JP2017051181A - 緑内障モデル、評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法、及び眼圧調整剤 - Google Patents

緑内障モデル、評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法、及び眼圧調整剤 Download PDF

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修一 小泉
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陽一 篠▲崎▼
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Abstract

【課題】自然発生型の緑内障の有用なモデルである緑内障モデル、及び臨床予見性に優れた、評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法の提供。【解決手段】P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物からなる緑内障モデルである。また、前記緑内障モデルに対し、評価対象薬剤を投与する工程と、前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、(1)眼圧の低下が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価する工程とを含む評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。【選択図】図19

Description

本発明は、緑内障モデル、評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法、及び眼圧調整剤に関する。
緑内障は、本邦における失明原因第一位の疾患であり、40歳以上の約5.0%が罹患している(非特許文献1参照)。緑内障の有病率は年齢とともに増加するが、症状の進行が遅いため、緑内障であることを気づかない人も多い。一般に、緑内障とは、眼内の静水圧(眼圧)が高くなることで視神経が圧迫されて傷害を受ける。日本人の平均眼圧は約14.5mmHgで、標準偏差2.5mmHgの2倍よりも高い場合に高眼圧と診断される。慢性的な高眼圧の負荷によって視神経が圧迫され続けると次第に視覚伝達機能が不全となり、視野が欠損する。症状が進行すると最終的に失明に至る。現在のところ、根本的な治療法はなく、眼圧を下げることによって症状の進行を遅らせる処置がとられる。
眼圧は、房水と呼ばれる眼内を満たす液体の産生と排出のバランスによって調節されている。房水は、毛様体突起で産生され、虹彩の裏を通過して前房へ移動し、その後、線維柱帯を経てシュレム管から排出される。シュレム管は、房水排出の主経路であるが、ぶどう膜及び強膜経路を介した排出経路も存在する。眼圧の上昇は、房水の産生が過多となるか、あるいは排出が減少するなどの産生乃至排出のバランスが崩れることによって起こる。現行の緑内障治療薬は、房水の産生及び排出の少なくともいずれかの経路を標的としており、それらを制御することで眼圧を低下させる。
緑内障には、原発開放隅角緑内障、原発閉塞隅角緑内障、続発緑内障、発達緑内障などがあるが、日本人の場合は約8割が原発開放隅角緑内障(Primary Open Angle Glaucoma,POAG)である。POAGは、解剖学的な所見として、隅角が閉塞していないにも関わらず、緑内障に特徴的な形態的症状(視神経乳頭辺縁部の菲薄化、網膜神経線維層欠損など)や視野欠損が現れる。POAGには、その眼圧が正常値内(日本人の場合10.0mmHg〜21.0mmHg)であっても前記緑内障症状を呈する「正常眼圧緑内障」が約90%含まれる(非特許文献1参照)。正常眼圧緑内障においても、さらに眼圧を降下させることによって症状の進行を遅らせることができることから、眼圧降下作用を有する薬剤は緑内障治療に必須である。したがって、緑内障治療薬の評価は、主に実験動物モデルにおける眼圧降下作用を指標として行われる。
緑内障モデル動物として、現在最も汎用されているのはDBA/2Jマウスであり、前記DBA/2Jマウスでは老化に伴って眼圧上昇が生じるが、Glycosylated protein nmb(Gpnmb)及びTyrosinase−related protein 1(Tyrp1)の変異が原因であることがわかっている(非特許文献2〜3参照)。前記DBA/2Jマウスでは、虹彩の色素細胞が炎症を伴う細胞死を起こし、その細胞破片などが線維柱帯につまることによって眼房水の排出抵抗が増大し、眼圧が上昇する。通常、ヒト緑内障では炎症や網膜神経節細胞以外の組織学的な変化を認めない(続発緑内障を除く)。このことから、前記DBA/2Jマウスは、正確にヒトの緑内障症状を反映していない可能性が考えられる。
一方、細胞外ヌクレオチドに対する受容体であるP2受容体については、網膜を含む眼の組織には様々なサブタイプが発現し、眼房水にはATPなどヌクレオチドが含まれている(非特許文献4参照)。このことから、眼においてP2受容体は様々な生理機能に関与すると考えられる。実際、ヌクレオチドを点眼すると眼圧が一過的に変化することが報告されている。P2Y2受容体作動薬であるウリジン三リン酸(UTP)は眼圧を上昇させ、siRNAによる同遺伝子発現のノックダウンは眼圧を降下させる(非特許文献5及び特許文献1参照)。一方、P2Y1受容体やP2Y6受容体の作動薬は眼圧を降下させる(非特許文献6〜7、及び特許文献2〜3参照)。ヒト緑内障患者では、眼房水のヌクレオチド濃度が増加している。(非特許文献8〜9参照)。P2Y6受容体は、免疫細胞、上皮や内皮細胞の炎症応答に関与することが報告されており(非特許文献10参照)、炎症は網膜神経節細胞のアポトーシスを誘導して緑内障発症に寄与すると考えられている(非特許文献11〜12参照)。したがって、緑内障発症とP2受容体機能異常に関連性が推察されるものの、それを直接的に示した報告は全くない。
したがって、ヒトの緑内障症状を反映した、自然発生型の緑内障モデル、及び臨床予見性に優れた、評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法の研究開発、及び眼圧調整剤の開発が求められている。
国際公開第2010/010208号パンフレット 国際公開第2012/073237号パンフレット 国際公開第2011/077435号パンフレット
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本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、自然発生型の緑内障の有用なモデルである緑内障モデル、及び臨床予見性に優れた、評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法、並びに眼圧調整剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意検討した結果、1)生理条件下ではP2Y6受容体を活性化又は抑制することにより、眼圧がそれぞれ下降又は上昇すること、2)P2Y6受容体は眼房水産生を担う毛様体突起無色素上皮に発現すること、3)フルオロフォトメトリー法において房水産生の速度がウリジン二リン酸(UDP)点眼で減速すること、4)P2Y6受容体を欠損させたマウスでは定常時の眼圧が野生型に比べて高いこと、5)老化に伴い網膜神経節細胞が脱落することなどの、P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物が自然発症型の緑内障モデルとして有用であることを見出し、加えて、前記緑内障モデルが、現行の眼圧下降薬(例えば、PGF2α類縁体)による眼圧降下作用に対して特に影響を与えず、臨床予見性に優れた、評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法、並びに眼圧調整剤を提供することができることを見出し、本発明の完成に至った。
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物からなることを特徴とする緑内障モデルである。
<2> 前記非ヒト動物が、マウスである前記<1>に記載の緑内障モデルである。
<3> 前記<1>から<2>のいずれかに記載された緑内障モデルに対し、評価対象薬剤を投与する工程と、
前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、
(1)眼圧の低下、
(2)網膜神経節細胞の神経保護作用、
(3)網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用、
(4)グリア細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用、
(5)視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用、
(6)大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用、
(7)房水の産生抑制、及び
(8)房水の排出促進
