まず、第1の実施の形態について説明する。
図1〜図3は第1の実施の形態に係る誘電体共振器の構成例を示す図である。
図1には、第1の実施の形態に係る誘電体共振器の一例の要部斜視模式図を図示している。
図1に示す誘電体共振器1は、上下方向Sに対向する一対の導体板10及び導体板20と、これらの導体板10と導体板20との間に設けられた誘電体円柱30とを含む。図1に示す誘電体共振器1は更に、対向する導体板10と導体板20との間に設けられ、誘電体円柱30が非接触で貫通する円孔41を有する導体板40と、その導体板40を支持する支持体50とを含む。ここでは支持体50の一例として、円孔41を有する導体板40の平面と直交するように立てられ、互いに対向する位置に設けられた、一対の板状の支持体50を図示している。
図2(A)には、図1に示す誘電体共振器1を上下方向Sに、対向する支持体50を含むような位置で切断した時の断面模式図を図示している。図2(B)には、図1に示す誘電体共振器1を上下方向Sに、対向する支持体50を含まないような位置で切断した時の断面模式図を図示している。図3には、図1に示す誘電体共振器1を、上下の導体板10と導体板20とに挟まれた導体板40の平面に沿って左右方向Tに切断した断面を、下側の導体板20に向かって見た時の平面模式図を図示している。
図1〜図3に示すような誘電体共振器1において、導体板10及び導体板20には、例えば、平面円形状の導体板が用いられる。導体板10及び導体板20の厚みは特に限定されるものではない。例えば、数μm〜数mm程度の厚みの導体板10及び導体板20が、誘電体共振器1に用いられる。
導体板10及び導体板20は、互いの平面がそれぞれ誘電体円柱30の上端面31及び下端面32と対向するように設けられる。例えば、一方の導体板10が、誘電体円柱30の上端面31と接触するように設けられ、他方の導体板20が、誘電体円柱30の下端面32と接触するように設けられる。
導体板10及び導体板20は、誘電体円柱30の上端面31及び下端面32よりも大きな平面サイズ、例えば、縁端効果が無視できる程度に充分大きな平面サイズとされる。例えば、平面円形状の導体板10及び導体板20の場合、互いの直径がそれぞれ誘電体円柱30の直径Dの3倍以上となるような平面サイズとされる。
導体板10及び導体板20には、例えば、導電率等の特性値の測定対象となる銅板等の導体板(被測定導体板)や、物性値が既知である無酸素銅板等の導体板(物性値既知導体板)が用いられる。この場合、導体板10及び導体板20は、例えば誘電体共振器1を用いた測定の目的によって、いずれも被測定導体板としたり、或いはいずれも物性値既知導体板としたり、或いはまた、一方を被測定導体板とし、他方を物性値既知導体板としたりすることができる。
誘電体共振器1の誘電体円柱30には、各種セラミック円柱が用いられる。例えば、(Zr,Sn)TiO4セラミック円柱、Ba(Sn,Mg,Ta)O3セラミック円柱、サファイア円柱等が、誘電体共振器1の誘電体円柱30として用いられる。
誘電体共振器1では、誘電体円柱30の材質、サイズ(直径D及び高さL)によって共振周波数fが異なってくる。そのため、例えば誘電体共振器1を用いた測定で使用する周波数帯域に基づいて、誘電体円柱30の材質、サイズが決定される。
誘電体共振器1の導体板40は、その円孔41に誘電体円柱30が非接触で貫通するように、導体板10と導体板20との間、例えば導体板10と導体板20との中間位置に、設けられる。導体板40は、例えば、誘電体円柱30の上下に設けられる導体板10及び導体板20に電気的に接続される。導体板40を導体板10及び導体板20に電気的に接続することで、導体板40に流れる電流を、導体板10又は導体板20或いはそれらの双方に導く(逃がす)。
導体板40には、誘電体円柱30の上下の導体板10及び導体板20と同様に、平面円形状の導体板が用いられる。導体板40の厚みは特に限定されるものではない。例えば、数μm〜数mm程度の厚みの導体板40が、誘電体共振器1の導体板10と導体板20との間に設けられる。導体板40には、誘電体円柱30の上下の導体板10及び導体板20と同様に、銅板等が用いられる。例えば、導体板40には、平面円形状の無酸素銅板が用いられる。導体板40は、導体板10及び導体板20の平面サイズと同等の平面サイズ(外形サイズ)とされる。尚、導体板40は、導体板10及び導体板20と同等の平面サイズであれば、平面円形状に限らず、平面矩形状等、他の平面形状であってもよい。
誘電体円柱30が非接触で貫通する導体板40の円孔41は、その内縁41aが、誘電体円柱30の側端面33から一定距離だけ離間するような内径(直径)で、設けられる。導体板40の円孔41の内径は、誘電体共振器1を用いた測定時に誘電体円柱30の側端面33付近に生じて当該側端面33から離れるにつれて低下する電界(電場)の、その低下の程度に基づいて、設定することができる。例えば、導体板40の円孔41の内径は、誘電体円柱30の直径Dの1.5倍以上に設定される。
誘電体共振器1の支持体50は、導体板40を支持し、導体板40を、誘電体円柱30を挟む導体板10と導体板20との間に保持する。例えば、支持体50は、導体板40の平面と直交するような平面を持った板状とされ、導体板40と固定されることで、導体板40を支持する。例えば、支持体50の上端は、誘電体円柱30の上側に設けられる導体板10に接触され、支持体50の下端は、誘電体円柱30の下側に設けられる導体板20に接触される。導体板40は、支持体50で支持されることにより、導体板10及び導体板20からそれぞれ所定の距離だけ離れた位置、例えば導体板10及び導体板20からそれぞれ等距離の位置(即ち、導体板10と導体板20との中間位置)に、精度良く保持される。
支持体50は、例えば、導電性とされる。この場合、導電性の支持体50が、上記のように導体板40に固定されてこれを支持し、例えば上記のようにその上端及び下端がそれぞれ導体板10及び導体板20に接触されることで、導体板40と、導体板10及び導体板20とを電気的に接続する。
尚、導体板40は、必ずしも支持体50を通じて導体板10及び導体板20に電気的に接続されることを要しない。例えば、導体板40が支持体50以外の導体部材(図示せず)によって導体板10及び導体板20に電気的に接続されるような構成とすることもできる。このような構成とする場合には、支持体50に絶縁体を用いることもできる。
また、ここでは板状の支持体50を例示したが、支持体50は、板状に限らず、ブロック状やピン状といった、他の形状とすることもできる。
上記のような構成を有する誘電体共振器1に対し、励振及び検波が行われ、共振周波数f及び無負荷Q値の測定が行われる。
図4は第1の実施の形態に係る誘電体共振器を用いた測定時の状態の一例を示す図である。図4には、誘電体共振器を用いた測定時の要部斜視模式図を図示している。
測定時には、図4に示すように、誘電体共振器1の、導体板10及び導体板20に挟まれた誘電体円柱30の近傍に、励振線60が設けられる。誘電体共振器1には、例えば、一対の励振線60が、誘電体円柱30を挟んで対向する位置に、設けられる。励振線60には、例えば、同軸ケーブル61の先端部にループアンテナ62を形成したものが用いられる。このような励振線60が、例えば導体板40と導体板20との間の、誘電体円柱30の近傍に、先端部のループアンテナ62が位置するように、設けられる。
