以下、本発明に係るコイルボビン等の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
以下の説明では、変圧器の一次コイルと二次コイルに用いられるコイルボビンについて説明する。本実施の形態に係る変圧器は、一次コイルの外側に二次コイルを同心状に配置し、両コイルの脚部の外側に円筒状の鉄心を配置した構造を有している。本発明に係るコイルボビンは、特に、変圧器の一次コイルを作製するために用いられるものである。
図1は、本発明に係るコイルボビンを用いて作製されるコイルを備えた変圧器の主要部(変圧器本体)の構成を示す斜視図である。図2は、同変圧器の回路構成を示す図である。
図1に示す変圧器本体1は、第1のコイル21(図1では見えていない。図17参照)の外側に第2のコイル22を同心状に配置した環状のコイル部2と、コイル部2の2つの長辺の部分(以下、「脚部」という。)にそれぞれ取り付けられた円筒状の鉄心3とを備える。第1のコイル21と第2のコイル22は、後述するようにそれぞれ第1のコイルボビン4(図3〜図8参照)と第2のコイルボビン5(図12〜図16参照)を用いて作製されている。
変圧器本体1は、第1のコイル21に電力系統から6000[V]以上の高圧が印加され、第2のコイル22から需要家に供給する規定の低圧(例えば、100[V]若しくは200[V]が出力される、配電用の油入り変圧器(油冷却方式の変圧器)に用いられる変圧器本体の一例である。
変圧器本体1は、図2に示す変圧器の回路構成の点線で示す部分に相当している。変圧器本体1は、当該変圧器本体1に取り付けられるタップ切換器TLに第1のコイル21を接続した後、タンク(図示省略)に収納される。そして、タンクに配設される2個の高圧ブッシングBS1(+),BS1(−)、3個の低圧ブッシングBS2(+),BS2(−),BS2(G)に、タップ切換器TL及び変圧器本体1の第2のコイル22を電気的に接続し、タンク内に絶縁油(図示省略)を充填して、図2に示す回路構成の変圧器が完成される。
2個の高圧ブッシングBS1(+),BS1(−)は、高圧配電線路から供給される一次電圧v1(高圧)(例えば、6300〜6900[V])を変圧器本体1の第1のコイル21に印加するためのブッシングであり、3個の低圧ブッシングBS2(+),BS2(−),BS2(G)は、変圧器本体1から出力される二次電圧±v2を低圧配電線路に出力するためのブッシングである。
なお、3個の低圧ブッシングBS2(+),BS2(−)2,BS2(G)のうち、低圧ブッシングBS(G)は、接地されるブッシングであり、低圧ブッシングBS(+)は、低圧ブッシングBS(G)に対して+v2(例えば、+100[V])の低圧を出力し、低圧ブッシングBS(−)は、低圧ブッシングBS(G)に対して−v2(例えば、−100[V])の低圧を出力するためのブッシングである。
以下の説明では、第1のコイル21を「高圧コイル21」と称し、第2のコイル22を「低圧コイル22」と称して説明する。また、高圧コイル21を作製するための第1のコイルボビン4と低圧コイル22を作製するための第2のコイルボビン5を区別するため、第1のコイルボビン4を「高圧コイルボビン4」と称し、第2のコイルボビン5を「低圧コイルボビン5」と称して説明する。
変圧器本体1の高圧コイル21の巻線(以下、「一次巻線」という。)は、図2に示すように、総巻数n1の主要部を構成する主要巻線211と、高圧コイル21の総巻数n1の巻線調整部(総巻数n1の巻数を調整する部分)を構成する巻数調整用巻線212を有する。
変圧器本体1は、降圧用変圧器であるので、低圧コイル22の巻線(以下、「二次巻線」という。)の総巻数n2は、一次巻線の総巻数n1よりも少ない。高圧コイル21に流れる電流は、低圧コイル22に流れる電流よりも小さいので、一次巻線の線径は、二次巻線の線径よりも小さい。
巻数調整用巻線212は、3個の小巻線212a,212b,212cを有する。主要巻線211は、2つに分割された分割巻線211a,分割巻線211bを有する。後述するように、高圧コイルボビン4の一次巻線(主要巻線211と巻数調整用巻線212)を整列巻きするための凹溝401(図4参照)の空間は、幅方向(高圧コイルボビン4の厚み方向)に二分割されている。巻数調整用巻線212の3個の小巻線212a,212b,212cは、凹溝401の一方の空間(以下、「第1の空間」という。)に整列巻きされるが、主要巻線211は巻数調整用巻線212に接続される側の一部が凹溝401の第1の空間に整列巻きされ、残りが凹溝401の他方の空間(以下、「第2の空間」という。)に整列巻きされる。
本実施の形態では、主要巻線211の凹溝401の第1の空間に整列巻きされる部分と第2の空間に整列巻きされる部分は、コイルボビン4の外部で直列に接続される構成である。従って、主要巻線211を二分割し、一方の分割巻線211aを凹溝401の第1の空間に整列巻きし、他方の分割巻線211bを凹溝213の第2の空間に整列巻きするようにしている。
図2に示す変圧器本体1の回路構成では、3個の小巻線212a,212b,212cを直列に接続し、巻数調整用巻線212の小巻線212cと主要巻線211を直列に接続して一次巻線が構成される。そして、小巻線212aと小巻線212b、小巻線212bと小巻線212c、小巻線212cと主要巻線211の各接続点と小巻線212aの開放された端子がタップとなる。
タップ切換器TLには4つのタップ端子P1〜P4と、切換片TCによっていずれかのタップ端子に接続されるコモン端子Pcとが設けられている。タップ切換器TLのコモン端子Pcは、高圧ブッシングBS1(+)に接続されている。小巻線212aの両端はそれぞれタップ端子P1とタップ端子P2に接続され、小巻線212bの両端はそれぞれタップ端子P2とタップ端子P3に接続され、小巻線212cの両端はそれぞれタップ端子P3とタップ端子P4に接続される。分割巻線211aの一方端と分割巻線211bの他方端はそれぞれタップ端子P4と高圧ブッシングBS1(−)に接続され、分割巻線211aの他方端と分割巻線211bの一方端はコイルボビン4の外部で互いに接続される。
図2では、主要巻線211と巻数調整用巻線212の接続点を示すために、接続点T1〜T5と中継端子Q1を記載している。従って、図2では、小巻線212aの両端をそれぞれ接続点T1と接続点T2に接続し、小巻線212bの両端をそれぞれ接続点T2と接続点T3に接続し、小巻線212cの両端をそれぞれ接続点T3と接続点T4に接続している。また、分割巻線211aの両端をそれぞれ接続点T4と接続点T5に接続し、分割巻線211bの一方端を接続点T5に接続し、分割巻線211bの他方端を中継端子Q1に接続している。
図1には示していないが、変圧器本体1のコイル部2からは分割巻線211aの両端部、分割巻線211bの両端部、小巻線212a,212b,212cの各両端部が引き出されている。また、変圧器本体1のコイル部2からは低圧コイル22の巻線(二次巻線)の両端部と中間位置cが引き出されている。
