JP2017064860A - 加工異常監視方法およびその機能を備えたnc工作機械 - Google Patents

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【課題】振動振幅の大きい工具軸以外に外部からセンサを装着できないNC工作機械にあって、工具の異常を監視して検知する方法を提供する。【解決手段】本発明の加工異常監視方法を、加工物を回転するワーク軸と工具を回転可能に支持する工具軸を備えたNC工作機械の工具軸に加速度センサを具備し、加工中に工具の異常を監視する方法であって、(1)該加速度センサの信号を、500Hz以下のローパスフィルタに通す工程と、(2)該加速度センサの信号のパワースペクトル密度を求め、あらかじめ定めた第1の閾値以上の該パワースペクトル密度のピーク点の数を計数する工程と、(3)該ピーク点の数があらかじめ定めた第2の閾値以上となった際に、工具に異常が生じたと判定する工程と、を少なくとも有して構成する。【選択図】 図3

Description

本発明は、加工異常監視方法およびその機能を備えたNC工作機械に関する。
NC(Numerical Control)制御装置で工具の移動経路が制御される工作機械は、通例、工具自動交換装置を備えており、加工物の着脱をロボット等により自動化すると無人運転が可能となる。しかしながら、加工中に発生する課題で無人運転の障害となる現象の一つに工具の折損や、欠損といった工具に生じる異常がある。この工具の折損や欠損は、工具の摩耗によって工具に作用する力が増大することが基本的な原因であるため、工具の使用時間を自動的に収集して、異常が生じるより短い時間に設定した使用時間に到達したら新しい工具に交換することが一般的に行われている。交換用の新しい工具は、工作機械に備えられた工具ストッカに収納しておき、自動的に工具交換する機能が利用できる。よって、適切な使用時間を制御装置に入力しておけば、工具に異常が発生する前に新しい工具で加工を行う設定ができて、基本的機能として無人運転が可能な機能を備える工作機械が多く存在している。
しかし、工具への切り屑の噛み込みや振動の多い加工状態などが原因となり、突発的な工具折損や工具欠損の工具異常が発生しており工作機械の無人運転の障害となってきた。
この突発的な工具異常を検知する手段として、特開2004−130407号公報に開示される手段がある。この公報には、工具に加わる負荷を検出して、(1)切削負荷の時間、(2)切削負荷波形の面積、(3)切削負荷の下降傾きを利用して工具異常を検知する手段が開示されている。負荷は、工具を回転駆動して加工する装置にあっては、工具軸を移動するモータあるいは工具を回転するモータの電流値から求める方法を開示している。
また、特開2003−340686号公報には、磁歪式トルクセンサを工具軸内に装備して、ドリルで穴加工を行うに際して、この磁歪式トルクセンサから得られるトルク波形あるいはトルク波形のパワースペクトルからドリルの異常を検知する手段が開示されている。
特開2005−111588号公報では、工具からセンサで得られる信号を用い、基準となる工具で得た信号を基準信号として記憶しておき、この基準信号と使用中の工具から得られる信号を比較することで工具に異常が生じたか否かを識別する手段が開示されている。
特開2004−130407号公報 特開2003−340686号公報 特開2005−111588号公報
特許文献1に開示される手段を実際の生産で使用を試みると、加工を開始した時間すなわち工具が加工物に接触して切り屑を出し始めた時間を正確に捕捉する必要がある。特許文献1の発明実施の形態ではドリルによる穴加工の例により説明している。穴加工開始前のドリルの位置は、加工物から離れた位置に定置させて、穴加工動作を開始するのが通例である。加工物から離す距離は一意ではないため、NCプログラムから工具と加工物が接触する位置すなわち加工開始時間を事前に特定することは難しい。特に、加工物に1穴しか加工せず、異常検知目的の加工と同条件の加工がその前にない場合には、加工開始時間を前例から求めることは不可能で、異常を判定する前提となる加工開始と終了の時間を実際の生産で特定することができない第一の問題点があった。
特許文献2に開示される手段では、工具軸の中にトルクを検出するセンサを組み込む必要がある。工作機械を製作する前の段階では、この例のようなセンサを工具軸に組み込む仕様とすることは可能であるが、既存の工作機械で工具回転軸にトルク検出センサを備える仕様のものが生産で使用されている例は見当たらない。また、すでに生産で使用されている状態にある工作機械の工具軸に、後からトルクセンサを組み込むことは工具軸を新規に制作して交換する処置が必要となる。この処置には、センサを回転軸に組み込むことで、工具軸の剛性や共振点が変化することを考慮せねばならない。よって、工具軸の開発を行うことになり多額の費用が必要となるため、既存の工作機械にトルクなどの力を検知するセンサを組み込むことは、非常に困難である第二の問題点があった。
