JP2017019729A - 精子凍結保存用容器及びその製造方法、精子凍結保存方法並びに体外受精方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】精子の数が少ない場合であっても、当該精子の凍結保存及び回収を効果的に行うことができる精子凍結保存用容器及びその製造方法、精子凍結保存方法並びに体外受精方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る精子凍結保存方法は、下記(a)〜(f): (a)グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻(11)と、ゲル殻に被覆された液体芯(12)とを有する容器(10)を用意すること;、(b)容器の液体芯に精子(S)を注入して、精子を保持した容器を得ること;、(c)精子を保持した容器を凍結保存すること;、(d)凍結保存後の容器を解凍すること;、(e)解凍後の容器のゲル殻を、グリコサミノグリカン鎖を分解する酵素及び/又はセルロース鎖を分解する酵素で処理して、ゲル殻の少なくとも一部を分解すること;及び(f)ゲル殻の分解後に、容器に保持されていた精子を回収すること;を含む。
【選択図】図1B
【解決手段】本発明の一実施形態に係る精子凍結保存方法は、下記(a)〜(f): (a)グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻(11)と、ゲル殻に被覆された液体芯(12)とを有する容器(10)を用意すること;、(b)容器の液体芯に精子(S)を注入して、精子を保持した容器を得ること;、(c)精子を保持した容器を凍結保存すること;、(d)凍結保存後の容器を解凍すること;、(e)解凍後の容器のゲル殻を、グリコサミノグリカン鎖を分解する酵素及び/又はセルロース鎖を分解する酵素で処理して、ゲル殻の少なくとも一部を分解すること;及び(f)ゲル殻の分解後に、容器に保持されていた精子を回収すること;を含む。
【選択図】図1B
Description
本発明は、精子凍結保存用容器及びその製造方法、精子凍結保存方法並びに体外受精方法に関する。
人工授精(AIH:Artificial Insemination with Husband‘s Semen)や体外受精(IVF:In Vitro Fertilization)といった生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology:ART)では、採卵前に、予め採取された当該精子を凍結保存しておくことがある。この点、特許文献1〜4及び非特許文献1〜3には、精子を凍結保存するための容器が記載されている。
第32回日本授精着床学会総会・学術講演会要旨集第228頁(2014年)
日本受精着床学会雑誌27(1):24−28,2010
Fertility and Sterility Vol.85, No.1, 208-213, 2006
しかしながら、従来、高度乏精子症の男性患者の精液又は無精子症の男性患者の精巣から採取され、凍結保存された極少数の精子を使用して、体外受精の一つである顕微授精(ICSI:Intracytoplasmic Sperm Injection)を行う場合、当該極少数の精子を高効率に凍結保存及び回収することは難しかった。
すなわち、例えば、従来の方法においては、凍結保存用容器への精子の保持や、凍結保存後の容器からの精子の回収等の操作が、顕微授精を行う胚培養士により簡便に行うことができず、又は胚培養士によっても長時間を要するといった問題があった。
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、精子の数が少ない場合であっても、当該精子の凍結保存及び回収を効果的に行うことができる精子凍結保存用容器及びその製造方法、精子凍結保存方法並びに体外受精方法を提供することを目的の一つとする。
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る精子凍結保存方法は、下記(a)〜(f): (a)グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻と、前記ゲル殻に被覆された液体芯とを有する容器を用意すること;、(b)前記容器の前記液体芯に精子を注入して、前記精子を保持した前記容器を得ること;、(c)前記精子を保持した前記容器を凍結保存すること;、(d)凍結保存後の前記容器を解凍すること;、(e)解凍後の前記容器の前記ゲル殻を、前記グリコサミノグリカン鎖を分解する酵素及び/又は前記セルロース鎖を分解する酵素で処理して、前記ゲル殻の少なくとも一部を分解すること;及び(f)前記ゲル殻の分解後に、前記容器に保持されていた前記精子を回収すること;を含むことを特徴とする。本発明によれば、精子の数が少ない場合であっても、当該精子の凍結保存及び回収を効果的に行うことができる精子凍結保存方法を提供することができる。
また、前記精子凍結保存方法において、前記ゲル殻は、ヒアルロン酸鎖を含み、解凍後の前記容器の前記ゲル殻を、前記ヒアルロン酸鎖を分解する酵素で処理することとしてもよい。
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る体外受精方法は、下記(a)〜(g): (a)グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻と、前記ゲル殻に被覆された液体芯とを有する容器を用意すること;、(b)前記容器の前記液体芯に精子を注入して、前記精子を保持した前記容器を得ること;、(c)前記精子を保持した前記容器を凍結保存すること;、(d)凍結保存後の前記容器を解凍すること;、(e)解凍後の前記容器の前記ゲル殻を、前記グリコサミノグリカン鎖を分解する酵素及び/又は前記セルロース鎖を分解する酵素で処理して、前記ゲル殻の少なくとも一部を分解すること;、(f)前記ゲル殻の分解後に、前記容器に保持されていた前記精子を回収すること;及び(g)回収された前記精子を使用して体外受精を行うこと;を含むことを特徴とする。本発明によれば、精子の数が少ない場合であっても、凍結保存後の当該精子を使用した体外受精を効果的に行うことができる体外受精方法を提供することができる。
また、前記体外受精方法において、前記体外受精は、顕微授精であることとしてもよい。
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る精子凍結保存用容器は、グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻と、前記ゲル殻に被覆された、精子を保持するための液体芯と、を有することを特徴とする。本発明によれば、精子の数が少ない場合であっても、当該精子の凍結保存及び回収を効果的に行うことができる精子凍結保存用容器を提供することができる。
また、前記精子凍結保存用容器において、前記ゲル殻は、ヒアルロン酸鎖を含むこととしてもよい。また、前記容器の平均直径は、10μm以上、3000μm以下であることとしてもよい。また、前記精子凍結保存用容器は、前記いずれかの精子凍結保存方法又は前記いずれかの体外受精方法に使用されることとしてもよい。
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る精子凍結保存用容器の製造方法は、ゲル殻と、前記ゲル殻に被覆された液体芯と、を有する精子凍結保存用容器の製造方法であって、下記(x)〜(z):(x)精子を含まない、溶解可能なゲル芯を形成すること;、(y)前記ゲル芯を被覆する、グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻を形成すること;及び(z)前記ゲル殻に被覆された前記ゲル芯を溶解することにより、精子を含まない前記液体芯を形成すること;を含むことを特徴とする。本発明によれば、精子の数が少ない場合であっても、当該精子の凍結保存及び回収を効果的に行うことができる精子凍結保存用容器の製造方法を提供することができる。
