JP7221483B2 - 正常眼圧緑内障モデル、及び評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法 - Google Patents

正常眼圧緑内障モデル、及び評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法 Download PDF

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本発明は、正常眼圧緑内障モデル、及び評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法に関する。
緑内障は、本邦における失明原因第一位の疾患であり、40歳以上の約5.0%が罹患している(非特許文献1参照)。緑内障の有病率は年齢とともに増加するが、症状の進行が遅いため、緑内障であることを気づかない人も多い。一般に、緑内障とは、眼内の静水圧(眼圧)が高くなることで視神経が圧迫されて傷害を受ける。日本人の平均眼圧は約14.5mmHgで、標準偏差2.5mmHgの2倍よりも高い場合に高眼圧と診断される。慢性的な高眼圧の負荷によって視神経が圧迫され続けると次第に視覚伝達機能が不全となり、視野が欠損する。症状が進行すると最終的に失明に至る(特許文献1参照)。
緑内障には、原発開放隅角緑内障、原発閉塞隅角緑内障、続発緑内障、発達緑内障などがあるが、日本人の場合は約8割が原発開放隅角緑内障(Primary Open Angle Glaucoma,POAG)である。POAGは、解剖学的な所見として、隅角が閉塞していないにも関わらず、緑内障に特徴的な形態的症状(視神経乳頭辺縁部の菲薄化、網膜神経線維層欠損など)や視野欠損が現れる。POAGには、その眼圧が正常値内(日本人の場合10.0mmHg~21.0mmHg)であっても上記緑内障症状を呈する正常眼圧緑内障(Normal Tension Glaucoma,NTG)が約90%含まれる(非特許文献1参照)。その後の疫学調査から、POAGのうちNTGに分類される患者の割合は、全世界的に見ても、非常に高い事が明らかとなっている。例えば、米国ラテンアメリカ系人種では80~82%(非特許文献2~3参照)、豪国白人で74~76.2%(非特許文献4~5参照)、タンザニア黒人で75%(非特許文献6参照)、中国で90%(非特許文献7参照)、韓国で77%(非特許文献8参照)、インドで52.3~82.2%(非特許文献9~10参照)などである。したがって、高眼圧以外の緑内障発症機構の解明が急務であるものの、研究は進んでいない。その理由として、正常眼圧緑内障(NTG)のメカニズムを解析するためのモデル動物が不足している事が挙げられる。
緑内障の自然発症型モデル動物として、現在最も汎用されているのはDBA/2Jマウスであり、前記DBA/2Jマウスでは加齢に伴って眼圧上昇が生じる(非特許文献11~12参照)。前記DBA/2Jマウスでは、虹彩の色素細胞が炎症を伴う細胞死を起こし、その細胞破片などが線維柱帯につまることによって眼房水の排出抵抗が増大し、眼圧が上昇し、その機械的負荷によって網膜神経節細胞が傷害されると考えられている。したがって、前記DBA/2Jマウスは、ヒトにおけるNTG(ヒトNTG)の症状を反映していない。
一方、原田らによって報告された自然発症型NTGモデルマウスとして、excitatory amino acid carrier 1 (EAAC1)またはglutamate/aspartate transporter (GLAST)を欠損するマウスが報告されている(非特許文献13参照)。EAAC1は網膜神経節細胞を含む網膜神経細胞に発現し、GLASTはアストロサイト及びミューラー細胞に発現する。これら欠損マウスはいずれも眼圧の上昇は誘導しないが、網膜神経節細胞の脱落及び視覚機能異常を引き起こす。これらのマウスで見られる網膜神経節細胞の脱落はNMDA受容体拮抗薬であるmemantineで抑制される。これらの結果から、EAAC1やGLASTの欠損によって細胞外のグルタミン酸の取り込みが阻害される事で細胞外液中のグルタミン酸濃度が上昇し、このグルタミン酸が網膜神経節細胞に発現するNMDA受容体を介して興奮毒性を惹起する事によって、網膜神経節細胞が傷害されると結論づけられた。したがって、NMDA受容体拮抗薬が正常眼圧緑内障治療薬の有望な標的であると考えられたものの、memantineは緑内障治療薬第三相治験において失敗に終わった(非特許文献14参照)。つまり、これら欠損マウスの表現型はヒトNTGを正確に反映しておらず、異なる遺伝子を標的としたNTGモデルマウスが必要であった。
以上の点から、ヒトNTG患者における正常眼圧緑内障症状を反映した、自然発生型の正常眼圧緑内障モデル、及び臨床予見性に優れた、評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防及び治療効果の評価方法の研究開発が求められている。
特開2017-51181号公報
Iwase et al.Ophthalmol.2004,111:1641-1648. Quigley et al. Arch Ophthalmol. 2001, 119:1819-1826. Varma et al. Ophthalmol. 2004, 111: 1121-1131. Mitchell et al. Ophthalmol. 1996, 103: 1661-1669. Weih et al. Ophthalmol. 2001, 108: 1966-1972. Buhrmann et al. IOVS 2000, 41: 40-48. Liang et al. IOVS 2011, 52: 8250-8257. Kim et al. Ophthalmol. 2011, 118: 1024-1030. Ramakrishnan et al. Ophthalmol. 2003, 110: 1484-1490. Vijaya et al. Ophthalmol. 2008, 115: 648-654. John et al.IOVS 1998,39,951-962 Anderson et al.BMC Genet(2001)2,1. Harada et al. J Clin Invest.2007,117:1763-1770. Ikonomidou et al. Lancet Neurol. 2002,1:383-386.
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、自然発生型の正常眼圧緑内障の有用なモデルである緑内障モデル、及び臨床予見性に優れた評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意検討した結果、1)ATP-binding cassette transporter 1 (ABCA1)遺伝子を欠損させたマウスでは加齢に伴い網膜神経節細胞が脱落するまたは傷害される事、2)ABCA1の欠損は眼圧の変化を引き起こさないこと、3)ABCA1はアストロサイト及びミューラー細胞に高発現すること、4)アストロサイト及びミューラー細胞選択的にABCA1遺伝子を欠損させたマウスでも加齢に伴い網膜神経節細胞が脱落すること、5)この場合も眼圧の変化を引き起こさないことなど、全身性にまたはアストロサイト及びミューラー細胞選択的にABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物が自然発症型のNTGモデルとして有用であることを見出し、本発明の完成に至った。
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。すなわち、
<1> ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物であって、前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物の眼圧は、前記ABCA1遺伝子が欠損していない該非ヒト動物の眼圧に対し有意な差がなく、前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物は、網膜神経節細胞の少なくとも一部が脱落しているまたは傷害されていることを特徴とする正常眼圧緑内障モデルである。
<2> 前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物は、アストロサイト及びミューラー細胞の前記ABCA1遺伝子が欠損している前記<1>に記載の正常眼圧緑内障モデルである。
<3> 前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物は、全身性に前記ABCA1遺伝子が欠損している前記<1>に記載の正常眼圧緑内障モデルである。
<4> 前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物は、加齢に伴い網膜神経節細胞の少なくとも一部が脱落するまたは傷害される前記<1>から<3>のいずれか一項に記載の正常眼圧緑内障モデルである。
<5> 前記非ヒト動物が、マウスである前記<1>から<4>のいずれか一項に記載の正常眼圧緑内障モデルである。
<6> 前記<1>から<5>のいずれか一項に記載された正常眼圧緑内障モデルに対し、評価対象薬剤を投与する工程と、
前記評価対象薬剤を投与した後の前記正常眼圧緑内障モデルについて、
(1)眼圧の低下、
(2)網膜神経節細胞の神経保護作用、
(3)網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用、
(4)アストロサイト及びミューラー細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用、
(5)視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用、及び
(6)大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用
