以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、理解を容易にするために図示を省略または簡略化した部分がある。また、以下の各図における各部の形状や寸法比は、必ずしも正確なものではない。
図1は、本実施形態に係る船舶用動力伝達装置1の構成を示したスケルトン図である。本実施形態の船舶用動力伝達装置1(以下、単に動力伝達装置1と呼ぶ)は、タンカーやセメント運搬船等の船舶において、推進用の主機関2(例えば、ディーゼルエンジン)の出力する回転動力を推進器3(例えば、プロペラ)に伝達すると共に、荷役用の発電機4(すなわち、荷役用電源として使用される発電機)に伝達するものである。図1に示されるように、動力伝達装置1は、各部を収容して支持するケーシング10を備えると共に、まず推進用の構成として、入力軸20と、推進用出力軸30と、減速逆転機構40と、を備えている。
入力軸20は、主機関2から回転動力が入力される軸である。入力軸20は、ケーシング10に回転自在に支持され、主機関2側(船首側)の端部が継手22を介して主機関2の出力軸2aに接続されている。推進用出力軸30は、推進器3に回転動力を出力する軸である。推進用出力軸30は、入力軸20と略平行な状態でケーシング10に回転自在に支持され、推進器3側(船尾側)の端部が継手32を介して推進器3の入力軸3aに接続されている。
減速逆転機構40は、入力軸20の回転動力を減速して推進用出力軸30に伝達すると共に、推進用出力軸30への回転動力の伝達および遮断、ならびに推進用出力軸30の正転および逆転を切り替えるものである。減速逆転機構40は、推進用出力軸30を正転させて船舶を前進させる前進動力伝達部41と、推進用出力軸30を逆転させて船舶を後進させる後進動力伝達部42と、から構成されている。
前進動力伝達部41は、入力軸20の外周を覆うように配置された正転用中空軸41aと、入力軸20と正転用中空軸41aの間に設けられた正転用クラッチ41bと、正転用中空軸41aに設けられた正転用駆動歯車41cと、推進用出力軸30に設けられ、正転用駆動歯車41cと噛み合う推進用従動歯車41dと、を備えている。
後進動力伝達部42は、入力軸20に設けられた変換用駆動歯車42aと、入力軸20および推進用出力軸30と略平行な状態でケーシング10に回転自在に支持された逆転用中間軸42bと、逆転用中間軸42bに設けられ、変換用駆動歯車42aと噛み合う変換用従動歯車42cと、逆転用中間軸42bの外周を覆うように配置された逆転用中空軸42dと、逆転用中間軸42bと逆転用中空軸42dの間に設けられた逆転用クラッチ42eと、逆転用中空軸42dに設けられ、推進用従動歯車41dと噛み合う逆転用駆動歯車42fと、を備えている。
正転用クラッチ41bおよび逆転用クラッチ42eは、それぞれ油圧でクラッチ板41b1、42e1を押圧する湿式多板油圧クラッチから構成されている。正転用クラッチ41bを接続し、逆転用クラッチ42eを開放することで、推進器3が正転して船舶は前進する。また、正転用クラッチ41bを開放し、逆転用クラッチ42eを接続することで、推進器3が逆転して船舶は後進することとなる。また、正転用クラッチ41bおよび逆転用クラッチ42eを共に開放することで、推進器3への回転動力の伝達が遮断される。
本実施形態では、正転用駆動歯車41cと推進用従動歯車41dの歯数比、および逆転用駆動歯車42fと推進用従動歯車41dの歯数比は同一であり、所定の減速比となるように設定されている。そして、変換用駆動歯車42aと変換用従動歯車42cの歯数比を1対1.2に設定することで、後進時の減速比を大きくし、クラッシュアスターン時の原動機2の負荷を軽減するようにしている。なお、減速逆転機構40における各歯車の歯数比は特に限定されるものではなく、正転用駆動歯車41cと推進用従動歯車41dの歯数比と、逆転用駆動歯車42fと推進用従動歯車41dの歯数比を異ならせるようにしてもよい。また、主機関2の定格回転数(定格出力(連続最大出力)を発揮する回転数)によっては、入力軸20の回転動力を増速するように、正転用駆動歯車41cおよび逆転用駆動歯車42fと推進用従動歯車41dの歯数比を設定してもよい。
動力伝達装置1はまた、発電用の構成として、発電用出力軸50と、発電用副軸52と、副軸用伝達機構54と、第1の増速機構60と、第2の増速機構70と、第1の発電用クラッチ80と、第2の発電用クラッチ90と、を備えている。
