JP2017148844A - TiAl基合金鋳造材とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 粉末焼結法よりは大幅に簡便であり、また寸法精度の高い溶解、鋳造法を用い、最終的な成果物において、延性材料が内包されたTiAl基合金部材を製造する方法を提供すること。【解決手段】溶湯を注ぎ込む鋳型中に、融点がTiAl基合金の溶湯にくらべて高く、且つ常温延性の高い高融点金属部材を配置すると共に、Al箔を用いて当該高融点金属部材を当該鋳型内に固定するように配置する工程と、TiAl基合金の溶湯を前記鋳型内に注湯する工程と、Al箔がTiAl基合金溶湯に触れて、溶解してTiAl基合金中に溶け込む工程とを備え、TiAl基合金中に延性のある高融点金属が内包され、この高融点金属とTiAl基合金の界面には薄い反応相が存在する鋳造部材を製造する方法。【選択図】図2

Description

本発明は、発電用ガスタービン、蒸気タービン、舶用大型過給器やジェットエンジン等のタービン動翼に用いて好適なTiAl基合金に関し、特に延性材料を内包させることでその常温延性を大幅に改善させたTiAl基合金鋳造材とその製造方法に関する。
TiAl基合金は軽量材としては高温強度が高いなど優れた特性を有する新材料であり、近年、軽量化が求められる高温部品に有望な材料として注目されている。実際ジェットエンジン低圧タービン動翼や乗用車用ターボチャージャタービンホイールなどにすでに使用が開始された。
しかしながら、TiAl基合金は本質的に室温の延性が乏しいという問題がある。例えば、TiAl基合金の室温延性を改善する有効な手段の一つは、合金元素を含有させることである。このため、合金元素の一例としてNb(ニオブ)を含有するTiAl基合金の鋳造材が提案されている(特許文献2〜4参照)。特に、特許文献3のNbを含有するTiAl基合金材では、900℃の高温性能として延伸率3.5%のものが提案されているが、常温での延伸率は0.8%と低くなっている。このため、一定の(具体的には3%程度以上)の室温延性が必要とされる用途には適用困難であった。また、上記特許文献2〜4では、Nbは溶解時の添加元素として入れている。溶解作業においては、Nbを入れた後にさらに加熱・保持することから、固相(Nb)、液相(TiAl溶湯)反応によって、Nbの融点以下においてもNbはTiAl中に溶け込み、合金元素となりNbとしては残っていない。
室温の延性が乏しい点が、TiAl基合金と競合する他の高温材料であるNi基超合金に較べ、この合金の大幅に不利な点である。Ni基超合金は、状態図的に金属相(Ni)と金属間化合物相(NiAl)が平衡的に共存できることから、この金属相の効果によって一定の延性が確保できる。一方TiAl基合金は、状態図的に金属相(例えば、TiAl)と共存できないため、構成相がすべて金属間化合物相(γ、α2、B2相など)となる。金属間化合物相は金属相と較べると本質的に脆い相であるため、これらのみで構成されるTiAl基合金で3%以上の室温延性を確保することは不可能であり、これまで、十分な室温延性が必要とされる用途にTiAl基合金は適用困難であった。
TiAl基の室温延性を大幅に改善する最も有効な手段として、延性材料を強制的に内包させることが考えられる。しかしながら技術的に困難なことから、これまでほとんど提示されておらず、数少ない例として、特許文献1が知られている。この特許文献1ではNb等の延性のある高融点金属のファイバー構造体をまず作製し、そのファイバーの隙間にTi粉末とAl粉末を充填する。次に冷間鍛造でファイバー・粉末混合体に所定の形状を付与した後、比較的低温に加熱することでTi粉末とAl粉末を反応焼結させる。この時点ではTi粉末とAl粉末の界面にわずかに反応層がみられる程度であり全体がTiAl基合金とはなっていない。その後、最終的に約1100℃以上かつ約1450℃以下で保持する組織制御工程を経ることで、Ti粉末とAl粉末の反応を進めてTiAl基合金化するとともに組織制御を行う。これらの工程を経て最終的に常温延性を有する高融点金属のファイバーが内包されたTiAl基合金部材を得ようというものである。
しかしながら、特許文献1に示された従来技術には以下の問題がある。まず、組織制御工程の高温加熱の際、高融点金属製のファイバーがTiAl基合金中に固溶して消失する恐れが多分にある。その理由は特許文献1に具体的な数値は示されていないが、ファイバーの線径は一般に非常に小さいこと、ならびに組織制御工程での加熱時間は通常1時間以上と長時間なことである。
