関連出願
本出願は、2012年12月19日に出願された米国仮特許出願第61/739,597号、2013年1月7日に出願された米国仮特許出願第61/749,692号、2013年2月8日に出願された米国仮特許出願第61/762,793号、2013年3月8日に出願された米国仮特許出願第61/775,377号、および2013年11月15日に出願された米国仮特許出願第61/905,056号の利益を主張し、それぞれの全開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
連邦政府からの補助金
本明細書で開示される発明のある実施形態は、全米科学財団補助金第NSF ERC EEC−0310723号、NIH補助金第NIH RO1 GM85791号、第NIH DK019038号、および/または第NIH F32GM088967号により、少なくともその一部に補助を受けている。本明細書で開示される発明の種々の実施形態についての権利は、連邦政府が有する場合がある。
発明の背景
発明の分野
本出願は、広く、細胞の電気的活性を調節する組成物および方法に関する。特に、本組成物およびその使用法は、本組成物を光エネルギーに曝露することにより、細胞の光誘導的活性化および/または細胞活性の調節を可能とする。
変性疾患、特に視覚に関係する細胞の機能が失われる変性疾患は、世界中の多くの人が罹患し、生産性の損失、生活の質の低下および医療コストの増加の原因となっている。予防的治療(例えば、細胞療法)によって、変性を遅らせ、場合によっては変性を反転させることが意図されるが、ある閾値を超えて進行すると、組織に回復不能な損傷を与える場合があるという点で、このような治療はタイミングが重要である。部分的に機能する細胞、または機能しない細胞の機能を回復させる救済治療(例えば、再生医療)が望まれるが、今のところ、一般的には不可能である。
いくつかの実施形態において、視覚系のある細胞内での光エネルギーの電気エネルギーへの変換に基づいて、視覚を補足し、かつ/または代替することが可能な方法、組成物、システム、および装置を提供する。いくつかの実施形態において、これらの方法、組成物、システム、および/または装置は、「パッチ」またはブリッジとして機能して、視覚系の欠損細胞、損傷細胞、または罹患細胞の1つ以上を回避する。さらに、いくつかの実施形態において、正常な視覚を有する被験者は、正常視力を高めることができるため、本明細書で開示される方法、組成物、システム、および/または装置の恩恵を受けることができる。
そのために、いくつかの実施形態において、1つ以上の電気興奮性細胞の活性を調節する方法が提供され、該方法は、1つまたは複数の電気興奮性細胞に近接し、かつ/または接触するように光起電化合物を配置すること、および光起電化合物を光エネルギーに曝露させることを含む。いくつかの実施形態において、この曝露によって、光起電化合物から細胞へエネルギーが誘導され(例えば、光エネルギーを受容し、電気エネルギーへ変換し、その電気エネルギーを移動させる)、これにより、細胞の膜電位および/または1つ以上のイオンチャンネルの開口が変化することで、電気興奮性細胞の活性を調節する。いくつかの実施形態において、電子移動は、光エネルギーへの曝露によって誘導される。いくつかの実施形態において、エネルギー移動および電子移動のどちらも、光エネルギーへの曝露によって誘導される。いくつかの実施形態において、膜電位の変化は、1つ以上の電圧感受性イオンチャンネルの開口を引き続き誘導する脱分極であり、これによって、細胞に活動電位(または一連の活動電位)が引き起こされる。いくつかの実施形態において、光起電化合物から、近接した状態で電気エネルギーを受容することによって、1つ以上のイオンチャンネルが開口する(例えば、化合物がチャンネルの近くに位置している状況で、膜電位の大規模な変化が実現されない場合がある)。いくつかの実施形態において、化合物によっては、細胞が過分極する場合がある。有利なことに、送達される化合物は、過活動性細胞または不活発な細胞(またはその組み合わせ)を標的とすることができるので、1つまたは複数の標的細胞の生理学的状態によって、目的に合った効果を可能にする。
いくつかの実施形態において、上記光起電化合物は、遷移金属錯体を含む光起電化合物を含む。いくつかの実施形態において、上記遷移金属錯体は、1つまたは複数の遷移金属および少なくとも1つの配位子を含む。いくつかの実施形態において、上記錯体は、場合によっては上記少なくとも1つの配位子に共有結合している、少なくとも1つの疎水性分子をさらに含む。
いくつかの実施形態において、上記1つまたは複数の配位子は、青色発光配位子、緑色発光配位子、赤色発光配位子、またはそれらの組み合わせ(複数の配位子が用いられる場合)を含む。
いくつかの実施形態において、上記1つの配位子は、ジイミン配位子またはイソシアニド配位子を含む。いくつかの実施形態において、上記配位子は、ビピリジンである。
実施形態によっては、上記疎水性分子は、場合によっては置換されているC1−C20アルキル基、C1−C20アルケニル基、場合によっては置換されているC1−C20アルキニル基、場合によっては置換されているC4−C10シクロアルキル基、場合によっては置換されているC5−C10アリール基、場合によっては置換されているC5−C10ヘテロアリール基、およびこれらの組み合わせから選択される。いくつかの実施形態において、上記疎水性分子は、C17アルキル基を含む。いくつかの実施形態において、上記少なくとも1つの疎水性分子は、上記標的電気興奮性細胞に上記化合物を固定するように機能する。
いくつかの実施形態において、上記錯体中の遷移金属は、鉄、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、白金、金、レニウム、モリブデン、タングステン、白金、ロジウム、パラジウム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、種々の遷移金属が、錯体に取り込まれ、組み合わせて投与される(これによって、種々の遷移金属の様々な光反応性の特徴を活用する)。このように、上記光起電化合物を、特定の必要性/出力レベルに対して適応させることができる。いくつかの実施形態において、上記遷移金属は、ルテニウムである。さらなる実施形態において、上記遷移金属は、イリジウムである。
いくつかの実施形態において、上記光起電化合物は、供与体−ブリッジ−受容体複合体を含み、該供与体−ブリッジ−受容体複合体は、少なくとも1つの供与体分子、少なくとも1つのブリッジ、および少なくとも1つの受容体分子を含む。
いくつかの実施形態において、上記供与体分子は、フェノチアジン、テトラセン、および拡張テトラチアフルバレンのうち1つ以上を含む。一実施形態において、上記供与体分子は、フェノチアジンである。
いくつかの実施形態において、上記少なくとも1つのブリッジの長さは、約2 nmである。いくつかの実施形態において、上記少なくとも1つのブリッジ分子の長さは、約0.5 nmから約10 nmの範囲であり、約0.5〜約1.0 nm、約1.0〜約1.5 nm、約1.5〜約2.0 nm、約2.5〜約3.0 nm、約3.0〜約3.5 nm、約3.5〜約4.0 nm、約4.0〜約6.0 nm、約6.0〜約8.0 nm、約8.0〜約10.0 nm、およびこれらが重複する範囲を含んでいる。いくつかの実施形態において、上記ブリッジの長さは、受容者の眼における上記細胞の電気的状態に合わせて変更される。上記ブリッジの長さは、受容細胞に伝達される電気エネルギーに影響を与えるので、ある実施形態において、より長いブリッジまたはより短いブリッジが用いられる。いくつかの実施形態において、上記少なくとも1つのブリッジは、高度π共役系を含む。いくつかの実施形態において、上記少なくとも1つのブリッジは、オリゴエチニレン、オリゴビニレン、オリゴチオフェン、オリゴ(パラ−キシレン)、オリゴ(メタ−キシレン)、オリゴ(パラ−ジメトキシベンゼン)、オリゴ(メタ−ジメトキシベンゼン)、オリゴ(フェニレンビニレン)、オリゴ(フルオレン)、オリゴ(パラ−フェニレン)、オリゴ(パラ−フェニレンエチニレン)、およびオリゴ(メタ−フェニレンエチニレン)を含む。
いくつかの実施形態において、上記少なくとも1つの受容体分子は、1つまたは複数の遷移金属錯体を含み、該遷移金属錯体は、遷移金属および少なくとも1つの配位子を含む。いくつかの実施形態において、上記遷移金属錯体は、鉄、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、白金、金、レニウム、モリブデン、タングステン、白金、金、ロジウム、パラジウム、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される遷移金属を有する。いくつかの実施形態において、種々の遷移金属を含む遷移金属錯体の組み合わせが用いられる。いくつかの実施形態において、上記遷移金属は、レニウムであり、ある実施形態においては、上記遷移金属は、イリジウムである。いくつかの実施形態において、上記(受容体の)配位子は、上記少なくとも1つのブリッジに共有結合している。一実施形態において、上記配位子は、ジイミン配位子またはイソシアニド配位子を含み、さらなる実施形態においては、上記配位子は、2,2’−ビピリジンを含む。いくつかの実施形態において、上記受容体の遷移金属錯体は、レニウム(I)トリカルボニルビピリジンピリジンであり、上記少なくとも1つのブリッジは、ピリジンに共有結合している。いくつかの実施形態において、上記遷移金属錯体は、メタロポルフィリンを含む。実施形態によっては、種々のポルフィリンが、種々の遷移金属とともに用いられてもよい。用いることのできるポルフィリンは、特に、ヘム、プロトポルフィリンIX、プロトポルフィリノーゲンIX、コプロポルフィリノーゲンIII、ウロポルフィリノーゲンIII、ヒドロキシメチルビラン、ポルフォビリノーゲン、δ−アミノレブリン酸を含むが、これらに限定されない。さらなる実施形態において、アルミニウムコロールおよびガリウムコロール(または他の金属のコロール)を含むが、これらに限定されないメタロコロールが用いられる。さらに、いくつかの実施形態において、上記メタロコロールは、両親媒性であり、これによって、上記分子を生体膜に取り込むのに有利に役立つ。またさらなる実施形態において、電荷分離、および光エネルギーの電気インパルスへの転換を行うために、種々のイソシアニドを用いてもよい。例えば、実施形態によっては、タングステンイソシアニド、クロムイソシアニド、および/またはモリブデンイソシアニドを用いてもよい。いくつかの実施形態において、上記イソシアニド金属錯体は、水溶性であることが好ましい。特に、一実施形態において、1つまたはそれ以上の第6属遷移金属と錯体を形成するヘキサキスフェニルイソシアニドが用いられる。このような錯体は、確立された方法論で誘導体化することができる。
いくつかの実施形態において、約300〜約800 nmの間の波長を有する光エネルギーを用いて上記化合物を刺激し、これによって、上記電気興奮性細胞を調節する。いくつかの実施形態において、被験者の視界の状態や上記化合物が活性化される条件などによっては、より長い波長または短い波長が用いられる。
いくつかの実施形態において、上記光起電化合物は、特に、標的組織、標的細胞集団、または標的細胞の標的領域(例えば、電気応答性チャンネルが高密度に存在する領域)のうち1つ以上を標的とする。例えば、分子(例えば、抗体、ペプチドなどを用いた)標的および/または物理(磁力)標的によって、標的化を達成することができる。ある実施形態において、特定の標的化機構を意図して構成することができる、小胞または他の膜結合構造で上記組成物を包み込むことで、いくつかの実施形態において、送達が向上する。
さらに、本明細書において、電気興奮性細胞の電気活性を発生させるシステムが提供され、該システムは、光起電化合物、および光エネルギーを受容し、その光エネルギーを該光起電化合物に伝達するように構成された装置を含む。いくつかの実施形態において、該システムは、被験者の眼の興奮性細胞の電気活性を発生させるように構成されている。いくつかの実施形態において、該システムが標的とする興奮性細胞は、網膜神経節細胞である。したがって、いくつかの実施形態において、該光起電化合物は、被験者の眼への送達に適しており、またいくつかの実施形態において、該光起電化合物は、被験者の網膜神経節細胞への送達に適している。
いくつかの実施形態において、上記システムの補綴具は、環境光エネルギーを検出し、該光エネルギーを上記光起電化合物に伝達する前に、該光エネルギーを増幅するように構成されている。いくつかの実施形態において、この増幅によって、通常条件下で、または、ある実施形態においては低光量条件下で、光起電化合物を受容した被験者の視覚が回復する。いくつかの実施形態において、該補綴具は、広範囲の環境光エネルギーを検出し、該光エネルギーを上記光起電化合物に伝達する前に、該光エネルギーの1つ以上の波長を選別するように構成されている。いくつかの実施形態において、この選別によって、上記光起電化合物へのより正確なエネルギーの伝達が可能となり、上記組成物がより高精度に活性化する。
いくつかの実施形態において、光エネルギーの上記光起電化合物への伝達によって(選別、増幅、または他の処理がなされていたとしても)、分子内の電子移動、および上記光起電化合物にわたる双極子の発生が誘導され、ひいては、電気興奮性細胞の1つ以上のイオンチャンネルの開口が誘導され、これによって、電気興奮性細胞において活動電位を誘起し、電気活性を発生させる。いくつかの実施形態において、光エネルギーの上記光起電化合物への伝達によって、上記光起電化合物は、還元剤化合物から電子を受容するように誘導され、ここで、この電子の受容によって、電気興奮性細胞の膜脱分極および/または1つ以上のイオンチャンネルの開口が誘導され、これによって、電気興奮性細胞において活動電位を誘起し、電気活性を発生させる。いくつかの実施形態において、上記受容細胞は、網膜神経節細胞であり、活動電位が発生することで、電気シグナルは、視神経を通って脳へ送られる。ある実施形態において、他にこのような活動電位を生じることがなかった状況において、上記光起電化合物によって、脳までこの活動電位を発生させることが可能となる。したがって、本明細書で開示されるように、上記の方法、組成物、システム、および/または装置は、被験者の視力を回復させる、または強化するように機能することができる。
いくつかの実施形態において、上記補綴具は、該装置が受容する環境光エネルギーが、該装置を装着している被験者の眼が向いた位置における光エネルギーと一致するように、該被験者の眼球運動を検出するように構成されている。したがって、いくつかの実施形態において、該装置は、被験者の眼の位置に応答して、本明細書で開示される化学薬品および装置によって処理される情報(例えば、光エネルギーの形態をとった情報)を提供し、その被験者の眼が向いた環境の物体および特性を、被験者が可視化することができるように機能する。いくつかの実施形態において、上記補綴具は、被験者の視野の中央に優先的に光エネルギーを向け、被験者の眼の周辺領域に向かう光エネルギーを少なくするように構成されている。いくつかの実施形態において、被験者の視野のすべての部分、実質的にすべての部分、またはかなりの部分が、光エネルギーに曝露される。いくつかの実施形態において、上記補綴具は、眼鏡、ゴーグル(または他の外装品)を含み、ある実施形態においては、内装補綴具(例えば、眼球内カメラ)が用いられる。いくつかの実施形態において、上記補綴具は、光エネルギー(例えば、画像)を処理し、網膜の特定の層または領域に出力する(例えば、上記補綴具からの出力は視覚路の中ほどに入力されているので、出力シグナルは、特定の網膜細胞が通常受容し得るシグナルの種類に「一致」するように処理される)。この処理は、画像に対する種々の変更(例えば、波長の選別、エッジ検出強調、強度の変更など)を含み得る。
いくつかの実施形態において、上記電気興奮性細胞の活性を調節することによって、罹患電気興奮性細胞の機能を置き換える。いくつかの実施形態において、上記方法を用いて、網膜神経節細胞および/または光受容細胞を調節する。いくつかのこのような実施形態において、上記方法および組成物を用いて、盲目を治療する。
ここまで概要が示され、以下でさらに詳細に説明される上記方法では、当業者によって行われるある行為について述べているが、当業者以外が行う行為についての指導も含み得ることは理解されるべきである。したがって、「光起電ナノスイッチの投与」などの行為は、「光起電ナノスイッチの投与の指導」を含む。
図1A〜1Dは、生細胞の原形質膜へのRubpyC17の取り込みを示す。図1Aは、正規化されたRubpyC17の吸収スペクトル、励起スペクトル、および未補正発光スペクトルを示す。
図1Bは、RubpyC17の化学構造を示し、ここで、n=16である。
図1Cは、明視野照明下(左列)、RubpyC17添加前(中列)および10 μM RubpyC17添加直後(右列)に得られた、INS細胞(上段)、HEK293T細胞(中段)およびクロマフィン細胞(下段)の画像を示す。発光画像(右列)は、アルゴンイオンレーザーからの488 nmの光で励起した後、赤色フィルターセットを用いて、放射光を集光して得られた。
図1Dは、予測される光誘導性電子流を示す概略図である。RubpyC17が、電子を供与または受容しやすいように、光照射によってRubpyC17を不安定な励起状態とする。電子供与体(図中Dで表される還元剤)が存在する場合、RubpyC17分子は、電子を蓄積して、細胞膜のすぐ外側に、脱分極として細胞で観察される負の電場電位を生じさせる。この脱分極は、電圧依存性イオンチャンネルを開口させるのに十分である。
図2A〜2Gは、RubpyC17とともにプレインキュベートされた細胞における、光による膜電圧の双方向性制御を示す。図1Aは、青色光の照射によって刺激した場合の、RubpyC17導入INS細胞およびHEK293T細胞の平均化脱分極値および過分極値を示す、概略棒グラフを示す。
図2B〜2Gは、Aに示す細胞の代表的な記録である。図2Bは、2 mM アスコルビン酸塩(AA)存在下でRubpyC17に曝露せず、光刺激中(横棒)も変化しなかったINS細胞の膜電位の記録を示す。
図2Cは、2 mM アスコルビン酸塩(AA)存在下で2分間RubpyC17に過渡的に曝露し、光刺激中(横棒)に脱分極したINS細胞の膜電位の記録を示す。
図2Dは、還元剤または酸化剤を補充しない標準的な細胞外溶液中で2分間RubpyC17に過渡的に曝露しても、なお光誘導性脱分極を示したINS細胞の膜電位の記録を示す。
図2Eは、2 mM アスコルビン酸塩(AA)存在下で2分間RubpyC17に過渡的に曝露し、光刺激中(横棒)に脱分極したHEK293T細胞の膜電位の記録を示す。
図2Fは、別の還元剤である0.1 mM フェロシアニド(ferrO)存在下で2分間RubpyC17に過渡的に曝露し、光刺激中(横棒)に脱分極したHEK293T細胞の膜電位の記録を示す。
図2Gは、酸化剤である0.1 mM フェリシアニド(ferrI)存在下で2分間RubpyC17に過渡的に曝露し、光刺激中(横棒)に過分極したHEK293T細胞の膜電位の記録を示す。
図3A〜3Eは、RubpyC17とともにプレインキュベートされたマウスクロマフィン細胞における活動電位発火頻度の双方向性制御を示す。図3Aは、5 mM アスコルビン酸塩の存在下において、900 nM RubpyC17とともに30分間インキュベートされたクロマフィン細胞の活動電位の発火頻度が、青色光の照射によって増加したことを示す。
図3Bは、0.1 mM フェリシアニドの存在下において、450 nM RubpyC17とともに30分間インキュベートされたクロマフィン細胞の活動電位の発火頻度が、青色光の照射によって減少したことを示す。
図3Cは、光照射前と照射中で、RubpyC17処理した細胞の活動電位の波形に、明確な違いがなかったことを示す。
図3Dは、5 mM アスコルビン酸塩存在下(n=12)および0.1 mM フェリシアニド存在下(n=8)でRubpyC17処理したクロマフィン細胞における、光照射中の活動電位発火頻度の、コントロール(暗所)に対する増加割合を示す棒グラフである。
図3Eは、RubpyC17導入クロマフィン細胞(2 μM、1.5分)の活動電位の発火頻度が、5 mM アスコルビン酸塩灌流中は青色光の照射によって増加するが、0.2 mM フェリシアニド灌流中は活動電位の発火頻度が減少することを示す。すべての記録中、横棒は、青色光照射期間を示す。
図4A〜4Dは、RubpyC17とともにプレインキュベートされたマウスクロマフィン細胞における、光誘発性分泌を示す。図4Aは、20 mM KClを含む変形細胞外溶液中で1.5分間、2 μM RubpyC17とともにプレインキュベートされたマウスクロマフィン細胞に関するデータを示し、青色光照射前、照射中(横棒)および照射後に、カーボンファイバー電流滴定を用いて、カテコールアミンの分泌をモニターし、検出した。
図4Bは、RubpyC17に曝露しなかったコントロールのマウスクロマフィン細胞の分泌パターンを示す。
図4Cは、2 μM RubpyC17で処理したクロマフィン細胞における、光照射によって誘発された個々の電流滴定のピークの例を示す。スケールバー=5 m秒、0.1 nA。
図4Dは、コントロールのクロマフィン細胞(RubpyC17未処理)(n=8)およびRubpyC17処理したクロマフィン細胞(n=18)における、光照射中の分泌ピークの、コントロール(暗所)に対する増加割合を測定した棒グラフである。
図5A〜5Hは、RubpyC17導入細胞の特性に関する種々の実験データを示す。図5A〜5Bは、電圧固定モードでモニターした膜電流であり、RubpyC17導入INS細胞の電流変化は、光照射によって誘発されなかったことを示す。記録の右に示す挿入図によって、パッチ細胞にRubpyC17が適切に組み込まれたことが確認された。
