図1〜図3には、本発明の一実施形態の外燃式ロータリーエンジンを示している。以下においては、外燃式ロータリーエンジンを、単に「ロータリーエンジン」と称する。
本実施形態のロータリーエンジンは、ハウジング1と、ハウジング1に収容されたローター2(図3参照)を備える、二節三葉のバンケル型のロータリーエンジンである。
本実施形態のロータリーエンジンは、ハウジング1の外面13に装着された第一制御弁31と、ハウジング1の外面13に装着された第二制御弁32と、第一制御弁31と第二制御弁32を開閉駆動させる連動機構6を、更に備える。
まず、ハウジング1の構成について説明する。
図3に示すように、ハウジング1には、ローター2を収容可能な内部空間S1を設けている。内部空間S1は、ハウジング1の内面14に囲まれる空間である。
ハウジング1の内面14は、ペリトロコイド曲線に沿って形成される繭型の断面形状を有する。即ち、ハウジング1の内面14に囲まれる内部空間S1は、中央にくびれ部分を設けた繭型の断面形状を有する。
内部空間S1は、互いに直交する長手方向d1と短手方向d2を有する。内部空間S1は、長手方向d1の一方の半部に第一空間S11を有し、長手方向d2の他方の半部に第二空間S12を有する。第一空間S11と第二空間S12の境界領域に、くびれ部分が位置する。
本実施形態では、内部空間S1の長手方向d1が、ハウジング1の上下方向であり、内部空間S1の短手方向d2が、ハウジング1の左右方向である。
ハウジング1は、内部空間S1に連通する第一導入路111、第一排出路112、第二導入路121及び第二排出路122を、更に備える。
第一導入路111と第一排出路112は、内部空間S1のうち第一空間S11と連通する位置にある。第二導入路121と第二排出路122は、内部空間S1のうち第二空間S12と連通する位置にある。第一導入路111と第二排出路122が長手方向d1に並んで位置し、第一排出路112と第二導入路121が長手方向d1に並んで位置する
次に、ローター2の構成について説明する。
図3に示すように、ローター2の外面21は、ペリトロコイド曲線の内包絡線に沿って形成される略三角形状の断面形状を有する。外面21の断面形状は、正三角形の各辺を膨らませたような形状である。外面21は、三箇所の頂部22を有する。本実施形態では、ローター2が有する三箇所の頂点にそれぞれ設けたシールによって、三箇所の頂部22を形成している。
ローター2は、ニードルベアリング42を介して、駆動軸4が有する偏心部41まわりに回転自在である。偏心部41は、駆動軸4の回転中心A1から所定の偏心量E1だけ偏心した円柱状の形状を有する。
ローター2は、三箇所の頂部22をハウジング1の内面14に接触させながら、回転中心A1から所定の偏心量E1で偏心回転することができる。ローター2とハウジング1の間の空間は、ローター2の三箇所の頂部22を境として、三つの作動室に区分される。
本実施形態において、ローター2を偏心回転させるために内部空間S1に供給する蒸気は、水、代替フロン系冷媒、アンモニア等の低沸点の作動流体を、加熱により蒸発させた蒸気である。即ち、蒸気は、水を蒸発させたものに限らない。蒸気は、第一導入路111と第二導入路121を通じて内部空間S1に導入される。
第一導入路111を通じて内部空間S1(第一空間S11)に導入された蒸気は、前記三つの作動室のいずれかを経由して、第一排出路112から排出される。第二導入路121を通じて内部空間S1(第二空間S12)に導入された蒸気は、前記三つの作動室のいずれかを経由して、第二排出路122から排出される。
このときの蒸気の圧力がローター2に作用することで、ローター2は回転方向r2に偏心回転する。ローター2の偏心回転は、駆動軸4の回転中心A1まわりの回転として出力される。回転方向r2を基準としたとき、第一導入路111、第一排出路112、第二導入路121及び第二排出路122は、この順に位置する。
次に、第一制御弁31と第二制御弁32の構成について説明する。
本実施形態のロータリーエンジンにおいては、第一制御弁31と第二制御弁32を備え、蒸気を内部空間S1に供給するタイミングや供給量を制御することで、エネルギー効率を向上させる。
第一制御弁31は、ローター2の偏心回転に連動して第一導入路111を開閉し、内部空間S1の第一空間S11に蒸気を供給するタイミングや供給量を制御する。第二制御弁32は、ローター2の偏心回転に連動して第二導入路121を開閉し、内部空間S1の第二空間S12に蒸気を供給するタイミングや供給量を制御する。
