JP2017113667A - 温度応答性吸湿材料の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】吸湿時における水蒸気の吸着速度を向上させることが可能な温度応答性吸湿材料の製造方法を提供する。【解決手段】感温性分子のモノマーと重合開始剤とを混合して重合反応を行うことにより数平均分子量が異なる複数の感温性分子を作製する工程と、上記数平均分子量が異なる複数の感温性分子を混合する工程と、混合された上記感温性分子を、メソ多孔体とカップリング反応させる工程と、を有し、上記重合開始剤は構造中にアゾ基を有し、且つ、端部にカルボキシル基、メトキシカルボニル基、及び、エトキシカルボニル基から選ばれるいずれかの官能基を有し、上記メソ多孔体は平均細孔径が2nm以上50nm未満であり、該メソ多孔体の表面に上記感温性分子が有する官能基とカップリング反応が可能な官能基を有する、温度応答性吸湿材料の製造方法とする。【選択図】図1

Description

本発明は、温度応答性吸湿材料の製造方法に関する。
従来、デシカント式の除湿機や空調機において、温度変化に応じて空気中の水蒸気を吸収及び放出する特性を持つ、温度応答性吸湿材料が使用される。温度応答性吸湿材料は、水蒸気を吸収して吸湿性が低下した場合でも、所定条件下で水蒸気を放出して吸湿性を回復させることができるため、再生可能な除湿材として繰り返し使用される。
このような温度応答性吸湿材料として、例えば、非特許文献1には、感温性高分子とメソポーラスシリカゲルとを複合化した複合シリカゲルが開示されており、感温性高分子の相転移温度より高温になると、その水分吸着量が低下することが開示されている。該複合シリカゲルは、メソポーラスシリカを感温性高分子のモノマーと重合開始剤との混合溶液に含浸した後に加熱重合することによって作製される。
なお、特許文献1には、温度応答性材料が多孔質層の細孔内に化学結合している温度応答性層を有する膜電極複合体、及び、該温度応答性層の製造方法としてリビングラジカル重合が開示されているが、多孔質層の平均細孔径が50nm未満である場合には、細孔が小さすぎ、多孔質層の細孔内に温度応答性材料を浸透させることや保持させることが困難になることが記載されている。特許文献2には、感温性高分子を、ポーラスシリカの外表面(細孔の内壁以外の表面)に均一かつ少量被覆し、温度制御によってポーラスシリカの細孔入口径を制御することが可能な感温性吸着材が開示されている。
市橋利夫、中野義夫、「感温性を有するメソポーラスシリカゲル/高分子ゲルの水蒸気吸脱着特性」、化学工学論文集、第34巻、2008年、p.471−476
特開2013−131290号公報 特開2012−035179号公報
非特許文献1に記載の温度応答性吸湿材料は、吸湿時における水蒸気の吸着速度が低かった。
そこで本発明は、吸湿時における水蒸気の吸着速度を向上させることが可能な温度応答性吸湿材料の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、数平均分子量が異なる感温性分子を別々に作製し、これらを混合してメソ多孔体とカップリング反応させることにより、メソ多孔体と結合する感温性分子の分子量分布が広がり、温度応答性吸湿材料の吸湿時における水蒸気の吸着速度を向上させることが可能であることを知見した。本発明は当該知見に基づいて完成させた。
すなわち、上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。
本発明は、感温性分子のモノマーと重合開始剤とを混合して重合反応を行うことにより数平均分子量が異なる複数の感温性分子を作製する工程と、上記数平均分子量が異なる複数の感温性分子を混合する工程と、混合された上記感温性分子を、メソ多孔体とカップリング反応させる工程と、を有し、上記重合開始剤は構造中にアゾ基を有し、且つ、端部にカルボキシル基、メトキシカルボニル基、及び、エトキシカルボニル基から選ばれるいずれかの官能基を有し、上記メソ多孔体は平均細孔径が2nm以上50nm未満であり、該メソ多孔体の表面に上記感温性分子が有する官能基とカップリング反応が可能な官能基を有する、温度応答性吸湿材料の製造方法である。