の少なくともいずれかが、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価する工程とを含むことを特徴とする評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<4> 前記評価対象薬剤の投与が、眼局所投与、経口投与、及び静脈内投与のいずれかである前記<3>に記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<5> 前記眼圧が、眼圧計により測定される前記<3>から<4>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<6> 前記網膜神経節細胞の神経保護作用が、前記網膜神経節細胞の細胞死の抑制である前記<3>から<5>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<7> 前記網膜神経節細胞の細胞死が、光干渉断層計により測定される前記<6>に記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<8> 前記網膜神経節細胞の細胞死が、前記網膜神経節細胞の細胞数の減少により測定される前記<6>から<7>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<9> 前記網膜神経節細胞の細胞死が、前記網膜神経節細胞における特異的マーカーの網膜内発現量の減少により測定される前記<6>から<8>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<10> 前記網膜神経節細胞の細胞死が、網膜神経節細胞が蛍光蛋白質で標識された前記緑内障モデル動物において、蛍光シグナルの減少による測定される前記<6>から<9>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<11> 前記網膜神経節細胞の神経保護作用が、前記網膜神経節細胞の軸索流の低下抑制である前記<3>から<10>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<12> 前記網膜神経節細胞の軸索流が、硝子体に注入した順行性軸索輸送マーカーの外側膝状体への輸送効率により測定される前記<11>に記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<13> 前記網膜神経節細胞の軸索流が、軸索内における蛍光物質で標識されたミトコンドリアの移動速度により測定される前記<11>から<12>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<14> 前記網膜神経節細胞の軸索流が、前記網膜神経節細胞の軸索における正常軸索マーカー及び障害軸索マーカーの少なくともいずれかの発現量により測定される前記<11>から<13>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<15> 前記大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用が、網膜へ一定量の光を照射したときの、大脳皮質視覚野皮下に設置された電極から検出される電位変化により測定される前記<3>から<14>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<16> 前記大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用が、網膜へ一定量の光を照射したときの、大脳皮質視覚野の神経細胞の活動性により測定される前記<3>から<15>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<17> 前記大脳皮質視覚野の神経細胞の活動性が、前記神経細胞内のカルシウムイオン濃度の変化により測定される前記<16>に記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<18> 前記房水の産生乃至排出が、前房におけるフルオロフォトメトリーにより測定される前記<3>から<17>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<19> 前記評価対象薬剤が、副交感神経刺激薬、抗コリンエステラーゼ薬、プロスタグランジン製剤、α1遮断薬、α2刺激薬、炭酸脱水酵素阻害剤、β遮断薬、ROCK阻害薬、自律神経作動薬、カルシウムチャネル拮抗薬、HMG−CoA還元酵素阻害薬、及びフラボノイド類の少なくともいずれか前記<3>から<18>のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<20> N,N”−1,4−ブタンジイルビス[N’−(3−イソチオシアネートフェニル)チオウレア、並びにその薬理学的に許容可能な塩、溶媒和物、及びプロドラッグの少なくともいずれかを含むことを特徴とする眼圧調整剤である。
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、自然発生型の緑内障の有用なモデルである緑内障モデル、及び臨床予見性に優れた、評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法、並びに眼圧調整剤を提供することができる。
図1は、実施例1の野生型マウスに対するUDP(10μM〜1,000μM、5μL)点眼後3時間での眼圧降下作用を示すグラフである。 図2は、実施例1の野生型マウスに対するUDP(500μM、5μL)による眼圧降下作用の時間依存性を示すグラフである。 図3は、実施例2の野生型マウスに対するMRS2578(30μM、5μL)点眼後3時間での眼圧の変化を示すグラフである。 図4は、実施例3のP2Y6受容体欠損マウスに対するUDP(500μM、5μL)点眼後3時間での眼圧への影響を示すグラフである。 図5は、実施例4のin situハイブリダイゼーションによる毛様体突起におけるP2Y6受容体mRNAの発現を示す図である。 図6は、実施例4の免疫組織染色による毛様体突起におけるP2Y6受容体蛋白質の発現を示す図である。 図7Aは、実施例5の野生型マウスに対するUDP点眼後のフルオロフォトメトリー法による前房の蛍光強度経時変化を示す図である。 図7Bは、実施例5の野生型マウスに対するUDP点眼後のフルオロフォトメトリー法による前房の蛍光強度経時変化を示す図である。 図8は、実施例5のP2Y6受容体欠損マウスにおけるフルオロフォトメトリー法による前房の蛍光強度経時変化を示す図である。 図9Aは、実施例6の方法(1)のフルオロフォトメトリー法による野生型マウスに対するチモロール点眼後の前房の蛍光強度経時変化を示す図である。 図9Bは、実施例6の方法(1)のフルオロフォトメトリー法による野生型マウスに対するラタノプロスト点眼後の前房の蛍光強度経時変化を示す図である。 図9Cは、実施例6の方法(1)のフルオロフォトメトリー法による野生型マウスに対するUDP点眼群、チモロール点眼群、ラタノプロスト点眼群及び生理食塩水点眼群における、初期値に対する計測開始から30分間後の前房の蛍光強度経時変化の定量値を示す図である。 図9Dは、実施例6の方法(1)のフルオロフォトメトリー法によるP2Y6受容体欠損マウスに対するUDP点眼後の前房の蛍光強度経時変化を示す図である。 図9Eは、実施例6の方法(1)のフルオロフォトメトリー法によるP2Y6受容体欠損マウスに対するUDP点眼群、及び生理食塩水点眼群における、初期値に対する計測開始から30分間後の前房の蛍光強度経時変化の定量値を示す図である。 図10Aは、実施例6の方法(2)のフルオロフォトメトリー法による野生型マウスの生理食塩水点眼後の前房の蛍光強度変化を示す図である。 図10Bは、実施例6の方法(2)のフルオロフォトメトリー法による野生型及びP2Y6受容体欠損マウスに対する生理食塩水点眼群、UDP点眼群、チモロール点眼群、及びラタノプロスト点眼群における、初期値に対する計測開始から30分間後の前房の蛍光強度経時変化の定量値を示す図である。 図11は、実施例7の3ヶ月齢、6ヶ月齢、12ヶ月齢、及び18ヶ月齢のP2Y6受容体欠損マウス及び野生型マウスにおける眼圧を比較した結果を示す図である。 図12は、実施例8の光干渉断層計によりP2Y6受容体欠損マウスの網膜神経節細胞の障害を検討した結果を示す図である。 図13は、実施例9の網膜のホールマウント標本におけるBrn3aの免疫組織染色の結果、及びBrn3a陽性細胞数を指標とした網膜神経節細胞の脱落を定量した結果を示す図である。 図14Aは、実施例10の3ヶ月齢、及び12ヶ月齢のP2Y6受容体欠損マウス及び野生型マウスにおける視神経乳頭部を含む組織のヘマトキシリン−エオジン染色像を示す図である。 図14Bは、実施例10の3ヶ月齢、及び12ヶ月齢のP2Y6受容体欠損マウス及び野生型マウスにおけるシュレム管及びぶどう膜−強膜を含む組織のヘマトキシリン−エオジン染色像を示す図である。 図15は、実施例11の野生型マウスに対するラタノプロスト(0.005質量%、5μL)点眼後10時間での眼圧降下作用を示すグラフである。 図16は、実施例11のP2Y6受容体欠損マウスに対するラタノプロスト(0.005質量%、5μL)点眼後10時間での眼圧降下作用を示すグラフである。 図17は、実施例11のラタノプロスト(0.005質量%、5μL、1日1回)を4ヶ月間投与したP2Y6受容体欠損マウスにおける眼圧を示すグラフである。 図18は、実施例11のラタノプロスト(0.005質量%、5μL、1日1回)を4ヶ月間投与したP2Y6受容体欠損マウスにおける網膜神経節細胞の障害を検討した結果を示すグラフである。 図19は、実施例11のラタノプロスト(0.005質量%、5μL、1日1回)を4ヶ月間投与したP2Y6受容体欠損マウスにおけるBrn3aの免疫組織染色の結果、及びBrn3a陽性細胞数を指標とした網膜神経節細胞の脱落を定量した結果を示すグラフである。
(緑内障モデル)
本発明の緑内障モデルは、P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物からなることを特徴とする。
本発明は、P2Y6受容体が欠損した非ヒト動物が、高眼圧及び老化に伴い網膜神経節細胞が脱落するという自然発症型の緑内障症状を呈するという未知の属性を見出し、この属性により、当該P2Y6受容体が欠損した非ヒト動物が、自然発症型の緑内障モデルとしての新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明である。
−P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物−
前記P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物としては、P2Y6受容体遺伝子が欠損した(無効化された)非ヒト動物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物は、野生型に比べて、眼圧が高く、老化に伴い眼圧が更に上昇し、老化に伴い網膜神経節細胞が脱落するという表現型を示す。