また、前記精子凍結保存用容器の製造方法において、前記ゲル殻は、ヒアルロン酸鎖を含むこととしてもよい。
本発明によれば、精子の数が少ない場合であっても、当該精子の凍結保存及び回収を効果的に行うことができる精子凍結保存用容器及びその製造方法、精子凍結保存方法並びに体外受精方法を提供することができる。
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
本実施形態に係る精子凍結保存方法は、下記(a)〜(f): (a)グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻と、当該ゲル殻に被覆された液体芯とを有する容器を用意すること;、(b)当該容器の当該液体芯に精子を注入して、当該精子を保持した当該容器を得ること;、(c)当該精子を保持した当該容器を凍結保存すること;、(d)凍結保存後の当該容器を解凍すること;、(e)解凍後の当該容器の当該ゲル殻を、当該グリコサミノグリカン鎖を分解する酵素及び/又は当該セルロース鎖を分解する酵素で処理して、当該ゲル殻の少なくとも一部を分解すること;及び(f)当該ゲル殻の分解後に、当該容器に保持されていた当該精子を回収すること;を含む。
本実施形態に係る体外受精方法は、下記(a)〜(g): (a)グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻と、当該ゲル殻に被覆された液体芯とを有する容器を用意すること;、(b)当該容器の当該液体芯に精子を注入して、当該精子を保持した当該容器を得ること;、(c)当該精子を保持した当該容器を凍結保存すること;、(d)凍結保存後の当該容器を解凍すること;、(e)解凍後の当該容器の当該ゲル殻を、当該グリコサミノグリカン鎖を分解する酵素及び/又は当該セルロース鎖を分解する酵素で処理して、当該ゲル殻の少なくとも一部を分解すること;、(f)当該ゲル殻の分解後に、当該容器に保持されていた当該精子を回収すること;及び(g)回収された当該精子を使用して体外受精を行うこと;を含む。
本実施形態に係る精子凍結保存用容器(以下、「本容器」という。)は、グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻と、当該ゲル殻に被覆された、精子を保持するための液体芯と、を有する。
上記(a)について、用意される容器は、精子を未だ保持していない本容器である。本容器の用意は、予め製造された本容器を用意すること(例えば、本容器が市場に流通している場合、当該本容器を購入して用意すること)であってもよいし、本容器を製造することであってもよい。
本容器は、上述のとおり、ゲル殻と液体芯とを有する。図1Aには、本容器の一例について、その断面を示す。図1Aに示す例において、本容器10は、球状であり、ゲル殻11と、当該ゲル殻11に被覆される液体芯12とから構成されている。
本容器のゲル殻は、グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含む。すなわち、ゲル殻は、グリコサミノグリカン鎖を含んでもよいし、セルロース鎖を含んでもよいし、グリコサミノグリカン鎖及びセルロース鎖を含んでもよい。ゲル殻がグリコサミノグリカン鎖を含む場合、当該ゲル殻は、さらにセルロース鎖を含んでもよい。ゲル殻がセルロース鎖を含む場合、当該ゲル殻は、さらにグリコサミノグリカン鎖を含んでもよい。
グリコサミノグリカン鎖は、グリコサミノグリカンの高分子鎖である。グリコサミノグリカンは、アミノ糖(ガラクトサミン又はグルコサミン)と、ウロン酸(グルクロン酸又はイズロン酸)又はガラクトースと、から構成される二糖が、繰り返し結合して構成される多糖である。
グリコサミノグリカンは、例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸(コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B及びコンドロイチン硫酸Cからなる群より選択される1種以上)、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸及びヘパリンからなる群より選択される1種以上であってもよく、特にヒアルロン酸であることが好ましい。すなわち、ゲル殻は、特に、ヒアルロン酸鎖を含むことが好ましい。
セルロース鎖は、セルロースの高分子鎖である。セルロースは、β−グルコースが、グリコシド結合により直鎖状に繰り返し結合して構成される多糖である。セルロース鎖は、セルロース誘導体に含まれるセルロース鎖であってもよい。すなわち、この場合、ゲル殻は、セルロース誘導体を含み、当該セルロース誘導体は、セルロース鎖を含む。セルロース誘導体は、セルロース鎖に官能基を導入することにより形成された、セルロース鎖と当該官能基をと含む、セルロース以外の高分子である。具体的に、セルロース誘導体は、例えば、ニトロセルロース、アセチルセルロース及びセルロースエーテル(例えば、カルボキシメチルセルロース)からなる群より選択される1種以上であってもよい。
ゲル殻は、上述のようなグリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含む高分子のゲルから構成される。ゲル殻を構成する高分子におけるグリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖の含有量は、当該ゲル殻が、上記(e)において精子の回収が可能となる程度に分解酵素によって分解可能に構成される範囲であれば特に限られないが、例えば、30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることが特に好ましい。
なお、例えば、高分子が、30重量%以上のグリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むという場合、グリコサミノグリカン鎖を含み、セルロース鎖を含まない高分子は、当該グリコサミノグリカン鎖を30重量%以上含むことを意味し、セルロース鎖を含み、グリコサミノグリカン鎖を含まない高分子は、当該セルロース鎖を30重量%以上含むことを意味し、グリコサミノグリカン鎖及びセルロース鎖の両方を含む高分子は、当該グリコサミノグリカン鎖及びセルロース鎖を合計で30重量%以上含むことを意味する。
ゲル殻は、グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖に加えて、さらに他の成分を含んでもよい。他の成分は、後述する本容器の製造においてゲル殻の形成を妨げるものでなければ特に限られないが、例えば、ゼラチン、コラーゲン及びポリフェノール類からなる群より選択される1種以上であってもよい。
本容器の液体芯は、液体から構成される。液体芯を構成する液体は、その中で精子が生存可能なものであれば特に限られない。すなわち、液体芯を構成する液体は、例えば、精子の生存に適した浸透圧及びpHを有する液体であり、さらに精子の運動に必要な栄養源を含む液体であってもよい。
本容器は、本実施形態に係る精子凍結保存方法及び体外受精方法に使用される。すなわち、本実施形態は、本容器の精子凍結保存方法のための使用、及び本容器の体外受精方法のための使用を含む。また、本実施形態は、本容器を使用した精子凍結保存方法、及び本容器を使用した体外受精方法を含む。
本容器のサイズは、本実施形態に係る精子凍結保存方法及び体外受精方法における使用に適した範囲であれば特に限られないが、卵細胞又はその透明帯に類似したサイズであることが好ましい。
