JP2017047443A - 圧粉体の成形方法および焼結金属部品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】内径面の密度が選択的に高められた圧粉体を成形可能にする。
【解決手段】コア11の外径面11a、ダイ12の内径面12aおよび下パンチ13の上端面13aで画成される粉末充填部15に原料粉末Mを充填した後、下パンチ13に対して上パンチ14を相対的に接近移動させて原料粉末Mを圧縮することにより圧粉体1’を成形する際に、コア11を上下方向に移動させながら原料粉末Mを圧縮する。
【選択図】図3

Description

本発明は、圧粉体の成形方法および焼結金属部品の製造方法に関する。
軸受(すべり軸受)や歯車等の機械部品として、焼結金属の多孔質体からなる焼結金属部品が使用される場合がある。この種の焼結金属部品は、通常、その内部気孔に潤滑油を含浸させた状態で使用される。このような焼結金属部品は、主に、金属粉末を主原料とした原料粉末の圧粉体を得る圧縮成形工程、圧粉体を加熱することにより金属粉末の粒子同士が結合した焼結体を得る焼結工程、および焼結体の内部気孔に潤滑油を含浸させる含油工程などを経ることで得られ、必要に応じて、焼結体の寸法矯正(サイジング)を行う寸法矯正工程が追加的に実施される。
例えば、内周に挿入された軸を油膜を介して支持する焼結金属製のすべり軸受(焼結含油軸受)においては、油膜剛性を高める観点から、軸受面として機能する内径面の表面開孔率をできるだけ小さくすることが求められる。また、動力伝達系等に組み込んで使用される焼結金属製の歯車においては、他部材と摺動接触する摺動面(例えば、他の歯車と噛み合う歯面)の耐摩耗性等を高める観点から、摺動面の表面開孔率をできるだけ小さくすることが求められる。以上のような要請を満足するために採用し得る技術手段の一つに、圧粉体の一部を高密度に成形する、というものがある(例えば、特許文献1を参照)。
より具体的に説明すると、特許文献1の図3−4等には、ダイの内周形状および粉末充填時におけるダイの動作態様に工夫を凝らすことにより、粉末充填部の外径側領域に内径側領域よりも多くの原料粉末を充填してから、原料粉末を上下パンチで圧縮する、という技術手段が記載されている。この場合、外径側領域が内径側領域よりも高密度の圧粉体を成形することができるので、例えば、外径面に歯面を有する焼結金属製の歯車の製造工程で好ましく採用し得る。なお、同様の理屈でコアの外周形状および粉末充填時におけるコアの動作態様に工夫を凝らせば、内径側領域が外径側領域よりも高密度の圧粉体を成形することができると考えられる。
特公平3−44880号公報
しかしながら、上記の技術手段により内径側領域と外径側領域とで密度が相互に異なる圧粉体を得た場合、この圧粉体を焼結(および冷却)するのに伴って生じる収縮量が内径側領域と外径側領域とで相互に異なることになる。この場合、所定形状・寸法の焼結金属部品を得るためには、焼結工程後の寸法矯正工程において、大幅な寸法矯正(形状修正)を行う必要が生じることから、焼結金属部品のコスト低減を図ることが難しくなる。
なお、上記特許文献1のような手段を採用せずとも、例えば、焼結体のうち軸受面や他部材との摺動面となる面(領域)に対して封孔処理を施すようにすれば、軸受面等の表面開孔率を小さくすることができる。しかしながら、この場合、別途の封孔処理工程を追加的に実施する必要が生じる分、焼結金属部品の製造コスト増が避けられないものとなる。
以上の実情に鑑み、本発明の課題は、粉末充填部内で原料粉末の充填量に差を設けずとも、所定の面(具体的には、軸受面や他部材との摺動面となる面)の密度が選択的に高められた圧粉体を圧縮成形することを可能とし、これを通じて、所定の性能を具備する焼結金属部品を低コストに量産可能とすることにある。