励振線60は、ここでは図示を省略するが、その同軸ケーブル61が、ネットワークアナライザに接続される。ネットワークアナライザが用いられ、同軸ケーブル61を通じてループアンテナ62に所定の高周波信号が印加され、ループアンテナ62との磁界結合により、誘電体共振器1の励振が行われる。また、誘電体共振器1との磁界結合により、ループアンテナ62から同軸ケーブル61を通じて検波が行われる。ループアンテナ62と誘電体円柱30とが所定の距離で配置され、励振線60を用いてこのような励振及び検波が行われることで、誘電体共振器1についての周波数特性(周波数とS21等のSパラメータとの関係)が測定される。
測定される周波数特性に基づき、誘電体共振器1における所定の共振モード、この例ではTE0mnモード(m,nは自然数)の共振周波数f及び無負荷Q値が求められる。また、得られる所定の共振モードの共振周波数f及び無負荷Q値に基づき、誘電体共振器1に関する各種特性値、例えば、誘電体円柱30の誘電率ε、誘電損失tanδ、導体板10又は導体板20の表面抵抗Rs及び導電率σが求められる。
尚、誘電体共振器1の、導体板40を支持する支持体50を導電性としている場合、支持体50は、励振線60の電界から可能な限り離した位置に設けることが望ましい。例えば、平面視で、一対の支持体50が対向する方向と、一対の励振線60が対向する方向とが、直交するような配置とされる。これにより、導電性の支持体50による影響を抑えて励振線60を用いた励振及び検波を行うことが可能になる。
以上述べたように、第1の実施の形態に係る誘電体共振器1では、誘電体円柱30を挟む導体板10と導体板20との間に、誘電体円柱30が非接触で貫通するような円孔41を設けた導体板40が配置される。第1の実施の形態に係る誘電体共振器1では、このような導体板40が配置されることで、所定の共振モードについて適正な共振周波数f及び無負荷Q値を求めることができ、更にそれらを用いて誘電体共振器1の各種特性値を適正に求めることができる。以下、この点について更に説明する。
まず、第1の実施の形態に係る誘電体共振器1との比較のため、別形態に係る誘電体共振器について述べる。
図5〜図7は別形態に係る誘電体共振器の構成例を示す図である。
図5には、別形態に係る誘電体共振器の一例の要部斜視模式図を図示している。
図5に示す誘電体共振器100は、上記のような円孔41を有する導体板40及びそれを支持する支持体50が設けられていない点で、第1の実施の形態に係る誘電体共振器1と相違する。
図6には、図5に示す誘電体共振器100を上下方向Sに切断した時の断面模式図を図示している。図7には、図5に示す誘電体共振器100の導体板10と導体板20との中間位置を左右方向Tに切断した断面を、下側の導体板20に向かって見た時の平面模式図を図示している。
この別形態に係る誘電体共振器100の導体板10及び導体板20並びにそれらに挟まれる誘電体円柱30には、第1の実施の形態に係る誘電体共振器1と同じものを用いることができる。
図8は別形態に係る誘電体共振器を用いた測定時の状態の一例を示す図である。図8には、誘電体共振器を用いた測定時の要部斜視模式図を図示している。
測定時には、図8に示すように、誘電体共振器100の、導体板10及び導体板20に挟まれた誘電体円柱30の近傍に、上記同様、同軸ケーブル61の先端部にループアンテナ62を形成した励振線60が設けられる。例えば、一対の励振線60が用いられ、誘電体共振器100の励振及び検波が行われ、その周波数特性(周波数とSパラメータの関係)が測定される。測定される周波数特性に基づき、誘電体共振器1における所定の共振モード、この例ではTE0mnモード(m,nは自然数)の共振周波数f及び無負荷Q値が求められる。
別形態に係る誘電体共振器で測定される周波数特性の一例を図9に示す。図9において、横軸は周波数[GHz]を表し、縦軸はS21[dB]を表している。
例えば、この図9に示すような周波数特性から、誘電体共振器100(図5〜図8)のTE011モードの共振周波数f及び無負荷Q値が求められる。しかし、誘電体共振器100では、共振周波数f及び無負荷Q値を求めるのに用いるTE011モードのほかにも、HE111モードやHE211モードといった他の共振モードも発生する。共振周波数f及び無負荷Q値を求めるのに用いる共振モード(測定共振モード)以外の共振モードは、謂わば、目的の共振周波数f及び無負荷Q値を求めるうえでは不要な共振モード(不要共振モード)である。
尚、測定共振モードであるTEモードは、誘電体円柱30付近の比較的狭い領域に、上下方向Sに回転するような磁場(磁界)が発生する共振モードである。また、不要共振モードであるHEモードは、誘電体円柱30から外側の比較的広い領域に、上下方向Sに回転するような磁場が発生する共振モードである。
測定共振モードとその他の不要共振モードとの、互いの共振周波数fが重なったり狭い周波数帯域に混在したりすると、測定共振モードについて適正な共振周波数fが求められないことが起こり得る。不要共振モードの影響で、測定共振モードについて適正な共振周波数fが求められないと、無負荷Q値のほか、その他の各種特性値も適正に求められない可能性が生じる。誘電体共振器100において、このような不要共振モードの影響を回避するためには、測定共振モードと不要共振モードの互いの共振周波数fが明確に分離されるように、そのサイズや形状を設定する必要が生じる。
このような誘電体共振器100のサイズや形状による共振モードの分離は、比較的不要共振モードが少ない1次、2次といった低次モードでは有効となり得る。しかし、3次、4次、5次といった、より高次モードになると、測定共振モードの共振周波数fが含まれる比較的狭い周波数帯域に多数の不要共振モードが混在してしまい、やはり測定共振モードの適正な共振周波数fが求められないことが起こり得る。
一方、図10は第1の実施の形態に係る誘電体共振器で測定される周波数特性の一例である。図10において、横軸は周波数[GHz]を表し、縦軸はS21[dB]を表している。
例えば、この図10に示すような周波数特性から、誘電体共振器1(図1〜図4)のTE011モードの共振周波数f及び無負荷Q値が求められる。誘電体共振器1では、図10に示すように、測定共振モードであるTE011モードは上記図9と同様に明確に存在する一方、TE011モード付近の不要共振モードであるHE111モード及びHE211モードが消失或いは低減される。このように誘電体共振器1では、測定共振モードを残し、不要共振モードを選択的に消失或いは低減させることで、測定共振モードについて適正な共振周波数fを求めることが可能になる。それにより、無負荷Q値、その他の各種特性値も適正に求めることが可能になる。
誘電体共振器1において、このような不要共振モードの選択的な消失或いは低減は、誘電体円柱30を挟む導体板10と導体板20との間に配置される、円孔41を設けた導体板40によって実現されている。