本発明によれば、吸湿時における水蒸気の吸着速度を向上させることが可能な温度応答性吸湿材料の製造方法を提供することができる。
図1(a)は従来法により製造した温度応答性吸湿材料の細孔表面において推定される水蒸気分子の挙動を概略的に示す図であり、図1(b)は本発明の方法により製造した温度応答性吸湿材料の細孔表面において推定される水蒸気分子の挙動を概略的に示す図である。 図2(a)は実施例1で使用した水準1の感温性分子の分子量分布を示すGPCチャート、図2(b)は実施例1で使用した水準2の感温性分子の分子量分布を示すGPCチャート、図2(c)は比較例1で使用した感温性分子の分子量分布を示すGPCチャートである。 実施例1及び比較例1、2に係る吸湿材料の吸湿速度を決定する、湿潤窒素ガス暴露時間に対する重量変化率のプロット図である。
以下、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されない。
<温度応答性吸湿材料の製造方法>
本発明は、感温性分子のモノマーと重合開始剤とを混合して重合反応を行うことにより数平均分子量が異なる複数の感温性分子を作製する工程(以下、「感温性分子作製工程S1」ということがある。)と、上記数平均分子量が異なる複数の感温性分子を混合する工程(以下、「混合工程S2」ということがある。)と、混合された上記感温性分子を、メソ多孔体とカップリング反応させる工程(以下、「カップリング反応工程S3」ということがある。)と、を有し、上記重合開始剤は構造中にアゾ基を有し、且つ、端部にカルボキシル基、メトキシカルボニル基、及び、エトキシカルボニル基から選ばれるいずれかの官能基を有し、上記メソ多孔体は平均細孔径が2nm以上50nm未満であり、該メソ多孔体の表面に上記感温性分子が有する官能基とカップリング反応が可能な官能基を有する、温度応答性吸湿材料の製造方法である。
以下、本発明の製造方法が有する感温性分子作製工程S1、混合工程S2、及び、カップリング反応工程S3についてさらに詳しく説明する。
1.感温性分子作製工程S1
感温性分子作製工程S1は、感温性分子のモノマーと重合開始剤とを混合して重合反応を行うことにより数平均分子量が異なる複数の感温性分子を作製する工程である。
(感温性分子)
本工程により作製される感温性分子は、水に対する下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution temperature,LCST)を有し、LCSTより低温側では親水性を示し、LCSTより高温側では疎水性を示す分子である。
感温性分子は、このような性質を有する分子であれば特に限定されないが、後述するカップリング反応工程S3において、感温性分子を平均細孔径が2nm以上50nm未満であるメソ多孔体の細孔内に導入させやすくする観点から、後述する混合工程において混合された後の感温性分子全体の数平均分子量が2000以上5000以下であることが好ましい。本工程により作製される感温性分子としては、例えば、D. Roy, W. L. A. Brooks and B. S. Sumerlin, Chem. Soc. Rev., 2013, 42, 7214-7243.に記載の感温性高分子を構成するモノマーを構成単位とするオリゴマーが挙げられ、具体的には、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)オリゴマー、N−n−プロピルアクリルアミド(NNPAM)オリゴマー、N−シクロプロピルアクリルアミド(NCPAM)オリゴマー、N,N−ジメチルアクリルアミド(DEAM)オリゴマー等が挙げられる。これらは、それぞれ異なるLCSTを有するため、異なる感温性分子を採用することにより、任意の温度で吸湿特性が変化する温度応答性吸湿材料を作製することが可能である。
従って、感温性分子作製工程S1に用いる感温性分子のモノマーとしては、例えば、上記オリゴマーを与えるモノマーが挙げられる。
