JP2017002043A - 神経損傷治療又は予防用医薬 - Google Patents

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Abstract

【課題】新規な神経損傷治療用医薬を提供すること。【解決手段】ウルトラファインバブル溶液を有効成分として含有する神経損傷治療又は予防用医薬。【選択図】なし

Description

ウルトラファインバブル溶液を有効成分として含有する神経損傷治療又は予防用医薬に関する。
神経は、種々の要因、例えば外傷、ギプスによる圧迫、電撃傷、椎間板ヘルニア、放射線暴露等によって損傷を受け、これにより運動麻痺、感覚麻痺、自律神経障害等の種々の症状が起こる。損傷がWaller変性を伴う場合、その回復経過は、通常、シュワン細胞の脱分化・増殖、軸索の伸長、シュワン細胞への再分化・軸索の再髄鞘化の順に起こる。特に、髄鞘は神経パルスの伝導を高速にする機能を有することから、軸索の再髄鞘化は、神経損傷の回復にとって極めて重要である。
神経損傷の治療は、損傷の程度にもよるが、通常であれば、神経縫合術、神経移植術、神経剥離術、神経切除術等の手術療法、薬物療法、又はこれらの併用療法によって行われる。現在のところ、薬物療法に用いられる薬物としてビタミンB12製剤があるが、その治療効果は不十分であるといわれている。
ウルトラファインバブルは、水などの溶媒中に存在するナノサイズ(典型的には粒径1000nm以下)の微小気泡であり、通常の気泡とは著しく異なった性質を有する。例えば、溶媒中に安定な状態で長期間存在できる点、気泡表面が負電荷に帯電しているので正電荷の物質に吸着できる点等が挙げられる。近年、様々な分野においてウルトラファインバブルの効果、例えば植物・魚・マウス等の成長促進効果(非特許文献1)、殺菌効果(特許文献1)、汚染物の洗浄効果(例えば特許文献2)等が報告されている。しかしながら、ウルトラファインバブルの神経損傷に対する効果については全く知見がないのが現状である。
特開2013−180956号公報 特開2013−140096号公報
PLOS ONE, June 2013, Volume 8, Issue 6, e65339
本発明は、新規な神経損傷治療用医薬を提供することを課題とする。
本発明者等は上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、神経損傷による神経機能の低下、知覚低下、神経伝導速度の低下、及び髄鞘化軸索の減少が、ウルトラファインバブル溶液の投与により有意に回復すること、及び神経細胞の軸索伸長がウルトラファインバブル溶液により促進されることを見出した。これらの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. ウルトラファインバブル溶液を有効成分として含有する神経損傷治療又は予防用医薬.
項2. 前記神経損傷が末梢神経損傷である、項1に記載の治療又は予防用医薬.
項3. ウルトラファインバブルの最頻粒子径が1000nm以下である項1又は2に記載の治療又は予防用医薬.
項4. ウルトラファインバブル中の気体が、空気、酸素、窒素、炭酸ガス、オゾン、ネオン、及びアルゴンからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜3のいずれかに記載の治療又は予防用医薬.
項5. ウルトラファインバブル溶液中のウルトラファインバブル濃度が1×10個/mL以上である、項1〜4のいずれかに記載の治療又は予防用医薬.
項6. ウルトラファインバブルが気液混合せん断方式により調製されたウルトラファインバブルである、項1〜5いずれかに記載の治療又は予防用医薬.
項7. 運動障害、感覚障害、自律神経障害からなる群より選択される少なくとも1種の疾患の治療又は予防用医薬として用いられる、項1〜6のいずれかに記載の治療又は予防用医薬.
