以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、ここでは、生体信号検出装置を血圧変動推定装置に適用した場合を例にして説明する。
(第1実施形態)
まず、図1〜図3を併せて用いて、第1実施形態に係る生体信号検出装置1を用いた血圧変動推定装置3の構成について説明する。図1は、生体信号検出装置1を用いたネックバンド型の血圧変動推定装置3の外観形状を示す平面図であり、(a)は、細い頸部に装着したときの形状を示し、(b)は、太い頸部に装着したときの形状を示す図である。また、図2は、生体信号検出装置1を用いたネックバンド型の血圧変動推定装置3の外観(装着時)を示す斜視図である。図3は、生体信号検出装置1を用いた血圧変動推定装置3の構成を示すブロック図である。
血圧変動推定装置3は、心電信号及び脈波信号を検出し、検出した心電信号(心電波)のR波ピークと脈波信号(脈波)のピーク(立ち上がり点)との時間差から脈波伝播時間を計測し、計測した脈波伝播時間の時系列データに基づいて、使用者の血圧の変動を推定する。特に、血圧変動推定装置3は、脈波伝播時間の計測中に使用者の姿勢が変化した場合であっても、連続して、より安定的に脈波伝播時間を取得する機能を有している。また、血圧変動推定装置3は、使用者の姿勢を検知して分類し、その分類結果に基づいて脈波伝播時間を補正し、補正後の脈波伝播時間の時系列データに基づいて、血圧の変動を推定する機能を有している。
そのため、血圧変動推定装置3は、主として、心電信号を検出するための一対の心電電極15,15、脈波信号を検出するための脈波センサ20、使用者の姿勢を検知するための加速度センサ22、及び、検出された心電信号と脈波信号から脈波伝播時間を計測・補正して血圧の変動を推定する信号処理部31を備えている。
ここで、本実施形態では、図1,2に示されるように、血圧変動推定装置3をネックバンド型とした。血圧変動推定装置3は、例えば、図2に示されるように、使用者の頸部(首筋)に装着することにより脈波伝播時間の時系列データを取得して血圧の変動を推定するものである。血圧変動推定装置3は、使用者の頸部の後ろ側から頸部を挟むように弾性的に装着される概略C字形(或はU字形)のネックバンド13と、両端部がネックバンド13の内側面に接続され、装着時に使用者の頸部後方に当接される支持部材16と、ネックバンド13の両端に配設されることで使用者の頸部の両側に接触するセンサ部11,12と、支持部材16に配設されることで使用者の頸部の後側正中線近傍に接触する光電脈波センサ(センサ部)20とを備えている。
ネックバンド13は、使用者の頸部の周方向に沿って装着可能なものである。すなわち、ネックバンド13は、図2に示されるように、略C字状(或はU字形)に形成され、使用者の一方の頸部側方から他方の頸部側方まで、使用者の頸部後方に沿って装着される。より具体的には、ネックバンド13は、例えば、帯状の板バネと、この板バネの周囲を覆うゴム被覆を有して構成されている。そのため、ネックバンド13は、弾性を有し、両端部が互いに近づく方向に(開口部の幅が狭くなるように、すなわち、装着時には使用者の頸部を挟持する方向に)付勢されており、使用者がネックバンド13を装着した場合に、ネックバンド13が使用者の頸部に接触した状態で保持される。
なお、ゴム被覆としては、生体適合性を有するものを用いることが好ましい。また、ゴム被覆に代えて例えばプラスチックからなる被覆を用いることもできる。
支持部材16は、例えば、角部が丸められた略帯状(或は円柱状)に形成された部材であり、その両端部がネックバンド13の内側面に接続されている。特に、支持部材16は、例えばゴム等の可撓性(或は弾性)を有する材質で形成されており、ネックバンド13の付勢力によって、ネックバンド13の両端部が互いに近づく程(開き度合が小さくなる程)、ネックバンド13の内側(すなわち装着時には頸部方向)へ突出する。そのため、使用者の頸部に装着されるときに、支持部材16は、ネックバンド13の付勢力によって、弾性変形して、円弧状に、ネックバンド13の内側(頸部方向)へ突出し(押し出され)、使用者の頸部後方に押し当てられる。
ここで、支持部材16は、ネックバンド13に接続された両端部間の間隔(接続点間の距離)が小さくなるほど(ネックバンド13の両端部が互いに近づく程)、突出量が大きくなる。そのため、図1の(a)に示されるように、使用者の頸部が細い場合には、ネックバンド13が閉じ、支持部材16の両端部間の間隔(接続点間の距離)が小さくなり、頸部側への突出量が大きくなる。一方、図1の(b)に示されるように、使用者の頸部が太い場合には、ネックバンド13が左右に開き、支持部材16の両端部間の間隔(接続点間の距離)が大きくなり、頸部側への突出量が小さくなる。