第一制御弁31と第二制御弁32は共に、図4A〜図4Eに示す弁装置5を用いて構成する。
以下、弁装置5の構造について説明する。
図4A〜図4Eに示すように、本実施形態の弁装置5は、蒸気を内部511に導入するように設けた円筒状の筒体51と、筒体51を収容するケース52を備える。ケース52内において、筒体51は軸まわりに回転自在である。
図5A〜図5Dに示すように、筒体51は、軸方向の一方が開口し、軸方向の他方が閉塞した有底円筒状の形状を有する。筒体51の前記開口が、筒体51の軸方向に沿って蒸気を導入する導入口514である。
筒体51は更に、径方向に貫通する一対の通気孔512と、径方向に貫通する一対の補助通気孔513を有する。
通気孔512は、筒体51を構成する周壁515の一部の領域(以下「第一領域」という。)において、軸方向に並んで位置する矩形状の孔である。補助通気孔513は、周壁515のうち前記第一領域とは別の領域(以下「第二領域」という。)において、軸方向に並んで位置する。
前記第一領域と前記第二領域は、周壁515において周方向に距離を隔てて位置する。前記第一領域にある通気孔512と、前記第二領域にある補助通気孔513とは、筒体51の内部511を挟んで互いに反対側に位置する。各補助通気孔513は、各通気孔512よりも大幅に小さな開口面積を有する。
通気孔512は一対に限定されず、一つ或いは三以上の複数でもよい。同じく、補助通気孔513は一対に限定されず、一つ或いは三以上の複数でもよい。
図4A〜図4Eに示すように、ケース52は、筒体51を回転自在に収容することのできる断面円形状の収容空間521を備える。ケース52は、収容空間521に連通する一対のポート522と、開口524を有する。
一対のポート522は、ケース52を構成する周壁525を、径方向に貫通する。一対のポート522は、軸方向に並んで位置する。一対のポート522は、筒体51が所定の回転位置にあるときに、筒体51が有する一対の通気孔512と一対一で連通する。ポート522は一対に限定されず、一つ或いは三以上の複数でもよい。
開口524は、ケース52の軸方向に貫通し、筒体51の回転位置に関わらず、筒体51が有する導入口514と連通する。
本実施形態の弁装置5においては、ケース52に対する筒体51の回転位置が、通気孔512とポート522が連通する回転位置であるときに、蒸気を通過させる開弁状態となる。図4Cに白抜き矢印で示すように、蒸気は、軸方向に沿って弁装置5に導入され、径方向に沿って弁装置5から排出される。蒸気の導入方向と排出方向は、互いに直交する。
一方、ケース52に対する筒体51の回転位置が、通気孔512とポート522が連通しない回転位置であるときに、蒸気を遮断する閉弁状態となる。
更に、本実施形態の弁装置5においては、筒体51を無潤滑でも円滑に回転させるための構造として、筒体51とケース52の間に隙間53を形成し、隙間53に蒸気を送り込む流路54を設けている。
隙間53は、筒体51が周壁515に有する面516と、ケース52の内面との間に形成される。周壁515の面516は、周壁515の外面の一部を周囲よりも一段凹ませた面である。
図5Cに示すように、周壁515のうち面516以外の外面は、点P1を中心とした半径R1の断面円形状の形状を有する。周壁515の面516は、点P1を中心とした半径R2の断面円弧状の形状を有する。半径R2は、半径R1よりも僅かに小さく設けている。
筒体51の面516は、補助通気孔513と同じく前記第二領域に位置する。筒体51の面516とケース52の内面に囲まれる隙間53と、筒体51の前記第一領域に存在する通気孔512とは、筒体51の内部511を挟んで互いに反対側に位置する。
流路54は、筒体51の周壁515を径方向に貫通する。流路54の一端が筒体51の内部511に連通し、他端が隙間53に連通することができる。本実施形態では、一対の流路54を軸方向に距離をあけて設けているが、流路54は一つ或いは三以上の複数でもよい。
ケース52の内面には、隙間53の一部を径方向に拡張させる溝部523を、軸方向に距離をあけて一対設けている。溝部523は、収容空間521を挟んでポート522とは反対側に位置する。弁装置5が開弁しているとき、流路54は隙間53に連通する。特に、弁装置5が全開状態にあるとき、一対の流路54は、一対の溝部523に対して一対一で連通する。
