JP2017001270A - 透光板 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐摩耗性、耐擦傷性などの機械的性能と、適度な遮光性、着色などの光学的性能に優れた、セラミック被膜を有する透光板を提供すること。
【解決手段】透光性の基材と前記基材上に形成されたセラミック被膜とからなる透光板であって、前記セラミック被膜は、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合とが混在する非晶質のセラミック被膜であることを特徴とする透光板とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、透光板に関する。
近年、環境への配慮や燃費向上のために、自動車の軽量化が進められている。そして、そのような軽量化対策の一つとして、自動車に使用されるガラスの樹脂化が検討されてきている。自動車用の樹脂ガラス(有機ガラス)の材料には、ポリカーボネートや、ポリアクリレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオレフィン、ABS等の透明な平板を形成可能な樹脂材料が使用可能である。そして、その中でも、耐衝撃性や、耐熱性、透明性等に優れたポリカーボネートが好適に使用される。しかしながら、樹脂ガラスは、その形成材料たる樹脂の種類に拘わらず、無機ガラスよりも表面の硬度が低い。そのため、耐摩耗性や耐擦傷性が不十分であり、しかも耐候性にも劣るといった欠点を有している。
このような課題を解決するために、特許文献1には、透明な樹脂基板の少なくとも一方の面上に、ハードコート層が積層形成されてなる自動車用樹脂ガラスであって、前記ハードコート層が、真空蒸着重合によって形成された有機高分子薄膜を含んで構成され、前記ハードコート層が、前記有機高分子薄膜と、該有機高分子薄膜の前記樹脂基板側とは反対側に、真空成膜プロセスによって積層形成された無機薄膜とを含む複層構造を有している自動車用樹脂ガラス(透光板)が提案されている。
特開2011−116182号公報
しかしながら、上記記載された透光板は、セラミック被膜(無機薄膜)をハードコート層としている。自動車用樹脂ガラスなどの用途では、耐摩耗性、耐擦傷性などの機械的性能と、光透過性、着色などの光学的性能の要求があり、使用できるセラミックコートの材質は自ずと限定される。また、偏った着色は、信号などの色を誤認させる原因となる。
本発明では、前記課題を鑑み、耐摩耗性、耐擦傷性などの機械的性能と、適度な遮光性、着色などの光学的性能に優れた、セラミック被膜を有する透光板を提供することを目的とする。
前記課題を解決するための本発明の透光板の解決手段は、透光性の基材と前記基材上に形成されたセラミック被膜とからなる透光板であって、前記セラミック被膜は、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合とが混在する非晶質のセラミック被膜である。
本発明の透光板は、セラミック被膜を構成する元素に炭素とケイ素とを有している。長周期型周期表(以下、単に「周期表」と言う)第14属元素である炭素およびケイ素は、4つの価電子を有しているので4つの共有結合により網状の骨格を形成することができ、強固なセラミック被膜を形成することができる。
炭素どうしが単結合で結合すると、結晶の場合ダイヤモンドとなり、非晶質の場合ダイヤモンドライクカーボンとなる。いずれも強固な素材である。
一方、ケイ素は、炭素ほど互いに強固に結合できず、ケイ素の結晶は一部の結合が切断され、自由電子ができることによって金属光沢を有しているのでケイ素の被膜は光透過性に劣っている。しかしながら、ケイ素の結合間に、酸素を導入することによって光透過性を確保することができる。酸素はケイ素との結合力が強く、ケイ素原子の間に介在し、Si−O−Siの結合を形成することによって、強固で、無色透明なセラミック被膜を得ることができる。
一般に、ケイ素と炭素との関係において、ケイ素と炭素とが結合すると、可視光領域の吸収が大きくなる。本発明の透光板のセラミック被膜は、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合とが混在し、Si−C結合以外の結合が存在するため、可視光領域の吸収は少なく、適度な遮光性を確保しつつ光透過率を有する透光板を提供することができる。
このため、耐摩耗性、耐擦傷性などの機械的性能と、適度な遮光性、着色などの光学的性能に優れた、セラミック被膜を有する透光板を提供することができる。
また、本発明の透光板は、以下の態様であることが好ましい。
(A1)XPS法で測定される前記セラミック被膜のケイ素に関する結合の存在比は、Si−Oの結合が30〜90%である。
一般に、炭素、ケイ素、酸素からなるセラミック被膜には、種々な結合が存在しうる。ケイ素に関しては、主にSi−C結合、Si−O結合をとりうる。Si−O結合は、可視光を透過しやすく、透光板のセラミック被膜として好適に利用できる。本発明の透光板のセラミック被膜は、XPS法で測定される前記セラミック被膜のケイ素に関する結合の存在比が、Si−Oの結合が30〜90%であるので、Si−Oの結合が光吸収性の高いSi−Cの結合の影響を抑え、適度な遮光性を確保することができるので、透光板として好適に利用することができる。
(A2)ラマン分光法で測定される前記セラミック被膜のGバンドとDバンドとの強度比であるG/Dは、1.0〜2.0である。
Gバンドは、グラファイトの構造に由来し1580cm−1付近に現れるピークである。Dバンドは、ダイヤモンドの構造に由来し、1360cm−1付近に現れるピークである。天然黒鉛は、強いGバンドのピークが観察され、Dバンドはほとんど見られない。一方ダイヤモンドはで強いDバンドのピークが観察され、Gバンドはほとんど見られない。すなわち、G/Dは、ダイヤモンド寄りの構成であるか、天然黒鉛寄りの構成であるかを判断する指標である。