上記の課題を解決するために創案された本発明は、コアの外径面、ダイの内径面および下パンチの上端面で画成される粉末充填部に金属粉末を主原料とする原料粉末を充填してから、下パンチに対して上パンチを相対的に接近移動させて原料粉末を圧縮することにより、原料粉末の圧粉体を成形する圧粉体の成形方法において、コアおよびダイの少なくとも一方を上下方向に移動させながら原料粉末を圧縮することを特徴とする。
上記のように、コアおよびダイの少なくとも一方を上下方向に移動させながら原料粉末を圧縮すれば、粉末充填部に充填された原料粉末のうち、特にコアの外径面および/またはダイの内径面と接する粒子、さらにはその粒子と隣接した粒子を流動させながら、原料粉末を圧縮することができる。すなわち、上記態様で原料粉末を圧縮すれば、粉末充填部のうち、コアの外径面に隣接した内径側領域および/またはダイの内径面に隣接した外径側領域では粒子間に介在する隙間を埋めるようにして原料粉末が細密充填されながら原料粉末が圧縮される。これにより、粉末充填部内で原料粉末の充填量に差を設けず、粉末充填部(の全域)に対して原料粉末を均一に充填しても、内径面および/または外径面を含む表層部分の密度が選択的に高められた圧粉体を得ることができる。この場合、当該圧粉体を焼結してなる焼結体に対し、大幅な寸法矯正を施したり、別途の封孔処理を施したりせずとも、全体として形状精度に優れ、しかも軸受面等の表面開孔率が小さい焼結金属部品を得ることができる。
このとき、コアおよびダイの少なくとも一方(以下「コア等」ともいう)を、原料粉末の圧縮荷重が小さい状態で1往復以上上下方向に移動させるのが有効である。ここで、圧縮荷重が小さい状態とは、例えば、原料粉末の圧縮初期段階であり、圧縮荷重がパンチの自重分程度の大きさである状態を指す。このように、原料粉末の圧縮荷重が小さい状態でコア等を上下方向に往復動させれば、コア等の周辺の原料粉末が動き易いため、コア等の周辺の原料粉末の密度を効率良く高めることができる。
上記構成において、コア等は、金属粉末を構成する無数の金属粒子のうち粒径が最大の金属粒子の粒径の1倍以上10倍以下の振幅で上下方向に移動させるのが好ましく、また、コア等は、10Hz以上100Hz以下の周波数で上下方向に移動させるのが好ましい。
また、コア等は、上パンチが原料粉末に接触した段階から0.2秒以上2秒以下の範囲内で上下方向に移動させるのが好ましい。
上記構成において、下パンチおよび上パンチの少なくとも一方を垂直軸回りに回転させながら原料粉末を圧縮するようにしても良い。このようにすれば、圧粉体を圧縮成形するのと同時に、圧粉体の一端部および他端部の少なくとも一方を高密度化することができる。
以上で説明した方法により圧粉体を成形する圧縮成形工程と、圧粉体を加熱して焼結体を得る焼結工程と、焼結体の内部気孔に潤滑油を含浸させる含油工程と、を有する焼結金属部品の製造方法は、焼結金属部品のうちでも、機能上、内径面および/または外径面が高密度であること(内径面および/または外径面の表面開孔率が小さいこと)を求められるすべり軸受、歯車、カム等の機械部品を製造する際に好ましく適用することができる。
以上より、本発明によれば、軸受面や他部材との摺動面となる面の密度が選択的に高められた圧粉体を圧縮成形することができる。これにより、所定の性能を具備する焼結金属部品を低コストに量産することが可能となる。
