以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
図1に、miR−124およびPTB1が、PKM1およびPKM2の発現を調節する仕組みを図示する。miR−124はPTB1の上流に位置するマイクロRNAである。miR−124は、c−Myc、E2F1およびSTAT3(いずれも、PTB1をコードするmRNAの転写因子)の発現を抑制的に調節し、また、PTB1をコードするmRNAの翻訳を直接に抑制していると考えられている。PKM1(ピルビン酸キナーゼM1)はホスホエノールピルビン酸をピルビン酸に代謝する酵素であり、酸化的リン酸化を促進する。PTB1はスプライシングリプレッサーとして機能し、PTB1の発現上昇によりエキソン9がスキップされてPKM1の発現が抑制される一方、PKM2(ピルビン酸キナーゼM2)の発現が上昇すると考えられる。PTB1によってPKM2の発現が優位となっているがん細胞では、解糖系を介した嫌気的代謝が活発に行われる。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、これにより、がん細胞の増殖に必要な核酸の合成原料となる代謝物が盛んに生成される一因となっていると考えられる。
本発明者らは驚くべきことに、薬物抵抗性を獲得した(すなわち、薬物感受性が低下した)がん細胞においては、薬物抵抗性獲得前に比べてPKM1の発現が上昇していること、および薬物抵抗性株は親細胞よりも増殖能が低下していることを発見した。さらに、薬物抵抗性がん細胞においてPKM1の発現を抑制すると、がん細胞の薬物感受性が向上することをも見出した。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、これは、以下のメカニズムによるものと推測される。
薬物によって核酸合成が阻害されたがん細胞では、核酸の合成原料を生成する嫌気的代謝のみならず、PKM1の発現上昇を介して好気的代謝によりエネルギーを獲得する状態へと変貌していると思われる。すなわち、がん化により抑制された好気的代謝が、薬物抵抗性がん細胞ではPKM1の発現上昇により再び活性化され、好気的代謝が優位になっていると考えられる。好気的代謝が優位になると、増殖に必要な核酸合成原料の供給が抑えられる。このため、薬物抵抗性がん細胞では、代謝拮抗剤、プラチナ製剤、アルキル化剤等の核酸合成を阻害する薬物や、微小管阻害剤のようにセルサイクルを遮断する薬物に対して抵抗性を示すのではないかと推測される。一方、好気的代謝が活性化した薬物抵抗性がん細胞においてPKM1の発現および/または機能を抑制すると、がん細胞はエネルギー獲得のため再び嫌気的代謝を活発に行うようになると考えられる。したがって、核酸の合成を阻害したり細胞増殖を抑制したりする薬物の本来の機能が発揮できるようになるため、薬物感受性が向上するのではないかと推測される。
[薬物感受性増強剤]
本発明の第一の形態においては、PKM1の発現および/または機能を抑制する化合物を含む、がん細胞の薬物感受性増強剤が提供される。本発明の一実施形態では、がん細胞の薬物感受性増強剤の製造における、PKM1の発現および/または機能を抑制する化合物の使用が提供される。本発明の別の実施形態では、がん細胞の薬物感受性を増強するための、PKM1の発現および/または機能を抑制する化合物が提供される。
本明細書において、「薬物」とは、がんの化学療法において用いられる代謝拮抗剤、プラチナ製剤、アルキル化剤、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害剤、ホルモン剤、および血管新生阻害剤等の抗がん剤を指す。
「代謝拮抗剤」は、核酸合成過程における代謝物と類似した構造を有し、主としてDNA合成に関わる酵素の働きを阻害することによってがん細胞における核酸合成を妨げる化合物である。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、代謝拮抗剤としては、例えば、ピリミジン類似体、プリン類似体、葉酸類似体、リボヌクレオチドリダクターゼ阻害剤、およびDNAポリメラーゼ阻害剤等が例示できる。より具体的には、フルオロウラシル(5−FU)、テガフール、テガフール・ウラシル配合剤、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、ドキシフルリジン、カペシタビン、カルモフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート、エノシタビン、ゲムシタビン、アザシチジン、デシタビン、フロクスウリジン、エチニルシチジン、6−メルカプトプリン、フルダラビン、ペントスタチン、ネララビン、6−チオグアニン、クラドリビン、クロファラビン、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、ノラトレキセド、プララトレキサート、トリメトレキサート、イダトレキサート、およびヒドロキシカルバミド等が挙げられる。
「プラチナ製剤」は、分子内に白金錯体構造を有し、細胞のDNA鎖に白金が結合することによってDNA合成を阻害する化合物である。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、プラチナ製剤としては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン(Ox)、サトラプラチン、ミリプラチン、ロバプラチン、スピロプラチン、テトラプラチン、オルマプラチン、およびイプロプラチン等が挙げられる。
「アルキル化剤」は、DNAをアルキル化する機能を持つ化合物であり、DNAのアルキル化によってDNA複製を阻害する作用がある。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、アルキル化剤としては、例えば、マスタード類、ニトロソ尿素類、トリアゼン類、およびエチレンイミン等が例示できる。より具体的には、シクロホスファミド、イホスファミド、ブスルファン、メルファラン、ナイトロジェンマスタード、クロラムブシル、グルフォスファミド、マフォスファミド、エストラムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ストレプトゾシン、プロカルバジン、ダカルバジン、テモゾロミド、チオテパ、ヘキサメチルメラミン、トラベクテジン、アパジコン、アルトレタミン、ベンダムスチン、およびミトラクトール等が挙げられる。
「微小管阻害剤」は、細胞分裂における紡錘体を形成する微小管の重合/分解の動的平衡状態を破壊し、細胞増殖を抑制する化合物である。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、微小管阻害剤としては、例えば、ビンカアルカロイドおよびタキサン化合物等が例示でき、より具体的には、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ビンフルニン、モノメチルアウリスタチンE、エポチロンB、エリブリン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(DTX)、およびカバジタキセル等が挙げられる。
「抗腫瘍性抗生物質」は、主として核酸と結合し、核酸合成の阻害や核酸鎖の切断活性を有する化合物である。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、抗腫瘍性抗生物質としては、例えば、アントラサイクリン系抗生物質(例えば、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ダウノルビシン、ピラルビシン、エピルビシン、イダルビシン、アクラルビシン、アムルビシン、ゾルビシン、バルルビシン、リポソーマルドキソルビシン、ピクサントロン、およびミトキサントロンなど)、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、アクチノマイシンD、およびジノスタチンスチマラマー等が挙げられる。
「トポイソメラーゼ阻害剤」は、DNA鎖の切断および再結合作用のあるトポイソメラーゼの作用を阻害し、DNA鎖の再結合を阻害する化合物である。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、トポイソメラーゼ阻害剤としては、トポイソメラーゼI阻害剤およびトポイソメラーゼII阻害剤が例示でき、より具体的には、トポテカン、イリノテカン、エキサテカン、ノギテカン、上記のアントラサイクリン系抗生物質、エトポシド、テニポシド、およびゾブゾキサン等が挙げられる。
