本実施形態に係るシンチレータプレートは、複数のシンチレータ結晶体を有する。複数のシンチレータ結晶体のそれぞれは、上述の相分離構造体であり、第1の相の延伸方向にシンチレーション光が導波される。シンチレータプレートにおいて、複数のシンチレータ結晶体は、各シンチレータ結晶体の導波方向を放射線入射側に延長した延長線同士が交差するように配置される。放射線撮像時は、延長線同士が交差する領域周辺に放射線源の焦点を配置することで、放射線の入射方向とシンチレーション光の導波方向とのズレを小さくすることができる。よって、このシンチレータプレートを検出部と組み合わせて放射線検出器としたときに、放射線の入射方向とシンチレータの厚み方向とのズレがあっても、解像度の低下を軽減することができる。
以下、図面などを用いて本実施形態をより具体的に説明する。
図1(a)に本実施形態の放射線検出器100の模式図を示す。放射線検出器100は、放射線をシンチレーション光に変換するシンチレータプレート101と、シンチレータプレートからのシンチレーション光を検出する検出部103とを備える。シンチレータプレート101は、複数のシンチレータ結晶体102(102a〜g)を有する。シンチレータ結晶体102のそれぞれは、複数の第1の相202と第1の相の周りに位置する第2の相203とを備え、第1の相202の延伸方向にシンチレーション光が導波される。
検出部103は、基板104と、基板に2方向に配列された受光素子105を有し、受光素子毎にその受光素子の受光面に入射した光の強度を検出する。
ここで、放射線発生源が放射線検出器100の中心部の法線上にある場合では、円錐状に放射された放射線(コーンビーム)106は、放射線検出器100の中心部では、シンチレータ結晶体102dに垂直に入射する。一方、中心部からの距離が長くなるに従い、放射線の入射方向はシンチレータ結晶体に対して垂直からずれ、斜めに入射することになる。例えば、放射線発生源と受光素子105との距離を50cm、中心部との距離Hが10cmの周辺部における放射線106のシンチレータ結晶体102への入射角度は約5.7度になる。このとき、シンチレータ結晶体102aの放射線発生源側の表面に放射線106が入射する位置と受光素子側の表面に放射線106が到達する位置とのずれ量Wは、シンチレータの厚みTを200μmとすると、200μm×tan5.7度≒20μmとなる。尚、放射線発生源側の表面における放射線の入射位置と、受光素子側の表面における放射線の到達位置との距離のことを、以下、発光点深さによる位置ずれ量または単に位置ずれ量と呼ぶことがある。つまり、光がシンチレータ表面に対して垂直に導波される場合、幅が無視できる程度に微細な1本の放射線ビームであっても、光に変換される位置(発光点108)の深さによって、シンチレーション光が受光素子の受光面に入射する位置は20μmずれる。このずれが周辺部における解像度を中心部における解像度よりも低下させる。
本実施形態では、シンチレータ結晶体102の第一の相の延伸方向である中心軸107(107a、d、g)が、放射線の入射方向に近づくように、配置位置に応じてシンチレータ結晶体102の中心軸107の角度を変えてタイリングする。これにより、放射線がシンチレータ結晶体102に対して斜めに入射することによる、周辺部の解像度低下を軽減することができる。
尚、シンチレータ結晶体の中心軸107とは、そのシンチレータ結晶体102が有する複数の第1の相202のうち、シンチレータ結晶体102の中心の最も近くに位置する相(中心相と呼ぶことがある)の中心軸とする。
以下、各構成についてより詳細に説明をする。
図2に、シンチレータ結晶体102の具体例の模式図を示す。シンチレータ結晶体102は、複数の第1の相202と、第1の相の周りに位置する第2の相203を有する、相分離構造をとる。シンチレータ結晶体102は第1の面208と第2の面209とを有し、第1の相202は第1の面208から第2の面209へ延伸している。第1の面208は放射線照射面であり、第2の面209は光取り出し面であるとし、放射線は第1の面208から入射し、シンチレーション光は第2の面209から受光素子へ取り出される。第1の相と第2の相の少なくともいずれかは、入射した放射線の少なくとも一部をシンチレーション光に変換する発光相である。また、第1の相202と第2の相203は異なる屈折率を有している。よって、シンチレーション光は屈折率が相対的に高い高屈折率相に閉じ込められながら、第1の面の方向から第2の面の方向へ、第2の面の方向から第1の面の方向へ導波される。シンチレーション光は、シンチレーション光が発生した相内を導波した方が解像度が高いと考えられるため、高屈折率相が発光相として機能することが好ましい。相対的に屈折率の低い低屈折率相は、発光相として機能しても良いし、機能しなくても良い。以下、第1の相202が高屈折率相であり、且つ発光相である場合を例に挙げて説明する。