の少なくともいずれかが、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に正常眼圧緑内障の予防乃至治療効果があると評価する工程とを含むことを特徴とする評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<7> 前記評価対象薬剤の投与が、眼局所投与、経口投与、及び静脈内投与のいずれかである前記<6>に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<8> 前記眼圧が、眼圧計により測定される前記<6>から<7>のいずれかに記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<9> 前記網膜神経節細胞の神経保護作用が、前記網膜神経節細胞の細胞死の抑制である前記<6>から<8>のいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<10> 前記網膜神経節細胞の細胞死が、光干渉断層計により測定される前記<9>に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<11> 前記網膜神経節細胞の細胞死が、前記網膜神経節細胞の細胞数の減少により測定される前記<9>から<10>のいずれかに記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<12> 前記網膜神経節細胞の細胞死が、前記網膜神経節細胞における特異的マーカーの網膜内発現量の減少により測定される前記<9>から<11>のいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<13> 網膜神経節細胞の細胞死が、網膜神経節細胞が蛍光蛋白質で標識された前記正常眼圧緑内障モデル動物において、蛍光シグナルの減少による測定される前記<9>から<12>のいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<14> 網膜神経節細胞の細胞死が、傷害された網膜神経節細胞の核酸が蛍光分子で標識された前記正常眼圧緑内障モデルにおいて、蛍光シグナルの増加によって測定される前記<9>から<13>のいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<15> 網膜神経節細胞の神経保護作用が、前記網膜神経節細胞の軸索流の低下抑制である前記<6>から<14>のいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<16> 網膜神経節細胞の軸索流が、硝子体に注入した順行性軸索輸送マーカーの外側膝状体への輸送効率により測定される前記<15>に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<17> 網膜神経節細胞の軸索流が、軸索内における蛍光物質で標識されたミトコンドリアの移動速度により測定される前記<15>から<16>のいずれかに記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<18> 網膜神経節細胞の軸索流が、前記網膜神経節細胞の軸索における正常軸索マーカー及び障害軸索マーカーの少なくともいずれかの発現量により測定される前記<15>から<17>のいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<19> 大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用が、網膜へ一定量の光を照射したときの、大脳皮質視覚野皮下に設置された電極から検出される電位変化により測定される前記<6>から<18>のいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<20> 大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用が、網膜へ一定量の光を照射したときの、大脳皮質視覚野の神経細胞の活動性により測定される前記<6>から<19>のいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<21> 大脳皮質視覚野の神経細胞の活動性が、前記神経細胞内のカルシウムイオン濃度の変化により測定される前記<20>に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
<22> 評価対象薬剤が、副交感神経刺激薬、抗コリンエステラーゼ薬、プロスタグランジン製剤、α1遮断薬、α2刺激薬、炭酸脱水酵素阻害剤、β遮断薬、ROCK阻害薬、自律神経作動薬、カルシウムチャネル拮抗薬、HMG-CoA還元酵素阻害薬、及びフラボノイド類の少なくともいずれか前記<6>から<21>のいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法である。
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、自然発生型の正常眼圧緑内障の有用なモデルである正常眼圧緑内障モデル、及び臨床予見性に優れた評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法を提供することができる。
図1Aは、実施例1の12ヶ月齢の野生型マウス網膜ホールマウント標本のBrn3a陽性シグナル(網膜神経節細胞を示す)及びTdT-mediated UTP nick end labeling (TUNEL)陽性シグナル(アポトーシスを示す)の代表画像である。 図1Bは、実施例1の12ヶ月齢の全身性ABCA1欠損マウス網膜ホールマウント標本のBrn3a陽性シグナル及びTUNEL陽性シグナルの代表画像である。 図2Aは、図1A及び図1Bの12ヶ月齢の野生型マウス及び全身性ABCA1欠損マウスの網膜ホールマウント標本のBRN3A陽性細胞数を定量化した結果である。 図2Bは、図1A及び図1Bの12ヶ月齢の野生型マウス及び全身性ABCA1欠損マウスの網膜ホールマウント標本のTUNEL陽性細胞数を定量化した結果である。 図3は、実施例2の3ヶ月齢及び12ヶ月齢の野生型マウス及び全身性ABCA1欠損マウスの眼圧の計測結果を示す図である。 図4は、実施例3の磁気細胞分離法による網膜ミクログリア、アストロサイト/ミューラー細胞及びその他の細胞群に発現するABCA1遺伝子の相対発現量を定量的PCR法により定量したグラフである。 図5は、実施例4のアストロサイト及びミューラー細胞選択的に緑色蛍光タンパク質を発現するマウス網膜の凍結切片に対する抗ABCA1抗体による免疫組織化学染色を行った結果を示す図である。 図6Aは、実施例5のアストロサイト選択的に緑色蛍光タンパク質を発現するマウスの視神経束の凍結切片に対する抗ABCA1抗体による免疫組織化学染色を行った結果を示す図である。 図6Bは、図6Aの部分拡大図である。 図7Aは、実施例6のアストロサイト及びミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス及び対照群マウスの12ヶ月齢個体由来網膜のBrn3a陽性細胞を示す図である。 図7Bは、図7Aに示したBrn3a陽性細胞数を定量化してグラフで示したものである。 図8Aは、実施例6の12ヶ月齢のアストロサイト及びミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス及び対照群マウスの網膜ホールマウントサンプルのTUNEL陽性シグナルを示す図である。 図8Bは、図8Aに示したTUNEL陽性細胞数を定量化してグラフで示したものである。 図9は、実施例7の対照群(12ヶ月齢)マウスより調製した網膜切片のBrn3a陽性細胞及びTUNEL陽性の画像と、アストロサイト及びミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス(12ヶ月齢)マウスより調製した網膜切片のBrn3a陽性細胞及びTUNEL陽性の画像の図である。 図10Aは、実施例8の18ヶ月齢の対照群マウス及びアストロサイト及びミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスの網膜ホールマウントサンプルのBrn3a陽性細胞数を示す図である。 図10Bは、図10Aに示したBrn3a陽性細胞数を定量化してグラフで示したものである。 図11は、実施例9の3ヶ月齢、6ヶ月齢及び12ヶ月齢の対照群マウス及びアストロサイト及びミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスの眼圧の測定結果を示す図である。 図12Aは、実施例10の野生型(3ヶ月齢)マウス及び全身性ABCA1欠損マウス(3ヶ月齢)マウスより調製したホールマウント網膜のBrn3a陽性細胞の画像を示す図である。 図12Bは、図12Aに示したBrn3a陽性細胞数を定量化してグラフで示したものである。 図13Aは、実施例11のアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス(3ヶ月齢)及び対照群(3ヶ月齢)マウスより調製したホールマウント網膜のBrn3a陽性細胞の画像を示す図である。 図13Bは、図13Aに示したBrn3a陽性細胞数を定量化してグラフで示したものである。 図14Aは、実施例12のアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス(18ヶ月齢)及び対照群(18ヶ月齢)マウスより調製したホールマウント網膜のTUNEL陽性細胞の画像を示す図である。 図14Bは、図14Aに示したTUNEL陽性細胞数を定量化してグラフで示したものである。
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載したすべての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。
(緑内障モデル)
本発明の正常眼圧緑内障モデルは、ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物からなることを特徴とする。
本発明のモデルは、ABCA1遺伝子が全身性に、またはアストロサイト及びミューラー細胞選択的に欠損した非ヒト動物からなる。
本発明は、ABCA1遺伝子が全身性に、またはアストロサイト及びミューラー細胞選択的に欠損した非ヒト動物において、ABCA1遺伝子を正常に発現する非ヒト動物と比較して、眼圧が正常であることを特徴とする。