したがって、本実施形態の弁装置5において、開弁時には、筒体51の内部511と隙間53とが、流路54を介して連通し、蒸気の一部が隙間53に送り込まれる。これにより、筒体51の内部511と隙間53の間に圧力差が生じることを抑制し、筒体51を回転させる際の抵抗を極小化することができ、筒体51を円滑に回転させることが可能となり、また、筒体51の摩耗を大幅に抑制することが可能となる。
仮に、隙間53や流路54を設けない場合は、筒体51の前記第一領域では通気孔512から蒸気が抜けていくのに対して、筒体51の前記第二領域には蒸気の圧力がかかり、ケース52に押し付けられる。これに対して、本実施形態の弁装置5では隙間53に蒸気を送り込むことで、筒体51をケース52に押し付ける力を極小化する。
なお、開弁時に隙間53からポート522に蒸気が漏れることを避けるため、溝部523を、ケース52の内面の周方向の一部にだけ形成し、溝部523とポート522の間には、周方向に十分な距離を設けている。また、筒体51の面516を周方向の一部にだけ形成し、面516と通気孔512の間には周方向に距離を設けている。
次に、連動機構6について説明する。
図1や図2に示す連動機構6は、弁装置5で構成した第一制御弁31と、同じく弁装置5で構成した第二制御弁32を、ローター2の偏心回転に連動して開閉駆動する機構である。
連動機構6は、駆動プーリー60、第一受動プーリー611、第一タイミングベルト612、第一アイドラー613、第二受動プーリー621、第二タイミングベルト622及び第二アイドラー623を備える。
駆動プーリー60は駆動軸4に固定されており、駆動プーリー60と駆動軸4は一体に回転する。
第一受動プーリー611は、第一制御弁31を構成する弁装置5に装着され、該弁装置5の筒体51と一体に回転する。第一タイミングベルト612は、駆動プーリー60と第一受動プーリー611との間に架け渡され、駆動プーリー60が一回転する毎に第一受動プーリー611を一回転させる。第一アイドラー613は、第一タイミングベルト612にテンションを与える。
第二受動プーリー621は、第二制御弁32を構成する弁装置5に装着され、該弁装置5の筒体51と一体に回転する。第二タイミングベルト622は、駆動プーリー60と第二受動プーリー621との間に架け渡され、駆動プーリー60が一回転する毎に第二受動プーリー621を一回転させる。第二アイドラー623は、第二タイミングベルト622にテンションを与える。
本実施形態の連動機構6を備えることで、駆動軸4を回転させる出力の一部を、第一制御弁31と第二制御弁32に分散して伝達し、各制御弁31,32を、ローター2の偏心回転とタイミングを合わせて開閉させることができる。
二節三葉のバンケル型のロータリーエンジンでは、ローター2が一回転する間に、駆動軸4が三回転する。したがって、連動機構6は、ローター2が内部空間S1内で一回転する毎に、第一制御弁31を構成する弁装置5の筒体51を三回転させるとともに、第二制御弁32を構成する弁装置5の筒体51を三回転させる。筒体51が一回転する毎に、弁装置5の開弁状態と閉弁状態が交互に切り替わる。
即ち、内部空間S1に形成される三つの作動室のそれぞれに対応して、弁装置5の筒体51が一回転し、弁装置5の開閉動作が一回行われることになる。
ところで、本実施形態のロータリーエンジンを始動させるタイミングで、第一制御弁31と第二制御弁32を構成する弁装置5が共に閉弁した状態にあると、ロータリーエンジンを始動せることができない虞がある。つまり、第一制御弁31と第二制御弁32が共に閉弁しており、内部空間S1に蒸気を供給することができないと、ローター2が回転を始めないことから、第一制御弁31と第二制御弁32は閉弁状態を維持し、ロータリーエンジンを始動させることができないという虞がある。
これに対して、本実施形態の弁装置5では、筒体51の通気孔512がポート522に連通しない閉弁状態で、通気孔512の反対側に位置する微小な補助通気孔513がポート522に連通し、補助通気孔513を通じて、閉弁状態であっても僅かな蒸気が内部空間S1に供給されるように設けている。
これにより、第一制御弁31と第二制御弁32が共に閉弁していても、本実施形態のロータリーエンジンを始動させることが可能である。なお、補助通気孔513は微小孔であるから、閉弁時の遮蔽性には殆ど影響を及ぼさない。
本実施形態のロータリーエンジンは、前記した各構成を具備することから、ローター2の偏心回転とタイミングを合わせて第一制御弁31と第二制御弁32を自動的に開閉させ、蒸気供給のタイミングや供給量をコントロールすることで、エネルギー効率を向上させることができる。