発電用出力軸50は、発電機4に回転動力を出力する軸である。発電用出力軸50は、入力軸20およびその他の各軸と略平行な状態でケーシング10に回転自在に支持され、発電機4側(船尾側)の端部が継手56を介して発電機4の入力軸4aに接続されている。発電用副軸52は、発電用出力軸50に隣接して配置される軸であり、発電用出力軸50およびその他の各軸と略平行な状態でケーシング10に回転自在に支持されている。
副軸用伝達機構54は、発電用副軸52の回転動力を発電用出力軸50に伝達するものである。副軸用伝達機構54は、発電用副軸52に設けられた副軸用駆動歯車54aと、発電用出力軸50に設けられ、副軸用駆動歯車54aと噛み合う副軸用従動歯車54bと、から構成されている。なお、本実施形態では、副軸用駆動歯車54aと副軸用従動歯車54bの歯数比は1対1に設定されている。
第1の増速機構60は、入力軸20の回転動力を第1の増速比で増速して第1の発電用クラッチ80に伝達するものである。第1の増速機構60は、入力軸20およびその他の各軸と略平行な状態でケーシング10に回転自在に支持された増速用中間軸61と、発電用副軸52の外周を覆うように配置された第1の増速用中空軸62と、増速用中間軸61に設けられた増速用入力歯車63および第1の増速用駆動歯車64と、第1の増速用中空軸62に設けられた第1の増速用従動歯車65と、を備えている。
増速用中間軸61は、逆転用中間軸42bと発電用副軸52の間に配置され、第1の増速用中空軸62は、一端が第1の発電用クラッチ80に接続されている。そして、増速用入力歯車63は、変換用従動歯車42cと噛み合い、第1の増速用駆動歯車64は、第1の増速用従動歯車65と噛み合っている。従って、入力軸20の回転動力は、変換用駆動歯車42a→変換用従動歯車42c→増速用入力歯車63→増速用中間軸61→第1の増速用駆動歯車64→第1の増速用従動歯車65→第1の増速用中空軸62→第1の発電用クラッチ80の順に伝達される。
また、第1の増速比は、変換用従動歯車42cと増速用入力歯車63の歯数比、および第1の増速用駆動歯車64と第1の増速用従動歯車65の歯数比によって決定される。なお、本実施形態では、第1の増速比は、主機関2の回転数が定格回転数(例えば、750rpm)の近傍である場合に第1の増速用中空軸62の回転数が発電機4の定格回転数(例えば、1200rpm)と略一致するように設定されている。詳細には、主機関2の燃料消費率が最小となる常用出力での使用を考慮し、主機関2の回転数が定格回転数の94%である場合に第1の増速用中空軸62の回転数が発電機4の定格回転数となるように、第1の増速比は設定されている。
第2の増速機構70は、入力軸20の回転動力を第2の増速比で増速して第2の発電用クラッチ90に伝達するものである。本実施形態では、第2の増速機構70は、第1の増速機構60に二次増速機構70aを追加することで構成されている。すなわち、第1の増速機構60は、第2の増速機構70の一部として兼用されている。また、二次増速機構70aの追加により、第2の増速比は第1の増速比よりも大きな値となっている。
二次増速機構70aは、第1の増速用中空軸62に設けられた第2の増速用駆動歯車71と、発電用出力軸50の外周を覆うように配置された第2の増速用中空軸72と、第2の増速用中空軸72に設けられた第2の増速用従動歯車73と、を備えている。そして、第2の増速用駆動歯車71は、第2の増速用従動歯車73と噛み合い、第2の増速用中空軸72は、一端が第2の発電用クラッチ90に接続されている。
従って、入力軸20の回転動力は、変換用駆動歯車42a→変換用従動歯車42c→増速用入力歯車63→増速用中間軸61→第1の増速用駆動歯車64→第1の増速用従動歯車65→第1の増速用中空軸62→第2の増速用駆動歯車71→第2の増速用従動歯車73→第2の増速用中空軸72→第2の発電用クラッチ90の順に伝達される。
また、第2の増速比は、変換用従動歯車42cと増速用入力歯車63の歯数比、第1の増速用駆動歯車64と第1の増速用従動歯車65の歯数比、および第2の増速用駆動歯車71と第2の増速用従動歯車73の歯数比によって決定される。なお、本実施形態では、第2の増速比は、主機関2の回転数がアイドル回転数(例えば、450rpm)の近傍である場合に第2の増速用中空軸72の回転数が発電機4の定格回転数(例えば、1200rpm)と略一致するように設定されている。詳細には、正転用クラッチ41bまたは逆転用クラッチ42eを接続する際の10%程度の回転数の低下、および第2の発電用クラッチ90における8%程度の滑り率を考慮し、主機関2の回転数がアイドル回転数の82%である場合に第2の増速用中空軸72の回転数が発電機4の定格回転数となるように、第2の増速比は設定されている。