そのため、使用者の頸部(首)の太さにかかわらず、支持部材16を使用者の頸部後方に当接させることができ、血圧変動推定装置3(ネックバンド13及び支持部材16)を安定して装着することができる。特に、装着時には、使用者の頸部の太さに応じてネックバンド13が閉じるとともに、支持部材16が頸部方向に押し出されるため、ネックバンド13の両(左右)端部及び支持部材16の3箇所(3点)で頸部を安定的に保持することができる。
ネックバンド13の両端部の内側面にはセンサ部(接触部)11,12が取り付けられている。また、支持部材16の内側面には光電脈波センサ20が取り付けられている。ここで、センサ部11,12は、ネックバンド13の短手方向及び/又は長手方向(または、使用者の頸部の軸方向及び/又は該軸方向と垂直な頸部前後方向)を軸として揺動可能に取り付けられていることが好ましい。より具体的には、例えば、球状頭部と、該球状頭部を保持するソケットとを有して構成されるボールジョイント(図示省略)によって、センサ部11,12それぞれが、ネックバンド13の両端部に揺動回動自在に取り付けられている。
そのため、センサ部11,12それぞれは、ネックバンド13の短手方向を軸として揺動可能(すなわち、頸部の周方向に揺動可能)になると同時に、ネックバンド13の長手方向を軸として揺動可能(すなわち、頸部の軸方向に揺動可能)になる。なお、センサ部11,12それぞれは、ネックバンド13の短手方向及び長手方向を軸として揺動可能であればよく、頸部の径方向を軸とする回転を制限(規制)する機構を設けてもよい。なお、同様にして、光電脈波センサ20を、ネックバンド13の短手方向及び/又は長手方向を軸として揺動可能に取り付けてもよい。
ネックバンド13(ゴム被覆)及び支持部材16の内部には、センサ部11,12(後述する心電電極15,15)及び光電脈波センサ20並びに加速度センサ22と信号処理部31とを電気的に接続するケーブルが配線されている。ここで、ケーブルは、ノイズを低減するために、同軸とすることが望ましい。
センサ部11,12は、一対の心電電極15,15を有している。心電電極15としては、例えば、銀・塩化銀、導電ゲル、導電ゴム、導電プラスチック、金属(ステンレス、Au等の腐食に強く金属アレルギーの少ないものが好ましい)、導電布、金属表面を絶縁層でコーティングした容量性結合電極等を用いることができる。ここで、導電布としては、例えば、導電性を有する導電糸からなる織物や編物、不織布が用いられる。また、導電糸としては、例えば、樹脂糸の表面をAgなどでめっきしたものや、カーボンナノチューブ・コーティングを施したもの、PEDOTなどの導電性高分子をコーティングしたものを用いることができる。また、導電性を有する導電性ポリマー糸を用いてもよい。なお、本実施形態では、心電電極15として、矩形の平面状に形成した導電布15を用いた。一対の心電電極15,15それぞれは、信号処理部31と接続されており、心電信号を信号処理部31へ出力する。
また、支持部材16には、脈波伝播時間を取得しているときの使用者(頸部)の姿勢を検出する加速度センサ22が取り付けられている。加速度センサ22は、重力加速度Gがかかる方向(すなわち鉛直方向)を検知する3軸加速度センサであり、その検出信号から、使用者が、例えば、立っているのか、寝ているのかなどを判定することができる。
より具体的には、使用者の身体に対して、加速度センサ22がどういう位置関係にあるのかを予めキャリブレーションしておき、例えば、加速度センサ22の出力に対して、使用者が立っているときに重力加速度がかかる方向を下方向(鉛直方向)として座標変換することにより、使用者の姿勢を判定することができる。加速度センサ22も、信号処理部31と接続されており、検出信号(3軸加速度データ)を信号処理部31へ出力する。なお、加速度センサ22に代えて、例えば、ジャイロセンサ等を用いることもできる。
支持部材16の内面(頸部と接触する面)には、加速度センサ22の近傍に、発光素子201および受光素子202を有し、光電脈波信号を検出する光電脈波センサ20が配設されている。光電脈波センサ20は、血中ヘモグロビンの吸光特性を利用して、光電脈波信号を光学的に検出するセンサである。