具体的には、第一制御弁31と第二制御弁32を用い、ローター2の死点付近では蒸気を十分に供給したうえで、適切なタイミングで蒸気の供給を中断することによって、ロータリーエンジンで生じるオーバーラップ現象とスルーパス現象を抑制し、且つ断熱膨張が生じる期間を増大させる。
以下においては、オーバーラップ現象の抑制について説明する。
図6Aと図6Bには、本実施形態の弁装置5を用いてオーバーラップ現象を抑える様子を、模式的に示している。
オーバーラップ現象は、第一導入路111と第二排出路122の間で生じ得る現象であり、同様に、第二導入路121と第一排出路112の間で生じ得る現象である。
第一導入路111と第二排出路122の間で生じるオーバーラップ現象は、ローター2の外面21とハウジング1の内面14との間に形成された作動室71が、第一導入路111と第二排出路122に連通するタイミングで、作動室71を介して、第一導入路111から第二排出路122に蒸気が抜ける現象である。ハウジング1の内面14は中央にくびれ部分を有するが、該くびれ部分とローター2との間には僅かな隙間が存在し、該隙間を通じて蒸気は移動可能である。第二導入路121と第一排出路112の間で生じるオーバーラップ現象も、同様のメカニズムである。
これに対して、本実施形態のロータリーエンジンでは、図6Aと図6Bに示すように、弁装置5で構成された第一制御弁31を第一導入路111に装着し、作動室71が第一導入路111と第二排出路122に連通するタイミングで、第一制御弁31が閉弁するように設けている。これにより、第一導入路111から第二排出路122に蒸気が抜けるオーバーラップ現象を抑え、エネルギー効率を向上させることができる。
図6Aと図6Bに示す回転方向r5は、筒体51が回転する方向である。図6Bは、第一制御弁31が開弁を始めるタイミングを示している。図6Bのように、ローター2が死点(上死点)付近にあり且つ作動室71の容積がなるべく小さいタイミングで、第一制御弁31が開弁を始め、これにより作動室71に蒸気を十分に供給し、適切なタイミングで蒸気の供給を中断することによって、供給する蒸気量を抑えながら効率的にローター2を回転させることが可能となる。
第二導入路121と第一排出路112の間でのオーバーラップ現象を抑えるために、第二制御弁32で第二導入路121を開閉するタイミングは、第一制御弁31と同様である。つまり、第一制御弁31の場合と同様であるため図示を省略しているが、ローター2とハウジング1の間に形成される作動室が、第二導入路121と第一排出路112に連通するタイミングで、第二制御弁32が閉弁するように設けることで、第二導入路121から第一排出路112に蒸気が抜けるオーバーラップ現象を抑え、エネルギー効率を向上させることができる。
図6Cには、第一制御弁31が開弁を始める別のタイミングを示している。図6Cに示すように、作動室71が第一導入路111と第二排出路122に連通する状態で、第一制御弁31が開弁を始めるように設定することも可能である。
図6Cに示すタイミングでは、オーバーラップ現象を防止できないように見えるが、第一制御弁31を開弁してから実際に蒸気が作動室71に流入するまでにはタイムラグがあり、また、筒体51が回転して通気孔512とポート522が完全に重なる(つまり弁装置5が全開になる)までにもタイムラグがあるため、実用的にはオーバーラップ現象を防止する効果が得られる。
一方、図6Cに示すタイミングで第一制御弁31が開弁を始めるように設定した場合には、死点付近で、高い圧力で作動室71に蒸気を供給することができ、給気時間も長くなるため、ローター2を効率的に回転させることができる。
なお、作動室71が第一導入路111と第二排出路122に連通する状態で、第一制御弁31が開弁を始めるように設定する場合、開弁を始めるタイミングは、駆動軸4の回転角を基準として、死点前約60°〜死点の間であることが好ましい。図6Cには、死点前60°の位置にあるローター2を想像線で示し、符号2Aを付している。同じく、死点の位置にあるローター2を想像線で示し、符号2Bを付している。
第一制御弁31を開弁してから実際に蒸気が作動室71に流入するまでのタイムラグは、蒸気として用いる作動流体の種類によって異なる。そのため、作動流体の種類に応じて、第一制御弁31が開弁を始めるタイミングを設定することが好ましい。