特許文献3に開示される手段では、工具側にセンサ(モータ負荷、振動、アコースティックエミッションなど)を設けて、このセンサ信号を利用する手法が開示されている。センサから出力される信号の高周波成分と低周波成分をフィルタで分離し、その後、高周波成分と低周波成分の特徴量を求めて、この特徴量を工具の異常検知に用いるとしている。高周波成分では実効値、低周波成分では平均値を特徴量の一例として示しており、これらの特徴量を閾値と比較して工具の異常を識別するとしている。しかし、既存の設備の工具側に設けたセンサでは、振動波形の実効値、平均値を工具異常の特徴量とすると、工具回転軸の振動が大きいため工具の異常を検知する障害振動となる。よって、微小な工具の欠損や小径工具の折損を瞬時に捕捉することができない第三の問題点があった。
以上に述べた課題を以下に要約する。
1)工具と加工物の接触を加工開始の基準点として判定用信号を収集する手段では、基準点を正確に捉えることができない。
2)工具回転軸内にトルクなどの力検出センサを組み込む手段では、生産で稼働中の加工機に対し容易にセンサを装着できない。
3)工具側に装着したセンサの振動波形の実効値や平均値を用いた手段では、工具回転の振動が障害振動となり、振動振幅の小さな工具異常を検知できない。
本発明は、振動振幅の大きい工具軸以外に外部からセンサを装着できないNC工作機械にあって、工具の異常を監視して検知する方法を提供する。
上記課題を解決するために本発明の加工異常監視方法を、加工物を回転するワーク軸と工具を回転可能に支持する工具軸を備えたNC工作機械の工具軸に加速度センサを具備し、加工中に工具の異常を監視する方法であって、(1)該加速度センサの信号を、500Hz以下のローパスフィルタに通す工程と、(2)該加速度センサの信号のパワースペクトル密度を求め、あらかじめ定めた第1の閾値以上の該パワースペクトル密度のピーク点の数を計数する工程と、(3)該ピーク点の数があらかじめ定めた第2の閾値以上となった際に、工具に異常が生じたと判定する工程と、を少なくとも有して構成する。
また、上記課題を解決するために本発明の加工異常監視方法を、加工物を回転するワーク軸と工具を回転可能に支持する工具軸を備えたNC工作機械の工具軸に加速度センサを具備し、加工中に工具の異常を監視する方法であって、(1)該加速度センサの信号を、500Hz以下のローパスフィルタに通す工程と、(2)該加速度センサの信号のパワースペクトル密度を求め、あらかじめ定めた第3の閾値以上の該パワースペクトル密度のピークを示す周波数の間隔の分散を求める工程と、(3)該分散があらかじめ定めた第4の閾値以上となった際に、工具に異常が生じたと判定する工程と、を少なくとも有して構成する。
また、本発明の他の特徴として、前記加工異常監視方法において、前記加速度センサの信号を通過させるローパスフィルタに加えて、100Hz以下の周波数の前記加速度センサの信号を遮断するハイパスフィルタを通した後に、前記パワースペクトル密度を求めるようにする。
また、上記課題を解決するために本発明のNC工作機械を、加工物を回転するワーク軸と、工具を回転可能に支持する工具軸と、前記ワーク軸と、前記工具軸をNC制御するNC制御装置と、前記NC制御装置により、加工プロセスに伴って起動が掛けられ、前記工具軸に取り付けられた加速度センサから加速度信号を入力して、該加速度信号を500Hz以下のローパスフィルタに通し、通過した加速度信号からパワースペクトル密度を求め、あらかじめ定めた第1の閾値以上の該パワースペクトル密度のピーク点の数を計数して、該ピーク点の数があらかじめ定めた第2の閾値以上となった際に、工具に異常が生じたと判定して、前記NC制御装置へ加工異常を通知する加工異常監視・制御システムとを備え、前記加工異常の通知を受けた前記NC制御装置は、前記工具軸の工具をワークから退避させて、前記ワーク軸と、前記工具軸の駆動を停止させるように構成する。
本発明では、工具装着軸に装着した加速度センサの500HzHz以下の比較的低周波成分の信号を用いて、その信号のパワースペクトル密度波形が閾値を超えた領域で波形のピーク数を計数する。そして、そのピーク数が設定値を超えた時点を工具の異常と判定する。この手段では、工具と加工物が接触して切り屑を出し始める瞬間を捕捉する必要がないため、従来あった第一の問題点を解決できる。