上述したように、光電脈波センサ20は、支持部材16の略中央部に配設される。そのため、光電脈波センサ20は、ネックバンド13が使用者の頸部に装着されたときに(すなわち、脈波伝播時間が取得される際に)、使用者の頸部後側の正中線(又はその近傍)において頸部と接触する位置に配置される。なお、光電脈波センサ20は、表面が、支持部材16の表面と同一(又は略同一)となるように形成されている。
光電脈波センサ20及び加速度センサ22は、互いに近接して配設されており、使用時(計測時)には、使用者の頸部(首)に装着されることとなる。このように、光電脈波センサ20と姿勢を判定するための加速度センサ22とを同じ部位に装着することで、姿勢判定と脈波伝播時間の相関を高めることができる。また、手足等ではなく頸部に装着することで、手足の血管内血圧ではなく、脳卒中や心筋梗塞等のリスクと相関が高いと推測される頸部の血管内血圧の推定ができる。さらに、複数のセンサを別々の部位に装着するのではなく頸部に集約することで装着の煩雑さを低減でき、また日常行動への制約を小さくすることもできる。なお、加速度センサ22は、光電脈波センサ20の近傍に配置することが望ましいが、光電脈波センサ20との相対位置が変動しない構造であれば、装置内の他の箇所に配置してもよい。
発光素子201は、後述する信号処理部31の駆動部350から出力されるパルス状の駆動信号に応じて発光する。発光素子201としては、例えば、LED、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)、又は共振器型LED等を用いることができる。なお、駆動部350は、発光素子201を駆動するパルス状の駆動信号を生成して出力する。
受光素子202は、発光素子201から照射され、頸部を透過して、又は頸部に反射して入射される光の強さに応じた検出信号を出力する。受光素子202としては、例えば、フォトダイオードやフォトトランジスタ等が好適に用いられる。本実施形態では、受光素子202として、フォトダイオードを用いた。
受光素子202は、信号処理部31に接続されており、受光素子202で得られた検出信号(光電脈波信号)は信号処理部31に出力される。
また、センサ部11の内部には、光電脈波センサ20や、信号処理部31、無線通信モジュール60などに電力を供給するバッテリ(図示省略)が収納されている。センサ部12の内部には、信号処理部31、及び、血圧変動や、計測した脈波伝播時間、心電信号、光電脈波信号などの生体情報を外部の機器に送信する無線通信モジュール60が収納されている。
上述したように、一対の心電電極15,15、及び光電脈波センサ20それぞれは、信号処理部31に接続されており、検出された心電信号及び光電脈波信号が信号処理部31に入力される。また、加速度センサ22も、信号処理部31に接続されており、検出された3軸加速度信号が信号処理部31に入力される。
信号処理部31は、入力された心電信号を処理して、心拍数や心拍間隔などを計測する。また、信号処理部31は、入力された光電脈波信号を処理して、脈拍数や脈拍間隔などを計測する。さらに、信号処理部31は、検出した心電信号(心電波)のR波ピークと光電脈波信号(もしくは加速度脈波信号)のピーク(立ち上がり点)との時間差から脈波伝播時間等を計測する。そして、信号処理部31は、計測した脈波伝播時間の時系列データ(変動)から使用者の血圧の変動を推定する。
そのため、信号処理部31は、心電信号増幅部311、脈波信号増幅部321、第1信号処理部310、第2信号処理部320、ピーク検出部316,326、ピーク補正部318,328、脈波伝播時間計測部330、姿勢分類部340、脈波伝播時間変動取得部341、及び血圧変動推定部342を有している。また、上記第1信号処理部310は、アナログフィルタ312、A/Dコンバータ313、ディジタルフィルタ314を有している。一方、第2信号処理部320は、アナログフィルタ322、A/Dコンバータ323、ディジタルフィルタ324、2階微分処理部325を有している。
ここで、上述した各部の内、ディジタルフィルタ314,324、2階微分処理部325、ピーク検出部316,326、ピーク補正部318,328、脈波伝播時間計測部330、姿勢分類部340、脈波伝播時間変動取得部341、及び血圧変動推定部342は、演算処理を行うCPU、該CPUに各処理を実行させるためのプログラムやデータを記憶するROM、及び演算結果などの各種データを一時的に記憶するRAM等により構成されている。すなわち、ROMに記憶されているプログラムがCPUによって実行されることにより、上記各部の機能が実現される。
