[実施の形態]
以下、本発明の移相器及びこれを備えたアンテナ装置の実施の形態について、図1乃至図8を参照して説明する。このアンテナ装置11は、例えば、アンテナ塔やビル等の建造物の高所に設置され、携帯電話機用の基地局アンテナとして用いられる。なお、以下の説明では、本実施の形態に係るアンテナ装置11を高周波信号の送信のために用いる場合について説明するが、このアンテナ装置11を受信のために用いることも可能である。
(アンテナ装置の構成)
図1はアンテナ装置11を示す。アンテナ装置11は、高周波信号が入力される入力端子12と、入力端子12に入力された信号を分配する第1分配線路14aと、第1分配線路14aによって分配された信号をさらに分配する第2分配線路14bと、第2分配線路14bによって分配された信号をさらに分配する第3分配線路14cと、第3分配線路14cの端末部に接続されたアンテナ素子13と、を備えている。各分配線路14a〜14cは1入力2出力の線路構成となっており、第3分配線路14cの端末部には合計8個のアンテナ素子13a〜13hがそれぞれ接続されている。
8個のアンテナ素子13(13a〜13h)は鉛直方向に並び、アンテナ素子13aが最上部に、アンテナ素子13hが最下部に配置される。他のアンテナ素子13(13b〜13g)は、図1の上側(アンテナ素子13a側)に示すアンテナ素子13ほど鉛直方向の上側に配置される。各アンテナ素子13の信号位相は、第1乃至第3分配線路14a〜14cの線路長の違いにより、下側のアンテナ素子13ほど信号位相が遅れるように調節されている。
第1乃至第3の分配線路14a,14b,14cは、アンテナ素子13(13a〜13h)を介して伝送される信号の伝送線路1に含まれる第1分配線路14aと第2分配線路14bとの間、及び第2分配線路14bと第3分配線路14cとの間には、それぞれ移相器10が設けられている。ここでは、第1分配線路14aと第2分配線路14bとの間の2箇所と、第2分配線路14bと第3分配線路14cとの間の4箇所に、合計6個の移相器10(10a〜10f)が設けられている。これらの移相器10は、伝送線路1を構成する信号導体と後述するグランド板との間に誘電体を挿入する誘電体挿入型の移相器であり、信号導体と誘電体とが重なる面積が大きいほど信号の位相が遅れるように構成されている。
アンテナ装置11では、移相器10a〜10fによって信号の位相を変化させることにより、アンテナ素子13a〜13hから放射される電波の指向性(ビームチルト角)を上下方向に調節することが可能である。具体的には、移相器10a,10c,10dによってアンテナ素子13a〜13dの位相遅れ量を小さくし、移相器10b,10e,10fによってアンテナ素子13e〜13hの位相遅れ量を大きくすることで、電波の指向性を下方(地上側)に向けることができる。また、移相器10a,10c,10dによってアンテナ素子13a〜13dの位相遅れ量を大きくし、移相器10b,10e,10fによってアンテナ素子13e〜13hの位相遅れ量を小さくすることで、電波の指向性を上方(天空側)に向けることができる。なお、ここでは、8個のアンテナ素子13(13a〜13h)と、6個の移相器10(10a〜10f)を用いる場合を説明したが、アンテナ素子13や移相器10の数は一例であり、図示のものに限定されない。
図2は、アンテナ装置11の具体的な構成例を示す斜視図であり、(a)は外観を、(b)は複数のアンテナ素子13の配置状態を、それぞれ示す。図2(a)に示すように、アンテナ装置11は、円筒状のレドーム30内に、第1乃至第3の分配線路14a,14b,14cを含む伝送線路1、及び8個のアンテナ素子13等を収容して構成されている。伝送線路1は、後述するように、基板上に所定のパターンで形成された銅等の良導電性の金属からなる配線パターンによって構成され、トリプレート線路の内導体となる。
レドーム30は、その両端をアンテナキャップ301,302によって閉塞されており、その中心軸方向が鉛直方向となるように、取付金具303,304によってアンテナ塔等の高所に取り付けられる。鉛直方向の下方に配置されるアンテナキャップ302には、入力端子12(図1参照)として機能する同軸ケーブルアダプタ305,306が取り付けられている。
図2(b)は、8個のアンテナ素子13等を示す。このアンテナ素子13は、レドーム30の長手方向に沿って配列され、電気的に接地された第1グランド板31に固定されている。それぞれのアンテナ素子13は、十字状に交差して配置された水平偏波アンテナ素子131と垂直偏波アンテナ素子132とを有している。第1グランド板31は、水平偏波アンテナ素子131及び垂直偏波アンテナ素子132から放射される電磁波を反射する反射板としての機能を有している。