本発明の透光板のセラミック被膜は、ラマン分光法で測定されるG/Dが、2.0以下であるので、黒鉛の性質である光の吸収性が抑えられ透明な被膜を得ることができる。また、黒鉛を構成する共役系結合は、結合する原子の数を減少させ、セラミック被膜を軟らかくする作用がある。G/Dが、2.0以下であることによって、炭素どうしが互いに絡み合った強固なセラミック被膜を得ることができる。
本発明の透光板のセラミック被膜は、ラマン分光法で測定されるG/Dが、1.0以上であるので、ダイヤモンドの構造に黒鉛の構造が混じり、適度に靭性を有し基材が変形しても、セラミック被膜を割れにくくすることができると考えられる。
一般に、SiCのターゲットを用いたPVD法、SiとCを含有する原料ガスを用いたプラズマCVD法では、Si−Cの結合がセラミック被膜の全結合の多くを占める。このため、炭素同士の結合は、Siの存在によって少なくなる。ここで原料に水素が含まれていると、少なくなった炭素に水素が結合し、炭素がsp3構造をとりやすくさせる。
本発明の透光板のセラミック被膜は、SiCのターゲットを用いたPVD法によって、ラマン分光法で測定されるG/Dが、1.0以上のセラミック被膜を得ることができると考えられる。SiCのターゲットを用いたPVD法であるので、ターゲットに水素が存在していない。このため、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合で構成されるセラミック被膜でありながら、sp2構造をとりやすくなり、ラマン分光法で測定されるG/Dが、1.0以上のセラミック被膜を得ることができると考えられる。
(A3)前記セラミック被膜は、厚さが10〜80nmである。
本発明の透光板のセラミック被膜の厚さは10nm以上であるので、表面からの応力に対して十分な抗力を持つことができ、強固なセラミック被膜を形成することができる。
また、本発明の透光板のセラミック被膜の厚さは80nm以下であるので、熱膨張差などが発生してもセラミック被膜と基材との間に発生する張力を小さくでき、剥離しにくくすることができる。
(A4)XPS法で測定される前記セラミック被膜の酸素含有量は、表面から内部に向かって減少する。
本発明の透光板のセラミック被膜は、酸素が、表面から内部に向かって減少するように存在するので非晶質のセラミック被膜の表面ほど緻密な膜となる。このため表面に圧縮応力を作用させ、セラミック被膜を強化することができる。
(A5)前記基材は、樹脂から形成される。
本発明の透光板の基材は、樹脂から形成されるので、樹脂とセラミック被膜を構成する炭素との接合性を強くすることができ、強固なセラミック被膜を得ることができる。また、セラミック被膜のSi−C結合が紫外線の遮蔽効果を持っているので、樹脂からなる透光性の基材への紫外線をカットすることができ、劣化しにくい透光板を提供することができる。
(A6)前記樹脂は、ポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルである。
本発明の透光板を形成する樹脂がポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルであると、これらは高強度の樹脂であるので、前記セラミック被膜と組み合わせることにより、より高強度な透光板を得ることができる。
前記課題を解決するための本発明の透光板の製造方法は、透光性の基材にセラミック被膜を形成する透光板の製造方法であって、前記セラミック被膜は、SiCのターゲットを用い、前記透光性の基材にSi−C結合を形成する臨界出力以上の出力で前記セラミック被膜をPVD法で形成したのち、大気開放し酸素を結合させる。
本発明の透光板の製造方法によれば、透光性の基材にセラミック被膜を形成し、セラミック被膜は、SiCをターゲットとしている。ターゲットであるSiCを構成する炭素およびケイ素は周期表第14属元素であり、4つの価電子を有しているので4つの共有結合により網状の骨格を形成することができ、強固なセラミック被膜を形成することができる。
炭素どうしが単結合で結合すると、結晶の場合ダイヤモンドとなり、非晶質の場合ダイヤモンドライクカーボンとなる。いずれも強固な素材である。
一方、ケイ素は、炭素ほど互いに強固に結合できず、ケイ素の結晶は一部の結合が切断され、自由電子ができることによって金属光沢を有しているのでケイ素の被膜は光透過性に劣っている。しかしながら、大気開放によってケイ素の結合間に、酸素を導入することによって光透過性を確保することができる。酸素はケイ素との結合力が強く、ケイ素原子の間に介在し、Si−O−Siの結合を形成することによって、強固で、無色透明なセラミック被膜を得ることができる。
一般に、ケイ素と炭素との関係において、Si−C結合を有していると、可視光領域の吸収が大きくなる。本発明の透光板のセラミック被膜は、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合とが混在し、Si−C結合を形成する臨界出力以上の出力でセラミック被膜をPVD法で形成するので、Si−C結合の生成を適度に制御し、適度な遮光性を確保することができるので、好適な透光板の製造方法を提供することができる。さらに、本発明のPVD法によるSi−C結合は、原料がSi,Cのみであるので、不純物が入りにくい上に、PVD法であるので製造工程が安定し、結晶形態が製膜条件により変わりにくいことなどから、得られるセラミック被膜の着色が安定し、偏った色がつきにくいと考えられる。
さらに、本発明の透光板のセラミック被膜は、大気開放によってケイ素の結合間に、酸素を導入するので、セラミック被膜を緻密化する作用があり、表面に圧縮応力を作用させ、セラミック被膜を強化することができる。
さらに本発明の透光板の製造方法は、以下の態様であることが好ましい。
(B1)前記基材は、樹脂から形成される。