第1の相202が高屈折率相である場合、光ファイバーのように、シンチレーション光は第1の相の中に閉じ込められながら第1の面208と第2の面209間を導波する。第1の相202は円柱の形状を有する。第1の相202で発生したシンチレーション光のうち、第1と第2の相の境界面に臨界角度以上で入射するシンチレーション光206は、全反射を繰り返しながら第1の相202中を導波方向210に導波され、第1の面208又は第2の面209から出射される。ここで、シンチレーション光の導波方向210は第1の相202の延伸方向(長手方向)であり、円柱の中心軸と平行な方向である。導波する発光の波長よりも第1の相の直径が小さい場合は、シンチレーション光が第1の相202と第2の相203の境界面で反射せずに境界面を透過してしまう成分が多くなってしまう。よって、第1の相の周期204と第1の相の直径205はシンチレーション光の波長よりも大きいことが望ましい。相分離構造を有するシンチレータとして、300nmからの紫外域に発光を有するようなシンチレータを用いることも想定される為、第1の相の直径205は300nm以上であることが望ましい。また、第一の結晶相の直径205が受光素子105の1画素の対角線の長さ(画素サイズ)よりも大きくなってしまうと、1画素内に光を閉じ込める効果が低下してしまうため、第一の結晶相の直径205の上限値は画素サイズよりも小さいことが望ましい。画素サイズは任意の大きさのものを用いることが可能であり、用いる受光素子の画素サイズに応じて第一の結晶相の直径205の好ましい範囲が変化する。以上より、第1の相の直径205は、300nm以上画素サイズ以下の範囲であることが好ましい。尚、上述の光ファイバーのような導波機能を有するシンチレータは、高い解像度(空間分解能ともいう)を有しており、画素サイズが2μm程度の高解像度センサを用いることも可能である。この場合、ファイバーの直径が2μmより大きくなると、隣接する画素に光が漏れてしまう為、第1の相の直径は、2μm以下であることが望ましい。また、第1の相202の形状は円柱に限定されず、例えば、多角柱であってもよい。この場合、第1の相202の一番幅が大きいところの幅(例えば、四角柱であれば対角線の方向における幅)が上述の直径に対応する。
第1の相202は、第1の面208から第2の面209まで直線的に連続していることが好ましいが、途中で途切れたり、枝分かれしたり、複数の結晶相が一体化したり、結晶相の直径が変化したり、直線的でなく非直線部分が含まれたりしても良い。第2の相203は、第1の面208から第2の面209まで連続的に存在していることが好ましく、第1の相同士の隙間を埋めるように配置されていることが好ましい。
尚、第1の相と第2の相との屈折率差は特に問わないが、スネルの法則より、屈折率差が大きい方が臨界角度を小さくできるため好ましい。例えば、低屈折率相の屈折率を高屈折率相の屈折率で除した値(屈折率比と呼ぶことがある)が0.95以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましい。尚、低屈折率相又は高屈折率相の屈折率は、低屈折率相又は高屈折率相の材料の、シンチレーション光の中心波長における屈折率とする。
図2に示したような構成のシンチレータ結晶体として、例えば、共晶相分離構造を有するシンチレータを用いることができる。共晶相分離構造とは、図2に示したような相分離構造体の内、第1の相と第2の相とが共晶体を構成しているもののことを指す。共晶相分離構造体の材料系の一例として、Gdを含有するペロブスカイト型酸化物材料(GdAlO3)と、アルミナ(Al2O3)との共晶相分離構造体が挙げられる。この材料系の共晶相分離構造体は、第1の相(GdAlO3:屈折率2.05)の方が第2の相(Al2O3:屈折率1.79)よりも屈折率が高く、且つ、第1の相がシンチレータとして機能する。そのため、共晶相分離構造体の中でも特に導波性が高い。尚、共晶相分離構造体の場合、第1の相は第1の材料の結晶体、第2の相は第2の材料の結晶体である。第1の相と、第1の相の周りに位置し、第1の相の側面を覆う第2の相との2相を有する共晶相分離構造を形成する上で重要になるのは、第1の相を構成する材料と第2の相を構成する材料との組成比である。