水平偏波アンテナ素子131及び垂直偏波アンテナ素子132は、放射素子として機能する図略の配線パターンが板状の誘電体に形成されたプリント基板からなるプリントダイポールアンテナである。水平偏波アンテナ素子131及び垂直偏波アンテナ素子132には、第1グランド板31に形成された開口を挿通する図略の凸部が設けられ、この凸部を介して放射素子として機能する配線パターンが伝送線路1における第3分配線路14c(図1参照)の端末部に電気的に接続されている。
図3は、レドーム30の内部において8個のアンテナ素子13側とは反対側に配置された移相器10の移動機構4の構成例を示す斜視図である。この移動機構4は、8個のアンテナ素子13が固定された第1グランド板31と平行に配置された第2グランド板32上に設けられている。第1グランド板31及び第2グランド板32は、ステンレス等の導電性金属からなり、電気的に接地されている。また、第1グランド板31及び第2グランド板32は、その長手方向がレドーム30の中心軸方向に沿った長板状であって、トリプレート線路の外導体を構成する。
移動機構4は、後述する移相器10の誘電体3(図4A〜図7参照)を第1グランド板31及び第2グランド板32の長手方向に沿って移動させるためのものであり、電動モータ41と、電動モータ41の駆動力によって第1グランド板31及び第2グランド板32の長手方向に移動する一対の駆動棒42と、一対の駆動棒42の移動を案内する一対のガイド部材43と、電動モータ41の回転力を駆動棒42の直線運動に変えるウォームギア機構44を有している。また、第2グランド板32上には、外部からの指示信号を受けて電動モータ41を制御する制御部40が配置されている。
第2グランド板32の短手方向における両端部には、切り欠き32aが形成され、この切り欠き32aに一端部が挿通された水平偏波用同軸ケーブル33及び垂直偏波用同軸ケーブル34を介して伝送線路1における第1分配線路14a(図1参照)に送信信号が供給される。水平偏波用同軸ケーブル33及び垂直偏波用同軸ケーブル34の他端部は、同軸ケーブルアダプタ305,306に接続されている。
(移相器の構成)
図4は、図1に示した本実施の形態に係る移相器10を示す図であり、(a)は一方のグランド板を省略した平面図、(b)は(a)のA−A線に沿った断面図である。
図4(a),(b)に示すように、移相器10は、トリプレート線路において、基板20の両面に形成されて信号を伝送する内導体としての信号導体2と、信号導体2と重なり合うように配置される誘電体3と、誘電体3の信号導体2と反対側に配置される外導体としての第1グランド板31及び第2グランド板32と、移動機構4と、後述する間隔保持部材35とを備えている。
信号導体2は、基板20上に形成された配線パターンからなり、アンテナ素子13(13a〜13h)を介して伝送される信号の伝送線路1を構成する。本実施の形態では、誘電体3と重なり合う部分の信号導体2が、互いに平行に配置された2本の直線部2aと、直線部2aの先端部同士(図4における右側の端部同士)を接続する接続部2bとからなり、全体として平面視において略U字状に形成されている。直線部2aと接続部2bとの接続部は、面取りがなされた形状となっている。
なお、本実施の形態では、信号導体2として、ガラスエポキシ等からなる基板20の両面に形成された配線パターンで構成されたものを用いたが、これに限らず、信号導体2として、銅等の導体からなる板状の部材を用いた構成でもよく、また、誘電体基板としてフィルム状のものを用いる場合には、当該フィルム状の基板の一方の面に形成された配線パターンで構成されてもよい。
第1グランド板31及び第2グランド板32は、アルミニウム等の導体からなる導電板である。基板20は、第1グランド板31と第2グランド板32との間に、それぞれ等間隔を以って平行に配置されている。
誘電体3の材料は特に限定するものではないが、移相量の変化幅(調整幅)を大きくするためには、なるべく誘電率が大きい材料を用いることが望ましい。また、移相量の変化幅は、誘電体3のサイズを大きくすることによっても、大きくすることができる。誘電体3に採用し得る誘電率が大きい材質としては、例えばLCP(液晶ポリマー)、PBT(ポリブチレンテレフタラート)、POM(ポリアセタール)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PC(ポリカーボネート)、PPE(ポリフェニレンエーテル)が挙げられる。ただし、誘電体3として誘電率が大きい材質を用いた場合には、僅かな位置ずれによって移相量が大きく変動してしまうおそれがある。誘電体3の材料は、必要とされる移相量の変化幅や誘電体3の大きさ等を考慮して、好適なものを選択すべきである。
