をバインダーや溶剤と混合して基板に塗布することで一般に形成されているが、工業的には活物質の構成元素を含む酸化物焼結体をターゲットとして用いたスパッタリング法も有用な形成方法である。
スパッタリング法は、一般に、約10Pa以下のアルゴンガス圧のもとで、基板を陽極とし、ターゲットを陰極として、これらの間にグロー放電を起こしてアルゴンプラズマを発生させ、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のターゲットに衝突させ、これによってターゲット成分の原子をはじき飛ばして、基板上に堆積させて膜を得る方法である。通常、ターゲットの裏側にはマグネットを配置して、約2.0Pa以下の低ガス圧においてターゲットの表面上部に発生するプラズマ密度を上げて安定化させて、スパッタリング成膜する。この方法は、マグネトロンスパッタリング法と呼ばれており、これが工業的に主流である。
また、スパッタリング法は、アルゴンプラズマの発生方法によって分類され、直流プラズマを用いる場合は、直流スパッタリング法と呼ばれる。
直流スパッタリング法に対して、絶縁性や、高抵抗ターゲットを用いた安定成膜には、高周波スパッタリング法が有用である。高周波スパッタリングは、高周波電源とターゲットの間にコイルとコンデンサで構成されるインピーダンス整合回路を挿入して、ターゲットと基板間に高周波プラズマを発生させて成膜を行う方法である。ターゲットの一部に帯電が生じても、ターゲットの極性が定期的に反転することからプラズマ中の電子が引き寄せられて中和されるからである。しかし、高周波スパッタリングは、電源コストが高額であることと、インピーダンス整合回路の調整が必要であることから成膜操作が複雑であること、また成膜速度が低いなどの工業的なデメリットが多い。
直流スパッタリング法に対して、絶縁性や、高抵抗ターゲットを用いた安定成膜には、高周波スパッタリング法が有用である。高周波スパッタリングは、高周波電源とターゲットの間にコイルとコンデンサで構成されるインピーダンス整合回路を挿入して、ターゲットと基板間に高周波プラズマを発生させて成膜を行う方法である。ターゲットの一部に帯電が生じても、ターゲットの極性が定期的に反転することからプラズマ中の電子が引き寄せられて中和されるからである。しかし、高周波スパッタリングは、電源コストが高額であることと、インピーダンス整合回路の調整が必要であることから成膜操作が複雑であること、また成膜速度が低いなどの工業的なデメリットが多い。
これに対して、直流スパッタリング法は、プラズマを発生させる直流電源が安価であることと、高速に成膜されることから工業的には最も有用であり、上述のマグネトロンを併用した直流マグネトロンスパッタリング法が汎用されている。この直流マグネトロンスパッタリング法は、一般に、導電性のターゲットを用いたときにのみ、安定に膜を製造することができる。絶縁性や高抵抗のターゲットを用いると、プラズマから発生したアルゴンからのターゲット表面に正の帯電が生じてアーキングが発生するからである。直流スパッタリング法の中でも、ターゲットに印加する負電圧を周期的に停止して低い正電圧を印加し、正の帯電をプラズマ中の電子により中和する方法によりアーキングを抑制することができる。この方法は直流パルシング法と呼ばれ、広い意味で直流スパッタリング法に含まれるが、高い電力を投入して高速成膜を得ようとするとアーキングの抑制には限界がある。
上述のように、直流マグネトロンスパッタリング法は、装置が安価で操作が簡便であり、成膜速度が速いことから有用であるが、さらに生産性を考慮するとプラズマを発生させる際の投入電力をなるべく増加させて成膜速度を上げることになり、高い直流電力を投入しても安定してもプラズマが維持されて高速成膜が継続するようなスパッタリングターゲットが必要とされる。
スパッタリングターゲットであるが、特許文献1には、コバルト酸リチウムのターゲットが記載され、これを用いて直流パルシング法によるスパッタリング法で基板上にコバルト酸リチウム膜を形成する方法が提案されている。しかし、ここには基板上に成膜されるLiCoO2層の少なくとも一部に結晶性構造を含むのが好ましいと記載されるものの、その成膜に用いられるターゲットについては材料とする酸化物などの具体的な説明がない。
また、コバルト酸リチウムのスパッタリングターゲットの製造方法については、特許文献2と特許文献3に提案されている。これらには、LiCoO2粉末を原料粉末として用いて、特定の条件で加圧焼結することで95%以上の相対密度と、10〜30μmの平均粒径を有するターゲットを製造することが記載されている。しかし、これを用いて得られた膜は、リチウム二次電池用の正極膜としてまだ十分な機能を発揮するものではなかった。
リチウム二次電池用の正極膜においては、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属とリチウムを含み、更にアルミニウムが含まれると、二次電池の充放電のサイクル特性や安全性が改善される。
このような事情から、正極中の遷移金属の一部をアルミニウムに置換することで二次電池の特性改善に繋げる試みがなされており、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05O2の正極材は、Alを遷移金属の一部に置換した組成であるため、サイクル特性と安全性に優れた二次電池を実現することができることから、実用上極めて有用な正極材とされている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
