本発明は、腫瘍学、癌の処置、及び骨髄血球減少症によって引き起こされる免疫不全の分野に関する。より具体的には、本発明は、それを必要としている患者(例えば、造血幹細胞移植を受ける患者)における骨髄血球減少症及び関連する合併症(例えば、感染症)を予防又は治療するための、方法及びマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)ポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストを含む組成物に関する。
背景技術
造血幹細胞の注入からなる造血幹細胞移植(HSCT)は、白血病、リンパ腫、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群(MDS)、骨髄(BM)機能不全症候群、先天性免疫不全、酵素欠損症、及び異常血色素症を含む広範な疾患を治癒させることができる。
HSCTの合併症の管理における著しい進歩にもかかわらず、感染症(前処置関連毒性(RRT)及び移植片対宿主病(GVHD)に加えて)は、依然として、主に同種HSCT後の移植後罹患及び死亡の重大な原因である。感染合併症の管理における大きな進歩は、移植後の最初の1ヶ月間にみられる複雑な免疫の機能低下の機序及び所与の感染症に対する素因におけるその役割についての更なる理解によって、また、優れた設計の治験によってもたらされてきた。同種HSCT後の感染による死亡の割合は、過去20年間にわたって減少してきたが、このリスクを更に低減し、そして、この高リスク集団に適合したより効率的な防止及び予防ストラテジーを実施するために為すべきことが未だ多く残されている。
更に、自己移植後は感染による死亡のリスクがはるかに低いが、手技のリスクは従来の化学療法のリスクよりも高いので、任意の移植プログラムにおいて予防措置を講じなければならない。
HSCTレシピエントが最も感染しやすい病原体のスペクトルは、優勢な免疫欠如に対応する時系列に従う。HSCTの最初の1ヶ月においては、好中球減少症が主な宿主防御欠如であるので、患者は、細菌、真菌、及びウイルスに感染しやすくなる。HSCT後は、コルチコステロイド及び他の免疫抑制剤のせいで食細胞の質的機能不全が持続する。この期間中の日和見性のウイルス、細菌、及び糸状菌による感染のリスクは、GVHDの重篤度及び強力な免疫抑制療法の必要性に強く関連している。
したがって、感染の可能性を最小化するための新規アプローチが開発されてきた。例えば、HSCT後の好中球減少症の期間を短縮するので、顆粒球コロニー刺激因子[G−CSF又はフィルグラスチム(filgastrim)]又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子[GM−CSF又はサルグラモスチム]が用いられているが、これら成長因子が日和見疾患(細菌感染症又は真菌感染症を含む)の発病率を有効に低減し、それによって、死亡率を低下させるかどうかを示すデータは見つけられなかった。
したがって、HSCT後にこれら成長因子を日常的に使用することには議論の余地があるので、これらの使用を推奨することはできない。その結果、HSCT後の造血幹細胞移植(HSCT)レシピエントの生存率を改善するために、該レシピエントの中で感染症を有効に予防するのに有用な手段が依然として大いに必要とされている。
更に、感染症又は炎症等のストレス条件下では、身体は、攻撃感染に適合した新たな血液細胞を生成することが迅速に必要とされる。造血サイトカインは、分化系列が決定された前駆体の生存、増殖、及び分化に影響を与えることが知られている1、2が、長期造血幹細胞(HSC)がサイトカインの直接分化系列特定効果の影響を受けて特定の種類の前駆体を生成しやすいかどうかについては議論されている。転写因子のバランスを遺伝学的に変化させると、サイトカインの指示に対するHSCの感受性を高めることができるが3、HSCのコミットメントの開始は、一般的に、分化系列特異的転写因子等の細胞固有の制御因子における確率的変動によって誘発されると考えられており4、5、6、7、より後期の分化段階における子孫細胞の生存及び増殖はサイトカインが確保する8、9。
発明の概要
第1の態様では、本発明は、それを必要としている患者において顆粒球/単球前駆細胞(GMP)を一過的に提供する方法において使用するための、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)ポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストに関する。
第2の態様では、本発明は、それを必要としている患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療において使用するための、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストに関する。
第3の態様では、本発明は、また、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストの存在下でプライミングされる造血幹細胞移植片に関する。
第4の態様では、本発明は、また、HSCTを受ける患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療において使用するための、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストの存在下でプライミングされる造血幹細胞移植片に関する。
第5の態様では、本発明は、更に、HSCTを受ける患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療において同時に及び/又は後で使用するための、(i)造血幹細胞移植片と(ii)M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストとを含むキットオブパーツ組成物に関する。
別の態様では、本発明は、更に、HSCTを受ける患者の生存時間を改善する方法であって、HSCTと同時に及び/又はHSCTの後に、処置に有効な量のM−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストを該患者に投与する工程を含む方法に関する。
更なる態様では、本発明は、HSCTを受ける患者の生存時間を改善する方法であって、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストの存在下でプライミングされる、処置に有効な量の造血幹細胞移植片を該患者に投与する工程を含む方法に関する。
発明を実施するための形態
本発明者らは、次に、感染症及び炎症中に放出される骨髄サイトカインであるマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)が、選択的な生存又は増殖とは関係なく、骨髄主要制御因子PU.1を直接誘導し、そして、HSCにおける骨髄細胞の運命の変化を指示することができることを示す。ビデオイメージング及び単一細胞遺伝子発現解析により、高度に精製されたHSCを培養下のM−CSFで刺激すると、PU.1プロモーターが活性化され、そして、骨髄遺伝子サイン及び分化能を備えるPU.1+細胞の数が増加することが明らかになった。インビボでは、高全身濃度のM−CSFは、単一のHSCにおいて内因性PU.1タンパク質のM−CSF受容体依存性活性化を直接刺激し、そして、PU.1依存性骨髄分化嗜好を誘導した。
M−CSFのみが(GM−CSF及びG−CSFに比べて)、インビトロ及びインビボにおいてHSCに対して直接作用して細胞同一性の変化を指示し、それによって、幹細胞の活性を損なわせることなく、顆粒球/単球前駆細胞(GMP)を特異的かつ一過的に増加させ得ることが実際に示されている。この新たに同定されたM−CSFの特性は、骨髄血球減少症を回復させるため、具体的には、幹細胞移植後に感染から患者を保護し、それによって、HSCTを受ける患者等のそれを必要としている患者における骨髄血球減少症(例えば、好中球減少症)及び関連する合併症、より具体的には、例えばHSCT後のこれら日和見感染症と戦うための免疫系がレシピエントにおいてまだ再建されていない間に生じる細菌及び/又は真菌の感染症を予防又は治療するための主な関心対象である。
処置方法及び使用:
本発明は、それを必要としている患者(例えば、HSCTを受ける患者)において顆粒球/単球前駆細胞(GMP)を一過的に提供するために用いられる方法及び組成物(例えば、医薬組成物及びキットオブパーツ組成物)を提供する。また、本発明は、それを必要としている患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療に用いるための方法及び組成物を提供する。
第1の態様では、本発明は、それを必要としている患者において顆粒球/単球前駆細胞(GMP)を一過的に提供する方法において使用するための、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)ポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストに関する。
本明細書で使用するとき、細胞に関する用語「一過的に提供する」とは、細胞の初期集団から特徴的な細胞型の数を一過的に(すなわち、限られた期間の間、好ましくは、HSCT後1ヶ月間)増加させることを指す。したがって、一過的に提供する対象細胞(すなわち、顆粒球/マクロファージ前駆細胞)は、細胞の初期集団(すなわち、HSCTを受ける患者に投与されるHSC移植片)のインビボ分化によって生成される。更に、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニスト(例えば、IL−34ポリペプチド)は、顆粒球/マクロファージ前駆細胞を特異的かつ一過的に提供し、そして、リンパ細胞(例えば、リンパ前駆細胞)を含む他の細胞は提供しないことに留意すべきである。したがって、HSCTを受ける患者に投与されるHSCの大部分からは、顆粒球/マクロファージ前駆細胞が特異的かつ一過的に生じたが、他の細胞型、特に、リンパ前駆細胞(GVHDのリスクを有する)は生じなかった。実際、「移植片対宿主病」(「GVH」又は「GVHD」とも呼ばれる)とは、異なるMHCクラスのリンパ球が宿主に導入されたときに生じる細胞応答を指し、宿主に対するリンパ球の反応をもたらす。
本明細書で使用するとき、用語「顆粒球/マクロファージ前駆細胞」又は「GMP」とは、共通の骨髄前駆細胞に由来する細胞を指し、そして、顆粒球及びマクロファージ細胞を生じさせる能力を特徴とするが、典型的に、骨髄分化系列の赤血球細胞又は巨核球は生じさせない。
第2の態様では、本発明は、それを必要としている患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療において使用するための、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストに関する。
本明細書で使用するとき、用語「マクロファージコロニー刺激因子ポリペプチド」又は「M−CSFポリペプチド」(「コロニー刺激因子1ポリペプチド」については、CSF−1としても知られている)とは、マクロファージの産生、分化、及び機能を制御する任意のネイティブ又は変異体(ネイティブ又は合成)のサイトカインを指す。この用語は、天然のM−CSF変異体及びその改変型を含む。したがって、mRNAのオルタナティブスプライシングを通して産生される3つの異なる変異体M−CSFアイソフォームが記載されており、それぞれ、アクセッション番号UPI0000D61F83としてUniProt Uniparcデータベースに提供されている256アミノ酸のタンパク質を指すM−CSF[アルファ]変異体、アクセッション番号NP_000748.3としてGenPeptデータベースに提供されている554アミノ酸のタンパク質を指し、そして、アクセッション番号NM_000757.5としてGenBank データベースに提供されている核酸配列によってコードされているM−CSF[ベータ]変異体、及びアクセッション番号NP_757349.1としてGenPeptデータベースに提供されている438アミノ酸のタンパク質を指し、そして、アクセッション番号NM_172210.2としてGenBank データベースに提供されている核酸配列によってコードされているM−CSF[ガンマ]変異体である。
1つの実施形態では、M−CSFポリペプチドは、アクセッション番号UPI0000D61F83としてUniProt Uniparcデータベースに提供されている256アミノ酸のヒトアイソフォームM−CSF[アルファ]であり、そして、以下に示す配列(配列番号1)を有するか又は配列番号1の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一である配列を有するポリペプチドである:
1つの実施形態では、M−CSFポリペプチドは、アクセッション番号NP_000748.3としてGenBank データベースに提供されている554アミノ酸のヒトアイソフォームM−CSF[ベータ]であり、そして、以下に示す配列(配列番号2)を有するか又は配列番号2の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一である配列を有するポリペプチドである:
1つの実施形態では、M−CSFポリペプチドは、アクセッション番号NP_757349.1としてGenBankデータベースに提供されている438アミノ酸のヒトアイソフォームM−CSF[ガンマ]であり、そして、以下に示す配列(配列番号3)を有するか又は配列番号3の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一である配列を有するポリペプチドである:
本明細書で使用するとき、用語「ポリペプチド」とは、天然で産生されようと合成で作製されようと、特定の長さを有しないペプチド結合によって結合されているアミノ酸残基のポリマーを指す。したがって、ペプチド、オリゴペプチド、及びタンパク質が、ポリペプチドの定義に含まれ、そして、これら用語は、特許請求の範囲に加えて明細書全体を通して互換的に用いられる。ポリペプチドという用語は、リン酸化、アセチル化、グリコシル化等を含むがこれらに限定されない翻訳後修飾を除外するものではない。また、この用語は、天然のアミノ酸ポリマー及び非天然のアミノ酸ポリマーに加えて、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然のアミノ酸の人工的化学模倣体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。
