JP2017111087A - 石炭灰含有セメントの迅速評価方法、および石炭灰含有セメントの製造方法 - Google Patents

石炭灰含有セメントの迅速評価方法、および石炭灰含有セメントの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、石炭灰含有セメントが有するアルカリシリカ反応の抑制効果を、迅速かつ定量的に評価する方法等を提供する。
【解決手段】本発明は、下記(1)式を用いて算出したアルカリシリカ反応の抑制効果指標値に基づき、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を評価する、石炭灰含有セメントの迅速評価方法。
[アルカリシリカ反応の抑制効果指標値]=[石炭灰のブレーン比表面積]×[石炭灰中のムライトの含有率]×[石炭灰の非晶質相中のSiOの含有率]×[セメント中の石炭灰の混合率] ・・・(1)
(ただし、式中のブレーン比表面積の単位はcm/g、含有率および混合率の単位は質量%である。)
【選択図】図1

Description

本発明は、石炭灰含有セメントが有するアルカリシリカ反応の抑制効果を、迅速かつ定量的に評価する方法等に関する。
アルカリシリカ反応は、反応性骨材中のシリカと、コンクリート中のアルカリ金属イオンが反応して生成したアルカリシリカゲルが吸水・膨張して、コンクリートにひび割れが生じる現象であり、コンクリートの主要な劣化原因の一つである。
石炭灰を含む混合セメントは、アルカリシリカ反応を抑制する効果があり、この効果は、石炭灰から溶出したSiやAlが該石炭灰の近傍にあるセメント水和物の中に取り込まれて低Ca型のカルシウムシリケート水和物が生成し、該水和物がアルカリを吸着するためとされている。
一方で、石炭灰を混合すると、初期材齢におけるセメント組成物の強度発現性は低下する。したがって、石炭灰を含む混合セメントの製造では、強度発現性の低下を可能な限り抑制しつつ、アルカリシリカ反応の抑制に十分な、最小限の石炭灰の混合率を求める技術が必要となる。
ところで、一般社団法人石炭エネルギーセンターの石炭灰全国実態調査報告書によれば、平成25年度の石炭灰の発生量は1289万トンにも達し、その内訳は、電気事業において993万トン、一般産業において296万トンである。このように、石炭灰の発生量は電気事業が8割近くを占めることから、電源を火力発電に大きく依存せざるを得ない我が国では、今後も、石炭灰が多量に発生する状況がしばらく続くと予想されるため、石炭灰の有効利用の拡大が社会的に望まれている。
しかし、前記報告書によれば、平成25年度に国内で発生した石炭灰の内、セメント混合材やコンクリート混和材(フライアッシュ)として有効利用された量は約18万トンであり、これは石炭灰の発生量全体の1.4%に過ぎない。このように、石炭灰のポゾラン反応性を積極的に活用する分野で利用率が低迷している理由の一つは、石炭灰の化学組成および粉体特性に強く影響する炭種や燃焼プロセス等の因子が、石炭火力発電所(ライン)毎に異なるため、発生した石炭灰の品質が安定せず、供給安定性に欠ける点が挙げられる。
かかる状況から、石炭灰をセメント混合材等として使用する場合、要求される品質を満たすか否かを、石炭灰のロット毎に確認する必要がある。
現在、石炭灰含有セメントによるアルカリシリカ反応の抑制効果を評価する方法は、ASTM C 1260に規定するアルカリシリカ反応に対する骨材の有害性を判定する方法や、JIS A 1146「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法)」に規定するモルタル供試体を用いた方法等のアルカリシリカ反応性試験が利用できる。しかし、これらの方法は、少なくとも2週間以上にわたるモルタル供試体の養生期間を要するため、事後的な品質判定方法であり、石炭灰含有セメントの製造工程を管理するための実用的な品質評価試験とは言い難い。
そこで、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を迅速に評価ができるように、石炭灰のブレーン比表面積、石炭灰の塩基度などの化学組成、および非晶質相(ガラス)中の特定の化学成分に関連する指標が種々提案されている。