本工程において、数平均分子量が異なる複数の感温性分子が作製される。該複数の感温性分子の各数平均分子量は、混合後の数平均分子量が上記範囲となるものであれば特に限定されないが、分子量分布を広げやすくする観点から、数平均分子量が2000以下である感温性分子、及び、数平均分子量が3000以上である感温性分子を含む、少なくとも2種の数平均分子量が異なる感温性分子を作製することが好ましい。
数平均分子量が異なる複数の感温性分子の混合比率は、混合後の感温性分子の平均分子量が上記範囲となるものであれば特に限定されないが、分子量分布を広げやすくする観点から、少なくとも2種の数平均分子量が異なる感温性分子を、同一の質量比率で混合することが好ましい。
感温性分子は、後述するメソ多孔体表面の官能基とカップリング反応可能な官能基を有する。これにより、後述するカップリング反応工程S3において、メソ多孔体表面の官能基と反応して化学結合を形成することができるため、メソ多孔体に感温性分子を強固に保持させることができる。感温性分子が有する官能基は、メソ多孔体表面の官能基とカップリング反応可能なものであれば特に限定されないが、例えば、メソ多孔体表面がアミノ基を有している場合、カルボキシル基、イソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、カルボニル基、ヒドロキシル基等であることが好ましい。なお、ビニル基、ヒドロキシル基は、直接カップリング反応はできないが、別の反応を経由してカップリング反応可能な官能基(カルボキシル基等)に変換されてカップリング反応が起きる。このように、「カップリング反応可能な官能基」には、間接的にカップリング反応が起きる官能基も含む。
感温性分子が有する官能基は、予め付与された、本来感温性分子が有さない官能基であってもよい。また、上記感温性分子は、上記メソ多孔体表面の上記官能基とカップリング反応可能な上記感温性分子の上記官能基を、上記感温性分子の端部に有していることが好ましい。
感温性分子には、本来の構造として、メソ多孔体表面の官能基とカップリング反応可能な官能基を有さないものや、カップリング反応可能な官能基を複数有するものがある。メソ多孔体表面の官能基とカップリング反応可能な官能基を有さない感温性分子を用いる場合には、カップリング反応の前に、メソ多孔体表面の官能基とカップリング反応可能な官能基を、感温性分子に予め付与しておくことにより、メソ多孔体表面の官能基とカップリング反応させることが可能となる。また、メソ多孔体表面の官能基とカップリング反応可能な官能基を複数有する感温性分子を用いる場合には、本来感温性分子が有する官能基と異なる官能基を予め所望の箇所に付与することで、メソ多孔体表面の官能基と感温性分子の複数の官能基とがカップリング反応してしまって、感温性分子の動きが妨げられることを防ぐことができる。感温性分子に、本来感温性分子が有さない官能基を付与する方法は特に限定されず、従来公知の方法で行えばよい。
感温性分子が、メソ多孔体表面の官能基とカップリング反応可能な官能基を、感温性分子の端部に有していることにより、感温性分子の動きを妨げることなく、メソ多孔体表面に十分な量の感温性分子に固定させることが可能となる。なお、「感温性分子の動き」とは、温度応答性に必須の動きのことであり、LCSTより低温では分子鎖が伸びた状態で水和状態となり、LCSTより高温では分子鎖がグロビュール状態になって脱水和状態になることを意味する。
(重合開始剤)
本発明に用いる重合開始剤は、構造中にアゾ基を有し、且つ、端部にカルボキシル基、メトキシカルボニル基、及び、エトキシカルボニル基から選ばれるいずれかの官能基を有する。このような構造を有する重合開始剤としては、例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等が挙げられる。
本発明に用いる重合開始剤は、構造中にアゾ基を有することにより、感温性分子作製工程S1における重合開始時にアゾ基の窒素原子間の結合が切断される。これにより、切断された重合開始剤(以下、「切断後重合開始剤」という。)は、端部に疎水基を有することになる。一方、本発明に用いる重合開始剤は、端部にカルボキシル基、メトキシカルボニル基、及び、エトキシカルボニル基から選ばれるいずれかの官能基を有することにより、切断後重合開始剤も端部にこれらの官能基を有することになる。
