JP2016501913A - サッカロミセス・セレビシエでの発現によって分泌可能な抗体を製造する方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明はまた、酵母細胞の表面で抗体及び抗体ライブラリーをディスプレーし、これらライブラリーを特定の所望される特性を有する免疫グロブリンについてスクリーニングする方法に関する。
抗体ライブラリーを作出及びスクリーニングする最も普及した技術は、過去には“ファージディスプレー”の方法であり、いくつかの事例では現在もそうである。前記方法では、関心のある特定のタンパク質が融合ポリペプチドとしてバクテリオファージの外皮タンパク質上で発現され、固定された又は可溶性のビオチン化リガンドとの結合によって選別され得る。この態様で構築されたファージは、表現型特性及び遺伝子型特性の両方がそれ自体の中で1つにまとめられたコンパクトな遺伝子単位とみなすことができる。ファージディスプレーは、抗体、抗体フラグメント、酵素、DNA結合タンパク質などに関して用いられ成功してきた。所望の結合特性を有する抗体は、“パニング”と呼ばれるプロセスで固定抗原との結合によって選別される。非特異的抗体を含むファージは洗い流され、結合ファージは分離され大腸菌(E. coli)で増幅される。この設定は極めて多数の抗原特異的抗体を作出するために用いられてきた。それにもかかわらず、ファージディスプレー技術はいくつかの根本的な欠陥及び困難を有し、それらはファージディスプレーの使用を、特に真核細胞タンパク質の製造で制限する。したがって、例えば非常に高親和性の抗体は単離されさらに“パニング”によって処理されるが、もっぱら困難を伴う。さらにまた、抗体の特異性及び親和性に影響する翻訳後修飾(例えばグリコシル化)は、ファージディスプレーの方法では可能ではない。
WO2010/005863は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)属の酵母細胞による対応する酵母表面ディスプレー系を記載する。前記では、免疫グロブリンはタンパク質AのZZドメインに非共有結合により結合され、ここで、細胞壁タンパク質アグルチニン又はそのサブユニット及びZZドメイン及び免疫グロブリンを含む融合タンパク質は、前記タンパク質の発現のために対応する種々のプロモーターが正確な時系列順にON又はOFFに切り換えられたときにのみ同時に発現及び分泌される。
狙いとするものは、サブクローニング及び再フォーマット工程(類似する公知の方法(例えばファージのタンパク質表面ディスプレー)では必要である)が時間の節約で省略される選別及び製造の首尾よい組み合わせである。この組み合わせは、抗体の活性成分を見つけ出すその後のプロセスの簡素化及び加速をもたらす。表面ディスプレーの媒介因子としてFc結合ドメイン、好ましくは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)タンパク質AのZZドメインを使用することによって(それ自体は公知である)、抗体、生物学的に活性な抗体フラグメント及び抗体ドメイン、例えばVHH-Fc融合タンパク質(2つのタンパク質鎖から成る)が酵母細胞上で首尾よくディスプレーされ得る。
驚くべきことには、宿主生物として酵母のS.セレビシエを用いることによって、タンパク質の正確な折り畳み、分泌及び安定性が表面ディスプレー時に既に選択されている(なぜならば、真核細胞としてこの酵母はタンパク質合成時の品質管理メカニズムを有するからである)。本明細書に提示する方法によって、VHH-Fc融合タンパク質及びより複雑なタンパク質(例えば全抗体)を、それらタンパク質の使用に特異的なそれらの最終的フォーマットで酵母細胞表面にディスプレーすることが可能であり、さらにこのようにしてタンパク質工学に関する方法を用いることができる。以降は、選別されたクローンを当該タンパク質の製造に直接用いることができる。
(a)適切なプラスミドの形態の第一及び第二の核酸分子をトランスフェクトされてある酵母の種サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の宿主細胞を提供する工程、ここで、第一の核酸分子は融合タンパク質をコードし、前記融合タンパク質は、細胞表面アンカータンパク質、Fc結合ドメイン、及び培養条件に応じて融合タンパク質の発現を制御する調節可能プロモーターを実質的に含み、第二の核酸分子は、抗体、軽鎖及び重鎖の形態を有する前記抗体フラグメント又は抗体ドメインの前記集団をコードしかつ恒常的に活性なプロモーターの制御下にあり、
(b)分子量が>5000のポリエチレングリコール(PEG)の存在下、培養液中で、多様な抗体、抗体フラグメント又は抗体ドメインを同時に共発現しつつ、酵母細胞において、融合タンパク質を発現させる工程、ここで前記IgG分子及び融合タンパク質もまた酵母細胞から可溶化形で分泌され、
(c)酵母細胞表面に固着されている発現融合タンパク質のFc結合ドメインに非共有結合形で結合される多様な抗体、抗体フラグメント又は抗体ドメインを該細胞表面でディスプレーする工程、
(d)融合タンパク質又はIg分子に結合されているか又はその中に含まれている検出マーカーの補助により、Fc結合ドメインと結合した多様な抗体、生物学的に活性な抗体フラグメント又は抗体ドメインの所望される種々の表現型特性又は結合特性にしたがって酵母細胞を選別及び単離する工程、
(e)融合タンパク質の発現又は実質的に更なる発現を許容しない培養条件下で、多様な抗体、生物学的に活性な抗体フラグメント又は抗体ドメインを特定の(particular)選別酵母細胞集団で発現させる工程、及び
(f)選択した表現型特性又は結合特性を有する多様な抗体を培養液から単離する工程。
驚くべきことに、前記は本発明の方法では必然的ではない。Fc結合ドメインのプロモーターが最初に活性化されている間、Ig分子の発現も既に同時に起こり得る。酵母細胞で最終的に細胞表面に結合されるようにFc結合ドメインが十分に発現され分泌され、さらにIgが同時に共発現及び共分泌されているときに、Fc結合ドメインのプロモーターがOFFに切り換えられた後で、Ig分子の発現の惹起は継続し、これら分子は分泌後に自由な結合ドメインと非共有結合により結合する。これはいずれもさらに驚くべきことである。なぜならば、WO2010/0058863では基本的に当該アンカータンパク質と同じ又は非常に類似する細胞壁表面タンパク質及び同じFc結合ドメイン(ZZドメイン)が利用されているからである。本発明の方法における相違は、したがって酵母の種の相違(P.パストリスに対してS.セレビシエ)及びより高分子量のポリエチレングリコールの使用にあるように思われる。分子量が>5,000、特に>6,000、特に>7,000、好ましくは>8,000のPEGの使用は、細胞表面で出会うIg分子の顕著な増加をもたらし、前記はおそらくPEGによる分泌の増加を伴う。驚くべきことに、PEGを省略するか、又は低分子量(<5,000、特に<7,000、特に<8,000)のPEGを使用する場合、不十分な数の結合Ig分子が細胞表面で観察され、前記もまたおそらくWO2010/005863の方法との相違の説明となる。一般的に、S.セレビシエにおける特に全Ig分子の分泌及び表面ディスプレーは複雑であることはこれまでに判明している。
本発明にしたがえば、アグルチニン(特にα-アグルチニン)が細胞壁アンカータンパク質として用いられる。前記は、そのサブユニットaga1pで細胞壁と直接結合する。酵母細胞で発現されジスルフィド架橋を介してaga1pと結合する本発明の融合タンパク質はアグルチニンの第二のサブユニットaga2pを含み、前記は、タンパク質AのZZドメインとC-末端で結合する。
本発明はしたがって、特にZZドメイン及びaga2pの融合タンパク質の発現(及び分泌)がGAL1プロモーターによって調節される方法を提供する。
本発明はまた、特に抗体、抗体フラグメント又は抗体ドメインの発現(及び分泌)がGAPDHプロモーターの制御下にある方法を提供し、ここで、該発現はZZドメイン及びaga2サブユニットの発現のために構成的に生じる。
本発明はさらにまた、発現/分泌で、分子量が<5,000、特に<7,000−8,000のPEG、好ましくはPEG8000が発現培地で用いられる、対応する方法を提供する。
最後に、本発明は、選択した表現型特性若しくは結合特性を有する全抗体、Fabフラグメント、又は他の生物学的に活性な抗体ドメインの作出及び選別のための抗体ライブラリーを作製する、対応する方法を提供する。
“トランスフェクトする”、“トランスフェクション”、“形質転換する”又は“形質転換”という用語は同義語として用いられ、本発明にしたがえば、異種核酸(DNA/RNA)の真核細胞(特に酵母細胞)への導入を意味する。
本発明にしたがえば、抗体フラグメントは、好ましくはモノクローナル抗体の機能的部分(例えばFc、Fab、Fab’、Fv、F(ab’)2、scFv)を意味すると理解される。本発明にしたがえば、対応する生物学的に活性なフラグメントは、抗原と結合することができる抗体の部分(例えばFab、Fab’、Fv、F(ab’)2、及びscFv)を意味すると理解されるべきである。
本発明にしたがえば、Fc結合ドメインは、抗体のFc部分又はその領域と共有結合又は非共有結合することができる分子又は分子の部分、例えばタンパク質又はポリペプチドを意味すると理解される。本発明にしたがえば、Fc結合ドメインは、好ましくは抗体又は免疫グロブリンのFc部分と非共有結合的に結合する。
本発明のプラスミド構築物は図36から39に示されている。これらは概してプラスミド及びプラスミド構築物の単なる例又は好ましい例を提供しており、対応する本発明に必須のDNA配列が用いられて所望の機能を開始するかぎり、当業者はいつでも別のもの又はその変種と交換することができる。
さらにまた、ZZドメインを安定な態様で酵母ゲノムに組み込んで、可溶性分泌のためにより順応性のあるマーカーの選択及び分子ライブラリーのより容易な作出を可能にすることは有益であると立証できる。単に酸化還元酵素PDIの過剰発現だけでは所望のタンパク質収量に至らなかったので、分泌効率を高めるためには更なる株の操作が推奨され得る。分泌に必要なさらに別のER所在タンパク質(例えばEro1p)の過剰発現は、所望のタンパク質収量を達成するために必要であるかもしれない。
細菌の表面でとりわけ高い親和性で免疫グロブリンと結合できるタンパク質を見つけることができる61。前記タンパク質は、それらが結合できる宿主の種及び免疫グロブリンのクラスに関して異なる特異性を有する。該細菌はもっぱら病原性を有する典型的なスタフィロコッカス属及びストレプトコッカス属である。表面タンパク質の生物学的機能は、宿主の免疫機能を回避するために、宿主に固有のタンパク質により細菌細胞を隠ぺいすることを含む62。もっともよく知られている免疫グロブリン結合細菌表面タンパク質の1つは、黄色ブドウ球菌のタンパク質A(SpAと称される)である。前記はIgG分子及びFc融合タンパク質のアフィニティ精製のためにバイオテクノロジーで用いられ、5つのドメインを含み、前記ドメインは全てIgG結合に寄与しさらに一つひとつがまたIgG結合特性を有する。IgG分子の結合は主としてFc部分を介して生じる。さらにまたSpAとFabフラグメントの結合も示された64。SpAのドメイン構造は図1に示されている65。高い配列相同性を有する5つのドメイン(E、D、A、B及びE)に加えて、細菌細胞壁へのSpAの固着を媒介する2つのさらに別のドメイン(X及びM)、及びSpAを細胞壁に誘導するN-末端シグナルペプチド(SP)が存在する。SpAとFc部分との結合はpH依存性である61。もっとも強い結合はpH8で生じる66。既に述べたように、E、D、A、B及びEは一つひとつがまたFc部分及びFabフラグメントとの結合を媒介することができる。結果として、これらのドメインを特にバイオテクノロジーで使用することに関して利点が生じる。SpAと比べてサイズが小さいために、一つひとつのドメインの組換え体製造はSpAと比べて簡素化される。人工ドメインがドメインBから誘導され、前記はNilssonと共同研究者らにより29位のアミノ酸置換によって1987年に作出された67。前記はZドメインと称され、化学的安定性の増進を示す。さらにまた、記載のアミノ酸置換によってZドメインとFabフラグメントとの結合の喪失が達成された。結果として、ZドメインはもっぱらFc部分を介してIgG分子と結合する68。ドメインBと同様に、Zドメインもまた3つのα-ヘリックスの構造をとる69,70。二重化Z配列(ZZドメイン)を用いることによって、Fc部分に対してZドメインと比べてZZドメインのより強力な結合が達成される。ZZドメインは二価分子であり、それによってFc結合は一価のZドメインと比べてアビジチー作用により強化される71。