項8. ウルトラファインバブル溶液を有効成分として含有するシュワン細胞増殖促進剤。
本発明によれば、ウルトラファインバブル溶液を有効成分として用いることによって、神経損傷治治療又は予防用医薬を提供することができる。ウルトラファインバブル溶液は、非常に安価に製造できることから、本発明の医薬は、医療経済学的観点から優れている。
実施例1の1-4における坐骨神経機能指数(Sciatic functional index (SFI))の算出結果を示す。 実施例1の1-5における足引っ込め閾値(Paw Withdrawal Threshold)の算出結果を示す。 実施例1の1-6における神経伝導速度(Nerve Conduction Velocity)の測定結果を示す。 実施例1の1-7における、軸索の総数に対する髄鞘化されている軸索数の割合(MBP positive axon/Total axon)の算出結果を示す。 実施例2における、軸索長の測定結果を示す。 実施例3のWestern blottingの結果(OUB含有割合別(0%、25%、50%、75%、100%)変化)を示す。各写真の左側に検出したタンパク質を示す(Pはリン酸化型を示す)。写真の下方において、Ctlは用いた培地にOUBが含まれないことを示し、その他は、用いた培地に溶媒中のOUBの割合を示す。 実施例3のWestern blottingの結果(OUB100%投与後の経時的変化)を示す。各写真の左側に検出したタンパク質を示す(Pはリン酸化型を示す)。写真の下方において、CtlはOUB100%投与前を示し、その他は、OUB100%投与後の経過時間を示す。 実施例4のWestern blottingの結果を示す。各写真の左側に検出したタンパク質を示す。+/−は培地中のOUBの有無を示す。 実施例5のBrdU assayの結果を示す。横軸中、Ctlは用いた培地にOUBが含まれないことを示し、OUB100%は溶媒としてOUBを100%含有するシュワン細胞培地を用いた場合を示す。 実施例6の細胞数計測の結果を示す。横軸は、培養開始期間(d=日間)を示す。縦軸は、計測細胞数を示す。〜%は培地の溶媒中のOUBの割合を示す。 実施例7のNGFのRT-PCRの結果を示す。縦軸はmRNA量の相対値を示す。横軸は、培地の溶媒中のOUBの割合を示す。 実施例7のGDNFのRT-PCRの結果を示す。縦軸はmRNA量の相対値を示す。横軸は、培地の溶媒中のOUBの割合を示す。 実施例7のBDNFのRT-PCRの結果を示す。縦軸はmRNA量の相対値を示す。横軸は、培地の溶媒中のOUBの割合を示す。 実施例7のPDGF-BBのRT-PCRの結果を示す。縦軸はmRNA量の相対値を示す。横軸は、培地の溶媒中のOUBの割合を示す。 実施例7のIGF-1のRT-PCRの結果を示す。縦軸はmRNA量の相対値を示す。横軸は、培地の溶媒中のOUBの割合を示す。 実施例8における軸索長の測定結果を示す。 実施例8における全神経突起長の測定結果を示す。
本発明は、ウルトラファインバブル溶液を有効成分として含有する神経損傷治療又は予防用医薬(本明細書において、単に「本発明の医薬」と略記することもある。)に関する。
ウルトラファインバブルは、ナノサイズの微小気泡である限り特に限定されない。ウルトラファインバブルとしては、「ナノバブル」と称されるものも採用することができる。ウルトラファインバブルは、例えば最頻粒子径が1000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下、よりさらに好ましくは50〜150nmの微小気泡であることができる。
ウルトラファインバブル中の気体は、ウルトラファインバブルを形成することができる気体である限り特に限定されない。このような気体としては、例えば空気、酸素、窒素、炭酸ガス、オゾン、ネオン、アルゴン等が挙げられ、好ましくは空気、酸素、窒素等が挙げられ、より好ましくは酸素が挙げられる。
ウルトラファインバブル溶液(以下、単に「溶液」と略記することもある)は、ウルトラファインバブルを溶質として含む溶液である限り特に限定されない。
溶液の溶媒としては、ウルトラファインバブルを生成し、さらに保持することができる溶媒である限り特に限定されない。このような溶媒としては、例えば水(水道水、精製水、イオン交換水、純水、超純水、脱イオン水、蒸留水等)を用いることができる。また、水に、エタノール等のアルコールや、グリセリン等を少量添加したものを溶媒として用いてもよい。溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
