JP2017160483A - 加工性に優れた熱交換器用耐酸露点腐食性鋼板および製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐硫酸露点腐食性および耐塩酸露点腐食性に優れ、かつ加工性にも優れる熱交換器用鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.0005〜0.15%、Si:0.005〜0.80%、Mn:0.10〜1.50%以下、P:0.025%以下、S:0.030%以下、Cu:0.08〜1.20%、Ni:0.005〜0.50%、Cr:0.04〜0.25%、Mo:0.010〜0.085%、Al:0.015〜0.100%、N:0.002〜0.015%、Ti、Nb、V:合計0〜0.040%、B:0〜0.0030%、Sb、Sn:合計0〜0.10%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、フェライト結晶粒の粒度番号G(JIS G0551:2013)が7.8〜10.0、かつ展伸度が1.5以上である再結晶組織を有する耐酸露点腐食性および加工性に優れた熱交換器用鋼板。
【選択図】図1
【解決手段】質量%で、C:0.0005〜0.15%、Si:0.005〜0.80%、Mn:0.10〜1.50%以下、P:0.025%以下、S:0.030%以下、Cu:0.08〜1.20%、Ni:0.005〜0.50%、Cr:0.04〜0.25%、Mo:0.010〜0.085%、Al:0.015〜0.100%、N:0.002〜0.015%、Ti、Nb、V:合計0〜0.040%、B:0〜0.0030%、Sb、Sn:合計0〜0.10%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、フェライト結晶粒の粒度番号G(JIS G0551:2013)が7.8〜10.0、かつ展伸度が1.5以上である再結晶組織を有する耐酸露点腐食性および加工性に優れた熱交換器用鋼板。
【選択図】図1
Description
熱交換器内でガス流れる部分では、ガスの露点より低温状態においていわゆる「硫酸凝結」あるいは「塩酸凝結」が生じる。ガスが流れる部分が金属である場合には硫酸あるは塩酸を含む凝結水によって腐食が進行し問題となることがある。このような凝結水中の酸による腐食を本明細書では「酸露点腐食」と呼んでいる。本発明は熱交換器用として酸露点腐食に対する抵抗力を付与した鋼板において特に加工性を改善したもの、およびその製造方法に関する。
火力発電所や廃棄物焼却施設の燃焼排ガスは主に、水分、硫黄酸化物(二酸化硫黄、三酸化硫黄)、塩化水素、窒素酸化物、二酸化炭素、窒素、酸素などで構成されている。特に排ガス中に三酸化硫黄が1ppmでも含まれていると排ガスの露点は100℃以上に達することが多く、硫酸凝結が生じやすい。また、石炭焚火力発電所の排ガスや、廃棄物焼却施設(都市ごみ焼却施設や産業廃棄物焼却施設)の排ガスには塩化水素が相当量含まれており、塩酸凝結も生じやすい。
硫酸凝結が生じる温度(硫酸露点)および塩酸凝結が生じる温度(塩酸露点)は、燃焼排ガス組成によって変動する。一般に硫酸露点は100〜150℃程度、塩酸露点は50〜80℃程度となることが多く、同じ燃焼設備の排ガス流路であっても、硫酸露点腐食支配の部位と塩酸露点腐食支配の部位が生じうる。このため排ガスの熱を利用する熱交換器には、耐硫酸露点腐食と耐塩酸露点腐食の両方に優れた材料を適用する必要がある。
耐酸露点腐食性を改善した鋼としてSb添加鋼が知られている(特許文献1、2)。特に耐硫酸露点腐食性と耐塩酸露点腐食性の両方を改善するためには、Sbと、CuあるいはさらにMoの複合添加が効果的であるとされる(特許文献2)。しかし、Sbは高価な元素であり鋼材のコスト増を招く要因となるとともに、鋼材原料としてSbを多量に消費する場合には原料調達面において不安がある。また、Sb添加により鋼の熱間加工性が低下する。
耐酸性に優れる材料としてはステンレス鋼があるが、酸の濃度や温度によってはSb添加鋼より腐食が進行しやすい場合もある。ステンレス鋼は高価であるとともに酸露点腐食に対して万全な材料であるとは言えない。
一方、Sb添加に頼らずに耐硫酸露点腐食性や耐塩酸露点腐食性を改善するための手法も種々検討されてきた。例えば、特許文献3には、P、S、Cu、Moの含有量を厳密にコントロールすることにより耐硫酸露点腐食性を向上させる技術が開示されている。特許文献4には、CrやMoの添加量を厳密に制御することにより、耐硫酸露点腐食性と耐塩酸露点腐食性の両方の特性を改善する技術が開示されている。特許文献5には、S含有量を一定以上に管理し、かつMo含有量を抑制することが耐硫酸露点腐食性を一層向上させるうえで有効であることが記載されている。特許文献6には、Cu、Cr、Moを含有する鋼においてフェライト結晶粒径を微細化することにより、耐硫酸露点腐食性と耐塩酸露点腐食性の両方を改善するために必要なCu、Cr、Moの許容範囲を拡大できることが記載されている。
特許文献6の技術によって、Sb添加に頼らずに耐硫酸露点腐食性および耐塩酸露点腐食性を同時に改善した鋼板を工業的に歩留り良く生産することが容易になった。しかし、上記各特許文献に開示の技術では、「加工性」に関して十分な考慮がなされていない。石炭焚火力発電所や廃棄物焼却施設のフィンの場合、鋼帯を狭幅にスリットした後にらせん状に加工して製造されるため、その素材鋼板には座屈や破断を生じない優れた加工性が要求される。
本発明は、耐硫酸露点腐食性および耐塩酸露点腐食性に優れ、かつ加工性にも優れる熱交換器用鋼板を提供しようというものである。
