JP2017078280A - 改修工法 - Google Patents
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まず、実施の形態の基本的概念について説明する。実施の形態は、既設の躯体の表面に施された既設の仕上げ層を改修する改修工法に関する。ここで、「既設」とは、本実施の形態に係る改修工法が行われる以前から設けられている物を示す。なお、以下における「新設」とは、本実施の形態に係る改修工法によって設けられる物を示す。また、この改修工法を実施する目的やタイミング等は任意であり、例えば、既設の仕上げ層が経年劣化した際の改修を目的として、又は、既設の仕上げ層の表面に外装材を貼りつけてデザイン変更する事を目的として実施できる。
次に、本実施の形態の具体的内容について説明する。
図1は、本実施の形態に係る改修工法が行われた後の建築物(以下、単に「建築物1」と称する)の断面図である。なお、図1では、建築物1の外壁付近の一部分のみを拡大して図示しており、他の部分については公知であるものとして、図示を省略している。この図1に示すように、建築物1は、概略的に、既設躯体10、既設仕上げ層20、アンカーピン30、不陸調整層40、接着層50、外装材60、及び新設目地70を備える。ここで、以下では、必要に応じて、各図におけるY−Y’方向を「奥行き方向」と称し、特にY方向を「前方向」、Y’方向を「後方向」と称する。また、Z−Z’方向を「高さ方向」と称し、特にZ方向を「上方向」、Z’方向を「下方向」と称する。また、X−X’方向(Y−Z平面に直交する方向)を「幅方向」と称し、特にX方向(各図において向かって奥の方向)を「右方向」、X’方向(各図において向かって手前の方向)を「左方向」と称する。
既設躯体10は、本実施の形態に係る改修工法の対象となる既設仕上げ層20が施された躯体である。ここで、本実施の形態に係る「躯体」とは、床、壁、柱、又は梁等のような建築物1の構造を支える骨組みに限らず、単なるオブジェのように建築物1の構造を支える骨組み以外の物体も含む概念である。ただし、本実施の形態における既設躯体10とは、建築物1の外壁を示すものとして以下では説明する。また、この既設躯体10の素材は、既設躯体10の表面に後述するような既設仕上げ層20を形成可能である限り任意で、例えば、木、鉄骨、セメント系硬化体(例えば、押出成型セメント板、鉄筋コンクリート、プレキャストコンクリート、又は軽量気泡コンクリート等)で形成できるが、本実施の形態では、鉄筋コンクリートであるものとする。
既設仕上げ層20は、既設の躯体の表面に施された既設の仕上げ層である。この既設仕上げ層20は、既設躯体10の表面に設けられている限り任意の仕上げ層として構成でき、例えば、本実施の形態では、図示のように、既設躯体10の表面にモルタルを塗布して既設モルタル層21を形成し、このように形成した既設モルタル層21の表面に複数のタイルを張り付けることにより既設タイル層22を形成し、この既設タイル層22の相互間にモルタルやシーリング等を充填して既設目地23を形成して構成されているものとする。ただし、このような構成に限らず、例えば上述した既設モルタル層21には、モルタルの代わりに、本願の不陸調整層40や接着層50と同一の材料を用いても構わないし、既設タイル層22には、タイルの代わりに、石材等を用いても構わない。
アンカーピン30は、既設仕上げ層20を補修するための補修手段であって、既設仕上げ層20から既設躯体10に至るように打ち込まれたピンである。このアンカーピン30は、既設仕上げ層20の表面に不陸調整層40を塗布する前段階等において、既設仕上げ層20の適宜間隔に位置する部分に対して打ち込まれる。既設仕上げ層20における浮きやひび割れが生じている部分についてはアンカーピン30の間隔を狭めるとより安全性が確保される。また、このアンカーピン30に設けられた注入口から注入材31(例えば、パテ状エポキシ樹脂や、ポリマーセメントモルタル等)を注入することで、浮きやひび割れを埋めて補修する事ができる。なお、このような機能を実施するアンカーピン30の具体的な構成については公知であるため、詳細な説明を省略する。また、注入材31の注入については不要であれば省略しても構わない。
