JP2017154199A - 振動加工装置及び振動加工方法 - Google Patents
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Abstract
Description
この装置では、工具の摩耗を抑制する効果や、加工力を低減する効果が確認されていることから、この装置は、極めて鋭利な工具を用いた微細加工や精密加工、超精密加工に利用される。
そして、この装置における加工プロセスの監視については、特許文献1では特に開示されていない。
この装置において加工プロセスの監視がなされない場合、加工プロセスにおいて異常が発生しても、加工中に認識することが困難であり、加工完了後に異常が把握されることになる。
例えば、金型を数日かけて超精密加工する場合において、加工開始時に工具の鋭利な刃先に欠損が生じても、作業者には刃先欠損異常を知る手段が無く、数日後の加工完了時に初めて刃先欠損による加工不良が把握される。
かように、この装置において加工プロセスの監視がなされない場合、加工中に異常が把握されないので、発生時に異常に対処することができず、異常発生後の加工プロセスの分、設備やエネルギーが無駄になってしまう。
例えば、切削装置の制御手段が装置全体の駆動モータの電流を監視して、電流が規定値を超えたことを把握すると、異常の発生を報知するようなものが考えられる。
しかし、大きな機械を動かす駆動モータの電流は、刃先欠損等の異常において実際にはさほど変化せず、異常の発生を検知しようとしても、誤検知が増えてしまうか、異常発生時の不検知が増えてしまうことになる。特に、微細加工や精密加工では、ほとんど駆動モータの電流は変化しない。
又、工具の振動装置に配置されたセンサで変位を検知し、制御手段が変位を監視して、規定値以上の変位となると異常の発生を報知するようなものが考えられる。
しかし、超音波領域の周波数で工具を振動させる振動装置における変位が精度良く把握可能であるセンサは極めて高価である。又、振動装置に対してセンサが配置されることで、限られた工具周辺の空間の一部をセンサが消費してしまうことになるし、振動装置の振動状態についてセンサを考慮した調整が必要となり煩わしい。
請求項2に記載の発明は、上記発明において、前記パラメータ変化は、非加工時の前記パラメータと加工時の前記パラメータに係る変化であることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、上記発明において、前記制御手段は、前記加工プロセスの監視として、前記工具の摩耗の監視を行うことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、上記発明において、前記加工プロセスに関する情報を報知する報知手段が設けられており、前記制御手段は、前記加工プロセスの監視として、前記報知手段における前記情報の報知を指令することを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、上記発明において、前記制御手段は、前記パラメータ変化が所定程度以上となると、前記加工プロセスの監視を行うことを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、上記発明において、前記消費エネルギーは、消費電力であることを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明は、上記発明において、前記振動は、楕円振動であることを特徴とするものである。
請求項9に記載の発明は、上記発明において、前記パラメータ変化は、非加工時の前記パラメータと加工時の前記パラメータに係る変化であることを特徴とするものである。
請求項10に記載の発明は、上記発明において、前記制御手段は、前記加工プロセスの監視として、前記工具の摩耗の監視を行うことを特徴とするものである。
請求項11に記載の発明は、上記発明において、前記加工プロセスに関する情報を報知する報知手段が設けられており、前記制御手段は、前記加工プロセスの監視として、前記報知手段における前記情報の報知を指令することを特徴とするものである。
請求項12に記載の発明は、上記発明において、前記制御手段は、前記パラメータ変化が所定程度以上となると、前記加工プロセスの監視を行うことを特徴とするものである。
請求項13に記載の発明は、上記発明において、前記消費エネルギーは、消費電力であることを特徴とするものである。
請求項14に記載の発明は、上記発明において、前記振動は、楕円振動であることを特徴とするものである。
図1は、本発明に係る振動加工装置の一例である振動切削装置1の模式的な斜視図である。