酵母細胞表面でのタンパク質及びペプチドライブラリーの曝露はタンパク質の定方向進化のための技術として用いられ、文献では“酵母表面ディスプレー”と称される。この技術はBoderとWittrupによって1997年に樹立された92。彼らは、scFvフラグメントのコンビナトリアルライブラリーを酵母細胞の表面で機能的にディスプレーし、フローサイトメトリーによってそれらをスクリーニングし、さらに抗原に対して親和性増進を示すscFvフラグメントを単離することに初めて成功した。前記は安定な遺伝子型-表現型の連結によって可能になった。なぜならばscFvフラグメントは、該酵母に固有の細胞壁タンパク質との融合タンパク質としてディスプレーされたからである。酵母系ディスプレー技術を用いて為し得たもっとも重要な偉業はおそらく、蛍光活性化細胞分類(FACS)を直接適用できることである(FACSは大きな変種ライブラリーの効率的スクリーニングには欠かせない)。安定な遺伝子型-表現型の連結は、異種タンパク質とS.セレビシエの外側細胞壁タンパク質との融合によって達成される。前記によって達成されるタンパク質の曝露は抗原との相互作用の前提条件である。原則として、多くの異なる細胞壁タンパク質が融合パートナーとして異種タンパク質及びペプチドを曝露することができ、前記は例えばα-アグルチニン及びa-アグルチニン、Cwp1p及びFlo1pである93,94。これらすべてのタンパク質の中で、a-アグルチニン系が特に確立されている。この系は、ナイーブ抗体ライブラリー、免疫抗体ライブラリー及び合成抗体ライブラリーから抗体を選別するために現在用いられている。2003年に、Feldhausと共同研究者らは、サッカロミセス・セレビシエの表面でディスプレーした免疫されていないヒト変種ライブラリーで高親和性scFv変種の選別を提示した95。抗体フラグメントの親和性成熟もまた酵母細胞でのFabフラグメントの表面ディスプレーによって首尾よく提示することができた96。BoderとWittrupによって1997年に樹立された、a-アグルチニンの手段による酵母細胞表面ディスプレーのための系は以下の節でさらに詳細に説明される。
アグルチニンはS.セレビシエの外側細胞壁の対合型特異的接着タンパク質であり、相補的な対合型の一倍体酵母細胞間でこれら細胞の二倍体接合子への融合時に細胞対細胞接着を媒介する。このプロセスは文献では交配と称される。対合型aの酵母細胞はa-アグルチニンを発現し、対合型αの酵母細胞はα-アグルチニンを発現する97。細胞壁タンパク質a-アグルチニンはサブユニットAga1p及びAga2pから形成される。サブユニットAga1pはGPIアンカーシグナルを有し、β-グルカンの共有結合によって細胞壁の細胞外マトリックスへのタンパク質の固定を媒介する98。サブユニットAga2pは同様に当該細胞によって分泌され、2つのジスルフィド架橋を介してAga1pと結合する。a-アグルチニン系を用いる異種タンパク質の曝露のために、ディスプレーされるタンパク質は、通例はサブユニットAga2pとのC-末端融合物として対応する発現ベクターでクローニングされる。遺伝子発現の誘導後翻訳され表面でディスプレーされる組換え構築物は、図2で図解形式により示されている。AGA1(Aga1p)は、染色体に組み込まれたガラクトース誘導性発現カセットによって発現される。Aga1pとAga2pの連携によって、異種タンパク質は酵母細胞の表面で共有結合により曝露され、その結合特性の補助により又は親和性エピトープの手段によりフローサイトメトリーで検出できる(図2)。本研究時の多様なタンパク質の発現、分泌及び表面ディスプレーのために、“pYD1酵母ディスプレーベクターキット”(pYD1 Yeast Display Vector Kit, Invitrogen)が市場で入手できる。
組換えタンパク質が既に多様な宿主生物で首尾よく製造されている。前記には、原核細胞発現系(例えば大腸菌100)及び真核細胞発現系(例えば哺乳動物細胞101)が含まれる。サッカロミセス・セレビシエも同様に異種タンパク質の発現に適切である。なぜならば、前記もまたもっとも特徴が調べられた真核細胞宿主生物であり、特に真核細胞機能の解明のためのモデル生物として1996年のゲノム配列決定以来用いられてきているからである。単細胞生物として、前記は他の真核細胞系よりも複雑ではなく所定培地での培養が可能であり、その結果、増殖条件の良好な管理及び培養コストの顕著な削減が可能である104。ほぼ90分の世代時間という比較的短い寿命も、S.セレビシエの使用が好まれるまた別の理由である102。単細胞生物として、酵母は、簡単な培養及び工業的発酵方法の使用による微生物学的発現系の利点並びに真核細胞発現及び細胞内の分泌経路の存在による真核細胞発現系の利点の両方を有する。さらにまた、遺伝子操作を可能にする、酵母ベクターの膨大な選別が利用可能である105。他の酵母と比べて、例えばピキア・パストリス、S.セレビシエはしばしば分泌効率が低いとされ、この理由のために、異種タンパク質の製造用宿主生物としてはしばしば工業的には好まれない106。異種抗体分子の発現用宿主生物としての酵母S.セレビシエの重要性は以下の節で示される。
生化学的及び生物物理的特徴付け(例えば免疫沈澱、ELISA又は生物層干渉法の手段による)のためには、十分な量の組換えタンパク質を製造することが必要である。可溶性抗体又は抗体フラグメントの十分な収量を達成する多数の生成系が現在既に存在する。これらの発現系は、例えば哺乳動物細胞、分裂酵母ピキア・パストリス、昆虫細胞又は大腸菌である107-109。S.セレビシエでの抗体の発現は、更なる使用には収量がしばしば低かったので長期にわたって不適切であると証明されてきた。IgG分子については、50μg/mLの収量が達成されただけであった110。発展的アプローチによって、Rakestrawと共同研究者らは、2009年にS.セレビシエからscFvフラグメント及びIgG分子の分泌を顕著に増進させることに成功した。シグナルペプチドMFα1pの変種ライブラリーをスクリーニングすることによって、S.セレビシエのscFvフラグメントの分泌が野生型配列と比較して16倍増進する変種が同定された111。酵母株の操作と組み合わせて同じアプローチを用い、機能的IgG分子の分泌を180倍増進させることすら可能になった111。この発見は、酵母細胞における異種タンパク質の分泌に用いられるシグナルペプチドの適切性を示している。この事実は、十分な分泌がその後のプロセス工程の簡素化のために重要である工業プロセスでは特に大切である。適切な酵母株の選択もまた決定的である。発現株の遺伝子操作によって、異種抗体分子を発現する株の分泌生産量を増進させることができる。これに関して、酵母の分泌経路と密接に関係するタンパク質は重要である。これらは、例えば酵素、例えば酸化還元酵素PDI(タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(protein disulphide isomerase)で前記はジスルフィド架橋の酸化還元に必要である)、及びHSP70シャペロン、例えばBiP(結合免疫グロブリンタンパク質(binding immunoglobulin protein)で前記は分泌タンパク質の折り畳みに必要である)である112。BiPは小胞体(ER)内の未熟なタンパク質と結合し、そのようにして凝集物の形成を妨げると推定される。変異体分析によって、BiPの枯渇は未熟なタンパク質の凝集及び前記のERにおける残留をもたらすことを示すことができた113。前記から一般的には以下が続く:UPR(非折り畳みタンパク質応答(unfolded protein response))114の誘発及びERAD(ER結合タンパク質分解(ER associated protein degradation))115の手段によるタンパク質のタンパク溶解性分解、タンパク質合成の阻止及びシャペロンコード遺伝子の活性化116。ERにおける品質管理メカニズムは、酵母細胞における異種タンパク質の可溶性物質分泌時のもっとも重大な隘路の1つであるという結論を引き出すことができる117。折り畳み補助因子(例えばPDI及びBiP)の過剰発現によって、S.セレビシエでのscFvフラグメントの分泌を10倍増進できることを示すことができた106,118。それにもかかわらず、分泌されるタンパク質がPDI及びBipの過剰発現によって利益を受けるか否かは具体的なタンパク質の特性に左右されること、さらにPDI及びBiPの過剰発現によって利益を受けないタンパク質が存在することが文献で指摘されている106,119。真核細胞として、酵母は、プロセッシング及び分泌が真核細胞のタンパク質発現メカニズムにしたがうので異種ヒトタンパク質の製造に特に適している。これらのメカニズムには、翻訳後プロセッシング、例えば折り畳み、グリコシル化及びリン酸化が含まれる115。タンパク質の発現、ER内での折り畳み、及び分泌は厳密な品質管理を受ける(前記品質管理は、正確に折り畳まれ機能的なタンパク質が酵母の発現培養から単離され得るという効果を有する)。
本研究の目的は、酵母細胞でのFc融合タンパク質及びIgG分子の非共有結合表面ディスプレーの方法を樹立し試すことであった。酵母細胞での共有結合表面ディスプレーとは対照的に、ここに提示する方法では、ディスプレーされるタンパク質は、Fc結合ZZドメインのFc部分を介して細胞表面に固着される。この目的のために、ZZドメインはAga2p融合タンパク質として細胞表面に共有結合により固着される。ZZドメインの発現を調節することによって、表面ディスプレーと可溶性分泌との間で選択的な切り換えが可能である。ZZドメインとFc部分との間の相互作用は可逆的でpH依存性であるので67、この系は安定な遺伝子型-表現型連結の要求を満たさなければならない(前記要求は選別のための方法として前記系を首尾よく使用するための前提条件である)。黄色ブドウ球菌のタンパク質A(SpA)は多様なIgG分子のFc部分と高い親和性で結合する。SpAは5つのドメイン(A、B、C、D及びE)から成り、前記ドメインは一つひとつがまたFc部分と結合できる63。ドメインBの折り畳みは全てのSpAドメインの例である。前記は2つのアンチパラレルα-ヘリックス及びわずかにねじれた第三のα-ヘリックスから成る。しかしながら共結晶化実験が示したように、ヘリックス3はFc結合に直接必要とされない64。本研究で用いられるFc結合ドメインはZドメインであり、前記はドメインBに由来し、ヒト抗体分子のFc部分と高い親和性で結合することがまた知られている149。Zドメインは、Nilssonと共同研究者らによりBドメインの人工的アミノ酸置換(29位でグリシンからアラニンに置換)によって作出され、ドメインBと比べて安定性の改善を示す67。さらに、本研究ではZZドメイン(二重化されたZ配列)が用いられた。文献によれば、それは、Zドメインと比べてFc部分に対する顕著な親和性増進に起因すると考えられている144,150。本研究では、細胞壁タンパク質Aga2pとの融合によってZ及びZZドメインの両方を共有結合により酵母細胞上でディスプレーすることが可能であった。2つのドメインの正確な折り畳みは、IgG分子(セツキシマブ)を結合させ、続いて蛍光マーキング抗原(b-hsEGFR)及びSA-PEを添加することによってFACSで検出された。期待したように、同じ条件下ではZZディスプレー細胞でより強い蛍光マーキングが可能であったので、結果はFc部分に対してZドメインよりZZで高い親和性を提示した。この発見はアビジチー作用によって説明できる。なぜならば、ZZドメインは二価分子であるが、Zドメインは一価であるからである67。SpAに対する2つの潜在的結合部位がFc部分に存在し、各々の事例で重鎖につき1つである。前記はまたSpA対IgGの化学量論的結合比が1:2の比である理由である63。タンパク質Aは5ドメイン構造を有するが、機能的には二価である151-153。Fcに対して高親和性の4つのSpAドメインの同時結合は、いくつかの個々のSpAドメインが一緒になった見かけの親和性増進を説明する68,144。ZZドメインはFc部分の両結合部位に到達すると考えられ、このことはまたZドメインと比べてZZドメインがFcとより強く結合するという発見の説明となろう144,150。それにもかかわらず、Fc部分の2つの結合部位の同時結合の前提条件はドメインのα-ヘリックス構造の破壊であろう(結果としてFc結合はもはや可能ではないであろう)という証拠が存在する70。したがってむしろ、二価構築物の一方のZドメインはFcとの結合を媒介するが、結合に巻き込まれないZドメインは結合したZドメイン又は第二の結合部位との弱い相互作用によってアビジチー作用を媒介し、Koffの低下をもたらす71,144。なぜならば、一方のZドメインの解離によって他方のZドメインの結合が可能になるからである。このことはまた、Z及びZZドメインはFcの結合に対して同様な親和性定数を有するという事実を説明する144。本研究では、一価のZドメインと比べて二価ZZドメインでは、IgG分子によるマーキングによってより強い蛍光シグナルが測定された。この発見は、おそらく細胞上のより多くのIgG分子の捕捉によって引き起こされたのではない。なぜならばZZドメインはまた、Zドメインと同様にただ1つのIgG分子と結合するからである。両事例で結果的に1:1の比が存在する。この理由のために、もっぱらZZドメインとFcとのより強い結合が蛍光強度の増進をもたらすと考えられる。ここに提示する本研究の主題と関連して、Zドメインは、大腸菌細胞154,155及びウイルス156,157で抗体を固定するために用いられ得ることが既に示されている。ZZディスプレー酵母細胞もまた血清サンプルの抗体を検出する免疫吸着剤として既に供されている158。さらにまた、酵母細胞の表面でα-アグルチニン融合物としてZZドメインをディスプレーし、さらにFc-EGFPを分泌した細胞と共培養することによって酵母細胞を蛍光でマークすることが可能であった。