図2に示す模式図のような良好な相分離構造を有するシンチレータ結晶体を得るためには、一般的に、第1の相の材料と第2の相の材料とが共晶組成比(例えば、GdAlO3:Al2O3=46:54(mol%))であることが必要である。ただし、第1の相の材料と第2の相の材料との組成比は共晶組成から外れてはならないものではなく、この組成比に対して共晶組成±5mol%の範囲は許容範囲とすることができる。つまり、GdAlO3とAl2O3との共晶相分離構造体を形成したい場合、これらの材料の組成比は、GdAlO3:Al2O3=41:59〜51:49(mol%)とすることが好ましい。また、第1の相の材料と第2の相の材料との組成比が、共晶組成±3mol%の範囲内であることがより好ましい。第1の相の材料と第2の相の材料とが共晶組成比近傍(±5mol%)で混合された融液を用いて、一方向凝固を行うことで、図2のような良質な相分離構造を有する結晶体を得ることができる。一方向凝固の具体的な方法としては、ブリッジマン法等を用いることができる。第1の相の材料と第2の相の材料との組成比が共晶組成±5mol%の範囲を逸脱している場合は、一方の結晶相が先に析出するため、相分離構造形成の観点から、シンチレータ結晶体の良好な相分離構造を乱す要因となる。ただし、第1の相の材料と第2の相の材料との組成比が共晶組成±5mol%の範囲を逸脱している場合であっても、共晶組成±10mol%の範囲であれば、凝固の方法によっては良好な相分離構造を有するシンチレータ結晶体が得られる場合がある。よって、第1の相と第2の相の材料の組成比が共晶組成比±5mol%の範囲外であっても、第1の相と第2の相とが共晶体を構成し、相分離構造体を構成していれば、その構造体は共晶相分離構造体であるとみなす。また、共晶相分離構造体を形成する際に、その融液の組成比が共晶組成比±5mol%の範囲内になかったとしても、第1の材料と第2の材料とのうち過剰な方の材料が先に析出し、残った融液が共晶組成比に共晶組成比±5mol%の範囲内となる場合がある。この場合、凝固の初期は相分離構造が乱れるが、途中から良好な相分離構造が取得できるため、構造が乱れている部分を適宜切り離せばよい。つまり、仕込み値は共晶相分離構造体の組成比と必ずしも一致せず、多少大まかでも良い。
上述したGdAlO3の場合、発光中心の種類によって発光波長が変化する。具体的には、発光中心として、例えば希土類元素であるTb3+、Eu3+、Ce3+を用いることができる。尚、これらのイオンを含有する元素は単体に限定されず、これらの元素を含めば良く、これらの元素を含んだ化合物を発光中心として添加すればよい。また、発光効率を高くするために、GdAlO3中にこれらの発光中心を0.001mol%以上含有していることが好ましい。複数種類の発光中心が添加される場合は、発光中心の総量が0.001mol%以上であればよい。発光中心となる添加元素は第1の相であるGdAlO3のGdサイトを置換するように添加され、添加元素を一般式REで表わすと、Gd1−xRExAlO3とAl2O3の組成比が46:54(mol%)となる。
発光中心としてTb3+を用いた場合、545nm付近に緑色発光ピークを示す。また、Eu3+を用いた場合615nm付近に赤色発光ピークを示す。また、Ce3+を用いた場合、360nm付近にブロードな紫外発光を示す。このように、添加元素を適切に選択することで、様々な発光波長のシンチレータを得ることができる。また、添加元素として、他の希土類元素(Pr、Nd、Pm、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb)を選択することもできる。
シンチレータプレート101は、シンチレータ結晶体102(a〜g)を複数有する。シンチレータ結晶体同士は、タイリングされ、固定されている。固定方法としては、例えば基板(不図示)に複数のシンチレータ結晶体を配置し、基板とそれぞれのシンチレータ結晶体とを固定する方法を用いても良いし、シンチレータ結晶体同士を固定する方法を用いても良いし、両方の方法を併用しても良い。
シンチレータプレート101において、シンチレータ結晶体102は、その中心軸を延長した延長線111(a、d、g)同士が交差するように配置されている尚、シンチレータ結晶体の中心軸の延長線111は、中心相の延伸方向と平行である。