また、工具軸に加速度センサを装着して信号元とするため、すでに生産で稼働中の加工機にセンサを装着することができる。よって、工具回転軸内にセンサを組み込むために、工具回転軸を新規に設計・制作する必要がなく、容易にセンサを装着できるため、従来あった第二の問題点を解決できる。
さらに、加速度波形のパワースペクトル密度のピーク数を計数する手段で工具の異常を検知するため、振動振幅の小さな工具の異常も識別が可能となる。そのため、工具回転の振動が障害となり振動振幅の小さな工具異常を検知できなかった第三の問題点を解決できる。
複合旋盤と加工異常監視・制御システムの概観概略を示した構成図である。 加工異常監視・制御システムのハードウェアの概要構成を示す構成図である。 加工異常監視・制御システムの加工異常監視処理に関するフローチャートである。 工具軸に装着した加速度センサで、工具軸を回転した状態で得られるスペクトラムの一例を示す線図である。 500Hz以下の領域で、直径1mmのドリルが正常加工している際に得られるパワースペクトル密度と折損した際に得られるパワースペクトルを示した線図である。 直径1mmのドリルが折損した穴加工で得られたパワースペクトル密度の閾値以上のピーク数の推移を示した線図である。 直径1mmのドリルの加工で、穴毎にピーク数の最大値の推移を示した線図である。 加工異常監視・制御システムの加工異常監視処理に関する第二の実施形態のフローチャートである。 直径2.5mmのドリルが正常加工している状態で得られるパワースペクトル密度の一例を示した線図である。 500Hz以下の領域で、直径2.5mmのドリルが折損した際に得られるパワースペクトル密度の一例を示した線図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態の加工異常監視・制御システムと加工機の全体主要部について構成概要を示す。図1において、1は加工異常監視・制御システム、11は加工機の工具軸に取付けた加速度センサ、12は通信I/F(Inter Face)、13はセンサ信号受信ユニット、14は演算・制御ユニット、2は複合旋盤、21は工具軸、22はワーク軸、23はNC制御装置、24は制御盤、3は加工物、4は工具である。
加工異常監視・制御システム1は、加速度センサ11で加工用工具4が加工物3を加工中に発生する振動を検出し加速度の大きさに対応した電圧あるいは電荷信号を出力する。この加速度センサ11の出力ケーブルは、センサ信号受信ユニット13に接続されており(ケーブル全体は図示せず)、センサ信号をA/D変換して、通信I/F12を経由して演算・制御ユニット14に受け渡す。演算・制御ユニット14では、受信した信号を元に、工具4による加工の異常有無を判定し、工具4に異常が生じたと判定した場合、通信I/F12を経由して、複合旋盤2のNC制御装置23に、工具4に異常時の動作を行わせるための信号を送り込む。
工作機械の一例として図1に示す複合旋盤2は、工具軸21に装着した工具4で、ワーク軸22に取り付けられた加工物3を加工する。一例として、加工物3を回転させた状態で、工具軸21に旋削用の工具4を装着して、旋削用の工具4を加工物3の外周に沿って移動させる動作で、いわゆる旋削加工ができる。また、別の一例として、工具軸21にドリルなどの回転することで加工する工具4を装着して、工具4を回転させながら加工物3を加工する動作では、穴開け、ネジ加工、溝加工などの、いわゆる転削加工ができる。複合旋盤2は、旋削加工と転削加工の両者が可能な加工機で、複合旋盤と称される。
図1に示した構成例では、工具軸21は、直行3軸である矢印X、Y、Z方向に移動可能であるとともに、矢印Bで示すように回動動作が可能で任意の角度で停止でき、工具4を加工物3に対して、任意の角度で対向させることができる。また、ワーク軸22は、加工物3を連続回転させる動作と、所望の角度で固定させるいわゆる割出し動作ができる。工具軸21、ワーク軸22などの機械構成要素の動作はNC制御装置23によって制御される。複合旋盤は図1に示した形態の他に、ワーク回転軸を2軸以上備える、あるいは工具軸を2軸以上備えるなど、ワーク軸と工具軸の機能が多様化した構造が存在している。
上述したような複合旋盤2では、感度良く信号を捕捉するために加工点近傍に加速度センサ11を配置することを試みると、加速度センサ11のケーブルが回転する構成部材に巻きつかないためには、工具軸21だけが装着可能な部分となる。また、加工物を回転可能な回転テーブルを備えるマシニングセンタ(図示せず)も同様に工具軸(図示せず)だけがセンサを装着可能な部分となる。
