以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。複数の図面中同一のものには
同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。本発明の具体的な実施形態の説明をする前に、本願発明の波の受信方法(以降、受信方法と称する)の概要について説明する。
〔受信方法〕
図1に、本発明の受信方法を用いて検査する検査対象物である被検査物と、センサとの関係を示す。本発明の受信方法は、被検査物10に、第1センサ11と第2センサ12の2個のセンサを設置して被検査物10の内部や表面を軸方向に伝搬する固体振動の波(弾性波)を受信する方法である。
なお、第1センサ11と第2センサ12とが受信する受信信号は、被検査物10の前方で送信波が反射又は被検査物の検査対象部分を通過した後に前方からセンサに到達した波束によるものである。送信波は、図示しない送信機によって被検査物10に入力される波束である。波束とは、空間的に(有限の領域に)制限された波であり、中心周波数fの近傍のある範囲の周波数の波を重ね合わせることによって生成される波の束である。送信波(弾性波の波束)は、例えば圧電素子探触子で生成することができる。
送信機は、例えば第1センサ11又は第2センサ12と一体に構成しても良いし、送信機のみを被検査物10の何れかの位置に設置するようにしても良い。以降においては、送信機が第1センサ11よりも前方側に配置されているものとして説明する。
被検査物10の長手方向にその内部や表面を弾性波の波束が進む速度を群速度Vgと表記する。波束を構成する波(正確には、波束を構成する中心周波数fの波)の位相の進む速度(同じ位相の点[例えば山/谷の点]の進む速さ)を位相速度Vphと表記する。位相速度Vphは次式で表せる。
ここで、fは波の周波数(正確には、波束を構成する波の中心周波数)、λはその波長である。なお以下では、位相速度Vphが正(Vph>0)であるとして記述を行うが、群速度Vgの符号に制限はなく、これによって一般性が損なわれることはない。
〔群速度Vg>位相速度Vphの場合〕
まず、位相速度Vphよりも群速度Vgが速い場合(Vg>Vph>0)について、第1センサ11と第2センサ12とにより受信される後方波の信号を相殺して消去する方法を説明する。第1センサ11と第2センサ12とは、次式を満たす距離Lの間隔を、被検査物10の軸方向に空けて設置される。
式(2)より分かるように、センサ間の距離Lは、その時間t0の間に(対象としている波束が)群速度Vgで進行する距離である。従って、t0は、対象としている波束に対して第1センサ11と第2センサ12とで信号を受信する際の時間差にもなっている。
ここで、時間差t0は、第1の整数nを1以上の整数として、次式によって決定される時間である。
つまり、距離Lは、群速度Vgによる進行距離と位相速度Vphによる進行距離の差が波のの半波長の整数倍となるような時間差t0の間に、波束が群速度Vgで移動する距離のことである。以降、時間差t0は配置決定時間t0と称する。図1に示す様に、第1センサ11と第2センサ12とは、そのような距離Lの間隔を空けて設置される。
ここで、図2を参照して後方波の受信信号の時間軸上の位置と位相との関係について説明する。図2(a)、(b)は、第2センサ12と第1センサ11とでそれぞれ受信する(波束による)受信信号の関係の一例を示す概念図である。図2(a)、(b)の横軸は時間t、縦軸は信号振幅を表す。また、図2(a)、(b)は、群速度Vgが位相速度Vphよりも速く(Vg>Vph)、第1の整数nがn=1の場合についての一例を示した図である。
第2センサ12で受信する後方波は、時刻t=0の時点から始まる信号として表してある。従って、第2センサ12で受信した後方波の受信時間を、上記の配置決定時間t0と等しい時間遅らせた信号は、第1センサ11で受信する後方波の信号と時間軸上で完全に重なり合う(開始時刻と終了時刻とが一致する)こととなる。以降、受信信号を遅らせる時間を遅延時間t0′と称する。配置決定時間t0と遅延時間t0′とは、後述するように一般には異なる時間(t0≠t0′)として良いが、ここでは簡単のため両者の等しいケース(t0=t0′)について記述する。
次に、第2センサ12で受信した後方波受信時間を遅延時間t0遅らせた信号と、第1センサ11で受信する後方波受信信号の位相の関係について説明する。第2センサ12で受信した後方波(波束)受信信号の中の任意の点、例えば点P12は、実空間では位相速度Vphで進行するため、第1センサ11にはt0・Vg/Vphの時間、遅れて到達する。したがって、第2センサ12の受信信号の点P12は、第1センサ11の受信信号において点P11に対応する。
よって、第2センサ12で受信した後方波受信信号を遅延時間t0分の時間遅らせた信号と、第1センサ11で受信した後方波受信信号とに関して、対応する任意の点の時間差ΔTは次式で表せる。
式(4)に式(3)を代入して式(1)を用いると時間差ΔTは次式で表せる。
ここで、Tは波の周期(T=f
-1)である。この時間差ΔTは、両受信信号の全ての点について同一であるため、式(5)は、第2センサ12の受信信号に遅延時間t0を付加した遅延信号と、第1センサ11で受信した信号との位相差に対応する時間を表していると言うことができる。
従って、t0=t0′のケースでは、第1の整数nが奇数の場合は、第2センサ12の受信信号に遅延時間t0′を付加した遅延信号と、第1センサ11で受信した信号との位相差はπとなる。つまり、両信号は、図2に示したようにお互いに反転した信号となる。よって、第2センサ12で受信した後方波の受信信号を遅延時間t0分遅らせて第1センサ11の受信信号に足し合わせることで、後方波の受信信号を相殺して消去することができる。