図5A〜5Bは、電圧固定モードでモニターした膜電流であり、RubpyC17導入INS細胞の電流変化は、光照射によって誘発されなかったことを示す。記録の右に示す挿入図によって、パッチ細胞にRubpyC17が適切に組み込まれたことが確認された。
図5C〜5Eは、RubpyC17導入クロマフィン細胞において、光照射前(白丸)および光照射中(白丸)に、電流および電圧の関係(C〜D)も定常状態活性化曲線(E)も有意な変化がないことから、クロマフィン細胞の光誘導性活動電位の発火は、電圧依存性イオンチャンネルの生物物理学的な変化によるものではないことを示す。具体的には、図5Cは、光照射前および光照射中に、静止電位が−80 mVで、−70 mVから100 mVまで10 mVずつ電圧を増加させて細胞を脱分極させる電圧固定モードで得られた、電流および電圧の関係を示す。各刺激急変時の内向き電流のピークを、対応する刺激電圧(n=6)に対してプロットした。
図5Dは、光照射前および光照射中に、静止電位が−80 mVで、−100 mVから+60 mVまでの勾配脱分極で細胞を刺激する電圧固定モードで得られた、電流および電圧の関係を示す。代表的な細胞のデータを示す(n=5)。
図5Eは、−80 mVの静止電位から−70〜+100 mVまで、0.5ミリ秒と短い期間に急変させて脱分極を起こした直後のテール電流のピークを測定して生成した、定常状態活性化曲線を示す(n=5)。
図5Fは、パッチピペット内部の細胞内溶液に18 μMのRubpyC17を含んだ場合(上側に示す記録)は、アンホテレシンBを含んだ場合(下側に示す記録、n=4)と異なり、クロマフィン細胞に穴が開かなかったことを示す(n=10)。−80 mVの静止膜電位から−85 mVまで急変させて、過分極させている間のクロマフィン細胞膜のキャパシタ様の挙動によって生じる電流を、アンホテレシンBに対してギガシールを形成した後5分(下側に示す記録)またはRubpyC17に対してギガシールを形成した後10分(上側に示す記録)記録した。
図5Gは、ナトリウムイオンをNMDGで、カリウムイオンをセシウムで置換することによって、INS細胞の内向き電流および外向き電流が劇的に減少したことを示す。
図5Hは、ナトリウムイオンをNMDGで、カリウムイオンをセシウムで置換した外液において、RubpyC17導入INS細胞が、アスコルビン酸塩存在下において、なお光誘導性脱分極を起こすことを示す(n=5、NMDG溶液;n=14、標準液;n=6、RubpyC17に曝露していないコントロール細胞)。
図6A〜6Bは、15 μM D−B−A複合体のa)吸収スペクトルおよびb)定常状態の発光スペクトルを示す。
図6A〜6Bは、15 μM D−B−A複合体のa)吸収スペクトルおよびb)定常状態の発光スペクトルを示す。
図7A〜7Bは、CH2Cl2中のD−B−A複合体および[Re(CO)3(bpy)(py)]+の、時間分解した発光スペクトルを示す。
図7A〜7Bは、CH2Cl2中のD−B−A複合体および[Re(CO)3(bpy)(py)]+の、時間分解した発光スペクトルを示す。
図8は、D−B−A複合体(12)aの合成を示す。端的に言うと、一実施形態において、試薬は下記の試薬および条件を含む:a)臭化プロパルギル、K2CO3、トルエン、還流。b)2、二塩化ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ZnCl2、THF、Et3N、100℃。c)TBAF、THF、室温。d)2、二塩化ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ZnCl2、THF、Et3N、100℃。e)トリメチルシリルアセチレン、二塩化ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ZnCl2、THF、Et3N、100℃。f)TBAF、THF、室温。g)2、二塩化ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ZnCl2、THF、Et3N、100℃。h)トリメチルシリルアセチレン、二塩化ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ZnCl2、THF、Et3N、100℃。i)TBAF、THF、室温。j)二塩化ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ZnCl2、THF、Et3N、100℃。k)Re(CO)5Cl、トルエン、還流。l)AgClO4、ピリジン、CH3OH、トルエン、50℃。
図9は、本明細書で開示されるいくつかの実施形態に係る医療装置の一概略図を示す。
図10は、本明細書で開示されるいくつかの実施形態に係る検出器の一概略図を示す。
図11は、本明細書で開示されるいくつかの実施形態に係るディスプレイの一概略図を示す。
図12は、本明細書で開示される組成物とともに用いる医療装置の一実施形態の概略図を示す。
図13は、Rubpy−C17による活動電位の発火の、光誘導的な増加を示す、ヒルの神経節ニューロンのデータである。
図14A〜14Bは、RCSラット網膜の全組織標本のデータを示す。データは、11個の電極から得たデータをビニングしたものを示す。各ビンは、1秒間のピーク頻度を表す。Rubpy処理前(14A)では、480 nmの光の照射によるピーク頻度の変化は最小限であった。処理後(100マイクロモル、30分間)は、ピーク頻度は増加した。下向き矢印は、100ミリ秒の光刺激(1番目)および1秒(2番目から4番目)の光刺激の時間を示す。
図15A〜15Fは、野生型RCSラット上丘の細胞外記録を示す。図15Aは、野生型ラットのデータを示す。図15Bは、賦形剤を注入したRCEラットを示す。図15C〜15Fは、Rubpy−C17投与関連のデータを示す。パネルA、CおよびDでは白色光を照射し、パネルB、EおよびFでは青色光(450 nm)を照射した。
図16は、RCSラットにおける瞳孔の光応答を示す。生後9ヶ月のRCSラットの、事前にRubpy−C17(1 mM、5マイクロリットル)を注入しておいた左眼の瞳孔は収縮するが、注入していない右眼の瞳孔は収縮しない。
発明の詳細な説明
ニューロン活性の欠損は、生活の質の低下、労働能力の損失の可能性、ならびに患者の看護による医療費および家族の負担の増加の原因となる、無数の健康問題および病気を引き起こす。多くの治療は、ニューロン活性の低下を含む病気の進行を予防しかつ/または低減しようとするものであるが、いったん失われた機能は、回復することはほとんどないことが多い。さらに、いったんある閾値を超えて機能性が低下すると、変性は、実質的にすべての機能が失われるまで強まり続ける。実質的に機能が低下した後、または機能性が失われた後、興奮性組織の多くは、ほぼ筋萎縮を伴う(例えば、使わなければ失われる)。しかし、最近の発見によって、ある興奮性組織は、実質的に不活性化した後であっても、少なくともある程度までは機能を回復することが可能であることが示されている。
眼疾患において、網膜の変性は、多くの原因のうち1つ以上によって、視覚系で重要な機能を担う光受容体の機能不全および偶発的細胞死を引き起こす。端的に言うと、光受容体は、(光色素であるロドプシンを介して)光刺激を受容した後、生化学的カスケードの発生を介して機能し、ひいては網膜ニューロンの電気生理学的興奮を引き起こす。適切に機能する光受容体がない場合、この「光から化学、そして電気的」カスケードは損なわれ、持続的な変性によって、失明することはほぼ避けられない。視覚を失うというこの進行中の懸念に対処するため、正常に機能する光受容体が十分にない場合でも、網膜ニューロンの刺激を可能にする必要がある。
本明細書で開示されるいくつかの実施形態において、機能する光受容体が存在しない場合でも、網膜ニューロンに光エネルギーを伝達することが可能な様々な光学活性錯体が開示されている。細胞活性、特にニューロン活性を制御するための光学的方法は、実現可能な治療様式として注目を集めている。ある例では、細胞において光応答性タンパク質を非相同的に発現する(例えば、チャンネルロドプシンやハロロドプシンなどの、天然のものではあるが哺乳類のものではない光感受性トランスポーターをクローニングする)ことで細胞膜電位を制御し、これによって細胞を光感受性を有するように変化させることが試みられている。また、非相同的にクローニングされて発現される別の種類の光感受性タンパク質は、特化された集団である網膜神経節細胞中、GqファミリーのGタンパク質を通じてシグナルを送信する光異性化色素である、メラノプシンである。
[0043] 別の方法としては、紫外線照射による光分解時に神経伝達物質を遊離する、感光性「ケージ化」神経伝達物質を、合成化学を用いて生成し、これによって、光がリガンド依存性イオンチャンネルを活性化することが可能となる。別の合成化学的方法は、本来のイオンチャンネルに直接作用して光誘発的な膜電位変化(例えば、アゾベンゼンの光異性化)を誘導する、小さな拡散性「光スイッチ」化合物の使用を含む。アゾベンゼン化合物は、1つまたは2つのカリウムチャンネル遮断部分(テトラエチルアンモニウム)に共有結合すると、細胞に内在化され、照射する光の波長を500 nmと380 nmの間で変化させると、カリウムチャンネルと相互作用して、カリウムの外向きの流れを遮断または非遮断する。アゾベンゼン化合物は、部位特異的変異によって導入されたシステイン残基でイオンチャンネルに共有結合し、電圧依存性イオンチャンネルまたはリガンド依存性イオンチャンネルの活性化または遮断も可能にする。しかし、カリウムの流れを遮断または非遮断すること(および、これによる細胞の活性化または非活性化)は、紫外光による化合物の繰り返し刺激に連動している。
したがって、このような方法は、細胞の電気活性をある程度調節し、基礎研究に対する有用な手段を提供する場合があるが、この方法は、異種タンパク質の高レベルの非相同的発現および/または紫外線照射による励起を必要とする。この要件は、被験者において免疫の問題が起こる可能性を示し、刺激源からの有害な副作用の危険性があることを示すので、臨床応用への転用に厳しい制限が存在する。対照的に、本明細書で開示される化合物および方法では、異種タンパク質の高レベルの発現または紫外線照射による励起を必要とはせずに、光エネルギーを細胞の電気活性に変換することが可能となる。したがって、本明細書で開示されるいくつかの実施形態は、臨床状況に容易に応用でき、ほとんど失明している、または完全に失明している患者の眼の機能および視力を(合成的にではあるが)回復させるように、予想以上に機能する。
光起電ナノスイッチ
最近、可視波長の光の照射時に電荷分離を生じる、新種の合成光スイッチを含む、新しい方法が検討中である。機構はいまだ完全に理解されてはいないが、細胞貫通型高密度リポタンパク質を用いた、細胞膜を標的とするフェロセン−ポルフィリン−C60化合物によって、光依存性膜脱分極が誘導される。しかし、フェロセン−ポルフィリン−C60化合物の制約として重要なのは、その作用がカリウムチャンネルの阻害に限定され、したがって、細胞を脱分極させることのみ可能であるということである。
[0046] 本明細書で述べるいくつかの実施形態は、細胞膜電位を変化させるのに十分な電気的双極子を生成することによって可視波長の光に応答する、別の種類の合成光起電ナノスイッチに関する。換言すると、これらの組成物は、十分な程度まで電荷を分離するのに適しており、(i)(実施形態によっては)細胞の脱分極または過分極を引き起こす、1つ以上の電圧感受性イオンチャンネルを活性化すること、または(ii)活動電位を引き起こすように、膜電位の局所変化を誘発すること、を誘導する。
以下でより詳細に論じるように、ルテニウムジイミン錯体(または他の遷移金属および/または他の有機配位子を包含する他の錯体)を用いると、興奮性細胞(または実施形態によっては複数の興奮性細胞)への光活性化電子移動が容易になる。例えば、488 nm(または他の可視波長)での励起によって、錯体が、可溶性の犠牲還元剤または犠牲酸化剤の存在下で、それぞれ電子を受容または供与することができる、光励起状態が引き起こされる。いくつかの実施形態において、これらの錯体は、細胞の電気活性の光誘導性変化を媒介するのに用いられる。例えば、[Ru(bpy)2(bpy−C17)]2+(ここで、bpyは2,2’−ビピリジンであり、bpy−C17は2,2’−4−ヘプタデシル−4’−メチル−ビピリジンである)は、膜限定発光によって明示されるように、細胞の原形質膜に容易に取り込まれる。[Ru(bpy)2(bpy−C17)]2+中でインキュベートされ、その後還元剤であるアスコルビン酸塩(または、実施形態によっては他の還元剤)の存在下で488 nmの光で照射された興奮性細胞は、膜が脱分極し、活動電位の発火が引き起こされる。対照的に、アスコルビン酸塩の代わりに酸化剤であるフェリシアニドを用いて同じ実験を行うと、過分極が引き起こされる。
他の実施形態、特にインビボ環境の実施形態には、他の酸化剤または還元剤が含まれることは、理解されるべきである。典型的な還元剤は、亜ジチオン酸ナトリウムおよびクエン酸チタンを含むが、これらに限定されない。典型的な酸化剤は、特に、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシルラジカル、一酸化窒素(NO)、過酸化亜硝酸、および二酸化窒素を含むが、これらに限定されない。
実施形態によっては、他の遷移金属を用いてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、原子番号が40よりも大きい金属が用いられる。いくつかの実施形態において、好ましい金属は、鉄、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、白金、金、レニウム、モリブデン、タングステン、白金、金、ロジウム、およびパラジウムである。例えば、いくつかの実施形態において、Fe(II)、Ru(II)、Os(II)、Ir(III)、Re(I)、Mo(0)、およびW(0)を含む熱安定性d6金属が用いられるが、これらに限定されない。ある実施形態において、Pt(II)およびIr(I)などのd8錯体が用いられる。ある実施形態において、遷移金属は、ルテニウムである。ある実施形態において、遷移金属は、実施形態によっては、レニウムよりも化学的に安定であり、かつ/または潜在的により有毒でない場合があるイリジウムである。金属は、組み合わせて用いられてもよい(例えば、それぞれ異なる遷移金属を有する光起電ナノスイッチの混合物など)。実施形態によっては、種々の遷移金属を用いることによって、約375 nmから約800 nmにおよぶ可変範囲での光吸収が可能となる。アスコルビン酸塩存在下で膜結合[Ru(bpy)2(bpy−C17)]2+に光を照射することによって、細胞膜キャパシタの外面の負電荷が増加して細胞膜電位が変化し、細胞膜が効果的に脱分極する(フェリシアニドの場合は逆である)ことが、実験(以下でより詳細に論じる)によって確認される。
またさらなる実施形態において、他の配位子が用いられることも理解されるべきである。種々の配位子(またはその組み合わせ)を選択することにより、約375 nmから約800 nmにおよぶ可変範囲での光吸収を実現することができる。さらに、遷移金属錯体において、配位子は、同じであっても異なっていてもよい。実施形態によっては、配位子は、青色発光配位子、緑色発光配位子、または赤色発光配位子である。
いくつかの実施形態において、遷移金属錯体からの発光を、配位子を改変することで制御することができる。例えば、いくつかの実施形態において、フッ素などの電気陰性原子を加えることで、発光スペクトルの浅色シフトが誘導される。あるいは、配位子に電子供与性置換基を加えることで、発光エネルギーが増加し、それに応じて発光波長が短くなる。また、いくつかの実施形態において、発光スペクトルを所望の範囲に調整するために、種々の配位子の改変を組み合わせて用いることもある。Thompsonらによる、Comprehensive Organometallic Chemistry III (2007年)の”Organometallic Complexes for Optoelectronic Applications”も参照のこと。これは、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
いくつかの実施形態において、配位子は、ジイミン配位子および/またはイソシアニド配位子を含む。典型的な配位子は、2,2’−ビピリジン(bpy)、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン(Me2bpy)、2,2’−ビピリミジン(bpm)、2,2’−ビイソキノリン(biiq)、1,10−フェナントロリン(phen)、ジピリド[3,2−c:2’,3’−e]ピリダジン(taphen)、2,2’−ビキノリン(biq)、6,7−ジヒドロジピリド[2,3−b:3,2−j][1,10]−フェナントロリン(dinapy)、2−(2[ピリジル)キノリン(pq)、1−(2−ピリミジル)ピラゾール](pzpm)、2,2’−ビイミダゾール(H2biim)、4,4’−ジ−tert−ブチル−2,2’−ジピリジル(dtb−bpy)、4,4’−メトキシ−2,2’−ジピリジル(MeO−bpy)、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン(dmb)、ビピラジン、ビピリダジン、アゾ−ビピリジン、アリールイソシアニド、アルキルイソシアニド(メチルイソシアニドまたはt−ブチルイソシアニドなど)およびベンジルイソシアニドを含むが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの配位子が、標的となる電気興奮性細胞に遷移金属錯体を固定するように機能する疎水性分子の少なくとも1つに共有結合する(そうでなければ、化学的に会合する)。いくつかの実施形態において、複数の疎水性分子が配位子に結合し、場合によっては、複数の配位子が疎水性分子に結合する。疎水性分子の例としては、場合によっては置換されているC1−C20アルキル基、C1−C20アルケニル基、場合によっては置換されているC1−C20アルキニル基、場合によっては置換されているC4−C10シクロアルキル基、場合によっては置換されているC4−C10アリール基、および場合によっては置換されているC4−C10ヘテロアリール基が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、RubpyC17の3つのビピリジン(bpy)配位子のうちの1つに共有結合している炭素17個の脂肪鎖(C17)は、化合物を細胞の原形質膜に固定するように機能する。
以下でより詳細に論じるように、関連する機構をさらに解明するためにパッチクランプ実験を行った。すなわち、光誘導性膜電位変化についての他の2つの説明は、しりぞけられた:(1)[Ru(bpy)2(bpy−C17)]2+とイオンチャンネルとの直接的な光誘導性の相互作用、および(2)光誘導性膜穿孔。さらに、本明細書で開示される実験によって、[Ru(bpy)2(bpy−C17)]2+を神経内分泌細胞の原形質膜に取り込むことにより、電流滴定でモニターされるような光誘導性分泌が可能となることが示される。本研究では、例としてルテニウムジイミン錯体を用いているが、これらのデータは、より一般的に、光誘導性生物学的変化を媒介する遷移金属錯体のより広い応用を示していることは理解されるべきである。
より具体的には、ルテニウム−ジイミン錯体およびその光活性化電子移動能が、酸化還元金属タンパク質において研究されてきた。これらは、可視電磁スペクトルの青色端で励起され、赤色に発光する。ここで述べる化合物は、[Ru(bpy)2(bpy−C17)]2+であって、ここでbpyは2,2’−ビピリジンであり、bpy−C17は4−ヘプタデシル−4’−メチル−2,2’−ビピリジンであり、以下RubpyC17と称することにする。犠牲還元剤(例えば、アスコルビン酸塩)または犠牲酸化剤(例えば、フェリシアニド)が存在するかどうかによって、分子間の移動により電子を受容または供与することができる光励起化合物が、光の照射によって生じる。もちろん、実施形態によっては、他の犠牲還元剤または犠牲酸化剤を用いてもよい。RubpyC17の3つのビピリジン(bpy)配位子のうちの1つに炭素17個の脂肪鎖(C17)が付加されていることで、化合物が細胞の原形質膜に固定される。換言すると、脂肪酸鎖の「尾」が、光励起性化合物を細胞の脂質二重層に固定するように機能する。実施形態によっては、長さが異なる他の脂肪鎖が用いられてもよく、C5、C8、C10、C12、C15、C18、C20、C24およびCX(ここで、Xは所望の炭素数である)脂肪鎖(および上記の長さと重複する長さ)が挙げられるが、これらに限定されないことは理解されるべきである。この膜に固定された化合物における光活性化電子移動によって、細胞膜キャパシタの電荷が変化し、過剰の還元剤存在下で脱分極が、または過剰の酸化剤存在下で過分極が誘導される。さらに、この光誘導的な膜電位の変化は、神経分泌細胞(または、網膜神経節細胞などの他の電気興奮性細胞)において、光によって活動電位の発火頻度(および分泌)を調節および操作することができるように、電圧依存性イオンチャンネルを開閉するのに十分である。
供与体−ブリッジ 受容体分子