図2は、加工異常監視・制御システム1のハードウェア構成の概要を示す。CPU14A、ROM14B、RAM14C、磁気ディスク14D、磁気ディスクドライブ14F、光ディスク14G、光ディスクドライブ14H、通信I/F装置(1)12A、通信I/F装置(2)12B、通信I/F装置(3)12C、プリンタ14I、キーボード14J、マウス14K、ディスプレイ14L、信号受信ユニット13及びバス15などを備える構成である。
この加工異常監視・制御システム1は、複合旋盤2側の工具軸21に装着された加速度センサ11から信号受信ユニット13を介してセンシングした加速度信号が入力され、NC制御装置23とは、通信I/F装置(1)12A、通信I/F装置(2)12Bを介して制御信号の授受を行う構成である。
加速度計11からの加速度信号を入力して、工具の異常有無を判定する加工異常監視処理は、CPU14Aが磁気ディスク14Dや光ディスク14GやROM14Bに記憶されている加工異常監視プログラム、および制御パラメータデータをRAM14Cへロードして、プログラム処理を実行することにより実現される。
加工異常監視・制御システム1は、通信I/F装置(3)を介して通信ネットワーク(LAN)5を通じて他の機器とデータ通信する処理を行う。複合旋盤2も、NC制御装置23内の機器を介して、通信ネットワーク(LAN)5を通じて他の機器とデータ通信する処理を行う。マウス14Kやキーボード14Jは、ユーザがデータや指示の入力に用いる。ディスプレイ14Lやプリンタ14Iは、加工状態の表示や、各種データの印刷出力を行う。
図3に、図2のハードウェア構成において、加工異常監視処理に関するフローチャート例について説明する。
ステップS101において、磁気ディスク14Dや光ディスク14GやROM14Bに格納された加工異常監視プログラム、および制御パラメータデータを用いて、加工異常監視プログラムを起動する待ち受け状態にする。既に、RAM14C上にロードされている場合には、NC制御装置23からの起動指示31の待ち受け状態にする。NC制御装置23が、新たな加工プロセスを開始する際に発行する起動指示信号31をI/F(1)12Aを経由して受けて、加工異常監視プログラムを起動する。
ステップS102において、NC制御装置23からI/F(1)12Aを経由して新たな加工工程に対応した加工異常監視方法とそのための制御パラメータデータの選択の指示32を受付けて、該当する監視プログラムを選定・起動する。
加工プロセスにより、加工異常監視プログラムや工具異常の判定手段を複数使用可能としており、いずれの加工異常監視プログラムを起動させるかを、NC制御装置23からの指示で選択可能な構成としている。
ステップS103において、信号受信ユニット13から入力される加速度計11の信号33を特定の周波数でフィルタ処理する。通例、加速度センサ11から出力される信号は、電圧または電荷のアナログ信号であるが、この信号を信号受信ユニットでA/D変換して出力する。例えば、制御パラメータデータで指定したサンプリング周期τ(s)=1/10000(s)でサンプルした時系列なディジタル信号33を入力する。その後、S103で加速度に変換する。なお、S103以後の処理を電圧値や電荷値のまま実行する場合においては、加速度に変換する処理は必ずしも必要としない。
S103で実行するフィルタ処理は、例えば、制御パラメータデータで指定した500Hz以下の周波数を通過させるローパスフィルタである。工具軸21の回転軸(図示せず)はボールベアリング(図示せず)で支持されており、工具4を回転させると500Hz以上の高周波振動が大きいのが通例で、工具異常により生じる振動を検知する障害となる。
S103で実行するフィルタ処理は、入力した時系列なディジタル信号を離散フーリエ変換処理して、500Hz以上のフーリエスペクトル成分をカットすることで実行する。そして、S103では、次のS104の演算処理であるパワースペクトル密度を求める演算に必要なフィルタ処理後の振動データを蓄積する。
ステップS104において、S103で収集された振動データを用いてパワースペクトル密度PSDを求める。ここでの演算では、サンプリング周期τで連続して入力されている振動データのうち、例えば、制御パラメータデータで指定したN点のサンプルのみを取り出してパワースペクトル密度PSDを求める。すなわち、有限時間長T=Nτのディジタルデータを使って、離散フーリエ変換により、離散周波数ごとのパワー(加速度センサ11から出力される信号に含まれる周波数毎の単位時間当たりのエネルギー)を表すパワースペクトルPSを算出する。
しかし、パワースペクトルPSは、周波数分解能(バンド幅)Δf=1/Tにより大きさが左右されるため、単位周波数(1Hz幅)で正規化して以下の数式1で現されるパワースペクトル密度PSDを算出する。パワースペクトル密度PSDを算出することにより、使用するアナライザにより計算される値に相違が生じるのを避けることができる。