本発明は、ABCA1が欠損した非ヒト動物が、野生型非ヒト動物と比較して正常な眼圧を示す事及び加齢に伴い網膜神経節細胞が脱落するという自然発症型の正常眼圧緑内障症状を呈するという未知の属性を見出し、この属性により、当該ABCA1が欠損した非ヒト動物が、自然発症型の正常眼圧緑内障モデルとしての新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明である。
-ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物-
前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物としては、ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、本明細書においてABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物は、ABCA1遺伝子が無効化された非ヒト動物も含む。
前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物の眼圧は、野生型マウスの眼圧に比べて、統計的に有意な差がなく、加齢に伴い網膜神経節細胞が脱落する、または傷害されるという表現型を示す。
--ABCA1遺伝子--
前記ABCA1遺伝子は、ABCA1をコードする遺伝子である。
前記ABCA1は、細胞膜に存在し、細胞内アデノシン三リン酸(ATP)によって駆動する輸送体であるATP-binding cassette (ABC) transporter superfamilyの1つである。ABCA1はリン脂質やコレステロールを基質とし、細胞膜から細胞外へ輸送する。細胞外へ放出された脂質はアポリポ蛋白であるApo-A1やApo-Eなどと結合し、高比重リポ蛋白(HDL)を形成する。
--非ヒト動物--
前記非ヒト動物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼブラフィッシュ等の魚類;マウス、ラット、モルモット等の齧歯類動物;ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、チンパンジー、マーモセットなどの、ヒトを除く哺乳類動物が挙げられる。これらの中でも、ゼブラフィッシュ、マウス、ラット、モルモットが好ましく、マウスがより好ましい。
前記全身性にABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物としては、ABCA1遺伝子が欠損したマウスであることが好ましい。前記ABCA1遺伝子が欠損したマウスとしては、遺伝子改変マウスであることが好ましい。前記遺伝子改変マウスは、前記ABCA1遺伝子のコーディングエキソン17-22の領域が欠損したマウスである。
前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物のうち、アストロサイト及びミューラー細胞選択的欠損の場合はABCA1flox/floxマウスとGFAP-Creマウスを交配したダブルトランスジェニックマウスである事が望ましい。
ABCA1flox/floxマウスは遺伝子改変マウスであることが好ましい。前記遺伝子改変マウスは、前記ABCA1遺伝子のコーディングエキソン44-45及び46-47の間にloxP配列を挿入したトランスジェニックマウスである。
GFAP-Creマウスは遺伝子改変マウスであることが好ましい。前記遺伝子改変マウスは、human GFAP promotorの下流にCre Recombinaseを組み込んだトランスジェニックマウスである。
前記ABCA1遺伝子を全身性またはアストロサイト及びミューラー細胞選択的に欠損したマウスは、その眼圧が正常であるにもかかわらず、加齢に伴い網膜神経節細胞が脱落するまたは傷害されることは知られていなかった。
(評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法)
本発明の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法は、本発明の前記正常眼圧緑内障モデルを用いた評価方法であり、薬剤投与工程と、評価工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
本発明の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法は、in vivoの評価方法であってもよく、in vitroの評価方法であってもよい。
<薬剤投与工程>
前記薬剤投与工程は、前記正常眼圧緑内障モデルに対し、評価対象薬剤を投与する工程である。
-正常眼圧緑内障モデル-
前記正常眼圧緑内障モデルとしては、本発明の前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物からなる正常眼圧緑内障モデルを好適に用いることができる。
-評価対象薬剤-
前記評価対象薬剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の治療薬、被検薬、及び医薬品候補となる試験化合物のいずれであってもよく、天然化合物及び合成化合物のいずれであってもよい。また、遺伝子薬であってもよい。
また、前記治療薬としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の緑内障治療薬を適宜選択することができ、例えば、副交感神経刺激薬、抗コリンエステラーゼ薬、プロスタグランジン製剤、α1遮断薬、α2刺激薬、炭酸脱水酵素阻害薬、β遮断薬、ROCK阻害剤、自律神経作動薬、カルシウムチャネル拮抗薬、HMG-CoA還元酵素阻害薬、フラボノイド類などが挙げられる。
本発明の前記正常眼圧緑内障モデルは、前述のようにコレステロールやリン脂質の輸送やHDLの生成異常が緑内障症状の原因となる可能性が高い。したがって、既存の緑内障治療薬とは異なる標的を持つ薬剤の評価にも利用できる。
既存の動物モデルであるDBA2/Jでは隅角を介した房水排出経路に異常があるものの、本モデルマウスは眼圧が正常である事から、房水産生及びシュレム管やぶどう膜を介した房水排出経路は正常な機能を保っていると推定される。したがって、房水産生経路と房水排出経路の両方を標的とした治療薬の評価に適している。
--副交感神経刺激薬--
前記副交感神経刺激薬としては、例えば、ピロカルピン塩酸塩などが挙げられる。
--抗コリンエステラーゼ薬--
前記抗コリンエステラーゼ薬としては、例えば、ジスチグミン臭化物などが挙げられる。
--プロスタグランジン製剤--
前記プロスタグランジン製剤としては、例えば、ラタノプロスト、タフルプロスト、ビマトプロスト、トラバプロストなどが挙げられる。
--α1遮断薬--
前記α1遮断薬としては、例えば、ブナゾシン塩酸塩などが挙げられる。
--α2刺激薬--
前記α2刺激薬としては、例えば、ブリモニジン酒石酸塩などが挙げられる。
--炭酸脱水酵素阻害剤--
前記炭酸脱水酵素阻害剤としては、例えば、ドルゾラミド塩酸塩、ブリンゾラミド塩酸塩などが挙げられる。
--β遮断薬--
前記β遮断薬としては、例えば、カルテオロール塩酸塩、チモロール塩酸塩、ニプラジロールなどが挙げられる。
--ROCK阻害剤--
前記ROCK阻害剤としては、例えば、リバスジル塩酸塩などが挙げられる。
--カルシウムチャネル拮抗薬--
前記カルシウムチャネル拮抗薬としては、例えば、塩酸イガニジピン、ニルバジピン、ニカルジピン塩酸塩、アゼルニジピンなどが挙げられる。
--HMG-CoA還元酵素阻害薬--
前記HMG-CoA還元酵素阻害薬としては、例えば、ロバスタチン、セリバスタチン、アトルバスタチンカルシウム、ロバスタチン、フルバスタチン、エゼチミブなどが挙げられる。
--フラボノイド類--
前記フラボノイド類としては、例えば、アントシアニン、カテキン、クエルセチン、クロロゲン酸、コーヒー酸、ターメリック、クルクミンなどが挙げられる。
--自律神経作動薬--
前記自律神経作動薬としては、例えば、ジピベフリン塩酸塩などが挙げられる。
前記正常眼圧緑内障モデルに対し、前記評価対象薬剤を投与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて各薬剤に適した投与経路、投与タイミング、投与量、投与スケジュール等の投与条件を適宜選択することができる。
前記投与経路としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、眼局所投与、経口投与、静脈内投与が好ましい。
前記眼局所投与としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、角膜投与(例えば、点眼)、経強膜投与、経硝子体投与などが挙げられる。
前記投与タイミングとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記正常眼圧緑内障モデルは加齢に伴い緑内障症状が進行することから、正常眼圧緑内障症状の進行程度に応じたタイミングで投与することにより、所望の正常眼圧緑内障症状の進行程度における前記評価対象薬剤の評価を行うことができる。
前記投与条件としては、例えば、ラタノプロストを評価する場合は、0.0005質量%~0.05質量%(例えば、0.005質量%)の生理食塩水の溶液を0.5μL~50μL(例えば、5μL)点眼することが好ましい。
或いは、前記評価対象薬剤を投与する方法としては、評価しようとする投与経路、投与タイミング、投与量、投与スケジュール等の投与条件を適宜選択することができる。これにより、各々の薬剤について、適した投与条件を評価し選定することが可能となる。
本発明が、in vitroの評価方法の場合には、前記試料に前記評価対象薬剤を投与すればよい。
前記試料としては、前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物の個体に由来する、器官、組織及び細胞の少なくともいずれかの試料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、眼球、脳等の器官;毛様体、網膜、視神経、視中枢リレーニューロン脳視覚領野等の組織;毛様体上皮細胞、網膜神経節細胞、網膜神経細胞、眼アストロサイト及びミューラー細胞、脳神経細胞、脳アストロサイト等の細胞などが挙げられる。これらの中でも、毛様体、網膜神経節細胞が好ましい。