振動切削装置1は、振動装置2と、振動装置2に取り付けられる工具3を備えている。
振動装置2は、図2に示されるように、第1の圧電素子4l(図2中「圧電素子(l)」)と、第2の圧電素子4b(図2中「圧電素子(b)」)を備えており、これら圧電素子4l,4bの駆動により、工具3に楕円振動を付与し、工具3の刃先(先端)を楕円振動させることが可能である。
圧電素子4lは、複数の圧電素子部を含んでも良いし、単独の圧電素子のみを含んでも良い。これは、圧電素子4bについても同様である。
ここでは、図1の紙面手前側をX軸の正の側として奥側を負の側とし、図1の右側をY軸の正の側として左側を負の側とし、図1の下側をZ軸の正の側として上を負の側とする。
尚、各軸の設定は一例であり、正負を変えたり他の位置に移動したりする等、他の設定がなされても良い。又、各送り機構は、工具3がワークWに対して相対的に移動可能であれば、どのような配置であっても良い。更に、工具3とワークWの相対位置も、図1以外のものに変更されて良い。
更に、振動切削装置1は、Y軸送り機構11を支持する柱13,13と、柱13,13やX軸送り機構10を支持するベース14を備えている。
振動装置2は、ワークWの上方に配置されており、ワークWに向かう方向即ちZ軸方向に延びている。工具3は、Z軸方向に延びる状態で取り付けられ、Z軸方向(下方向)がワークWに対する切込み方向となる。
又、振動切削装置1では、Y軸正方向が主たる切削方向とされる。即ち、振動切削装置1では、工具3についてX軸方向の位置を固定し、ワークWをY軸正方向に送って工具3を相対的にワークWにY軸負方向で近づけながら、Z軸正方向に切り込むように切削され、かような切削が順次X軸方向の位置を変更されて繰り返される。
圧電素子4bは、その駆動により、振動装置2の下部について主にY軸方向で往復するようにたわませて、振動装置2に取り付けられた工具3を、主にY軸方向(切削方向)で振動させるものである。以下、Y軸方向の振動(横振動)は、たわみ振動と呼称されることがある。又、たわみ振動に関する記号には、適宜付属文字「b」を用いる(bending)。
縦振動の周波数やたわみ振動の周波数は、特に限定されないが、好ましくは10000Hz(ヘルツ)以上であり、より好ましくは超音波領域以上である。超音波領域の周波数としては、概ね、16000Hz以上とされても良いし、20000Hz以上とされても良い。超音波領域の周波数における振動は、超音波振動と適宜呼称される。
加えて、振動切削装置1は、図2に示されるような、振動装置2等を制御する制御手段20を備えている。
制御手段20は、圧電素子4l,4bに対して印加する周期的な電圧を発生する電圧制御発振部21を備えている。電圧制御発振部21は、制御部22により制御され、縦振動の共振周波数fと、制御部22の指令に係る位相θに従う電圧を発生する。共振周波数fは、振動装置2の形状や重量分布により定まり、切削負荷や振動装置2の温度変化等によって僅かに変化する。
電圧制御発振部21が発生した電圧は、第1のアンプ23lにより増幅されて、圧電素子4lに対し、共振周波数f,位相θに従う電圧Vl(f,θ)として印加される。圧電素子4lは、かような電圧の印加により駆動され、振動装置2における縦振動を発生する。
又、電圧制御発振部21が発生した電圧は、位相シフト部24を介して第2のアンプ23bにより増幅されて、圧電素子4bに対し、共振周波数f,位相θ+φに従う電圧Vb(f,θ+φ)として印加される。圧電素子4bは、かような電圧の印加により駆動され、振動装置2におけるたわみ振動を発生する。アンプ23l,23bは、例えばスイッチングアンプである。
位相シフト部24は、電圧制御発振部21が発生した電圧の位相を、θからθ+φにずらす。位相シフト部24が無い場合には電圧Vl,Vbの位相差がなくなり、縦振動とたわみ振動の位相差が無くなって直線的な振動軌跡となるところ、制御手段20では位相シフト部24が設けられて電圧Vl,Vbについて位相差を付与可能であり、その位相差によって楕円状の振動軌跡が描かれる。位相差の大きさ(φ)が可変であれば、振動軌跡も可変となる。又一般には、電圧に対する振動の位相遅れが縦振動とたわみ振動で若干異なるため、この位相シフト部24は、縦振動の位相遅れとたわみ振動の位相遅れの差の調整を行う役割も担っている。
振動装置2は、縦振動とたわみ振動における節(最も振動が小さくなる部分)の位置が1箇所以上、好ましくは2箇所以上において一致するように形成される。振動装置2は、一致する節の位置において支持される。