変圧器では、タップ切換器TLでコモン端子Pcと接続するタップ端子P1〜P4を切り換えることにより、高圧コイル21の総巻数n1を4段階に切り換えることができる。3個の小巻線211a,211b,211cの巻数をそれぞれna,nb,ncとし、主要巻線211の巻数をndとすると、高圧コイル21の総巻数n1は、(na+nb+nc+nd)、(nb+nc+nd)、(nc+nd)、ndの4種類に切り換えることができる。
以下の説明では、本実施の形態に係る変圧器本体1を配電用の6600[V]/(210−105[V]の油入り変圧器に適用する場合について、説明する。
6600[V]/(210−105)[V]の変圧器が配置される需要家の周辺は、配電変電所からの距離によって、変圧器の高圧コイルに入力される一次電圧が大きく変動するので、一般に、配電変電所からは6600[V]よりも高い電圧で送電される。このため、変圧器の高圧コイル21に入力される一次電圧v1は、配電変電所に近い場所では6600[V]以上の高圧になり、配電変電所から遠い場所では6600[V]以下の高圧になることがある。
変圧器本体1は、一次電圧v1の大きさによって高圧コイル21の総巻数n1を4段階に調整し、低圧コイル22から安定した(210−105)[V]の二次電圧v2を出力できるようにしている。具体的には、一次電圧v1をvA、vB、vC、vD(vA>vB>vC>vD)の4種類に分け、各電圧値に4つのタップを対応させている。
変圧器本体1の変圧比は、(v1/v2)=(n1/n2)で表される。v2、n2は固定であるので、高圧コイル21の総巻数n1は、一次電圧v1に比例する。従って、各タップの電圧vA、vB、vC、vDに、高圧コイル21の巻数(na+nb+nc+nd)、(nb+nc+nd)、(nc+nd)、ndがそれぞれ対応する。
タップ電圧vA、vB、vC、vDは、通常、規格や客先の仕様書等で決められている。例えば、vA=6750[V]、vB=6600[V]、vC=6450[V]、vD=6300[V]に規定されている場合、vA−vB=vB−vC=vC−vD=150[V]であるから、na=nb=ncとなる。すなわち、3個の小巻線212a,212b,212cの巻数は、同一となる。
次に、高圧コイル21と低圧コイル22の構造について、説明する。まず、高圧コイル21の構造について、図3〜図9を用いて説明する。
図3は、変圧器の高圧コイル21を作製するための高圧コイルボビン4(本発明に係るコイルボビン)を正面から見た図、図4は、同高圧コイルボビン4を左側面から見た図、図5は、同高圧コイルボビン4を上面から見た図、図6は、同高圧コイルボビン4を下面から見た図、図7は、図4におけるA−A線断面図、図8は、図6におけるB−B線断面図である。図9は、高圧コイルボビン4に一次巻線を巻回して作製された高圧コイル21の断面図である。
以下の説明では、図3において、環状の高圧コイルボビン4の外周側の側面を「外周側面」と称し、内周側の側面を「内周側面」と称し、図4において、高圧コイルボビン4の右側の面を「正面」と称し、左側の面を「背面」と称して説明をする。
高圧コイル21は、高圧コイルボビン4を用いて長方形の環状(リング状)に成形される。高圧コイルボビン4は、図3,図4に示すように、背の低い角丸長方形のリング形状を有している。高圧コイルボビン4は、樹脂を成形して作製されている。
高圧コイルボビン4は、外周側面に一次巻線(主要巻線211と巻数調整用巻線212)を巻回するための凹溝401が形成されている。凹溝401の両壁面を構成する2つの側壁402,403は、角丸長方形のリング形状を有している。背面側の側壁403(以下、「第2の側壁403」という。)の外形寸法(L2(長手方向の長さ)×W2(短手方向の長さ))は、正面側の側壁402(以下、「第1の側壁402」という。)の外形寸法(L1(長手方向の長さ)×W1(短手方向の長さ))よりも小さいサイズに設定されている。これは、図17に示すように、高圧コイルボビン4を低圧コイルボビン5の穴の部分に嵌入して高圧コイル21の外側に低圧コイル22が同心状に配置されたコイル部2を作製するためである。
従って、高圧コイルボビン4の背面側の外形寸法(L2×W2)は、低圧コイルボビン5の穴の部分の寸法(L4(長手方向の長さ)×W4(短手方向の長さ))(図12参照)より僅かに小さいサイズに設定されている。一方、高圧コイルボビン4の正面側の外形寸法(L1×W1)は、角丸長方形のリング形状を有する低圧コイルボビン5の外形寸法(L3(長手方向の長さ)×W3(短手方向の長さ))(図12参照)と略同一の寸法に設定されている。
高圧コイルボビン4の対辺関係にある2つの短辺の部分4A(図3参照。以下、「第1の対辺部4A」という。)の内周側面は平坦面であるが(図8参照)、高圧コイルボビン4の対辺関係にある2つの長辺の部分4B(図3参照。以下、「第2の対辺部4B」という。)の内周側面は、内側に半円形状に突出する湾曲面となっている(図7参照)。なお、高圧コイルボビン4の第1の対辺部4Aの内周側面も湾曲面となっているが、その湾曲面の先端部分に板状の絶縁補強部410Aが設けられているので、高圧コイルボビン4の穴に臨む面は平坦面となっている。絶縁補強部410Aについては、後述する。
高圧コイルボビン4の第2の対辺部4Bの内周側面の断面形状を半円形状にしているのは、図1に示すように、高圧コイルボビン4の第2の対辺部4Bに円筒状の鉄心3が取り付けられるので、高圧コイルボビン4の第2の対辺部4Bに当該鉄心3の円形の穴の内側面が密着するようにするためである。従って、高圧コイルボビン4の第2の対辺部4Bの各長辺は、高圧コイル21の脚部(鉄心3が取り付けられる部分)に相当している。高圧コイルボビン4の脚部に相当する部分の湾曲した断面形状の半径は、鉄心3の円形の穴の半径より僅かに小さいサイズに設定されている。
なお、以下の説明では、説明の便宜上、高圧コイルボビン4の第2の対辺部4Bの各長辺部を「脚部4B」と称して説明することがある。高圧コイルボビン4の脚部4Bへの鉄心3の取り付けは、例えば、帯状の電磁鋼板を高圧コイルボビン4の脚部4Bに巻き付けるようにして取り付けられる。
高圧コイルボビン4の凹溝401は、主要巻線211が巻回される第1の凹溝401Aと巻数調整用巻線212が巻回される第2の凹溝401Bを有する。第2の凹溝401Bは、第1の凹溝401Aの底面404の幅方向(高圧コイルボビン4の厚み方向、図4において横方向)の中央に穿設されている。
第2の凹溝401Bの底面405の中央には、凹溝401の空間を幅方向に分割する分割壁406(図4参照)が設けられている。例えば、図4において、分割壁406で分割された凹溝401の右側の空間(第1の側壁402側の空間)が「第1の空間」に相当し、左側の空間(第2の側壁403側の空間)が「第2の空間」に相当する。