第1の発電用クラッチ80は、第1の増速機構60から発電用出力軸50への回転動力の伝達および遮断を切り替えるものである。また、第2の発電用クラッチ90は、第2の増速機構70から発電用出力軸50への回転動力の伝達および遮断を切り替えるものである。第1の発電用クラッチ80は、第1の増速用中空軸62と発電用副軸52の間に設けられ、第2の発電用クラッチ90は、第2の増速用中空軸72と発電用出力軸50の間に設けられている。
従って、第1の発電用クラッチ80を接続し、第2の発電用クラッチ90を開放した場合、入力軸20の回転動力は、第1の増速機構60および第1の発電用クラッチ80を介して発電用副軸52に伝達され、発電用副軸52から副軸用伝達機構54を介して発電用出力軸50に伝達される。また、第1の発電用クラッチ80を開放し、第2の発電用クラッチ90を接続した場合には、入力軸20の回転動力は、第2の増速機構70および第2の発電用クラッチ90を介して発電用出力軸50に伝達される。
第1の発電用クラッチ80は、油圧でクラッチ板82を押圧する一般的な湿式多板油圧クラッチから構成されている。第2の発電用クラッチ90は、クラッチ板92を押圧する油圧の大きさを遠心制御弁94によって制御する湿式多板油圧クラッチから構成されている。この遠心制御弁94は、発電用出力軸50と共に回転するようになっており、発電用出力軸50の回転数の変化に伴う遠心力の変化に応じてクラッチ板92を押圧する油圧の大きさを変化させることで滑り率を調整する。これにより、第2の発電用クラッチ90は、第2の増速用中空軸72の回転数、すなわち主機関2の回転数によらず、発電用出力軸50の回転数を発電機4の定格回転数に保持するように構成されている。
従って、第2の発電用クラッチ90は、発電機4による発電中に主機関2の回転数変動を許容するものの、常時クラッチ板92を滑らせた状態で使用される(自励振動を防止するために、上述のように最小でも8%程度の滑り率が確保される)ことから、動力の伝達効率が比較的低いものとなっている。一方、第1の発電用クラッチ80は、発電機4による発電中に主機関2の回転数を略一定(常時±5%以内、瞬時±10%以内)に保持する必要があるものの、直結状態(滑り率が略0%)で使用されるため、動力の伝達効率は第2の発電用クラッチ90よりも高くなっている。
動力伝達装置1では、このように比較的高効率の第1の発電用クラッチ80および比較的低効率の第2の発電用クラッチ90を、増速比の異なる第1の増速機構60および第2の増速機構70と組み合わせて設けることで、船舶の停泊中および航行中のいずれにおいても発電機4を主機関2によって効率的に駆動すること可能としている。図2(a)および(b)は、動力伝達装置1の使用状態を示したスケルトン図である。なお、これらの図では、回転動力の伝達経路を破線の矢印で示している。
船舶の停泊中に発電器4を駆動する場合、正転用クラッチ41b、逆転用クラッチ42eおよび第2の発電用クラッチ90を開放状態とし、第1の発電用クラッチ80を接続する。これにより、図2(a)に示されるように、主機関2から入力軸20に入力された回転動力が第1の増速機構60、第1の発電用クラッチ80、発電用副軸52および副軸用伝達機構54を介して発電用出力軸50に伝達され、発電機4が駆動される。
なお、第1の増速機構60は正転用クラッチ41bおよび逆転用クラッチ42eよりも主機関2側で入力軸20と接続されているため、動力伝達装置1では、正転用クラッチ41bおよび逆転用クラッチ42eを開放状態のまま、すなわち推進器3を駆動しない状態で発電機4を駆動することが可能となっている。
第1の増速比は、上述のように主機関2の回転数が定格回転数の94%の場合に第1の増速用中空軸62の回転数が発電機4の定格回転数と略一致するように設定されている。従って、主機関2を定格回転数の94%で稼動させることで、発電機4は定格回転数で駆動されることとなる。停泊中は主機関2を発電専用に稼動させることができるため、主機関2の回転数を略一定に保持することができる。従って、第1の発電用クラッチ80を高効率なものとすることで、動力の伝達損失を軽減し、効率的な発電を行うことが可能となる。
また、第1の増速比を上述のように設定することで、主機関2の常用出力(定格出力の85〜95%程度)を使って発電を行うことができるため、荷役作業に必要な大電力を主機関2を活用して発電することができる。一般に、タンカーやセメント運搬船等では、荷役用の発電機4として主機関2の50%以上の定格出力のものが必要となるが、動力伝達装置1によれば、このような大型の発電機4であっても主機関2を最小の燃料消費率で活用して効率的に駆動することができる。
