JP2017171641A - 前立腺癌治療剤、前立腺癌診断マーカー及びそれを用いた前立腺癌罹患鑑別方法 - Google Patents

前立腺癌治療剤、前立腺癌診断マーカー及びそれを用いた前立腺癌罹患鑑別方法 Download PDF

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Abstract

【課題】前立腺癌、特にアンドロゲン機能阻害剤によるホルモン療法が無効となったCRPCに対する、従来とは異なる作用機序に基づく治療方法を開発し、提供することを課題とする。【解決手段】miR-29阻害剤、TET2遺伝子発現増強剤、TET2タンパク質、その活性断片、又はそれらの2以上の組み合わせを有効成分として包含する前立腺癌治療剤を提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、前立腺癌、特に去勢抵抗性前立腺癌の治療剤及び診断マーカー、並びに前記診断マーカーを用いた前立腺癌の罹患鑑別方法に関する。
前立腺癌は、欧米において男性の罹患数が最も多い癌である。日本でも食生活の欧米化や高齢化、並びにPSA(Prostate specific antigen:前立腺特異的抗原)検査の普及による早期発見の向上に伴い、近年、罹患数が急速に増加している。例えば、2008年の部位別癌罹患数において前立腺癌は第4位であったが、2011年には第2位に浮上している(非特許文献1及び2)。前立腺癌は70歳以降になると罹患率が飛躍的に増加することから、日本をはじめ高齢化の進む先進諸国において今後さらなる増加が予想される。それ故に、前立腺癌に対する新しい診断方法や効果的な治療方法の開発が求められている。
前立腺癌の治療方法として、臨床的には外科的治療、ホルモン療法、化学療法、及び放射線治療等が知られている。治療方法の第一選択は、前立腺摘出術をはじめとする外科的治療であるが、進行癌と診断された場合や外科的治療後の再発等により手術が困難な場合には、ドセタキセル等の抗癌剤による化学療法やホルモン療法等の治療法が選択される。
前立腺癌のホルモン療法(内分泌療法)は、アンドロゲン機能阻害剤の投与に基づく治療方法である。前立腺癌の増殖は、男性ホルモンであるアンドロゲンによって刺激され、その発生や進行には、アンドロゲン受容体(androgen receptor;本明細書ではしばしば「AR」と表記する)が大きな役割を果たしていることが知られている(非特許文献3及び4)。それ故、アンドロゲン機能阻害剤によりアンドロゲンの分泌や作用を阻害することで前立腺癌の増殖を抑制することができる。アンドロゲン機能阻害剤には、例えば、GnRH(Gonadotropin releasing hormone:ゴナドトロピン放出ホルモン)アナログ製剤や抗アンドロゲン製剤が知られている。GnRHアナログ製剤は、精巣に作用してアンドロゲンの一種であるテストステロンの産生を低下させ、精巣からのアンドロゲン分泌を抑制することができる。GnRHアゴニストには、リュープロレリン(Leuprorelin)やゴセレリン(Goserelin)が知られている。抗アンドロゲン製剤は、アンドロゲンのARへの結合阻害剤で、アンドロゲンの機能そのものを抑制することができる。抗アンドロゲン製剤には、ビカルタミド(Bicalutamide)、フルタミド(Flutamide)、クロルマジノン(Chlormadinone)等が知られている。一般にホルモン療法は、前立腺癌に対する治療効果が極めて高い。
ところが、ホルモン療法を長期にわたり継続使用した場合、制癌効果が弱まり、数年以内に前立腺癌が再燃するという問題がある。再燃した前立腺癌は去勢抵抗性前立腺癌(castration-resistant prostate cancer:本明細書では、しばしば「CRPC」と略記する)に進行しており、上記アンドロゲン機能阻害剤を再度投与しても治療は無効か難航する。
アンドロゲン依存性前立腺癌からアンドロゲン非依存性のCRPCへの進行の具体的な分子メカニズムは未だに明らかにされていないが、ARの関与が示唆されている。すなわち、CRPCでは、ARの変異又は増幅により、極めて低濃度のアンドロゲンや、抗アンドロゲン剤、及びその他のステロイドホルモン等に対しても高い感受性を示すことが示唆されている。
そこで、ARの機能を抑制する新たな方法が開発されている。例えば、ARの機能を阻害する薬剤(エンザルタミド:Enzalutamide)やRNAi(RNA interference:RNA干渉)技術を用いたARの発現抑制剤が挙げられる。しかし、いずれも臨床的に十分な効果があるとは言い難い。また、アンドロゲン高感受性となっているCRPCに対してアンドロゲンやARを標的とするだけではもはや治療効果に限界がある。それ故に、従来方法とは作用機序の異なる新たなホルモン療法の開発が求められている。
Katanoda K., et al., 2015, Jpn J Clin Oncol, 45(4):390-401 Cancer Registry and Statistics. Cancer Information Service, National Cancer Center, Japan. Takayama K et al., 2013, Int J Urol, 20(8):756-68 Wang D et al., 2011, Methods Mol Biol, 776:25-44
本発明は、前立腺癌、特にアンドロゲン機能阻害剤によるホルモン療法が無効となったCRPCに対する、従来とは異なる作用機序に基づく治療方法を開発し、提供することを課題とする。
アンドロゲンはARと結合した後、細胞内に移行する。その後、AR転写共役因子と結合又は協調して標的遺伝子のプロモーター又はエンハンサー領域内のアンドロゲン受容体結合配列(AR responsive elements; ARE)に結合した後、エピゲノム作用を介して標的遺伝子の発現を調節している。ARを介した前立腺癌の発生及び進行は、この標的遺伝子の発現に起因すると考えられている。したがって、ARと結合又は協調する転写共役因子を標的とする方法は、従来のアンドロゲン機能阻害剤とは異なる新たな治療方法となり得る。
本発明者らは、上記予測に基づきARと結合又は協調する新規転写共役因子の単離とその同定を試みた。その結果、前立腺癌細胞においてアンドロゲンによりmiR-29が誘導され、その標的遺伝子であり、ゲノムワイドでのエピゲノム状態を制御するTET2タンパク質が発現抑制を受けることや、これらの発現が前立腺癌の進行や予後と相関していることを見出した。miR-29やTET2タンパク質は、ARと作用点が離れているためARに対する直接的なアプローチとは異なる。また、今回、実施例においてmiR-29やTET2タンパク質の機能又は発現を制御する薬剤を用いることで、CRPC細胞の増殖を効果的に抑制できることが明らかとなった。本発明は、当該知見に基づき完成されたものであり、以下を提供する。
(1)miR-29阻害剤、TET2遺伝子発現増強剤、TET2タンパク質若しくはその活性断片、又はそれらの2以上の組み合わせを有効成分として包含する前立腺癌治療剤。
(2)前記TET2遺伝子発現増強剤がTET2タンパク質をコードするTET2遺伝子、又はTET2タンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドを含む発現ベクターからなる、(1)に記載の前立腺癌治療剤。
(3)前記TET2タンパク質が配列番号9又は12で示すアミノ酸配列からなる、(1)又は(2)に記載の前立腺癌治療剤。
(4)前記TET2遺伝子が配列番号7又は10で示す塩基配列からなる、(2)に記載の前立腺癌治療剤。
(5)前記miR-29阻害剤が配列番号1〜3のいずれかで示す塩基配列に相補的な塩基配列を含む、(1)に記載の前立腺癌治療剤。
(6)アンドロゲン受容体阻害剤を有効成分としてさらに包含する、(1)〜(5)のいずれかに記載の前立腺癌治療剤。
(7)前記前立腺癌が去勢抵抗性前立腺癌である、(1)〜(6)のいずれかに記載の前立腺癌治療剤。
(8)ヒトmiR-29又はその前駆体からなる前立腺癌の診断マーカー。
(9)前記ヒトmiR-29が配列番号1〜3のいずれかで示す塩基配列からなる、(8)に記載の診断マーカー。
(10)ヒトTET2タンパク質又はそれをコードするヒトTET2遺伝子の転写産物、又はそれらの断片からなる前立腺癌の診断マーカー。
(11)前記ヒトTET2タンパク質が配列番号9又は12で示すアミノ酸配列からなる、(10)に記載の診断マーカー。
(12)前記ヒトTET2遺伝子が配列番号7又は10で示す塩基配列からなる、(10)に記載の診断マーカー。
(13)5-ヒドロキシメチルシトシンからなる前立腺癌の診断マーカー。
(14)前立腺癌の罹患鑑別を補助する方法であって、被験者及び健常者群から採取された試料中の所定量あたりに含まれる(8)〜(13)のいずれかに記載の診断マーカーの量を測定する測定工程、前記測定工程で得られた被験者及び健常者群の測定値を比較する比較工程、及び前記比較工程での比較結果に基づいて被験者における前立腺癌の罹患の有無を判定する判定工程を含む前記方法。
(15)前記診断マーカーが(8)又は(9)に記載の診断マーカーであり、かつ被験者の測定値が健常者群の測定値よりも有意に高い比較結果であった場合に、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する、(14)に記載の方法。
(16)前記診断マーカーが(10)〜(13)のいずれかに記載の診断マーカーであり、かつ被験者の測定値が健常者群の測定値よりも有意に低い比較結果であった場合に、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する、(14)に記載の方法。
(17)前記診断マーカーが(8)又は(9)に記載の診断マーカーであり、かつROC曲線から導かれる所定のカットオフ値を超える比較結果であった場合に、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する、(14)に記載の方法。
(18)前記診断マーカーが(10)〜(13)のいずれかに記載の診断マーカーであり、かつROC曲線から導かれる所定のカットオフ値を下回る比較結果であった場合に、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する、(14)に記載の方法。
本発明の前立腺癌の診断マーカーによれば、前立腺癌の罹患鑑別、予後予測、及び進行度の判定が可能な前立腺癌診断マーカーを提供できる。
本発明の前立腺癌の罹患鑑別方法によれば、本発明の前立腺癌診断マーカーを用いることで罹患鑑別、予後予測、及び進行度の判定をすることができる。
本発明の前立腺癌治療剤によれば、従来の前立腺癌治療剤とは作用点の異なる新たな前立腺癌治療剤、特にCRPCに対する効果的な治療剤を提供することができる。