縦振動は、振動装置2における山(振幅の大きい部分)の出現数に応じて次数が定められる。例えば、縦振動の山が工具側端部と中央部と反対側端部の3箇所にあれば、2次の縦振動である。たわみ振動においても、概ね同様に次数が定められ、例えばたわみ振動の山が3箇所にあれば1次のたわみ振動である。振動切削装置1では、望ましくは、2つの振動の共振周波数が概ね一致するように設計されるが、負荷等によって一致しなくなるため、加工精度の向上にとって比較的に重要である縦振動の共振周波数fを追尾し、縦振動の共振周波数fに基づいて制御される。尚、たわみ振動の共振周波数が用いられても良いし、双方の共振周波数の平均値が追尾されるようにしても良い。
振動装置2は、例えば工具3に近づくにつれて細くなるテーパ形状を有するように形成され、テーパ形状の種類としては、コニカルホーン形状や、エクスポネンシャルホーン形状、ステップホーン形状が例示される。
位相検出部26は、圧電素子4lに流れる電流Ilの位相θ’を検出可能である。圧電素子4lの電流Ilは、振動装置2の周波数fと、圧電素子4lにおける実際の位相θ’の関数Il(f,θ’)となっている。又、位相検出部26は、位相θ’について、アンプ24の電圧Vl(f,θ)の位相θと比較し、それらの差Δθ(=θ’−θ)が算出される。共振周波数(電気的には反共振周波数)の近傍では、電圧Vlと電流Ilの位相差がゼロになる特性があり、この実施形態では、この特性を利用し、位相差Δθをゼロに近づけるように周波数fを操作するフィードバック制御によって、共振周波数の追尾が行われる。具体的には、制御部22が概ね既知の共振周波数fに係る交流電圧の発振を電圧制御発振部21に指令し、アンプ23lを介して圧電素子4lに電圧が印加される。実際の共振周波数は、様々な要因(例えば切削の負荷や振動の継続による振動装置2の発熱等)により変化するため、電圧の位相θと電流の位相θ’の位相差Δθも変化する。
そこで、位相検出部26では、測定された位相差Δθと、指令データDで示されるところの目標とする位相差(ここではゼロ)が比較され、その差(誤差)が制御部22に伝達される。制御部22は、位相差Δθが0°となるように、電圧制御発振部21を操作して発振周波数fを変更し、共振周波数fを追尾する。
かように、制御手段20は、振動装置2において大きな振幅を保つため、位相固定ループ(Phase Lock Loop;PLL)を有して、縦振動の共振周波数f(たわみ振動の共振周波数もその近くにある)を追う。
監視部27には、追尾している共振周波数fに対応する電圧が入力されており、縦振動の共振周波数を把握可能である。更に、電圧Vl(f,θ)と電流Il(f,θ’)も入力されており、これらの積(Vl×Il)から縦振動で消費される消費エネルギーとしての電力Plを算出可能である。尚、電圧Vlと電流Ilは、周期的に変化しているから、これらの積の(少なくとも一周期に亘る)積分を積分時間で除した平均値(離散的には積算を積算数で除した平均値)が、電力即ち消費エネルギーとなる。又、実用上は、アンプの特性や切削負荷等により、電圧Vb,Vl及び電流Ib,Ilは完全な正弦波にはならず、それらの振幅値やピーク値を用いるのは不正確である。このため正確性を増すために、電力Plは複数の整数周期分の電圧Vlと電流Ilの積分をその積分時間で除した平均値(離散的には積算を積算数で除した平均値)により算出される。
次の数1に、時間tにおける瞬間電圧Vl(t)と瞬間電流Il(t)を用いて電力(消費エネルギー)Plを算出する式が示される。連続時間では、電力Plは積分に係る数1で表される。ここで、Tは振動の周期であって周波数fの逆数であり、mは1以上の整数であり、t=0を積分開始時間としている。
電力Pbを算出する式は、上述と同様に次の数3,数4によって表される。
尚、これらの電力は、デジタル計測結果を用いて直接算出されても良いし、近似的に、瞬間電流と瞬間電圧の乗算とその結果の平均化を行うアナログ電気回路を用いることで算出されても良い。
又、これらの消費エネルギー(消費電力)は、所定時間内において消費されるエネルギー(電力)であるから、消費エネルギー率(消費電力率)と捉えることも可能である。
又、制御部22は、加工時の内部パラメータと非加工時の内部パラメータに係る変化である内部パラメータ変化(パラメータ変化)を算出可能である。内部パラメータ変化の例としては、加工時の共振周波数fと非加工時の共振周波数fの差が挙げられる。
尚、制御手段20は、電圧制御発振部21の制御(PLL)においては、電流Ibや位相θ”は用いないが、これらのうちの少なくとも何れかをPLLで用いるようにしても良い。又、制御手段20は、PLLや他の制御において、電圧Vl,Vbや、電流Il,Ib、電力Pl,Pbあるいは位相θ,θ’,θ”のうちの少なくとも何れかを用いなくても良い。
又、監視部27には、監視部27の指令に基づいて各種の情報を報知する報知手段29が接続されている。報知手段29は、どのようなものでも良く、例えばブザーやランプやこれらの組合せであっても良いが、好ましくはディスプレイ(モニタ)である。
