以下、図面を参照しながら、本発明の一側面に係る電池モジュールの固定構造の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は、電池モジュールの固定構造を適用した電池パックの一実施形態を示す斜視図である。同図に示すように、電池パック1は、略直方体形状をなす筐体2を備えている。筐体2は、矩形平板状の底板3と、底板3の周縁に立設する側板4と、側板4によって画成される開口を塞ぐ天板5とを有している。
筐体2内には、複数の電池モジュール11が収容されている。本実施形態では、筐体2内の収容空間に上下2段で2列に電池モジュール11が配置されている。各電池モジュール11は、後述のブラケット23(23A,23B)を介して側板4の内面に対して固定されている。
図2は、筐体に対する電池モジュールの固定構造を示す断面図である。同図に示すように、電池モジュール11は、複数の電池セル12を含む配列体13と、配列体13に対して電池セル12の配列方向に拘束荷重を付加する拘束部材14とを備えている。配列体13には、ミドルプレート15と、弾性体16と、伝熱プレート17とが更に含まれている。また、拘束部材14は、一対のエンドプレート18,18と、エンドプレート18,18同士を締結する長尺の拘束ボルト19及びナット20とによって構成されている。
電池セル12は、例えばリチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池である。本実施形態では、配列体13に7体の電池セル12が含まれており、各電池セル12は、枠体をなすセルホルダKによって保持された状態で配列されている。電池セル12は、非水系の電解液が注入されたケース内に電極組立体を収容して構成されている。電極組立体は、正極、負極、及びセパレータを所定の順序で積層したものである。本実施形態では、袋状のセパレータ内にシート状の正極が収容されており、正極が収容された袋状のセパレータとシート状の負極とが交互に積層されている。
ミドルプレート15は、エンドプレート18,18間に配置されるプレートである。ミドルプレート15は、配列方向から見た電池セル12の形状に対応した略矩形の板状をなしており、配列方向の最も一方端側に位置する電池セル12に隣接して配置されている。ミドルプレート15には、後述する拘束ボルト19を挿通させる挿通孔(不図示)が設けられている。
弾性体16は、電池セル12に膨張が生じた場合等に、拘束荷重による電池セル12及びエンドプレート18の破損を防止する目的で用いられる部材である。弾性体16は、例えばウレタン製のゴムスポンジによって矩形の板状に形成されている。弾性体16は、配列体13における電池セル12の配列方向の一方側に偏在して配置されている。本実施形態では、弾性体16は、配列体13の一方側において、ミドルプレート15とエンドプレート18との間に配置されている。弾性体16の他の形成材料としては、例えばエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム、シリコンゴム等が挙げられる。また、弾性体16は、ゴムに限られず、バネ材などであってもよい。
伝熱プレート17は、電池セル12で発生した熱を筐体2側に放熱するための部材である。伝熱プレート17は、伝熱性を有する材料(例えば金属)によって板状に形成され、電池セル12における配列方向の一側面(電池セル12の厚さ方向の一側面)に当接する当接部21と、電池セル12の幅方向の一側面と対向する対向部22とを有している。
当接部21は、電池セル12の配列方向の一側面の形状に対応して矩形状に形成されている。当接部21は、両面テープ(不図示)などを用いて電池セル12の配列方向の一側面に対して固定されている。両面テープとしては、電気絶縁性及び伝熱性を確保する観点から、例えばポリプロピレンなどの基材を有するテープを用いることが好適である。対向部22は、電池セル12の幅方向の側面の形状に対応して矩形状に形成されている。対向部22は、当接部21の幅方向(電池セル12の幅方向)の一端部において当接部21に対して略直角に設けられ、セルホルダKの枠部分の外面側を覆うように配置されている。