特許文献6に開示されるように、耐酸露点腐食性を改善するためにはフェライト結晶粒径の微細化が有効である。しかしながら、そのような組織状態とするだけでは、上述のフィン材等への加工に十分対応できない。そこで研究を進めた結果、フェライト結晶粒の圧延方向への展伸が大きい再結晶集合組織とすることが、加工性向上に極めて有効であることがわかった。そのような再結晶集合組織においても、結晶粒径を一定範囲に規制することにより耐酸露点腐食性の改善効果は十分に得られることが確認された。また、圧延方向への展伸が大きいフェライト再結晶組織は、再結晶焼鈍の昇温過程でAlNを十分に析出させておくことによって実現できることがわかった。そのような再結晶焼鈍は、連続焼鈍ではなく、箱焼鈍(バッチ式焼鈍)を採用することによって工業的に実施可能である。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、上記目的を達成するために、質量%で、C:0.0005〜0.15%、Si:0.005〜0.80%、Mn:0.10〜1.50%以下、P:0.025%以下、S:0.030%以下、Cu:0.08〜1.20%、Ni:0.005〜0.50%、Cr:0.04〜0.25%、Mo:0.010〜0.085%、Al:0.015〜0.100%、N:0.002〜0.015%、Ti、Nb、V:合計0〜0.040%、B:0〜0.0030%、Sb、Sn:合計0〜0.10%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)において、下記(A)に従うフェライト結晶粒の粒度番号Gが7.8〜10.0であり、かつ下記(B)に従うフェライト結晶粒の展伸度が1.5以上である再結晶組織を有する耐酸露点腐食性および加工性に優れた熱交換器用鋼板が提供される。
(A)JIS G0551:2013の附属書JBに規定される切断法において、直交する同一長さの2つの線分のうち、一方を圧延方向、他方を板厚方向にとり、式(JB.1)により定まる値をフェライト結晶粒の粒度番号Gとする。
(B)上記(A)の切断法による測定において、圧延方向の線分によって切断された結晶粒数の総和をI1、板厚方向の線分によって切断された結晶粒数の総和をI2とするとき、I1/I2により定まる値をフェライト結晶粒の展伸度とする。
(A)JIS G0551:2013の附属書JBに規定される切断法において、直交する同一長さの2つの線分のうち、一方を圧延方向、他方を板厚方向にとり、式(JB.1)により定まる値をフェライト結晶粒の粒度番号Gとする。
(B)上記(A)の切断法による測定において、圧延方向の線分によって切断された結晶粒数の総和をI1、板厚方向の線分によって切断された結晶粒数の総和をI2とするとき、I1/I2により定まる値をフェライト結晶粒の展伸度とする。
上記鋼板として、例えばJIS5号引張試験片を用いて圧延方向に15%のひずみを付加したときの塑性ひずみ比r値が1.50以上であるものが好適な対象となる。また、更に良好な加工性を有するものとして、前記フェライト結晶粒の展伸度が2.5以上である鋼板が提供される。展伸度が2.5以上である鋼板の場合、例えばJIS5号試験片を用いて圧延方向に15%のひずみを付加したときの塑性ひずみ比r値が2.10以上という優れた加工性を呈する。
上記鋼板の製造方法として、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を前記の順に施すことにより再結晶組織を有する鋼板を製造するに際し、熱間圧延工程において、熱延最終パス温度860℃以上、巻取温度550℃以下の条件で熱延鋼板を作り、冷間圧延工程において、前記熱延鋼板に圧延率40%以上の冷間圧延を施し、焼鈍工程において、前記冷間圧延後の鋼板を加熱して、材料温度が450〜550℃の範囲にある時間t450-550を30分以上好ましくは120分以上確保したのち650℃以上の温度に昇温させ、650〜730℃の温度範囲に5時間以上保持し、その後冷却するヒートパターンで熱処理を施す製造方法が提供される。
焼鈍後に、伸び率2.0%以下の範囲で調質圧延を施してもよい。
本発明によれば、耐硫酸露点腐食性と耐塩酸露点腐食性に優れる熱交換器用鋼板において、加工性を安定して改善することが可能となった。従って本発明は、石炭焚火力発電所や廃棄物焼却施設における熱交換器の構築に有用であり、特に冷却フィン等の高度な加工が要求される部材への適用に効果的である。
〔化学組成〕
本発明に適用する鋼の成分元素について説明する。成分元素に関する「%」は特に断らない限り質量%を意味する。
Cは、耐酸露点腐食性に大きな影響を及ぼさないが、多量のC含有は加工性の低下を招く要因となるので、C含有量は0.15%以下とする。一方、過剰な低C化は製造コストの上昇を招く。ここではC含有量0.0005%以上のものを対象とする。
本発明に適用する鋼の成分元素について説明する。成分元素に関する「%」は特に断らない限り質量%を意味する。
Cは、耐酸露点腐食性に大きな影響を及ぼさないが、多量のC含有は加工性の低下を招く要因となるので、C含有量は0.15%以下とする。一方、過剰な低C化は製造コストの上昇を招く。ここではC含有量0.0005%以上のものを対象とする。
Siは、製鋼時の脱酸のために必要である他、耐酸露点腐食性の向上にも有効である。Si含有量は0.005%以上とすることが効果的であり、0.05%以上とすることがより好ましい。ただし、過度のSi添加は熱延時のデスケール性を低下させ、スケール疵の増大を招く。Si含有量は0.80%以下に制限される。
Mnは、鋼の強度調整に有効であり、またSによる熱間脆性を防止する作用を有する。Mn含有量は0.10%以上とすることが効果的であり、0.30%以上、あるいは0.50%以上のMn含有量に管理してもよい。ただし、Mnは耐塩酸腐食性を低下させる要因となる。Mn含有量は1.50%まで許容され、1.20%以下、あるいは1.00%以下の範囲に管理してもよい。