光起電ナノスイッチに代わるものとして、本明細書で開示されるように、いくつかの実施形態において、露光されるとその長さに沿って電荷を分離することが可能な合成分子として、供与体−ブリッジ−受容体組成物が用いられる。いくつかの実施形態において、このような分子は、分子のブリッジ部のサイズ(の少なくとも一部)に基づき、光エネルギーの吸収だけではなく、その活性化の「寿命」も可変である。
背景として、光誘導性の長距離の電子移動(ET)は、人工光合成および光電装置において重要な役割を果たしている。これらのシステムすべてに重要なのは、長距離にわたるET速度の正確な制御である。ETは、電子トンネル距離、供与体−受容体エネルギー特性、およびブリッジの化学構造を含む、多くの因子によって影響を受けることが示されてきた。これらのパラメーターのうち、ブリッジの化学構造が重要な役割を果たしており、その化学構造が少し変化しただけで、ET速度に影響を及ぼすことが示されてきた。
供与体−ブリッジ−受容体(D−B−A)複合体によって、これらETプロセスを制御するパラメータを、体系的に研究することが可能になる。以前の、D−B−A複合体におけるETの研究によって、オリゴ(フェニレンビニレン)、オリゴ(フルオレン)、オリゴ(パラ−フェニレン)、およびオリゴ(パラ−フェニレンエチニレン)などの高度π共役系が、長距離ETの魅力ある媒介物質であることが示された。具体的には、π共役オリゴマー系は、電子供与体と電子受容体との間で効率的に電子結合し、電線様の挙動を示す。パラ位の結合を有する系は、細胞膜をまたぐのに有用であろう直線状の構成を示す。また、π共役オリゴマー系は、速い順方向の電子移動を示すが、等速の電荷再結合(例えば、元の位置およびエネルギー状態への電子の復帰)によって多くが妨げられ、その効率は実用上制限される。したがって、いくつかの実施形態において、比較的柔軟性があって、電荷再結合よりも効率的な順方向のETに有利な場合があるオリゴ(メタ−フェニレンエチニレン)がブリッジとして用いられる。
本明細書で開示されるいくつかの実施形態において、供与体−ブリッジ−受容体複合体は、少なくとも1つの供与体分子、少なくとも1つのブリッジ、および少なくとも1つの受容体分子を含む。実施形態によっては、1つまたは複数の供与体分子は、フェノチアジン、テトラセン、拡張テトラチアフルバレン、およびこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。例えば、以下で述べる限定されない実験のいくつかにおいては、電子供与体としてフェノチアジン(PTZ)を用いた。
供与体−ブリッジ−受容体複合体のブリッジは、当該技術分野において公知のブリッジであってもよい。例えば、ブリッジとして、場合によっては置換されているC10−C20アルキル鎖を用いてもよい。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1つのブリッジは、高度π共役系である。ブリッジは、D−B−A複合体に用いられる典型的なブリッジ分子であり得る。その例としては、オリゴエチニレン、オリゴビニレン、オリゴチオフェン、オリゴ(パラ−キシレン)、オリゴ(メタ−キシレン)、オリゴ(パラ−ジメトキシベンゼン)、オリゴ(メタ−ジメトキシベンゼン)、オリゴ(フェニレンビニレン)、オリゴ(フルオレン)、オリゴ(パラ−フェニレン)、オリゴ(パラ−フェニレンエチニレン)、およびオリゴ(メタ−フェニレンエチニレン)が挙げられるが、これらに限定されない。
いくつかの実施形態において、ブリッジの長さは、約5 nm〜約1 nmである。いくつかの実施形態において、ブリッジの長さは、少なくとも約4 nm、少なくとも約3 nm、少なくとも約2 nm、または少なくとも約1 nmである。いくつかの実施形態において、ブリッジの長さは、約2 nmである。いくつかの実施形態において、化合物の光に対する応答性および範囲を増強するため、また所与の実施形態において、刺激を必要とする場合がある様々な種類の電気興奮性細胞を明らかにするために、他の長さのブリッジ(または種々の長さのブリッジを有する化合物を含む組成物)を用いてもよい。
遷移金属錯体は、強力な励起状態酸化剤または還元剤としての役割をはたすことができ、同様の有機D−B−A系と比較して励起状態の寿命がより長いので、D−B−A分子のある実施形態において、受容体として有利に使用される。例えば、以下で述べる限定されない実験のいくつかにおいて、レニウム(I)トリカルボニルビピリジンピリジンが電子受容体として選択された。
いくつかの実施形態において、受容体分子は、遷移金属および少なくとも1つの配位子を有する遷移金属錯体を含む。いくつかの実施形態において、遷移金属は、鉄、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、白金、金、レニウム、モリブデン、タングステン、白金、金、ロジウム、およびパラジウムからなる群から選択される。ある実施形態において、遷移金属は、実施形態によっては、レニウムよりも化学的に安定であり、かつ/または潜在的により有毒でない場合があるイリジウムである。金属は、組み合わせて用いられてもよい(例えば、それぞれ異なる遷移金属を有する光起電ナノスイッチの混合物など)。いくつかの実施形態において、遷移金属錯体は、メタロポルフィリンを含む。実施形態によっては、種々のポルフィリンを、種々の遷移金属とともに用いてもよい。用いることのできるポルフィリンは、特に、ヘム、プロトポルフィリンIX、プロトポルフィリノーゲンIX、コプロポルフィリノーゲンIII、ウロポルフィリノーゲンIII、ヒドロキシメチルビラン、ポルフォビリノーゲン、δ−アミノレブリン酸を含むが、これらに限定されない。さらなる実施形態において、アルミニウムコロールおよびガリウムコロール(または他の金属のコロール)を含むメタロコロールが用いられるが、これらに限定されない。さらに、いくつかの実施形態において、メタロコロールは、両親媒性であり、これによって、分子を生体膜に取り込むのに有利に役立つ。またさらなる実施形態において、電荷分離および光エネルギーを電気インパルスへ変換するために、種々のイソシアニドを用いてもよい。例えば、実施形態によっては、タングステンイソシアニド、クロムイソシアニド、および/またはモリブデンイソシアニドを用いてもよい。いくつかの実施形態において、イソシアニド金属錯体は、水溶性であることが好ましい。特に、一実施形態において、1つまたはそれ以上の第6属遷移金属と錯体を形成するヘキサキスフェニルイソシアニドが用いられる。このような錯体は、確立された方法論で誘導体化することができる。
遷移金属錯体が受容体を含むいくつかの実施形態において、遷移金属錯体の少なくとも1つの配位子は、少なくとも1つのブリッジに共有結合する(そうでなければ、化学的に会合する)。複数のブリッジが配位子に結合してもよく、場合によっては、複数の配位子がブリッジに結合してもよい。実施形態によっては、配位子は、所与の遷移金属錯体において、同じであっても異なっていてもよい。上記の通り、配位子を変更する、かつ/または配位子を改変することによって、約375 nmから約800 nm(実施形態によっては、より短い波長、またはより長い波長)におよぶ可変範囲での光吸収が可能となる。例えば、一実施形態において、配位子は、ジイミン配位子を含む。さらなる実施形態において、配位子は、イソシアニド配位子を含む。さらなる配位子は、2,2’−ビピリジン(bpy)、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン(Me2bpy)、2,2’−ビピリミジン(bpm)、2,2’−ビイソキノリン(biiq)、1,10−フェナントロリン(phen)、ジピリド[3,2−c:2’,3’−e]ピリダジン(taphen)、2,2’−ビキノリン(biq)、6,7−ジヒドロジピリド[2,3−b:3,2−j][1,10]−フェナントロリン(dinapy)、2−(2[ピリジル)キノリン(pq)、1−(2−ピリミジル)ピラゾール](pzpm)、2,2’−ビイミダゾール(H2biim)、4,4’−ジ−tert−ブチル−2,2’−ジピリジル(dtb−bpy)、4,4’−メトキシ−2,2’−ジピリジル(MeO−bpy)、4,4’−ジメチル−2,2’−ビピリジン(dmb)、ビピラジン、ビピリダジン、およびアゾ−ビピリジンを含むが、これらに限定されない。
本明細書では、オリゴ(メタ−フェニレンエチニレン)ブリッジを介してフェノチアジン(PTZ)に結合される、遷移金属誘導体であるレニウムトリカルボニルピリジンジイミンに基づくD−B−A複合体の合成スキームおよび光物理的性質が開示されている。
本明細書で開示される化合物のいくつかは、少なくとも1つのキラル中心を有するが、それぞれエナンチオマーおよびジアステレオマーとして、またはラセミ体を含む、このような異性体の混合物として存在してもよい。個々の異性体の分離または個々の異性体の選択的合成は、当業者に周知されている種々の方法を用いることで行われる。特に指示のない限り、このような異性体およびそれらの混合物は、すべて、本明細書で開示される化合物の範囲に含まれる。さらに、本明細書で開示される化合物は、1つ以上の結晶形態または非結晶形態で存在してもよい。特に指示のない限り、このような形態は、すべて、任意の多形形態を含む、本明細書で開示される化合物の範囲に含まれる。さらに、本明細書で開示される化合物のうちのいくつかは、水と溶媒和物(すなわち、水和物)を形成してもよいし、一般的な有機溶媒と溶媒和物を形成してもよい。特に指示のない限り、このような溶媒和物は、本明細書で開示される化合物の範囲に含まれる。
当業者であれば、本明細書で述べる構造のいくつかは、動力学的である場合でも、他の化学構造で明白に表され得る化合物の共鳴構造または互変異性体であってもよいことは理解され、またこのような構造は、このような化合物の例のほんの一部分のみを表し得ることが理解される。このような共鳴構造または互変異性体は、本明細書に表されていないが、このような化合物は、示された構造の範囲内にあると見なされる。
述べてきた化合物に、同位体が存在してもよい。化合物の構造中に示されるような化学元素は、それぞれ、該元素の任意の同位体を含んでいてもよい。例えば、化合物の構造中、水素原子を明示的に表してもよいし、化合物中に存在するものと理解してもよい。水素原子が存在し得る化合物中の任意の位置において、水素原子は、水素−1(軽水素)および水素−2(重水素)を含む任意の水素同位体であり得るが、これらに限定されない。したがって、特にはっきりとした指示のない限り、本明細書での化合物に対する言及は、可能な同位体の形態をすべて包含する。
定義
本明細書において、「a」および「b」が整数である「Ca〜Cb」または「Ca−b」は、通常の、科学的に認識された意味を持ち、また、特定の基における炭素原子の数を意味するものとする。すなわち、その基は、「a」以上「b」以下の炭素原子を含み得る。したがって、例えば、「C1〜C4アルキル」基または「C1−4アルキル」基は、炭素を1〜4つ有するアルキル基をすべて、すなわち、CH3−、CH3CH2−、CH3CH2CH2−、(CH3)2CH−、CH3CH2CH2CH2−、CH3CH2CH(CH3)−および(CH3)3C−を意味する。
本明細書において、「アルキル」は、通常の意味を持ち、また、完全に飽和した(すなわち、二重結合または三重結合を含まない)直鎖または分岐炭化水素鎖を意味するものとする。アルキル基は、炭素原子を1〜20個有してもよい(本明細書に出てくる時は常に、「1〜20」などの数字の範囲は、所与の範囲におけるそれぞれの整数を意味する;例えば、「1〜20個の炭素原子」は、アルキル基が、1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子などから、最大20個以下の炭素原子からなることを意味するが、この定義は、数字の範囲が示されていない「アルキル」なる語の存在も包含する)。アルキル基は、炭素原子を1〜9つ有する、中型のアルキルであってもよい。アルキル基は、炭素原子を1〜4つ有する、低級アルキルでもあり得る。アルキル基は、「C1−4アルキル」または同様の形式で称されてもよい。単に例示の目的で示すが、「C1−4アルキル」は、アルキル鎖に1〜4つの炭素原子があることを示しており、例えば、アルキル鎖は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、およびt−ブチルからなる群から選択される。典型的なアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第三級ブチル、ペンチル、ヘキシルなどを含むが、決してこれらに限定されない。
本明細書において、「アルケニル」は、通常の意味を持ち、また、1つ以上の二重結合を含む直鎖または分岐炭化水素鎖を意味するものとする。アルケニル基は、炭素原子を2〜20個有してもよいが、本定義は、数字の範囲が示されていない「アルケニル」なる語の存在も包含する。アルケニル基は、炭素原子を2〜9つ有する、中型のアルケニルであってもよい。アルケニル基は、炭素原子を2〜4つ有する低級アルケニルでもあり得る。アルケニル基は、「C2−4アルケニル」または同様の形式で称されてもよい。単に例示の目的で示すが、「C2−4アルケニル」は、アルケニル鎖に2〜4つの炭素原子があることを示しており、すなわち、アルケニル鎖は、エテニル、プロペン−1−イル、プロペン−2−イル、プロペン−3−イル、ブテン−1−イル、ブテン−2−イル、ブテン−3−イル、ブテン−4−イル、1−メチル−プロペン−1−イル、2−メチル−プロペン−1−イル、1−エチル−エテン−1−イル、2−メチル−プロペン−3−イル、ブタ−1,3−ジエニル、ブタ−1,2−ジエニル、およびブタ−1,2−ジエン−4−イルからなる群から選択される。典型的なアルケニル基は、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、およびヘキセニルなどを含むが、決してこれらに限定されない。
本明細書において、「アルキニル」は、通常の意味を持ち、また、1つ以上の三重結合を含む直鎖または分岐炭化水素鎖を意味するものとする。アルキニル基は、炭素原子を2〜20個有してもよいが、本定義は、数字の範囲が示されていない「アルキニル」なる語の存在も包含する。アルキニル基は、炭素原子を2〜9つ有する、中型のアルキニルであってもよい。アルキニル基は、炭素原子を2〜4つ有する低級アルケニルでもあり得る。アルキニル基は、「C2−4アルキニル」または同様の形式で称されてもよい。単に例示の目的で示すが、「C2−4アルキニル」は、アルキニル鎖に2〜4つの炭素原子があることを示しており、すなわち、アルキニル鎖は、エチニル、プロピン−1−イル、プロピン−2−イル、ブチン−1−イル、ブチン−3−イル、ブチン−4−イル、および2−ブチニルからなる群から選択される。典型的なアルキニル基は、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、およびヘキシニルなどを含むが、決してこれらに限定されない。
本明細書において、「ヘテロアルキル」は、通常の意味を持ち、また、1つ以上のヘテロ原子、すなわち、鎖の骨格に窒素、酸素および硫黄を含むがこれらに限定されない炭素以外の元素を含む、直鎖または分岐炭化水素鎖を意味するものとする。ヘテロアルキル基は、炭素原子を1〜20個有してもよいが、本定義は、数字の範囲が示されていない「ヘテロアルキル」なる語の存在も包含する。ヘテロアルキル基は、炭素原子を1〜9つ有する、中型のヘテロアルキルであってもよい。ヘテロアルキル基は、炭素原子を1〜4つ有する低級へテロアルキルでもあり得る。ヘテロアルキル基は、「C1−4ヘテロアルキル」または同様の形式で称されてもよい。ヘテロアルキル基は、ヘテロ原子を1つ以上含んでもよい。単に例示の目的で示すが、「C1−4ヘテロアルキル」は、ヘテロアルキル鎖に1〜4つの炭素原子があり、さらに鎖の骨格に1つ以上のヘテロ原子があることを示している。
本明細書において、「シクロアルキル」は、通常の意味を持ち、また、完全飽和炭素環または完全飽和炭素環系を意味するものとする。例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において、「アリール」は、通常の意味を持ち、また、環骨格に炭素のみを含む芳香族環または芳香族環系(すなわち、隣接する2つの炭素原子を共有する環が複数融合したもの)を意味するものとする。アリールが環系である場合、その系の環はどれも芳香族である。アリール基は、炭素原子を6〜18個有してもよいが、本定義は、数字の範囲が示されていない「アリール」なる語の存在も包含する。ある実施形態において、アリール基は、炭素原子を6〜10個有する。アリール基は、「C6−10アリール」、「C6またはC10アリール」、または同様の形式で称されてもよい。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、アズレニル、およびアントラセニルが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において、「ヘテロアリール」は、通常の意味を持ち、また、1つ以上のヘテロ原子、すなわち、鎖の骨格に窒素、酸素および硫黄を含むがこれらに限定されない炭素以外の元素を含む、芳香族環または芳香族環系(すなわち、隣接する2つの原子を共有する環が複数融合したもの)を意味するものとする。ヘテロアリールが環系である場合、その系の環はどれも芳香族である。ヘテロアリール基の環員(すなわち、炭素原子およびヘテロ原子を含む、鎖の骨格を構成する原子の数)は、5〜18個であってもよいが、本定義は、数字の範囲が示されていない「ヘテロアリール」なる語の存在も包含する。ある実施形態において、ヘテロアリール基の環員は、5〜10個、または5〜7個である。ヘテロアリール基は、「5〜7員ヘテロアリール」、「5〜10員ヘテロアリール」または同様の形式で称されてもよい。ヘテロアリール環の例としては、フリル、チエニル、フタラジニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、チアジアゾリル、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、インドリル、イソインドリル、およびベンゾチエニルが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において、「炭素環」は、通常の意味を持ち、また、環系骨格に炭素原子のみを含む非芳香族環または非芳香族環系を意味するものとする。炭素環が環系である場合、複数の環が、融合、架橋、またはスピロ結合で結合してもよい。炭素環は、環系の環の少なくとも1つが芳香族でないのであれば、飽和の程度はどのようであってもよい。したがって、炭素環は、シクロアルキル、シクロアルケニル、およびシクロアルキニルを含む。炭素環基は、炭素原子を3〜20個有してもよいが、本定義は、数字の範囲が示されていない「炭素環」なる語の存在も包含する。炭素環基は、炭素原子を3〜10個有する、中型の炭素環であってもよい。炭素環基は、炭素原子を3〜6つ有する炭素環でもあり得る。炭素環基は、「C3−6炭素環」または同様の形式で称されてもよい。炭素環の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において、「ヘテロ環」は、通常の意味を持ち、また、環骨格に少なくとも1つのヘテロ原子を含む非芳香族環または非芳香族環系を意味するものとする。ヘテロ環は、融合、架橋、またはスピロ結合で結合していてもよい。ヘテロ環は、環系の環の少なくとも1つが芳香族でないのであれば、飽和の程度はどのようであってもよい。ヘテロ原子は、環系の非芳香族環または芳香族環のどちらに存在していてもよい。ヘテロ環基の環員(すなわち、炭素原子およびヘテロ原子を含む、環骨格を構成する原子の数)は、3〜20個であってもよいが、本定義は、数字の範囲が示されていない「ヘテロ環」なる語の存在も包含する。ヘテロ環基は、環員を3〜10個有する、中型のヘテロ環であってもよい。ヘテロ環基は、環員を3〜6つ有するヘテロ環でもあり得る。ヘテロ環基は、「3−6員ヘテロ環」または同様の形式で称されてもよい。好ましい六員単環ヘテロ環において、ヘテロ原子は、O、NまたはSから1つ以上最大3つまで選択され、好ましい五員単環ヘテロ環において、ヘテロ原子は、O、NまたはSから選択される1つまたは2つのヘテロ原子から選択される。ヘテロ環の例としては、アゼピニル、アクリジニル、カルバゾリル、シンノリニル、ジオキソラニル、イミダゾリニル、イミダゾリジニル、モルホリニル、オキシラニル、オキセパニル、チエパニル、ピペリジニル、ピペラジニル、ジオキソピペラジニル、ピロリジニル、ピロリドニル、ピロリジオニル、4−ピペリドニル、ピラゾリニル、ピラゾリジニル、1,3−ジオキシニル、1,3−ジオキサニル、1,4−ジオキシニル、1,4−ジオキサニル、1,3−オキサチアニル、1,4−オキサチイニル、1,4−オキサチアニル、2H−1,2−オキサジニル、トリオキサニル、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジニル、1,3−ジオキソリル、1,3−ジオキソラニル、1,3−ジチオリル、1,3−ジチオラニル、イソオキサゾリニル、イソオキサゾリジニル、オキサゾリニル、オキサゾリジニル、オキサゾリジノニル、チアゾリニル、チアゾリジニル、1,3−オキサチオラニル、インドリニル、イソインドリニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロチオピラニル、テトラヒドロ−1,4−チアジニル、チアモルホリニル、ジヒドロベンゾフラニル、ベンズイミダゾリジニル、およびテトラヒドロキノリンが挙げられるが、これらに限定されない。