「ホルモン剤」は、テストステロン(例えば前立腺がん)、エストロゲン(例えば乳がん)または副腎皮質ホルモン(例えば造血器腫瘍)などのホルモンにより増殖が促進されるがんに対して、これらのホルモンの機能を阻害することによりがん細胞の増殖を抑制する化合物である。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、ホルモン剤としては、抗エストロゲン薬、アロマターゼ阻害剤、プロゲステロン誘導体、抗アンドロゲン薬、副腎皮質ホルモン剤、およびLHRH(黄体ホルモン放出ホルモン)アゴニストが例示できる。より具体的には、タモキシフェン、トレミフェン、ラロキシフェン、フルベストラント、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、アミノグルテチミド、ホルメスタン、ボロゾール、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、ゲストノロン、メピチオスタン、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、フィナステリド、クロルマジノン、エストラムスチン、ジエチルスチルベストロール、エチニルエストラジオール、ホスフェストロール、リン酸ポリエストラジオール、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ミトタン、ゴセレリン、リュープロレリン、ブセレリン、およびトリプトレリン等が挙げられる。
「血管新生阻害剤」(または、「血管形成阻害剤」)は、血管新生の阻害作用のあるペプチド、タンパク質、核酸分子、多糖類、オリゴ糖および化合物を指す。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、血管形成阻害剤としては、例えば、抗VEGF抗体などのVEGF(血管内皮増殖因子)阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤等の血管新生シグナル阻害剤およびMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)阻害剤などが例示でき、より具体的には、ベバシズマブ、アフリベルセプト、MV833、セツキシマブ、ペガプタニブ、パゾパニブ、CBO−P11、スニチニブ、ソラフェニブ、ラニビズマブ、バタラニブ、アキシチニブ、ザクティマ、NX1838、アンジオザイム、セマキサニブ、レスタウルチニブ、TSU−68、ZD4190、テムシロリムス、アンジオスタチン、エンドスタチン、TNP−470、CP−547632、CPE−7055、KRN633、AEE788、IMC−1211B、PTC−299、E7820、レンバチニブ、マリマスタット、ネオバスタット、プリノマスタット、メタスタット、BMS−275291、MMI270、S−3304、ビタキシン、オロチン酸カルボキシアミドトリアゾール、サリドマイド、ゲニステイン、インターフェロンα、およびインターロイキン12等が挙げられる。
本発明に係る薬物感受性増強剤は、これらの薬物のうち、前記薬物が代謝拮抗剤、プラチナ製剤、微小管阻害剤および抗腫瘍性抗生物質からなる群から選択される薬物に対して抵抗性を示すがん細胞に対して特に有効に用いられ、より具体的には、例えば、フルオロウラシル(5−FU)、オキサリプラチン(Ox)、タキソール(Tx)およびドキソルビシン(アドリアマイシン)からなる群から選択される薬物に対して抵抗性を示すがん細胞に対して特に有効に用いられる。本発明に係る薬物感受性増強剤は、より好ましくは、代謝拮抗剤またはプラチナ製剤に対して抵抗性を示すがん細胞に対して用いられる。
本明細書において「薬物感受性」とは、がんの化学療法において、治療に用いた薬物の用量と、がん細胞の増殖率や生存率との関係を示す、がん細胞の性質である。一般的な治療上の有効量(すなわち、妥当な便益/リスク比で、何らかの所望の治療効果を生じるために有効な薬物の量)をがん細胞に適用しても、増殖率の抑制や生存率の低下について所望の治療効果を得られない性質が薬物抵抗性である。本発明に係る薬物感受性増強剤は、例えば、薬物治療の開始時における当該薬物に対するIC50値の、2倍、好ましくは5倍、より好ましくは7倍以上のIC50値を示すに至ったがん細胞に対して用いられ得る。あるいは、本発明に係る薬物感受性増強剤は、CEA(癌胎児性抗原)、CA19−9、α−フェトプロテイン等の臨床的知見を指標に、がん患者に対して用いられ得る。
本発明において、「PKM1の発現および/または機能を抑制する化合物」(以下、単に「本発明に係る化合物」とも称する。)とは、PKM1の発現や、PKM1がホスホエノールピルビン酸をピルビン酸に代謝する機能を、直接または間接に抑制し、阻害し、低減させ、および/または消失させる化合物である。「本発明に係る化合物」は、かような抑制活性を備える核酸分子、タンパク質(例えば、抗PKM1抗体や、酵母ツーハイブリッド法やファージディスプレイ法により選定されるペプチドアプタマー)、糖質、脂質、低分子化合物、およびこれらの組み合わせを含む。このうち、PKM1の発現および/または機能を抑制する化合物としては、PKM1に対する特異性の高さから、PKM1を標的とする二本鎖siRNA、アンチセンス核酸、リボザイム、核酸アプタマーおよびマイクロRNAからなる群から選択される核酸分子、またはこれら核酸分子の発現ベクターであることが好ましく、発現抑制活性の高さからPKM1を標的とする二本鎖siRNAを用いることがより好ましい。本発明に係る薬物感受性増強剤において有効成分として用いられる核酸分子やタンパク質は、単離されたものである。なお、「PKM1を標的とする」とは、PKM1またはPKM1をコードするmRNAに対して特異的に結合し、PKM1の発現および/または機能を抑制する性質をいう。
(核酸分子、発現ベクター)
「二本鎖siRNA」は、RNA干渉(RNA interference;RNAi)に関与し、配列特異的に標的タンパク質をコードするmRNAを分解し、標的タンパク質の発現を特異的に抑制する活性を備える二本鎖のRNA分子である。生体内においてsiRNAはRISCと呼ばれるタンパク質複合体に組込まれ、パッセンジャー鎖が脱離する。その後、ガイド鎖が標的タンパク質をコードするmRNA配列を認識して結合し、ガイド鎖が結合したmRNAはRISCによって分解される。
なお、本明細書では、二本鎖siRNAにおいて、最終的に標的となる遺伝子のmRNAと対合する、当該mRNAに対するアンチセンス鎖(または当該アンチセンス鎖を含むポリヌクレオチド)を「ガイド鎖」と表現する。一方、前記アンチセンス鎖に対するセンス鎖(または当該センス鎖を含むポリヌクレオチド)を「パッセンジャー鎖」と表現する。
二本鎖siRNAは、通常は16〜30塩基、好ましくは21〜28塩基のガイド鎖と、ガイド鎖に相補的な16〜30塩基、好ましくは21〜28塩基のパッセンジャー鎖とからなる。ガイド鎖は標的タンパク質をコードするmRNA配列の連続する16〜27塩基、好ましくは連続する21〜25塩基に対して相補的な配列を含む(標的タンパク質をコードするmRNA配列の、ガイド鎖と相補的な領域を「標的配列」とも称する。)。また、パッセンジャー鎖は、標的配列と相同な配列を含む。
二本鎖siRNAの末端構造は、平滑末端でもよいが、オーバーハング(突出)を有していてもよい。パッセンジャー鎖とガイド鎖との3’末端が塩基対を形成せず、2〜5塩基、好ましくは2塩基突出したオーバーハング(例えば、UU、またはdTdT)を有することにより、標的タンパク質をコードするmRNAの発現を抑制する活性が向上することがある。ガイド鎖の塩基配列において標的配列に相補的な配列領域以外の領域は、オーバーハングであり得る。また、パッセンジャー鎖の塩基配列において標的配列に相同な配列領域以外の領域は、オーバーハングであり得る。
本発明における薬物感受性増強剤の有効成分として含まれる二本鎖siRNAとしては、標的配列(連続する16〜27塩基、好ましくは連続する21〜25塩基)に相補的な配列を含むガイド鎖(16〜30塩基、好ましくは21〜28塩基)と、ガイド鎖に相補的な配列を含むパッセンジャー鎖(16〜30塩基、好ましくは21〜28塩基)と、がアニールした二本鎖ポリヌクレオチドが用いられてもよい。
本発明における薬物感受性増強剤の有効成分として含まれる二本鎖siRNAには、ショートヘアピンRNA(shRNA)から誘導されたものが含まれる。shRNAは、二本鎖siRNAにおけるパッセンジャー鎖相当領域とガイド鎖相当領域とが3〜11塩基程度のループ領域を介して連結された一本鎖のポリヌクレオチドである。生体内で発現されたshRNAは、パッセンジャー鎖相当領域とガイド鎖相当領域とがハイブリダイズしたヘアピン構造を取るが、RNaseの一種(Dicer)によってプロセシングを受け、二本鎖siRNAを形成する。shRNAの塩基長は、例えば45〜70塩基であり、好ましくは45〜60塩基である。
本発明における薬物感受性増強剤の有効成分としては、二本鎖siRNAの発現ベクターも好ましく用いられる。かような発現ベクターとしては、適切なプロモーターを有するプラスミドベクター、ウイルスベクター等を、ベクターが導入される宿主に合わせて適宜選択し、プロモーターの下流に二本鎖siRNAをコードするDNAを従来公知の手法により組込んだものを用いればよい。プロモーターとしては、特に制限されるものではないが、例えば、U6プロモーター、H1 RNAポリメラーゼIIIプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーター等が例示できる。
プラスミドベクターとしては、例えば、pSINsiシリーズ、pBAsiシリーズ、pSIRENシリーズ(以上、タカラバイオ株式会社製)等が例示できる。プラスミドには、通常、アンピシリン、カナマイシン等の抗生物質に対する耐性遺伝子が含まれる。
ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター等が例示できる。
二本鎖siRNAをコードするDNAは、パッセンジャー鎖をコードするDNAとガイド鎖をコードするDNAとが別々にプロモーターの下流にそれぞれ組込まれたもの(タンデム型)でもよく、パッセンジャー鎖相当領域をコードするDNAとガイド鎖相当領域をコードするDNAとがループ領域をコードするDNAを介して連結されてひとつのプロモーターの下流に組込まれた上述のshRNAのようなもの(ショートヘアピン型)でもよい。二本鎖siRNAをコードするDNAの下流には、ターミネーターが含まれることが好ましい。
二本鎖siRNAをコードするDNAのベクターへの組換え方法は、当業者に知られた手段によって行うことができ、例えばSambrook, J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47−9.58, Cold Spring Harbor Lab. press(1989)等が参酌される。
対象となる生物種のPKM1をコードするmRNA配列から任意の連続する16〜27塩基配列を選択し、二本鎖siRNAの標的配列とする。二本鎖siRNAのパッセンジャー鎖は、当該標的配列に対して相同な塩基配列と、任意に含まれるオーバーハング配列とを含む。あるいは、二本鎖siRNAのパッセンジャー鎖は、当該標的配列に対して相同な塩基配列と、任意に含まれるオーバーハング配列とからなる。二本鎖siRNAのガイド鎖は、当該標的配列に対して相補的な塩基配列と、任意に含まれるオーバーハング配列とを含む。あるいは、二本鎖siRNAのガイド鎖は、当該標的配列に対して相補的な塩基配列と、任意に含まれるオーバーハング配列とからなる。
標的配列の選定方法は、当業者に知られた手法により行うことができ、例えば、(i)アンチセンス鎖の5’末端のヌクレオチドがAまたはUである、(ii)センス鎖の5’末端がGまたはCである、(iii)GC含量が35〜55%である、(iv)GおよびCが4塩基以上連続しない、ことを基準として選定することができる(例えば、K.Ui−Teiら,Nucleci Acids Research 2004, 936−948; M.AmarzguiouiとH.Prydz, Biochemical Biophysiscal Research Communications 2004, 1050−1058; D.M.Dykxhoornら,Nature Reviews Molecular Cell Biology 2003, 7174−7181; A.Khvorovaら,Cell 2003, 209−216も参照される。)。標的配列は5’非翻訳領域でもよいが、開始コドンから50〜100塩基下流(すなわち、3’方向)のORF領域または3’非翻訳領域であってもよい。
また、siDirect(http://design.RNAi.jp/)、AsiDesigner(http://sysbio.kribb.re.kr:8080/AsiDesigner/menuDesigner.jsf/)、またはGene specific siRNA selector(http://sirna.wi.mit.edu/)等のデータベースを利用し、標的配列を選定することもできる。
配列番号1は、ヒトPKM1をコードするmRNAの配列を示す。
二本鎖siRNAは市販のものを用いてもよく、ライフテクノロジーズ社、ダーマコン社、ジェンスクリプト社等から購入できる。
二本鎖siRNAはオフターゲット効果を有しないものが好ましい。「オフターゲット効果」とは、標的タンパク質をコードするmRNA以外のmRNAが、siRNAによって認識され、分解されることを言う。オフターゲット効果は標的タンパク質をコードするmRNAとそれ以外の遺伝子との配列相同性が認められる場合に発生するため、上記の手段により選択した標的配列について、データベース(例えば、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/))により相同性検索を行うか、マイクロアレイ実験等によりあらかじめ交差性を確認することで回避することができる。オフターゲット効果を有しない二本鎖siRNAを用いることにより、二本鎖siRNAのガイド鎖がPKM1をコードするmRNAに特異的に結合できるため、標的タンパク質であるPKM1の発現が特異的に抑制される。本発明の一実施形態では、配列番号1で示される塩基配列に相補的な配列を含み、PKM1の発現を特異的に抑制する二本鎖siRNAを含む薬物感受性増強剤が提供される。
本発明において有効成分として含まれる二本鎖siRNAは、ガイド鎖が配列番号2で示される塩基配列(配列:5’−GUUCUUCAAACAGCUUGCGGUGG−3’)を含み、パッセンジャー鎖が配列番号3で示される塩基配列(配列:5’−CCACCGCAAGCUGUUUGAAGAAC−3’)を含むことが好ましい。本発明の一実施形態では、PKM1を標的とし、ガイド鎖が配列番号2で示される塩基配列を含む23〜28塩基のポリヌクレオチドである二本鎖siRNAを含む、がん細胞の薬物感受性増強剤が提供される。
本発明において有効成分として含まれる二本鎖siRNAは、ガイド鎖が配列番号2で示される塩基配列(配列:5’−GUUCUUCAAACAGCUUGCGGUGG−3’)および2〜5塩基のオーバーハングからなるポリヌクレオチドであり、パッセンジャー鎖が配列番号3で示される塩基配列(配列:5’−CCACCGCAAGCUGUUUGAAGAAC−3’)および2〜5塩基のオーバーハングからなることがより好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、薬物感受性増強剤は、PKM1を標的とし、ガイド鎖が配列番号2で示される塩基配列および2〜5塩基のオーバーハングからなるポリヌクレオチドである。当該オーバーハングは、例えば、UU、またはdTdTである(dT:デオキシチミジン)。
本発明における薬物感受性増強剤の有効成分としては、PKM1を標的とするアンチセンス核酸も用いられうる。
「アンチセンス核酸」は、標的タンパク質(PKM1)をコードするmRNAの少なくとも一部と相補的なヌクレオチド配列を含むDNA分子またはRNA分子であり、細胞内に導入されたときに、標的タンパク質をコードするmRNAと塩基対を形成し、遺伝子からの標的タンパク質(PKM1)の発現を阻害する。
アンチセンス核酸は、標的タンパク質(PKM1)をコードするmRNAの5’非翻訳領域またはコーディング領域の配列と相補的な配列を含むことが好ましい。アンチセンス核酸は、標的タンパク質(PKM1)をコードするmRNAのヌクレオチド配列において、連続する20〜2000塩基、好ましくは連続する50〜1000塩基に対して相補的な配列を含む。アンチセンス核酸としては、上述のベクターに組込まれた、アンチセンス核酸の発現ベクターが用いられてもよい。
本発明における薬物感受性増強剤の有効成分としては、PKM1を標的とするリボザイムも用いられうる。
「リボザイム」は触媒活性を有するRNA分子であるが、本発明に係る薬物感受性増強剤においては、標的タンパク質(PKM1)をコードするmRNAの分解活性を有するものが用いられる。リボザイムによるmRNAの分解により、当該mRNAによってコードされる標的タンパク質の発現が抑制される。かようなmRNAの分解活性を有するリボザイムとしては、例えば、ハンマーヘッド型リボザイムやヘアピン型リボザイムのような30〜40塩基の小型のリボザイムが知られている。
一般的には、リボザイムはNUX(ただし、Nは任意のヌクレオチドであり、XはA、CまたはUである。)配列を認識し、Xの位置で標的配列を切断する。
核酸分子としては、上述のベクターに組込まれた、リボザイムの発現ベクターが用いられてもよい。
本発明における薬物感受性増強剤の有効成分としては、PKM1を標的とする核酸アプタマーも用いられうる。
「核酸アプタマー」は特定の分子と特異的に結合して当該分子機能を阻害するRNAおよびDNAである。標的分子に対する核酸アプタマーは、例えば、SELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法など、公知の手法により選定しても良い。SELEX法は、20〜100残基程度のランダムな塩基配列を有する核酸断片の混合物をライブラリーとして、標的分子に結合する配列を有する核酸断片選定する手法であり、例えば米国特許第5567588号明細書に記載されるような手法である。核酸アプタマーは、ヌクレアーゼ耐性の向上のための従来公知の化学修飾、例えばポリエチレングリコール化やフッ素化等がされたものであっても良い。核酸アプタマーとしては、上述のベクターに組込まれた、核酸アプタマーの発現ベクターが用いられてもよい。
本発明における薬物感受性増強剤の有効成分としては、PKM1を標的とするマイクロRNAも用いられうる。
「マイクロRNA」は、20〜25塩基程度のRNA分子であり、生体内においては一次転写物(pri−miRNA)として転写される。次いで、プロセシングを受けて約60〜70塩基程度のヘアピン構造を有するpre−miRNAとなる。その後、核から細胞質内に移り、さらにプロセシングを受けて20〜25塩基程度の二量体(ガイド鎖およびパッセンジャー鎖)からなる成熟miRNAとなる。成熟miRNAは、そのうちのガイド鎖(アンチセンス鎖)がRISC(RNA−Induced Silencing Complex)と呼ばれるタンパク質と複合体を形成し、標的遺伝子のmRNAに作用することで、標的遺伝子の翻訳を阻害する働きをする。本発明においては単離されたマイクロRNAが用いられる。