(数1) PSD=PS/Δf ………(数式1)
例えば、図5を用いて後述するような例では、サンプリングレートが10000点/s、パワースペクトルの計算に用いるサンプル数Nを512点(0.05秒分:工具の折損計測時間以下)用いているので、Δf=20Hzとなり、20Hz毎に1点が計算されるので、500Hz以下の領域では、25点のスペクトル密度が計算される。
ステップS105において、図5の例に示すように、S104で求めたパワースペクトル密度PSDが閾値T1以上の領域で、パワースペクトル密度波形の頂であるピークの数を計数する。ピーク点は、周波数が小さい方からパワースペクトル密度を比較していき、小さな値になる前の点がピークとなる(または、ある点Pの前後の値の一方がその点Pより大きい値となるが、その点Pにおいて上に凸形状であれば、ピーク点と呼ぶことにしてもよい)。前述したように、図5に示し後述する例では25点しか数がないので、計算は短時間で完了する手法である。
ステップS106において、S105で求めたピーク数が、例えば、制御パラメータデータで指定した閾値T2より少ない場合には、工具に異常がないと判定して、S107に進む。ピーク数が閾値T2以上であれば、工具に異常が生じたと判定してS109に進む。
ステップS107において、NC制御装置23から加工異常監視処理の終了指示が出ていないかをチェックする。
ステップS108において、S107で、NC制御装置23から加工異常監視処理の終了指示信号が確認できなければ、S103に戻り、S103乃至S108の間のステップを繰り返し実行して、加工異常の監視処理を継続する。ここで、S104乃至S106の演算を行っている間もS103の処理は継続して進められており、加速度計11からの信号は間断なくS103で処理される。
S107で、NC制御装置23から加工異常監視処理の終了指示信号が発行されていることを確認できれば、以降に記載のS111に移行して、当該工程の加工異常監視処理を終了する。この場合は、工具に異常が発生せずに、当該の工程が終了したフローとなる。
ステップS109において、S106でピーク数が閾値T2以上と判定された状態で、I/F(2)12Bを介して、NC制御装置23に加工異常通知信号34を出力する。NC制御装置内では、この信号34を受けて使用中の工具や工程に応じて対応する処置プログラム(図示せず)を起動させる。一例として、工具を加工物から離脱させるように工具軸21を移動させて、工作物、工具の動作を停止して、異常を報知するランプ(図示せず)を点灯させたりブザー(図示せず)を鳴らしたりする。
ステップS110において、上述の加工異常判定後のNC制御装置23の処置完了に伴い、NC制御装置23より加工異常監視処理の終了指示35が出力されるようにしておき、I/F(1)12Aを介して当該加工工程の加工異常監視処理の終了指示35を受けて、加工異常監視処理を終了する。
ステップS111において、加工異常監視プログラム全体の終了指示36がユーザによるキーボード14Jなどから出ているかを判定し、出ていなければ最初のS101に戻り、NC制御装置23から次の加工異常監視処理開始信号31が出力されるのを待機する。
加工異常監視プログラム全体の終了指示36が出ていれば、加工異常監視プログラムを終了させる。この終了指示36は、複合旋盤2で生産が終了して、複合旋盤2を停止させる場合などに、人為的にプログラムを停止させることを考慮している。
図4は、種々の工作機械でボールベアリング(図示せず)により軸が支持される構造の工具軸を毎分100乃至10000回転で回転させ、図1に示す位置に加速度センサを装着して得た振動波形をフーリエ変換したスペクトラムグラフの内、比較的振幅の大きな一例である。使用した加速度センサは、10mv/(m/s)の感度で、サンプリング頻度は10000点/s、フーリエ変換に使用したサンプル数は10000点(1秒収集分)である。この例に示すように、回転する工具軸に装着した加速度計で得られる信号から評価すると、工具軸の振動は500Hz以上で大きく、加速度計の応答周波数帯域である5000Hzまで振動が小さくなる領域がない。複数のボールが転動するボールベリングの回転振動が主な原因で工具軸の回転振動周波数以上の領域で大きな振幅の振動を発生させている。この現象は、500Hz以上の周波数領域で工具の折損や欠損の検知を試みると、工具の回転振動が障害(ノイズ)となり感度の良い検知が難しいことを示している。