ファイバーの材質はNb等であり、TiAl基合金よりは融点は高いものの、特許文献1に記載の通り、高温に加熱するとTiAl基合金と固相反応する。高融点金属の厚みが十分あれば問題は生じない可能性はあるが、非常に細いファイバーの形状にて長時間加熱することから、この反応が進行して細いファイバーがすべてTiAl基合金中に固溶して消失する可能性が多大にある。実際、この公知文献では最終的な成果物においてファイバーが存在することを示す断面組織写真はまったく示されていない。
次に作業工程が複雑であり、製造コストが多大になるとともに、Ti粉末とAl粉末の反応焼結による体積収縮などを考慮すると精密な部品を製造することは困難である。
特開平9−287038号 CN 101948967A CN 104152745A 特開平9−144247号
本発明は上記の課題を解決し、粉末焼結法よりは大幅に簡便であり、また寸法精度の高い溶解、鋳造法を用い、最終的な成果物において、延性材料が内包されたTiAl基合金鋳造材とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法は、融点がTiAl基合金の溶湯にくらべて高く、且つ常温延性の高い高融点金属部材を鋳型中に配置すると共に、Al箔を用いて当該高融点金属部材を当該鋳型内に固定するように配置する工程と、TiAl基合金の溶湯を前記鋳型内に注湯する工程と、前記Al箔がTiAl基合金溶湯に触れて、溶解してTiAl基合金中に溶け込む工程と、前記TiAl基合金溶湯の温度が、室温まで冷却される工程とを備えることを特徴とする。
本発明のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法によれば、TiAl基合金中に延性のある高融点金属部材が内包され、この高融点金属部材とTiAl基合金の界面には薄い反応相が存在する鋳造部材が得られる。
本発明のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法において、好ましくは、前記TiAl基合金溶湯のAl成分比は、TiAl基合金の製造上の指標となる合金組成比を基準として、高融点金属配置のために使用したAl箔の量を差し引いたAl量であるとよい。
本発明のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法において、好ましくは、前記高融点金属部材は、その形状が板材または線材であって、厚み又は外径は0.3〜2mmであるとよい。
本発明のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法において、好ましくは、前記高融点金属部材は、Nb、Mo、W、Ta、Hfのいずれかの純金属又はこれらを主成分とする合金よりなるとよい。
本発明のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法において、好ましくは、前記高融点金属部材は、TiAl基合金の常温での延性特性と比較して良い延性特性を有すると共に、前記高融点金属部材の添加量は前記TiAl基合金鋳造部材に対する体積比として5〜30体積%であるとよい。5体積%以下では添加量が少なすぎ、室温延性改善効果が不十分である。30体積%以上では延性改善効果は十分得られるが、重量増をもたらすため望ましくない。
本発明のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法において、好ましくは、前記Al箔は、当該TiAl基合金鋳造部材内における高融点金属部材の分布が均質化されるように配置されると共に、前記高融点金属部材の方向が鋳造時の溶湯の充填経路の確保をするように配置されるとよい。
本発明のTiAl基合金鋳造部材は、Nb、Mo、W、Ta、Hfのいずれかの純金属又はこれらを主成分とする合金よりなる高融点金属領域であって、その領域形状が板材状または線材状であって、厚み又は内径は0.3〜2mmである当該高融点金属領域と、この高融点金属領域を包含する母相となるTiAl基合金鋳造領域とを備え、当該高融点金属領域とTiAl基合金の界面には薄い反応相が存在することを特徴とする。
本発明のTiAl基合金鋳造部材において、好ましくは、前記薄い反応相は、10μm以上100μm以下であるとよい。薄い反応相の厚みを10μm未満とするためには、TiAl基合金溶湯の温度を室温まで冷却するのに、冷却速度を高める特殊な製造設備が必要となり、実用性がない。薄い反応相の厚みを100μmを超えるものとすると、高融点金属領域をなす板材状または線材状の部材に薄い形状の部材を採用できず、高融点金属領域の合金内部での分布の均一性を確保しにくくなる。