例えば、特許文献1は、石炭灰中のムライトを含有する非晶質相の粒子について、電子顕微鏡法による粒子解析を行って得られた該粒子の体積率と、粒度分布に基づいて得られた比表面積を、アルカリシリカ反応の抑制効果の指標として提案している。しかし、特許文献1に記載の指標は、石炭灰含有セメントが有するアルカリシリカ反応の抑制効果を高い精度で評価できるものの、電子顕微鏡による粒子解析という特殊な設備とスキルを必要とする。また、石炭灰含有セメントの製造工程における品質管理指標として供するには、1時間以内に評価し終わることが求められるが、該方法は評価に約4日間程度の時間を要するため実用的な方法とは言い難い。
また、非特許文献1は、フライアッシュの非晶質成分中のSiO量が多いほど、またフライアッシュの粒径(比表面積)が大きいほど、アルカリ骨材反応(アルカリシリカ反応)の反応性が高くなること、そして、アルカリ骨材反応による膨張の抑制効果は、これら2つの物性値(非晶質相中のSiO量および比表面積)とフライアッシュの置換率に基づき、容易に推定できると報告している。
また、非特許文献2は、フライアッシュの非晶質相中のSiO量、石炭灰の粒度分布から求めた比表面積、およびモルタル中の石炭灰の容積から、アルカリシリカ反応の抑制効果を評価している。具体的には、蛍光X線分析による石炭灰中のSiOの化学組成の分析値から、粉末X線回折−リートベルト解析法を用いて求めた鉱物中のSiO量を差し引いて、石炭灰の非晶質相中のSiO量を算出し、また、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定結果から比表面積を算出し、さらに、モルタルに混合する石炭灰の容積を求め、前記SiO量と比表面積と容積の積を、アルカリシリカ反応の抑制効果の指標としている。
ところで、近年、複数の混合相における構成相の定量分析において、新たな方法が開発された。例えば、PONKCS(Partial Or No Known Crystal Structure)法は、内部標準物質を用いることなく、石炭灰のような非晶質相を含む複数の混合相について構成相の定量分析ができる粉末X線回折のデータ解析方法である。そして、非特許文献3は、これをさらに発展させて、PONKCS法とリートベルト解析法を組み合わせれば、複数の混合相における構成相の定量分析が短時間でできると報告している。さらに、非特許文献4は、この組み合わせによる方法は、高炉セメント中の高炉スラグ量の定量分析にも有用であると報告している。
特許第5705022号
長瀧重義他;フライアッシュによるアルカリ骨材反応の膨張抑制効果とそのメカニズム,土木学会論文集,第414号/V-12,pp.175-184(1990) 川端雄一郎他;細骨材代替として混和したフライアッシュのアルカリシリカ反応抑制効果に関する実験的検討,コンクリート工学論文集,第18巻,第1号,pp.67-76(2007) N.V.Y.Scarlett et al.;Quantification of phases with partial or no known crystal structures,Powder Diffraction,Vol.21,No.4,pp.278-284(2006) BRUKER社ホームページ;QPA with Partial or No Known Crystal Structures(PONKCS),BRUKER Advanced XRD Workshop(2011)
かかる状況を受けて、短時間(望ましくは1時間以内)での評価が求められるセメントの製造現場において、品質管理に使用するため、本発明は、石炭灰含有セメントが有するアルカリシリカ反応の抑制効果を、迅速かつ定量的に評価する方法等を提供することを目的とする。
そこで、本発明者は石炭灰含有セメントの迅速評価方法について鋭意検討した結果、特許文献1に記載の石炭灰の評価方法をさらに発展させて、下記(1)式から算出される新規なアルカリシリカ反応の抑制効果指標値を用いれば、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を、迅速かつ定量的に評価できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の構成を有する石炭灰含有セメントの迅速評価方法等である。
