以下に本発明の詳細を、図面を参照して説明する。図1はインキュベータ1と無菌作業装置2とで構成される無菌培養システム3の正面図である。本発明の無菌培養システム3を構成するインキュベータ1は、無菌作業装置2内で所定の処置を施された試料を培養空間17に収納することが可能であり、この培養空間17を温度や湿度、酸素濃度や炭酸ガス濃度といった環境条件を所定の状態に維持する手段を有するものである。インキュベータ1は、庫内環境を所定の状態に維持する環境調整手段の他に、筐体19と、培養空間17を形成するチャンバー20とから構成されている。チャンバー20の外側全体には公知のヒータが配置されていて、さらに、チャンバー20と筐体19の壁部材との間に形成された空間には公知の断熱材22が配置されている。なお、これら庫内環境を所定の状態に維持する手段は公知のインキュベータと同様の構成であるので、ここでの詳細な説明は省略する。また、本実施形態のインキュベータ1は、固定ブラケットや固定プレートといった連結用部材18を介して無菌作業装置2と連結されて使用される。なお、本実施形態のインキュベータ1は、無菌作業装置2と気密に接続可能であり、扉開閉機構16を介して作業者が無菌作業装置2側からアクセスすることが可能な構成となっている。
無菌作業装置2は、作業空間の内部を外部環境よりも低い圧力に維持して、作業空間内部で取り扱われる試料の外部環境への漏洩を防止する機能を有する安全キャビネットや、作業空間の内部を外部環境よりも陽圧に維持して、外部からの異物が試料へ混入したり、試料を汚染したりすることを防止する機能を有するクリーンベンチや、外部環境と遮断された作業空間が形成された密閉容器と、この密閉容器内部の作業空間内での作業が可能になるように密閉容器に取り付けられたグローブ4を介して作業者が作業を行うように構成されたグローブボックスや、さらに、上述したグローブボックスの中でも、作業空間内部を無菌状態に維持するための機器を備え、作業空間内部が汚染された際には酸化水素等のガスで滅菌処理することが可能な無菌作業装置2としてアイソレータと呼ばれるものも含まれる。ここで、本発明の無菌作業システム3を構成する無菌作業装置2として、アイソレータを用いて説明する。
本発明の無菌作業システム2が備えるアイソレータ2は、中央部分に密閉可能な作業空間5が形成されていて、ここで細胞の播種や培地交換、観察等の作業が行われる。作業空間5の正面側には正面扉7が開閉可能に設けられている。正面扉7は、作業者が作業空間5を観察できるように透明なガラスや樹脂などで構成される窓部6が備えられている。また、窓部6の所定の位置には開口が形成されていて、この開口には、外部環境から隔離された作業空間5で作業を行うためのグローブ4が気密に固定されている。グローブ4は外部環境に居る作業者が開口から手を挿入することで装着される。作業者は両腕にグローブ4を装着することで、窓部6から目視しながら、作業空間5内に搬入された試料に対して所定の処置を施すことが出来る。
作業空間5を形成する筐体の上部には清浄気体供給装置8が備えられている。清浄気体供給装置8には、作業空間5に空気を供給するファンと、ファンによって供給される空気に混入している塵埃や雑菌を捕集して、空気を清浄化するフィルタとが備えられている。また、作業空間5に供給された清浄な空気は、作業空間5の床面に形成された多数の孔によって床面下部へと流出して、不図示のダクトによって作業空間5の上部に配置されるファンにより吸引され、フィルタによって清浄化された後、再度作業空間5に供給されるというように循環している。作業空間5内部はこの清浄気体供給装置8により供給される無菌空気により、外部環境よりも陽圧に維持されている。上記構成により、作業空間5を無菌環境に維持することが出来る。