AR陽性のヒト前立腺癌細胞株LNCaP細胞とホルモン療法耐性細胞株BicR細胞におけるTET2遺伝子の発現変化をTET2タンパク質のWestern blottingで検証した結果である。Aはジヒドロテストステロン(DHT)によるアンドロゲン処理を、Bはビカルタミド(Bic)によるアンドロゲン機能阻害剤処理した細胞を示す。 TET2遺伝子の発現を反映する蛍光解析の結果を示す。横軸のncは陰性対照(Negative Control)を、また他はmiRNAを示す。グラフはncのルシフェラーゼ活性を1としたときの相対値で示している。 miR-29の標的遺伝子がTET2遺伝子であることを確認したTET2タンパク質におけるWestern blot解析の結果である。AはmiRNA-29a/bを添加したときのTET2タンパク質量の変化を、またBはmiR-29を機能阻害するanti-miR-29a/bを添加したときのTET2タンパク質量の変化を示している。 前立腺癌の臨床検体における手術後の生存率を示す図である。臨床検体から採取した102例の前立腺癌組織標本をTET2タンパク質量に基づき高発現群(High)と低発現群(Low)に二分したときの、それぞれの群に属する臨床検体の手術後の経過観察結果を示している。 前立腺癌の臨床検体における手術後の生存率を示す図である。臨床検体から採取した102例の前立腺癌組織標本を5-ヒドロキシメチルシトシン(5-hydroxymethylcytosine:本明細書では、しばしば「5-hmC」と表記する)の量に基づき高発現群(High)と低発現群(Low)に二分したときの、それぞれの群に属する臨床検体の手術後の経過観察結果を示している。 抗TET-2抗体及び抗5-hmC抗体を用いた臨床検体の組織標本における免疫組織染色の染色像である。図中、濃く示された領域が抗体染色された部位である。 臨床検体の前立腺癌組織標本におけるTET2タンパク質と5-hmCの発現量の相関を示す図である。 前立腺癌の臨床検体における手術後の生存率を示す図である。臨床検体から採取した101例の前立腺癌組織標本をmiR-29量に基づき高発現群(High)と低発現群(Low)に二分したときの、それぞれの群に属する臨床検体の手術後の経過観察結果を示している。AはmiR-29a、またBはmiR-29bの結果を示している。 臨床検体におけるmiR-29のin-situ hybridizationの染色像である。AはmiR-29a、またBはmiR-29bの結果を示している。 臨床検体の前立腺癌の進行度(悪性度)とmiR-29bの発現量との関連性を示す図である。 臨床検体の前立腺癌組織標本におけるTET2 mRNAとmiR-29bの発現量の相関を示す図である。 miR-29bの高発現群及び低発現群とTET2タンパク質(A)、5-hmC(B)の発現量の関係を示す図である。 ホルモン療法抵抗性の前立腺癌細胞(BicR細胞)を皮下移植して形成された腫瘍に対するmiR-29機能阻害剤の癌細胞増殖抑制効果を示した図である。Aは対照用のAnti-NCを、またBはmiR-29機能阻害剤であるAnti-miR-29bを、腫瘍に局所注射したときの結果である。破線円内は皮下腫瘍を示している。 miR-29機能阻害剤処理による皮下移植したホルモン療法抵抗性の前立腺癌細胞由来の腫瘍サイズの変化を示す図である。 マウスの皮下から摘出した腫瘍細胞内のTET2タンパク質量を示すWestern blot解析の結果である。
1.前立腺癌診断マーカー
1−1.概要
本発明の第1の態様は前立腺癌診断マーカーである。本発明の前立腺癌診断マーカーは、miR-29、TET2遺伝子転写産物若しくはその核酸断片、TET2遺伝子翻訳産物若しくはそのペプチド断片、又は5-hmCからなり、被験者から採取された試料中の量によって、その被験者における前立腺癌の罹患鑑別、進行度判定、及び予後予測を診断することができる。
1−2.定義
本明細書において頻用する用語について、以下で定義する。
「前立腺癌」は、男性特有の臓器である前立腺の主として辺縁領域に発生する癌である。加齢と共に罹患率が飛躍的に増加するが、一般に進行が遅いため早期癌であれば5年相対生存率が非常に高く、他の癌と比較して予後は良いとされている。一方で、初期段階では無症状であり、排尿障害等の自覚症状が生じても加齢による症状とみなされて放置されることが多い。放置によって骨やリンパ節等へ遠隔転移を起こした場合には、死亡率が著しく増加することから高齢化社会においては軽視できない癌となっている。
「去勢抵抗性前立腺癌」(castration-resistant prostate cancer:CRPC)は、外科的去勢又は薬物による去勢状態で、かつ血清テストステロンが50ng/dL未満であるにもかかわらず、抗アンドロゲン剤の投与とは無関係に病勢の増悪やPSAの上昇がみられる前立腺癌をいう。つまり、精巣からのアンドロゲン分泌を排除し、血中アンドロゲンが非常に低濃度であるにもかかわらず、前立腺癌が進行し、PSAの値が上昇する状態である。CRPCは、数年に及ぶホルモン療法の使用によってホルモン療法による癌細胞の増殖抑制が無効となったアンドロゲン非依存性の前立腺癌であり、再燃前立腺癌とも呼ばれる。本明細書において特に断りのない限り、前立腺癌と記載した時にはCRPCを含む概念とする。
「(前立腺癌の)再燃」とは、ホルモン療法により制癌状態にあった前立腺癌が再び増殖、進行を開始することをいう。再燃した前立腺癌が、前述のCRPCとなる。
本明細書において「前立腺癌診断マーカー」とは、前立腺癌の罹患鑑別、進行度判定、又は予後予測ができるバイオマーカーをいう。
本明細書において前立腺癌の「罹患(の)鑑別」とは、前立腺癌に罹患しているか否かを判別することをいう。
本明細書において前立腺癌の「罹患(の)鑑別を補助する」とは、医師による前立腺癌診断を、医療行為を介することなく補足的に支援することをいう。
本明細書において前立腺癌の「進行度」とは、前立腺癌の状態の程度や病期の程度をいう。例えば、状態の程度であれば軽症(軽度)、中等症(中度)、及び重症(重度)が挙げられ、病期であれば初期、中期、及び後期が挙げられる。進行度は、当該分野で使用されている分類指標を利用することができる。例えば、TNM分類やACBD分類が挙げられる。
1−3.構成
本発明の「前立腺癌診断マーカー」は、miR-29若しくはその前駆体、TET2遺伝子転写産物若しくはその核酸断片、その翻訳産物若しくはそのペプチド断片、又は5-hmCで構成される。以下、それぞれの構成について説明をする。
(1)miR-29
「miR-29」は、miRNAの一種である。
「miRNA(microRNA)」とは、細胞内に存在する長さ21〜23塩基長の一本鎖ノンコーディングRNAであり、RNA干渉(RNAi:RNA interference)機構を介して標的遺伝子の発現を抑制的に調節する機能を有する。miRNAは、ゲノムからpri-miRNAと呼ばれる前々駆体状態で転写された後、核内でDroshaと呼ばれるエンドヌクレアーゼによりpre-miRNAと呼ばれるヘアピンループ構造を有する前駆体にプロセシングされる。その後、核外でDicerと呼ばれるエンドヌクレアーゼの働きによって切断加工され、miRNA及びmiRNA*(miRNAスター)からなる中間体の二本鎖miRNA(miRNA/miRNA*)となる。miRNA/miRNA*は、タンパク質因子複合体であるRISC(RNA-induced silencing complex)に取り込まれ、最終的に一方のRNA鎖であるmiRNAが成熟体のmiRNA(成熟miRNA)として機能する(Bartel DP, 2004, Cell, 116:281-297、Kawamata T., et al., 2009, Nat Struct Mol Biol., 16(9):953-960)。成熟miRNAは、RISC内で標的遺伝子のmRNAと結合してその翻訳を阻害することによって、標的遺伝子の発現を抑制的に調節することが知られている。したがって、細胞内には、pri-miRNA、pre-miRNA、miRNA/miRNA*、及び成熟miRNAが存在し得る。
本明細書においてmiR-29と表記する場合には、原則として成熟miR-29を表す。
miR-29は、肺癌、乳癌、胆管癌、白血病等の癌細胞において、分化、増殖、浸潤、転移等に関与する。一方、大腸癌の癌細胞に対しては、逆に増殖抑制的に機能する。今回、本発明者らの研究によりmiR-29は、前立腺癌でアンドロゲンの作用を介して癌細胞の増殖に関与することが、明らかとなった。miR-29の標的遺伝子は、これまで同定されていなかったが、後述するTET2遺伝子であることが解明された。miR-29は、TET2 mRNAに直接作用して、細胞内のTET2遺伝子の発現量を制御している。
miR-29は、無脊椎動物及び脊椎動物に属する様々な生物種に存在するが、本発明の前立腺癌診断マーカーを構成するmiR-29の由来生物種はヒトである。ヒトmiR-29は、miR-29a、miR-29b、及びmiR-29cの3つのメンバーで構成されるファミリーを形成している。前立腺癌診断マーカーを構成するmiR-29は、miR-29a、miR-29b、及びmiR-29cのいずれのメンバーであってもよい。好ましくはmiR-29a又はmiR-29bである。各メンバーの具体的な塩基配列として、例えばmiR-29aは配列番号1で示す22塩基の塩基配列が、miR-29bは配列番号2で示す23塩基の塩基配列が、そしてmiR-29cは配列番号3で示す22塩基の塩基配列が、挙げられる。
(2)その前駆体
本明細書において「その前駆体」とは、miR-29の前駆体をいう。miR-29の前駆体は、広義のmiR-29前駆体でよい。「広義のmiR-29前駆体」とは、miR-29が転写後に成熟miR-29となるまで経る中間構造体であって、前述のpri-miRNAに相当するpri-miR-29、pre-miRNAに相当するpre-miR-29、及びmiRNA/miRNA*に相当するmiRN-29/miRN-29*が該当する。好ましいmiR-29の前駆体は、狭義のmiR-29の前駆体であり、これはpre-miR-29が該当する。pre-miR-29の具体的な塩基配列として、pre-miR-29aは配列番号4、pre-miR-29bは配列番号5、そしてpre-miR-29cは配列番号6が挙げられる。本明細書ではmiR-29とその前駆体をまとめて、しばしば「miR-29等」と表記する。
(3)TET2遺伝子転写産物
「TET2遺伝子」は、TET2(Ten-Eleven-Translocation 2)タンパク質をコードする遺伝子である。TET2タンパク質は、ゲノムDNAのメチル化を構成する5-メチルシトシン(5-methylcytosine;本明細書では、しばしば「5-mC」と表記する)を5-ヒドロキシメチルシトシン(5-hmC)に変換する活性を有するメチルシトシンジオキシゲナーゼ(methylcytosine dioxygenase)であって、エピゲノムの一形態であるDNAの脱メチル化(ヒドロキシメチル化)に関与する。
TET2遺伝子は、先述のmiR-29の標的遺伝子である。
TET2遺伝子は、無脊椎動物及び脊椎動物に属する様々な生物種に存在するが、前立腺癌診断マーカーを構成するTET2遺伝子の由来生物種はヒトである。ヒトTET2遺伝子には、TET2a及びTET2bの2種のアイソフォームが知られているが、前立腺癌診断マーカーを構成するTET2遺伝子は、いずれのアイソフォームも包含する。
ヒトTET2遺伝子の塩基配列は、後述するヒトTET2タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列であればよい。具体的には、例えば、TET2a遺伝子の塩基配列であれば配列番号7で示す塩基配列が、またTET2b遺伝子の塩基配列であれば配列番号10で示す塩基配列が挙げられる。
本明細書において「TET2遺伝子転写産物」とは、TET2 mRNA及びそれを鋳型として作製されたTET2 cDNAをいう。TET2 mRNAは、TET2 mRNA前駆体(pre-mRNA)及びTET2成熟mRNAのいずれも包含するが、実質的にはTET2成熟mRNAを意味する。
ヒトTET2遺伝子転写産物の具体的な塩基配列は、例えば、TET2a成熟mRNAであれば、配列番号7で示す塩基配列中のt(チミン)をu(ウラシル)に置換した配列番号8で示す塩基配列が、またTET2b成熟mRNAであれば、配列番号10で示す塩基配列中のtをuに置換した配列番号11で示す塩基配列が、挙げられる。さらに、ヒトTET2遺伝子転写産物がTET2a cDNA及びTET2b cDNAであれば、それぞれTET2a遺伝子及びTET2b遺伝子と同じ配列番号7及び配列番号10で示す塩基配列が一例として挙げられる。
(4)その核酸断片
本明細書において「その核酸断片」とは、前述のヒトTET2遺伝子転写産物の部分断片をいう。核酸断片の塩基の長さは、特に限定はしないが、下限はTET2遺伝子転写産物の断片であることが特定でき、かつ試料中のTET2遺伝子転写産物断片を検出可能な長さであればよい。例えば、15塩基以上、好ましくは20塩基以上、より好ましくは30塩基又は40塩基以上が挙げられる。一方、上限はTET2遺伝子転写産物の全長よりも1塩基少ない長さである。本明細書ではTET2遺伝子転写産物断片とその核酸断片をまとめて、しばしば「TET2遺伝子転写産物断片等」と表記する。