また、第1の整数nが偶数の場合は、第1センサ11で生じる位相差は0となる。つまり、第2センサ12で受信した波束を時間差t0分の時間遅らせた波束は、第1センサ11で受信した後方波と一致する波束となる。この場合は、第2センサ12で受信した後方波の波束を時間差t0分遅らせて第1センサ11の受信信号から引き算することで、後方波を相殺して消去することができる。第1センサ11に対して第2センサ12の時間軸を遅延時間t0だけ遅らせる(遅延時間t0を付加する)処理によって、これらの受信信号は時間軸上で同一時刻に重なることになるため、波束の形(波束の包絡線)が第1センサ11と第2センサ12とで受信される時に同一であって変形しない(との近似が成り立つ)場合、原理的に後方波を完全に相殺して消去することができる。
なお、以降において、2つのセンサにおける後方波の受信信号を時間軸上で完全に重ね合わせて(信号の開始時刻と終了時刻を一致させて)相殺し、消去する方法を、減算優先と称する場合もある。
以上述べた後方波の相殺、抑制は、位相速度Vphと群速度Vgとが異なる場合に、その両者が如何なる値であっても行うことができる。また更に、後方波の相殺、抑制と同時に前方波の信号の強調を行うことも可能である。
第2センサ12で受信した波束を配置決定時間と等しい時間差t0分遅延させる場合、前方波については、第2センサ12の遅延信号と第1センサ11の受信信号とが、時間軸上でt0の2倍ずれることになるため、前方波の強調を同時に実施するための条件は、t0の2倍が、周期1/fの半整数倍である波を選択することとなる(式(6))。ここで波を選択するとは、式(6)の条件を満たす周波数を中心周波数fとする送信波(波束)を、送信機から被検査物10に入力し、ここで述べる手法によって受信及び信号処理することである。
ここで、mは0以上の任意の整数であり、fは波束の中心周波数信号の周波数である。この条件を満たす波を選択、利用することにより、第1の整数nの偶数/奇数によらず、後方波の消去、抑制と同時に第1センサ11と第2センサ12で受信される前方波の信号振幅増大を実現することができる。
前方波に関して、第1センサ11で受信される受信信号と、第2センサ12の受信信号に遅延時間t0を付加して生成した遅延信号とは、位相差が0(nが奇数)/π(nが偶数)となるために、両者の和(nが奇数)/差(nが偶数)を取ると、遅延時間t0付加後に両者が時間的に重なる領域ではその信号振幅を増大させることができる。
具体的には、前方波の波束の受信信号について、第1センサ11の受信信号においてt=0の時刻から始まるとすると、第2センサ12の受信信号においてはt=t0から始まるが、第2センサ12の受信信号に遅延時間t0を付加することによって両者の時間差(受信信号の開始時刻や終了時刻の時間差)は2・t0となる。ここで、和(nが奇数)/差(nが偶数)を取ると、第1センサ11で受信される前方波の時間幅が2・t0を超える場合、両受信信号が時間軸上で重なる領域ではその信号振幅を増大させることができる。一方、センサで受信される前方波の時間幅が2・t0以下の場合、2つの信号は時間軸上では分離していることになるが、その場合でも和(nが奇数)/差(nが偶数)の処理後の信号において両者の位相差は0の関係となっている。
ここで、後方波の完全な相殺と前方波の位相の一致(遅延時間付加後に時間軸上で重なっていれば足し合せによる信号振幅の増大)を同時に実現するための条件についてより具体的に説明する。まず、周期T(=1/f)は、式(1)より、次式で表せる。
そこで、上記の式(3)と式(7)を式(6)に代入して整理すると次式を得る。
つまり、nを1以上の整数、mを0以上の整数として、式(8)を満たすような位相速度Vph、群速度Vgの関係を満たす送信波(波束)を用いることにより、後方波の理論的には完全な相殺、消去と、前方波の強調(遅延時間付加後に時間軸上で重なっていれば足し合わせによる信号振幅の増大)とを同時に実現することができる。なお、このとき、センサ間隔Lは次式の様に表せる。
なお、加算優先とも称する前方波の受信信号を時間軸上で完全に重ね合わせて(信号の開始時刻と終了時刻を一致させて)足し合せて強調する手法については、実施形態の中で説明する。
以上説明したように、本発明の波の受信方法は、最初に、波束の群速度Vgと位相速度Vphとの差分と波の半波長とに基づき、第1センサ11と第2センサ12の配置を決定するための配置決定時間t0を計算する。次に、配置決定時間t0と群速度Vgから求めた距離Lの間隔を空けて設置した第1センサ11と第2センサ12とで、被検査物10を伝搬する弾性波の波束による信号を受信する。次に、第1センサ11又は第2センサ12の一方の受信信号を、遅延時間t0′(上記ではt0′=t0の場合について説明)の時間遅らせた遅延信号を生成する。そして最後に、当該遅延信号と、第1センサ11又は第2センサ12の他方の受信信号とを線形和して求めた信号を出力する。
以上のように動作する本発明の受信方法によれば、位相速度Vphと群速度Vgとが異なる場合でも、後方波の受信信号を完全に消去すると共に前方波の受信信号の振幅を(前方波の受信信号に対して遅延時間t0′付加後に2つの受信信号が時間的に重なる領域については)2倍にして受信信号のSN比を向上させることができる。
以降において、具体的な本発明の実施形態を示して更に詳しくその動作を説明する。
〔実施形態〕
図3に、本発明の実施形態の受信装置100の機能構成例を示す。受信装置100は、第1センサ11と、第2センサ12と、受信部20と、遅延信号生成部30と、信号出力部40とを具備する。第1センサ11と第2センサ12とを除いた受信装置100は、例えばROM、RAM、CPU等で構成されるコンピュータに所定のプログラムが読み込まれて、CPUがそのプログラムを実行することで実現されるものである。