本発明が、in vitroの評価方法の場合には、前記評価対象薬剤を投与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知のin vitro実験の各種条件を選択することができ、例えば、前記評価対象薬剤を含む培地を前記試料に投与すればよい。
前記in vitroの評価方法として、例えば、網膜神経節細胞の細胞死や軸索の形状などを指標とした評価を行うことができる。
<評価工程>
前記評価工程は、前記評価対象薬剤を投与した後の前記正常眼圧緑内障モデルについて、(1)眼圧の低下、(2)網膜神経節細胞の神経保護作用、(3)網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用、(4)アストロサイト及びミューラー細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用、(5)視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用、及び(6)大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用の少なくともいずれかが、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に正常眼圧緑内障の予防乃至治療効果があると評価する工程である。
ここで、「有意に観察される」とは、統計的解析により有意差(p<0.05)があることを意味する。
前記統計的解析としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一元配置分散分析、Fisher’s Least Significant Differenceテストによる多重比較検定、マンホイットニーUテスト、二要因反復分散分析、student’s t-testなどが挙げられる。
また、正常眼圧緑内障の予防乃至治療効果とは、正常眼圧緑内障の予防効果、及び正常眼圧緑内障の治療効果の少なくともいずれかを意味する。
前記対照とは、前記評価対象薬剤に代えて、薬剤に用いた溶媒のみを投与したこと以外は、前記正常眼圧緑内障モデルと同様に処理した対照マウスである。
前記溶媒としては、前記評価対象薬剤を溶解することができ、薬理学的に許容されるものであれば、特に制限はなく、使用する前記評価対象薬剤に応じて適宜選択することができ、例えば、生理食塩液などが挙げられる。
-(1)眼圧の低下-
正常眼圧緑内障においても、眼圧を更に低下させる事によって症状の進行を抑制する事ができる。従って、前記評価対象薬剤を投与した後の前記正常眼圧緑内障モデルについて、眼圧の低下が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に正常眼圧緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記眼圧の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の測定方法を選択することができ、例えば、接触式眼圧計、非接触式眼圧計等の眼圧計を用いた測定方法;眼内圧を直接測定する方法などが挙げられる。
前記接触式眼圧計としては、例えば、リバウンド式トノメーター、ゴールドマン圧平式眼圧計、パーキンス眼圧計、トノペン眼圧計、眼内埋没型眼圧計、コンタクトレンズ型眼圧計などが挙げられる。前記非接触式眼圧計としては、例えば、空気眼圧計などが挙げられる。
眼内圧を直接測定する方法としては、前房にガラスキャピラリーを挿入し、キャピラリーに接続したmechanotransducerにて眼圧を計測する方法(Aihara et al.IOVS 2002);眼内に埋没型の眼圧センサーを埋め込み、遠隔で眼圧を測定する方法などが挙げられる。
これらの中でも、侵襲性が低く、再現性、及び正確性が良好な点で、リバウンド式トノメーターが好ましい。
-(2)網膜神経節細胞の神経保護作用-
前記評価対象薬剤を投与した後の前記正常眼圧緑内障モデルについて、網膜神経節細胞の神経保護作用が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に正常眼圧緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記網膜神経節細胞の神経保護作用としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の指標を選択することができ、例えば、前記網膜神経節細胞の細胞死の抑制、前記網膜神経節細胞の軸索流の低下抑制などが挙げられる。
--網膜神経節細胞の細胞死--
前記網膜神経節細胞の細胞死の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の方法を選択することができ、例えば、光干渉断層計により測定する方法、前記網膜神経節細胞の細胞数の減少を測定する方法、前記網膜神経節細胞における特異的マーカーの網膜内発現量の減少により測定する方法、網膜神経節細胞が蛍光蛋白質で標識された前記正常眼圧緑内障モデルにおいて、蛍光シグナルの減少による測定する方法などが挙げられる。
前記光干渉断層計とは、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography、OCT)ともいい、赤外光を用いて生体内部の断層画像を高分解能で取得する技術であり、これにより、生体表皮から1mm~2mmの深さで、約10μmの高空間分解能を有する断層イメージが得られる。この技術を用いて、前記正常眼圧緑内障モデルにおける網膜の神経細胞の層構造を可視化し、神経節細胞層(GCL)の面積及び内網状層(IPL)の面積と、その他の網膜の神経細胞層(他の層)の面積との比(GCL+IPL/他の層)を算出し、前記比の減少を指標として、前記網膜神経節細胞の細胞死を測定することができる。
前記網膜神経節細胞の細胞数は、前記網膜神経節細胞に特異的な細胞特異的マーカーを発現する細胞を指標として測定することができ、例えば、前記緑内障モデルから採取した網膜組織を用いた、免疫組織染色(蛋白質レベルでの検出)、in situハイブリダイゼーション(mRNAレベルでの検出)等により測定する方法などが挙げられる。
前記細胞特異的マーカーとしては、前記網膜神経節細胞に特異的に発現するmRNA及び蛋白質であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、brain-specific homeobox/POU domain protein 3A(Brn3a)、RNA-binding protein with multiple splicing(RBPMS)、γ-シヌクレイン(γ-synuclein)などが挙げられる。
前記網膜神経節細胞における特異的マーカーの網膜内発現量を測定する方法としては、例えば、前記正常眼圧緑内障モデルから採取した網膜試料を用いた、ウエスタンブロッティング(蛋白質レベルでの検出)、定量的RT-PCR(mRNAレベルでの検出;例えば、リアルタイムRT-PCR)等により測定する方法などが挙げられる。
前記網膜神経節細胞が蛍光蛋白質で標識された前記正常眼圧緑内障モデルにおいて、蛍光シグナルの減少による測定する方法としては、例えば、蛍光蛋白質で標識された前記網膜神経節細胞に特異的な細胞特異的マーカーをコードする遺伝子(例えば、GFP-Brn3a、Thy1-GFPなど)が組み込まれた、前記正常眼圧緑内障モデルを用いて前記薬剤投与工程を行い、前記網膜神経節細胞における前記蛍光蛋白質の蛍光シグナルの減少を指標として前記網膜神経節細胞の細胞死を測定する方法などが挙げられる。
--網膜神経節細胞の軸索流--
前記網膜神経節細胞の軸索流の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の方法を選択することができ、例えば、硝子体に注入した軸索輸送マーカーの外側膝状体への輸送効率により測定する方法、中脳上丘に注入した軸索輸送マーカーの網膜の神経節細胞層への輸送効率により測定する方法、軸索内における蛍光物質で標識されたミトコンドリアの移動速度により測定する方法、前記網膜神経節細胞の軸索における正常軸索マーカー及び障害軸索マーカーの少なくともいずれかの発現量により測定する方法などが挙げられる。
前記硝子体に注入した軸索輸送マーカーの外側膝状体への輸送効率、又は中脳上丘に注入した軸索輸送マーカーの網膜の神経節細胞層への輸送効率により測定する方法によれば、前記軸索輸送マーカーが、前記網膜神経節細胞の軸索を経由して脳の入力部位である前記外側膝状体又は網膜の神経節細胞層へ輸送されるため、その輸送効率を指標として前記軸索流を測定することができる。
前記軸索輸送マーカーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蛍光物質で標識したコレラ毒素βサブユニット、カルボシアニン系蛍光色素(例えば、DiI等)、フルオロゴールド、蛍光物質で標識したBDNF(脳由来神経栄養因子)などが挙げられる。
前記輸送効率としては、例えば、前記網膜神経節細胞の軸索を含む特定の領域における蛍光輝度、網膜組織を破砕した懸濁液における蛍光輝度、前記外側膝状体へ投影した前記網膜神経節細胞の軸索終末1つ当たりの蛍光輝度などにより測定することができる。
前記軸索内における蛍光物質で標識されたミトコンドリアの移動速度により測定する方法としては、例えば、Takihara et al.Proc.Natl.Acad.Sci.(2015)等の文献に記載された方法などが挙げられる。
前記ミトコンドリアを標識する蛍光物質としては、例えば、GFP、CFP等の蛍光蛋白質などが挙げられる。前記ミトコンドリアを蛍光物質で標識する方法としては、例えば、シトクロムCオキシダーゼVIIIと蛍光蛋白質との融合蛋白質を発現する発現ベクターを用いた強制発現などが挙げられる。前記ミトコンドリアの移動速度を測定する方法としては、例えば、二光子励起顕微鏡を用いた組織内ミトコンドリアのリアルタイムイメージングなどが挙げられる。
前記網膜神経節細胞の軸索における正常軸索マーカー及び障害軸索マーカーの少なくともいずれかの発現量により測定する方法としては、例えば、前記正常眼圧緑内障モデルから採取した網膜試料を用いた、ウエスタンブロッティング(蛋白質レベルでの検出)、定量的RT-PCR(mRNAレベルでの検出;例えば、リアルタイムRT-PCR)等;前記正常眼圧緑内障モデルから採取した網膜組織を用いた、免疫組織染色(蛋白質レベルでの検出)、in situハイブリダイゼーション(mRNAレベルでの検出)等;により測定する方法などが挙げられる。