溶液中のウルトラファインバブル濃度は、本発明の効果を発揮できる限りにおいて特に限定されない。ウルトラファインバブル濃度は、例えば1×10個/mL以上、好ましくは1×10個/mL以上、より好ましくは1×10個/mL以上、さらに好ましくは1×10個/mL以上、よりさらに好ましくは1×10個/mL〜1×10個/mLであることができる。
ウルトラファインバブル以外の溶質としては、ウルトラファインバブルの生成及び維持が可能である限り特に限定されない。このような溶質としては、例えば塩化ナトリウム、緩衝剤等が挙げられる。
ウルトラファインバブルは、ナノサイズの微小気泡の公知の製造方法に従って調製することができる。例えば、気液混合せん断方式、スタティックミキサー式、ベンチュリ式、キャビテーション式、蒸気凝縮式、超音波方式、旋回流方式、加圧溶解方式、微細孔方式等の方式によって製造することができる。これらの中でも、本発明の効果をより確実に発揮できるという観点からは、好ましくは気液混合せん断方式により調製されることができる。
本発明の医薬の適用対象の神経損傷は、末梢神経損傷、及び中枢神経損傷のいずれであってもよい。治療又は予防効果をより確実に発揮できるという観点からは、適用対象は末梢神経損傷であることが好ましい。神経損傷の原因も特に限定されず、外傷、ギプスによる圧迫、電撃傷、椎間板ヘルニア、放射線暴露等の種々の原因による神経損傷が適用対象となる。また、適用対象となる神経損傷の程度も特に限定されず、軸索は温存されているが脱髄が起こっている場合、ワーラー変性を伴う場合、神経が解剖学的に断裂している場合等のいずれも、適用対象となる。神経損傷の程度が比較的重い場合は、適切な手術療法と組み合わせることにより、効率的に神経損傷を治療することができる。
本発明の医薬は、神経損傷治療又は予防効果を有するので、神経損傷に伴う各種症状、例えば、損傷を受けた神経支配領域での、運動障害(上下肢の運動麻痺・筋力低下 等)、感覚障害(感覚鈍麻、しびれ、疼痛 等)、自律神経障害(発汗異常、皮膚の色調変化 等)等の治療又は予防にも有効である。
ウルトラファインバブルは、軸索伸長促進能及び髄鞘化促進能を有することから、軸索伸長促進剤や髄鞘化促進剤の有効成分としても有用である。また、ウルトラファインバブルは、シュワン細胞の増殖促進能をも有することから、シュワン細胞増殖促進剤の有効成分としても有用である。これらはインビトロで用いられるものであっても、インビボで用いられるものであってもよい。
本発明の医薬は、ウルトラファインバブル溶液そのものであることもできるし、ウルトラファインバブル溶液以外の成分(以下、単に「添加剤」と表記することもある)を含むこともできる。添加剤としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、及びキレート剤等が挙げられる。本発明の医薬が添加剤を含む場合は、剤形に応じた慣用の方法に従って添加剤を用いることにより、本発明の医薬を製造することができる。
本発明の医薬は、任意の剤形、例えば液剤、乳剤、注射剤、懸濁剤、カプセル剤等であることができる、好ましくは液剤、乳剤、注射剤等であることができ、より好ましくは注射剤であることができる。
本発明の医薬の投与対象は、神経損傷患者若しくは神経損傷を発症する可能性がある被検体である。神経損傷を生じる可能性がある被検体とは、神経損傷の原因となる因子(例えば、椎間板ヘルニアへの罹患、ギプスの装着等の、神経に対する慢性的な外部刺激)を有する被検体である。ウルトラファインバブル溶液は、軸索伸長促進能及び髄鞘化促進能を有するので、神経に対する慢性的な外部刺激等によって、神経損傷までには至らないわずかな「傷」が生じても、速やかにこれを回復させることができ、結果として神経損傷を予防することができる。また、ウルトラファインバブル溶液は、生体内に蓄積するようなものではないと考えられるので、神経損傷が生じる前に投与しても悪影響は低いと考えられる。
本発明の医薬の投与経路は、特に限定されない。例えば、経口投与、経管栄養、注腸投与等の経腸投与; 経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与等の非経口投与等を採用することができる。これらの中でも、本発明の効果をより確実に発揮できるという観点からは、好ましくは非経口投与が挙げられ、より好ましくは腹腔内投与が挙げられる。