また、本発明の無菌作業システム3が備えるアイソレータ2は、過酸化水素蒸気などの滅菌ガスを発生させる不図示の滅菌装置と導入管を介して接続されていて、この滅菌装置から供給される滅菌ガスを作業空間5内に充満させることで、作業空間5内が雑菌等により汚染されたとしても、作業空間5内を無菌状態に清浄化することが出来る。これら清浄気体供給装置8や滅菌装置の作動や停止、作動条件の設定は、アイソレータ2の正面右上に備えられた制御パネル9によって行われる。制御パネル9には複数の操作ボタン10が配置されていて、さらに、制御パネル9の内部には汎用のコンピュータと種々のデータを記憶可能な記憶部を備える不図示の制御装置が設けられている。
アイソレータ2内に形成された作業空間5の一方の側には、壁2bを隔ててパスボックス11が備えられている。本実施形態のアイソレータ2が備えるパスボックス11は、作業空間5に隣接して設けられ、作業空間5と外部環境との間で物品を遣り取りするための密閉可能な空間11cを備える箱状の滅菌機能付き装置である。パスボックス11は細胞の播種や培地交換、観察等の作業を行うにあたり必要な試料や機器といった物品を外部環境から清浄な無菌雰囲気に維持された作業空間5内に移送する際に使用される。パスボックス11には、外部環境とパスボックス11の内部空間11cとを隔てる正面パネルに形成された第1の開口を閉鎖若しくは連通状態とする扉11aと、作業空間5とパスボックス11の内部空間11cとを隔てる壁2bに形成された第2の開口を閉鎖若しくは連通状態とする扉11bとが備えられている。物品を外部環境から作業空間5に移送するには、まず作業者は外側の扉11aを開けて、第1の開口を介して物品をパスボックス11内の空間に搬入して扉11aを閉める。その後、作業者はパスボックス11内の密閉された空間11cで物品をガスや紫外線といった滅菌手段によって滅菌する。その後、作業者はグローブ4を装着して内側の扉11bを作業空間5側から開けて、第2の開口を介して物品を作業空間5内に搬入する。上記手順によって、外部から物品が搬入されても、物品はパスボックス11の空間11cで滅菌処理されるので、無菌作業装置2は作業空間5内を無菌環境に維持することが出来る。
アイソレータ2の作業空間5を形成する筐体の他方の側の壁2aには、インキュベータ1の培養空間17にアクセスするための開口部12が形成されている。図2は本実施形態の扉開閉機構16を備えるインキュベータ1とアイソレータ2が接合する部分をアイソレータ2側から見た説明図であり、図3は本実施形態の扉開閉機構16の近傍を上面から見た断面図である。壁2aのインキュベータ1側には、開口部12の周囲を取り巻くように枠体13が固定されていて、この枠体13には、本発明のインキュベータ1の側壁14と気密に接合可能なシール部材15が備えられている。また、インキュベータ1の側壁14には、作業空間5に隣接する培養空間17と作業空間5とを連通する連通口23が形成されている。さらに、インキュベータ1の側壁14には、この連通口23を気密に閉鎖可能な扉開閉機構16が備えられている。この扉開閉機構16は、アイソレータ2の壁2aに形成された開口部12の範囲内に配置されるようにインキュベータ1に備えられていて、作業者がグローブ4越しにこの扉開閉機構16を操作することで、アイソレータ2の作業空間5に隣接するインキュベータ1の培養空間17とは、外部環境とは隔絶された状態で連通状態となり、作業者は培養空間17内にアクセスすることが可能になる。なお、この扉開閉機構16は、作業者がアイソレータ2のグローブ4を介して開閉操作することが可能な位置に配置されている。
インキュベータ1の側壁14に形成された連通口23は、マイクロプレートやフラスコといった試料を収容する容器24を、作業者がグローブ4を介して保持した状態でインキュベータ1の培養空間17にアクセスするのに十分な開口面積を有している。また、本発明の扉開閉機構16は、連通口23に対してハッチ部材28を進退移動させて、連通口23を気密に閉鎖及び開放する進退機構と、ハッチ部材28が連通口23に対して正対する位置と作業者の培養空間17へのアクセスするに干渉しない位置である退避位置との間で、ハッチ部材28を移動させる移動機構とを備えている。