前記正常軸索マーカーとしては、例えば、Neurofilament heavy chain(NF200)、Neuron-specificβ-III Tubulin(Tuj1)、Tau1、SMI32などが挙げられる。
前記障害軸索マーカーとしては、例えば、SMI31、β-amyloid precursor protein(β-APP)などが挙げられる。
-(3)網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用-
前記評価対象薬剤を投与した後の前記正常眼圧緑内障モデルについて、網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に正常眼圧緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の指標を選択することができ、例えば、細胞数の計測、マーカー蛋白質やmRNAの発現などが挙げられる。
前記網膜神経節細胞以外の網膜細胞としては、例えば、水平細胞、アマクリン細胞、双極細胞などが挙げられる。
-(4)アストロサイト及びミューラー細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用-
前記評価対象薬剤を投与した後の前記正常眼圧緑内障モデルについて、アストロサイト及びミューラー細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に正常眼圧緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記アストロサイト及びミューラー細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の指標を選択することができ、例えば、正常軸索マーカー及び障害軸索マーカーの少なくともいずれかの発現量により測定する方法などが挙げられる。
-(5)視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用-
前記評価対象薬剤を投与した後の前記正常眼圧緑内障モデルについて、視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に正常眼圧緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の指標を選択することができ、例えば、細胞数、細胞マーカーの発現などが挙げられる。
前記視覚伝達系の上位リレー神経細胞としては、例えば、外側膝状体の神経細胞、上丘の神経細胞、視床後外側核のニューロンなどが挙げられる。
-(6)大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用-
前記評価対象薬剤を投与した後の前記正常眼圧緑内障モデルについて、大脳皮質視覚野神経細胞及び周辺細胞の少なくともいずれかの保護作用が、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に正常眼圧緑内障の予防乃至治療効果があると評価することができる。
前記大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜公知の指標を選択することができ、例えば、網膜へ一定量の光を照射したときの、大脳皮質視覚野皮下に設置された電極から検出される電位変化により測定する方法、網膜へ一定量の光を照射したときの、大脳皮質視覚野の神経細胞の活動性により測定する方法などが挙げられる。これらの方法は、例えば、Adrian(Adrian&Matthews、Brain 1934);Ohki(Ohki et al.Nature 2005、2006)等の文献に基づいて行うことができる。
網膜へ照射する前記光としては、一定量であれば、その強度、波長、照射時間などの条件について特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記強度としては、0.01cd・sec/m~100cd・sec/mが好ましく、前記波長としては、360nm~850nmが好ましく、前記照射時間としては、0.1msec~500msecが好ましい。
前記大脳皮質視覚野の神経細胞の活動性は、前記神経細胞における細胞内カルシウムイオンの濃度変化を指標として評価できる。前記細胞内カルシウムイオンの濃度変化を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プローブを用いて蛍光輝度変化により測定する方法などが挙げられる。
前記プローブとしては、例えば、カルシウムイオン指示薬、Genetically-encoded Ca2+ indicator(GECI)などが挙げられる。
前記細胞内カルシウムイオンの濃度変化の評価方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記細胞内カルシウムイオンの濃度変化の、振幅の大きさ、起こる頻度、起こる細胞数などにより評価する方法などが挙げられる。
前記評価対象薬剤の薬理学的に許容可能な塩とは、前記評価対象薬剤と、無機酸、有機酸、無機塩基及び有機塩基の少なくともいずれかを化学反応させることにより形成される塩である。
前記無機酸又は有機酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、炭酸、リン酸、過塩素酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、リンゴ酸、サリチル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、置換基含有ベンゼンスルホン酸(例えば、p-トルエンスルホン酸)、イソニコチン酸、オレイン酸、タンニン酸、パントテン酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、ゲンチジン酸、フマル酸、グルコン酸、ウロン酸、サッカリン酸又はショ糖酸、蟻酸、安息香酸、グルタミン酸、ビスヒドロキシナフテン酸、ソルビン酸などが挙げられる。
前記無機塩基又は有機塩基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化第二鉄、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化アルミ二ウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、アンモニア水、有機第四級アンモニウム水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、有機第四級アンモニウム炭酸塩、重曹、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素化有機第四級アンモニウムなどが挙げられる。
前記評価対象薬剤の薬理学的に許容可能な溶媒和物とは、前記評価対象薬剤が薬理学的に許容可能な溶媒と、共有結合、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力、錯体、インクルーションなどを形成して安定化したものである。前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アセトン、アセトニトリル、エチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテルなどが挙げられる。
前記評価薬剤の薬理学的に許容可能なプロドラックとは、化学合成または物理的な方法により前記評価薬剤を他の化合物に変換させて、当該他の化合物を哺乳動物に投与してから、前記哺乳動物の体内で活性を有する前記評価薬剤に転換し戻すことが可能なものである。前記評価薬剤のプロドラックとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記評価薬剤における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.3nmol/L~3mmol/Lが望ましく、30nmol/L~300μmol/Lがより好ましい。
通常、緑内障の治療においては眼圧を低下させる薬剤が使用される。眼圧は、例えば、日本人の正常値は、10mmHg~21mmHgであり、マウスの正常値は、10mmHg~21mmHgである。正常眼圧緑内障においても、眼圧を更に低下させる事によって症状の進行を抑制する事ができる。
<その他の成分>
前記眼圧調整剤は、デキストリン、シクロデキストリンなどの薬理学的に許容可能な担体、助剤を用いて、常法に従い、液状、粉末状、顆粒状、錠剤状などの任意の剤形に製剤化して提供することができ、他の組成物(例えば、点眼薬、経口医薬品など)に配合して使用できる他、軟膏剤、外用液剤、貼付剤などとして使用することができる。
前記助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味剤、矯臭剤などを用いることができる。
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記眼圧調整剤を投与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて各薬剤に適した投与経路、投与タイミング、投与量、投与スケジュール等の投与条件を適宜選択することができる。
前記投与経路としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、眼局所投与(例えば点眼)、経口投与、静脈内投与が好ましい。
前記眼圧調整剤の投与量としては、特に制限はなく、処置を必要とする哺乳動物の疾患状態、体重等の要因に応じて適宜選択することができるが、一日当たり、0.00006mg~0.024mgが好ましく、0.0002mg~0.008mgがより好ましい。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
(実施例1:12ヶ月齢の全身性ABCA1欠損マウスの網膜神経節細胞の脱落または傷害の評価)
<方法>
<網膜の摘出>