[1]下記(1)式を用いて算出したアルカリシリカ反応の抑制効果指標値に基づき、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を評価する、石炭灰含有セメントの迅速評価方法。
[アルカリシリカ反応の抑制効果指標値]=[石炭灰のブレーン比表面積]×[石炭灰中のムライトの含有率]×[石炭灰の非晶質相中のSiOの含有率]×[セメント中の石炭灰の混合率] ・・・(1)
(ただし、式中のブレーン比表面積の単位はcm/g、含有率および混合率の単位は質量%である。)
[2]前記石炭灰の非晶質相中のSiOの含有率を、蛍光X線分析法および粉末X線回折−リートベルト解析法を用いて求める、前記[1]に記載の石炭灰含有セメントの迅速評価方法。
[3]前記粉末X線回折−リートベルト解析法が、PONKCS法を組み合わせた粉末X線回折−リートベルト解析法である、前記[2]に記載の石炭灰含有セメントの迅速評価方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の石炭灰含有セメントの迅速評価方法を用いて、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を予測し、その予測に基づきセメントへの石炭灰の混合率を決め、該混合率で石炭灰をセメントに混合する、石炭灰含有セメントの製造方法。
[5]石炭灰含有セメントの製造において、石炭灰の混合率に異常が認められた際に、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の石炭灰含有セメントの迅速評価方法を用いて、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を予測し、その予測結果に基づいて石炭灰含有セメントの良否を判断する、石炭灰含有セメントの製造方法。
本発明の石炭灰含有セメントの迅速評価方法は、アルカリシリカ反応の抑制効果を短時間で定量的に評価できる。また、該石炭灰含有セメントの迅速評価方法を用いる本発明の石炭灰含有セメントの製造方法を用いることにより、粉末X線回折計、蛍光X線分析装置、およびブレーン比表面積自動測定装置を備えたオンライン分析システムを有するセメントの製造現場において、石炭灰含有セメントの製造工程における品質管理の要員を最小化できる。
ASTM C 1260に準拠した浸漬14日におけるモルタルの膨張率と、アルカリシリカ反応の抑制効果指標値の相関を示す図である。
本発明は、前記のとおり、前記(1)式を用いて算出したアルカリシリカ反応の抑制効果指標値に基づき、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を評価する、石炭灰含有セメントの迅速評価方法等である。
以下、本発明について石炭灰含有セメントの迅速評価方法、および石炭灰含有セメント製造方法に分けて具体的に説明する。
1.石炭灰含有セメントの迅速評価方法
(1)石炭灰とブレーン比表面積の測定
本発明の評価の対象である石炭灰含有セメントに含まれる石炭灰は、特に限定されず、石炭火力発電所、石油精製工場、その他の化学工場等で微粉炭を燃焼したときに発生する燃焼ガスから、集塵器によって捕集された微粉末である。
石炭灰のブレーン比表面積の測定は、通常、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に準拠して行う。
(2)石炭灰中のムライトの含有率、および非晶質相中のSiOの含有率の定量
石炭灰中の鉱物組成(ムライトの含有率等の各種鉱物の含有率)と、石炭灰中の非晶質相の化学組成(SiOの含有率等の各種化学成分の含有率)の定量は、下記(a)〜(c)工程に従って行う。
(a)石炭灰の化学組成の定量工程
(b)石炭灰中の鉱物組成の定量工程
該工程において鉱物および非晶質相の含有率を定量する。
(c)石炭灰中の非晶質相の化学組成の算出工程
該工程において非晶質相中のSiOの含有率を算出する。
以下、これらの工程を工程毎に詳細に説明する。
(a)石炭灰の化学組成の定量工程