また、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2の正極材についても、CoをAlに部分置換すると熱的挙動とサイクル安定性が改善されるとされている(非特許文献5)。また、LiMn2O4は、MnをAlで部分置換すると、理論的な容量は下がるが、充放電中に平均酸化状態の3.5よりも過剰にMnが還元されることを防ぎ、Jahn−Teller効果による正方晶相の生成につながるリスクが大きく低減される(非特許文献6、非特許文献7)。
このような事情から、正極中の遷移金属の一部をアルミニウムに置換することで二次電池の特性改善に繋げる試みがなされており、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05O2の正極材は、Alを遷移金属の一部に置換した組成であるため、サイクル特性と安全性に優れた二次電池を実現することができることから、実用上極めて有用な正極材とされている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
また、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2の正極材についても、CoをAlに部分置換すると熱的挙動とサイクル安定性が改善されるとされている(非特許文献5)。また、LiMn2O4は、MnをAlで部分置換すると、理論的な容量は下がるが、充放電中に平均酸化状態の3.5よりも過剰にMnが還元されることを防ぎ、Jahn−Teller効果による正方晶相の生成につながるリスクが大きく低減される(非特許文献6、非特許文献7)。
そのため、量産性に有効な直流スパッタリング法(以下、直流マグネトロンスパッタリング法も含む)で、このような正極膜を安定に製造する際にAlを含んだスパッタリングターゲットが必要となる。ところが、まだAlを含んだスパッタリングターゲットは市場に流通していない。それは生産性向上を考慮して高い直流電力を投入した条件下の直流スパッタリング法では、Alを含んだスパッタリングターゲットを用いると、アーキングが発生して正極膜を安定的に製造できないためである。
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Ariyoshi, K.; Iwata, E.; Kuniyoshi, M.; Wakabayashi, H.; Ohzuku, T., Electrochem. Solid St., 2006, 9, A557.
本発明の目的は、上記のような従来技術の問題点に鑑み、直流スパッタリング法でも安定して利用できるアルミニウムを含む正極膜を製造できるスパッタリングターゲットとその製造方法、及び正極膜の形成方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属と、リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物焼結体から製造したスパッタリングターゲットを使用し、直流スパッタリング法で成膜したところ、アーキングの発生は、焼結体中のアルミニウムの存在形態に大きく依存し、特に、酸化アルミニウム相が存在すると、アーキングが多発することを見出し、リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物焼結体において酸化アルミニウムの粒径を極めて微細なものとすることにより、アーキングの発生を抑制することができると想到し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属と、リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物焼結体からなる正極膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
該酸化物焼結体は、大半がリチウム含有遷移金属酸化物相で構成され、かつ酸化アルミニウム相を含まないか、含んでも大きさが100nm以下であることを特徴とする、正極膜形成用スパッタリングターゲットが提供される。
該酸化物焼結体は、大半がリチウム含有遷移金属酸化物相で構成され、かつ酸化アルミニウム相を含まないか、含んでも大きさが100nm以下であることを特徴とする、正極膜形成用スパッタリングターゲットが提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において酸化物焼結体は、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属とリチウムで構成されるリチウム含有遷移金属酸化物のみで構成され、アルミニウム元素がリチウム含有遷移金属酸化物に固溶されていることを特徴とする、正極膜形成用スパッタリングターゲットが提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、酸化物焼結体は、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)で観察しても酸化アルミニウム相の存在が確認されないことを特徴とする、正極膜形成用スパッタリングターゲットが提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属酸化物粉末と酸化アルミニウム粉末と、水酸化リチウム又は炭酸リチウムから選ばれるリチウム化合物粉末とを原料粉として用い、混合し、十分に粉砕した後で加圧成形し、得られた成形体を焼成することで酸化物焼結体とする工程を含む正極膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法であって、