本発明のTiAl基合金鋳造部材において、好ましくは、前記TiAl基合金鋳造領域の組成は、Alを28〜35重量%、任意的な組成元素としてNb、Cr、Mn、Si、W、C、Bの少なくとも一種類を合計として0.1〜10重量%を含み、残余をTi及び不可避不純物を含むとよい。
以下に、本発明のTiAl基合金鋳造材を形成するTiAl基合金の組成とその形状を、上記のように限定した理由を下記に記す。
まず、内包される延性材料に関しては、Nb、Wなどの常温延性の高い高融点金属やその合金であり、主に板材や線材の形で用いる。厚みはTiAl基合金との固相反応による消失分も考慮し0.3mm〜2mmの厚さが適当である。0.3mm以下では製造工程において消失したり、または消失しないまでも体積比率が大幅に減少して常温延性向上効果をもたらさない可能性がある。また、これら高融点金属の比重は一般的に大きいため、2mm以上にすると配合比率にもよるが、重量増をもたらしTiAl基合金のメリットである軽量性を損なうため望ましくない。
次に延性材料を包み込む母材となるTiAl基合金に関しては、溶解鋳造方法によって製造可能な種々の成分のTiAl基合金を使用することができる。具体的には、TiAl基合金とは、Tiを主な構成元素とし、Alを28〜35重量%含み、その他にNb、Cr、Mn、Si、W、C、Bなどの添加元素を含んでもよい合金である。また、Ti濃度:42〜48原子%、Al濃度:44〜47原子%、Nb濃度:6〜10原子%、Cr濃度:1.5〜3.5原子%を含有し、γ相中に微細なβ相が分散してなる塑性加工性に優れたものでもよい。なお、溶解時の原料配合に関しては、後述のAl箔使用も考慮した調整が必要である。
次に、本発明のTiAl基合金鋳造材の製造方法について説明する。
まず、最初の工程1では、溶湯を注ぎ込む鋳型中にNbなどの常温延性の高い高融点金属を配置する。その際、鋳造時の溶湯の充填経路の確保、ならびに高融点金属の分布の均質化、方向制御のためAl箔を用いて高融点金属を鋳型内に固定して配置する。
次の工程2では、TiAl基合金の溶湯を高周波溶解等で作製し、この溶湯を上記鋳型内に注湯する。その際、Al箔の融点は660℃と非常に低融点なことから、1600℃程度のTiAl基合金溶湯に触れると容易に溶解してTiAl基合金中に溶け込む。なお、このAl箔が溶け込むことによるTiAl基合金の成分変動に関し、Al箔は非常に軽量で嵩張ることから工程1の目的のために使用する量はわずかである。また、そもそもAlはTiAl基合金中の主要成分であることから、高融点金属配置のために使用したAl箔の量を差し引いたAl量でTiAl基合金を溶解すれば成分変動は生じないことになる。
鋳型内に配置される高融点金属に関しては、融点がTiAl基合金の溶湯にくらべて高いため、TiAl基合金中に溶解することはない。また、特許文献1にも記載されているが、TiAl基合金と高融点金属は高温で固相反応するため、この工程2においてTiAl基合金と高融点金属の固相反応が生じる。しかしながら、鋳造後のTiAl基合金部材の冷却速度は著しく速く、高温にさらされる時間は非常に短時間のため、この固相反応は抑制されごくわずか生じる程度となる。
つまり、工程2が完了した時点で製造される鋳造部材とは、TiAl基合金中に延性のある高融点金属が内包され、この高融点金属とTiAl基合金の界面には薄い反応相が存在する状況となっている。本発明の実施例としたTiAl基合金鋳造材の製造方法では、TiAl基合金の溶解後の鋳造時にNb等を添加するものであり、この場合でも若干の固相、液相反応は生じる。しかし、鋳造後、TiAl基合金の溶湯は急速に冷却するため、ほとんどのNb等はそのままの形で高融点金属部材におけるNb等の形で残り、TiAl中に溶け込むものではない。そこで、後述するような、本発明のTiAl基合金鋳造部材における効果が得られる。
次の工程3は、本発明のTiAl基合金鋳造材の製造方法において任意的なものである。即ち、工程3では、延性のある高融点金属とTiAl基合金の結合をより強固にすること、ならびにTiAl基合金の組織制御のため、熱処理または熱処理を兼ねたHIP処理を行っても良い。温度はTiAl基合金の成分によって変わるが1000℃〜1350℃で実施する。また、比較的薄い高融点金属を用いる場合、固相反応の進捗による消失や痩せ細りの防止のため、低温、短時間の処理が必要である。