網膜神経節細胞の脱落または傷害は、摘出した網膜を用いて評価した。雄性DBA1/Jマウス(野生型、12ヶ月齢)または雄性全身性ABCA1欠損マウス(12ヶ月齢)に塩酸メデトミジン、ミダゾラム、酒石酸ブトルルファール(生理食塩水に溶解、アステラス製薬株式会社製、共立製薬株式会社製、Meiji Seikaファルマ株式会社製)を腹腔内投与(それぞれ0.3,4.0及び5.0mg/Kg)し、正向反射が見られなくなった事を確認して心臓より脱血したのちに眼球を摘出した。眼球は4質量%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液(PBS)溶液にて12時間(4℃)処理した後に、氷冷PBS中にて角膜を剥離し、網膜を摘出した。網膜神経節細胞の脱落または傷害は、Brn3aの免疫組織化学染色ならびにTUNEL染色によって行った。
<ホールマウント網膜の免疫組織染色>
組織は、4質量%PFAにて固定(12時間、4℃)し、ブロッキング溶液(2体積%ウシ血清アルブミン、及び2体積%TritonX-100を含むPBS)にて室温で1時間処理した。組織標本は、1次抗体として抗Brn3a抗体(1:5,000、サンタクルズ社製)を含むブロッキング溶液と3日間(4℃)にて反応させ、PBS/T(0.3体積%TritonX-100を含むPBS)で3回洗浄した。その後切片を2次抗体(anti-Goat IgG Alexa dye conjugate、1:1,000、ライフテクノロジーズ社製)を含むブロッキング溶液と1時間(室温)反応させた。切片はPBS/Tにて3回洗浄して観察を行った。
<ホールマウント網膜のTUNEL染色>
TUNEL染色はApoTag plus fluorescein in Situ kit(ミリポア社製)を用いて行った。
免疫組織化学染色の工程が終了した網膜組織を-20℃に冷却したエチルアルコールと酢酸の混合溶媒(2:1)に20分間浸漬した。組織はPBSにて5回洗浄(各5分)して平衡バッファーに浸した後にTdT enzymeと3時間(37℃)反応させた。Working strength stop/wash bufferにて反応を停止後、10分間室温にて静置した。その後PBSで3回洗浄(各1分)後、フルオレセイン標識された抗Digoxygenin抗体を加えて12時間(4℃)反応させた。組織をPBSにて4回洗浄(各2分)し、スライドガラスに貼り付け、カバーガラスで封入した。蛍光シグナルの観察はFV1200レーザー走査型顕微鏡(オリンパス社製)を用いて行った。
<Brn3a陽性細胞・TUNEL陽性細胞数の計測>
Brn3a陽性細胞及びTUNEL陽性細胞数の計測はImage J(http://imagej.nih.goc/ij/)のプラグイン「Cell Counter」を用いて行った。それぞれの画像をImage Jで開き、メニューからPlugin-Analysis-Cell Counterを選択し、「initialize」を行った後、球状のBrn3a陽性またはTUNEL陽性シグナルをマウスでクリックして細胞数を計測した。
<結果>
雄性DBA1/Jマウス(野生型、12ヶ月齢)及び雄性ABCA1欠損(12ヶ月齢)マウスより調製したホールマウント網膜のBrn3a陽性細胞またはTUNEL陽性細胞の画像を図1A及び図1Bに示す。また、それぞれの定量結果を図2A及び図2Bに示す。Brn3a陽性細胞数は野生型マウスに比べてABCA1欠損マウスにおいて顕著に減少していた。一方、TUNEL陽性細胞数は野生型マウスに比べてABCA1欠損マウスにおいて顕著に増加していた。計数の結果、網膜神経節細胞の脱落率及び傷害率はそれぞれ15~20%及び30~40%であった。
なお、図2A及び図2Bにおいて、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、**は、Student’s t-テストによる二群間比較検定による統計解析において有意差(p<0.01)があることを示す。
一般的にマウスの寿命は約3年(36ヶ月と言われており、月齢12ヶ月はヒトの年齢に換算すると35歳~40歳に相当する。日本人の40歳での正常眼圧緑内障の発生率が5%であり加齢に伴い発生率は上昇していく。また、後述する実施例10~12に記載されているように、若齢マウスでは網膜神経節細胞が脱落または傷害されることはない。すなわち、月齢12ヶ月の全身性ABCA1欠損マウスにおいて網膜神経節細胞が脱落するまたは傷害されるという結果は、自然発症型のNTGモデルとして有用である事を示している。
(実施例2: 全身性ABCA1遺伝子欠損の眼圧に対する作用)
<方法>
眼圧の測定は全て麻酔下にて行った。雄性DBA1/Jマウス(野生型、3ヶ月齢または12ヶ月齢)または雄性の全身性ABCA1欠損マウス(3ヶ月齢または12ヶ月齢)に塩酸メデトミジン、ミダゾラム、酒石酸ブトルルファール(生理食塩水に溶解、アステラス製薬株式会社製、共立製薬株式会社製、Meiji Seikaファルマ株式会社製)を腹腔内投与(それぞれ0.3,4.0,及び5.0mg/Kg)し、正向反射が見られなくなったことを確認して計測を行った。眼圧の計測は、リバウンド式トノメーター(TonoLab、iCare社製)を用い、5回計測値の平均値を測定値として用いた。
<結果>
野生型マウスと全身性ABCA1欠損マウスについて、3ヶ月齢及び12ヶ月齢で眼圧を計測した結果を図3に示す。3ヶ月齢及び12ヶ月齢のどちらにおいても、野生型マウスと全身性ABCA1欠損マウスとの間に統計的に有意な眼圧の差は認められなかった。すなわち、全身性ABCA1欠損マウスは、眼圧が正常なので、自然発症型のNTGモデルとして有用である。
(実施例3:磁気細胞分離法及び定量的PCR法によるABCA1発現細胞の評価)
<方法-磁気細胞分離法による網膜ミクログリア、アストロサイト/ミューラー細胞の単離>
雄性C57BL6/Jマウス(野生型、3ヶ月齢)に塩酸メデトミジン、ミダゾラム、酒石酸ブトルルファール(生理食塩水に溶解、アステラス製薬株式会社製、共立製薬株式会社製、meiji Seikaファルマ株式会社製)を腹腔内投与(それぞれ0.3,4.0,及び5.0mg/Kg)し、正向反射が見られなくなった事を確認して心臓より脱血したのちに眼球を摘出した。眼球は氷冷リン酸緩衝液(PBS)中にて角膜を剥離し、網膜を摘出した。
網膜細胞の分離はAdult Brain Dissociation Kit, mouse and rat(ミルテニー社製)を用いて手順の詳細は全てキットの説明書に基いて行った。摘出網膜をMACS C Tubeに入れ、buffer Y及びenzyme Aを加えて20 rpmにて30分間(37℃)処理した。細胞懸濁液をセルストレイナー(100μm)に通し、300×gにて7分(4℃)遠心した。細胞懸濁液にFcRブロッキング液を加えた後に、抗CD11b抗体が付加した磁気ビースを添加し、氷上にて5分間反応させた。細胞懸濁液を磁気スタンドに設置したLSカラムに添加し、磁気ビーズ及びCD11b陽性細胞をカラム中に捕捉した。その後、LSカラムを磁気スタンドからはずし、PBSにて洗浄する事によってCD11b陽性網膜ミクログリアを得た
磁気スタンドに設置した状態で捕捉されなかった細胞懸濁液に対し、磁気ビーズが不可した抗ACSA1抗体を添加し、氷上にて5分間反応させた。細胞懸濁液を磁気スタンドに設置したLSカラムに添加し、磁気ビーズ及びACSA1陽性細胞をカラム中に捕捉した。その後、LSカラムを磁気スタンドからはずし、PBSにて洗浄する事によってACSA1陽性アストロサイト/ミューラー細胞を得た。
抗CD11b抗体及び抗ACSA1抗体を付加した状態で磁気スタンドに設置しても補足されなかった細胞をミクログリア、アストロサイト/ミューラー細胞以外の細胞として回収した。
<単離細胞からのtotal RNA精製>
磁気細胞分離法によって分離した網膜細胞からのtotal RNA精製はRNeasy Lipid Tissue kit(キアゲン社製)を用いて行った。手順の詳細は全てキットの説明書に基いて行った。細胞懸濁液にQIAzol Lysis Reagentを加えて細胞を破砕し、クロロホルムを加えた。12000×gにて15分(4℃)遠心し、水層をエッペンドルフチューブに移し、同量の70体積%エタノールを混和した。この混合液をRNeasy Mini Spin columnに加え、8000×gにて15秒(室温)遠心した。カラムにRW1を加えてさらに8000×gにて15秒(室温)遠心した。カラムにRPEを加えて8000×gにて15秒(室温)遠心した。カラムにヌクレアーゼフリーHOを加えて精製total RNAを得た。
<total RNAからcDNAの生成>
TAKARA PrimeScript RT reagent kit(タカラバイオ社製)を用いてtotal RNAから逆転写によってcDNAを得た。Total RNAと5x PrimeScript Buffer, PrimeScript RT enxyme mix1, Oligo dT primers, Random 6 mersを混合し、サーマルサイクラーにて37℃15分及び85℃5秒で反応させる事によってcDNAを生成した。
<定量的PCR法>
定量的PCR法は、cDNAとPrimetime master mix(IDT社製)及びABCA1遺伝子 PCR probe (IDT社製)を混合し、Applied Biosystems 7500(アプライドバイオシステムズ社製)にて95℃3分の反応後に95℃15秒及び60℃1分を35回反応する事によってABCA1遺伝子の増幅曲線を得た。
<結果>
図4に示すように、網膜におけるABCA1遺伝子の発現は、アストロサイト/ミューラー細胞の画分に最も多く、ミクログリアやその他細胞の画分に比べて約3.5倍高い事が明らかになった。なお、図4において、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、は、一元配置分散分析及びFisher’s Least Significant Differenceテストによる多重比較検定による統計解析において有意差(p<0.05)があることを示す。
(実施例4:凍結網膜切片の免疫組織化学染色によるABCA1発現細胞の網膜における検討)
<方法>
実施例1と同様に摘出した網膜を20質量%スクロース/PBS液に入れて2日間(4℃)振盪しながら処理し、OCT compound (サクラファインテックジャパン社製)に包埋して凍結した。凍結ブロックをクライオスタット(ライカ製)を用いて薄切し、20μm厚の網膜切片を得た。実施例1と同様の条件で抗ABCA1抗体と反応させた。アストロサイト/ミューラー細胞の同定にはGLASTプロモーター下に緑色蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックマウス(雄性、3ヶ月齢)を用いた。