原料粉は、遷移金属酸化物と酸化アルミニウムの大きさが平均粒径5μm以下、リチウム化合物の大きさが平均粒径10μm以下であり、少なくとも1100℃の焼成温度までは3℃/分以下の昇温速度で加熱することを特徴とする、正極膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法が提供される。
原料粉は、遷移金属酸化物と酸化アルミニウムの大きさが平均粒径5μm以下、リチウム化合物の大きさが平均粒径10μm以下であり、少なくとも1100℃の焼成温度までは3℃/分以下の昇温速度で加熱することを特徴とする、正極膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法が提供される。
一方、本発明の第5の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明の正極膜形成用スパッタリングターゲットを直流スパッタリング装置に装入し、10Pa以下のガス圧下、ターゲットへ2.757W/cm2以上の直流電力を投入して、アーキングを発生せずに基板に正極膜を形成することを特徴とする正極膜の形成方法が提供される。
本発明の正極膜形成用スパッタリングターゲットは、酸化物焼結体中で粒径が極めて微細となる酸化アルミニウムを用いており、ターゲットには実質的に酸化アルミニウム相が存在しないので、これを用いることで、直流スパッタリング法でもアーキングが抑制され、正極膜を安定的に生産性良く成膜できる。これにより成膜されたアルミニウムを含む正極膜は、従来の塗布法によるものと比べて大幅に薄いので、リチウム二次電池のサイズを小型化することができる。
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
1.酸化物焼結体とスパッタリングターゲット
本発明のニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属と、リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットは、焼結体中のアルミニウムの存在形態に大きく依存し、酸化アルミニウムの粒径が100nm以下と微細、すなわち実質的に酸化アルミニウム相を含まないものである。
本発明のニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属と、リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットは、焼結体中のアルミニウムの存在形態に大きく依存し、酸化アルミニウムの粒径が100nm以下と微細、すなわち実質的に酸化アルミニウム相を含まないものである。
従来のコバルト酸リチウムのスパッタリングターゲットにおいては、前記のとおり、LiCoO2粉末を原料粉末として用いて、特定の条件で加圧焼結することで95%以上の相対密度と、10〜30μmの平均粒径を有するターゲットとして製造されており、これらにより直流スパッタリング法でも比較的安定してリチウム二次電池用の正極膜を成膜できた。
しかし、十分な機能を発揮するリチウム二次電池用の正極膜を得るには、アルミニウムを含有させる必要があったが、ターゲット用の酸化物焼結体を製造すると、結晶相に大きな酸化アルミニウム相が生じていた。
しかし、十分な機能を発揮するリチウム二次電池用の正極膜を得るには、アルミニウムを含有させる必要があったが、ターゲット用の酸化物焼結体を製造すると、結晶相に大きな酸化アルミニウム相が生じていた。
一般に金属酸化物は、高温下にて窒素などの非酸化性の雰囲気下で行う加熱還元処理の際に、酸素欠損が導入されて導電性が付与されるが、酸化アルミニウム相の場合はアルミニウムと酸素との結合が強いため、効果的な酸素欠損導入による導電性付与が難しい。この傾向は、酸化アルミニウム相が結晶体でも非晶質体でも同じであり、この酸化アルミニウム相が高抵抗相もしくは絶縁相のためアーキングの要因となる。そして、直流スパッタリングにおいて高抵抗性もしくは絶縁性の酸化アルミニウム相にアルゴンイオン照射による帯電が生じて直流放電が安定化せずアーキングが発生してしまう。
酸化アルミニウム相には、このような問題があるが、リチウム含有遷移金属酸化物の相は、アルミニウムが含有されていても導電相であり、アーキングの原因となる帯電が生じない。
本発明の正極膜形成用スパッタリングターゲットでは、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)観察による酸化アルミニウムの粒径が100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは20nm以下と微細である。そして、実質的に酸化アルミニウム相を含まないものであることが好ましい。本発明において、酸化アルミニウム相が存在しないとは、XRDで回折ピークが現れず、かつEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)観察にて100nmを超える酸化アルミニウムの領域が確認されないことを意味している。
また、酸化アルミニウム相に、ターゲットを構成する他の金属の一部が固溶されていると、高抵抗性もしくは絶縁性を示すことから、アーキングが発生する傾向性があり、そのようなものは本発明の正極膜形成用スパッタリングターゲットには含めないものとする。
(酸化物焼結体)