Pは、熱間加工性や溶接性を劣化させるので0.025%以下に制限される。耐硫酸露点腐食性および耐塩酸露点腐食性をより一層向上させるためにはP含有量の低減が有効となるが、過度の低減は製鋼負荷を増大させコストを押し上げる要因となる。種々検討の結果、P含有量は0.005〜0.025%の範囲で調整すればよく、0.005〜0.015%とすることがより好ましい。
Sは、熱間加工性や耐塩酸露点腐食性を劣化させるので0.030%以下に制限され、0.018%以下とすることがより好ましい。ただし、耐硫酸露点腐食性に関しては、ある程度のS含有が有利に作用する。種々検討の結果、耐硫酸露点腐食性を特に重視する場合にはS含有量を0.003%以上確保することが効果的であり、0.005%以上とすることがより効果的である。
Cuは、耐硫酸露点腐食性および耐塩酸露点腐食性を向上させるために有効であり、その作用を十分に発揮させるためには0.08%以上のCu含有量を確保する必要がある。しかし、過度のCu含有は熱間加工性を低下させる要因となるので、1.20%以下の含有量とすることが望ましい。
Niは、耐硫酸露点腐食性や耐塩酸露点腐食性の向上に直接的には作用しないが、Cu添加による熱間加工性の低下を抑制する作用を発揮する元素であり、0.005%以上の含有量とすることが望ましい。熱間加工性を重視する場合は0.05%以上のNi含有量を確保することが効果的であり、0.10%以上とすることがより効果的である。ただし、0.50%を超えるとその効果が飽和しコスト高となる。従って、Ni含有量は0.50%以下の範囲で設定する。
CrとMoは、Sb等の特殊元素に頼らずに耐硫酸露点腐食性と耐塩酸露点腐食性を同時に向上させる上で重要な元素である。発明者らの検討によれば、耐硫酸露点腐食性と耐塩酸露点腐食性を同時に改善するためには、Crを0.04〜0.25%、かつMoを0.010〜0.085%の範囲で複合添加することが極めて有効である。
Alは、製鋼時の脱酸のために必要である他、本発明ではAlNの生成源として重要である。最終的な再結晶焼鈍の昇温過程で鋼中のAlとNの結合反応を進行させ、AlNを析出させる。そのAlN析出物が再結晶集合組織の形成過程でフェライト再結晶粒の展伸に寄与し、その組織が加工性の向上をもたらす。種々検討の結果、加工性の向上効果を十分に得るためには、0.015%以上のAl含有量を確保する必要がある。過度のAl添加はコスト増を招く要因となる。Al含有量は0.100%以下に制限され、0.060%以下に管理してもよい。
Nは、上述のAlとともにAlNの生成源として重要である。種々検討の結果、加工性の向上効果を十分に得るためには、0.002%以上のN含有量を確保する必要がある。一方、低合金鋼における常温でのNの固溶限度を考慮すると、N含有量は0.015%以下の範囲とすることが望ましい。
Ti、Nb、Vは、フェライト結晶粒径の粗大化を防止して、耐酸露点腐食性の改善に有効である。そのため、必要に応じてこれらの1種以上を添加することができる。その場合、Ti、Nb、Vの1種以上の合計含有量を0.005%以上とすることがより効果的である。一方、これらの元素の含有量が多くなると窒化物を形成して鋼中のNを消費し、上述のAlN生成に必要なNが不足する場合がある。Ti、Nb、Vの1種以上を添加する場合は、それらの合計含有量を0.040%以下とする必要がある。
Bは、微量の添加でフェライト結晶粒径の粗大化を防止する作用を発揮しうる元素であるため、必要に応じて添加することができる。Bの含有量は0.0005%以上とすることがより効果的である。一方、Bの添加量が多くなると窒化物BNを形成して鋼中のNを消費し、AlN生成量の低下を招く恐れがある。Bを添加する場合は0.0030%以下の含有量範囲で行う必要がある。
Sb、Snは、CrやMoと同様に電気化学的なアノード・カソード反応を緩慢にさせる作用を通じて耐酸露点腐食性を改善するのに有効な元素である。本発明では上述のように、Sb、Snの添加に頼ることなく、Cr、Moの含有量適正化によって耐酸露点腐食性の顕著な改善効果を得ることができるが、Sb、Snを添加した場合には、耐酸露点腐食性を更に向上させることが可能となる。特に、Sb添加は硫酸露点腐食に対する抵抗力の増強に極めて有効であることがわかった。従って、耐酸露点腐食性のレベルアップを重視する場合には、必要に応じてSb、Snの1種以上を添加することができる。これらの元素の添加効果を十分に発揮させるためには、Sb、Snの合計含有量が0.005%以上となるようにこれらの1種以上を含有させることが望ましい。ただし、過剰に添加しても上記作用は飽和し、製造コストが上昇する。Sb、Snの1種以上を添加する場合は、それらの合計含有量を0.10%以下とすることが望ましい。
〔金属組織〕
本発明で対象とする鋼板は、再結晶フェライト相を主体とする金属組織を有する。フェライト単相組織である場合の他、セメンタイト、パーライトの1種以上を合計10体積%以下の範囲で含有し残部がフェライト相である組織であっても構わない。本明細書では、セメンタイト、パーライトを第二相と呼ぶことがある。このうちパーライトは薄いフェライト相とセメンタイト相で構成される層状組織であるが、本明細書において第二相の残部として記述されるフェライト相、すなわちフェライト結晶粒度の測定対象となるフェライト相には、パーライトを構成するフェライト相は含まれない。同様に第二相の構成要素としてパーライトと同列に記述されるセメンタイトにも、パーライトを構成するセメンタイトは含まれない。
本発明で対象とする鋼板は、再結晶フェライト相を主体とする金属組織を有する。フェライト単相組織である場合の他、セメンタイト、パーライトの1種以上を合計10体積%以下の範囲で含有し残部がフェライト相である組織であっても構わない。本明細書では、セメンタイト、パーライトを第二相と呼ぶことがある。このうちパーライトは薄いフェライト相とセメンタイト相で構成される層状組織であるが、本明細書において第二相の残部として記述されるフェライト相、すなわちフェライト結晶粒度の測定対象となるフェライト相には、パーライトを構成するフェライト相は含まれない。同様に第二相の構成要素としてパーライトと同列に記述されるセメンタイトにも、パーライトを構成するセメンタイトは含まれない。