前記P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物としては、個体そのものであってもよく、前記個体に由来する、器官、組織及び細胞のいずれかの試料であってもよい。
前記器官としては、眼球、脳が好ましい。前記組織としては、毛様体、網膜、視神経、視中枢リレーニューロン脳視覚領域が好ましい。前記細胞としては、毛様体上皮細胞、網膜神経節細胞、眼グリア細胞、脳神経細胞、脳グリア細胞が好ましい。
前記視中枢リレーニューロン脳視覚領域としては、外側膝状体から大脳皮質視覚野をつなぐニューロンであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、外側膝状体、上丘、視床後外側核、大脳皮質視覚野などが挙げられる。
−−P2Y6受容体遺伝子−−
前記P2Y6受容体遺伝子は、P2Y6受容体をコードする遺伝子である。
前記P2Y6受容体は、細胞外ヌクレオチドによって活性化されるG蛋白質共役型受容体であるP2Y受容体のサブタイプ6であり、ウリジン二リン酸(UDP)応答性の受容体である。
−−非ヒト動物−−
前記非ヒト動物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼブラフィッシュ等の魚類;マウス、ラット、モルモット等の齧歯類動物;ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、チンパンジー、マーモセットなどの、ヒトを除く哺乳類動物が挙げられる。これらの中でも、ゼブラフィッシュ、マウス、ラット、モルモットが好ましく、マウスがより好ましい。
前記P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物としては、P2Y6受容体遺伝子が欠損したマウスであることが好ましい。前記P2Y6受容体遺伝子が欠損したマウスとしては、ベルギーのブリュッセル自由大学のBarらのグループにより確立され、Bar I.et al.,Mol.Pharmacol.74:777−784,2008に記載された遺伝子改変マウスであることが好ましい。
前記遺伝子改変マウスは、前記P2Y6受容体遺伝子のコーディングエキソンの160bp上流から、前記P2Y6受容体遺伝子のポリアデニル化シグナルの105bp下流までの領域が欠損したマウスである。
前記P2Y6受容体遺伝子を欠損したマウスは、Taconic Bioscience(ニューヨーク州、米国)から入手することができる。
(評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法)
本発明の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法は、本発明の前記緑内障モデルを用いた評価方法であり、薬剤投与工程と、評価工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
本発明の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法は、in vivoの評価方法であってもよく、in vitroの評価方法であってもよい。
<薬剤投与工程>
前記薬剤投与工程は、前記緑内障モデルに対し、評価対象薬剤を投与する工程である。
−緑内障モデル−
前記緑内障モデルとしては、本発明の前記P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物からなる緑内障モデルを好適に用いることができる。
−評価対象薬剤−
前記評価対象薬剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の治療薬、被検薬、及び医薬品候補となる試験化合物のいずれであってもよく、天然化合物及び合成化合物のいずれであってもよい。また、遺伝子薬であってもよい。
また、前記治療薬としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の緑内障治療薬を適宜選択することができ、例えば、副交感神経刺激薬、抗コリンエステラーゼ薬、プロスタグランジン製剤、α1遮断薬、α2刺激薬、炭酸脱水酵素阻害薬、β遮断薬、ROCK阻害剤、自律神経作動薬、カルシウムチャネル拮抗薬、HMG−CoA還元酵素阻害薬、フラボノイド類などが挙げられる。
これらの中でも、本発明の前記緑内障モデルは、房水産生の異常により高眼圧の表現型を示すと考えられ、シュレム管やぶどう膜を介した房水排出経路は正常な機能を保っていると推定されることから、房水排出経路を標的とした治療薬の評価に適している点で、房水排出経路を標的とした治療薬であるプロスタグランジン製剤、α1遮断薬、α2刺激薬、ROCK阻害薬が好ましい。
−−副交感神経刺激薬−−
前記副交感神経刺激薬としては、例えば、ピロカルピン塩酸塩などが挙げられる。
−−抗コリンエステラーゼ薬−−
前記抗コリンエステラーゼ薬としては、例えば、ジスチグミン臭化物などが挙げられる。
−−プロスタグランジン製剤−−
前記プロスタグランジン製剤としては、例えば、ラタノプロスト、タフルプロスト、ビマトプロスト、トラバプロストなどが挙げられる。
−−α1遮断薬−−
前記α1遮断薬としては、例えば、ブナゾシン塩酸塩などが挙げられる。
−−α2刺激薬−−
前記α2刺激薬としては、例えば、ブリモニジン酒石酸塩などが挙げられる。
−−炭酸脱水酵素阻害剤−−
前記炭酸脱水酵素阻害剤としては、例えば、ドルゾラミド塩酸塩、ブリンゾラミド塩酸塩などが挙げられる。
−−β遮断薬−−
前記β遮断薬としては、例えば、カルテオロール塩酸塩、チモロール塩酸塩、ニプラジロールなどが挙げられる。
−−ROCK阻害剤−−
前記ROCK阻害剤としては、例えば、リバスジル塩酸塩などが挙げられる。
−−カルシウムチャネル拮抗薬−−
前記カルシウムチャネル拮抗薬としては、例えば、塩酸イガニジピン、ニルバジピン、ニカルジピン塩酸塩、アゼルニジピンなどが挙げられる。
−−HMG−CoA還元酵素阻害薬−−
前記HMG−CoA還元酵素阻害薬としては、例えば、ロバスタチン、セリバスタチン、アトルバスタチンカルシウム、ロバスタチン、フルバスタチン、エゼチミブなどが挙げられる。
−−フラボノイド類−−
前記フラボノイド類としては、例えば、アントシアニン、カテキン、クエルセチン、クロロゲン酸、コーヒー酸、ターメリック、クルクミンなどが挙げられる。
−−自律神経作動薬−−
前記自律神経作動薬としては、例えば、ジピベフリン塩酸塩などが挙げられる。
前記緑内障モデルに対し、前記評価対象薬剤を投与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて各薬剤に適した投与経路、投与タイミング、投与量、投与スケジュール等の投与条件を適宜選択することができる。
前記投与経路としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、眼局所投与、経口投与、静脈内投与が好ましい。
前記眼局所投与としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、角膜投与(例えば、点眼)、経強膜投与、経硝子体投与などが挙げられる。
前記投与タイミングとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記緑内障モデルにおいて老化に伴い緑内障症状が進行することから、緑内障症状の進行程度に応じたタイミングで投与することにより、所望の緑内障症状の進行程度における前記評価対象薬剤の評価を行うことができる。
前記投与条件としては、例えば、ラタノプロストを評価する場合は、0.0005質量%〜0.05質量%(例えば、0.005質量%)の生理食塩水の溶液を0.5μL〜50μL(例えば、5μL)点眼することが好ましい。
また、前記P2Y6受容体作動薬であるUDPを評価する場合は、10μmol/L〜500μmol/Lの生理食塩水の溶液を0.5μL〜50μL(例えば、5μL)点眼することが好ましく、前記P2Y6受容体拮抗薬であるMRS2578を評価する場合は、10μmol/L〜100μmol/L(例えば、30μmol/L)の生理食塩水の溶液を0.5μL〜50μL(例えば、5μL)点眼することが好ましい。
或いは、前記評価対象薬剤を投与する方法としては、評価しようとする投与経路、投与タイミング、投与量、投与スケジュール等の投与条件を適宜選択することができる。これにより、各々の薬剤について、適した投与条件を評価し選定することが可能となる。
本発明が、in vitroの評価方法の場合には、前記試料に前記評価対象薬剤を投与すればよい。
前記試料としては、前記P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物の個体に由来する、器官、組織及び細胞の少なくともいずれかの試料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、眼球、脳等の器官;毛様体、網膜、視神経、視中枢リレーニューロン脳視覚領野等の組織;毛様体上皮細胞、網膜神経節細胞、網膜神経細胞、眼グリア細胞、脳神経細胞、脳グリア細胞等の細胞などが挙げられる。これらの中でも、毛様体、網膜神経節細胞が好ましい。
本発明が、in vitroの評価方法の場合には、前記評価対象薬剤を投与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知のin vitro実験の各種条件を選択することができ、例えば、前記評価対象薬剤を含む培地を前記試料に投与すればよい。
前記in vitroの評価方法として、例えば、房水産生部位である毛様体突起の無色素上皮細胞(Moroi et al.IOVS 2001,42:2056−2062)を用い、水分子のトランスサイトーシスを評価するシステム(Folkesson et al.PNAS 1994,91:4970−4974)を用いることができる。
<評価工程>