分割壁406は、第2の凹溝401Bの底面405に対して垂直に設けられている。分割壁406は、底面405から第2の側壁403の上端付近までの高さを有する薄板状の部材である。分割壁406は、樹脂の一体成形により高圧コイルボビン4の底面405に設けられている。
第2の凹溝401Bの形状は、第2の凹溝401Bの底面405と両側の内壁面が垂直に立ち上がる形状(長方形の形状)になっている(図4,図5参照)。これは、3個の小巻線212a,212b,212cを第2の凹溝401Bの第1の空間にそれぞれ二層に整列巻きしたときの各巻数を同一にするためである。
一方、第1の凹溝401Aは、第1の凹溝401Aの底面404に対して両側の内壁面がそれぞれ外側に所定の傾斜角θ(例えば、120[°])で傾斜して立ち上がる形状(等脚台形の形状)となっている(図4参照)。
図4〜図6では図示を省略しているが、高圧コイルボビン4の4つの角部には、第2の凹溝401Bの底面405に小巻線212aを整列巻きするための巻き付け位置をガイドするガイド溝が設けられ、第1の凹溝401Aの底面404に、分割巻線211aを整列巻きするための巻き付け位置をガイドするガイド溝が設けられている。ガイド溝は、一次巻線の径の1/2よりも短い溝幅を有する断面形状が円弧形状の溝である。底面404と底面405には、幅方向に所定数のガイド溝が形成されている。
高圧コイルボビン4の外周側面全体に形成された凹溝401のうち、第2の対辺部4Bに形成された凹溝401(図4に示す凹溝401参照)には、一次巻線が巻回される方向(図4では、上下方向)に対して交差する方向(図4では、直交する方向)に、第1の側壁402から第2の凹溝401Bの底面405を通って第2の側壁403に至る複数個の溝407A(図4,図7参照)が設けられている。複数個の溝407Aは、本発明に係る「空隙形成部」に相当している。
図4の例では、高圧コイルボビン4の対向する2つの長辺の部分に、それぞれ6個の溝407Aが設けられている。凹溝401に溝407Aを設けることによって、図7に示すように、高圧コイルボビン4の溝407Aが設けられた部分の樹脂厚d1がそれ以外の部分の樹脂厚d2よりも薄くなっている。
複数個の溝407Aは、凹溝401に一次巻線を多層に整列巻きしたときに、最下層の巻線が第2の凹溝401Bの底面405と接触する接触面積を可及的に少なくし、これにより、高圧コイルボビン4に一次巻線を多層に整列巻きして作製された高圧コイル21の絶縁油との接触面積を可及的に広くするものである。
油冷却方式による変圧器の冷却は、変圧器本体1の高圧コイル21及び低圧コイル22に絶縁油を接触させてこれらのコイル21,22で発生する熱を絶縁油に受け渡し、その絶縁油をタンクに設けられた冷却装置(例えば、タンク側面に取り付けられた多数のフィン)で外気に放出することによって、行われる。従って、複数個の溝407Aは、絶縁油の高圧コイル21への接触面積を可及的に大きくして絶縁油の受熱効率を高める機能を果たす。複数個の溝407Aの作用と効果については、後述する。
高圧コイルボビン4の第1の側壁402の一方の短辺部分(図3では、上側の短辺部分)と第2の側壁403の一方の短辺部分(図3では、上側の短辺部分)には、それぞれ4個の切り欠き408(図5参照)が設けられている。4個の切り欠き408は、高圧コイルボビン4の短辺部分の中央部に設けられている。第1の側壁402の4個の切り欠き408と第2の側壁403の4個の切り欠き408は、各切り欠き408が対向するように設けられている。
第1の側壁402に設けられた4個の切り欠き408は、凹溝401の第1の空間に整列巻きされる主要巻線211の分割巻線211a、巻数調整用巻線212の小巻線212a,212b,212cの各巻線の両端部を引き出すためのものである。4個の切り欠き408は、第1の側壁402の上端(高圧コイルボビン4の外周端)から第2の凹溝401Bの底面405に至るスリット状の切り欠きである。第1の空間は、4個の切り欠き408によって第1の側壁402の外部に連通している。
第1の側壁402に設けられた4個の切り欠きを区別するために、各切り欠きの符号を「408A」、「408B」、「408C」、「408D」とし、例えば、図5において、左側から4個の切り欠き408A,408B,408C,408Dが順番に並んでいるとする。
例えば、第2の凹溝401Bの第1の空間に小巻線212a,212b,212cを底面405から2層ずつこの順に整列巻きし、第1の凹溝401Aの第1の空間に分割巻線211aを底面404から多層に整列巻きする場合、各巻線の両端部は、例えば、高圧コイルボビン4から以下のように引き出される。
すなわち、小巻線212aの両端部が切り欠き408Aから高圧コイルボビン4の外部に引き出され、小巻線212bの両端部が切り欠き408Bから高圧コイルボビン4の外部に引き出され、小巻線212cの両端部が切り欠き408Cから高圧コイルボビン4の外部に引き出される。そして、分割巻線211aの両端部が切り欠き408Dから高圧コイルボビン4の外部に引き出される。
4個の切り欠き408A,408B,408C,408Dは、第1の空間を第1の側壁402の外部に連通するので、第1の空間に整列巻きされる巻線の両端部を引き出す機能だけでなく、絶縁油が第1の空間と高圧コイルボビン4の外部との間を流れるようにする機能を有する。すなわち、4個の切り欠き408A,408B,408C,408Dは、高圧コイルボビン4に一次巻線を多層に整列巻きして作製された高圧コイル21を絶縁油により冷却する際、絶縁油の凹溝401の内外への対流効率を高め、これにより油冷却方式による変圧器の冷却効率を向上させる機能を果たす。
第2の側壁403に設けられた4個の切り欠き408も、第1の側壁402に設けられた4個の切り欠き408と同様に、第2の空間に整列巻きされる巻線の両端部を引き出す機能を有するとともに、絶縁油が第2の空間と高圧コイルボビン4の外部との間を流れるようにする機能(対流効率の向上機能)を有する。
なお、第2の空間に整列巻きされる巻線の両端部を引き出す機能は、4個の切り欠き408のうち、1個又は2個の切り欠き408が巻線を引き出す機能を有する。
例えば、図5において、第2の側壁403に設けられた4個の切り欠き408のうち、左端の切り欠き408を巻線引出用の切り欠き408Eとすると、第2の空間に整列巻きされる分割巻線211bの両端部が切り欠き408Eから高圧コイルボビン4の外部に引き出される。なお、分割巻線211bの両端部を切り欠き408Eと他の切り欠き408からそれぞれ高圧コイルボビン4の外部に引き出すようにしてもよい。
一方、高圧コイルボビン4の第1の側壁402の他方の短辺部分(図3では、下側の短辺部分)には、4個の窓409(貫通孔409と言ってもよい。図6参照)が設けられ、第2の側壁403の他方の短辺部分(図3では、下側の短辺部分)には、4個の切り欠き408(図6参照)が設けられている。