<結果>
ABCA1陽性シグナルは網膜断層全体に観察された。図5に矢印で示すように、神経節細胞層では網膜神経節細胞を取り囲むようなシグナルとして観察され、その多くがアストロサイト/ミューラー細胞に発現する緑色蛍光タンパク質のシグナルと共局在していた。内網状層でもアストロサイト/ミューラー細胞の微細突起に相当する部位と共局在が確認された。その他、内顆粒層、外網状層及び外顆粒層においてもアストロサイト/ミューラー細胞由来シグナルとの共局在が観察された。したがって、ABCA1はアストロサイト/ミューラー細胞に発現することが明らかとなった。
(実施例5:凍結視神経束切片の免疫組織化学染色によるABCA1発現細胞の視神経線維周囲における検討)
<方法>
実施例4と同様に摘出した視神経束を20質量%スクロース/PBS液に入れて2日間(4℃)振盪しながら処理し、OCT compound (サクラファインテックジャパン社製)に包埋して凍結した。凍結ブロックをクライオスタット(ライカ製)を用いて薄切し、20μm厚の視神経束切片を得た。実施例1と同様の条件で抗ABCA1抗体と反応させた。視神経束周囲のアストロサイトの同定にはGLASTプロモーター下に緑色蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックマウス(雄性、3ヶ月齢)を用いた。
<結果>
ABCA1陽性シグナルは視神経束全体に観察された。図6A及び図6B(図6Bは図6Aの部分拡大図である)に示すように、ABCA1陽性シグナルは繊維状のシグナルとして観察され。視神経束ではミューラー細胞は存在せず、GLASTを発現する細胞は主にアストロサイトである事、図6Bに示すようにABCA1陽性シグナルは緑色蛍光タンパク質のシグナルと共局在していたことから、ABCA1は視神経束では主にアストロサイトに発現することが明らかとなった。
(実施例6:アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおける網膜神経節細胞の傷害の評価)
<方法>
Glial fibrially acidic protein (GFAP)プロモーターの下流にCreを発現するトランスジェニックマウス(GFAP-Cre)とABCA1遺伝子配列の両側にflox配列を挿入したトランスジェニックマウス(ABCA1flox/flox)を交配して作成したアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス(ABCA1flox/flox::GFAP-Cre)及び雄性対照群マウス(ABCA1flox/flox::Cre-negative)を作出した。全身性ABCA1欠損マウスの比較対象は「野生型」であるが、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ACBCA1欠損マウスの比較対象は「対照群」とした。「野生型」は全く遺伝子を操作していないもの、「対照群」はABCA1遺伝子配列の両端にfloxed配列を導入したトランスジェニックマウスである。
網膜の摘出、Brn3a免疫組織化学染色及びTUNEL染色並びに観察、それら陽性細胞数の計測は実施例1の方法に基いて行った。
<結果>
(アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおけるBrn3a陽性細胞数の変化)
雄性アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス(12ヶ月齢)及び雄性対照群(12ヶ月齢)マウスより調製したホールマウント網膜のBrn3a陽性細胞の画像を図7Aに示す。また、それぞれの定量結果を図7Bに示す。Brn3a陽性細胞数は対照群マウスに比べてアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおいて顕著に減少していた。計数の結果、網膜神経節細胞の脱落率は10%であった。なお、図7Bにおいて、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、**は、Student’s t-テストによる二群間比較検定による統計解析において有意差(p<0.01)があることを示す。
(アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおけるTUNEL陽性細胞数の変化)
雄性アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス(12ヶ月齢)及び雄性対照群(12ヶ月齢)マウスより調製したホールマウント網膜のTUNEL陽性細胞の画像を図8Aに示す。また、それぞれの定量結果を図8Bに示す。TUNEL陽性細胞数は対照群マウスに比べてアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおいて顕著に増加していた。なお、図8Bにおいて、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、**は、Student’s t-テストによる二群間比較検定による統計解析において有意差(p<0.01)があることを示す。
すなわち、後述する実施例11~12の結果と合わせて、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスは、加齢に伴い網膜神経節細胞の少なくとも一部が脱落するまたは傷害されることが明らかであり、自然発症型のNTGモデルとして有用である。
(実施例7:アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおけるTUNEL陽性シグナルが観察される網膜の神経細胞層)
緑内障は主に網膜神経節細胞が選択的に傷害され、脱落する神経変性疾患である。実施例1及び6で示したTUNEL陽性シグナルは網膜ホールマウント標本の神経節細胞層を観察した結果であり、その他の神経細胞層(内顆粒層、内網状層)において神経傷害が生じているか否かは不明である。したがって、網膜断層を観察できるように切片を作成して、各神経細胞層におけるTUNEL陽性シグナルの評価を行った。
<方法>
実験動物については実施例6と同様に、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス及び対照群マウスの12ヶ月齢の個体を用いた。網膜の摘出、Brn3a免疫組織化学染色及びTUNEL染色並びに観察、それら陽性細胞数の計測は実施例1の方法に基いて行った。網膜凍結切片の作成は実施例4の方法に基いて行った。
<結果>
(対照群マウス網膜切片及びアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス網膜切片におけるBrn3a陽性細胞及びTUNEL陽性細胞の局在)
雄性対照群(12ヶ月齢)マウスより調製した網膜切片のBrn3a陽性細胞及びTUNEL陽性の画像と、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス(12ヶ月齢)マウスより調製した網膜切片のBrn3a陽性細胞及びTUNEL陽性の画像を図9に示す。Brn3aは網膜神経節細胞に選択的に発現するが、本結果でも対象群及びアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスの両者において、Brn3a陽性シグナルが画面上部の神経節細胞層に局在していることが観察される。一方、TUNEL陽性シグナルは、対象群においては顕著に強いものは観察されなかったが、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおいては神経節細胞層に多く観察され、それらはBrn3a陽性シグナルと非常によく共局在していた。本結果ではBrn3a陽性細胞数がアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスでも対照群と比較してあまり変化が無いように見えるが、これは網膜の切断面の場所による細胞の偏りのためだと考えられる。一部のBrn3a陽性シグナルは対象群と比べて顕著に小さく、アポトーシスの代表的な形態的特徴であるPyknotic nucleiを示している事から、確かに脱落または傷害が起きていることを支持している。
(実施例8:18ヶ月齢のアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおけるBrn3a陽性細胞数)
<方法>
実験動物については実施例6と同様に、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス及び対照群マウスを作出し、18ヶ月齢の個体を用いた。網膜の摘出、Brn3a免疫組織化学染色、及び観察を実施し、陽性細胞数の計測は実施例1の方法に基いて行った。
<結果>
雄性アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス(18ヶ月齢)及び雄性対照群(18ヶ月齢)マウスより調製したホールマウント網膜のBrn3a陽性細胞の画像を図10Aに示す。また、それぞれの定量結果を図10Bに示す。Brn3a陽性細胞数は対照群マウスに比べてアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおいて顕著に減少していた。計数の結果、網膜神経節細胞の脱落率は30%であり、12ヶ月齢よりもさらに脱落率が亢進していた。すなわち、加齢により、網膜神経節細胞がより脱落する、すなわち緑内障症状が加齢により進行することを示しているので、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスは、自然発症型のNTGモデルとして有用である。なお、図10Bにおいて、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、**は、Student’s t-テストによる二群間比較検定による統計解析において有意差(p<0.01)があることを示す。
(実施例9:アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損による眼圧への影響)
<方法>