用語「M−CSFポリペプチド」は、本明細書では、天然のヒトポリペプチドM−CSF及び該ポリペプチドの天然の対立遺伝子変異を含むと定義される。対立遺伝子変異は、ポリペプチド又はタンパク質におけるアミノ酸を変化させる場合もあり変化させない場合もある、種個体群における天然の塩基変化である。更に、本発明に係るM−CSFポリペプチドは、完全長M−CSF及びその変異体を含むか又はからなるポリペプチドを包含するだけでなく、その断片が生物学的に活性である限り、該断片からなるポリペプチドも包含する。更に、この定義には、ポリペプチド又はそのDNA配列において誘導された改変を含有し得る、ポリペプチドM−CSFの組み換えバージョン及び合成バージョンも含まれる。したがって、用語M−CSFポリペプチドは、配列番号1、配列番号2、又は配列番号3の配列によってコードされているM−CSFポリペプチドの機能的等価物を包含することを意図する。
本明細書で使用するとき、「機能的等価物」とは、親ポリペプチドの生物活性及び特異性を保持している分子(例えば、組み換えポリペプチド)を指す。したがって、用語「M−CSFポリペプチドの機能的等価物」は、該機能的等価物が、以下に記載する通り、参照ポリペプチドの生物活性のうちの少なくとも1つ、好ましくは全てを示す限り、参照するポリペプチド(すなわち、M−CSFポリペプチド)の変異体及び断片を含む。
ポリペプチドの「変異体」とは、ネイティブ配列のポリペプチドと少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有する生物活性ポリペプチドを指す。このような変異体は、例えば、ポリペプチドのN末端又はC末端において1つ以上のアミノ酸残基が付加されているか又は欠失しているポリペプチドを含む。通常、変異体は、ネイティブ配列のポリペプチドと少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、更により好ましくは少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有する。
本発明のクエリーアミノ酸配列に対して、例えば、少なくとも95%「同一」であるアミノ酸配列を有するポリペプチドとは、対象ポリペプチド配列が、クエリーアミノ酸配列の各100アミノ酸当たり5アミノ酸以下の変化を含み得ることを除いて、対象ポリペプチドのアミノ酸配列がクエリー配列と同一であることを意図する。言い換えれば、クエリーアミノ酸配列と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るためには、対象配列におけるアミノ酸残基の5%(100個のうちの5個)以下が挿入されていてもよく、欠失していてもよく、又は別のアミノ酸に置換されていてよい。
本願の枠組みにおいて、同一性の割合は、グローバルアラインメントを用いて計算される(すなわち、2つの配列をその全長にわたって比較する)。2つ以上の配列の同一性及び相同性を比較する方法は、当技術分野において周知である。例えば、全長を考慮して2つの配列の最適なアラインメント(ギャップを含む)を見出すためにNeedleman-Wunschグローバルアラインメントアルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970 J. Mol. Biol. 48:443-453)を用いる「needle」プログラムを用いてよい。該needleプログラムは、例えば、ebi.ac.ukワールドワイドウェブサイトにおいて入手可能である。本発明に係る同一性の割合は、好ましくは、「Gap Open」パラメータが10.0に等しく、「Gap Extend」が0.5に等しく、そして、Blosum62マトリックスを用いるEMBOSS::needle(グローバル)プログラムを用いて計算される。
参照配列と「少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一である」アミノ酸配列からなるポリペプチドは、例えば、参照配列と比べて欠失、挿入、及び/又は置換等の突然変異を含み得る。参照配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、参照配列の対立遺伝子変異体に対応し得る。例えば、それは、参照配列と比べて置換のみを含んでよい。該置換は、好ましくは、以下の表に示す保存的置換に対応する。
ポリペプチド「断片」とは、本明細書で使用するとき、参照ポリペプチドよりも短い生物活性ポリペプチド(例えば、M−CSFポリペプチドの断片)を指す。したがって、本発明に係るポリペプチドは、その断片が生物学的に活性である限り、M−CSFの断片を含むか又はからなるポリペプチドを包含する。
本発明の枠組み内において、生物活性断片は、例えば、M−CSFポリペプチドの少なくとも150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、又は550個の保存的アミノ酸を含み得る。
上記の通り、3つのM−CSFアイソフォームは、完全長及び切断型の前駆体から合成される。Pixley et al. 2004 Trends Cell Biol. 2004 Nov;14(11):628-38に記載の通り、前駆体のN末端の150アミノ酸が同一であり、そして、インビトロ生物活性に十分であることに更に留意すべきである。実際に、M−CSFの3つ全ての成熟型のアミノ酸1〜150は、同一であり、そして、M−CSFの生物活性に必須の配列を含有していると考えられる。したがって、MCSF−ポリペプチドの生物活性断片は、少なくとも150アミノ酸を含むN末端断片である。
1つの実施形態では、M−CSFポリペプチドは、マウスM−CSFの組み換え型156アミノ酸ポリペプチドであり、そして、以下に示す配列(配列番号4)を有する:
1つの特定の実施形態では、M−CSFポリペプチドは、ヒトM−CSFの150アミノ酸ポリペプチドを含むか又はからなり、そして、以下に示す配列(配列番号5)を有する:
M−CSF又はその断片の「生物活性」とは、(i)造血幹細胞(HSC)の骨髄分化を誘導する能力(より具体的には、実施例の項に記載する通りの骨髄単球分化;すなわち、HSCによるGMPの産生増加を誘導する能力);及び/又は(ii)(実施例の項に記載の通り)転写因子PU.1の発現を誘導する能力;及び/又は(iii)骨髄血球減少症及び関連する合併症(例えば、感染症)を治療若しくは予防する能力を意味する。
当業者は、M−CSFポリペプチドの断片が生物学的に活性であるかどうかを容易に決定することができる。新たに生成されたポリペプチドが、HSCのインビトロ若しくはインビボにおける骨髄分化を誘導するかどうか及び/又は転写因子PU.1の発現を誘導するかどうかを確認するために、各ポリペプチドについてFACS分析、qRT−PCR分析、又は単一細胞遺伝子発現プロファイリング(実施例の項を参照)を実施してよい。更に、新たに生成されたポリペプチドが、骨髄血球減少症及び関連する合併症(例えば、感染症)を治療又は予防するかどうかを確認するために、骨髄移植(BMT)及び移植片対宿主病のマウスモデルを用いてよい。更に、(例えば、BMT及びGVHDのマウスモデルを用いることによって)インビトロ又はインビボで実施される経時変化及び用量応答は、各ポリペプチドについて最適な条件を決定する。
本明細書で使用するとき、用語「M−CSF受容体アゴニスト」とは、造血幹細胞及び造血前駆細胞上に存在するM−CSF受容体(ヒトではCSF1R遺伝子によってコードされている細胞表面タンパク質である、CD115としても知られている)に結合することができ、そして、骨髄細胞、単球、マクロファージ、又は単核食細胞系の関連細胞(例えば、ミクログリア及びランゲルハンス細胞)の産生を刺激することができる任意の合成又は天然の化合物(例えば、ポリペプチド)を指す。1つの実施形態では、M−CSF受容体リガンドは、ヒトポリペプチドである。
好ましい実施形態では、M−CSF受容体のアゴニストは、IL34ポリペプチドである。
本明細書で使用するとき、用語「インターロイキン−34ポリペプチド」又は「IL−34ポリペプチド」は、当技術分野において周知であり、そして、単球及びマクロファージの増殖、生存、及び分化を促進するサイトカインを指す。天然のヒトIL−34タンパク質は、アクセッション番号Q6ZMJ4としてUniProtデータベースに提供されている242アミノ酸のアミノ酸配列を有し、そして、以下に示す配列(配列番号6)を有するか又は配列番号6の配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%同一である配列を有するポリペプチドである:
M−CSFポリペプチドについて既に記載した通り、IL−34ポリペプチドという用語は、配列番号6によってコードされているIL−34ポリペプチドの機能的等価物を包含することを意図する。
1つの実施形態では、本発明のポリペプチドは、タグを含んでよい。タグは、ポリペプチドの精製に有用であり得るエピトープ含有配列である。タグは、免疫標識技術を用いる細胞又は組織サンプル内のポリペプチドの局在、イムノブロッティングによるポリペプチドの検出等のために、親和性クロマトグラフィー等の様々な技術によって取り付けられる。当技術分野において一般的に使用されているタグの例は、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)タグ、FLAG(商標)タグ、Strepタグ(商標)、V5タグ、mycタグ、Hisタグ(典型的に、6個のヒスチジン残基からなる)等である。
別の実施形態では、本発明のポリペプチドは、その安定性及び/又はそのバイオアベイラビリティ(biodisponibility)を改善する化学修飾を含んでよい。このような化学修飾は、インビボにおける酵素分解からのポリペプチドの保護が増大しており及び/又は膜バリアを横断する能力が高いポリペプチドを得、それによって、ポリペプチドの半減期を延長し、そして、生物活性を維持又は改善することを目的とする。当技術分野において公知の任意の化学修飾を、本発明に従って使用することができる。このような化学修飾としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:
− 修飾及び/若しくは異常アミノ酸によるアミノ酸の置換(例えば、Nle、Nva、若しくはOrn等の異常アミノ酸によるアミノ酸の置換);並びに/又は
− ペプチドのN末端及び/若しくはC末端の修飾(例えば、N末端のアシル化(好ましくは、アセチル化)若しくは脱アミノ化又はC末端カルボキシル基のアミド若しくはアルコール基への修飾);
− 2個のアミノ酸間のアミド結合の修飾:2個のアミノ酸を結合させるアミド結合の窒素原子若しくはアルファ炭素のアシル化(好ましくは、アセチル化)若しくはアルキル化(好ましくは、メチル化);
− 2個のアミノ酸を結合させるアミド結合のアルファ炭素における修飾(例えば、2個のアミノ酸を結合させるアミド結合のアルファ炭素のアシル化(好ましくは、アセチル化)又はアルキル化(好ましくは、メチル化));
− キラリティの変化(例えば、1個以上の天然のアミノ酸(Lエナンチオマー)の対応するD−エナンチオマーによる置換);
− アミノ酸鎖の(C末端からN末端への)逆位と共に、1個以上の天然のアミノ酸(L−エナンチオマー)が対応するD−エナンチオマーで置換されているレトロインバージョン;
− 1個以上のアルファ炭素が窒素原子で置換されているアザペプチド;並びに/又は
− 1個以上のアミノ酸のアミノ基がα炭素ではなくβ炭素に結合しているベータペプチド。
薬物のバイアビリティーを改善するための別のストラテジーは、水溶性ポリマーの使用である。様々な水溶性ポリマーが、生体分布を変化させる、細胞取り込みモードを改善する、生理学的バリアの透過性を変化させる、及び身体からのクリアランス速度を改変することが示されている。標的化又は持続放出効果を達成するために、末端基として、骨格の一部として、又はポリマー鎖におけるペンダント基として薬物部分を含有する水溶性ポリマーが合成されている。
ポリエチレングリコール(PEG)は、生体適合性が高く、そして、修飾が容易であることを鑑みて、薬物担体として広く用いられている。様々な薬物、タンパク質、及びリポソームへの結合が、滞留時間を改善し、そして、毒性を低下させることが示されている。PEGは、鎖の末端におけるヒドロキシル基を通して及び他の化学的方法を介して、活性剤に結合することができるが、PEG自体は、1分子当たり最大2個の活性剤に限定される。異なるアプローチでは、PEG及びアミノ酸のコポリマーが、PEGの生体適合性を保持しているが、1分子当たり多数の結合点が存在する(より大きな薬物負荷を提供する)という追加の利点を有し、そして、様々な用途に適するように合成的に設計できる新規生体材料として研究された。
当業者は、薬物を有効に修飾するためのPEG化技術を認識している。例えば、PEG及び三官能性モノマー(例えば、リジン)の交互ポリマーからなる薬物送達ポリマーが、VectraMed(Plainsboro, N.J.)によって用いられている。PEG鎖(典型的に、2000ダルトン以下)は、安定なウレタン結合を通してリジンのa−及びe−アミノ基に結合する。このようなコポリマーは、ポリマー鎖に沿って厳しく制御された所定の間隔で反応性ペンダント基(リジンのカルボン酸基)を提供すると同時に、PEGの望ましい特性を保持している。反応性ペンダント基は、誘導体化、架橋、又は他の分子とのコンジュゲーションに用いることができる。これらポリマーは、ポリマーの分子量、PEGセグメントの分子量、及び薬物とポリマーとの間の切断可能な結合を変化させることによって、安定な長時間循環するプロドラッグの作製において有用である。PEGセグメントの分子量は、薬物/連結基複合体のスペーシング、及びコンジュゲートの分子量当たりの薬物量に影響を与える(PEGセグメントが小さいほど、より大きな薬物負荷を与える)。一般に、ブロックコポリマーコンジュゲートの全体の分子量を増加させると、該コンジュゲートの循環半減期が長くなる。それにもかかわらず、コンジュゲートは、容易に分解可能でなければならないか又は許容限度の糸球体濾過率を下回る(例えば、60kDa未満の)分子量を有していなければならない。