エンドプレート18は、ミドルプレート15と同様に、配列方向から見た電池セル12の形状に対応した略矩形の板状をなしており、配列体13の一方の配列端と他方の配列端とにそれぞれ配置されている。エンドプレート18,18に対し、拘束ボルト19は、一方のエンドプレート18からミドルプレート15及び他方のエンドプレート18を挿通するように配置され、ナット20は、他方のエンドプレート18から突出した拘束ボルト19の先端部分に螺合されている。これにより、配列体13を構成する電池セル12、ミドルプレート15、弾性体16、及び伝熱プレート17が挟持されてユニット化されると共に、配列体13に対して拘束荷重が付加されている。
筐体2への電池モジュール11の固定構造Mには、一対のブラケット23,23が用いられる。ブラケット23は、略長方形状の第1の板状部分23aと、第1の板状部分23aの一方の長辺において第1の板状部分23aに対して略直角に設けられた第2の板状部分23bとを有し、全体としてL字形状をなしている。第1の板状部分23aは、ボルト24(図3及び図4参照)によってエンドプレート18の外面側に締結されている。第2の板状部分23bは、配列体13における伝熱プレート17の対向部22と略面一となるように、エンドプレート18から突出している。
電池モジュール11は、ブラケット23の第2の板状部分23b及び伝熱プレート17の対向部22が側板4の内面側を向くようにして筐体2内に配置され、ボルト(締結部材)25によって第2の板状部分23bを側板4に締結することにより、筐体2に対して固定されている。
また、図2に示すように、電池モジュール11と側板4との間には、シート状の伝熱部材26と、シート状の摩擦低減部材27とが介在している。伝熱部材26は、側板4側に配置されている。伝熱部材26は、例えば液状の伝熱材料(TIM:Thermal Interface Material)を硬化させることによって形成されている。伝熱部材26を構成する伝熱材料としては、例えばポリウレタンが挙げられる。伝熱部材26は、一定の体積及びシート形状を保持するものであれば、ゲル状であってもよく、接着性を有していてもよい。
摩擦低減部材27は、電池モジュール11と伝熱部材26との間に配置されている。摩擦低減部材27は、電気絶縁性の有無は問わないが、本実施形態では、電気絶縁性及び一定の伝熱性を有する材料によって摩擦低減部材27が形成されている。このような材料としては、例えばポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
これらの伝熱部材26及び摩擦低減部材27は、ブラケット23を側板4に締結するボルト25によって共締めされている。伝熱部材26の配置により、電池セル12から伝熱プレート17の当接部21、対向部22、及び伝熱部材26を経由して側板4に至る伝熱経路が確立され、電池セル12で発生した熱が筐体2側に効率良く放熱される。また、摩擦低減部材27の配置により、電池モジュール11と側板4との間に伝熱部材26を配置した状態においても、電池パック1の使用時の電池セル12の膨張による変位が許容される。
電池モジュール11では、上述したように、使用時の電池セル12の膨張による拘束荷重の破損を防止する目的で、配列体13における配列端の電池セル12とエンドプレート18との間に弾性体16が介在している。かかる弾性体16が介在する場合、電池パック1が搭載された車両の振動などによって電池モジュール11に衝撃荷重が加わると、弾性体16において荷重に対する応答が遅れることが想定される。特に、電池セル12の配列方向については、大半の荷重が弾性体16から遠い方に位置するブラケット23に流れてしまうおそれがある。この場合、大半の荷重を受ける片側のブラケット23でボルト25の滑りが生じ、電池モジュール11と筐体2との締結状態に緩みが生じてしまうことが考えられる。