不陸調整層40は、既設仕上げ層20の表面に、加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含有する不陸調整用組成物を塗布して形成された層である。この不陸調整用組成物は、既設仕上げ層20の不陸を埋めるように塗布されており、具体的には、既設仕上げ層20を構成する既設タイル層22の不整等による不陸、既設目地23による不陸、既設タイル層22を構成するタイルが剥がれた部分の不陸等を埋めるように、既設仕上げ層20の表面に塗布されている。不陸調整用組成物は上記不陸のみに塗布しても良いし、全面に塗布しても良い。なお、この不陸調整用組成物は、一液硬化型を用いることで作業現場での配合が不要となり、従来の改修工法のように施工現場にて配合を行ってモルタルをつくる作業(例えば、セメント、砂、及び水を配合する作業や、セメント、砂、及びその他の混和剤が配合されたプレミックスモルタルに水を配合する作業)を省略でき、計量ミスや混合不足による施工品質のばらつきを解消する事が可能となる。また、従来の改修工法のようにモルタルを用いて不陸調整を行う場合、モルタルのみでは外装材60を長期間安定的に固定するために十分な接着力を得る事が出来なかった。したがって、従来はアンカーを用いてネットを壁に固定してこのネットにより接着力を確保していたが、本願のように不陸調整用組成物を用いることにより上記のネットを用いずとも充分な接着力を確保する事ができるので、ネットやアンカーの施工に要する手間や費用を削減する事が可能となる。
まず、上述したように、不陸調整用組成物が有する粘度及び粘度比は、不陸調整層形成における作業性の観点から、B型回転粘度計を用いて、JIS K6833−1に準拠し、23[℃]の温度条件下、回転数1[r/min]で測定した粘度Aが1000[Pa・s]〜3000[Pa・s]であり、当該粘度Aと回転数10[r/min]で測定した粘度Bとの粘度比(A/B)が6以上であることが好ましい。
不陸調整用組成物が有する粘度Aは、好ましくは1000Pa・s〜2500Pa・sであり、より好ましくは1000Pa・s〜2000Pa・sである。
不陸調整用組成物における粘度比(A/B)は、好ましくは6.3以上であり、より好ましくは6.5以上である。
また、上述したように、不陸調整用組成物を硬化して得られた硬化物が示すJIS A5557に準拠して測定したダンベル物性が、最大引っ張り強さが0.4[N/mm2]〜2.0[N/mm2]であり、破断時の伸び率が40[%]〜200[%]である事が好ましい。
硬化物が示す最大引張強さは、好ましくは0.4[N/mm2]〜2.0[N/mm2]であり、より好ましくは0.4[N/mm2]〜1.5[N/mm2]であり、特に好ましくは0.4[N/mm2]〜1.3[N/mm2]である。
硬化物が示す破断時の伸び率は、好ましくは40%〜200%であり、より好ましくは40〜150%であり、特に好ましくは40〜130%である。
接着層50は、不陸調整層40の表面に、反応硬化型接着剤を用いて形成された層である。このような反応硬化型接着剤としては、外装材60の接着可能な程度の所望の接着性を満たす限り任意のものを用いる事ができるが、不陸調整層40や外装材60との密着性、及び耐水接着性の優れたものである程好ましい。
であり、シーラント、接着剤、塗料等のベースポリマーとして広く用いられている。該変
成シリコーン樹脂は、加水分解性シリル基であるアルコキシシリル基が大気中の水分で加
水分解し架橋する、いわゆる湿気硬化型ポリマーである。該湿気硬化型ポリマーとしては
、例えば、特開昭52−73998号公報、特開昭63−112642号公報などに記載
されるポリマーが挙げられる。
変成シリコーン樹脂にエポキシ樹脂を添加してなる変成シリコーン・エポキシ樹脂系接
着剤を適用することで、不陸調整層40や外装材60との密着性、耐水接着性が向上する。このようなエポキシ樹脂としては、上述した不陸調整用組成物に含有させるエポキシ樹脂と同様のものを用いて良い。
外装材60は、接着層50の表面に張り付けられた建材である。この外装材60は、接着層50の前方の位置に、接着層50に対して貼り付けらており、上下左右方向に沿って複数並設されている。ここで、この外装材60としては任意の建材を用いる事ができ、例えばタイル、石材、煉瓦、外装用ボード等が挙げられる。また、外装材60としては、既設仕上げ層20に適用されたものと同一のものを用いても良いし、異なるものを用いても良い。
新設目地70は、外装材60同士の隙間を埋めるように充填配置された目地である。この新設目地70としては、例えばモルタルやシーリング等の任意の目地を適用できるが、本実施の形態ではモルタルを用いる。この新設目地70は施工することが好ましいが、目地施工の出来ない外装材60を用いた場合等のように不要な場合には適宜施工しなくても良い。その場合は後述する図6に示す構造が完成形となる。
続いて、本実施の形態に係る改修工法について以下で説明する。なお、図2は、改修工法を行う前の建築物1を示す断面図である。このように、本実施の形態では、既設躯体10と既設仕上げ層20との間の一部分(浮き部24)に浮きが生じているものとして説明する。