循環半減期及び生体分布の維持において重要なポリマー骨格に加えて、特定のトリガー、典型的には、標的組織における酵素活性によって骨格ポリマーから放出されるまで、リンカーを用いて処置剤をプロドラッグの形態で維持してもよい。例えば、この種の組織活性化薬物送達は、生体分布の特定の部位への送達が必要であり、そして、処置剤が病変の部位又はその近傍で放出される場合、特に有用である。活性化薬物送達において用いるための連結基ライブラリーは、当業者に公知であり、そして、酵素反応速度、活性酵素の保有率、及び選択された疾患特異的酵素の切断特異性に基づき得る。このようなリンカーは、処置用送達のために本明細書に記載するポリペプチドの修飾において用いることができる。
更に別の実施形態では、本発明のポリペプチドは、異種ポリペプチド(すなわち、無関係なタンパク質、例えば、免疫グロブリンタンパク質に由来するポリペプチド)に融合し得る。
本明細書で使用するとき、用語「融合した」及び「融合」は、互換的に用いられる。これら用語は、化学的コンジュゲーション又は組み換え手段を含むいかなる手段によっても、2つ以上の要素又は成分を互いに結合させることを指す。「インフレーム融合」とは、元のORFの正確な翻訳リーディングフレームが維持されるように、2つ以上のポリヌクレオチドオープンリーディングフレーム(ORF)を結合させて連続するより長いORFを形成することを指す。例えば、組み換え融合タンパク質は、元のORFによってコードされているポリペプチドに対応する2つ以上のセグメント(セグメントは、通常このように結合されることはない)を含有する単一のタンパク質であってよい。したがって、リーディングフレームは、融合したセグメント全体を通して連続になっているが、セグメントは、例えば、インフレームリンカー配列によって物理的に又は空間的に離れている場合もある。
本明細書で使用するとき、用語「M−CSF融合タンパク質」とは、異種ポリペプチドに融合したM−CSFポリペプチド又はその機能的等価物を含むポリペプチドを指す。M−CSF融合タンパク質は、一般的に、(上記)M−CSFポリペプチドと共通する少なくとも1つの生物学的特性を共有する。
M−CSF融合タンパク質の例は、M−CSFイムノアドヘシンである。
本明細書で使用するとき、用語「イムノアドヘシン」は、異種タンパク質(「アドへシン」)の結合特異性と免疫グロブリン定常ドメインのエフェクター機能とを組み合わせる抗体様分子を指す。構造的に、イムノアドヘシンは、抗体の抗原認識及び結合部位以外である(すなわち、「異種」である)所望の結合特異性を有するアミノ酸配列と免疫グロブリン定常ドメイン配列との融合を含む。イムノアドヘシン分子のアドへシン部分は、典型的に、受容体又はリガンドの結合部位を少なくとも含む連続するアミノ酸配列である。イムノアドヘシンにおける免疫グロブリン定常ドメイン配列は、任意の免疫グロブリン、例えば、IgG−1、IgG−2、IgG−3、又はIgG−4サブタイプ、IgA(IgA−1及びIgA−2を含む)、IgE、IgD、又はIgM等から得ることができる。
免疫グロブリン配列は、免疫グロブリン定常ドメイン(Fc領域)であることが好ましいが、必須ではない。イムノアドヘシンは、ヒト抗体の有用な化学的特性及び生物学的特性の多くを有し得る。イムノアドヘシンは、適切なヒト免疫グロブリンのヒンジ及び定常ドメイン(Fc)配列に結合している所望の特異性を有するヒトタンパク質配列から構築することができるので、全体にヒト成分を用いて対象となる結合特異性を達成することができる。このようなイムノアドヘシンは、患者に対して最低限の免疫原性しか有しないので、慢性的に又は繰り返し使用しても安全である。1つの実施形態では、Fc領域は、ネイティブ配列のFc配列である。別の実施形態では、Fc領域は、変異体のFc配列である。更に別の実施形態では、Fc領域は、機能的Fc配列である。M−CSFイムノアドヘシンのM−CSF配列部分及び免疫グロブリン配列部分は、最小のリンカーによって結合することができる。免疫グロブリン配列は、免疫グロブリン定常ドメインであることが好ましいが、必須ではない。本発明のキメラにおける免疫グロブリン部分は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4サブタイプ、IgA、IgE、IgD、又はIgMから得ることができるが、好ましくは、IgG1又はIgG3から得ることができる。
本明細書で使用するとき、用語「Fc領域」は、ネイティブ配列のFc配列及び変異体のFc領域を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変動し得るが、ヒトIgG重鎖のFc領域は、通常、Cys226位におけるアミノ酸残基から又はPro230からそのカルボキシル末端まで及ぶと定義される。
M−CSF融合タンパク質の別の例は、M−CSFポリペプチドと、Konterman et al. 2012 AlbudAb(商標)Technology Platform-Versatile Albumin Binding Domains for the Development of Therapeutics with Tunable Half-Livesに記載されているAlbudAb(商標)テクノロジープラットフォームによるヒト血清アルブミン結合ドメイン抗体(AlbudAbs)との融合である。
本発明のポリペプチドは、当業者に明らかである通り、任意の好適な手段によって生成され得る。本発明に従って使用するために十分な量のM−CSFポリペプチドを生成するために、本発明のポリペプチドを含有する組み換え宿主細胞を適切な条件下で培養することによって、発現を便利に達成することができる。好ましくは、ポリペプチドは、組み換え手段によって、コーディング核酸分子から発現させることによって生成される。様々な異なる宿主細胞においてポリペプチドをクローニング及び発現させるための系は、周知である。
組み換え型で発現させる場合、ポリペプチドは、好ましくは、宿主細胞においてコーディング核酸から発現させることによって生成される。具体的な系の個々の要件に応じて任意の宿主細胞を用いてよい。好適な宿主細胞としては、細菌、哺乳類細胞、植物細胞、酵母及びバキュロウイルス系が挙げられる。異種ポリペプチドを発現させるために当技術分野において利用可能な哺乳類細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、及びその他多くの細胞が挙げられる。また、容易に操作及び増殖させることができるので、細菌も組み換えタンパク質を生成するために好ましい宿主である。一般的な好ましい細菌宿主は、大腸菌(E coli)である。
更に、タンパク質系バイオ医薬品の大部分は、その処置用途に関連するタンパク質の特性に大きな影響を与え得る何らかの形態の翻訳後修飾を有していたことに留意すべきである。タンパク質のグリコシル化は、最も一般的な修飾である(ヒトタンパク質の約50%がグリコシル化されている)。グリコシル化は、組成物内のタンパク質において様々なグリカン構造を作製することを通してタンパク質組成物に顕著な異種性を導入し得る。このようなグリカン構造は、糖タンパク質が小胞体(ER)及びゴルジ複合体を通過するときに、グリコシル化機構の多様な酵素の作用によって作製される(グリコシル化カスケード)。タンパク質のグリカン構造の性質は、タンパク質の折り畳み、安定性、寿命、輸送、薬力学、薬物動態、及び免疫原性に対して影響を有する。グリカン構造は、タンパク質の主な機能活性に対して大きな影響を有する。グリコシル化は、局所タンパク質構造に影響を及ぼし得、そして、ポリペプチド鎖の折り畳みを指示するのに役立ち得る。グリカン構造の1つの重要な種類は、いわゆるN−グリカンである。これは、発生期のポリペプチド鎖のコンセンサス配列NXS/Tにおけるアスパラギン残基のアミノ(N)基とオリゴ糖との共有結合によって生成される。N−グリカンは、更に、タンパク質の選別又はその最終標的への方向づけ(directing)に関与し得:抗体のN−グリカンは、例えば、補体成分と相互作用し得る。また、N−グリカンは、例えば、その可溶性の強化、その表面における疎水性パッチの遮蔽、タンパク質分解からの保護、及び鎖内安定化相互作用の指示によって糖タンパク質を安定化させる機能を有する。グリコシル化は、例えば、ヒトにおいてタンパク質の半減期を制御し得、N−グリカンにおける末端シアル酸の存在が、血流中を循環しているタンパク質の半減期を延長し得る。
本明細書で使用するとき、用語「糖タンパク質」は、1つ以上のN−グリカンが結合している任意のタンパク質を指す。したがって、この用語は、当技術分野において一般的に糖タンパク質として認識されているタンパク質、及び1つ以上のN結合型グリコシル化部位を含有するように遺伝子操作されているタンパク質の両方を指す。本明細書で使用するとき、用語「N−グリカン」及び「グリコフォーム」は、互換的に用いられ、そして、N結合型オリゴ糖、例えば、アスパラギン−N−アセチルグルコサミン結合によってポリペプチドのアスパラギン残基に結合しているものを指す。N結合型糖タンパク質は、タンパク質におけるアスパラギン残基のアミド窒素に結合しているN−アセチルグルコサミン残基を含有する。糖タンパク質にみられる主要糖は、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N−アセチルグルコサミン(GluNAc)、及びシアル酸(例えば、N−アセチルノイラミン酸(NANA))である。糖基のプロセシングは、ERの内腔において翻訳と同時に生じ、そして、N結合型糖タンパク質についてはゴルジ装置において翻訳後も続く。
近年、多数の酵母、例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、及びサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が、このような系の利点を使用するが、グリコシル化に関する不利点をなくすために開発中である。幾つかの株は、タンパク質において規定のヒト様グリカン構造を生成するために遺伝的に開発中である。ヒト様N−グリカンを生成するために酵母を遺伝子操作する方法は、米国特許出願公開第20040230042号、同第20050208617号、同第20040171826号、同第20050208617号、及び同第20060286637号に記載されている方法と共に、米国特許第7,029,872号及び同第7,449,308号に記載されている。これら方法は、酵母型N−グリカンの代わりに主にヒト様複合体又はハイブリッドN−グリカンを有する処置用糖タンパク質を生成することができる組み換え酵母を構築するために用いられている。既に記載した通り、ヒト様グリコシル化は、主に、N−アセチルグルコサミン、ガラクトース、フコース、及び/又はN−アセチルノイラミン酸を含有する「複雑な」N−グリカン構造を特徴とする。したがって、酵母の幾つかの株は、1つ以上のヒト様複合体又はヒト様ハイブリッドN−グリカン、例えば、GlcNAcMan3GlcNAc2を含む糖タンパク質を生成するように遺伝子操作されている。
本明細書で使用するとき、用語「骨髄血球減少症」とは、骨髄細胞の数が異常に少ないことを特徴とする血液病を指す。本明細書で使用するとき、この用語は、好中球減少症及び単球減少症を含み、そして、血小板減少症及び赤血球減少症は除く。
本明細書で使用するとき、用語「単球減少症」とは、単球の数が異常に少ないことを特徴とする血液病を指す。
本明細書で使用するとき、用語「好中球減少症」とは、好中球の数が異常に少ない、例えば、1500個(好中球)/μL(血液)未満、好ましくは1000個(好中球)/μL(血液)未満、最も好ましくは500個(好中球)/μL(血液)未満であることを特徴とする血液病を指す。
本明細書で使用するとき、この用語は、慢性、周期性、及び急性の好中球減少症を含む。好中球減少症は、例えば、慢性特発性好中球減少症、先天性好中球減少症、又は続発性好中球減少症、例えば、感染誘導性好中球減少症、薬物誘導性好中球減少症、アルコール依存症誘導性好中球減少症、自己免疫性好中球減少症、AIDSにおける慢性続発性好中球減少症、骨髄置換によって引き起こされる好中球減少症、細胞障害性化学療法によって引き起こされる好中球減少症、放射線療法によって引き起こされる好中球減少症、葉酸若しくはビタミンB12欠乏によって引き起こされる好中球減少症、脾機能亢進症によって引き起こされる好中球減少症、又はTγ−リンパ増殖性疾患によって引き起こされる好中球減少症に対応し得る。
「それを必要としている患者」とは、処置すべき骨髄血球減少症又は関連する合併症に罹患しているか又は罹患しやすい個体を意味する。本発明の枠組み内で処置される個体は、好ましくは、ヒトである。
1つの特定の実施形態では、それを必要としている患者は、造血幹細胞移植(HSCT)を受ける患者である。
本明細書で使用するとき、用語「造血幹細胞移植(又はHSCT)を受ける患者」とは、HSC移植片を移植しなければならないヒトを指す。典型的に、前記患者は、HSCTによって治癒可能な疾病に冒されている。
1つの実施形態では、HSCTを受ける患者は、白血病、リンパ腫、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群(MDS)、骨髄(BM)機能不全症候群、先天性免疫不全、酵素欠損症、及び異常血色素症からなる群より選択される疾患に冒されている。
本明細書で使用するとき、用語「造血幹細胞移植」又は「HSCT」とは、広範な血液病の処置の構成要素を指す。一般的に、自己移植及び同種移植の2種類のHSCTが存在する。
1つの実施形態では、HSCTは、同種HSCTである。本明細書で使用するとき、用語「同種」とは、遺伝的に近縁であるか又は遺伝的に近縁ではないが遺伝的に類似している同じ種のメンバーに由来するか、該メンバーを起源とするか、又は該メンバーであることを指す。「同種移植」とは、レシピエントがドナーと同じ種である場合の、ドナーからレシピエントへの細胞又は器官の移植を指す。同種移植は、典型的にレシピエントのMHCに適合するドナーを用いて、ドナーの幹細胞を注入することを含む。しかし、適合非血縁ドナー(MUD)移植は、より強い移植片対宿主反応にも関連しているので、死亡率がより高くなる。