図4に示す受信装置100の動作フローも参照してその動作を説明する。第1センサ11と第2センサ12とは、上記の距離Lの間隔を空けて被検査物10の上に設置される。第1センサ11は、第2センサ12に対して例えば前方側に設置される。
距離Lは、波束の群速度Vgと位相速度Vphとの差分と、波束の中心周波数の波の波長とに基づいて決定される配置決定時間t0の間に、波束が群速度Vgで進行する距離である。この配置決定時間t0は、受信装置100が受信動作を開始する前に、波束の群速度Vgと位相速度Vphとの差分と、波の波長とに基づいて計算で求める(式(3))(ステップS1)。
次に、波束の群速度Vgと位相速度Vphとの差分と、波束の中心周波数の波の波長とに基づいて、受信信号を相殺又は増幅するための遅延時間t0′を計算する(ステップS2)。この求めた遅延時間t0′は情報として受信装置100に入力される。
受信部20は、第1センサ11と第2センサ12とで検出した波束を受信してそれぞれの波束を、信号処理が可能な振幅の電圧信号に変換して出力する(ステップS3)。なお、受信部20は、第1センサ11と第2センサ12とにそれぞれ独立した構成として設けても良い。
遅延信号生成部30は、第1センサ11又は第2センサ12で受信した一方の受信信号を、遅延時間t0′の時間遅らせて遅延信号を生成する(ステップS4)。
信号出力部40は、遅延信号と、第1センサ11又は第2センサ12で受信した他方の受信信号とを線形和して求めた信号を出力する(ステップS5)。ステップS3〜S5の動作は、受信装置100が受信動作を停止するまで繰り返される。
なお、後方波による信号を完全に相殺し、且つ前方波を可能な限り時間的に重ね合わせるためには、第1センサ11と第2センサ12との間の距離L(式(2))は、波の波長λに対して可能な限り短いものが望ましい。式(9)により、波長λに対して距離Lが最小となるのは、(n,m)=(1,0)の時であり、次式のように表せる。
また、(n,m)=(1,0)の時の位相速度Vphと群速度Vgとの関係は、式(8)に基づき次式により表せる。
つまり、この場合、後方波の相殺・消去と前方波の位相の一致とを同時に行う条件は、群速度Vgが位相速度Vphの3倍の波を選択して利用することであり、センサ間隔Lは波長λの3/4倍であることが分かる。図5に、波長λで規格化した距離L(=|Vg|・t0)が、短い方からいくつかの場合についてn,m,Vg,t0,Vg/Vphの関係を示す。例えば(n,m)=(1,1)の場合、センサ間の距離Lは5λ/4であり、群速度Vgと位相速度Vphの比はVg/Vph=5/3である。又、(n,m)=(3,0)の場合は、センサ間の距離Lは7λ/4であり、群速度Vgと位相速度Vphの比はVg/Vph=7である。
なお、上記の式(6)の代わりに次式を満たすような波を選択し、利用した場合、前方波に関しては、第2センサ12の受信信号に対して遅延時間t0を付加し、第1センサ11の受信信号と線形和を取ることによって、消去、抑制することも可能である。
つまり、遅延時間t0の2倍が周期1/fの整数倍であるような波を選択することによって、遅延時間t0を付加し、線形和を実施することによって、時間軸上で両者の重なる時間領域に関して、両者の信号を互いに打ち消し合う関係とすることが可能である。なお、この条件式(12)は、式(1)、式(3)等を用いて整理すると、位相速度Vphと群速度Vgとの関係として次式で表すことができる。
以上の説明は、群速度Vgが位相速度Vphよりも速い場合についてである。次に、位相速度Vphが群速度Vgよりも速い(Vph>Vg)について説明する。
〔位相速度Vph>群速度Vgの場合〕
位相速度Vphが群速度Vgよりも速い場合、次式で定まる配置決定時間t0の間に、波束が進行する距離L(= |Vg|・t0)の間隔を被検査物10(例えば長尺部材)の軸方向に空けて第1センサ11と第2センサ12とを設置する。
この配置で受信した信号に関して、位相速度Vphよりも群速度Vgが速い場合と同様の信号処理により、後方波の理論的には完全な消去を実施することができる。更に、同時に前方波の位相の一致による増幅、強調とを実施するためには、式(6)を満たすような波を選択し、利用することが条件となる。式(14)と式(7)を式(6)に代入して整理すると、次式を得る。
図6を参照して後方波受信信号の時間軸上の位置と位相について説明する。図6(a),(b)は、第1センサ11と第2センサ12の2つのセンサの受信信号の関係の一例を示す図である。図6の横軸は時間、縦軸は信号振幅を表す。図6は、Vph>Vg、第1の整数n=1の場合の例である。
図6において、第2センサ12で受信する後方波は、時刻t=0から始まる信号として表してある(図6(a))。この時、第1センサ11で受信する後方波は、時刻t=t0から始まる信号として表せる。したがって、第2センサ12で受信した後方波の受信信号に対して時間軸をt0だけ遅らせると、第1センサ11で受信する後方波の受信信号と時間軸上で完全に重なる(開始時刻と終了時刻とが一致する)こととなる。
次に位相の関係について説明する。第2センサ12で受信した後方波の受信信号の中の任意の点、例えば点P12は、実空間では位相速度Vphで進行するため、第1センサ11の受信信号においては第2センサ12の受信時刻からt0・Vg/Vphだけ遅れ、図6(b)に示す点P11の信号に対応することとなる。したがって、第2センサ12の受信信号の点P12は、第1センサ11の受信信号において点P11に対応する。
よって、第2センサ12で受信した後方波受信信号を遅延時間t0の時間遅らせた信号と、第1センサ11で受信した後方波受信信号との間の対応する任意の点の時間差ΔTは次式で表せる。