ここで、HIP処理(熱間等方圧加圧加工:Hot Isostatic Pressing)とは、アルゴンガス等を圧力媒体とし、高温・高圧の相乗効果を利用し、粉末の焼結、拡散接合、内部欠陥除去等を可能にする技術である。ここで、拡散接合とは、母材を密着させ,母材の融点以下の温度条件で、塑性変形をできるだけ生じない程度に加圧して、接合面間に生じる原子の拡散を利用して接合する方法をいう。
本発明のTiAl基合金によれば、従来の技術である粉末焼結法に較べ、大幅に簡便な方法である溶解・鋳造法によって延性材料が内包されたTiAl基合金部材を得ることができる。また、粉末焼結法とは異なり溶解・鋳造法では鋳造後の体積変化はほとんどないので、収縮に伴う体積変化が著しい従来技術に較べ、部品の寸法精度等ははるかに良好である。
また、本発明では従来技術のファイバーよりも厚い高融点金属の板材や線材を用いること、ならびに鋳造過程においてTiAl基合金は急冷されるため、高融点金属が高温に晒される時間は非常に短いこと、などの効果によって高融点金属がTiAl基合金中に固相反応で溶け込むことなく、TiAl基合金に内包された状態で存在することができる。
図1は、本発明の一実施の形態によるTiAl基合金に内包させる高融点金属の外観写真である。 図2は、本発明の一実施の形態によるTiAl基合金のNbとAl箔の積層状態の模式図である。 図3は、本発明の他の実施の形態によるTiAl基合金の製造工程の一つを示す工程写真である。 図4は、溶解・鋳造実験を説明する模式図である。 図5は、鋳造、冷却後、2つ割りの鋳型から取り出したTiAl基合金インゴットの外観写真である。 図6は、図5のインゴットの押し湯を切断した後、縦割りした断面の外観写真である。 図7は、Nbを内包するTiAl基合金鋳造材の鋳造ままの断面の反射電子像組織である。 図8は、作製したTiAl基合金鋳造材を1300℃で1時間熱処理した後の断面の反射電子像組織である。 図9は、内包させる高融点金属の厚さの下限の確認試験に用いた薄いNbの削り屑の外観写真である。 図10は、図9のNbを用いて作製したTiAl基合金鋳造材を1300℃で1時間熱処理した後の断面の反射電子像組織である。
以下、本発明のTiAl基合金鋳造材およびその製造方法の実施の形態について説明する。
TiAl基合金に内包させる高融点金属として、厚さ0.5mmで縦横が10mm×10mm程度のNbの小片の板材を用いた。図1に外観写真を示す。なお、表1に示すように、このNbの小片を用いた実施例では添加するNbの量を変化させて数種のTiAl基合金鋳造材を作製した。
鋳型の形状は溶湯を注ぎ込む部分が縦30mm、横30mm、高さが100mmの四角柱で2つ割りのものである。Nbの量は、表1に示すように、合金3の場合は鋳型内部の体積に対して体積率が15体積%となる量であり、合計116gとした。同様に、合金2の場合は体積率が6体積%となる量、合金1の場合は体積率が4体積%となる量である。
鋳型内にNbを配置する際、鋳造時にNbが降下して底に溜まらずに、インゴット内に分散して存在するよう、Al箔を用いてNbを固定した。具体的にはNbとAl箔を交互に積層した。使用したAl箔の量は、合金3の場合、合計5.9gである。図2にNbとAl箔の積層状態の模式図を、図3に作業過程での工程写真を示す。Nbは板厚方向が一定となるようにそろえて配置した。
溶解・鋳造実験は図4に模式図を示す要領で実施した。その内部にNbとAl箔を配置した鋳型を高周波溶解炉内に配置し、チャンバー全体を真空引きした後Alガスで置換した。その後、鋳型上部に配置したイットリアルツボ中でTi−46at%合金を高周波溶解して溶湯を作製した。原料の重量は合計500gであり、本来はTiが337.8g、Alが162.2gであるが、Alについては、合金3の場合、上記に記載した5.9gを差し引いた156.3gを配合して溶解した。
すべての原料が完全に溶解した後、3分間保持してから溶湯を鋳型内に注湯した。その際、溶湯のこぼれ防止のためにアルミナ製のロートを鋳型上部に配置し、このロート上部より鋳造した。鋳型内より溢れた溶湯はこのロート内に溜まり、押し湯となる。
図5は鋳造、冷却後、2つ割りの鋳型から取り出したTiAl基合金インゴットの外観写真で、合金3の場合を示してある。この写真で分かるようにAl箔の残留は全く認められない。図6はこのインゴットの押し湯を切断した後、縦割りした断面の外観写真である。なお、切断方向は一方向に配列したNbの板厚が切断面に現れる方向である。この断面写真で分かるようにAl箔は全く残留していない。また、Nb板はTiAl基合金中に内包されて存在している。さらにこのNb板は鋳造時に降下して底部に溜まることなく、逆に底部を除くとほぼ均等に存在している。つまり、鋳型内においてAl箔を用いてNbを固定すれば、その上からTiAl基合金溶湯を注ぎ込んだ場合、Al箔はすべてTiAl合金中に溶け込むとともに、Nbはその初期位置に近い位置でTiAl基合金鋳造材中に分散して内包されることが確認できた。