入力手段28や報知手段29の少なくとも一方は、省略されても良い。
図3,図4において、振動装置2によって楕円振動される工具3がワークWを切削する様子(振動一周期程度の極短時間に亘る微視的なもの)が、模式的に示される。
楕円振動の主にたわみ振動によりワークWの切削方向と同方向側(Y軸正方向側)に退いた工具3(図3(a))は、主に縦振動によりワークWに近づき(Z軸正方向)、ワークWに接触して切削を開始する(図3(b))。
工具3の刃先は、微視的には先端に丸味部分を有しており、又先端に対してワークWから逃げるような逃げ面Lを有している(図4)。
切削において、工具3はまず、移動方向が比較的にY軸負方向に近い状態でワークWに対してZ軸正方向に相対的に近づく(図3(b)〜図3(c))。このとき、工具3は刃先の丸味部分においてワークWを押しならし、逃げ面Lにおいて加工したばかりの面(加工面U)を擦る(図4(a))。この加工プロセスは、バニシングプロセスあるいはプラウイングプロセスと呼ばれる。
次いで、工具3は、移動方向が比較的にZ軸負方向に近い状態でワークWに対してY軸負方向に相対的に近づく(図3(c)〜図3(d))。このとき、工具3はワークWを擦り上げ、切屑Hを適宜引き上げる(図4(b))。この加工プロセスは、材料除去プロセスと呼ぶことができる。
その後、工具3がワークWから離れると、一周期における材料除去プロセスは終了し、図3(a)の状態(但し一周期分進んだ位置)に戻る。
バニシングプロセス(図4(a))において、工具3は、ワークWを切込み方向(Z軸正方向)に押して、ワークWから切込み方向(Z軸負方向)に押される反作用の力Flpを受ける。力Flpは、縦振動における下死点を中心に縦振動を押し戻すように働く。よって、力Flpは、縦振動に対する付加的なバネΔKlとして働く。
又、工具3は、ワークWを擦る際に、ワークWから切削方向(Y軸正方向)の力Fbpを受ける。力Fbpは、たわみ振動における速度の最も速い中立点を中心に、たわみ振動を妨げるように働く。よって、力Fbpは、たわみ振動に対する付加的な減衰(ダンパー)ΔCbとして働く。
又、工具3は、切屑Hを切削方向で相対的に押し(Y軸負方向)、切屑Hから力Fbc(Y軸正方向)を受ける。力Fbcは、たわみ振動における図4の左の死点を中心にたわみ振動を押し戻すように働く。よって、力Flpは、たわみ振動に対する付加的なバネΔKbとして働く。
そして、かような加工プロセスにおけるバネΔKl,ΔKbや減衰ΔCb,ΔClの存在により、振動切削装置1の内部パラメータである共振周波数fや電力Pl,Pb等は、影響を受ける。尚、実際の振動は加工条件や振動条件によって様々に変わり得るが、バネΔKl,ΔKbや減衰ΔCb,ΔClを考慮することで、内部パラメータの変化の傾向がつかめる。
又、材料除去プロセスにおいて、左の死点を過ぎてもなお切屑Hを引き上げる力Flcが長く継続すればするほど、減衰ΔClの作用を受けたとしても上方向の力Flcの作用する期間が長くなるため、共振周波数fが高くなる。他方、左の死点を経過する前において切屑Hを引き上げる力Flcがより長く継続すれば、縦方向の中立点に向けて復元しようとする工具3に対して復元力(バネ力)を弱める力となるから、共振周波数fが低くなる。
同様に、電力Pbに関し、減衰ΔCbにより、電力Pbの増加は、バニシングプロセスにおいて加工したての面を擦る力Fbpの増大に相関する。
かような相関に基づき、制御手段20は、内部パラメータの変化によって、振動切削装置1の加工プロセスを監視することが可能である。
あるいは、最初に電源が投入された時には非加工時であるため、監視部27は、この初期状態から非連続に又は急に変化した(変化量が所定閾値を超えた)場合の変化後を加工時と認識し、逆の場合の変化後を非加工時と認識し、あるいはこれを繰り返すことが可能である。又、入力手段28によって非加工時か加工時かの入力がなされる場合に、必ずしもその入力が毎回なされなくても良い。
共振周波数fの増加は、上述の通り、バニシングプロセスにおける切込み方向の力Flpの増大や、材料除去プロセスにおける左の死点経過後の切屑Hの引き上げ力Flcの継続に相関する。このうち、力Flpの増加や継続は、工具3の摩耗の進展が一要因となっているからである。一方、力Flcの増加は、主に振動条件と切削速度(切れ刃の丸み状態も若干の影響を持つが力Flpの影響に比べて無視できる)によって変化するが、通常これらは一定とすることが多いため、この影響を無視することができる。