本発明の透光板の製造方法は、基材が樹脂から形成されるものであると、樹脂とセラミック被膜を構成する炭素との接合性が強いので、強固なセラミック被膜を得ることができる。また、セラミック被膜のSi−C結合が紫外線の遮蔽効果を持っているので、樹脂からなる透光性の基材への紫外線をカットすることができ、劣化しにくい透光板の製造方法を提供することができる。
(B2)前記樹脂は、ポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルである。
本発明の透光板の製造方法は、前記樹脂がポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルであると、これらは高強度の樹脂であるので、前記セラミック被膜と組み合わせることにより、より高強度な透光板を得ることができる。
本発明の透光板は、セラミック被膜を構成する元素に炭素とケイ素とを有している。周期表第14属元素である炭素およびケイ素は、4つの価電子を有しているので4つの共有結合により網状の骨格を形成することができ、強固なセラミック被膜を形成することができる。
炭素どうしが単結合で結合すると、結晶の場合ダイヤモンドとなり、非晶質の場合ダイヤモンドライクカーボンとなる。いずれも強固な素材である。
一方、ケイ素は、炭素ほど互いに強固に結合できず、ケイ素の結晶は一部の結合が切断され、自由電子ができることによって金属光沢を有しているのでケイ素の被膜は光透過性に劣っている。しかしながら、ケイ素の結合間に、酸素を導入することによって光透過性を確保することができる。酸素はケイ素との結合力が強く、ケイ素原子の間に介在し、Si−O−Siの結合を形成することによって、強固で、無色透明なセラミック被膜を得ることができる。
一般に、ケイ素と炭素との関係において、ケイ素と炭素とが結合すると、可視光領域の吸収が大きくなる。本発明の透光板のセラミック被膜は、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合とが混在し、Si−C結合以外の結合が存在するため、可視光領域の吸収は少なく、適度な遮光性を確保しつつ光透過率を有する透光板を提供することができる。
このため、耐摩耗性、耐擦傷性などの機械的性能と、適度な遮光性、着色などの光学的性能に優れた、セラミック被膜を有する透光板を提供することができる。
本発明の実施の形態の透光板の製造方法であって、SiCのターゲットを用い、基材上にSi−C結合を形成する臨界出力以上の出力でセラミック被膜をPVD法で形成する製造方法の説明図であり、(a)はPVD工程を示し、(b)はPVD工程後に大気開放したあとの透光板を示す。 本発明の透光板の製造方法とは異なる透光板の製造方法の説明図であり、SiCのターゲットを用い、基材上にSi−C結合を形成する臨界出力より小さい出力でセラミック被膜をPVD法で形成する製造方法の説明図であり、(a)はPVD工程を示し、(b)はPVD工程後に大気開放したあとの透光板を示す。 本発明の透光板の製造方法とは異なる透光板の製造方法であって、SiCの原料ガスを用いプラズマCVD法でセラミック被膜を形成する製造方法の説明図である。 本発明の透光板の製造方法とは異なる透光板の製造方法であって、ゾルゲル法を用い、シリカからなるセラミック被膜を形成する製造方法の説明図である。 本発明の実施例1の透光板のセラミック被膜のXPS法による深さ方向への元素の含有量の分析結果である。 本発明の比較例1の透光板のセラミック被膜部分のFE−TEMによる拡大写真である。 本発明の比較例1の透光板のセラミック被膜部分のFE−TEMによる極微電子線回折測定の解析結果である。
<透光板>
本発明の透光板の実施の形態について説明する。
本発明の透光板は、透光性の基材と前記基材上に形成されたセラミック被膜とからなる透光板であって、前記セラミック被膜は、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合とが混在する非晶質のセラミック被膜である。
本発明の透光板は、セラミック被膜を構成する元素に炭素とケイ素とを有している。周期表第14属元素である炭素およびケイ素は、4つの価電子を有しているので4つの共有結合により網状の骨格を形成することができ、強固なセラミック被膜を形成することができる。
炭素どうしが単結合で結合すると、結晶の場合ダイヤモンドとなり、非晶質の場合ダイヤモンドライクカーボンとなる。いずれも強固な素材である。
一方、ケイ素は、炭素ほど互いに強固に結合できず、ケイ素の結晶は一部の結合が切断され、自由電子ができることによって金属光沢を有しているのでケイ素の被膜は光透過性に劣っている。しかしながら、ケイ素の結合間に、酸素を導入することによって光透過性を確保することができる。酸素はケイ素との結合力が強く、ケイ素原子の間に介在し、Si−O−Siの結合を形成することによって、強固で、無色透明なセラミック被膜を得ることができる。
ケイ素と炭素との関係において、ケイ素と炭素とが結合すると、可視光領域の吸収が大きくなる。本発明の透光板のセラミック被膜は、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合とが混在し、Si−C結合以外の結合が存在するため、可視光領域の吸収は少なく、適度な遮光性を確保しつつ光透過率を有する透光板を提供することができる。
このため、耐摩耗性、耐擦傷性などの機械的性能と、適度な遮光性、着色などの光学的性能に優れた、セラミック被膜を有する透光板を提供することができる。
また、本発明の透光板は、以下の態様であることが好ましい。
(A1)XPS法で測定される前記セラミック被膜のケイ素に関する結合の存在比は、Si−Oの結合が30〜90%である。
一般に、炭素、ケイ素、酸素からなるセラミック被膜には、種々な結合が存在しうる。ケイ素に関しては、主にSi−C結合、Si−O結合をとりうる。Si−O結合は、可視光を透過しやすく、透光板のセラミック被膜として好適に利用できる。本発明の透光板のセラミック被膜は、XPS法で測定される前記セラミック被膜のケイ素に関する結合の存在比が、Si−Oの結合が30〜90%であるので、Si−Oの結合が光吸収性の高いSiCの結合の影響を抑え、透光板として使用したときに光の吸収が少なく好適に利用することができる。