4個の窓409は、絶縁油を第1の空間と高圧コイルボビン4の外部との間を流れるようにするためのものであり、4個の切り欠き408は、絶縁油を第2の空間と高圧コイルボビン4の外部との間を流れるようにするためのものである。第1の側壁402の4個の窓409と第2の側壁403の4個の切り欠き408は、各窓409と各切り欠き408が対向するように設けられている。なお、第1の側壁402に設けられる4個の窓409は、貫通孔ではなく、切り欠きにしてもよい。
本実施の形態では、高圧コイルボビン4の第2の対辺部4Bに2個の鉄心3が取り付けられるので、鉄心3との干渉を避けるために、絶縁油の対流効率を高めるための切り欠き408及び窓409を高圧コイルボビン4の第2の対辺部4Bに設けている。高圧コイルボビン4の一方の短辺部分に設けられた8個の切り欠き408と他方の短辺部分に設けられた4個の切り欠き408及び4個の窓409の絶縁油の対流効率の向上機能については、後述する。
第1の側壁402の第1の対辺部4Aの外側の面には、凹溝401に整列巻きされる高圧コイル21と高圧コイルボビン4の脚部に取り付けられる鉄心3との絶縁を補強するための絶縁補強部410が設けられている。
凹溝401に整列巻きされる高圧コイル21と高圧コイルボビン4の脚部4Bに取り付けられる鉄心3は、樹脂製の高圧コイルボビン4が介在することによって電気的に絶縁される構成である。通常、変圧器は鉄心3を接地電位に設定して使用されるので、高圧コイルボビン4の絶縁設計では、高圧コイル21に印加される高圧v1に雷サージ電圧が重畳された超高圧を考慮した規定の絶縁耐圧VTで絶縁破壊を起こさないように高圧コイルボビン4の脚部4Bにおける厚みを設計することが必要である。
高圧コイルボビン4の脚部4Bに形成される凹溝401の厚みは、図7に示すように、凹溝401の内壁面の位置によって異なり、凹溝401に多層に整列巻きされる高圧コイル21の電圧も層によって異なる。例えば、図2に示す回路状態で雷サージが発生した場合、小巻線212aの高圧ブッシングBS(+)に接続される端部の電圧が超高圧となる。小巻線212aは、後述するように、第2の凹溝401Bの底面405に2層で整列巻きされるので、第2の凹溝401Bの、高圧ブッシングBS(+)に接続される小巻線212aの端部が引き出される位置(巻線引出位置)の電圧が最も高くなる。従って、高圧コイルボビン4の絶縁設計では、小巻線212aの巻線引出位置における鉄心3との直線距離に相当する樹脂厚が絶縁耐圧VTで絶縁破壊を起こさないように設計することが必要である。なお、上記の巻線引出位置における高圧コイルボビン4の樹脂厚は、巻線引出位置で高圧コイルボビン4を貫通して鉄心3に放電が発生する場合の放電経路の距離に相当するものである。
樹脂厚を厚くすれば、規定の絶縁耐圧VTに対して十分な絶縁性能を得ることができるが、樹脂量が増大し、高圧コイルボビン4の大型化、重量化を招くとともに、製造コストも増大するという問題がある。従って、高圧コイルボビン4の絶縁設計では、樹脂厚を可能な限り絶縁耐圧VTを満たす最小の樹脂厚Dminに設計することが要望される。
高圧コイルボビン4の絶縁設計では、上記の高圧コイルボビン4の樹脂厚の設計だけでなく、高圧コイル21と鉄心Bとの間の沿面距離を考慮する必要がある。沿面距離は、高圧コイル21から高圧コイルボビン4の表面に沿って鉄心Bに放電が生じる場合のボビン表面の放電経路の距離である。樹脂厚を最小の樹脂厚Dminに設定した場合でも、高圧コイルボビン4に十分な沿面距離が取れない部分があると、その部分では、絶縁耐圧VTよりも低い電圧で放電が発生する可能性がある。絶縁補強部410は、絶縁耐圧VTよりも低い電圧で放電が発生する可能性のある部分の沿面距離を長くして高圧コイルボビン4の絶縁の強度を補強するものである。
上述したように、高圧コイルボビン4の第1の対辺部4Aには、複数個の切り欠き408と複数個の窓409が設けられている。図1に示すように、変圧器本体1を組み立てたとき、高圧コイルボビン4に設けられた複数個の切り欠き408及び窓409は、鉄心3に対して鉄心端面3Aを臨む位置となるので、高圧コイルボビン4の切り欠き408及び窓409が形成された部分では、高圧コイル21と鉄心Bとの間の沿面距離が十分に取れない可能性がある。
そこで、本実施の形態では、高圧コイルボビン4の第1の対辺部4Aの、切り欠き408及び窓409と鉄心3の鉄心端面3Aとの間の部分に棒状の凸片からなる絶縁補強部410Aを設けている。絶縁補強部410Aは、図8に示すように、高圧コイルボビン4の各短辺部分の内周側面の湾曲面の先端部分に板状の部材を一体成形により延設して設けられている。従って、高圧コイルボビン4の第1の側壁402と第2の側壁403では、それぞれ角棒状の凸片からなる部材が絶縁補強部410Aとして設けられた形となっている。
ここで、絶縁補強部410Aの作用と効果について、簡単に説明する。
図10は、高圧コイル21を切り欠き408Aの位置で切断した断面図である。なお、高圧コイルボビン4の凹溝401には、一次巻線が多層に整列巻きされているが、図10では、作図の便宜上、一次巻線の一部を描いている。また、図10には、コイル部2の2つの脚部に鉄心3が取れ付けられた場合の鉄心端面3Aの部分を仮想線で描いている。
小巻線212aの高圧ブッシングBS(+)に接続される端部は、高圧コイルボビン4の凹溝401の切り欠き408Aから高圧コイルボビン4の外部に引き出される。このため、雷サージ電圧が重畳された超高圧が高圧ブッシングBS(+)に印加されたときの高圧コイルボビン4の凹溝401内では、小巻線212aが切り欠き408Aから凹溝401内に引き込まれて整列巻きが行われる巻き始めの位置Pの電圧が最も高くなる。
従って、上述したように、高圧コイルボビン4の樹脂厚を可及的に最小の樹脂厚Dminに設計するためには、規定の絶縁耐圧VT以下で高圧コイルボビン4の凹溝401内の位置Pからボビン表面に沿って巻鉄心3の鉄心端面3Aに至る経路で放電が発生しないように絶縁補強の設計をする必要がある。
なお、上記の説明では、タップ切換器TLがコモン端子Pcとタップ端子P1を接続している場合について説明したが、タップ切換器TLがコモン端子Pcとタップ端子P2〜P4を接続している場合でも同様である。コモン端子Pcにタップ端子P2〜P4を接続している場合は、放電が発生する位置Pが小巻線212b、小巻線212c、分割巻線211aの巻き始めの位置となるが、これらの巻線212b,212c,211aの巻き始めの位置は、凹溝401の切り欠き408B,408C,408Dが設けられた位置となるので、小巻線212aの巻き始めの位置Pの近傍位置となる。
従って、小巻線212aの巻き始めの位置Pから巻鉄心3の鉄心端面3Aに至るボビン表面に沿う経路の沿面距離について絶縁補強の設計をすれば、コモン端子Pcに接続するタップ端子をP2〜P4に切り換える場合にもその効果を奏することができる。