すなわち、本容器の平均直径は、10μm以上、3000μm以下であることとしてもよく、30μm以上、2000μm以下であることが好ましく、50μm以上、1000μm以下であることがより好ましく、50μm以上、500μm以下であることが特に好ましい。
なお、本容器のゲル殻の外表面が、当該本容器の最外表面を構成する場合、当該本容器の平均直径は、当該ゲル殻の平均直径である。また、本容器のゲル殻の平均厚さは、本実施形態に係る精子凍結保存方法及び体外受精方法における使用に適した範囲であれば、特に限られないが、例えば、0.01μm以上、1400μm以下であることとしてもよく、1μm以上、1000μm以下であることが好ましく、10μm以上、500μm以下であることがより好ましく、10μm以上、100μm以下であることが特に好ましい。
ここで、本実施形態に係る精子凍結保存用容器(本容器)の製造方法は、ゲル殻と、当該ゲル殻に被覆された液体芯と、を有する精子凍結保存用容器の製造方法であって、下記(x)〜(z):(x)精子を含まない、溶解可能なゲル芯を形成すること;、(y)当該ゲル芯を被覆する、グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻を形成すること;及び(z)当該ゲル殻に被覆された当該ゲル芯を溶解することにより、精子を含まない当該液体芯を形成すること;を含む。
上記(x)で形成するゲル芯は、精子を含んでおらず、上記(z)において溶解可能なゲルから構成されるものであれば特に限られない。すなわち、ゲル芯は、まず所定の条件(例えば、温度、pH、光照射及び他の成分との接触からなる群より選択される1種以上)でゲル化する前駆体溶液を調製し、次いで、当該前駆体溶液を当該所定の条件に適用してゲル化することにより形成することができる。具体的に、ゲル芯は、例えば、ゼラチン、アルギン酸、セルロース、ペクチン、アミロペクチン、ヒアルロン酸、コラーゲン、ケラチン又はコンニャクマンナンのゲル、これらの誘導体のゲル及びマトリゲルからなる群より選択される1種以上から構成されることとしてもよい。
上記(y)に係るゲル殻の形成は、グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖と架橋性官能基とを含む前駆体高分子の架橋反応により行われる。すなわち、例えば、ゲル殻がヒアルロン酸鎖を含む場合、当該ゲル殻は、当該ヒアルロン酸鎖と架橋性官能基とを含む前駆体高分子(ヒアルロン酸誘導体)の架橋反応により形成される。
前駆体高分子は、グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含む高分子に架橋性官能基を導入することで得られる。具体的に、グリコサミノグリカン鎖と架橋性官能基とを含む前駆体高分子は、例えば、当該グリコサミノグリカン鎖を含む高分子と、当該架橋性官能基に対応する官能基を含む化合物とを化学的又は酵素的に反応させることにより生成される。また、セルロース鎖と架橋性官能基とを含む前駆体高分子は、例えば、当該セルロース鎖を含む高分子と、当該架橋性官能基に対応する官能基を含む化合物とを化学的に反応させることにより生成される。
前駆体高分子に含まれる架橋性官能基は、ゲル殻の形成に寄与するものであれば特に限られないが、例えば、ヒドキシ基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、チオール基、フェノール基、エポキシ基、アクリロイル基、ビニル基、ベンゾフェノン基、ジアゾエステル基、アリールアジド基、ジアジリン基、メタクリレート基、アリル基、エチレン性不飽和基及びヒドラジド基からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
そして、前駆体高分子の架橋反応により形成されたゲル殻は、グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖と、架橋基とを含む高分子から構成される。
上記(z)に係るゲル芯の溶解は、ゲル殻に被覆されたゲル芯を、当該ゲル殻が分解せず、且つ当該ゲル芯が溶解する条件(例えば、温度の変化、pHの変化、光照射及び他の成分(例えば、酵素及び/又はキレート剤)との接触からなる群より選択される1種以上)で処理することにより行う。
すなわち、例えば、ゲル芯がゼラチンゲルから構成される場合、当該ゲル芯をタンパク質分解酵素(例えば、トリプシン)で処理することにより、又は当該ゼラチンゲルが再溶解する温度に加熱することにより、当該ゲル芯を溶解することができる。また、例えば、ゲル芯がアルギン酸ゲルから構成される場合、当該ゲル芯をキレート剤(例えば、クエン酸)及び/又はアルギン酸リアーゼで処理することにより、当該ゲル芯を溶解することができる。
ゲル殻に被覆されたゲル芯の溶解によって、ゲル殻に被覆された液体芯が形成される。すなわち、上記(x)、(y)及び(z)を順次実施することにより、ゲル殻と、当該ゲル殻に被覆された液体芯と、を有する本容器が得られる。
上記(b)について、本容器の液体芯に精子を注入する方法は、本容器外の精子を、そのゲル殻を介して、当該液体芯に注入できる方法であれば、特に限られないが、インジェクションピペットを使用することが好ましい。
図1Bには、本容器10の液体芯12に、インジェクションピペット20を使用して、精子Sを注入する様子の一例を示す。すなわち、液体芯12への精子Sの注入は、まずインジェクションピペット20の内部に精子Sを保持し、次いで、当該精子Sを保持している当該インジェクションピペット20の先端部を本容器10のゲル殻11に刺して貫通させ、その後、当該インジェクションピペット20内の精子Sを液体芯12中に放出することにより行う。
インジェクションピペットは、その内部に精子を保持可能な中空の針状部材であれば特に限られないが、体外受精(例えば、顕微授精)で使用されるものが好ましく使用される。インジェクションピペットは、その内径が4μm〜10μmであるものが好ましく使用される。インジェクションピペットは、ガラス製又は透明な樹脂製のものが好ましく使用される。
また、インジェクションピペットを使用する場合、図1Bに示すように、本容器10は、ホールディングピペット30により保持しておくことが好ましい。すなわち、この場合、まず本容器10をホールディングピペット30の先端部に保持し、その後、上述のようにして、インジェクションピペット20を使用して、当該ホールディングピペット30に保持された本容器10の液体芯12に精子Sを注入する。
ホールディングピペットは、その先端部に本容器を保持可能な中空の棒状部材であれば特に限られないが、体外受精(例えば、顕微授精)で使用されるものが好ましく使用される。ホールディングピペットは、その内径が15μm〜30μmであるものが好ましく使用される。ホールディングピペットは、ガラス製又は透明な樹脂製のものが好ましく使用される。
このように、上記(b)に係る本容器の液体芯への精子の注入は、顕微授精において卵細胞に精子を注入する操作と同様の操作で行うことが好ましい。この場合、例えば、顕微授精の操作に慣れた胚培養士によって、本容器への精子の注入を効率よく確実に行うことができる。
なお、本容器に保持する精子は、当然ながら、生きた精子である。本容器に保持する精子の由来は特に限られず、ヒトの精子であってもよいし、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ又はブタ)の精子であってもよい。
ただし、本発明は、特に、希少な精子の凍結保存、及び凍結保存後の希少な精子を使用する体外受精において有用である。したがって、本発明は、ヒトの精子、特に、乏精子症又は無精子症のヒト患者に由来する希少な精子(例えば、乏精子症の男性患者の精液から採取された精子、又は無精子症の男性患者の精巣から採取された精子)を使用する場合に有用である。