PKM1を標的とするマイクロRNAとしては、miR−122、miR−1352等が挙げられる。
本発明における薬物感受性増強剤の有効成分として含まれる核酸分子は、分子構造の安定化、酵素耐性の向上、細胞への取り込みやすさの向上等を目的として、当業者に知られた手段によって化学的に修飾したものであってもよい。化学的修飾の例としては、LNA(登録商標)などの架橋化した核酸、ホスホロチオエート化した核酸、2’−O−メチル化した核酸を用いてもよい。また、核酸分子の5’末端および/または3’末端が蛍光色素、コレステロール、ビオチン等で修飾されたものであってもよい。核酸分子のヌクレオチドは、天然のヌクレオチドに加えて、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素)、メチル基、またはカルボキシメチル基などの基を有する修飾ヌクレオチドを含むことができる。
上記の核酸分子は従来公知の核酸合成方法、例えば核酸合成装置等を用いることにより合成することができる。本発明に係る薬物感受性増強剤には、PKM1を標的とする単離された核酸分子または該核酸分子の発現ベクターも使用され得る。
本発明で用いられる核酸分子は、PKM1を標的とするものである。PKM1が由来する生物種は特に制限されず、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ等に由来するPKM1であるが、好ましくはヒトである。
本発明に係る薬物感受性増強剤は、がんの治療、低減、および/または処置のため、医薬として患者に投与される。ここで、本発明に係る薬物感受性増強剤が使用されるがんは、がん細胞の増殖が抑制される限り特に制限されるものではないが、例えば大腸がん、胃がん、食道がん、乳がん、白血病、肺がん、前立腺がん、肝臓がん、胆道がん、脾臓がん、腎がん、膀胱がん、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、甲状腺がん、膵臓がん、脳腫瘍、造血器腫瘍、悪性黒色腫などの病巣に由来する細胞が挙げられ、このうち大腸がん、胃がん、前立腺がん、または白血病に由来するがん細胞に好適に用いられる。すなわち、本発明の一実施形態では、PKM1の発現および/または機能を抑制する化合物を含む、大腸がん細胞、胃がん細胞、前立腺がん細胞、および白血病細胞からなる群から選択されるがん細胞の薬物感受性増強剤が提供される。がんは、原発性がんまたは転移性がんでありうる。また、「患者」とは、例えばヒト、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ等が含まれるが、特にヒトに対して好適に用いられる。
本発明に係る薬物感受性増強剤による薬物感受性増強効果は、例えば、以下のように評価できる。すなわち、薬物抵抗性のあるがん細胞を、あるいは薬物抵抗性を示すにいたったがん患者由来のがん細胞を、当該薬物および本発明に係る薬物感受性増強剤の存在下に培養して生細胞の数の経時的な変化を観察し、当該薬物存在下かつ当該薬物感受性増強剤非存在下で培養した上記がん細胞の生細胞数と比較することにより評価できる。ここで、本発明に係る薬物感受性増強剤の存在下に培養したがん細胞の生細胞の数が、当該薬物存在下かつ当該薬物感受性増強剤非存在下で培養した当該がん細胞の生細胞数よりも、有意に少ない場合、がん細胞および/またはがん患者は、当該薬物感受性増強剤による処置に適すると判断し得る。あるいは、がん患者におけるCEA(癌胎児性抗原)、CA19−9、α−フェトプロテイン等の臨床的知見を指標にして、薬物感受性増強効果を評価することもできる。
薬物抵抗性のあるがん細胞は、薬物抵抗性のある(あるいは、その可能性がある)がん患者から生検によって採取されたものでもよく、またはin vitroにおいて人為的に薬物抵抗性が誘導されたものであってもよい。薬物抵抗性の人為的な導入は、例えば、薬物存在下でがん細胞を継続培養し、生存細胞をクローニングすることによって得ることもできる。
本発明に係る薬物感受性増強剤は、固体または液体での投与形態に応じて製剤化することができる。経口投与としては、例えば、水薬(水溶液もしくは非水溶液または懸濁液)、錠剤、巨丸剤、カプセル剤、粉末薬、顆粒剤、およびペースト等が例示される。非経口投与としては、例えば、皮下、腹腔内、筋内もしくは静脈内注射のための製剤、または、膣内もしくは直腸内へ投与するための剤形へと製剤化されうる。本発明に係る薬物感受性増強剤の有効成分が核酸分子である場合、好ましくは注射剤の形態として製剤化され、なかでもリポソーム−核酸分子が複合体化した形態に製剤化されることがさらに好ましい。
リポソームを用いることで核酸分子の細胞への取り込みが促進され、核酸分子の血中半減期を長期化することもできる。リポソームを調製する方法としては公知のものを採用することができ、例えばF.Szoka,Annual Review of Biophysics and Bioengineering(1980)9:467−508等が参酌される。
本発明に係る薬物感受性増強剤は、所望の製品形態に応じた製薬上許容されうる担体や、他の添加剤などとともに組成物を構成してもよい。また、本発明に係る薬物感受性増強剤は、賦形剤などの添加剤と混合して非経口投与、または経口投与に適した形態で使用することができる。
「製薬上許容されうる」とは、正しい医学的判断の範囲内で、妥当な便益/リスク比に見合って、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応等の問題や合併症なしに、ヒトおよび動物組織に接触させる使用に適した、化合物、材料、組成物、および/または投薬形態を指す。
「製薬上許容されうる担体」とは、体の一器官または一部から体の別の器官または一部へ本発明に係る薬物感受性増強剤を運搬または輸送することに関与する、液体または固体の製薬上許容されうる充填剤、希釈剤、補形薬、溶剤、カプセル化材料、賦形剤、またはこれらの組成物を意味する。製薬上許容されうる担体としては、例えば、ラクトース、グルコースおよびスクロースのような糖;トウモロコシデンプンおよびバレイショデンプンのようなデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロースのようなセルロースおよびその誘導体;トラガカント;ゼラチン;タルク;ココアバターおよび坐薬ワックスのような補形薬;落花生油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油のような油脂;プロピレングリコールのようなグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールのようなポリオール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルのようなエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムのような緩衝剤;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張食塩液;リンガー溶液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液等が例示できる。
その他、湿潤剤、乳化剤、潤滑剤、着色剤、放出剤、被覆剤、甘味料、香味剤、香料、保存料、酸化防止剤もまた、薬物感受性増強剤中に存在してもよい。
製薬上許容されうる酸化防止剤の例には以下のものがある:アスコルビン酸、塩酸システイン、硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等のような水溶性酸化防止剤;パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロール等のような油溶性酸化防止剤;ならびにクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等のような金属キレート剤も必要に応じて含有させることができる。