船舶の航行中は、図2(b)に示されるように、例えば正転用クラッチ41bが接続状態であり、主機関2から入力軸20に入力された回転動力が減速逆転機構40の前進動力伝達部41を介して推進用出力軸30に伝達され、推進器3が駆動されている。航行中に発電機4を駆動する場合は、推進器3を駆動している状態のまま、第2の発電用クラッチ90を接続する。これにより、主機関2から入力軸20に入力された回転動力の一部が第2の増速機構70および第2の発電用クラッチ90を介して発電用出力軸50に伝達され、発電機4が駆動される。
第2の増速比は、上述のように主機関2の回転数がアイドル回転数の82%の場合に第2の増速用中空軸72の回転数が発電機4の定格回転数と略一致するように設定されている。航行中の主機関2の回転数はアイドル回転数以上となるため、第2の発電用クラッチ90の遠心制御弁94が滑り率を調整することで、発電機4の回転数は、略定格回転数に保持されることとなる。
航行中は、船速に応じて主機関2の回転数が変更されるが、第2の発電用クラッチ90を滑り率の調整が可能なものとすることで、発電機4の回転数を略一定に保持し、インバータ等を必要としない効率的な発電を行うことが可能となる。なお、航行中の動力伝達効率は、停泊中よりも下がることとなるが、航行中に必要な電力は荷役作業に必要な電力よりも小さいため、損失も小さく押えることが可能となっている。また、発電機4によって航行中の主機関2の余剰出力を回収するとの観点に立てば、船舶全体のエネルギー効率としては改善されることとなる。さらに、本実施形態では、正転用クラッチ41bまたは逆転用クラッチ42eの接続時の回転数の低下分を見込んで第2の増速比を設定しているため、出入港時における極低速での前後進切り替え等の操船中においても、発電機4による発電を安定的に行うことが可能となっている。
このように、動力伝達装置1では、船舶の停泊中および航行中のいずれにおいても、主機関2を活用した発電を効率的に行うことが可能となっている。これにより、荷役用の大型の発電機4を停泊中に主機関2によって効率的に駆動することができるため、荷役用の発電機専用の原動機を別途設ける必要がなく、船内のスペース効率を高めることが可能となる。さらに、荷役用の発電機4を船内一般用の軸発電機として兼用することができるため、船内一般用の発電機を1機省略することが可能であり、これによっても船内のスペース効率を高めることができる。
また、動力伝達装置1は、発電用の構成と共に推進用の減速逆転機構40を備えているため、大型の発電機4を主機関2に対して推進器3側(船尾側)に配置することが可能となっている。これにより、推進器3の入力軸3a(例えば、プロペラ軸)周囲のデッドスペースを有効に活用すると共に、発電機4によって船倉が削減されないようになっている。
なお、図2(b)では、船舶が前進中の状態を示したが、逆転用クラッチ42eが接続されて船舶が後進中の状態においても、発電機4による発電が可能であることはいうまでもない。また、船舶が主機関2の回転数を略定格回転数に保持して航行している場合には、第1の発電用クラッチ80を接続して発電を行うようにしてもよい。
また、第1の増速比および第2の増速比は上述のものに限定されず、停泊中および航行中に必要な電力や主機関2および発電機4の性能等の各種条件によっては、第1の増速比および第2の増速比をその他の値に設定するようにしてもよい。但し、停泊中に主機関2の出力を有効に活用して効率的な発電を行うためには、第1の増速比は、主機関2の回転数が定格出力の70%以上110%以下の範囲内の出力を発揮する所定の回転数である場合に第1の増速用中空軸62の回転数が発電機4の定格回転数と略一致する値であることが好ましい。また、第1の増速比は、主機関2の回転数が常用出力を発揮する回転数(燃料消費率が最小となる回転数)である場合に第1の増速用中空軸62の回転数が発電機4の定格回転数と略一致する値であればより好ましい。
また、出入港時等における極低速での操船中にも安定的に発電機4による発電を行うためには、第2の増速比は、主機関2の回転数がアイドル回転数の75%以上100%以下の範囲内の所定の回転数である場合に、第2の増速用中空軸72の回転数が発電機4の定格回転数と略一致する値であることが好ましい。アイドル回転数の75〜85%程度を見込んでおけば、正転用クラッチ41bまたは逆転用クラッチ42eを接続する際に主機関2の回転数が低下した場合にも、第2の発電用クラッチ90に自励振動を発生させることなく発電機4を安定的に駆動することが可能となる。また、正転用クラッチ41bまたは逆転用クラッチ42eの接続時における発電機4の回転数変動や第2の発電用クラッチ90の振動が許容範囲内であれば、アイドル回転数の85〜100%程度に設定してもよい。この場合、主機関2の回転数が高いときの第2の発電用クラッチ90の滑り率を低減し、伝達効率を高めることが可能となる。