「(ヘテロ環)アルキル」なる語は、通常の意味を持ち、また、置換基として、アルキレン基を介して結合しているヘテロ環基を意味するものとする。その例としては、イミダゾリニルメチルおよびインドリニルエチルが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において、「ハロゲン」または「ハロ」なる語は、通常の意味を持ち、また、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素などの、元素周期表の7列目の放射安定性原子のいずれか1つを意味するものとし、ある実施形態においては、フッ素および塩素が好ましい。
本明細書において、「アルコキシ」は、通常の意味を持ち、また、Rが上記で定義されたアルキルである「C1−9アルコキシ」などの式−ORを意味するものとし、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、1−メチルエトキシ(イソプロポキシ)、n−ブトキシ、イソ−ブトキシ、sec−ブトキシ、およびtert−ブトキシなどを含むが、これらに限定されない。
本明細書において、「シアノ」基は、通常の意味を持ち、また、「−CN」基を意味するものとする。
本明細書において、「アリールオキシ」および「アリールチオ」なる語は、通常の意味を持ち、また、Rが上記で定義されたアリールである「C6−10アリールオキシ」または「C6−10アリールチオ」などのRO−およびRS−を意味するものとし、フェニルオキシを含むが、これに限定されない。
本明細書において、「アミノ」基は、通常の意味を持ち、また、「−NRARB」基を意味するものとし、ここでRAおよびRBは、それぞれ独立して、水素、ならびに本明細書で定義されるC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、C3−7炭素環、C6−10アリール、5〜10員ヘテロアリール、および5〜10員ヘテロ環から選択される。その例としては、遊離のアミノ(すなわち、−NH2)が挙げられるが、これに限定されない。
本明細書において、「シアナト」基なる語は、通常の意味を持ち、また、「−OCN」基を意味するものとする。
本明細書において、「イソシアナト」基なる語は、通常の意味を持ち、また、「−NCO」基を意味するものとする。
本明細書において、「チオシアナト」基なる語は、通常の意味を持ち、また、「−SCN」基を意味するものとする。
本明細書において、「イソチオシアナト」基なる語は、通常の意味を持ち、また、「−NCS」基を意味するものとする。
本明細書において、「スルフィニル」基なる語は、通常の意味を持ち、また、「−S(=O)R」基を意味するものとし、ここでRは、水素、ならびに本明細書で定義されるC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、C3−7炭素環、C6−10アリール、5〜10員ヘテロアリール、および5〜10員ヘテロ環から選択される。
本明細書において、「スルフォニル」基なる語は、通常の意味を持ち、また、「−SO2R」基を意味するものとし、ここでRは、水素、ならびに本明細書で定義されるC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C2−6アルキニル、C3−7炭素環、C6−10アリール、5〜10員ヘテロアリール、および5〜10員ヘテロ環から選択される。
本明細書において、「置換基」なる語は、通常の意味を持ち、また、1つ以上の水素原子が別の原子または基と置換されている、未置換の親基由来の基を意味するものとする。特に指示のない限り、基が「置換」されたと見なされる場合、その基は、C1−C6アルキル、C1−C6アルケニル、C1−C6アルキニル、C1−C6ヘテロアルキル、C3−C7炭素環(場合によっては、ハロ、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、C1−C6ハロアルキル、およびC1−C6ハロアルコキシで置換されている)、C3−C7−炭素環−C1−C6−アルキル(場合によっては、ハロ、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、C1−C6ハロアルキル、およびC1−C6ハロアルコキシで置換されている)、5〜10員ヘテロ環(場合によっては、ハロ、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、C1−C6ハロアルキル、およびC1−C6ハロアルコキシで置換されている)、5〜10員ヘテロ環−C1−C6−アルキル(場合によっては、ハロ、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、C1−C6ハロアルキル、およびC1−C6ハロアルコキシで置換されている)、アリール(場合によっては、ハロ、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、C1−C6ハロアルキル、およびC1−C6ハロアルコキシで置換されている)、アリール(C1−C6)アルキル(場合によっては、ハロ、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、C1−C6ハロアルキル、およびC1−C6ハロアルコキシで置換されている)、5〜10員ヘテロアリール (場合によっては、ハロ、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、C1−C6ハロアルキル、およびC1−C6ハロアルコキシで置換されている)、5〜10員ヘテロアリール(C1−C6)アルキル(場合によっては、ハロ、C1−C6アルキル、C1−C6アルコキシ、C1−C6ハロアルキル、およびC1−C6ハロアルコキシで置換されている)、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、C1−C6アルコキシ、C1−C6アルコキシ(C1−C6)アルキル(すなわち、エーテル)、アリールオキシ、スルフヒドリル(メルカプト)、ハロ(C1−C6)アルキル(例えば、−CF3)、ハロ(C1−C6)アルコキシ(例えば、−OCF3)、C1−C6アルキルチオ、アリールチオ、アミノ、アミノ(C1−C6)アルキル、ニトロ、O−カルバミル、N−カルバミル、O−チオカルバミル、N−チオカルバミル、C−アミド、N−アミド、S−スルホンアミド、N−スルホンアミド、C−カルボキシ、O−カルボキシ、アシル、シアナト、イソシアナト、チオシアナト、イソチオシアナト、スルフィニル、スルフォニル、およびオキソ(=O)から独立して選択される1つ以上の置換基で置換されていることを意味する。基が、「場合によっては置換されている」と記述されている場合は常に、その基は、上記の置換基で置換されていることもあり得る。
投与および投薬
本明細書で開示される組成物を送達するために、実施形態によっては、種々の投与経路が用いられる。例えば、特定の眼疾患(例えば、網膜変性疾患)の治療において、眼におけるある領域に注入することによって、本明細書で開示される組成物が送達される。いくつかの実施形態において、例えば、黄斑下への直接送達によって(例えば、注射)、網膜に組成物が送達される。いくつかの実施形態において、硝子体腔に送達される。いくつかの実施形態において、後眼房への送達によって、種々の細胞種へ治療用組成物が送達される。いくつかの実施形態においては、単回の注入で治療効果が十分得られ、一方、ある実施形態においては、複数回注入が行われる(例えば、数週間または数ヶ月の期間にわたり、1回以上の注入を行う)。いくつかの実施形態において、効果が持続する期間(例えば、組成物が機能を発揮できる寿命)は、約3〜4週間、約4〜6週間、約6〜8週間、約8〜12週間、約12〜18週間、約18〜24週間、約24〜48週間、約6ヶ月〜約1年、およびこれらが重複する範囲である。いくつかの実施形態において、組成物が機能を発揮できる寿命が明確でないため、単回投与が行われる。
いくつかの実施形態において、1種類の標的化機構または別の機構、あるいはその組み合わせを用いて、本明細書で開示される組成物のより正確な送達が行われる。いくつかの実施形態において、小胞輸送を用いて、組成物が送達される。実施形態によっては、例えば、リポソーム、エキソソーム、微小小胞、エピジモソーム、アルゴソーム、エキソソーム様小胞、微粒子、プロミニノソーム、プロスタソーム、デキソソーム、テキソソーム、デックス、テックス、アルケオソームおよび/またはオンコソームが用いられる。いくつかの実施形態において、小胞は、その種類にかかわらず、特定の種類の細胞を特異的に標的とする(または、少なくとも優先的に標的とする)。例えば、いくつかの実施形態において、網膜神経節細胞が標的とされる。ある実施形態において、網膜神経節細胞に加えて、または網膜神経節細胞に代わって、例えば光受容体、双極細胞、無軸索細胞などの他の種類の細胞が標的とされる。
実施形態によっては、1つ以上の方法で標的化がなされる。いくつかの実施形態において、標的細胞によって特異的に(または少なくとも優先的に)発現されるマーカーを、抗体によって認識することができ、本明細書で開示される光化学組成物を運搬する小胞に、このような抗体を組み込むことができる。いくつかの実施形態において、細胞表面に特有のマーカーが、標的化剤として用いられる。いくつかの実施形態において、特定のマーカーに対する抗体が、光化学組成物に直接結合される。他の実施形態において、抗体は、小胞または他のキャリヤ部分に結合される。ある実施形態において、Brn3a、BRN3b、NGF、NSCL2、および/またはPKCなどのマーカー(場合によっては、他のマーカーも)を用いて、網膜神経節細胞を標的とする。ある実施形態においては、多重鎖抗体が用いられるが、いくつかの実施形態においては、単鎖(例えば、ラクダ)抗体が用いられる。
いくつかの実施形態において、ペプチドが標的とされる。例えば、いくつかの実施形態において、所望の標的細胞と特異的に相互作用するペプチドが、ライブラリスクリーニングによって同定される。例えば、いくつかの実施形態において、ファージライブラリをスクリーニングすることで、ある細胞種を特異的に標的とするのに用いる1つまたは複数のペプチドが同定される。いくつかの実施形態において、RNAディスプレイ、および/またはリボソームディスプレイのみならず、酵母ツーハイブリッドスクリーニングが、実施形態によっては用いられる。いくつかの実施形態においては、ある眼細胞と相互作用する天然ペプチドが用いられ、ある実施形態においては、変異ペプチドまたは合成ペプチドが作成される。例えば、いくつかの実施形態において、天然ペプチドの副作用を減少させる、かつ/または除く天然ペプチドの変異体が作成される。
いくつかの実施形態において、細胞の電気活性に基づいて標的化がなされる。いくつかの実施形態において、電気シグナリングが可能だが、活性が減少した証拠を示す細胞が標的とされる。いくつかの実施形態において、正常な刺激または過刺激に直面した場合でも、電気的に無活性な細胞が標的とされる。いくつかの実施形態において、本明細書で開示される組成物は、細胞をプログラムして光に応答させるように、適応された様式で機能することができる。電圧感受性細胞(例えば、膜電位の変化に応じて作用する細胞)が標的とされる。例えば、いくつかの実施形態において、電圧依存性ナトリウムチャンネルを発現する細胞が、標的とされる。いくつかの実施形態において、標的化は、特定の細胞集団に対してのみ行われるのではなく、標的細胞集団の異なる領域内に対しても行われる。例えば、ある網膜神経節細胞は、軸索小丘において、電圧依存性ナトリウムチャンネルを高濃度に有する。本明細書で開示される組成物が、細胞の電気的操作に適しているとすると、いくつかの実施形態において、潜在的に電気的励起性が高いこのような領域を特異的に標的とすることは、所望の効果を達成するのに特に有利である。
他の実施形態においては、他の種々の標的化が用いられる。例えば、いくつかの実施形態において、磁場(外部で生成されるが、内部の標的部位に集中する)を用いて、本明細書で開示される組成物が標的とされる。いくつかの実施形態において、例えば、組成物が小胞輸送される場合、小胞は、磁性粒子(例えば、超常磁性酸化鉄)を含むように生成することができる。いくつかの実施形態において、タンパク質−タンパク質相互作用(例えば、光起電化合物に結合したタンパク質および標的細胞のタンパク質)を用いて、組成物が標的とされる。
いくつかの実施形態において、標的化は行われない。しかし、このような実施形態のいくつかにおいて、組成物を取り込む、正常に機能する細胞は、組成物の機能に対して悪い反応を示す場合がある。例えば、黄斑変性において、中心部に位置する細胞は、機能不全を起こしているが、周囲の細胞は、正常に機能している。正常に機能している細胞に組成物を導入すると、その正常な機能を阻害する場合がある。したがって、特異的標的化が行われない場合は、ある実施形態において、正常に機能している細胞で、組成物の機能性が選択的に破壊(または阻害)される。したがって、一実施形態において、送達は非特異的であり、その後、ある細胞から組成物を「除去」することは、特異的である。いくつかの実施形態において、化合物の構造および/または機能に熱的に損傷を与えないが、これらを阻害する長波赤外線(または他の光)に化合物を曝露することによって、除去を行うことができる。
いくつかの実施形態において、特異的な標的化は、行われない。
有利には、特定の標的細胞集団に送達される分子の数を、あらかじめ計算することができ、かつ/または目視で確認することができる。よって、患者の眼の細胞(例えば、網膜神経節細胞)の電気活性を誘導するために、患者の眼に与える最小量の光刺激を考慮した計算を行うことができる。いくつかの実施形態において、光起電分子(遷移金属錯体であろうと供与体−ブリッジ−受容体であろうと)の比を計算し、最適化することができる。いくつかの実施形態においては、比は、光起電分子:細胞が約1:1であり、いくつかの実施形態においては、その比は、約10:1、約20:1、約50:1、約100:1、約1000:1、約10,000:1、約100,000:1、およびこれらが重複する範囲である。実施形態によっては、より大きい比、またはより小さい比が用いられてもよい。
いくつかの実施形態において、光起電分子(遷移金属錯体であろうと供与体−ブリッジ−受容体であろうと)の活性化の寿命の可変性によって、特定の患者に適応した活性化プロファイルが可能となる。例えば、長いブリッジを有するように構成された供与体−ブリッジ−受容体分子は、分子が活性化する時点から不活性化する時点まで(例えば、「励起状態」)、長い時間が経過するように、分子の活性化状態の寿命をのばすことができる。いくつかの実施形態において、この時間は、少なくとも約100マイクロ秒である(活動電位が生じるのに十分である)。いくつかの実施形態において、励起状態の寿命は、約1〜約200マイクロ秒の範囲である。いくつかの実施形態において、分子の励起(例えば、電荷移動過程)によって生じる双極子の寿命は、励起状態の寿命よりも長い。いくつかの実施形態において、双極子の存在によって、少なくとも部分的に、イオンチャンネルが開口している期間が決まる。有利には、本明細書の開示にしたがって生成され用いられるD−B−A分子は、イオンチャンネルが不活性化する(例えば、開口状態のまま長期間放置されることによる)危険性を減少させる時間枠の中で、また、細胞にとって毒性となり得る、細胞への過剰のカルシウムの流入を防ぐ時間枠の中で、不活性化する。可変性は、錯体に組み込まれている配位子および遷移金属を変化させ、これによって錯体の発光エネルギーを変化させることによっても達成することができる。
D−B−A分子の一部ではない光起電遷移金属錯体の可変性も、配位子および遷移金属を変化させることによって達成することができる。これらの遷移金属錯体において、上記で論じたように、投与された「用量」(例えば、細胞あたりの分子数)に基づいて、分子の活性化効果を調節することができる。さらに、以下で論じるように、いくつかの実施形態において、光強度を適応させて増幅または抑制することが可能となり、これによって別の程度まで可変性を付与する、これらの錯体(およびD−B−A)と共に用いられる関連装置が存在する。投与計画も、いくつかの実施形態において、例えば疾患の重症度に基づいて、患者ごとに適合されている。例えば、いくつかの実施形態において、光起電分子(遷移金属錯体であろうと供与体−ブリッジ−受容体であろうと)は、約6週間〜約2ヶ月、約2ヶ月〜約4ヶ月、約4〜6ヶ月、約6ヶ月〜約1年、またはより長い間隔をおいて投与される。有利には、本明細書で開示される光起電分子の有効性の増加によって、医療機関への再訪回数が減少するので、患者のコンプライアンスが改善する。
治療への使用
本明細書で開示される組成物および方法によって、様々な神経変性疾患を治療し得る。特に、網膜変性を引き起こす、または網膜変性に関連する疾患であり、動脈閉塞または静脈閉塞、糖尿病性網膜症、R.L.F./R.O.P.(水晶体後線維増殖症/未熟児網膜症)を含むが、これらに限定されず、または、網膜変性疾患以外の疾患(いくつかの実施形態においては、遺伝性である)であり、非滲出型AMD、滲出型AMD、シュタルガルト病、色素性網膜炎(RP)、およびレーバー先天性黒内障を含むがこれらに限定されない。いくつかの実施形態において、これらの疾患(またはその帰結)では、視力低下、夜盲症、網膜剥離、光感受性、視野狭窄、および周辺視野の損失から全視力喪失などの様々な症状が現れる。光受容細胞に影響する遺伝子の変異(遺伝性または誘導性)もまた、いくつかの実施形態においては、本明細書で開示される組成物および方法によって治療される。
関連装置
ある実施形態において、本明細書で開示される合成化学物質は、何千年もかけて進化してきた自然の生物学的経路ほどは生物学的効果があるというわけではない。しかし、本明細書で開示される組成物の治療効果を補足する、または補完するように構成された種々の装置(例えば、補綴具)によって、本明細書で開示される組成物の有効性を増強することができる。しかしながら、いくつかの実施形態においては、このような補足装置を用いないように、化学物質は十分に精製される。
図9は、本明細書で開示される組成物の治療効果を補足または補完するように構成された医療装置900の一実施形態を示す。医療装置900は、光の選別、光の検出、検出された光の処理、および光の伝達などの機能のうち1つ以上を行うことができる。医療装置900は、例えば、帽子、マスク、眼鏡、鉢巻きなどと同じような形であり、医療装置900を用いる個人の眼または顔を覆うことができる。それに加えて、またはその代わりに、医療装置900を、個人が身につける帽子、マスク、眼鏡、または鉢巻きに接続することができる。ある実施形態において、医療装置900は、個人の近くの環境光を検出し、検出された環境光を示す光を、個人の眼の光起電化合物へ伝達し、上記の通り、機能が低減した、または機能が失われた被験者の網膜神経節細胞において、最終的に活動電位を生じるように化合物を活性化し、これによって、被験者が見ることを可能にする。例えば、一実施形態において、医療装置900は、本明細書で開示される種々の光起電化合物を照射し活性化するのに十分な光エネルギーが個人の眼に確実に入るようにするために用いられる、光強化装置である。
いくつかの実施形態において、医療装置900は、プロセッサ902、メモリ904、ユーザーインターフェイス906、入力/出力908、検出器910、およびディスプレイ912を含む。ある実施形態においては、無線で医療装置900に電力が供給され、他の実施形態においては、使い捨て電池または無線で充電可能な電池、あるいは商用電源などの有線接続を介して、電力が供給される。いくつかの実施形態において、検出器910またはディスプレイ912などの構成要素を取り外し可能にし、別の検出器またはディスプレイなどの他のモジュールと交換可能にできるように、医療装置900の構成要素は、モジュール組み立て式になっている。他の実施形態において、医療装置は、一体型である。場合によっては、このような一体型の装置は、有限で予測可能な機能的寿命を有するので、ある実施形態においては使い捨てである。さらに、ある実施形態において、場合によっては、他の構成要素の機能性を損なうことなく上記の構成要素の1つ以上を取り外してもよい。
いくつかの実施形態において、プロセッサ902は、医療装置900の他の構成要素の1つ以上から信号を受信し、またそれらへ信号を送信し、医療装置900の操作を制御する。プロセッサ902は、メモリ904からのデータを記憶し、また読み出し、ユーザーインターフェイス906および入力/出力908と通信して情報を受信する。さらに、プロセッサ902は、検出された環境光および/または医療装置900を用いる個人の眼球運動を示す、検出器910からの信号を1つ以上受信する。検出された環境光および/または眼球運動を処理して、ディスプレイを制御し、医療装置900を用いる個人に画像を表示するためのディスプレイ912に伝達することができる。プロセッサ902は、実施形態によっては、汎用のプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、書替え可能ゲートアレイ(FPGA)または他のプログラム可能論理回路、離散ゲートまたはトランジスタ論理回路、離散ハードウェア構成要素、あるいはこれらの組み合わせを含み得る。