(A2)ラマン分光法で測定される前記セラミック被膜のGバンドとDバンドとの強度比であるG/Dは、1.0〜2.0である。
Gバンドは、グラファイトの構造に由来し1580cm−1付近に現れるピークである。Dバンドは、ダイヤモンドの構造に由来し、1360cm−1付近に現れるピークである。天然黒鉛は、強いGバンドのピークが観察され、Dバンドはほとんど見られない。一方ダイヤモンドはで強いDバンドのピークが観察され、Gバンドはほとんど見られない。すなわち、G/Dは、ダイヤモンド寄りの構成であるか、天然黒鉛寄りの構成であるかを判断する指標である。
本発明の透光板のセラミック被膜は、ラマン分光法で測定されるG/Dが、2.0以下であるので、黒鉛の性質である光の吸収性が抑えられ透明な被膜を得ることができる。また、黒鉛を構成する共役系結合は、結合する原子の数を減少させ、セラミック被膜を軟らかくする作用がある。G/Dが、2.0以下であることによって、炭素どうしが互いに絡み合った強固なセラミック被膜を得ることができる。
本発明の透光板のセラミック被膜は、ラマン分光法で測定されるG/Dが、1.0以上であるので、ダイヤモンドの構造に黒鉛の構造が混じり、適度に靭性を有し基材が変形しても、セラミック被膜を割れにくくすることができると考えられる。
一般に、SiCのターゲットを用いたPVD法、SiとCを含有する原料ガスを用いたプラズマCVD法では、Si−Cの結合がセラミック被膜の全結合の多くを占める。このため、炭素同士の結合は、Siの存在によって少なくなる。ここで原料に水素が含まれていると、少なくなった炭素に水素が結合し、炭素がsp3構造をとりやすくさせる。
本発明の透光板のセラミック被膜は、SiCのターゲットを用いたPVD法によって、ラマン分光法で測定されるG/Dが、1.0以上のセラミック被膜を得ることができると考えられる。SiCのターゲットを用いたPVD法であるので、ターゲットに水素が存在していない。このため、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合で構成されるセラミック被膜でありながら、sp2構造をとりやすくなり、ラマン分光法で測定されるG/Dが、1.0以上のセラミック被膜を得ることができると考えられる。
(A3)前記セラミック被膜は、厚さが10〜80nmである。
本発明の透光板のセラミック被膜の厚さは10nm以上であるので、表面からの応力に対して十分な抗力を持つことができ、強固なセラミック被膜を形成することができる。
また、本発明の透光板のセラミック被膜の厚さは80nm以下であるので、熱膨張差などが発生してもセラミック被膜と基材との間に発生する張力を小さくでき、剥離しにくくすることができる。
(A4)XPS法で測定される前記セラミック被膜の酸素含有量は、表面から内部に向かって減少する。
本発明の透光板のセラミック被膜は、酸素が、表面から内部に向かって減少するように存在するので非晶質のセラミック被膜の表面ほど緻密な膜となる。このため表面に圧縮応力を作用させ、セラミック被膜を強化することができる。
(A5)前記基材は、樹脂から形成される。
本発明の透光板の基材が、樹脂から形成されることで、樹脂とセラミック被膜を構成する炭素との接合性が強くすることができ、強固なセラミック被膜を得ることができる。また、セラミック被膜のSi−C結合が紫外線の遮蔽効果を持っているので、樹脂からなる透光性の基材への紫外線をカットすることができ、劣化しにくい透光板の製造方法を提供することができる。
(A6)前記樹脂は、ポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルである。
本発明の透光板の基材を形成する樹脂がポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルであると、これらは高強度の樹脂であるので、前記セラミック被膜と組み合わせることにより、より高強度な透光板を得ることができる。
<透光板の製造方法>
次に本発明の透光板の製造方法について説明する。
前記課題を解決するための本発明の透光板の製造方法は、透光性の基材にセラミック被膜を形成する透光板の製造方法であって、前記セラミック被膜は、SiCのターゲットを用い、前記透光性の基材にSi−C結合を形成する臨界出力以上の出力で前記セラミック被膜をPVD法で形成したのち、大気開放し酸素を結合させる。
本発明の透光板の製造方法によれば、透光性の基材にセラミック被膜を形成し、セラミック被膜は、SiCをターゲットとしている。ターゲットであるSiCを構成する炭素およびケイ素は周期表第14属元素であり、4つの価電子を有しているので4つの共有結合により網状の骨格を形成することができ、強固なセラミック被膜を形成することができる。
炭素どうしが単結合で結合すると、結晶の場合ダイヤモンドとなり、非晶質の場合ダイヤモンドライクカーボンとなる。いずれも強固な素材である。
一方、ケイ素は、炭素ほど互いに強固に結合できず、ケイ素の結晶は一部の結合が切断され、自由電子ができることによって金属光沢を有しているのでケイ素の被膜は光透過性に劣っている。しかしながら、大気開放によってケイ素の結合間に、酸素を導入することによって光透過性を確保することができる。酸素はケイ素との結合力が強く、ケイ素原子の間に介在し、Si−O−Siの結合を形成することによって、強固で、無色透明なセラミック被膜を得ることができる。
一般に、ケイ素と炭素との関係において、Si−C結合を有していると、可視光領域の吸収が大きくなる。本発明の透光板のセラミック被膜は、互いに結合しあう炭素と、互いに結合しあうケイ素と酸素と、からなり、Si−C結合を形成する臨界出力以上の出力でセラミック被膜をPVD法で形成するので、Si−O結合とSi−C結合とが混在し、可視光領域に適度な吸収を有する、光透過率を有する透光板を提供することができる。