本発明の医薬の投与形態及び有効な投与量は、投与対象、投与経路、剤形、患者の状態、及び医師の判断などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば、体重 60kgの成人に対して、1回当たり、ウルトラファインバブル溶液換算で50〜800ml(より好ましくは200〜600mL)を投与することができる。なお、投与形態としては、例えば1〜5日(好ましくは1〜2日)に1回投与することが好ましい。
本発明の医薬は、神経損傷の他の予防・治療・症状緩和薬と併用してもよい。例えば、ビタミンB12製剤、プレガバリン、ノイロトロピン、非ステロイド性消炎鎮痛薬、オピオイド、ステロイド等が挙げられる。他の予防又は治療用医薬は1種又は2種以上を組み併せて用いてもよい。また、本発明の医薬による薬物療法は、手術療法(例えば神経縫合術、神経移植術、神経剥離術、神経切除術等)と組み合わせて行ってもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1:ウルトラファインバブル溶液の神経損傷に対する効果
坐骨神経を人為的に挫滅させたラットに対して、ウルトラファインバブル溶液を一定期間投与し、坐骨神経機能指数、足引っ込め閾値、神経伝導速度、及び髄鞘化軸索の割合を測定した。具体的には次のように行った。
<1-1.被検ラット(挫滅群及びSham群)の作製>
6週齢雄性Wistarラット(日本チャールスリバー社製)(180〜220 g)を、3種混合麻酔(ミダゾラム(2mg/Kg)(ドルミカム、astellas)、ブトルファノール(2.5mg/Kg)(ベトルファール、Meiji Seikaファルマ株式会社)、メデトミジン(0.15mg/Kg)(ドミトール、日本全薬工業株式会社)の腹腔内注射によって麻酔した。一方の足の大腿部中位を切開し、坐骨神経を露出させた。挫滅群(N=22)については、鑷子を用いて、坐骨神経をつまみ、10秒間圧挫、10秒間解放を3回繰り返すことにより挫滅(損傷)させた後、切開部位をナイロン糸で縫合した。一方、sham群(N=11)については、挫滅(損傷)処理をせずに、切開部位をナイロン糸で縫合した。作製された被検ラットを、ウルトラファインバブル溶液の投与に用いた。
<1-2.ウルトラファインバブル溶液の調製>
ナノバブル生成装置((株)Ligaric製、商標名:BUVITAS)を用いて、気液混合せん断方式により、ウルトラファインバブル溶液(バブル中の気体は酸素、溶媒は生理食塩水)を調製した。このウルトラファインバブル溶液は、ウルトラファインバブルの最頻粒子径が105 nmであり、ウルトラファインバブル濃度が3.43×108 / mLであった。調製されたウルトラファインバブル溶液を、被検ラットへの投与に用いた。
<1-3.ウルトラファインバブル溶液の投与>
挫滅群及びsham群の被検ラットを作製した日をDay 1とした。sham群(N=11)に対しては生理食塩水を(sham(生食)群)、挫滅群(N=22)の内11匹に対しては生理食塩水を(挫滅(生食)群)、挫滅群の残りの11匹に対してはウルトラファインバブル溶液を(挫滅(ナノ)群)、Day 1からDay 28まで、週3回の頻度(1〜2日間隔)で、腹腔内投与(1.5 mL / rat /回)した。総投与回数は12回であった。この間、餌(製品名:MF、製造元:オリエンタル酵母工業株式会社)と水は自由摂取させ、恒温恒湿に保たれた飼育室にて飼育した。Day 28に、各種測定(坐骨神経機能指数、足引っ込め閾値、神経伝導速度、及び髄鞘化軸索の割合の測定)を行った。
<1-4.坐骨神経機能指数(Sciatic functional index (SFI))の測定>
ラットの後足に墨汁を塗布し、白紙を敷いてラットを歩行させfootprintを記録した。得られたfootprintから、EPL(患側(切開した側)足の踵と第3趾の先端との間の距離)、NPL(健側(切開していない側)足の踵と第3趾の先端との間の距離)、ETS(患側足の第1趾の先端と第5趾との間の距離)、NTS(健側足の第1趾の先端と第5趾との間の距離)、EITS(患側足の第2趾の先端と第4趾との間の距離)、及びNITS(健側足の第2趾の先端と第4趾との間の距離)を測定した。測定値を下記式に当てはめて、Sciatic functional index (SFI)を算出した。SFIがマイナスの値である場合、その値が大きい程、坐骨神経機能がより低いこと(具体的には神経麻痺の程度がより大きいこと等)を示す。結果を図1に示す。