いくつかの実施形態において、プロセッサ902は、ディスプレイ912が、ディスプレイ912に提供された信号によって個人の眼の光起電化合物に適した光(例えば、光の強度、周波数、または他の特性に関して)を伝達するように、検出器910から受信した1つ以上の信号を処理する。プロセッサ902は、実施形態によっては、検出された光を解析して、選別、波長の変更、周波数の変更、スペクトルの圧縮、波長強度の増大または減少、あるいは医療装置900周辺の環境および周囲のレベル/色への調整を行う。プロセッサ902は、ある実施形態において、光起電化合物の合成的性質(例えば、天然の生物学的シグナル経路に比べて伝達効率が低い)によるシグナル伝達効率の低下を補い、ディスプレイ912が表示する光の強度、周波数、または他の特性を増強する。ある実施形態において、プロセッサ902は、さらに、医療装置900を用いる個人の眼球運動、特定のニーズ、または物理的な制限に基づいて、検出された光を変化させる。換言すると、いくつかの実施形態において、医療装置は、具体的に患者個人個人のニーズに応じて構成される。
いくつかの実施形態において、装置は、光起電化合物と共に作動して、眼の外部(例えば、画像)から網膜の特定の層へ、光の焦点を合わせる(例えば、標的とする)。哺乳類の網膜は、網膜が画像をその構成要素(例えば、背景が明るい暗い対象物、背景が暗い明るい対象物、エッジ検出、ディテールなど)へと分解し、全網膜機能(例えば、動きの検出、方向選択性、局部エッジ検出、ルーミング検出、対象物の動きおよびサッケード抑制などの機能)を行うことができるようにする、異なる種類の細胞を含む複数の層からなる。網膜の層の種々の細胞(活性化された細胞種および桿状体または錐状体刺激などの刺激によっては、隣接する細胞を阻害するものもあれば、隣接する細胞を励起するものもある)は、画像の部分部分を純化し、関連する情報を視神経を介して視覚野へ送ることができるように、共に作用して眼に入る画像の様々な部分を空間的に符号化する。網膜を構成する種々の細胞が積み重ねられているため、視覚世界は、一続きの動的な神経画像として処理される。網膜の細胞のうち主な三種は、光受容体、双極細胞および神経節細胞である。これらの層は、複数の光受容体が、双極細胞に情報を提供し、次いで複数の双極細胞が、神経節細胞に情報を提供するという点で、「入れ子」式に配置されている。これらの細胞は、ある場合においては、他の種類の細胞とともに網膜の種々の層の各表面にわたって繰り返される機能性モジュールの一種として機能する。各細胞種個々の特性の違いによって、積層体の全体にわたる各神経画像の処理特性は、唯一のものとなる。
いくつかの実施形態において、光起電化合物および装置が、視覚経路全体のより遅い時点で入力を行うので、装置は、網膜(例えば、健康な網膜)がそれ自体で行う画像処理の少なくとも一部を行うように機能する。例えば、いくつかの実施形態において、正常な網膜が行うエッジ強調のうち一部を、装置が行う。いくつかの実施形態において、装置は、網膜の特定の層に(例えば、その層の受容細胞が入力シグナルを「理解する」ように)入力されるよう調整された処理済みの画像(例えば、動きの検出、方向選択性、局部エッジ検出、ルーミング検出、対象物の動き、および/またはサッケード抑制を含むが、これらに限定されない1つ以上の網膜機能を行うように処理されている)を出力する。したがって、装置は、網膜の特定の層または領域への出力を調整するように構成されている。よって、いくつかの実施形態においては、受信信号(例えば、画像)を増幅する(または処理する)装置は、その信号を処理した出力用バージョンを、網膜の特定の部分(例えば、深部)に向ける。このような実施形態においては、装置は、網膜の機能性を促進し、光シグナルが処理され、神経刺激に変換され、最終的に視覚へと変換されることを、本明細書で開示される光起電化合物とともに可能にする。しかし、ある実施形態において、装置は、少なくとも一部において、部分的に処理された形態で網膜への出力を行う。換言すると、周波数、強度、波長または光の他の特性を調節し、合成画像を提供するのに加えて、装置は、受信画像のある面を「前処理」し、処理済みの画像データを、網膜の特定の受容部へ提供する。そのため、正常で健康な眼のように、患者が画像を「見る」のではなく、むしろ、装置は、光起電化合物とともに、処理済みの画像(例えば、市松模様の画像および/またはグレースケールの画像)を視覚経路の後の部分に挿入し、それによって、視覚経路の欠陥部を回避する。いくつかの実施形態において、これによって、患者は、視覚機能をある程度有することができるが、この方法および/または装置がなければ、視覚は存在しないであろう。
いくつかの実施形態において、メモリ904は、データ、プログラム、および医療装置900の設定を保存するように構成されている。例えば、プロセッサ902は、メモリ904にアクセスして、医療装置900を用いる個人の眼の光起電化合物の特性を求め、ディスプレイ912に表示される光の強度の適切なレベルを選択する。ある実施態様において、プロセッサ902は、トラブルシューティングに用いるなど、後の検査のために、検出器910が検出した画像を保存する。メモリ904は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フラッシュメモリ、リードオンリーメモリ(ROM)、電気的プログラム可能ROM(EPROM)、電気的消去プログラム可能ROM(EEPROM)、レジスタ、ハードディスク、取り外し可能ディスク、またはこれらの組み合わせなどを含み得る。
いくつかの実施形態において、医療装置は、プログラム可能である。このような実施形態においては、ユーザーインターフェイス906は(少なくとも部分的に)医療装置900の設定を管理する。ユーザーインターフェイス906を用いて、構成を選択するだけではなく、医療装置900の操作面および実行面を管理する。ユーザーインターフェイス906は、ユーザーが入力できるように、発光ダイオード(LED)、ボタン、キー、スイッチ、ジョイスティック、タッチスクリーンのグラフィカルユーザーインターフェイスなどのうち1つ以上を含む。ある実施形態において、ユーザーインターフェイス906は、医療装置900をパスコードで保護して、医療装置900の許可されないアクセスまたは使用を防止する。
いくつかの実施形態において、入力/出力908によって、医療装置900は、他の装置および/またはコンピュータネットワークとの通信が可能になる。医療装置900は、製造後、入力/出力908を通してプログラム可能であり、例えば、入力/出力908を介して、患者データおよび設定を出力することができる。入力/出力908は、無線接続(例えば、赤外線、ラジオ、およびマイクロ波の受信機または送信機など)、有線接続(例えば、同軸ケーブル、光ファイバーケーブル、ツイストペア線、またはUSB2.0ケーブルなど)、または有線接続用の接続口を含み得る。
図10は、医療装置900の検出器910の一実施形態を示す。このような実施形態においては、検出器910は、個人の周辺の光および/または個人の眼球運動を検出し、検出された光および/または眼球運動を示す1つ以上の信号を生成する。医療装置900のプロセッサ902は、検出器コントローラ1002と同じあってもよいし、別であってもよい。いくつかの実施形態において、検出器910は、検出器コントローラ1002、眼球運動検出器1004、および環境検出器1006を含む。
検出器コントローラ1002は、眼球運動検出器1004および環境検出器1006の操作を含む、検出器910の操作を制御する。例えば、検出器コントローラ1002は、患者特異的または状況特異的な設定などの、検出器910の設定を管理し、眼球運動検出器1004および環境検出器1006について焦点を設定する。ある実施形態において、検出器コントローラ1002は、眼球運動検出器1004および環境検出器1006に接続された1つ以上の位置決め用構成要素を操作し、これによって検出された光の位置または角度を変更する。さらに、検出器コントローラ1002は、検出された信号を符号化してから、プロセッサ902による処理へ信号を伝達することができる。
眼球運動検出器1004は、医療装置900を用いる個人の片眼または両眼の位置または運動を検出する。眼球運動検出器1004は、例えば、個人の各眼の瞳孔の位置を示す座標を1つ以上生成する。この座標を用いて、検出器コントローラ1002は、個人の眼球運動を追跡し、個人が見ている方向を求めることができる。眼球運動検出器1004は、光検出機構、デジタル電荷結合素子(CCD)、または相補型金属酸化物半導体(CMOS)などの光検出器を1つ以上含み得る。例えば、ベイヤセンサ、フォヴィオンX3センサ、または3CCDなどを1つ以上用いて、色が検出されてもよい。眼球運動検出器1004は、赤外光、可視光、または紫外光などを含むがこれらに限定されない、狭い範囲、または広い範囲の波長の光を検出し得る。
環境検出器1006は、いくつかの実施形態において、検出器を1つ以上用いて、医療装置900周辺の光を検出する。ある実施形態において、環境検出器1006は、平均的な大人の眼の間または医療装置900を用いる個人の眼の間の距離に近い距離だけ離れて位置する2つの検出器で、光を検出する。2つの検出器を用いて、環境検出器1006は、個人の周囲で検出された環境光を示す信号を1つ以上生成する。次に、検出器コントローラ1002は、眼球運動検出器1004が検出した眼球運動に基づいて、環境検出器1006の検出器の位置、角度、および焦点を制御することができる。環境検出器1006は、光検出機構、デジタル電荷結合素子(CCD)、または相補型金属酸化物半導体(CMOS)などの光検出器を1つ以上含み得る。例えば、ベイヤセンサ、フォヴィオンX3センサ、または3CCDなどを1つ以上用いて、色が検出されてもよい。環境検出器1006は、赤外光、可視光、または紫外光などを含むがこれらに限定されない、狭い範囲の波長の光を検出し得る。いくつかの実施形態において、環境検出器1006は、特に、赤外光を検出し、装置900のユーザに伝達するように構成されている。このような実施形態においては、赤外スペクトルに基づき、夜間または暗い中(または、他の、正常な視覚を損なわせる条件)での視覚を可能とする。ある実施形態においては、このような構成を用いて、視力の弱い被験者の視覚を補足するが、いくつかの実施形態においては、健常な個人(例えば、救助、看護、および/または軍事用途)にこのような構成を用いる。
図11は、医療装置900のディスプレイ912の一実施形態を示す。ディスプレイ912は、個人の片眼または両眼に光を伝達し、片眼または両眼の光起電化合物に光を照射して、個人が見ることを可能にする。医療装置900のプロセッサ902は、ディスプレイコントローラ1102と同じであってもよいし、別であってもよい。ディスプレイ912は、ディスプレイコントローラ1102およびディスプレイスクリーン1104を含む。
ディスプレイコントローラ1102は、ディスプレイスクリーン1104が伝達する光の波長および強度を制御することで、ディスプレイスクリーン1104上の画像の表示を制御する。ディスプレイコントローラ1102は、表示データおよび/または制御データを含む、1つ以上の信号をディスプレイスクリーン1104に伝送し、ディスプレイスクリーン1104に画像を表示させる。いくつかの実施形態において、ディスプレイコントローラ1102は、ディスプレイスクリーン1104が、プロセッサ902による処理後に環境検出器1006によって検出された光に基づいて画像を表示するように、信号を伝送する。ディスプレイコントローラ1102は、さらに、ある実施態様において、位置決め機構を1つ以上用いて、眼球運動検出器1004が検出した眼球運動に基づき、ディスプレイスクリーン1104の位置または角度を制御する。
ディスプレイスクリーン1104は、個人の片眼または両眼に光を伝達する。ディスプレイスクリーン1104は、例えば、発光ダイオードディスプレイ(LED)、電子ペーパー(E−Ink)および液晶ディスプレイ(LCD)を1つ以上含み得る。ディスプレイスクリーン1104は、医療装置900を用いる個人の眼を包む、または覆う、可撓性スクリーンであり得る。このような構造によって、ある実施形態においては、ディスプレイスクリーン11042が、個人の眼に伝達される光を正確に制御することが可能となる。さらに、ある実施形態において、ディスプレイスクリーン1104は、標的細胞の電気活性を微細に調節できるようにするため、調整可能なパルス発生器を含む。
医療装置900の実施態様の一例は、本明細書で開示される種々の光起電化合物を照射する(それにより活性化する)のに十分な光エネルギーが個人の眼に確実に入るようにするために用いられる光強化装置である。いくつかの実施形態において、これらの装置は、外部に位置している(例えば、図12に示されるような、眼鏡に類似の1200)。あるいは、ある実施形態において、装置は内部に位置している(例えば、コンタクトレンズ)。いくつかの実施形態において、装置は、当該技術分野で確立されている電池電源、太陽電源、動的電源などによって、電力が提供される。
しかし、位置決めに関係なく、いくつかの実施形態においては、光強化装置は、装置に近い環境に関する情報を検出する(または受容する)カメラモジュールを含む。いくつかの実施形態において、カメラ1204A、1204Bの1つ以上を用いて、周囲を検出する。一実施形態において、眼鏡は、被験者の眼の光起電化合物の機能性または応答性を阻害し得る光の波長を遮断する、不透明な外装部1206を有してもよい。ある実施形態において、外装部は、実質的に不透明である。いくつかの実施形態において、光強化装置は、カメラモジュールが検出した画像を、被験者の視覚経路に表示する液晶(LCD)ディスプレイを1つ以上含む。いくつかの実施形態においては、LCDディスプレイは、ある実施形態において眼鏡の内装部を包むことができる、巻き付きLCDディスプレイである可撓性LCD1202であり得る。他の実施形態において、他の種類のLCDを用いることができる。
いくつかの実施形態において、光強化装置は、天然の生物学的シグナル経路と比べて合成化合物が「非効率」な実施形態で起こり得るシグナル強度の低下を補うように構成されている。
いくつかの実施形態において、光強化装置は、標的細胞の電気活性を微細に調節できるようにするため、調整可能なパルス発生器を含む。
いくつかの実施形態において、光強化装置は、周囲の光条件に基づいて、出力を検出し調整するセンサユニットを少なくとも1つ含む。
いくつかの実施形態において、光強化装置は、瞳孔追跡装置として機能する素子を含む。例えば、いくつかの実施形態において、光強化装置は、被験者の瞳孔の位置を(継続的に)評価するように機能し、それに応じて表示を調整する(例えば、被験者の眼球運動を経時的に明らかにする)。
以下の実施例は、本発明の実施形態であることが意図されるが、これらに限定されない。
実施例1
上述したように、いくつかの実施形態において、化合物が機能性ニューロン組織を代替することを合成によって可能にするため、光起電化合物を用いて、ある電気興奮性細胞のシグナル活性を調節する。上記の概念を立証するさらなる実験を以下に示す。
方法
[Ru(bpy)2(bpy−C17)](PF6)2の合成
RubpyC17は、化合物[Ru(bpy)2(bpy−C17)](PF6)2を意味する。いくつかの実施形態において、17炭素の尾部が、3つのビピリジンのうちの1つと共役して、原形質膜への安定した挿入を可能にしている(図1A)。確立されたプロトコールにしたがって、bpy−C17配位子を合成した。簡潔に言うと、0.7 mLのリチウムジイソプロピルアミド(LDA)(2 M)を、冷やした4,4’−ジメチル−2,2.−ビピリジン(0.25 g、1.3 mmol)のテトラヒドロフラン(THF)溶液に、アルゴン雰囲気下で滴下した。30分後、この茶色の溶液に、1−ブロモヘキサデカン(0.46 g、1.5 mmol)を含む乾燥THF溶液をカニューレを用いて加えた。反応混合物を、室温で数時間攪拌した後、溶媒を真空で除去した。残渣をCH2Cl2に溶解し、150 mLのブラインで洗浄した。生成物を、オフホワイトの粉末として単離した。収率:345 mg、65%。所望の金属錯体を、bpy−C17配位子(0.10 g、0.25 mmol)およびRu(bpy)2Cl2(0.09 g、0.21 mmol)を含むメタノール溶液を3時間還流することで調製し、PF6塩として単離した。実験的に求めた生成物の質量は、m/z=411.195[M2+]であった(計算上の質量:411.196)。1H NMR(DMSO-d6、400 MHz)8.82(4H、d)8.76(1H、d)8.70(1H、d)8.15(4H、t)7.72(4H、q)7.53(6H、m)、7.37(2H、t)2.07(5H、s)1.25(30H、m)0.84(3H、t)。
HEK細胞およびINS細胞の培養
ガラス底の培養皿において、10% ウシ胎児血清(fetal bovine serum)、1% ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM培地中でHEK−293T細胞を培養し、CO2濃度が5%の湿潤インキュベータ内で保持した。ガラス底の培養皿において、10% ウシ胎児血清(fetal calf serum)、10 mM HEPES、2 mM L−グルタミン、1 mM ピルビン酸ナトリウム、および0.05 mM 2−メルカプトエタノールを添加したRPMI−1640培地中でINS−1 823/13細胞(ウシインスリン産生細胞、クリス・ニューガード(Chris Newgard)より供与)を培養し、CO2濃度が5%の湿潤インキュベータ内で保持した。ウシ胎児血清(fetal bovine serum)、ウシ胎児血清(fetal calf serum)、ペニシリン/ストレプトマイシン、DMEMおよびRPMI−1640は、インビトロジェン(Invitrogen)より購入した。その他の薬品は、シグマ(Sigma)より購入した。
マウスクロマフィン細胞の調製
マウス副腎クロマフィン細胞を、月齢1〜3ヶ月のC57BL/6Jマウスから切り出し、以下のように調製した:(1)副腎を取り出し、氷上の冷マウスバッファーに入れ、(2)脂肪層および皮質を除去し、(3)髄質部を、37℃で、パパイン、次いでコラゲナーゼで分解した(他の実施形態においては、他の酵素を用いるのが容易である場合がある)。マトリゲルコートしたカバーグラス上で、クロマフィン細胞を平板培養し、CO2濃度が5%の湿潤インキュベータ内に入れた。切り出してから2日後に、クロマフィン細胞をパッチクランプした。マウスバッファーは、10 mM デキストロース、5 mM HEPES遊離酸、3.7 mM マンニトール、および0.1% フェノールレッドを添加したロック溶液(154 mM NaCl、2.6 mM KCl、2.2 mM K2HPO4.3H2O、0.85 mM KH2PO4)であり、95/5%のO2/CO2で10分間通気し、pHを7.2に調整し、モル浸透圧濃度を320 mOsmに(マンニトールで)調整し、その後、クリーンベンチ内で、抗生物質として0.4% ゲンタマイシンおよび0.4% pen/strepを加えた。パパインを、25〜30 U/mlでマウスバッファーに溶解した。コラゲナーゼ溶液は、100 μM CaCl2のマウスバッファー溶液を添加した、コラゲナーゼ(ワージントン(Worthington))の3 mg/ml マウスバッファー溶液であった。完全培地は、10% ITS−X(インビトロジェン(Invitrogen))、10% AraC、1% ゲンタマイシン、1% pen/strep、1% FdU、10% L−グルタミンを添加したDMEMであった。マトリゲル(BDバイオサイエンス(BD Biosciences)は、DMEMで1:8に希釈し、カバーグラスに塗布して1時間覆い、その後DMEMで3回洗浄した。
生細胞におけるRubpyC17の撮像
平板培養後、1〜3日で細胞を撮像した。細胞が付着したガラス底のチャンバーを、PBSで2回洗浄し、その後、140 mM NaCl、2.8 mM KCl、10 mM HEPES、1 mM MgCl2、2 mM CaCl2、および10 mM グルコースからなり、pHを7.2〜7.4に調整し、モル浸透圧濃度を290〜310 mOsmに調整した標準細胞外溶液で満たした。次に、チャンバーをオリンパスIX70倒立顕微鏡のステージに載せ、カスケード512B EMCCDカメラを用い、メタモーフ(Metamorph)ソフトウェアによって操作して、撮像を行った。最初の撮像は、RubpyC17を含まない細胞外溶液中の細胞を用いて、まず明視野で行って細胞の健康と形態を評価し、次に、488 nmでの広視野アルゴンイオンレーザー照射(コヒーレント、イノーバ90−5、サンタクララ、CA)で行って自家蛍光を評価した。次に、細胞外溶液を除去し、RubpyC17化合物(最終濃度は、0.01%以下のDMSO中10 μM)を含む細胞外溶液に置換した。その後、488 nm(ロングパス赤色発光フィルタで集光)の光の照射により、細胞画像を得た。電気生理学的実験では、RubpyC17化合物を細胞外溶液に加え(上記の通り、最終濃度は、0.01%以下のDMSO中2〜10 μM)、細胞を、上記の通りに1.5〜45分間インキュベートし、RubpyC17を含まない細胞外溶液で洗浄した。クロマフィン細胞のうちのいくつかも、490〜900 nM RubpyC17含有細胞外溶液に連続的に曝露した。
全細胞パッチクランプ電気生理学