石炭灰は、好ましくは事前に乾燥するとよい。石炭灰の乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に準拠して、石炭灰が恒量になるまで105℃で加熱する方法が挙げられる。
石炭灰の化学組成の定量方法は、特に限定されないが、短時間で定量できるため、好ましくは、蛍光X線分析法(検量線法、またはファンダメンタルパラメーター法)により行う。
本発明の石炭灰含有セメントの迅速評価方法では、計算に必要な化学成分は石炭灰のSiO、Al、およびFeの三成分のみであるから、分析に要する時間を短縮にするために、該三成分のみを検量線法で高精度に定量し、総量(100%)から該三成分の定量値を差し引いた差分を、表2に示すように、「その他」の成分として一括してもよい。
(b)石炭灰中の鉱物組成の定量工程
石炭灰中のムライト等の鉱物組成(含有率)の定量方法は、特に限定されないが、短時間で定量できるため、好ましくは、下記文献Aに記載の粉末X線回折−リートベルト解析法により行なう。この(b)工程において、前記(1)式中の石炭灰中のムライトの含有率、および後の計算に必要となる非晶質相の含有率が得られる。
文献A:星野清一ほか「非晶質混和材を含むセメントの鉱物の定量におけるX線回折/リートベルト法の適用」、セメント・コンクリート論文集、第59号、pp.14−21(2005)
また、粉末X線回折装置は、例えば、D8 ADVANCE(ブルカー・エイエックスエス社製)が挙げられ、解析ソフトウェアは、例えば、DIFFRACplusTOPAS(Ver.3)(ブルカー・エイエックスエス社製)が挙げられる。
さらに、非晶質相の含有率の定量精度を向上させるために、前記粉末X線回折−リートベルト解析法にPONKCS法を組み合わせた方法(以下「リートベルト解析−PONKCS法」という。)を用いることがより好ましい。
リートベルト解析−PONKCS法を用いた非晶質相の定量は、具体的には下記(i)〜(iii)の手順に従い行う。
(i)石炭灰の粉末X線回折を測定し、得られたハローパターンと同じX線回折プロファイルを示す、仮想的な結晶構造モデルを計算し、その仮想結晶の単位格子体積Vを求める。
(ii)内部標準法、外部標準、またはダミーピーク法等を用いて予め定量した、非晶質相の含有量が既知の石炭灰を準備して、その石炭灰のX線回折パターンを取得する。そして、前記(i)で求めたVと、非晶質相の含有率から、下記(2)式で表されるリートベルト解析法の定量式における非晶質相の定数Z×Mを求める。この(ii)で用いる石炭灰は、(i)で単位格子体積Vを求めた石炭灰と同じあることが好ましいが、石炭灰の銘柄間において、X線回折プロファイルのハローパターンの相違は無視できる程度に小さいので、(i)で使用した石炭灰と異なる石炭灰を使用することも可能である。
Figure 2017111087
(iii)前記(ii)で求めたZ×Mは、石炭灰にほぼ固有の値であって、石炭灰の銘柄間の相違は、非晶質相の定量精度に影響する程度ではないため、一度求めたZ×Mは銘柄の異なる石炭灰にも使用できる。前記(ii)で求めたZ×Mを、前記(2)式に代入して、非晶質相の含有率が未知である石炭灰におけるWの計算に使用する。
なお、石炭灰中のα-石英やムライト等の非晶質相以外の鉱物は、公知の結晶構造データを用いることにより前記(2)式中のZ、M、Vの定数を算出できる。
リートベルト解析−PONKCS法による解析は、市販のX線回折解析ソフトウェアを用いることができ、例えば、前記DIFFRACplusTOPAS(Ver.3)(ブルカー・エイエックスエス社製)が挙げられる。
α-石英とムライト以外の含有率が0.5質量%以下の鉱物は、目的とするアルカリシリカ反応の抑制効果指標値の計算結果には大きく影響しないから、α-石英とムライト以外の、通常の粉末X線回折−リートベルト解析法で検知できない鉱物は考慮しなくてもよい。
次に、(2)式により得られた非晶質相および各鉱物の含有率の総量を、100%として規格化する。
(c)石炭灰中の非晶質相の化学組成の算出工程
下記(3)式に示すように、前記(a)工程で求めた石炭灰の化学組成から、前記(b)工程で求めた石炭灰中の鉱物組成に基づいた各鉱物由来の化学組成を差し引いて、非晶質相の化学組成を求める。ここで、各鉱物の化学組成は、以下に示す一般的な化学組成式を用いることができる。