本発明に係る圧粉体の成形方法を適用して製造されたすべり軸受の一例を示す断面図である。 図1に示すすべり軸受の基材となる圧粉体の成形金型を模式的に示す断面図である。 (a)図は、図2に示す成形金型において、上パンチが原料粉末に接触した段階を示す図、(b)図は、原料粉末の圧縮成形の初期段階を示す図である。 本発明の他の実施形態に係る圧粉体の成形金型を模式的に示す断面図である。 (a)図は、本発明の有用性を実証するために作製した試料の空孔率測定位置を説明するための図、(b)図は、試料1,2の空孔率の測定結果を示す図である。 試料1−11の空孔率の測定結果を示す図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明が適用される圧縮成形工程を含む製造方法により得られる焼結金属部品としてのすべり軸受1の一例を示す。このすべり軸受1は、焼結金属の多孔質体からなり、内周に挿入した軸3をラジアル方向に支持するために使用される。すべり軸受1の内部気孔には、潤滑油が含浸されている。従って、例えば、軸3が回転すると、これに伴って、すべり軸受1の内部気孔に含浸させた潤滑油がすべり軸受1の内周面(軸受面)2と軸3の外周面との間の軸受隙間に滲み出して油膜を形成し、この油膜を介して軸3がラジアル方向に回転自在に支持される。
上記のすべり軸受1は、主に、圧縮成形工程、脱脂工程、焼結工程、寸法矯正工程および含油工程を順に経て作製される。以下、圧縮成形工程を中心に、上記の各工程について説明する。
圧縮成形工程では、図2および図3等に模式的に示す成形金型(成形金型装置)10を用いて金属粉末を主原料とした原料粉末を圧縮することにより、略完成品形状(ここでは円筒状)の圧粉体を得る。成形金型10は、コア11、ダイ12、下パンチ13および上パンチ14を備え、これらは上下に相対移動可能に同軸配置されている。コア11には、コア11を上下方向に移動(振動)させるための加振手段16が接続されている。成形金型10(コア11、ダイ12、下パンチ13および上パンチ14)は、例えば、冷間金型用の合金工具鋼の一種であるSKD11で作製することができる他、SKH51等のハイス鋼で作製することもできる。
上記構成の成形金型10において、まず、図2に示すように、コア11の外径面11a、ダイ12の内径面12aおよび下パンチ13の上端面13aで画成された円筒状の粉末充填部(キャビティ)15に原料粉末Mを充填する。なお、粉末充填部15の径方向各部間で原料粉末Mの充填量を意図的に異ならせるようなことはせず、原料粉末Mは粉末充填部15に対して均一に充填する。原料粉末Mとしては、金属粉末を主原料とし、これに、成形助剤や固体潤滑剤等の各種充填剤を添加・混合したものを使用する。本実施形態のように、最終的にすべり軸受1となる圧粉体を成形する際には、例えば、銅粉末および鉄粉末の混合粉末を主原料とし、これに微量の錫粉末、黒鉛粉末および固体潤滑剤を添加・混合した混合粉末を使用することができる。
粉末充填部15に原料粉末Mを充填した後、図3(a)(b)に示すように、上パンチ14を下パンチ13に対して相対的に接近移動させて(上パンチ14を下降移動させて)原料粉末Mを圧縮し、円筒状の圧粉体1’を成形する。本実施形態では、下降移動中の上パンチ14の下端面14aが原料粉末Mに接した時点(すなわち、下パンチ13および上パンチ14による圧力負荷が実質的にゼロの段階)で加振手段16を作動してコア11を上下方向に移動(振動)させながら、上パンチ14を引き続き下降させて原料粉末Mを圧縮し、圧粉体1’を成形する[図3(b)を参照]。
このようにすれば、粉末充填部15に充填された原料粉末Mのうち、特にコア11の外径面11aに接している粒子(主に金属粒子)Ma、さらにはその粒子Maと隣接した粒子Maを移動させながら、原料粉末Mを圧縮することができる。すなわち、上記態様で原料粉末Mを圧縮すれば、粉末充填部15のうち、コア11の外径面11aに隣接した内径側領域では原料粉末Mの粒子間に介在する隙間を埋めるようにして原料粉末Mが細密充填されながら原料粉末Mが圧縮される[図3(b)中の拡大図を参照]。これにより、粉末充填部15内で原料粉末Mの充填量に差を設けず、粉末充填部15に対して原料粉末Mを均一に充填しても、内径側表層部の密度が選択的に高められた圧粉体1’を得ることができる。