図1(a)に示すように、中心軸同士が交差する交点112は、シンチレータプレートから見て放射線が入射する側(紙面の上方)に位置する。言い換えると、交点112と検出部103との間にシンチレータプレート101が配置されており、交点112とシンチレータプレート101との距離は、交点112と検出部103との距離よりも短い。交点112に放射線源の焦点の少なくとも一部が配置されるように放射線源を配置して計測を行うと、シンチレータ結晶体のそれぞれの導波方向(中心軸107と略一致する)と放射線106の入射方向とのズレを小さくすることができる。尚、すべての中心軸同士が1点で交差する必要はない。また、交点112は厳密な点ではなく、ある程度の面積を有する領域であっても良い。交点112の面積は放射線源の焦点の面積以下であることが好ましく、交点112の一部と放射線源の焦点の一部とが重なるように放射線源と放射線検出器とを配置して計測を行うことが好ましい。
検出部103は、基板104と、複数の受光素子105を有する。受光素子105は、基板104に2つの方向(典型的にはx軸方向とy軸方向)に配列方向を有するように配置されている。受光素子105としては、受光面を有し、その受光面に入射した光の強度を検出することができるものであれば特に問わないが、CCDイメージセンサー、CMOSイメージセンサー等を用いることができる。受光素子105の画素サイズは特に問わないが、20μm以下であると、本実施形態による周辺部における解像度低下を低減する効果が特に大きく、10μm以下であるとより大きいため好ましい。尚、図1においてシンチレータ結晶体102と受光素子105とは接しているが、両者は接していなくても良い。例えば、シンチレータを透過した放射線が受光素子105に入射しないように、シンチレータ結晶体102と受光素子105との間に保護膜を配置しても良い。また、検出部103としては、一枚の基板104に配置された複数の受光素子105を用いることが望ましいが、複数の受光素子が配置された基板を複数枚組み合わせて用いることも可能である。
上述のような相分離構造を有するシンチレータを用いると、高い解像度を実現する放射線検出器を得ることができる。一方、X線が斜めに入射することによる解像度の低下は、高い解像度を有する放射線検出器のほうが顕著に表れる。すなわち、100μm程度の解像度の放射線検出器では相対的に無視できていたような微小な入射角度の分布が、2μm程度の解像度の放射線検出器では、分解能の低下となって顕著に観察されるようになる。
ここで、本実施形態におけるシンチレータ結晶体102のタイリングについて、より詳細に説明をする。本実施形態では、発光点深さによる位置ずれ量Wが画素サイズよりも小さくなるようにシンチレータ結晶体102をタイリングする。
まず、シンチレータ結晶体102のサイズについて説明する。図1(a)に示すように、シンチレータ結晶体102に入射した放射線106は、発光点108を形成する。簡略化の為、上部と下部で発生する発光点を考える。シンチレータ結晶体102は理想的な光導波特性を有する為、発光点108で発生したシンチレーション光は、中心軸107に沿って導波される。よって、各々のシンチレータ結晶体の中心のように、放射線106の入射方向が中心軸107と一致する場合には、上部の発光点で生じたシンチレーション光と下部の発光点で生じたシンチレーション光とは、受光素子上の同じ位置に入射する。よって、得られる放射線画像は、シンチレータ結晶体表面に実際に入射した放射線の強度分布の像と一致する。
一方、各々のシンチレータ結晶体の端部のように、放射線106がシンチレータ結晶体102の中心軸107と角度θ1を成して入射する場合には、上部で生じたシンチレーション光と下部で生じたシンチレーション光とは、受光素子上の異なる位置に入射する。よって、得られる放射線画像は、シンチレータ結晶体表面に実際に入射した放射線の強度分布が発光点の深さによって生じる位置ずれに起因してボケた像となる。発光点の深さによって生じる位置ずれ量Wは、シンチレータ結晶体の厚さをT、各々のシンチレータ結晶体の中心軸と放射線の成す角度をθ1として、W=T×tanθ1となる。シンチレータ結晶体102のサイズRが大きくなる程、θ1が大きくなる為、像のボケ量が大きくなる。よって、本実施形態では、発光点の深さによって生じる位置ずれ量Wが受光素子の画素サイズD以下になるように、シンチレータ結晶体のサイズRを制限する。放射線発生源と放射線発生源とシンチレータ結晶体の放射線入射面(放射線源側の表面のことを指す)との距離をL―T、放射線発生源とシンチレータ結晶体の放射線到達面(受光素子側の表面のことを指す)との距離をLとする。