α-SiO:SiO
ムライト:Al13Si
マグネタイト:Fe
ヘマタイト、マグヘマイト:Fe
Figure 2017111087
そして、表4に示すように、前記得られた非晶質相の化学組成を、総量が100%になるように規格化する。この(c)工程において、前記(1)式中の、石炭灰の非晶質中のSiOの含有率が得られる。
2.石炭灰含有セメントの製造方法
本発明の石炭灰含有セメントの製造方法は、前記石炭灰含有セメントの迅速評価方法を用いて求めたアルカリシリカ反応の抑制効果指標値が、モルタルまたはコンクリートで使用される骨材のアルカリシリカ反応性状とアルカリシリカ反応試験等での許容膨張率から定まる所定の値を満足するように、セメントへの石炭灰の混合率を決め、該混合率で石炭灰をセメントに混合して石炭灰含有セメントを製造する方法である。
例えば、実施例で示すように、JIS A 1145「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(化学法)」と、JIS A 1146「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法)」で共に“無害でない”と判定された骨材を使用する場合であって、ASTM C 1260に準拠して、浸漬14日後(材齢16日)の膨張率が0.10%未満を品質基準とする場合、目標とするアルカリシリカ反応の抑制効果指標値は、図1から、5600である。したがって、本発明の製造方法において、当該指標値を満足するように石炭灰の混合率を決定する。
前記石炭灰の混合率を決定する方法は、例えば、前記石炭灰含有セメントの迅速評価方法を用いて求めた石炭灰のブレーン比表面積、石炭灰中のムライトの含有率、および石炭灰の非晶質相中のSiOの含有率を下記(4)式に代入して、セメント中の石炭灰の混合率を決めることができる。
[セメント中の石炭灰の混合率]=[目標とするアルカリシリカ反応の抑制効果指標値]/([石炭灰のブレーン比表面積]×[石炭灰中のムライトの含有率]×[石炭灰の非晶質相中のSiOの含有率]) ・・・(4)
さらに、本発明の石炭灰含有セメントの製造方法は、石炭灰含有セメントの製造において、石炭灰の混合率に異常が認められた際に、前記石炭灰含有セメントの迅速評価方法を用いて、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を予測し、その予測結果に基づいて石炭灰含有セメントの良否を判断して、必要に応じて品質改善のための処理を行う、セメントを製造する方法である。
ここで、セメントの製造現場における本発明の石炭灰含有セメントの製造方法の態様の一例を、下記の1)〜5)に示す。
1)予め、石炭灰含有セメントの供給場所で使用される骨材等を使用して得られた蓄積データから求まる、図1のような相関式を基に、アルカリシリカ反応の抑制効果指標値の管理基準値を設定する。
2)セメント混合材用のフライアッシュ(石炭灰)の受入銘柄毎に、石炭灰のブレーン比表面積、石炭灰の非晶質相中のSiOの含有率、および石炭灰中のムライトの含有率を試験して定量する。
3)前記1)で定めたアルカリシリカ反応の抑制効果指標値と、前記2)で求めた各定量値から、フライアッシュの混合率の目標値を求め、製造工程におけるフライアッシュの混合率の管理目標値として設定する。
4)フライアッシュセメントの製造工程では、基材セメントとフライアッシュの混合率が前記管理目標値を満足しているか否かについて、重量計量値やフライアッシュセメントの相組成分析などに基づき適宜監視する。
5)前記監視において、基材セメントとフライアッシュの混合工程に異常が生じた場合は、フライアッシュセメントを採取し、そのフライアッシュの混合率を分析し、該値が前記3)で定めたフライアッシュの混合率の管理目標値における許容範囲内であるか否かを確認する。
本発明の石炭灰含有セメントの製造方法で用いる基材セメントは、特に制限されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、エコセメント、および、高炉セメントから選ばれる1種以上が挙げられる。