ここで、コア11を上下方向に移動させるタイミングが不適切だと、コア11の外径面11aに隣接する原料粉末Mに十分な流動力を付与することができず、粉末充填部15の内径側領域で原料粉末Mを細密充填する(圧粉体1’の内径側表層部を高密度化する)、という作用効果を有効に享受できなくなる。特に、上パンチ14の下降移動がある程度進展し、粉末充填部15内の原料粉末Mに大きな圧縮荷重が負荷されている状態でコア11を上下に移動させても、粉末充填部15内で原料粉末Mの粒子Maに十分な流動力を付与することができない。もちろん、両パンチ13,14で原料粉末Mを圧縮している全期間に亘ってコア11を上下に振動させても構わないが、コア11、ひいては成形金型10に余計な負担がかかって成形金型10の耐久寿命が低下するおそれがある。そのため、コア11は、原料粉末Mの圧縮荷重が小さい状態、具体的には、上パンチ14の下端面14aが粉末充填部15内の原料粉末Mに接触した時点(圧縮荷重が実質的にゼロの状態)から上パンチ14の自重分程度の圧縮荷重が原料粉末Mに負荷されるまでの圧縮初期段階で上下方向に移動させるのが好ましい。このとき、コア11を1往復以上上下方向に移動させれば、粉末充填部15の内径側領域で原料粉末Mを細密充填し、圧粉体1’の内径側表層部を高密度化する、という上記の作用効果を有効に享受し得る。
より具体的に検証すると、コア11を所定時間以上(0.2秒以上)上下方向に移動(振動)させれば、圧粉体1’の内径側表層部を高密度化することができるが、振動時間を長くすればするほど圧粉体1’の高密度化が進展するわけではなく、圧粉体1’の高密度化効果はある程度で飽和する。そして、コア11の振動時間が長くなるほどサイクルタイムが増大して圧粉体1’の生産性(量産性)が低下する。そのため、コア11の振動時間の上限は、圧粉体1’の内径側表層部を高密度化する、という作用効果を有効に享受しつつ、圧粉体1’の生産性低下を招かない範囲、具体的には2秒以下とするのが好ましい。
また、上記のように、原料粉末Mの圧縮時(好ましくは圧縮初期段階)にコア11を上下方向に移動(振動)させるにしても、その移動量が少な過ぎる(振幅が小さ過ぎる)と、コア11に隣接する原料粉末Mに十分な流動力を付与することができず、粉末充填部15の内径側領域で原料粉末Mを細密充填することができないおそれがある。そのため、コア11は、原料粉末Mに含まれる無数の金属粒子のうち、粒径が最大の金属粒子の粒径の1倍以上の振幅で上下方向に移動させるのが好ましい。但し、コア11の移動量が多過ぎる(振幅が大き過ぎる)と、特にコア11を上下に往復動させる場合には、コア11の移動時間が増して生産性が低下する。そのため、コア11は、粒径が最大の金属粒子の粒径の10倍以下の振幅で上下方向に移動(特に往復動)させるのが好ましい。
また、コア11の移動速度があまりに遅い場合には、粉末充填部15の内径側領域で原料粉末Mを細密充填することができないおそれがある。一方、コア11の移動速度が速過ぎると、コア11にかかる負担が増大して、コア11ひいては成形金型10の短寿命化を招来するおそれがある。そのため、コア11は、10Hz以上100Hz以下の周波数で上下方向に移動(特に往復動)させるのが好ましい。
図示は省略しているが、以上のようにして圧粉体1’を圧縮成形した後、下パンチ13および上パンチ14を上昇移動させ、圧粉体1’を成形金型10から取り出す。圧粉体1’が以上のようにして成形されることから、圧粉体1’の表層部の密度は、内径面を含む内径側表層部で最も高くなっている。
以上のようにして得られた圧粉体1’は、脱脂工程に移送され、組織中に存在する固体潤滑剤(に含まれる潤滑成分)を分解・除去するための脱脂処理に供される。脱脂処理は、通常、固体潤滑剤の融点以上金属粉末の融点以下の温度で圧粉体1’を所定時間加熱することにより行われる。