このとき、各シンチレータ結晶体の端部における中心軸とX線との角度θ1=arctan(R/2L)である。よって、発光点深さによる位置ずれ量Wは、W=T×tanθ1=TR/2Lで示される。よって、位置ずれ量Wを画素サイズ以下にするためには、TR/2L≦Dが成り立てばよく、結晶サイズRはR≦2LD/Tが成り立つサイズであればよい。一方、同じ撮像面積を実現するためには、結晶体のサイズRが小さい程シンチレータ結晶体のタイリングにコストがかかる。ずれ量Wを画素サイズより小さくしても、解像度はあまり向上しないため、シンチレータ結晶体のサイズRは、1.6LD/T以上とすることが好ましい。
例えば、シンチレータ結晶体の厚さT=200μm、画素サイズD=2μm、放射線発生源と放射線検出器との距離L=500mmとした場合、受光素子上の位置ずれ量Wを画素サイズD以下にするには、θ1を0.57度以下にする必要がある。R≦2LD/Tより、許容される最大の結晶サイズはR=10mmとなる。但し、結晶サイズとは、画素サイズが規定される方向における結晶の幅のことを指す。画素サイズは対角線の長さで規定されるため、受光素子の配列方向とシンチレータ結晶体の配列方向が一致する場合、結晶サイズは、結晶体の対角線の長さと一致する。
次に、中心軸の角度が異なるシンチレータ結晶体の具体的な並べ方について具体例を挙げて説明をする。シンチレータ結晶体は、その中心軸の延長線111が放射線源の焦点近傍で交差するように配置する。例えば、図3(a)、(b)に示すように、放射線発生源の焦点301が放射線検出器100の中心の法線方向に位置し、シンチレータ結晶体102を正方配列する場合を考える。図3(b)は放射線検出器100を放射線発生源の焦点301側から見た図である。この場合、中心から放射状に複数のシンチレータ結晶体102を配置し、それらの中心軸の延長線同士が放射線発生源の焦点301近傍で交差するようにする。シンチレータ結晶体と受光素子の配列方向はx軸とy軸であり、シンチレータ結晶体102のサイズRはシンチレータ結晶体102の対角距離となる。
図3(a)、(b)に示す矢印はシンチレータ結晶体の中心軸107の傾きの方向を模式的に示すものである。また、矢印の横に示した数字は、シンチレータ結晶体の厚さがT=200μm、画素サイズD=2μm、L=500mm、結晶体のサイズR=10mmとした場合の、それぞれのシンチレータ結晶体の中心軸107の傾きの角度を示すものである。尚、中心軸の傾きの角度とは、各シンチレータ結晶体における、中心軸と厚さ方向との角度とする。放射線検出器100の中心位置とそれぞれのシンチレータ結晶体102の中心位置の距離をH(mm)とすると、それぞれのシンチレータ結晶体の中心軸107の傾き角度はtan−1[H/L]となる。
一方、図3(c)、(d)に示すように、放射線発生源の焦点301が放射線検出器100の中心からずれた位置の法線方向に位置する場合を考える。図3(d)は放射線検出器100を放射線発生源の焦点301側から見た図である。この場合では、中心からずれた位置から放射状に複数のシンチレータ結晶体102を配置し、各シンチレータ結晶体の中心軸107が放射線発生源の焦点近傍で交差するようにする。図3(d)に示す矢印は各シンチレータ結晶体の中心軸107の傾きの方向を模式的に示すものであり、示した数字は、R=10mm、L=500mmの場合におけるシンチレータ結晶体の中心軸107の傾きの角度を示すものである。
このように、シンチレータ結晶体のサイズRと、最適な中心軸の傾きの角度とは放射線発生源と放射線検出器との距離や配置関係によって変わる為、放射線発生源の配置に合わせてシンチレータ結晶体をタイリングすることが好ましい。この場合、好ましい放射線検出器と放射線発生源との配置を放射線検出器本体や説明書等に記載しておくと、ユーザーが記載に合わせて放射線検出器と放射線源とを配置、計測ができるため好ましい。
またシンチレータ結晶体の配列方法は、図3に示したような、正方形の結晶体の正方配列に限定されず、例えば、交互にずらした正方配列や、六角形に切り出した結晶体の六角配列にすることも可能である。