本発明の製造方法で製造される石炭灰含有セメントは、前記石炭灰含有の迅速評価方法を用いて求めたアルカリシリカ反応の抑制効果指標値が、所定の値を満足するセメントである。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.石炭灰の物理化学的特性値
(1)石炭灰の密度、ブレーン比表面積、フロー値、および活性度指数の測定
使用した石炭灰は、異なる火力発電所から採取した5銘柄の石炭灰a〜e(JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に記載のフライアッシュII種に該当する。)である。 該石炭灰の密度、ブレーン比表面積、フロー値、および活性度指数は、前記JISに準拠して測定した。その結果を表1に示す。
Figure 2017111087
(2)石炭灰の化学組成、および塩基度の測定
前記JISに準拠して、石炭灰a〜eを105℃で恒量になるまで加熱して湿分を除去した後、該石炭灰(以下「乾燥石炭灰」という。)の化学組成を蛍光X線分析法(検量線法)により測定した。
また、該石炭灰の塩基度はJIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に準拠して下記化合物を定量し、下記(5)式に従い算出した。
Figure 2017111087
前記化学組成と塩基度の測定結果を表2に示す。
Figure 2017111087
(3)石炭灰の鉱物組成の測定
該乾燥石炭灰の鉱物組成を、リートベルト解析−PONKCS法を用いて求めた。用いたX線回折装置は、D8 ADVANCE(ブルカー・エイエックスエス社製)であり、解析ソフトウェアは、DIFFRACplusTOPAS(Ver.3)(ブルカー・エイエックスエス社製)である。鉱物組成の測定結果を表3に示す。
Figure 2017111087
(4)石炭灰の非晶質相の化学組成の算出
前記(3)式を用いて、表2の石炭灰の化学組成から、表3の鉱物組成由来の化学成分を差し引いて、非晶質相の化学組成を求めた。そして、総量が100%になるように、該化学組成を規格化した。その結果を表4に示す。
なお、鉱物の化学組成は、以下に示すように、不純物を含まない化合物の組成式を用いた。
α-SiO:SiO
ムライト:Al13Si
マグネタイト:Fe
Figure 2017111087
2.セメントの特性
使用した普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)のブレーン比表面積と化学組成を表5に示し、その鉱物組成を表6に示す。
なお、ブレーン比表面積はJIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して、LOI(強熱減量)はJIS R 5202「セメントの化学分析方法」に準拠して、また化学組成はJIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定した。また、鉱物組成は前記文献Aに記載の粉末X線回折−リートベルト解析法を用いて求めた。用いたX線回折装置は、D8 ADVANCE(ブルカー・エイエックスエス社製)であり、解析ソフトウェアは、DIFFRACplusTOPAS(Ver.3)(ブルカー・エイエックスエス社製)である。
Figure 2017111087
Figure 2017111087
3.アルカリシリカ反応性試験
(1)石炭灰混合セメントの作製
石炭灰a〜eと前記普通ポルトランドセメントをビニール袋に入れ、3分間振って混合し、石炭灰の混合率が5質量%、10質量%、および20質量%の石炭灰混合セメント組成物をそれぞれ3kg作製した。
(2)細骨材のアルカリシリカ反応性試験
火山ガラス、クリストバライト、およびトリディマイト等のアルカリシリカ反応性物質を含む両輝石安山岩(北海道産)を粉砕して得た細骨材(粒径は5mm以下)のアルカリシリカ反応性を、JIS A 1145「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(化学法)」と、JIS A 1146「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法)」の2種類の試験方法に準拠して測定した。その結果、JIS A 1145では、溶解シリカ量(Sc)が532mmol/L、アルカリ濃度減少量(Rc)が115mmol/Lであり、溶解シリカ量がアルカリ濃度減少量以上であるから、無害でないと判定した。また、JIS A 1146では、材齢13日のモルタルの膨張率は0.5%であるから、無害でないと判定した。