また、本発明のインキュベータ1に形成された連通口23は、インキュベータ1と無菌作業装置2との間で試料を収容した容器24のみならず、インキュベータ1内部を加湿するための水を貯留した容器を無菌状態に維持したまま遣り取りすることを目的として設けられている。さらに、作業空間5と隣接する培養空間17とは連通口23を介して連通しているので、滅菌装置から作業空間5内に滅菌ガスが供給されると、その滅菌ガスは培養空間17にまで侵入することとなる。これにより、インキュベータ1に滅菌手段を備えなくとも、作業空間5に供給される滅菌ガスによって培養空間17内を滅菌処理することが出来る。
本実施形態のインキュベータ1に形成された連通口23のアイソレータ2に対向する面には、連通口23の開口形状に対応する枠部材25がインキュベータ1の側壁14に対して気密に取り付けられていて、この枠部材25のアイソレータ2に対向する面には、連通口23の全周を囲むようにリング状のシール部材26が取り付けられている。このシール部材26と扉開閉機構16のハッチ部材28が気密に当接することで、インキュベータ1の培養空間17とアイソレータ2の作業空間5の雰囲気とは隔絶される。
本実施形態の扉開閉機構16は、連通口23を気密に閉鎖することができるハッチ部材28と、このハッチ部材28を、連通口23を閉鎖する位置と解放する位置との間で進退移動させる進退機構30と、先端部に進退機構30が固定された支持アーム27と、支持アーム27の基端部に軸受けを介して取り付けられた回転シャフト21とを備えている。上記構成により、進退機構30とハッチ部材28とは、回転シャフト21と支持アーム27とで構成される移動機構により、回転シャフト21の回転中心軸C1を中心として支持アーム27を半径とする円弧の軌跡上を移動可能となっている。また、回転シャフト21はインキュベータ1の側壁14に対して垂直に立設されているので、進退機構30とハッチ部材28とは、回転シャフト21の回転中心軸C1を中心として、インキュベータ1の側壁14に対して平行な面内を回転移動可能な構成となっている。なお、本実施形態のインキュベータ1の側壁14とアイソレータ2の壁2aは互いに平行であり、且つ鉛直に設置されているので、支持アーム27と進退機構30とハッチ部材28とは、回転シャフト21の回転中心軸C1を中心としてアイソレータ2の壁2aに対して平行であり、且つ、鉛直な面内を移動可能な構成でもある。また、ハッチ部材28はインキュベータ1の連通口23の開口形状に対応した形状と大きさを有している。本発明のインキュベータ1には円形の連通口23が形成されていて、対応するこのハッチ部材28も円形に形成されている。
図4、図5は本発明の進退機構30の一実施形態を示した断面図である。本実施形態の進退機構30は、内部にカム機構を備えるブロック30aと、一端にハンドル30bが固定され、ブロック30aに対して回転可能に取り付けられた回転シャフト30cと、この回転シャフト30cの他端に連結されたカム機構の一部であるカム30fと、一端をカムフォロア30gに固定されてハッチ部材28を進退方向に移動させる進退シャフト30dと、ハッチ部材28を進退シャフト30dに対して前進方向、すなわち連通口23周縁に配置されたシール部材26に当接する方向に付勢する付勢部材30eとで構成されている。また、ハンドル30bには不図示の回転規制部材が備えられていて、ハンドル30bは図面視して6時の角度と9時の角度との間での回転シャフト30cを回転中心軸C2とする回転移動が可能な構成となっている。ブロック30a内に備えられるカム機構は公知のカム機構であり、ハンドル30bの時計回りの回転に連動して回転するカム30fが、付勢部材30eによって前進方向に付勢されているカムフォロア30gを後退方向に移動させる。
上記構成により、作業者がハンドル30bを手動で回転操作することでハッチ部材28を進退方向に移動させることができる。作業者がハンドル30bを図面視して時計回りに9時の角度まで回転させることで、ハッチ部材28は後退方向に移動することとなり、この動作によってハッチ部材28はシール部材26から離間する。図4を参照。また、作業者がハンドル30bを図面視して反時計回りに6時の方向まで回転させる、言い換えると、ハンドル30bを作業者にとって手前側に来るように回転させることで、ハッチ部材28は付勢部材30eの付勢力によって前進方向に移動することとなり、この動作によってハッチ部材28はシール部材26と気密に当接する。これにより連通口23は閉鎖される。図5を参照。