別の実施形態では、HSCTは、自己HSCTである。本明細書で使用するとき、用語「自己」とは、同じ被験体若しくは患者に由来するか、又は該被験体若しくは患者を起源とすることを指す。「自己移植」とは、被験体自身の細胞又は器官を採取し、そして、再移植することを指す。自己移植は、骨髄破壊処置後にレシピエント自身の細胞を注入することを含む。自己細胞移植は、移植片対宿主病(GVHD)のリスクを最小化するので、合併症が減少する。
本明細書で使用するとき、用語「骨髄破壊性」又は「骨髄破壊」とは、典型的に、細胞毒性剤又は放射線に曝露することによる、造血系の機能障害又は破壊を指す。骨髄破壊は、造血系を破壊する高用量の細胞毒性剤又は高線量の放射線全身照射によってもたらされる完全な骨髄破壊を包含する。また、非骨髄破壊条件(骨髄抑制処置)によって引き起こされる不完全に骨髄が破壊された状態も含む。したがって、非骨髄破壊条件は、被験体の造血系を完全には破壊しない処置である。
1つの実施形態では、骨髄血球減少症に関連する合併症は、ウイルス、細菌、及び/又は真菌の感染症である。
ウイルス感染症の非限定的な例としては、単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症、サイトメガロウイルス(CMV)感染症、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV6)感染症、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症、呼吸器系ウイルス感染症(例えば、RSウイルス(RSV)、パラインフルエンザウイルス、ライノウイルス、及びインフルエンザウイルス)、及びアデノウイルス感染症が挙げられる。
細菌感染症の非限定的な例としては、グラム陰性細菌感染症、例えば、エシェリキア属(例えば、大腸菌(Escherichia coli))、サルモネラ属、シゲラ属、及び他の腸内細菌科、シュードモナス属(例えば、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa))、モラクセラ属、ヘリコバクター属、及びレジオネラ属の感染症が挙げられる。
真菌感染症の非限定的な例としては、アスペルギルス属感染症(例えば、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus))、カンジダ属感染症(例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)及びカンジダ・アルビカンス以外)、並びにトリコスポロン属、アルテルナリア属、フザリウム属、及びケカビ目の感染症を含む他の新興真菌感染症が挙げられる。
1つの特定の実施形態では、合併症は、HSCTの0〜100日後に発生する初期感染症である。
他の特定の実施形態では、合併症は、HSCTの少なくとも1年後まで少なくとも100日に発生する晩期感染症である。
本明細書で使用するとき、用語「予防」とは、このような用語が適用される疾患又は状態の発症を遅らせるか又は防ぐことを目的とする予防的方法又はプロセスを特徴付けることを意図する。
本明細書で使用するとき、用語「治療」とは、(1)このような用語が適用される疾患状態若しくは状態の症状の進行、増悪、若しくは悪化を減速させるか若しくは停止させる;(2)このような用語が適用される疾患状態若しくは状態の症状を軽減するか若しくは寛解させる;及び/又は(3)このような用語が適用される疾患状態若しくは状態を回復若しくは治癒させることを目的とする治療的方法又はプロセスを特徴付けることを意図する。
あるいは、本発明のポリペプチドをコードしている核酸(例えば、配列番号1〜配列番号5に示すM−CSFポリペプチド、又は配列番号6に示すIL−34ポリペプチド等)、又はこのような核酸を含むベクター、又はこのような発現ベクターを含む宿主細胞を、それを必要としている患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療において用いてよい。
したがって、本発明の別の態様は、それを必要としている患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療において使用するための、上記配列番号1〜配列番号6の任意の1つを含むアミノ酸配列をコードしている核酸に関する。
本発明の核酸は、例えば、単独で又は組み合わせて、任意の化学的、生物学的、遺伝学的、又は酵素的技術等であるがこれらに限定されるわけではない、当技術分野においてそれ自体公知の任意の技術によって生成され得る。
本発明の別の態様は、それを必要としている患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療において使用するための、上記配列番号1〜配列番号6の任意の1つを含むアミノ配列をコードしている核酸配列を含む発現ベクターである。
その最も広義の意味において、「ベクター」とは、核酸の細胞への移動を促進することができる任意のビヒクルである。好ましくは、ベクターは、ベクターの非存在下で生じる分解の程度に比べて少ない分解で核酸を細胞に輸送する。一般に、本発明において有用なベクターとしては、プラスミド、ファージミド、ウイルス、対象となる核酸配列の挿入又は組み込みによって操作されているウイルス又は細菌の起源に由来する他のビヒクルが挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスベクターが好ましい種類のベクターであり、そして、以下のウイルス由来の核酸配列が挙げられるが、これらに限定されない:レトロウイルス(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳癌ウイルス、及びマウス肉腫ウイルス);アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV−40タイプのウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン・バーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;及びRNAウイルス(例えば、レトロウイルス)。命名されていないが、当技術分野において公知の他のベクターを容易に用いることができる。
好ましいウイルスベクターは、非必須遺伝子が対象となる遺伝子で置換されている非細胞変性真核生物ウイルスに基づく。非細胞変性ウイルスとしては、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス)が挙げられ、該ウイルスの生活環は、ウイルスのゲノムRNAがDNAに逆転写され、続いて、宿主細胞のDNAにプロウイルスが組み込まれることを含む。レトロウイルスは、ヒト遺伝子治療治験が承認されている。最も有用なのは、複製欠損性(すなわち、所望のタンパク質の合成を指示することはできるが、感染粒子を作製することはできない)レトロウイルスである。このような遺伝的に改変されたレトロウイルス発現ベクターは、インビボにおいて遺伝子を高効率で形質導入するために一般的に使用される。複製欠損性レトロウイルスを生成するための標準的なプロトコール(プラスミドに外因性遺伝物質を組み込む工程と、パッケージング細胞株(cell lined)にプラスミドをトランスフェクトする工程と、パッケージング細胞株によって組み換えレトロウイルスを生成する工程と、組織培養培地からウイルス粒子を回収する工程と、標的細胞にウイルス粒子を感染させる工程とを含む)は、KRIEGLER(A Laboratory Manual," W.H. Freeman C.O., New York, 1990)及びMURRY("Methods in Molecular Biology," vol.7, Humana Press, Inc., Cliffton, N.J., 1991)に提供されている。
特定の用途に好ましいウイルスは、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルスであり、これらは、遺伝子治療においてヒトに使用することが既に承認されている二本鎖DNAウイルスである。アデノ随伴ウイルスは、複製欠損性になるように改変することができ、そして、広範な細胞型及び種に感染することができる。更に、熱及び脂質溶媒安定性;造血細胞を含む多様な分化系列の細胞における形質導入頻度が高い;及び重複感染阻害の欠如ゆえに複数の一連の形質導入が可能である等の利点を有する。報告によれば、アデノ随伴ウイルスは、部位特異的にヒト細胞DNAに組み入れることができ、それによって、レトロウイルス感染に特徴的な挿入突然変異及び挿入遺伝子発現のばらつきの可能性を最小化することができる。更に、野性型アデノ随伴ウイルスは、選択圧の非存在下において組織培養で100回超継代した後に感染し、このことは、アデノ随伴ウイルスのゲノムの組み込みが比較的安定な事象であることを示す。また、アデノ随伴ウイルスは、染色体外でも機能し得る。
他のベクターとしては、プラスミドベクターが挙げられる。プラスミドベクターは、当技術分野において広範に記載されており、そして、当業者に周知である。例えば、SANBROOK et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual," Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989を参照。ここ数年、プラスミドベクターは、インビボにおいて抗原をコードしている遺伝子を細胞に送達するためのDNAワクチンとして用いられている。プラスミドベクターは、ウイルスベクターの多くと同じ安全性の問題を有していないので、このために特に有利である。しかし、宿主細胞に適合するプロモーターを有するこれらプラスミドは、プラスミド内の作動可能にコードされている遺伝子からペプチドを発現させることができる。幾つかの一般的に用いられているプラスミドとしては、pBR322、pUC18、pUCl9、pRC/CMV、SV40、及びpBlueScriptが挙げられる。他のプラスミドは、当業者に周知である。更に、プラスミドは、DNAの特定の断片を除去したり付加したりするために、制限酵素及びライゲーション反応を用いて特別に設計することができる。プラスミドは、様々な非経口、粘膜、及び局所経路によって送達され得る。例えば、DNAプラスミドは、筋肉内、皮内、皮下、又は他の経路によって注射してよい。また、鼻腔内スプレー又はドロップ、肛門坐剤、及び経口によって投与してもよい。また、遺伝子銃を用いて表皮又は粘膜表面に投与してもよい。プラスミドは、水溶液で与えられるか、金粒子上で乾燥させるか、又はリポソーム、デンドリマー、及びマイクロカプセル化を含むがこれらに限定されない別のDNA送達系と共に与えられてよい。
本発明の別の態様は、骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療において用いるための、上記発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
本発明によれば、用いることができる宿主細胞の例は、ヒト単球(特に、処置される被験体から得られるもの)である。
遺伝子を運ぶベクターを細胞に導入することができる手段としては、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、形質導入、若しくはDEAE−デキストラン、リポフェクション、リン酸カルシウムを用いるトランスフェクション、又は当業者に公知の他の手段が挙げられるが、これらに限定されない。
医薬組成物:
本発明は、また、それを必要としている患者において顆粒球/単球前駆細胞(GMP)を一過的に提供する方法において使用するための、本明細書に定義するポリペプチド(又はそれをコードしている核酸、それを含む発現ベクター若しくは宿主細胞)と1つ以上の薬学的に許容し得る担体とを含むものに関する。
本発明は、更に、それを必要としている患者において骨髄血球減少症及び関連する合併症の処置において使用するための、本明細書に定義するポリペプチド(又はそれをコードしている核酸、それを含む発現ベクター若しくは宿主細胞)と1つ以上の薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物に関する。
本発明のポリペプチドを含む医薬組成物は、意図する目的を達成するのに有効な量のポリペプチドが含有されている全ての組成物を含む。更に、医薬組成物は、活性化合物を薬学的に用いることができる製剤に加工するのを容易にする賦形剤及び補助剤を含む、好適な生理学的に許容し得る担体を含有してよい。
用語「生理学的に許容し得る担体」は、活性成分の生物活性の有効性に干渉せず、そして、投与される宿主に対して毒性ではない任意の担体を包含することを意味する。好適な生理学的に許容し得る担体は、当技術分野において周知であり、そして、例えば、この分野の標準的な参考書であるRemington's Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Company, Easton, USA, 1985)に記載されている。例えば、非経口投与については、生理食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミン、及びリンゲル液等のビヒクル中で、上記活性成分を注射用単位剤形に製剤化してよい。
生理学的に許容し得る担体に加えて、本発明の医薬組成物は、安定剤、賦形剤、緩衝剤、及び保存剤等の添加剤を微量含んでいてもよい。本発明の医薬組成物は、更に、少なくとも1つの更なる化合物を含んでよい。
1つの実施形態では、前記少なくとも1つの更なる化合物は、抗ウイルス化合物、抗真菌化合物、抗細菌化合物、サイトカイン、又は成長因子からなる群より選択される。
抗ウイルス化合物は、患者が遭遇するウイルスに適したものであってよい。有用な抗ウイルス化合物としては、一例として、限定されるわけではないが、アシクロビル、シドホビル、ガンシクロビル、イドクスウリジン、ペンシクロビル、バルガンシクロビル、バラシクロビル、ビダラビン、アマンタジン、リマンタジン、ザナミビル、ホミビルセン、イミキモド、及びリバビリンが挙げられる。レトロウイルスに対する療法としては、特に、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(例えば、ジドブジン、ジダノシン、スタブジン、ザルシタビン、ラミブジン(lamividudine))、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(例えば、ネビラピン、エファビレンツ、デラビルジン(delvirudine))、及びプロテアーゼ阻害剤(例えば、サクイナビル(saquinivir)、インジナビル、リトナビル、ネルフィナビル、アンプレナビル、及びロピナビル)が挙げられる。