本実施の形態に係る高圧コイルボビン4では、図10に示すように、第1の対辺部4Aの切り欠き408と穴との間(第1の対辺部4Aの内側の湾曲した内周側面の先端部分)の棒状の凸片からなる絶縁補強部410Aを設けている。絶縁補強部410Aを設けていない場合の凹溝401の位置Pから巻鉄心3の鉄心端面3Aに至るボビン表面に沿う経路は、仮想線で示す経路R1となるが、絶縁補強部410Aを設けた場合は、凹溝401の位置Pから巻鉄心3の鉄心端面3Aに至るボビン表面に沿う経路が凸片の表面を迂回する経路R2(太い実線で示す経路)となる。従って、絶縁補強部410Aを設けた場合の位置Pから巻鉄心3の鉄心端面3Aに至る経路R2の沿面距離LSは、仮想線で示す経路R1の沿面距離よりも長くすることができる。
これにより、高圧コイルボビン4の第1の対辺部4Aに切り欠き408を設けることによって位置Pから巻鉄心3の鉄心端面3Aに至る経路の沿面距離が短くなり、絶縁強度が低下する場合でも、絶縁補強部410Aを設けることにより絶縁強度を補強することができる。
本実施の形態では、第1の対辺部4Aの切り欠き408と穴との間に1本の凸片からなる絶縁補強部410Aを設けているが、絶縁補強部410Aは、複数本の凸片で構成してもよい。また、絶縁補強部410Aは、凸片に代えて溝で構成してもよい。そして、凸片又は溝の断面形状は、矩形に限定されるものではなく、三角形、楕円形、台形など任意の形状を採用することができる。
さらに、絶縁補強部410Aは、凹部と凸部が繰り返す凹凸部で構成してもよい。この場合も凹凸部の断面形状、正弦波状に限定されるものではなく、三角形状、矩形波状など任意の波形状を採用することができる。また、絶縁補強部410Aを設ける位置は、沿面距離LSが長くなる位置であれば、任意の位置に設定することができる。
高圧コイルボビン4の第2の側壁403は、図7,図8に示すように、第1の側壁402よりもサイズが小さく、凹溝401の背面側の側壁の底面405からの高さh2が正面側の側壁の底面405からの高さh1よりも低くなっている。このため、高圧コイルボビン4の第2の側壁403の周縁部(凹溝401の背面側の側壁を構成する部分)でも高圧コイル21と鉄心Bとの間の沿面距離が十分に取れない可能性がある。
そこで、本実施の形態では、高圧コイルボビン4の第2の側壁403の上部の外側面に、断面が矩形状の凸条からなる絶縁補強部410B(図8参照)が高圧コイルボビン4の外周に沿って周回するように設けられている。
なお、高圧コイルボビン4の第2の側壁403の上端には、図8に示すように、外側に突出させた鍔部4031が設けられている。この鍔部4031は、一次巻線が整列巻きされた高圧コイルボビン4(高圧コイル21)を二次巻線が整列巻きされた低圧コイルボビン5(低圧コイル22)の穴に嵌め込んで高圧コイル21の外側に低圧コイル22を同心状に配置したコイル部2を製作する際の、高圧コイルボビン4と低圧コイルボビン5との係合部材として機能するものである。
鍔部4031と平行に設けられる絶縁補強部410Bの凸条は当該鍔部4031と同様の形状を有しており、絶縁補高圧コイルボビン4と低圧コイルボビン5との係合部材としても機能する。
ここで、絶縁補強部410Bの作用と効果について、簡単に説明する。
図11は、高圧コイル21の脚部4Bにおける断面図である。なお、高圧コイルボビン4の凹溝401には、一次巻線が多層に整列巻きされているが、図11では、作図の便宜上、一次巻線の一部を描いている。また、図11には、コイル部2の脚部に鉄心3が取れ付けられた場合の鉄心3Aを仮想線で描いている。
高圧コイルボビン4の脚部4Bの部分では、底面405の小巻線212aの巻き始めの位置Pからボビン表面に沿って鉄心Bに至る放電経路は、図11に太線で示す経路R3のようになり、底面405の分割巻線211bの巻き始めの位置Qからボビン表面に沿って鉄心Bに至る放電経路は、図11に太線で示す経路R4のようになる。
なお、実際の使用状態(通電状態)においては、上記の位置P又は位置Qを起点とした放電経路R3,R4の沿面距離を設計すればよい。しかしながら、変圧器の雷インパルス試験の「非接地試験」では、高圧側を一括で接続し、低圧側及び鉄心、金具のアースなどを全て接地して所定の試験電圧を印加するので、この被接地試験の条件では、図11の位置Uを起点とした放電険路の沿面距離が最も短くなる。従って、高圧コイルボビン4の沿面距離の設計においては、位置Uを起点とした放電険路の沿面距離が必要な最小の沿面距離以上に設計されている。
高圧コイルボビン4の第2の側壁403の底面405からの高さh2は第1の側壁402の底面405からの高さh1よりも低いので、経路R3の沿面距離が十分であっても経路R4の沿面距離が十分に取れない可能性がある。
本実施の形態に係る高圧コイルボビン4では、第2の側壁403の周縁部の外側の面を低圧コイルボビン5の嵌合部503Aに嵌め合わせて、高圧コイルボビン4と当該高圧コイルボビン4の外側に配置される低圧コイルボビン5とを固定する構成となっている。そのため、第2の側壁403の嵌合部503Aへの凸条の嵌め合せ部材を利用して経路R4の沿面距離を長くするようにしている。
経路R4は、図11に示すように、凹溝401の第2の側壁403の内壁面から嵌合部503Aへの嵌め合せ部材である鍔部4031の表面を通って第2の側壁403の外壁面に出た後、その外壁面を通って鉄心3に至るが、本実施の形態では、第2の側壁403の外壁面の経路R4上に凸条の絶縁補強部410Bを追加している。この構成により、経路R4は、凸条の絶縁補強部410Bの表面を通る分、沿面距離LSが長くなり、第2の側壁403における絶縁が補強されている。
上記のように、絶縁補強部410Bは、高圧コイルボビン4と低圧コイルボビン5との嵌合固定の強度を強化できるとともに、凹溝401の底面405からの高さh2が十分に取れない第2の側壁403における絶縁を補強することができる効果を奏する。
なお、本実施の形態では、絶縁補強部410Bとして凸条を1本だけ設けているが、絶縁補強部410Bを複数本の凸条で構成してもよい。また、絶縁補強部410Bは、凸条に代えて凹条で構成してもよい。そして、凸条又は凹条の断面形状は、矩形に限定されるものではなく、任意の形状を採用することができる。
さらに、絶縁補強部410Bは、凸条と凹条を繰り返した凹凸条の部材(断面形状が波状となる部材)で構成してもよい。この場合も凹凸部の断面形状、矩形波状に限定されるものではなく、正弦波状などの任意の波形状を採用することができる。
次に、高圧コイルボビン4の凹溝401への一次巻線の巻線方法について、図9を用いて簡単に説明する。図9は、高圧コイルボビン4の凹溝401に主要巻線211と巻数調整用巻線212を整列巻きした状態の断面図である。