電流固定モードの全細胞パッチクランプを用い、膜電位をモニターした。記録に先立ち、培養細胞(INSおよびHEK293)を、ガラス底の培養皿で1〜3日間平板培養した。細胞を、10 μM RubpyC17化合物を含む標準細胞外溶液、または含まない標準細胞外溶液中で、約1.5〜2分間インキュベートし、洗浄後、さらなる添加物を含まない標準細胞外溶液、あるいは2〜5 mM アスコルビン酸塩、100 μM ナトリウムフェロシアニド、または100〜200 μM カリウムフェリシアニドを含む標準細胞外溶液中で、上記の通りにインキュベートした。チャンバーを顕微鏡のステージに移した。細胞外溶液は、140 mM NaCl、2.8 mM KCl、10 mM HEPES、1 mM MgCl2、2 mM CaCl2、10 mM グルコースからなり、pHを7.3に調整し、モル浸透圧濃度を300〜310に調整したものであった。EPC−9増幅器およびパルス(Pulse)ソフトウェア(HEKAエレクトロニクス(HEKA Electronics))を用い、従来の全細胞パッチクランプ記録法を行った。1.8〜3.5 Mohmのピペット電極を、使用前に口焼きした。細胞内溶液は、145 mM KCl、10 mM NaCl、1 mM MgCl2、1 mM EGTA、2 mM ATP、0.3 mM GTPおよび10 mM HEPESからなり、pHを7.3に調整し、モル浸透圧濃度を290〜300 mOsmに調整したものであった。膜電圧/膜電位の変化をモニターするために、細胞を、電流固定モードでパッチクランプした。アクセス抵抗は、3〜8 Mohmの範囲であった。パルスを用い、アルゴンイオンレーザーによって放射照度値が0.458 mEs−1m−2の488 nmの光の照射を行う、または470/40 nmバンドパス励起フィルタを通したキセノン光源によって放射照度値が0.480 mEs−1m−2の光の照射を行う前、その間、およびその後に、膜電位を記録した。光の照射時間は様々であり、図中、横棒によって、そのタイミングを示す。
穿孔パッチクランプ電気生理学
EPC10増幅器およびパルスマスター(Pulsemaster)データ収集ソフトウェア(HEKAエレクトロニクス(HEKA Electronics))を用い、電流固定モードの穿孔パッチクランプ電気生理学によって、クロマフィン細胞の活動電位をモニターした。マウスクロマフィン細胞を含むカバーグラスを記録チャンバーに移し、細胞外溶液で覆った。細胞外溶液は、140 mM NaCl、2.8 mM KCl、10 mM HEPES、1 mM MgCl2、2 mM CaCl2、10 mM グルコースからなり、pHを7.3に調整し、モル浸透圧濃度を290〜300 mOsmに調整したものであった。細胞内溶液は、145 mM KCl、10 mM NaCl、1 mM MgCl2、および10 mM HEPESからなり、pHを7.3に調整し、モル浸透圧濃度を290〜300 mOsmに調整したものであった。1.8 mlの細胞内溶液に、DMSOに溶解した125 mg/mlのアンホテレシンB(シグマ(Sigma))のストックを4.5 μl加え、5〜10秒間ホモジナイズすることで、穿孔溶液を調製した。穿孔は、ギガシールの形成後、3〜10分以内に行った。一連の抵抗は、8〜22Mohmの範囲であった。青色スペクトルの光刺激は、放射照度値が0.480 mEs−1m−2の、470/40 nmバンドパス励起フィルタを通したキセノン光源を用いて行った。光の照射時間は様々であり、図中、横棒によって示される。
電流滴定
確立された手順を用いて、カーボンファイバー電極を調製し、EPC10増幅器に接続した。Ag/AgCl槽電極と比べて、+800 mVの定電圧を電極にかけた。パルスマスター(Pulsemaster)(HEKA)を用いて、4 kHzで電流滴定の記録を行った。細胞外組成物は、120 mM NaCl、20 mM KCl、10 mM HEPES、1 mM MgCl2、2 mM CaCl2、10 mM グルコースからなり、pHを7.2〜7.4に調整し、モル浸透圧濃度を290〜300に調整したものであった。青色スペクトルの光刺激は、470/40 nmバンドパス励起フィルタを通したキセノン光源を用いて行った。光の照射時間は様々であり、図中、横棒によって示される。
データ解析
データを、平均値の標準誤差(SEM)とともに平均値として表し、対応のない両側スチューデントt検定を用いて、統計的に比較した。
結果および考察
RubpyC17の膜への組み込み
RubpyC17の励起スペクトルおよび発光スペクトルを、図1Aに示す。RubpyC17の化学構造を、図1Bに示す。RubpyC17を最終濃度10 μMで槽に加えると、原形質膜に局在する発光で示されるように(図1C)、哺乳類の細胞膜に速やかに安定的に取り込まれる。ここで示すのは、ラットインスリノーマINS細胞(図1C、上)、ヒト胎児腎臓(HEK293T)細胞(図1C、中)、および初代培養マウスクロマフィン細胞(図1C、下)である。RubpyC17化合物に曝露しなかった細胞では発光が見られなかったことから、これらの細胞種のうちどれも、赤色チャンネルにおいて顕著な自家蛍光または自家発光を示さなかった。すべての細胞種は、少なくとも10分間、その形態を保った。槽中の溶液からRubpyC17を除去して10分後も、膜の発光が観察されたので、原形質膜への取り込みは安定であった。光誘導性電子移動の考えられる一実施形態を、図1Dに示す。
光誘発的な膜電位変化
RubpyC17で処理した細胞が、光誘発的な膜電位変化を示すかどうかを調べた。最初に、INS細胞およびHEK細胞について行った。どちらの細胞も、通常の条件では励起しない(活動電位を防ぐために、INS細胞は、3 mM未満の低グルコースに保った)。細胞を、10 μMのRubpyC17化合物とともに、約2分間インキュベートし、2 mM アスコルビン酸塩を添加した標準細胞外溶液で洗浄した。RubpyC17が細胞膜に取り込まれると、アスコルビン酸塩から光活性化したRubpyC17へ電子が移動し、膜の脱分極が起こるため、光の照射によって、細胞膜の外面での負電荷の蓄積が誘導されると仮定した。原形質膜電位をモニターするために、細胞を、全細胞設定、電流固定モードでパッチクランプし、実施形態によっては他の波長が有用であるけれども、488 nm(0.46〜0.48 mEs−1m−2)の光で細胞を照射しながら、膜電圧を記録した。
光の照射時、INS細胞の膜電位は、アスコルビン酸塩存在下で、平均15.9+4.6 mV増加した(図2A、C)。アスコルビン酸塩非存在下では、光の照射時、RubpyC17とともにインキュベートしたINS細胞の膜電位は、なお少し増加した(平均9.8+4.5 mV)(図2A、D)。同様に、HEK293細胞も、アスコルビン酸塩存在下で、14.6+2.4 mVの光誘導性脱分極を示した(図2A、E)。RubpyC17化合物に曝露しなかったコントロールのINS細胞は、アスコルビン酸塩があってもなくても、光の照射時に膜電位の変化を示さなかった(図2A、B)。還元剤としてフェロシアニドを用いた場合も、光誘導性脱分極は観察された(図2A、F)。いくつかの実施形態に基づき、本明細書で開示される遷移金属の線状組成物は、機能的に細胞と相互作用し、光の照射に応答して活動電位を生じることができるということが、これらの実験によって実証される。
膜電位の変化が、犠牲酸化還元分子と光活性化したRubpyC17化合物との間での電荷移動によるものかどうかをさらに調べるために、細胞外溶液中の還元分子を、酸化分子と置換した。このような変化によって、光の照射時に、脱分極ではなく過分極が生じると仮定した。実際、細胞外溶液中に100 μM フェリシアニドが存在すると、RubpyC17で前処理した細胞では、光の照射によって20.9+4.9 mVの過分極が誘導された(図2A、G)。
還元剤(例えば、アスコルビン酸塩)が存在する場合は25秒以上、酸化剤(例えば、フェリシアニド)が存在する場合は10秒以上光の照射を行うと、発光細胞が脱分極していることがわかった(図2A)。ある標的組織環境に通常存在する(または生物学的に互換性がある)酸化剤または還元剤などの、他の酸化剤または還元剤を、いくつかの実施形態では用いる。いくつかの実施形態において、照射時間または照射強度を変更することで、光誘導性脱分極または過分極の大きさまたは頻度を制御することができる。また、本実施例によって、例えば、疾患にかかった、または損傷した網膜細胞などの、光に対して正常に応答しない細胞に対し、RubpyC17は、常に光感受性を与えることができるということが実証される。
光誘発性活動電位
次に、RubpyC17処理した興奮性細胞(活動電位を発火することができる細胞)の挙動を調べた。電気生理学的記録を開始する前に、15〜30分間、450〜900 nM RubpyC17で前処理したマウス副腎クロマフィン細胞に対して、穿孔パッチクランプ記録法を行った。還元剤であるアスコルビン酸塩(5 mM)存在下では、900 nM RubpyC17で前処理した細胞で最も一貫して光照射によって活動電位が誘発され、または活動電位の発火頻度が増加した(図3A、D)。光照射終了後、秒のオーダーで(図3A)、ゆっくりとした段階的な逆転が観察された。光照射による活動電位の波形の形状変化はなかった(図3C)。
酸化剤であるフェリシアニド(100 μM)存在下では、光照射によってマウスクロマフィン細胞で活動電位の発火頻度が減少した(図3B、D)。これは、RubpyC17処理したINS細胞に、フェリシアニド存在下で光を照射すると、過分極が生じたという観察と一致する。クロマフィン細胞での活動電位の発火を弱める効果は、光照射を終了すると、ゆっくりと逆転する(図3B)。フェリシアニド濃度を100 μMから200 μMへ増加すると、活動電位の発火がさらに抑制されたが、調べた細胞すべてにおいて、安定したシールが常に維持されないという(図示せず)、細胞の健康に悪影響を及ぼしもした。
記録に先立ち、細胞を高濃度のRubpyC17(2 μM)へ1.5分間、過渡的に曝露した場合も、活動電位の発火への効果は観察された(図3E)。還元剤であるアスコルビン酸塩を最初に含んでいる細胞外溶液を、酸化剤であるフェリシアニドを含むものに変更すると、2 μMのRubpyC17に過渡的に曝露されたクロマフィン細胞1つにおける活動電位の発火頻度は、光誘導的に増加し、その後光誘導的に減少する(図3E)。
光誘発性分泌
活動電位の発火は、副腎クロマフィン細胞からのノルエピネフリンおよびエピネフリンの分泌を誘発し、これらは、カーボンファイバー電流滴定の技術で容易に検出できるので、活動電位の発火を検出するための代用となる。2 μM RubpyC17で前処理され、488 nmの光を照射されたマウスクロマフィン細胞は、小胞の分泌を示す、非常に多くの電流滴定の電流ピークを示した(図4A、D)。RubpyC17で処理しなかったコントロールのクロマフィン細胞は、光に応答した分泌は行わなかった(図4B、D)。調べたRubpyC17細胞18個のうち、15個の細胞(83%)で、光照射中に少なくとも100倍、分泌が増加したことがわかった。光誘導性脱分極の変化とは異なり、分泌の光誘導的な変化は、より過渡的であるようであった。このことについて考えられる説明の1つは、どの瞬間においても、放出可能小胞−いわゆる、容易に放出可能な小胞プール−がほんの少数存在し、刺激を維持することにより、容易に放出可能な小胞プールが、刺激の初期段階において急速に枯渇してしまうことである。
作用機構
犠牲酸化還元分子から、膜に固定されたRubpyC17への分子間電子移動によって、光誘導的に膜電位が変化し、細胞膜に容量的に保存された電荷が変化することが、上記のデータによって実証される。次に、以下の考えられる2つの説明を評価した:(1)RubpyC17とイオンチャンネルとの間の光誘導的な直接相互作用、および(2)原形質膜における光誘導的な小孔形成。
光活性化したRubpyC17が、内在性イオンチャンネルと直接相互作用して、イオンチャンネルを開くまたは遮断することができるのかどうかを調べるために、HEK293T細胞をRubpyC17とともにプレインキュベートし、電圧固定設定でパッチクランプした。電圧固定設定によって、ほとんどの電圧依存性イオンチャンネルが閉じる電位(約−80 mV)で、細胞を固定することができる。RubpyC17で処理した細胞は、光誘導的な膜電流の変化を示さなかった(図5A、B)。図5CおよびDは、電流および電圧の関係を示し、図5Eは、光照射前および照射中の、電圧固定モードでの、RubpyC17処理したクロマフィン細胞の定常状態電圧依存性活性化曲線である。これらのデータは、RubpyC17が原形質膜へ組み込まれることで、内在性イオンチャンネルの生物物理学的性質は変化しないことを示す。
最後に、細胞膜に取り込まれたRubpyC17に光を照射することによって、非特異的な膜孔形成または他の損傷が起きるのかどうかを調べるために、パッチピペット内部に18 μM RubpyC17を導入し、細胞付着設定で細胞に付着させた(ギガシール形成)。これは、穿孔パッチ記録法で常に用いられる設定と同じである。この方法によって、青色光で細胞を照射することが可能となり、一連の抵抗(主に電極の連続抵抗器)によって小さな膜パッチキャパシタを充電することによる過渡容量電流をモニタしながら、繰り返し、過分極を起こした。RubpyC17が、パッチが付着した膜を透過性にするのであれば、パッチを通した伝導力は増加し、電流が通る経路が開いて、全細胞膜のうち残りの部分のキャパシタが充電され、過渡容量充電は大きくなり、減衰時定数は大きくなる。
図5F(上)に示すように、過渡容量充電の上昇は検出されず、このことは、RubpyC17が、有意な膜損傷を引き起こさないことを示している。ポジティブコントロールとして、抗真菌性抗生物質であり、穿孔パッチ実験において細胞膜に穴を開けるのに用いられる、アンホテリシンBを用いて同じ実験を行った。穿孔パッチ記録法によって、膜上、ピペットの縁で囲まれた膜パッチの小さな穴を通して電流が流れることが可能となるが、細胞からピペットへ、重要な細胞質成分(ATPおよびタンパク質など)が失われるのを防ぐ。これらの記録は、常に、活動電位を記録するために用いられた。ピペット内において、アンホテレシンBでギガシールを形成して5分以内に、かなり大きな過渡容量充電(図5F、下)が観察されたが、一方、RubpyC17では、ギガシールを形成して10分後であっても、過渡容量に顕著な変化は見られなかった(図5F、上)。
膜電位の変化が、膜孔形成によるものであるという可能性を排除するための最後の試験として、内液および外液からの透過イオン(カリウムおよびナトリウム)を、非透過イオン(セシウムおよびN−メチル−D−グルカミン、NMDG)に置換した。RubpyC17導入INS細胞において、非透過イオンを含む溶液を用いた場合でもなお、光誘発性脱分極が起こっていた(図5G、H)。このことは、膜の脱分極が、膜を通してのイオンの流入とは独立して起こることを示している。
本実施例により、光起電ナノスイッチであるRubpyC17の合成および特徴付けについて説明され、RubpyC17が、(1)生細胞膜に速やかにかつ安定的に組み込まれること、(2)光誘導的な膜電位の変化を可能にし、その変化の傾向は、溶液中に存在する可溶性の酸化還元相手の性質(例えば、還元剤に対して酸化剤)に依存していること、(3)興奮性細胞における活動電位の発火頻度の光誘導的な変化を促進すること、および(4)クロマフィン細胞などの興奮性分泌細胞からの光誘導性分泌を促進すること、が実証される。
RubpyC17と、以前に特徴付けられた他の小さな拡散性光スイッチ化合物とでは、顕著な違いがいくつか存在する。それぞれに長所および短所があり、これによって、特定の用途のために選択を決定してもよい。実施形態によっては、遷移金属に結合する他の配位子を用いて、望ましい性質を有する同じ(または、他の)ナノスイッチを完成してもよい。
RubpyC17は、INS細胞、HEK293細胞、および初代培養クロマフィン細胞を含む、様々な哺乳類細胞の原形質膜に、常に、速やかにかつ安定的に組み込まれる。その構造に基づき、ほとんどの細胞種に、RubpyC17を組み込むことができる。RubpyC17は、光の照射を行うと、赤色スペクトルにおいて強く発光するので、細胞膜への組み込みは、速やかにスクリーニングされる。この点は、発光しないアゾベンゼン系化合物と対照的である。フェロセン−ポルフィリン−C60は、溶液中で発光するが、その発光は、いったん原形質膜に送達されると消失してしまう。錯体が細胞膜に存在する直接的な証拠があれば、実験プロトコルがはかどり、細胞が光の照射に応答しない場合に、膜結合錯体が存在しないということを排除できる。
RubpyC17の作用機構は、アゾベンゼンの光スイッチとは異なり、特定のイオンチャンネルを直接遮断する、または非遮断することはない。むしろ、いくつかの実施形態においては、膜電位の光誘導的な変化は、細胞膜外面での、ルテニウム錯体への、またはルテニウム錯体からの電子移動の結果であり、これによって、膜キャパシタが充電されて、間接的に電圧依存性イオンチャンネルの活性化または阻害を行う。このことは、アスコルビン酸塩(還元剤)が槽にある場合は、ルテニウム錯体処理した細胞の脱分極が光によって誘導され(図2A、C、およびE)、一方、フェリシアニド(酸化剤)が槽にある場合は、過分極が光によって誘導される(図2A、G)という観察によって、強く支持される。さらに、膜電位の変化にイオンチャンネルは必要ではなく(図5G、H)、膜は損傷していない(図5F)。対照的に、四級アンモニウム部分を含む、可溶性アゾベンゼン光スイッチの作用機構は、カリウムチャンネルの光誘導的な非遮断および遮断である。同様に、フェロセン−ポルフィリン−C60の作用機構は、膜電位の一方向的な制御(光誘導性脱分極)のみを行う、カリウムチャンネルの光誘導的な阻害である。
効果を最大限にするためには、RubpyC17処理した細胞の光誘発性脱分極に、0.46〜0.48 mEs−1m2で、30秒オーダーの連続した光の照射が必要となる(図2B〜F)。観察された経時変化は、いくつかの要因に依存し、インビボで用いている間は、より大きい場合もあるし、小さい場合もある。第一に、膜結合RubpyC17による単位時間あたりの光子吸収の確率に関し、これは、RubpyC17の濃度、膜への分配、および光子の流入に依存する。第二に、錯体が光物理的な他の処理を受ける前の、可溶性酸化還元相手と光活性化したRubpyC17との拡散性衝突に関し、これは、細胞膜におけるRubpyC17の密度およびその膜拡散係数に依存する。最後に、経時変化は、衝突した場合の分子間電子移動の確率に関し、また、有効濃度を下げる、膜または槽溶液中での競合的な酸化還元反応に関与しない酸化還元相手(例えば、アスコルビン酸塩)に依存する。特に、アスコルビン酸塩との電子移動速度は、フェリシアニドとのそれよりも遅く見える。動態の違いは、還元剤であるアスコルビン酸塩(ket〜2×107 M−1s−1)から光活性化したRubpyC17への電子移動に比べて、光活性化したRubpyC17から酸化剤であるフェリシアニド(水溶液中のket〜6.5×109 M−1s−1)への電子移動の効率が高いことによると仮定した。
還元剤の存在下におけるRubpyC17処理した細胞の光誘導性脱分極は、フェロセン−ポルフィリン−C60でも報告されているように、不可逆であるように見える(図2B〜F)、または非常に遅い速度で逆転する(図3A〜C)。これは、RubpyC17から、細胞膜キャパシタの外面で負電荷を維持している内在性膜分子への電子移動が原因であると考えられる。RubpyC17処理した細胞は、可溶性の酸化還元相手が存在する場合に比べると程度は小さいが、過剰の還元剤または酸化剤を加えなくてもなお、光に応答して脱分極を起こすので(図2A、D)、還元−酸化活性に関与することができる内在性膜成分が存在するものと考えられる。
RubpyC17とともに〜30分インキュベートした後の、クロマフィン細胞の継続した生存能力に基づき、光誘導的な活動電位の発火および分泌を維持することによって立証されるように(図3)、RubpyC17は、細胞に多大な非特異的損傷を起こすことはないようであり、これは、いくつかの実施形態において、これらの化合物をインビボで用いることができることを示唆する。しかし、いくつかの実施形態においては、有害な副作用が少ない、かつ/または存在しない、他の遷移金属に結合した他の有機配位子も用いられている。光活性化したRubpyC17による非特異的な損傷の生成は、細胞付着モードで測定したときに、高濃度のRubpyC17が、光照射前または照射中に細胞に穴を開けないことを示す実験(図5D)によって排除された。全細胞のRubpyC17との過剰かつ長期のインキュベーション(例えば、>10 μM、>5分)は、細胞毒性をもたらす場合があるが、これは、そのような細胞では、安定したギガシールを安定して維持することができないからである。この場合、RubpyC17に過度に曝露した際に細胞の健康に悪影響を及ぼす機構は、まだ完全には知られていない。膜の小パッチを、高用量のRubpyC17に曝露しても、膜孔は形成されなかったので、細胞全体をRubpyC17に過度に曝露すると、過剰のRubpyC17錯体と、内在性の表面分子(すなわち、タンパク質、炭水化物、糖)との間に、ランダムな相互作用が十分に起こる場合があり、これが細胞の健康を悪化させるシグナルを誘発すると仮定した。しかし、適切な用量の範囲(例えば、一実施形態によると、細胞株に対して<約10 μM、初代細胞に対して<約2 μM)で用いた場合は、RubpyC17は細胞に許容され、常に光感受性を与える。
要約すると、金属−ジイミン錯体は、細胞の電気活性の遠隔光制御を行う便利な手段として役立つ、光起電ナノスイッチとして機能する。遠隔光制御を行う、普及している手段とは異なり、金属−ジイミン錯体は、異種タンパク質の高レベルな発現、または毒性のある波長での励起を必要としない。光照射強度および照射時間を変化させることによる、この錯体を用いたアナログ制御の可能性は、検討する価値がある。最初のデータは、フェリシアニドの濃度を0.1 mMから0.2 mMに増加することで、活動電位の発火がさらに抑制されることを示す。本明細書で開示される化合物とは異なり、他の多くの光起電ナノスイッチは、細胞の電気活性を速やかにオン−オフ切り替えしないが、本明細書で開示されるような、1分子中に電子供与体部分および電子受容体部分の両方が結合している化合物は、現在ある制限の多くに対処し得、細胞の電気活性を回復する、または生成する方法において有用である。
実施例2
D−B−A複合体の合成