脱脂処理が施された圧粉体1’は、焼結工程に移送され、所定温度(例えば、銅の融点以上の温度)で所定時間加熱される。これにより、金属粒子同士がネック結合した焼結体が得られる。図示は省略するが、焼結工程は、例えば、ヒータが設置された焼結ゾーンと、自然放熱を行う冷却ゾーンとが連設された連続焼結炉を用いて実施することができる。
焼結体は、寸法矯正工程に移送され、寸法矯正加工に供される。詳細な図示は省略するが、寸法矯正加工としては、例えば、同軸配置されたダイ、コアおよび上下パンチを有するサイジング金型を用いて焼結体の内径面および外径面のそれぞれをコアの外径面およびダイの内径面に倣わせて変形させる、いわゆるサイジングが選択される。これにより、焼結体の内径面および外径面が完成品形状に仕上げられる。なお、本実施形態では、上記のように、粉末充填部15に均一充填した原料粉末Mを圧縮することで圧粉体1’を得たことから、この圧粉体1’を焼結するのに伴って生じる形状の崩れの程度は、特許文献1の技術手段により得られた圧粉体を焼結した場合に比べれば小さくなる。従って、圧粉体1’を焼結してなる焼結体に対し、大幅な寸法矯正を施す必要性は可及的に減じられる。
そして、寸法矯正加工の実施後、含油工程で焼結体の内部気孔に潤滑油を含浸させると、図1に示すすべり軸受(焼結含油軸受)1、特に軸受面として機能する内径面の密度が選択的に高められた(内径面の表面開孔率が小さい)すべり軸受1が完成する。
以上で説明した、本発明の実施形態に係る圧粉体の成形方法では、原料粉末Mの圧縮時にコア11のみを上下方向に移動(往復動)させるようにしたが、コア11に加え、あるいはコア11に替えてダイ12を上下方向に移動(往復動)させるようにしても良い。
図4は、原料粉末Mの圧縮時(圧粉体の成形時)に、コア11およびダイ12を上下方向に移動させる場合に採用し得る成形金型10の一例を示すものであり、ダイ12に別途の加振手段17が接続されている。この場合、内径側表層部に加え、外径側表層部の密度が選択的に高められた圧粉体1’を得ることができる。なお、ダイ12を上下方向に移動させるタイミング、ダイ12の上下方向移動の振幅および周波数は、それぞれ、上述した実施形態においてコア11を上下方向に移動させるタイミング、コア11の上下方向移動の振幅および周波数と実質的に同一とすることができるが、図示例のように、コア11を上下方向に移動させる加振手段16と、ダイ12を上下方向に移動させる加振手段17とを個別に設けた場合には、上下方向移動のタイミング、振幅および周波数の少なくとも一つをコア11とダイ12とで互いに異ならせることも容易に行い得る。もちろん、加振手段17を省略し、コア11に接続している加振手段16をダイ12に接続するようにしても良い(図示省略)。
以上の実施形態において、成形金型10としては、粉末充填部15の画成面(特にコア11の外径面11aやダイ12の内径面12a)がDLC膜、TiN膜、TiC膜、CrN膜、TiAlN膜等の硬質膜で被覆されたものを用いることもできる。この場合、成形金型10の耐久寿命を向上できる他、原料粉末Mと粉末充填部15(成形金型10)との摩擦力を減じることができるので、圧粉体1’の成形性や密度を高める上で有利となる。
以上では、圧粉体1’を圧縮成形する際に、コア11およびダイ12の少なくとも一方を上下方向に移動させながら原料粉末Mを圧縮する場合を説明したが、さらに、下パンチ13および上パンチ14の少なくとも一方を垂直軸(上下方向に延びる軸)回りに回転させながら原料粉末Mを圧縮するようにしても良い(図示省略)。この場合、下パンチ13と上パンチ14の回転方向は同一であっても良いし、互いに反対方向としても良い。