さらに、本発明の透光板のセラミック被膜は、大気開放によってケイ素の結合間に、酸素を導入するので、セラミック被膜を緻密化する作用があり、表面に圧縮応力を作用させ、セラミック被膜を強化することができる。
本発明の透光板のセラミック被膜は、ドライプロセスであるPVD法またはプラズマCVD法で得ることができる。このような方法では製造段階で基材上にコートが行われた後、原子が脱離する脱離反応が行われないので、緻密で、細かなセラミック被膜を得ることができる。このため、セラミック被膜が緻密で細かくなり、耐傷性、耐摩耗性を高めることができる。
一般に、水素は1つの価電子を有しているので1つの共有結合しか有することができず、水素が介在することによって、炭素、ケイ素、酸素間の互いの結合を切断し、結合の末端となる。炭素、ケイ素、酸素からなる化合物に関し、水素の含有量が多い場合には、これらは互いに結合が自由回転可能で流動性を有する熱可塑性樹脂の形態で存在し、柔軟性を有している代わりに硬度が低い。水素の含有量が低下するにしたがって、分子の自給回転が拘束され、流動性の無い熱硬化性樹脂、さらに水素の含有量が減ると炭素、ケイ素、酸素は、互いに網状の分子を構成するセラミックとなる。このため、水素含有量は、セラミック被膜の硬度、柔軟性を決定する上で重要なパラメータである。
本発明の透光板のセラミック被膜は、例えばドライプロセスであるPVD法で水素の含有量が少なくなるように形成することができ、炭素、ケイ素または酸素の結合に末端を形成しにくく、互いに強固に絡み合った結合を有するセラミック被膜を形成し、強固なセラミック被膜を形成することができると考えられる。さらに、本発明のPVD法によるSi−C結合は、原料がSi,Cのみであるので、不純物が入りにくい上に、PVD法であるので製造工程が安定し、結晶形態が製膜条件により変わりにくいことなどから、得られるセラミック被膜の着色が安定し、偏った色がつきにくいと考えられる。
さらに本発明の透光板の製造方法は、以下の態様であることが好ましい。
(B1)前記基材は、樹脂から形成される。
本発明の透光板の製造方法は、基材が樹脂から形成されるものであると、樹脂とセラミック被膜を構成する炭素との接合性が強いので、強固なセラミック被膜を得ることができる。また、セラミック被膜のSi−C結合が紫外線の遮蔽効果を持っているので、樹脂からなる透光性の基材への紫外線をカットすることができ、劣化しにくい透光板の製造方法を提供することができる。
(B2)前記樹脂は、ポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルである。
本発明の透光板の製造方法は、基材を形成する樹脂がポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルであると、これらは高強度の樹脂であるので、前記セラミック被膜と組み合わせることにより、より高強度な透光板を得ることができる。
本発明の透光板の製造方法は、具体的には、例えば次のようにして得ることができる。
<基材>
透光性の基材を使用する。透光性の基材とはガラス、樹脂などどのようなものでも利用することができる。樹脂としては、例えばポリカーボネート、シリコーン樹脂、ポリメタクリル酸メチル、塩化ビニルなどを利用することができる。本発明において、基材は樹脂により形成されることが好ましく、中でもポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルは透明度が高く、高い強度を有しているので、好適に利用することができる。
<セラミック被膜の被覆>
上記基材上に、SiCをターゲットとしてPVD法によりセラミック被膜を形成することができる。セラミック被膜は、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合とが混在する非晶質のセラミック被膜である。
PVD法あるいはCVD法などのドライプロセスでセラミック被膜を形成すると、ターゲットからSiとCの粒子が放出され、効率よくセラミック被膜を形成する。CVD法では、原料ガスに水素が含まれていると、水素がセラミック被膜に取り込まれることがあるが、拡散しやすく、セラミック被膜に取り込まれる速度はSi、Cより遅く、大部分はCVD炉の外に排出される。
一方、ゾルゲル法などのウェットプロセスを用いると、セラミック被膜の前駆体に含まれる水素が熱処理で十分に分解されず、セラミック被膜に大量に取り込まれる。特に基材が樹脂であると、熱処理で樹脂が変形するほどの高い温度をかけることができないので、特に水素が残留しやすくなる。水素は、価電子が1個しかないので、水素は原子間をつなぐ作用は無い。このため、網状の骨格を単純化させ、セラミック被膜の硬度を低下させる。また、基材が樹脂であると、基材の軟化点を超える熱処理ができないので、前駆体の熱分解を十分に行うことができず、前駆体はセラミックと樹脂との中間的な性質となり、セラミック被膜は有機成分を含み、十分なセラミックの性質を備えているとは言い難い。また、熱分解によって、前駆体から分解ガスが放出されるので、気孔ができやすく、結果として気体透過率が高くなり、十分な強度を備えることができなくなる。
本発明の透光板のセラミック被膜は、ドライプロセスであって、ターゲットとしてSiCを用いるPVD法であるので、水素含有量が、実質的に無いに等しく、C,Si,Oと結合する水素がほとんどなく、網状の骨格を強固にすることができる。
一般に、プラズマCVDなどのCVD法では、原料ガスの化学反応を利用し被膜を形成するものであって、セラミック被膜など高温でなければ得られない被膜を低温で得られることが特徴である。一方、PVD法では、原料を蒸発させる蒸発系のPVD法と、固体表面から原子をたたき出すスパッタ系のPVD法とある。セラミックを材料に用いる場合、原料の沸点が高いのでスパッタ系が用いられる。スパッタ系では、高エネルギーの原子あるいは分子をターゲットに衝突させ、飛び出した原子を基材に沈積させる。ターゲットから飛び出した原子は、高エネルギーで基材に沈着するので、基材表面で互いに結合し、セラミック被膜を形成する。