作業者が連通口23を介してインキュベータ1内部の培養空間17と作業空間5との間で容器24を移動させる場合には、作業者はハンドル30bを時計回りの方向に回転させてハッチ部材28をシール部材37から離間させる。その後、作業者はハンドル30bを保持して、扉開閉機構16を作業者から見て奥側に押すことで、扉開閉機構16は回転軸C1を回転中心にして図面視して時計回りの方向に、ハッチ部材28がストッパー29に当接するまで移動する。なお、ハッチ部材28がこのストッパー29に当接する位置を退避位置と呼ぶ。図2を参照。この動作により、連通口23は作業者のアクセスが可能な状態になる。また、扉開閉機構16によって連通口23を閉鎖する場合は、作業者はハンドル30bを保持して、扉開閉機構16を図面視して反時計回り方向に、回転軸C1を回転中心としてハッチ部材28がストッパー31に当接するまで回転移動させる。このハッチ部材28がストッパー31に当接して連通口23に正対する位置を正対位置と呼ぶ。次に作業者はハンドル30bを時計回り、すなわち、インキュベータ1側となる方向に回転させる。この作業者の操作によって、ハッチ部材28は枠部材25の全周にわたって配置されたシール部材26と密着して、連通口23は気密に閉鎖される。
なお、本実施形態の扉開閉機構16には、ハッチ部材28を連通口23に向かって付勢する付勢部材30eとして、公知の金属製コイルばねが備えられている。また、本実施形態の進退シャフト30dや回転シャフト30c、およびブロック30a内部のカム機構30fを構成する部材は、鉄やアルミといった金属で製作されている。また、扉開閉機構16はアイソレータ2の作業空間5内に配置されているので、作業空間5内部を酸化性の強い滅菌ガスで滅菌する際、滅菌ガスが上記各部材を腐食させてしまう虞がある。そこで、本実施形態の進退機構30の回転シャフト30cや付勢部材30eといった可動部分には、これら金属製の部材を滅菌ガスから保護するために、パッキンやジャバラといったシール部材32a、32bが備えられている。
ハッチ部材28は、塩化ビニールやPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やPPS(ポリフェニレンスルファイド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)といった過酸化水素ガスに耐性のある樹脂やステンレススチールや鉄、アルミといった金属、強化ガラスで作製することが好ましい。また、インキュベータ1の培養空間17内は、一般的に温度37℃、湿度90%以上の雰囲気に維持されるので、室温環境である作業空間5に配置されるハッチ部材28の表面が結露してしまう虞がある。そこでハッチ部材28に、ラバーヒータやカートリッジヒータといった公知の電熱ヒータを備えることで結露を防止する構成としてもよい。また、作業者が容易に庫内の状態を観察できるようにという目的から、透明な塩化ビニール製としてもよい。
上記説明したとおり、本実施形態のインキュベータ1が備える扉開閉機構16は、回転軸C1を中心としてインキュベータ1の側壁14と平行な面内、すなわち、鉛直面内を揺動することにより連通口23の開閉を行っている。この構造により、従来のような、アイソレータ2の作業空間5に扉を開けるために必要なエリア(デッドスペース)を考慮することなく扉を開閉することが可能になり、アイソレータ2内の作業空間5内の全ての空間を有効に利用することが出来る。さらに、従来の蝶番で留められた部分を中心軸として弧を描く様に開閉する開き戸式の扉では、扉を開ける度に扉の揺動動作によって培養空間17の管理された雰囲気がアイソレータ2の作業空間5へと排出されてしまい、培養空間17内の環境を乱していたが、本実施形態の扉開閉機構16は、ハッチ部材28が壁2aや側壁14に対して平行な円弧状の軌跡を描いて移動するので、培養空間17内の管理された雰囲気をアイソレータ2の作業空間5へと排出してしまうことは無く、所定の雰囲気に維持された内部環境を乱すことがなくなる。