再結晶フェライト結晶粒が微細であるほど(すなわち粒度番号Gが大きいほど)、耐酸露点腐食性の向上には有利となる。一方で、フェライト結晶粒径を大きくするほど(すなわち粒度番号Gが小さいほど)、後述の展伸度の増大には有利となる。発明者らは詳細な検討の結果、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)の金属組織観察において、前掲の(A)に従うフェライト結晶粒の粒度番号Gが7.8〜10.0の範囲にあれば、耐酸露点腐食性の改善と、加工性の改善を、高いレベルで両立させることが可能であることを見いだした。
石炭焚火力発電所や廃棄物焼却施設の熱交換器構成部材のうち、フィン材などの高加工部材に適用する素材としては、圧延方向に引張ひずみを付加したときの塑性ひずみ比r値が高い鋼板であることが極めて有効である。そのような優れた加工性を有する鋼板は、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)において、前掲の(B)に従うフェライト結晶粒の展伸度が1.5以上である再結晶組織に調整することによって実現できることがわかった。また、その展伸度が2.5以上である再結晶組織を有するものは、特に優れた加工性を呈する。ただし、上述した化学組成の鋼の場合、既存の大量生産設備で4.0を超える展伸度を得ることは必ずしも容易でない。上記展伸度は通常、4.0以下の範囲で調整すればよい。
以上のことから、本発明では、前記(A)に従うフェライト結晶粒の粒度番号Gが7.8〜10.0であり、かつ前記(B)に従うフェライト結晶粒の展伸度が1.5以上、より好ましくは2.5以上である再結晶組織に調整された鋼板を対象とする。このような再結晶組織は、前述した所定の化学組成を有する冷延鋼板に、昇温過程でAlNを十分に析出させるヒートパターンでの再結晶焼鈍(後述)を施すことによって得ることができる。
〔加工性〕
JIS Z2241:2011に規定される5号引張試験片を使用して圧延方向に15%のひずみを付与した場合の塑性ひずみ比r値が、1.50以上であることが好ましく、2.10以上であることがより好ましい。r値は幅方向の真ひずみを厚さ方向の真ひずみで除したものである(JIS G0202:2013、番号1182)。r値が大きいほど、その鋼板素材は塑性変形時に肉厚減少を生じにくく、良好な加工性を有すると評価される。上記r値が1.50以上であれば、鋼板素材を加工して作製される種々の排ガス流路構成部材へ適用可能な汎用性に優れた加工性を有すると判断でき、2.10以上であれば特にフィン材のような厳しい加工に供する用途において一層有利となる。また、5号引張試験片を使用した圧延方向の引張試験において、破断時全伸びが34%以上となる延性を有することが好ましい。
JIS Z2241:2011に規定される5号引張試験片を使用して圧延方向に15%のひずみを付与した場合の塑性ひずみ比r値が、1.50以上であることが好ましく、2.10以上であることがより好ましい。r値は幅方向の真ひずみを厚さ方向の真ひずみで除したものである(JIS G0202:2013、番号1182)。r値が大きいほど、その鋼板素材は塑性変形時に肉厚減少を生じにくく、良好な加工性を有すると評価される。上記r値が1.50以上であれば、鋼板素材を加工して作製される種々の排ガス流路構成部材へ適用可能な汎用性に優れた加工性を有すると判断でき、2.10以上であれば特にフィン材のような厳しい加工に供する用途において一層有利となる。また、5号引張試験片を使用した圧延方向の引張試験において、破断時全伸びが34%以上となる延性を有することが好ましい。
〔製造方法〕
上記の組織状態を有する鋼板は、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を上記の順に有する工程によって製造することができる。熱間圧延に供する鋼材は通常の連続鋳造スラブや、造塊−分塊プロセスで得られたスラブが適用できる。熱間圧延後、必要に応じて熱延板焼鈍を施してもよいが、本発明で対象とする鋼種では熱延板焼鈍を行うことなく、冷間圧延工程に進めることができる。冷間圧延前には、通常、酸洗等により脱スケールが行われる。焼鈍後には、調質圧延を施してもよい。以下、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、調質圧延について説明する。
上記の組織状態を有する鋼板は、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を上記の順に有する工程によって製造することができる。熱間圧延に供する鋼材は通常の連続鋳造スラブや、造塊−分塊プロセスで得られたスラブが適用できる。熱間圧延後、必要に応じて熱延板焼鈍を施してもよいが、本発明で対象とする鋼種では熱延板焼鈍を行うことなく、冷間圧延工程に進めることができる。冷間圧延前には、通常、酸洗等により脱スケールが行われる。焼鈍後には、調質圧延を施してもよい。以下、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、調質圧延について説明する。
(熱間圧延)
熱間圧延は、一般的な熱間圧延設備を用いて行うことができる。ただし、熱延最終パス温度を860℃以上とすることが望ましい。熱延最終パス温度は、熱間圧延の最後の圧下を行う圧延ロールで圧下した直後の材料表面温度を測定することにより把握できる。熱延最終パス温度が860℃を下回ると部分的にフェライト相が存在する温度域での圧延となり、最終的に、良好な加工性を有する板材を安定して得ることが難しくなる。熱延最終パス温度の上限は特に規定しないが、最終パスが950℃を超えるようなパススケジュールではスケール疵が発生する可能性が高くなるので、熱延最終パス温度は950℃以下の範囲とすることが好ましい。