上記(c)に係る凍結保存の方法は、本容器に保持された精子を、解凍後も生存可能に凍結して保存できる方法であれば特に限られない。すなわち、例えば、まず細胞凍結保存用容器(例えば、市販の凍結保存器具(Cryotop(登録商標)、KITAZATO CORPORATION製))に、精子を保持した本容器を入れ、次いで、液体窒素を使用して、当該本容器を凍結保存に適した低温(例えば、−196℃以下)に維持することにより、当該本容器内の精子及び液体芯を凍結する。その結果、図1Cに示すように、凍結された精子S及び液体芯12を含む本容器10が得られる。凍結保存の時間は、特に限られず、解凍後の精子を使用した体外受精を実施する時期に応じて、適宜決定される。
上記(d)に係る解凍の方法は、本容器内で凍結保存された精子を、解凍後も生存した状態に維持できる方法であれば特に限られない。すなわち、例えば、凍結保存後の本容器を、精子の生存に適した温度(例えば、37℃)の溶液中に浸漬することにより、当該精子を解凍する。その結果、図1Dに示すように、凍結保存前と同様、生きた精子Sを含む液体芯12と、当該液体芯12を被覆するゲル殻11とを有する本容器10が得られる。
上記(e)に係るゲル殻の分解に使用する酵素は、当該ゲル殻に含まれるグリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を分解するものであれば、特に限られない。すなわち、ゲル殻がヒアルロン酸鎖を含む場合、当該ヒアルロン酸鎖を分解する酵素(例えば、ヒアルロニダーゼ)を使用する。ゲル殻がコンドロイチン硫酸鎖を含む場合、当該コンドロイチン酸鎖を分解する酵素(例えば、コンドロイチナーゼ)を使用する。ゲル殻がケラタン硫酸鎖を含む場合、当該ケラタン酸鎖を分解する酵素(例えば、ケラタナーゼ)を使用する。ゲル殻がヘパラン硫酸鎖及び/又はヘパリン鎖を含む場合、当該ヘパラン硫酸鎖及び/又はヘパリン鎖を分解する酵素(例えば、ヘパリナーゼ)を使用する。ゲル殻がセルロース鎖を含む場合、当該セルロース鎖を分解する酵素(例えば、セルラーゼ)を使用する。
ここで、本実施形態に係る精子凍結保存方法及び体外受精方法においては、ゲル殻は、ヒアルロン酸鎖を含み、解凍後の本容器の当該ゲル殻を、当該ヒアルロン酸鎖を分解する酵素(例えば、ヒアルロニダーゼ)で処理することが好ましい。
この場合、生体適合性に優れたヒアルロン酸鎖と、従来の体外受精でも使用され安全性が確認されているヒアルロニダーゼとを使用することにより、精子の凍結保存及び体外受精において、高い安全性と確実性とを実現することができる。
ゲル殻の分解においては、本容器の液体芯に保持されていた精子が回収可能となる程度(例えば、インジェクションピペットを当該ゲル殻に貫通させることなく使用して、本容器に保持されていた精子を回収できる程度、又は本容器に保持されていた精子が当該本容器の外に出ていくことができる程度)に、当該ゲル殻の少なくとも一部を分解すればよい。図1Eには、本容器のゲル殻11が酵素分解により消失し(破線)、当該本容器の液体芯12に保持されていた生きた精子Sが、容易に回収可能になった様子を示している。ゲル殻の酵素分解に要する時間は、使用する酵素の量や、温度等の条件によって変わるが、可能な限り短時間であることが好ましく、例えば、30分以下であることが好ましく、10分以下であることが特に好ましい。
上記(f)に係る精子の回収方法は、ゲル殻の酵素分解によって解放された生きた精子を、その後の利用に適した状態で回収できる方法であれば、特に限られない。精子の回収においては、例えば、インジェクションピペットを使用することとしてもよい。図1Fには、インジェクションピペット20を使用して、精子Sを回収する様子の一例を示す。インジェクションピペットを使用して精子を回収することにより、その後、当該精子を使用した体外受精(特に、顕微授精)を効率よく行うことができる。
本実施形態に係る体外受精方法においては、さらに、上記(f)で回収された精子を使用して、上記(g)に係る体外受精を行う。すなわち、生体外において、本容器から回収された精子を、体外受精に使用するために予め採取された卵細胞と接触させ、受精卵を作製する。
上記(g)に係る体外受精は、顕微授精であることとしてもよい。図1Gには、顕微授精の様子の一例を示す。図1Gに示す例において、顕微授精は、顕微鏡下で、内部に精子Sを保持したインジェクションピペット20の先端部を、ホールディングピペット30に保持された卵細胞Eの透明帯Zを介して細胞質C内に挿入して、当該インジェクションピペット20から当該細胞質C内に精子Sを放出することにより行われる。
本実施形態においては、上述の(a)〜(f)を順次実施することにより、精子の数が少ない場合であっても、当該精子の凍結保存及び回収を効果的に実施することができる。また、上述の(a)〜(g)を順次実施することにより、精子の数が少ない場合であっても、当該精子を使用した体外受精を効果的に実施することができる。
すなわち、特に、上記(a)、(b)、(e)及び(f)によって、本容器への精子の保持や、凍結保存後の本容器からの精子の回収を、効率的に、且つ確実に実施することができる。
具体的に、例えば、上記(b)について、本容器への精子の注入をインジェクションピペットを使用して行い、上記(e)について、解凍後の本容器のゲル殻を酵素処理で分解し、上記(f)で本容器からの精子の回収をインジェクションピペットを使用して行う場合には、当該インジェクションピペットの操作に慣れた技術者(例えば、胚培養士)によって、精子の状態を良好に維持しつつ、当該精子の凍結保存、回収及び体外受精への適用を、効率的に、且つ確実に実施ことができる。
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
グリコサミノグリカン鎖を分解する酵素及びセルロース鎖を分解する酵素が、精子の生存率及び運動率に及ぼす影響を評価した。分解酵素としては、市販のものを使用した。すなわち、ヒアルロン酸鎖分解酵素として、ヒアルロニダーゼ(Irvine社製)を使用した。セルロース鎖分解酵素として、セルラーゼ(Worthington Biochemical社製)を使用した。また、アルギン酸分解酵素であるアルギン酸リアーゼ(Sigma社製)も使用した。
分解酵素と接触させる精子としては、ヒトの体外受精(IVF)において、ヒト男性患者から採取されたが使用されなかった精子を使用した。すなわち、医療法人三慧会 IVFなんばクリニック(大阪府、日本)において、体外受精のために採取されたが使用されなかった精子を、インフォームドコンセントを行い同意を得た後に使用した。
具体的に、4×106cells/mLの精子と、分解酵素(40IU/mLのヒアルロニダーゼ、1mg/mLのセルラーゼ、又は0.2mg/mLのアルギン酸リアーゼ)とを含む溶液を調製し、得られた溶液を37℃で1時間インキュベートすることにより、当該精子と当該分解酵素とを接触させた。また、比較対照として、分解酵素を含まないこと以外は同様にして調製された、4×106cells/mLの精子を含有する溶液を37℃で1時間インキュベートした。
インキュベート後の各溶液中の精子の生存率及び運動率を評価した。精子の生存性は、低張液尾部膨化試験により評価した。すなわち、低張液(150mOsm)500μLに、4×106cells/mLの精子を含む生理食塩水50μLを滴下し、室温で30分間インキュベートした。その後、尾部の膨化が確認された精子を生存精子と評価した。そして、顕微鏡下で、100個の精子に含まれる生存精子の数をカウントし、当該生存精子の数を精子生存率(%)とした。精子の運動率は、マクラーチャンバー(SEFI−MEDICAL INSTRUMENT社)を用い、顕微鏡下で、視野内で運動している精子の数をカウントし、当該視野内の全ての精子の数に対する、当該運動している精子の数の割合を、精子運動率(%)として算出した。