高圧コイルボビン4の凹溝401には、最初に巻数調整用巻線212の小巻線212aが第2の凹溝401Bの第2の空間に2層構造で巻回される。小巻線212aは、例えば、一方の端部(リード線となる部分)を切り欠き408Aから高圧コイルボビン4の外部に引き出した状態で第2の側壁403側から分割壁406まで整列巻きされる。小巻線212aは分割壁406で折り返され、小巻線212aの1層目の上面に形成される巻線同士の窪みをガイドとして第2の側壁403まで巻き付けられる。そして、小巻線212aの他方の端部(リード線となる部分)が切り欠き408Aから高圧コイルボビン4の外部に引き出される。
次に、巻数調整用巻線212の小巻線212bが小巻線212aの上に2層構造で巻回される。小巻線212bは、一方の端部(リード線となる部分)を切り欠き408Bから高圧コイルボビン4の外部に引き出した状態で第2の側壁403側から分割壁406まで整列巻きされる。小巻線212bは分割壁406で折り返され、小巻線212bの1層目の上面に形成される巻線同士の窪みをガイドとして第2の側壁403まで巻き付けられる。そして、小巻線212bの他方の端部(リード線となる部分)が切り欠き408Bから高圧コイルボビン4の外部に引き出される。
次に、巻数調整用巻線212の小巻線212cが小巻線212bの上に2層構造で巻回される。小巻線212cは、一方の端部(リード線となる部分)を切り欠き408Cから高圧コイルボビン4の外部に引き出した状態で第2の側壁403側から分割壁406まで整列巻きされる。小巻線212cは分割壁406で折り返され、小巻線212bの1層目の上面に形成される巻線同士の窪みをガイドとして第2の側壁403まで巻き付けられる。そして、小巻線212cの他方の端部(リード線となる部分)が切り欠き408Cから高圧コイルボビン4の外部に引き出される。
次に、主要巻線211の分割巻線211aが第1の凹溝401Aに多層構造で巻回される。第2の凹溝401Bの上端には小巻線212cが巻回されているので、分割巻線211aは小巻線212cの上に巻回されることになる。
分割巻線211aは、一方の端部(リード線となる部分)を切り欠き408Dから高圧コイルボビン4の外部に引き出した状態で第2の側壁403側から分割壁406まで整列巻きされる。分割巻線211aは分割壁406で折り返され、分割巻線211aの1層目の上面に形成される巻線同士の窪みをガイドとして第2の側壁403まで巻き付けられる。その後、分割巻線211aは、各層の分割巻線211aの上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして分割壁406と第2の側壁403の内壁面に到達する毎に折り返されながら、積層数が所定数となるまで巻回される。そして、分割巻線211aの他方の端部(リード線となる部分)が切り欠き408Dから高圧コイルボビン4の外部に引き出される。
次に、主要巻線211の分割巻線211bが凹溝401の第1の空間に多層構造で巻回される。分割巻線211bは、一方の端部(リード線となる部分)を切り欠き408Eから高圧コイルボビン4の外部に引き出した状態で第1の側壁402側から分割壁406まで整列巻きされる。分割巻線211bは分割壁406で折り返され、分割巻線211bの1層目の上面に形成される巻線同士の窪みをガイドとして第1の側壁402まで巻き付けられる。その後、分割巻線211bは、各層の分割巻線211bの上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして分割壁406と第1の側壁402の内壁面に到達する毎に折り返されながら、積層数が所定数となるまで巻回される。そして、分割巻線211bの他方の端部(リード線となる部分)が切り欠き408Eから高圧コイルボビン4の外部に引き出される。
次に、低圧コイル22の構造について、図12〜図16を用いて説明する。
図12は、変圧器の低圧コイル22を作製するための低圧コイルボビン5を正面から見た図、図13は、同低圧コイルボビン5を左側面から見た図、図14は、同低圧コイルボビン5を上面から見た図、図15は、同低圧コイルボビン5を下面から見た図、図16は、図15におけるC−C線断面図である。
低圧コイル22は、低圧コイルボビン5を用いて長方形の環状(リング状)に成形される。低圧コイルボビン5は、図12,図13に示すように、背の低い角丸長方形のリング形状を有し、低圧コイルボビン5の側面から見た形状は、略左右対称になっている。低圧コイルボビン5も樹脂を成形して作製されている。
以下では、説明の便宜上、図13において、リング形状の外周に沿う面を「外周側面」と称し、内周に沿う面を「内周側面」と称し、図13において、低圧コイルボビン5の右側の面を「正面」と称し、左側の面を「背面」と称して説明をする。
低圧コイルボビン5は、高圧コイルボビン4と略同じ寸法の高さ寸法(図13の幅方向の寸法)を有する。低圧コイルボビン5は、外周側面に二次巻線を巻回するための凹溝501が形成されており、低圧コイルボビン5の穴の部分の形状は角丸直方形の形状に成形されている(図12参照)。低圧コイルボビン5の穴の部分の形状を角丸直方形の形状にしているのは、図17に示すように、この穴の部分に高圧コイルボビン4が嵌入装着されるからである。
凹溝501の両壁面を構成する2つの側壁502,503は、正面又は背面から見てそれぞれ角丸長方形状の環状をなしている。正面側の側壁502((以下、「第1の側壁502」という。)の穴の部分の寸法(L4(長手方向の長さ)×W4(短手方向の長さ))は、高圧コイルボビン4の第2の側壁403の外周側の寸法(L2×W2)よりも僅かに大きいサイズを有している。また、側壁502の外周側の寸法(L3(長手方向の長さ)×W3(短手方向の長さ))は、低圧コイルボビン5の第1の側壁402の外周側の寸法(L1×W1)(図3参照)と略同一の寸法に設定されている。
低圧コイルボビン5の対辺関係にある2つの短辺の部分5A(図12参照。以下、「第1の対辺部5A」という。)の内周側面と高圧コイルボビン4の対辺関係にある2つの長辺の部分5B(図12参照。以下、「第2の対辺部5B」という。)の内周側面は、平坦面となっている(図16参照)。これは、低圧コイルボビン5の穴の部分に高圧コイルボビン4を嵌め込むからである。
なお、以下の説明では、説明の便宜上、低圧コイルボビン5の第2の対辺部5Bの各長辺の部分を「脚部5B」と称して説明することがある。
背面側の側壁503(以下、「第2の側壁503」という。)は、穴の部分に高圧コイルボビン4を低圧コイルボビン5に嵌め込む際に高圧コイルボビン4の第2の側壁403に嵌め合わせるための嵌合部503A(図12,図16参照)が形成されている。嵌合部503Aは、第2の側壁503の穴の内周に沿ってリング状に形成されている。嵌合部503Aは、第2の側壁503の壁面を穴の内側に所定の寸法だけ延設して形成されている。