さらにまた、IgG分子(セツキシマブ)の外部添加によってマークするために内因的に分泌されるVHH-Fc融合タンパク質でZZディスプレー細胞をさらにマークすることも可能であった。VHH-Fc融合タンパク質を非共有結合的に表面ディスプレーする方法の性能がしたがって提示された。この目的のために、VHH-Fc及びZZが細胞で共発現された。Fc部分とZZドメインを結合させることによって、可溶性分泌されるVHH-Fc融合タンパク質は細胞上で捕捉され、抗原の添加を介してマーキングが達成される。この事例では、セツキシマブによるマーキングと比べて極めて低い蛍光強度がFACSで検出された(これは内因的に分泌されたVHH-FcによるZZドメインのマーキングがより非効率的であることを示している)。この発見はまた、細胞表面でディスプレーされたZZドメインはVHH-Fcで飽和されていないこと、及びまだ自由なZZドメインが存在していることを示している。1つの理由は、ZZドメインと比べてVHH-Fcタンパク質分泌の効率の低さ又は2つのタンパク質の分泌の不均衡が考えられよう。2つの遺伝子(ZZ及びVHH-Fc)の発現はGal1プロモーターによって調節された。したがって、同じように高い発現レベルが2つの遺伝子について期待されよう。しかしながら、S.セレビシエでは外来遺伝子の発現において制限的工程が知られている。ここでは一例として、酵母に固有の同じプロモーター遺伝子は外来遺伝子よりもはるかに強く発現されるという事実に言及することができる141。この状況についての理由は、翻訳伸長におけるコドン使用頻度の影響である。遺伝暗号の余剰性にもかかわらず、一定のコドンが翻訳時に優先される。なぜならば全てのtRNA及びアミノアシル-RNAが同じ態様で存在するとは限らないからである。さらにまた、コドン使用頻度は多様な生物間で顕著に相違する141。本研究では、VHH-Fc融合物の配列はS.セレビシエのコドン使用頻度に関して最適化されてなく、したがって翻訳時に起こり得る問題を提示している。VHH-Fc分泌が低い理由はしたがって説明可能であろう。2つのタンパク質の分泌が相違するさらに別の理由は、翻訳後であると推定し得る。VHH-Fc融合タンパク質と比べて、ZZドメインは、効果的に機能的に折り畳まれジスルフィド架橋無しに分泌される小さなタンパク質である。その良好な分泌及び折畳み特性のために、ZZドメインは、貧弱な分泌を示すタンパク質との融合物としてしばしば生成される160,161。他方、VHH-Fc融合タンパク質の折り畳みは、ヒンジ領域に位置する少なくとも3つのジスルフィド架橋の正確な形成を必要とする。VHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌を成功させるために正確なジスルフィド架橋が重要なことは以下の節で説明される。この目的のために、PDI(タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ)過剰発現酵母株(APO-E)をEBY100株(PDIを過剰発現しない)と比較した。
VHH-Fc融合タンパク質の分泌を改善するために、2つの酵母株を調製した。遺伝子操作によって、ER所在酸化還元酵素PDIの構成的過剰発現をこれらの株(APO-E及びAPO-B)で、前記株が由来した酵母株(EBY100及びBJ5464)と比較しながら達成した。APO-E株については、タンパク質濃度(出発株EBY100と比べて2倍高かった)をVHH-Fc発現培養の上清で測定した。前記の発見は、PDI過剰発現はタンパク質の可溶性分泌に有利な影響を有するという結果162(既に文献に報告されている)を実証する。PDIは、酵母細胞のER内のタンパク質の折り畳み時にジスルフィド架橋の酸化還元を触媒することが知られている。前記は細胞の分泌経路で決定的な工程である。なぜならば、ジスルフィド架橋の正確な形成はタンパク質(例えば本明細書で用いられるVHH-Fc融合タンパク質)の構造的安定性に決定的に重要だからである。細胞内品質管理メカニズムは、正確に折り畳まれたタンパク質だけを分泌することを担保する。不正確に折り畳まれたタンパク質は、例えば疎水性アミノ酸領域を暴露し、それによってUPR(非折り畳みタンパク質応答)の誘発に至る。これらのタンパク質は続いてさらに別のER所在シャペロン(例えばBiP)と結合し、前記はその後で分泌ではなく特にERAD(ER付随分解)の手段によってタンパク質の分解に至る115。本研究では、VHH-Fcタンパク質の正確な折り畳みは、PDIの過剰発現によっておそらく促進され、その結果、より多数のタンパク質の分泌が可能であった(なぜならば正確に折り畳まれたタンパク質はより高い量で細胞内領域に存在したからである)。しかしながら、PDIの過剰発現によってはるかに大きくより効率的な分泌増進が文献に示されている111。Rakestrawと共同研究者らは、PDI過剰発現酵母及び分泌配列app8の使用によって、全IgG分子の分泌で例えば180倍の増進を示した111。この分泌効率は、本研究では分泌配列app8と組み合わせても達成されなかった。PDIの過剰発現によって改善された分泌はおそらく分泌される個々のタンパク質に左右され117、他のシャペロンの過剰発現がVHH-Fc分泌の更なる増進をもたらし得るか否か明らかにすることは適切であろう。さらにまた、PDIは、同様にER所在酵素Ero1pからジスルフィド架橋をde novoに獲得することが知られている(PDIは続いて基質タンパク質内のジスルフィド架橋の酸化にEro1pを直接使用する163)。これから解かるように、Ero1pはPDIのリサイクルに必要であり、このようにして、Ero1pはPDIを還元状態から酸化状態に変換する。この理由で、Ero1pをPDIと同じ程度に過剰発現させることはおそらく有益であろう。Ero1p及びPDIの均衡のとれた発現レベルによって、還元されたPDI分子は再びより迅速に酸化され、基質タンパク質内の新規なジスルフィド架橋を酸化することができる。
PDIの過剰発現に加えて、さらに別の因子もまた、VHH-Fc融合タンパク質の可溶性発現及び前記の表面ディスプレーの改善に対する影響を示した。表面ディスプレー及び分泌に対する発現条件の影響並びに分泌に対する遺伝子量の影響がしたがって下記で考察される。実験の開始時に市場で入手できる合成の最少培地(Clontech)を培養及び表面ディスプレーに用いた。これらの培地はわずかに酸性pH(pH5.8)であり、非緩衝形であった。合成最少培地での酵母細胞の培養中に更なる酸性化が観察され、前記はおそらく酵母によって排泄された代謝産物によって引き起こされた。これと同様に、ほぼ3のpHが一晩培養で測定された(データは示されていない)。これらの培地の使用はpH依存性ZZ:Fc相互作用の背景に対して不利であると判明した(なぜならば、pHの低下によってZZドメインとFc部分との結合は弱くなるからである164)。これらの培地を用いるとき、VHH-Fcの表面ディスプレーの検出は可能ではなかった(文献によればZドメインとFc部分との相互作用はpH3.3以後ではもはや存在しないからである67)。緩衝最少培地(pH7.0)のその後の使用によって、pHは十分に長期に及ぶ培養期間中安定化し、ZZドメインとVHH-Fcとの結合の進展が可能になった。この事例では、抗原との相互作用を介して細胞上のVHH-Fc融合タンパク質をマークすることができ、結果としてFACSで検出できた。しかしながら、陰性コントロールと比べてわずかに増進した蛍光強度が測定されただけであった。さらにまた、前記蛍光強度は、外部からIgGを添加してZZディスプレー細胞をマーキングした場合よりも40倍低かった。既に述べたように、このことは、より効率の悪いVHH-Fc融合タンパク質の発現又はVHH-Fc融合タンパク質の分泌を示している。この仮定は、ZZドメインは同じ時により顕著に高い効率で細胞表面でディスプレーされ、したがって多くのZZドメインが未占拠であったという状況によって支持される(なぜならば、ZZドメインはタンパク質A特異的検出抗体ではるかに強く細胞表面でマークすることができたからである)。VHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーの蛍光シグナルの顕著な強化は、培養液への11%(w/v)のPEG8000添加によってのみ達成された。しかしながら、ZZドメインの蛍光シグナルは、PEGの添加があってもなくても一定の強度であった。このことから、PEG8000はVHH-Fc融合タンパク質の分泌に対して正の影響を有していたと結論することができる。この仮定は、以下で考察するさらに別の実験によって確認された。PEG8000を含む又は含まないVHH-Fc発現培養の上清の分析によって、VHH-Fc融合タンパク質はPEG8000の添加によりはるかに効率的に分泌されることが示された(なぜなら、顕著に高いタンパク質濃度が培養液で検出されたからである)。VHH-Fc融合タンパク質の培養液への分泌は、細胞膜を通過するタンパク質の細胞内輸送を必要とする。S.セレビシエにおけるタンパク質の通常の分泌経路は、翻訳時及び/又は翻訳後に小胞体に、そこからゴルジ装置へさらにゴルジ装置から始まって輸送小胞を介して細胞膜へ至る165。続いて細胞外分泌は、輸送小胞と細胞膜との融合及び小胞体内容物の培養上清への放出による開口分泌の手段によって生じる。PEG8000は細胞膜との小胞融合を促進し、このようにしてVHH-Fc融合タンパク質の分泌を改善することができる。PEGは膜透過性を高め、膜成分の流動性特性を改変することが既に示されている166。前記は、PEGと脂質二重層との直接相互作用及びそれにより生じる当該二重層の脱安定化から生じ得る。この理由のために、PEGはまたハイブリドーマ作成時の細胞融合に日常的に用いられ、一般的“フソゲン”と称される117。しかしながら、PEGの影響はまた、周囲の水性媒体の極性特性に影響を与え、結果として膜安定性の低下をもたらすという間接的な性質も有し得る。この作用は、周囲媒体中の高度に親水性のPEGにより脂質二重層の極性頭部基の脱水によって説明することができる168。PEGによって改善されるVHH-Fc分泌の厳密なメカニズムはここでは単に推測し得るだけである。興味深いことには、分泌効率は用いられるPEGの分子量に大きく左右される。PEG1500よりも高分子量のPEG8000を用いて顕著に大量のタンパク質が培養液で検出された。用いられるPEG分子量はおそらくPEGと細胞膜との可能な相互作用に関して正の相関性を有する。Uma Maheswar RaとSatyanarayanaは同様に、分泌に対するPEGの分子量の影響を例示している。かれらは、低分子量のPEGと比較してPEG8000の存在下におけるゲオバシルス・テルモレオボランス(Geobacillus thermoleovorans)のα-アミラーゼ分泌の改善を示した140。PEG8000の存在下で表面ディスプレーされるVHH-Fc融合タンパク質のより強い蛍光シグナルはまた、既に述べた分泌増進及びそれによって引き起こされる細胞表面のZZドメインのより高い占拠率に加えて、培養液の粘性の増加によるZZドメインのFc部分の解離の低下によってさらにまた説明することができる。この事例では、解離したVHH-Fc融合タンパク質の拡散は培養液の高い粘性のために低下し、ZZとFcの結合は促進される。PEG含有培養液での培養時に達成される細胞濃度は、PEGが培養の増殖特性に顕著な影響を与えなかったことを示すが、培養液の高い粘性のために酸素の進入の減少は算出された。それにもかかわらず、PEGが存在してもしなくても比較的高い細胞濃度が培養中に達成された(データは示されていない)。酵母細胞内のVHH-Fc遺伝子量はとりわけプラスミドのコピー数に左右される。プラスミドコピー数の増加によるVHH-Fc融合タンパク質の合成速度の増加が予想される。これまで考察された結果では、低い細胞内コピー数が特徴のCEN6/ARS4系プラスミドが用いられたので、2ミクロン系プラスミドの使用はVHH-Fc融合タンパク質の分泌増進をもたらし得ると推定された。これらのプラスミドは、100倍までの高い細胞内コピー数によって区別される139。この目的のために、可溶性分泌のためのVHH-Fc発現培養(それらのプラスミドコピー数に関して相違する)を調製した。興味深いことに、予想に全く反して、2ミクロン系プラスミドでより低いタンパク質分泌が測定され、CEN6/ARS4系プラスミドのVHH-Fc遺伝子配列の発現は培養上清への該タンパク質のより効率的な分泌をもたらした。さらにまた、2ミクロンプラスミドを用いることによって、プロセッシングされていないVHH-Fc融合タンパク質の細胞内濃度の増加がCEN6/ARS4プラスミドと比較して認められた。用いられたプレ-プロシグナルペプチドapp8は分子量が8.7kDであるので、ウェスタンブロット分析ではVHH-Fc融合タンパク質の細胞内形態(プロセッシング型又は非プロセッシング型)を区別することができた。成熟VHH-Fc融合タンパク質は、シグナルペプチド除去後のより低い分子量によってプロセッシングされていない形態とは容易に区別することができ、さらに両方のタンパク質形態を細胞溶解物で免疫学的に検出できた。プロセッシングされていないタンパク質型は2ミクロンプラスミドが用いられたときだけ検出された。この発見は、細胞内プロテアーゼによるシグナルペプチドのより効率の悪い除去を示している。転写レベルの増加及び生じた大量のタンパク質は当該タンパク質の正確なプロセッシングを制限した可能性がある。2つの細胞内プロテアーゼがプレ-プロシグナルペプチドの除去に必要である。プレ領域の第一の19アミノ酸はER所在シグナルペプチダーゼによって除去される。ER内での当該タンパク質の移動及びゴルジ装置への前記の輸送後に、プロテアーゼKex2pが後期ゴルジ区画でのプロ-領域の除去に必要である141。プロ-領域はさらに別の64アミノ酸を含む。プロテアーゼKex2pは、シグナルペプチドの顕著に大きなプロ-領域を除去するので、当該タンパク質のプロセッシングで制限工程であったと推定することができる。一般的に、異種タンパク質の過剰発現及び分泌は酵母細胞にとって常にストレス状況を表していると言うことができる117。高コピー数はおそらく転写レベルの増進を、したがって酵母細胞によるストレス応答をもたらす。分泌はしたがって妨げられ得る。なぜならば、中間体及び不正確に折り畳まれたタンパク質の蓄積によって、UPRメカニズムがストレスの結果として誘発され得るからである。前記は、分泌の代わりに当該タンパク質のタンパク溶解性分解をもたらすであろう。さらにまた、大腸菌で最終的に観察され得る169,170、タンパク質合成のためのエネルギー及び資源の制限の可能性が存在する。しかしながら、記述のようにタンパク質の移転、シグナルペプチドのプロセッシング及びER内でのタンパク質の折り畳みもまた分泌に対してさらに制限的効果を有し得る。分泌低下の発見を遺伝子量の増加によって完全に明らかにすることはできなかったが、CEN6/ARS4系プラスミドを更なる分泌のために用いた。