D−B−A複合体合成法の開発は、受容体部分と共有結合して最終的な錯体(12)を形成する供与体−ブリッジ配位子(D−B)(11)の構築を含む(スキーム1;図8)。供与体は、10−(プロプ−2−イン−1−イル)−10H−フェノチアジン(1)であり、受容体は、レニウム(I)トリカルボニルクロリドジイミン錯体に基づくものであり、ブリッジは、3つのフェニレン−エチニレン単位からなる。D−B配位子は、末端にビピリジンを有することを特徴としており、レニウムと強力に結合することができ、大量のD−B配位子を合成する必要性を排除する。11は、亜鉛が媒介し、パラジウムが触媒する、マイクロ波反応装置中でのクロスカップリング反応、および保護基を用いる、段階的な方法で構築される。より正確には、11の合成は、供与体(1)の、3−ブロモ−5−ヨードベンゾエイト(2)への選択的結合から始まる。1および2はどちらも、確立されたプロトコールに従って調製された。得られた化合物(3)を、トリメチルシリルアセチレンに結合し、次いで、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)で処理することによってトリメチルシリル基を除去し、末端がエチニレンである4を得た。次に、4のアルキニル基を2に結合し、ブロモ官能性を有する、末端がフェノチアジンである5を得た。11の合成には、フェニレン−エチニレン単位(10)に結合した、末端がエチニレンであるビピリジンを、5に結合させる必要がある。10の合成は、市販の6−ブロモ−2,2’−ビピリジンから始まり、これをアセチル化し、2との反応前に脱保護して、フェニレン−エチニレン単位に結合したブロモ−ビピリジン誘導体(9)を得た。9のアセチル化の後、TBAFによる脱保護により、10を得た。続いて、10を5にクロスカップリングして、D−B配位子(11)を得た。通常のメタル化の手順により、11をレニウム(I)ペンタカルボニルクロリドでメタル化し、得られた化合物を、過塩素酸銀の存在下、暗所でピリジンと反応させることで、D−B−A複合体(12)を得た。
確立されたプロトコールを用いて、錯体である[Re(CO)3(bp)(py)]+(bpyは2,2’−ビピリジンであり、pyはピリジンである)も調製した。
D−B−A複合体の吸収性
D−B−A複合体のジクロロメタン溶液の吸収スペクトルは、主な特徴を3つ示す(図1a)。D−B−A複合体における強い高エネルギー吸収(260〜320 nm)は、配位子系のπ−π*遷移に起因する。この帯域は、6−エチニル−2,2’−ビピリジンのスペクトルにも存在する。フェノチアジンに特有の、255 nmを中心とする広い帯域が存在する。この帯域は、[Re(CO)3(bpy)(py)]+には存在しない。340 nmと390 nmとの間の広い特徴は、金属から配位子への電荷移動に起因する。この帯域は、D−B配位子の吸収スペクトルには存在しない。ブリッジに関連する吸収帯域は観察されないが、10−(プロプ−2−イン−1−イル)−10H−フェノチアジンを3−ブロモ−5−ヨードベンゾエイトにクロスカップリングすることによって、255 nmを中心とする帯域が広くなる。
D−B−A複合体の発光性
D−B−A複合体のジクロロメタン溶液の、定常状態の発光スペクトルは、575 nmを中心とする広い帯域を有し(図6B)、これは、同様の錯体の、金属から配位子への電荷移動(MLCT)に特有である。
時間分解発光分光学を用いて、D−B−A複合体のMLCT励起状態を特徴付けた。発光の減衰動態を、脱気したジクロロメタン中で記録した。D−B−A複合体を、355 nm、8ナノ秒レーザーパルスで励起し、発光を560 nmでモニターした。発光は、500ナノ秒の寿命で、単一指数関数的に減衰した。比較のために、基準錯体である[Re(CO)3(bpy)(py)]+のMLCTの寿命は、同様の実験条件で求めたところ、550ナノ秒である。
発光寿命が短くなるのは、PTZ→*Reの電荷移動に起因する。PTZラジカルカチオン(PTZ+・)に相当するシグナルは、525 nmで収集した過渡吸収スペクトルでは観察されなかった。これは、顕著な量の電荷が分離した状態から集積するのを防ぐ、速やかな電荷再結合の結果であると考えられる。D−B−A複合体を含む光分解した試料および不可逆な酸化剤は、有機ラジカルを生成することが、EPRによって示された。
励起状態の電子移動
3つの電子移動クエンチング機構が、D−B−A複合体の短い寿命および低い発光量子収量に寄与していると考えられる:(1)分子内電子移動、(2)静的電子移動、および(3)動的電子移動(スキーム2)。静的電子移動および動的電子移動はどちらも、分子間プロセスである。静的クエンチングは、2つのサブユニット間で速やかな電子移動が起こるように2つ以上のD−B−A分子が並んでいる、前駆会合錯体を示唆する。最後に、動的電子移動は、拡散律速衝突クエンチング機構を表す。
分子内ETは、同じD−B−A複合体内での、励起状態のレニウムとフェノチアジン部分の電子結合を表す。ETは、拡張されたブリッジのπ構造を通して進行し得る。あるいは、可撓性リンカーによって、供与体と受容体との間の空間を通る距離を極めて近くすることができ、溶媒が媒介する電子移動が促進される。
スキーム2
D−B−A*→D+ −B−A− (1)
[D−B−A* −− D−B−A]
→[D−B−A− −− D+ −B−A] (2)
[D−B−A*]+[D−B−A]
→[D−B−A−]− +[D+ −B−A]+ (3)
メタ−フェニレンエチニレンブリッジを含むD−B−A複合体は、ある条件下では凝集することが示された。分子間の供与体−受容体の距離が短い凝集体が形成されるため、自己会合によって、しばしば、クエンチングが促進される。発光の単一指数関数的な減衰は、溶液中に単量体種のみが存在することを示唆するが、自己会合によって、その減衰動態が我々の計器の時間分解能を越えている、速やかな分子間ETを促進することができる。本研究で調製したD−B−A複合体で凝集が起こっていないことを実証するために、紫外−可視の組み合わせ、定常状態蛍光、電子常磁性共鳴(EPR)、およびNMR分光法を用いた。濃度範囲が1.35 mM〜0.13 mMである、D−B−A複合体のジクロロメタン溶液のNMRスペクトルは、共鳴位置に顕著な変化を示さず、濃度を変化させた場合に、付加的な共鳴は観察されなかった。濃度を32 μMから1.51 mMまで変化させたD−B−A複合体の吸収スペクトルおよび発光スペクトルは、ピーク位置に顕著な変化を示さず、濃度を高くしても、スペクトルの特徴に追加されるものはない。これらの結果は、凝集が起こっていないことを示唆している。
分子内ETの速度は、濃度に非依存的であるが、分子間クエンチング過程は、予想通り、濃度によって変化する。よって、この2つのクエンチング機構を区別し、それぞれに対して速度定数を得ることができる。一連のD−B−A濃度で発光を時間分解測定することによって、二次の分子間クエンチング速度を求めることが可能となる。濃度が高くなると、ジクロロメタンおよびアセトニトリルのどちらにおいても、記録される寿命は短くなった。これらのデータから、動的クエンチング速度(kq)は、1.1×106 M−1s−1と求められた。
この分析から、分子間クエンチングがない場合の錯体の寿命τoは、530ナノ秒であることがわかった。この寿命には、光励起されたレニウムの自然減衰、および分子内電子移動によるクエンチングのどちらもが含まれる。これらのデータから、D−B−A複合体の分子内ETの速度は、6×104 s-1、量子収量は、3%と計算された。D−B−Aおよびモデル錯体の寿命の違いがかなり小さいので、これらの値は、上界であると考えられる。
オリゴ(p−フェニレンエチニレン)供与体−ブリッジ−受容体複合体の電子移動に関する実験によって、指数関数的距離減衰(β)値は0.3〜0.6 Å−1であることがわかった 39,56。接触保持した[Re(CO)3(bpy)(py)]+およびPTZの推定分子間ET速度、1.6×1011 s−1と関連づけたこれらの値から、D−B−A複合体の分子内ETの速度は、8×103 s−1と4×106 s−1との間であると予想された。これらの値は、重要な長距離分子内ETが、これらのD−B−A系で起こっていると考えられることを示唆する。
分子内ETは、空間を通る結合機構によっても進行すると考えられる 57,58。硬質なオリゴ(パラ−フェニレンエチニレン)架橋複合体とは異なり、本明細書で検討するメタ−結合種は、より可撓性があり、空間を通る供与体−受容体の距離をかなり小さくすることが可能である。分子モデリングは、D−B−A複合体が、容易にU字形に湾曲して、供与体部分および受容体部分が10 Å以内に位置することを示唆している。非共有媒体を通したトンネリングは、典型的に、非常に高いβ値を示すが、結合を通る短距離の電子移動と競合する場合がある。凍らせたグラス中で電子移動を調べたところ、ある有機溶媒のβ値が1.2〜1.6 Å−1であることが示された。この範囲のβ値を用いる場合、溶媒を通る分子内ETの速度は、104〜106 s−1まで下がると予想され、これは、結合を通るトンネリングの速度を計算したものと競合する。
結論
本明細書で開示される方法に基づいて、レニウムトリカルボニル電子受容体を、オリゴ−m−フェニレン−エチニレンブリッジを介してフェノチアジン供与体に結合した、新規のD−B−A複合体を合成した。過渡吸収、発光、およびEPR分光法を組み合わせたものを用いて、D−B−A複合体の光誘導性電子移動の性質を調べた。これらの研究によって、D−B−A複合体は、光誘導性ETを起こすことが示された。理論的研究は、結合を通る電子トンネリング、および空間を通る電子トンネリングのどちらも、これらの系において、分子内電子移動を促進することができるということを示唆している。
実施例3
上述したように、本発明の実施形態のいくつかは、光起電ナノスイッチ(PVN)の生成および投与によってニューロン活性を制御する、光の使用に関する。いくつかの実施形態において、本明細書で開示されるPVNは、ニューロン膜の外面に埋め込むのに適しており、光を照射されると、それが埋め込まれている細胞の電気活性を可逆的に変化させる。有利には、本明細書で開示されるPVNは、いくつかの実施形態において、異種タンパク質の発現を必要とせずに作用し、PVNは、可視波長で、環境光に近い強度で機能する。したがって、いくつかの実施形態において、PVNは、神経回路および神経内分泌組織、ならびに光受容体変性の動物モデルの網膜における電気シグナリングに関する知識ベースのさらなる開発を可能にするのみならず、色素性網膜炎などの光受容体変性疾患、および(他の疾患の中で)より一般的な、最終段階の加齢性黄斑変性に特異的な新規の治療を提供することにより、これまでは治療することができなかった成人の失明の多大な健康的負担を減少させるよう位置づけられる。さらに、いくつかの実施形態において、本明細書で開示される方法および組成物は、金属およびポリマー系の電極の制限を克服するかもしれず、神経筋麻痺症からてんかんにまで及ぶ神経疾患の治療に、広範な影響を与える、人工装置とヒトの組織との間の、光に基づくシグナリングを調整可能な機構を提供する、機能的なブリッジが提供される。
上述したように、ルテニウムビピリジン(「Rubpy」)に基づくPVNを細胞膜に挿入すると、光の照射時に、培養興奮性細胞において活動電位の発火が誘発されることを実証する実験データが得られた。さらに、以下でより詳細に論じる実験データによって、盲目のラットの眼にPVNを注入すると、上丘において、視覚的に誘導された電気活性が生じることが実証される。いくつかの実施形態において、光によって、PVN中で電気的双極子が誘導され、細胞膜が脱分極し、これによって、ニューロンの発火が活性化する。これらのデータは、本明細書で開示される方法および組成物を用いて、視覚の回復が可能になるということの、重要な指標である。
色素性網膜炎(RP)および加齢性黄斑変性(AMD)などの網膜変性疾患による光受容体の喪失は、成人の失明のもっとも一般的な後天的原因の一部である。現在のところ、治療法はなく、良化させる治療もほとんどない。光受容体は、(他の疾患の中で)そのような疾患の結果失われるが、顕著な数の網膜内層ニューロンが生き残っており、脳に視覚情報を送達することができる状態のままである。有利には、本明細書で開示される方法のある実施形態は、PVNをこれら生き残っているニューロンに送達することを含み、これによって、(少なくとも部分的には、神経伝達が弱まる、または行えないことが原因である他の疾患の中で)末期のAMDおよびRPの治療に大きな進歩をもたらすことができる。有利には、本明細書で開示されるPVNは、光物理的性質を容易に改変できる。光活性化したシグナリング単位は、電極付近のニューロン群ではなく、むしろ個々のニューロンであるので、他の網膜治療と比べると、PVNによって視覚の鋭敏さが高まる場合もある。また、PVNは、たいていの網膜移植よりも非侵襲性であり、遺伝子治療を併用する必要がなく、細胞毒性のない励起波長を用いて機能する。
本明細書で開示されるPVN組成物は、特定の患者集団または疾患集団の必要性に合わせて有利に調整可能であるが、本明細書で開示されるPVNによって共有される、ある「理想的な」性質がある。上述したように、PVNは、ニューロンの原形質膜に埋め込まれ、活動電位の発火頻度に光誘導的に変化を与える。この分子は、光を吸収すると、電気的双極子を生成するという性質を有する。理想的には、PVNは、環境光の強度の、可視波長の光を吸収することができる。得られた光誘導性電気的双極子は、電圧依存性ナトリウムチャンネルまたは電圧依存性カリウムチャンネルなどの電圧依存性イオンチャンネルを活性化させるように機能する。光の照射時に負の表面電荷を生じる、膜の外面に固定されたPVNは、膜脱分極と同じ方向に、原形質膜の電圧依存性イオンチャンネルのゲーティングを変化させることができる。光誘導性双極子の存在期間は、ナトリウムチャンネルを活性化させるのに十分な長さ(例えば、100マイクロ秒以上)であることが好ましいが、不可逆的なチャンネル不活性化または興奮毒性を生じるほどには長くない(10〜100ミリ秒以下)ことが好ましい。機械論的には、電気的双極子は、間接的に(例えば、膜キャパシタを充電することにより)、または直接的(例えば、標的イオンチャンネルの電圧センサドメインと相互作用することにより)に、電圧依存性イオンチャンネルを活性化することができる。また、この分子は、細胞の外側から作用するので、いくつかの実施形態においては、ニューロン表面マーカーへ選択的に結合することにより、またさらなる実施形態においては、特定のイオンチャンネルへ選択的に結合することにより、PVNの細胞特異的標的化が行われる。実施形態によっては、例えば、高度に特異的なペプチド(例えば、変形サソリ毒)あるいはファージディスプレイまたはmRNAディスプレイなどによって識別される高親和性ペプチドを用いて、標的化を行うことができる。さらに、PVNは、毒性をほとんど、または全く示さず、好ましくは非免疫原性である。
神経フォトニクスの分野には他の方法も存在するが、本明細書で開示されるPVN組成物および方法と比較すると、欠点が多い。本明細書で開示されるPVNを用いる方法を含む、3つの方法を表1で比較する。光遺伝学的方法は、光応答性タンパク質を、非相同的に細胞膜に発現することを含む。光依存性タンパク質ファミリーの中で最も広く研究されているのは、微生物のオプシン系イオンチャンネルおよびポンプであり、これらは、典型的に、光によって光感知発色団(オールトランスレチナール)のコンフォメーション変化が誘発され、これによって、イオンが流れる経路を開口して膜を横切ってイオンを輸送し、細胞膜の脱分極または過分極を引き起こす。青色光感受性チャンネルロドプシン(ChR)、黄色光感受性ハロロドプシン(NpHR)および緑色光感受性バクテリオロドプシン(BR)などの野生型光感受性タンパク質が導入された後、多くの変異体が作られ、作用スペクトルの移動、光感受性の向上および動態の改変が行われた。網膜ニューロンに見出される内在性イオンチャンネルと比較して、微生物のオプシン系チャンネルは、通常、単一チャンネル電流が実質的に小さいので、ニューロン活性を十分に制御するためには、膜にタンパク質を過剰発現させ、極めて高い強度で光を照射する必要がある。光遺伝学で通常用いられる光強度は、数十から数百mW/mm
2であり、これは、長期的には、生物組織に好ましくない熱効果を引き起こす場合がある。さらに、異種遺伝子を送達、発現することに関する安全上の懸念が、最終的にヒトに光遺伝学を応用するのに、大きなハードルとして残っている。網膜ニューロンの光制御を操作する他の手法は、紫外線照射時にトランス(直線状、緩やか)状態からシス(屈曲状)状態へ光異性化され、長波長の光の照射時には逆のコンフォメーション変化を起こす、アゾベンゼン系小分子光スイッチの使用を含む。光を用いてカリウムチャンネル、あるいはニコチン性アセチルコリン、GABA、またはグルタミン酸塩チャンネルをゲート制御することができるようにするために、アゾベンゼン部分を、テトラエチルアンモニウム(カリウムチャンネル遮断剤)あるいはイオンチャンネル配位子(または配位子誘導体)に共有結合させる。盲目の齧歯類で視覚を回復させることに成功したことが実証されているが、多くの場合で、紫外線照射が必要であること、および可視波長側に吸収スペクトルを調整するのが困難であることにより、このような紫外線感受性の光化学的手段を臨床に転用するには障害がある。
上記の方法とは対照的に、本明細書で開示される本発明の実施形態のいくつかは、眼の中にPVNを送達することによって、光受容体変性網膜の生き残っているニューロンに光感受性を与える。本明細書で開示される方法は、異種遺伝子の発現または細胞に有毒な紫外光による活性化の必要性を、有利に不要とする。よって、本明細書で開示される方法は、いくつかの実施形態において、現在行われている網膜上または網膜下の移植よりも良い視力を提供し、侵襲性を低下させ、遺伝子治療を必要とせず、細胞毒性のない励起波長を用いて機能しつつ、少なくとも部分的には、進行したAMDおよびRPの患者の視覚の回復を促進することができる。さらに、本明細書で開示されるようなPVNは、いくつかの実施形態において、金属およびポリマー系の電極の制限(例えば、電気化学的分解および異物応答による機能的短寿命)を解決する。これによって、PVNは、神経筋麻痺症からてんかんにまで及ぶ神経疾患の治療にも、広く適用することが可能となる。PVNは、単一の生体光スイッチにおいて、膜電位を二方向性に調節し、これによって、光を照射された細胞の活動電位の発火を、同一の分子で活性化し、かつ阻害することができる。これにより、臨床的な柔軟性だけでなく、複数箇所で光刺激を行う高分解能光学系と組み合わせて、様々なニューロンネットワークを細かく解析するハイスループットなプラットフォームを確立する能力が付与される。画素の空間パラメータおよび時間パラメータを変化させることによって、例えば、ニューロン回路のマッピングなどに、広く応用できる種々の照射パターンを生成することができる。さらに、PVNは、例えば、心筋細胞、平滑筋細胞、神経内分泌細胞、ならびに、あるグリア細胞およびがん細胞などの、どの電気興奮性細胞の研究にも用いることができる。
上述の実験結果によって、Rubpy−C17を、それが発光する細胞膜に挿入し、膜局在を確認し、Rubpy−C17処理した細胞を光で照射することで、アスコルビン酸塩が槽に存在している場合には、脱分極、活動電位の発火、および分泌が引き起こされるが、フェリシアニドが槽に存在している場合には、過分極が引き起こされることが実証された。膜電位の変化の方向は、環境の酸化還元状態による。眼の硝子体および脳の細胞外液は還元的環境であり、2 mM以下の濃度のアスコルビン酸塩を含む。さらなる実験によって、ヒルのエキソビボ神経節ニューロン(図13)および光受容体変性網膜の全組織標本における網膜ニューロン(図14)をRubpy−C17処理すると、活動電位を発火することによって、光の照射に応答することが実証された。
インビボにおけるPVNの有効性を実証するのに、Rubpy−C17(最終濃度100 μM)を、硝子体注射により、盲目であることが確立されている王立外科学院(RCS)ラットの眼に注入した。30分後、麻酔下のラットに頭骨切開を行い、上丘を露出させた。Rubpy−C17を注入した眼に光を照射すると、偽溶液を注入した場合とは異なり、細胞外領域の記録において、再現性のある典型的な電気活性が誘発された(図15)。この発見は、Rubpy−C17を注入したRCSラットの3匹中3匹、およびコントロール(偽注射)RCSラットの2匹中2匹で再現された。さらに、Rubpy−C17を注入した眼において、瞳孔の強い対光反射が確認された(3秒未満)が、Rubpy−C17を注入していない眼では観察されなかった(図16)。最後に、注入から3日後の網膜の予備的な組織学によって、網膜細胞の死、または白血球の浸潤は見られず、したがって、この時点でのPVNの毒性は限られていることが確認された。
活性向上および潜在的副作用低減のためのPVNの電気化学的性質および光物理的性質の最適化
本明細書で示すデータは、Rubpy処理した細胞および組織における光誘導的な膜電位の変化が、犠牲酸化還元分子と膜に固定されたRubpy−C17との間の分子間電子移動に起因する(分子内移動と対比される、以下参照)ことを示唆している。電子移動の方向は、その環境におけるRubpy−C17および酸化還元活性分子の相対的な酸化還元電位に依存する。興味深いことに、PVNが媒介する膜電位の変化速度は、細胞を単独で調べると、相対的に遅く(例えば、〜10秒タイムスケール)、一方、盲目のラットの眼にPVNを注入したインビボの研究では、かなり速い(例えば、〜100 msタイムスケール)。場合によっては、細胞単独の酸化還元環境は、完全な眼の複雑な組織環境の場合とは、かなり異なる。したがって、いくつかの実施形態において、様々な酸化還元電位を有するRubpy類似体が生成される。例えば、ルテニウム(II)ビピリジン遷移金属錯体は、特定の生物系の酸化還元性に合わせて、高度に調整可能である。したがって、いくつかの実施形態において、酸化還元電位、量子収量、励起状態の寿命、および電子移動速度を、効率的な膜脱分極のために最適化するため、Rubpy−C17を改変することができる。