心電信号増幅部311は、例えばオペアンプ等を用いた増幅器により構成され、一対の心電電極(導電布)15,15により検出された心電信号を増幅する。心電信号増幅部311で増幅された心電信号は、第1信号処理部310に出力される。同様に、脈波信号増幅部321は、例えばオペアンプ等を用いた増幅器により構成され、光電脈波センサ20により検出された光電脈波信号を増幅する。脈波信号増幅部321で増幅された光電脈波信号は、第2信号処理部320に出力される。
第1信号処理部310は、上述したように、アナログフィルタ312、A/Dコンバータ313、ディジタルフィルタ314を有しており、心電信号増幅部311で増幅された心電信号に対して、フィルタリング処理を施すことにより拍動成分を抽出する。
また、第2信号処理部320は、上述したように、アナログフィルタ322、A/Dコンバータ323、ディジタルフィルタ324、2階微分処理部325を有しており、脈波信号増幅部321で増幅された光電脈波信号に対して、フィルタリング処理及び2階微分処理を施すことにより拍動成分を抽出する。
アナログフィルタ312,322、及び、ディジタルフィルタ314,324は、心電信号、光電脈波信号を特徴づける周波数以外の成分(ノイズ)を除去し、S/Nを向上するためのフィルタリングを行う。より詳細には、心電信号は一般的に0.1から200Hzの周波数成分、光電脈波信号は0.1から数十Hz付近の周波数成分が支配的であるため、ローパスフィルタやバンドパスフィルタ等のアナログフィルタ312,322、及びディジタルフィルタ314,324を用いてフィルタリング処理を施し、上記周波数範囲の信号のみを選択的に通過させることによりS/Nを向上する。
なお、拍動成分の抽出のみを目的とする場合には、ノイズ耐性を向上するために通過周波数範囲をより狭くして拍動成分以外の成分を遮断してもよい。また、アナログフィルタ312,322とディジタルフィルタ314,324は必ずしも両方備える必要はなく、アナログフィルタ312,322とディジタルフィルタ314,324のいずれか一方のみを設ける構成としてもよい。なお、アナログフィルタ312、ディジタルフィルタ314によりフィルタリング処理が施された心電信号は、ピーク検出部316へ出力される。同様に、アナログフィルタ322、ディジタルフィルタ324によりフィルタリング処理が施された光電脈波信号は、2階微分処理部325へ出力される。
2階微分処理部325は、光電脈波信号を2階微分することにより、2階微分脈波(加速度脈波)信号を取得する。取得された加速度脈波信号は、ピーク検出部326へ出力される。なお、光電脈波のピーク(立ち上がり点)は変化が明確でなく検出しにくいことがあるため、加速度脈波に変換してピーク検出を行うことが好ましいが、2階微分処理部325を設けることは必須ではなく、省略した構成としてもよい。
ピーク検出部316は、第1信号処理部310により信号処理が施された(拍動成分が抽出された)心電信号のピーク(R波)を検出する。一方、ピーク検出部326は、第2信号処理部320によりフィルタリング処理が施された光電脈波信号(加速度脈波)のピークを検出する。なお、ピーク検出部316、及びピーク検出部326それぞれは、心拍間隔、及び脈拍間隔の正常範囲内においてピーク検出を行い、検出したすべてのピークについて、ピーク時間、ピーク振幅等の情報をRAM等に保存する。
ピーク補正部318は、第1信号処理部310(アナログフィルタ312、A/Dコンバータ313、ディジタルフィルタ314)における心電信号の遅延時間を求める。ピーク補正部318は、求めた心電信号の遅延時間に基づいて、ピーク検出部316により検出された心電信号のピークを補正する。同様に、ピーク補正部328は、第2信号処理部320(アナログフィルタ322、A/Dコンバータ323、ディジタルフィルタ324、2階微分処理部325)における光電脈波信号の遅延時間を求める。ピーク補正部328は、求めた光電脈波信号の遅延時間に基づいて、ピーク検出部326により検出された光電脈波信号(加速度脈波信号)のピークを補正する。補正後の心電信号のピーク、及び補正後の光電脈波信号(加速度脈波)のピークは、脈波伝播時間計測部330に出力される。なお、ピーク補正部318を設けることは必須ではなく、省略した構成としてもよい。
脈波伝播時間計測部330は、ピーク補正部318により補正された心電信号のR波ピークと、ピーク補正部328により補正された光電脈波信号(加速度脈波)のピークとの間隔(時間差)から脈波伝播時間を時系列的に取得する。
脈波伝播時間計測部330は、脈波伝播時間に加えて、例えば、心電信号から心拍数、心拍間隔、心拍間隔変化率等も算出する。同様に、脈波伝播時間計測部330は、光電脈波信号(加速度脈波)から脈拍数、脈拍間隔、脈拍間隔変化率等も算出する。なお、取得された脈波伝播時間の時系列データは、姿勢分類部340に出力される。