VHH-Fc融合タンパク質の機能性を表面ディスプレー時の細胞上で及び培養上清中の可溶性状態の両方で究明した。VHH-Fc融合タンパク質の選別及び特徴付けに非共有結合方法を首尾よく用いるために、タンパク質が細胞上及び培養上清中の両方で機能的な形態であることが必要であった。一般的に、機能性はタンパク質の正確なグリコシル化及び折畳みによって決定される。表面ディスプレータンパク質の機能性は、特異的抗原の結合を介して検出された。72時間にわたって、細胞上の融合タンパク質を抗原hsEGFRとの結合によってマークし、さらにFACSによって首尾よく検出することができた。SpAドメインAからEと比べて、Z及びZZドメインはFc部分を介してのみIgG分子と結合する64。他方、ドメインAからEについては、IgG分子はFabフラグメントに存在するさらに別の可能な結合部位を有する。この結合は、大半がFabフラグメントの親水性アミノ酸残基を介して生じる。同様に、タンパク質AはVHHドメインのフレームワーク領域と結合することが示された171。SpA又はそのドメインと抗体又はVHHドメインのFabフラグメントとの相互作用によって、抗原との結合競合が生じる可能性があり、その結果として抗原結合が妨げられ得る。表面ディスプレーのためにZZドメインを使用することによって、VHH-Fc融合タンパク質とIgG分子の結合はもっぱらFc部分を介して生じ、抗原との結合はしたがって妨げられない。Fc部分の結合によっても、表面ディスプレータンパク質の好ましいアラインメント及び曝露はなおまた可能である。酵母細胞は、形質膜の外側に厚さが約200nmの細胞壁を有し、前記には酵母に固有の細胞壁タンパク質が密に存在する172。ZZドメインの表面固着のためにAga1p-Aga2pタンパク質複合物を用いることによって、ZZドメインは、細胞外環境に向けて十分に遠くに曝露され、例えばVHH-Fc融合タンパク質との結合を可能にする。さらにまた、記述のように、Fc部分の結合によってホモダイマーVHH-Fc融合タンパク質の2つのVHHドメインは細胞からさらに離れた間隔でディスプレーされ、抗原との相互作用が妨害され得ないように曝露される。短いアンカータンパク質(例えばタンパク質Flo1pの短縮形)は当該細胞の細胞外環境へは十分に到達せず、この理由のために表面ディスプレータンパク質は、抗原又は検出抗体との相互作用が細胞壁によって立体的に妨害されるので所望の態様で検出され得ない94。他方、Flo1p延長形の使用は検出を可能にする。非共有結合系におけるVHH-Fc融合タンパク質の機能性をさらに究明する観点から、VHH-Fc融合タンパク質の培養上清への可溶性分泌のための発現培養を調製した。前記機能性は当該分子と抗原hsEGFRとの生物分子的相互作用の動態定数の決定によって評価された。この理由のために、培養上清由来のタンパク質をタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーの手段によって精製し、生物層干渉法の手段による結合分析のために用いた。hsEGFRとの結合の動態定数は、HEK293発現培養由来のVHH-Fc融合タンパク質を用いて予め実施した測定から知られていた(データは示されていない)。9nMから90nMのKD範囲内にある相応の測定値が、酵母生成タンパク質及びHEK293生成タンパク質の両方について達成された。酵母発現とは反対にVHHドメインのN-末端ファスチアン(VHHドメインのN末端にFc部分のC末端)をHEK293発現に用いたので、異なるKD値はFc融合物の性質によって説明できる。VHHドメインの抗原結合は当該ドメインのN-末端領域を介して生じる。パラトープを形成し、そのようにして抗原との結合を媒介する3つのCDRがそこに存在する173。HEK293発現のために用いられる遺伝子配列では、VHH遺伝子の5’領域がFc部分の配列と融合された。抗原に対する親和性の低下がそれによって引き起こされたという可能性がある(前記は生物層干渉法の測定でより低いKD値によってそれ自体を明示した)。VHHドメインのFc部分によるC-末端融合(VHHドメインのC末端にFc部分のN末端)は抗原結合の減弱をもたらさなかった。なぜならば、N-末端Fc融合と比べてより高いKD値が抗原結合について測定されたからである。この発見はもっともであるように思われる。なぜならば、天然に存在する重鎖抗体では、VHHドメインはまたヒンジ領域を介してそのC末端でFc部分と結合されるからである。記述のように、抗原結合はVHHドメインのN末端及びそこに存在するCDRを介して媒介され、これらは損なわれることはなく、Fc融合による抗原との相互作用のために自由に接近することができる。一例として、現在乾癬治療のための臨床試験が行われているVHH-Fc融合ART621(Arana Therapeutic Ltd.)を参照することができる174。さらにまた、VHH-Fc融合タンパク質をダイマー化できることがウェスタンブロット分析で確認できた。ダイマー化は、Fc部分の重鎖の正確な折り畳み及びジスルフィド架橋の形成によって可能になる。前記はおそらく本研究開始時におけるFc部分のN-グリコシル化部位の変異導入によって促進された。この目的のために、297位のアミノ酸アスパラギン(N)のコドンがアミノ酸グルタミン(Q)のコドンに置換され、このようにして、タンパク質のN-グリコシル化中にS.セレビシエについて公知の高マンノシル化が防止された。そうでなければ多数のマンノース残基がFcダイマー化を立体的に妨害し、その結果、ER内で鎖間の疎水性接触領域が曝露されたことであろう。前記は細胞によるストレス応答を誘発し、該タンパク質の分泌の減弱をもたらしたことであろう。さらにまた、生物層干渉法の間にFc部分の機能性を提示することができた。なぜならば、タンパク質AセンサーをVHH-Fc融合タンパク質とともに首尾よくロードすることができたからである。天然の条件下では、ヒトIgG分子は297位でグリコシル化される。この位置のヒトグリコシル化はCH2ドメインの安定化に貢献し、したがってIgG分子のFc部分のダイマー化にプラスの影響を有することが観察された176。
本研究で樹立された方法の多様な用い方はまた全IgG分子の表面ディスプレーの成功でも示された。前記は、多様な抗体様式を首尾よくディスプレーできることを明確にする。それにもかかわらず、IgG分子の非共有結合表面ディスプレーはVHH-Fc融合タンパク質と比べて構成がより複雑であった。なぜならば、VHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーとは対照的に、酵母細胞は単に2つのプラスミドではなく3つのプラスミドで形質転換されたからである。Aga2p-ZZ融合物の発現のためのプラスミドに加えて、2つのさらに別のプラスミドが抗体の軽鎖及び重鎖の可溶性分泌のために必要であった。全抗体の表面ディスプレーのために、結果的に酵母細胞は3つのプラスミド全ての安定な入手を培養中に可能にする必要があった。この目的のために、抗体重鎖及び軽鎖用プラスミドの選別でEBY100株の栄養要求マーカーを用いるために、G418耐性マーカー及びG418含有培地によりAga1p-ZZプラスミド(pYD-ZZ)の選別を実施した。ZZドメインによる抗体捕捉の成功は、細胞上でのFc部分のマーキング及び検出によって示された。IgG分子の機能性の検出は特異的抗原の結合により可能であった。それにもかかわらず、重鎖に加えて軽鎖もまたディスプレーされたか否かを信頼性をもって検出することは可能ではなかった。なぜならば、この時点ではまだ軽鎖に特異的な適切な検出抗体が入手できなかったからである。抗体重鎖はまた軽鎖のアッセンブリング無しに抗原との結合を媒介することが可能である。なぜならば、結合の大半がIgG分子の重鎖によって生じるからである177。それにもかかわらず、IgG軽鎖及び重鎖のアッセンブリングは成功であったと仮定できる。なぜならば、そうでなければ表面ディスプレーは抗体のより貧弱な分泌によっておそらく低下するであろうと思われるからである。軽鎖及び重鎖のアッセンブリングは、CH1とCLとの間のジスルフィド架橋に加えて疎水性相互作用により生じるので、重鎖の疎水性アミノ酸残基はERで曝露されるであろうし、さらにUPRのメカニズムを誘発するであろう。興味深いことには、ZZドメインによる非共有結合方法を用いたときだけ、酵母細胞で全IgG分子の表面ディスプレーを提示することが可能であった。この発見は、IgG重鎖がAga2p融合物として表面で共有結合によりディスプレーされ、一方、軽鎖は可溶性分泌されたさらに別の実験で認められた。この実験では、Fc部分のマーキングにより細胞表面で重鎖を検出することが可能であった。さらにまた、抗原結合の検出はしかしながら成功しなかった。軽鎖の可溶性分泌のために、Rakestrawと共同研究者111が選択した分泌配列app8を用い、一方、重鎖はAGA2との融合物として発現させた。シグナル配列の選択は、S.セレビシエの異種タンパク質分泌に大きな影響を有することが知られている。なぜならば、シグナルペプチドはタンパク質が分泌されるか否かを決定し、細胞内に指定の部位を有し又は細胞膜の構成成分となるからである。ハシモト及び共同研究者らは、種々のシグナルペプチドの使用は分泌収量に顕著な相違をもたらすことを示すことができた178。軽鎖の分泌に用いたシグナルペプチドapp8は、MFα1ppシグナルペプチドによる進化アプローチによってタンパク質の効率的分泌のために特に選択されてきた。このシグナルペプチドは83アミノ酸のプレ-プロ配列であり、他のシグナルペプチドとは対照的に、ERへの移動のためのシグナルペプチド及びゴルジ装置内の膜所在プロテアーゼKex2pの両方によってプロセッシングされる。他方、重鎖はタンパク質Aga2pとの融合物として分泌された(Aga2pは2つのジスルフィド架橋を介して細胞壁タンパク質Aga1pと結合する)。成熟融合タンパク質のプロセッシングはここではおそらくER所在シグナルペプチダーゼを介してのみ達成される。軽鎖及び重鎖の種々のプロセッシングメカニズムは、抗原結合の検出が不可能なほど2つの鎖のアッセンブリングを困難にしていた可能性がある。抗体について上記で考察した非共有結合表面ディスプレーの事例では、重鎖及び軽鎖の両方が分泌配列app8とともに発現された。この事例では、両抗体鎖が同じプロセッシングメカニズムを受け、前記メカニズムはおそらく機能的アッセンブリング及び抗原との結合を可能にした。Rakestraw及び共同研究者らは、SECANTTMディスプレー技術を用いた酵母細胞上での全抗体の表面ディスプレーを2009年に示した126。表面ディスプレーのために、このためのビオチンアクセプターペプチドとの融合物として重鎖を発現させた。ビオチンアクセプターペプチドのビオチン化は共発現させたビオチンリガーゼBirAによって達成された。細胞表面の化学的ビオチン化及びアビジンとのインキュベーション後に、分泌されたビオチン化抗体は、細胞上のアビジン-ビオチン相互作用により提示される。この設定では、両抗体鎖は同じ分泌配列(app8)により発現された。それらは、S.セレビシエの全IgG分子の分泌及びビオチン-アビジン相互作用によるIgG分子の非共有結合表面ディスプレーを示した。酵母細胞上での全IgG分子の表面ディスプレーのさらに別の例はSazinskyと共同研究者らによって2008年に示された。彼らは、フルオレセイン特異的IgG分子を、化学的に結合させたフルオレセインに細胞表面で結合させることによってディスプレーした179。しかしながら、ZZドメインによる非共有結合表面ディスプレーとは対照的に、前記のタイプの表面ディスプレーは、IgG分子はそれらの抗原と結合することにより表面で捕捉されるという欠点を有する。結果的に、公知でかつ十分な親和性を有するタンパク質だけをディスプレーすることができる。さらにまた、各選別のために個々に結合物を有する細胞表面を作出する必要がある。記載した2つの表面ディスプレー系とは対照的に、本研究では、IgG分子はさらに改変されることなくディスプレーされ、それどころか、本方法では当該タンパク質に固有のIgG分子の構造が表面ディスプレーのために用いられる。したがって、抗体の抗原結合Fabフラグメントの自由な曝露が担保される。さらにまた、非共有結合方法は、更なるクローニングを実施することなく可溶性分泌のために選別したクローンを直接使用することを可能にする。それにもかかわらず、表面ディスプレーのために用いられた結合(ZZ:Fc相互作用)はアビジンとビオチン間の結合よりも安定性が低い。