親分子であるトリス(ビピリジン)ルテニウム(II)([Ru(bpy)3]2+のルテニウム金属中心は、可視光で励起されて励起状態になると、還元または酸化されて、それぞれRu(I)種またはRu(III)種となる。ビピリジン配位子の改変(例えば、ビピリジン配位子の特定の位置に、特定の電子供与性置換基または電子求引性置換基を加えることによる)によって、光励起した錯体の反応性(および他の光物理的性質)、および続くRu(I)種またはRu(III)種の形成にバイアスをかける。したがって、全体の電荷および還元電位は、Rubpy−C17の有する2つの特性であり、実施形態によっては、系統的に変化させることで、さらなる分子的人工網膜の設計の機械学的な理解を増強し、PVNを特定の患者および/または疾患に適応させることができる。
いくつかの実施形態において、共有結合している複数の電子受容体と分子内で電子の授受を行うことができる光励起したルテニウム錯体を用いる。これは、この錯体が、可逆的に、生産性よく、局在している負電荷を集積させるのに、最も効果的であると考えられるからである(供与体−受容体分子は「DAsies」と命名する)。ビピリジン配位子に電子供与性置換基または電子求引性置換基を導入することによって、還元電位を調整するのと同様に、ビピリジン配位子に、距離をおいて異なる電子受容基(例えば、メチルビオロゲンまたはベンゾキノン)を共役させることによって、いくつかの実施形態においては、直接的な電子移動の速度を調整することが可能となる。ルテニウム金属中心から適切な距離にある分子内電子受容体の数を変化させて、速い順方向の電子移動および遅い逆方向の電子移動を容易にすることによって、この正確な時間制御および空間制御により、副作用を低減した分子的人工網膜の使用が容易になる。
PVNはニューロンに光感受性を付与する
上記の結果が実証するように、ヒルの神経節および盲目のRCSラット(光受容体変性モデル)の全網膜標本などのエキソビボの組織は、PVN溶液に浸しても、光誘導的に活動電位を発火する。これらのモデルは、特に、Rubpy類似体の組に対して、活動電位の周波数、応答に対するレイテンシー、および変化した発火頻度の可逆性を変化させるのに必要な光の照射強度を定量することも考えられる、種々のPVNの実施形態の試験に、容易に適用できる。
ニューロンに光感受性を付与するPVNに関するさらなる実証研究
作用機構をさらに調べるために、細胞大の人工リポソームである巨大単層小胞(GUV)におけるPVNの作用を検討する。内在性イオンチャンネルまたは他の細胞膜タンパク質を含まないので、このリポソームによって、膜タンパク質非存在下でも光誘導的な膜電位の変化が起こるのかどうかを検討することができる。このことは、脱分極におけるチャンネルの役割を排除し、また、膜脱分極を維持する電子受容体としての膜タンパク質の役割を排除するために重要である。さらに、GUVのサイズは制御可能であるので、入力インピーダンスも制御可能であり、これによって、高いインピーダンスを有する小さいGUVを選択して検討することで、膜損傷/膜穿孔の役割をテストすることが可能となり、かなり小さい電流(小さい膜穿孔)でも検出可能となる。
上記のデータによると、膜脱分極の経時変化は、相対的に遅く、静止膜電位の回復も遅い。しかし、光の照射に対する応答時間および光誘発的な活性の増加からの回復は、細胞単独の実験(10秒)から完全なニューロンネットワークの実験(1〜2秒)およびインビボでの実験(100ミリ秒)に移行するとより速くなる。時間的挙動における明らかな不一致を説明する2つの仮説は、以下の通りである:(1)ゆっくりした膜電位の変化およびその後に続く安定した脱分極は、細胞単独の電位変化を測定するのに用いた方法(パッチクランプ)のアーティファクトであるかもしれない、(2)Rubpy錯体は、膜の外面を負電荷に保つように機能する(例えば、脱分極したままとする)膜局在性電子受容体分子に、その電子を移動させるので、膜電位は、永続的に脱分極したままとなる。したがって、いくつかの実施形態において、PVNには、異なる化学物質、例えば、より速い光誘導性膜脱分極を示すイリジウム錯体を用いる。さらに、いくつかの実施形態において、PVNは、基準電荷が異なる。例えば、ナノ光スイッチは、特定の基準電荷(分子が膜を横切ってフリップするのを防止するのに十分な)で膜に挿入され、電気活性の変化に対する閾値を小さくする。さらに、ナノ光スイッチは、電圧依存性イオンチャンネルと結合することができる。上述したように、サソリ毒、抗体、またはファージディスプレイより得られた高親和性ペプチドによって、疎水的膜ドメインで電圧依存性イオンチャンネルと会合することが最近示された、多価不飽和脂肪酸(PUFA)様膜アンカーに対する標的化を行うことができる。
さらに、本明細書で開示される装置は、光増幅された画像を網膜に投影する。環境からの光子流入では、有意な、または速い光活性化に不十分な場合がある。網膜への画像表示をともなう眼球内カメラ、または網膜に同様に画像を投影するヘッドマウントバイザーがある。このような装置は、ナノ光スイッチ処理された網膜が必要とする条件に、表示される画像の波長および光子の流入を適合させることができる(例えば、図9参照)。
この仮説により、細胞単独の実験を、細胞外記録を用いて繰り返し、パッチクランプのアーティファクトを排除する。GUVにおけるPVNの作用を調べることによって、膜成分が、電子受容体として機能し、膜脱分極を維持するのかどうかがわかる。この機構を試験する主な実験について、以下で論じる。
実験1.単独細胞機構−パッチクランプ
培養単独非興奮性細胞および神経内分泌細胞の全細胞パッチクランプおよび穿孔パッチクランプを含む、パッチクランプを用いた細胞単独実験を繰り返し行う。Rubpy類似体それぞれについて、細胞を1 μMのRubpy類似体とともにインキュベートする(すべての類似体は、1つのC17脂肪鎖から合成し、親錯体であるRubpy−C17は、この濃度で細胞膜を十分染色して、観察できる程度に発光する)。電気活性をモニターし、膜電位の変化に対するレイテンシー、光の照射時の活動電位の発火、および活動電位の発火を誘発する光の照射の繰り返しの再現性を求める。
実験2.単独細胞機構−細胞外記録
マウス副腎クロマフィン細胞を、多電極アレイ(MEA)上で増殖させ、細胞外記録を行う。細胞を、1 μM Rubpy類似体溶液で10分間覆い、記録を行う前に、PVNフリー溶液で10分間洗浄する。光誘発的な活動電位の発火頻度の変化を、PVN処理の前後でモニターする。パルス間に6〜60秒の間隔を空け、1〜20 μW/mm2の強度、適切な波長で、細胞に対して光の照射と暗期の曝露を繰り返した。細胞外記録によって、完全な細胞の測定が可能となり、これは、パッチクランプ法を補足するもので、PVNのスクリーニングおよび機構の検討を行う別の方法を提供する。
実験3.巨大単層小胞アッセイ
直径が10〜20 μm以下のGUVを、標準的なエレクトロフォーメーションのプロトコールを用いて生成する。原形質膜に類似するように、脂質の組成を選択する。GUVを、10 μM Rubpy−C17に10分間浸し、2 mM アスコルビン酸塩または200 mM カリウムフェリシアニドを含むRubpyフリーの緩衝塩溶液で、さらに10分間洗浄する。パッチクランプの標準穿孔パッチ設定または全細胞設定を用いて、電流固定モードで膜電位を記録し、標準的な蛍光顕微鏡で、落射照明ポートを介した白色LEDからの照射を用いてGUVを観察する。
実験4.全網膜標本の時間的および空間的実験
月齢9ヶ月以上のRCSラット(盲目)から得た全網膜標本を、網膜神経節細胞(RGC)側を下にして、標準的なMEA上に置き、10 μMのRubpy類似体で処理し、全体に光を照射して網膜内層を活性化する。光源は、1〜20 μW/mm2のLEDとする。一連の実験において、光刺激の継続時間および強度は、系統的に変化させる。別の実験においては、応答速度および光誘導的な効果の再現性の両方を評価するために、漸次パルス間の間隔を短くしながら、三回、光刺激を加える。ピーク頻度の変化、および光の照射開始から活動電位の発火頻度が増加するまでの時間(レイテンシー)を定量する。
全網膜標本を、1つから少数のRGCのみを励起することを意図する焦点光で照射することで、空間分解能を求め、また、MEA記録またはカルシウム撮像によって、空間分解能をリアルタイムに求めることができる。カルシウム撮像では、盲目のRCSラットの眼にGCaMP3およびGCaMP5を含むAAVを注入し、RGCをカルシウム指示薬で標識する。空間分解能および時間分解能の実験を容易にするために、ピクセル化した画像を一定のリフレッシュレートで、全網膜標本に投影する、マイクロミラー表示システムを実装する。
方法
膜取り込みの撮像
ヒト胎児腎臓(HEK)細胞およびマウス副腎クロマフィン細胞を、100 nM、1 μM、および10 μMの濃度のPVNとともにインキュベートし、蛍光顕微鏡で、PVNが原形質膜に固定されていることを確認した。PVNの膜への組み込みが成功したことは、膜に局在する発光によって示される(Rohanら、2013年)。インキュベーションは複数の時間で行い(5分、1時間、一晩)、PVNの組み込みに必要な時間を概算した。
インビトロにおける細胞の膜電位の測定
光誘起的な膜電位の変化を、パッチクランプ記録法で解析する。HEK細胞を、実験1日前に、ガラス底の培養皿で平板培養する。細胞を、PVNを含む生理的外液(140 mM NaCl、2.8 mM KCl、10 mM HEPES、1 mM MgCl2、2 mM CaCl2、10 mM グルコース、pH7.2〜7.4、モル浸透圧濃度300〜310 mOsm)中、5〜30分間(またはイメージング実験であらかじめ求めた時間)インキュベートする。次に、細胞を、記録のために、適切な還元剤(2〜5 mM アスコルビン酸塩、100 mM ナトリウムフェロシアニド)または酸化剤(100〜200 mM カリウムフェリシアニド)を含む外液で洗浄、インキュベートする。標準的な全細胞パッチクランプ(EPC−9増幅器、HEKA)を行い、光誘導的な膜電位の変化を測定するため、細胞を、電流固定モードでパッチクランプする。抵抗が2〜5 MOhmのガラスピペットを用いた。パッチピペットを、細胞内溶液(145 mM KCl、10 mM NaCl、1 mM MgCl2、1 mM EGTA、2 mM ATP、0.3 mM GTP、10 mM HEPES、pH7.2〜7.4、モル浸透圧濃度290〜300 mOsm)で満たす。光照射前、照射中、および照射後に、膜電位を記録する。0.480 mE/s/m2の放射照度値で、10〜30秒、バンドパス励起フィルタを通して、キセノン光源により適切な波長の光を細胞に照射する。対応のない両側スチューデントt検定で、結果の統計解析を行った。
インビトロでの神経内分泌細胞の活動電位記録
月齢1〜3ヶ月のC57BL/6Jマウスから、確立されたプロトコールにしたがって調製されたマウス副腎クロマフィン細胞の活動電位の発火を、電流固定モードの穿孔パッチクランプでモニターする。図1および2の膜電位測定で述べたように、細胞を処理する。1 mlの細胞内溶液に、DMSOに溶解した125 mg/mlのアンホテレシンB(シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)、米国)のストック溶液を1 μl加え、5〜10秒間ホモジナイズすることで、穿孔ピペット溶液を新しく調製する。通常、ギガシールの形成後3〜10分以内に、穿孔を行う。抵抗が連続して25 MOhmを下回った後、活動電位の発火を記録する。膜電位の測定で述べたように、光刺激を与える。
多電極アレイを用いた単一細胞の細胞外記録
マウス副腎クロマフィン細胞を、多電極アレイ上で培養し、MEA1060−Up増幅器およびMC−Rackソフトウェア(マルチ−チャンネルシステムズ(Multi-Channel Systems))を用い、直径15 μmまたは75 μmの電極で、電場電位の細胞外記録を行う。細胞を、PVNを含む外液で10分間インキュベートし、記録のために、還元剤または酸化剤で洗浄する。PVN処理前および処理後の光刺激に対する応答のピークを、ミニアナリシス(Mini Analysis)ソフトウェア(シナプトソフト(Synaptosoft))を用いて、オフラインで解析する。
ヒルの神経節ニューロンの細胞内記録
成体のヒルHirudo verbanaを、ナイアガラメディカルリーチ社(Niagara Medical Leeches, Inc.)(ウエストベリー、NY、米国)から購入した。16℃で明暗サイクルが12時間:12時間の温度調節室で、ガラス水槽中、人工池水(36 mg/L インスタントオーシャン塩(Instant Ocean);アクアリウムシステムズ(Aquarium Systems)、メンター、OH)で動物群(20〜30)を飼育する。実験時、ヒルの重量は1〜3gである。解剖前に、氷冷ヒル生理食塩水中で、ヒルを麻酔する。ヒル生理食塩水の組成は、次の通りである:NaCl − 115、KCl − 4、CaCl2 − 1.8、MgCl2 − 2、HEPES − 10、D−グルコース − 5(シグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)、米国)。個々の神経節を、中間体節M6〜M12から切り出し、シルガード(Sylgard)を満たした解剖箱にピンで留める。背側の正中線長軸に沿って切開し、血液を流し出す。神経節鎖に重なる結合組織および血管を切開する。切り出した神経節をペトリ皿に移し、6本のステンレス製のピンで、パラフィンにピン留めする(背側が上)。ガラスマイクロピペットを用いて、神経節の細胞外空間に、PVNをマイクロインジェクションする。3 M 酢酸カリウムを満たした鋭利なガラス電極(20〜30 MOhm)で、レチウスニューロンを貫通して、細胞内記録を行う。細胞内増幅器AxoClamp−900A、デジタイザーDigidata1440AおよびpCLAMP10ソフトウェア(モレキュラーデバイス(Molecular Devices))を用いて、電流固定記録を得る。ニューロンの発火を、注入前および注入後に記録する。
ラット全網膜標本の記録
王立外科学院(RCS)ラット(月齢9ヶ月以上で、光受容体を完全に失っていることが確実なもの)から、新しく網膜を切り出す。次に、全網膜標本を、神経節細胞層側が電極に向くように多電極アレイ上に置き、重量の軽い多孔膜を用いてアレイを押さえる。MEA1060−Up増幅器およびMC−Rackソフトウェア(マルチ−チャンネルシステムズ(Multi-Channel Systems))を用い、直径15 μmまたは75 μmの電極で、細胞外電場電位を記録する。光の照射に応答した網膜の活性を、PVNインキュベーションの前後、モニターする。基準活性のために、酸素処理し(95% O2、5% CO2)、加熱した(32C)エイムズ培地で、網膜を連続して覆った。次に、PVNを含むエイムズ培地で30分から1時間、網膜を覆い、5〜10 mM アスコルビン酸塩を含むエイムズ培地中で記録する前に、通常のエイムズ培地で10分間洗浄した。バンドパス励起フィルタ(460〜500 nm)を通して、100マイクロ秒、1ミリ秒、10ミリ秒、100ミリ秒、1秒および30秒、白色LED照明で網膜を照射した。ミニアナリシス(Mini Analysis)ソフトウェア(シナプトソフト(Synaptosoft))を用いて、オフラインでピークの検出を行った。
PVNの治療有効性
網膜変性を起こす王立外科学院(RCS)ラットは、merTK遺伝子に変異があり、光受容体の外節を貪食する能力が欠けており、そのため、光受容体が死んで、失明する。このラットは、種々の治療薬の安全性および有効性を評価するのに適したモデルである。PVN注入の効果を調べるために、見かけ上光感受性を失っていると実証されたRCSラットにおいて、視覚機能の評価を行った。上記の動物モデルを用いて行った予備実験によって、上丘(SC)での記録中、光刺激を行っている間、強い活性が光で誘導されたこと、および硝子体注射を単回行った後、2時間〜3日間、瞳孔反射が回復したことが示された(図14および15参照)。
これらのデータは、PVNが、(ある実施形態では、シグナルの増幅に付属装置を用いることも考えられるが)環境光の強度で、光受容体変性を起こした動物の光覚を回復させる能力があることを実証する。急性の実験および長期間の実験を行い、急性の研究は、長期間の研究に最適な容量を求めるのに役立つ。SCの電気生理学的記録によって、PVNが喚起する光応答が確認される。PVN処理の前後に瞳孔反射を試験して、機能の回復程度を評価する。視線運動性眼振(OKN)および水迷路という2つの挙動試験も行い、PVN処理の空間分解能および時間分解能を調べる。長期間の研究で得られたデータによって、PVN投与の持続性および有効性が明らかになる。さらに、データによって、注入してから3日後も、ラットは、視覚的に誘導された上丘の光活性を示すことが示されているが、眼の細胞は、どんな膜局在分子も自然に排除することが可能であるかもしれず、その経時変化を調べる。いくつかの実施形態において、徐放性(および、場合によっては、生物分解性)ヒドロゲルおよび/または小型の眼球ポンプなどの、溶解速度が遅い輸送手段を用いることによって、その回転率を減少させ、繰り返し投与を容易にする。このような実施形態においては、ヒドロゲルは、ポリアクリルアミド、架橋ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリAMPSおよびポリビニルピロリドンなどのヒドロゲル粒子、またはアガロース、メチルセルロース、ヒアルロナン(例えば、ヒアルロン酸由来)、ポリメチルメタアクリレートまたはHEMA(ヒドロキシエチルメタアクリレート)などの天然由来のヒドロゲルとして処方される。実施形態によっては、ヒドロゲルの形態は異なり、(特に)粘弾性溶液、軟ヒドロゲルまたは硬ヒドロゲル、静電紡糸繊維、不織網、マクロ多孔性原繊維スポンジ、軟質シート、およびナノ粒子流体の形態であり得る。
さらなる低毒性/低免疫原性PVNの同定
所望の機能(可視波長で、低い光強度に対して速やかな光誘導性脱分極を可能にする、目的2)に関して最高の候補を用いて、様々な候補PVNを生成し、インビトロおよびインビボにおいて有害作用を排除するために、スクリーニングを行う。上記のデータは、重要なことに、危険または急速な有害作用の兆候がないことを実証している。眼にRubpy−C17を注入したラットは、注入後最大3日、光誘導的なSCの電気的応答を示し、最初の病理的研究によって、明らかな有害作用の兆候はないことが明らかになった。
PVN候補は、臨床研究への転用に魅力があるので、スクリーニングによって、毒性および免疫原性がない、または最小限であることを示すPVN候補が同定される。インビトロでの試験は、(a)細胞ベースの増殖阻害(細胞増殖を50%阻害するPVN濃度)を含む。最近のデータマイニング研究によって、細胞増殖阻害は、有害な薬剤作用をスクリーニングするのに高度に効率的な方法であり、細胞死をインビトロでスクリーニングするよりも効率的で費用対効果が高いことが示された。この研究によって、細胞株は、それほど危険ではないことがわかったので、HEK293T細胞を用いる。インビボにおける試験は、異なるPVN濃度、およびPVNの眼への注入後異なる時点において行う:a)SC記録のためにPVNを注入したラットの眼におけるアポトーシスおよびネクローシスのアッセイ、およびb)白血球およびマクロファージの浸潤のアッセイ。理想的なPVN候補は、非毒性および非免疫原性であるので、治療効果を調べるのに用いる濃度において、細胞増殖を有意に阻害しない。また、PVNを注入したラットの眼において、アポトーシス、ネクローシス、および白血球またはマクロファージの浸潤が有意に増加したという証拠は、示されていない。
上記開示された実施形態の特定の特徴および態様は、種々組み合わせ、または部分的に組み合わせてもよいが、これらは、本発明の1つ以上に属することが意図される。さらに、本明細書で開示される、一実施形態に関する特定の特徴、態様、方法、性質、特性、特質、属性、成分などは、いずれも、本明細書で説明した他の実施形態すべてで用いることができる。したがって、開示された実施形態の種々の特徴及び態様は、開示された発明の様々な様式を形成するために、お互いに組み合わせる、または入れ替えることができる。このように、本明細書で開示される本発明の範囲は、上記開示された特定の実施形態に限定されるべきではないということが意図される。さらに、本発明は、種々の変更例、および代替形態をとり得るが、その特定の例は、図面に示され、本明細書で詳細に説明されている。しかし、本発明は、開示された特定の形態または方法に限定されるべきではなく、逆に、本発明は、説明された種々の実施形態および添付の請求の範囲の趣旨および範囲に属するすべての変更例、等価物、および代替物を含む。本明細書で開示される方法は、いずれも、記載の順序で行う必要はない。本明細書で開示される方法は、当業者によって行われるある行為を含むが、これらの行為についての当業者以外による指導も、明白に、または暗に含み得る。例えば、「光起電ナノスイッチの投与」などの行為は、「光起電ナノスイッチの投与の指導」を含む。本明細書で開示される範囲は、その重複範囲、部分範囲、およびそれらの組み合わせもすべて包含する。「最大〜」「少なくとも」「よりも大きい」「未満」「間」などの語は、記載されている数字を含む。「約」または「およそ」などの語が前に置かれた数字は、記載されている数字を含む。例えば、「約3 mm」は「3 mm」を含む。