姿勢分類部340は、加速度センサ22の検出信号(3軸加速度データ)に基づいて使用者の姿勢を判定(推定)するとともに、判定した姿勢に応じて、脈波伝播時間の時系列データを姿勢毎に分類する。例えば、姿勢分類部340は、脈波伝播時間の時系列データを、立位、倒立位、仰臥位、左側臥位、右側臥位、及び伏臥位を含む姿勢毎に分類する。なお、姿勢分類部340による脈波伝播時間の分類結果(分類された脈波伝播時間の時系列データ)は脈波伝播時間変動取得部341に出力される。
脈波伝播時間変動取得部341は、姿勢分類部340により姿勢毎に分類された脈波伝播時間の時系列データに基づいて、脈波伝搬時間の変動を求める。
より具体的には、脈波伝播時間変動取得部341は、まず、分類された姿勢の中から基準とする姿勢を設定し、該基準姿勢に合わせて、該基準姿勢と異なる姿勢に分類された脈波伝播時間の時系列データを補正する。そして、脈波伝播時間変動取得部341は、基準姿勢における脈波伝播時間の時系列データ、及び、補正された(補正後の)脈波伝播時間の時系列データに基づいて、脈波伝搬時間の変動を求める。
その際に、脈波伝播時間変動取得部341は、取得された脈波伝搬時間の時系列データの時間が最も長い姿勢を基準姿勢として設定する。そして、脈波伝播時間変動取得部341は、姿勢毎の脈波伝播時間の時系列データを曲線で近似したときの近似曲線の相関係数が大きくなるように(好ましくは最大となるように)、姿勢毎の脈波伝播時間の時系列データを補正し、補正後の時系列データから脈波伝播時間の変動を求める。このように、近似曲線の相関係数が大きくなるように、姿勢毎の脈波伝播時間を補正し、補正後の時系列データから脈波伝播時間の変動傾向を推定することで、姿勢変化がある場合でも長時間の脈波伝播時間変動傾向(血圧変動傾向)を煩雑な較正なしに推定できる。なお、上記近似曲線の求め方としては、例えば、最小二乗法を用いることができる。
なお、上述した方法に代えて、各姿勢毎の脈波伝播時間をそれぞれ時系列に並べ、それぞれについて近似曲線を求めてもよい。この場合、複数の近似曲線が算出されるが、所定の時間割合以上の姿勢の近似曲線のうち、その相関係数が大きい近似曲線を選択する。脈波伝播時間変動取得部341により取得された脈波伝播時間の変動データは、血圧変動推定部342に出力される。
血圧変動推定部342は、補正後の脈波伝播時間の変動データ、及び予め定められている脈波伝播時間と血圧との関係(相関式)に基づいて、血圧変動を推定する。ここで、血圧変動推定部342は、例えば、予め求めておいた基準姿勢での脈波伝播時間と血圧との相関式から血圧変動を推定することで、補正後の脈波伝播時間変動から血圧変動を推定することができる。
なお、血圧変動推定部342は、事前に、装着状態で姿勢判定のためのキャリブレーション、すなわち、加速度センサ22の出力信号(鉛直方向)と、使用者の姿勢との関係のキャリブレーションを行うとともに、基準とする姿勢からの角度のずれ(ずれ角度)と、心臓から脈波測定部位(すなわち光電脈波センサ20の装着部位)までの高さとの関係式を求めてRAM等のメモリに記憶し、脈波伝播時間の計測時(使用時)に、事前に行ったキャリブレーションの結果に基づいて、加速度センサ22により検知された使用者の姿勢と、基準となる姿勢との角度のずれ(ずれ角度)を算出し、脈波伝播時間から血圧値を演算する際に、算出された角度のずれ(ずれ角度)と、予め記憶されている上記関係式とに基づいて、心臓から脈波測定部位(光電脈波センサ20の装着部位)までの高さを求め、当該高さに応じて血圧値を補正してもよい。ただし、血圧値は必ずしも求めなくてもよい。
推定された血圧変動、血圧値をはじめ、算出された脈波伝播時間、心拍数、心拍間隔、脈拍数、脈拍間隔、光電脈波、加速度脈波、3軸加速度等の計測データは、RAM等のメモリや無線通信モジュール60等に出力される。ここで、これらの計測データは、メモリに保持しておき、日々の変動履歴と共に読み出せるようにしておいてもよいし、パーソナルコンピュータ(PC)やスマートフォン等の外部機器にリアルタイムに無線で送信するようにしてもよい。また、測定中は装置内のメモリに保存しておき、測定終了後に自動的に外部機器に接続してデータを送信する構成としてもよい。
次に、図4を参照しつつ、血圧変動推定装置3の動作について説明する。図4は、血圧変動推定装置3による血圧変動推定処理の処理手順を示すフローチャートである。図4に示される処理は、主として信号処理部31によって所定のタイミングで繰り返して実行される。