改変された特性を有する変種を選別する非共有結合表面ディスプレーの首尾よい使用は、細胞上にディスプレーされるタンパク質変種とこの変種のための細胞内の遺伝情報との間の安定な連結が存在する場合にのみ達成され得る。この連結が存在しない場合、選別時の変種の同定は不可能である。酵母細胞での共有結合表面ディスプレー92と比べて、この特徴は本明細書に提示する系で特別な配慮を要求する。なぜならば、該表面ディスプレーはpH依存性で可逆性である。培養液の酸性化は、ZZドメインとFc部分との結合の低下をもたらすこと、及びこの結合はpH3.3より下ではもはや形成されないことが示された。さらにまた、タンパク質変種はZZドメインとFc部分の結合の解離及び会合により“不適切な(incorrect)”細胞と結合する可能性があり、このようにして偽陽性クローンが選別され得る。ZZ:Fc相互作用の安定性の究明はしたがって本研究の中心的要素であった。この相互作用は2つの異なる混合実験で実験的に究明された。第一の混合実験では、ZZドメインをディスプレーした細胞(標的細胞)をIgG分子の結合により高過剰のコントロール細胞から濃縮した。このために標的細胞は大きなコントロール細胞集団中に稀釈され、最初に0.001%若しくは0.0001%から100%に、又は3回の選別でそれぞれ90%に濃縮される。標的細胞は、セツキシマブ及び蛍光マーキング抗原(b-hsEGFR)の連続結合によってマークされた。100%又は90%の高率の濃縮はZZドメインとIgG分子の間の安定な相互作用を示す。さらにまた通常の選別方法(例えばMACS及びFACS)の首尾よい使用も示された。ZZドメインの高い発現率は疑念の余地なく標的細胞のマーキング及び選別に対してプラスの影響を有した。ZZドメインの発現は、ガラクトース含有培地での誘導後強力なGal1プロモーターによって調節されたので、多数のZZドメインが細胞表面でディスプレーされた。さらにまた高濃度のセツキシマブ及びhsEGFRを細胞のマーキングに用いて、標的細胞のZZドメインの完全な飽和を可能にした。結果として、標的細胞を強く蛍光でマーキングし、さらにFACSで明瞭にコントロールと識別することが可能であった(コントロール細胞は顕著に低い比較蛍光強度を示した)。IgG分子が細胞表面から解離し、細胞混合物中にこれらが分布されたとしても、コントロール細胞が利用可能な遊離IgG分子でマークされることは不可能であった(なぜならば、これらの分子はZZドメインをディスプレーしてなかったからである)。この事例では、細胞表面との弱い非特異的相互作用のみが予想されるはずで、前記は偽陽性コントロール細胞の選別には至らなかった。第二の混合実験では、標的細胞及びコントロール細胞の両方がZZドメインをディスプレーした。標的細胞はその他にhsGFR特異的VHH-Fc融合タンパク質を分泌し、一方、コントロール細胞はその他にEGFR非特異的VHH-Fc融合タンパク質を分泌した。前記2つのVHH-Fc融合タンパク質は特定の細胞集団でのみディスプレーされるはずである。標的細胞は、ディスプレーされたVHH-Fc融合タンパク質と蛍光マーキング抗原(b-hsEGFR)及びSA-PEとの結合によりマークされた。2つのVHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレー率の決定は、個々のFc部分のマーキングによって可能であり、さらにVHH-Fc融合タンパク質の発現の制御を可能にした。前記は選別条件の不適切さに至る発現の差異を回避する。0.001%及び0.0001%の最初の希釈物を調製した。3回連続選別によって、前記混合物で標的細胞を40%及び80%にそれぞれ濃縮することが可能であった。この混合物実験では、第一の混合実験とは対照的に、標的細胞のより低い濃縮率がもたらされた。さらにまた、標的細胞のより強い濃縮が、初めに低い希釈(0.001%)より初めに高い希釈(0.0001%)でもたらされた。この発見は無意味であり、おそらく混合物調製時又は分類時のエラーと説明できる。なぜならば、より高い希釈では、最初によりわずかな標的細胞が存在するので極めて高い要求が存在したからである。この混合実験は、分泌されたVHH-Fcタンパク質の大半はそれらタンパク質自身の細胞上で捕捉され、解離及び拡散によって隣接する細胞に到着しそこで結合したのではないことを示した。しかしながら、それにもかかわらず、ZZ:Fc相互作用における動態特性のために、一定の容量のVHH-Fc融合タンパク質がそれ自身のZZドメインから解離したので、解離VHH-Fc融合タンパク質の拡散を静止培養及び11%(w/v)のPEG8000の培養液への添加による粘性増加によって最小限にした。標的細胞及びコントロール細胞は同一配列のFc部分を有していたので、コントロール細胞のVHH-Fc融合タンパク質は、標的細胞のVHH-Fc融合タンパク質と同じ態様でZZドメインから解離すると推定された。hsEGFR特異的VHH-Fc融合タンパク質(標的細胞)の一定部分が近傍の細胞上の非占拠ZZドメインによって捕捉されるという可能性が存在する。これらドメインは標的細胞及びコントロール細胞の両方に存在し得る。しかしながら、不適切に捕捉されるVHH-Fc融合タンパク質の量は、ZZドメインとFc部分との間の高親和性のためにおそらく非常に低いであろう。さらにまた、不適切に捕捉されたVHH-Fc融合タンパク質は混合物全体に分散され高度に稀釈されるであろう。抗原による蛍光マーキングによって、これらのシグナルは続いてFACSの検出限界より低くなり、陰性コントロールの蛍光強度の領域に入るであろう。結果として、偽陽性細胞の選別は排除され得る。混合実験の複雑性を高めるために、標的細胞及びコントロール細胞を最初に混合し、続いて全細胞混合物の表面ディスプレーを誘導した。この理由により、表面ディスプレーの誘導のための培養時に、ZZドメインとVHH-Fc融合タンパク質との間に安定な結合が存在すると推定することができる。この手順は、分子ライブラリーのスクリーニングの手順を詳細に表わしている。酵母細胞での非共有結合表面ディスプレーの方法は、結果的に選別方法として特に適切であるように思われる。
酵母細胞での表面ディスプレーのための共有結合系と比べて、非共有結合方法の実質的な利点は、前記方法は、表面ディスプレーと可溶性分泌の態様間で選択的な切り換えの可能性に道を開くということである。この切換え可能機能は、ZZドメイン及びVHH-Fc融合タンパク質の発現のために異なるプロモーターを用いることによって達成された。この理由のために、ZZドメインの発現は、ガラクトース誘導性及びグルコース抑制性Gal1プロモーターによって調節され、一方、VHH-Fc融合タンパク質の発現はGAPDHプロモーターの手段によって構成的に生じる。VHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーのために、二重形質転換体をガラクトース含有SG培地で培養した。この事例では、ZZドメインはAga1pとの相互作用を介するAga2p融合物として細胞表面でディスプレーされ、VHH-Fc融合タンパク質は当該細胞上で捕捉されることが可能であった。前記は、ZZドメインの特異的検出抗体によるマーキング及び検出並びにVHHドメインの抗原結合によってFACSによって首尾よく検出された。VHH-Fc融合タンパク質の培養上清への可溶性分泌のために、細胞をグルコース含有SD培地に移した。Gal1プロモーターの抑制及びそれによるZZドメインの発現の抑制は、グルコース含有培地のために生じた141。結果として、VHH-Fc融合タンパク質が細胞表面で捕捉されることはもはや可能ではなく、前記は培養液中に分泌された。それにもかかわらず、残留ZZドメイン(培地の変更前に細胞上で既にディスプレーされていた)は、SD培地に移された後もなおディスプレーされていた(データは示されていない)。この理由のために、細胞をもう一度継代し、新規な培養を非常に低い細胞濃度で接種した。ZZドメインをなおディスプレーしている細胞を継代によって大いに希釈した。その後の世代の細胞は、ZZドメインの発現抑制のためにもはや表面ディスプレーを示さなかった。Rakestrawと共同研究者らによって樹立されたSECANTTMディスプレー技術を用いることによって、表面ディスプレーと可溶性産生を選択的に切り換えることは既に可能である。ZZドメインによる表面ディスプレーとは対照的に、本方法は、ディスプレーされるタンパク質のFc部分の存在に限定されない。そうではなくむしろ、表面ディスプレーは、タンパク質のin vivoビオチン化並びにビオチン及びアビジンにより細胞表面で化学的に結合物を形成させることにより可能になる。可溶性産生のためには、細胞での化学的結合物形成は単に省略される。しかしながら、この系はタンパク質の改変を要求し、前記はZZドメインによる表面ディスプレーの事例では必要ではない。IgG分子の表面ディスプレーの背景に対して、最終様式の抗体の表面ディスプレーは、したがって本研究で提示される非共有結合方法により可能である。結果として、人工的改変による抗体特性の構造的に関連する損傷は排除され得る。
実施例
(A)用いられる材料、細胞及び培地
(i)用いられる酵母株:
EBY100:MATαURA3-52trp1leu2Δ1his3Δ200pep4::HIS3prb1Δ1.6Rcan1 GAL (pIU211:URA3)、 “酵母ディスプレーベクターキット(Yeast Display Vector Kit)”(Invitrogen, ドイツ)の部分である;
BJ5464:MATaURA3-52trp1leu2Δ1his3Δ200pep4::HIS3prb1Δ1.6Rcan1GAL (ATCC No. 208288);
EBY100 URA-:5-FOA選別によって作出(Biochemie, AK Prof. Kolmar, TU Darmstadt,ドイツ);
BJ5464-URA-:5-FOA選別によって作出(Merck Serono, Merck KGaA, ドイツ);
APO-E:EBY100-URA-及びベクターpRS306-PDIの組み込み;
APO-B:BJ5464-URA-及びベクターpRS306-PDIの組み込み。
(ii)酵母細胞培養のための栄養培地:
YPD培地:20gデキストロース、20gペプトン、10g酵母抽出物
前記成分を滅菌水に溶解し、10mLのペンストレップ(PenStrep)ミックスを添加し、さらに前記混合物を滅菌水で1Lにした。滅菌ろ過後、前記培地を最長2カ月間4℃で保存した。寒天プレートのために、1.5%の寒天を前記培地に添加し、前記培地を121℃で20分間オートクレーブした。
(iii)グルコース含有SD培地+PEG8000:
26.7gのベースミックス(最少SDベース(Minimal SD Base))を490mLの滅菌水に溶解し、前記溶液を121℃で15分オートクレーブした。所望のDOミックスを別々に100mLの滅菌水で5.4gのNa2HPO4及び8.56gのNaH2PO4xH2Oとともに溶解し、前記溶液を同様に121℃で15分オートクレーブした。さらに別のバッチで、110gのPEG8000を400mLの滅菌水に溶解し、その間に攪拌を実施した。全ての成分を混合し、10mLのペンストレップミックスを加え、前記混合物を滅菌ろ過した。前記を最長4週間室温で保存した。
(iv)ガラクトース含有SD培地:
Gal1プロモーターの誘導のために、26.7g/Lのベースミックス(最少SDベース)の代わりに37gのガラクトース含有ベースミックス(最少SDベースGal/Raf)(Clontech laboratories Inc.)を用いた。前記ベースミックスを890mLの滅菌水に溶解し、前記溶液を121℃で15分オートクレーブした。所望のDOミックスを別々に100mLの滅菌水で5.4gのNa2HPO4及び8.56gのNaH2PO4xH2Oとともに溶解し、前記溶液を同様に121℃で15分オートクレーブした。前記2つの溶液を冷却した後、前記ベース及びDOミックスを一緒にし、10mLのペンストレップミックスを加えた。前記培地を最長4週間室温で保存した。
(v)ガラクトース含有SD培地+PEG8000:
37gのベースミックス(最少SDベースGal/Raf)を490mLの滅菌水に溶解し、前記溶液を121℃で15分オートクレーブした。所望のDOミックスを別々に100mLの滅菌水で5.4gのNa2HPO4及び8.56gのNaH2PO4xH2Oとともに溶解し、前記溶液を同様に121℃で15分オートクレーブした。さらに別のバッチで、110gのPEG8000を400mLの滅菌水に溶解し、その間に攪拌を実施し、さらに前記溶液を前記オートクレーブした培地に加えた。全成分の混合が完了した後、前記バッチを滅菌ろ過し、10mLのペンストレップミックスを加えた。前記培地を最長4週間室温で保存した。
エピソームコードG418耐性を有する形質転換体の選別のために、150mg/mLのジェネティシンを前記ガラクトース含有SD培地+PEG8000に添加した。