非経口投与に好適な形態に製剤化された薬物感受性増強剤は、本発明に係る化合物とともに、1つまたは複数の製薬上許容されうる溶媒、分散剤、乳化剤、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、等張化剤、および/または懸濁剤を含みうる。非経口投与用とする場合には、本発明に係る化合物を精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理食塩水、リンガー溶液(リンゲル液)、ロック溶液等の生理的塩溶液、エタノール、グリセリンおよび界面活性剤等と適当に組み合わせた、水溶液、非水溶液、懸濁液、リポソームまたはエマルジョンとして製剤化され得る。好ましくは注射用滅菌水溶液として製剤化され、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内等に投与される。この際、製剤は、生理学的なpH、好ましくは6〜8の範囲内のpHであることが好ましい。また、ローション剤、懸濁剤、乳剤等の液状製剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏等の半固形製剤、散剤、粉剤(粉状)、用事調製用の固形製剤、または貼付剤などの外用剤として、標的部位およびその周辺部位に経皮的に投与してもよい。さらに、坐薬用基剤を用いた坐薬として投与されることも可能である。上述したうち、好ましい製剤や投与形態等は、担当の医師によって選択され得る。ローション剤、クリーム剤または軟膏などの半固形製剤は、本発明に係る化合物を、脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、蝋、硬膏剤、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤および懸濁剤などからなる群から選択される一種以上と適宜混和することにより得られる。
薬物感受性増強剤は、保存料、湿潤剤、乳化剤および分散剤のような補助薬や、例えば、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸フェノール等の種々の抗菌剤および抗真菌剤、糖、塩化ナトリウム等の等張剤を含めることもできる。さらに、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延させる作用物質を用いることにより、製剤の吸収持続性を調整することもできる。
[薬物感受性を増強する方法]
本発明の第二の形態においては、上記のPKM1の発現および/または機能を抑制する化合物をがん患者に投与することを含む、薬物感受性を増強する方法が提供される。当該方法は、がん患者の治療のためにインビボにおいて行われ得る。当該方法によれば、薬物(抗がん剤)に対する感受性が低下した(あるいは、その可能性がある)がん患者において、当該薬物に対する感受性を回復させ、増強させ、および/または向上させることができる。
本発明の第二の形態に係る方法においては、薬物感受性増強剤について記載された事項が、適宜修飾されて適用される。PKM1の発現および/または機能を抑制する化合物は、投与形態に応じて固体または液体に製剤化されて投与され得る。
上記のPKM1の発現および/または機能を抑制する化合物の投与経路は特に制限されず、経口、皮下、腹腔内、筋内、静脈内、膣内または直腸内へ投与されうるが、注射剤の形態で患部へ投与されることが好ましい。本発明に係る方法は、外科的治療、化学療法、免疫療法および/または放射線治療と組み合わせて行われてもよい。
PKM1の発現および/または機能を抑制する化合物の投与量は、患者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定されうるが、例えば0.1μg/kg体重〜500mg/kg体重、好ましくは0.1〜50mg/kg体重、より好ましくは0.1〜5mg/kg体重の量である。薬物感受性増強剤は、3か月に1回、4週間に1回、2週間に1回、1週間に1回、3日に1回、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、これらの用量で投与されてもよい。一実施形態では、投与は少なくとも6時間間隔で行われる。化合物は、ボーラス投与されてもよく、または、当業者によって適切であるとみなされる期間にわたって継続投与されてもよい。
PKM1の発現および/または機能を抑制する化合物は単独で投与してもよく、または、抵抗性を示す当該薬物もしくは他の薬剤と組み合わせて同時投与、もしくは連続投与し得る。抵抗性を示す当該薬物または他の薬剤と組み合わせて投与する場合、これらの薬物および薬剤、ならびにPKM1の発現および/または機能を抑制する化合物の投与経路は互いに異なってもよく、または同一でもよい。
[薬物感受性を予測する方法]
本発明の第三の形態においては、がん患者における薬物感受性を予測する方法であって、前記がん患者由来のがん細胞におけるPKM1の発現量(A)を測定する段階、および前記発現量(A)を基準値と比較する段階、を含む方法が提供される。当該方法は、インビトロまたはエキソビボにおいて、がん患者由来のがん細胞におけるPKM1の発現量(A)を測定することによって行われる。PKM1の発現量が基準値よりも多いがん細胞が由来するがん患者は、薬物に対して抵抗性を備えているか、または抵抗性を備えている可能性が高いと判断され得る。あるいは、PKM1の発現量が基準値よりも多いがん細胞が由来するがん患者では、薬物の継続投与に適さないかと判断され得る。また、PKM1の発現量が基準値以下であるがん細胞が由来するがん患者は、薬物に対して抵抗性を備えていないか、または抵抗性を備えている可能性が低いと判断され得る。あるいは、PKM1の発現量が基準値以下であるがん細胞が由来するがん患者は、薬物の継続投与に適すると判断され得る。本発明の第三の形態に係る方法によれば、患者に対して薬物が治療上有効に作用しうるか否か、当該患者へ投与を開始する前に予測する手段としても利用できる。
PKM1の発現量(A)は、がん患者における薬物感受性を評価する指標となる。従って、本発明の一実施形態は、がん患者における薬物感受性に関するデータ取得方法であって、前記がん患者由来のがん細胞におけるPKM1の発現量(A)を測定する段階、および前記発現量(A)を基準値と比較する段階、を含む方法である。
また、本発明の別の実施形態は、薬物を投与するがん患者を選別する方法であって、前記がん患者由来のがん細胞におけるPKM1の発現量(A)を測定する段階、および前記発現量(A)を基準値と比較する段階、を含む方法である。PKM1の発現量が基準値よりも多いがん細胞が由来するがん患者では、薬物による化学療法に適さないか、または適する可能性が低いと判断され得る。また、PKM1の発現量が基準値以下であるがん細胞が由来するがん患者では、薬物による化学療法に適するか、または適する可能性が高いと判断され得る。
本発明において「がん患者」は、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ等の哺乳動物であるが、好ましくはヒトである。
本発明の第三の形態にかかる方法において用いられる「がん細胞」は、がん患者のがん患部に由来するものであり、がん細胞を含む組織から生検によって得られたものである。上記方法に用いられるがん細胞は未固定のものであってもよく、また、ホルマリン等によって固定されたものであってもよい。パラフィン等に包埋されたがん細胞であっても本発明の第三の形態にかかる方法に用いることができる。レーザーマイクロダイセクション等の手法を用いれば、生検によって患者から採取した組織から、がん細胞を選択的に採取し、本発明の第三の形態にかかる方法に供することもできる。あるいは、例えば白血病細胞の場合、がん患者から血液、リンパ液、または骨髄液等の生物学的試料を回収し、当該生物学的試料をそのまま、あるいは所望によりがん細胞を分離・濃縮して用いてもよい。
PKM1の発現量(A)の測定に用いられるがん細胞は、例えば大腸がん、胃がん、食道がん、乳がん、白血病、肺がん、前立腺がん、肝臓がん、胆道がん、脾臓がん、腎がん、膀胱がん、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、甲状腺がん、膵臓がん、脳腫瘍、造血器腫瘍、悪性黒色腫などの病変部位に由来するがん細胞が挙げられ、このうち大腸がん、胃がん、前立腺がん、または白血病の病変部位に由来するがん細胞に好適に適用され得る。すなわち、本発明の一実施形態では、がん患者における薬物感受性を予測する方法であって、前記がん患者由来の大腸がん細胞、胃がん細胞、前立腺がん細胞、および白血病細胞からなる群から選択されるがん細胞におけるPKM1の発現量(A)を測定する段階、および前記発現量(A)を基準値と比較する段階、を含む方法が提供される。特に、本発明にかかる方法は、測定試料の入手容易性の観点から、白血病細胞(すなわち、白血病患者由来のがん細胞)に対して好ましく用いられる。
がん細胞におけるPKM1の発現量を後述の方法により測定する前に、必要であれば、採用する測定方法に応じて、採取したがん細胞の前処理を行う。前処理方法は当業者に一般的に知られた方法で行うことができ、特に限定されるものではない。例えば、必要に応じて粉砕(例えば、凍結粉砕)したがん細胞を、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、NP−40等)、還元剤(例えば、2−メルカプトエタノール、ジチオトレイトール等)、変性剤(グアニジン塩酸塩、尿素等)、プロテアーゼインヒビター(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、アプロチニン、ベスタチン、ロイペプチン、ペプスタチン、キモスタチン、アンチパイン、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))等を適宜含む溶解バッファー中でホモジナイズする。必要に応じてホモジネートを遠心分離し、上清を回収して測定用試料とする。測定用試料は、必要に応じて更に精製してもよい。精製方法は特に制限されず、例えば、抗PKM1抗体を固定化したビーズ等の微粒子を用いる方法、限外ろ過、固相抽出、液−液分配法、カラムクロマトグラフィー、透析等を、1種または2種以上組み合わせて採用しうる。測定用試料中のタンパク質含有量は、紫外線吸収法、ブラッドフォード法、ローリー法など、当業者によって従来公知の方法により測定すればよい。後述のように発現量(A)と発現量(B)との比較を行う場合、同じ量のタンパク質が含有される試料を測定に供してもよい。