熱間圧延は、一般的な熱間圧延設備を用いて行うことができる。ただし、熱延最終パス温度を860℃以上とすることが望ましい。熱延最終パス温度は、熱間圧延の最後の圧下を行う圧延ロールで圧下した直後の材料表面温度を測定することにより把握できる。熱延最終パス温度が860℃を下回ると部分的にフェライト相が存在する温度域での圧延となり、最終的に、良好な加工性を有する板材を安定して得ることが難しくなる。熱延最終パス温度の上限は特に規定しないが、最終パスが950℃を超えるようなパススケジュールではスケール疵が発生する可能性が高くなるので、熱延最終パス温度は950℃以下の範囲とすることが好ましい。
巻取温度を550℃以下とする必要がある。巻取温度が550℃を超える場合は、巻取後の熱延鋼帯中でAlNの析出が過剰に進行し、冷間圧延後に行う再結晶焼鈍の昇温過程で新たに析出するAlN(フェライト結晶粒の展伸度の向上に寄与するAlN)の析出量を十分に確保できなくなる恐れがある。従って、加工性に優れる集合組織を発達させるためには、熱間圧延での巻取温度を550℃以下とすることが極めて有効である。熱延鋼板の板厚は例えば2.0〜6.0mmとすることができる。
(冷間圧延)
冷間圧延工程では、板厚を減少させるとともに、圧延ひずみを付与する。適度な圧延ひずみを有する状態で次工程の再結晶焼鈍に供することによって、加工性の向上に有利なフェライト再結晶集合組織を得ることができる。そのために冷間圧延率を40%以上とすることが望ましい。冷間圧延率の上限は特に規定しないが、通常、85%以下の範囲で設定すればよい。
冷間圧延工程では、板厚を減少させるとともに、圧延ひずみを付与する。適度な圧延ひずみを有する状態で次工程の再結晶焼鈍に供することによって、加工性の向上に有利なフェライト再結晶集合組織を得ることができる。そのために冷間圧延率を40%以上とすることが望ましい。冷間圧延率の上限は特に規定しないが、通常、85%以下の範囲で設定すればよい。
(焼鈍)
上記の冷間圧延工程で得られた冷延鋼板に、再結晶焼鈍を施す。上述のように、フェライト結晶粒の展伸度が大きい再結晶集合組織とすることによって良好な加工性が発揮される。そのために、ここでは再結晶焼鈍の昇温過程を利用して、AlNの析出を促進させる。再結晶の進行と同時期に微細なAlNを析出させることでr値の向上に有効な結晶方位を持った展伸粒を優先的に成長させることができる。
上記の冷間圧延工程で得られた冷延鋼板に、再結晶焼鈍を施す。上述のように、フェライト結晶粒の展伸度が大きい再結晶集合組織とすることによって良好な加工性が発揮される。そのために、ここでは再結晶焼鈍の昇温過程を利用して、AlNの析出を促進させる。再結晶の進行と同時期に微細なAlNを析出させることでr値の向上に有効な結晶方位を持った展伸粒を優先的に成長させることができる。
冷間圧延後の鋼板を加熱して、650〜730℃の焼鈍温度に到達するまでの間に、材料温度が450〜550℃の範囲にある時間t450-550を30分以上確保することが重要である。この場合のt450-550(min)を平均昇温速度に換算すると「200℃/h以下」となる。450〜550℃はAlNの析出が生じやすい温度域であるとともに、冷間圧延ひずみを有する鋼からフェライト再結晶粒が発生する温度域でもある。焼鈍温度に到達する前の昇温過程で当該温度域での滞在時間を十分に確保すると、AlNの析出と、フェライト再結晶粒の発生あるいは初期の粒成長が同時期に起こる。そのことがフェライト再結晶粒の成長に影響を及ぼし、結果的にr値の向上に有利な結晶方位を持つ展伸粒の優先的な発達を可能にしているものと考えられる。t450-550が30分未満であるとAlNが十分に析出する前に再結晶が生じるようになり、加工性に優れた展伸粒を得ることが難しくなる。t450-550を30分以上確保することにより、展伸度が1.5以上のフェライト再結晶組織とすることができ、良好な加工性が得られる。さらに、t450-550が120分以上(平均昇温速度に換算すると「50℃/h以下」)になるようにコントロールすると、展伸度2.5以上のフェライト再結晶組織を得ることができ、加工性の改善効果は一層顕著となる。t450-550を更に長時間としてもよいが、加工性改善効果は次第に飽和してくる。生産性を考慮すると、通常、t450-550は300分以下(平均昇温速度に換算すると「20℃/h以上」)の範囲で設定すればよい。
450℃より低温側あるいは550℃より高温側でもAlNの析出は生じるが、t450-550を十分に確保しない場合には、加工性の向上に有利な展伸粒を安定して十分に成長させることは難しい。
t450-550を所定の範囲にコントロールするための昇温パターンとしては、例えば、常温から焼鈍温度まで200℃/h以下の一定の昇温速度で昇温するパターンや、450〜550℃の範囲内に設定したある温度で昇温を一旦止めて一定時間保持すること(いわゆる「ステップ焼鈍」)により450〜550℃の滞在時間を30分以上確保するパターンなど、種々のパターンが適用可能である。
焼鈍温度は650〜730℃とし、その温度範囲に5時間以上保持する。保持温度が650℃未満だと再結晶粒の成長が不十分となりやすく、加工性の改善に支障をきたす恐れがある。材料到達温度が730℃を超えるとオーステナイト相が生じ、r値の高い集合組織を得ることが難しくなる。この場合も加工性の改善が不十分となる。650〜730℃の滞在時間が5時間未満であると、展伸度が1.5以上である前記所望のフェライト再結晶集合組織を安定して得ることが難しくなる。650〜730℃での保持時間の上限については特に規定しないが、過剰に長時間の加熱を行うことは製造コストの上昇を招くので、フェライト結晶粒の粒度番号Gが7.8〜10.0の範囲に収まる保持時間を設定すればよい。例えば、650〜730℃の温度範囲に5〜30時間保持することが実用的であり、10〜20時間保持することがより好ましい。