(5)その翻訳産物
本明細書において「その翻訳産物」とは、TET2遺伝子の翻訳産物、すなわちTET2タンパク質をいう。
TET2タンパク質は、前述のようにDNAの脱メチル化に関与するメチルシトシンジオキシゲナーゼである。アンドロゲン及びARを介した遺伝子発現の細胞内シグナル伝達経路において下流の前立腺癌の悪性化に関与する遺伝子群の発現を抑制的に制御する機能を有することや、自身はアンドロゲンにより誘導されるmiR-29により発現抑制制御を受けることが本発明者らにより明らかとなった。
TET2タンパク質も、無脊椎動物及び脊椎動物に属する様々な生物種に存在するが、前立腺癌診断マーカーを構成するTET2タンパク質の由来生物種はヒトである。
ヒトTET2タンパク質のアミノ酸配列は、各アイソフォームのアミノ酸配列を包含する。例えば、TET2aタンパク質のアミノ酸配列であれば配列番号9で示すアミノ酸配列が、またTET2bタンパク質のアミノ酸配列であれば配列番号12で示すアミノ酸配列が挙げられる。
(6)そのペプチド断片
本明細書において「そのペプチド断片」とは、前述のヒトTET2タンパク質の部分断片をいう。ペプチド断片のアミノ酸の長さは、特に限定はしないが、下限はTET2タンパク質断片であることが特定でき、かつ試料中のTET2タンパク質断片を検出可能な長さであればよい。例えば、10アミノ酸以上、好ましくは15アミノ酸以上、より好ましくは20アミノ酸以上が挙げられる。一方、上限はTET2タンパク質の全長よりも1アミノ酸少ない長さである。本明細書ではTET2タンパク質とそのペプチド断片をまとめて、しばしば「TET2タンパク質等」と表記する。
(7)5-ヒドロキシメチルシトシン
「5-ヒドロキシメチルシトシン(5-hydroxymethylcytosine:5-hmC)」は、ピリミジン塩基の一つであるシトシンの修飾体をいう。
5-hmCは、DNA脱メチル化反応における起点物質であり、生体内では5-mCのメチル基がTET2タンパク質等の触媒活性によってヒドロキシル化されて生じる。したがって、試料中のTET2タンパク質等の量又は活性と正の相関関係にある。それ故に、TET2タンパク質等と共に本発明の前立腺癌診断マーカーを構成し得る。
本明細書において、前立腺癌診断マーカーを構成する5-hmCは、ゲノムDNA上の修飾核酸であることが好ましいが、遊離した5-hmCであってもよい。
5-hmCも、無脊椎動物及び脊椎動物に属する様々な生物種に存在するが、前立腺癌診断マーカーを構成する5-hmCの由来生物種はヒトである。
2.前立腺癌の罹患鑑別方法
2−1.概要
本発明の第2の態様は、前立腺癌の罹患鑑別を補助する方法である。本発明の前立腺癌の罹患鑑別方法は、被験者から採取された試料中に存在する第1態様の前立腺癌診断マーカーの量を測定し、健常体群由来の髄液中に存在する前立腺癌診断マーカーの量と比較することによって、被験者の前立腺癌罹患の鑑別を補助することができる。
2−2.方法
本発明の前立腺癌罹患鑑別方法は、(1)測定工程、(2)比較工程、及び(3)判定工程を必須の工程として含む。以下、各工程について具体的に説明をする。
(1)測定工程
「測定工程」とは、被験者及び健常者群から採取された試料中の所定量あたりに含まれる第1態様に記載の前立腺癌診断マーカーの量を測定してその測定値する工程である。
本明細書において「被験者」とは、ヒト個体であって、本発明の各態様における適用対象者をいう。被験者の生死は問わないが、好ましくは生体である。また、被験者は前立腺癌罹患体、前立腺癌の罹患可能性がある個体、又は健常体のいずれであってもよい。
本明細書において「健常者」とは、健常状態にあるヒト個体をいう。「健常状態」とは、少なくとも前立腺癌に罹患していない状態、好ましくは疾患や障害のない健全な状態を意味する。健常者は、本態様の鑑別方法において被験者との比較基準となる。それ故に、被験者と健常者の人種、性別、年齢、身長、体重等の身体的条件は同一である又は近似することが好ましい。また本明細書では複数の健常者からなる集団を「健常者群」と称する。ここでいう「複数」とは、好ましくは3以上である。
本明細書において「試料」とは、前記被験者及び健常者又は健常者群から採取され、本態様の前立腺癌罹患鑑別方法に供されるものをいう。例えば、組織、細胞、又は体液が該当する。ここでいう「組織」及び「細胞」は、被験者又は健常者のいずれの部位由来でもよい。好ましくは生検により採取された、又は手術により切除された検体、より具体的には前立腺組織又は前立腺細胞である。特に好ましくは生検により採取された前立腺癌細胞又は前立腺癌罹患の疑いのある前立腺癌組織又は前立腺癌細胞である。また、ここでいう「体液」とは、被験者及び健常者から採取される液状試料をいう。例えば、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、尿、精液(前立腺液を含む)、腹水、及び各組織若しくは細胞の抽出液等が挙げられる。好ましくは血液、尿、又は精液である。なお、本工程に供する被験者と健常者における試料は、一方が尿であれば他方も尿とするように、互いに同種の試料とする。
試料の採取は、組織又は細胞であれば、生検又は手術による外科的摘出により入手すればよい。また、体液であれば、当該分野の公知の方法に基づいて行なえばよい。本態様の前立腺癌罹患鑑別方法において必要となる試料の量は、特に限定はしない。一例として、組織又は細胞であれば少なくとも10μg、好ましくは少なくとも100μg、より好ましくは少なくとも1mgの重量があればよい。また血液、尿又は精液のような体液であれば、少なくとも100μL、好ましくは少なくとも1mL、より好ましくは少なくとも10mLの容量があればよい。試料は、第1態様の前立腺癌診断マーカーを測定可能なように、必要に応じて調製、処理することができる。例えば、試料が組織又は細胞であれば、ホモジナイズ処理や細胞溶解処理、遠心や濾過による夾雑物除去、プロテアーゼインヒビターの添加等が挙げられる。これらの処理の詳細についてはGreen, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに詳しく記載されており、参考にすればよい。
本明細書において「所定量」とは、容量又は重量により予め定められた量をいう。所定量は特に限定はしないが、前立腺癌患者の試料中に含まれる第1態様に記載の前立腺癌診断マーカーが測定可能な量以上でなければならない。所定量の例として、前立腺組織であれば10μg〜1mg、血液、尿又は精液であれば100μL〜3mLでよい。なお、被験者と健常者における試料の所定量は同一とする。
本明細書において「測定値」とは、本工程で測定される前立腺癌診断マーカーの量を示す値である。測定値は、容量又は重量のような絶対値であってもよく、また濃度、イオン強度、吸光度又は蛍光強度のような相対値であってもよい。
測定工程における健常者群の測定は、被験者の測定と異なり、本発明の前立腺癌罹患鑑別方法を実施する都度測定する必要は必ずしもない。例えば、試料の種類、試料の所定量、前立腺癌診断マーカーの種類等の測定方法や測定条件を一定にしておくことで、取得済みの健常者群の測定値を利用することができる。具体的には、様々な身体的条件で健常者群の測定値を予め取得して、又は以前に健常者群から取得した測定値を蓄積して、データベース化しておくことで、必要に応じて新たな被験者と同一又は近似の身体的条件をもつ健常者群データをデータベースから呼び出して使用することができる。
前立腺癌診断マーカーの測定方法は、特に限定はしない。miR-29等やTET2遺伝子転写産物のような核酸、5-hmCのような修飾核酸、及びTET2タンパク質等のペプチドについて、それぞれ公知の定量方法を用いればよい。以下、核酸定量方法、ペプチド定量方法、5-hmC定量方法について、例を挙げて具体的に説明をする。
(核酸定量方法)
核酸定量方法であれば、核酸増幅法、ハイブリダイゼーション法、又はRNaseプロテクション法が挙げられる。
「核酸増幅法」とは、プライマーを用いて、標的核酸の特定の領域を核酸ポリメラーゼによって増幅させる方法をいう。例えば、PCR法(RT-PCR法を含む)、NASBA法、ICAN法、LAMP(登録商標)法(RT-LAMP法を含む)が挙げられる。好ましくはPCR法である。本発明の前立腺癌診断マーカーが、miR-29等やTET2 mRNAの場合には、逆転写反応(RT反応)を介した核酸増幅法、例えば、RT-PCR法又はRT-LAMP法が採用される。特に本発明では、試料中に存在する前立腺癌診断マーカーの量を測定する必要があるため、リアルタイムRT-PCR法のような定量的核酸増幅法を用いることが好ましい。前立腺癌診断マーカーが、miR-29ような20塩基程度のRNAの場合には、通常の定量的核酸増幅法では標的核酸が短すぎて適当に増幅することができない。そこで、各メーカーから市販されているmiRNA増幅用のキットや特殊なプライマーを利用して増幅すればよい。一例として、Thermo Fisher Scientific社から市販されているApplied Biosystems TaqMan(登録商標) MicroRNA Assays Kitが挙げられる。このキットに付属の各miRNA特異的なLooped RTプライマーを使用すれば、目的の成熟miRNAを効率的に逆転写させた後に増幅が可能となるため有用である。Looped RTプライマーは、3’末部分が標的成熟miRNAの3’末領域に相補的な配列を有する数塩基突出したヘアピン構造を自己形成する。その突出した3’末部分が標的miRNAの3’末領域とアニーリングした後、RTaseで標的miRNAを鋳型に伸長される。その後、伸長産物を鋳型に通常のリアルタイムPCRを行うことで、標的miRNAを特異的に増幅することが可能となる。
リアルタイムPCRの反応条件は、一般に、公知のPCR法を基礎として、増幅する核酸断片の塩基長及び鋳型用核酸の量、並びに使用するプライマーの塩基長及びTm値、使用する核酸ポリメラーゼの至適反応温度及び至適pH等により変動するため、これらの条件に応じて適宜定めればよい。一例として、通常、変性反応を94〜95℃で5秒〜5分間、アニーリング反応を50〜70℃で10秒〜1分間、伸長反応を68〜72℃で30秒〜3分間行い、これを1サイクルとして15〜40サイクルほど繰り返し、最後に68〜72℃で30秒〜10分間の伸長反応を行うことができる。市販のキットを使用する場合には、原則としてキットに添付のプロトコルに従って行えばよい。
リアルタイムPCRで用いられる核酸ポリメラーゼは、DNAポリメラーゼ、特に熱耐性DNAポリメラーゼである。このような核酸ポリメラーゼは、様々な種類のものが市販されており、それらを利用することもできる。例えば、前記Applied Biosystems TaqMan(登録商標) MicroRNA Assays Kit(Thermo Fisher Scientific社)に添付のTaq DNAポリメラーゼが挙げられる。特にこのような市販のキットには、添付のDNAポリメラーゼの活性に最適化されたバッファ等が添付されているので有用である。
「ハイブリダイゼーション法」とは、検出すべき標的核酸の塩基配列の全部又は一部に相補的な配列を有する核酸断片をプローブとして用い、その核酸と該プローブ間の塩基対合を利用して、標的核酸若しくはその断片を検出、定量する方法である。ハイブリダイゼーション法には、検出手段の異なるいくつかの方法が知られているが、本発明では、標的核酸がmiRNAであることから、例えば、ノザンハイブリダイゼーション法(ノザンブロットハイブリダイゼーション法)、RNAマイクロアレイ法、表面プラズモン共鳴法又は水晶振動子マイクロバランス法が好ましい。
「ノザンハイブリダイゼーション法」は、遺伝子の発現を解析する最も一般的な方法である。試料より調製したRNAを変性条件下でアガロースゲル若しくはポリアクリルアミドゲル等による電気泳動によって分離し、フィルターに転写(ブロッティング)する。その後、標的RNA特異的な塩基配列に相補的な配列を含むプローブを用いて、その標的RNAを検出する。プローブを蛍光色素や放射性同位元素のような適当なマーカーで標識することで、例えば、ケミルミ(化学発光)撮影解析装置(例えば、ライトキャプチャー;アトー社)、シンチレーションカウンター、イメージングアナライザー(例えば、FUJIFILM社:BASシリーズ)等の測定装置を用いて標的RNAを定量することも可能である。ノザンハイブリダイゼーション法は、当該分野において周知著名な技術であり、例えば、Green, M.R. and Sambrook, J.(前述)を参照すればよい。