sham(生食)群と挫滅(生食)群との比較より、挫滅処理により坐骨神経機能が有意に低下していることが確認できた。そして、挫滅(生食)と挫滅(ナノ)との比較より、ウルトラファインバブル溶液の投与により、坐骨神経機能が有意に回復することが示された。
<1-5.足引っ込め閾値(Paw Withdrawal Threshold)の測定>
ラットを下部に金属メッシュをセットしたケージに入れ、von Frey filament(商品名:Touch Test Sensory Evaluator、型番:NC12775-99、North Coast社製)を用いて足引っ込め閾値を測定した。具体的には、ラットの患側及び健側両方の足について、足裏つま先に刺激強度の異なるvon Frey filamentで刺激を与え、足を引っこめる刺激強度(足引っ込め閾値)を計測した。この計測値に基づいて、患側の足引っ込め閾値を健側の足引っ込め閾値で除した値を算出した。この値が大きい程、知覚がより低下していることを示す。結果を図2に示す。
sham(生食)群と挫滅(生食)群との比較より、挫滅処理により知覚が有意に低下していることが確認できた。そして、挫滅(生食)と挫滅(ナノ)との比較より、ウルトラファインバブル溶液の投与により、知覚が有意に回復することが示された。
<1-6.神経伝導速度(Nerve Conduction Velocity)の測定>
術後4週経過したラットを上記3種混合麻酔薬で鎮静をかけ、患側坐骨神経および前脛骨筋を露出した。Nerve conduction velocity (NCV) は坐骨神経圧挫損傷部の近位側および遠位側をそれぞれ双極電極で刺激して、各測定値から算出した。
結果を図3に示す。
sham(生食)群と挫滅(生食)群との比較より、挫滅処理により神経伝導速度が有意に低下していることが確認できた。そして、挫滅(生食)と挫滅(ナノ)との比較より、ウルトラファインバブル溶液の投与により、神経伝導速度が有意に回復することが示された。
<1-7.髄鞘化軸索の割合の測定>
術後4週経過したラットを上記3種混合麻酔薬で鎮静をかけ、患側坐骨神経を採取して4% PFA、その後20%スクロースで固定後に凍結包埋した。包埋した組織を神経短軸方向に5μm厚でスライスしglass slideに置いた。1時間乾燥させて、100%メタノールで30分間固定した。ブロッキング後に1次抗体を4℃over nightで反応させた。二次抗体は室温で1時間反応させ、核をDAPIで標識した。一次抗体はanti-neurofilament 200 (NF200) antibody produced in rabbit (NF200) rabbit (1:1000;102M4784, SIGMA) および Anti-myelin Basic Protein (MBP) Mouse mAb (1:1000; NE1018, CALBIOCHEM) 、二次抗体はAlexa Fluor 488 goat anti-mouse IgG antibody (1:1000;Lifetechnologies) とAlexa Fluor 594 goat anti-rabbit IgG antibody (1:1000;Lifetechnologies) を使用した。核の評価のためDAPI (Wako Pure Chemical Industries) を含有しているマウント剤Perma fluor (Thermo Fisher Scientific)に反応させた。NIS Elements BR software (Laboratory Imaging, Nikon)を用いて、MBP陽性軸索数/全軸索数を評価した。
結果を図4に示す。
sham(生食)群と挫滅(生食)群との比較より、挫滅処理により髄鞘化された軸索の割合が有意に低下していることが確認できた。そして、挫滅(生食)と挫滅(ナノ)との比較より、ウルトラファインバブル溶液の投与により、髄鞘化された軸索の割合が有意に回復することが示された。
実施例2:ウルトラファインバブル溶液の軸索伸長に与える影響