本研究の目的は、酵母細胞上でのIgG分子及びFc融合タンパク質の非共有結合表面ディスプレー、付随する選別、及びその後に続く選別タンパク質の生化学的特徴付けのための発現培養培地への当該タンパク質の切り換え可能分泌のための方法を開発することであった。酵母細胞上での非共有結合表面ディスプレーのための方法は、タンパク質Aから誘導され細胞表面に共有結合により固着されたFc結合ドメインの相互作用、及びVHH-Fc融合タンパク質又はIgG分子の共発現によって実現された。VHH-Fc融合タンパク質の培養上清への可溶性分泌は発現状態の改変によって達成された。結果として、選別クローンの可溶性産生のために、例えば相応する選別方法(例えばファージでの表面ディスプレー136又は共有結合Aga2p融合物としての表面ディスプレー92)で必要とされる発現プラスミドの時間を要する再フォーマット工程を省くことができる。本発明の有効性の立証のために、全IgGの使用と比べて実験の複雑さを減じるためにVHH-Fc融合タンパク質を用いた(なぜならば、VHH-Fc融合物は、IgG分子とは対照的に4鎖ではなく単に2鎖から構成されるタンパク質だからである(図4))。本明細書に示される結果の第一のセクションでは、PDI(タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ)を過剰発現する酵母株の作出、さらに前記に関してVHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌の改善が期待され前記改善が可能であったことが明示される。VHH-Fc融合タンパク質の分泌、分泌の最適化、酵母によって分泌されるVHH-Fc融合タンパク質の特徴付けがそれらの機能性を調査するために続いて明らかにされる。タンパク質Aから誘導したFc結合ドメインの酵母細胞での表面ディスプレー並びに可溶性分泌されたVHH-Fc融合タンパク質との共発現及び前記の表面ディスプレーが以下で示される。この事例では、Fc結合ドメインは、Fc部分との相互作用によって、VHH-Fc融合タンパク質の非共有結合表面ディスプレーの媒介分子として機能する。さらにまた、酵母細胞表面でのFc結合ドメインの提示態様及びヒトIgG分子の結合に関するその機能性が分析された。所望の特性を有するクローンの作出変種ライブラリーからの単離を高効率法の手段による非共有結合的方法を用いて可能にするために、遺伝子型-表現型連結の安定性が予め混合実験の補助の下に実証された。実験的試験のため及びVHH-Fc融合タンパク質のこの非共有結合の表面ディスプレーの遺伝子型-表現型連結の究明のために、2つの混合実験の結果、並びに3つの作出VHH系ライブラリーの作製及び特徴付け、並びに新規特性を有するVHH変種についてのこれらライブラリーの1つのスクリーニングが続いて示される。
酸化還元酵素PDI(タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ)はER所在酵素であり、基質タンパク質のジスルフィド架橋の酸化及び還元を触媒する137。既に刊行されている実験では、この酵素の過剰発現は酵母からscFvフラグメントの分泌増進をもたらすことが明示されている118。Rakestrawと共同研究者らは、PDIの過剰発現は酵母のIgG分泌量の顕著な増加をもたらすこと、及びPDI発現カセットの酵母ゲノムへの組み込みは異種タンパク質の分泌増進にPDIのエピソーム発現より好ましいことを2009年に示した111。S.セレビシエ株APO-Eの作出の結果は以下に提示される。PDI過剰発現はVHH-Fc融合タンパク質について該酵母株の分泌生産量を増加させることが前もって予想されていた。この酵母株は、PDI発現カセットのEBY100のゲノムへの染色体組み込みによって作出された。S.セレビシエ株APO-Bの作製は相応する態様で実施された(データは示されていない)。この事例では、PDI発現カセットはBJ5464株の染色体に同じ態様で組み込まれた。酵母に固有の酸化還元酵素PDIの増幅のために、静止条件下で増殖するEBY100培養から染色体DNAを抽出した。ギャップ修復PCRの手段によりオリゴデオキシリボヌクレオチドPDI-GR-up及びPDI-GR-rpを用いて、標的ベクターpESC-URAと相同領域を有するPDIの配列を増幅させた。1μLの染色体DNA調製物をPCRのマトリックスとして供した。続いて遺伝子配列を相同組換えの手段によって標的ベクターでクローニングした。相同組換えを開始するために、標的ベクターを制限エンドヌクレアーゼXhoIにより前もって直線化した。エレクトロコンピテントなEBY100URA-細胞を標的ベクター及びPDI遺伝子配列のPCR生成物で形質転換した。酵母株EBY100URA-細胞は、Stefan Zielonka(Biochemistry, TU Darmstadt, AK Prof. Kolmar)の好意により入手できた。この株については、栄養要求マーカーURA3を前もって5-フルオロオロチン酸選別によって変異させてあった138。配列決定の手段によってクローニングを調べた後、第二のクローニング工程で、作出ベクターpESC-URA-PDIの誘導性プロモーターGal1/10を構成的発現プロモーターGAPDHに置換し、ベクターpESC-pGAPDH-PDIを作製した。この目的のために、プラスミドpGAPZA(Life Technologies Corp.)のGAPDHプロモーターのDNA配列をオリゴデオキシリボヌクレオチドGAPDH-up及びGAPDH-rpを用いて増幅し、ベクターpESC-URA-PDIを制限エンドヌクレアーゼBstAPIにより直線化して精製した。その後で、酵母細胞で相同組換えの手段によってクローニングするために、エレクトロコンピテントなEBY100URA-細胞の直線化標的ベクター及びGAPDHのPCR生成物による形質転換を実施した。選別を実施し配列決定を繰り返した後、エレクトロコンピテントなEBY100URA-細胞をプラスミドpESC-URA-pGAPDH-PDIで形質転換した。続いてPDIのエピソーム発現をウェスタンブロット分析の手段によって調べた(図4)。この目的のために、50mLの培養を適切なグルコース含有SD培地で増殖させた。初めの細胞濃度は3x106細胞/mLであった。この培養から出発して、続いてさらに別の培養(50mL)をガラクトース含有培地で調製し、ガラクトース含有培地での遺伝子発現をさらに加えて調べた。両培養を3x107細胞/mLの濃度まで30℃で培養し、その後2x107細胞を所定の時点で取り出し、ウェスタンブロット分析のために処理した。このウェスタンブロット分析の説明は図5に示され、酸化還元酵素PDIの細胞内の量を表わす。特異的検出はマウス由来のPDI特異抗体で実施された。続いてPVDF膜上の検出はヤギのマウス特異的抗体(POD結合)で実施された。図5に示すウェスタンブロット分析は、エピソームコードPDIは、グルコース含有培地(図5のレーン2)及びガラクトース含有培地(図5のレーン3から7)の両方で発現されることを示し、前記をPDI特異的検出抗体により細胞溶解物で検出することが可能であった。この発見によって、PDI発現の調節を構成的GAPDHプロモーター発現に帰することができる。陰性コントロール(EBY100URA-細胞、図5のレーン1)と比べて、顕著に強いシグナルがウェスタンブロットで記録できた。PDIを過剰発現する株APO-Eの作出は次の工程で提示される。APO-Eを作製するために、GAPDHプロモーターの配列及びPDIの配列を含むPDI発現カセットがEBY100の酵母ゲノムに組み込まれた。この目的のために、PDI発現カセットの配列を組み込みベクターpRS306(ATCC)でクローニングした。さらにまた、制限エンドヌクレアーゼXhoI及びXbaIの認識部位をPCRの手段によって該発現カセットに貼り付けた。オリゴデオキシリボヌクレオチドXbaI-PDI-up及びXhoI-PDI-rpを用いた。PCR生成物を精製した後、該PCR生成物及び標的ベクターpRS306の制限エンドヌクレオチド分解を実施した。続いて、T4-DNAリガーゼを用いる標的ベクターpRS306と切断発現カセット(pGAPDH-PDI)の連結及びケミカルコンピテントな大腸菌TOP10細胞の形質転換を実施した。5クローンの増殖、それらのプラスミドの単離及び配列決定によって、正確な配列を有する1つのクローンを同定できた(pRS306-PDI)。前記をEBY100ゲノムへのPDI発現カセットへの組み込みに用いた。染色体組み込みの調製のために、ベクターpRS306-PDIの調製的プラスミド単離を記載のように実施した。その後で該プラスミドの直線化を制限エンドヌクレアーゼBstBIにより実施した。続いて2.5μgの直線化ベクターをEBY100URA-細胞の形質転換に用い、結果としてPDI発現カセットの酵母ゲノムへの特異的組み込みが可能になった。SD-URA寒天プレートで選別を実施した後、ベクターpRS306-PDIの染色体組み込みをウェスタンブロット分析の手段により実験的に精査した。この目的のために、6クローンをYPD培地で培養し、続いて適切なガラクトース含有SD培地に移した。4日後に各事例で2x107細胞を取り出し、ウェスタンブロットの手段によるPDI発現分析のために通常条件下で調製した。この結果は図6に示されている。前記6つの酵母培養の細胞溶解物における酸化還元酵素PDIの特異的検出(図6)によって、PDIの過剰発現を首尾よく確認できた(図6のレーン2から4)。APO-Eクローンと比べて、EBY100株のサンプルはウェスタンブロットで顕著に弱いシグナルを示した(図6のレーン1)。この発見は、ベクターpRS306-PDIのEBY100URA-株ゲノムへの首尾よい組み込みを示し、酸化還元酵素PDIは、EBY100株よりもこの株ではるかに強く発現されることを明示した。結論すれば、PDI発現カセットの安定な染色体組み込みのために、選別に用いられたURA3マーカーは5-フルオロオロチン酸の手段によって変異していた。VHH-Fc融合タンパク質の分泌に関するAPO-E株の直接的な応用性は以下で示される。
このセクションでは、VHH-Fc融合タンパク質の酵母細胞からの可溶性分泌の結果を提示し、S.セレビシエEBY100株とAPO-E株のVHH-Fc融合タンパク質の分泌生産量を調べる。VHHは一本鎖ドメインであるので、したがって完全なマルチ鎖IgG分子の使用と比べて実験設定の複雑さは低下した。個々の株の分泌生産量に加えて、タンパク質の分泌量への遺伝子量に対する影響も精査された。この目的のために、異なる複製起点を有しさらに前もって相同組換えにより酵母細胞で作出された発現プラスミドが用いられた。この目的のために、VHH-Fc構築物のDNA配列が、特異的なオリゴデオキシリボヌクレオチドを用いてプラスミドpYD-pGal1-app8-VHH1-Fcから増幅され、直線化ベクターpESC-Leuでクローニングされた。結果として、2ミクロン複製起点を有するベクターpESC-pGal1-app8-VHH1-Fcが作出された。複製起点CEN6/ARS4を有するプラスミドは細胞内の低コピー数によって、複製起点2ミクロンを有するプラスミドは細胞内の高コピー数によって識別される139。開始時に、エレクトロコンピテントなAPO-E及びEBY100細胞は、hsEGFR特異的VHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌のために、プラスミドpYD-pGal1-app8-VHH1-Fc及びpESC-pGal1-app8-VHH1-Fcで形質転換された。両プラスミドはまた、VHH遺伝子配列に加えて可溶性分泌のためにシグナルペプチドapp8をコードした。発現のために、PEG8000(11%(w/v))が添加された及びPEG8000が添加されていない適切なガラクトース含有SD培地を用いて、VHH-Fc融合タンパク質の培養上清への分泌に対するPEG8000の影響をさらに加えて決定した。PEG8000の添加は異種タンパク質の分泌に対して有利な影響を有し得ると前もって推定された。なぜならば、PEGは異種タンパク質の分泌に対してプラスの影響を有し得るということが文献で指摘されていたからである140。与えられた時点で(24、48、96時間)培養上清サンプルを採取し、上清に含まれるタンパク質をトリクロル酢酸の手段によって沈殿させた。細胞溶解物のサンプル処理は対応する態様で実施した。VHH-Fc融合タンパク質のマーキングは、ウサギのFc特異的一次抗体及びヤギのPOD結合ウサギ特異的二次抗体によりPVDF膜上で実施した。結果は図7に示されている。両構築物で、297位のFc部位のグリコシル化部位は位置特異的変異導入の手段によって前もって変異されてあり、N-グリコシル化時の酵母の公知の高マンノシル化は妨げられた。この目的のために、本位置の変異導入がPCRの手段によりオリゴデオキシリボヌクレオチドN-Q-HC-mutを用いて実施された。酵母によるタンパク質の分泌促進及び改善はこれにより所望された。図7Aは、PEG8000を添加しないでEBY100形質転換体の培養によってVHH-Fc構築物の発現及びその可溶性分泌の成功を示している。タンパク質は細胞溶解物(レーン1)で24時間後にさらに培養上清(レーン2)で96時間後に特異的に検出された。分析上清(レーン2)の体積は5x107細胞と等価の体積に一致した。VHH-Fcタンパク質は、ここでは(非還元状態)モノマー(〜40kD)形で、さらにダイマー形(〜90kD)でもほんの96時間の発現時間後に見出された。2つのVHH-Fc特異的バンドが同様に細胞溶解物(図7のレーン1)でも検出された。低い分子量のバンドをモノマーVHH-Fcタンパク質(〜40kD)に割り当てることは可能であった。なぜならば、それらは38kDから49kDのサイズを有していたからである。配列分析プログラムレーザージーン(商標)(Lasergene(商標)(DNASTAR Inc.))で支援されて、モノマーVHH-Fc融合タンパク質についてモノマー分子量は前もって39.6kDと決定されていた。