このようなヒートパターンの再結晶焼鈍は、バッチ式焼鈍炉を用いて実施することができる。例えばベル焼鈍炉などによる箱焼鈍を行うことが望ましい。焼鈍雰囲気は、例えば窒素ガス雰囲気、水素ガス雰囲気、窒素+水素混合ガス雰囲気など、非酸化性雰囲気とすればよい。雰囲気ガスを熱伝導性が高い100%水素ガス雰囲気とすると、コイル状に巻かれた鋼帯全体にわたって温度分布を均一化させ易くなるため、材質安定性の点で望ましい。650〜730℃で保持した後は、少なくとも材料温度が150℃以下となるまでは大気に曝さずに炉中で炉温を下げながら冷却することが望ましい。650〜730℃の保持温度から300℃までの平均冷却速度は例えば10〜60℃/hとすることができる。
(調質圧延)
上記の焼鈍後には、必要に応じて、板形状を整えるために調質圧延(スキンパス圧延)を施すことができる。調質圧延率は伸び率2.0%以下とすることが望ましい。調質圧延率が2.0%を超えると加工ひずみが過剰に導入されて加工性低下を招く恐れがある。なお、本明細書では、再結晶焼鈍後の調質圧延率が0〜2.0%である鋼板を「焼鈍鋼板」として取り扱う。
上記の焼鈍後には、必要に応じて、板形状を整えるために調質圧延(スキンパス圧延)を施すことができる。調質圧延率は伸び率2.0%以下とすることが望ましい。調質圧延率が2.0%を超えると加工ひずみが過剰に導入されて加工性低下を招く恐れがある。なお、本明細書では、再結晶焼鈍後の調質圧延率が0〜2.0%である鋼板を「焼鈍鋼板」として取り扱う。
以上のようにして得られる鋼板は、排ガスに曝されて表面に凝結が生じる部位を構成する熱交換器に適している。前記排ガスとしては、例えば石炭焚火力発電所や廃棄物焼却施設から排出される排ガスが挙げられる。
《実施例1》
表1A、表1Bに示す鋼を溶製し、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延の工程で焼鈍鋼板を製造した。熱間圧延は、抽出温度1250℃、熱延最終パス温度880℃、巻取温度480℃の条件で行い、板厚3.2mmの熱延鋼板を得た。冷間圧延では圧延率を50%として板厚1.6mmの冷延鋼板を得た。焼鈍は、バッチ式焼鈍炉を用いた箱焼鈍とした。雰囲気は水素ガス100%とし、100℃から690℃までの昇温速度がほぼ120℃/h(一定)となるように昇温して、材料温度690℃で20時間保持した後、炉温を下げて炉中で冷却した。この場合、昇温過程で材料温度が450〜550℃の範囲にある時間t450-550は50分である。300℃までの平均冷却速度は約20℃/hである。焼鈍後に伸び率0.5%の調質圧延を施し、供試材とした。
表1A、表1Bに示す鋼を溶製し、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延の工程で焼鈍鋼板を製造した。熱間圧延は、抽出温度1250℃、熱延最終パス温度880℃、巻取温度480℃の条件で行い、板厚3.2mmの熱延鋼板を得た。冷間圧延では圧延率を50%として板厚1.6mmの冷延鋼板を得た。焼鈍は、バッチ式焼鈍炉を用いた箱焼鈍とした。雰囲気は水素ガス100%とし、100℃から690℃までの昇温速度がほぼ120℃/h(一定)となるように昇温して、材料温度690℃で20時間保持した後、炉温を下げて炉中で冷却した。この場合、昇温過程で材料温度が450〜550℃の範囲にある時間t450-550は50分である。300℃までの平均冷却速度は約20℃/hである。焼鈍後に伸び率0.5%の調質圧延を施し、供試材とした。
各供試材から試料を採取し、以下のことを調べた。
〔金属組織〕
圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)の金属組織を光学顕微鏡で観察し、JISG0551:2013に基づき、前掲(A)の手法でフェライト結晶粒の粒度番号Gを求め、前掲(B)の手法でフェライト結晶粒の展伸度を求めた。なお、各供試材とも、フェライト単相組織、またはフェライト相+10体積%以下の第二相からなる組織を有していた(後述実施例2、3において同様)。
〔金属組織〕
圧延方向と板厚方向に平行な断面(L断面)の金属組織を光学顕微鏡で観察し、JISG0551:2013に基づき、前掲(A)の手法でフェライト結晶粒の粒度番号Gを求め、前掲(B)の手法でフェライト結晶粒の展伸度を求めた。なお、各供試材とも、フェライト単相組織、またはフェライト相+10体積%以下の第二相からなる組織を有していた(後述実施例2、3において同様)。
〔引張特性〕
JIS Z2241:2011に従い、5号引張試験片を使用して圧延方向の引張試験を行い、降伏応力YS(N/mm2)、引張強さTS(N/mm2)、破断時全伸びEl(%)を求めた。また、5号引張試験片を使用して圧延方向に15%のひずみを付与した場合の塑性ひずみ比r値を測定した。加工性についてはr値が1.50以上となるものを合格(加工性良好)と判定した。
JIS Z2241:2011に従い、5号引張試験片を使用して圧延方向の引張試験を行い、降伏応力YS(N/mm2)、引張強さTS(N/mm2)、破断時全伸びEl(%)を求めた。また、5号引張試験片を使用して圧延方向に15%のひずみを付与した場合の塑性ひずみ比r値を測定した。加工性についてはr値が1.50以上となるものを合格(加工性良好)と判定した。
〔耐硫酸腐食性〕