本実施の形態では、誘電体3が、信号導体2との間に間隔を有して信号導体2を挟む位置に配置された第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bからなる。移動機構4は、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bを、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの厚さ方向と直交する方向に移動させる。本実施の形態では、移動機構4による第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの移動方向が、第1グランド板31及び第2グランド板32の長手方向と平行である。第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bは、平面視において長方形状であり、移動機構4による移動方向が長手方向となるように配置される。
第1誘電体板3aは、信号導体2と第2グランド板32との間に配置され、第2誘電体板3bは、信号導体2と第1グランド板31との間に配置される。第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bは、信号導体2と第1グランド板31及び第2グランド板32の直近に形成される電界の影響を受けないように、信号導体2ならびに第1グランド板31及び第2グランド板32から離間して配置されている。この電界の影響は、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが信号導体2に近づいた場合に特に大きくなり、信号導体2に第1誘電体板3a又は第2誘電体板3bが接触すると、移相量が大きく変動してしまう。このため、第1誘電体板3aは、信号導体2及び第2グランド板32から離間して配置され、第2誘電体板3bは、信号導体2及び第1グランド板31から離間して配置されている。
第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bは、第1誘電体板3aと第2誘電体板3bとの厚さ方向の間隔を一定に保持する間隔保持部材35により連結されている。第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの移動は、駆動棒42(図3参照)の直線運動を、第1誘電体板3aの信号入出力端部と反対側の端部の近傍に設けられた被駆動突出部36が受けることにより行われる。
以下、移相器10における信号導体2と誘電体3とが重なり合う部分を重複部5、信号導体2と誘電体3とが重なり合わない部分を非重複部6と呼称する。非重複部6は、信号導体2と第1及び第2グランド板31,32とが空気層を介して対向する部分である。
移相器10では、誘電体3を駆動棒42により移動させ、信号導体2と誘電体3とが重なり合う重複部5の面積を変化させることで、信号導体2を伝送される信号の位相を変化させるように構成されている。移相器10では、重複部5の面積が大きくなるほど信号の位相が遅れ、重複部5の面積が小さくなるほど信号の位相が進むことになる。よって、図4(a)及び(b)において、ある基準位置から図示左側(平行部2aの基端側)に誘電体3を移動させることで、信号の位相を基準位置における位相よりも遅らせ、基準位置から図示右側(平行部2aの先端側、接続部2b側)に誘電体を移動させることで、信号の位相を基準位置における位相よりも進めることができる。
本実施の形態に係る移相器10では、誘電体3の信号の入力側及び出力側の端部に、重複部5と非重複部6との間でインピーダンスを整合させるための変成器部7A,7Bを備えている。ここでは、誘電体3の信号導体2の延出側の端部に変成器部7Aを形成しており、かつ、信号導体2の延出方向に沿って誘電体3を移動させるように移相器10を構成しているため、変成器部7Aは、誘電体3を図示左右方向に移動させた場合であっても、必ず誘電体3の信号の入力側および出力側の端部に位置することになる。
移相器10では、変成器部7A,7Bは、重複部5側に設けられた高インピーダンス部7aと、高インピーダンス部7aの非重複部6側に設けられ、高インピーダンス部7aよりも特性インピーダンスが低い低インピーダンス部7bと、を備えている。高インピーダンス部7aにおける信号導体2と第1グランド板31及び第2グランド板32の間の実効誘電率は、低インピーダンス部7bにおける信号導体2と第1及び第2グランド板31,32間の実効誘電率よりも低い。