前記評価工程は、前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、(1)眼圧の低下、(2)網膜神経節細胞の神経保護作用、(3)網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用、(4)グリア細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用、(5)視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用、(6)大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用、(7)房水の産生抑制、及び(8)房水の排出促進の少なくともいずれかが、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価する工程である。
ここで、「有意に観察される」とは、統計的解析により有意差(p<0.05)があることを意味する。
前記統計的解析としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一元配置分散分析、Fisher’s Least Significant Differenceテストによる多重比較検定、マンホイットニーUテスト、二要因反復分散分析、student’s t−testなどが挙げられる。
また、緑内障の予防乃至治療効果とは、緑内障の予防効果、及び緑内障の治療効果の少なくともいずれかを意味する。
前記対照とは、前記評価対象薬剤に代えて、薬剤に用いた溶媒のみを投与したこと以外は、前記緑内障モデルと同様に処理した対照マウスである。
前記溶媒としては、前記評価対象薬剤を溶解することができ、薬理学的に許容されるものであれば、特に制限はなく、使用する前記評価対象薬剤に応じて適宜選択することができ、例えば、生理食塩液などが挙げられる。
−(1)眼圧の低下−
前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、眼圧の低下が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記眼圧の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の測定方法を選択することができ、例えば、接触式眼圧計、非接触式眼圧計等の眼圧計を用いた測定方法;眼内圧を直接測定する方法などが挙げられる。
前記接触式眼圧計としては、例えば、リバウンド式トノメーター、ゴールドマン圧平式眼圧計、パーキンス眼圧計、トノペン眼圧計、眼内埋没型眼圧計、コンタクトレンズ型眼圧計などが挙げられる。前記非接触式眼圧計としては、例えば、空気眼圧計などが挙げられる。
眼内圧を直接測定する方法としては、前房にガラスキャピラリーを挿入し、キャピラリーに接続したmechanotransducerにて眼圧を計測する方法(Aihara et al.IOVS 2002);眼内に埋没型の眼圧センサーを埋め込み、遠隔で眼圧を測定する方法などが挙げられる。
これらの中でも、侵襲性が低く、再現性、及び正確性が良好な点で、リバウンド式トノメーターが好ましい。
−(2)網膜神経節細胞の神経保護作用−
前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、網膜神経節細胞の神経保護作用が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記網膜神経節細胞の神経保護作用としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の指標を選択することができ、例えば、前記網膜神経節細胞の細胞死の抑制、前記網膜神経節細胞の軸索流の低下抑制などが挙げられる。
−−網膜神経節細胞の細胞死−−
前記網膜神経節細胞の細胞死の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の方法を選択することができ、例えば、光干渉断層計により測定する方法、前記網膜神経節細胞の細胞数の減少を測定する方法、前記網膜神経節細胞における特異的マーカーの網膜内発現量の減少により測定する方法、網膜神経節細胞が蛍光蛋白質で標識された前記緑内障モデル動物において、蛍光シグナルの減少による測定する方法などが挙げられる。
前記光干渉断層計とは、光コヒーレンストモグラフィ(Opticl Coherence Tomography、OCT)ともいい、赤外光を用いて生体内部の断層画像を高分解能で取得する技術であり、これにより、生体表皮から1mm〜2mmの深さで、約10μmの高空間分解能を有する断層イメージが得られる。この技術を用いて、前記緑内障モデルにおける網膜の神経細胞の層構造を可視化し、神経節細胞層(GCL)の面積及び内網状層(IPL)の面積と、その他の網膜の神経細胞層(他の層)の面積との比(GCL+IPL/他の層)を算出し、前記比の減少を指標として、前記網膜神経節細胞の細胞死を測定することができる。
前記網膜神経節細胞の細胞数は、前記網膜神経節細胞に特異的な細胞特異的マーカーを発現する細胞を指標として測定することができ、例えば、前記緑内障モデルから採取した網膜組織を用いた、免疫組織染色(蛋白質レベルでの検出)、in situハイブリダイゼーション(mRNAレベルでの検出)等により測定する方法などが挙げられる。
前記細胞特異的マーカーとしては、前記網膜神経節細胞に特異的に発現するmRNA及び蛋白質であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、brain−specific homeobox/POU domain protein 3A(Brn3a)、RNA−binding protein with multiple splicing(RBPMS)、γ−シヌクレイン(γ−synuclein)などが挙げられる。
前記網膜神経節細胞における特異的マーカーの網膜内発現量を測定する方法としては、例えば、前記緑内障モデルから採取した網膜試料を用いた、ウエスタンブロッティング(蛋白質レベルでの検出)、定量的RT−PCR(mRNAレベルでの検出;例えば、リアルタイムRT−PCR)等により測定する方法などが挙げられる。
前記網膜神経節細胞が蛍光蛋白質で標識された前記緑内障モデル動物において、蛍光シグナルの減少による測定する方法としては、例えば、蛍光蛋白質で標識された前記網膜神経節細胞に特異的な細胞特異的マーカーをコードする遺伝子(例えば、GFP−Brn3a、Thy1−GFPなど)が組み込まれた、前記緑内障モデル動物を用いて前記薬剤投与工程を行い、前記網膜神経節細胞における前記蛍光蛋白質の蛍光シグナルの減少を指標として前記網膜神経節細胞の細胞死を測定する方法などが挙げられる。
−−網膜神経節細胞の軸索流−−
前記網膜神経節細胞の軸索流の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の方法を選択することができ、例えば、硝子体に注入した軸索輸送マーカーの外側膝状体への輸送効率により測定する方法、中脳上丘に注入した軸索輸送マーカーの網膜の神経節細胞層への輸送効率により測定する方法、軸索内における蛍光物質で標識されたミトコンドリアの移動速度により測定する方法、前記網膜神経節細胞の軸索における正常軸索マーカー及び障害軸索マーカーの少なくともいずれかの発現量により測定する方法などが挙げられる。
前記硝子体に注入した軸索輸送マーカーの外側膝状体への輸送効率、又は中脳上丘に注入した軸索輸送マーカーの網膜の神経節細胞層への輸送効率により測定する方法によれば、前記軸索輸送マーカーが、前記網膜神経節細胞の軸索を経由して脳の入力部位である前記外側膝状体又は網膜の神経節細胞層へ輸送されるため、その輸送効率を指標として前記軸索流を測定することができる。
前記軸索輸送マーカーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蛍光物質で標識したコレラ毒素βサブユニット、カルボシアニン系蛍光色素(例えば、DiI等)、フルオロゴールド、蛍光物質で標識したBDNF(脳由来神経栄養因子)などが挙げられる。
前記輸送効率としては、例えば、前記網膜神経節細胞の軸索を含む特定の領域における蛍光輝度、網膜組織を破砕した懸濁液における蛍光輝度、前記外側膝状体へ投影した前記網膜神経節細胞の軸索終末1つ当たりの蛍光輝度などにより測定することができる。
前記軸索内における蛍光物質で標識されたミトコンドリアの移動速度により測定する方法としては、例えば、Takihara et al.Proc.Natl.Acad.Sci.(2015)等の文献に記載された方法などが挙げられる。
前記ミトコンドリアを標識する蛍光物質としては、例えば、GFP、CFP等の蛍光蛋白質などが挙げられる。前記ミトコンドリアを蛍光物質で標識する方法としては、例えば、シトクロムCオキシダーゼVIIIと蛍光蛋白質との融合蛋白質を発現する発現ベクターを用いた強制発現などが挙げられる。前記ミトコンドリアの移動速度を測定する方法としては、例えば、二光子励起顕微鏡を用いた組織内ミトコンドリアのリアルタイムイメージングなどが挙げられる。
前記網膜神経節細胞の軸索における正常軸索マーカー及び障害軸索マーカーの少なくともいずれかの発現量により測定する方法としては、例えば、前記緑内障モデルから採取した網膜試料を用いた、ウエスタンブロッティング(蛋白質レベルでの検出)、定量的RT−PCR(mRNAレベルでの検出;例えば、リアルタイムRT−PCR)等;前記緑内障モデルから採取した網膜組織を用いた、免疫組織染色(蛋白質レベルでの検出)、in situハイブリダイゼーション(mRNAレベルでの検出)等;により測定する方法などが挙げられる。
前記正常軸索マーカーとしては、例えば、Neurofilament heavy chain(NF200)、Neuron−specificβ−III Tubulin(Tuji1)、Tau1、SMI312などが挙げられる。
前記障害軸索マーカーとしては、例えば、SMI32、β−amyloid precursor protein(β−APP)などが挙げられる。
−(3)網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用−
前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の指標を選択することができ、例えば、細胞数の計測、マーカー蛋白質やmRNAの発現などが挙げられる。
前記網膜神経節細胞以外の網膜細胞としては、例えば、水平細胞、アマクリン細胞、双極細胞などが挙げられる。
−(4)グリア細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用−