よって、切断後重合開始剤は、重合開始時に切断された側の端部に疎水基を有し、他の端部にカルボキシル基、メトキシカルボニル基、及び、エトキシカルボニル基から選ばれるいずれかの官能基を有する。
本発明において、感温性分子作製工程S1後には精製を行っても行わなくても良いが、精製を行わない場合には、上記構造を有する切断後重合開始剤が感温性分子中に残存する。これにより、後述するカップリング反応工程S3において、切断後重合開始剤が感温性分子とともにメソ多孔体表面の官能基と化学結合し、多孔質材内部ヘの水蒸気の拡散性を向上させることが可能となる。また、高コストである精製工程を省略できるため、温度応答性吸湿材料の製造コストを抑えることができる。
重合反応における反応温度及び反応時間は、感温性分子の数平均分子量、重合反応の種類、使用する重合開始剤の種類によって適宜設定されるものである。例えば、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)を加熱重合を行う場合には、40℃〜80℃の温度範囲において、6〜72時間反応させることにより、重合反応を完了させることができる。
2.混合工程S2
混合工程S2は、上記数平均分子量が異なる複数の感温性分子を混合する工程である。
本工程において、数平均分子量が異なる複数の感温性分子を混合する方法は特に限定されない。例えば、適当な溶媒中に数平均分子量が異なる複数の感温性分子をそれぞれ添加し、スターラー等で撹拌する方法が挙げられる。あるいは、後述するカップリング反応に際し、メソ多孔体を含む溶媒中に数平均分子量が異なる複数の感温性分子をそれぞれ添加し、該溶媒中でメソ多孔体とともに撹拌を行ってもよい。
3.カップリング反応工程S3
カップリング反応工程S3は、混合された上記感温性分子を、メソ多孔体とカップリング反応させる工程である。
(メソ多孔体)
カップリング反応工程S3に用いるメソ多孔体は平均細孔径が2nm以上50nm未満である細孔(メソ孔)を有する多孔体である。本発明に用いることのできるメソ多孔体は、このような細孔(メソ孔)を有するものであれば特に限定されず、特開平11−114410号公報に記載のメソ多孔体等を使用することができる。なお、本発明の製造方法により作製される温度応答性吸湿材料の吸湿性を向上させる観点からは、メソ多孔体の平均細孔径が2nm以上30nm以下であることが好ましく、2nm以上10nm未満であることがより好ましく、2nm以上4nm以下であることがさらに好ましい。
メソ多孔体の粒子はその粒子骨格の表面に、後述する感温性分子の官能基とカップリング反応可能な結合性の官能基を有する。該結合性の官能基は、感温性分子の官能基とカップリング反応し、化学結合を形成することができる。従って、メソ多孔体に感温性分子を強固に保持させることができる。メソ多孔体が表面に有する結合性の官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基(シラノール基)、エポキシ基、ビニル基、イソシアネート基、チオール基、スルフィド基、ウレイド基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等が挙げられる。
カップリング反応は、メソ多孔体表面の官能基と感温性分子の有する官能基とが選択的に反応し、化学結合を形成するものであれば特に限定されるものではないが、活性化剤及びカップリング剤の存在下で行うことが好ましい。
カップリング反応工程S3において、まず、上記感温性分子、及び、好ましい形態において用いる活性化剤及びカップリング剤をメソ多孔体の細孔内に導入する。感温性分子、活性化剤、及び、カップリング剤を導入する方法は特に限定されず、例えば、メソ多孔体、感温性分子、活性化剤、及び、カップリング剤を適当な溶媒に分散させ、メソ多孔体の細孔内に、感温性分子、活性化剤、及び、カップリング剤を含浸させる方法が挙げられる。このとき、メソ多孔体の細孔内へ各物質の導入を促進するため、減圧、撹拌等を行ってもよい。