このような工具軸の特徴から、図3に示すステップS103における加速度計信号のフィルタリングでは500Hz以下の信号を通過させるローパスフィルタを使用する。なお、加工液が噴射される構造の工具軸(図示せず)が存在し、この加工液の噴射や工具軸が加工点まで移動する動作による加減速で加速度計に信号が発生する。これらの振動が後述する工具異常の検知手段の障害となる場合には、これらの振動は通例100Hz以下の領域にあることから、100Hz以下の信号を遮断するハイパスフィルタをS103で併用すれば良い。
図5は、図1に示した形態の複合旋盤2に工具4として直径1mmのハイスドリルを装着し、加工物3をクロムモリブデン鋼円筒体にして穴加工を行い、図3に示すS103とS104の各ステップを処理した結果を示した線図の一例である。説明のために、ドリルが正常に加工した際の波形P1と、ドリルが折損した際の波形P2を同一図に併記している。ドリル回転数は2865回転min―1、1回転当りの送り量は0.01mm/rev.で深さ0.25mmを加工する都度一旦ドリルを引き抜いて切粉を排出するステップ加工と称される加工を採用している。加工穴の深さは10mmである。加速度センサは、10mv/(m/s)の感度で、加速度検出方向は穴開け方向すなわちドリルの進行方向とした。加速度信号のサンプリング頻度は10000点/s、パワースペクトル密度の計算サンプル数は512点(0.0512秒毎)である。サンプル数512点毎にパワースペクトル密度を求めるのは、ドリル折損時の振動継続時間が50乃至70msであり、この折損振動継続中にパワースペクトル密度を計算するためである。
本実施例では、上述したようにパワースペクトルの計算に100乃至500Hzの加速度計信号を用いている。ドリルが正常な状態では、パワースペクトル密度はP1に示すレベルにあるが、ドリルが折損した時点で、パワースペクトル密度はP2に示すように、100乃至500Hzの領域で全体が上昇する。よって、適切な閾値T1を定めて閾値T1以上の領域で○印を付したピークを検出してその数を計数する処理である図3に示したS105の処理で、ドリル折損時のピーク数を特定できる。このドリル折損時の閾値以上のピーク数は、ドリルが正常な状態より多くなる。本実施例では、ドリルが正常な状態では、閾値を超えるピークの数は2個で、ドリルが折損した時は14個で7倍の値を示す。ドリル支持系の固有振動数(図4のf1に相当)付近でドリル折損時に増幅する特異周波数を用いて、ドリルの折損を検知しようと試みると、直径1mmと細いドリルでは工具軸21の振動に紛れて検知が難しいが、工具軸21の振動が小さい周波数領域を用いることで、検知することができる。また、ピークの数を計数するため、パワースペクトル密度の平均値や面積を求めて検知するよりも感度が良い。計算も短時間なため、本例のように約0.05秒毎に計算を行っても、穴加工の進行に追従遅れを起こすことがない特徴がある。
図5に示した折損時波形P2は、上述した加工で31番目の穴加工時に折損した瞬間の波形である。この31番目の穴加工時にドリルが折損した連続加工処理で、加工開始から約0.05秒毎のピーク数を計算毎に表示した線図が図6のP3である。線図P3では、折損時ピークBにおいてピーク数は大きなものが出現するが、折損していない場合は、最大値が4であり折損時に比べて小さな値である。折損時ピークは、他の状態に比べて大きな値を示すので、折損を感度良く識別することが可能である。
図7は、図6に示したピーク数の加工穴毎の最大値の推移を線図P4で示している。1番目乃至30番目の穴では、ピーク数は4を超えないため、閾値T2を6に設定しておけば折損時の31番目の穴は識別可能である。よって、図6の線図でドリルの折損を監視して、約0.05秒毎に閾値T2を超えたか否かを判定していけば、本実施例のドリルの折損は検知できる。この評価方法を図3のS106の判定処理として、ピーク数が閾値T2以上であれば、S109に進み加工異常信号34をI/F(2)12Bを介してNC制御装置23に送出する。
この信号34を受けたNC制御装置23では、現在加工中の工具を退避させた後に動作を停止するなどの処置を行うプログラムを起動させる。以上に述べたドリルの例では、ドリルを加工物から離す方向に工具軸21を移動させて、回転を停止し、異常を報知するランプ(図示せず)を点灯させる方法が異常時の処置である。
また、本実施例では、約0.05秒の繰り返しサイクルで判定ができるので、ほぼドリルが折損した振動継続時間を1〜2サイクル内で捉えて、折損の瞬間を検知でき、即座に加工を停止させることができるので、損傷したドリルで加工を継続することにより工作物4に傷を付け不具合のある工作物を製作することを防止できる。