図3は、改修工法の手順1を示す断面図である。この図3に示すように、まず、既設仕上げ層20から既設躯体10に至るように打ち込んだアンカーピン30によって既設仕上げ層20と既設躯体10との間に注入材31を注入することで、既設仕上げ層20の補修を行う補修工程を行う。具体的には、初めに既設仕上げ層20の浮き部24を公知の方法(例えば、打診)により特定し、当該特定した浮き部24の位置にドリル等を用いて孔を形成する。次に、この孔にアンカーピン30を挿入して打ち込み、アンカーピン30の開脚を行ってから、アンカーピン30の注入口に注入材31を注入して浮き部24に注入材31を充填する。なお、本実施の形態では上記のように注入口付アンカーピンを用いて補修する工法を採用したが、これに限らない。例えば全ネジ切りアンカーピンとエポキシ樹脂等を用いて補修を行う工法を採用しても構わない。なお、これらの具体的な工法については公知であるため、詳細な説明を省略する。
図4は、改修工法の手順2を示す断面図である。この図4に示すように、続いて、既設仕上げ層20の表面に、加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含有する不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層40を形成する不陸調整層形成工程を行う。なお、このような不陸調整用組成物の塗布方法は任意であり、例えば塗布具を用いた公知の塗布方法を採用して構わない。
図5は、改修工法の手順3を示す断面図である。この図5に示すように、続いて、不陸調整層形成工程にて形成された不陸調整層40の表面に、反応硬化型接着剤を塗布して接着層50を形成する接着層形成工程を行う。なお、このような不陸調整用組成物の塗布方法は任意であり、例えば塗布具を用いた公知の塗布方法を採用して構わない。
図6は、改修工法の手順4を示す断面図である。この図6に示すように、続いて、不陸調整層形成工程にて形成された不陸調整層40の表面に、反応硬化型接着剤を用いて外装材60を張り付ける外装工程を行う。なお、本実施の形態においては、図示のように、不陸調整層形成工程にて形成された不陸調整層40の表面に反応硬化型接着剤を塗布して接着層50を形成してから、接着層50に外装材60を貼り付けるが、これに限らず、上記の接着層形成工程を省略し、外装材60の後面に反応硬化型接着剤を塗布して不陸調整層40の表面に直接貼り付けても構わない。なお、このような張り付けの具体的な方法は任意であり、例えば作業員が一枚ずつ手作業で張り付けていっても構わない。そして、最後に、外装工程にて張り付けた外装材60同士の隙間に新設目地70を注入することにより、図1に示す建築物1が完成する。上述したように、この新設目地70は施工することが好ましいが、目地施工の出来ない外装材60を用いた場合等のように不要な場合には施工しなくても良い。以上にて、本実施の形態に係る改修工法が完了する。
本実施の形態によれば、既設仕上げ層20と新設の外装材60との接着にモルタルを用いることなく改修を行うので、従来のモルタルを用いた改修工法で必要であった作業である、施工現場にて配合を行ってモルタルをつくる作業(例えば、セメント、砂、及び水を配合する作業や、セメント、砂、及びその他の混和剤が配合されたプレミックスモルタルに水を配合する作業)を省略でき、計量ミスや混合不足による施工品質のばらつきを解消する事が可能となると共に、モルタルよりも柔軟性の高い素材を用いて外装材60の接着を行うことにより、既設仕上げ層20、不陸調整層40、接着層50、及び新設の外装材60の各界面での歪みによってできる応力を低減でき、経年での新設の外装材60の剥離を抑止する事が可能となる。
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、上述の内容に限定されるものではなく、発明の実施環境や構成の細部に応じて異なる可能性があり、上述した課題の一部のみを解決したり、上述した効果の一部のみを奏することがある。例えば、本実施の形態に係る改修工法を用いた場合に、施工品質のばらつきが従来工法と同程度である場合や、経年での新設の外装材60の剥離を従来工法と同程度にしか抑止できない場合があっても構わない。また、本願発明によって、上記に例示した発明が解決しようとする課題を達成出来ない場合であっても、本願発明に係る改修工法によって、従来とは異なる改修工法を提供出来ている限り、本願発明の課題が解決されている。
発明の詳細な説明や図面で説明した建築物1の各部の寸法、形状、材料、比率等は、あくまで例示であり、その他の任意の寸法、形状、材料、比率等とすることができる。