カップリング反応の例としては、付加脱離反応が挙げられ、メソ多孔体粒子の粒子骨格の表面に有する官能基と感温性分子の官能基とは1:1でカップリングすることが好ましい。
付加脱離反応においては、メソ多孔体表面又は感温性分子の官能基と活性化剤又はカップリング剤とが反応して生成される中間体や他の副生成物が種々生成され得るが、形式的に、メソ多孔体粒子の粒子骨格の表面に有する官能基の一部と、感温性分子の官能基の一部とが結合し、脱離基が形成されるものとみなすこともできる。例えば、メソ多孔体の官能基がアミノ基であり、感温性分子が有する官能基がカルボキシル基である場合には、形式的に脱離基として水分子が脱離したみなすことができる。この場合、化学結合としてアミド結合が形成される。
(活性化剤)
活性化剤は、カップリング反応において、メソ多孔体表面又は感温性分子の官能基を活性化し、カップリング剤とともに用いることにより、カップリング反応を促進する試薬である。例えば、メソ多孔体表面の官能基がアミノ基であり、感温性分子の有する官能基がカルボキシル基である場合に用いることができる活性化剤としては、カルボン酸の活性化試薬であるN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、ペンタフルオロフェノール等が挙げられる。
(カップリング剤)
カップリング剤は、カップリング反応において、メソ多孔体表面又は感温性分子の官能基を活性化し、カップリング反応を進行させる試薬である。例えば、メソ多孔体表面の官能基がアミノ基であり、感温性分子の有する官能基がカルボキシル基である場合には、付加脱離反応を促進する脱水縮合剤であることが好ましく、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等のカルボジイミド系縮合剤が挙げられる。
カップリング反応における反応温度及び反応時間は、カップリング反応の種類、使用する活性化剤及びカップリング剤の種類によって適宜設定されるものである。例えば、メソ多孔体表面の官能基がアミノ基であり、感温性分子の有する官能基がカルボキシル基である場合には、0℃〜80℃の温度範囲において、24〜48時間反応させることにより、カップリング反応(付加脱離反応)を完了させることができる。付加量が不十分な場合は、カップリング反応工程S3を繰り返してもよい。
メソ多孔体に導入される感温性分子の導入量は、温度変化による吸湿特性の変化を大きくする観点から、3質量%以上であることが好ましい。なお、感温性分子は、メソ多孔体の細孔以外の表面領域にも保持されていてもよい。
本発明によれば、感温性分子モノマーを予め重合させて感温性分子を作製し、該感温性分子の官能基と、所定の平均細孔径を有するメソ多孔体の表面の官能基とを化学結合させることにより、感温性分子をメソ多孔体の細孔内に均一に、かつ従来よりも多く保持させることができるため、温度変化による吸湿特性の変化を大きくすることが可能である。このような特性を有する温度応答性吸湿材料は、感温性分子のモノマーと重合開始剤との混合溶液にメソポーラスシリカを含浸した後、重合反応を行うことにより製造される従来材よりも広い温度範囲及び相対湿度の範囲において、吸湿及び放湿(再生)を行うことが可能であるため、従来材よりも汎用性が高い除湿材として採用可能である。
また、本発明によれば、吸湿時における水蒸気の吸着速度を向上させることが可能である。
本発明者らは、その理由を以下のように推測する。図1はその推定メカニズムを説明するための図であり、図1(a)は従来法により製造した温度応答性吸湿材料の細孔表面において推定される水蒸気分子の挙動を概略的に示す図、図1(b)は本発明の製造方法により製造した温度応答性吸湿材料の細孔表面において推定される水蒸気分子の挙動を概略的に示す図である。