図2A及び図2Bには、それぞれ精子の生存率及び運動率を評価した結果を示す。図2A及び図2Bに示すように、ヒアルロニダーゼ、セルラーゼ及びアルギン酸リアーゼのいずれと接触した精子の生存率及び運動率も、酵素と接触していない精子のそれらと大差なく、統計的に有意な差は認められなかった(Turkey−kramer法)。すなわち、ヒアルロニダーゼ、セルラーゼ及びアルギン酸リアーゼのいずれも、精子に対して、その生存率及び運動率を低下させるような影響は及ぼさないことが確認された。
[精子凍結保存用容器の製造]
まずヒアルロン酸(分子量約100万、JNC社製)に、架橋性官能基としてフェノール基を化学的に導入することにより、ヒアルロン酸誘導体(架橋性ヒアルロン酸)を製造した。すなわち、30mMの2−Morpholinoethanesulfonic acid,monohydrate(MES)緩衝液(pH6)にヒアルロン酸を0.1%(w/v)となるように溶解した後、さらにチラミン塩酸塩(東京化成社製)を0.5%(w/v)となるように溶解させた。次いで、得られた溶液にさらに、水溶性カルボジイミド(ペプチド研究所製)及びヒドロキシスクシイミド(和光純薬社製)をそれぞれ0.47%(w/v)及び0.27%(w/v)となるように添加し、室温で20時間撹拌した。そして、透析膜(分画分子量10,000〜20,000)を用いた精製水中での透析を行った後に、溶液を凍結真空乾燥することにより、ヒアルロン酸鎖とフェノール基とを含むヒアルロン酸誘導体を得た。
まずヒアルロン酸(分子量約100万、JNC社製)に、架橋性官能基としてフェノール基を化学的に導入することにより、ヒアルロン酸誘導体(架橋性ヒアルロン酸)を製造した。すなわち、30mMの2−Morpholinoethanesulfonic acid,monohydrate(MES)緩衝液(pH6)にヒアルロン酸を0.1%(w/v)となるように溶解した後、さらにチラミン塩酸塩(東京化成社製)を0.5%(w/v)となるように溶解させた。次いで、得られた溶液にさらに、水溶性カルボジイミド(ペプチド研究所製)及びヒドロキシスクシイミド(和光純薬社製)をそれぞれ0.47%(w/v)及び0.27%(w/v)となるように添加し、室温で20時間撹拌した。そして、透析膜(分画分子量10,000〜20,000)を用いた精製水中での透析を行った後に、溶液を凍結真空乾燥することにより、ヒアルロン酸鎖とフェノール基とを含むヒアルロン酸誘導体を得た。
一方、21G(ゲージ)シリンジ内に、26Gシリンジを配置することで、二重管構造を形成した。ここで、26Gシリンジの先端部が、21Gシリンジ内に配置されるよう、当該26Gシリンジを配置した。
次いで、26Gシリンジ内に7.5%(w/v)ゼラチン溶液を4.5mL/hの流速で流すとともに、当該26Gシリンジと21Gシリンジとの間に流動パラフィンを4.2mL/minの流速で流して、当該ゼラチン溶液を、当該26Gシリンジの当該先端部から、当該流動パラフィン中に流出させた。その後、こうして得られた、ゼラチン溶液の液滴を含む流動パラフィンを氷水中で冷却することにより、当該流動パラフィン中に分散された球状のゼラチンゲルビーズ(ゲル芯)を形成した。その後、得られたゼラチンゲルビーズをリン酸緩衝生理食塩水により複数回洗浄し、流動パラフィンを除去した。
一方、上述のようにして製造したヒアルロン酸誘導体を0.8%(w/v)含有するHA溶液と、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ(horse radish peroxidase:HRP、和光純薬社製)を1100U/mL含有するHRP溶液とを体積比10:1(ヒアルロン酸溶液:HRP溶液)で混合することにより、HA/HRP溶液を調製した。
次いで、HA/HRP溶液に、上述のようにして調製したゼラチンゲルビーズを懸濁して、当該ゼラチンゲルビーズを0.1mL/mLで含むHA/HRP溶液を調製した。また、過酸化水素水(35%(w/v)、和光純薬社製)5mLを流動パラフィン1Lに添加して、ホモジナイザーを用いた30分間の撹拌を行った。その後、遠心分離により未溶解の過酸化水素水を除去することにより、過酸化水素を含む流動パラフィンを調製した。
上述のゼラチンゲルビーズの形成と同様に、21Gシリンジ内に、26Gシリンジを配置することで、二重管構造を形成した。そして、26Gシリンジ内にゼラチンゲルビーズ含有HA/HRP溶液を4.5mL/hの流速で流すとともに、当該26Gシリンジと21Gシリンジとの間に過酸化水素含有流動パラフィンを4.2mL/minの流速で流して、当該ゼラチンゲルビーズ含有HA/HRP溶液を、当該26Gシリンジの先端から、過酸化水素含有流動パラフィン中に流出させた。こうして、過酸化水素含有流動パラフィン中に分散された、ゼラチンゲルビーズ(ゲル芯)と、当該ゼラチンゲルビーズを被覆するヒアルロン酸ゲル膜(ゲル殻)とから構成される球状の複合ゲルビーズを形成した。
すなわち、ゼラチンゲルビーズを被覆するHA/HRP溶液層を、過酸化水素含有流動パラフィンに接触させることにより、当該HA/HRP溶液層を架橋してゲル化し、当該ゼラチンゲルビーズを被覆するヒアルロン酸ゲル膜を形成した。得られた複合ゲルビーズを遠心分離により回収した。
次いで、回収された複合ゲルビーズを含む溶液を培養液(GM501、GYNEMED社)に添加し、当該複合ゲルビーズの選別を行った。すなわち、実体顕微鏡下において、回収された複合ゲルビーズのうち、ゼラチンゲルビーズのゲル芯を視認できる複合ゲルビーズのみを、外径約200μm〜300μmの細いガラスピペットを用いて、選択的に採取した。
その後、上述のようにして選別された複合ゲルビーズを0.4%(w/v)トリプシンEDTA溶液中、37℃で2分間保持して、当該複合ゲルビーズ内部のゼラチンゲルビーズを溶解した。こうして、精子凍結保存用容器として、ゼラチンゲルビーズの溶解により形成された液体芯と、当該液体芯を被覆するヒアルロン酸ゲル膜とから構成されるヒアルロン酸カプセル(HAカプセル)を得た。
上述のようにして製造されたHAカプセルの直径は、219±18μm(平均直径±標準偏差)であり、ヒアルロン酸ゲル膜の厚さは、30±7μm(平均厚さ±標準偏差)であった。なお、HAカプセルの直径及びヒアルロン酸ゲル膜の厚さは、光学顕微鏡により撮影した100個のHAカプセルの写真を画像解析ソフト(ImageJ、アメリカ国立衛生研究所製)を用いて解析することにより測定した。
[精子凍結保存]
HAカプセルで凍結保存する精子としては、ヒトの体外受精において、ヒト男性患者から採取されたが使用されなかった精子を使用した。すなわち、医療法人三慧会 IVFなんばクリニック(大阪府、日本)において、体外受精のために採取されたが使用されなかった精子を、インフォームドコンセントを行い同意を得た後に使用した。
HAカプセルで凍結保存する精子としては、ヒトの体外受精において、ヒト男性患者から採取されたが使用されなかった精子を使用した。すなわち、医療法人三慧会 IVFなんばクリニック(大阪府、日本)において、体外受精のために採取されたが使用されなかった精子を、インフォームドコンセントを行い同意を得た後に使用した。
一方、顕微授精に使用される、ホールディングピペット(KITAZATO社)、インジェクションピペット(Sunlight medical社)、及び位相差顕微鏡を備えたマイクロマニピュレーションシステム(NARISIGE社)を準備した。ホールディングピペットは、内径約15μmのガラス製ピペットであった。インジェクションピペットは、内径約4μmのガラス製ピペットであった。
まず、HAカプセルの液体芯に精子を注入した。すなわち、位相差顕微鏡下でホールディングピペットを操作し、顕微鏡ステージ上に置かれたシャーレ内の培養液(Irvine社)中において、上述のようにして得られたHAカプセルを当該ホールディングピペットの先端部に保持した。
一方、位相差顕微鏡下でインジェクションピペットを操作し、顕微鏡ステージ上に置かれたシャーレ内の培養液(Irvine社)中において、3個の精子を当該インジェクションピペットの内部に保持した。