ここで、図5〜図8に示したような別形態に係る誘電体共振器の電磁界解析結果の一例を図11に、図1〜図4に示したような第1の実施の形態に係る誘電体共振器の電磁界解析結果の一例を図12に、それぞれ示す。図11及び図12において、(A)はHE211モードに関する電磁界解析結果の一例、(B)はTE011モードに関する電磁界解析結果の一例である。
電磁界解析(シミュレーション)において、導体板10及び導体板20は、直径50mm、厚さ2mmの無酸素銅板としている。誘電体円柱30は、直径(D)11.80mm、高さ(L)6.74mm、高さ方向をC軸とするサファイア円柱としている。導体板40は、直径50mm、内径23.60mmの無酸素銅板とし、対向する一対の支持体50はいずれも、高さ6.74mm、幅14mmの無酸素銅板としている。
別形態に係る誘電体共振器100(図5〜図8)では、図11(B)に示すように、測定共振モードであるTE011モードの磁場が、誘電体円柱30の側端面33付近の比較的狭い領域に発生する。このTE011モードの共振周波数fは10.7GHz、無負荷Q値は8068である。そして、この誘電体共振器100では、図11(A)に示すように、不要共振モードの1つであるHE211モードの磁場が、誘電体円柱30から導体板20(又は導体板10)の外側の比較的広い領域に発生する。このHE211モードの共振周波数fは11.2GHz、無負荷Q値は20054である。
一方、第1の実施の形態に係る誘電体共振器1(図1〜図4)では、図12(B)に示すように、測定共振モードであるTE011モードの磁場が、誘電体共振器100(図11(B))と同様に、誘電体円柱30の側端面33付近に発生する。誘電体共振器1において、TE011モードの磁場は、主に平面視で導体板40の円孔41より内側の領域に発生する。誘電体共振器1でのTE011モードの共振周波数fは10.7GHz、無負荷Q値は8069で、誘電体共振器100の時と同等の値となる。そして、この誘電体共振器1では、図12(A)に示すように、不要共振モードの1つであるHE211モードの磁場が発生していない或いは殆ど発生していないことが分かる。
図13は誘電体円柱端からの距離と磁場強度との関係の一例を示す図である。図13において、横軸は誘電体円柱端からの距離[mm]を表し、縦軸は磁場強度[A/m]を表している。
図13には、別形態に係る誘電体共振器100(図5〜図8)及び第1の実施の形態に係る誘電体共振器1(図1〜図4)において、誘電体円柱30の直径Dを12mmとした時の、その側端面33からの距離と、HE211モードの磁場強度との関係を例示している。図13に示す実線Xは、誘電体共振器100における、誘電体円柱30の側端面33からの距離とHE211モードの磁場強度との関係である。図13に示す点線Yは、誘電体共振器1における、誘電体円柱30の側端面33からの距離とHE211モードの磁場強度との関係である。
誘電体共振器100では、図13の実線Xに示すように、誘電体円柱30の側端面33(0mm)におけるHE211モードの磁場強度が比較的高く、誘電体円柱30から離れるにつれて徐々にHE211モードの磁場強度が低くなっていく。
一方、誘電体共振器1では、図13の点線Yに示すように、誘電体円柱30の側端面33(0mm)におけるHE211モードの磁場強度が、誘電体共振器100の場合に比べて極めて低くなる。誘電体共振器1におけるHE211モードの磁場強度は、そのような誘電体円柱30の側端面33での低い状態から、誘電体円柱30から離れるにつれて更に低くなり、一定距離以降ほぼ0になる。
第1の実施の形態に係る誘電体共振器1では、導体板10と導体板20とに挟まれる誘電体円柱30が非接触で円孔41を貫通する導体板40を設け、この導体板40を、導体板10及び導体板20に電気的に接続する。この構成により、図11〜図13に見られるように、不要共振モードが選択的に消失或いは低減される。即ち、円孔41により、誘電体円柱30付近に発生する測定共振モード(TE011モード)の磁場への影響を抑えつつ、円孔41外側の部分により、誘電体円柱30外側のより広い領域で上下方向Sに回転するような不要共振モード(HE211モード)の磁場を遮断する。このような不要共振モードの磁場の遮断によって導体板40に流れる電流は、導体板40に電気的に接続される導体板10又は導体板20に逃がされる。尚、導体板40を、導体板10と導体板20との中間(各々から等距離)の位置に配置すると、不要共振モードであるHEモードの磁場が効果的に遮断される。
第1の実施の形態に係る誘電体共振器1によれば、測定共振モードを残し、不要共振モードを選択的に消失或いは低減させた周波数特性(図10)の測定が可能になる。これにより、測定共振モードについて適正な共振周波数fを求め、無負荷Q値、その他の各種特性値を適正に求めることが可能になる。
このような誘電体共振器1において、誘電体円柱30を非接触で貫通させる導体板40の円孔41の内径は、誘電体円柱30の周囲に発生する電界に基づいて設定することができる。
図14は誘電体円柱端からの距離と電界強度との関係の一例を示す図である。図14において、横軸は誘電体円柱端からの距離[mm]を表し、縦軸は電界強度[V/m]を表している。
図14には、第1の実施の形態に係る誘電体共振器1(図1〜図4)において、誘電体円柱30の直径Dを12mmとした時の、その側端面33からの距離と、TE011モードの電界強度との関係を例示している。
誘電体共振器1では、図14に示すように、TE011モードの電界強度が、誘電体円柱30の側端面33(0mm)で最も高く、誘電体円柱30から離れるにつれて徐々に低くなっていく。測定共振モードであるTE011モードについて得られる、この図14に示すような関係に基づき、導体板40に設ける円孔41の内径を設定する。例えば、誘電体円柱30の側端面33から、当該側端面33における電界強度の1/10以下の電界強度になる位置よりも外側に内縁41aが位置するように、円孔41の内径を設定する。
図14の例では、誘電体円柱30の側端面33からの距離が6mmで、TE011モードの電界強度が、側端面33での電界強度の1/10以下になっているので、側端面33から6mm以上に内縁41aが位置するように、円孔41の内径を設定する。図14の例では、誘電体円柱30の直径Dが12mmであるので、その側端面33から6mm以上に内縁41aが位置する円孔41は、その中心を誘電体円柱30と同じにした場合、内径が18mmとなる。導体板40の円孔41の内径は、それを貫通させる誘電体円柱30の直径の1.5倍(18mm/12mm)以上に設定すればよい。
このように導体板40の円孔41を、測定共振モードの電界強度分布に基づき、電界強度が誘電体円柱30の側端面33よりも一定レベル以上低くなる位置に内縁41aが存在するような内径に設定する。これにより、測定共振モードの電場(電界)に及ぼす影響を抑えつつ、円孔41を設けた導体板40を配置することができる。