図4(a)に示すように、高インピーダンス部7aの信号導体2に沿った長さLa1,La2、及び低インピーダンス部7bの信号導体2に沿った長さLb1,Lb2は、重複部5と非重複部6間でインピーダンスを整合できる長さに調整される。
図4に例示する移相器10では、重複部5の特性インピーダンスが21Ω、非重複部6の特性インピーダンスが50Ωであり、変成器部7A,7Bの高インピーダンス部7aの特性インピーダンスが50Ω、低インピーダンス部7bの特性インピーダンスが21Ωである。第1変成器部7Aは、その両インピーダンス部7a,7bの長さLa1,Lb1を調整することで、非重複部6と、重複部5と非重複部6の中間の特性インピーダンス(中間特性インピーダンスと呼称する)とをインピーダンス整合させるように構成される。第2変成器部7Bは、その両インピーダンス部7a,7bの長さLa2,Lb2を調整することで、中間特性インピーダンスと重複部5とをインピーダンス整合させるように構成される。つまり、移相器10では、重複部5と非重複部6間のインピーダンス整合を2段階で行うように変成器部7A,7Bを構成している。
(移相器を備えたアンテナ装置の動作)
図1乃至図3に示したアンテナ装置11がアンテナ塔に設置されると、必要なビームチルト角に応じて制御部40が電動モータ41を駆動する。電動モータ41が駆動されると、その駆動力がウォームギア機構44を介して駆動棒42を前進あるいは後退させる。この駆動棒42の前進あるいは後退により、移相器10a〜10fは、ビームチルト角に応じて誘電体3の重複部5の面積が調整される。本実施の形態では、移相器10a,10c,10dと、移相器10b,10e,10fとで、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの長手方向の向きが反対となるように誘電体3が配置されている。これにより、駆動棒42の進退移動によって移相器10a,10c,10dの移相量が増大するとき、移相器10b,10e,10fの移相量が減少する。
このように、アンテナ装置11は、移動機構4によって移相器10の誘電体3を移動させることで、所望のビームチルト角でアンテナ素子13から信号波を輻射することが可能である。このとき、振動等によって第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bがその厚さ方向に変位したとしても、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが間隔保持部材35によってその間隔が一定に保持されているので、位相変動量は、後述する図8(b)のグラフの曲線Aのように抑制される。
(間隔保持部材35の構成)
図5(a)は、図4(a)に示した移相器10のB−B線に沿った断面図であり、図5(b)は、図5(a)に示した移相器10を示す分解斜視図である。
図5(a),(b)において、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bは、基板20の両面に形成された信号導体2と所定の間隔を保持するようにして、一対の間隔保持部材35によって連結されている。この一対の間隔保持部材35は、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bを、長手方向の所定の範囲にわたって、長手方向に直交する短手方向に挟んでいる。本実施の形態では、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが、その長手方向の全体にわたって、一対の間隔保持部材35に挟まれている。
それぞれの間隔保持部材35は、第1誘電体板3aと第2誘電体板3bとの間に挟まれて、両誘電体板3a,3b間の間隔を保持する間隔保持部35aと、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bを挟持する挟持部35bとを有している。間隔保持部材35は、例えば接着によって第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bに固定されている。
基板20には、間隔保持部材35の組み付けを可能にするように、間隔保持部材35の厚さより大きい幅と、間隔保持部材35の長手方向の長さに第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの移動量を加えた長さを有した貫通孔20aが形成されている。また、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bは、第1グランド板31及び第2グランド板32と接触しないように、第1グランド板31及び第2グランド板32との間に所定の間隔を有して配置されている。第1誘電体板3aには、駆動棒42に形成された貫通孔42aに嵌入して移動機構4の移動力を受ける被駆動突出部36が形成されている。