上述のように、本発明の正極膜形成用スパッタリングターゲットは、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属と、リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物焼結体を用いている。
上述のように、本発明の正極膜形成用スパッタリングターゲットは、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属と、リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物焼結体を用いている。
該酸化物焼結体には実質的に酸化アルミニウム相が存在しないが、酸化ニッケルや酸化マンガン、酸化コバルトなどの上記加熱還元処理にて導電性を付与できる金属酸化物相が存在してもかまわない。また、本発明の目的を損なわなければ、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム、リチウム以外の金属、例えば、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wなどを含んでもよい。
本発明において、酸化物焼結体は、α−NaFeO2型層状構造のLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、スピネル型構造のLiMn2O4、オリビン型のLiFePO4、そしてこれらの化合物の2つ以上の固溶体において、遷移金属の一部がAlに置換されている。また、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2や、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2における遷移金属の一部がAlに置換されたもの、リチウム過剰系固溶体と呼ばれているLi2MnO3−LiMO2系(M:Ni、Coおよび/またはMn)の遷移金属の一部がAlに置換されたものも含むことができる。
本発明では、遷移金属として、NiとCoの両者が含まれることが好ましく、上記の組成式に示される遷移金属全体量に対して、Niは10~90原子%であり、Coは10~50原子%であることが好ましい。
そして、酸化物焼結体は、酸素の一部がFやClなどに置換されていてもよく、遷移金属の一部が、Fe、Cr、Ti、Nb、W、Mo、Na、K、Mg、Caなどの他の金属で置換されていてもかまわない。さらに化合物の化学量論組成に対してLiが過剰か欠損、また酸素も化学量論組成に対して欠損でもかまわない。
これらの何れにおいても、正極膜の構成金属の全ての金属を含む酸化物焼結体スパッタリングターゲットが対象となり、上述のように酸化アルミニウムの粒径が100nm以下と微細、すなわち実質的に酸化アルミニウム相を含まない。酸化アルミニウムの粒径が100nmを超えていると、この酸化アルミニウム相によってアーキングが発生しやすいので好ましくない。
本発明のより好ましい形態は、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属とリチウムで構成されるリチウム含有遷移金属酸化物のみで構成され、アルミニウム元素はリチウム含有遷移金属酸化物に固溶されていることである。
ターゲット中に酸化ニッケルや酸化マンガン、酸化コバルトなどの上記加熱還元処理にて導電性を付与できる金属酸化物相が存在しても、アーキングの要因にはならないが、アルミニウム元素が固溶されていないと金属元素の均一性は劣り、成膜で得られる膜の組成のバラつきの要因となるからである。すなわちリチウム含有遷移金属酸化物相のみで構成されるターゲットの方が、各金属元素が原子レベルで均一であり、常に一定の元素がスパッタされて膜組成を一定とすることができる。
2.正極膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法
本発明の正極膜形成用スパッタリングターゲットは、ターゲットの構成元素の金属酸化物粉末を出発原料として用いて、混合、焼成により、焼結させて酸化物焼結体を製造し、これを所定の大きさに加工してスパッタリングターゲットとする。
本発明の正極膜形成用スパッタリングターゲットは、ターゲットの構成元素の金属酸化物粉末を出発原料として用いて、混合、焼成により、焼結させて酸化物焼結体を製造し、これを所定の大きさに加工してスパッタリングターゲットとする。
本発明では、従来の製法とは異なり、原料粉末の選定と混合条件、焼成条件の最適化に留意する。すなわち、本発明は、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属酸化物と酸化アルミニウムと、水酸化リチウム又は炭酸リチウムから選ばれるリチウム化合物とを原料粉として用い、混合物を十分に粉砕した後で加圧成形し、得られた成形体を焼成することで酸化物焼結体とする工程を含む正極膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法であって、原料粉は、遷移金属酸化物と酸化アルミニウムの大きさが平均粒径5μm以下、リチウム化合物の大きさが平均粒径10μm以下であり、少なくとも1100℃の焼成温度まで3℃/分以下の昇温速度で加熱することを特徴とする。
酸化物焼結体の原料粉末としては、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属酸化物と酸化アルミニウムと、水酸化リチウム又は炭酸リチウムから選ばれるリチウム化合物とを用いる。出発原料としては、本発明の目的を損なわない範囲で金属粉末、もしくは金属の塩の粉末を配合することもできる。