以上説明したように、第1の実施の形態に係る誘電体共振器1では、誘電体円柱30を挟む導体板10と導体板20との間に、誘電体円柱30が非接触で貫通する円孔41を設けた導体板40を配置し、これを導体板10及び導体板20に電気的に接続する。この導体板40の円孔41で、誘電体円柱30付近に発生する測定共振モードの電磁場への影響を抑えつつ、円孔41外側の部分で、誘電体円柱30外側のより広い領域で上下方向Sに回転するような不要共振モードの磁場を遮断し、これを消失或いは低減させる。不要共振モードの磁場の遮断によって導体板40に流れる電流は、導体板40に電気的に接続される導体板10又は導体板20に逃がされる。
第1の実施の形態に係る誘電体共振器1によれば、不要共振モードを選択的に消失或いは低減させた周波数特性の測定が可能になり、測定共振モードの共振周波数f、無負荷Q値、その他の各種特性値を適正に求めることが可能になる。
例えば、測定共振モードの共振周波数f及び無負荷Q値に基づき、誘電体円柱30の誘電率ε、誘電損失tanδ、導体板10又は導体板20の表面抵抗Rs及び導電率σが求められる。
一例として、無負荷Q値は、測定される周波数特性から、測定共振モードの波形とその共振周波数fに基づき、半値幅(半値全幅)法によって算出される。誘電率ε及び誘電損失tanδが既知でない場合、これらは、誘電体円柱30の直径D及び高さL、共振周波数f、無負荷Q値等に基づいて算出される。また、TE0mnモードを測定共振モードとした測定では、励振線60から高周波信号を印加した際、誘電体円柱30の上端面31と導体板10との界面、誘電体円柱30の下端面32と導体板20との界面に、電流が集中的に分布する。測定される周波数特性から得た測定共振モードの共振周波数f及び無負荷Q値に基づき、導体板10の、誘電体円柱30の上端面31側の面、或いは、導体板20の、誘電体円柱30の下端面32側の面について、表面抵抗Rsが算出され、導電率σが算出される。適正な周波数特性が測定され、測定共振モードの適正な共振周波数fが求められることで、無負荷Q値、誘電体円柱30の誘電率ε、誘電損失tanδ、導体板10又は導体板20の表面抵抗Rs及び導電率σが適正に求められる。
次に、第2の実施の形態について説明する。
上記第1の実施の形態においては、導体板40を支持する導電性の支持体50を、上下の導体板10及び導体板20の双方に接触させ、その支持体50で導体板40と導体板10及び導体板20とを電気的に接続する一形態を例示した。このほか、支持体50は、導体板10及び導体板20のうちの一方にのみ接触させ、当該一方と導体板40とを支持体50で電気的に接続する形態とすることもできる。このような形態を、ここでは第2の実施の形態として説明する。
図15は第2の実施の形態に係る誘電体共振器の構成例を示す図である。図15には、第2の実施の形態に係る誘電体共振器の一例の要部断面模式図を図示している。
尚、図15(A)は、上記図2(A)と同様に、第2の実施の形態に係る誘電体共振器1Aを上下方向に、対向する支持体50を含むような位置で切断した時の断面模式図である。図15(B)は、上記図2(B)と同様に、第2の実施の形態に係る誘電体共振器1Aを上下方向に、対向する支持体50を含まないような位置で切断した時の断面模式図である。
図15に示す誘電体共振器1Aは、導体板40を支持する支持体50が、誘電体円柱30を挟む導体板10及び導体板20のうち、下側の導体板20にのみ接触する点で、上記第1の実施の形態に係る誘電体共振器1と相違する。誘電体共振器1Aにおいて、支持体50は導電性とされ、それによって導体板40と下側の導体板20とが電気的に接続される。尚、導体板40は、支持体50以外の導体部材を用いて導体板20又は導体板10に電気的に接続されてもよい。
この第2の実施の形態に係る誘電体共振器1Aでは、支持体50の高さに要求される精度を低減することが可能になる。
例えば、導体板10を被測定導体板とする場合、適正な周波数特性を得るためには、導体板10を誘電体円柱30の上端面31に対して高い精度で平行に配置することが望ましい。ここで、導体板10と導体板20との間に、円孔41を設けた導体板40を配置するために、導体板40を支持体50で支持し、その支持体50を導体板10及び導体板20に接触させて電気的に接続する形態を採用する場合を想定する。この場合、導体板10と導体板20との間隔よりも高背の支持体50が1つでも存在すると、その高い支持体50の上端に導体板10が当接し、導体板10が誘電体円柱30の上端面31に対して傾いてしまうことが起こり得る。
これに対し、第2の実施の形態に係る誘電体共振器1Aでは、支持体50を導体板10と導体板20との間隔(この例では誘電体円柱30の高さL)よりも低背にして、支持体50と導体板10とを非接触とし、導体板10を誘電体円柱30の上端面31で支持する。このようにして導体板10を誘電体円柱30の上端面31に対して平行に配置し、それにより、適正な周波数特性を得る。この誘電体共振器1Aでは、支持体50の高さを、導体板10と導体板20との間隔に高精度に一致させることを要しないため、支持体50の高さに要求される精度が低減される。
このような誘電体共振器1Aによっても、上記第1の実施の形態で述べたのと同様の効果が得られる。即ち、誘電体共振器1Aでは、導体板10と導体板20との間に、誘電体円柱30が非接触で円孔41を貫通する導体板40を配置し、これを一方の導体板20に電気的に接続する。これにより、導体板40の円孔41で、誘電体円柱30付近に発生する測定共振モードの磁場への影響を抑えつつ、円孔41外側の部分で、誘電体円柱30外側のより広い領域で上下方向Sに回転するような不要共振モードの磁場を遮断する。更に、円孔41の内径を適切に設定することで、導体板40が測定共振モードの電場に及ぼす影響を抑える。不要共振モードの磁場の遮断によって導体板40に流れる電流は、導体板40に電気的に接続される導体板20に逃がす。
これにより、測定共振モードを残し、不要共振モードを選択的に消失或いは低減させた周波数特性の測定が可能になり、測定共振モードの共振周波数f、無負荷Q値、その他の各種特性値を適正に求めることが可能になる。
次に、第3の実施の形態について説明する。
図16は第3の実施の形態に係る誘電体共振器の構成例を示す図である。図16には、第3の実施の形態に係る誘電体共振器の一例の要部断面模式図を図示している。
尚、図16(A)は、上記図2(A)と同様に、第3の実施の形態に係る誘電体共振器1Bを上下方向に、対向する支持体50を含むような位置で切断した時の断面模式図である。図16(B)は、上記図2(B)と同様に、第3の実施の形態に係る誘電体共振器1Bを上下方向に、対向する支持体50を含まないような位置で切断した時の断面模式図である。
図16に示す誘電体共振器1Bは、導体板10と導体板20との間隔(この例では誘電体円柱30の高さL)よりも低背の支持体50と、導体板10との間に、高さ調整部材70が設けられている点で、上記第2の実施の形態に係る誘電体共振器1Aと相違する。
高さ調整部材70には、導体板10及び導体板20並びに支持体50よりも柔らかく、一定の押圧力で変形する弾性材料又は塑性材料が用いられる。図16では便宜上、高さ調整部材70を概念的に図示しているが、高さ調整部材70には、コイルバネや板バネ等のバネ(スプリング)、ゴム、樹脂、樹脂とフィラーを含む樹脂組成物等を用いることができる。