そして、位相差顕微鏡下でインジェクションピペットを操作し、ホールディングピペットに保持されたHAカプセル内の液体芯中に、当該インジェクションピペットから3個の精子を注入した。
すなわち、内部に精子を保持したインジェクションピペットの先端部を、HAカプセルのヒアルロン酸ゲル膜に刺し込んで貫通させ、当該HAカプセルの液体芯中に配置された当該インジェクションピペットの先端部から、当該液体芯中に精子を放出した。こうして、3個の精子を保持したHAカプセルを得た。
同様にして、各々が3個の精子を保持したHAカプセルを合計で11個得た。なお、上述したインジェクションピペット及びホールディングピペットを使用したHAカプセルへの精子の注入操作は、顕微授精に慣れた胚培養士が行った。
また、比較対照として、顕微授精後、受精しなかった卵細胞から調製した透明帯から構成される中空のカプセル(ZPカプセル)を用意した。このZPカプセルは、顕微授精において、ヒトから採取されたが受精しなかった卵細胞を17μg/mLのサイトカラシンB(Sigma Aldrichi社)で処理し、次いで、その細胞質をインジェクションピペットで吸引して除去することにより調製した。なお、この卵細胞としては、医療法人三慧会 IVFなんばクリニック(大阪府、日本)において、体外受精のために採取されたが使用されなかった卵細胞を、インフォームドコンセントを行い同意を得た後に使用した。そして、上述のHAカプセルと同様の操作により、ZPカプセルの液体芯に精子を注入することにより、各々が3個の精子を保持したZPカプセルを合計で11個得た。
次いで、精子を保持したHAカプセル及びZPカプセルを凍結保存した。すなわち、6cm径の細胞培養用ディッシュ上に、0.1Mスクロース−20%代替血清(serum substitute supplement)含有凍結液10μLの液滴を複数形成した。そして、1つの液滴に、上述のようにして得られた精子含有HAカプセル又は精子含有ZPカプセルを1つずつ懸濁し、室温で5分間インキュベートした。
その後、市販の凍結保存器具(Cryotop(登録商標)、KITAZATO CORPORATION製)上に、インキュベート後の上記カプセル含有凍結液約1.0μLの液滴を形成し、当該液滴を、液体窒素の液面から4.5cm離れた位置で液体窒素蒸気に曝した状態で2分間インキュベートした。さらに、液体窒素蒸気上でインキュベート後の上記凍結保存器具を、液体窒素中で24時間以上凍結保存した。
次いで、凍結保存後のHAカプセル及びZPカプセルを解凍した。すなわち、液体窒素から取り出した凍結保存器具を、37℃の培養液中で1分間インキュベートすることにより、当該凍結保存器具内のHAカプセル及びZPカプセルを解凍した。
そして、解凍後のHAカプセル及びZPカプセルのそれぞれについて、カプセル回収率、精子回収率、及び精子運動率を評価した。すなわち、HAカプセルについては、まず、6cm径の細胞培養用ディッシュ上に、40IU/mLのヒアルロニダーゼを含む溶液10μLの液滴を形成した。次いで、この液滴中に、解凍後のHAカプセルを懸濁し、当該液滴を5mLの培養ミネラルオイル(KITAZATO)で被覆した。さらに、このHAカプセル含有液滴を37℃で10分間インキュベートすることで、当該HAカプセルのヒアルロン酸ゲル膜(ゲル殻)を分解した。その後、インジェクションピペットを使用して、HAカプセルに保持されていた精子を回収した。そして、顕微鏡下にて、HAカプセルから回収された精子の数、及び回収された精子のうち、運動している精子の数をそれぞれカウントした。
精子回収率は、次の式により算出した:精子回収率(%)=(HAカプセルのゲル殻分解後に回収された精子の数/HAカプセルに注入して保持した精子の数)×100。精子運動率は、次の式により算出した:精子運動率(%)=HAカプセルから回収され、且つ運動していた精子の数/HAカプセルから回収され精子の数)×100。
一方、ZPカプセルについては、まず、6cm径の細胞培養用ディッシュ上に、培養液(Irvine社)10μLの液滴を形成した。次いで、この液滴中に、解凍後のZPカプセルを懸濁した。その後、インジェクションピペットを使用して、ZPカプセルから精子を吸引して回収した。そして、ZPカプセルから回収された精子の数、及び回収された精子のうち、運動している精子の数をそれぞれカウントした。
精子回収率は、次の式により算出した:精子回収率(%)=(ZPカプセルから回収された精子の数/ZPカプセルに注入して保持した精子の数)×100。精子運動率は、次の式により算出した:精子運動率(%)=ZPカプセルから回収され、且つ運動していた精子の数/ZPカプセルから回収され精子の数)×100。
[結果]
図3には、解凍後のHAカプセル及びZPカプセルのそれぞれについて、カプセル回収率、精子回収率、及び精子運動率を評価した結果を示す。図3に示すように、HAカプセル及びZPカプセルのそれぞれについて、11個全てのカプセルを回収できた。
図3には、解凍後のHAカプセル及びZPカプセルのそれぞれについて、カプセル回収率、精子回収率、及び精子運動率を評価した結果を示す。図3に示すように、HAカプセル及びZPカプセルのそれぞれについて、11個全てのカプセルを回収できた。
HAカプセルについて、凍結保存された33個の精子のうち、30個の精子を回収できたため、精子回収率は90.9±15.5%であった。ZPカプセルについて、32個の精子を回収できたため、精子回収率は97.0±10.0%であった。精子回収率について、HAカプセルとZPカプセルとについて統計的に有意な差は認められなかった(t−test)。
HAカプセルについて、回収された30個の精子のうち、5個の精子の運動が確認されたため、精子運動率は15.1±17.4%であった。ZPカプセルについて、回収された32個の精子のうち、7個の精子の運動が確認されたため、精子運動率は21.2±16.8%であった。精子運動率について、HAカプセルとZPカプセルとについて統計的に有意な差は認められなかった(t−test)。
なお、いずれのカプセルから回収された精子についても、精子運動率が比較的低い理由の一つとしては、体外受精後の余剰精子を使用したことが考えられた。以上より、HAカプセルを使用することによって、ZPカプセルを使用した場合と同等のカプセル回収率、精子回収率、及び精子運動率が得られることが確認された。
HAカプセルからの精子回収方法として、当該HAカプセルのヒアルロン酸ゲル膜をヒアルロニダーゼで分解して精子を回収する方法と、当該HAカプセルのヒアルロン酸ゲル膜を分解することなく、インジェクションピペットによる吸引によって精子を回収する方法と、を比較した。なお、全ての例において、インジェクションピペットの操作は、顕微授精に慣れた胚培養士が行った。
上述の実施例2と同様にして、HAカプセルを製造した。HAカプセルで保持する精子としては、ヒトの体外受精において、ヒト男性患者から採取されたが使用されなかった精子を使用した。すなわち、医療法人三慧会 IVFなんばクリニック(大阪府、日本)において、体外受精のために採取されたが使用されなかった精子を、インフォームドコンセントを行い同意を得た後に使用した。
そして、上述の実施例2と同様にして、6個のHAカプセルのそれぞれに、3個の精子を注入し、各々が3個の精子を保持したHAカプセルを6個得た。得られた精子含有HAカプセルを37℃で15分間インキュベートした。
上述のようにして得られた精子含有HAカプセル3個の各々について、ヒアルロン酸ゲル膜の酵素分解による精子の回収を行った。すなわち、精子含有HAカプセル3個と、40IU/mLのヒアルロニダーゼとを含む懸濁液3μLを調製し、得られた当該懸濁液を37℃で10分間インキュベートすることにより、当該HAカプセルのヒアルロン酸ゲル膜を分解した。
ヒアルロン酸ゲル膜の分解によってHAカプセルから解放された精子をインジェクションピペット内に吸引した。次いでインジェクションピペット内の精子を、10μLのポリビニルピロリドン(PVP、分子量36万)中に放出した。