図1(b)は、厚みが異なるシンチレータ結晶体を有する放射線検出器の模式図である。放射線がシンチレータ結晶体の厚さ方向に対して斜めに入射すると、シンチレータ内における放射線の光路長が長くなる。光路長のばらつきにより放射線の阻止能のばらつく為、発光量のばらつきが生じ、結果として感度の不均一性に繋がる。よって、感度の均一性を高めるには、放射線の入射方向とシンチレータ結晶体の厚さ方向とのなす角度に応じて、シンチレータの厚さを変化させ、光路長のばらつきを低減することが好ましい。シンチレータ結晶体の中心軸は、X線の入射方向とほぼ一致すると考えられるため、シンチレータ結晶体の中心軸とシンチレータ結晶体の厚さ方向とがなす角度に応じてシンチレータの厚みを変えることが好ましいともいえる。具体的には、シンチレータ結晶体の中心軸とシンチレータ結晶体の厚さ方向とがなす角度が異なる2つのシンチレータ結晶体の厚みを比較したとき、角度が大きい方のシンチレータの方が、角度が小さい方のシンチレータよりも薄いことが好ましい。シンチレータ結晶体の中心軸とシンチレータ結晶体の厚さ方向とがなす角度が大きいほど、シンチレータ結晶体の厚みが薄いことがより好ましいが、シンチレータ結晶体の厚みは段階的に変化させても良い。例えば、シンチレータ結晶体の中心軸とシンチレータ結晶体の厚さ方向とがなす角度が0度と0.5度のシンチレータの厚みを300μm、1度と1.5度のシンチレータの厚みを300−xμm(ただし、xは正の数値)としても良い。
また、図1(b)の様にシンチレータ結晶体の厚みを変える代わりに、発光量のバラつきを画像処理により補正しても良い。入射した放射線の全部がシンチレータ結晶体に吸収されるのに十分な光路長がない場合、光路長と発光量とは比例する。よって、放射線の入射角が大きいシンチレータ結晶体での発光量は相対的に多くなる。よって、検出結果に対して入射角に応じた発光量補正を行う演算装置を検出器と接続、又は検出器に組み込んでも良い。実際の入射角が不明な場合であっても、中心軸の延長線の交点に放射線源の焦点が配置されるものとみなして入射角を決めて補正を行うことができる。
また、図1を見ると分かるように、周辺部ではシンチレーション光は斜めに導波される。よって、受光素子表面に形成される光の強度分布は、シンチレータ結晶体の受光素子側表面に形成される放射線の強度分布を、中心部のシンチレータ結晶体(中心軸の傾きの角度が最も小さい結晶体)を中心として拡大されたような強度分布である。この拡大率は、放射線発生源と放射線検出器の放射線源側のシンチレータ表面との距離L−Tを放射線発生源と受光素子側のシンチレータ表面との距離をLで除した値((L−T)/L)であり、L>>Tが成り立つ撮像であれば無視できる程度である。しかしながら、TがLの数%程度以上となる場合は、検出結果に対して、中心領域を中心とした縮小処理を行う演算装置を検出器と接続、又は検出器に組み込んでも良い。
本実施形態の放射線検出器は、放射線源とともに放射線計測システムを構成することができる。放射線検出システムにおいて、放射線源と放射線検出器との相対位置は固定されていても良いし、移動可能に構成されていても良いが、計測時にはシンチレータ結晶体のサイズRと中心軸の傾き角度との設計値にあった相対位置に配置されることが好ましい。
以下、本実施形態の具体的な例を挙げて説明をする。
本実施例では、シンチレータ結晶体の製造方法の具体例及び製造したシンチレータ結晶体の中心軸と放射線の入射方向とのなす角度が解像度に与える影響について調べた結果にについて説明をする。
本実施例では、各々のシンチレータ結晶体は、複数の第1の相の材料としてGdAlO3を、第2の相の材料としてAl2O3を有する共晶相分離シンチレータ結晶体であり、Tb3+を発光中心として含有する。このような共晶相分離シンチレータ結晶体の製造方法について説明をする。
まず、GdAlO3に対してTb3+を8mol%添加した材料とAl2O3との組成比が、46:54(mol%)になるように、Gd2O3、Tb4O7、Al2O3、を評量した。そして、これらの粉末を充分に混合し。これを原料粉末とした。これらの原料粉末をIrるつぼに入れて、誘導加熱によりるつぼを1700℃まで加熱し、試料全体を溶解させた。そして、試料全体が溶解した後30分保持してから、18mm/hの速度で一方向凝固を行うことで試料を育成した。このようにして作製した試料を厚さ250μmで切り出し、両面を研磨して試料とした。試料を走査型電子顕微鏡で観察したところ、この試料が、Al2O3相中に直径約1.2μmの無数のGdAlO3柱状構造体が埋め込まれたような相分離構造体であることが確認された。この試料は、X線照射により、545nm付近に緑色発光ピークを示した。