式(16)に式(14)を代入して式(1)を用いると時間差ΔTは次式で表せる。
この時間差ΔTは、受信信号の全ての点について同一であるため、式(17)は、遅延時間t0付加後の2つの受信信号の位相差に対応する時間を表しているということができる。
第1の整数nが奇数の場合は、受信信号の位相差はπとなるため、第2センサ12の受信信号に遅延時間t0を付加して第1センサ11の受信信号と足し合せることにより、後方波を相殺して消去することができる。
また、第1の整数nが偶数の場合は、受信信号の位相差は0(位相が一致)となるため、第2センサ12の受信信号に遅延時間t0を付加した遅延信号と、第1センサ11の受信信号との差を取ることにより、後方波を相殺して消去することができる。第1センサ11に対して第2センサ12の時間軸を遅延時間t0だけ遅らせる(遅延時間t0を付加する)処理によって、これらの受信信号は時間軸上で同一時刻に重なることになるため、波束の形(波束の包絡線)が第1センサ11と第2センサ12とで受信される時に同一であって変形しない(との近似が成り立つ)場合、原理的に後方波を完全に相殺して消去することができる。
また、式(15)で定まる位相速度Vphと群速度Vgとの関係を満たす波を受信する場合、上記の後方波の受信信号の相殺、消去の信号処理を実施することによって、同時に、前方波の受信信号に関しては、(時間軸上で重なり合う時間領域について)振幅を増幅、強調することができる。
つまり、上記の式(15)を満たす波束を用いることで、後方から到来する波束による受信信号の相殺、消去と、前方から到来する波束による受信信号の強調(位相差0で足し合せる〔n奇数〕か位相差πで差し引く〔n偶数〕ことによって、時間的に重なり合う領域について振幅の増加)を同時に実現することができ、例えば後方波と前方波が同じ時刻にセンサに到達していたとしても、後方波の受信信号を消去、抑制しつつ、前方波の受信信号を増幅、強調する信号を得ることができるため、飛躍的にSN比を向上することができる。
なお、後方波を消去して、且つ前方波を可能な限り重ね合わせて信号を強調するためには、第1センサ11と第2センサ12との間の距離L(=|Vg|・t0)は、波長λに対して可能な限り短いものが望ましい。
図7に、波長λで表した距離L(=|Vg|・t0)について、n、mの比較的小さいいくつかの場合についてn,m,Vg,t0,Vg/Vphの関係を示す。例えば(n,m)=(1,2)の場合、センサ間の距離Lは3λ/4であり、位相速度Vphと群速度Vgの比はVg/Vph=3/5である。又、(n,m)=(1,4)の場合は、距離Lは7λ/4であり、速度比はVg/Vph=7/9である。また、図8に、配置決定時間と遅延時間とが等しい(t0=t0′)場合について、後方波を消去するための、条件、関係式等をまとめて示す。
なお、上記の遅延時間及び距離Lは、必ずしも厳密な値に設定しなくても良い。例えば、後方波の消去や前方波の位相の重ね合わせに大きな影響を与えない範囲において、受信する波の波長λに対して小さな距離の範囲で距離Lを変化させる。又は、周期1/fに対して小さな範囲で遅延時間を変化させるようにしてもほぼ同様の効果を得ることができる。
また、ここまでの説明では遅延時間t0′と、第1センサ11と第2センサ12との間の距離L(=|Vg|・t0)を決定する配置決定時間t0とを同一とした場合について説明したが、遅延時間としては、第2の整数n′を任意の整数として次式を満たすt0′を用いても良い。
つまり、第2センサ12の受信信号に対して、遅延時間t0′を付加し、第1センサ11の受信信号と線形和をとる。この場合、第2の整数n′が奇数のとき両者の和をとり、第2の整数n′が偶数のとき両者の差をとることにより、時間軸上で重なり合う時間領域については、後方波受信信号を抑制することができる。
第2の整数n′を用いてt0とは異なる遅延時間t0′を採用する場合には、同時に前方波の強調を行うための条件は、Vg>Vphのとき式(19)となる。また、Vph>Vgのとき式(20)となる。これらは、t0=t0′の場合の式(8)や式(15)に対応する式である。
なお、第1の整数nと第2の整数n′とが異なる場合は、例えばn′をnから減じて行くに従って、前方波の受信信号に関して、線形和をとる際に時間軸上で、両者が重なり合う時間をより長くすることができるようになり、その結果、前方波の受信信号の振幅を増幅、強調する時間を増やすことができる。しかしながら、n′をnから減じて行くに従って、後方波の受信信号に関しては、線形和をとる際に時間軸上で両者が重なり合う時間が短くなって行くため、後方波の受信信号を消去、抑制できる時間領域は短くなって行くことになる。即ち、第1の整数nと第2の整数n′とが異なる場合は、後方波消去と前方波増大の両方が完全ではない。しかし、第2の整数n′の選択によって後方波消去と前方波増大の軽重を任意に選択することができる。つまり、受信信号のSN比の改善方法の選択肢の幅を広げる効果を奏する。
〔加算優先〕
次に、第1センサ11と第2センサ12とで受信される前方波を理想的には完全に重ね合わせてその振幅を(センサ1個の場合の)2倍にする方法を説明する。加算優先の場合も、第1センサ11と第2センサ2とを式(2)の距離Lの間隔を空けて設置するのは、前述の減算優先の場合と同様である。
前方波は、まず、最初に第1センサ11に到達(波束先端の到達時刻をt=0とする)して受信され、その後、第2センサ12に到達(波束先端の到達時刻t=t0)して受信される。したがって、遅延時間を配置決定時間と同じ(t0=t0′)とした場合、遅延時間の付加の処理によって、第1センサ11の受信信号を遅延時間t0分の時間遅らせた遅延信号と、第2センサ12の受信信号とは時間軸上で同一時刻に重なることになる。