リチウム成分の出発原料には、水酸化リチウムもしくは炭酸リチウムの粉末を用いるが、それらの二次粒子の平均粒径を10μm以下、好ましくは5μm以下とする。水酸化リチウムは、水分を含有することが多いので予め乾燥させておくのが好ましい。平均粒径が10μmを超えていると粉砕に時間がかかるので好ましくない。
また、ニッケル、コバルト、マンガン成分も遷移金属酸化物の粉末を用いるようにする。リチウム成分と遷移金属酸化物の原料粉末は、相互の混合を十分に行って反応性を高めておくことが望ましい。粉砕しながら混合するのが効率的である。ボールミル混合で行う場合は、10時間以上、特に12時間以上継続して十分な粉砕と混合を行うことが好ましい。なお、ターゲットの構成元素の金属酸化物粉末は、金属粉末、もしくは金属塩の粉末を出発原料として用いて、リチウム成分と遷移金属成分との複合酸化物として合成しておいても良い。
アルミニウム成分の出発原料は、酸化アルミニウム粉末であり、二次粒子の平均粒径が5μm以下、好ましくは3μm以下の粉末を用いるようにする。特に好ましいのは0.2〜1μmのものである。酸化物焼結体中のアルミニウムの含有量が、全遷移金属とアルミニウムの合計に対して1〜15原子%であることが好ましく、3〜10原子%であることがより好ましい。そのためには、遷移金属粉末の全体量に対して、1~20モル%の酸化アルミニウム粉末を用いるようにする。
前記したとおり、他の原料粉末との混合をボールミルで行う場合は、10時間以上継続して十分な粉砕と混合を行うことが望ましい。十分な粉砕と混合を行うことで、その後の焼成でリチウム含有遷移金属酸化物中に酸化アルミニウムをほぼ完全に固溶させることができる。
その後、成形体を反応容器に入れて焼成する。焼成温度は、650〜1150℃とし、酸素を十分に供給し、酸素が20体積%以上含まれる窒素または不活性ガス雰囲気中で、5〜12時間焼成する。焼成温度は、800〜1150℃とし、酸素が30体積%以上含まれる窒素または不活性ガス雰囲気中で、8〜12時間焼成するのが好ましい。
水酸化リチウムの融点は462℃、炭酸リチウムの融点は723℃であるが、混合が不十分であると、焼成中にこれらの融点に達した時点で、水酸化リチウムもしくは炭酸リチウムの未反応の塊が存在して液相が生じてしまう。液相には、遷移金属の酸化物が優先的に溶融されて析出されるが、酸化アルミニウムは溶融されないため、酸化アルミニウムが偏析されてしまう。焼成前の成形体において酸化アルミニウム粉末が十分に均一混合されていても、このような偏析により酸化アルミニウムの大きな塊が形成されてしまうため、焼成後には酸化アルミニウム相が存在する酸化物焼結体になってしまう。
本発明では、これを回避するために、水酸化リチウムもしくは炭酸リチウムをその融点以下で反応させてしまうことが重要である。具体的には、焼成時の昇温速度を遅く設定すること、融点以下で仮焼して粉砕する工程を繰り返すことが有効である。酸化アルミニウムが偏析されない焼成時の昇温速度は、混合状態にも依存するが、3℃/分以下が好ましい。
酸化アルミニウム原料粉末の平均粒径が1μm以下のものを用いることで、得られる酸化物焼結体は、実質的に酸化アルミニウム相が存在しないものとなる。またアルミニウムは、ターゲットを構成する他の金属の中に固溶されるので、抵抗値が大きくならず、スパッタリングによる正極膜形成に適したものとなる。
3.正極膜の形成方法
本発明でスパッタリング法で薄膜リチウム二次電池の正極を作製する際には、前記酸化物焼結体から作製したスパッタリングターゲットを使用する。
本発明でスパッタリング法で薄膜リチウム二次電池の正極を作製する際には、前記酸化物焼結体から作製したスパッタリングターゲットを使用する。
まず、ターゲットを基板とともにスパッタリング装置内に装入して、内部を真空にする。その後、10Pa以下、好ましくは5Pa以下のアルゴンなど不活性ガス圧のもとで、基板を陽極とし、ターゲットを陰極として、電極間にグロー放電を起こす。これによりアルゴンプラズマを発生させ、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のターゲットに衝突させ、ターゲット成分の原子をはじき飛ばして、基板上に膜を堆積させる。
ターゲットの裏側にマグネットを配置したマグネトロンスパッタリング装置を使用するときは、2.0Pa以下好ましくは1Pa以下の低ガス圧においてターゲットの表面上部に発生するプラズマ密度を上げて安定化させて、スパッタリング成膜する。この装置には、アーキングを抑制する機能がなく、あったとしても高い直流電源が印加されると十分にアーキングを防止できない場合が多い。
しかし、本発明のターゲットであれば、スパッタ面の単位面積当たりの投入電力、すなわち投入電力密度が、2.757W/cm2以上という高い直流電力を投入した条件下でも、正極膜をアーキングが発生せず放電が持続して安定的に成膜することができる。膜の厚さは、投入電力や成膜時間などを制御することで調整でき、例えば1〜10μmとすることができる。
本発明によれば、安価な成膜法で操作法も簡便であるために、工業的に有用な直流スパッタリング法に用いても、アーキングを発生させずに安定成膜が可能であるため、Alを含む正極膜の製造コストを大幅に削減できる。
以下、実施例と比較例を示しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例によってのみ限定されるものではない。
(実施例1)