高さ調整部材70には、導電性を持たせることができる。支持体50が導電性とされ、且つ、高さ調整部材70も導電性とされる場合には、その導電性の高さ調整部材70で導体板10と支持体50とが電気的に接続され、それによって導体板40と導体板10及び導体板20とが電気的に接続される。尚、導体板40は、支持体50及び高さ調整部材70以外の導体部材を用いて導体板10又は導体板20に電気的に接続されてもよい。
この第3の実施の形態に係る誘電体共振器1Bでは、導体板10と導体板20との間隔よりも低背の支持体50を用いることで、上記第2の実施の形態で述べたように、支持体50の高さに要求される精度を低減することが可能になる。
更に、この誘電体共振器1Bでは、導体板10と支持体50との間にできるギャップが、両者に挟持される高さ調整部材70の変形によって、埋められる。導体板10は、その中心部を誘電体円柱30の上端面31で支持されると共に、その中心部外側の部位を高さ調整部材70で支持される。これにより、誘電体円柱30の上端面31に対する導体板10の平行度を効果的に確保し、維持することが可能になる。
このような誘電体共振器1Bによっても、上記第1及び第2の実施の形態で述べたのと同様に、測定共振モードを残し、不要共振モードを選択的に消失或いは低減させた周波数特性を測定し、測定共振モードの共振周波数f等を適正に求めることが可能になる。
尚、ここでは上側の導体板10と支持体50との間に高さ調整部材70を配置する場合を例示したが、支持体50の上端を上側の導体板10に当接させるようにし、支持体50の下端と下側の導体板20との間に高さ調整部材70を配置することもできる。更に、上側の導体板10と支持体50との間、及び下側の導体板20と支持体50との間の双方に、高さ調整部材70を配置することもできる。このような高さ調整部材70の配置形態によっても、上記同様の効果を得ることが可能である。
また、上記第1の実施の形態で述べた誘電体共振器1において、その支持体50に、その上端及び下端がそれぞれ接触する導体板10及び導体板20よりも柔らかい変形性材料を用いた場合も、この第3の実施の形態で述べたのと同様の効果を得ることが可能である。
次に、第4の実施の形態について説明する。
図17〜図20は第4の実施の形態に係る誘電体共振器の構成例を示す図である。図17〜図20にはそれぞれ、第4の実施の形態に係る誘電体共振器の一例の要部断面模式図を図示している。
尚、図17〜図20はそれぞれ、上記図2(B)と同様に、第4の実施の形態に係る誘電体共振器1C〜1Fを上下方向に、対向する支持体50を含まないような位置で切断した時の断面模式図である。
図17に示す誘電体共振器1Cは、絶縁層11の表面に設けられた導体板10と、絶縁層21の表面に設けられた導体板20との間に、誘電体円柱30が挟まれた構成を有する。誘電体円柱30の上端面31に、絶縁層11の表面に設けられた導体板10が接触され、誘電体円柱30の下端面32に、絶縁層21の表面に設けられた導体板20が接触される。このような導体板10と導体板20との間に、ここでは図示されない支持体50で支持された、円孔41を有する導体板40が配置される。誘電体円柱30は、その導体板40の円孔41を非接触で貫通するように配置される。
周波数特性や共振周波数f等の各種特性値の取得に用いる被測定導体板、物性値既知導体板として、この誘電体共振器1Cのような、絶縁層11の表面に設けられた導体板10、絶縁層21の表面に設けられた導体板20を用いてもよい。このような誘電体共振器1Cによっても、導体板10又は導体板20の表面(誘電体円柱30側の面)の導電率を測定することができる。
尚、誘電体共振器1Cでは、導体板40と、導体板10又は導体板20との電気的な接続を、ここでは図示されない導電性の支持体50と、導体板10又は導体板20との接触によって、或いは支持体50以外の導体部材によって、実現することができる。
また、図18に示す誘電体共振器1Dは、誘電体円柱30の上端面31及び下端面32にそれぞれ、表面に導体板10が設けられた絶縁層11及び表面に導体板20が設けられた絶縁層21が接触される点で、上記図17に示した誘電体共振器1Cと相違する。
導体板10及び導体板20はそれぞれ、この誘電体共振器1Dのように、絶縁層11及び絶縁層21を介して誘電体円柱30の上端面31及び下端面32に対向させるようにすることもできる。誘電体共振器1Dでは、導体板10及び導体板20に流れる高周波電流が、主にそれぞれ絶縁層11及び絶縁層21との界面に分布することを利用し、当該界面の導電率を測定することができる。
尚、誘電体共振器1Dでは、ここでは図示されない支持体50が、絶縁層11と絶縁層21との間に配置されるため、導体板40の、導体板10又は導体板20との電気的な接続は、支持体50の上下端とそれらの対向部位との直接接触によっては実現されない。導体板40は、支持体50以外の導体部材によって導体板10又は導体板20に電気的に接続される。
また、図19に示す誘電体共振器1Eは、誘電体円柱30の端面の一方側、例えば、上端面31側を、単体の導体板10としている点で、上記図18に示した誘電体共振器1Dと相違する。
この誘電体共振器1Eのように、単体の導体板10と、絶縁層21の表面に設けられた導体板20との組み合わせで共振器が構成されてもよい。誘電体共振器1Eでは、導体板20と絶縁層21との界面の導電率、或いは導体板10の表面(誘電体円柱30側の面)の導電率を測定することができる。
尚、誘電体共振器1Eでは、導体板40を、ここでは図示されない支持体50を導体板10に接触させることによって導体板10に、或いは支持体50以外の導体部材によって導体板10又は導体板20に、電気的に接続することができる。
また、図20に示す誘電体共振器1Fは、誘電体円柱30の上端面31側に、一定のギャップ34を設けて導体板10を配置している点で、上記図19に示した誘電体共振器1Eと相違する。誘電体共振器1Fでは、ギャップ34を調整することで、所定の共振モードの共振周波数をシフトさせることができる。また、ギャップ34を調整することで、誘電体円柱30の上端面31の粗さや高さLのばらつきの補償、上端面31と導体板10との平行度合わせ等を行うことができる。このような誘電体共振器1Fによっても、導体板20と絶縁層21との界面の導電率等を測定することができる。
尚、誘電体共振器1Fでは、導体板40を、ここでは図示されない支持体50を導体板10に接触させることによって導体板10に、或いは支持体50以外の導体部材によって導体板10又は導体板20に、電気的に接続することができる。
図17〜図20に例示したような誘電体共振器1C〜1Fにおいては、上記第2の実施の形態で述べた例に従い、導体板40を支持する、ここでは図示されない支持体50を、誘電体円柱30よりも低背なものとしてもよい。また、そのように支持体50を低背なものとしたうえで、その上端側又は下端側に、上記第3の実施の形態で述べた例に従い、高さ調整部材70を挿入してもよい。支持体50を低背なものとすることで、またその上端側又は下端側に高さ調整部材70を挿入することで、支持体50に要求される精度の低減、導体板10等の平行度の確保及び維持といった、上記第2及び第3の実施の形態で述べたような効果が得られる。