まず最初に、群速度Vgが位相速度Vphよりも速い場合について説明する。この場合には、式(2)及び式(3)で定まる距離L離して第1センサ11と第2センサ12とを設置する。第1の整数nが奇数の場合、第1センサ11と第2センサ12とで受信された前方波の位相はお互いに反転している。つまり、第1センサ11で受信された受信信号に遅延時間t0を与えた遅延信号と、第2センサ12の受信信号とは位相差がπとなっている。
そのため、これらの信号の差を取ることによって、受信信号を増幅、強調することができる。
波束の受信信号の形(波束の包絡線の形)が、第1センサ11と第2センサ12とで同一であって変形しないとの近似が十分に成り立つ場合、原理的にはセンサ1個の場合と比較して2倍の振幅の受信信号を得ることができる。
また、第1の整数nが偶数の場合は、第1センサ11の受信信号に遅延時間t0を付加した遅延信号と、第2センサ12で受信した受信信号との和を取ることで、前方波の振幅を強調することができる。つまり、第1の整数nが偶数の場合、第1センサ11の遅延信号と第2センサ12とで受信された信号の位相は一致する(位相差0)ため、両者の和を取ることによって、前方波に関しては、受信信号の振幅を増大させ、強調することができる。
以上述べた前方波の受信信号の強調は、位相速度Vphと群速度Vgとが異なる場合、両者がいかなる値であっても行うことができる。また更に、上記の様な前方波の強調を実施した場合に、同時に後方波の受信信号に対して、相殺、抑制を行うこともできる。
そのためには、遅延時間t0の2倍が周期1/fの半整数倍であるような波束を用いれば良い。すなわち、mを0以上の整数として式(6)又は式(8)を満たすような波を選択することとなる。なお、この場合、第1センサ11と第2センサ12で受信する後方波の受信信号は線形和をとる際に時間軸上で完全には重ならないため、後方波を全時間にわたって完全に消去することはできない。
上記の内容を詳細に説明する。式(6)又は式(8)を満たすような波の受信に関して、式(3)の配置決定時間t0を遅延時間とし第1センサ11の受信信号をt0遅延させることによって、第1の整数nの偶数/奇数に関わらず、線形和(nが偶数のとき和/nが奇数のとき差)をとることによって、後方波の受信信号については、第1センサ11の遅延信号と第2センサ12の受信信号とについて、両者が時間的に重なる領域で相殺させ、抑制、消去することができる。
後方波の受信信号に関しては、その継続時間が2・t0を超える場合、遅延時間t0付加後に時間軸上で両者が重なる時間領域が存在する。一方、受信信号の継続時間が2・t0以下である場合は、遅延時間t0付加後に両受信信号の重なる時間領域は存在しない。
ここで、前方波の理想的には完全な重ね合わせ(信号の継続時間全体にわたり位相差0で和を取る)と、後方波の位相差πでの重ね合わせ、つまり時間的に重なる領域については振幅の相殺・抑制を同時に実現するための具体的条件について再度整理する。上記の式(3)と式(7)を式(6)に代入して整理すると、次式を得る。
つまり、式(21)を満たすような位相速度Vphと群速度Vgとの関係を満たす波を選択して利用することにより、受信に際して、前方波の受信信号の継続時間を時間軸上で一致させて、且つ線形和によって強調し、更に同時に後方波の受信信号については、時間軸上で重なる領域について、信号(振幅)を抑制することができる。なお、このとき、センサ間隔Lは次式となる。
理論的には後方波を完全に重ね合わせて、且つ後方波を可能な限り空間的に重ね合わせて相殺するためには、第1センサ11と第2センサ12との間の距離L(=|Vg|・t0)は、波長λに対して可能な限り短いものが望ましい。式(22)より、距離L(=|Vg|・t0)の最小値は(n,m)=(1,0)の時であり、次式のように表せる。
また、(n,m)=(1,0)の時の位相速度Vphと群速度Vgとの関係は、上記の式(21)より次式により表せる。
つまり、群速度Vgが位相速度Vphの3倍の場合であることが分かる。波長λで表した距離L(=|Vg|・t0)について、短い方からいくつかの場合についてn,m,Vg,t0,Vg/Vphの関係は、図5に示すようになる。
なお、式(6)の条件に代えて式(12)の条件を課すことによって、第1センサ11の遅延信号と第2センサ12の受信信号とにおける後方波受信信号の位相を合わせ、時間的に重なる領域については、強調する(位相差0で和をとる、又は位相差πで差をとる)ことも可能である。
ここから、位相速度Vphが群速度Vgよりも速い(Vph>Vg)場合について説明する。位相速度Vphが群速度Vgよりも速い場合も、遅延時間t0が式(14)を満たす時間に波束が進行する距離L(=|Vg|・t0)の間隔を空けて被検査物10(長尺部材)の軸方向に第1センサ11と第2センサ12とを設置する点は同じである。
これにより、位相速度Vphよりも群速度Vgが速い場合(Vph<Vg)と同様の制御、すなわち、第1センサ11の受信信号に遅延時間t0を付加して第2センサ12の受信信号との線形和演算を実施することにより、前方波の受信信号の完全な重ね合わせ(信号の継続時間を一致させ且つ位相差0で和、又は位相差πで差を取る)を実現することができる。このセンサの配置と信号処理とは、位相速度Vphと群速度Vgとが異なる場合、両者が如何なる値であっても行うことができる。また更に、このような前方波の強調を実施した場合に、後方波に対する感度の抑制(受信信号の低減、抑制)を同時に行うこともできる。
そのためには、遅延時間t0の2倍が、周期1/fの半整数倍であるような波を選択すれば良い。すなわち、mを0以上の整数として式(6)を満たすような波を選択することとなる。なお、この場合、第1センサ11と第2センサ12との後方波は、時間的には完全には重ならないため、完全に相殺、消去することはできない。