ラットから、後根神経節細胞(DRG)を定法に従って採取した。これを、溶媒に対するウルトラファインバブル溶液の割合が0%、25%、50%、75%、又は100%である培地(Sato medium:5μg/mLインシュリン、20 nMプロゲステロン、100μMプトレシン、30 nM亜セレン酸ナトリウム、0.1μg/mL L-チロキシン、0.08μg/mLトリヨード-L-サイロニン、及び4 mg/mLウシ血清アルブミン/DMEM)中で、72時間培養した。培養は、ポリ-L-リジンコートされた培養皿で行った。培養後、抗Tuj 1抗体(抗neuralクラスIII β−チューブリン マウスモノクローナル抗体(Covance社製)(1/1000希釈))を用いて定法に従って免疫染色した。染色像を観察し、軸索(抗Tuj 1抗体で染色された各細胞の神経突起中、最も長いもの)の長さ(Axonal length)を測定した。各ウルトラファインバブル溶液の割合の培地で培養した場合それぞれについて、軸索長を測定した。(N=3)
(細胞30個の平均axonal lengthをN=1とした。)
結果を図5に示す。
図5より、ウルトラファイブバブル(UFB)溶液濃度が増加するにつれて、軸索長が長くなることが示された。このことから、ウルトラファインバブル溶液が軸索伸長を促進することが示された。
実施例3:シュワン細胞における分化・増殖因子発現に与える影響1
シュワン細胞をUFB含有培地で培養し、分化・増殖因子の遺伝子発現に対してUFBが与える影響を調べた。具体的には次のように行った。
<3-1.シュワン細胞の調製>
生後1~3日のWistar Ratの坐骨神経を摘出し、そこからシュワン細胞を単離して培養し、3〜8継代目の細胞をラット坐骨神経シュワン細胞の初代培養として実験に使用した。なお、シュワン細胞の培養には、Dulbecco's Modified Eagle’s Medium(DMEM)に3%FBSと20ng/ml Neuregurin、3μM Forskolinを添加したものを培地(以下、単に「シュワン細胞培地」と示すこともある)として用いた。
<3-2.サンプルの調製>
シュワン細胞培地に懸濁したシュワン細胞を、PLLコートされた35mm dishに2×104個/cm2の濃度で撒き、24時間培養した。培養後、培地を、溶媒として酸素ウルトラファインバブル溶液(以下:OUB)を一定割合で含有する(0%、25%、50%、75%、100%)シュワン細胞培地に置換し、さらに180分間培養した。培地置換から一定時間(5分間、10分間、30分間、60分間、180分間)経過後に細胞を回収し、Kaplan buffer (50 mM Tris, pH7.4, 150 mM NaCl, 10% glycerol, 1%NP40)を用いて細胞溶解液を作成した。
<3-3.Western blotting>
12%SDS-PAGEによって電気泳動した後、polyvinylidene difluorideメンブレンに転写した。5% skim milk でブロッキングし、一次抗体として、phospho- p44/42 MAPK (1:1000 Cell Signaling)、p44/42 MAPK (1:1000 Cell Signaling)、phospho-p38(1:1000 Cell Signaling), p38(1:1000 Cell Signaling), phospho-JNK(1:1000 Cell Signaling), JNK(1:1000 Cell Signaling), phospho-CJUN(1:1000 Cell Signaling), CJUN(1:1000 Cell Signaling), phospho-Akt (1:1000 Cell Signaling)、Akt (1:1000 Cell Signaling)、GAPDH (1:1000 Cell Signaling)を4℃ で一晩反応させた。反応後、二次抗体としてAnti-rabbit IgG, HRP-linked Antibody (1:1000 Cell Signaling)を1時間反応させた後、ECL reagents(GE healthcare)を反応させ、Berthold Technologies MF-ChemiBIS 3.2を用いてバンドを検出した。
<3-4.結果>
シュワン細胞内シグナル伝達に関して、OUB含有割合別(0%、25%、50%、75%、100%)変化(OUB投与後30分間経過後)を図6に示す。OUB100%投与後の経時的変化を図7に示す。