(第1の変形例)
図6(a),(b)は、図4(a),(b)及び図5(a),(b)で示した間隔保持部材35の第1の変形例を示す。この間隔保持部材35は、図示のように、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの短手方向の両端部に一対設けられている。
第1の変形例に係る間隔保持部材35は、第1誘電体板3aに形成された嵌合孔3c,3dに嵌合する嵌合部35a1と、第2誘電体板3bに形成された嵌合孔3e,3fと嵌合する嵌合部35a2と、第1誘電体板3aと第2誘電体板3bとの間に挟まれる間隔設定部35dとを有する。間隔設定部35dは、嵌合部35a1と嵌合部35a2との間に形成されて、第1誘電体板3aと第2誘電体板3bとの間隔を設定する。また、この間隔保持部材35は、図示のように、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの短手方向の両端部に一対設けられている。
この第1の変形例に係る間隔保持部材35においては、嵌合部35a1,35a2、及び嵌合孔3c〜3eは、嵌合によって固定されても良く、また、接着剤によって固定されても良い。また、嵌合部35a1,35a2、及び嵌合孔3c〜3eの形状は、矩形状としたが、これに限定するものではない。例えば、その形状は、円形、楕円形、三角形等であっても良い。
なお、この第1の変形例の構成において、図4(a),(b)及び図5(a),(b)の構成と共通する部材については、共通する引用数字を用いているので、重複する説明は省略する。
(第2の変形例)
図7は、図4(a),(b)及び図5(a),(b)で示した間隔保持部材35の第2の変形例を示す。この間隔保持部材35は、図示のように、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの短手方向の両端部に一対設けられている。
第2の変形例に係る間隔保持部材35は、軸状部材としてのピン部材35gと、間隔保持リング35hとからなっている。図7に示す例では、ピン部材35gが、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの厚さ方向に中心軸を有する円柱状である。
間隔保持リング35hは、ピン部材35gの長さ方向の中央部に挿通されて、嵌合あるいは接着剤によってピン部材35gに固定される。ピン部材35gは、その一端部が第1誘電体板3aの嵌合孔3c,3dに嵌合され、他端部が、第2誘電体板3bの嵌合孔3e,3fに嵌合される。ピン部材35gは、嵌合孔3c,3eあるいは嵌合孔3d,3fへの嵌合によって固定されても良く、また、接着剤によって固定されても良い。間隔保持リング35hは、第1誘電体板3aと第2誘電体板3bとの間に挟まれて、第1誘電体板3aと第2誘電体板3bとの間隔を設定する。
なお、この第2の変形例の構成において、図4(a),(b)及び図5(a),(b)の構成と共通する部材については、共通する引用数字を用いているので、重複する説明は省略する。
(シミュレーションの構成及び結果)
次に、間隔保持部材35に基づく作用及び効果を確認するために行ったシミュレーション結果を示す。
図8(a)は、シミュレーションを行った移相器10の構成例を示す。図8(b)は、シミュレーション結果を示すグラフである。図8(a)では、このシミュレーションに用いられた基板20、信号導体2、第1誘電板3a及び第2誘電体板3b、ならびに第1グランド板31及び第2グランド板32を、各部の間隔等の寸法と共に示している。
この構成において、信号導体2の厚さ、基板20の厚さ及び誘電特性(誘電率及び誘電正接)、第1誘電板3a及び第2誘電体板3bの厚さ及び誘電特性(誘電率及び誘電正接)、ならびに上記部材の間隔等は、次の表に示すとおりである。
上記の表に示された(4)及び(5)の間隔によって定まる第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの位置を、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの厚さ方向の基準位置とする。