本発明の第三の形態にかかる方法においては、がん患者由来のがん細胞におけるPKM1の発現量(A)を測定する段階を含む。本発明において、上記のPKM1の発現量を測定する方法は特に制限されず、当業者に従来公知の手段、例えば、免疫アッセイ法、電気泳動法(例えば、SDS−PAGE)または質量分析法等が用いられる。測定の簡便性および精度の観点から、発現量(A)および後述の発現量(B)の測定は、免疫アッセイ法によって行われることが好ましい。免疫アッセイ法としては、抗PKM1抗体を用いた定量的または半定量的分析方法であって、がん細胞におけるPKM1の発現量を基準値と比較可能なデータとして得ることができる手法であればよい。より具体的には、例えば、ウェスタンブロット、ELISA(例えば、サンドイッチ法)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫組織化学法(immunohistochemistry)、イムノクロマト、細胞内染色およびタンパク質チップ等の方法が例示できる。質量分析法としては、液体クロマトグラフィーと質量分析器とを組み合わせたLC/MSおよびLC/MS/MS、ならびにマトリックス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間型質量分析(MALDI/TOF−MS)等が挙げられる。
なお、PKM1に加えて、がん細胞中のPKM2の発現量を測定してもよい。PKM2の発現量が正常細胞よりも高いことにより、当該がん細胞において嫌気的代謝の指標にもなる。なお、PKM2の発現量の測定方法については、PKM1の発現量の測定方法についての記載が参酌される。さらに、内部標準物質として、β−アクチン、GAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ)、HPRT1(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1)等の公知のハウスキーピングタンパク質の発現量をさらに測定し、これらのハウスキーピングタンパク質の発現量に基づき、発現量(A)や発現量(B)の値を標準化してもよい。
PKM1の発現量を測定する代表的な方法を以下に詳述するが、本発明において採用されるPKM1の測定方法が、以下に限定されるものではない。
(ウェスタンブロット)
がん細胞におけるPKM1の発現量(A)は、ウェスタンブロットによって測定してもよい。ウェスタンブロットは従来公知の手法により行うことができるが、より具体的には、例えば、実施例に記載の方法により測定することができる。すなわち、溶解バッファーで適宜希釈した測定用試料を、ポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEに供し、試料中のタンパク質を分離する。その後、PVDF等の転写膜にタンパク質を転写する。必要に応じて脱脂乳液等のブロッキング剤により、タンパク質の非特異的結合をブロックした後、洗浄バッファーで適度に希釈した抗PKM1抗体(1次抗体)と共に、転写膜をインキュベートする。次いで、洗浄バッファーで転写膜を洗浄し、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリンフォスファターゼ)、蛍光色素または化学発光物質等で標識した2次抗体と共にインキュベートする。インキュベート後、PBS−T等のバッファーで膜を洗浄し、標識試薬に応じた発色剤でバンドの発色を行う。検出されたバンド強度から、PKM1の発現量(A)を数値化することが好ましい。β−アクチン等を内部標準として用い、発現量を標準化(補正)してもよい。
(ELISA)
がん細胞におけるPKM1の発現量(A)は、ELISA(酵素結合免疫吸着法、Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay)によって測定してもよい。以下、サンドイッチ法を例に説明するが、競合法によって測定してもよい。サンドイッチ法の場合、抗PKM1抗体(1)を固定化した担体(マイクロプレート等)に対して、測定用試料を適用する。抗PKM1抗体(1)とは別のエピトープを認識する抗PKM1抗体(2)を適用し、結合しなかった試料および抗体を洗浄バッファーで洗浄する。抗PKM1抗体(2)は酵素、蛍光色素または化学発光物質等で標識化されたものを用いてもよいが、標識化されていない抗PKM1抗体(2)を用いる場合は、抗PKM1抗体(2)に対する標識化された2次抗体を用いて反応を行う。その後、標識化物質に応じた方法により、分光光度計等を用いて検出、必要に応じて数値化を行う。
(質量分析法)
がん細胞におけるPKM1の発現量(A)は、質量分析法によって測定してもよい。試料導入部としては、直接導入の他、液体クロマトグラフィーやキャピラリー電気泳動等が採用され得る。イオン化部としては、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法やエレクトロスプレーイオン化(ESI)法等が挙げられる。分析部としては、飛行時間型分析計(TOF)、四重極型分析計、イオントラップ型分析計、およびフーリエ変換質量分析計等が挙げられる。
本発明の第三の形態に係る方法においては、測定した発現量(A)を基準値と比較する段階を含む。本発明に係る方法においては、発現量(A)が基準値以下の場合は薬物感受性を有すると予測され、発現量(A)が基準値を超える場合は薬物感受性を有しないと予測される。本発明の一実施形態においては、発現量(A)と基準値との比較結果に基づき、がん患者の治療を管理する方法が提供される。すなわち、発現量(A)が基準値以下のがん患者は薬物による化学療法に適すると判断され、発現量(A)が基準値を超えるがん患者は薬物による化学療法に適さないと判断される。
一実施形態において、基準値は、薬物に対する感受性を有するがん細胞におけるPKM1の発現量(B)である。薬物に対する感受性を有するがん細胞は、発現量(A)の測定が行われるがん細胞が由来するがん患者と同一のがん患者に由来するものであってもよく、発現量(A)の測定が行われるがん細胞が由来するがん患者とは別のがん患者に由来するものであってもよい。なお、発現量(B)は、上述の発現量(A)と同様の方法にて求めることができる。発現量(A)や発現量(B)は、β−アクチン、GAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ)、HPRT1(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1)等のハウスキーピングタンパク質の発現量に基づいて標準化した値でもよい。
発現量(A)の測定が行われるがん細胞と発現量(B)の測定が行われるがん細胞とが、同一のがん患者に由来する場合、発現量(B)の測定が行われるがん細胞は、投与の開始または継続についての検証対象である薬物の投与開始前に採取された、薬物抵抗性獲得前のがん細胞であり得る。好ましくは、発現量(B)の測定が行われるがん細胞は、化学療法開始前のがん患者から採取された、薬物抵抗性獲得前のがん細胞である。
発現量(A)の測定が行われるがん細胞と発現量(B)の測定が行われるがん細胞とが、別のがん患者に由来する場合、発現量(B)の測定が行われるがん細胞は、当該薬物に対して感受性を有するがん患者由来のがん細胞である。この場合、当該薬物に対して感受性を有する複数の患者(例えば、10〜1000の患者)由来のがん細胞における発現量(B)を平均した値を、基準値として用いることもできる。患者の特性(例えば、年齢、性別または体重等)や剤形に応じて担当医師によって適切と判断される一般的用量によって、薬物治療効果が有効に得られたがん患者に由来するがん細胞は、薬物に対して感受性を有するものと推定され得る。CEA(癌胎児性抗原)、CA19−9、α−フェトプロテイン等の臨床的知見を指標にして、一般的用量の薬物治療によって有効に効果が得られるがん患者を選定してもよい。
PKM1をコードする遺伝子の発現量は組織によっても異なり、例えば脳、脾臓、骨髄、骨格筋および心筋のような好気代謝が活発な組織では多く、胃、気管、肝臓、結腸、子宮、胎盤、肺、胸腺および小腸等では少ないことが知られている。従って、発現量(A)の測定が行われるがん細胞と発現量(B)の測定が行われるがん細胞とは、同一組織由来のがん細胞であることが好ましい。例えば、発現量(A)の測定が行われるがん細胞が大腸がん由来の細胞である場合、発現量(B)の測定が行われるがん細胞も大腸がん由来の細胞であることが好ましい。
発現量(B)の測定が行われるがん細胞が薬物に対して感受性を有していることは、インビボまたはエキソビボにおいてがん細胞を薬物に接触させ、IC50値等を確認するなどにより評価することもできる。
本発明の別の実施形態において、「基準値」は、上記の発現量(B)を1.2倍した値であり、好ましくは1.5倍した値であり、より好ましくは2倍した値である。