ここで、まず、X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸が成す角度がX線画像の解像度に与える影響について評価した。評価には8.2μm周期の金とシリコンからなるライン&スペースの格子を被写体として用い、そのX線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸が成す角度と解像度との関係を評価した。評価系としては、シンチレータ結晶体の光取り出し面をレンズで拡大して二次元受光素子であるCCD(charge couple device)に結像させることで、1画素の解像度が0.65μmとして取得可能なX線撮像系を用いた。放射線源としては、タングステン管球のX線源を用い、X線源と放射線検出器との距離はL=25cmとし、40kV、0.5mA、Alフィルター有りの条件で得られるX線を撮像に用いた。
図4(a)に、X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸とを一致(0度)させたときのX線画像を示す。また、その強度のラインプロファイルについて図5(a)に示す。図5(a)に示すように、X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸とを一致させると、8.2μmのパターン(122ラインペア/mmに相当)を明瞭に解像できた。また、そのContrast Transfer Function(CTF)値を、ライン撮像領域の明部(Imax)と暗部(Imin)を用いてCTF=(Imax−Imin)/(Imax+Imin)として定義した場合、CTF=0.26となった。このように、本実施例のシンチレータ結晶体を用い、且つ、X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸とを一致させれば、周期が10μm以下のパターンであっても、高いコントラストで撮像することができることが分かった。次に、シンチレータ結晶体を傾斜させ、X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸が成す角度を0.5度、0.75度、1度、1.2度と変化させて同様に撮像を行った。図4(b)に、X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸が成す角度が1.2度のときのX線画像を示す。また、X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸が成す角度が0.75度、1.2度の場合のラインプロファイルを、図5(a)に示す。図5(a)から、X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸が成す角度が大きくなるほど、ラインの明部と暗部との強度差が小さいことが分かる。図5(b)に、X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸が成す角度とCTF値との関係を示す。図5(b)から、X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸が成す角度が大きくなるに従い、CTF値が低下することが分かる。X線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸が成す角度が1.2度まで大きくなると、発光点深さによる位置ずれ量Wは、250μm×tan1.2=5.2μmになる。こうなると、図4(b)のように、8.2μmのパターンを解像することができなくなってしまう。
このように相分離構造からなるシンチレータ結晶体は光ファイバーのような導波性を有する為、このようなシンチレータ結晶体と画素サイズが数μmの高解像度センサとを用いれば、数μmを解像できる高い空間分解能でX線画像を取得可能である。ただし、数μmを解像できるほどに高い空間分解能を得るには、各々のシンチレータ結晶体において位置ずれ量Wが画素サイズ以下になるようにし、位置ずれ量による解像度の低下を抑えることが好ましい。
本実施例では、位置ずれ量Wが検出部の画素サイズ以下になるようなシンチレータのタイリング方法の具体例について説明する。シンチレータ結晶体は、実施例1で製造したものを用いた。