「RNAマイクロアレイ法」は、DNAマイクロアレイ法をRNAに応用した方法である。基板上に標的とする核酸の塩基配列の全部若しくは一部に相補的な配列を含む核酸断片をプローブとして小スポット状に高密度で配置、固相化し、これに標的核酸を含む試料を反応させて、基盤スポットにハイブリダイズした核酸を蛍光等によって検出、定量する。検出、定量は、標的核酸等のハイブリダイゼーションに基づく蛍光等をマイクロプレートリーダーやスキャナーにより検出、測定することで達成できる。RNAマイクロアレイ法も当該分野において周知の技術である。例えば、DNAマイクロアレイ法(DNAマイクロアレイと最新PCR法(2000年)村松正明、那波宏之監修、秀潤社)等を参照すればよい。
「表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)法」とは、表面プラズモン共鳴現象を利用して、金属薄膜表面上の吸着物を高感度に検出、定量する方法である。表面プラズモン共鳴現象とは、金属薄膜へ照射したレーザー光の入射角度を変化させると特定の入射角度(共鳴角)において反射光強度が著しく減衰する現象をいう。本発明では、金属薄膜表面に標的核酸分子であるmiR-29等又はTET2 mRNAの塩基配列に相補的な配列を有する核酸プローブを固定化し、その他の金属薄膜表面部分をブロッキング処理した後、被験者から採取した体液等の液体試料を金属薄膜表面に流通させることによって標的核酸分子と核酸プローブの塩基対合を形成させて、試料流通前後の測定値の差異から標的核酸分子を検出、及び定量する。表面プラズモン共鳴法による検出、定量は、例えば、Biacore社で市販されるSPRセンサを利用して行なうことができる。本技術は、当該分野において周知である。例えば、永田和弘、及び半田宏, 生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法, シュプリンガー・フェアラーク東京, 東京, 2000を参照すればよい。
「水晶振動子マイクロバランス(QCM: Quarts Crystal Microbalance)法」とは、水晶振動子に取り付けた電極表面に物質が吸着するとその質量に応じて水晶振動子の共振周波数が減少する現象を利用して、共振周波数の変化量によって極微量な吸着物を定量的に捕らえる質量測定法である。本方法による検出、定量も、SPR法と同様に市販のQCMセンサを利用して、例えば、電極表面に固定した標的核酸分子の塩基配列に相補的な配列を有する核酸プローブと被験者から採取された試料中の標的核酸分子との塩基対合によって標的核酸分子を検出、定量することができる。本技術は、当該分野において周知であり、例えば、J.Christopher Love,L.A.Estroff,J.K.Kriebel,R.G.Nuzzo,G.M.Whitesides(2005) Self-Assembled Monolayers of a Form of Nanotechnology, Chemical Review,105:1103-1170;森泉豊榮,中本高道,(1997) センサ工学,昭晃堂を参照すればよい。
前記ハイブリダイゼーション法で用いるプローブは、配列番号1、2、3、7又は10で示す塩基配列の全部又は一部に相補的な塩基配列を有する核酸断片を用いればよい。プローブの塩基長は、標的核酸分子がmiR-29の場合には、8塩基以上であればよいが、好ましくは10塩基以上又は12塩基以上、より好ましくは15塩基以上、全長以下である。標的核酸分子がmiR-29前駆体やTET2 mRNA若しくはTET2 cDNAの場合には、20塩基以上又は25塩基以上、好ましくは30塩基以上あってもよい。プローブを構成する核酸は、通常、低コストで合成でき、かつ安定性高いDNAでよいが、必要に応じて全部又は一部にPNA(Peptide Nucleic Acid)、BNA(Bridged Nucleic Acid)/LNA(Locked Nucleic Acid)、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸や擬似核酸又はそれらの組み合わせを含むこともできる。また、ハイブリダイゼーション法で用いるプローブは、蛍光色素(例えば、フルオレサミン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、DIG、FITC、cy3、cy5、FAM、HEX、VIC)、クエンチャー物質(TAMRA、DABCYL、BHQ-1、BHQ-2、又はBHQ-3)、ビオチン若しくは(ストレプト)アビジン、又は磁気ビーズ等の修飾物質、あるいは放射性同位元素(例えば、32P、33P、35S)等を用いて修飾又は標識することができる。ハイブリダイゼーションは、非特異的にハイブリダイズする目的外の核酸を排除するため低塩濃度かつ高温下のストリンジェントな条件で行うことが好ましい。
「RNAプロテクション法」とは、標的RNAに相補的な塩基配列を有するDNAプローブを用いて、標的RNAとプローブをハイブリダイズさせた後にRNase処理を行い、プローブのハイブリダイズにより分解を免れたRNAを電気泳動によって分離、検出することで、標的RNAを検出、定量する方法である。電気泳動による分離及び検出の方法については基本的に前記ハイブリダイゼーション法と同様である。
(ペプチド定量方法)
ペプチド定量方法であれば、抗体を用いた免疫学的検出法、アプタマー解析法、又は質量分析法等が挙げられる。
「免疫学的検出法」とは、標的ペプチド分子と特異的に結合する抗体又はその断片を用いて、試料中の標的ペプチド分子を定量する方法である。
免疫学的検出法で使用する抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、合成抗体、及び抗体フラグメントのいずれを使用してもよい。
抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の場合、免疫グロブリン分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgA、IgD及びIgY)、又は任意のサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2)でよい。抗体は、哺乳動物及び鳥を含めたいずれの動物由来とすることができる。例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ロバ、ヒツジ、ラクダ、ウマ、ニワトリ又はヒト等が挙げられる。
「組換え抗体」は、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は多重特異性抗体を含む。「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の抗体のアミノ酸配列を組み合わせて作製される抗体で、ある生物種由来の抗体における可変領域(V領域)を他の生物種由来の抗体におけるV領域と置換した抗体である。例えば、標的ペプチドと特異的に結合するマウスモノクローナル抗体のV領域をヒト抗体のV領域と置き換え、V領域がマウス由来、定常領域(C領域)がヒト由来となった抗体が該当する。「ヒト化抗体」とは、ヒト抗体のV領域において抗原特異性を決定する相補性決定領域(CDR;CDR1、CDR2及びCDR3)をヒト以外の哺乳動物の抗体の各CDRと置換するCDRグラフト技術によって構築された組換え抗体である。例えば、適当なヒト抗体のCDRを標的ペプチドと特異的に結合するマウス抗体の各CDRと置換した抗体が該当する。「多重特異性抗体」とは、多価抗体、すなわち抗原結合部位を一分子内に複数有する抗体において、それぞれの抗原結合部位が異なるエピトープと結合する抗体をいう。例えば、2つの抗原結合部位を有し、各抗原結合部位が同一の又は異なるエピトープと特異的に結合する二重特異性抗体(Bispecific抗体)が挙げられる。
「合成抗体」とは、化学的方法又は組換えDNA法を用いることによって合成した抗体をいう。例えば、適当な長さと配列を有するリンカーペプチド等を介して、特定の抗体の一以上のVL及び一以上のVHを人工的に連結させた一量体ポリペプチド分子、又はその多量体ポリペプチドが該当する。このようなポリペプチドの具体例としては、一本鎖Fv(scFv :single chain Fragment of variable region)(Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995, Pierce Chemical Co., Rockford, IL参照)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。免疫グロブリン分子において、VL及びVHは、通常別々のポリペプチド鎖(軽鎖と重鎖)上に位置する。一本鎖Fvは、これら2つのポリペプチド鎖上のV領域を十分な長さの柔軟性リンカーによって連結し、1本のポリペプチド鎖に包含した構造を有する合成抗体断片である。一本鎖Fv内において両V領域は、互いに自己集合して1つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。一本鎖Fvは、それをコードする組換えDNAを、公知技術を用いてファージゲノムに組み込み、発現させることで得ることができる。ダイアボディは、一本鎖Fvの二量体構造を基礎とした構造を有する分子である(Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448)。例えば、上記リンカーの長さが約12アミノ酸残基よりも短い場合、一本鎖Fv内の2つの可変部位は自己集合できないが、ダイアボディを形成させて、2つの一本鎖Fvを相互作用させることにより、一方のFv鎖のVLが他方のFv鎖のVHと集合可能となり、2つの機能的な抗原結合部位を形成することができる(Marvin et al., 2005, Acta Pharmacol. Sin. 26:649-658)。さらに、一本鎖FvのC末端にシステイン残基を付加させることにより、2本のFv鎖同士のジスルフィド結合が可能となり、安定的なダイアボディを形成させることもできる(Olafsen et al., 2004, Prot. Engr. Des. Sel. 17:21-27)。このようにダイアボディは二価の抗体断片であるが、それぞれの抗原結合部位は、同一エピトープと結合する必要はなく、それぞれが異なるエピトープを認識し、特異的に結合する二重特異性を有していてもよい。トリアボディ、及びテトラボディは、ダイアボディと同様に一本鎖Fv構造を基本としたその三量体、及び四量体構造を有する。それぞれ、三価、及び四価の抗体断片であり、多重特異性抗体であってもよい。
「抗体フラグメント」とは、例えば、Fab、F(ab’2)、Fv等が該当する。
免疫学的検出法には、例えば、酵素免疫測定法(ELISA法、EIA法を含む)、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、表面プラズモン共鳴法(SPR法)、水晶振動子マイクロバランス(QCM)法、免疫比濁法、ラテックス凝集免疫測定法、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応法、金コロイド法、キャピラリー電気泳動法、ウェスタンブロット法又は免疫組織化学法(免疫染色法)が挙げられる。
「アプタマー解析法」は、標的分子と強固、かつ特異的に結合する核酸アプタマーを用いて、本発方法の標的ペプチド分子であるTET2タンパク質等を定量する方法である。核酸アプタマーは、立体構造によって標的分子と強固、かつ特異的に結合する能力を持つリガンド分子である。