なお、副軸用伝達機構54の歯数比の設定により、第1の増速用中空軸62の回転数は、第1の発電用クラッチ80の滑り率が0%のときの発電機4の回転数に相当する。また、第2の増速用中空軸72の回転数は、第2の発電用クラッチ90の滑り率が0%のときの発電機4の回転数に相当する。
また、第1の発電用クラッチ80は、ジョークラッチやツースクラッチ等の噛み合いクラッチであってもよく、この場合、動力の伝達効率をさらに高めることができる。また、第2の発電用クラッチ90は、流体クラッチ(流体継手)であってもよいし、流体クラッチと摩擦クラッチの組み合わせ等であってもよい。また、遠心制御弁94に代えて、発電用出力軸50の回転数を検出する回転数検出装置と、この回転数検出装置の検出結果に基づいてクラッチ板92を押圧する油圧を調整する油圧調整装置を設けるようにしてもよい。
動力伝達装置1ではまた、発電用の構成と推進用の構成が一体的に組み込まれているため、発電機4をアシスト用または推進用の電動機として兼用することが可能となっている。図3(a)および(b)は、発電機4を電動機として使用する場合を示したスケルトン図である。なお、図2(a)および(b)と同様に、これらの図では回転動力の伝達経路を破線の矢印で示している。
図3(a)は、発電機4を主機関2のアシスト用の電動機として使用する場合を示している。例えば、正転用クラッチ41bが接続状態であり、定格回転数で稼動する主機関2によって推進器3が駆動されている状態で、発電機4に電力を供給して第1の発電用クラッチ80を接続することにより、電動機としての発電機4が出力する回転動力は、発電用出力軸50、副軸用伝達機構54、発電用副軸52、第1の発電用クラッチ80、第1の増速機構60および減速逆転機構40の前進動力伝達部41を介して推進用出力軸30に伝達され、主機関2の出力する回転動力と共に推進器3に入力されることとなる。
これにより、推進器3に入力される回転動力が、電動機としての発電機4の出力分だけ増加されるため、例えば推進器3が可変ピッチプロペラである場合には、翼角を変更することで船速を上昇させることができる。また、向かい潮や向かい風等による抵抗が大きいような場合にも、船速を維持するといったことが可能となる。
図3(b)は、発電機4を非常時の推進用電動機として使用する場合を示している。例えば、故障等によって主機関2が稼動不能となった場合に、発電機4に電力を供給して第1の発電用クラッチ80および正転用クラッチ41bを接続することにより、電動機としての発電機4が出力する回転動力は、図3(a)の場合と同様に推進用出力軸30に伝達され、電動機としての発電機4によって推進器3が駆動されることとなる。
これにより、故障等によって主機関2が稼動不能となった場合にも、電動機としての発電機4によって船舶を航行させることができる。なお、この場合、電動機としての発電機4が出力する回転動力は主機関2にも伝達され、主機関2のクランク軸を回転させることとなるが、発電機4は荷役用の大型のものであるため、推進器3と共に主機関2を駆動しながらも十分な推進力を得ることが可能となっている。
なお、図3(a)および(b)では、船舶が前進中の状態を示したが、逆転用クラッチ42eを接続することで、船舶が後進中のアシスト、および非常時における船舶の後進が可能であることはいうまでもない。
また、第1の発電用クラッチ80に代えて第2の発電用クラッチ90を接続した状態で、電動機としての発電機4によるアシストまたは非常時の推進を行うようにしてもよい。この場合、電動機としての発電機4が出力する回転動力は、発電用出力軸50、第2の発電用クラッチ90、第2の増速機構70および減速逆転機構40の前進動力伝達部41を介して推進用出力軸30に伝達され、減速比が大きくなるため、船速が低い場合にも電動機としての発電機4の回転数を高くすることが可能となる。すなわち、低速時のアシストおよび非常時の低速航行を効率的に行うことができる。なお、第2の発電用クラッチ90は、遠心制御弁94による油圧制御を解除することで、略直結状態で接続することができる。
次に、動力伝達装置1のその他の形態の例について説明する。図4〜6は、動力伝達装置1のその他の形態の例を示したスケルトン図である。
図4は、第1の増速機構60の増速用入力歯車63を入力軸20に設けられた変換用駆動歯車42aと噛み合わせると共に、第1の発電用クラッチ80を発電用出力軸50に接続し、第2の発電用クラッチ90を発電用副軸52に接続するようにした場合の一例を示している。動力伝達装置1の各部の構成は、図1に示した構成に限定されるものではなく、例えばこのように入力軸20から第1の増速機構60に直接回転動力を伝達させるようにしてもよい。また、第1の発電用クラッチ80から発電用出力軸50に直接回転動力を伝達させるようにしてもよい。