嵌合部503Aの内側の面(低圧コイルボビン5の穴に高圧コイルボビン4を嵌め込むときに当該高圧コイルボビン4の第2の側壁403に対向する面)には、穴の内周に沿って細い溝5031,5032(図12,図16参照)が設けられている。溝5031,5032は、低圧コイルボビン5の穴に高圧コイルボビン4を嵌め込んだとき、高圧コイルボビン4の第1の側壁402に設けられた鍔部4031(図7参照)と絶縁補強部410B(図7参照)をそれぞれ嵌め合わせるための溝である。
また、嵌合部503Aには、第2の側壁503の2つの短辺の部分にそれぞれ4個の切り欠き504が設けられている。これらの切り欠き504は、低圧コイルボビン5の穴に高圧コイルボビン4を嵌め込んだときに、高圧コイルボビン4の第2の側壁403の2つの短辺の部分に形成されている8個の切り欠き408を第2の側壁503が塞がないようするためのものである。すなわち、8個の切り欠き504は、変圧器を作製したときに高圧コイルボビン4の凹溝401への絶縁油の出入りを阻害しないようするためのものである。
8個の切り欠き504の幅は、第2の側壁503に設けられた8個の切り欠き504と略同一である。また、第2の側壁503の一方の短辺の部分(図12において、上側の短辺部分)にある4個の切り欠き504は、低圧コイルボビン5の穴に高圧コイルボビン4を嵌め込んだときに高圧コイルボビン4の第2の側壁403の上側の短辺部分に設けられた4個の切り欠き408がそれぞれ4個の切り欠き504と重なる位置関係となるように第2の側壁503の一方の短辺部分に設けられている。また、第2の側壁503の他方の短辺の部分(図12において、下側の短辺部分)にある4個の切り欠き504は、低圧コイルボビン5の穴に高圧コイルボビン4を嵌め込んだときに高圧コイルボビン4の第2の側壁403に設けられた4個の切り欠き408がそれぞれ4個の切り欠き504と重なる位置関係となるように第2の側壁503の他方の短辺部分に設けられている。
第1の側壁502と第2の側壁503の一方の短辺の部分(図12は、上側の短辺部分)には、それぞれ支持部505A,505B(図13参照)が対を成して設けられている。2つの支持部505A,505Bは、タップ切換器TLを取り付けるための板状の部材である。支持部505A,505Bは、樹脂の一体成形加工により第1の側壁502と第2の側壁503に設けられている。支持部505Aは、第1の側壁502の外周から板部材を外側に突出させる(図13では、第1の側壁502の上端から板部材を上側に突出させる)ように形成されている。同様に、支持部505Bは、第2の側壁503の外周から板部材を外側に突出させる(図13では、第2の側壁503の上端から板部材を上側に突出させる)ように形成されている。
第1の側壁502の支持部505Aが設けられた部分の適所に、二次巻線を引き出すための巻線引出部506が設けられている。巻線引出部506は、第1の側壁502の上端から凹溝501の底面5011に至る切り欠きで構成されている。
凹溝501は、凹溝501の底面5011に対して両内壁面が垂直に立ち上がる形状(長方形の断面形状)となっている(図13参照)。低圧コイルボビン5の4つの角部には、高圧コイルボビン4と同様に、凹溝501の底面5011に二次巻線を整列巻きするための巻き付け位置をガイドするガイド溝5012(図13〜図15参照)が設けられている。ガイド溝5012は、二次巻線の径の1/2よりも短い溝幅を有する断面形状が円弧形状の溝である。
次に、低圧コイルボビン5の凹溝501への二次巻線の巻線方法について、簡単説明する。
二次巻線は、凹溝501に多層構造で巻回される。二次巻線は、一方の端部(リード線となる部分)を巻線引出部506から低圧コイルボビン5の外部に引き出した状態で第1の側壁502側から第2の側壁503まで整列巻きされる。二次巻線は第2の側壁503で折り返され、二次巻線の1層目の上面に形成される巻線同士の窪みをガイドとして第1の側壁502まで巻き付けられる。その後、二次巻線は、各層の巻線の上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして第2の側壁503と第1の側壁402の内壁面に到達する毎に折り返されながら、積層数が所定数となるまで巻回される。そして、二次巻線の他方の端部(リード線となる部分)が巻線引出部506から低圧コイルボビン5の外部に引き出される。
高圧コイルボビン4の凹溝401に一次巻線を整列巻きして作製された高圧コイル21は、低圧コイルボビン5の凹溝501に二次巻線を整列巻きして作製された低圧コイル22に対して、図17に示すように、低圧コイルボビン5の穴の部分に高圧コイルボビン4を正面側から嵌め込んで一体化される。
低圧コイルボビン5の穴の部分に、低圧コイルボビン5の正面側から高圧コイルボビン4の背面側を嵌め込むと、高圧コイルボビン4の第2の側壁503の周縁部が低圧コイルボビン5の第2の側壁503の嵌合部503Aに当接する。その後、さらに高圧コイルボビン4を低圧コイルボビン5側に押し込むと、図18に示すように、第2の側壁503の周縁部の外側の面に形成された鍔部4031と絶縁補強部410B(凸条部材)がそれぞれ嵌合部503Aの溝5031と溝5032に嵌め込まれて、高圧コイルボビン4が低圧コイルボビン5に固定される。これにより、高圧コイル21の外側に低圧コイル22が同心状に配置されたコイル部2が作製される。
次に、本実施の形態に係る高圧コイルボビン4の特徴的構成である凹溝401に設けた溝407Aと、第1,第2の側壁402,403に設けた切り欠き408及び窓409の作用・効果について、説明する。
まず、図19を用いて、凹溝401に設けられた溝407Aの作用・効果について説明する。
図19は、高圧コイルボビン4の凹溝401に一次巻線を巻回して作製された高圧コイル21の断面図である。図19(a)は、高圧コイルボビン4の第1の対辺部4Aの溝407Aのある部分での断面図であり、図19(b)は、高圧コイルボビン4の第1の対辺部4Aの溝407A同士の間の部分での断面図である。
図7に示すように、複数個の溝407Aの底面4071は、第2の凹溝401Bの底面405よりも低いので、凹溝401に一次巻線を多層に整列巻きした高圧コイル21は、高圧コイルボビン4の第2の対辺部4Bでは、図19(b)に示すように、隣接する溝407A同士の間の部分407B(以下、この部分を「巻線支持部407B」という。)だけでボビンに接触し、溝407Aの部分はボビンに接触しない。
従って、凹溝401に一次巻線を多層に整列巻きした高圧コイル21は、高圧コイルボビン4の第2の対辺部4Bでは、図19(a)に示すように、溝407Aの部分に空隙407Cができ、ボビンの内壁面から浮いた状態となる。このため、高圧コイルボビン4の第2の対辺部4Bでは、高圧コイル21が凹溝401の内壁面に接触する接触面積が溝407Aを設けない場合よりも小さくなっている。
図1に示す変圧器本体1を絶縁油が充填されたタンクに収納すると、絶縁油が高圧コイルボビン4の凹溝401に侵入し、凹溝401に一次巻線を巻回した高圧コイル21に接触する。絶縁油は、高圧コイル21が発熱すると、高圧コイル21の表面に接触している部分でその熱を受け取る。そして、その受熱効率が高いほど、絶縁油の冷却効率は高くなる。