このような問題に対し、この電池モジュール11の固定構造Mでは、弾性体16から遠い方のブラケット23(第1のブラケット23A)と筐体2との間の締結力(第1の締結力)が、弾性体16に近い方のブラケット23(第2のブラケット23B)と筐体2との間の締結力(第2の締結力)よりも大きくなっている。ブラケット23と筐体2との間のボルト25による締結力は、ボルト25の本数とトルクとの積に基づいて定められる。したがって、ボルト25の本数、ボルト25のネジ径などを調整することにより、第1の締結力及び第2の締結力を調整することができる。また、ボルト25の材質の硬度を上げることでも締結力の調整が可能である。
第2の締結力に対する第1の締結力の比は、エンドプレート18,18間にミドルプレート15が配置されている場合には、例えば電池モジュール11の全重量の半分の重量と、電池モジュール11における弾性体16を挟んだ他方側の重量との比に基づいて設定される。また、第2の締結力に対する第1の締結力の比は、エンドプレート18,18間にミドルプレート15が配置されていない場合には、電池モジュール11における弾性体16を挟んだ一方側及び他方側の重量比に基づいて設定される。
電池モジュール11における一方側の重量は、例えば弾性体16の厚さ方向の中心線L(図2参照)よりも第1のブラケット23A側に位置する構成の重量である。図2の例では、一方側の重量として、中心線Lよりも第1のブラケット23A側に位置する電池セル12、セルホルダK、弾性体16の一方部分、伝熱プレート17、ミドルプレート15、エンドプレート18、及び第1のブラケット23Aの重量が含まれる。
電池モジュール11における他方側の重量は、例えば弾性体16の厚さ方向の中心線L(図2参照)よりも第2のブラケット23B側に位置する構成の重量である。図2の例では、他方側の重量として、中心線Lよりも第2のブラケット23B側に位置する電池セル12、セルホルダK、弾性体16の他方部分、エンドプレート18、及び第2のブラケット23Bの重量が含まれる。
本実施形態では、上述したように、電池モジュール11において、エンドプレート18,18間にミドルプレート15が配置されている。また、ミドルプレート15には、エンドプレート18,18間を締結して配列体13に拘束荷重を付加する拘束ボルト19が挿通している(図2参照)。このため、電池セル12の配列方向に直交する方向(ミドルプレート15の面内方向)の荷重については、電池モジュール11に衝撃荷重が加わった際に拘束ボルト19がミドルプレート15(例えば拘束ボルト19を挿通させるミドルプレート15の貫通孔の内壁)に当たることで、ミドルプレート15の面内方向の振動が規制される。これにより、弾性体16から遠い方の第1のブラケット23Aの締結面に回転モーメントが加わることが抑制される。したがって、ミドルプレート15及び拘束ボルト19を介して第1のブラケット23A及び第2のブラケット23Bに略均等に分担させることが可能である。
第1のブラケット23Aに加わる力W1は、電池モジュール11における弾性体16を挟んだ一方側の重量×振動加速度×重力加速度で表される。また、第2のブラケット23Bに加わる力W2は、電池モジュール11の全重量/2×振動加速度×重力加速度で表される。したがって、第1の締結力:第2の締結力=W1:W2=電池モジュール11における弾性体16を挟んだ一方側の重量:電池モジュール11の全重量/2、となる。
電池セル12の配列方向に直交する方向の荷重に対しては、第1の締結力と第2の締結力とは均等であってよく、本実施形態では2本分のボルト25の締結力がそれぞれ設定されている。一方、電池セル12の配列方向の荷重については、上述の重量比に基づいて設定され、本実施形態では更に2本分のボルト25の締結力が第1の締結力のみに加算されている。したがって、電池モジュール11では、第1のブラケット23Aは、図3に示すように、4本のボルト25によって筐体2の側板4に締結され、第2のブラケット23Bは、図4に示すように、2本のボルト25によって筐体2の側板4に締結されている。
なお、電池モジュール11に衝撃荷重が加わった際の回転モーメントは、距離に応じて増幅される。したがって、ミドルプレート15は、弾性体16の近傍に配置されていることが好ましく、本実施形態のように弾性体16に隣接して配置されていることがより好ましい。ミドルプレート15を配置した場合でも、電池セル12の配列方向の荷重に対する振動の規制には寄与しないが、当該荷重は、回転モーメントとは異なり、距離に応じて増幅されることはない。