核酸アプタマーを構成する核酸は、DNA、RNA又はそれらの組合せのいずれであってもよい。必要に応じて、PNA、LNA/BNA、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸を含むこともできる。
核酸アプタマーは、前立腺癌診断マーカーであるTET2タンパク質等を標的分子として、当該分野で公知の方法により作製することができる。例えば、RNAアプタマーであれば、SELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法を用いて試験管内選別により作製することができる。SELEX法とは、ランダム配列領域とその両端にプライマー結合領域を有する多数のRNA分子によって構成されるRNAプールから標的分子である前立腺癌診断マーカーに結合したRNA分子を選択し、回収後にRT-PCR反応によって増幅した後、得られたcDNA分子を鋳型として転写を行い、それを次のラウンドのRNAプールにするという一連のサイクルを数〜数十ラウンド繰り返して、TET2タンパク質等に対して、より結合力の強いRNAを選択する方法である。ランダム配列領域とプライマー結合領域の塩基配列長は特に限定はしない。一般的にランダム配列領域は、20〜80塩基、プライマー結合領域は、それぞれ15〜40塩基の範囲である。以上の方法によって最終的に得られたRNA分子を前立腺癌診断マーカー結合性RNAアプタマーとして利用する。なお、SELEX法は、公知の方法であり、具体的な方法は、例えば、Panら(Proc. Natl. Acad. Sci. 1995, U.S.A.92: 11509-11513)に準じて行えばよい。
上記抗体又は核酸アプタマーは、必要に応じて標識されていてもよい。標識は、当該分野で公知の標識物質を利用すればよい。抗体及びペプチドアプタマーの場合、例えば、蛍光色素(フルオレセイン、FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、放射性同位元素(例えば、3H、14C、35S)又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンにより標識することができる。また、核酸アプタマーの場合、例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、cy3、cy5、cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエスター)が挙げられる。標識物質で標識された抗体や核酸アプタマーは、TET2タンパク質等と結合した抗体又は核酸アプタマーを検出する際に有用である。
「質量分析法」には、高速液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS)、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析法(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)、ガスクロマトグラフタンデム質量分析法(GC-MS/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)及びICP質量分析法(ICP-MS)が挙げられる。
上記分析法は、いずれも当該分野に公知の技術であって、それらの方法に準じて行えばよい。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J.(前述);Christopher J., et al., 2005, Chemical Review,105:1103-1170;Iijima Y. et al., 2008,.The Plant Journal, 54,949-962;Hirai M. et al.,2004, Proc Natl Acad Sci USA, 101(27) 10205-10210;Sato S, et al., 2004,,The Plant Journal, 40(1)151-163; Shimizu M. et al., 2005, Proteomics, 5,3919-3931に記載の方法に準じて行うことができる。また、各メーカーから各種核酸又はペプチド定量キットが市販されており、それらを利用してもよい。
本工程では、被験者及び健常者群の測定値を補正するために、試料中で量的差異のない公知のmiRNA、mRNA又はタンパク質を内部対照として同時に測定してもよい。このような内部対照用核酸及びペプチドには、例えば、RNU6B、RNU48やβ-アクチンが挙げられる。
(5-hmC定量方法)
修飾核酸である5-hmCを定量する方法には、抗体を用いた免疫学的検出法又は質量分析法等が挙げられる。
ここでの「免疫学的検出法」は、標的分子である5-hmCと特異的に結合する抗体、すなわち抗5-hmC抗体、又はその断片を用いて、試料中の5-hmCを定量する方法である。抗体の具体的な構成については、前述の「(ペプチド定量方法)」の項で具体的に説明していることから、ここでの説明は省略する。
また、質量分析法についても前述の「(ペプチド定量方法)」の項で説明したとおりである。
(2)比較工程
「比較工程」は、前記測定工程で得られた被験者及び健常者群の測定値を比較する工程である。測定値の比較は、前記測定工程で得られた被験者の測定値と健常者群の測定値間で行う。健常者群の測定値は、健常者群を構成する各健常者の測定値の平均値でよい。また、比較前に、前記前述の内部対照の測定値を用いて、被験者及び健常者群の測定値を補正してもよい。
本工程では、被験者の測定値と健常者群の測定値に比較によって、被験者の測定値が健常者群の測定値に対して有意であるか、又は被験者の測定値が所定のカットオフ値(cutoff value)を超えるか否かを比較結果として決定する。
本明細書において「有意」とは、統計学的に有意であることをいう。具体的には、被験者と健常者群の測定値の差異を統計学的に処理したときに、両者間に有意差があることをいう。例えば、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には5%より小さい場合(p<0.05)、1%より小さい場合(p<0.01)、又は0.1%より小さい場合(p<0.001)が挙げられる。ここで示す「p(値)」は、統計学的検定において、統計量が仮定した分布の中で、仮定が偶然正しくなる確率を示す。したがって「p」が小さいほど、仮定が真に近いことを意味する。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、共変量分散分析等を用いることができる。
「カットオフ値」とは、分類結果の陽性又は陰性を判定するための境界値をいう。ここでいう陽性は前立腺癌に罹患している可能性が高いことを、また陰性は罹患していない可能性が高いことを、示す。カットオフ値は、ROC曲線から導かれる。
「ROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)」は、
縦軸を真陽性率(TPF: True Position Fraction)、すなわち感度、横軸を偽陽性率(FPF: False Position Fraction)、すなわち(1−特異度)とし、検査結果のどの値を所見ありと判断するかの閾値、つまりカットオフポイント(cutoff point)を媒介変数として変化させてプロットしていくことで作成される。特異度とは、陰性者を正確に陰性と判断する率である。
本発明において作成したROC曲線から、どのカットオフポイントをカットオフ値として採用するかは、前立腺癌の進行度や検査の位置づけ、その他種々の条件より決定すればよい。通常、カットオフポイントを偽陽性率の低い点に採ると、健常者で陽性となる者は減るものの、逆に有疾患者を多数除いてしまう結果、感度が低くなる。反対に感度を高めると健常者における偽陽性率が高くなってしまう。一般に感度、特異度をともに高める(1に近づくようする)ためには、カットオフ値がROC曲線上で点(0,1)に最も近い点を与える値に設定すればよい。なお、生検のような侵襲の大きな検査の前にスクリーニング検査としてその検査を実施するような状況では、取りこぼしを少なくするために、感度が高めになるようにカットオフ値を設定すればよい。
カットオフ値は、例えば、健常者群から得られた測定値のパーセンタイル値で表すことができる。具体的には、健常者群から得られた測定値の95パーセンタイル又は5パーセンタイルをカットオフ値に設定した場合、次の判定工程ではこのカットオフ値に基づいて被験者の測定値の陽性又は陰性を分類することができる。
(3)判定工程
「判定工程」は、前記比較工程での比較結果に基づいて被験者における前立腺癌の罹患の有無を判定する工程である。
判定は、第1態様の前立腺癌診断マーカー及び比較結果の種類に応じて以下のように行う。
(A)第1態様の前立腺癌診断マーカーがmiR-29等の場合
被験者の測定値が健常者群の測定値に対して有意に高い場合には、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する。
また、被験者の測定値がカットオフ値を超える場合には、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する。例えば、健常者群から得られた測定値の95パーセンタイルをカットオフ値とした場合、被験者の測定値が95パーセンタイルの値を超えていれば、その被験者は陽性、すなわち前立腺癌に罹患していると判定する。
(B)第1態様の前立腺癌診断マーカーがTET2遺伝子転写産物等、TET2タンパク質等、又は5-hmCの場合
被験者の測定値が健常者群の測定値に対して有意に低い場合には、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する。
また、被験者の測定値がカットオフ値を超えない場合には、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する。例えば、健常者群から得られた測定値の5パーセンタイルをカットオフ値とした場合、被験者の測定値が5パーセンタイルの値を超えていなければ、その被験者は陽性、すなわち前立腺癌に罹患していると判定する。
3.前立腺癌治療剤
3−1.概要
本発明の第3の態様は、前立腺癌治療剤である。本発明の前立腺癌治療剤は、従来のホルモン療法による前立腺癌治療剤とは異なる作用点で奏効する。それ故に、従来方法では十分な治療効果を期待できないCRPCに対して有効な前立腺癌治療剤となり得る。
3−2.構成
3−2−1.構成成分
(1)有効成分
本発明の前立腺癌治療剤は、miR-29阻害剤、TET2タンパク質若しくはその活性断片、TET2遺伝子発現増強剤、又はそれらの組み合わせを必須の有効成分として包含する。また、アンドロゲン受容体阻害剤(AR阻害剤)を選択的有効成分として、さらに包含することもできる。それぞれの有効成分について以下で具体的に説明をする。
(miR-29阻害剤)
「miR-29阻害剤」とは、生体内においてmiR-29が有するRNAi活性を阻害することができる薬剤をいう。前述のようにmiR-29は、アンドロゲン及びARを介した遺伝子発現の細胞内シグナル伝達経路において標的遺伝子であるTET2遺伝子の発現を抑制している。TET2タンパク質は、前立腺癌の悪性化に関与する遺伝子群の発現を抑制的に制御している。したがって、miR-29阻害剤は、miR-29の機能阻害を介して、細胞内のTET2遺伝子の発現量を増加させることで、前立腺癌の増殖や進行を抑制することができる。
miR-29阻害剤は、miR-29に特異的に結合する核酸分子で構成される。このような核酸分子には、例えば、抗miRNAオリゴヌクレオチド(anti-miRNA oligonucleotide:本明細書では、しばしば「AMO」と表記する)や核酸アプタマーが挙げられる。