図7は、変形例に係る改修工法が行われた後の建築物2を示す断面図である。この図7に示すように、既設仕上げ層20と外装材60との間にネット80を配置し、このネット80をアンカーピン30で留めることにより、外装材60の剥落をより一層防止する事が可能となる。この際のアンカーピン30としては、ネット80を留めるための皿が頭部に付いた図7に示すような皿付きアンカーピンや、ネット80を留めるためのワッシャーが付いたワッシャー付きアンカーピン等を用いる事が好ましい。
本実施の形態においては、既設仕上げ層20の表面に一層分の外装材60を貼りつけたが、これに限らず、この外装材60の表面からさらに他の外装材60を貼りつけていっても構わない。この場合にも、本実施形態と同様の方法で、外装材60の表面に不陸調整層40、接着層50、外装材60、及び新設目地70を順次形成すれば構わない。
付記1の改修工法は、既設の躯体の表面に施された既設の仕上げ層を改修する改修工法であって、前記仕上げ層の表面に、加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含有する不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する不陸調整層形成工程と、前記不陸調整層形成工程にて形成された前記不陸調整層の表面に、反応硬化型接着剤を用いて外装材を張り付ける外装工程と、を含む。
付記1に記載の改修工法によれば、既設の仕上げ層と新設の外装材との接着にモルタルを用いることなく改修を行うので、従来のモルタルを用いた改修工法で必要であった作業である、施工現場にて配合を行ってモルタルをつくる作業(例えば、セメント、砂、及び水を配合する作業や、セメント、砂、及びその他の混和剤が配合されたプレミックスモルタルに水を配合する作業)を省略でき、計量ミスや混合不足による施工品質のばらつきを解消する事が可能となると共に、モルタルよりも柔軟性の高い素材を用いて外装材の接着を行うことにより、既設の仕上げ層、不陸調整層、反応硬化型接着剤により形成された接着層、及び新設の外装材の各界面での歪みによってできる応力を低減でき、経年での新設の外装材の剥離を抑止する事が可能となる。
10 既設躯体
20 既設仕上げ層
21 既設モルタル層
22 既設タイル層
23 既設目地
24 浮き部
30 アンカーピン
31 注入材
40 不陸調整層
50 接着層
60 外装材
70 新設目地
80 ネット
Claims (7)
- 既設の躯体の表面に施された既設の仕上げ層を改修する改修工法であって、
前記仕上げ層の表面に、加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂を含有する不陸調整用組成物を塗布して不陸調整層を形成する不陸調整層形成工程と、
前記不陸調整層形成工程にて形成された前記不陸調整層の表面に、反応硬化型接着剤を用いて外装材を張り付ける外装工程と、を含む、
改修工法。 - 前記仕上げ層と前記外装材との間にネットを含まない、
請求項1に記載の改修工法。 - 前記仕上げ層から前記躯体に至るようにピンを打ち込むことで、又は前記打ち込んだピンによって前記仕上げ層と前記躯体との間に注入材を注入することで、前記仕上げ層の補修を行う補修工程を含む、
請求項1又は2に記載の改修工法。 - 前記不陸調整層形成工程に用いる不陸調整用組成物が、B型回転粘度計を用いて、JIS K6833−1に準拠し、23[℃]の温度条件下、回転数1[r/min]で測定した粘度Aが1000[Pa・s]〜3000[Pa・s]であり、当該粘度Aと回転数10[r/min]で測定した粘度Bとの粘度比(A/B)が6以上であり、且つ、硬化して得られた硬化物が示すJIS A5557に準拠して測定したダンベル物性が、最大引っ張り強さが0.4[N/mm2]〜2.0[N/mm2]であり、破断時の伸び率が40[%]〜200[%]である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の改修工法。 - 前記仕上げ層は、複数のタイルを前記躯体の表面に沿って並設した層である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の改修工法。 - 前記不陸調整層形成工程にて用いる前記不陸調整用組成物が、更にエポキシ樹脂を含有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の改修工法。 - 前記外層工程にて張り付ける前記外装材が、タイル又は石材である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の改修工法。
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