供試材から切り出した試験片(30mm×50mm×板厚)を硫酸濃度40%、温度60℃の硫酸水溶液中に6時間浸漬する試験に供し、試験前の表面積および試験前後の質量変化量から平均腐食速度(mg/cm2/h)を求めた。この平均腐食速度が25.0mg/cm2/h以下であれば、優れた耐硫酸露点腐食性を有すると判断できる。従ってこの平均腐食速度が25.0mg/cm2/h以下のものを合格(耐硫酸腐食性良好)と判定した。
供試材から切り出した試験片(30mm×50mm×板厚)を硫酸濃度40%、温度60℃の硫酸水溶液中に6時間浸漬する試験に供し、試験前の表面積および試験前後の質量変化量から平均腐食速度(mg/cm2/h)を求めた。この平均腐食速度が25.0mg/cm2/h以下であれば、優れた耐硫酸露点腐食性を有すると判断できる。従ってこの平均腐食速度が25.0mg/cm2/h以下のものを合格(耐硫酸腐食性良好)と判定した。
〔耐塩酸腐食性〕
供試材から切り出した試験片(30mm×50mm×板厚)を塩酸濃度1%、温度80℃の塩酸水溶液中に6時間浸漬する試験に供し、試験前の表面積および試験前後の質量変化量から平均腐食速度(mg/cm2/h)を求めた。この平均腐食速度が4.0mg/cm2/h以下であれば、優れた耐塩酸露点腐食性を有すると判断できる。従ってこの平均腐食速度が4.0mg/cm2/h以下のものを合格(耐塩酸腐食性良好)と判定した。
これらの結果を表2に示す。
供試材から切り出した試験片(30mm×50mm×板厚)を塩酸濃度1%、温度80℃の塩酸水溶液中に6時間浸漬する試験に供し、試験前の表面積および試験前後の質量変化量から平均腐食速度(mg/cm2/h)を求めた。この平均腐食速度が4.0mg/cm2/h以下であれば、優れた耐塩酸露点腐食性を有すると判断できる。従ってこの平均腐食速度が4.0mg/cm2/h以下のものを合格(耐塩酸腐食性良好)と判定した。
これらの結果を表2に示す。
本発明の規定を満たす化学組成および金属組織を有するもの(本発明例)は、いずれも加工性(r値)に優れ、耐酸露点腐食性にも優れる。
これに対し、比較例である鋼No.1はMo含有量が不足するため耐硫酸腐食性および耐塩酸腐食性に劣る。鋼No.5はMo含有量が過剰であるため耐硫酸腐食性に劣る。鋼No.6はCr含有量が不足するため耐硫酸腐食性および耐塩酸腐食性に劣る。また、N含有量が不足するため焼鈍時の昇温過程でAlNの析出が不十分となり、フェライト結晶粒の展伸度が十分に向上しなかった。その結果、加工性(r値)にも劣る。鋼No.10はCr含有量が過剰であるため耐硫酸腐食性に劣る。鋼No.20はMn含有量が過剰であるため耐硫酸腐食性および耐塩酸腐食性に劣る。
《実施例2》
表1Aに示した発明対象鋼No.3と表1Bに示した発明対象鋼No.30の鋳片を用いて、熱間圧延での巻取温度および焼鈍条件を表3に示す条件として、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延の工程にて板厚1.6mmの供試材を得た。ここで、箱焼鈍では100℃から保持温度(最高到達温度)までの昇温速度がほぼ150℃/h(一定)となるように昇温し、表3記載の焼鈍温度で20時間保持した。この場合、昇温過程で材料温度が450〜550℃の範囲にある時間t450-550は40分である。それ以外の箱焼鈍条件は実施例1と同様とした。連続焼鈍では5体積%H2+残部N2である水素窒素混合ガス雰囲気中で、昇温速度約20℃/s、均熱60秒の焼鈍を施した。各例とも、巻取温度、焼鈍条件以外の製造条件は実施例1と共通である。得られた供試材について実施例1と同様の組織観察および試験を行った。結果を表3に示す。
表1Aに示した発明対象鋼No.3と表1Bに示した発明対象鋼No.30の鋳片を用いて、熱間圧延での巻取温度および焼鈍条件を表3に示す条件として、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延の工程にて板厚1.6mmの供試材を得た。ここで、箱焼鈍では100℃から保持温度(最高到達温度)までの昇温速度がほぼ150℃/h(一定)となるように昇温し、表3記載の焼鈍温度で20時間保持した。この場合、昇温過程で材料温度が450〜550℃の範囲にある時間t450-550は40分である。それ以外の箱焼鈍条件は実施例1と同様とした。連続焼鈍では5体積%H2+残部N2である水素窒素混合ガス雰囲気中で、昇温速度約20℃/s、均熱60秒の焼鈍を施した。各例とも、巻取温度、焼鈍条件以外の製造条件は実施例1と共通である。得られた供試材について実施例1と同様の組織観察および試験を行った。結果を表3に示す。
本発明例のものはいずれも実施例1と同様に優れた加工性(r値)および耐酸腐食性を有する。
これに対し、比較例である試験No.3−1、30−1は焼鈍温度が低すぎたのでフェライト結晶粒度Gが10.0を超える細粒組織となり、耐酸腐食性は良好であるものの、加工性(r値)に劣る。試験No.3−4、30−4は巻取温度が高すぎたので熱延鋼板において多量のAlNが生成し、焼鈍の昇温過程で微細かつ均一なAlNが十分に生成しなかった。その結果、フェライト結晶粒の展伸度が小さい組織状態となり、加工性(r値)に劣る。試験No.3−5、30−5は焼鈍温度が高すぎたので、展伸度が低くなり、加工性(r値)に劣る。試験No.3−6、30−6は従来一般的な連続焼鈍によるものであり、展伸度が小さく結晶粒度Gが大きい細粒組織となった。この場合、耐酸腐食性は改善されるが、加工性(r値)が不十分である。
図1、図2に、それぞれNo.3−3(本発明例)、No.3−6(比較例)の鋼板について、L断面の金属組織写真を例示する。
これに対し、比較例である試験No.3−1、30−1は焼鈍温度が低すぎたのでフェライト結晶粒度Gが10.0を超える細粒組織となり、耐酸腐食性は良好であるものの、加工性(r値)に劣る。試験No.3−4、30−4は巻取温度が高すぎたので熱延鋼板において多量のAlNが生成し、焼鈍の昇温過程で微細かつ均一なAlNが十分に生成しなかった。その結果、フェライト結晶粒の展伸度が小さい組織状態となり、加工性(r値)に劣る。試験No.3−5、30−5は焼鈍温度が高すぎたので、展伸度が低くなり、加工性(r値)に劣る。試験No.3−6、30−6は従来一般的な連続焼鈍によるものであり、展伸度が小さく結晶粒度Gが大きい細粒組織となった。この場合、耐酸腐食性は改善されるが、加工性(r値)が不十分である。