従来法では、メソ多孔体表面に結合している感温性分子の分子量分布が狭いため、図1(a)に示すように、カップリング反応工程後のメソ多孔体表面は感温性分子の疎水性末端が整った均一な面になっており、水蒸気分子が該疎水性の均一な面に弾かれて、感温性分子の分子間に吸着しにくいため、吸湿時における吸着速度が低いものと推定される。
これに対し、本発明によれば、数平均分子量が異なる複数の感温性分子を混合して用いているため、メソ多孔体表面に結合している感温性分子の分子量分布が従来よりも広がっており、図1(b)に示すように、水蒸気分子が感温性分子の分子間に吸着しやすいため、吸湿時における吸着速度が向上するものと推定される。
[主な原料]
以下に示す主な原料を用いて、実施例1及び比較例1に係る温度応答性吸湿材料を合成した。
・メソ多孔体:球状シリカゲル(H121、AGCエスアイテック株式会社)
平均粒径:12μm
比表面積:805m/g
平均細孔径:6nm
・感温性分子:カルボキシル基終端N−イソプロピルアミドオリゴマー
実施例1
水準1.数平均分子量(Mn):1595、重量平均分子量(Mw):1984、
分子量分布(Mw/Mn):1.24、酸価:0.00077
水準2.数平均分子量(Mn):3529、重量平均分子量(Mw):5454、
分子量分布(Mw/Mn):1.55、酸価:0.00027
水準1:水準2=1:1の質量比で混合
比較例1
数平均分子量(Mn):2606、重量平均分子量(Mw):3685、
分子量分布(Mw/Mn):1.41、酸価:0.00041
*酸価:酸成分がCOOHとした場合の単位重量当たりのCOOH基のモル量
図2に、実施例1で使用した水準1及び水準2に係る感温性分子、並びに、比較例1で使用した感温性分子の分子量分布を示すゲルパーミエーションクロマトグラム(GPC)チャートを示す。
・重合開始剤
V‐501(4,4’‐アゾビス(4‐シアノ吉草酸)、和光純薬工業)
[温度応答性吸湿材料の作製]
(実施例1)
1.感温性分子(水準1及び水準2)の合成
1.1.重合
(1)200m1の4つ口フラスコにN−イソプロピルアクリルアミドモノマー(以降NIPAMと略)、THF、I、V−501を表1に記載する重量投入し、三方コック(アルゴンと減圧ラインをセット)、温度計、セプタムをセットした。
(2)氷冷しながらマグネチックスターラーで撹拌し、試薬を溶解した。
(3)氷冷しながら、コルベン内を脱気とアルゴンフローを10回繰り返し、系内の酸素を除去した。
(4)酸素除去後、アルゴンをフローした状態で還流管をセットした。
(5)オイルバスに浸潰し、内温60℃で24時間重合を行った。
(6)反応終了後、反応液にTHFを加え約100m1になるように希釈した。
(7)この希釈液を1Lのへキサンに滴下し再沈殿を行った。
(8)得られたボリマーをろ過し、80℃で24時間減圧乾燥を行い、目的物(実施例1で使用する、水準1及び水準2の感温性分子となる前の精製前のもの)を得た。収量を表1に記載する。)
1.2.精製
(1)「1.1.」で得られた目的物のうち、7gを用い、20wt%メタノール溶液を調整した。
(2)得られたオリゴマー溶液を透析膜(分画分子量500)に入れ、1Lのメタノール中で透析した。透析は60時問行った。なお透析膜の外側の液は12時間に1回交換した。
(3)透析膜内の溶液をエバポレーターで濃縮することで、目的物(実施例1で使用する、水準1及び水準2の感温性分子)を得た。各水準の精製時のオリゴマー使用量、精製後収量、及び、GPC測定結果を表2に示す。
2.多孔質材ヘのNIPAMオリゴマーの修飾(修飾量5wt%)
2.1.球状シリカゲルの前処理
(1)球状シリカゲルをアルミナるつぼに入れ、570℃で4時間大気雰囲気で焼焼成し、有機物などの不純物を除去した。
(2)(1)の球状シリカゲルをサンプル瓶に入れ、80℃で3時間減圧下で水蒸気暴露した。
2.2.球状シリカゲルの乾燥
(1)「2.1.」で得られた球状シリカゲルを2g秤量し、該球状シリカゲルと撹拌子とを三口フラスコに投入し、吸引栓3方コックとセプタムで密閉した。
(2)(1)の三口フラスコをオイルバスに浸漬し、ロータリーポンプにて減圧した。
(3)減圧を維持した状態で、オイルバスを60℃に加熱し、60℃に到達後3時問保持した後、室温まで徐冷した。