第二制御弁32においても、開弁後に蒸気が流入するまでのタイムラグを考慮して、第一制御弁31と同様のタイミングで開弁を始めることが可能である。
次に、スルーパス現象の抑制について説明する。
図7には、本実施形態の弁装置5を用いてスルーパス現象を抑える様子を、模式的に示している。
スルーパス現象は、第一導入路111と第一排出路112の間で生じ得る現象であり、同様に、第二導入路121と第二排出路122の間で生じ得る現象である。
第一導入路111と第一排出路112の間で生じるスルーパス現象は、ローター2の外面21とハウジング1の内面14との間に形成された作動室72が、第一導入路111と第一排出路112に連通するタイミングで、作動室72を介して、第一導入路111から第一排出路112に蒸気が抜ける現象である。第二導入路121と第二排出路122の間で生じるスルーパス現象も、同様のメカニズムである。
これに対して、本実施形態のロータリーエンジンでは、図7に示すように、弁装置5で構成された第一制御弁31を第一導入路111に装着し、作動室72が第一導入路111と第一排出路112に連通するタイミングで、第一制御弁31が閉弁するように設けている。これにより、第一導入路111から第一排出路112に蒸気が抜けるスルーパス現象を抑え、エネルギー効率を向上させることができる。図7中の回転方向r5は、筒体51が回転する方向である。
第二導入路121と第二排出路122の間でのスルーパス現象を抑えるために、第二制御弁32で第二導入路121を開閉するタイミングは、第一制御弁31と同様である。つまり、第一制御弁31の場合と同様であるため図示を省略しているが、ローター2とハウジング1の間に形成される作動室が、第二導入路121と第二排出路122に連通するタイミングで、第二制御弁32が閉弁するように設けることで、第二導入路121から第二排出路122に蒸気が抜けるスルーパス現象を抑え、エネルギー効率を向上させることができる。
次に、断熱膨張について説明する。
図8Aと図8Bには、本実施形態の弁装置5を用いて断熱膨張を生じさせる様子を、模式的に示している。
本実施形態のロータリーエンジンでは、図8Aや図8Bに示すように、弁装置5で構成された第一制御弁31を第一導入路111に装着しており、ローター2の外面21とハウジング1の内面14との間に形成される作動室73が、第一導入路111に連通し且つ第一排出路112に連通しない膨張過程にあるタイミングで、第一制御弁31が閉弁するように設けている。
これにより、作動室73において断熱膨張を生じさせ、エネルギー効率を向上させることができる。図8A、図8B中の回転方向r5は、筒体51が回転する方向である。
断熱膨張のために第一制御弁31を閉弁するタイミングは、駆動軸4の回転角を基準として、死点後約90°〜死点後約180°の間であることが好ましい。図8Aには、死点後90°の位置にあるローター2を想像線で示して符号2Cを付し、死点後180°の位置にあるローター2を想像線で示して符号2Dを付している。
第一制御弁31を閉弁するタイミングが早いと、断熱膨張の期間が長くなってエネルギー効率が向上する反面、出力は出にくくなる。閉弁のタイミングが遅いと、出力が出やすくなる反面、断熱膨張の期間が短くなってエネルギー効率は向上しにくくなる。閉弁のタイミングは、蒸気に用いる作動流体の種類も考慮して、出力とエネルギー効率が両立されるタイミングで設定することが好ましい。
断熱膨張を生じさせるために第二制御弁32を閉弁するタイミングは、第一制御弁31と同様である。つまり、第一制御弁31の場合と同様であるため図示を省略しているが、ローター2とハウジング1の間に、第二導入路121に連通し且つ第二排出路122に連通しない膨張過程の作動室が形成されるタイミングで、第二制御弁32を閉弁させることで、該作動室において断熱膨張を生じさせ、エネルギー効率を向上させることができる。
以上、説明したように、本実施形態のロータリーエンジンでは、第一制御弁31と第二制御弁32をハウジング1に装着し、これらをローター2の偏心回転に合わせたタイミングで開閉させることで、ローター2の死点付近では速やかに圧力を上げながら蒸気を供給し、更に、オーバーラップ現象を抑制するという第一の作用と、スルーパス現象を抑制するという第二の作用と、断熱膨張を生じさせるという第三の作用を、共に及ぼすように構成している。
このため、本実施形態のロータリーエンジンにおいては、定格出力時に必要な蒸気量を極力小さくし、且つ、最大出力を極力大きくすることができる。