「発現量(A)」や「基準値」は、がん細胞におけるPKM2の発現量を1としたときに算出される、同一がん細胞におけるPKM1の相対的な発現量(PKM1/PKM2値)であってもよい。この場合、薬物による治療前のがん患者由来のがん細胞におけるPKM1/PKM2値を基準値とし、薬物治療開始後の同一がん患者由来のがん細胞におけるPKM1/PKM2値を発現量(A)として用いてもよい。あるいは、薬物に対して感受性を有するがん患者由来のがん細胞におけるPKM1/PKM2値を基準値とし、被験体であるがん患者由来のがん細胞におけるPKM1/PKM2値を発現量(A)として用いてもよい。
本発明の第三の形態に係る方法において、「薬物」や「薬物感受性」は、上述の通りである。本発明の一実施形態では、薬物は前記薬物が代謝拮抗剤、プラチナ製剤、微小管阻害剤および抗腫瘍性抗生物質からなる群から選択され、より好ましくは、代謝拮抗剤またはプラチナ製剤である。
[薬物感受性バイオマーカー]
本発明の第四の形態においては、PKM1からなる、がん細胞の薬物感受性バイオマーカーが提供される。本発明に係る薬物感受性バイオマーカーを用いることにより、患者に対して薬物が治療上有効に作用しうるか否か、当該患者へ投与を開始する前にも予測しうる。
本発明のバイオマーカーは、PKM1からなる。本発明のバイオマーカーが適用され得る生物種は特に制限されず、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、イヌ、ネコ等であるが、好ましくはヒトである。なお、本発明においては、上述のがん細胞中におけるPKM1が用いられる。バイオマーカーの検出は、上述の免疫アッセイ法、電気泳動法(例えば、SDS−PAGE)または質量分析法等により行えばよいが、これらに限定されない。
本発明に係るバイオマーカーにおいて、「薬物」や「薬物感受性」は、上述の通りである。本発明の一実施形態では、薬物は代謝拮抗剤、プラチナ製剤、微小管阻害剤および抗腫瘍性抗生物質からなる群から選択される。
本発明に係るバイオマーカーにより薬物感受性が予測され得るがん細胞としては、例えば大腸がん、胃がん、食道がん、乳がん、白血病、肺がん、前立腺がん、肝臓がん、胆道がん、脾臓がん、腎がん、膀胱がん、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、甲状腺がん、膵臓がん、脳腫瘍、造血器腫瘍、悪性黒色腫などのがんに由来するがん細胞が挙げられ、このうち大腸がん、胃がん、前立腺がん、または白血病に由来するがん細胞に好適に適用される。すなわち、本発明の一実施形態では、PKM1からなる、大腸がん細胞、胃がん細胞、前立腺がん細胞、および白血病細胞からなる群から選択されるがん細胞の薬物感受性バイオマーカーが提供される。特に、本発明にかかる薬物感受性バイオマーカーは、測定試料の入手容易性の観点から、白血病細胞(すなわち、白血病患者由来のがん細胞)に対して好ましく用いられる。
本発明の第一〜第四の形態においてそれぞれ説明された事項は、適宜修飾されてそれぞれ互いに適用され得る。
[実施形態]
(1) PKM1の発現および/または機能を抑制する化合物を含む、がん細胞の薬物感受性増強剤。
(2) 前記化合物がPKM1を標的とする二本鎖siRNA、アンチセンス核酸、リボザイム、核酸アプタマーおよびマイクロRNAからなる群から選択される核酸分子、または該核酸分子の発現ベクターである、(1)に記載の薬物感受性増強剤。
(3) 前記化合物がPKM1を標的とする二本鎖siRNAである、(2)に記載の薬物感受性増強剤。
(4) 前記薬物が代謝拮抗剤、プラチナ製剤、微小管阻害剤および抗腫瘍性抗生物質からなる群から選択される、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の薬物感受性増強剤。
(5) 前記がん細胞が、大腸がん細胞、胃がん細胞、前立腺がん細胞、および白血病細胞からなる群から選択される、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の薬物感受性増強剤。
(6) がん患者における薬物感受性を予測する方法であって、前記がん患者由来のがん細胞におけるPKM1の発現量(A)を測定する段階、および前記発現量(A)を基準値と比較する段階、を含む方法。
(7) 前記発現量(A)が前記基準値以下の場合は薬物感受性を有すると予測され、前記発現量(A)が前記基準値を超える場合は薬物感受性を有しないと予測される、(6)に記載の方法。
(8) 前記基準値が、前記薬物に対する感受性を有するがん細胞におけるPKM1の発現量(B)である、(6)または(7)に記載の方法。
(9) 前記発現量(A)および前記発現量(B)の測定が、免疫アッセイ法によって行われる、(8)に記載の方法。
(10) 前記薬物が代謝拮抗剤、プラチナ製剤、微小管阻害剤および抗腫瘍性抗生物質からなる群から選択される、(6)〜(9)のいずれか1つに記載の方法。
(11) 前記がん細胞が、大腸がん細胞、胃がん細胞、前立腺がん細胞、および白血病細胞からなる群から選択される、(6)〜(10)のいずれか1つに記載の方法。
(12) PKM1からなる、がん細胞の薬物感受性バイオマーカー。
(13) 前記薬物が代謝拮抗剤、プラチナ製剤、微小管阻害剤および抗腫瘍性抗生物質からなる群から選択される、(12)に記載のバイオマーカー。
(14) 前記がん細胞が、大腸がん細胞、胃がん細胞、前立腺がん細胞、および白血病細胞からなる群から選択される、(12)または(13)に記載のバイオマーカー。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
<1.試験方法>
(細胞培養)
ヒト大腸がん細胞株(DLD−1細胞、HT−29細胞)、ヒト胃がん細胞株(MKN45細胞、NUGC−3細胞)、およびヒト前立腺がん細胞株(PC−3細胞)は、10%(v/v)の熱不活化FBS(シグマ−アルドリッチ株式会社)および2mM L−グルタミンを添加したRPMI−1640培地中で培養した。また、ヒト白血病細胞株(K562細胞)は、10%(v/v)の熱不活化FBS(シグマ−アルドリッチ株式会社)を添加したRPMI−1640培地中で培養した。細胞の培養は、37℃のインキュベーター(95%空気/5%CO2)内で行った。なお、細胞はJCRB生物資源バンク(Japanese Collection of Research Bioresorces)より購入した。
(薬物抵抗性株の取得)
ドキソルビシン(アドリアマイシン)抵抗性株として公知のK562細胞(K562/ADR)は、JCRB生物資源バンク(Japanese Collection of Research Bioresorces)より購入し、上記と同じ条件で培養した。
DLD−1細胞を用いて、フルオロウラシル(5−FU)抵抗性株(DLD−1/5−FUR)およびオキサリプラチン(Ox)抵抗性株(DLD−1/OxR)を樹立した。また、TH−29細胞の5−FU抵抗性株(TH−29/5−FUR)、NUGC−3細胞の5−FU抵抗性株(NUGC−3/5−FUR)およびMKN45細胞の5−FU抵抗性株(MKN45/5−FUR(「MKN−45/F2R」とも称する))を樹立した。さらに、PC−3細胞を用いてタキソール(Tx)抵抗性株(PC−3/TxR)を樹立した。抵抗性株の樹立は、薬剤少量暴露法により定法に従って行った。なお、5−FU、Ox、Tx、およびドキソルビシン(アドリアマイシン)はシグマアルドリッチより購入し、濃度が50μMとなるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して用いた。
(トランスフェクション)
各細胞は、トランスフェクションの前日に0.5×105細胞/ウェル(10〜30%コンフルエント)となるように6ウェルプレートに播種した。PKM1を標的とする二本鎖siRNA(siR−PKM1、ライフテクノロジーズ社製)を細胞へのトランスフェクションに用いた。試験に用いたsiR−PKM1のガイド鎖の配列は、下記配列番号2の3’末端側にUU(オーバーハング)を有する。また、対照区(C)としては非特異ノンコーディングsiRNA(ダーマコン社から購入)を用いた。
二本鎖siRNAのトランスフェクションにはカチオン性リポソーム(Lipofectamine(登録商標) RNAiMAX、ライフテクノロジーズ社)を用い、製造業者のプロトコルに従って行った。
(薬物感受性の評価)
薬物抵抗性獲得前の(薬物に対する感受性を有する)細胞株(「親細胞」、または「Pare」とも称する。)および薬物抵抗性株、ならびにこれらにsiR−PKM1処理をした細胞を用いて、薬物感受性を評価した。すなわち、抵抗性の獲得に用いられた薬物(または試験株が抵抗性を有することが公知の薬物)を任意の濃度で含む培地中で細胞を培養し、後述の細胞生存率を求め、細胞生存率と薬物濃度との関係から薬物感受性を評価した。
(細胞生存率)
生存細胞の数は、トリパンブルー染色法により測定した。基準となる群における生存細胞数を100(%)とし、基準となる群の細胞数に対する各試験群の生存細胞数の割合(細胞生存率)を求めた。細胞生存率が低い群ほど、細胞増殖抑制活性が高いことを示す。値は3〜6ウェルの細胞を評価した平均±標準偏差として示した。
(細胞周期の解析)