前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、グリア細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記グリア細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の指標を選択することができ、例えば、正常軸索マーカー及び障害軸索マーカーの少なくともいずれかの発現量により測定する方法などが挙げられる。
−(5)視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用−
前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の指標を選択することができ、例えば、細胞数、細胞マーカーの発現などが挙げられる。
前記視覚伝達系の上位リレー神経細胞としては、例えば、外側膝状体の神経細胞、上丘の神経細胞、視床後外側核のニューロンなどが挙げられる。
−(6)大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用−
前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、大脳皮質視覚野神経細胞及び周辺細胞の少なくともいずれかの保護作用が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の指標を選択することができ、例えば、網膜へ一定量の光を照射したときの、大脳皮質視覚野皮下に設置された電極から検出される電位変化により測定する方法、網膜へ一定量の光を照射したときの、大脳皮質視覚野の神経細胞の活動性により測定する方法などが挙げられる。これらの方法は、例えば、Adrian(Adrian&Matthews、Brain 1934);Ohki(Ohki et al.Nature 2005、2006)等の文献に基づいて行うことができる。
網膜へ照射する前記光としては、一定量であれば、その強度、波長、照射時間などの条件について特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記強度としては、0.01cd・sec/m〜100cd・sec/mが好ましく、前記波長としては、360nm〜850nmが好ましく、前記照射時間としては、0.1msec〜500msecが好ましい。
前記大脳皮質視覚野の神経細胞の活動性は、前記神経細胞における細胞内カルシウムイオンの濃度変化を指標として評価できる。前記細胞内カルシウムイオンの濃度変化を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プローブを用いて蛍光輝度変化により測定する方法などが挙げられる。
前記プローブとしては、例えば、カルシウムイオン指示薬、Genetically−encoded Ca2+ indicator(GECI)などが挙げられる。
前記細胞内カルシウムイオンの濃度変化の評価方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記細胞内カルシウムイオンの濃度変化の、振幅の大きさ、起こる頻度、起こる細胞数などにより評価する方法などが挙げられる。
−(7)房水の産生抑制−
前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、房水の産生抑制が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
−(8)房水の排出促進−
前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、房水の排出促進が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記房水の産生及び前記房水の排出の少なくともいずれかを測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前房内に導入した蛍光物質の蛍光輝度変化により前記房水の産生速度又は排出速度を測定する方法などが挙げられる。前記前房内に導入した蛍光物質の蛍光輝度変化を測定する方法としては、例えば、前房におけるフルオロフォトメトリーなどが挙げられる。
前記蛍光物質の前房内への導入方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、点眼、腹腔内投与、静脈内投与などが挙げられる。
前記蛍光物質としては、例えば、フルオロセイン塩酸塩、ローダミンなどが挙げられる。
(眼圧調整剤)
本発明の眼圧調整剤は、N,N”−1,4−ブタンジイルビス[N’−(3−イソチオシアネートフェニル)チオウレア、並びにその薬理学的に許容可能な、塩、溶媒和物及びプロドラッグの少なくともいずれかを含み、更に必要に応じて、薬理学的に許容可能な担体などのその他の成分を含む。
<MRS2578>
前記N,N”−1,4−ブタンジイルビス[N’−(3−イソチオシアネートフェニル)チオウレアは、CAS No:711019−86−2の下記構造式(1)で表される化合物であり、「MRS2578」とも称される。
−構造式(1)−
前記MRS2578は、選択的P2Y6受容体拮抗剤である。本発明者らは、前記P2Y6受容体が房水の産生に関わる毛様体突起に発現し、前記MRS2578が前記P2Y6受容体を介して、眼圧を上昇させることを見出した。したがって、本発明の眼圧調整剤は、前記MRS2578が、P2Y6受容体を標的とする眼圧調整剤として有用であることを見出したことに基づく発明である。
前記MRS2578の薬理学的に許容可能な塩とは、前記MRS2578と、無機酸、有機酸、無機塩基及び有機塩基の少なくともいずれかとを化学反応させることにより形成される塩である。
前記無機酸又は有機酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、炭酸、リン酸、過塩素酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、リンゴ酸、サリチル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、置換基含有ベンゼンスルホン酸(例えば、p−トルエンスルホン酸)、イソニコチン酸、オレイン酸、タンニン酸、パントテン酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、ゲンチジン酸、フマル酸、グルコン酸、ウロン酸、サッカリン酸又はショ糖酸、蟻酸、安息香酸、グルタミン酸、ビスヒドロキシナフテン酸、ソルビン酸などが挙げられる。
前記無機塩基又は有機塩基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化第二鉄、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化アルミ二ウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、アンモニア水、有機第四級アンモニウム水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、有機第四級アンモニウム炭酸塩、重曹、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素化有機第四級アンモニウムなどが挙げられる。
前記MRS2578の薬理学的に許容可能な溶媒和物とは、前記MRS2578が薬理学的に許容可能な溶媒と、共有結合、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、錯体、インクルーションなどを形成して安定化したものである。前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アセトン、アセトニトリル、エチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテルなどが挙げられる。
前記MRS2578の薬理学的に許容可能なプロドラッグとは、化学合成又は物理的な方法により前記MRS2578を他の化合物に転換させて、当該他の化合物を哺乳動物に投与してから、前記哺乳動物の体内で前記MRS2578に転換し戻すことが可能なものである。前記MRS2578のプロドラッグとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記MRS2578の前記眼圧調整剤における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.3nmol/L〜3mmol/Lが好ましく、30nmol/L〜300μmol/Lがより好ましい。
通常、緑内障の治療においては眼圧を低下させる薬剤が使用される。しかし、眼圧の至適範囲は狭く、例えば、日本人の正常値は、10mmHg〜21mmHgであり、マウスの正常値は、10mmHg〜21mmHgである。正常値未満の低眼圧は、前房消失による角膜内皮障害や白内障進行への影響のほか、房水循環低下による眼機能障害を引き起こす可能性がある。そのため、例えば、線維柱帯切除術後の低眼圧、毛様体機能低下症や低眼圧黄斑症において、至適な眼圧を維持することが困難であり、前記至適範囲よりも眼圧が下がり過ぎる場合には、前記眼圧調整剤により、眼圧を上げて前記至適範囲とすることが好ましい。
<その他の成分>
前記眼圧調整剤は、デキストリン、シクロデキストリンなどの薬理学的に許容可能な担体、助剤を用いて、常法に従い、液状、粉末状、顆粒状、錠剤状などの任意の剤形に製剤化して提供することができ、他の組成物(例えば、点眼薬、経口医薬品など)に配合して使用できる他、軟膏剤、外用液剤、貼付剤などとして使用することができる。
前記助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味剤、矯臭剤などを用いることができる。
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記眼圧調整剤を投与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて各薬剤に適した投与経路、投与タイミング、投与量、投与スケジュール等の投与条件を適宜選択することができる。