その他、図示は省略するが、入力軸20または逆転用中間軸42bに増速用入力歯車63と噛み合う専用の歯車を別途設けるようにしてもよい。また、第1の増速比および第2の増速比によっては、増速用中間軸61を省略し、入力軸20または逆転用中間軸42bから第1の増速用中空軸62に直接回転動力を伝達するようにしてもよい。また、第2の増速機構70を第1の増速機構60とは独立して設けるようにしてもよい。
また、副軸用伝達機構54は、増速または減速を行うものであってもよい。また、発電機4は、動力伝達装置1に対して推進器3側および主機関2側のいずれに配置されてもよい。また、発電用の構成と推進用の構成をそれぞれ別のケーシングに収容するようにしてもよい。
図5は、減速逆転機構40の正転用クラッチ41bおよび逆転用クラッチ42eを、滑り率を調整可能に構成した場合の一例を示している。この例では、推進用出力軸30の回転数を検出する回転数検出装置43と共に、回転数検出装置43の検出結果に基づいて正転用クラッチ41bのクラッチ板41b1または逆転用クラッチ42eのクラッチ板42e1を押圧する油圧を調整する油圧調整装置44が減速逆転機構40に設けられている。このように、回転数検出装置43および油圧調整装置44を減速逆転機構40に設け、正転用クラッチ41bまたは逆転用クラッチ42eの滑り率を調整することで、これらのクラッチの直結時よりも低い回転数で推進器3を回転させると共に、主機関2の回転数とは別に推進器3の回転数を制御することが可能となる。具体的には、例えば主機関2の回転数を一定に保持したまま推進器3の回転数を変更したり、推進器3の回転数を一定に保持したまま主機関2の回転数を変更したり、主機関2の回転数の上昇(下降)中に推進器3の回転数を下降(上昇)させたり、主機関2の回転数の変化率とは異なる変化率で推進器3の回転数を変化させたりといったことが可能となる。
例えば船舶の出入港時等、船速が低い状態でサイドスラスタ等の比較的大電力を要する機器を稼働させる場合、主機関2の回転数が低く、低出力であるため、発電機4による発電だけでは電力が不足することがある。このような場合にも、この例の動力伝達装置1では、主機関2の回転数を上昇させて発電に必要な出力を発揮させつつ、正転用クラッチ41bまたは逆転用クラッチ42eの滑り率の調整によって船速を所望の低速状態に制御することが可能となっている。
これにより、発電機4だけでスラスタ等の機器に電力を供給することができるため、例えばサイドスラスタ専用の発電機を省略したり、船内一般用に設けられるもう1つの発電機の容量(出力)を小さくしたりといったことが可能となる。すなわち、この例の動力伝達装置1によれば、大型の荷役用の発電機4をより有効に活用することができるため、他の発電機の占有するスペースをさらに削減し、船内のスペース効率をより高めることが可能となっている。
図6は、第3の増速機構100および第3の発電用クラッチ110を設けるようにした場合の一例を示している。第3の増速機構100は、入力軸20の回転動力を第3の増速比で増速して第3の発電用クラッチ110に伝達するものである。この例では、第3の増速機構100は、第2の増速機構70に三次増速機構70bを追加することで構成されている。従って、第1の増速機構60および第2の増速機構70は、第3の増速機構100の一部として兼用されている。また、三次増速機構70bの追加により、第3の増速比は第1の増速比および第2の増速比よりも大きな値となっている。
この例では、発電用出力軸50に隣接して配置される追加副軸58がさらに設けられており、三次増速機構70bは、第2の増速用中空軸72に設けられた第3の増速用駆動歯車74と、追加副軸58の外周を覆うように配置された第3の増速用中空軸75と、第3の増速用中空軸75に設けられた第3の増速用従動歯車76と、を備えている。そして、第3の増速用駆動歯車74は、第3の増速用従動歯車76と噛み合い、第3の増速用中空軸75は、一端が第3の発電用クラッチ110に接続されている。
従って、入力軸20の回転動力は、変換用駆動歯車42a→変換用従動歯車42c→増速用入力歯車63→増速用中間軸61→第1の増速用駆動歯車64→第1の増速用従動歯車65→第1の増速用中空軸62→第2の増速用駆動歯車71→第2の増速用従動歯車73→第2の増速用中空軸72→第3の増速用駆動歯車74→第3の増速用従動歯車76→第3の増速用中空軸75→第3の発電用クラッチ110の順に伝達される。