以上の条件式を整理すると、式(7)と式(14)とを式(6)に代入することにより次式を得る。
つまり、式(25)を満たすような位相速度Vphと群速度Vgとの関係を満たす波(送信波としての波束)を選択して利用することにより、受信に際して、理論的には完全な前方波の重ね合わせと後方波については、感度の抑制(位相差0での差、又は位相差πでの和)を実現することができる。波長λで表した距離L(=|Vg|・t0)について、n,mの小さい方からいくつかの場合についてn,m,Vg,t0,Vg/Vphの関係は、図7に示すようになる。
なお、式(6)の条件に代えて式(12)の条件を課すことによって、第1センサ11の遅延信号と第2センサ12の信号とにおける後方波の受信信号の位相を一致させ、時間的に重なる領域については強調する(位相差0での和、又は位相差πでの差)処理を行うことも可能である。以上説明した前方波を理想的には完全に重ね合わせて強調する方法についての条件と関係式について図9に示す(加算優先)。
なお、上記の距離L及び遅延時間は、必ずしも厳密な値に設定しなくても良い。例えば、後方波の消去や前方波の位相の重ね合わせに大きな影響を与えない範囲において、受信する波の波長に対して小さな距離の範囲で距離Lを変化させる。又は、周期1/fに対して小さな範囲で遅延時間を変化させるようにしても良いことについては、上記の減算優先で説明したのと同じである。
また、第2の整数n′を任意の整数とした遅延時間t0′(式(18))を用いても良いことも同じである。つまり、第1の整数nと第2の整数n′とが異なる場合は、前方波増幅と後方波消去の両方が完全ではない。しかし、第2の整数n′の選択によって前方波増幅と後方波消去の軽重を選択することができる。つまり、受信信号のSN比の改善方法の選択肢の幅を広げる効果を奏する。
〔具体例1〕
本実施形態の受信方法の遅延時間t0′及び距離L、線形和の処理等の具体例について説明する。なお、以下の全ての具体例において、減算優先又は加算優先を例にとって説明するため、遅延時間t0′は配置決定時間t0に等しくなっている。図10に、真空中における直径10mmのスチール製円柱形中実ロッド中のガイド波F(1,1)モードの分散曲線の計算結果を示す。
ガイド波とは、物理的な境界により形成された導波路(ロッド、パイプ、平板、固体表面や固体表面の突起部等)に沿って伝搬する弾性波のことであり、一般に、多モード、分散性有(位相速度の周波数依存性がある)といった特徴を持つ。ガイド波Fモードとは、円柱形の被検査物10(長尺部材)において中心軸方向に伝搬する弾性波の一種で、軸に対して非対称に振動するモードを意味する。図10の横軸は周波数、縦軸は音速であり、破線は位相速度Vph、実線は群速度Vgを表している。図10に示す範囲では、位相速度Vphよりも群速度Vgの方が速い。図11に、図10に示す分散曲線を計算するのに用いたパラメータを示す。スチール材料の密度を7860kg/m3、縦波音速を5900m/s、横波音速を3200m/sとした。以下このガイド波の波束を受信する例について説明する。
周波数f=110kHzの時の位相速度Vphは式(26)群速度Vgは式(27)に示す値になる。
したがって、両者の比は約1.4となり、図5に示す(n,m)=(1,2)の条件に対応することが分かる。また、式(1)に位相速度Vphと周波数fとを代入することにより、波長λはλ=21mmとなる。そのため、距離L(=|Vg|・t0)と遅延時間は、それぞれ次式に示す値になる。
本具体例においては、第1センサ11と第2センサ12との距離Lを37mmに設置し、遅延時間を12μsとすれば良いことが分かる。第1センサ11と第2センサ12とに、前方よりF(1,1)モード110kHzの波束が到来した場合、同時に後方より同じモード、同じ中心周波数の波束が到来したとしても、第2センサ12の受信信号に12μsの遅延時間を付加し、第1センサ11の受信信号と和を取る信号処理を行うことで、後方波の受信信号を消去、抑制し、同時に前方波の受信信号を増幅、強調することができる。
この場合、前方波は、遅延時間を付加した後の第2センサ12の受信信号と第1センサの受信信号とにおいて、時間的には2・t0=24μずれることとなる。したがって、もし受信信号の継続時間が24μsを越えていれば両者は時間的に重なる領域が存在し、その領域では信号強度が強調される。
継続時間が24μsを越える条件は、前方波(波束)の空間的な幅として次式に示す2・Vg・t0の幅を超えることに対応する。
前方波の幅が74mmより十分大きい場合、例えば幅が420mm(=20・λ)であれば、この波による受信信号の継続時間tcは130μsとなる。
したがって、上記の信号処理によって継続時間tcから24μsを差し引いた106μsの時間にわたって前方波が位相差0で足し合されることとなり、この領域では前方波が強調されることとなる。一方、後方波は、上記の信号処理によって(継続時間tcの全体にわたって位相差πで足し合されるため)相殺、消失する。
以上の様に、特定のモード、特定の周波数の送信波を選択し、距離L(=|Vg|・t0)だけ離して第1センサ11と第2センサ12とを設置し、遅延時間t0′(この例ではt0′=t0)を設定することによって、後方波の影響を消去すると共に前方波の信号強度を増大させることが可能になる。この受信方法によって、位相速度Vphと群速度Vgとが異なる場合でも受信信号のSN比を改善させることができる(減算優先)。
また、同じセンサ配置において、同じ110kHzのF(1,1)モードの送信波の波束を受信するに際し、第1センサ11の受信信号に12μsの遅延時間を付加し、第2センサ12の受信信号との差を取ることにより、前方波を理論的には完全に重ねて振幅が約2倍の振幅とし、且つ後方波の振幅を時間的に重なる領域について消去、減少させることもできる(加算優先)。