スルーパス現象については、完全に防止することも可能である。また、第一制御弁31と第二制御弁32の開閉するタイミングを、前記した第一、第二及び第三の作用のうち、いずれか一つ又は二つを及ぼすように構成することも可能である。
また、本実施形態のロータリーエンジンでは、第一導入路111に第一制御弁31を装着し、第二導入路121に第二制御弁32を装着しているが、更に、第一排出路112に第三制御弁を装着するとともに第二排出路122に第四制御弁を装着し、第三及び第四制御弁を、ローター2の偏心回転に合わせて開閉するように構成することも可能である。第三及び第四制御弁は、第一及び第二制御弁31,32と同様に、弁装置5により構成することが可能である。また、第三及び第四制御弁を開閉駆動させるために、連動機構6と同様の機構を備えることも可能である。
第三及び第四制御弁を更に備えることで、蒸気を供給するタイミングと排出するタイミングを共に制御し、更にエネルギー効率を高めることができる。特に、オーバーラップ現象を完全に防止することが可能となる。
次に、本実施形態のロータリーエンジンの変形例について説明する。
図9A〜図9Cには、筒体51の変形例を示している。
この変形例では、筒体51に形成する一対の通気孔512を、共に五角形状に設けている。各通気孔512において、筒体51の回転方向r5に位置する端縁512aは一直線状であり、回転方向r5の逆方向に位置する端縁512bは、V字状である。
これに対して、ケース52に形成する一対のポート522は、共に矩形状である(図4A参照)。そのため、図9A〜図9Cに示す筒体51を用いて弁装置5を構成すれば、筒体51が回転方向r5に回転して開弁状態から閉弁状態に切り替わる際の振動を、抑制することができる。
つまり、通気孔512がV字状の端縁512bを有することで、開弁状態から閉弁状態に切り替わる際に、蒸気が急激に遮断されることを避け、弁装置5に生じる振動を抑制することができる。
なお、各通気孔512において、筒体51の回転方向r5に位置する端縁512aをV字状に設け、回転方向r5の逆方向に位置する端縁512bを一直線状に設けることも可能である。また、両側の端縁512a,512bをV字状に設けることも可能である。
通気孔512の端縁512aをV字状に設けた場合には、弁装置5が閉弁状態から開弁状態に切り替わる際の振動を、抑えることができる。
また、この変形例では、周壁515の面516以外の外面が、点P1を中心とした断面円形状の形状を有するのに対して、周壁515の面516は、点P2を中心とした断面円弧状の形状を有する(図9C参照)。点P1と点P2とは、偏心量E2だけ互いにずれて位置する。これにより、周壁515の面516は、周壁515の外面の一部を周囲よりも一段凹ませた面となっている。
次に、本実施形態のロータリーエンジンの特徴について、改めて述べる。
前述したように、本実施形態のロータリーエンジンは、内部空間S1を設けたハウジング1と、内部空間S1に収容されるローター2を具備する。ハウジング1は、内部空間S1に連通する第一導入路111、第一排出路112、第二導入路121及び第二排出路122を備える。
本実施形態のロータリーエンジンでは、第一導入路111を通じて内部空間S1に導入した蒸気が第一排出路112から排出され、第二導入路121を通じて内部空間S1に導入した蒸気が第二排出路122から排出されることで、ローター2を偏心回転させる。
第1の特徴として、本実施形態のロータリーエンジンは、第一導入路111の開閉を制御する第一制御弁31と、第二導入路121の開閉を制御する第二制御弁32を具備する。
そのため、本実施形態のロータリーエンジンでは、第一制御弁31によって、第一導入路111を通じて内部空間S1に蒸気を供給するタイミングと、供給を中断するタイミングをコントロールし、且つ、第二制御弁32によって、第二導入路121を通じて内部空間S1に蒸気を供給するタイミングと、供給を中断するタイミングをコントロールすることによって、エネルギー効率を向上させることが可能となる。エネルギー効率を向上させたロータリーエンジンを提供し、該ロータリーエンジンに熱交換器や凝縮器を組み合せてランキンサイクルを構成することで、低温領域(例えば40°〜200°)の排熱を高効率で回収して、機械的エネルギーや電気的エネルギーに変換する排熱回収システムが実現される。