尚、上述のように、材料除去プロセスが共振周波数fに与える影響は、振動条件と切削速度によって反対に現れることがあるため、共振周波数fの変化だけから材料除去プロセスを監視するには、振動条件と切削速度が既知であることが必要となり、監視部27にこれらの情報を入力する必要がある。
又、監視部27は、報知手段29に対する報知指令の発信に代えて、又はその発信と共に、振動切削装置1の運転を自動停止したり、工具3を自動的に交換する指令を出したりしても良く、以下同様である。
電力Pbの増大は、バニシングプロセスにおける加工面を擦る力Fbpの増大に相関し、かような力Fbpの増大は、工具3の摩耗の進展が一要因となっているからである。
尚、監視部27は、共振周波数fと電力Pbの双方の変化量がそれぞれの所定値を超えた場合に工具3の摩耗進展の報知を指令しても良い。あるいは、監視部27は、共振周波数fと電力Pbの関数を参照可能であるようにされて、共振周波数fと電力Pbがその関数で示される許容範囲から出た場合に、工具3の摩耗進展の報知を指令しても良い。
電力Plの増大は、材料除去プロセスにおける引き上げ力の反作用の力Flcの増加に相関し、材料除去の負荷増大に相関しているからである。
材料除去の負荷が大きすぎる場合、工具3の破損やワークWの加工不良につながるから、かような状態の検出や報知、あるいは運転の自動停止は、有用である。
あるいは、監視部27は、電力Plを監視し、その変化量を単に表示しても良い。これによって作業者は正常に加工が行われていることを把握することができるため、その表示だけでも有用である。
即ち、監視部27は、加工条件が一定である場合において、総電力Pb+Plの所定量以上の増大を把握すると、工具3の摩耗進展の報知を指令する。尚、制御部22は、総電力Pb+Plの変化によって、工具3の摩耗の度合を算出し、又その度合の報知を指令することができる。かような度合の算出や報知は、材料除去負荷値を始めとする他の値についても行える。
又、監視部27は、工具3の摩耗の進展が無視できる程度の短時間内において、総電力Pb+Plの所定量以上の増大を把握すると、加工負荷が大きすぎる旨の報知を指令する。加工負荷は、切削断面積にほぼ比例するから、切削断面積に相関する情報についても報知することが可能である。
しかし、かような監視は、電圧と電流の波形が共に相似に変化することが前提となっており、更に電圧と電流の間の位相が変化しないことが前提となっている。これらの前提が満たされないと、加工プロセスが大きく変化しない定常状態であるにもかかわらず電流の振幅や尖頭値が変化することになり、加工プロセスを監視することができない。又、電流の振幅や尖頭値は、電力(消費エネルギー)の変化には比例しない。
しかも、かような監視では、振動切削の一周期中のある位相範囲内において負荷がかかり、その負荷によって電流や電圧の波形に歪みが生じることに対応することができず、波形の歪みの分、監視が不正確になる。
又、振動切削において、その波形の歪みは位相の制御(共振追尾)にも影響し、電圧と電流の間の位相にも変化を生じさせる。しかし、かような監視では、位相が考慮されておらず、位相の変化が考慮されていない。位相が変化すると、電流と電力との関係が変化するため、かような監視においては、位相の変化が考慮されていない分、監視が不正確になる。特に楕円振動切削の場合には、負荷等によって2つの方向の機械的振動の共振周波数に必ずずれが生じ、このため一方の振動の共振周波数を追尾していると、他方の振動の電圧と電流の間の位相が変化する。この変化は、電流と消費エネルギーとの関係を変化させるため、電流と消費エネルギーは相関しなくなる。かような監視においても、監視が不正確になる。
これに対し、本実施形態では、電力の算出において積分平均が用いられているため、振動切削において、波形に歪みが生じていたり、位相が変化していたりしても、正確に電力を算出することができる。よって、本実施形態では、加工プロセスの監視をより正確に行うことができる。
しかし、かような監視では、内部パラメータに係る電力を追尾する場合に、駆動回路内の消費電力が上乗せされて内部パラメータが不正確になるし、応答性も悪くなって、加工プロセスの監視が不正確になる。
これに対し、本実施形態では、電力の算出において積分平均が用いられているため、内部パラメータに係る電力が正確に算出され、応答性も良好であり、加工プロセスの監視がより正確に行える。
振動切削装置1は、ワークWに対する相対的な振動を工具3に付与する振動装置2と、振動装置2の状態に関する内部パラメータを把握可能である制御手段20を備えており、内部パラメータは、前記振動に係る消費エネルギー(消費電力)、及び共振周波数fであり、制御手段20は、内部パラメータの変化である内部パラメータ変化に基づいて、ワークWに係る加工プロセスの監視を行う。又、内部パラメータ変化は、非加工時のそれら内部パラメータと加工時のそれら内部パラメータに係る変化である。よって、加工プロセスを精度良く簡便に監視可能である振動加工装置を提供することができる。