以上に、直径1mmのドリルによる加工で実施例を説明したが、本加工異状検知手段はドリル加工に限定されるものではなく、検知すべき工具異常時に500Hz以下の周波数領域でパワースペクトル密度が上昇する現象を呈する場合、使用が可能である。また、本例では、加速度センサは、10mv/(m/s)の感度で、加速度検出方向は穴開け方向すなわちドリルの進行方向とし、加速度信号のサンプリング頻度は10000点/s、パワースペクトル密度の計算サンプル数は512点(0.0512秒毎)の仕様や条件としたが、これらは対象とする工作機械、加工物および加工諸元で適切な仕様や条件を選定する。
本発明の第2の実施形態を、図8乃至図10により説明する。
図8は、図2に示したハードウェア構成において、加工異常判定処理に関する別の方法の例を示している。
ステップS201において、図3に示したS101の処理と同様に、磁気ディスク14Dや光ディスク14GやROM14Bに格納された加工異常監視プログラム、および制御パラメータデータを用いて、加工異常監視プログラムを起動する待ち受け状態にする。既に、RAM14C上にロードされている場合には、NC制御装置23からの起動指示31の待ち受け状態にする。
ステップS202乃至S204において、図3に示したS102乃至S104と同様の処理を行うが、S202でNC制御装置23から受け付ける新たな加工工程に対応した加工異常監視方法とそのための制御パラメータデータの選択の指示37が、S102で受け付ける指示32と異なる点が図3との相違点である。
ステップS205において、パワースペクトル密度の波形で、閾値T3以上の領域でピークを示す周波数を求めて、これらの周波数の間隔の分散を求める。
ステップS206において、S205で求めた周波数の間隔の分散が、閾値T4より小さければ工具に異常がないとして、S207に進む。閾値T4以上であれば工具に異常があるとして、S209に進む。
ステップS207乃至S211の各処理は、図3に示したS107乃至S111の各処理とそれぞれ対応して、同処理である。
図9は、図1に示した形態の複合旋盤2に工具4として直径2.5mmの超硬ドリルを装着し、加工物3をクロムモリブデン鋼円筒体にして穴加工を行い、図8に示すS203とS204の各ステップを処理した結果を示した線図の一例である。ドリル回転数は2865回転min―1、1回転当りの送り量は0.03mm/rev.で深さ10mmの穴を1回の送り動作で加工している。加工液がドリル先端から噴射される形態のドリルで切り屑がドリルに詰まらないので、ドリルの回転周期に同期したピークが検出された波形である。本実施例で設定した閾値T3以上の最初のピークは、工具軸の回転周波数で、それより高周波数では、工具軸の回転周波数の倍数の周波数にピークが出現している。これらのピークの間隔A1ないしA4はほぼ等間隔になる。
図10は、前述の加工形態で穴加工を続けて、833番目の穴で折損した時点のパワースペクトル密度を示す。加工中に切り屑の詰まりがない状態が継続して折損した。この折損時パワースペクトル密度波形において、閾値T3は、図9に示した閾値と同じ値に設けている。図10に示した、パワースペクトル密度波形P6の閾値T3以上の領域におけるピーク間隔D1、D2・・・・Dnの間隔は不規則であることが明確である。よって、500Hz以下の周波数帯域で、間隔D1ないしDnの間隔は不規則であり、D1ないしDnから分散を求めて、あらかじめ定めた閾値T4よりもこの分散が大きければ、工具折損と判定できる。
図10では、閾値T3は図9に示した値と同じであり、折損時にパワースペクトル密度が上昇して、閾値T3以上のピーク値の数が増加する。したがって、実施例1に示したピークの数を計数する方法も利用できる。ところで、切り屑の詰まりが発生しやすい材料や工具では、切り屑が振動原因となってパワースペクトル密度波形P5のように、周期的なピークが明確に確認できない場合があり、この場合は実施例1に示した方法によるのが良い。また、500Hz以下の周波数領域で、正常加工中に複数のピークが現れない高速回転での加工においても、実施例1に示した方法が適している。
なお、回転方向にほぼ等間隔で切れ刃を備えるフライス工具(図示せず)やエンドミル工具(図示せず)で、溝加工を行う場合は、正常加工中にパワースペクトル密度に等間隔のピークが出現し、工具の一部が欠損した場合にパワースペクトル密度の間隔が乱れる。このような工具の異常を検知するには、実施例2に説明した方法が適している。
また、図3の処理フローに示したS105、S106と、図8に示したS205、S206を同時並行で処理して、いずれか一方が工具異常と判定した際に、工具異常とすることもでき、加工内容によっては工具異常の検知精度を向上させることができる。
1 …加工異常監視・制御システム
2 …複合旋盤
3 …加工物
4 …工具
11…加速度センサ
12…通信I/F
13…センサ信号受信ユニット