そして、HAカプセルに保持された精子の数に対する、PVP中に回収された精子の数の割合(%)を精子回収率として評価した。また、PVP中に回収された精子の数に対する、運動性が確認された精子の数の割合(%)を精子運動率として評価した。
一方、上述のようにして得られた他の精子含有HAカプセル3個の各々について、ヒアルロン酸ゲル膜を分解することなく、インジェクションピペットによる精子の回収を行った。
すなわち、精子含有HAカプセル3個のそれぞれについて、インジェクションピペット(内径約4μmのガラス製ピペット)の先端部を、ヒアルロン酸ゲル膜を介して液体芯に刺し込み、当液体芯中の精子を当該インジェクションピペット内に吸引した。
次いで、インジェクションピペット内の精子を、10μLのポリビニルピロリドン(PVP、分子量36万)中に放出した。そして、HAカプセルに保持された精子の数に対する、PVP中に回収された精子の数の割合(%)を精子の回収率として評価した。また、PVP中に回収された精子の数に対する、運動性が確認された精子の数の割合(%)を精子の運動率として評価した。
[結果]
図4には、ヒアルロン酸ゲル膜の酵素分解により精子を回収した場合、及び当該ヒアルロン酸ゲル膜を分解することなくインジェクションピペットにより精子を回収した場合のそれぞれについて、精子回収率及び精子運動率を評価した結果を示す。
図4には、ヒアルロン酸ゲル膜の酵素分解により精子を回収した場合、及び当該ヒアルロン酸ゲル膜を分解することなくインジェクションピペットにより精子を回収した場合のそれぞれについて、精子回収率及び精子運動率を評価した結果を示す。
図4に示すように、インジェクションピペットによる回収方法においては、HAカプセルに保持された9個の精子のうち、5個の精子が回収されたが、4個の精子は回収することができず、精子回収率は55.6%であった。
これは、インジェクションピペットによる回収方法においては、HAカプセルの液体芯を構成する液体の吸引に伴って当該HAカプセルが大きく変形してしまい、回収できない精子があったためであった。
また、インジェクションピペットによる回収方法において、回収された5個の精子のうち、2個の精子について運動性が確認されたが、3個の精子については運動性が確認されず、精子運動率は40.0%であった。
これは、インジェクションピペットによる回収方法においては、HAカプセル内でインジェクションピペットの先端部を操作して、動く精子を適切に吸引することは容易ではなく、その回収に比較的長い時間を要したこと、及び当該インジェクションピペット内に精子を吸引する際に、当該インジェクションピペットとの接触によって当該精子の頭部又は尾部が傷つけられた可能性が考えられた。
これに対し、ヒアルロン酸ゲル膜の酵素分解による回収方法においては、精子回収率は88.9%であり、精子運動率は100%であった。このように、HAカプセルに保持された精子の回収方法としては、インジェクションピペットによる回収方法に比べて、当該HAカプセルのヒアルロン酸ゲル膜の酵素分解による回収方法の方が、簡便、迅速、且つ確実であり、顕著に優れていることが確認された。
すなわち、本容器のゲル殻を酵素分解して精子を回収する方法によれば、凍結保存後の希少な精子を、その生存及び運動性を良好に維持しつつ、効率的に、且つ確実に回収できることが確認された。
セルロース鎖を含むゲル殻を有する精子保存用容器を製造した。すなわち、まず上述の実施例2におけるヒアルロン酸誘導体の製造と同様に、カルボキシメチルセルロース(CMC)(400−800cps−2% aqueous solution at 25℃、Sigma社製)に、架橋性官能基としてフェノール基を化学的に導入することにより、CMC誘導体(架橋性CMC)を製造した。具体的に、CMC及びチラミン塩酸塩を50mMのMES緩衝液(pH6)にそれぞれ1%(w/v)及び46mMとなるように溶解させた。次いで、得られた溶液に、さらに水溶性カルボジイミド及びヒドロキシスクシイミドをそれぞれ45.8mM及び22.9mMとなるように溶解させ、25℃にて24時間撹拌した。そして、透析膜(分画分子量10,000〜20,000)を用いた精製水中での透析を行った後に、溶液を凍結真空乾燥することにより、セルロース鎖とフェノール基とを含むCMC誘導体を得た。
次いで、上述の実施例2におけるHAカプセルの製造において、ヒアルロン酸誘導体を0.8%(w/v)含有するHA溶液に代えて、CMCを1.0%(w/v)含有するCMC溶液を使用したこと以外は同様にして、精子凍結保存用容器として、ゼラチンゲルビーズ(ゲル芯)の溶解により形成された液体芯と、当該液体芯を被覆するCMCゲル膜(ゲル殻)とから構成されるCMCカプセルを得た。こうして製造されたCMCカプセルの平均直径は、156μmであり、CMCゲル膜の平均厚さは、25μmであった。
また、比較対照として、液体芯と、当該液体芯を被覆するアルギン酸ゲル膜(ゲル殻)とから構成される精子凍結保存用容器を製造した。すなわち、0.6%(w/v)アルギン酸ナトリウム溶液、又は1.0%(w/v)アルギン酸ナトリウム溶液にゼラチンゲルビーズを分散させた。次いで、得られた溶液を26Gの注射針がついた注射器から、静電気力を使用して、100mMの塩化カルシウム水溶液に滴下することにより、ゼラチンゲルビーズ(ゲル芯)と当該ゼラチンゲルビーズを被覆するアルギン酸ゲル膜(ゲル殻)とから構成される球状の複合ゲルビーズを形成した。その後、上述の実施例2と同様にして、複合ゲルビーズ中のゼラチンゲルビーズを選択的に溶解することにより、精子凍結保存用容器として、当該ゼラチンゲルビーズ(ゲル芯)の溶解により形成された液体芯と、当該液体芯を被覆するアルギン酸ゲル膜(ゲル殻)とから構成されるAGカプセルを得た。
そして、上述のようにして製造された5個のCMCカプセル、5個の0.6%AGカプセル、及び5個の1.0%AGカプセルのそれぞれについて、インジェクションピペットを、そのゲル殻を介して液体芯中に刺し込むことができるかどうかを検討した。なお、全ての例において、インジェクションピペットの操作は、顕微授精に慣れた胚培養士が行った。
その結果、0.6%AGカプセル及び1.0%AGカプセルの全てについて、インジェクションピペットを、そのゲル殻(アルギン酸ゲル膜)に貫通させることができなかった。すなわち、AGカプセルのゲル殻に刺したインジェクションピペットは、その先端部が当該ゲル殻を貫通する前に曲がってしまい、使用することができなくなってしまった。
これに対し、CMCカプセルについては、5個のCMCカプセルのうち、3個のCMCカプセルについて、インジェクションピペットをそのゲル殻(CMCゲル膜)に貫通させることができた。
以上より、CMCカプセルもまた、インジェクションピペットを使用して、その液体芯に精子を注入することが可能と考えられた。ただし、上述の実施例2のとおり、HAカプセルの方が、CMCカプセルに比べて、より効率よく、且つ確実に、精子の注入が可能であった。
[参考例]
[参考例]
液体芯と、当該液体芯を被覆するアガロースゲル膜(ゲル殻)とから構成される精子保存用容器を製造した。すなわち、まず上述の実施例2におけるヒアルロン酸誘導体の製造と同様に、アルギン酸(アルギン酸ナトリウム、I−1G、Kimica社製)に、架橋性官能基としてフェノール基を化学的に導入することにより、アルギン酸誘導体(架橋性アルギン酸)を製造した。具体的に、アルギン酸及びチラミン塩酸塩を50mMのMES緩衝液(pH6)にそれぞれ0.5%(w/v)及び4.5%(w/v)となるように溶解させた。次いで、得られた溶液に、さらに水溶性カルボジイミド及びヒドロキシスクシイミドをそれぞれ25.2mM及び12.6mMとなるように溶解させ、25℃で20時間撹拌した。そして、透析膜(分画分子量10,000〜20,000)を用いた精製水中での透析を行った後に、溶液を凍結真空乾燥することにより、アルギン酸鎖とフェノール基とを含むアルギン酸誘導体を得た。次いで、得られたアルギン酸誘導体0.6(w/v)と、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ100U/mLとを含み、カルシウムを含まないKrebs Ringer Hepes緩衝液(CF−KRH、pH7.4)を調製した。