このようにすれば、圧粉体1’の何れか一方又は双方の端面が、いわゆる目潰し処理が施されたような状態となるので、この圧粉体1’を焼結等すれば、一端面および他端面の少なくとも一方の表面開孔率が減じられたすべり軸受1を得ることができる。このような圧粉体1’の成形方法は、特に、ラジアル荷重のみならず、スラスト荷重を支持する焼結金属製のすべり軸受1を製造する際に好ましく適用し得る。
以上では、本発明に係る圧粉体の成形方法を、焼結金属製のすべり軸受1の製造工程に含まれる圧縮成形工程に適用する場合について説明を行ったが、本発明に係る圧粉体の成形方法は、歯車やカム等、主に動力伝達系に組み込まれ、他部材と摺動する摺動面を有するその他の焼結金属部品を製造する際にも好ましく適用することができる。
本発明の有用性を確認するため、まず、互いに異なる成形方法で2種類の圧粉体(試料1および試料2)を圧縮成形し、各圧粉体の空孔率を測定した。試料1,2(さらには、後述する試料3−11)は、何れも、内径4mm×外径7.5mm×全長9.2mmの円筒状圧粉体であり、以下に示す原料粉末を、密度が6.5g/cmとなるように、2.8t/cm(約274MPa)の成形圧力で圧縮成形したものである。
[原料粉末]
主に20−200μm程度の範囲内で粒度分布を有する銅粉末と鉄系粉末の混合粉末を主原料粉末とし、これに微量の錫粉末、黒鉛粉末および固体潤滑剤(ジンクステアレート)を添加・混合したものとした。主原料粉末における銅粉末と鉄系粉末の配合割合は、重量比で、銅粉末を60%、鉄系粉末を40%とした。
試料1,2は、何れも、図2,3に模式的に示す構成を有する成形金型10を用いて圧縮成形した。但し、試料2を圧縮成形する際には以下の(1)−(3)に示す態様でコア11を上下方向に移動(振動)させる一方、試料1を圧縮成形する際にはコア11を静止状態とした。すなわち、試料2は本発明を適用した手法で成形し、試料1は本発明を適用せずに成形した。
(1)コア11の振幅:0.5mm(この振幅は、上記の原料粉末に含まれる、粒径が最大の金属粒子の粒径の概ね2倍強程度である)
(2)コア11の振動の周波数:60Hz
(3)コア11の振動時間(コア11を振動させるタイミング):下降中の上パンチ14の下端面14aが原料粉末に接触してから1秒間。これは、下降中の上パンチ14の下端面14aが粉末充填部15に充填された原料粉末に接触した時点から、上パンチ14の自重分程度の圧縮荷重が原料粉末に負荷されるまでの圧縮初期段階である。
次に、試料1の空孔率は、図5(a)に示すA部〜G部で測定し、試料2(および後述する試料3−11)の空孔率は、同図中のE部のみで測定した。これは、試料1と試料2の成形方法の相違点に鑑みると、空孔率に差が生じるのは実質的にE部のみであると考えられるからである。なお、A部とは、上パンチ14の下端面14aで成形される圧粉体上端面の中央部、B部とは、A部よりも圧粉体の内部側に0.2mmシフトした部分、C部とは、ダイ12の内径面12aで成形される圧粉体外径面の軸方向中央部、D部とは、圧粉体の厚さ方向および軸方向の中央部、E部とは、コア11の外径面11aで成形される圧粉体内径面の軸方向中央部、F部とは、下パンチ13の上端面13aで成形される圧粉体下端面の中央部、G部とは、F部よりも圧粉体の内部側に0.2mmシフトした部分である。
最後に、試料1,2の各部の空孔率は、次のようにして測定した。まず、理経社製の熱硬化型接着剤353NDに赤色染料を混合したものを試料の内部気孔に含浸させた後に熱硬化させた。次いで、試料の各部を、顕微鏡で400倍に拡大した上で撮影した。なお、試料1のA部〜G部のうち、B部、D部およびF部は、試料1を切断・研磨等することで外部に露出させてから撮影した。そして、上記の各撮影データの10視野(10等配位置)を画像解析ソフトで解析し、赤色染料で着色された部分の占有面積に基づいて空孔率を算出した。