血圧変動推定装置3が頸部に装着され、センサ部11,12(心電電極15,15)が頸部の左右に接触するとともに、支持部材16が突出して、光電脈波センサ20が頸部の後側正中線(又はその近傍)に接触すると、ステップS100では、一対の心電電極15,15により検出された心電信号、及び光電脈波センサ20により検出された光電脈波信号が読み込まれる。続くステップS102では、ステップS100で読み込まれた心電信号、及び光電脈波信号に対してフィルタリング処理が施される。また、光電脈波信号が2階微分されることにより加速度脈波が取得される。
続いて、ステップS104では、例えば、光電脈波センサ20の受光量に基づいて、脈波伝播時間計測装置1の装着状態の判定が行われる。すなわち、光電脈波センサ20では、発光素子201から照射され、生体を透過して/生体で反射されて戻ってきた光を受光素子202で受けて、その光量の変動を光電脈波信号として検出するため、装置が適切に装着されていない状態では信号光の受光量が減少する。そこで、ステップS104では、受光量が所定値以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、受光量が所定値以上である場合には、ステップS108に処理が移行する。一方、受光量が所定値未満のときには、装着エラーと判定され、ステップS106において、装着エラー情報(ワーニング情報)が出力される。その後、本処理から一旦抜ける。なお、上述した光電脈波センサ20の受光量を用いる方法に代えて、例えば、光電脈波信号の振幅、心電波形のベースラインの安定度やノイズ周波数成分比率を用いる方法等を採用することもできる。
ステップS108では、加速度センサ22により検出された頸部の加速度が所定のしきい値以上であるか否か(すなわち、頸部が動き、体動ノイズが大きくなるか否か)についての判断が行われる。ここで、頸部の加速度が所定のしきい値未満の場合には、ステップS112に処理が移行する。一方、頸部の加速度が所定のしきい値以上のときには、ステップS110において、体動エラー情報が出力された後、本処理から一旦抜ける。
ステップS112では、3軸加速度データに基づいて、使用者(測定部位)の姿勢が判定される。続くステップS114では、心電信号、光電脈波信号(加速度脈波信号)のピークが検出される。そして、検出された心電信号のR波ピークと、光電脈波信号(加速度脈波)のピークとの時間差(ピーク時間差)が算出される。
次に、ステップS116では、心電信号のR波ピーク及び光電脈波信号(加速度脈波)のピークそれぞれの遅延時間(ずれ量)が求められるとともに、求められた遅延時間に基づいて、心電信号のR波ピークと光電脈波信号(加速度脈波)のピークとの時間差(ピーク時間差)が補正される。
続いて、ステップS118では、ステップS116で補正されたピーク時間差が所定時間(例えば0.01sec.)以上か否かについての判断が行われる。ここで、ピーク時間差が所定時間以上の場合には、ステップS122に処理が移行する。一方、ピーク時間差が所定未満のときには、ステップS120においてエラー情報(ノイズ判定)が出力された後、本処理から一旦抜ける。
ステップS122では、ステップS114で算出されたピーク時間差が脈波伝播時間として確定されるとともに、脈波間隔が取得される。
続いて、ステップS124では、使用者の姿勢毎に脈波伝播時間が分類される。なお、脈波伝播時間の分類方法については上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
次に、ステップS126では、近似曲線の相関係数が最も大きくなるように、脈波伝播時間が補正される。なお、脈波伝播時間の補正方法については上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
続いて、ステップS128において、補正後の脈波伝播時間の変動から血圧変動が推定される。なお、血圧変動の推定方法については上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。そして、ステップS130において、取得された血圧変動データ等が、例えば、メモリや、スマートフォン等の外部機器に出力される。その後、本処理から一旦抜ける。