図8(b)において、横軸は第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの厚さ方向における変位量d(mm)を表わし、d=0は上記した基準位置に相当し、0<d≦0.05は、第1誘電体板3aが信号導体2から離間する方向に移動した場合の変位量に相当し、0>d≧−0.05は、第1誘電体板3aが信号導体2に接近する方向に移動した場合の変位量に相当する。第2誘電体板3bは、第1誘電体板3aと共に厚さ方向に変位する。また、縦軸は、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの変位量に応じた位相変動量を表わし、正は位相の進みを表わし、負は位相の遅れを表わす。
まず、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが、間隔保持部材35によって両者の間隔が(0.12+0.78+0.12)mmに保持された状態において、第1誘電体板3aが信号導体2から0<d≦0.05の範囲で離間し、第2誘電体板3bが信号導体2に0<d≦0.05の範囲で第1誘電体板3aの変位量と同じ変位量で接近した場合の位相変動量を検討する。なお、本実施の形態では、第1誘電体板3aが信号導体2から離間すると、第2誘電体板3bが信号導体2に接近するが、以下では第1誘電体板3aの方の離間あるいは接近を基準とする。
この場合は、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの0<d≦0.05の範囲の変位量に応じた曲線Aに基づく位相変動量が発生する。つまり、この場合は、第1誘電体板3aによる位相進みと第2誘電体板3bによる位相遅れが相殺される。
一方、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが、本発明の間隔保持部材35によって両者の間隔が(0.12+0.78+0.12)mmに保持された状態において、第1誘電体板3aが0<|d|≦0.05の範囲で信号導体2に接近し、第2誘電体板3bが第1誘電体板3aの変位量と同じ変位量で信号導体2から離間した場合の位相変動量を検討する。
この場合は、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの0>d>−0.05の範囲の変位量に応じた曲線Aに基づく位相変動量が発生する。つまり、この場合は、第1誘電体板3aによる位相遅れと第2誘電体板3bによる位相進みが相殺される。
次に、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが間隔保持部材35によって間隔が保持されていない状態におけるシミュレーションを説明する。この場合には、間隔保持部材35がないために、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bがそれぞれ独立して変位する状態において、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが信号導体2から0<d≦0.05の範囲で共に同じ変位量で信号導体2から離間した場合の位相変動量を検討する。
この場合は、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが共に同一の変位量だけ信号導体2から離間するため、第1誘電体板3aの離間による信号の位相進みと第2誘電体板3bの離間による信号の位相進みが加算されて、0<d≦0.05の範囲において曲線Bによって定まる位相変動量が発生する。
次に、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが信号導体2に0>d≧−0.05の範囲で共に同じ変位量で接近した場合の位相変動量を検討する。この場合は、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが共に同一の変位量だけ信号導体2に接近するため、第1誘電体板3aの接近による信号の位相進遅れと第2誘電体板3bの接近による信号の位相遅れが加算されて、0>d≧−0.05の範囲において曲線Bによって定まる位相変動量が発生する。
以上のシミュレーションの結果から明らかなように、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが間隔保持部材35によって保持されていないと、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが、基板20の両面に形成された信号導体2に対して、同一変位量だけ厚さ方向に離間あるいは接近することがあり、その場合に生じる位相変動量は、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bを間隔保持部材35によってその間隔を一定にすることにより、低減される。