〔具体例2〕
図12に、真空中における直径10mmのスチール製円柱形中実ロッドのガイド波L(0,1)モードの分散曲線の計算結果を示す。Lモードとは、円柱形の被検査物10(長尺部材)において中心軸方向に伝搬する弾性波の一種で、軸対称に振動するモードであり、振動変位の成分としてロッドの軸方向と動径方向のみを有する振動を意味する(ロッドの周方向の振動成分は0)。図12の横軸と縦軸の関係は図10と同じである。また、分散曲線の計算に用いたパラメータも図11に示した値と同じである。
Lモードについて、周波数f=275kHzの時の位相速度Vphは式(32)、群速度Vgは式(33)に示す値になる。
したがって、両者の比は約0.6となり、図7に示す(n,m)=(1,2)の条件に対応することが分かる。また、式(1)に位相速度Vphと周波数fとを代入することにより、波長λはλ=21mmとなる。そのため、距離L(=|Vg|・t0)と遅延時間は、それぞれ次式に示す値になる。
本具体例においては、第1センサ11と第2センサ12との距離Lを12mmに設置し、遅延時間を4.7μsとすれば良いことが分かる。第1センサ11と第2センサ12とに、前方よりL(0,1)モード275kHzの波束が到来した場合、同時に後方より同じモード、同じ周波数の波束が到来したとしても、第2センサ12の受信信号に4.7μsの遅延時間を付加し、第1センサ11の受信信号と和を取る信号処理を行うことで、後方波の受信信号の消去、抑制と同時に、前方波の受信信号の増幅、強調により、SN比を向上することができる。
この場合、前方波は、遅延時間を付加した後の第2センサ12の受信信号と第1センサの受信信号とにおいて、時間的には2・t0=9.4μsずれることとなる。したがって、もし受信信号の継続時間が9.4μsを越えていれば両者は時間的に重なる領域が存在し、その領域では信号強度が強調される(位相差0で足し合される)。
継続時間が9.4μsを越える条件は、前方波(波束)の空間的な幅として次式に示す2・Vg・t0の幅を超えることに対応する。
前方波の幅が24mmより十分大きい場合、例えば幅が320mm(=20・λ)であれば、この波による受信信号の継続時間tcは120μsとなる。
したがって、上記の信号処理によって継続時間tcから9.4μsを差し引いた110μsの時間にわたって前方波が位相差0で足し合されることとなり、この領域では前方波が強調されることとなる。一方、後方波は、上記の信号処理によって(継続時間tcの全体にわたって位相差πで足し合されるため)相殺、消失する(減算優先)。
また、同じセンサ配置において、同じf=275kHzのL(0,1)モードガイド波の波束受信に際し、第1センサ11の受信信号に9.4μsの遅延時間を付加し、第2センサ12の受信信号と差を取ることにより、前方波束受信信号を理論的には完全に重ねて振幅が2倍の信号振幅とし、且つ後方到来波の信号振幅を時間的に重なる領域について消去、減少させることもできる(加算優先)。
〔具体例3〕
図13に、真空中における直径10mmのスチール製円柱形中実ロッドのガイド波L(0,2)モードの分散曲線の計算結果を示す。図13の横軸と縦軸の関係は図10と同じである。また、分散曲線の計算に用いたパラメータも図11に示した値と同じである。
L(0,2)モードについて、周波数f=460kHzの時の位相速度Vphは式(38)、群速度Vgは式(39)に示す値になる。
したがって、両者の比は約0.71となり、図7に示す(n,m)=(1,3)の条件に対応することが分かる。また、式(1)に位相速度Vphと周波数fとを代入することにより、波長λはλ=13mmとなる。そのため、距離L(=|Vg|・t0)と遅延時間は、それぞれ次式に示す値になる。
本具体例においては、第1センサ11と第2センサ12との距離Lを16mmに設置し、遅延時間を4.4μsとすれば良いことが分かる。第1センサ11と第2センサ12とに、前方よりL(0,2)モード460kHzの波束が到来した場合、同時に後方より同じモード、同じ周波数の波束が到来したとしても、第2センサ12の受信信号に4.4μsの遅延時間を付加し、第1センサ11の受信信号と和を取る信号処理を行うことで、後方波の受信信号については消去、抑制し、前方波の受信信号については増幅、強調することでSN比を向上することができる。
この場合、前方波は、遅延時間を付加した後の第2センサ12の受信信号と第1センサの受信信号とにおいて、時間的には2・t0=8.8μずれることとなる。したがって、もし受信信号の継続時間が8.8μsを越えていれば両者は時間的に重なる領域が存在し、その領域では信号強度が強調される。
継続時間が8.8μsを越える条件は、前方波(波束)の空間的な幅として次式に示す2・Vg・t0の幅を超えることに対応する。
前方波の幅が33mmより十分大きい場合、例えば幅が260mm(=20・λ)であれば、この波による受信信号の継続時間tcは62μsとなる。
したがって、上記の信号処理によって継続時間tcから8.8μsを差し引いた53μsの時間にわたって前方波の受信信号が位相差0で足し合されることとなり、この領域では前方波の受信信号が強調されることとなる。一方、後方波の受信信号は、上記の信号処理によって(継続時間tcの全体にわたって位相差πで足し合されるため)相殺、消失する。
〔具体例4〕
本具体例においては、真空中における外形30mm、内径10mmのアルミニウム製円筒形パイプにおいて、ガイド波L(0,2)モードの波束を受信した場合について示す。この場合、音速計算(アルミニウム中のバルク縦波音速6400m/s、バルク横波音速3040m/s)によると、周波数f=150kHzの時の位相速度Vphは式(44)に、群速度Vgは式(45)に示す値になる。