14…演算・制御ユニット
15…バス
21…工具軸
22…ワーク軸
23…NC制御装置
24…制御盤
31…加工異常監視処理の起動指示信号
32…加工異常監視方法とそのための制御パラメータデータの選択の指示信号
33…加速度計の出力信号(時系列なディジタル信号)34・・加工異常通知信号
35…加工異常監視処理の終了指示信号
36…加工異常監視プログラム全体の終了指示
37…実施例2の加工異常監視方法とそのための制御パラメータデータの選択の指示信号

Claims (7)

  1. 加工物を回転するワーク軸と工具を回転可能に支持する工具軸を備えたNC工作機械の工具軸に加速度センサを具備し、加工中に工具の異常を監視する方法であって、
    (1)該加速度センサの信号を、500Hz以下のローパスフィルタに通す工程と、
    (2)該加速度センサの信号のパワースペクトル密度を求め、あらかじめ定めた第1の閾値以上の該パワースペクトル密度のピーク点の数を計数する工程と、
    (3)該ピーク点の数があらかじめ定めた第2の閾値以上となった際に、工具に異常が生じたと判定する工程と、
    を少なくとも有することを特徴とする加工異常監視方法。
  2. 加工物を回転するワーク軸と工具を回転可能に支持する工具軸を備えたNC工作機械の工具軸に加速度センサを具備し、加工中に工具の異常を監視する方法であって、
    (1)該加速度センサの信号を、500Hz以下のローパスフィルタに通す工程と、
    (2)該加速度センサの信号のパワースペクトル密度を求め、あらかじめ定めた第3の閾値以上の該パワースペクトル密度のピークを示す周波数の間隔の分散を求める工程と、
    (3)該分散があらかじめ定めた第4の閾値以上となった際に、工具に異常が生じたと判定する工程と、
    を少なくとも有することを特徴とする加工異常監視方法。
  3. 前記パワースペクトル密度を求める加速度センサの信号収集時間を、工具に異常が生じた際に発生する振動の継続時間以内とすることを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の加工異常監視方法。
  4. 請求項1に記載の加工異常監視方法において、
    前記加速度センサの信号のパワースペクトル密度を求め、あらかじめ定めた第3の閾値以上の前記パワースペクトル密度のピークを示す周波数の間隔の分散を求める工程と、
    前記分散があらかじめ定めた第4の閾値以上となった際に、工具に異常が生じたと判定する工程とを更に加え、
    いずれか一方の工具に異常が生じたと判定する工程の判定結果に基づいて、工具異常と判定することを特徴とする加工異常監視方法。
  5. 前記加速度センサの信号を通過させるローパスフィルタに加えて、100Hz以下の周波数の前記加速度センサの信号を遮断するハイパスフィルタを通した後に、前記パワースペクトル密度を求めることを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の加工異常監視方法。
  6. 加工物を回転するワーク軸と、
    工具を回転可能に支持する工具軸と、
    前記ワーク軸と、前記工具軸をNC制御するNC制御装置と、
    前記NC制御装置により、加工プロセスに伴って起動が掛けられ、前記工具軸に取り付けられた加速度センサから加速度信号を入力して、該加速度信号を500Hz以下のローパスフィルタに通し、通過した加速度信号からパワースペクトル密度を求め、あらかじめ定めた第1の閾値以上の該パワースペクトル密度のピーク点の数を計数して、該ピーク点の数があらかじめ定めた第2の閾値以上となった際に、工具に異常が生じたと判定して、前記NC制御装置へ加工異常を通知する加工異常監視・制御システムとを備え、
    前記加工異常の通知を受けた前記NC制御装置は、前記工具軸の工具をワークから退避させて、前記ワーク軸と、前記工具軸の駆動を停止させることを特徴とするNC工作機械。
  7. 前記加工異常監視・制御システムが、前記NC制御装置により、加工プロセスに伴って起動が掛けられ、前記工具軸に取り付けられた加速度センサから加速度信号を入力して、該加速度信号を500Hz以下のローパスフィルタに通し、通過した加速度信号からパワースペクトル密度を求め、あらかじめ定めた第3の閾値以上の該パワースペクトル密度のピークを示す周波数の間隔の分散を求め、該分散があらかじめ定めた第4の閾値以上となった際に、工具に異常が生じたと判定して、前記NC制御装置へ加工異常を通知することを特徴とする請求項6に記載のNC工作機械。
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