眼圧の測定は全て実施例2の条件に基いて行った。実験動物については実施例6と同様に、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス及び対照群マウスを作出し、3ヶ月齢、6ヶ月齢及び12ヶ月齢の個体を用いた。
<結果>
眼圧を3ヶ月齢、6ヶ月齢及び12ヶ月齢の対照群マウスとアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスとで計測した結果を図11に示す。各月齢において、対照群マウスとアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスとの間に統計的に有意な眼圧の差は認められなかった。すなわち、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスは、自然発症型のNTGモデルとして有用である。
(実施例10:3ヶ月齢の全身性ABCA1欠損マウスの網膜神経節細胞の脱落の評価)<方法>
実験動物については実施例1と同様に、3ヶ月齢の野生型及びABCA1欠損マウスを用意し、これらの眼球から網膜ホールマウント標本を作成して、網膜神経節細胞の脱落をBrn3aの免疫組織化学染色、及び観察を実施し、陽性細胞数の計測は実施例1の方法に基いて行った。
<結果>
野生型(3ヶ月齢)及び全身性ABCA1欠損マウス(3ヶ月齢)マウスより調製したホールマウント網膜のBrn3a陽性細胞の画像を図12Aに示す。また、それぞれの定量結果を図12Bに示す。Brn3a陽性細胞数は野生型マウスとABCA1欠損マウスで顕著な差を示さなかった。この結果は若齢マウスにおいてはABCA1が全身性に欠損していても網膜神経節細胞の脱落は生じていない事を示している。実施例1の結果と実施例10の結果より、全身性ABCA1欠損マウスは、加齢により網膜神経節細胞の脱落が生じることが明らかになり、自然発症型のNTGモデルとして有用であるといえる。なお、図12Bにおいて、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、**は、Student’s t-テストによる二群間比較検定による統計解析において有意差(p<0.01)があることを示す。
(実施例11:3ヶ月齢のアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおけるBrn3a陽性細胞数)
<方法>
実験動物については実施例6と同様に、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス及び対照群マウスを作出し、3ヶ月齢の個体を用いた。網膜の摘出、Brn3a免疫組織化学染色、及び観察を実施し、陽性細胞数の計測は実施例1の方法に基いて行った。
<結果>
アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス(3ヶ月齢)及び対照群(12ヶ月齢)マウスより調製したホールマウント網膜のBrn3a陽性細胞の画像を図13Aに示す。また、それぞれの定量結果を図13Bに示す。Brn3a陽性細胞数は対照群マウスとアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスとの間で統計的に有意な変化は示さなかった。この結果は若齢マウスにおいてはアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおいて、網膜神経節細胞の脱落は生じていない事を示している。実施例6の結果と実施例11の結果より、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスは、加齢により網膜神経節細胞の脱落が生じることが明らかになり、自然発症型のNTGモデルとして有用であるといえる。なお、図13Bにおいて、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、**は、Student’s t-テストによる二群間比較検定による統計解析において有意差(p<0.01)があることを示す。
(実施例12:3ヶ月齢のアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおけるTUNEL陽性細胞数)
<方法>
実験動物については実施例6と同様に、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス及び対照群マウスを作出し、3ヶ月齢の個体を用いた。網膜の摘出、TUNEL染色、及び観察を実施し、陽性細胞数の計測は実施例1の方法に基いて行った。
<結果>
アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウス(3ヶ月齢)及び対照群(3ヶ月齢)マウスより調製したホールマウント網膜のTUNEL陽性細胞の画像を図14Aに示す。また、それぞれの定量結果を図14Bに示す。TUNEL陽性細胞数は対照群マウスとアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスとの間で顕著な変化は示さなかった。この結果は若齢マウスにおいてはアストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスにおいて、網膜神経節細胞は傷害されていない事を示している。実施例6の結果と実施例12の結果より、アストロサイト/ミューラー細胞選択的ABCA1欠損マウスは、加齢により網膜神経節細胞の傷害が生じることが明らかになり、自然発症型のNTGモデルとして有用であるといえる。なお、図14Bにおいて、エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、**は、Student’s t-テストによる二群間比較検定による統計解析において有意差(p<0.01)があることを示す。
これらの各実施例の結果から、ABCA1欠損マウス(全身性欠損またはアストロサイト/ミューラー選択的欠損)は、自然発症型のNTGモデルとして有用であり、既存又は新規緑内障治療薬の有効な評価システムとして用いることができることが分かった。
以上の実施例で示したように、ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物では、眼圧が正常値であるにも関わらず網膜神経節細胞が脱落するまたは傷害される表現型を示す。したがって、前記ABCA1遺伝子が欠損した非ヒト動物からなる本発明の緑内障モデルは、自然発症型の正常眼圧緑内障モデルと言える。また、本発明の正常眼圧緑内障モデルは、網膜神経節細胞の傷害の進行が比較的緩徐であることから、よりヒト正常眼圧緑内障の表現型に近いと考えられる。ABCA1の作用点は、現行の緑内障治療薬の作用点と異なることから、それらの評価に影響を与えず、より正確な評価系として使用できる。

Claims (10)

  1. アストロサイト及びミューラー細胞のABCA1遺伝子が選択的に欠損したマウスであって、
    前記アストロサイト及びミューラー細胞のABCA1遺伝子が選択的に欠損したマウスの眼圧は、前記アストロサイト及びミューラー細胞のABCA1遺伝子が欠損していないマウスの眼圧に対し有意な差がなく、
    前記アストロサイト及びミューラー細胞のABCA1遺伝子が選択的に欠損したマウスは、網膜神経節細胞の少なくとも一部が脱落しているまたは傷害されていることを特徴とする正常眼圧緑内障モデル。
  2. 前記アストロサイト及びミューラー細胞のABCA1遺伝子が選択的に欠損したマウスは、加齢に伴い網膜神経節細胞の少なくとも一部が脱落するまたは傷害される請求項1に記載の正常眼圧緑内障モデル。
  3. 請求項1または2に記載された正常眼圧緑内障モデルに対し、評価対象薬剤を投与する工程と、
    前記評価対象薬剤を投与した後の前記正常眼圧緑内障モデルについて、
    (1)眼圧の低下、
    (2)網膜神経節細胞の神経保護作用、
    (3)網膜神経節細胞以外の網膜細胞の保護作用、
    (4)アストロサイト/ミューラー細胞による網膜神経節細胞の神経軸索保護作用、
    (5)視覚伝達系の上位リレー神経細胞の保護作用、及び
    (6)大脳皮質視覚野神経細胞乃至周辺細胞の保護作用
    の少なくともいずれかが、前記評価対象薬剤に代えて薬理学的に許容可能な溶媒を投与した対照と比較して有意に観察される場合に、前記評価対象薬剤に正常眼圧緑内障の予防乃至治療効果があると評価する工程とを含むことを特徴とする評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  4. 前記評価対象薬剤の投与が、眼局所投与、経口投与、及び静脈内投与のいずれかである請求項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  5. 前記眼圧が、眼圧計により測定される請求項3または4に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  6. 前記網膜神経節細胞の神経保護作用が、前記網膜神経節細胞の細胞死の抑制である請求項からのいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  7. 前記網膜神経節細胞の細胞死が、光干渉断層計により測定される請求項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  8. 前記網膜神経節細胞の細胞死が、前記網膜神経節細胞の細胞数の減少により測定される請求項6または7に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の
    評価方法。
  9. 前記網膜神経節細胞の細胞死が、前記網膜神経節細胞における特異的マーカーの網膜内発現量の減少により測定される請求項からのいずれか一項に記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
  10. 前記評価対象薬剤が、副交感神経刺激薬、抗コリンエステラーゼ薬、プロスタグランジン製剤、α1遮断薬、α2刺激薬、炭酸脱水酵素阻害剤、β遮断薬、ROCK阻害薬、自律神経作動薬、カルシウムチャネル拮抗薬、HMG-CoA還元酵素阻害薬、及びフラボノイド類の少なくともいずれかである請求項からのいずれかに記載の評価対象薬剤の正常眼圧緑内障予防乃至治療効果の評価方法。
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