一般にPVD法ではSiとCはそれぞれ高いエネルギーを持っているので基材上でSiとCが結合し、SiCのセラミック被膜が形成される。
本発明の透光板を得るためには例えば、SiCのターゲットを用いているPVD法を適用することができる。このように製造することによりターゲットから放出される粒子はSiとCのみであり、基材にそれぞれ原子が沈着する。このとき、基材にSi−C結合を形成する臨界出力以上の出力に調整し、セラミック被膜を形成する。出力の調整の方法は特に限定されない。
スパッタ装置には、2極、3極、4極、RF、マグネトロン、対向ターゲット、ミラートロン、ECR、PEMS、イオンビーム、デュアルイオンビームなど、様々な方式がある。一般にスパッタ装置では原子に大きなエネルギーが与えられ、基材上でSi−Cの結合を形成する。
本発明の透光板は、PVD法において、Si−C結合を形成する臨界出力以上となるようスパッタ装置の出力を適宜調整し、セラミック被膜を形成する。出力の調整方法は、例えば、スパッタに用いるイオンビームのエネルギー、RF出力などを適用することができる。例えば、神鋼精機製スパッタ装置SRV−4300を用い、ターゲットをSiC、サンプル/ターゲット間距離を100mmとしたとき、後述するようにSi−C結合を形成する臨界出力は、100〜300Wの範囲にあり、300W以上であれば、Si−C結合を形成する臨界出力以上である。
Si−C結合の生成の有無、比率は、XPS法で確認することができ、それぞれ使用する装置条件にあった出力を設定し、製膜することにより得ることができる。
本発明の透光板では、PVD法においてSi−C結合を形成する臨界出力以上となるようスパッタ装置の出力を調整し製膜している。このため、セラミック被膜にはSi−C結合が形成され、互いに結合しあう炭素が網状の骨格を形成し、その間にSi原子が散在する構造を形成すると考えられる。Si原子は、装置の出力によって、単独で存在するSiと、Cと結合しSi−C結合を形成するSiとが形成されると考えられる。なお、網状の炭素の骨格はダイヤモンドライクカーボンと同様の構造であると考えられる。
本発明の実施の形態の透光板の製造方法を、図を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明の実施の形態の透光板101の製造方法であって、SiCのターゲット31を用い、基材上にSi−C結合を形成する臨界出力以上の出力でセラミック被膜をPVD法で形成する製造方法の説明図であり、図1(a)はPVD工程を示し、図1(b)はPVD工程後に大気開放したあとの透光板101を示す。
ターゲット31には、SiCを使用し、PVD法で基材10にセラミック被膜21を形成する。ターゲット31に、高エネルギーの原子または分子などの粒子を衝突させる。例えば、アルゴンガスなどが利用できる。高エネルギー粒子の衝突したターゲット31からは、Si原子、C原子がはじき飛ばされ、基材10に沈着する。このとき、基材上でSi−C結合を形成するようPVDの出力を適宜調整する。Si−C結合は、化学的に結合させるか(CVD法)、大きなエネルギーを与えないとできない結合であるので、PVD法を用いて出力を制限することによりSi−C結合の形成を調整することができる。Si−C結合の有無、比率は、得られたセラミック被膜をXPS法で分析することにより確認することができる。
後述するようにPVD工程で得られ大気開放されたセラミック被膜21を分析すると、Si−O結合が形成されている。酸素は、PVD装置内の雰囲気には存在しておらず、大気開放した際に空気中の酸素と結合して形成されたと考えられる。このため、酸素は、セラミック被膜21の表面ほど含有量が大きく、セラミック被膜21の表面から内部に向かって酸素含有量が減少している(図5参照)。すなわち、表面ほど緻密なセラミック被膜21が形成され、表面に圧縮応力を形成させ、強化する作用があると考えられる。
また、本発明の透光板のセラミック被膜は、非晶質であって、炭素とケイ素が共存している。一般に非晶質の炭素被膜であるダイヤモンドライクカーボンは、ガスバリア性に優れているが、本発明の透光板のセラミック被膜21は炭素とケイ素が共存しているのでダイヤモンドライクカーボンの被膜にケイ素が挿入され、一部が炭素と結合しSiCとなっていると考えられる。ケイ素は、ガスバリア性を阻害し、表面からの酸素の侵入を許すとともに、酸素と結合し、一部が非晶質のシリカ膜の成分を構成していると考えられる。
本発明の透光板101は、基材上でSi−C結合を形成する臨界出力以上となるようPVDの出力を適宜調整して製造する。このため、本発明の透光板101は、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合とが混在する。すなわち、本発明のセラミック被膜は、炭素どうしが結合した非晶質のカーボン被膜と、Si−Oの結合を有する非晶質のシリカ被膜とが、一部のCと一部のSiとが結合し、Si−C結合を形成している状態であると考えられる。また、Si−O結合は、Si−C結合と比較し、可視光域の光の吸収性が小さい。このため、Si−O結合とSi−C結合とを有する本発明のセラミック被膜21は、Si−C結合の比率に応じて遮光性を制御することができ、適度な遮光性を確保することができる。
図2は、本発明の透光板の製造方法とは異なる透光板の製造方法の説明図であり、SiCのターゲットを用い、基材上にSi−C結合を形成させる臨界出力より小さい出力でセラミック被膜をPVD法で形成する点が本発明とは異なる。図2(a)はPVD工程を示し、図2(b)はPVD工程後に大気開放したあとの透光板を示す。