又、制御手段20は、前記加工プロセスの監視として、工具3の摩耗の監視を行う。よって、工具3の摩耗を精度良く簡便に監視することができる。
更に、前記加工プロセスに関する情報を報知する報知手段29が設けられており、制御手段20は、前記加工プロセスの監視として、報知手段29における前記情報の報知を指令する。よって、加工プロセスの状態を報知することができる。
又更に、制御手段20は、電力変化量が所定値以上となったり、電力変化割合が所定割合以上となったりする等、前記内部パラメータ変化が所定程度以上となると、前記加工プロセスの監視を行う。よって、より精度の良い加工プロセスの監視を行う振動加工装置を提供することができる。
又、前記振動は、楕円振動であるから、楕円振動加工プロセスを精度良く簡便に監視可能である楕円振動加工装置を提供することができる。
又、制御手段20は、前記加工プロセスの監視として、工具3の摩耗の監視を行う。よって、工具3の摩耗を精度良く簡便に監視することができる。
更に、前記加工プロセスに関する情報を報知する報知手段29が設けられており、制御手段20は、前記加工プロセスの監視として、報知手段29における前記情報の報知を指令する。よって、加工プロセスの状態を報知することができる。
又更に、制御手段20は、前記内部パラメータ変化が所定程度以上となると、前記加工プロセスの監視を行う。よって、より精度の良い加工プロセスの監視に係る振動加工方法を提供することができる。
又、前記振動は、楕円振動であるから、楕円振動加工プロセスを精度良く簡便に監視可能である楕円振動加工方法を提供することができる。
尚、振動切削装置1では、振動装置2が縦振動とたわみ振動を行うものであったが、これに代えて、テーパ形状の先端部をそれぞれ有する2つの縦振動子を備えた振動装置が用いられても良い。この場合、2つの縦振動子は角度を持ってL型あるいはV型に配置され、2つの縦振動子の先端部を連結する連結部材が設けられて、連結部材に工具が取り付けられる。
他にも、ねじり振動が組み合わされても良く、切込み方向と切削方向の振動が含まれていれば、それらの2方向に垂直な送り方向の振動も含まれていても良い。
何れの場合にも、楕円振動軌跡のためには、少なくとも2方向の振動が同じ周波数で組み合わされることが好ましく、楕円振動切削装置は、その振動軌跡の中で、切削方向の振動成分を含むアクチュエータの駆動電力、及びそれらの共振周波数(追尾された値)をパラメータとして利用可能であれば良い。
この場合は、振動装置において、主に切込み方向の振動(本実施形態では縦振動)のみを考慮するときと、基本的に同様となる。あるいは、振動装置において、主に切削方向の振動(本実施形態ではたわみ振動)を考慮するときと、基本的に同様となる
例えば、切込み方向の振動のみを発生する振動装置の場合、バネΔKlや減衰ΔClを考慮し、内部パラメータとして共振周波数fや電力Plを監視することで、加工プロセスが監視される。
この場合であって、縦振動の下死点前後で加圧するプロセスを有するときは、下死点前後の加工負荷がバネとして働くため、共振周波数の増加と相関する。よって、共振周波数の監視によって、そのプロセスにおける加圧(加工負荷)の大きさが監視される。
又、たわみ振動(横振動)の中立点前後における速度の速い工具を用いて摩擦させるプロセスを有するときは、中立点前後の加工負荷が減衰として働くため、たわみ振動の電力の増加と相関する。よって、電力の監視によって、そのプロセスにおける摩擦(加工負荷)の大きさが監視される。
実施例に係る振動切削装置1は、ナガセインテグレックス社製の精密工作機械NIC−300に、振動装置2を搭載したものである。尚、実施例に係る振動切削装置1においては、ワークWはワーク台に固定されてX軸方向に移動可能であり、振動装置2はYZ2軸方向に移動可能である。
この振動装置2では、工具3が超音波領域の周波数で楕円振動される。振動装置2は、1次の縦振動モードと3次のたわみ振動モードを有する。
図6によれば、振動装置2は、5μm(マイクロメートル)程度の振幅のたわみ振動と、1μm程度の振幅の縦振動を発生している。
又、振動の周波数は、17.6kHz(キロヘルツ)である。
よって、たわみ振動の最大振動速度は16.6m/min(メートル毎分)であり、縦振動の最大振動速度は3.3m/minである。
かような超音波楕円振動切削装置1で、真鍮製のワークWを切削した。
この切削において、摩耗の度合の異なる新旧2種類の工具3(より具体的には先端に対して刃先として取り付ける新旧のインサート)が用いられた。