本実施例では、検出部として、画素サイズが2.5μmの受光素子が2次元に配置された受光素子アレイを用いた。放射線発生源は放射線検出器の中心の垂直方向に、放射線源と放射線検出器との距離が25cmになるように配置されることを想定する。位置ずれ量Wが画素サイズ以下になるようにするには、2.5μm≧250μm×tanθ1より、シンチレータ結晶体の中心軸とX線の入射方向との角度θ1を0.57度以下にする必要がある。各々のシンチレータ結晶体の中心でX線の入射方向とシンチレータ結晶体の中心軸とが成す角度が一致するものとすると、R≦2×250mm×2.5μm÷250μm=5mmとすれば位置ずれ量Wを画素サイズよりも小さくすることができる。
本実施例では、シンチレータ結晶体を正方形に切り出し、2次元に正方配列する。そして、受光素子が2次元に正方配列している検出部を用い、受光素子の2つの配列方向がシンチレータ結晶体の2つの配列方向と一致するようにシンチレータプレートと検出部とを組み合わせる。このように、受光素子の2つの配列方向とシンチレータ結晶体の2つの配列方向とが一致するとき、結晶サイズRは対角距離であるため、本実施例では、シンチレータ結晶体の対角距離が5mmとなるように、一辺3.5mmの正方形で切り出した。このとき、図6に示すように、一方向凝固を行うことで取得した試料から、第一の相の延伸方向60に対して斜めに切り出す。これにより、切り出したシンチレータ結晶体の中心軸(第一の相の延伸方向60に一致する)とシンチレータ結晶体の第2の面の法線方向61との角度を任意の角度とすることができる。本実施例では、シンチレータ結晶体の中心軸と第2の面の法線方向と成す角度が、0度を1枚、0.81度を4枚、1.15度を4枚、1.62度を4枚、1.81度を8枚、2.29度を4枚の計25枚のシンチレータ結晶体を切り出した。そして、図3(b)のように、切り出した25枚のシンチレータ結晶体を、中心部から放射状に角度が大きくなるように5×5列に二次元に配列して、全体として17.5mm×17.5mmのサイズとして固定し、シンチレータプレートを得た。このシンチレータプレートを、二次元の受光素子アレイに対向するように配置し、放射線検出器とした。
このようにして得られた放射線検出器を用いて8.2μm周期の金とシリコンからなるライン&スペースの格子を被写体として、X線画像を取得した。X線画像の取得は、タングステン管球のX線源を用い、60kV、1.0mA、Alフィルター有りの条件で得られるX線を用いた。各々のシンチレータ結晶体の中心、及び周辺部で8.2μmのパターンを解像でき、全体として5×5列の17.5mm×17.5mm全域で、8.2μmのパターンを解像可能なX線画像を取得することができた。このように、切り出しサイズを調節し、中心軸(導波方向と一致する)を徐々に傾斜させてシンチレータ結晶体をタイリングすることで、位置ずれ量Wを画素サイズD以下とすることができた。これにより、撮像範囲の全域で高解像度が得られる放射線検出器を作製することができた。
本実施例は、実施例2の放射線検出器を、X線トールボット干渉計の検出器として用いた具体例について説明をする。
本実施例のX線トールボット干渉計の模式図を図7に示す。X線トールボット干渉計は、X線源70と、X線源からのX線71を回折して干渉パターンを形成するX線回折格子73と、干渉パターンを形成するX線を検出する検出器74と、検出器の検出結果を用いて被検体72の情報を取得する演算装置75を備える。
X線トールボット干渉計については、例えば国際公開2010/050483号公報など多数の文献に詳細が記載されているため、詳細については省略する。一般的なトールボット干渉計は、干渉パターンが形成される位置に遮蔽格子または吸収格子と呼ばれる格子を配置し、モアレを形成することで、数μm程度の周期を有する干渉パターンの情報を取得する。一方、本実施例のX線トールボット干渉計は、検出器74として実施例2の放射線検出器を備えるため、検出器74を干渉パターンが形成される位置に配置することで、干渉パターンの明暗を検出器74で直接観察することができる。よって、検出器74による検出結果を用いて、被検体72による干渉パターンの変化を解析することで、被検体の位相、散乱、吸収に関する情報を取得することができる。
その他、X線源、回折格子、演算装置による干渉パターンの解析方法などは一般的なトールボット干渉計と同様である。尚、X線トールボット干渉計は、演算装置75により取得した被検体の情報を表示する表示手段(不図示)を備えていても良い。また、X線トールボット干渉計は、演算装置75やX線源70を備えなくても良い。この場合、撮像時に任意のX線源と組み合わせることで、X線トールボット干渉計による撮像(干渉パターンの取得)を行うことができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。