図1の本発明の透光板の製造方法を「高出力PVD法」、図2の製造方法を「低出力PVD法」として、相違点を詳しく説明する。前述したように、「高出力CVD法」では、PVD時にケイ素と炭素の結合が形成されるため、遮光性を有する。これに対し、図2の「低出力PVD法」では、基材上にSi−C結合を形成する臨界出力より小さくなるよう粒子をターゲットに衝突させるので、はじき飛ばされるC、Siの原子は、基材上でSi−C結合を形成しない。このため、セラミック被膜22は、光を透過しやすく、透光板102は、本発明の透光板と比較し、遮光性が小さくなる。
図3は本発明の透光板の製造方法とは異なる透光板の製造方法の説明図であり、SiCの原料ガスを用いプラズマCVD法でセラミック被膜23を形成する点が本発明とは異なる。
プラズマCVD法では、PVD法と異なり、固体のターゲットを用いることなく、原料ガスを用いてセラミック被膜23を形成する。基材10の表面で形成されるセラミック被膜は、原料ガスの分解に伴う生成物であって、PVD法より低いエネルギーでSi−C結合が形成される。このため、Si−C結合の生成を制御しにくく過度に遮光性が強くなりやすく、また、原料ガスには、Si、C以外の成分が含まれること、結晶形態が製膜条件により変わりやすいことなどから、得られるセラミック被膜の着色が制御しにくく、偏った色を呈しやすい。特に黄色などの色の原色は、信号の色を誤認させる原因となると考えられる。
図4は、本発明の透光板の製造方法とは異なる透光板の製造方法であって、ゾルゲル法を用い、シリカからなるセラミック被膜を形成する点が本発明とは異なる。
まず、基材10にシリカとなる前駆体44を塗布する。さらに熱処理を行い、前駆体44を熱分解させることによってシリカからなるセラミック被膜24を得ることができる。この方法で得られるセラミック被膜24は、基材10と同時に熱処理する必要があることから、基材10の耐熱温度を超えて熱処理することができず、セラミック被膜の前駆体44に含まれる水素が熱処理で十分に分解されず、セラミック被膜に大量に取り込まれる。特に基材10が樹脂であると、熱処理で樹脂が変形するほどの高い温度をかけることができないので、特に水素が残留しやすくなる。水素は、価電子が1個しかないので、水素は原子間をつなぐ作用は無い。このため、網状の骨格を単純化させ、セラミック被膜の硬度を低下させる。また、基材10が樹脂であると、基材10の軟化点を超える熱処理ができないので、前駆体44の熱分解を十分に行うことができず、前駆体44はセラミックと樹脂との中間的な性質となり、得られるセラミック被膜24は、有機成分を含み、十分なセラミック被膜の性質を備えているとは言い難い。また、熱分解によって、前駆体44から分解ガスが放出されるので、気孔ができやすく、結果として気体透過率が高くなり、十分な強度を備えることができなくなる。
本発明の実施例、および比較例について、説明する。基材10はいずれも厚さ10mmのポリカーボネートである。
<実施例1>
神鋼精機製スパッタ装置SRV−4300を用いて基材にSiCのスパッタリングを行った。スパッタの電源は高周波電源を用いた。
サンプル/ターゲット間距離:100mm
出力 :300W
処理時間:16.7分
温度 :加熱無し
<実施例2>
実施例1と同じ装置を用い、処理条件は下記のとおりとした。
サンプル/ターゲット間距離:100mm
出力 :500W
処理時間:16.7分
温度 :加熱無し
<比較例1>
実施例1と同じ装置を用い、処理条件は下記のとおりとした。
サンプル/ターゲット間距離:100mm
出力 :100W
処理時間:5.6分
温度 :加熱無し
<比較例2>
プラズマCVD法により、基板上にSiCからなるセラミック被膜を形成した。使用した処理条件は下記のとおりである。
原料ガス :モノシラン、メタン
キャリアガス:水素
<比較例3>
プラズマCVD法により、基板上にダイヤモンドライクカーボンからなるセラミック被膜を形成した。使用した処理条件は下記のとおりである。
原料ガス :メタン
キャリアガス:水素
<比較例4>
前駆体として荒川化学製前駆体(コンポセランE)を用い、ゾルゲル法でシリカよりなるセラミック被膜を形成した。なお、熱処理温度は、前駆体の推奨条件の100℃、30分の後140℃、90分であった。
≪分析≫
得られた実施例1、2及び比較例1〜4のセラミック被膜に対し、以下の解析を行った。
<XPS>
X線電子分光装置を用い、各セラミック被膜のケイ素および炭素に関連する結合の存在比を解析した。また、実施例1のセラミック被膜に対しては、セラミック被膜の深さ方向の構成比を確認した。
なお、分析装置の条件等は下記のとおりである。
分析装置:アルバック・ファイ社製 QuanteraII
X線源:Al−Kα
X線源の印加電圧、電流:印加電圧15kV、電流1.5A
イオン銃のガス種:Ar
Arイオンスパッタ条件:500V,7mA,1.0min
測定エネルギー範囲:wide…0〜1100eV
narrow…C:278〜298eV,Si:94〜114eV
<ラマン分光>
顕微ラマン装置を用いて、実施例1、比較例1、3、4のGバンド、Dバンドの強度比を解析した。なお、条件は以下のとおりである。
分析装置:顕微レーザーラマン(Jobin Yvon S.A.S LabRAM HR800)
測定条件
励起波長 :633nm
測定波数範囲:200〜2000cm−1
Grating:600gr/mm
対物レンズ :×100
積算時間 :60sec
積算回数 :4回
Hole :300
検出器 :CCD
<TEM>
試料調整:Osコートを行った後、FIBマイクロサンプリング法により断面調整し、FE−TEM観察および極微電子線回折測定を行った。
装置条件等は以下のとおりである。
FIB :HITACHI FB2200、加速電圧40kV
FE−TEM:HITACHI HF−2000、加速電圧200kV
極微電子線回折時の電子線プローブ径:φ1nm
<ヘイズ値>
各セラミック被膜の耐傷性を評価するため、ヘイズ値を測定した。アルミナの砥粒を有する磨耗輪を、サンプル表面で移動させ、移動の後に残される傷の痕跡による光の拡散透過で評価する測定方法であり、数値が小さいほど耐傷性がある。装置条件は下記のとおりである。なお測定はK 7136:2000に準じて行う。