親細胞および薬剤抵抗性株の細胞周期は、Tali(登録商標) Cell Cycle Kit(ライフテクノロジーズ社)を用いて、細胞周期のどのフェーズに集団があるかを解析した。
(ウェスタンブロット)
氷冷した溶解バッファー(10mMトリス−HCl(pH7.4)、1%(w/v)NP−40、0.1%(w/v)デオキシコール酸、0.1%(w/v)SDS、150mM NaCl、1mM EDTA、および1%(w/v)プロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ−アルドリッチ社)中で細胞をホモジナイズし、氷上で20分間静置した。ホモジネートを13,000rpmで20分間(4℃)遠心分離した後、上清を全細胞タンパク質試料として採取した。試料中のタンパク質含有量は、DCプロテインアッセイキット(バイオラッド社製)を用いて測定した。
試料(10μgのタンパク質量)を10.0または12.5%(w/v)のポリアクリルアミドゲルを用いたSDS−PAGEで分離し、PVDF膜(パーキンエルマーライフサイエンス社)に転写した。5%(w/v)脱脂乳液(0.1%(w/v)Tween(登録商標)20を含むPBS(PBS−T)で調製)中で転写後の膜を1時間インキュベートして、非特異的結合をブロックした。その後、2%(w/v)ウシ血清アルブミンおよび0.01%(w/v)アジ化ナトリウムを含有するPBS−Tで適度に希釈した抗PTB1抗体、抗PARP−1抗体、抗LC3B抗体、抗c−Myc抗体、抗サイクリンD1抗体、抗サイクリンE抗体、抗p27抗体(以上、セルシグナリングテクノロジー社)、抗PKM1抗体、または抗PKM2抗体(以上、ノバスバイオロジカルズ社)と共に、4℃で膜を一晩インキュベートした。次いで、PBS−Tで膜を3回洗浄し、二次抗体(HRP結合−ヤギ抗ウサギ抗体、またはHRP結合−ウマ抗マウスIgG抗体、以上セルシグナリングテクノロジー社)と共に室温でさらにインキュベートした。次いで、PBS−Tで膜を3回洗浄した。免疫ブロットは、アマシャムECLプラスウエスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア社)を用いて可視化した。抗β−アクチン抗体(シグマ−アルドリッチ社)を用いて同じ膜を再インキュベートすることにより、β−アクチンを内部標準として用いた。
(アポトーシスを起こした細胞の割合)
アポトーシスを起こした細胞の割合は以下のように評価した。すなわち、トランスフェクション後72時間細胞を培養した後、ヘキスト(5μg/ml)を用いて細胞を37℃で1時間染色した。次いで、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、リン酸緩衝生理食塩水に再懸濁し、ガラススライド上にピペットで滴下し、顕微鏡(オリンパス社)を用いた蛍光顕微鏡法により検査した。顕微鏡観察の結果、凝縮および/または断片化した核を持つ細胞は、アポトーシスを起こしているものと評価した。アポトーシスを起こした細胞の割合は、観察した400個の細胞中、アポトーシスの特徴がある細胞数をカウントして求めた。
(統計解析)
統計分析はグラフパッドプリズムソフトウェアシステム(グラフパッドソフトウェア社)を用い、両側スチューデントt検定により統計有意性を評価した。P値<0.05(*)を統計的に有意であるとみなした(**:P値<0.01、***:P値<0.001)。
<2.結果>
(薬物抵抗性)
各薬物抵抗性株およびそれらの親細胞について、抵抗性を獲得させた薬物を任意の濃度で含む培地中で72時間培養した後の、細胞生存率を図2に示す。細胞生存率は、薬物を含まない培地で培養した場合における細胞数を100%として算出した。薬物抵抗性株は、抵抗性を獲得した薬物に対して感受性が低下していることが分かる。
親細胞および薬物抵抗性株の、5−FUおよびオキサリプラチンに対するIC50値を表1に示す。
薬物抵抗性株では、親細胞に比べて、薬物に対するIC50値が約8〜20倍程度に上昇したことが分かる。また、薬物抵抗性株は、親細胞よりも増殖能が低下していた(図3)。
(薬物抵抗性株の細胞周期)
DLD−1細胞の親細胞および薬物抵抗性株における細胞周期を解析した。その結果、抵抗性株ではG0/G1期のステージにある細胞の割合が多く、S期やG2/M期のステージにある細胞の割合が少なかった(図4)。また、薬物抵抗性株ではc−Myc、サイクリンD1、およびサイクリンEの発現が上昇していた(図5)。以上より、薬物抵抗性株ではG1期からS/G2期への移行が阻害されているものと推定された。図3に示した薬物抵抗性株における増殖の低下は、G1期からS/G2期への移行が阻害されていることによるものと推測された。
(薬物抵抗性株におけるPKM1の発現上昇)
薬物抵抗性株および親細胞(薬物感受性細胞)における、PKM1、PKM2、およびPTB1の発現量をウェスタンブロットで確認した(図6)。薬物抵抗性を有する細胞は、その親細胞に比べてPKM1の発現量が多かった。
発現量は、ウェスタンブロットにおけるバンド強度をデンシトメトリーによって数値化することにより比較した。結果を下記表2に示す。なお、各試験群のPKM1の発現量は、以下の式(1)および(2)に従い、それぞれの細胞株におけるβ−アクチンの発現量で標準化した相対値である。
(PKM1の発現抑制)
DLD−1親細胞、DLD−1/5−FUR、およびDLD−1/OxRに終濃度2nMまたは5nMとなるようにsiR−PKM1をトランスフェクションし、薬物存在下で48時間培養した場合のPKM1、PKM2、およびPTB1の発現量をウェスタンブロットで確認した結果を図7に示す。なお、図7および図8において「C」は、対照区(5nMの非特異ノンコーディングsiRNA)を示す。siR−PKM1をトランスフェクションした細胞においては、PKM1の発現が抑制されていることが分かる。
siR−PKM1処理による薬物感受性に対する影響を評価した結果を図8に示す。薬物抵抗性株に5nMのsiR−PKM1または非特異ノンコーディングsiRNA(対照区(C))をトランスフェクションした後、24時間培養した。その後、トランスフェクションした薬物抵抗性株を任意の5−FUまたはOxを含む培地中でさらに48時間培養し、薬物に対する感受性を評価した(図8)。その結果、siR−PKM1をトランスフェクションした試験区では、5−FUまたはOxで処理した場合の細胞生存率が顕著に低下することが確認された。従って、薬物抵抗性のがん細胞において、PKM1の発現を抑制することにより、当該薬物に対する感受性が増強されることが示された。なお、図8では、対照区(C)の薬物抵抗性株を、薬物を含まない培地で培養した場合(図8中、DMSO)の細胞生存率を100%として、細胞生存率を評価した。
siR−PKM1をトランスフェクションした薬物抵抗性株は、上記の薬物処理後においてもPKM1の発現が抑制されていた(図9)。
siR−PKM1のトランスフェクション前後における、薬物抵抗性株の薬物に対するIC50値を表3に示す。
siR−PKM1を薬物抵抗性株にトランスフェクションすることにより、薬物に対するIC50値が顕著に低下したことが分かる。
(siR−PKM1によるアポトーシス誘導)
図8において、対照区の細胞をDMSOで処理した場合に比べ、siR−PKM1をトランスフェクションしてDMSOで処理した薬物抵抗性株においても、細胞生存率が低かった。この理由を解析するため、親細胞および薬物抵抗性株に5nMのsiR−PKM1をトランスフェクションし、薬物処理を行わずにアポトーシスを起こしている細胞の割合を確認した。その結果、siR−PKM1のトランスフェクションにより、対照区に比べてアポトーシスが亢進していることが確認された(図10)。アポトーシスの亢進は、薬物抵抗性株においても確認された。アポトーシスの亢進は、アポトーシス関連シグナル分子、特にPARPの切断が亢進されていることからも裏付けられた(図11)。
5nMのsiR−PKM1をトランスフェクションして24時間培養した薬物抵抗性株および対照区の薬物抵抗性株を、薬物(図12(A)30μM 5−FU、図12(B)10μM Ox、図12(C)50μM 5−FU)を含む培地中で48時間培養し、アポトーシスを起こしている細胞の割合を確認した(図12)。その結果、対照区(siR−PKM1をトランスフェクションしなかった細胞)では、薬物処理によるアポトーシスの誘導は認められなかった。一方、薬物抵抗性株にsiR−PKM1をトランスフェクションすることによりアポトーシスが誘導され、薬物処理することによりアポトーシスの誘導がさらに増強された。
<3.製造例(注射剤)>
PKM1を標的とする二本鎖siRNAを10μg/アンプル含むリン酸緩衝液を無菌的に調製し、1mlずつガラスアンプルに分注して密封した。
好ましい実施形態の上記実施例および説明は、特許請求の範囲によって定義される本発明を限定するものというより、例示するものとして解釈されるべきである。本明細書で引用された全ての刊行物は、その全体が本明細書中に参照によって組込まれる。容易に理解されるように、上述した特徴の多数の変形および組み合わせは、特許請求の範囲に記載の本発明から逸脱することなく利用されることができる。そのような変形は、本発明の範囲からの逸脱とはみなされず、全てのそのような変形は、特許請求の範囲内に含まれることが意図される。