以上説明したように、この電池モジュール11の固定構造Mでは、弾性体16から遠い方の第1のブラケット23Aと筐体2との間の第1の締結力が、弾性体16に近い方の第2のブラケット23Bと筐体2との間の第2の締結力よりも大きくなっている。このため、電池モジュール11に衝撃荷重が加わった場合に、電池セル12の配列方向について大半の荷重が弾性体16から遠い方に位置する第1のブラケット23Aに流れたとしても、第1のブラケット23Aと筐体2との締結状態に緩みが生じることを防止できる。
また、電池モジュール11の固定構造Mでは、配列体13を挟むように設けられた一対のエンドプレート18,18と、エンドプレート18,18同士を締結する拘束ボルト19とによって拘束部材14が構成され、配列体13には、弾性体16に隣接して配置されると共に、拘束ボルト19が挿通するミドルプレート15が配置されている。
これにより、電池モジュール11に衝撃荷重が加わった場合に、ミドルプレート15及び拘束ボルト19を介して第2のブラケット23Bに荷重を分担させることができる。したがって、第1の締結力と第2の締結力との比が過剰にならず、構成の複雑化を回避できる。特に、電池セル12の配列方向に直交する方向の荷重については、ミドルプレート15及び拘束ボルト19を介して第1のブラケット23A及び第2のブラケット23Bに略均等に分担させることが可能となる。
また、電池モジュール11の固定構造Mでは、電池モジュール11の全重量の半分の重量と、電池モジュール11における弾性体16を挟んだ他方側の重量との比に基づいて、第2の締結力に対する第1の締結力の比が設定されている。これにより、第1の締結力と第2の締結力との比が過剰にならず、構成の複雑化を回避できる。
また、電池モジュール11の固定構造Mでは、配列体13と筐体2との間に、シート状の伝熱部材26と、シート状の摩擦低減部材27とが介在している。伝熱部材26により、電池セル12から筐体2に至る伝熱経路が確立され、電池セル12で発生した熱を筐体2側に効率良く放熱できる。また、摩擦低減部材27により、膨張による電池セル12の変位が許容される。
摩擦低減部材27を介在させる場合には、荷重がブラケット23に流れたときにブラケットの滑りが生じ易くなることが考えられる。これに対し、この電池モジュール11の固定構造Mでは、第1の締結力が第2の締結力に対して大きくなっているため、配列体13と筐体2との間にシート状の摩擦低減部材が介在している場合でも、ブラケット23(特に第1のブラケット23A)と筐体2との締結状態に緩みが生じることを好適に防止できる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、エンドプレート18,18間にミドルプレート15が配置された電池モジュール11を例示したが、ミドルプレート15は必ずしも配置されていなくてもよい。ミドルプレート15を配置しない場合、電池セル12の配列方向に直交する方向の荷重についても弾性体16による応答の遅れを考慮する必要がある。このため、上記実施形態と比較して、第2の締結力に対する第1の締結力の比を大きく設定することが好適であり、上述したように、電池モジュール11における弾性体16を挟んだ一方側及び他方側の重量比に基づいて設定される。
この場合、第1のブラケット23Aに加わる力W1は、電池モジュール11における弾性体16を挟んだ一方側の重量×振動加速度×重力加速度×電池セル12の配列方向に直交する方向の振動により発生する増幅力αで表される。また、第2のブラケット23Bに加わる力W2は、電池モジュール11における弾性体16を挟んだ他方側の重量×振動加速度×重力加速度で表される。したがって、第1の締結力:第2の締結力=W1:W2=電池モジュール11における弾性体16を挟んだ一方側の重量:電池モジュール11における弾性体16を挟んだ他方側の重量×増幅力α、となる。
また、上記実施形態では、エンドプレート18とミドルプレート15との間に弾性体16を配置しているが、弾性体16は、配列体13において電池セル12の配列方向の一方側に偏在していれば、任意の位置に配置してよい。