以上のようにして測定・算出した試料1のA部〜G部、および試料2のE部の空孔率を図5(b)に示す。同図からは、成形金型10により直接的に成形される圧粉体の内径面、外径面および両端面の空孔率は、圧粉体内部の空孔率よりも高いことがわかる。また、試料1のE部の空孔率と、試料2のE部の空孔率とを対比すると、コア11を上下方向に移動(振動)させながら(特に成形初期段階でコア11を上下方向に振動させながら)原料粉末を圧縮すれば、コア11の外径面11aで成形される圧粉体の内径面の空孔率を小さくする(内径側表層部が高密度化された圧粉体を得る)上で有利であることがわかる。
次に、コア11の振動条件が圧粉体内径面の空孔率に与える影響を確認するため、コア11の振動条件のみを以下のように変更して円筒状の試料3−11を成形し、その後、試料3−11のそれぞれについて、内径面の空孔率[図5(a)に示すE部の空孔率]を上記同様の手法で測定・算出した。
・試料3−5:コア11の振幅を、それぞれ、0.5mm→0.05mm、0.2mmおよび2mmに変更。
・試料6−8:コア11の振動数を、それぞれ、60Hz→1Hz、10Hzおよび100Hzに変更。
・試料9−11:コア11の振動時間を、それぞれ、1秒→0.05秒、0.2秒および2秒に変更。
試料3−11の成形条件、および試料3−11の内径面の空孔率の測定結果等を、図6にまとめて示す。同図からも明らかなように、コア11の振動の振幅や周波数が小さい場合、さらにはコア11の振動時間が不十分な場合には、圧粉体の内径側表層部を十分に高密度化することができない。従って、コア11の振動の振幅や周波数の下限値、さらにはコア11の振動時間の下限値を設定するのは、内径側表層部の密度が選択的に高められた圧粉体を安定的に成形可能とする上で有効であることが理解される。
1 すべり軸受(焼結金属部品)
1’ 圧粉体
10 成形金型
11 コア
11a 外径面
12 ダイ
12a 内径面
13 下パンチ
13a 上端面
14 上パンチ
14a 下端面
15 粉末充填部
16 加振手段
17 加振手段
M 原料粉末
Ma 粒子

Claims (7)

  1. コアの外径面、ダイの内径面および下パンチの上端面で画成される粉末充填部に金属粉末を主原料とする原料粉末を充填してから、前記下パンチに対して上パンチを相対的に接近移動させて前記原料粉末を圧縮することにより、前記原料粉末の圧粉体を成形する圧粉体の成形方法において、
    前記コアおよび前記ダイの少なくとも一方を上下方向に移動させながら前記原料粉末を圧縮することを特徴とする圧粉体の成形方法。
  2. 前記コアおよび前記ダイの少なくとも一方を、前記原料粉末の圧縮荷重が小さい状態で1往復以上上下方向に移動させる請求項1に記載の圧粉体の成形方法。
  3. 前記コアおよび前記ダイの少なくとも一方を、前記金属粉末を構成する無数の金属粒子のうち、粒径が最大の金属粒子の粒径の1倍以上10倍以下の振幅で上下方向に移動させる請求項1に記載の圧粉体の成形方法。
  4. 前記コアおよび前記ダイの少なくとも一方を、10Hz以上100Hz以下の周波数で上下方向に移動させる請求項1〜3の何れか一項に記載の圧粉体の成形方法。
  5. 前記コアおよび前記ダイの少なくとも一方を、前記上パンチが前記原料粉末に接触してから0.2秒以上2秒以下の範囲内で上下方向に移動させる請求項1〜4の何れか一項に記載の圧粉体の成形方法。
  6. 前記下パンチおよび前記上パンチの少なくとも一方を垂直軸回りに回転させながら、前記原料粉末を圧縮する請求項1〜5の何れか一項に記載の圧粉体の成形方法。
  7. 請求項1〜6の何れか一項に記載の方法により圧粉体を成形する圧縮成形工程と、
    前記圧粉体を加熱して焼結体を得る焼結工程と、
    前記焼結体の内部気孔に潤滑油を含浸させる含油工程と、を有する焼結金属部品の製造方法。
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