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、ネックバンド13が、略C字状に形成され、弾性を有することにより、両端部が互いに近づく方向に(開口部の幅が狭くなるように)付勢される。すなわち、装着時に、使用者の頸部を挟持する方向に付勢される。また、支持部材16が、ネックバンド13の付勢力によって、ネックバンド13の両端部が互いに近づく程(すなわち、使用者の頸部が細く、開き度合が小さくなる程)、ネックバンド13の内側(装着時には頸部方向)へ大きく変形して突出する(押し出される)。そのため、使用者の頸部の太さに応じて、ネックバンド13の内径及び支持部材16の突出量が自動的(自律的)に調節される。その結果、ネックバンド13の長さを調節する機構を備えることなく、使用者の頸部の太さにかかわらず、使用者の頸部により安定的に装着する(すなわち、頸部との接触状態を良好に保つ)ことが可能となる。
特に、本実施形態によれば、支持部材16が、可撓性(又は弾性)を有し、ネックバンド13の付勢力によって、ネックバンド13に接続された両端部間の間隔(接続点間の距離)が短くなるほど(ネックバンド13の両端部が互いに近づくほど)、弾性変形により、円弧状に、ネックバンド13の内側(装着時には頸部方向)へ押し出される。そのため、より簡易で小型・軽量な機構により、頸部の太さがそれぞれ異なる使用者に対しても安定して装着することが可能となる。
本実施形態によれば、センサ部11,12が、ネックバンド13の短手方向及び/又は長手方向を軸として揺動可能に取り付けられている。このように、センサ部11,12が、ネックバンド13の短手方向を軸として揺動可能(すなわち、頸部の周方向に揺動可能)に取り付けられているため、装着時に、例えば、頸部の太さが異なったとしても、センサ部11,12を使用者の頸部に密着させることができる。また、例えば、頸部が捻られるといった動きに追従して接触面を保持することができる。その結果、頸部の太さなどの個人差や頸部の動きにかかわらず、頸部との接触状態を良好に保つことが可能となる。また、この場合、センサ部11,12が、ネックバンド13の長手方向を軸として揺動可能(すなわち、頸部の軸方向に揺動可能)に取り付けられているため、装着時に、例えば、頸部が傾けられるといった動きに追従して接触面を保持することが可能となる。
本実施形態によれば、センサ部11,12がネックバンド13の内側面に配設されるとともに、光電脈波センサ20が支持部材16の内側面(すなわち、装着時には頸部側面と接触する側の面)に配設されている。そのため、使用者の頸部の太さが異なったとしても、該頸部にセンサ部11,12及び光電脈波センサ20を安定して接触させることができ、安定して生体信号を検出(測定)することが可能となる。
(第2実施形態)
次に、図5を用いて、第2実施形態に係る生体信号検出装置2について説明する。ここでは、上述した第1実施形態と同一・同様な構成については説明を簡略化又は省略し、異なる点を主に説明する。図5は、生体信号検出装置2を用いたネックバンド型の血圧変動推定装置4の外観形状を示す平面図であり、(a)は、細い頸部に装着したときの形状を示し、(b)は、太い頸部に装着したときの形状を示す図である。なお、図5において第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一の符号が付されている。
血圧変動推定装置4(生体信号検出装置2)は、支持部材16に代えて、支持部材17を備えている点で、上述した第1実施形態に係る血圧変動推定装置3(生体信号検出装置1)と異なっている。その他の構成は、上述した血圧変動推定装置3(生体信号検出装置1)と同一又は同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
支持部材17は、複数(本実施形態では3つ)の連接部材(継手)、すなわち、第1連接部材17a、第2連接部材17b、及び第3連接部材17cが互いに揺動可能(屈曲可能)に連結されて構成されている。各連接部材17a,17b,17cは、例えば、ヒンジなどにより、相対的に揺動可能に接続されている。各ヒンジ(接続部)には、第2連接部材17bをネックバンド13の内側(装着時には頸部方向)に付勢する例えばバネなどの弾性部材が設けられていてもよい。
そのため、支持部材17は、ネックバンド13の付勢力によって、ネックバンド13に接続された両端部間の間隔(接続点間の距離)が短くなるほど(すなわち、ネックバンド13の両端部が互いに近づく程)、ネックバンド13との間に形成される角度が大きくなるように揺動して(屈曲して)、ネックバンド13の内側(頸部方向)へ突出し(押し出され)、使用者の頸部後方に押し当てられる。