抗真菌化合物は、全身抗真菌剤であってよい。1つの有用なこの種の抗真菌化合物は、ポリエン・マクロライド系抗生物質のファミリー由来のアムホテリシンBである。別の抗真菌化合物は、フッ素化ピリミジンであるフルシトシンである。真菌によるフルシトシンの脱アミノ化により、代謝拮抗物質及びDNA合成阻害剤である5−フルオロウラシルが生成される。フルシトシンは、典型的に、クリプトコッカスの感染及びカンジダ症(candiadosis)に用いられる。単独で用いられるが、フルシトシンは、一般的に、アムホテリシンBと併用される。イミダゾール及びトリアゾールは、アゾール系抗真菌化合物の広い分類を表す。例示的なアゾール抗真菌剤としては、特に、ケトコナゾール(ketoconzaole)、イトラコナゾール(itracanazole)、フルコナゾール、エコナゾール、ボリコナゾール、及びテルコナゾール(tercanozole)が挙げられる。
抗細菌化合物は、特定の細菌病原体に好適な抗生物質であってよい。これらは、広域スペクトル抗生物質、及びより標的の狭い抗細菌化合物の両方を含む。抗細菌化合物の様々な分類は、一例として、限定されるわけではないが、キノロン及びフルオロキノロン、[ベータ]−ラクタム抗生物質、アミノグリコシド、テトラサイクリン、マクロライド、及びこれらの様々な同種物である。例示的なキノロン化合物としては、シプロフロキサシン、オフロキサシン、スパルフロキサシン、ロメフロキサシン、及びモキシフロキサシン(moxifioxacin)が挙げられる。例示的な[ベータ]−ラクタム抗生物質としては、ペニシリン(例えば、ペニシリンG、ペニシリンV)、アンピシリン、カルベニシリン、メチシリン、カルバペネム、及びセファロスポリン(例えば、セファロチン、セファマンドール、セファクロール、セフォニシド、セフォテタン、セフォタキシム(cefatoxime)、セフタジジム、セフチゾキシム、セフェピム)が挙げられる。例示的なアミノグリコシドとしては、ネオマイシン、ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、及びネチルミシンが挙げられる。例示的なマクロライドとしては、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、及びアジスロマイシンが挙げられる。
本発明のポリペプチドは、意図する目的を達成する任意の手段によって投与してよい。例えば、投与は、皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、脳内、くも膜下腔内、鼻腔内、経口、直腸内、経皮、頬側、局所、吸入、又は皮下使用を含むがこれらに限定されない多数の異なる経路によって行ってよい。非経口及び局所の経路が特に好ましい。
投与される投与量は、個体の要求、所望の効果、及び選択される投与経路に依存する。投与される投与量は、レシピエントの年齢、性別、健康、及び体重、併用処置、併用処置があるとすれば処置の頻度、並びに所望の効果の性質に依存することが理解される。各処置に必要な全用量は、複数回投与又は単回投与によって投与してよい。
投与に用いられる用量は、様々なパラメータの関数として、特に、用いられる投与方式、関連する病変、又は望ましい処置期間の関数として適合させ得る。例えば、所望の処置効果を達成するのに必要な用量よりも低いレベルの用量の化合物で開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、当技術分野の技術の範囲内である。しかし、ポリペプチドの日用量は、成人1人当たり1日当たり0.01〜1,000mgという広範囲にわたって変動し得る。好ましくは、組成物は、処置される被験体に対する投与量を症状で調整するために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250、及び500mgの活性成分を含有する。医薬は、典型的に、約0.01mg〜約500mgの活性成分、好ましくは1mg〜約100mgの活性成分を含有する。薬物の有効量は、通常、1日当たり0.002mg/kg(体重)〜約20mg/kg(体重)、特に、1日当たり約0.001mg/kg(体重)〜10mg/kg(体重)の投与量レベルで供給される。
別の態様では、本発明は、それを必要としている患者にGMP細胞を一過的に提供する方法であって、処置に有効な量のM−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストを該患者に投与する工程を含む方法に関する。
更に別の態様では、本発明は、それを必要としている患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症を予防又は治療する方法であって、処置に有効な量のM−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストを該患者に投与する工程を含む方法に関する。
「処置に有効な量」とは、処置すべき疾患を予防、治療、又は緩和することができるポリペプチドの濃度を達成するのに十分な量を意味する。このような濃度は、当業者であれば日常的に決定することができる。実際に投与されるポリペプチドの量は、典型的に、処置される状態、選択される投与経路、投与される実際の化合物、被験体の年齢、体重、及び応答、被験体の症状の重篤度等を含む関連する状況を鑑みて、医師又は獣医師によって決定される。また、投与量は投与されるポリペプチドの安定性に依存し得ることを当業者は理解する。
特定の実施形態では、本発明は、HSC移植を受ける患者にGMP細胞を一過的に提供する方法であって、HSCTと同時に及び/又はHSCTの後に、処置に有効な量のM−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストを該患者に投与する工程を含む方法に関する。
更に別の態様では、本発明は、更に、HSC移植を受ける患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症を予防又は治療する方法であって、HSCTと同時に及び/又はHSCTの後に、処置に有効な量のM−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストを該患者に投与する工程を含む方法に関する。
本明細書で使用するとき、用語「同時に」とは、造血幹細胞移植(HSCT)と同日に、対象となるポリペプチドをレシピエント患者に投与することを意味する。
本明細書で使用するとき、用語「後に」とは、HSCTの後に、例えば、HSCTの2、3、4、5、6、又は7日後に、対象となるポリペプチドをレシピエント患者に投与することを意味する。
1つの実施形態では、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストによる処置は、2サイクル以上投与される、すなわち、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストの投与は、少なくとも1回繰り返される。
例えば、具体的な患者の状態及び応答に応じて、2〜10サイクル又は更にはそれ以上投与してよい。間隔、すなわち、次の2つの後続サイクルの開始間の時間は、典型的に数日間である。
別の態様では、本発明は、更に、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストの存在下でプライミングされる造血幹細胞移植片に関する。
M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストによるエクスビボ処置は、HSCTを受ける患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症を予防又は治療するために、骨髄破壊療法又は骨髄抑制細胞減少療法レジメン後の患者の骨髄レスキューを改善する。
本明細書で使用するとき、用語「造血幹細胞移植片」とは、幹細胞移植を成功させるために最適な数の造血幹細胞/kg(患者)を指す。造血幹細胞移植片は、患者の年齢、重量、及び健康状態、適応症の性質及び重篤度の関数として広く変動し得る。HSCに好適な投与量範囲は、これら検討事項に従って変動する。
造血幹細胞移植片として有用な造血幹細胞(HSC)には、骨髄(BM)、末梢血、及び臍帯血という3つの主な起源がある。臍帯血(UCB)は、血縁及び非血縁の同種造血幹細胞移植のための、他の造血前駆体源(例えば、骨髄及び動員末梢血)の実用的な代替源である。
本明細書で使用するとき、用語「造血幹細胞」又は「HSC」とは、最終的に、B細胞、T細胞、NK細胞、リンパ系樹状細胞、骨髄樹状細胞、顆粒球、マクロファージ、巨核球、及び赤血球細胞を含む造血系の全ての細胞型に分化し得る、クローン化可能な自己複製多能性細胞を指す。造血系の他の細胞と同様に、HSCは、典型的に、特徴的な細胞マーカーセットの存在によって定義される。HSCの同定に有用なマーカーの表現型は、当該技術分野において一般的に知られている。ヒトHSCの場合、細胞マーカーの表現型は、好ましくは、CD34+CD90(ThyI)+Lin−を含む。ヒトHSCは、更に、AC133陽性;CD38陰性/低発現性;及び特定の分化系列マーカーCD2、CD3、CD19、CD16、CD14、CD15、及びグルコホリンAについて陰性であることを特徴とし得る。通常、本発明で用いられる細胞集団は、存在する細胞の少なくとも約50%、より通常は、存在する細胞の少なくとも約75%、好ましくは、存在する細胞の少なくとも約85%が造血幹細胞の表現型を有し、存在する細胞の約95%であってもよい。
「マーカー表現型検査」とは、その表現型(例えば、分化状態及び/又は細胞型)を決定するために細胞上のマーカー又は抗原を同定することを指す。これは、細胞上に存在する抗原を認識する抗体を用いる免疫表現型検査によって行うことができる。抗体は、モノクローナルであってもポリクローナルであってもよいが、一般的に、他の細胞マーカーとの交差反応性が最小になるように選択される。特定の細胞分化又は細胞表面マーカーは、該細胞が由来する動物種に特有であるが、他の細胞マーカーは、種間で共有されていることを理解すべきである。種間で等価な細胞型を定義するこれらマーカーは、種によって構造(例えば、アミノ酸配列)に差があっても、同じマーカーとして同定される。細胞マーカーとしては、特定の状況下では細胞分化(CD)マーカーとも呼ばれる細胞表面分子、及び遺伝子発現マーカーが挙げられる。遺伝子発現マーカーは、細胞型又は分化状態を示す発現遺伝子のセットである。1つには、遺伝子発現プロファイルは、細胞表面マーカーを反映するが、非細胞表面分子を含んでいる場合もある。
1つの実施形態では、造血幹細胞移植片は、ドナー(同種又は自己移植片)から得られる動員末梢血サンプル若しくは骨髄(BM)、又は臍帯血(UCB)サンプルからなる群より選択される。
本明細書で使用するとき、用語「プライミングされた」移植片とは、幹細胞の活性を損なうことなく顆粒球/単球前駆細胞(GMP)を特異的かつ一過的に増加させるために、活性化されているか又は特定の遺伝子を発現するように変化している移植片を指す。末梢血、骨髄、又は臍帯血から得られる造血前駆細胞移植片のプライミングは、更に、患者の感染症のリスクを低減することができる。
プライミングは、上記M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストと共に、少なくとも1時間、好ましくは1時間〜2週間、1〜10日間、5〜10日間、又は5〜7日間細胞をインキュベートし、次いで、場合により、細胞からサイトカインを分離し、そして、プライミングされた細胞をレシピエント患者に注入することによって行うことができる。
本発明のM−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストは、少なくとも約1ng/mL、約1〜1000ng/mL、約10〜500ng/mL、約20〜250ng/mLの量でインキュベーションミックス中に存在し得る。
別の態様では、本発明は、HSCTを受ける患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療において使用するための、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストの存在下でプライミングされる造血幹細胞移植片に関する。
本発明は、更に、HSC移植を受ける患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症を予防又は治療する方法であって、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストの存在下でプライミングされる、処置に有効な量の造血幹細胞移植片を該患者に投与する工程を含む方法に関する。
キットオブパーツ組成物:
プライミングされているか又はプライミングされていない造血前駆細胞移植片と、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストとを1つの製剤中で合わせ、そして、同時に投与してもよい。しかし、別々の組成物を用いて別々に投与してもよい。更に、異なる時間に投与してもよいことに留意する。
したがって、別の態様では、本発明は、HSCTを受ける患者における骨髄血球減少症及び関連する合併症の予防又は治療において同時に及び/又は後で使用するための、(i)造血幹細胞移植片と(ii)M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストとを含むキットオブパーツ組成物に関する。
1つの実施形態では、キットは、抗ウイルス化合物、抗真菌化合物、抗細菌化合物、サイトカイン、又は成長因子からなる群より選択される少なくとも1つの更なる化合物を含んでもよい。
有用な抗ウイルス化合物、抗真菌化合物、及び抗細菌化合物の例については、上に記載した。