前記投与経路としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、眼局所投与(例えば点眼)、経口投与、静脈内投与が好ましい。
前記眼圧調整剤の投与量としては、特に制限はなく、処置を必要とする哺乳動物の疾患状態、体重等の要因に応じて適宜選択することができるが、一日当たり、0.00006mg〜0.024mgが好ましく、0.0002mg〜0.008mgがより好ましい。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
なお、実施例中の単位「M」は、「mol/L」である。
(実施例1:野生型マウスの眼圧に対するUDPの作用)
<眼圧の測定方法>
眼圧の測定は全て麻酔下にて行った。雄性C57BL/6マウス(野生型、8週齢)にペントバルビタールナトリウム(生理食塩水に溶解、共立製薬株式会社製)を腹腔内投与(50mg/kg)し、正向反射が見られなくなったことを確認して計測を行った。眼圧の計測は、リバウンド式トノメーター(TonoLab、iCare社製)を用い、5回計測値の平均値を測定値として用いた。
<点眼方法>
点眼は全て覚醒下にて、18時〜24時に行った。ウリジン二リン酸(UDP、シグマ−アルドリッチ社製)は生理食塩水に所望の濃度に希釈し、雄性C57BL/6マウス(野生型、8週齢)の右眼に5μL投与した。左眼にはコントロールとして生理食塩水5μLを投与した。
<結果>
雄性C57BL/6マウス(野生型、8週齢)に対して5μLのUDP(10μM〜1,000μM)を点眼後、3時間での眼圧降下作用を図1に示す。左眼に生理食塩水を点眼し、これを対照としてUDPを点眼した右眼の眼圧を降下率として求めた。その結果、10μM〜500μMの範囲で濃度依存性を示し、500μMで最大降下作用を示した。
また、図2に示すように、UDP(500μM、5μL)による眼圧降下作用の時間依存性は1.5時間をピークとし、その後緩やかに対照眼と同程度まで戻り、24時間後には逆に対照眼よりも高くなった後、48時間後に処置前のレベルまで戻った。最大眼圧降下作用はいずれの場合でも約10%であった。なお、図1〜2中、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、及び**は、一元配置分散分析及びFisher’s Least Significant Differenceテストによる多重比較検定による統計解析において有意差(それぞれp<0.05及びp<0.01)があることを示す。
(実施例2:野生型マウスの眼圧に対するP2Y6受容体拮抗薬の作用)
<方法>
点眼方法について、UDPを選択的P2Y6受容体拮抗薬であるMRS2578(30μM)に代えたこと以外は、実施例1の点眼方法と同様に行った。眼圧の測定方法は、実施例1と同様に行った。
<結果>
雄性C57BL/6マウス(野生型、8週齢)に対して5μLのMRS2578(30μM、選択的P2Y6受容体拮抗薬)を点眼後、3時間での眼圧の変化を図3に示す。図1及び2と同様に、左眼に生理食塩水を同量添加して対照群とした。対照眼に比べて10%程度眼圧が上昇した。なお、図3中、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、は、マンホイットニーUテストによる統計解析における有意差(p<0.05)があることを示す。
(実施例3:UDPの作用に対するP2Y6受容体遺伝子発現の影響)
<方法>
実施例1において、雄性C57BL/6マウス(野生型、8週齢)に代えてP2Y6受容体を欠損した雄性マウス(8週齢、C57BL/6系統の遺伝的背景を有する)を用い、5μLのUDP(500μM)点眼後3時間での眼圧の変化を測定したこと以外は、実施例1と同様に行った。
<結果>
P2Y6受容体を欠損した雄性マウス(8週齢、C57BL/6系統の遺伝的背景を有する)では、UDP(500μM、5μL)を点眼後3時間において眼圧降下作用がみられなかった(図4)。したがって、UDPの点眼による眼圧降下作用はP2Y6受容体を介した作用であることが明らかとなった。
(実施例4:P2Y6受容体の発現部位の同定)
眼圧は眼房水の産生と排出のバランスで正常値が保たれている。つまり、UDP/P2Y6受容体の作用は、産生及び排出のいずれかに関する組織を介したものであると考えられた。そこで、眼房水産生に関わる毛様体突起、並びに排出に関わる線維柱帯網及びシュレム管でのP2Y6受容体の発現パターンを検討した。
<in situハイブリダイゼーション>
8週齢のICRマウスを用いた。マウスP2ry6遺伝子(ジェンバンクアクセッション番号:NM_1831168.2)の11番目〜591番目の塩基に相当する581bpのDNA断片をpGEM−T P−Easy vector(プロメガ株式会社製)にサブクローニングし、センス鎖RNAプローブ及びアンチセンス鎖RNAプローブを作製した。
組織切片はキシレンにて脱パラフィンを行い、エタノール及びPBSにて再水和した。切片を4質量%パラホルムアルデヒド(PFA)にて15分間固定し、PBSで洗浄し、その後プロテアーゼK(8μg/mL、30分間、37℃)で処理した。その後、4質量%PFAにて再固定し、PBSで洗浄後、0.2M HClで10分間処理した。切片を0.1Mトリエタノールアミン−HCl(pH8.0;0.25質量%無水酢酸含有)にて10分間処理した。ハイブリダイゼーションはプローブ濃度300ng/mL、反応条件は60℃、16時間にて行った。切片はその後5×HybriWashTM(Genostaff社製)にて洗浄し、5×SSCにて60℃、20分間反応させ、50体積%ホルムアミド含有2×HybriWashTMにて60℃、20分間反応させた。その後RNase処理(50μg/mL RNase、1M NaCl、及び1mM EDTAを含む10mM Tris−HCl溶液、pH8.0)を37℃にて30分間行った。
得られた切片をG−block(GB−01、Genostaff社製)にて30分間処理し、アルカリフォスファターゼが付加した抗ジゴキシゲニン抗体(1:1,000、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製)を含むG−blockと室温にて2時間反応させた。切片はその後、TBS/T(0.1体積%Tween−20を含むTris−buffered saline)で2回洗浄し、100mM NaCl、50mM MgCl2、0.1体積%Tween−20、及び100mM Tris−HClを含む溶液(pH9.5)に浸漬した。発色反応はNBT/BCIP溶液(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製)にて1晩反応させ、PBSにて洗浄した。切片はKernechtrot stain solution(シグマ−アルドリッチ社製)にて対比染色を行い、マリノール(武藤化学株式会社製)にて封入した。
<免疫組織染色>
組織は、4質量%PFAにて固定(12時間、4℃)し、ブロッキング溶液(2体積%ウシ血清アルブミン、0.5M NaCl、及び2体積%TritonX−100を含むPBS)にて室温で1時間処理した。組織標本は、毛様体突起については20μm厚みの切片を作製した。1次抗体として抗P2Y6抗体(1:1,000、アブカム社製)を含むブロッキング溶液と3日間(4℃)にて反応させ、PBS/T(0.3体積%TritonX−100を含むPBS)で3回洗浄した。その後切片を2次抗体(anti−Rabbit IgG Alexa546 conjugate又はanti−Goat IgG Alexa dye conjugate、1:1,000、ライフテクノロジーズ社製)を含むブロッキング溶液と1時間(室温)反応させた。切片はPBS/Tにて3回洗浄して観察を行った。
<結果>
図5に示すように、P2Y6受容体のmRNA発現をin situハイブリダイゼーションで検討したところ、毛様体突起の無色素上皮に特に強いシグナルが確認された(図5中、antisense、矢頭)。なお、図5中、「sense」は、センス鎖RNAプローブを用いた対照実験を示し、「negative control」は、RNAプローブを用いない対照実験を示す。
図6に示すように、P2Y6受容体の蛋白質発現を免疫組織染色法により検討したところ、図5の結果と一貫して、野生型マウスの毛様体突起の無色素上皮に特に強いシグナルが観察された(図6中、WT)。P2Y6受容体欠損マウスでは、それらシグナルは観察されなかった(図6中、P2Y6KO)。
in situハイブリダイゼーション及びを免疫組織染色のいずれにおいても、線維柱帯網やシュレム管に相当する部位では顕著なP2Y6受容体シグナルは観察されなかったことから(データ示さず)、P2Y6受容体の機能は、眼房水産生に影響すると推察された。
(実施例5:P2Y6受容体の眼房水産生速度に対する影響)
眼房水の産生及び排出ダイナミクスを、フルオロフォトメトリー法を用いて検討した。腹腔内に投与したフルオレセインは、投与、血管に吸収されたのちに緩やかに眼房内に移行する。したがって、眼房のフルオレセイン蛍光値の増加は眼房水の産生を反映するものと考えられる。
<眼房水ダイナミクス観察>
眼房水の産生及び排出ダイナミクスは、フルオロフォトメトリー法を用いて検討した。ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)にて麻酔をかけた野生型又はP2Y6受容体欠損マウスの腹腔内に0.2質量%フルオレセイン(生理食塩水に溶解)を投与し、前房のフルオレセイン由来蛍光強度の変化をLAS4000(富士フイルム株式会社)にて計測した。フルオレセイン投与の30分間前に生理食塩水、UDP(500μM、生理食塩水に溶解)を右眼に5μL点眼し、野生型マウス及びP2Y6受容体欠損マウスに対する影響を評価した。フルオレセイン投与直後から2分間毎に撮影を行い、30分間計測した。前房の蛍光強度はImage J(http://imagej.nih.goc/ij/)を用いて計測(エリア選択−Analyze−Measure)した。
<結果>
野生型マウスに対するUDP点眼後のフルオロフォトメトリー法による前房の蛍光強度経時変化を図7A〜Bに示す。図7A中、左パネル(0min)は、計測開始時刻(初期)の撮影写真を示し、右パネル(30min)は、計測30分間経過後の撮影写真を示し、図7Bは、UDP点眼群及び生理食塩水点眼群における初期値に対する前房の蛍光強度経時変化を示す。