2.3.NIPAMオリゴマー−NHSエステルの合成(乾燥アルゴン雰囲気のグローブボックス内)
(1)サンプル瓶に、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)0.02g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)0.034g、ジメチルホルムアミド(DMF)15.241gを投入し、スターラーで撹拌し溶解した。
(2)別のサンプル瓶に、ジメチルホルムアミド(DMF)3.919g、「1.」で合成したNIPAMオリゴマーの水準1及び水準2をそれぞれ、0.058gずつ投入し、スターラーで撹拌し溶解した。
(3)(2)の溶液に(1)の溶液3.933gを混合し、12時間撹拌した。
2.4.球状シリカゲルへのNIPAMオリゴマーの修飾
(1)「2.2」による乾燥後の球状シリカゲルの入った三口フラスコ内をロータリーポンプにて減圧した。
(2)コックを閉じ、減圧を維持した状態で、「2.3.」で調製したNIPAMオリゴマー−NHSエステル溶液7.243gを、シリンジにて吸い取り、三角フラスコのセプタム部より注入した。
(3)三口フラスコ内が大気圧になるまでアルゴンで充填した。
(4)そのまま24時間以上撹拌した。
2.5.NIPAMオリゴマー修飾シリカゲルの洗浄、乾燥
(1)三口フラスコに超純水100mLを投入し、撹拌した。
(2)(1)の溶液を遠沈管に移し、混合した後、15000rpmで2分遠心分離し、上澄みを除去した。
(3)(2)に超純水50mlを投入し、混合した後、15000rpmで5分遠心分離し、上澄みを除去した。
(4)(3)に超純水50mlを投入し、混合した後、15000rpmで7分遠心分離し、上澄みを除去した。
(5)(4)に超純水50mlを投入し、混合した後、15000rpmで10分遠心分離し、上澄みを除去した。
(6)(5)で得られた沈殿物を耐熱容器に入れ、70℃で4時間真空乾燥し、実施例1に係る温度応答性吸湿材料を得た。
(比較例1)
1.感温性分子の合成
1.1.重合
(1)200m1の4つ口フラスコにNIPAMを15.00g(132.56mmol)、THFを75.00g、Iを0.83g(4.10mmol)、V−501を3.44g(12.29mmol)投入し、三方コック(アルゴンと減圧ラインをセット)、温度計、セプタムをセットした。
(2)氷冷しながらマグネチックスターラーで撹拌し、試薬を溶解した。
(3)氷冷しながら、コルベン内を脱気とアルゴンフローを10回繰り返し、系内の酸素を除去した。
(4)酸素除去後、アルゴンをフローした状態で還流管をセットした。
(5)オイルバスに浸潰し、内温60℃で24時間重合を行った。
(6)反応終了後、反応液にTHFを加え約100m1になるように希釈した。
(7)この希釈液を1Lのへキサンに滴下し再沈殿を行った。
(8)得られたオリゴマーをろ過し、80℃で24時間減圧乾燥を行い、18.8gの目的物を得た。収量を表1に記載する。)
1.2.精製
(1)「1.1.」で得られた目的物のうち、7gを用い、20wt%メタノール溶液を調整した。
(2)得られたオリゴマー溶液を透析膜(分画分子量500)に入れ、1Lのメタノール中で透析した。透析は60時問行った。なお透析膜の外側の液は12時間に1回交換した。
(3)透析膜内の溶液をエバポレーターで濃縮することで、目的物(比較例1で使用する感温性分子)を得た。なお、得られた目的物のGPC測定結果は、Mn:2606、Mw:3685、Mw/Mn:1.41であった。
2.多孔質材ヘのNIPAMオリゴマーの修飾(修飾量5wt%)
2.1.球状シリカゲルの前処理
実施例1と同様に行った。
2.2.球状シリカゲルの乾燥
実施例1と同様に行った。
2.3.NIPAMオリゴマー−NHSエステルの合成(乾燥アルゴン雰囲気のグローブボックス内)
(1)サンプル瓶に、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)0.02g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)0.034g、ジメチルホルムアミド(DMF)15.241gを投入し、スターラーで撹拌し溶解した。