二次粒子の平均粒径が5μmのNiO粉末、CoO粉末、Al2O3粉末、平均粒径が10μmのLiOH粉末を原料粉末として用い、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2の組成になるような割合で調合し、樹脂製ポットに入れて、乾式ボールミル混合した。この際に、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を10時間とした。混合後、得られた粉末混合体を取り出し、金型成形機を用いて3ton/cm2にて一軸加圧成形を行って成形体を得た。
次に、この成形体を大気中にて1℃/分で1100℃まで昇温し、この温度で10時間焼結した。焼結後の冷却は、700℃までを5℃/分で降温させ、その後は室温まで徐冷した。
焼結体の端材を粉砕し、粉末X線回折測定を実施したところ、α−NaFeO2型のLiNi0.8Co0.15Al0.05O2の層状構造の結晶相のみが形成されていることが確認され、それ以外の結晶相は確認できなかった。また走査型電子顕微鏡とEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による局所分析から、この焼結体中には、実質的にLiNi0.8Co0.15Al0.05O2の組成の化合物のみであり、ごくわずかな酸化アルミニウム相が存在したが、その大きさは、100nm未満であった。
得られた焼結体を、直径152mm、厚み5mmの大きさに加工し、スパッタ面をカップ砥石で磨いた。無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングして、スパッタターゲットを作製した。
アーキング抑制機能のない直流電源を装備した直流マグネトロンスパッタリング装置のカソードにスパッタリングターゲットを取り付け、ターゲットの対抗位置にガラス基板を配置し、ターゲット基板間距離を60mmとした。ターゲットと基板の間を1×10−4Pa以下に真空引きした後に純Arガスを導入してガス圧を0.5Paとし、ターゲットに直流電力を投入してターゲット基板間にプラズマを発生させた。
10分間所定の直流電力を投入し、アーキングにより放電電圧が瞬時降下する現象の発生回数を観測した。「直流電力÷ターゲットスパッタ面面積」から徐々に増加させたときに直流投入電力密度を算出した。その結果、表1に示したとおり、直流投入電力密度が、1.103〜2.757W/cm2において、全くアーキングは発生せずに安定な放電を行うことができた。得られた膜の組成もターゲット組成と同等であった。これは焼結体がLiNi0.8Co0.15Al0.05O2の組成の化合物のみで構成されていて、ごくわずかな量の酸化アルミニウム相があったが、高抵抗相や絶縁相の存在を無視しうるからである。このようなスパッタリングターゲットは、量産においても安定に使用することができる。
二次粒子の平均粒径が5μmのNiO粉末、CoO粉末、Al2O3粉末、平均粒径が10μmのLiOH粉末を原料粉末として用い、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2の組成になるような割合で調合し、樹脂製ポットに入れて、乾式ボールミル混合した。この際に、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を10時間とした。混合後、得られた粉末混合体を取り出し、金型成形機を用いて3ton/cm2にて一軸加圧成形を行って成形体を得た。
次に、この成形体を大気中にて1℃/分で1100℃まで昇温し、この温度で10時間焼結した。焼結後の冷却は、700℃までを5℃/分で降温させ、その後は室温まで徐冷した。
焼結体の端材を粉砕し、粉末X線回折測定を実施したところ、α−NaFeO2型のLiNi0.8Co0.15Al0.05O2の層状構造の結晶相のみが形成されていることが確認され、それ以外の結晶相は確認できなかった。また走査型電子顕微鏡とEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による局所分析から、この焼結体中には、実質的にLiNi0.8Co0.15Al0.05O2の組成の化合物のみであり、ごくわずかな酸化アルミニウム相が存在したが、その大きさは、100nm未満であった。
得られた焼結体を、直径152mm、厚み5mmの大きさに加工し、スパッタ面をカップ砥石で磨いた。無酸素銅製のバッキングプレートに金属インジウムを用いてボンディングして、スパッタターゲットを作製した。
アーキング抑制機能のない直流電源を装備した直流マグネトロンスパッタリング装置のカソードにスパッタリングターゲットを取り付け、ターゲットの対抗位置にガラス基板を配置し、ターゲット基板間距離を60mmとした。ターゲットと基板の間を1×10−4Pa以下に真空引きした後に純Arガスを導入してガス圧を0.5Paとし、ターゲットに直流電力を投入してターゲット基板間にプラズマを発生させた。
10分間所定の直流電力を投入し、アーキングにより放電電圧が瞬時降下する現象の発生回数を観測した。「直流電力÷ターゲットスパッタ面面積」から徐々に増加させたときに直流投入電力密度を算出した。その結果、表1に示したとおり、直流投入電力密度が、1.103〜2.757W/cm2において、全くアーキングは発生せずに安定な放電を行うことができた。得られた膜の組成もターゲット組成と同等であった。これは焼結体がLiNi0.8Co0.15Al0.05O2の組成の化合物のみで構成されていて、ごくわずかな量の酸化アルミニウム相があったが、高抵抗相や絶縁相の存在を無視しうるからである。このようなスパッタリングターゲットは、量産においても安定に使用することができる。