図7に、レーザー顕微鏡(オリンパス社製LEXT OLS4100)によって測定された各工具3の刃先の状況が示される。尚、「Flank Face」は逃げ面Lであり、「Rake Face」はすくい面である。
図7に示されるように、やや摩耗したインサートを有する工具3である「Tool2」の刃先径は、新しいインサートを有する工具3である「Tool1」の刃先径より大きかった。つまり、「Tool1」の刃先に比べて、「Tool2」の刃先は丸かった。
切込み対象であるワークWの幅(切削方向Yに直交する方向の長さ)は2mm(ミリメートル)とされ、切込み深さは、0.01mm、0.02mm、及び0.03mmとされた。又、切削速度は1000mm/min(ミリ毎分)とされた。切削時、オイルミストが、加工箇所へ対向するように延びる2本のノズルによって、加工箇所に供給された。ワークWはワーク台に載せられ、ワーク台には動力計がセットされた。
楕円振動の軌跡を含む面は、主に切削方向と切込み方向を含む面であった。
次の表1に、上記の切削の要旨が示される。
尚、表1中の「PVD」は、物理蒸着法(Physical Vapor Deposition)のことである。
図8に、切削中における切込み深さ(Depth of cut)毎の切削力(Cutting Force;N(ニュートン))の測定結果が示される。
切削力の主分力成分(Principal Force)は、Tool1,2とも、切込み深さが大きいほど大きくなった。
切削力の背分力成分(Thrust Force)は、Tool1,2とも、切込み深さが大きいほど小さくなった。尚、ここで負の背分力は、切屑Hを押し上げる向きの力、又は工具がZ軸正方向に引き込まれる側の力を示している。
又、何れの切込み深さにおいても、Tool2の主分力は、Tool1の主分力より大きく、Tool2の背分力は、Tool1の背分力より大きかった。これは、Tool2の刃先がTool1の刃先より丸く、Tool2による切削では、Tool1による切削に比べて、プラウイングプロセスにおける切削力が増大し、又材料除去プロセスにおける切屑Hの押し上げ力が減少することによる。
図9に示されるように、電力変化量ΔPlは切込み深さが深いほど大きかった。これは、切込み深さが大きいほど、切屑Hの引き上げ力の大きさが増してその反作用力Flcの大きさが増し、縦振動において付加的に働く減衰ΔClがより大きく作用することによる。
又、何れの切込み深さにおいても、比較的に丸いTool2の電力変化量ΔPlは、Tool1の電力変化量ΔPlより小さかった。これは、切屑Hの引き上げ力ないしはその反作用力Flcが、鈍い刃先によって減少することによる。Tool2におけるかような力の減少は、図8で示されている。
従って、振動切削装置1の制御手段20は、振動切削装置1の内部パラメータである電力変化量ΔPlを継続的に算出し、その大きさを参照することで、現在の切込み深さがどの程度であるか把握することができる。例えば、本実施例の条件において切込み深さが変化する場合、制御手段20は、電力変化量ΔPlが1.5W前後であれば、切込み深さが0.03mmの程度であることを把握することができる。同様に、制御手段20は、電力変化量ΔPlが1.0,0.4W前後であれば、切込み深さが順に0.02,0.01mmの程度であることを把握することができる。
又、制御手段20は、本実施例の条件において摩耗が進行する場合、その切込み深さに応じて電力変化量ΔPlがどの程度の大きさであるかを参照することで、工具3の摩耗の進行度合を把握することができる。例えば、制御手段20は、切込み深さが0.02mmである場合において、電力変化量ΔPlが1.1W程度であれば、工具3の摩耗度合はほぼ0であることを把握することができ、電力変化量ΔPlが0.9W程度であれば、工具3の摩耗度合はTool2の程度であることを把握することができる。
よって、制御手段20は、上述の電力変化量ΔPlの場合と同様に、切込み深さに応じて電力変化量ΔPbがどの程度の大きさであるかを参照することで、工具3の摩耗の進行度合を把握することができる。例えば、制御手段20は、切込み深さが0.02mmである場合において、電力変化量ΔPbが1.1W程度であれば、工具3の摩耗度合はほぼ0であることを把握することができ、電力変化量ΔPbが1.7W程度であれば、工具3の摩耗度合はTool2の程度であることを把握することができる。
尚、振動切削装置1では、工具3の摩耗度合の差について、電力変化量ΔPlの差の絶対値より、電力変化量ΔPbの差の絶対値の方がより大きくなるから、工具3の摩耗度合の監視では、電力変化量ΔPbをみると比較的に高精度となる。