第二のバンドはわずかに大きな分子量を有していた(図7のレーン1)。この大きいほうの形のタンパク質はVHH-Fc融合タンパク質のプロセッシングが生じなかった事例と予想することができた。なぜならば、シグナルペプチドapp8は8.7kDのサイズを有し、細胞のシグナルペプチダーゼによるプロセッシングが生じない事例では、VHH-Fc融合タンパク質の分子サイズはウェスタンブロットでは視覚的に増大するからである。以下の図8はプロセッシングされていない形(図8A)及びプロセッシングされた形(図8B)のタンパク質の図を示す。APO-E形質転換体の24時間後及び48時間後の培養上清のウェスタンブロット分析の結果は図7Bに示されている。プロットされた培養体積は、1x107細胞と等価の体積であった。この事例では、図7のレーン2と比べて5倍低い量の細胞の上清が分析された。図7Bは、さらに加えてCEN6/ARS4プラスミドのVHH-Fc融合タンパク質の培養上清への分泌(レーン3及び5)と2ミクロンプラスミドのそれ(レーン4及び6)との比較を示す。2つのプラスミドの遺伝子発現は同一の条件下で実施された。図7Aとは対照的に、遺伝子発現中の細胞の培養は11%(w/v)のPEG8000の存在下で実施された。図4.5Cで、Bと相互関係にある細胞溶解物はウェスタンブロットの手段によって分析された。それから分かるように、CEN6/ARS4プラスミドコードVHH-Fc融合タンパク質(図7Bのレーン3)及び2ミクロンプラスミドコードVHH-Fc融合タンパク質(図7Bのレーン4)の両方を培養上清で首尾よく検出することができた。PEG8000を添加されない培養とは対照的に、明瞭なシグナルが24時間後に既に検出可能であった。これはPEG8000の存在下におけるはるかに強いタンパク質の分泌を示した。さらにまた、弱いバンドシグナルが検出されたので、顕著に低い量のタンパク質が、等価の培養体積において2ミクロンプラスミドによる培養で見出された(図7Bのレーン3及び5とレーン4及び6を比較されたい)。細胞溶解物の分析物(図7C)では、2ミクロン培養の溶解物でのみVHH-Fc特異的シグナルを検出できることが明瞭になった(レーン8)。この発見は、CEN6/ARS4プラスミドを用いたときよりも高い遺伝子量にもかかわらず、2ミクロンプラスミドを用いたときはタンパク質の分泌効率が悪いことを示した。バンドシグナルは、プロセッシングされていない形態のサイズと一致する分子量を示した(図8A)。精査したCEN6/ARS4培養の細胞溶解物サンプルは24時間でも48時間でもVHH-Fc特異的シグナルを示さなかった。ここではもはやVHH-Fcタンパク質を細胞内で検出することは不可能で、前記は効率的なタンパク質の分泌を示している。VHH-Fc融合タンパク質の発現及び可溶性分泌は、11%(w/v)のPEG8000の存在下ではPEGを含まない培地よりも顕著に高いタンパク質収量をもたらすことが確認できた。CEN6/ARS4プラスミドを用いたとき、2ミクロンプラスミドを用いたときよりも顕著に大量のタンパク質の分泌及び検出が同様に可能であった。PEG8000の非存在下での発現の場合、2つの形態の異なるサイズのタンパク質(プロセッシングされていないより大きな形態及びプロセッシングされたより小さな形態)を細胞内で検出することができた。CEN6/ARS4プラスミドを含むPEG8000含有発現培養由来の細胞溶解物の分析では、2つの細胞内タンパク質形のいずれも検出できず、一方、2ミクロンプラスミドを含むPEG8000含有発現培養の細胞溶解物では非プロセッシングタンパク質形の出現が観察された。ポリエチレングリコール(特にPEG8000)のVHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌に対する影響に関する更なる分析のために、pYD-pGal1-app8-VHH1-FcAPO-E及びEBY100形質転換体から開始して、各事例で3つの異なる発現培養を調製した。前記はもっぱらそのPEG含有量が異なっていた(PEG無し、11%(w/v)のPEG8000及び11%(w/v)のPEG1500)。目的は、用いられたPEGの分子量が分泌されるタンパク質量に影響を有するか否かを実験的に精査することであった。ガラクトース含有SD培地での発現の終了後、1x107細胞に対応する培養体積を取り出し、遠心分離後に無細胞上清をウェスタンブロット分析のために調製した。分析を還元条件下で実施した。膜上のVHH-Fcタンパク質の検出は、Fc特異的検出抗体により上記に記載したように実施された。ウェスタンブロット分析の結果は図9に示されている。図9は、VHH-Fc融合タンパク質の培養上清への首尾よい分泌にポリエチレングリコールの添加は決定的であることを示している。このことはEBY100及びAPO-E発現培養の両方に当てはまった。PEGの添加がなければ、タンパク質はこの2株の培養上清で検出できなかった(レーン1及び4)。この実験では、分析された培養上清体積中へのタンパク質の首尾よい分泌は、PEG8000の存在下でのみ48時間以内に可能であった。さらにまた、用いられたPEGの分子量は、上清に存在するタンパク質の量に顕著な影響を示した。他方、PDIを過剰発現する酵母株の重要性はそれよりも低かった。図9の結果は、高分子量のPEG8000は、分子量1,500kDを有するPEGの添加よりも培養上清へのVHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌に適切であるという結論をもたらした。上記に記載した結果を基に、更なる実験の全てにおいて培養液へのPEG8000の添加がVHH-Fc融合タンパク質の分泌のために用いられた。APO-E及びEBY100発現培養から分泌されるタンパク質の量のより厳密な定量、したがって培養上清における可溶性タンパク質の収量に対するPDI過剰発現の影響は以下で提示される。
ここに提示した結果は、酵母株APO-E及びEBY100の分泌生産量の実験的分析を示す。既に述べたように、酸化還元酵素PDIの過剰発現はVHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌に対してプラスの影響を有すると推定された。この目的のために、エレクトロコンピテントなEBY100及びAPO-E細胞をプラスミドpYD-pGal1-app8-VHH1-Fcで形質転換し、選別寒天プレートで選別した。50mLの発現培養をガラクトース含有培地+PEG8000で調製した。最初の細胞濃度は1x107細胞/mLであった。培養上清中のタンパク質濃度を120時間にわたって決定した。上清の分析は、記載のように生物層干渉法の手段によりタンパク質Aバイオセンサーを用いて実施された。この期間にわたって決定された濃度は図10のグラフに提示されている。陰性コントロールとして、2%のBSAをガラクトース含有SD培地+PEG8000に添加し、公知濃度のHEK293発現VHH-Fc融合タンパク質を陽性コントロールとして用いた。タンパク質濃度の計算のために、このタンパク質に関する検量線を予め作成した。120時間にわたって両培養でVHH-Fc融合タンパク質を検出することができた(図10)。観察された傾向は、EBY100培養の上清よりもAPO-E発現培養の上清で当該期間にわたってより高いタンパク質濃度が測定されたということであった。もっとも高いタンパク質濃度はAPO-E培養で96時間後に測定された(1.9+/-0.2mg/mL)。この時点までタンパク質濃度は持続的に上昇し、その後0.7+/-0.1mg/mL(120時間)に低下した。EBY100発現培養では、APO-E発現と比べて顕著に低い測定値が当該期間にわたって達成された。実際最高のタンパク質濃度は72時間後に既に測定され得たが、APO-Eと比べて顕著に低い値であった(1.2+/-0.2mg/mL)。それにもかかわらず、前記値は72時間のAPO-E培養のタンパク質濃度(1.8+/-0.2mg/mLを比較されたい)より低かった。繰り返せばタンパク質濃度は既に72時間後に下降を開始した。120時間後に0.5+/-0.1mg/mLの濃度が測定された。96時間後のEBY100のタンパク質濃度とAPO-E発現培養のそれとの比較は、APO-E発現培養上清のVHH-Fc融合タンパク質の濃度は実質的にはEBY100発現培養上清のVHH-Fc融合タンパク質の2倍であることを明確にした。さらにまた、EBY100の上清のタンパク質濃度は培養72時間後に最大値に達することを観察できた。酵母培養の上清のVHH-Fc融合タンパク質濃度の定量のためのコントロールとして更なる実験を実施した。生物層干渉法(Octet RED)の手段によって検出された図10のシグナルがVHH-Fc特異的シグナルか否かを立証することができた。なぜならば、未加工値の分析中にPEG8000が測定に対して干渉効果を有することが観察されたからである。PEG8000の存在下及びPEG8000の非存在下におけるIgG分子の定量化のための2つの測定プロフィールが図11で一例として示される。PEG8000の存在下(図11A)で達成されたタンパク質Aバイオセンサーローディングの下層の厚さは、PBSに存在するIgG分子をローディングに使用した場合(図11B)と対照的に際立っていた。さらにまた、PEG8000の存在下では測定値の顕著なノイズ及びシグナル増加の先送りが観察できた。図11は、生物層干渉法の測定に対するPEG8000の影響を示す。PEG8000の添加のために、培地の粘性は大きく増加した。明瞭な干渉をIgG分子によるバイオセンサーのローディング中に観察でき、これは、図11Bと比べて図11Aの先送りされた不均一なセンサーシグナルの増加によってそれ自体を明らかにした。生物層干渉法の測定値を調査する目的のために、3つの独立した20mLの体積を有する発現培養を調製し、培養上清のタンパク質濃度を生物層干渉法()の手段によって決定した。シグナルの特異性を調べるために、これらの値を基準にして所定のVHH-Fcタンパク質濃度に対応する培養体積を計算した。続いて前記培養体積を、上清中のタンパク質をTCAで沈殿させた後にウェスタンブロットでFc特異的抗体を用い特異的な検出により精査した。生物層干渉法測定のために、120時間再び培養を実施した。実験開始時の細胞濃度は5x106細胞/mLであった。このとき、PDIを過剰発現する2つのS.セレビシエ株APO-E及びAPO-BをVHH-Fcタンパク質の可溶性分泌のために用い、培養上清のタンパク質濃度は与えられた時点で生物層干渉法の手段によって決定した。予め作成した検量線との比較によって、タンパク質濃度を未加工値から計算した。測定は48、72、96及び120時間後に実施した。決定した濃度はグラフに提示されている。前記グラフは、VHH-Fc融合タンパク質は、48時間の発現時間から全ての発現培養でタンパク質Aバイオセンサーとの相互作用により検出できること、及び各培養のタンパク質濃度を決定できることを示している。測定を立証するために、120時間後の各培養の培養体積(理論的には2μgのタンパク質を含む)を計算した。続いてこれらのサンプルをウェスタンブロットの手段によって分析した。オクテット測定のシグナルが測定エラーによって生じたとしたら(前記は例えば高度に粘性のPEG8000含有培地によって生じ得る)、この状況はウェスタンブロット分析に反映されるはずである。計算量の培養上清を遠心分離によって酵母細胞から分離し、タンパク質をTCAの手段によって沈殿させ、続いてLDS-PAGE及びウェスタンブロットの手段による分析のために調製した。PVDF膜上のVHH-Fcタンパク質のマーキングは、ウサギのFc特異的一次抗体及びヤギのウサギ特異的二次抗体(POD結合)の相互作用によって実施された。LDS-PAGE及びウェスタンブロット分析の結果は図13に提示されている。図13から、VHH-Fc融合タンパク質はLDS-PAGE及びウェスタンブロット分析の手段によって全てのサンプルで首尾よく検出できることが分かる。ウェスタンブロット分析の事例では、検出はFc特異的検出抗体によって実施された。視覚的に概算した膜上のバンドのシグナル強度は実質的に均一であるので、各発現培養からほぼ同一量のタンパク質がLDS-PAGE及びウェスタンブロット分析で用いられたと推定された。LDS-PAGE及びウェスタンブロット分析で用いられたタンパク質の量は予め実施した生物層干渉法から計算されたので、したがって生物層干渉法測定のシグナルを正当と確認することができた。生物層干渉法の手段によって得られた測定値は、VHH-Fc融合タンパク質とバイオセンサー表面のタンパク質Aとの特異的な相互作用により生じたということ、さらにPEG8000は測定結果に対して干渉的影響をもたないということが推定された。