上述した第1の実施形態では扉開閉機構16が、移動機構によってインキュベータ1の側壁14に配置された回転軸C1を中心として鉛直な面内において回転移動する構成としていた。次に説明する第2の実施形態の扉開閉機構16aでは、移動機構がハッチ部材28と進退機構30をインキュベータ1の側壁14に対して平行な面内を直線移動させるものである。この第2の実施形態の扉開閉機構16aでは、ハッチ部材28及び進退機構30が、互いに平行に配置されたスライドシャフト33a、33bによって案内される面内を直線移動する。図6は第2の実施形態の概要をアイソレータ2側から見た説明図であり、図7はその断面図である。なお、本実施形態の扉開閉機構16aを構成するハッチ部材28及び進退機構30は第1の実施形態の扉開閉機構16と同様のものであるので、ここでは説明を省略する。
本実施形態の扉開閉機構16aが備えるブロック30aの上側と下側には、鉛直方向に延在する支持ロッド34a、34bの基端部がそれぞれ固定されている。また、各支持ロッド34a、34bの先端部には円筒状の貫通孔が穿設されていて、この貫通孔には案内手段の移動子であるリニアブッシュ35a、35bが嵌め込まれている。本実施形態の扉開閉機構16aが備えるリニアブッシュ35a、35bは円筒状をしたケース内に鋼球等の転動体が配置された中空の軸受部材である。本実施形態の各リニアブッシュ35a、35bには、互いに平行に配置されたスライドシャフト33a、33bがそれぞれ挿通されている。
本実施形態が備える一対のスライドシャフト33a、33bはリニアブッシュ35a、35bが行う直線方向の摺動移動を案内する部材であり、固定ブラケット36を介してインキュベータ1の側壁に互いに平行となるように固定されている。固定ブラケット36は、各スライドシャフト33a、33bをインキュベータ1の側壁に対して所定の間隔をあけて、平行となるように配置して固定するブロック状の部材である。上記構成により、扉開閉機構16aはスライドシャフト33a、33bの延在する方向に沿って往復移動可能となっている。なお、上記のスライドシャフト33a、33bと、リニアブッシュ35a、35bと、支持ロッド34a、34bと、固定ブラケット36とで、本実施形態の移動機構を構成する。
また、本実施形態の扉開閉機構16aが備えるリニアブッシュ35a、35bとスライドシャフト33a、33bは、鉄やステンレススチールといった金属製で、可動部分には潤滑剤が塗布されている。これらの部材は作業空間5内に供給される酸化性を有する滅菌ガスによって腐食する可能性が高い。そこで、本実施形態の扉開閉機構16aには、作業空間5内に供給される滅菌ガスからリニアブッシュ35a、35bとスライドシャフト33a、33bを保護するために、ベローズ部材37が備えられている。本実施形態が備えるベローズ部材37は、ハッチ部材28の移動方向について伸縮可能な蛇腹構造を有するシリコン製の部材であり、両端にフランジ部が形成されたものである。このベローズ部材37の一端のフランジ部は固定ブラケット36に気密に固定されていて、他端のフランジ部は支持ロッド34a、34bに気密に固定されている。また、ベローズ部材37は各支持ロッド34a、34bの左右にそれぞれ1個ずつ配置されていて、上記構成により、ベローズ部材37の内部に配置されるリニアブッシュ35a、35bとスライドシャフト33a、33bは作業空間5とは完全に隔離される。したがって、作業空間5内に滅菌ガスが供給されたとしても、リニアブッシュ35a、35bとスライドシャフト33a、33bはこの滅菌ガスにより腐食されることはない。