したがって、両者の比は約0.78となり、周波数f=150kHzのL(0,2)モードは、図7に示す(n,m)=(1,4)の条件に対応することが分かる。また、式(1)に位相速度Vphと周波数fとを代入することにより、波長λはλ=37mmとなる。そのため、距離L(=|Vg|・t0)と遅延時間は、それぞれ次式に示す値になる。
本具体例においては、第1センサ11と第2センサ12との距離Lを65mmに設置し、遅延時間を16μsとすれば良いことが分かる。第1センサ11と第2センサ12とに、前方よりL(0,2)モード150kHzの波束が到来した場合、同時に後方より同じモード、同じ周波数の波束が到来したとしても、第2センサ12の受信信号に16μsの遅延時間を付加し、第1センサ11の受信信号と和を取る信号処理を行うことで、後方波の受信信号を消去、抑制し、前方波の受信信号を増幅、強調することにより、SN比を向上することができる。
この場合、前方波に関しては、遅延時間t0を付加した後の第2センサ12の受信信号と第1センサの受信信号とにおいて、時間的には2・t0=32μずれることとなる。したがって、もし受信信号の継続時間が32μsを越えていれば両者は時間的に重なる領域が存在し、その領域では信号強度が強調される。
継続時間が32μsを越える条件は、前方波(波束)の空間的な幅として次式に示す2・Vg・t0の幅を超えることに対応する。
前方波の幅が130mmより十分大きい場合、例えば幅が740mm(=20・λ)であれば、この波による受信信号の継続時間tcは170μsとなる。
したがって、上記の信号処理によって継続時間tcから32μsを差し引いた約140μsの時間にわたって前方波の受信信号が位相差0で足し合されることとなり、この領域では前方波の受信信号が強調されることとなる。一方、後方波の受信信号は、上記の信号処理によって(継続時間tcの全体にわたって位相差πで足し合されるため)相殺、消失する(減算優先)。
以上説明したように本実施形態の受信装置100によれば、位相速度Vphと群速度Vgとが異なる場合でも、後方波の消去及び前方波の振幅の増大を同時に行えるので受信信号のSN比を向上させることができる。なお、実施形態では、送信機が第1センサ11よりも前方側に配置されているものとして説明したが、送信機の位置はこの例に限定されない。例えば、送信機は、被検査物10の第2センサ12側の後部に設置しても良い。
また、第1センサ11と第2センサ12の具体例については言及しなかったが、これらのセンサは送信機と同様に圧電素子探触子を用いることができる。圧電素子探触子を用いる場合、先行技術文献にもあるように複数個の探触子を1組のセンサとして用いるのが通例である。またその他、磁歪センサを用いる方法、電磁超音波センサ(Electromagnetic acoustic transducer,EMAT)を用いる方法、レーザー超音波法等、種々の手法が知られており、原理的にはどのような組み合わせでこれらのセンサを利用しても良い。
また、実施形態では、被検査物10の形状を長尺部材の例を説明したが、その形状は何でも良い。例えば、2次元、3次元的な広がりを持つものでも良い。例えば平板にラム波やSH波等の送信波や、バルク部材の表面に対するレイリー波や表面SH波の送信波を送信する場合に、上記の実施形態で説明した受信方法を適用することができる。
また、被検査物10として個体を例にしたが、対象物は、固体、液体、気体の何れで有っても良い。また、それらを組合せたもので有っても良い。また、送信、受信される波は、弾性波に限らず、位相速度Vphと群速度Vgとが異なる種々の波動を用いることができる。
また、受信装置100は、遅延時間t0′が既知の状態で動作を開始する例で説明したが、遅延時間t0′を自身が計算して求めるようにしても良い。図14に、受信信号から配置決定時間t0を決定し、更に遅延時間t0′を計算するようにした受信装置200の機能構成例を示す。
受信装置200は、受信部50と、配置決定時間計算部60と、遅延時間計算部70とを具備する点で受信装置100と異なる。受信部50は、受信する波束から群速度Vgと位相速度Vphとの情報を測定して、配置決定時間計算部60に出力する。配置決定時間計算部60は、波束の群速度Vgと位相速度Vphとの差分と波束の中心周波数信号の半波長とに基づき、第1センサ11と第2センサ12の配置を決定するための配置決定時間t0を計算して外部に出力する。
受信装置200を使用するユーザは、配置決定時間t0から距離Lを計算(式(2))し、第1センサ11と第2センサ12とを距離Lの間隔を空けて設置する。遅延時間計算部70は、受信部50で受信した波束の群速度Vgと位相速度Vphとの差分と波束の中心周波数の波の半波長とに基づき遅延時間t0′を計算する。遅延時間t0′を計算して求めた後の動作は、受信装置100と同じである。
なお、群速度Vgと位相速度Vphの情報は、外部から遅延時間計算部70に与えても良い。また、遅延時間t0′の計算に必要な第2の整数n′は、遅延時間計算部70に定数として持たせて置いても良いし、群速度Vg等と同様に外部から入力するようにしても良い。
また、配置決定時間t0を計算した後に第1センサ11と第2センサ12とを距離Lの間隔を空けて設置するステップは省略することが可能である。そのステップを省略する場合は、波のモードや周波数を種々変えて計測し、予め設定した距離Lに|Vg|・t0が一致するような波(モードや周波数)を選択すれば良い。
また、上記の実施形態は、原理的に弾性波に限らず位相速度Vphと群速度Vgとが異なる波の受信に一般に適用できるものである。このように本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。