以上、第1〜第4の実施の形態について説明した。
以上の説明では、一対の支持体50で導体板40を支持する形態を例示したが、支持体50の数は、これに限定されるものではなく、円孔41を設けた導体板40を支持可能であれば、1つでもよく、また3つ以上でもよい。
また、以上の説明では、円孔41を設けた導体板40を、導体板10及び導体板20の双方、或いはそれらのうちのいずれか一方に、電気的に接続する形態を例示した。このほか、導体板40は、そこに流れる電流を導体板40の外に逃がすことが可能であれば、導体板10及び導体板20以外の他の導体部材、導体板10及び導体板20とは電気的に独立した他の導体部材に、電気的に接続することもできる。
また、以上の説明では、円孔41を設けた導体板40を例示したが、導体板40を誘電体円柱30が非接触で貫通し、その導体板40で不要共振モードを選択的に消失或いは低減できるものであれば、導体板40の設ける孔の平面形状は、円形には限定されない。
以上、第1〜第4の実施の形態で述べたような誘電体共振器1,1A,1B,1C,1D,1E,1F等は、2誘電体共振器法(JIS R 1627,IEC 61338-1-3)、1誘電体共振器2モード法(JIS H 7307,IEC 61788-7)のいずれにも採用することが可能である。
次に、第5の実施の形態について説明する。
ここでは、以上述べたような誘電体共振器を用いた測定装置及び測定方法の一例を、第5の実施の形態として説明する。
図21は第5の実施の形態に係る測定装置の構成例を示す図である。
測定装置80は、誘電体共振器81、測定部82及び処理部83を含む。
誘電体共振器81には、上記第1〜第4の実施の形態で述べた誘電体共振器1,1A,1B,1C,1D,1E,1F等が用いられる。即ち、一対の導体板10及び導体板20と、それらの間に設けられた誘電体円柱30と、誘電体円柱30が非接触で貫通する円孔41を備え導体板10及び導体板20の少なくとも一方に電気的に接続された導体板40とを含むものが用いられる。
測定部82は、誘電体共振器81の周波数特性を測定する。測定部82は、誘電体共振器81に対する励振及び検波を行い、周波数と、S21等のSパラメータとの関係を示す周波数特性を測定する。
処理部83は、測定部82で測定された周波数特性に基づき、測定共振モードであるTE0mnモードの共振周波数f及び無負荷Q値を算出する処理を実行する。
測定装置80では、その誘電体共振器81に、上記のような導体板40を設けたものが用いられることで、測定部82において、HE211モード等の不要共振モードが消失或いは低減された周波数特性が得られる。これにより、処理部83において、測定共振モードの適正な共振周波数fが算出され、更に、適正な無負荷Q値が算出される。
以下、測定装置の一例について説明する。
図22は第5の実施の形態に係る測定装置の一例を示す図である。
図22に示す測定装置90は、誘電体共振器91、ネットワークアナライザ92及び処理装置93を含む。
図22には誘電体共振器91として、上記第1の実施の形態で述べた誘電体共振器1を例示している。尚、誘電体共振器91には、このほか、第2〜第4の実施の形態で述べたような誘電体共振器1A,1B,1C,1D,1E,1F等を用いることもできる。
ここでは便宜上、誘電体共振器91の、誘電体円柱30の上側の導体板10を、測定対象である被測定銅板とし、誘電体円柱30の下側の導体板20を、物性値が既知の無酸素銅板とする。
誘電体共振器91(1)の、誘電体円柱30の近傍には、一対の励振線60が設けられる。各励振線60は、同軸ケーブル61とその一端部に設けられたループアンテナ62とを有し、ループアンテナ62が誘電体円柱30の近傍に配置され、他端部がネットワークアナライザ92に接続される。誘電体共振器91の励振及び検波は、このようなループアンテナ62を有する励振線60を用いた磁界結合によって行われる。励振線60のループアンテナ62の位置は、測定装置90により自動で、或いは、測定者により手動で、調整される。
ネットワークアナライザ92は、一方の励振線60(ポート1)から誘電体共振器91への高周波信号の入力、誘電体共振器91から当該一方の励振線60に反射される高周波信号の検出、誘電体共振器91から他方の励振線60(ポート2)に出力される高周波信号の検出を行う。ネットワークアナライザ92は、高周波信号の入力及び検出の結果に基づき、S21等のSパラメータを算出する。このようなネットワークアナライザ92が、処理装置93に接続される。
処理装置93は、入力部93a、取得部93b、第1算出部93c、第2算出部93d、記憶部93e及び出力部93fを含む。
入力部93aには、被測定銅板(導体板10)の導電率σの算出に用いられる各種情報が入力される。例えば、誘電体共振器91の誘電体円柱30の直径D及び高さL等のほか、後述のような導電率σの算出処理に用いられる各種物性値、定数、特性式等の情報が入力される。
取得部93bは、ネットワークアナライザ92で得られた、周波数とSパラメータ(例えばS21)との関係、即ち、誘電体共振器91の周波数特性の情報を取得する。
第1算出部93cは、取得部93bで取得された周波数特性の情報に基づき、測定共振モードの共振周波数f及び無負荷Q値を算出する。一例として、第1算出部93cは、周波数特性の情報から、測定共振モードの共振周波数fを得て、その測定共振モードの波形の半値全幅Wを求めて、無負荷Q値を算出する。所謂2ポート法では、Q=f/Wに従い、無負荷Q値を算出することができる。尚、第1算出部93cは、無負荷Q値を複数回算出し、それらの平均値を得ることもできる。
第2算出部93dは、第1算出部93cで算出された共振周波数f及び無負荷Q値(又は無負荷Q値の平均値)の情報に基づき、誘電体共振器91の導体板10(被測定銅板)の導電率σを算出する。ここで、まず第2算出部93dが行う導電率σの算出の原理について述べる。
被測定銅板(導体板10)の表面抵抗Rsは、次の式(1)で表される。
Rs=2πf3μ0ε0εrL3/〔n2(1+FG)〕×〔1/Q×(1+FG/εr)−tanδ〕・・・(1)
ここで、fはTE0mnモードの共振周波数、QはTE0mnモードの無負荷Q値、εrは比誘電率、ε0は真空の誘電率、μ0は真空の透磁率(4π×10-7H/m)、Lは誘電体円柱30の高さである。F,Gは、それぞれ次の式(2),(3)で表される。
F=J1 2(α)/〔J1 2(α)−J0(α)J2(α)〕・・・(2)
G=K0(β)/〔K2(β)−K1(β)K1 2(β)〕・・・(3)
ここで、J0(α)及びJ1(α)は第1種ベッセル関数、K0(β)及びK1(β)は第2種ベッセル関数であり、α及びβは更に、次の式(4)〜(6)で表される。
α=(2πD/λ0)×〔εr−(λ0/λg)2〕1/2・・・(4)
β=(2πD/λ0)×〔(λ0/λg)−1〕1/2・・・(5)
λ0=c/f,λg=2L/n・・・(6)
ここで、λ0は共振波長、λgは伝搬波長、cは光速、Dは誘電体円柱30の直径である。