「抗miRNAオリゴヌクレオチド(AMO)」は、アンチセンス法を原理とするmiRNA阻害剤である。標的miRNAの塩基配列に相補的な配列を含むことで標的miRNAと塩基対合を介して結合し、標的miRNAの機能を阻害する。AMOは、その塩基配列の一部又は全部をPNA、又はBNA/LNA等の擬似核酸、又はメチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸にすることができる。AMOの塩基配列長は、特に限定はしないが、20塩基以上50塩基以下、21塩基以上40塩基以下、22塩基以上35塩基以下、又は22塩基以上30塩基以下でよい。
本発明のmiR-29抗miRNAオリゴヌクレオチド(miR-29-AMO)は、配列番号1で示すヒトmiR-29aの塩基配列、配列番号2で示すヒトmiR-29bの塩基配列、及び配列番号3で示すヒトmiR-29cの塩基配列のそれぞれに相補的な塩基配列を含む。各ヒトmiR-29メンバーに共通する塩基配列に相補的な塩基配列を含んでいてもよい。好ましくは配列番号1及び/又は2に相補的な塩基配列を含むことである。
miR-29-AMOは、自ら設計して合成してもよいが、各メーカーで市販されているか又は委託合成することが可能であり、それらを購入してもよい。例えば、miRCURY LNATM microRNA inhibitor(TAKARA社)、及びIDT(登録商標) miRNA inhibitor(MBL社)を利用することができる。
「核酸アプタマー」の構成については、第2態様で詳述したことから、ここではその説明を省略する。
miR-29を標的分子とする核酸アプタマー(miR-29アプタマー)は、RNAアプタマー又はDNAアプタマーのいずれであってもよい。miR-29アプタマーは、自ら合成し、SELEX法により探索してもよいが、各メーカーで探索・合成受託サービスが提供されており、それらを利用してもよい。
(TET2タンパク質及びその活性断片)
「TET2タンパク質」は、第1態様に記載の「その翻訳産物」、すなわちTET2遺伝子の翻訳産物であるTET2タンパク質に準ずる。ただし、第1態様に記載のTET2タンパク質が配列番号9又は12で示すアミノ酸配列からなるヒト野生型TET2タンパク質のみを対象としていたのに対して、本態様に記載のTET2タンパク質は、それに加えてヒトTET2タンパク質と同等以上のメチルシトシンジオキシゲナーゼ活性を有する、ヒト変異型TET2タンパク質やヒトTET2タンパク質の他種オルソログを包含する概念である。これはヒトTET2タンパク質と同じ活性を有していれば、前立腺癌細胞内においてヒトTET2タンパク質と同じ作用効果が期待できるためである。このようなヒト変異型TET2タンパク質又はヒトTET2オルソログタンパク質の例として、配列番号9で示すアミノ酸配列からなるTET2aタンパク質のアミノ酸配列や配列番号12で示すアミノ酸配列からなるTET2bタンパク質のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換したアミノ酸配列からなる同種又は他種TET2タンパク質や、前述のアミノ酸配列に対して80%以上又は85%以上、好ましくは90%以上、95%以上、より好ましくは96%以上、97%以上、98%以上又は99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列からなる同種又は他種TET2タンパク質が挙げられる。本明細書において「複数個」とは、例えば、2〜20個、2〜15個、2〜10個、2〜7個、2〜5個、2〜4個又は2〜3個をいう。「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じていずれかのアミノ酸配列にギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときに、配列番号9又は12で示すアミノ酸配列の全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸の割合(%)をいう。
「(その)活性断片」とは、本態様のTET2タンパク質の一部からなる機能断片で、TET2タンパク質のメチルシトシンジオキシゲナーゼ活性を保持し、それ単体でTET2タンパク質と同等以上の酵素活性を示すペプチドをいう。本明細書の活性断片は、TET2タンパク質の酵素活性ドメインを含むペプチドが該当する。酵素活性ドメインを含み、TET2タンパク質としての活性を保持する限り、活性断片のアミノ酸長は問わない。
(TET2遺伝子発現増強剤)
「TET2遺伝子発現増強剤」とは、前立腺細胞又は前立腺癌細胞等においてTET2遺伝子の発現を増強することのできる薬剤をいう。前立腺癌細胞内では、miR-29の抑制制御によって内在TET2遺伝子の発現が抑制されている。そこで、前立腺癌細胞内でTET2遺伝子を強制発現させて、miR-29の抑制制御を回避することによって前立腺癌の増殖や進行を抑制することができる。
TET2遺伝子発現増強剤は、TET2遺伝子を強制発現することのできる核酸分子で構成される。例えば、TET2遺伝子発現ベクターが挙げられる。
「発現ベクター」とは、遺伝子や遺伝子断片を発現可能な状態で含み、その遺伝子等の発現を制御できる発現単位をいう。本明細書において「TET2遺伝子発現ベクター」とは、本態様のTET2タンパク質をコードするTET2遺伝子又はその活性断片をコードするヌクレオチド(本明細書では、これらをまとめて「TET2遺伝子等」と表記する)を発現可能な状態で含む発現ベクターをいう。
本明細書において「発現可能な状態」とは、プロモーターの制御下である下流域にTET2遺伝子等を機能的に配置していることをいう。したがって、プロモーターが活性することでTET2遺伝子等は発現が誘導される。
本発明のTET2遺伝子発現ベクターは、被験者の体内で複製かつ発現が可能な様々な発現ベクターを利用することができる。例えば、ウイルスベクターが挙げられる。ウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等に由来する種々のベクターが含まれる。
TET2遺伝子の具体例として、配列番号7で示す塩基配列からなるTET2a遺伝子、及び配列番号10で示す塩基配列からなるTET2b遺伝子が挙げられる。
TET2遺伝子発現ベクターは、2以上のTET2遺伝子等を発現可能な状態で含んでもよい。この場合、それぞれは同一のTET2遺伝子発現子等であってもよいし、異なるTET2遺伝子発現等であってもよい。
(それらの組み合わせ)
前記「それらの組み合わせ」とは、上記有効成分の2以上の組み合わせをいう。具体的には、miR-29阻害剤、TET2タンパク質、その活性断片、又はTET2遺伝子発現増強剤のから選択される2以上の組み合わせである。互いの薬理効果を減じない限り、有効成分の組み合わせの上限は特に限定しない。通常は、2〜5種の範囲内で組み合わせればよい。例えば、miR-29阻害剤、TET2タンパク質、及びTET2遺伝子発現増強剤の組み合わせが挙げられる。組み合わせは、各有効成分の中から2以上を選択してもよい。例えば、miR-29阻害剤に包含されるmiR-29-AMOとmiR-29を組み合わせとして選択することもできる。
(AR阻害剤)
「アンドロゲン受容体阻害剤(AR阻害剤)」とは、AR遺伝子、AR遺伝子転写産物、又はARタンパク質に直接作用して、その機能を抑制又は阻害するARの機能阻害剤である。
AR阻害剤の作用点は、遺伝子発現(転写及び翻訳を含む)、細胞内移行(発現後の膜移行及びアンドロゲン結合後の核移行を含む)、及びタンパク質活性等のいずれであってもよい。AR阻害剤は、CRPC用として使用される既存のAR阻害剤を利用することができる。例えば、アンドロゲンとARの結合阻害活性やARの核移行阻害活性を阻害するエンザルタミドや、ARの遺伝子発現を抑制するAR siRNA、AR shRNAが挙げられる。
前立腺癌治療剤に含まれる各有効成分の含有量は、有効成分の種類、前立腺癌治療剤の剤形、前立腺癌治療剤の適用量、並びに後述する溶媒や担体の種類によって異なる。したがって、それぞれの条件を勘案して適宜定めればよい。通常は、単回適用量の前立腺癌治療剤に有効量の有効成分が包含されるように調整する。しかし、有効成分の薬理効果を得る上で、被験者に前立腺癌治療剤を大量に投与する必要がある場合、被験者の負担軽減のために数回に分割して投与することもできる。この場合、有効成分の量は、総合量で有効量を含んでいればよい。
本明細書において「有効量」とは、有効成分としての機能を発揮する上で必要な量であって、かつそれを適用する被験者に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。この有効量は、被験者の情報、適用経路、及び適用回数等の様々な条件によって変わり得る。本発明の前立腺癌治療剤を医薬組成物として使用する場合、有効成分の含有量は、最終的には、医師又は薬剤師等の判断によって決定される。
また、本明細書において、「被験者の情報」とは、被験者の様々な状態情報であって、例えば、ヒトの場合、年齢、体重、性別、全身の健康状態、疾患の有無、疾患の進行度や重症度、薬剤感受性、併用薬物の有無及び治療に対する耐性等を含む。また、細胞であれば、由来生物種、由来部位、細胞種(癌細胞由来か正常細胞由来か)及び癌細胞由来の場合その癌種を含む。
(2)溶媒
本発明の前立腺癌治療剤は、必要に応じて薬学的に許容可能な溶媒中に溶解することができる。「薬学的に許容可能な溶媒」とは、製剤技術分野において通常使用する溶媒をいう。例えば、水若しくは水溶液、又は有機溶剤が挙げられる。水溶液には、例えば、生理食塩水、ブドウ糖又はその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤には、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。有機溶剤には、エタノールが挙げられる。
(3)担体
本発明の前立腺癌治療剤は、必要に応じて薬学的に許容可能な担体を含むことができる。「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤、ヒト血清アルブミン等が挙げられる。
溶媒には、例えば、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る水溶液、又は薬学的に許容される有機溶剤のいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
賦形剤には、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖、金属塩、クエン酸、酒石酸、グリシン、ポリエチレングリコール、プルロニック、カオリン、ケイ酸、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
結合剤には、例えば、植物デンプンを用いたデンプン糊、ペクチン、キサンタンガム、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック、パラフィン、ポリビニルピロリドン又はそれらの組み合わせが挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が挙げられる。
充填剤としては、ワセリン、前記糖及び/又はリン酸カルシウムが例として挙げられる。
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
上記の他にも、必要であれば医薬組成物において通常用いられる可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、分散剤、界面活性剤、無痛化剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、湿潤剤、吸着剤、矯味矯臭剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、防腐剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤、等張化剤等を適宜含むこともできる。