つまり、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが、間隔保持部材35によってその間隔を一定に保持されることにより、上記した信号導体2に対して、第1誘電体板3aが離間あるいは接近すると、第2誘電体板3bが第1誘電体板3aと同一変位量だけ接近あるいは離間することになる。これにより、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの変位によって生じる位相変動量が相殺され、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが間隔保持部材35によって保持されていない場合に比較して、位相変動量が低減されることになる。
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、以下のような作用及び効果が得られる。
(1)第1誘電体板3aと第2誘電体板3bとの厚さ方向の間隔が間隔保持部材35によって一定に保持されるので、第1誘電体板3aの厚さ方向の変位による位相変動と第2誘電体板3bの厚さ方向の変位による位相変動が相殺される。これにより、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが厚さ方向に変位することによる移相量の不要な変動を抑制することができ、信号位相の意図しない変動が抑制されることにより、アンテナ装置11の指向性を高精度に調節することが可能となる。
(2)図5に示す間隔保持部材35は、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bを、長手方向の所定の範囲にわたって、長手方向に直交する短手方向に挟んでいるので、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bの長手方向の撓みが間隔保持部材35によって抑制される。これにより、第1誘電体板3a及び第2誘電体板3bが長手方向に撓むことによって、第1誘電体板3a又は第2誘電体板3bの一部が信号導体2に接近又は離間することが抑制される。
(3)図6及び図7に示す間隔保持部材35によれば、簡素な構成によって第1誘電体板3aと第2誘電体板3bとの間隔を一定に保つことができる。
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
[1]アンテナ素子(13)を介して伝送される信号の伝送線路を構成する信号導体(2)と、前記信号導体(2)との間に間隔を有して前記信号導体(2)を挟む位置に配置された第1誘電体板(3a)及び第2誘電体板(3b)と、前記第1誘電体板(3a)及び前記第2誘電体板(3b)を、前記第1誘電体板(3a)及び前記第2誘電体板(3b)の厚さ方向と直交する方向に移動させる移動機構(4)と、前記第1誘電体板(3a)と前記第2誘電体板(3b)との前記厚さ方向の間隔を一定に保持する間隔保持部材(35)とを備えた、移相器(10)。
[2]前記第1誘電体板(3a)及び前記第2誘電体板(3b)は、前記移動機構(4)による移動方向が長手方向となる長方形状であり、かつ一対の前記間隔保持部材(35)によって連結され、前記一対の前記間隔保持部材(35)は、前記第1誘電体板(3a)及び前記第2誘電体板(3b)を、前記長手方向の所定の範囲にわたって、前記長手方向に直交する短手方向に挟んでいる、前記[1]に記載の移相器(10)。
[3]前記間隔保持部材(35)は、前記第1誘電体板(3a)及び前記第2誘電体板(3b)にそれぞれ形成された嵌合孔(3c〜3f)に嵌合する一対の嵌合部(35a1,351a2)を前記厚さ方向の両端部に有し、かつ前記一対の嵌合部(35a1,351a2)の間に形成されて前記第1誘電体板(3a)と前記第2誘電体板(3b)との間に挟まれる間隔設定部(35d)を有する、前記[1]に記載の移相器(10)。
[4]前記間隔保持部材(35)は、前記第1誘電体板(3a)及び前記第2誘電体板(3b)に形成された嵌合孔(3c〜3f)にその両端部が嵌合する軸状部材(35g)と、前記軸状部材(35g)に挿通されて前記第1誘電体板(3a)と前記第2誘電体(3b)との間に挟まれる間隔保持リング(35h)とを有する、前記[1]に記載の移相器(10)。
[5]前記[1]乃至[4]の何れか1つに記載の移相器(10)を備えた、アンテナ装置(11)。
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明に限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組み合わせの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。