ここで、支持部材17(第2連接部材17b)は、ネックバンド13に接続された両端部間の間隔(接続点間の距離)が小さくなる程(ネックバンド13の両端部が互いに近づく程)、突出量が大きくなる。そのため、図5の(a)に示されるように、使用者の頸部が細い場合には、ネックバンド13が閉じ、支持部材17の両端部間の間隔(接続点間の距離)が小さくなり、頸部側への突出量が大きくなる。一方、図5の(b)に示されるように、使用者の頸部が太い場合には、ネックバンド13が左右に開き、支持部材17の両端部間の間隔(接続点間の距離)が大きくなり、頸部側への突出量が小さくなる。
そのため、使用者の頸部(首)の太さにかかわらず、支持部材17を使用者の頸部後方に当接させることができ、血圧変動推定装置4(ネックバンド13及び支持部材17)を安定して装着することができる。特に、装着時には、使用者の頸部の太さに応じてネックバンド13が閉じるとともに、支持部材17(第2連接部材17b)が頸部方向に押し出されるため、ネックバンド13の両(左右)端部及び支持部材17(第2連接部材17b)の3箇所(3点)で頸部を安定的に保持することができる。
第2連接部材17bには、光電脈波センサ20が配設されている。なお、光電脈波センサ20については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。また、その他の構成は、上述した支持部材16と同一又は同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
血圧変動推定装置4(生体信号検出装置2)は、上述した血圧変動推定装置3(生体信号検出装置1)と同様の方法で使用することができる。すなわち、使用者は、血圧変動推定装置4(生体信号検出装置2)を頸部に装着するだけで、心電信号、光電脈波信号、脈波伝搬時間、及び血圧変動などを検出・計測することができる。なお、血圧変動推定装置3(生体信号検出装置1)の使用方法は、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
本実施形態によれば、支持部材17が、互いに揺動可能(屈曲可能)に接続された3つの連接部材(継手)17a,17b,17cを有し、ネックバンド13の付勢力によって、ネックバンド13に接続された両端部間の間隔(接続点間の距離)が短くなるほど(ネックバンド13の両端部が互いに近づくほど)、ネックバンド13と支持部材17(連接部材17a,17c)との間に形成される角度が大きくなるように揺動して(屈曲して)、ネックバンド13の内側(装着時には頸部方向)へ突出する(押し出される)。そのため、比較的簡易で小型・軽量な機構により、頸部の太さがそれぞれ異なる使用者に対しても安定して装着することが可能となる。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、生体信号検出装置1(2)を血圧変動推定装置3(4)に適用した場合を例にして説明したが、生体信号検出装置1(2)は血圧変動推定装置3(4)以外にも適用することができる。
上記実施形態では、生体信号検出装置1(2)が、光電脈波センサ20を備えていたが、光電脈波センサ20を備えていない構成としてもよい。また、脈波センサとして、光電脈波センサに代えて、例えば圧電脈波センサなどを用いてもよい。さらに、上記実施形態では、支持部材16(17)に一つの光電脈波センサ20が配設されていたが、光電脈波センサ20に加えて又は代えて複数の生体センサを配設してもよい。また、上述した各種センサに加えて、例えば、酸素飽和度センサ、音センサ(マイク)、変位センサ、温度センサ、湿度センサなどの生体センサを用いる構成としてもよい。さらに、センサ部11,12は、一対の心電電極15,15を有しているとしたが、光電脈波センサ、圧電脈波センサ、酸素飽和度センサ、音センサ(マイク)、変位センサ、温度センサ、湿度センサなどの生体センサを配設してもよい。
上記実施形態では、ネックバンド13の両端にセンサ部11,12を取り付けたが、センサ部11,12は、必ずしもネックバンド13の両端に取り付ける必要はない。
上記実施形態では、姿勢判定や、姿勢毎の脈波伝播時間の補正、血圧変動の推定等の処理を信号処理部31で行ったが、取得した心電信号、光電脈波信号、3軸加速度等のデータを例えばパーソナルコンピュータ(PC)やスマートフォン等に無線で出力し、PCやスマートフォン側で、上記姿勢判定や、姿勢毎の脈波伝播時間の補正、血圧変動の推定等の処理を行う構成としてもよい。このような場合、上述した相関式等のデータは、PCやスマートフォン側に記憶される。