図7はNbを内包するTiAl基合金鋳造材の鋳造ままの断面の反射電子像組織で、合金3の場合を示してある。高倍で見てもAl箔は消失しており、TiAl基合金とNb板が直接接触している。TiAl基合金とNb板の界面には10〜20μm程度の非常に薄い反応相が認められる。つまり、鋳造ままの状態においてもTiAl基合金とNb板の間に固相反応が生じ、強固に接合されていることが確認できる。
図8は作製したTiAl基合金鋳造材を1300℃で1時間熱処理した後の断面の反射電子像組織で、合金3の場合を示してある。TiAl基合金とNb板の間の固相反応が進み70μm程度とかなり厚い反応性が形成されていることが分かる。なお、この実施例で用いたNbの厚みは0.5mmであるが、もしファイバー(一般に数十μm程度)を用いた場合、この熱処理を行った場合、固相反応によって消失することが推察される。
比較例
次に、内包させる高融点金属の適正な厚さと添加量(体積%)を確認するために実施した試験の結果を示す。初めは厚さに関する結果である。比較例として、図9に外観を示す厚さ0.2mm程度のNbの削り屑を用い、他は上記実施例と全く同じ要領でTiAl基合金鋳造材を作製した。Nb添加量は15体積%であり、上述のものと同じである。
図10はこのNbを用いて作製したTiAl基合金鋳造材を1300℃で1時間熱処理した後の断面の反射電子像組織である。Nbの残存厚さが非常に薄く、比較するとむしろ反応層の厚さの方が大きい。つまり、この状態ではNbによるTiAl基合金の延性向上効果はあまり期待できないと言える。以上のことより内包させる高融点金属の厚みは0.3mm以上が適当である。ただし、先に述べたように一般に高融点金属の比重は大きいため、2mm以上になると重量増等をもたらしTiAl基合金の優れた特徴を阻害するため望ましくない。
次に、添加量に関する試験結果を示す。表1は内包材の添加量検討のため試作したTiAl基合金鋳造材の仕様とその特性評価結果である。上述した実施例と同じ方法によって3つのTiAl基合金鋳造材を作製した。変化させた条件は添加した0.5mm厚さのNb板の体積%のみである。
この3つのTiAl基合金鋳造材について、いずれも1300℃×1hの熱処理を実施した。熱処理後の素材より平行部のサイズがφ4mm×10mmの引張試験片を加工し、室温において引張試験を実施した。この引張試験での伸びの量によって適当な添加量を判定した。合金1は比較合金であり、Nb板の添加量が4体積%と本発明合金の組成より少ないものである。この合金の比重は4.0である。室温の引張伸びは2.4%であり、通常のTiAl基合金よりは大きいものの本発明で目的とする3%程度の伸びは得られていない。合金2、3はいずれも発明合金であり、Nbの添加量はそれぞれ6体積%、15体積%であり、比重はそれぞれ4.1、4.5である。いずれの合金も目標とした3%以上の室温延性は得られている。また、Nbの体積%の増加が室温延性の向上に有効なことが確認できる。
なお、本発明合金の組成よりもNb添加が多い場合、例えば32体積%のNbを添加した場合には、室温延性はさらに向上すると期待できるが、その材料の比重は5.3となり、通常のTiAl基合金の約1.4倍となることから、TiAl基合金の優れた特性である軽量性を損なうため望ましくない。
本発明のTiAl基合金鋳造材は、延性に富んだ材料を内包することから、従来のTiAl基合金の問題であった常温延性の大幅な改善が可能である。これにより、従来TiAl基合金がその乏しい常温延性のために使われていなかった用途、例えば発電用ガスタービンや蒸気タービンの大型動翼、舶用大型過給機のタービン動翼などとして使用するのに好適である。
これらのタービン動翼では、使用時の高速回転中にスラッジなどの異物衝突等によって動翼表面にき裂が発生する可能性がある。常温延性の乏しい材料ではその後の使用中におけるき裂進展速度が速いため、次の定期検査までの間にき裂が著しく進展して動翼全体が破断する可能性がある。一方、本発明のTiAl基合金鋳造材は常温延性に優れているため、まず異物衝突によってもき裂が発生しにくい。また、万一非常に大きい異物が衝突してき裂が発生したとしても、内包される延性材料の効果によって、使用中のき裂進展速度は著しく低減されるため、次の定期検査までの間に動翼が破壊することがない。そのため、定期検査でこのき裂が発見でき動翼交換による安全性確保が可能となる。つまり、これらの用途においては、これまではその信頼性の欠如のため、使用できなかったTiAl基合金部材が使用可能となる。