(比較例1)
実施例1において、焼成時の昇温速度を5℃/分に変えた以外は、同様の方法で同一組成の焼結体を作製し、焼結体を同様の手法で評価した。その結果、表1に示したとおり、焼結体中には1〜3μmの酸化アルミニウム相が存在していた。
また、この焼結体から実施例1と同様の方法でターゲットを作製してアーキングの発生状況を評価した。2.757W/cm2においてアーキングが発生し放電が不安定であった。このようなスパッタリングターゲットは量産において使用できない。
実施例1において、焼成時の昇温速度を5℃/分に変えた以外は、同様の方法で同一組成の焼結体を作製し、焼結体を同様の手法で評価した。その結果、表1に示したとおり、焼結体中には1〜3μmの酸化アルミニウム相が存在していた。
また、この焼結体から実施例1と同様の方法でターゲットを作製してアーキングの発生状況を評価した。2.757W/cm2においてアーキングが発生し放電が不安定であった。このようなスパッタリングターゲットは量産において使用できない。
(比較例2)
実施例1において、焼成時の昇温速度を10℃/分に変えた以外は、同様の方法で同一組成の焼結体を作製し、焼結体を同様の手法で評価した。焼結体中には4〜10μmの酸化アルミニウム相が存在していた。またこの焼結体から実施例1と同様の方法でターゲットを作製してアーキングの発生状況を評価した。その結果、表1に示したとおり、1.654W/cm2以上においてアーキングが発生し放電が不安定であった。このようなスパッタリングターゲットは量産において使用できない。
実施例1において、焼成時の昇温速度を10℃/分に変えた以外は、同様の方法で同一組成の焼結体を作製し、焼結体を同様の手法で評価した。焼結体中には4〜10μmの酸化アルミニウム相が存在していた。またこの焼結体から実施例1と同様の方法でターゲットを作製してアーキングの発生状況を評価した。その結果、表1に示したとおり、1.654W/cm2以上においてアーキングが発生し放電が不安定であった。このようなスパッタリングターゲットは量産において使用できない。
(実施例2)
実施例1の原料粉末、すなわち二次粒子の平均粒径が5μmのNiO粉末、CoO粉末、Al2O3粉末、平均粒径が10μmのLiOH粉末のほかに、二次粒子の平均粒径が5μmのMnO粉末を用いて、LiNi0.32Co0.32Mn0.32Al0.03O2の焼結体を作製した。
昇温速度は3℃/分とし、それ以外の原料混合条件や焼成温度、焼成時間などの焼結体作製条件は実施例1と同じとした。焼結体の端材を粉砕し、粉末X線回折測定を実施したところ、α−NaFeO2型のLiNi0.32Co0.32Mn0.32Al0.03O2の層状構造の結晶相のみが形成されていることが確認され、これ以外の結晶相は観測されなかった。また走査型電子顕微鏡とEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による局所分析から、この焼結体中には、LiNi0.32Co0.32Mn0.32Al0.03O2の組成の化合物のみで構成されており、結晶相の中に、ごくわずかな酸化アルミニウム相があり、その大きさは、100nm未満であった。
この焼結体から実施例1と同様の方法で作製したスパッタリングターゲットを用いて、アーキングの発生状況を測定した結果を表1に示したが、直流投入電力密度が、1.103〜2.757W/cm2において、全くアーキングは発生せずに安定な放電を行うことができた。また得られた膜の組成もターゲット組成と同等であった。これは焼結体がLiNi0.32Co0.32Mn0.32Al0.03O2の組成の化合物のみで構成されていて、ごくわずかな量の酸化アルミニウム相があったが、高抵抗相や絶縁相の存在を無視しうるからである。このようなスパッタリングターゲットは量産においても安定に使用することができる。
実施例1の原料粉末、すなわち二次粒子の平均粒径が5μmのNiO粉末、CoO粉末、Al2O3粉末、平均粒径が10μmのLiOH粉末のほかに、二次粒子の平均粒径が5μmのMnO粉末を用いて、LiNi0.32Co0.32Mn0.32Al0.03O2の焼結体を作製した。
昇温速度は3℃/分とし、それ以外の原料混合条件や焼成温度、焼成時間などの焼結体作製条件は実施例1と同じとした。焼結体の端材を粉砕し、粉末X線回折測定を実施したところ、α−NaFeO2型のLiNi0.32Co0.32Mn0.32Al0.03O2の層状構造の結晶相のみが形成されていることが確認され、これ以外の結晶相は観測されなかった。また走査型電子顕微鏡とEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)による局所分析から、この焼結体中には、LiNi0.32Co0.32Mn0.32Al0.03O2の組成の化合物のみで構成されており、結晶相の中に、ごくわずかな酸化アルミニウム相があり、その大きさは、100nm未満であった。
この焼結体から実施例1と同様の方法で作製したスパッタリングターゲットを用いて、アーキングの発生状況を測定した結果を表1に示したが、直流投入電力密度が、1.103〜2.757W/cm2において、全くアーキングは発生せずに安定な放電を行うことができた。また得られた膜の組成もターゲット組成と同等であった。これは焼結体がLiNi0.32Co0.32Mn0.32Al0.03O2の組成の化合物のみで構成されていて、ごくわずかな量の酸化アルミニウム相があったが、高抵抗相や絶縁相の存在を無視しうるからである。このようなスパッタリングターゲットは量産においても安定に使用することができる。
(比較例3)