上記担体は、被験者内で酵素等による前記有効成分の分解を回避又は抑制する他、製剤化や投与方法を容易にし、剤形及び薬効を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。
3−2−2.剤形
本発明の前立腺癌治療剤の剤形は、特に限定しない。被験者の体内で有効成分を失活させず、目的の部位にまで送達できる形態であればよい。
具体的な剤形は、後述する適用方法によって異なる。適用方法は、非経口投与と経口投与に大別することができるので、それぞれの投与法に適した剤形にすればよい。
投与方法が非経口投与であれば、好ましい剤形は、対象部位への直接投与又は循環系を介した全身投与が可能な液剤である。液剤の例としては、注射剤が挙げられる。注射剤は、前記賦形剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、pH調節剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
投与方法が経口投与であれば、好ましい剤形は、固形剤(錠剤、カプセル剤、ドロップ剤、トローチ剤を含む)、顆粒剤、粉剤、散剤、液剤(内用水剤、乳剤、シロップ剤を含む)が挙げられる。固形剤であれば、必要に応じて、当該技術分野で公知の剤皮を施した剤形、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠にすることができる。
なお、上記各剤形の具体的な形状、大きさについては、いずれもそれぞれの剤形において当該分野で公知の剤形の範囲内にあればよく、特に限定はしない。本発明の前立腺癌治療剤の製造方法については、当該技術分野の常法に従って製剤化すればよい。
3−3.適用方法
本発明の前立腺癌治療剤の適用経路は、経口投与でも、非経口投与でもよいが、経口投与法は、一般に全身投与であるが、非経口投与法は、さらに局所投与と全身投与に細分できる。局所投与には、例えば、筋肉内投与、皮下投与、組織投与、及び器官投与が該当し、全身投与には、例えば、静脈内投与(静注)及び動脈内投与が該当する。本発明の前立腺癌治療剤を局所投与する場合には、注射等で前立腺に直接投与すればよい。また、全身投与する場合には、静注すればよい。投与量は、有効成分が奏効する上で有効な量であればよい。有効量は、前述のように被験者情報に応じて適宜選択されるが、適用対象が標準的な大人のヒト個体であれば、通常1日当りの有効量は、50〜500 mg/m2となる。これを、1回又は数回に分けて投与すればよい。
3−4.適用対象
本発明の前立腺癌治療剤の適用対象となる被験者は、限定はしないが、前立腺癌患者、ホルモン療法により制癌状態にある前立腺癌保持者、CRPC患者が好ましい。特に、従来の治療剤では有効な治療効果が期待できないCRPC患者は、本発明の前立腺癌治療剤の適用対象として特に好適であり、治療効果も高い。
4.前立腺癌診断キット
4−1.概要
本発明の第4の態様は、前立腺癌診断キットである。本発明のキットは、試料中に含まれ得る第1態様に記載の前立腺癌診断マーカーを検出することができ、それによって試料提供者である被験者の前立腺癌の罹患の鑑別、及び/又は進行度(悪性度)の判定ができる。
4−2.構成
本発明の前立腺癌診断キットは、第2態様に記載の前立腺癌罹患鑑別方法の測定工程において、試料中の前立腺癌診断マーカーの測定方法に用いる各種測定子を一以上必須の構成物として包含する。測定子には、例えば、miR-29増幅用のプライマーペア、miR-29検出用プローブ(標識プローブを含む)、TET2 mRNAの増幅及び定量用の逆転写プライマー及び増幅プライマーペア、抗TET2抗体TET2-RNAアプタマー又はTET2-DNAアプタマー等が挙げられる。また、選択的構成物として測定子を用いて前立腺癌診断マーカーを測定する上で必要となる各種試薬(酵素、バッファー等)及びプロトコルを包含することができる。試薬には、例えば、逆転写酵素、熱耐性DNAポリメラーゼ等が該当する。
以下で本発明について具体例を挙げて説明するが、以下に示す実施例は、本発明の一実施形態に過ぎず、本発明を過度に限定するものではない。
<実施例1:アンドロゲン及びアンドロゲン機能阻害剤によるTET2遺伝子の発現変化>
(目的)
アンドロゲン及びアンドロゲン機能阻害剤により前立腺癌細胞及び派生したホルモン療法耐性モデル細胞におけるTET2の発現制御機構を解析する。
(方法)
細胞は、AR陽性のヒト前立腺癌細胞株LNCaP細胞、及びその細胞から派生したホルモン療法耐性細胞株BicR細胞を用いた。両細胞の培養には、10%ウシ胎児血清(FBS)、100μg/mLストレプトマイシン、及び100U/mLペニシリン(Thermo Fisher Scientific社)を含むRPMI1640(Sigma社)からなる細胞培養液を用いた。なお、BicR細胞の培養には、前記細胞培養液にアンドロゲン機能阻害剤としてアンドロゲンとARの結合を阻害するビカルタミドを1μMの濃度で添加した。培養は、5%のCO2存在下で37℃にて行った。
LNCaP細胞及びBicR細胞におけるアンドロゲン処理にはジヒドロテストステロン(Dihydrotestosterone:DHT)を、またアンドロゲン機能阻害剤には臨床に用いられるビカルタミド(Bic)を用いた。各細胞をアンドロゲン及びビカルタミドで処理した後、培養を継続し、処理後0、6、12、24及び48時間後に一部の細胞を回収した。回収した細胞から常法によりタンパク質を抽出し、TET2遺伝子の発現量をTET2タンパク質量としてWestern blottingにより観察した。TET2タンパク質の検出には抗TET2抗体(Abcam社)を用いた。なお、タンパク質量の内部対象としてβ-アクチンを検出した。
(結果)
図1にWestern blottingの結果を示す。AはDHT処理後の、またBはBic処理後のLNCaP細胞及びBicR細胞におけるTET2タンパク質量である。両細胞共にDHT処理によりTET2タンパク質量が抑制された(図1A)。この結果から、TET2遺伝子の発現はアンドロゲンにより抑制制御を受けることが明らかとなった。
一方、Bic処理によりLNCaP細胞ではTET2タンパク質量が増加したのに対して、BicR細胞ではDHTと同様に減少することが明らかとなった(図1B)。つまり、ホルモン療法耐性前立腺癌細胞では、アンドロゲン機能阻害剤の存在下であってもTET2遺伝子は、発現が抑制されることが明らかとなった。
<実施例2:TET2遺伝子の発現を抑制するmiRNAの同定>
(目的)
TET2遺伝子の発現抑制を引き起こす分子メカニズムについて検証した。
(方法と結果)
BicR細胞を用いて、DHTによるアンドロゲン処理に応答し、発現が誘導されるmiRNAを網羅的シークエンスにより探索した。その結果、いくつかのmiRNAがアンドロゲンにより発現誘導されることが明らかとなった。次に、アンドロゲンにより発現誘導されたmiRNAのうちTET2遺伝子を標的遺伝子とし得るsiRNAをTET2遺伝子の塩基配列から探索した結果、miR-29の結合配列がTET2遺伝子の3’UTR配列中に存在することが判明した。続いて、miR-29がTET2遺伝子の発現を実際に抑制制御することを確認するためにルシフェラーゼ発現ベクターを用いた蛍光解析を行った。ルシフェラーゼ遺伝子のタンパク質コード領域の3’末端にヒトTET2遺伝子の3’UTR配列を連結したTET2-3’UTR-Luciferase発現ベクターを構築した。ベースベクターにはpsiCheck2(Promega社)を用いた。
LNCaP細胞にTET2-3’UTR-Luciferase発現ベクター及びmiR-29a及びmiR-29bを導入し、LNCaP細胞より放出される蛍光をDual-luciferase Reporter Assay System(Promega社)により検出して定量化した。TET2-3’UTRが実際にmiR-29の標的部位であれば、TET2-3’UTR-LuciferaseはmiR-29によって発現抑制を受けるため蛍光強度が低下することが予測された。miRNAの対照用にはアンドロゲンにより発現誘導されたmiR-27a、miR-30b、miR-99、miR-148aを使用した。TET2遺伝子の塩基配列中に、これらのmiRNAの結合配列は存在しない。
結果を図2に示す。陰性対照(NC)と比較してmiR-29a/bを導入した細胞では蛍光量が著しく低下した。一方、対照用のmiRNAでは陰性対照と比較して蛍光量の有意な変化は認められなかった。
続いて、miR-29の標的遺伝子がTET2遺伝子であることをさらに確認するために、実施例1に記載のDHT処理系を用いてmiR-29を添加した場合、及びmiR-29を機能阻害するanti-miR29を添加した場合のTET2タンパク質量をWestern blottingにより検証した。実験手法は、実施例1に準じた。DHT処理したLNCaP細胞とBicR細胞にmiR-29a、miR-29b、anti-miR-29a及びanti-miR-29b(ambion社)を導入し、DHT処理後、72時間後にタンパク質抽出を行った。
結果を図3に示す。AはmiR-29を添加した場合、そしてBはanti-miR29を添加した場合のTET2タンパク質のWestern blotting図である。miR-29の添加時にはTET2タンパク質量が低下し、逆にmiR-29の機能阻害時にはTET2タンパク質量が増加することが確認された。
以上の結果から、miR-29の標的遺伝子はTET2遺伝子であり、アンドロゲンは、miR-29発現誘導を介してTET2遺伝子の発現を抑制制御していることが明らかとなった。
<実施例3:TET2の臨床検体における発現及び臨床パラメータとの相関>
(目的)臨床検体を用いてTET2タンパク質の発現量、5-メチルシトシン(5-mC)、及び5-ヒドロキシメチルシトシン(5-hmC)の核内含有量を免疫組織染色により検証した。
(方法)
患者サンプルは、東京大学医学部附属病院泌尿器科にて手術された102例の前立腺癌の組織標本を用いた。この研究は東京大学倫理委員会にて承認を受け、かつ患者よりインフォームドコンセントを得ている。年齢は52歳〜78歳で、治療前のPSA値は1.2〜136ng/mLの範囲であった。手術後、平均144ヶ月の経過観察を受けている。
免疫組織染色はパラフィンによる固定を行い、包理切片を作製した後、Histofine kit (Nichirei社)を用いて行った。TET2タンパク質(Abcam社)、5-mC(Active motif社)、及び5-hmC(Active motif社)に対する特異抗体を用いて染色を行い、3,3'-diaminobenzidine solution(1mM 3,3'-diaminobenzidine/50 mM Tris-HCl buffer [pH 7.6]/0.006% H2O2)により発色を行った。
(結果)
図4−1〜図4−4に結果を示す。
図4−1及び図4−2で示すように、前立腺癌細胞におけるTET2タンパク質と5-hmCは、高発現群(High)と低発現群(Low)に二分された。いずれも低発現群では、高発現群と比較して生存率が低く、予後不良となることが明らかとなった。
また、図4−3に免疫組織染色によるTET2タンパク質、及び5-hmCの検出結果を示す。TET2タンパク質の発現は、良性前立腺組織(Benign)及び癌部で確認された。また5-hmCは、癌組織内で検出されたが、抗体染色による濃さから、その含有量が低い(Low)症例と高い(high)症例が検出された。
さらに、図4−4に示すようにTET2タンパク質の発現量(LI: labeling index)は、5-hmCの発現と正の相関が認められた。TET2タンパク質は、ゲノムDNAのメチル化を構成する5-mCを5-hmCに変換して、ゲノムDNAを脱メチル化させる活性を有することが知られている。なお、TET2タンパク質の発現量は、5-mCの発現とは有意な相関関係が認められなかった(図示せず)。
以上の結果から、TET2は前立腺癌の新規の予後予測因子となることが示唆された。
<実施例4:miR-29の臨床検体における発現及び臨床パラメータとの相関>