被測定銅板(導体板10)の導電率σは、次の式(7)で表される。
σ=πfμ/(σ0Rs2)・・・(7)
ここで、μは被測定銅板の透磁率、σ0は万国標準軟銅の導電率(5.8×107S/m)である。尚、被測定銅板のような非磁性体では比透磁率(μr=μ/μ0)は1である。
誘電率εは、誘電体円柱30の直径D、高さL、及び共振周波数fから算出される。誘電損失tanδは、無負荷Q値を用いて算出されるか、或いは、誘電体円柱30について予め取得された値が用いられる。導電率σは、tanδ,D,L,f,Q,nに依存し、f,Q以外は既知の値か、或いは既知の値とf,Qから求めることができるため、f,Qが測定により得られれば、得られたそのf,Qに基づいて導電率σを得ることができる。
処理装置93の第2算出部93dは、第1算出部93cで算出された共振周波数f及び無負荷Q値の情報を用い、上記原理に基づき、式(7)に示される被測定銅板(導体板10)の導電率σを算出する。
記憶部93eは、第2算出部93dでの導電率σの算出に用いられる各種情報を記憶する。例えば、記憶部93eは、取得部93bで取得される周波数特性の情報、第1算出部93cで算出される共振周波数f及び無負荷Q値の情報を記憶する。また、記憶部93eは、第1算出部93c及び第2算出部93dによって算出される導電率σのその算出過程で用いられる各種物性値、定数、特性式の情報、導電率σの算出過程で得られる算出値の情報、算出の結果得られる導電率σの情報等を記憶する。
出力部93fは、第2算出部93dで算出された導電率σの情報、或いは算出されて記憶部93eに記憶された導電率σの情報を、例えば、モニタ等の表示装置に出力する。出力部93fは、導電率σのほか、周波数特性、共振周波数f、無負荷Q値等の情報を出力することもできる。
図23は第5の実施の形態に係る測定方法の一例を示す図である。
上記図22に示すような構成を有する測定装置90を用いた測定では、まず、誘電体共振器91(この例では上記第1の実施の形態で述べた誘電体共振器1)が準備される。例えば、被測定銅板の導体板10と、無酸素銅板の導体板20との間に、所定の誘電体円柱30、及びその誘電体円柱30が非接触で貫通する円孔41を有し支持体50で支持される導体板40を設け、誘電体共振器91(1)を組み立てる(図1〜図3)。導体板40は、例えば支持体50を通じて導体板10及び導体板20に電気的に接続される。このような誘電体共振器91の、誘電体円柱30の近傍に、自動で或いは手動で、励振線60を配置する(図4)。
このようにして準備された誘電体共振器91に対し、測定装置90は、ネットワークアナライザ92により、励振線60を通じて誘電体共振器91の励振及び検波を行い、周波数特性、例えば周波数とS21との関係を測定する(ステップS1)。
次いで、測定装置90は、処理装置93の取得部93bにより、ネットワークアナライザ92で測定された周波数特性の情報を取得する(ステップS2)。
次いで、測定装置90は、処理装置93の第1算出部93cにより、取得部93bで取得された周波数特性の情報に基づき、測定共振モードであるTE0mnモードの共振周波数f及び無負荷Q値を算出する(ステップS3)。
次いで、測定装置90は、処理装置93の第2算出部93dにより、第1算出部93cで算出された共振周波数f及び無負荷Q値の情報に基づき、上記原理に従い、被測定銅板の導体板10の導電率σを算出する(ステップS4)。
測定装置90は、導電率σの算出に用いられる各種情報、及び算出された導電率σの情報を、記憶部93eにより記憶する(ステップS5)。
また、測定装置90は、算出された導電率σを、出力部93fにより、モニタ等の表示装置に出力する(ステップS6)。
測定装置90は、このような処理を実行し、誘電体共振器91の導体板10(被測定銅板)の導電率σを取得する。
測定装置90では、誘電体共振器91として、誘電体円柱30が非接触で円孔41を貫通し、導体板10及び導体板20の少なくとも一方に電気的に接続された導体板40を設けたものが用いられる。測定時には、この導体板40により、不要共振モードが選択的に消失或いは低減されるため、所定の測定共振モード、即ちTE0mnモードについて、適正な共振周波数f及び無負荷Q値を得ることができる。その結果、それらを用いて算出される導電率σについても、適正な値を得ることができる。
例えば、近年のプリント基板の信号は、高速化が進み、GHz帯の伝送速度になっている。高速伝送が可能なプリント基板の設計においては、伝送損失を適正に見積もることが重要になる。伝送損失の要因の1つとして、プリント基板の、配線等の導体部の導電率σが挙げられる。高周波における導電率σには、主に導体部表面に電流が集中する表皮効果と、導体部表面の凹凸形状が影響してくる。そのため、伝送損失はプリント基板毎に異なる可能性があり、伝送損失に影響し得る導体部の導電率σは、プリント基板毎に適正に測定できることが望ましい。
GHz帯域における導電率σの測定手法として、誘電体共振器を用いたものが知られているが、前述のように、測定共振モードのほかに不要共振モードが混在して発生すると、適正な共振周波数f、無負荷Q値、導電率σが得られない可能性が生じる。
これに対し、上記のような導体板40を用いた誘電体共振器91によれば、不要共振モードを選択的に消失或いは低減し、適正な共振周波数f、無負荷Q値、導電率σを得ることが可能になる。上記測定装置90及びそれを用いた測定方法によれば、適正な共振周波数f、無負荷Q値、導電率σを得て、プリント基板の、配線等の導体部の伝送損失を適正に見積もり、高速伝送が可能なプリント基板の設計に貢献することができる。
尚、共振周波数f及び無負荷Q値は、前述のような2ポート法のほか、所謂1ポート法によって求めることもできる。この場合は、ネットワークアナライザ92を用い、SパラメータとしてS11を求め、周波数とS11との関係を取得する。この関係に基づき、測定共振モードの共振周波数fを得て、その測定共振モードの波形の半値全幅Wを求めて、無負荷Q値を算出する。1ポート法では、Q=2×f/Wに従い、無負荷Q値を算出することができる。
また、上記のような測定装置90が備える処理装置93の処理機能は、コンピュータを用いて実現することができる。
図24はコンピュータのハードウェアの構成例を示す図である。
コンピュータ200は、プロセッサ201によって制御される。プロセッサ201には、バス209を介してRAM(Random Access Memory)202と複数の周辺機器が接続されている。プロセッサ201は、マルチプロセッサであってもよい。プロセッサ201には、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又はPLD(Programmable Logic Device)等が用いられる。
RAM202は、コンピュータ200の主記憶装置である。RAM202には、プロセッサ201に実行させるOS(Operating System)のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAM202には、プロセッサ201による処理に必要な各種データが格納される。