(3)アルカリシリカ反応性試験によるモルタルの膨張率の測定
前記細骨材を用いて、ASTM C 1260に準拠してアルカリシリカ反応性試験を行なった。具体的には、普通ポルトランドセメント/細骨材(質量比)が0.44、水/セメント比が0.47のモルタルを混練して型枠に打設し、20℃で24時間封緘養生した後、脱型してモルタル供試体を得た。次に、該供試体を80℃で24時間水中養生し、さらに1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に80℃で14日間浸漬した後、取り出して該供試体の膨張率を測定した。その結果を表7に示す。ちなみに、前記ASTMでは、14日間浸漬した後のモルタル供試体の膨張率が0.1%未満で無害と判定する。
Figure 2017111087
(4)本発明の石炭灰含有セメントの迅速評価方法によるアルカリシリカ反応性の評価
表1に記載の石炭灰のブレーン比表面積、表3に記載の石炭灰中のムライトの含有率、表4に記載の石炭灰の非晶質相中のSiOの含有率、および表7に記載の石炭灰の混合率を前記(1)式に代入して、アルカリシリカ反応の抑制効果指標値を算出した。その結果を表8に示す。また、表7に記載のモルタル供試体の膨張率と、表8に記載のアルカリシリカ反応の抑制効果指標値との相関を図1に示す。
Figure 2017111087
図1に示すように、ASTM C 1260によるモルタルの膨張率と、本発明のアルカリシリカ反応の抑制効果指標値の間には、決定係数が0.8512と高い相関が成立するから、試験終了まで16日かかっていた従来のアルカリシリカ反応性試験に代えて、算出時間が1時間で済む本発明の石炭灰含有セメントの迅速評価方法を用いることができる。そして、X線回折装置等を備えたセメントの製造現場において、本発明の石炭灰含有セメントの迅速評価方法を用いて、アルカリシリカ反応性の低い石炭灰混合セメント組成物を容易に製造することができる。

Claims (5)

  1. 下記(1)式を用いて算出したアルカリシリカ反応の抑制効果指標値に基づき、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を評価する、石炭灰含有セメントの迅速評価方法。
    [アルカリシリカ反応の抑制効果指標値]=[石炭灰のブレーン比表面積]×[石炭灰中のムライトの含有率]×[石炭灰の非晶質相中のSiOの含有率]×[セメント中の石炭灰の混合率] ・・・(1)
    (ただし、式中のブレーン比表面積の単位はcm/g、含有率および混合率の単位は質量%である。)
  2. 前記石炭灰の非晶質相中のSiOの含有率を、蛍光X線分析法および粉末X線回折−リートベルト解析法を用いて求める、請求項1に記載の石炭灰含有セメントの迅速評価方法。
  3. 前記粉末X線回折−リートベルト解析法が、PONKCS法を組み合わせた粉末X線回折−リートベルト解析法である、請求項2に記載の石炭灰含有セメントの迅速評価方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の石炭灰含有セメントの迅速評価方法を用いて、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を予測し、その予測に基づきセメントへの石炭灰の混合率を決め、該混合率で石炭灰をセメントに混合する、石炭灰含有セメントの製造方法。
  5. 石炭灰含有セメントの製造において、石炭灰の混合率に異常が認められた際に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の石炭灰含有セメントの迅速評価方法を用いて、石炭灰含有セメントのアルカリシリカ反応の抑制効果を予測し、その予測結果に基づいて石炭灰含有セメントの良否を判断する、石炭灰含有セメントの製造方法。

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