絶縁油の受熱効率は、絶縁油が高圧コイル21に直接接触している面積(接触面積)が広いほど高くなる。高圧コイル21の表面が高圧コイルボビン4の凹溝401の底面404、底面405と第1の側壁402及び第2の側壁403の内壁面に密着していると、絶縁油が高圧コイル21に直接接触することが困難で、しかも接触している部分の絶縁油の移動も困難となる。
本実施の形態に係る高圧コイルボビン4では、第2の対辺部4Bにおいて、高圧コイル21と凹溝401との間に複数個の空隙407Cが生じるようにしているので、その複数個の空隙407Cの部分で絶縁油が高圧コイル21に直接接触する接触面積が増加する。そして、各空隙407Cは、凹溝401の開口部に連通しているので、空隙407C内で高圧コイル21から受熱した絶縁油が凹溝401の開口部側に容易に移動することができる(図19(a)の油の出入りの矢印参照)。
従って、本実施の形態に係る高圧コイルボビン4では、絶縁油の高圧コイル21からの受熱効率を向上させる効果を奏する。
本実施の形態では、複数個の溝407A(又は複数個の巻線支持部407B)を一次巻線の巻回方向(図4の上下方向)に対して直交する方向に形成しているが、複数個の溝407Aは、帯状の巻線支持部407Bが一次巻線の巻回方向に対して交差する方向であれば、任意の方向に形成してもよい。
また、本実施の形態では、高圧コイル21の各長辺の部分にそれぞれ6個の溝407Aを設けているが、溝407Aの数は、これに限定されるものではない。また、本実施の形態では、溝407Aの形状を横長の長方形状にし、巻線支持部407Bの形状を帯状にしているが、溝407Aと巻線支持部407Bの形状は、これらの形状に限定されるものではなく、高圧コイル21の凹溝401との接触面積を少なくできるものであれば、任意の形状を採用することができる。
次に、図20を用いて、第1,第2の側壁402,403に設けた複数個の切り欠き408及び窓409の作用・効果について説明する。
図20は、高圧コイルボビン4の凹溝401内を通る絶縁油の対流を説明するための図で、コイル部2を正面から見た図である。
図1に示す変圧器本体1は、2個の鉄心3が水平に並ぶ姿勢でタンクに収納されるので、タンク内のおけるコイル部2の姿勢は、図20に示すように、高圧コイルボビン4及び低圧コイルボビン5が縦長の長方形状となる姿勢になる。
絶縁油入りのタンクに変圧器本体1を収納した変圧器においては、通常、絶縁油は、タンク内の周辺部で上から下に向かい、タンクの中央部で下から上に向かう方向に循環するように、対流する。本実施の形態に係る高圧コイルボビン4は、下側の短辺の部分と上側の短辺の部分に複数個の切り欠き408と複数個の窓409を設けているので、タンク内で対流する絶縁油は、図20に示すように、高圧コイルボビン4の第1の側壁402の下側の短辺の部分に設けられた4個の窓409から凹溝401の第1の空間に流入し、高圧コイルボビン4の第2の側壁403の下側の短辺の部分に設けられた4個の切り欠き408から凹溝401の第2の空間に流入する(図20では、4個の切り欠き408は見えていない。)。
凹溝401の第1の空間に流入した絶縁油は、図20に太字/点線の矢印で示すように、高圧コイルボビン4の左右の長辺の部分を通って高圧コイルボビン4の上側の短辺の部分に上昇する。そして、上昇した絶縁油は、高圧コイルボビン4の上側の短辺の部分に設けられた4個の切り欠き408から高圧コイルボビン4の外部に流出する。同様に、凹溝401の第2の空間に流入した絶縁油も高圧コイルボビン4の左右の長辺の部分を通って高圧コイルボビン4の上側の短辺の部分に上昇し、高圧コイルボビン4の上側の短辺の部分に設けられた4個の切り欠き408から高圧コイルボビン4の外部に流出する。
絶縁油は、高圧コイルボビン4の凹溝401内を移動する間に高圧コイル21に接触して当該高圧コイル21の発する熱を受け取るので、上述した対流により、高圧コイル21で発生した熱を高圧コイルボビン4の外部に効率良く排出することができる。
また、凹溝401の高圧コイルボビン4の左右の長辺の部分では、複数個の巻線支持部407Bで高圧コイル21を支持することによって絶縁油と高圧コイル21との接触面積を可及的に大きくしているので、絶縁油の受熱効率が向上する。従って、本実施の形態に係る高圧コイルボビン4では、上述した対流効率の向上と受熱効率の向上の相乗効果により、高圧コイル21で発生する熱を高圧コイルボビン4の外部に効率良く排出することができる。
上記のように、高圧コイルボビン4の一方の短辺部分に設けられる8個の切り欠き408と、高圧コイルボビン4の他方の短辺部分に設けられる4個の切り欠き408及び4個の窓409は、主として絶縁油を高圧コイルボビン4の外部と凹溝401内との間で出入りさせるようにするためのものであるので、切り欠き408と窓409の数は、上述した数に限定されるものではない。
例えば、図3において、高圧コイルボビン4の下側の短辺部分に設けられる切り欠き408と窓409の数は、それぞれ3個以下でもよく、5個以上でもよい。また、高圧コイルボビン4の上側の短辺部分に設けられる4個の切り欠き408のうち、一次巻線の巻線引出部に利用しない切り欠き(例えば、切り欠き408A〜408E以外の切り欠き408)についても、その数は上記の数に限定されるものではなく、任意の数に設定することができる。また、切り欠き408の形状は、スリット状に限定されるものではなく、任意の形状を採用することができる。
以上、説明したように、本実施の形態に係る高圧コイルボビン4によれば、第1の側壁402と第2の側壁403の上下の短辺の部分に複数個の切り欠き408及び窓409を設けるとともに、凹溝401の左右の長辺の部分に絶縁油と高圧コイル21との接触面積を大きくするための複数個の溝407Aを設けているので、絶縁湯の高圧コイル21からの受熱効率と凹溝401内の絶縁油の対流効率を高めることができる。従って、本実施の形態に係る高圧コイルボビン4を用いて作製した高圧コイル21を変圧器に用いることにより、油入り変圧器の冷却効率を向上させることができる。
なお、上記の実施の形態では、高圧コイルボビン4の凹溝401に分割壁406を設けているが、分割壁406は必ずしも必要ではなく、本願発明は、分割壁406のない高圧コイルボビンにも適用することができる。
また、上記の実施の形態では、高圧コイルボビン4にだけ空隙407Cを形成するための溝407Aと、絶縁油を凹溝401の内外に対流させるための複数個の切り欠き407と複数個の窓409を設けているが、低圧コイルボビン5にも同様の機能を果たす溝や切り欠きを設けるようにしてもよい。
上記の実施の形態では、変圧器本体1に用いられるコイル部2について説明したが、本発明は、変圧器に限定されるものではなく、同一の構造を有するコイル部を用いる静止誘導機器に広く利用することができる。