図6に示されるように、OUB(25%、50%、75%、100%)投与により、OUB含有割合依存的に、ERK、JNK、CJUNのリン酸化が増加し、逆にAKTのリン酸化は減少した。P38については有意な影響は認められなかった。
図7に示されるように、
ERKのリン酸化はOUB100%投与後10分でピークに達し、AKTのリン酸化はOUB100%投与後5分で最も低下した。
実施例4:シュワン細胞における分化・増殖因子発現に与える影響2
シュワン細胞培地に懸濁したシュワン細胞を、PLLコートされた35mm dishに2×104個/cm2の濃度で撒き、24時間培養培養した。培養後、cAMP(1 mM)を培養液に投与し分化誘導し、同時に培地を、溶媒としてOUBを100%含有するシュワン細胞培地に置換し、72時間培養した。培養後、Kaplan buffer (50 mM Tris, pH7.4, 150 mM NaCl, 10% glycerol, 1%NP40)を用いて細胞溶解液を作成した。12%SDS-PAGEによって電気泳動した後、polyvinylidene difluorideメンブレンに転写した。5% skim milk でブロッキングし、一次抗体として、髄鞘蛋白の指標であるAnti-Myelin Basic Protein antibody (1:1000 Sigma-Aldrich)、Anti-Myelin Protein Zero antibody (1:1000 Abcam)を4℃ で一晩反応させた。反応後二次抗体としてAnti-rabbit IgG, HRP-linked Antibody (1:1000 Cell Signaling)を1時間反応させた後、ECL reagents(GE healthcare)を反応させ、Berthold Technologies MF-ChemiBIS 3.2を用いてバンドを検出した。
結果を図8に示す。増殖条件下( cAMP(−) )では、Control群と比較してOUB100%群でMBP、P0の発現量に有意な影響は認められなかった。分化条件下( cAMP(+) )では、増殖条件下と比較するとMBP、P0とも発現量の増加は認められるが、分化条件下でのControl群と比較してOUB100%群によるMBP、P0の発現量に有意な影響は認められなかった。
実施例5:シュワン細胞の増殖に与える影響1
PLLコートされた 96 well ディッシュに、シュワン細胞培地に懸濁したシュワン細胞をそれぞれ1.0×104個/wellの濃度で撒き、培養した。24時間後、培地を、溶媒としてOUBを100%含有するシュワン細胞培地に置換し、さらに16時間培養してからBrdUを投与した。BrdU投与2時間後、Cell Proliferation ELISA, BrdU (Roche)にてELISAを行いマイクロプレートリーダー Vient (大日本製薬)にて吸光度を測定し、Control群とOUB群(100%)を比較した。
結果を図9に示す。Control群と比較し、OUB100%群では、有意に細胞増殖速度が促進した。
実施例6:シュワン細胞の増殖に与える影響2
溶媒としてOUBを100%含有するシュワン細胞培地に懸濁したシュワン細胞を、PLLコートされた35mm dishに3.5×104個の濃度で撒き、1,3,5,7日間培養した。培養後、Invitrogen Countess AutomatedCell Counterを用いて細胞数を計測した。
結果を図10に示す。Control群と比較し、OUB投与群では、OUB含有割合依存的に細胞数増加傾向を示し、OUB100%群では1、3,5,7日で有意に細胞数の増加が認められ、OUB75%群では5、7日で有意に細胞数の増加が認められた。
実施例7:シュワン細胞における神経栄養因子発現に与える影響
シュワン細胞培地に懸濁したシュワン細胞を、PLLコートされた35mm dishに1.7×104個/cm2の濃度で撒き、24時間培養した。培養後、培地を、溶媒としてOUBを一定割合で含有するシュワン細胞培地に置換して72時間培養後に培地交換し、96時間後にRNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いてRNAを抽出し、NANODROP2000 (Thermo Scientific)で濃度を測定した。その後、super script VILO cDNA Synthesis kit (Invitrogen)を用いてcDNAを作成し、Fast SYBR Green Master Mix (Thermo Fisher Scientific)を用いて、神経栄養因子(NGF、BDNF、GDNF、PDGF-BB、IGF1)についてRT-PCRを行った。