図7は本発明の第2の実施形態である扉開閉機構16aを側面から見た断面図である。本実施形態の扉開閉機構16aが備えるハッチ部材28は、第1の実施形態と同様に進退機構30によって連通口23に対して進退移動する。進退機構30及び連通口23の構成は、第1の実施形態と同じ構成であるので、ここでは説明を省略する。各スライドシャフト33a、33bをそれぞれ支持する2対の固定ブラケット36は、各スライドシャフト33a、33bをインキュベータ1の壁面に対して所定の位置となるように固定している。また、固定ブラケット36は、各スライドシャフト33a、33bをインキュベータ1の壁面に対して平行で、且つ、水平方向に延在するように固定している。なお、所定の位置とは、進退機構30がハッチ部材28を連通口23に向かって前進させた時に、ハッチ部材28が連通口23周縁に配置されるシール部材26と気密に当接する位置であり、且つ、進退機構30がハッチ部材28を連通口23に対して後退させた時に、ハッチ部材28が連通口23周縁に配置されるシール部材26とは完全に分離される位置となるように各スライドガイド33a、33bが配置される位置のことを表す。
次に、第2の実施形態の扉開閉機構16aの操作方法を以下に説明する。連通口23を閉鎖したい場合には、まず、作業者はハンドル30bを持って扉開閉機構16aのハッチ部材28をストッパー31に当接する正対位置まで水平方向にスライド移動させる。次に作業者は、ハンドル30bを奥側、すなわちインキュベータ1側に回転するように操作して連通口23をハッチ部材28で閉鎖する。また、閉鎖された連通口23を開扉したい場合には、作業者はハンドル30bを手前側、すなわち作業者側に回転するように操作して、連通口23のシール部材26に当接しているハッチ部材28を後退移動させて、シール部材26から離間させる。次に作業者は、ハンドル30bを保持してハッチ部材28がストッパー38に当接する退避位置まで扉開閉機構16aを水平方向にスライド移動させる。作業者のこのハンドル30bに対する操作により、連通口23は開放され、作業者はインキュベータ1の培養空間17にアクセスすることが可能になる。
上記のように、本発明の扉開閉機構16aは、インキュベータ1の側壁14やアイソレータ2の壁2aに対して平行な面内を水平移動可能な構成となっているので、作業空間5の一部を扉の開閉のために割り当てる必要が無くなり、作業空間5の全領域を有効に使用することができる。なお、上記第1、第2の実施形態においては、扉開閉機構16、16aがインキュベータ1の側壁14に設けていたが、無菌作業装置2の壁2aに設けても同様の効果を得ることが出来る。
また、上記実施形態で示した本発明の扉開閉機構16、16aは、インキュベータ1の培養空間17と無菌作業装置2の作業空間5とを連通させる連通口23の開閉を行う以外にも使用することが出来る。本発明の扉開閉機構16、16aを、無菌作業装置2において、作業空間5に隣接して設けられたパスボックス11の内部空間11cと作業空間5とを仕切る壁2bに形成された第2の開口を閉鎖、開放するためにも用いることが出来る。
図8は互いに隣接して設けられた作業空間5とパスボックス11とを隔てる壁2bにも本発明の扉開閉機構16、16aを配置させた無菌培養システム3を示す断面図である。本実施形態の無菌培養システム3では、本発明の扉開閉機構16、16aが、インキュベータ1の培養空間17と無菌作業装置2の作業空間5とを連通する連通口23に加えて、作業空間5とパスボックス11の内部空間11cとを連通する第2の開口を開閉するために、無菌作業装置2の壁2bに備えられている。上記構成により、無菌作業装置2の作業空間5を形成する壁2a、2bのどちらにも本発明の扉開閉機構16、16aが備えられているので、扉開閉による物品の排除領域を考慮する必要は無くなる。これにより、作業空間5とパスボックス11の内部空間との間で試料や検査用機材等の物品を遣り取りする際に、作業空間5の一部がパスボックス11の扉11bの開閉動作のために使えないということは無くなる。
以上、本発明の扉開閉機構16、16aの実施形態について説明してきたが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。隣接した空間を連通する開口を気密に開閉し、且つ空間内の作業範囲を扉開閉のために干渉されず有効に使用したい場合に特に有効であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することが出来る。