(目的)臨床検体を用いてmiR-29の発現をIn situ hybridization(ISH)及び定量的なRT-PCRにより検証した。
(方法)
MicroRNA ISH Buffer and Controls kit (Exiqon社)を用いて、実施例3と同じ101例のサンプルに対してmiR-29a/bに対するISHを行った。ホルマリン、又はパラフィン固定を行った切片をmiR-29a/bに対するDIG標識miRNAプローブを用いてハイブリダイズさせた後、抗DIG抗体(Roche社)を用いて免疫組織染色、及び発色を行った。ISHの方法は、上記キットに添付のプロトコルに従った。
免疫組織染色及びISHの強度は、専門病理医が1000個以上の細胞のシグナル強度を判定し、その割合をlabeling index(LI)として%で表示した。LI>10%を高発現(High)と判定した。
また、前立腺癌切除組織よりlaser capture microdissection(LCM)法を用いて癌組織を切除した後、RNAを抽出し、定量的RT-PCRを用いてTET2 mRNAとmiR-29bの発現量を比較した。
(結果)
図5−1〜図5−3に結果を示す。
図5−1で示すように、前立腺癌細胞においてmiR-29a/bは、TET2タンパク質と同様に高発現群(High)と低発現群(Low)に二分された。ただし、TET2タンパク質とは逆に、miR-29a/bはいずれも高発現群で生存率が低く、予後不良となることが明らかとなった。
図5−2は、ISHによる前立腺癌部におけるmiR-29a/bの高発現例を示す免疫組織染色の染色像である。図中の黒い領域が抗体染色部位である。
図5−3には定量的RT-PCRによるmiR-29bの発現量と前立腺癌の進行度(ステージ)の関係を示す。miR-29bの高発現群ではステージの進行した前立腺癌が有意に多かった。この結果から、miR-29と前立腺癌の病理学的な悪性度と関連があることが示唆された。
そして、図5−4で示すように、miR-29b及びTET2 mRNAの発現を検出する定量的RT-PCRの結果よりTET2 mRNAの低発現群では、miR-29bが有意に高発現していることが認められ、両者は逆相関関係にあることが示唆された。
さらに、図5−5で示すように、miR-29bのISH及び5-hmCに対する特異抗体を用いた免疫組織染色の結果から、miR-29bの高発現群ではTET2タンパク質の発現量(B)、及び5-hmCの含有量(A)と逆相関関係にあることが示唆された。また、miR-29bの高発現とステージの進行の正の相間(P=0.022)、リンパ節転移との有意な正の相間(P=0.0058)も認められた(図示せず)。
以上の結果よりmiR-29a/bは、前立腺癌の予後予測因子及び進行度(悪性度)の診断マーカーとなることが示唆された。
<実施例5:マウスを用いた前立腺癌細胞に対するmiR-29機能阻害剤の増殖抑制作用>
(目的)
ホルモン療法抵抗性前立腺癌における治療標的としてのmiR-29機能阻害剤の有用性を検証した。
(方法と結果)
日本クレア社より購入したオス6週齢のBALB/cヌードマウスを用いた。BicR細胞を1×107個/匹となるように調整して100μLのPBSと混合した。さらに、マウスの皮下へ移植するために100μLのマトリゲル(BD bioscience社)を混合した。皮下に注入は、25G注射針を用いた。腫瘍発生後はマウスにビカルタミド(10mg/kg)を経口投与した。
移植腫瘍内へのmiR-29機能阻害剤の注入にはLipofectamine (登録商標)RNAi MAX(Thermo Fisher Scientific社)を用いた。miR-29機能阻害剤には、Anti-miR-29bを、また陰性対照にはAnti-negative control (NC)(Ambion社)を用いた。5μgのanti-NC又はanti-miR-29bと15μLのLipofectamine(登録商標)RNAi MAXをOPTI-MEM(登録商標)培地(Thermo Fisher Scientific社)に添加して混合した。前記マウスへのBicR細胞移植後、約4週間程度で腫瘍が発生した。この腫瘍サイズが100mm3に到達した時点でAnti-miR-29b及びAnti-NCの各溶液をマウス(n=6)の腫瘍内へ局所注射した。腫瘍サイズは、長径(r1)及び短径(r2、r3)を2か所計測し、公式r1×r2×r3/2にて算出した。
miR-29機能阻害剤の注入後、腫瘍サイズを週1回計測し、移植後10週目で皮下より腫瘍を摘出した。腫瘍重量を計測した後、一部はISOGEN(日本ジーン社)を用いてRNAを摘出し、残りはSDS lysis buffer(10 mM Tris-HCl PH7.5/2% SDS/10 % メルカプトエタノール)により溶解してタンパク質を抽出した。続いて、実施例1に記載の方法に準じてWestern blottingによりTET2タンパク質を検出した。
(結果)
図6−1〜図6−3に結果を示す。
図6−1及び図6−2よりAnti-miR-29bは、局所注射によりホルモン療法抵抗性前立腺癌細胞の増殖を抑制することが立証された。
また、図6−3より、摘出した腫瘍内のTET2タンパク質量はAnti-miR-29bを局注したサンプルにおいて増加した。
以上の結果からmiR-29機能阻害剤によりmiR-29の機能を阻害することで標的であるTET2遺伝子発現が向上し、ホルモン療法不応性前立腺癌であっても、その増殖を効果的に抑制できることが示された。
<実施例6:miR-29及びTET2により発現制御される下流遺伝子群>
(目的)
miR-29及びTET2により発現制御される下流遺伝子群を同定した。
(方法)
LNCaP細胞ではTET2タンパク質によるヒドロキシメチル化を受けて発現抑制されており、逆にBicR細胞ではmiR-29a/bの発現上昇に伴いTET2遺伝子が発現の抑制を受けることによってヒドロキシメチル化が解除され、発現が増加する遺伝子群を網羅的に解析した。
網羅的遺伝子発現解析は、GeneChip Human Exon 1.0 ST Array(Affymetrix社)を用いたマイクロアレイ解析で実行した。具体的な手順については、Affymetrix社より提供されているマニュアルに従った。
Directional RNA-sequence解析は、Applied Biosystems SOLiD 3 Plus System(Thermo Fisher Scientific社)を用いて行った。具体的な手順については、Thermo Fisher Scientific社より提供されているマニュアルに従いライブラリーを作製した後、50bpの単位で塩基配列決定を行った。RefSeq遺伝子にシークエンスタグをマッピングし、リード数を1kbあたりの数に補正して(PRKM)定量化を行った。
パスウェイ解析はインターネット上にあるDAVIDサイトのbioinformatics toolを用いて解析を行った。
(結果)
LNCaP特異的に5-hmC修飾を遺伝子近傍に有しており、miR-29b依存的に5-hmC修飾がBicR細胞で抑制される遺伝子群を同定し、それらの遺伝子についてdirectional RNA-sequence法により発現解析を行った。またLNCaP細胞においてTET2の発現抑制により発現が上昇する遺伝子群もMicroarray法を用いて同定した。その結果、ヒドロキシメチル化を受ける遺伝子のBicR細胞における発現量をLNCaP細胞と比較したところ、BicR細胞で遺伝子発現が増加する遺伝子が減少する遺伝子より有意に多く見出された。BicR細胞で発現誘導された遺伝子の中でパスウェイ解析を行ったところ、mTORシグナル伝達経路、Wntシグナル伝達経路、TGF-βシグナル伝達経路等の各種シグナル伝達経路に関与するシグナル伝達因子の遺伝子が同定された。これらの多くは前立腺癌において悪性化に寄与する遺伝子であり、特に癌の転移に関与するmTOR、ARを正に制御するNKX3-1、ARのリン酸化に関与するCDK1等がその代表的な遺伝子として同定された。またマイクロアレイ解析によりこれらの遺伝子の中にはLNCaP細胞においてTET2の発現減少によって上昇する遺伝子群にも含まれるものが多く、TET2による制御を受けていることが示唆された。

Claims (18)

  1. miR-29阻害剤、TET2遺伝子発現増強剤、TET2タンパク質若しくはその活性断片、又はそれらの2以上の組み合わせを有効成分として包含する前立腺癌治療剤。
  2. 前記TET2遺伝子発現増強剤がTET2タンパク質をコードするTET2遺伝子、又はTET2タンパク質の活性断片をコードするヌクレオチドを含む発現ベクターからなる、請求項1に記載の前立腺癌治療剤。
  3. 前記TET2タンパク質が配列番号9又は12で示すアミノ酸配列からなる、請求項1又は2に記載の前立腺癌治療剤。
  4. 前記TET2遺伝子が配列番号7又は10で示す塩基配列からなる、請求項2に記載の前立腺癌治療剤。
  5. 前記miR-29阻害剤が配列番号1〜3のいずれかで示す塩基配列に相補的な塩基配列を含む、請求項1に記載の前立腺癌治療剤。
  6. アンドロゲン受容体阻害剤を有効成分としてさらに包含する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の前立腺癌治療剤。
  7. 前記前立腺癌が去勢抵抗性前立腺癌である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の前立腺癌治療剤。
  8. ヒトmiR-29又はその前駆体からなる前立腺癌の診断マーカー。
  9. 前記ヒトmiR-29が配列番号1〜3のいずれかで示す塩基配列からなる、請求項8に記載の診断マーカー。
  10. ヒトTET2タンパク質又はそれをコードするヒトTET2遺伝子の転写産物、又はそれらの断片からなる前立腺癌の診断マーカー。
  11. 前記ヒトTET2タンパク質が配列番号9又は12で示すアミノ酸配列からなる、請求項10に記載の診断マーカー。
  12. 前記ヒトTET2遺伝子が配列番号7又は10で示す塩基配列からなる、請求項10に記載の診断マーカー。
  13. 5-ヒドロキシメチルシトシンからなる前立腺癌の診断マーカー。
  14. 前立腺癌の罹患鑑別を補助する方法であって、
    被験者及び健常者群から採取された試料中の所定量あたりに含まれる請求項8〜13のいずれか一項に記載の診断マーカーの量を測定する測定工程、
    前記測定工程で得られた被験者及び健常者群の測定値を比較する比較工程、及び
    前記比較工程での比較結果に基づいて被験者における前立腺癌の罹患の有無を判定する判定工程
    を含む前記方法。
  15. 前記診断マーカーが請求項8又は9に記載の診断マーカーであり、かつ被験者の測定値が健常者群の測定値よりも有意に高い比較結果であった場合に、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する、請求項14に記載の方法。
  16. 前記診断マーカーが請求項10〜13のいずれか一項に記載の診断マーカーであり、かつ被験者の測定値が健常者群の測定値よりも有意に低い比較結果であった場合に、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する、請求項14に記載の方法。
  17. 前記診断マーカーが請求項8又は9に記載の診断マーカーであり、かつROC曲線から導かれる所定のカットオフ値を超える比較結果であった場合に、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する、請求項14に記載の方法。
  18. 前記診断マーカーが請求項10〜13のいずれか一項に記載の診断マーカーであり、かつROC曲線から導かれる所定のカットオフ値を下回る比較結果であった場合に、その被験者は前立腺癌に罹患していると判定する、請求項14に記載の方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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