(2)別のサンプル瓶に、ジメチルホルムアミド(DMF)3.853g、「1.」で合成したNIPAMオリゴマー0.116gを投入し、スターラーで撹拌し溶解した。
(3)(2)の溶液に(1)の溶液3.867gを混合し、12時間撹拌した。
2.4.球状シリカゲルヘのNIPAMオリゴマーの修飾
(1)「2.2」による乾燥後の球状シリカゲルの入った三口フラスコ内をロータリーポンプにて減圧した。
(2)コックを閉じ、減圧を維持した状態で、「2.3.」で調製したNIPAMオリゴマー−NHSエステル溶液7.123gを、シリンジにて吸い取り、三角フラスコのセプタム部より注入した。
(3)三口フラスコ内が大気圧になるまでアルゴンで充填した。
(4)そのまま24時間以上撹拌した。
2.5.NIPAMオリゴマー修飾シリカゲルの洗浄、乾燥
実施例1と同様に行い、比較例1に係る温度応答性吸湿材料を得た。
(比較例2)
感温性分子を導入していない実施例1で使用した球状シリカゲルを用いて、以下の評価を行った。
[評価方法]
実施例1及び比較例1に係る温度応答性吸湿材料、及び、比較例2に係る未修飾の球状シリカゲルについて以下に示す方法で水蒸気吸着時の吸湿速度を算出した。
1.水蒸気吸着量の測定方法
(1)パーキンエルマー製のTGA測定装置(PyrislTGA)にマイクロ・イクイップメント製の水蒸気発生ユニット(me−40DP−2FM)を接続した。
(2)温度応答性吸湿材料、又は、球状シリカゲルをそれぞれ寸法Φ5mm(内径Φ3.75mm)×深さ1.15mmのアルミパンに摺り切りに充填した。
(3)以下条件で温度、湿度を変化させ、水蒸気吸着量はSTEP5で水蒸気を吸着させたときの重量変化で測定した。
・ガス流:乾燥窒素(相対湿度0%/湿潤窒素(相対湿度90%)の切り換え
・ガス流量:50ml/min
・初期温度:25℃
・温度プログラム:▼乾燥窒素ガスに切り換え
・STEP1:20℃/分の速度で、25℃から60℃に昇温
・STEP2:60℃で、120分間等温維持
・STEP3:20℃/分の速度で、60℃から25℃に冷却
・STEP4:25℃で30分間等温維持
▼湿潤窒素ガスに切り換え
・STEP5:25℃、60分間等温維持
2.吸湿速度の算出方法
(1)「1.」の測定結果より、STEP5開始時点の試料重量を100%としたときの重量変化率を算出し、横軸を時間(単位:分)、縦軸を重量変化率としたプロット図を作成した。プロット図を図3に示す。また、実施例1及び比較例1の吸湿速度を表3に示す。
(2)(1)のプロット図で、STEP5開始2分後の重量変化率を吸湿速度とした。
[結果]
表3より、本発明の製造方法により合成された実施例1に係る温度応答性吸湿材料は、数平均分子量が異なる感温性分子を混合しなかった比較例1に係る温度応答性吸湿材料よりも吸湿速度が向上していた。吸湿速度を決定するSTEP5開始2分後の重量変化率の上昇量は実施例1において、比較例1の約1.13倍であった。

Claims (1)

  1. 感温性分子のモノマーと重合開始剤とを混合して重合反応を行うことにより数平均分子量が異なる複数の感温性分子を作製する工程と、
    前記数平均分子量が異なる複数の感温性分子を混合する工程と、
    混合された前記感温性分子を、メソ多孔体とカップリング反応させる工程と、
    を有し、
    前記重合開始剤は構造中にアゾ基を有し、且つ、端部にカルボキシル基、メトキシカルボニル基、及び、エトキシカルボニル基から選ばれるいずれかの官能基を有し、
    前記メソ多孔体は平均細孔径が2nm以上50nm未満であり、該メソ多孔体の表面に前記感温性分子が有する官能基とカップリング反応が可能な官能基を有する、温度応答性吸湿材料の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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