また、第3の増速比は、変換用従動歯車42cと増速用入力歯車63の歯数比、第1の増速用駆動歯車64と第1の増速用従動歯車65の歯数比、第2の増速用駆動歯車71と第2の増速用従動歯車73の歯数比、および第3の増速用駆動歯車74と第3の増速用従動歯車76の歯数比によって決定される。なお、第3の増速機構100は、第1の増速機構60および第2の増速機構70とは独立して設けられるものであってもよい。
第3の発電用クラッチ110は、第3の増速機構100から発電用出力軸50への回転動力の伝達および遮断を切り替えるものであり、第2の発電用クラッチ90と同様に、クラッチ板112を押圧する油圧の大きさを遠心制御弁114によって制御する湿式多板油圧クラッチから構成されている。第3の発電用クラッチ110は、第3の増速用中空軸75と追加副軸58の間に設けられている。この例の副軸用伝達機構54は、追加副軸58に設けられた追加副軸用駆動歯車54cを備えており、この追加副軸用駆動歯車54cは副軸用従動歯車54bと噛み合っている。従って、第3の増速機構100および第3の発電用クラッチ110を介して追加副軸58に伝達された回転動力は、副軸用伝達機構54を介して発電用出力軸50に伝達される。なお、この例では、追加副軸用駆動歯車54cと副軸用従動歯車54bの歯数比は、副軸用駆動歯車54aと同様に1対1に設定されているが、その他の歯数比を設定するようにしてもよい。
このように、第3の増速機構100および第3の発電用クラッチ110を設けることで、船舶の航行中の発電をより効率的に行うことが可能となる。具体的には、例えば第3の増速比を、上述の図1の例における第2の増速比と同様に、主機関2の回転数がアイドル回転数の82%である場合に第3の増速用中空軸75の回転数が発電機4の定格回転数と略一致するように設定する。さらに、アイドル回転数と定格回転数の間に、第2の発電用クラッチ90の接続と第3の発電用クラッチ110の接続を切り替える切換回転数を設定し、第2の増速比を、第2の発電用クラッチ90における8%の滑り率を考慮して主機関2の回転数が切換回転数の92%である場合に第2の増速用中空軸72の回転数が発電機4の定格回転数と略一致するように設定する。そして、航行中の主機関2の回転数が切換回転数より低い場合には、第3の発電用クラッチ110を接続して航行中の発電を行い、航行中の主機関2の回転数が切換回転数以上の場合には、第2の発電用クラッチ90を接続して発電を行う。
このようにすることで、第2の発電用クラッチ90を使用する回転数の範囲および第3の発電用クラッチ110を使用する回転数の範囲を狭めることができるため、第2の発電用クラッチ90および第3の発電用クラッチ110をより滑り率が少ない状態で使用することが可能となる。すなわち、動力の伝達損失を軽減することができる。また、切換回転数の設定によっては、より広い速度範囲で発電機4による発電が可能となるため、例えば主機関2の回転数が定格回転数以上で航行している場合にも発電が可能となる。なお、切換回転数の値は、特に限定されるものではないが、第2の発電用クラッチ90を使用する回転数の範囲を第3の発電用クラッチ110の使用範囲よりも狭くし、高回転側で使用される第2の発電用クラッチ90の滑り率が小さくなるように設定することが、効率の点からは好ましい。
上述のように、第3の増速比は、主機関2の回転数がアイドル回転数の75%以上100%以下の範囲内の所定の回転数である場合に、第3の増速用中空軸75の回転数が発電機4の定格回転数と略一致する値であれば、出入港時等における極低速での操船中にも安定的に発電機4による発電を行うことが可能である。また、停泊中および航行中に必要な電力や主機関2および発電機4の性能等の各種条件によっては、上述の値とは異なる値に第1の増速比、第2の増速比および第3の増速比を設定するようにしてもよい。なお、第3の増速用中空軸75の回転数は、副軸用伝達機構54の歯数比の設定により、第3の発電用クラッチ110の滑り率が0%のときの発電機4の回転数に相当する。
以上説明したように、本実施形態に係る動力伝達装置1は、主機関2から回転動力が入力される入力軸20と、推進器3に回転動力を出力する推進用出力軸30と、入力軸20から推進用出力軸30への回転動力の伝達および遮断を切り替える推進用クラッチ(正転用クラッチ41bおよび逆転用クラッチ42e)と、荷役用電源として使用される発電機4に回転動力を出力する発電用出力軸50と、入力軸20の回転動力を第1の増速比で増速する第1の増速機構60と、第1の増速機構60から発電用出力軸50への回転動力の伝達および遮断を切り替える第1の発電用クラッチ80と、入力軸20の回転動力を第2の増速比で増速する第2の増速機構70と、第2の増速機構70から発電用出力軸50への回転動力の伝達および遮断を切り替える第2の発電用クラッチ90と、を備え、第1の発電用クラッチ80は、第2の発電用クラッチ90よりも高効率となっている。