実施例2において、焼成時の昇温速度を5℃/分に変えた以外は、同様の方法で同一組成の焼結体を作製し、焼結体を同様の手法で評価した。焼結体中には1〜3μmの酸化アルミニウム相が存在していた。また、この焼結体から実施例1と同様の方法でターゲットを作製してアーキングの発生状況を評価した。その結果、表1に示したとおり、2.757W/cm2においてアーキングが発生し放電が不安定であった。このようなスパッタリングターゲットは量産において使用できない。
実施例2において、焼成時の昇温速度を5℃/分に変えた以外は、同様の方法で同一組成の焼結体を作製し、焼結体を同様の手法で評価した。焼結体中には1〜3μmの酸化アルミニウム相が存在していた。また、この焼結体から実施例1と同様の方法でターゲットを作製してアーキングの発生状況を評価した。その結果、表1に示したとおり、2.757W/cm2においてアーキングが発生し放電が不安定であった。このようなスパッタリングターゲットは量産において使用できない。
(比較例4)
実施例2において、焼成時の昇温速度を10℃/分に変えた以外は、同様の方法で同一組成の焼結体を作製し、焼結体を同様の手法で評価した。焼結体中には4〜10μmの酸化アルミニウム相が存在していた。また、この焼結体から実施例1と同様の方法でターゲットを作製してアーキングの発生状況を評価した。その結果、表1に示したとおり、1.654W/cm2以上においてアーキングが発生し放電が不安定であった。このようなスパッタリングターゲットは量産において使用できない。
実施例2において、焼成時の昇温速度を10℃/分に変えた以外は、同様の方法で同一組成の焼結体を作製し、焼結体を同様の手法で評価した。焼結体中には4〜10μmの酸化アルミニウム相が存在していた。また、この焼結体から実施例1と同様の方法でターゲットを作製してアーキングの発生状況を評価した。その結果、表1に示したとおり、1.654W/cm2以上においてアーキングが発生し放電が不安定であった。このようなスパッタリングターゲットは量産において使用できない。
本発明のスパッタリングターゲットは、薄膜リチウム二次電池の正極をスパッタリング法で作製する際に使用出来る。
本発明によれば、安価な成膜法で操作法も簡便な直流スパッタリング法を採用でき、その際に、アーキングを発生させずに安定成膜が可能であるため、生産性が向上して正極膜の製造コストを大幅に削減できる。
本発明によれば、安価な成膜法で操作法も簡便な直流スパッタリング法を採用でき、その際に、アーキングを発生させずに安定成膜が可能であるため、生産性が向上して正極膜の製造コストを大幅に削減できる。
Claims (5)
- ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属と、リチウムおよびアルミニウムを含む酸化物焼結体からなる正極膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
該酸化物焼結体は、大半がリチウム含有遷移金属酸化物相で構成され、かつ酸化アルミニウム相を含まないか、含んでも大きさが100nm以下であることを特徴とする、正極膜形成用スパッタリングターゲット。 - 酸化物焼結体は、ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属とリチウムで構成されるリチウム含有遷移金属酸化物のみで構成され、アルミニウム元素がリチウム含有遷移金属酸化物に固溶されていることを特徴とする、請求項1に記載の正極膜形成用スパッタリングターゲット。
- 酸化物焼結体は、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)で観察しても酸化アルミニウム相の存在が確認されないことを特徴とする、請求項1に記載の正極膜形成用スパッタリングターゲット。
- ニッケル、コバルト、マンガンから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属酸化物粉末と酸化アルミニウム粉末と、水酸化リチウム又は炭酸リチウムから選ばれるリチウム化合物粉末とを原料粉として用い、混合し、十分に粉砕した後で加圧成形し、得られた成形体を焼成することで酸化物焼結体とする工程を含む正極膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法であって、
原料粉は、遷移金属酸化物と酸化アルミニウムの大きさが平均粒径5μm以下、リチウム化合物の大きさが平均粒径10μm以下であり、少なくとも1100℃の焼成温度までは3℃/分以下の昇温速度で加熱することを特徴とする、正極膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の正極膜形成用スパッタリングターゲットを直流スパッタリング装置に装入し、10Pa以下のガス圧下、ターゲットへ2.757W/cm2以上の直流電力を投入して、アーキングを発生せずに基板に正極膜を形成することを特徴とする正極膜の形成方法。
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CN109659539A (zh) * | 2018-12-20 | 2019-04-19 | 电子科技大学 | 一种基于原位复合及重组制备锂电池正极材料的方法 |
CN110429274A (zh) * | 2019-04-01 | 2019-11-08 | 中国建筑材料科学研究总院有限公司 | 锂离子电池正极三元材料及其制备方法 |
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