用語「キット」、「製品」、又は「複合製剤」とは、本明細書で使用するとき、上に定義した併用パートナーを独立に又は区別される量の併用パートナーを含む様々な固定の組み合わせを使用することによって、すなわち、同時に又は異なる時点で投与してよいという意味で、特に「キットオブパーツ」を定義する。次いで、キットオブパーツのパーツを、同時に又は経時的に交互に、すなわち、キットオブパーツの任意のパーツについて異なる時点で、そして、等しい又は異なる時間間隔で投与してよい。複合製剤で投与される併用パートナーの全量の比率は、変動し得る。併用パートナーは、同じ経路で又は異なる経路で投与してよい。投与が逐次である場合、第1のパートナーは、例えば、第2のパートナーの1、2、3、4、5、6、7日間前に投与してよい。
別の態様では、本発明は、HSCTを受ける患者の生存時間を改善する方法であって、HSCTと同時に及び/又はHSCTの後に、処置に有効な量のM−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストを該患者に投与する工程を含む方法に関する。
本明細書で使用するとき、用語「生存」とは、患者が生き残っていることを指し、そして、全生存(OS)及び無進行生存(PFS)を含む。
本明細書で使用するとき、用語「全生存」とは、診断又は処置の時点から規定の期間(例えば、3ヶ月間、6ヶ月間、1年間等)生き残っている患者を指す。
本明細書で使用するとき、用語「無進行生存」とは、疾患(例えば、移植された患者において発生する、制御されていないか又は処置不可能な日和見感染症等)が進行することなく生き残っている患者を指す。
本明細書で使用するとき、用語「生存時間の改善」とは、処置されていない患者に対して(すなわち、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストで処置されていない患者に対して)、処置された患者における全生存又は無進行生存が増大することを意味する。
集団の生存時間の改善は、任意の再現可能な手段によって測定することができる。好ましい態様では、集団の平均生存時間の改善は、例えば、ある集団について、活性化合物による処置の開始後の平均生存長さを計算することによって測定することができる。別の好ましい態様では、集団の平均生存時間の増大は、例えば、ある集団について、活性化合物による処置の第1のラウンドの完了後の平均生存長さを計算することによって測定することもできる。
別の特定の態様では、本発明は、HSCTを受ける患者の生存時間を改善する方法であって、(i)HSCTの前に、処置に有効な量のM−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストを該患者に投与する第1の工程と、(ii)HSCTと同時に及び/又はHSCTの後に、処置に有効な量のM−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストを該患者に投与する第2の工程とを含む方法に関する。
更なる態様では、本発明は、HSCTを受ける患者の生存時間を改善する方法であって、M−CSFポリペプチド又はM−CSF受容体のアゴニストの存在下でプライミングされる、処置に有効な量の造血幹細胞移植片を該患者に投与する工程を含む方法に関する。
以下の図面及び実施例によって本発明を更に説明する。しかし、これら実施例及び図面は、いかなる手段によっても、本発明の範囲を限定すると解釈すべきではない。
M−CSFは、HSC中の骨髄主要制御因子PU.1を活性化する。a〜c)対照(PBS)又はM−CSFを注射した16時間後における、PU.1−GFPレポーターマウスの代表的なFACSプロファイル(a)、及びHSC(b)又はCD150hiHSC(c)におけるGFP発現の定量。***p=0,009;**p=0,03。d)M−CSF、GM−CSF、又はG−CSFの存在下又は非存在下で16時間培養した後の分取したHSCにおける、GAPDH発現(R.U.)に対して正規化したPU.1発現の定量RT−PCR解析。エラーバーは、デュープリケートの標準偏差を示す。
個々のPU.1陰性HSCからのPU.1+細胞生成の連続ビデオ撮像。a)図2eで定量される細胞(n=39)を代表する、M−CSFと共に18時間培養した後のPU.1−GFPレポーターマウス由来の3つの分取した個々のGFP陰性HSCの12時間の観察時間にわたる10分間隔(点)及び移動中央値(線)によるGFP蛍光強度。緑:GFPを活性化している細胞、黒:GFP陰性のままの細胞。b)異なる時点においてPU.1の活性化を示す2つの代表的なHSC(細胞A、B)を含む視野の、a)における記号によって示されている時間に撮影された静止画像。細胞Cは、示されている視野外に存在していた。c)図2eで定量される細胞(n=39)を代表する、PU.1が活性化していない(細胞C)又は活性化している(細胞A、D)、M−CSFと共に培養した3つの代表的なHSCの8時間にわたって40分間隔で撮影した静止画像。d)24時間の観察期間後における、全細胞に対する百分率としての、M−CSFを含む(n=39)又は含まない(n=42)PU.1陰性HSC(分化系列が決定された細胞)に由来するPU.1+細胞の定量。*p<0.1。e)24時間の観察期間にわたる、d)に示されている細胞のPU.1陰性HSCにおけるPU.1活性化のタイミング。
M−CSFはPU.1を活性化し、そして、単一のHSCにおける骨髄のアイデンティティを指示する。a)全細胞に対する百分率としての、骨髄遺伝子発現プロファイルを有する(青)又は他の分化系列遺伝子を発現している(白)個々のPU.1+細胞。***p=0.009(0h)、及び0,005(−M−CSF)。b)インビボにおいてM−CSFでプライミングされたCD45.2 PU.1−GFPマウスから分取したPU.1−及びPU.1+ HSCを、亜致死的に放射線照射されたCD45.1レシピエントに移植し、そして、2週間後に脾臓内の子孫細胞を分析するための実験設計。c、d)インビボにおいてM−CSFで刺激する前又は刺激した後の、移植されたPU.1−又はPU.1+ HSCに由来するドナーのGMP及びMEP前駆体の代表的なFACSプロファイル(c)及び比の定量(d)。**p=0.05、***p=0.01、n=4、8、4。
M−CSFは、インビボにおいて単一のHSCにて、可逆的なPU.1依存性の骨髄分化の優位性を刺激する。a)インビボにおいてM−CSFでプライミングした又は対照のHSCを移植した2週間後における、亜致死的に放射線照射されたレシピエントの脾臓におけるドナーのGMPのMEP前駆体に対する比。実験設計は、図6に示す。***p=0.003、n=8,9。b)CD11b+骨髄細胞の血小板又はCD19+リンパ腫細胞に対する比として表される、M−CSFでプライミングした又は対照のHSCを移植した4週間後及び6週間後における、競合的に再構築されたマウスの血液に対するドナーの寄与。***p=0.01、n=10、6、*p=0.07、n=6、4。c)対照(fl/fl)又は欠失(Δ/Δ)PU.1対立遺伝子を有する対照又はM−CSFでプライミングしたHSCを移植した2週間後における、亜致死的に放射線照射されたレシピエントの脾臓におけるMac+骨髄細胞に対するドナーの寄与。**p=0.05、n=6、4、5。
M−CSFで誘導したPU.1+細胞の分化能。a)M−CSFと共に培養してPU.1+細胞を誘導する前及び後に分取したCD45.2 PU.1− HSCを亜致死的に放射線照射されたCD45.1レシピエントに移植し、そして、2週間後に脾臓内の子孫細胞を分析するための実験設計。b、c)M−CSFと共に培養する前に移植したPU.1− HSC又はM−CSFと共に培養後に移植したPU.1+細胞に由来するドナーのGMPのMEP前駆体に対する比(b)及び全GMP(c)の定量。**p=0.02、***p=0.07、n=6、7。
M−CSFでプライミングしたHSCの分化能。a)インビボにおいてM−CSFでプライミングされたCD45.2 HSCを亜致死的に放射線照射されたCD45.1レシピエントに移植し、そして、2週間後に脾臓内で又は4週間後に血液中で子孫細胞を分析するための実験設計。b)移植の2週間後の脾臓における対照(PBS)又はM−CSFでプライミングされたHSCに由来する全ドナー細胞におけるGMP及びMEP前駆体の百分率。*p=0.1、**p=0.04、n=4、4。c)移植の4週間後の血液中のドナーCD11b+SSClo単球のCD19+B細胞に対する比率の定量。***p=0.009、n=8、4。
M−CSFでプライミングしたHSCの競合移植。a)CD45.2競合者HSCと共にアクチン−GFP CD45.2マウス由来のFACSで分取し、インビボにおいてM−CSFでプライミングされたHSC(CD150+CD34−CD135−KSL)を致死的に放射線照射されたCD45.1レシピエントに競合的に移植し、そして、血液細胞の分布を分析するための実験設計。b)アクチン−GFP+ HSCに由来する血小板、リンパ腫、及び骨髄血液細胞を定量するためのゲーティングストラテジー。c)Mac+骨髄、CD19+B細胞、CD61+血小板(4、6、及び14週間)及びCD3e T細胞(14週間)中のGFP+ドナー細胞の百分率として表され、そして、CD45.2ドナー画分における全GFPの寄与に対して正規化した、M−CSFでプライミングした又は対照のHSCを移植した4、6、及び14週間後における、競合的に再構築されたマウスの血液に対するドナーの寄与。**p=0.03、n=6、4。
M−CSFでプライミングしたHSCの競合移植。a)CD45.2競合者HSCと共にアクチン−GFP CD45.2マウス由来のFACSで分取し、インビボにおいてM−CSFでプライミングされたHSC(CD150+CD34−CD135−KSL)を致死的に放射線照射されたCD45.1レシピエントに競合的に移植し、そして、血液細胞の分布を分析するための実験設計。b)アクチン−GFP+ HSCに由来する血小板、リンパ腫、及び骨髄血液細胞を定量するためのゲーティングストラテジー。c)Mac+骨髄、CD19+B細胞、CD61+血小板(4、6、及び14週間)及びCD3e T細胞(14週間)中のGFP+ドナー細胞の百分率として表され、そして、CD45.2ドナー画分における全GFPの寄与に対して正規化した、M−CSFでプライミングした又は対照のHSCを移植した4、6、及び14週間後における、競合的に再構築されたマウスの血液に対するドナーの寄与。**p=0.03、n=6、4。
造血幹及び前駆細胞(HS/PC)移植後のMCSF刺激は、緑膿菌感染を防ぐ(p<0.01)。a)rhMCSF処理。b)Bac.ウイルスmMCSF処理。
HS/PC移植後のMCSF刺激は、細菌組織負荷を低減した(***p<0.01)。
HS/PC移植後のMCSF刺激は、アスペルギルス・フミガーツス感染を防ぐ(p<0.01)。a)rhMCSF処理。b)Bac.ウイルスmMCSF処理。
実施例1:M−CSFは、単一の造血幹細胞において骨髄分化系列の運命を指示する。
材料及び方法
方法の概要:本質的に記載されている通り、フローサイトメトリー、骨髄移植、及びインビボにおけるHSCの免疫蛍光を実施した3。BioMark HDシステム及び48.48ダイナミックアレイ(Fluidigm, CA, USA)を用いて単一細胞ナノ流体系リアルタイムPCRを実施し、そして、ビデオ顕微鏡解析は、提案されている規格に従った24。手順及び試薬の詳細については、補足方法に記載する。
マウス:CD45.1及びC57Bl/6マウスは、Charles Riverから入手した。PU.1−GFP31M−CSFR−/−27及びPU.1fl/fl32マウスについては記載されている。wt又はM−CSFR−/−胚27及びPU.1fl/fl又はPU.1fl/fl::MxCre骨髄に由来するCD45.2胎児肝臓を用いて上記の通り3再構築された年齢及び性別が適合しているCD45.1レシピエントを、再構築の8週間後以内にCD150+CD34−KSLF HSCを単離するために用いた。インビボにおける注射については、10μg/マウス M−CSF、5mg/kg LPS(055:B5大腸菌)、又は分取した細胞を、PBS 100μL中で後眼窩洞に注射した。HSC移植については、CD150+CD34−KSLF HSC 400個をCD45.2マウスから分取し、そして、Lin+Sca−CD45.1担体細胞 100.000個と混合した後、亜致死的に放射線照射された(4,5Gy)CD45.1レシピエントマウスに注射した。競合的移植については、CD150+,CD34−KSLF HSC 1300個を、対照又はM−CSF 10μgを注射した16時間後にアクチン−GFP CD45.2マウス33から単離し、同数のCD45.2競合者HSCと混合し、そして、Lin+Sca−RC溶解CD45.1担体細胞 300.000個と共に、亜致死的に放射線照射された(4.5Gy)CD45.1レシピエントに注射した。GFP+ドナー細胞を少なくとも5%有するマウス由来の血液中で4及び6週間後に、血小板、CD19+B細胞、及びCD11b+骨髄細胞に対する寄与を分析した。PU.1欠失については、対照(PBS)又はM−CSF 10μgを注射する7及び9日間前に、PU.1fl/fl又はPU.1fl/fl::MxCreで再構築されたマウスに、5μg/g ポリイノシン酸:ポリシチジル酸を腹腔内注射した。全てのマウス実験は、施設の指針に従って特定病原体除去条件下で実施した。
FACS分析:FACS分取及び分析については、記載されている染色プロトコール3、並びに公開されている幹細胞及び前駆細胞の定義34、FACSCanto、LSRII、及びFACS AriaIII機器、並びにDIVA(商標)ソフトウェア(Becton-Dickinson)を用い、少なくとも200の事象を用いて集団のみを分析した。HSC分析については、抗CD34−FITC(クローンRAM34、BD Biosciences)、抗CD135−PE(クローンA2F10.1、BD Biosciences)、抗CD150−Pe−Cy7(クローンTC15−12F12.2、Biolegend)、抗CD117−APC−H7(クローン2B8、BD Biosciences)、抗Sca−1−Pe−Cy5(クローンD7、Biolegend)、抗CD48−APC(クローンHM48−1、Biolegend)抗体を用いた。これとは別に又は加えて、前駆体及び血液細胞分析については、抗CD34 Alexa 700(クローンRAM34、BD Biosciences)、抗CD16/32 PE(クローン2.4G2、BD biosciences)、抗CD11b PE−CF594(クローンM1/70、BD biosciences)、抗CD19PE−Cy7(クローン1D3、BD biosciences)、抗CD45.2 APC(クローン104、BD biosciences)、及び抗CD45.1 Pacific Blue(クローンA20、BD biosciences)抗体を用いた。LIVE/DEAD Fixable Violet死細胞色素(Invitrogen)を生存マーカーとして用いた。