このような構成とすることで、船舶の停泊中に荷役用の発電機4を主機関2によって効率的に駆動すると共に、航行中に荷役用の発電機4を船内一般用の軸発電機として使用することができる。これにより、荷役用の発電機専用の原動機を省略すると共に、船内一般用の発電機を1機省略することが可能となるため、船内のスペース効率を高めることができる。また、発電機4を主機関2と推進器3の間のデッドスペースに配置することが可能となり、さらに発電機4をアシスト用および非常用の電動機として使用することが可能となるため、これらによっても船内のスペース効率を高めることができる。
また、第1の増速比は、第2の増速比よりも小さい値に設定されている。このようにすることで、主機関2の高回転時の出力を有効に活用して発電機4による停泊中の発電を行うことができる。
また、第2の発電用クラッチ90は、滑り率を調整して回転動力を伝達可能に構成されている。このようにすることで、航行中の主機関2の回転数の変動によらず、発電機4による発電を行うことができる。
また、推進用クラッチ(正転用クラッチ41bおよび逆転用クラッチ42e)は、滑り率を調整して回転動力を伝達可能に構成されるものであってもよい。このようにすることで、主機関2の回転数を比較的高い状態に保持しつつ、船速を低速状態に制御することが可能となるため、低速時にも発電機4のみによって必要な電力を発電することができる。これにより、低速時に使用される機器専用の発電機を省略したり、船内一般用のもう1つの発電機を小型化したりすることが可能となるため、船内のスペース効率をさらに高めることができる。
また、発電機4の定格出力は、主機関2の定格出力の50%以上であることが好ましい。動力伝達装置1は、このような大型の荷役用の発電機4を効率的に活用するのに特に好適である。
また、第1の増速比は、主機関2の回転数が定格回転数の定格出力の70%以上110%以下の範囲内の出力を発揮する所定の回転数であり且つ第1の発電用クラッチ80の滑り率が0%の場合に、発電機4の回転数が定格回転数となる値に設定されることが好ましい。このようにすることで、主機関2の出力をより有効に活用して発電機4による停泊中の発電を行うことができる。
また、第2の増速比は、主機関2の回転数がアイドル回転数の75%以上100%以下の範囲内の所定の回転数であり且つ第2の発電用クラッチ90の滑り率が0%の場合に、発電機4の回転数が定格回転数となる値に設定されることが好ましい。このようにすることで、出入港時等における極低速での操船中にも安定的に発電機4による航行中の発電を行うことができる。
また、動力伝達装置1は、入力軸20の回転動力を第3の増速比で増速する第3の増速機構100と、第3の増速機構100から発電用出力軸50への回転動力の伝達および遮断を切り替える第3の発電用クラッチ110と、を備え、第1の発電用クラッチ80は、第3の発電用クラッチ110よりも高効率であるものであってもよい。このようにすることで、第2の発電用クラッチ90および第3の発電用クラッチ110の接続を切り替えて、主機関2の回転数に応じた増速比を選択することが可能となるため、発電機4による航行中の発電をより効率的に行うことができる。
また、第1の増速比は、第3の増速比よりも小さい値に設定されてもよい。このようにすることで、主機関2の高回転時の出力を有効に活用して発電機4による停泊中の発電を行うことができる。
また、第3の発電用クラッチ110は、滑り率を調整して回転動力を伝達可能に構成されてもよい。このようにすることで、航行中の主機関2の回転数の変動によらず、発電機4による発電を行うことができる。
また、第3の増速比は、主機関2の回転数がアイドル回転数の75%以上100%以下の範囲内の所定の回転数であり且つ第3の発電用クラッチ110の滑り率が0%の場合に、発電機4の回転数が定格回転数となる値に設定されてもよい。このようにすることで、出入港時等における極低速での操船中にも安定的に発電機4による発電を行うことができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明に係る船舶用動力伝達装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。また、上記実施形態において示した作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したものに過ぎず、本発明による作用および効果は、これらに限定されるものではない。