また、P2Y6受容体欠損マウスにおけるフルオロフォトメトリー法による前房の蛍光強度経時変化を図8に示す。
その結果、UDP(500μM、5μL)を点眼すると、対照眼(生理食塩水、5μL)に比べてフルオレセインの増加速度が減弱した(図7)。一方、P2Y6受容体欠損マウス(P2Y6KO)では、野生型マウス(WT)に比べてフルオレセイン増加速度が上昇していた(図8)。この結果より、P2Y6受容体は眼房水の産生を抑制的に制御することが明らかとなった。なお、図7〜8中、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、図7B及び図8中、及び**は、二要因反復分散分析及びFisher’s Least Significant Differenceテストによる多重比較検定による統計解析において有意差(それぞれp<0.05及びp<0.01)があることを示す。
(実施例6:緑内障治療薬、及びP2Y6受容体の眼房水産生速度に対する影響)
眼房水の産生及び排出ダイナミクスを、フルオロフォトメトリー法を用いて検討した。フルオレセインを以下の2種類の方法にて投与し、眼房内の蛍光強度変化に対する各種薬剤の効果を評価した。
<方法(1)>
ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)にて麻酔をかけた野生型又はP2Y6受容体欠損マウスの腹腔内に0.2質量%フルオレセイン(生理食塩水に溶解)を投与し、前房のフルオレセイン由来蛍光強度の変化をLAS4000(富士フイルム株式会社)にて計測した。フルオレセイン投与直後から2分間毎に撮影を行い、30分間計測した。前房の蛍光強度はImage J(http://imagej.nih.goc/ij/)を用いて計測(エリア選択−Analyze−Measure)した。
<方法(2)>
ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)にて麻酔をかけた野生型又はP2Y6受容体欠損マウスの角膜に5μLの0.02質量%フルオレセイン(生理食塩水に溶解)を滴下し、5分間静置した後に500μLの生理食塩水にて洗浄後、前房のフルオレセイン由来蛍光強度の変化をLAS4000(富士フイルム株式会社)にて計測した。フルオレセイン投与直後から2分間毎に撮影を行い、30分間計測した。前房の蛍光強度はImage J(http://imagej.nih.goc/ij/)を用いて計測(エリア選択−Analyze−Measure)した。
方法(1)、及び方法(2)のいずれの場合においても、フルオレセイン投与の30分間前に生理食塩水、UDP(500μM、生理食塩水に溶解)、ラタノプロストの市販品(センジュ(登録商標)、0.005質量%、千寿製薬株式会社製)及びチモロールの市販品(テイカ(登録商標)、0.5質量%、日東メディック株式会社)を右眼に5μL点眼し、野生型マウス及びP2Y6受容体欠損マウスに対する影響を評価した。
<結果>
方法(1)のフルオロフォトメトリー法を用いた場合の野生型マウスに対するチモロール、ラタノプロスト点眼後の前房の蛍光強度変化を図9A〜Bに示す。図9Cは、野生型マウスに対するUDP点眼群、チモロール点眼群、ラタノプロスト点眼群、及び生理食塩水点眼群における、初期値に対する計測開始から30分間後の前房の蛍光強度経時変化の定量値を示す。UDPの作用はチモロールの作用に類似しており、ラタノプロストの作用には類似していなかった。
方法(1)のフルオロフォトメトリー法を用いた場合のP2Y6受容体欠損マウスに対するUDP点眼後の前房の蛍光強度経時変化を図9Dに示す。また、P2Y6受容体欠損マウスに対するUDP点眼群、及び生理食塩水点眼群における、初期値に対する計測開始から30分間後の前房の蛍光強度経時変化の定量値を図9Eに示す。UDPの作用は、野生型マウスに対しては観察されたが、P2Y6受容体欠損マウスに対しては観察されなかった。
方法(2)のフルオロフォトメトリー法を用いた場合の野生型マウスの生理食塩水点眼後の前房の蛍光強度変化を図10Aに示す。また、図10Bに野生型及びP2Y6受容体欠損マウスに対する生理食塩水点眼群、UDP点眼群、チモロール点眼群、及びラタノプロスト点眼群における、初期値に対する計測開始から30分間後の前房の蛍光強度経時変化の定量値を示す。
方法(2)のフルオロフォトメトリー法を用いた場合、方法(1)の結果と同様に、野生型マウスにおいて、UDPの作用はチモロールの結果に類似していたが、ラタノプロストの結果とは類似していなかった。また、P2Y6受容体欠損マウスにおいても、UDPの作用はチモロールの結果に類似していたが、ラタノプロストの結果とは類似していなかった。
これら2種類の方法を用いた結果より、UDPの作用はチモロールの作用機序に類似したものであると考えられた。チモロールはβ受容体を抑制することにより、眼房水の産生を阻害することから、UDPやP2Y6受容体の作用は眼房水産生に影響すると考えられる。一方で、UDPの作用はラタノプロストの結果とは一致しなかった。ラタノプロストはぶどう膜−強膜(副経路)を介した眼房水排出促進を誘導することが知られている。したがって、UDPやP2Y6受容体の作用は、排出経路、少なくとも副経路を介した排出には影響しないと考えられた。
なお、図9C〜E、及び図10B中、cont、Lat、UDP、及びTimoは、それぞれ生理食塩水点眼群、ラタノプロスト点眼群、UDP点眼群、及びチモロール点眼群を示し、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、図9A中、及び**は、二要因反復分散分析及びFisher’s Least Significant Differenceテストによる多重比較検定による統計解析において有意差(それぞれp<0.05及びp<0.01)があることを示し、図9C、図9E、及び図10B中、及び**は、マンホイットニーUテストによるによる統計解析において有意差(それぞれp<0.05及びp<0.01)があることを示す。
(実施例7:P2Y6受容体欠損マウスは高眼圧の表現型を示す)
3ヶ月齢、6ヶ月齢、12ヶ月齢、及び18ヶ月齢のP2Y6受容体欠損マウス及び野生型マウスにおける眼圧を比較した結果を図11に示す。眼圧の測定方法は、実施例1と同様に行った。なお、図9中、3mo、6mo、12mo及び18moは、それぞれ3ヶ月齢、6ヶ月齢、12ヶ月齢、及び18ヶ月齢のマウスであることを示す。
その結果、3ヶ月齢、6ヶ月齢、12ヶ月齢、及び18ヶ月齢のいずれの場合でもP2Y6受容体欠損マウス(P2Y6KO)は、各月齢の野生型マウス(WT)に比べて眼圧が高い傾向を示した(図11)。野生型、欠損マウス共に老化に伴って眼圧が上昇していた。つまり、P2Y6受容体欠損マウスでは、眼圧が高いことにより、長期間に亘って視神経に対して機械的な負荷がかかった状態であることが推察された。なお、図11中、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、**は、マンホイットニーUテストによるによる統計解析において有意差(p<0.01)があることを示す。
(実施例8:P2Y6受容体欠損マウスでは網膜における神経節細胞層及び内網状層の厚みが減少する)
<光干渉断層計>
抗コリン薬を点眼し、十分に散瞳したことを確認した後に、ケタミン(6mg/mL)及びキシラジン(0.44mg/mL)の混合溶媒200μLをマウス腹腔内に投与した。マウス網膜の光干渉断層計像は、Micron IV(Phoenix Research Labs社製)を用いて取得した。マウス角膜に乾燥防止用のゲル(スコピゾル眼科用液、千寿製薬株式会社製)を添加し、対物レンズを視神経乳頭部が視野に入るように近づけ、計測した。断層は視神経乳頭部周囲を円状に取得した。取得画像における比(GCL+IPL/他の層)は、Image Jにて定量した(エリア選択−Analyze−Measure)。
なお、前記比(GCL+IPL/他の層)は、神経節細胞層(GCL)の面積及び内網状層(IPL)の面積と、その他の網膜の神経細胞層(他の層)の面積との比を意味し、神経節細胞層及び内網状層の面積とその他の網膜面積をそれぞれ計測して、算出することにより求めた。前記比を神経細胞の細胞死(神経細胞障害)の指標として用いた。
<結果>
図12に、光干渉断層計により、P2Y6受容体欠損マウスの網膜神経節細胞の障害を検討した結果を示す。なお、図12中、GCLは神経節細胞層、IPLは内網状層、INLは内顆粒層、OPLは外網状層、ONLは外核層、IO/OSは視細胞外接−内接接合部、RPEは網膜色素上皮をそれぞれ示す。また、3mo、6mo及び12moは、それぞれ3ヶ月齢、6ヶ月齢、及び12ヶ月齢のマウスであることを示す。また、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、**は、一元配置分散分析及びFisher’s Least Significant Differenceテストによる多重比較検定による統計解析において有意差(p<0.01)があることを示す。
その結果、図12に示すように、野生型マウスでは月齢に関わらず神経節細胞層と内網状層を合わせた領域(GCL+IPL)の大きさは変化しなかった。一方、P2Y6受容体欠損マウスでは6ヶ月齢、及び12ヶ月齢で顕著にその領域の大きさが顕著に減少した。その他の領域のサイズは変化しなかった。
(実施例9:P2Y6受容体欠損マウスは老化に伴って網膜神経節細胞が脱落する)
<方法>
免疫組織染色の方法としては、組織標本として、網膜取り出した後に網膜辺縁部に4箇所切り込みを入れることで平坦化した網膜展開標本を用い、一次抗体として、抗Brn3a抗体(1:300、サンタクルズ社製)を用いたこと以外は、実施例4の免疫組織染色の方法と同様に行った。また、所定の領域(視神経乳頭部より100μm〜500μmの距離に位置する任意の大きさの領域)当りのBrn3a陽性細胞数をカウントした。
図13に、網膜のホールマウント標本におけるBrn3aの免疫組織染色の結果(左パネル)、及びBrn3a陽性細胞数を指標とした網膜神経節細胞の脱落を定量した結果(右パネル)を示す。