図1、図2に、それぞれNo.3−3(本発明例)、No.3−6(比較例)の鋼板について、L断面の金属組織写真を例示する。
《実施例3》
表1Aに示した発明対象鋼No.3の鋳片を用いて、焼鈍条件を表4に示す条件として、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延の工程にて板厚1.6mmの供試材を得た。表4中にステップ焼鈍の保持温度、保持時間を記載した例では、ステップ焼鈍の保持温度まで昇温して、その温度で2時間保持し、その後710℃まで昇温して、710℃で20時間保持したのち冷却するヒートパターンを採用した。その際、100℃からステップ焼鈍の保持温度までの昇温速度、およびステップ焼鈍の保持温度から710℃までの昇温速度は供にほぼ120℃/h(一定)とした。一方、ステップ焼鈍を行わなかった例では、100℃から710℃まで昇温速度をほぼ120℃/h(一定)として昇温し、その後710℃で20時間保持したのち冷却するヒートパターンを採用した。各例とも、焼鈍ヒートパターン以外の製造条件は、実施例1と同様である。得られた供試材について実施例1と同様の組織観察および試験を行った。結果を表4に示す。
表1Aに示した発明対象鋼No.3の鋳片を用いて、焼鈍条件を表4に示す条件として、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延の工程にて板厚1.6mmの供試材を得た。表4中にステップ焼鈍の保持温度、保持時間を記載した例では、ステップ焼鈍の保持温度まで昇温して、その温度で2時間保持し、その後710℃まで昇温して、710℃で20時間保持したのち冷却するヒートパターンを採用した。その際、100℃からステップ焼鈍の保持温度までの昇温速度、およびステップ焼鈍の保持温度から710℃までの昇温速度は供にほぼ120℃/h(一定)とした。一方、ステップ焼鈍を行わなかった例では、100℃から710℃まで昇温速度をほぼ120℃/h(一定)として昇温し、その後710℃で20時間保持したのち冷却するヒートパターンを採用した。各例とも、焼鈍ヒートパターン以外の製造条件は、実施例1と同様である。得られた供試材について実施例1と同様の組織観察および試験を行った。結果を表4に示す。
昇温過程でステップ焼鈍を行って450℃から550℃までの平均昇温速度を十分に遅くなるようにコントロールした例(試験No.3−22、3−23)では、フェライト結晶粒の展伸度が更に大きくなり、それに伴って加工性(r値)の改善効果も増大した。これは、焼鈍の昇温過程で展伸度の向上に有利なAlNの析出がより一層進行したことによる効果であると考えられる。
Claims (7)
- 質量%で、C:0.0005〜0.15%、Si:0.005〜0.80%、Mn:0.10〜1.50%以下、P:0.025%以下、S:0.030%以下、Cu:0.08〜1.20%、Ni:0.005〜0.50%、Cr:0.04〜0.25%、Mo:0.010〜0.085%、Al:0.015〜0.100%、N:0.002〜0.015%、Ti、Nb、V:合計0〜0.040%、B:0〜0.0030%、Sb、Sn:合計0〜0.10%、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、圧延方向および板厚方向に平行な断面(L断面)において、下記(A)に従うフェライト結晶粒の粒度番号Gが7.8〜10.0であり、かつ下記(B)に従うフェライト結晶粒の展伸度が1.5以上である再結晶組織を有する耐酸露点腐食性および加工性に優れた熱交換器用鋼板。
(A)JIS G0551:2013の附属書JBに規定される切断法において、直交する同一長さの2つの線分のうち、一方を圧延方向、他方を板厚方向にとり、式(JB.1)により定まる値をフェライト結晶粒の粒度番号Gとする。
(B)上記(A)の切断法による測定において、圧延方向の線分によって切断された結晶粒数の総和をI1、板厚方向の線分によって切断された結晶粒数の総和をI2とするとき、I1/I2により定まる値をフェライト結晶粒の展伸度とする。 - JIS5号試験片を用いて圧延方向に15%のひずみを付加したときの塑性ひずみ比r値が1.50以上である請求項1に記載の熱交換器用鋼板。
- 前記フェライト結晶粒の展伸度が2.5以上である請求項1に記載の熱交換器用鋼板。
- JIS5号試験片を用いて圧延方向に15%のひずみを付加したときの塑性ひずみ比r値が2.10以上である請求項3に記載の熱交換器用鋼板。
- 熱間圧延、冷間圧延、焼鈍を前記の順に施すことにより再結晶組織を有する熱交換器用鋼板を製造するに際し、熱間圧延工程において、熱延最終パス温度860℃以上、巻取温度550℃以下の条件で熱延鋼板を作り、冷間圧延工程において、前記熱延鋼板に圧延率40%以上の冷間圧延を施し、焼鈍工程において、前記冷間圧延後の鋼板を加熱して、材料温度が450〜550℃の範囲にある時間t450-550を30分以上確保したのち650℃以上の温度に昇温させ、650〜730℃の温度範囲に5時間以上保持し、その後冷却するヒートパターンを採用する、請求項1に記載の熱交換器用鋼板の製造方法。
- 焼鈍工程でt450-550を120分以上確保する請求項5に記載の熱交換器用鋼板の製造方法。
- 前記焼鈍後に、伸び率2.0%以下の範囲で調質圧延を施す請求項5または6に記載の熱交換器用鋼板の製造方法。
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