分取したHSCの脾臓内注射及び蛍光顕微鏡法:インビボにおけるHSCの分析については、FACS分取したCD150+CD34−KSLF HSC 1500〜7000個を37℃で10分間、PBS/0,5% BSA中3μM CFSE(Invitrogen)で染色し、PBS/0,5% BSAで3回洗浄し、そして、PBS 30μL(0.9% DMSO中アイソタイプ対照若しくはAFS98 α−M−CSFR抗体 1μg26又は2μM GW2580、10μM Ly29400、10μM PD98059、又は2μM SU656阻害剤を含有するか又はしない)中で麻酔マウスの脾臓に注射した。24時間後、脾臓をOCT(Tissue-Tek, Sakura)に包埋し、そして、−80℃で冷凍した。器官全体からクリオスタット切片(5μm)を調製し、乾燥させ、そして、4% PFA/PBS中にて室温で10分間固定し、そして、切片10枚毎に更に加工した。PBSで洗浄した後、スライドを室温で1時間、PBS/2% BSA/1% ロバ血清/1% FCS/0.1% サポニン中でブロッキングし、4℃で36時間、抗PU.1ポリクローナル抗体(Santa Cruz)と共にPBS/0.05% サポニン(1:50)中でインキュベートし、洗浄し、そして、二次Alexa 546ロバ抗ウサギ抗体(Molecular probes)と共にPBS/0.05% サポニン(1:500)中でインキュベートした。全ての免疫蛍光サンプルをProLong Gold DAPI antifade(Molecular probes)で封入し、そして、Zeiss Axioplan 2でマルチ蛍光顕微鏡法によって解析した。全てのCFSE+細胞を、指定の通り30個以上又は50個以上の細胞のPU.1発現について解析した。サンプルのアイデンティティを知らされていない第2の訓練された顕微鏡使用者によって、細胞数及び染色を検証した。Leica SP5Xで共焦点顕微鏡法によって高解像度写真を得た。
HSCのインビトロにおける培養:CD150+CD34−KSLF HSC又はCD150+CD34−CD48−KSLF HSC(単一細胞)を、100U/mL ペニシリン及び100mg/mL ストレプトマイシン(いずれもInvitrogen)を添加した10% FBSを含むS-clone SF-03培地(Sanko Jyunyaku)に分取し、そして、コーティングされていないU字形96ウェルプレート(Greiner)において、SCM 100μL、20ng/mL rSCF、50ng/mL rTPO+/−100ng/mL rM−CSF、又は100ng/mL rGM−CSF又は100ng/mL rG−CSF中で培養した。全てのサイトカインは、マウスのものであり、PeproTechから入手した。細胞の生存は、AnnexinV及びヨウ化プロピジウムFACS染色35によって解析した。
定量リアルタイムPCR:全RNAを単離し、そして、μMACS One-step T7テンプレートキット(Miltenyi Biotec)で逆転写し、そして、製造業者の説明書に従って、TaqMan Universal PCR Master Mix及び7500 Fast Real Time PCR System配列検出システム(いずれもApplied Biosystem)を用いて定量リアルタイムPCRによって分析した。
単一細胞遺伝子発現プロファイリング:AriaIII分取機(Becton-Dickinson)におけるオートクローンモジュールを用いて、96ウェルプレートにおけるCellsDirect Reaction Mix(Invitrogen)に直接単一細胞を分取した。Fluidigm Advanced Development Protocolに従って個々の細胞溶解、cDNA合成、及び増幅を実施し、そして、Dynamic Array IFCs(Biomark Fluidigm)を用いる単一細胞ミクロ流体系リアルタイムPCRをFluidigm Inc.の熟練技術者によって実施した。予め増幅させた生成物(22サイクル)を、Universal PCR Master Mixによる分析前に5倍希釈し、そして、BioMark System(Fluidigm)の96.96ダイナミックアレイにおいてTaqMan 遺伝子発現アッセイ(ABI)を一覧にした。システムのソフトウェア(BioMark Real-time PCR Analysis; Fluidigm)からCt値を計算し、そして、以下に概説する品質管理ルールのセットに従ってフィルターにかけた。
遺伝子フィルター:
(a)対照を含む各遺伝子について、CtCall=FAILED及びCtQuality<thresholdのデータを除去した。
(b)対照を含む各遺伝子について、CtValues>=32.0を除去して、非常に低発現の遺伝子を取り除いた。
(c)対照を含む各遺伝子について、デュープリケートでCtValues>=2.0の差を有する遺伝子を不一致とみなして除去した。
サンプルフィルター:
(a)対照遺伝子(Gapdh)が発現しなかったか又は遺伝子フィルター(a〜c)に従って除去されていた場合、全サンプルを除去した。
(b)その列の全ての遺伝子のCt値の平均が27.0以上である場合、そのサンプルの列全体を除去した。
経時的撮影及び解析:可能な限り、ビデオ顕微鏡法のプロトコールは、提案されている指針に従った24。詳細には、wtC57/Bl6由来のFACS分取したCD150+CD34−KSLF HCS又はPU.1−GFPレポーターマウス31骨髄由来のGFP陰性CD150+CD34−KSLF HCSを、100U/mL ペニシリン及び100mg/mL ストレプトマイシン、20ng/mL rSCF、50ng/mL rTPO+/−100ng/mL rM−CSFを添加したSCMに懸濁させ、そして、Ibidi μ-slidesVI(0.4)(Biovalley SA, France)にプレーティングした。37℃及び5%CO2でCell Observer system(Carl Zeiss Microscopy GmbH, Germany)を用いて経時的顕微鏡法を実施した。10×(A-plan 10x/0.45 Ph1)又は40×(Plan-Apochromat 40x/0.95 Korr M27)対物レンズを用いて、明視野及び蛍光(GFPフィルター:EX BP 470/40;350ms)において、2×2ビニングのCoolSNAPHQ2白黒カメラ(Photometrics)及び蛍光照明用のハロゲン化金属120W源を用いて、10分間毎に画像を取得した。画像解析のために、各時点で4×4画像のマトリックスを取得した。AxioVisionソフトウェア(Carl Zeiss Microscopy GmbH, Germany)で画像を繋ぎ合わせ、そして、わずかなローリングボールによる背景の減算及び1画素ガウスぼかしを用いてFijiソフトウェア36で処理した。明視野画像の背景の減算については、z−照射の中央値を経時的スタックから差し引いた。ImageJ37及びFiji36ソフトウェアの基本コマンド及びマニュアルモードの特定の追跡プラグインMTrackJ38を用いて単一細胞追跡を実施した。各細胞を明視野チャネルにおいて手動で一コマずつ追跡し、そして、2人の顕微鏡の専門家によって相互制御した。標準的ではない形態又は大きさの細胞は除いた。各細胞の周囲の所定の対象領域(ROI)内の最高強度と最低強度との差として蛍光シグナルを測定した。細胞の特性及び挙動(細胞分裂、細胞死、位置、蛍光増加)を手動で文書化して、累積曲線を構築した。R39及びExcel(Microsoft Corporation)ソフトウェアを用いて、データを管理し、そして、グラフィックを作成した。
統計解析:直接サンプルを比較するための両側ノンパラメトリックマンホイットニー検定又は比率のためのピアソンカイ2検定によってP値を計算した(アルファ=0,05)。箱ひげ図(Whisker prots)は、中央値(線)、上位及び下位四分位点(箱)、及び極端な外れ値(点線のひげ)を示す。
結果
マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)等の系列特異的サイトカインは、生理学的ストレス又は感染症10、11の間に強く誘導され得、そして、分化系列の決定された前駆体からの成熟細胞の産生を増加させる1、2。しかし、一般的なモデルによれば、該サイトカインは、一般的に、造血幹細胞(HSC)の分化決定に直接影響を与えるとは考えられない9、12、13。HSCの細胞運命の選択は、従来、確率モデルによって説明されている14。この観点から考えると、競合する分化系列決定転写因子における転写ノイズ15及びランダム変動が、分化系列の選択を開始させる交差拮抗スイッチを導く4、5、6、7が、一方、サイトカインは、得られる子孫細胞の生存及び増殖を刺激することによって該子孫細胞にしか作用しないと考えられる8、9。このような主要制御因子の重要な例は、骨髄単球性分化を誘導する転写因子PU.1である16、17。一般的に、外部シグナルがこのような固有の主要制御因子の初期活性化を駆動することができるかどうかは知られていない。転写因子MafBが欠失しているHSCは、M−CSFに応答するPU.1の活性化に対する感受性が高まるので3、本発明者らは、高全身濃度のM−CSFがPU.1を誘導し、そして、転写因子のバランスが事前に変化していないwtHSCにおける骨髄単球運命を指示することができるかどうかについて調べた。
本発明者らは、高全身濃度のM−CSFを刺激する細菌感染症の強力な模倣剤であるリポ多糖類(LPS)11が、PU.1−GFPレポーターマウスの長期HSC(CD117+sca+Lin−CD135−CD34−CD150+)におけるGFPのアップレギュレーションを誘導することを観察した18。HSCにおけるM−CSF受容体(M−CSFR)の発現と一致して3、19、組み換えM−CSFの直接静脈注射も、16時間後にHSCにおいてPU.1活性化の著しい増大を誘導した(図1a、b)。この処理は、M−CSFR又はMafB発現に著しい変化は引き起こさなかったが、これは、高M−CSFR又は低MafBレベルを有する骨髄プライミングされたHSCの選択に相反するものである。また、M−CSFは、GFP陽性又は陰性のHSCにおいて骨髄分化系列バイアスを有することが報告されている20、CD150hiHSCの比率の変化を誘導せず、そして、CD150hiHSC(図1c)において全HSC(図1a、b)と同程度PU.1を活性化した。最後に、培養したCD150hiHSCは、M−CSFの存在下において増殖についても生存についても優位性は明らかにならなかった。以前から存在するHSC亜集団の選択的増幅又は生存に相反するこれらデータをまとめると、M−CSFは、HSCにおいてPU.1発現を新たに誘導することができることが示された。
図1dに示す通り、幹細胞に対するM−CSFの効果は、直接かつ特異的であったが、その理由は、FACSで精製されたHSCが、M−CSFと共に16時間培養した後にはPU.1発現を増加させたが、感染中に放出され得るサイトカインであるGM−CSF及びG−CSFと共に培養した場合には増加させなかったためである22。観察された遺伝子発現の変化は、PU.1+細胞のM−CSF依存性選択によって説明することはできず、その理由は、培養したHSCのビデオ顕微鏡法ではM−CSFにおいて増殖についても生存についても優位性が示されず、そして、PU.1が細胞分裂の開始前に誘導されたためである。ビデオ撮影によってPU.1−GFPマウス由来の分取した個々のGFP陰性HSCを連続観察したところ、M−CSFが以前はPU.1陰性であった細胞でPU.1発現を誘導することができることが確認された(図2a〜c)。本発明者らは、理論的に以前は陰性であった細胞においてPU.1が誘導され、そして、PU.1+細胞の分裂し得るとき、18時間及び42時間の培養の間のHSCの運命を記録した。24時間の観察期間の最後には、対照条件下の2倍を上回るPU.1+細胞がM−CSFにおいて発生しており(図2d)、そして、これら細胞の起源のバックトラッキングにより、全てのPU.1+細胞が以前はPU.1陰性であった細胞に由来していたが、PU.1+細胞の分裂により生じたものはなかったことが明らかになった。PU.1+細胞が分裂しないことは、部分的にGFP励起の光毒性効果に起因している可能性があるが23、24、本発明者らは、PU.1+細胞において観察された増加は、完全に、PU.1レポーターのM−CSFによって誘導される活性化に起因するものであると結論付けることができた。PU.1活性化のこれら決定事象は、M−CSFの存在下において全観察期間にわたり、8時間早く、そして、高い割合で生じた(図2e)。この結果は、M−CSFが、単一の以前はPU.1陰性であったHSCにおけるPU.1プロモーターの活性化を直接増加させることができることを示した。