光計測器
ヘイズメータ:日本電色工業製 NDH4000(A光源を使用)
光スポット径:7mm
磨耗試験
磨耗試験機 :taber社Model5135
サンプル回転数:1000回
回転速度 :72rpm
荷重 :500g
摩耗輪 :CS−10F
<全光透過率>
各セラミック被膜の全光透過率を測定した。装置条件は下記のとおりである。
ヘイズメータ:日本電色工業製 NDH4000(A光源を使用)
光スポット径:7mm
以下、実施例の透光板を各比較例と比較しながら説明する。
実施例1、2および各比較例の測定結果を表1、表2に示す。
PVD法である実施例1、2および比較例1では、XPSにより、C、Si、Oが検出され、ケイ素関連の結合の比率を比較すると、出力が100Wの比較例1のみが、Si−Cの結合が検出されなかった。すなわち、本実施例の装置条件では、100Wと300Wとの間にSi−C結合を形成される臨界出力があったことが確認される。
実施例1、比較例1、比較例3は、ラマンによるG/Dが1.0〜2.0の範囲内でほぼ同等の数値であり、グラファイト構造とダイヤモンド構造の中間的な構造を示す非晶質のセラミックであることがわかる。なお、比較例2のプラズマCVDによるSiCからなるセラミック被膜の炭素の関連の結合はDバンドの比率が高いがGバンドも有している。このため、比較例2のプラズマCVDによるSiCからなるセラミック被膜の炭素の関連の結合は、前記実施例1、比較例1、比較例3のセラミック被膜よりダイヤモンドよりの非晶質であることがわかる。
また、比較例1に関して、セラミック被膜の断面をTEMで観察した(図6参照)。セラミック被膜の断面は不規則なパターンを示し、電子線回折図形(図7)からは、結晶を示すパターンは検出されなかった。この結果からラマン分光法によるG/Dの比率が1.59であるセラミック被膜が非晶質であることが確認できた。本発明のPVD法で得られるセラミック被膜は比較例1に対し出力を変えて製膜したものでありラマン分光法によるG/Dの値は、変動しないことから、実施例1、2のセラミック被膜も同様に非晶質のセラミック被膜であると確認された。
図5は本発明の実施例1の透光板のXPS法による深さ方向への元素の含有量の分析結果である。セラミック被膜の酸素の含有量は表面ほど多く、セラミック被膜の製膜時に酸素の供給源がないことから、大気開放時に表面から侵入したと考えられ、表面ではより緻密な膜を形成していることがわかる。
比較例4では、前駆体44の熱処理の推奨条件が、基材10のガラス転移温度を上回り、熱処理によって基材10の変形が生じ、十分な分析ができなかった。
実施例1、2のPVD法による透光板のヘイズ値は、他のプラズマCVD法による比較例(比較例2,3)ゾルゲル法による透光板(比較例4)よりも低く、耐傷性があることが確認された。また、実施例1、2の全光透過率は、PVD出力の調整により、全光透過率の調整ができ、適度な遮光性に調整できることが確認された。さらに、実施例1、2の透光板は、茶色に着色し信号等の色を見えにくくする黄色などの偏った着色が出にくく、有害な着色が出にくいことも確認された。
実施例2、比較例1、2、3のラマン分光法によるG/Dを比較すると、SiCをターゲットにしたPVD法で得られた実施例2、比較例1はG/Dが、1.0〜2.0の範囲にある。
10 基材
21、22、23、24 セラミック被膜
31、32 ターゲット
44 前駆体
101、102、103、104 透光板

Claims (10)

  1. 透光性の基材と前記基材上に形成されたセラミック被膜とからなる透光板であって、
    前記セラミック被膜は、C−Cの結合と、Si−Cの結合と、Si−Oの結合とが混在する非晶質のセラミック被膜であることを特徴とする透光板。
  2. XPS法で測定される前記セラミック被膜のケイ素に関する結合の存在比は、Si−Oの結合が30〜90%であることを特徴とする請求項1に記載の透光板。
  3. ラマン分光法で測定される前記セラミック被膜のGバンドとDバンドとの強度比であるG/Dは、1.0〜2.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の透光板。
  4. 前記セラミック被膜は、厚さが10〜80nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の透光板。
  5. XPS法で測定される前記セラミック被膜の酸素含有量は、表面から内部に向かって減少することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の透光板。
  6. 前記基材は、樹脂から形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の透光板。
  7. 前記樹脂は、ポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項6に記載の透光板。
  8. 透光性の基材にセラミック被膜を形成する透光板の製造方法であって、
    前記セラミック被膜は、SiCのターゲットを用い、前記透光性の基材にSi−C結合を形成する臨界出力以上の出力で前記セラミック被膜をPVD法で形成したのち、大気開放し酸素を結合させる
    ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の透光板の製造方法。
  9. 前記基材は、樹脂から形成されることを特徴とする請求項8に記載の透光板の製造方法。
  10. 前記樹脂は、ポリカーボネートまたはポリメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項9に記載の透光板の製造方法。
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