例えば、量産等の実用的な加工では、同様な加工を繰り返すことが多く、そのような場合には他の条件が変化しないため、工具の摩耗状態のみの影響によって内部パラメータが変化する。よって、電力変化量ΔPbを参照して、工具3の摩耗度合を把握することができる。この場合、工具3の摩耗度合を検出するセンサは不要であり、加工プロセスを精度良く簡便に監視するという効果が発揮される。
よって、電力変化量ΔPl,ΔPbに従う振動切削装置1の総電力消費量変化は、それぞれ付加的な減衰ΔCl,ΔCbにより起こると言える。
減衰ΔClは、主に、材料除去プロセスにおける切屑Hの引き上げ力Flcによって生じ、従って電力変化量ΔPlは、主に切込み深さに影響される。
他方、減衰ΔCbは、主に、プラウイングプロセスにおける摩擦力Fbpによって生じ、従って電力変化量ΔPbは、主に工具3の摩耗度合に影響される。
又、共振周波数変化量Δflは、切込み深さの増大に応じて増加している。これは、材料除去プロセスは付加的な減衰だけでなく縦振動の付加的なバネとして働くことを示唆しており、楕円振動する工具3が左の死点を経過した後においても、材料を除去する力がしばらく継続していることによるものと考えられる(図3(d)参照)。
よって、実施例に係る超音波楕円振動切削装置1の内部パラメータは、材料除去プロセスやプラウイングプロセスの監視に用いることができる。
従って、振動切削装置1では、センサを用いなくても、共振周波数や電流、電圧といった内部パラメータについて、様々な加工条件下での切削において把握されることで、様々なプロセスについて監視されるのであり、内部パラメータを用いた、工具3の摩耗を始めとする振動切削の監視が実現しているのである。
Claims (14)
- ワークに対する相対的な振動を工具に付与する振動装置と、
前記振動装置の状態に関するパラメータを把握可能である制御手段
を備えており、
前記パラメータは、前記振動に係る消費エネルギー、及び共振周波数の少なくとも何れかであり、
前記制御手段は、前記パラメータの変化であるパラメータ変化に基づいて、前記ワークに係る加工プロセスの監視を行う
ことを特徴とする振動加工装置。 - 前記パラメータ変化は、非加工時の前記パラメータと加工時の前記パラメータに係る変化である
ことを特徴とする請求項1に記載の振動加工装置。 - 前記制御手段は、前記加工プロセスの監視として、前記工具の摩耗の監視を行う
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の振動加工装置。 - 前記加工プロセスに関する情報を報知する報知手段が設けられており、
前記制御手段は、前記加工プロセスの監視として、前記報知手段における前記情報の報知を指令する
ことを特徴とする請求項1ないしは請求項3の何れかに記載の振動加工装置。 - 前記制御手段は、前記パラメータ変化が所定程度以上となると、前記加工プロセスの監視を行う
ことを特徴とする請求項1ないしは請求項4の何れかに記載の振動加工装置。 - 前記消費エネルギーは、消費電力である
ことを特徴とする請求項1ないしは請求項5の何れかに記載の振動加工装置。 - 前記振動は、楕円振動である
ことを特徴とする請求項1ないしは請求項6の何れかに記載の振動加工装置。 - ワークに対する相対的な振動を工具に付与する振動装置によって、前記工具を振動させながら前記ワークを加工している間、制御手段において、前記振動に係るパラメータとして消費エネルギー及び共振周波数の少なくとも何れかを把握し、
前記制御手段が、前記パラメータの変化であるパラメータ変化に基づいて、前記ワークに係る加工プロセスの監視を行う
ことを特徴とする振動加工方法。 - 前記パラメータ変化は、非加工時の前記パラメータと加工時の前記パラメータに係る変化である
ことを特徴とする請求項8に記載の振動加工方法。 - 前記制御手段は、前記加工プロセスの監視として、前記工具の摩耗の監視を行う
ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の振動加工方法。 - 前記加工プロセスに関する情報を報知する報知手段が設けられており、
前記制御手段は、前記加工プロセスの監視として、前記報知手段における前記情報の報知を指令する
ことを特徴とする請求項8ないしは請求項10の何れかに記載の振動加工方法。 - 前記制御手段は、前記パラメータ変化が所定程度以上となると、前記加工プロセスの監視を行う
ことを特徴とする請求項8ないしは請求項11の何れかに記載の振動加工方法。 - 前記消費エネルギーは、消費電力である
ことを特徴とする請求項8ないしは請求項12の何れかに記載の振動加工方法。 - 前記振動は、楕円振動である
ことを特徴とする請求項8ないしは請求項13の何れかに記載の振動加工方法。
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