M−CSFによって誘導されるPU.1の活性化が個々のHSCの細胞アイデンティティを変化させるかどうかを更に調べるために、Fluidigm(商標)ダイナミックアレイにおけるナノ流体系リアルタイムPCRによって単一細胞のmRNA発現プロファイルを解析した。これら幹細胞のアイデンティティに一致して、新たに単離されたHSCのほとんど全ては、幹細胞及び前駆細胞に関連する遺伝子を発現し、そして、約半分は、分化系列特異的遺伝子を全く発現していなかった(lin−)か又は複数(mix)発現していた。残りは、主に巨核球(Meg)、巨核球−赤血球(MegE)、又は骨髄分化系列プライミングを示した。M−CSFなしで16時間培養すると、Meg及びlin−プロファイルを犠牲にして混合分化系列プロファイルを有する細胞の数が増加した。対照的に、M−CSFの存在下で培養すると、骨髄遺伝子発現サインを有する細胞の大きな増加が誘導された。ビデオ顕微鏡法の結果と一致して、骨髄遺伝子発現の増加は、PU.1+細胞の数の倍加に関連していた。興味深いことに、この増加は、完全に、任意の他の分化系列からの遺伝子を発現しなかった骨髄サインを有するPU.1+細胞に起因していた。対照的に、非骨髄遺伝子も発現したPU.1+細胞の数は、およそ一定のままであった(図3a)。同時に、これは、M−CSFによって誘導されたPU.1+細胞が骨髄細胞アイデンティティであるとみなされていたことを示した。この遺伝子発現の変化がインビボにおける機能的骨髄分化系列選択を反映しているかどうかを評価するために、刺激されていないPU.1−HSCとインビボにおいてM−CSFでプライミングした後のPU.1−及びPU.1+のHSCとの分化能を比較した(図3b)。これら集団の移植の2週間後における脾臓の前駆体分析により、PU.1−HSCからよりもPU.1+HSCからの方が、発生する顆粒球/マクロファージ前駆体(GMP)の巨核球/赤血球前駆体(MEP)に対する比が高いことが明らかになった(図3c、d)。培養中にM−CSFで刺激したPU.1−HSCに由来するPU.1+細胞の骨髄分化能においても同様の増加が観察された(図5a〜c)。同時に、これらデータは、M−CSFによって誘導されたPU.1により、単一HSCにおいて骨髄の細胞運命が変化したことを示した。
M−CSFがインビボにおいて個々のHSCの細胞運命の変化も誘導するかどうかを更に調べるために、適合幹細胞ニッチを有する髄外造血部位である3、25脾臓にCFSE標識HSCを移植し、そして、24時間後の単一HSCにおいて免疫蛍光による外因性PU.1タンパク質の発現を解析した。HSCの大部分は、移植直後にはPU.1陰性であったが、LPSに曝露された宿主の脾臓に移植した後には、ほぼ全てが活性化PU.1を有していた。この効果は、M−CSF受容体に対するブロッキング抗体26がPU.1の活性化を強く阻害したので、M−CSFシグナル伝達に主に依存していた。更に、組み換えM−CSFの直接注射により、移植されたHSCにおいてPU.1が同様に強く誘導された。この効果は、完全に細胞自律的であると思われるが、その理由は、M−CSF受容体欠失(M−CSFR−/−)27HSCが、M−CSF刺激されたレシピエントにおいて対照レシピエントよりも高いPU.1の活性化を示さなかったためである。同様に、M−CSFRの低分子阻害剤、又は受容体の下流のシグナル伝達を行うPI3K、ERK及びSRCキナーゼ28も、これら経路によるpu.1遺伝子の転写活性化因子の刺激と一致して、PU.1の誘導を防いだ。更に、インビボにおいてM−CSFでプライミングされたCD45.2 HSCを亜致死的に放射線照射されたCD45.1レシピエントに移植したところ、2週間後の脾臓においてGMPのMEP前駆体に対する比が増大し(図4a、図6a、b)、そして、4週間後の末梢血において骨髄のリンパ細胞に対する比が増大する(図6c)ことが明らかになった。競合移植アッセイにおいて、M−CSFでプライミングされたHSCも、6週間後に再平衡化された血液中において、4週間の血小板及びリンパの寄与に比べて骨髄の優位性を示し、そして、長期の多分化系列寄与が損なれることはなかった(図4b、図7)。最後に、このM−CSFでプライミングされたHSCの骨髄分化優位性は、PU.1の欠失によって消滅させることができた(図4c)。同時に、これら結果は、可逆的なPU.1依存性の骨髄分化の優位性をもたらす、インビボにおける単一HSCの細胞アイデンティティの変化をM−CSFが直接指示することができることを示した。
これら結果は、感染症の造血ストレス条件下において、高全身濃度のM−CSFが、HSCの骨髄遺伝子発現及び分化優位性を直接指示できることを示す。これは、サイトカインの作用及びHSCがどのようにして分化を決定しているかについての現在の見解に異議を唱えるものである。サイトカインは、一般的に、系列決定された前駆体に対して作用すると考えられているが、本発明者らは、ここに、幹細胞がサイトカインによる分化系列指示の直接の標的であることを示す。HSCは、細菌29又はウイルス感染症30に特徴的なシグナルに応答して増殖するが、分化系列特異的遺伝子発現又は分化能は変化しないことが示されている。選択的サイトカイン作用の一般的なパラダイムと一致して、固有の幹細胞サブタイプが異なる刺激に応答して選択的優位性を有し得ることが提案されている21。このような機序は、集団基準で指令機序と区別することが困難である。本発明者らは、誘導された分化系列特異性の変化を選択的機序と区別するために、細胞分裂の開始前に、時間窓において培養下及びインビボにて単一細胞分析の複数のアッセイを使用した。これらデータは、M−CSFが、選択的生存又は増殖とは独立に、プロモーター、メッセージ及びタンパク質レベルにおいて、骨髄主要制御因子PU.1の活性化によって幹細胞のアイデンティティを直接変化させ得ることを示す。造血幹細胞における遺伝子発現の多分化系列プライミングは、一般的に、初期細胞運命決定が、分化系列特異的転写因子のバランスにおける確率的変動によってのみ駆動されることを示すと解釈されている4、5、6、12、13。本発明者らによるデータは、次に、サイトカインが、ランダム選択を増幅させるだけでなく、PU.1等の分化系列特異性の重要な制御因子を直接活性化させて、造血幹細胞の分化系列運命を指示して、子孫の損傷に合わせた出力を誘導することができることを示す。M−CSF処理は、幹細胞の活性を損なわせることなく骨髄子孫の産生を一過的に増加させることができるので、骨髄血球減少症を寛解させる、特に幹細胞移植後に感染症から患者を保護するために有用であり得る。
実施例2及び3:MCSFの機能的影響。
感染中のMSCFが媒介するHSCの決定の機能的影響を調べるために、2つの別々の一連の実験を実施した。全ての実験において、レシピエントの致死的放射線照射後、HS/PC 2500個にドナー由来のcKit-担体細胞 200,000個を移植した。移植を受けていない未感染マウスは、放射線照射が致死的であることを示すための対照として機能した(黒の点線;図8A、8B及び図10A、10B;n=12)。
HS/PC移植を受けた未感染マウスは、有効な救命移植の対照として機能した(黒線;図8A、8B及び図10A、10B;n=8)。2つの他の群のマウスには、HS/PC移植日にMCSF(rhMCSF又はバキュロウイルスによって産生されたmMCSF)又はPBSを3回注射した。
移植の1週間後、これらマウスを、致死量の細菌(緑膿菌)又は日和見真菌(アスペルギルス・フミガーツス)に曝露した。
実施例2:HS/PC移植後のMCSF刺激は、細菌感染を防ぐ。
材料及び方法
マウス:CD45.1及びC57Bl/6マウスは、Charles Riverから入手した。10〜14週齢の性別適合CD45.2レシピエントを、6〜8週齢のCD45.1から単離した骨髄由来のKSL(c−Kit(CD117)+、Sca+、Lin−)HS/PCを用いて上記の通り3再構築した。インビボにおける注射については、指定の濃度のM−CSF及び/又は分取した細胞を、PBS 100〜200μL中で後眼窩洞に注射した。HS/PC移植については、KLS HS/PC 2500個をCD45.1マウスから分取し、そして、cKit−CD45.2又はcKit−,Terr119+担体細胞 200,000個と混合した後、致死的に放射線照射された(160kV、25mA、6.31Gy)CD45.2レシピエントマウスに注射した。放射線照射後、全てのマウスに、飲用水中において抗生物質を与えて、他の病原体による日和見感染の機会を低減した(全てのマウス実験は、施設の指針に従って特定病原体除去条件下で実施した)。
造血幹細胞及び前駆細胞(HS/PC)並びにcKit−細胞の単離:ビオチン化ラット抗マウス分化系列抗体カクテルで染色し、次いで、ストレプトアビジン免疫磁気マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)で染色することによって、全骨髄細胞を成熟細胞から欠失させた。分化系列陰性細胞をHS/PCマーカー;抗CD117−APC−H7(クローン2B8、BD Biosciences)、抗Sca−1−PE−Cy5(クローンD7、Bio legend)、ストレプトアビジン−APC(eBioscience)、及び生存マーカーとしてのLIVE/DEAD Fixable Violet死細胞色素(Invitrogen)で染色した。FACSAriaIII機器を用いてHS/PCを分取した。cKit−担体細胞を単離するために、ビオチン化抗マウスCD117(クローン2B8、BioLegend)で染色し、次いで、ストレプトアビジン−免疫磁気マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)で染色することによって全骨髄細胞を欠失させ、そして、オートマックを用いて陰性細胞を分取した。Terr119+担体細胞については、cKit−細胞をビオチン化抗Ter119と共にインキュベートし、次いで、抗ビオチンマイクロビーズと共にインキュベートし、そして、automacsを用いて陽性分取した。
M−CSF処理:各マウスにM−CSF 10μgを3回注射した:HS/PC移植の1時間前;移植の6時間及び18時間後。ヒトM−CSF(rhMCSF、Chiron Corporation Inc., USA、現在Novartis AGの一部門)及びマウスM−CSFをバキュロウイルスで発現させ(Bac.ウイルスmMCSF56)、実験に用いた。
緑膿菌の感染:他の文献に記載されている通り53、54、緑膿菌PA14株に緑色蛍光タンパク質(GFP)をタグ付けした。GFPをタグ付けしたPA14株を37℃で一晩、LB中で培養し、LBで1:100希釈し、そして、細菌の対数期(3〜4 OD600nm)に達するまで3時間成長させた。PBSで希釈した5×103CFU/mL 細菌溶液 100μLを感染実験に更に用いた。HS/PC移植の1週間後、滅菌PBS 100μL中細菌 500コロニー形成単位(CFU)を腹腔内接種することによってマウスを曝露した。
細菌組織負荷の定量:感染マウスを屠殺し;器官(脾臓、肺、肝臓、及び心臓)を摘出し、そして、計量した。組織1グラム当たりのCFUを決定するために、組織ホモジネートの連続希釈物をPBSで調製し、そして、適切な抗生物質を添加したシュードモナス単離寒天(PIA)(Difco laboratories)にプレーティングし、そして、37℃で一晩インキュベートした。16〜24時間後にコロニーを計数した。
結果
HS/PC移植後のMCSF刺激は、緑膿菌感染から保護し、そして、細菌組織負荷を低減させた。
放射線照射及びHS/PC移植後、8日目(D8)にマウスを緑膿菌に感染させた。ヒトMSCFで処理したマウスは、生存率(三角線;図8A;n=10)が未処理マウス(四角線)における15.3%からMCSF処理マウス(三角線、図8A及びB;n=13)では50%に改善されることを示した。マウスMCSFで処理されたマウスは、更に、生存率が87.5%に改善された(三角線;図8B;n=8)。
更に、感染により死亡したマウスでは、M−CSF処理したマウスにおいて死亡が遅れた(図8A及びB)。
細菌負荷の分析については、マウスを感染の18時間後に屠殺し、脾臓、肺、肝臓、及び心臓から組織ホモジネートを調製し、そして、プレーティングしてCFUを決定した。未処理群の13頭のマウスのうちの8〜10頭は、rhMCSF処理群の10頭のマウスのうちの2〜3頭と比べて瀕死の状態であった。この早い時点で、rhMCSF処理マウスは、未処理マウスに比べて細菌の組織負荷の著しい減少を示し(図9)、これは、生存率の増大が細菌負荷の減少に起因することを示唆する。
実施例3:HS/PC移植後のMCSF刺激は、真菌感染を防ぐ。
材料及び方法
マウス;造血幹細胞及び前駆細胞(HS/PC)並びにcKit−細胞の単離とM−CSF処理:実施例2に上記した通り。
アスペルギルス・フミガーツスの感染:アスペルギルス・フミガーツスFGSC1100は、Centre International de Ressources Microbiennes - Champignons Filamenteux(CIRM-CF, Marseille, France)から供与された。各実験について、25℃で5日間、培養物を麦芽寒天培地(2% 麦芽抽出物、2%Bacto-agar DIFCO)上で成長させた。Bitmansour et al. (2002)55に従って、滅菌生理食塩水中で分生胞子懸濁液を調製した。HS/PC移植の1週間後、滅菌PBS 20〜40μL中分生胞子 2〜4×106個を鼻腔内接種することによってマウスを感染させた。
感染した器官の真菌培養:器官(肺、肝臓、心臓、及び脾臓)を摘出し、計量し、そして、組織ホモジネートをPBS中で調製した。ホモジネートを連続希釈し、そして、各希釈物 200μLをSabouraud dextrose agar(DIFCO)にプレーティングした。プレートを25℃でインキュベートし、そして、3〜5日間後に写真を撮影した。
結果
HS/PC移植後のMCSF刺激は、アスペルギルス・フミガーツス感染を防ぎ、そして、真菌組織負荷を低減させる。
放射線照射及びHS/PC移植後、D8にマウスをアスペルギルス・フミガーツスに感染させた。ヒトMSCFで処理したマウスは、10%の生存率しか示さなかった未処理マウス(四角線;図10A及びB;n=10)と比べて、40%の生存率(三角線;図10A;n=10)を示した。興味深いことに、マウスMCSFで処理したマウスは、更に保護され、60%の生存率を示した(三角線;図10B;n=10)。感染後6日間生存していた未処理群の10頭のマウスのうちの1頭は、合計35日間の観察期間中、依然として生存していた。
更に、感染により死亡したマウスにおいて、未処理マウスのD9〜D14からrhMCSF処理群のD10〜D15に、死がわずかに遅れた。真菌負荷の分析については、マウスを感染の48時間後に屠殺し、そして、肺、肝臓、及び心臓から組織ホモジネートを調製した。希釈したホモジネート(肺、肝臓、及び心臓の1/10;心臓の1/100)をSabouraud dextrose agarプレートにプレーティングして、真菌のコロニー成長を観察した。rhMCSF処理マウスは、未処理マウスと比べて、真菌コロニーの組織負荷の著しい減少を示した。真菌組織培養物を、96時間を超えてインキュベートして、アスペルギルス・フミガーツスの典型的なコロニー形態を検証した。
参考文献
本願全体を通して、様々な参考文献が、本発明が属する分野の状況について記載している。これら参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。