バス209に接続される周辺機器としては、HDD(Hard Disk Drive)203、グラフィック処理装置204、入力インタフェース205、光学ドライブ装置206、機器接続インタフェース207及びネットワークインタフェース208がある。
HDD203は、内蔵したディスクに対して、磁気的にデータの書き込み及び読み出しを行う。HDD203は、コンピュータ200の補助記憶装置である。HDD203には、OSのプログラム、アプリケーションプログラム、及び各種データが格納される。尚、補助記憶装置として、フラッシュメモリ等の半導体記憶装置が用いられてもよい。
グラフィック処理装置204には、モニタ211が接続される。グラフィック処理装置204は、プロセッサ201からの命令に従って、画像をモニタ211の画面に表示させる。
入力インタフェース205には、キーボード212とマウス213とが接続される。入力インタフェース205は、キーボード212やマウス213から送られてくる信号をプロセッサ201に送信する。尚、マウス213は、ポインティングデバイスの一例であり、タッチパネル、タブレット、タッチパッド、トラックボール等の他のポインティングデバイスが用いられてもよい。
光学ドライブ装置206は、レーザ光等を利用して、光ディスク214に記録されたデータの読み取りを行う。光ディスク214には、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD−RAM、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD−R(Recordable)/RW(ReWritable)等がある。
機器接続インタフェース207は、コンピュータ200に周辺機器を接続するための通信インタフェースである。例えば、機器接続インタフェース207には、メモリ装置215やメモリリーダライタ216が接続される。メモリ装置215は、機器接続インタフェース207との通信機能を搭載した記録媒体である。メモリリーダライタ216は、カード型の記録媒体であるメモリカード217へのデータの書き込み、又はメモリカード217からのデータの読み出しを行う装置である。
ネットワークインタフェース208は、ネットワーク210に接続される。ネットワークインタフェース208は、ネットワーク210を介して、他のコンピュータ又は通信機器との間でデータの送受信を行う。
以上のようなハードウェア構成によって、測定装置90が備える処理装置93の処理機能を実現することができる。
コンピュータ200は、例えば、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムを実行することにより、測定装置80,90の処理機能を実現する。当該プログラムは、様々な記録媒体に記録しておくことができる。例えば、コンピュータ200に実行させるプログラムをHDD203に格納しておくことができる。プロセッサ201は、HDD203内のプログラムの少なくとも一部をRAM202にロードし、プログラムを実行する。また、コンピュータ200に実行させるプログラムを、光ディスク214、メモリ装置215、メモリカード217等の可搬型記録媒体に記録しておくこともできる。可搬型記録媒体に格納されたプログラムは、例えば、プロセッサ201からの制御により、HDD203にインストールされた後、実行可能となる。また、プロセッサ201が可搬型記録媒体から直接プログラムを読み出して実行することもできる。
以上説明した実施の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) 第1導体板と、
前記第1導体板に対向する第2導体板と、
前記第1導体板と前記第2導体板との間に設けられる誘電体円柱と、
前記第1導体板と前記第2導体板との間に設けられ、前記誘電体円柱が非接触で貫通する孔を有する第3導体板と
を含むことを特徴とする誘電体共振器。
(付記2) 前記第3導体板は、前記第1導体板と前記第2導体板の少なくとも一方に電気的に接続されることを特徴とする付記1に記載の誘電体共振器。
(付記3) 前記第1導体板と前記第2導体板との間に設けられ、前記第3導体板を支持して前記第1導体板及び前記第2導体板の各々から所定距離の位置に保持する支持体を更に含むことを特徴とする付記1又は2に記載の誘電体共振器。
(付記4) 前記支持体が導電性を有し、前記支持体を用いて、前記第1導体板と前記第2導体板の少なくとも一方と、前記第3導体板とが電気的に接続されることを特徴とする付記3に記載の誘電体共振器。
(付記5) 前記第1導体板と前記第2導体板の少なくとも一方と前記支持体との間隙に設けられた高さ調整部材を更に含むことを特徴とする付記3又は4に記載の誘電体共振器。
(付記6) 前記支持体及び前記高さ調整部材が導電性を有し、
前記支持体及び前記高さ調整部材を用いて、前記第1導体板と前記第2導体板の少なくとも一方と、前記第3導体板とが電気的に接続されることを特徴とする付記5に記載の誘電体共振器。
(付記7) 前記誘電体円柱の近傍に設けられる励振線を更に含むことを特徴とする付記1乃至6のいずれかに記載の誘電体共振器。
(付記8) 前記第1導体板、前記第2導体板及び前記第3導体板の外形サイズが同じであることを特徴とする付記1乃至7のいずれかに記載の誘電体共振器。
(付記9) 前記孔の内径は、前記誘電体円柱の直径の1.5倍以上であることを特徴とする付記1乃至8のいずれかに記載の誘電体共振器。
(付記10) 第1導体板と、
前記第1導体板に対向する第2導体板と、
前記第1導体板と前記第2導体板との間に設けられる誘電体円柱と、
前記第1導体板と前記第2導体板との間に設けられ、前記誘電体円柱が非接触で貫通する孔を有する第3導体板と
を含む誘電体共振器と、
前記誘電体共振器の周波数特性を測定する測定部と、
前記測定部で測定された前記周波数特性に基づいて共振周波数及び無負荷Q値を算出する処理部と
を含むことを特徴とする測定装置。
(付記11) 前記第3導体板は、前記第1導体板と前記第2導体板の少なくとも一方に電気的に接続されることを特徴とする付記10に記載の測定装置。
(付記12) 前記処理部は更に、算出された前記共振周波数及び前記無負荷Q値に基づいて前記第1導体板の導電率を算出することを特徴とする付記10又は11に記載の測定装置。
(付記13) 第1導体板と、
前記第1導体板に対向する第2導体板と、
前記第1導体板と前記第2導体板との間に設けられる誘電体円柱と、
前記第1導体板と前記第2導体板との間に設けられ、前記誘電体円柱が非接触で貫通する孔を有する第3導体板と
を含む誘電体共振器の周波数特性を測定し、
測定された前記周波数特性に基づいて共振周波数及び無負荷Q値を算出することを特徴とする測定方法。
(付記14) 前記第3導体板は、前記第1導体板と前記第2導体板の少なくとも一方に電気的に接続されることを特徴とする付記13に記載の測定方法。
(付記15) 算出された前記共振周波数及び前記無負荷Q値に基づいて前記第1導体板の導電率を算出することを特徴とする付記13に記載の測定方法。