軽量、高強度という優れた特性を有するTiAl基合金製動翼が、これらの用途において使用が可能となれば、発電用ガスタービン、蒸気タービンや舶用大型過給機においてエネルギ−効率の向上による二酸化炭素排出量の削減や、燃料消費量の削減に貢献することが可能となる。
本発明のTiAl基合金は、発電用ガスタービン、蒸気タービンや舶用大型過給機等に用いて好適なTiAl基合金製動翼に用いることができる。

Claims (9)

  1. 融点がTiAl基合金の溶湯にくらべて高く、且つ常温延性の高い高融点金属部材を鋳型中に配置すると共に、Al箔を用いて当該高融点金属部材を当該鋳型内に固定するように配置する工程と、
    TiAl基合金の溶湯を前記鋳型内に注湯する工程と、
    前記Al箔がTiAl基合金溶湯に触れて、溶解してTiAl基合金中に溶け込む工程と、
    を備え、TiAl基合金中に延性のある高融点金属部材が内包され、この高融点金属部材とTiAl基合金の界面には薄い反応相が存在するTiAl基合金鋳造部材を製造する方法。
  2. 前記TiAl基合金溶湯のAl成分比は、TiAl基合金の製造上の指標となる合金組成比を基準として、高融点金属配置のために使用したAl箔の量を差し引いたAl量であることを特徴とする請求項1に記載のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法。
  3. 前記高融点金属部材は、その形状が板材または線材であって、厚み又は外径は0.3〜2mmであることを特徴とする請求項1に記載のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法。
  4. 前記高融点金属部材は、Nb、Mo、W、Ta、Hfのいずれかの純金属又はこれらを主成分とする合金よりなることを特徴とする請求項1に記載のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法。
  5. 前記高融点金属部材は、TiAl基合金の常温での延性特性と比較して良い延性特性を有すると共に、前記高融点金属部材の添加量は前記TiAl基合金鋳造部材に対する体積比として5〜30体積%であることを特徴とする請求項4に記載のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法。
  6. 前記Al箔は、当該TiAl基合金鋳造部材内における高融点金属部材の分布が均質化されるように配置されると共に、
    前記高融点金属部材の方向が鋳造時の溶湯の充填経路の確保をするように配置されることを特徴とする請求項1に記載のTiAl基合金鋳造部材を製造する方法。
  7. Nb、Mo、W、Ta、Hfのいずれかの純金属又はこれらを主成分とする合金よりなる高融点金属領域であって、その領域形状が板材状または線材状であって、厚み又は内径は0.3〜2mmである当該高融点金属領域と、
    この高融点金属領域を包含する母相となるTiAl基合金鋳造領域と、
    を備え、当該高融点金属領域とTiAl基合金の界面には薄い反応相が存在することを特徴とするTiAl基合金鋳造部材。
  8. 前記薄い反応相は、その厚みが10μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項7に記載のTiAl基合金鋳造部材。
  9. 前記TiAl基合金鋳造領域の組成は、Alを28〜35重量%、任意的な組成元素としてNb、Cr、Mn、Si、W、C、Bの少なくとも一種類を合計として0.1〜10重量%を含み、残余をTi及び不可避不純物を含むことを特徴とする請求項7に記載のTiAl基合金鋳造部材。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN110791682A (zh) * 2019-12-16 2020-02-14 泉州市派腾新材料科技有限公司 一种粉末冶金钛合金的制备方法
CN114346217A (zh) * 2021-12-22 2022-04-15 中山市奥博精密科技有限公司 一种金属铸件及其制备方法和应用

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