結果を図11〜15に示す。GDNFについては、Control群と比較しOUB100%群で有意に発現量が促進した。PDGF-BBについては、Control群と比較しOUB75%群およびOUB100%群で有意に発現量が促進した。IGF-1については、Control群と比較しOUB100%群で有意に発現量が促進した。NGFやBDNFについては、Control群と比較しOUB群で有意な影響は認められなかった。
実施例8:神経細胞伸長に与える影響
ラットから、後根神経節細胞(DRG)を定法に従って採取した。これを、溶媒に対するOUB溶液の割合が0%、25%、50%、75%、又は100%である培地(Sato medium:5μg/mLインシュリン、20 nMプロゲステロン、100μMプトレシン、30 nM亜セレン酸ナトリウム、0.1μg/mL L-チロキシン、0.08μg/mLトリヨード-L-サイロニン、及び4 mg/mLウシ血清アルブミン/DMEM)中で、72時間培養した。培養は、ポリ-L-リジンコートされた培養皿で行った。培養後、抗Tuj 1抗体(1:1000 Covance)を用いて定法に従って免疫染色した。染色像を観察し、軸索(抗Tuj 1抗体で染色された各細胞の神経突起中、最も長いもの)の長さ(Axonal length)および、全神経突起の長さ(Neurite length)を測定した。各OUB溶液の割合の培地で培養した場合それぞれについて、軸索長、全神経突起長を測定した。(N=8)(細胞30個の平均の長さをN=1とした。)
結果を図16及び17に示す。軸索長については、Control群と比較し、OUB群では濃度依存的に進展促進が認められ、25%、50%、75%、100%で有意に促進した。全神経突起長については、Control群と比較し、OUB群では濃度依存的に進展促進が認められ、75%、100%で有意に促進した。
考察
以上の結果から、シュワン細胞においては、UFB投与によりERK、JNK、C-JUNシグナル伝達経路を介してシュワン細胞増殖が促進されたと考えられた。また、シュワン細胞が発現する、神経保護や神経再生に関わる神経栄養因子(GDNF、PDGF-BB、IGF-1)遺伝子発現量がOUB投与により促進することや、後根神経節細胞の軸索伸展の促進効果を示すことなどは、末梢神経再生にとって有意な影響を与える可能性が示唆された。また、中枢神経系の基本構造も神経細胞と周囲のグリア細胞から構成され、そのグリア細胞の中には末梢神経系のシュワン細胞に近い役割を担うオリゴデンドログリアが存在する。以上の結果では、末梢神経系に存在するシュワン細胞や神経細胞において、OUB投与が神経再生に有意な影響を与えることが示唆されたため、基本構造が似ている中枢神経系においてもOUB投与による神経再生促進効果が期待できると考えられる。

Claims (8)

  1. ウルトラファインバブル溶液を有効成分として含有する神経損傷治療又は予防用医薬。
  2. 前記神経損傷が末梢神経損傷である、請求項1に記載の治療又は予防用医薬。
  3. ウルトラファインバブルの最頻粒子径が1000nm以下である請求項1又は2に記載の治療又は予防用医薬。
  4. ウルトラファインバブル中の気体が、空気、酸素、窒素、炭酸ガス、オゾン、ネオン、及びアルゴンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の治療又は予防用医薬。
  5. ウルトラファインバブル溶液中のウルトラファインバブル濃度が1×10個/mL以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の治療又は予防用医薬。
  6. ウルトラファインバブルが気液混合せん断方式により調製されたウルトラファインバブルである、請求項1〜5いずれかに記載の治療又は予防用医薬。
  7. 運動障害、感覚障害、自律神経障害からなる群より選択される少なくとも1種の疾患の治療又は予防用医薬として用いられる、請求項1〜6のいずれかに記載の治療又は予防用医薬。
  8. ウルトラファインバブル溶液を有効成分として含有するシュワン細胞増殖促進剤。
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