その結果、図13に示すように、Brn3a陽性細胞数は、野生型マウスでは月齢によって変化は見られないが、P2Y6受容体欠損マウスでは6ヶ月齢及び12ヶ月齢で大きく減少した。なお、図13中、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、**は、一元配置分散分析及びFisher’s Least Significant Differenceテストによる多重比較検定による統計解析において有意差(p<0.01)があることを示す。
(実施例10:P2Y6受容体欠損マウスは老化によって視神経乳頭部の陥凹を示す)
<方法>
野生型マウス及びP2Y6受容体欠損マウスの若齢(3ヶ月齢)及び老齢(12ヶ月齢)の眼球を用いた。摘出した眼球を4質量%パラホルムアルデヒド(PFA)にて4℃で1晩処理した。その後、パラフィンに包埋後、マイクロトームにて10μm厚の組織切片を作製した。組織切片を以下の手順で脱パラフィン、及びヘマトキシリン−エオジン(HE)染色を行った。
<脱パラフィン>
100体積%キシレン 5分間
100体積%キシレン 5分間
100体積%キシレン 5分間
100体積%エタノール 5分間
100体積%エタノール 5分間
90体積%エタノール 5分間
80体積%エタノール 5分間
流水洗浄 5分間
蒸留水 2分間
<ヘマトキシリン−エオジン(HE)染色>
ヘマトキシリン(商品名:マイヤーヘマトキシリン#8650、サクラファインテック
ジャパン株式会社) 4分間
流水 10分間
蒸留水 1分間
1質量%エオジン 2分間
70体積%エタノール 3分間
95体積%エタノール 1分間
100体積%エタノール 1分間
100体積%エタノール 1分間
100体積%エタノール 1分間
100体積%キシレン 1分間
100体積%キシレン 1分間
100体積%キシレン 1分間
<結果>
図14Aに、3ヶ月齢、及び12ヶ月齢のP2Y6受容体欠損マウス及び野生型マウスにおける視神経乳頭部を含む組織のヘマトキシリン−エオジン染色像を示す。図14Aに示すように、野生型マウスでは若齢、老齢関わらず画像中央部に位置する視神経乳頭部の陥凹は観察されなかった。一方、P2Y6受容体欠損マウスでは、若齢マウスにおいては顕著な差は見られなかったが、老齢マウスの一部では顕著な視神経乳頭部の陥凹が観察された(図14A中、*で示す)。ヒト緑内障患者においても、当該部位の陥凹は緑内障発症や症状の進行の評価に用いられる。老齢のP2Y6受容体欠損マウスで見られる視神経乳頭部の陥凹は、ヒトの解剖学的所見とも一致する緑内障症状を示す変化だと考えられる。
図14Bに、3ヶ月齢、及び12ヶ月齢のP2Y6受容体欠損マウス及び野生型マウスにおけるシュレム管及びぶどう膜−強膜を含む組織のヘマトキシリン−エオジン染色像を示す。図14Bに示すように、シュレム管(主経路)及びぶどう膜−強膜(副経路)を含む眼房水の排出に関わる部位に関しては野生型、P2Y6受容体欠損マウス共に老化に関わらず大きな違いは認められなかった。この結果は、実施例6の図10の結果とも一致している。したがって、P2Y6受容体欠損マウスで観察された眼圧上昇は眼房水の産生過多が1つの原因であると考えられた。
(実施例11:ラタノプロストのP2Y6受容体欠損マウスに対する眼圧降下作用)
緑内障治療薬の1種であるラタノプロスト(プロスタグランジン製剤であるPGF2α)の作用に対してP2Y6受容体欠損が影響するかどうかを検討した。
<方法>
点眼方法については、点眼薬としてラタノプロストの市販品(センジュ(登録商標)、0.005質量%、千寿製薬株式会社製)をそのまま使用し、右眼に5μL点眼したこと以外は、実施例1の点眼方法と同様に行い、野生型マウス及びP2Y6受容体欠損マウスに対する影響を評価した。
また、8週齢から4ヶ月間ラタノプロスト(0.005質量%、5μL、1日1回)を点眼により投与した6ヶ月齢のP2Y6受容体欠損マウス、未処理のP2Y6受容体欠損マウス、及び対照となる野生型マウスを用い、実施例8の光干渉断層計、及び実施例9の免疫組織染色により、ラタノプロストによる神経保護作用について評価した。
<結果>
野生型マウスに対してラタノプロスト(5μL、0.005質量%、図中「Latano」と表記)を投与すると、10時間後において顕著に眼圧が低下した(図15)。P2Y6受容体欠損マウスでも同程度の眼圧降下作用が見られた(図16)。これらの結果から、同遺伝子の欠損は、緑内障治療薬の評価に影響を与えないことが明らかとなった。
P2Y6受容体欠損マウスにおいて傷害が見られない8週齢からラタノプロストを4ヶ月間投与した、6ヶ月齢のP2Y6受容体欠損マウス(P2Y6KO 6mo)では、眼圧は同じ週齢の野生型マウス(6mo)と同程度に抑えられ(図17)、実施例7のOCTで観察されたGCL+IPL領域の菲薄化が有意に抑制されていた(図18)。同様に、網膜展開標本でBrn3陽性細胞数を計測したところ、ラタノプロスト投与により傷害が有意に抑制されていた(図19)。
なお、図15〜19中、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、及び**は、一元配置分散分析及びFisher’s Least Significant Differenceテストによる多重比較検定による統計解析において有意差(それぞれp<0.05及びp<0.01)があることを示す。
これらの結果から、P2Y6受容体欠損マウスは、既存又は新規緑内障治療薬の有効な評価システムとして用いることができることが分かった。
以上の実施例で示したように、P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物では、眼房水産生が過剰となることで恒常的に眼圧が高くなり、長期的に高眼圧に暴露されることによって網膜神経節細胞が障害される表現型を示す。したがって、前記P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物からなる本発明の緑内障モデルは、自然発症型の緑内障モデルと言える。緑内障モデルマウスとして現在最も汎用されるDBA2Jマウスは、虹彩の器質的な異常を伴うことから、ヒト緑内障患者の表現型とは異なる。また、本発明の緑内障モデルは、眼圧の変化が比較的緩徐であることから、よりヒト緑内障の表現型に近いと考えられる。P2Y6受容体の作用点は、現行の緑内障治療薬の作用点と異なることから、それらの評価に影響を与えず、より正確な評価系として使用できる。

Claims (12)

  1. P2Y6受容体遺伝子が欠損した非ヒト動物からなることを特徴とする緑内障モデル。
  2. 前記非ヒト動物が、マウスである請求項1に記載の緑内障モデル。
  3. 請求項1から2のいずれかに記載された緑内障モデルに対し、評価対象薬剤を投与する工程と、
    前記評価対象薬剤を投与した後の前記緑内障モデルについて、
    (1)眼圧の低下、
    (2)網膜神経節細胞の神経保護作用、
    (3)網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用、
    (4)グリア細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用、
    (5)視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用、
    (6)大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用、
    (7)房水の産生抑制、及び
    (8)房水の排出促進
    の少なくともいずれかが、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に緑内障の予防乃至治療効果があると評価する工程とを含むことを特徴とする評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  4. 前記評価対象薬剤の投与が、眼局所投与、経口投与、及び静脈内投与のいずれかである請求項3に記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  5. 前記眼圧が、眼圧計により測定される請求項3から4のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  6. 前記網膜神経節細胞の神経保護作用が、前記網膜神経節細胞の細胞死の抑制である請求項3から5のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  7. 前記網膜神経節細胞の細胞死が、光干渉断層計により測定される請求項6に記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  8. 前記網膜神経節細胞の細胞死が、前記網膜神経節細胞の細胞数の減少により測定される請求項6から7のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  9. 前記網膜神経節細胞の細胞死が、前記網膜神経節細胞における特異的マーカーの網膜内発現量の減少により測定される請求項6から8のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  10. 前記房水の産生乃至排出が、前房におけるフルオロフォトメトリーにより測定される請求項3から9のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  11. 前記評価対象薬剤が、副交感神経刺激薬、抗コリンエステラーゼ薬、プロスタグランジン製剤、α1遮断薬、α2刺激薬、炭酸脱水酵素阻害剤、β遮断薬、ROCK阻害薬、自律神経作動薬、カルシウムチャネル拮抗薬、HMG−CoA還元酵素阻害薬、及びフラボノイド類の少なくともいずれかである請求項3から10のいずれかに記載の評価対象薬剤の緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  12. N,N”−1,4−ブタンジイルビス[N’−(3−イソチオシアネートフェニル)チオウレア、並びにその薬理学的に許容可能な塩、溶媒和物、及びプロドラッグの少なくともいずれかを含むことを特徴とする眼圧調整剤。
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