一方、上述の実施例2と同様に、21Gシリンジ内に、26Gシリンジを配置することで、二重管構造を形成した。そして、上述の実施例2と同様に、26Gシリンジ内にCF−KRHを4.5mL/hの流速で流すとともに、当該26Gシリンジと21Gシリンジとの間に、上述の実施例2と同様に調製した過酸化水素含有流動パラフィンにさらにレシチンを3%(w/w)添加して得られた過酸化水素及びレシチン含有流動パラフィンを4.2mL/minの流速で流して、当該CF−KRHを、当該26Gシリンジの当該先端部から、当該流動パラフィン中に流出させた。こうして、流動パラフィン中に分散された球状のアルギン酸ゲルビーズ(ゲル芯)を形成した。その後、得られたアルギン酸ゲルビーズをCF−KRHと混合し、次いで遠心分離することにより回収した。
また、CF−KRHにアガロース(Sigma社製、Low gelling temperature)を4.0%(w/v)で分散させ、電子レンジで加温して溶解させることにより、40℃のアガロース溶液を調製した。
次いで、上述のようにして製造したアルギン酸ゲルビーズと、上記40℃のアガロース溶液とを体積比1:20(アルギン酸ゲルビーズ:アガロース溶液)にて混合することにより、当該アルギン酸ゲルビーズを含むアガロース溶液を調製した。
そして、上述の実施例2と同様に、21Gシリンジ内に、26Gシリンジを配置することで形成された二重管構造において、当該26Gシリンジ内にアルギン酸ゲルビーズ含有アガロース溶液を4.5mL/hの流速で流すとともに、当該26Gシリンジと21Gシリンジとの間に3%(w/w)のレシチンを含有する流動パラフィンを4.2mL/minの流速で流して、当該アルギン酸ゲルビーズ含有アガロース溶液を、当該26Gシリンジの先端から、レシチン含有流動パラフィン中に流出させた。そして、得られたエマルションを冷却することにより、レシチン含有流動パラフィン中に分散された、アルギン酸ゲルビーズ(ゲル芯)と、当該アルギン酸ゲルビーズを被覆するアガロースゲル膜(ゲル殻)とから構成される球状の複合ゲルビーズを形成した。得られた複合ゲルビーズを遠心分離により回収した。
その後、回収された複合ゲルビーズを、0.2mg/mLのアルギン酸リアーゼを含むCF−KRHで1時間保持して、当該複合ゲルビーズ内部のアルギン酸ゲルビーズを分解することにより、精子凍結保存用容器として、当該アルギン酸ゲルビーズの分解により生成された液体芯と、当該液体芯を被覆するアガロースゲル膜(ゲル殻)とから構成されるアガロースカプセルを得た。こうして製造されたアガロースカプセルの直径は、約150μmであり、アガロースゲル膜の厚さは、10μm〜30μmであった。
次に、アガロースカプセルをアガラーゼと接触させた。すなわち、上述のようにして製造された約200個のアガロースカプセルを、0.2mLのCF−KRHに分散することにより、アガロースカプセル含有CF−KRHを調製した。次いで、このアガロースカプセル含有CF−KRH0.2mLに、市販のアガラーゼ(Thermostable β−Agarase、株式会社ニッポンジーン製)を30U/mL添加した。そして、アガロースカプセルとアガラーゼとを含むCF−KRHを37℃で5時間インキュベートした。
しかしながら、5時間のインキュベート後においても、アガロースカプセルには何らの変化も見られなかった。すなわち、アガロースカプセルは、アガラーゼによって分解されなかった。
なお、使用されたアガラーゼは、50℃〜60℃で最大活性を示すものであったが、そのマニュアル(ウェブサイト(http://www.nippongene.com/pdf/manual/man_Thermostable_B_Agarase_ver4.pdf)で入手可能)によれば、37℃でも当該最大活性の約半分の活性を示すものであった。また、上記マニュアルでは、200mgのアガロースゲルブロックに対して、6μUのアガラーゼを使用し、50℃〜60℃にて10分で当該アガロースゲルブロックを分解することが記載されていた。
Claims (10)
- 下記(a)〜(f):
(a)グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻と、前記ゲル殻に被覆された液体芯とを有する容器を用意すること;、
(b)前記容器の前記液体芯に精子を注入して、前記精子を保持した前記容器を得ること;、
(c)前記精子を保持した前記容器を凍結保存すること;、
(d)凍結保存後の前記容器を解凍すること;、
(e)解凍後の前記容器の前記ゲル殻を、前記グリコサミノグリカン鎖を分解する酵素及び/又は前記セルロース鎖を分解する酵素で処理して、前記ゲル殻の少なくとも一部を分解すること;及び
(f)前記ゲル殻の分解後に、前記容器に保持されていた前記精子を回収すること;
を含む
ことを特徴とする精子凍結保存方法。 - 前記ゲル殻は、ヒアルロン酸鎖を含み、
解凍後の前記容器の前記ゲル殻を、前記ヒアルロン酸鎖を分解する酵素で処理する
ことを特徴とする請求項1に記載の精子凍結保存方法。 - 下記(a)〜(g):
(a)グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻と、前記ゲル殻に被覆された液体芯とを有する容器を用意すること;、
(b)前記容器の前記液体芯に精子を注入して、前記精子を保持した前記容器を得ること;、
(c)前記精子を保持した前記容器を凍結保存すること;、
(d)凍結保存後の前記容器を解凍すること;、
(e)解凍後の前記容器の前記ゲル殻を、前記グリコサミノグリカン鎖を分解する酵素及び/又は前記セルロース鎖を分解する酵素で処理して、前記ゲル殻の少なくとも一部を分解すること;、
(f)前記ゲル殻の分解後に、前記容器に保持されていた前記精子を回収すること;及び
(g)回収された前記精子を使用して体外受精を行うこと;
を含む
ことを特徴とする体外受精方法。 - 前記体外受精は、顕微授精である
ことを特徴とする請求項3に記載の体外受精方法。 - グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻と、
前記ゲル殻に被覆された、精子を保持するための液体芯と、
を有する
ことを特徴とする精子凍結保存用容器。 - 前記ゲル殻は、ヒアルロン酸鎖を含む
ことを特徴とする請求項5に記載の精子凍結保存用容器。 - 前記容器の平均直径は、10μm以上、3000μm以下である
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の精子凍結保存用容器。 - 請求項1乃至4のいずれかに記載の方法に使用される
ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の精子凍結保存用容器。 - ゲル殻と、前記ゲル殻に被覆された液体芯と、を有する精子凍結保存用容器の製造方法であって、
下記(x)〜(z):
(x)精子を含まない、溶解可能なゲル芯を形成すること;、
(y)前記ゲル芯を被覆する、グリコサミノグリカン鎖及び/又はセルロース鎖を含むゲル殻を形成すること;及び
(z)前記ゲル殻に被覆された前記ゲル芯を溶解することにより、精子を含まない前記液体芯を形成すること;
を含む
ことを特徴とする精子凍結保存用容器の製造方法。 - 前記ゲル殻は、ヒアルロン酸鎖を含む
ことを特徴とする請求項9に記載の精子凍結保存用容器の製造方法。
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