第2の特徴として、本実施形態のロータリーエンジンにおいては、ローター2の偏心回転に連動して第一制御弁31と第二制御弁32を開閉させる連動機構6を、更に具備する。
そのため、本実施形態のロータリーエンジンでは、ローター2が偏心回転する動力を、連動機構6を介して第一制御弁31と第二制御弁32に伝達し、第一導入路111と第二導入路121の開閉をローター2の偏心回転に合わせて自動的に切り替えることが可能となる。
第3の特徴として、本実施形態のロータリーエンジンにおいては、ローター2とハウジング1との間に、第一導入路111と第二排出路122に連通する作動室が形成されるタイミングで、第一制御弁31を閉弁させてオーバーラップ現象を抑える。また、ローター2とハウジング1との間に、第二導入路121と第一排出路112に連通する作動室が形成されるタイミングで、第二制御弁32を閉弁させてオーバーラップ現象を抑える。
そのため、本実施形態のロータリーエンジンでは、第一制御弁31と第二制御弁32を用いてオーバーラップ現象を抑制し、エネルギー効率を向上させることが可能となる。
第4の特徴として、本実施形態のロータリーエンジンにおいては、ローター2とハウジング1との間に、第一導入路111と第一排出路112に連通する作動室が形成されるタイミングで、第一制御弁31を閉弁させてスルーパス現象を抑える。また、ローター2とハウジング1との間に、第二導入路121と第二排出路122に連通する作動室が形成されるタイミングで、第二制御弁32を閉弁させてスルーパス現象を抑える。
そのため、本実施形態のロータリーエンジンでは、第一制御弁31と第二制御弁32を用いてスルーパス現象を抑制し、エネルギー効率を向上させることが可能となる。
第5の特徴として、本実施形態のロータリーエンジンにおいては、ローター2とハウジング1との間に、第一導入路111に連通し且つ第一排出路112に連通しない膨張過程の作動室が形成されるタイミングで、第一制御弁31を閉弁させて断熱膨張を生じさせる。また、ローター2とハウジング1との間に、第二導入路121に連通し且つ第二排出路122に連通しない膨張過程の作動室が形成されるタイミングで、第二制御弁32を閉弁させて断熱膨張を生じさせる。
そのため、本実施形態のロータリーエンジンでは、第一制御弁31と第二制御弁32を用いて断熱膨張を生じさせ、エネルギー効率を向上させることが可能となる。
第6の特徴として、本実施形態のロータリーエンジンにおいて、第一制御弁31と第二制御弁32は、蒸気が内部511に導入される筒体51と、筒体51を回転自在に収容するケース52を備えた弁装置5である。第一制御弁31と第二制御弁32の一方だけを弁装置5で構成することも可能である。筒体51は、径方向に貫通する通気孔512を備える。ケース52は、通気孔512と連通することのできるポート522を備える。筒体51が、通気孔512とポート522が連通する回転位置にあるときに、弁装置5が開弁する。筒体51が、通気孔512とポート522が連通しない回転位置にあるときに、弁装置5が閉弁する。
そのため、本実施形態のロータリーエンジンでは、ローター2の偏心回転に合わせて筒体51を回転させることで弁装置5の開閉を制御し、エネルギー効率を向上させることができる。
第7の特徴として、本実施形態のロータリーエンジンにおいては、弁装置5が、筒体51とケース52との間に介在する隙間53に対して蒸気の一部を送り込む流路54を、更に備える。
そのため、本実施形態のロータリーエンジンでは、無潤滑であっても筒体51を円滑に回転させることができ、また、筒体51の摩耗を大幅に低減させることができる。筒体51の摩耗低減のために潤滑油を用いる必要がないため、蒸気中に潤滑油が混入して障害の原因となることも防止される。
第8の特徴として、本実施形態のロータリーエンジンにおいては、筒体51が、通気孔512よりも微小な補助通気孔513を更に備える。そして、筒体51が、通気孔512とポート522が連通しない回転位置にあるときに、補助通気孔513がポート522と連通するように設けている。
そのため、本実施形態のロータリーエンジンでは、エンジン始動のタイミングで、弁装置5が閉弁した状態にあるときでも、補助通気孔513を通じて僅かな蒸気を内部空間S1に供給し、ローター2を回転させることで、エンジンを始動させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されない。本発明の意図する範囲内であれば、適宜の設計変更を行うことが可能である。