更なる実験では、VHH-Fc融合タンパク質を大規模に製造し、続いて前記をタンパク質Aクロマトグラフィーの手段によって培養上清から精製した。APO-E及びAPO-B株の分泌生産量の更なる比較をさらにまた実施した。その後で特異的抗原(hsEGFR)との相互作用に関して精製タンパク質の機能性を精査した。なぜならば、酵母によって発現されたタンパク質はしばしば高グリコシル化されることが文献で公知だからである141。この目的のために、エレクトロコンピテントなAPO-E及びAPO-B細胞を、VHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌のためのプラスミド(pYD-pGal-app8-VHH1-Fc)で形質転換し、選別寒天プレートで選別した。前培養から出発して、発現培養には200mLの体積を接種した。VHH-Fc融合タンパク質の分泌は、11%(w/v)PEG8000の存在下で96時間実施した。なぜならば、この培養時間がVHH-Fc融合タンパク質の分泌に好ましいことが既に示されていたからである。発現が終了した後、ほぼ185mLの培養体積が残っていた。酵母細胞を培養上清から遠心分離によって分離した。続いてプロテアーゼ阻害剤(PIC III(1:1000))を上清に添加し、培養液中のプロテアーゼによるタンパク質の分解を低下させ、この混合物をスネークスキン(商標)(SnakeskinTM)透析チューブ(MW10kD)(Thermo Scientific GmbH)に移した。培養上清の透析を上記のように実施した。透析の終了後、個々の透析チューブの内容物を一緒にし、タンパク質Aハイトラップ1mLカラム(GE Healthcare Europe GmbH)の手段によってVHH-Fc融合タンパク質の親和性クロマトグラフィー精製に用いた。透析終了後の体積はほぼ400mLであった。体積の大きな増加のために、培養上清の粘性の低下が観察された。しかしながら一定の残留粘性がなお存在するので、PEG8000は上清から完全には除去されてなかったと推定された。粘性の低下はしたがって、PEG含有培地のPBSへの交換よりはむしろ培養上清の稀釈に帰すことができる。精製及びクロマトグラム(図14A)のスクリーニングの終了後、個々の対応する溶出分画を一緒にした。緩衝液のPBSへの交換をPD-10カラムの補助により実施した。その後、20μL部分をLDS-PAGEの手段によって分析した。結果は図14B及びCに提示されている。図14に提示した結果は、タンパク質A親和性クロマトグラフィーの手段によるAPO-E及びAPO-B発現培養の上清からの首尾よいVHH-Fc融合タンパク質の精製を示している。LDS-PAGEの手段による精製タンパク質の分析は十分な純度を示した(図14B及びC)。クロマトグラム(図14A)では、サンプル適用中の吸収の増加が両サンプルで検出できた。APO-Eについて最大吸収は113.1mAuで検出され、APO-Bについては42.2mAuで検出された。APO-E上清の事例では、吸収は、APO-B上清で達成された吸収のほぼ2倍の値に上昇した。サンプルの適用中に、VHH-Fcタンパク質は、APO-Eサンプル(図15のレーン4)でもAPO-Bサンプル(データは示されていない)でもウェスタンブロット分析の手段によるブレークスルーで検出されなかった。したがって、VHH-Fcタンパク質のカラムへの完全な結合を推定することが可能であった。タンパク質がカラムから溶出している間に、境界が明瞭なピークが両サンプルで検出され、7mL(APO-E)及び17mL(APO-B)に及んだ。緩衝液交換分画の分析をLDS-PAGEの手段によって実施した。APO-E及びAPO-Bのシグナル強度の視覚的比較によって(図12B及びCを比較されたい)、APO-Bと比べてAPO-Eの分画に顕著に大量のタンパク質を確認することができた。分子量及び吸光係数を取り入れながら、280nmの波長でタンパク質濃度をひとまとめにした分画でNanoDropの手段によって決定した。最終的に、0.34mgのVHH-Fc融合タンパク質が200mLのAPO-E発現培養から、0.1mgが200mLのAPO-B発現培養からタンパク質A親和性クロマトグラフィーの手段によって単離された。APO-Eによって発現されたタンパク質の機能性の分析は以下に提示される。
APO-E培養の上清からVHH-Fc融合タンパク質を精製した後、該タンパク質の機能性を調べた。文献からS.セレビシエはある種のペプチド配列を高グリコシル化し141、これは当該タンパク質の安定性、分泌及び生化学的特性に影響を及ぼし得ることが知られているので、VHH-Fcタンパク質と抗原hsEGFRとの結合特性を実験的に精査した。この目的のために、hsEGFR相互作用における動態測定を生物層干渉法の手段でタンパク質バイオセンサーを用いて実施した。実験に先駆けて、VHHドメインは抗原hsEGFRに強い特異性及び親和性を有することが判明していた。この目的のために、精製VHH-Fc融合タンパク質をタンパク質Aバイオセンサーの表面に固定した(図16A、工程1)。予めタンパク質A親和性クロマトグラフィーの手段によって精製したタンパク質をこのために用いた。さらに別のバッチで、VHH-Fc発現培養の培養上清をタンパク質Aバイオセンサーのローディングに用いた。洗浄工程(図16A、工程2)の後で、PBSにおける基準線の測定を実施した(図16A、工程3)。培養上清を用いる場合は、上清はPEG8000を含んでいるので2回の洗浄工程を実施した(図16B、工程2及び3)。PBS中での可溶性抗原hsEGFRとの会合(250nM、125nM、62.5nM及び15.6nM)を続いて実施した(図16A、工程4;16B、工程5)。VHH-Fc融合タンパク質とhsEGFRの解離はPBS中で実施した(図16A、工程5;図16B、工程6)。hsEGFR特異的VHHドメインとmmEGFR及びhs-cMet(前記に対してVHHドメインは特異性をもたない)との結合をコントロールとして分析した。この事例では、抗原mmEGFR及びhs-cMetとの生物分子相互作用は期待されなかった。測定の結果は図16に示されている。タンパク質Aバイオセンサーの首尾よいローディングが両方の精製タンパク質に関して及びタンパク質含有培養上清に関して可能であった。ローディングは最初の600秒でシグナルの連続増加によって検出できた(図16A及びB、工程1)。バイオセンサーのローディングに精製タンパク質を培養上清中に存在するタンパク質よりも非常に高い濃度で用いることが可能であったので、センサーシグナルは顕著に大きな増加とともに上昇し、センサーをはるかに高度にローディングすることが可能であった。3.1から3.5nmの層の厚さが達成された。培養上清によるセンサーのローディングはより小さな層の厚さを達成し平均して0.2nmであった(図16B)。その後の洗浄工程の間の水平コースは安定なローディングを示す(図16Aの工程2から3、16Bの工程2から4)。ローディングと最初の洗浄工程の間にシグナルの明瞭なジャンプを図16Bで認めることができる。この発見は、培養液(+PEG8000)からPBSにセンサーを浸漬することによって引き起こされる緩衝液の変化に帰すことができる。このジャンプは図16Aでは、ローディングのタンパク質は既にPBS中の溶液に存在していたので認められなかった。VHH-Fcをローディングされたセンサーでの可溶性hsEGFRの会合は工程4(図16A)及び工程5(図16B)で示される。会合の間、顕著なセンサーシグナルの増加が両事例で生じた。この増加は、hsEGFRとVHH-Fcをローディングされたセンサー表面との特異的結合を表していた。VHH-FcとhsEGFRとの間の相互作用の動態定数の分析のために、当該実験的データの統計フィッティングを実施した(図17)。動態定数は表4.1に提供される。
図17は、センサー表面に固定されたVHH-FcとhsEGFRとの間の特異的で濃度依存性の相互作用を両事例で示した。VHH-Fcとコントロールタンパク質mmEGFR及びcMetとの間では相互作用は生じなかった。生物層干渉法の手段によるVHH-FcとhsEGFRとの結合の分析は当該抗原に対するVHHドメインの親和性を明瞭に示した。VHHドメインとhsEGFRとの間の会合は、図17で着色曲線の特徴的な上昇によってその特徴が示されている。hsEGFRの解離はその後PBS中で生じ、着色曲線の連続的でゆっくりとした下降によって示された。タンパク質-タンパク質の平衡解離定数(KD)は会合と解離の分析によって計算された。精製タンパク質を用いて、0.9x10-8MのKD値が測定された(図17A)。培養上清の使用は1.2x10-8MのKD値をもたらした(図17B)。前もって実施した、HEK293発現培養の培養液上清のVHH-Fcタンパク質の測定では、8.4x10-8MのKD値と決定された。HEK293によって発現されたタンパク質はhsEGFR特異的VHHドメインのN-末端Fc融合物であった。
酵母によって分泌されたタンパク質のグリコシル化の分析を、LDS-PAGE及び酵素エンドグリコシダーゼH(EndoH)によるタンパク質の先行インキュベーションの手段によって実施した。EndoHは、タンパク質のN-グリコシル化のマンノース富裕オリゴ糖を特異的に切断する。酵母細胞での異種発現は多数の末端マンノース残基を有するN-グリコシル化をもたらすことが文献で公知である141。このいわゆる高マンノース化はタンパク質の分泌、可溶性及び折り畳みに影響を及ぼし得る142。酵母から分泌されたタンパク質の2μgをEndoHとともにインキュベートし、ポリアクリルアミドゲルにおける当該タンパク質の分子量及び泳動特性をLDS-PAGEの手段によって分析した。コントロールとして2μgのタンパク質、hsEGFR及びチオレドキシンを付け加えて同様にEndoHとともにインキュベートして分析した。結果は図18に示されている。処理したVHH-Fc融合タンパク質の泳動特性の差異は、EndoHとのインキュベーション及びその後のLDS-PAGEの手段による分析では全く確認できなかった(図18のレーン1及び2)。hsEGFRのEndoHとのインキュベーションによって、分子量の低下はポリアクリルアミドゲルでのタンパク質の異なる泳動特性から確認できた(レーン3及び4)。グリコシル化が存在しないために、チオレドキシンは分子量で変化を示さなかった(レーン5及び6)。これは、分泌されたVHH-Fcタンパク質には検出可能な高マンノシル化は存在しないことを示している。これまでに提示した結果では、VHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌がはっきりと示された。酸化還元酵素PDIの染色体上過剰発現はEBY100株の遺伝子操作によって達成されることを明示できた。PDI発現カセットのEBY100のゲノムに組み込むことによって、S.セレビシエのAPO-E株が作出された。この発現株を用いて、生化学的分析のために十分な量のVHH-Fc融合タンパク質を産生できた。さらにまた、APO-Eによって産生されたVHH-Fc融合タンパク質は抗原hsEGFRに対して期待される特異性及び親和性を示すことが見出された。酵母によって産生されたタンパク質及びHEK293によって産生されたタンパク質の平衡解離定数を比較することによって、共通性を有する値が決定され、前記は酵母によって産生されたタンパク質の再現性のある機能性を示した。しかしながら、この可溶性VHH-Fc産生の特徴は本明細書に提示する表面ディスプレーの切り換え可能な非共有結合の方法の部分しか表さないので、Fc結合ドメイン並びにVHH-Fc融合タンパク質及びIgG分子の表面ディスプレーの結果を以下の実施例で明示する。
VHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーはFc結合ドメインの共発現によって媒介された。酵母細胞での表面ディスプレーのために、前記は、酵母に固有の細胞壁タンパク質Aga2pとの融合タンパク質として発現され、このようにしてVHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーの直接的媒介物質として供された。この目的のために、Fc結合ドメインは、酵母細胞でのタンパク質表面ディスプレー用ベクターpYD1(Invitrogen)でクローニングされた(pYD1は本実験作業の開始時に市場で入手できた)。Fc結合ドメインの2つの異なる変種を作製し、それらの発現特性及び機能性に関して互いに比較した。これと関係して、前記機能性はヒトIgG分子のFc部分のドメインの結合性能に関連する。このために、Zドメイン67は一価型及び二価型でAga2p融合物として発現され、EBY100細胞の表面で発現された。Zドメインは黄色ブドウ球菌のタンパク質Aから誘導され、多様なIgGサブタイプのFc部分と結合し143、α-ヘリックス構造から成る69。ZZドメインはZドメイン配列の二重化状態である。文献では、二価ZZドメインは、一価ZドメインよりもヒトIgG分子のFc部分に対して顕著に高い親和性を有するとされる。この高い親和性はもっぱら極めて低いKoffによって達成される144。例示として、Jendebergと共同研究者がプラズモン共鳴検出(BIAcoreTM)の手段によって1995年に決定したFcとZ及びZZドメインの生物分子相互作用の動態定数を下記の表に示す(表4.2)144。
Fc結合ドメインの2つの変種の表面ディスプレー用プラスミドの構築のために、Zドメインのアミノ酸配列を文献検索67によって確認し、対応するDNA配列をAga2pのリーディングフレーム内でベクターpYD1によりクローニングした。pYD1ベクターに含まれる可動性GSリンカーはAga2pとFc結合ドメインとの間に獲得された。ZZドメインの構築のために、Zドメインの配列を連続して2回Aga2pのリーディングフレームのC-末端でクローニングした。さらにZZドメインの配列を合成し(Geneart AG)、ベクターpYD1でクローニングした(Geneart AG)。Zドメインは社内で提供されたpET13系プラスミドから増幅し、通常のクローニング技術でBamHI及びNheI切断部位を介してDNA制限切断及びDNAフラグメントの連結によってベクターpYD1でクローニングした。2つのベクター(pYD-Z及びpYD-ZZ)は、pYD1ベクターに含まれる親和性エピトープを用いずに作出され、したがってZ及びZZドメインは、更なる改変を受けることなくGSリンカーのみを介して細胞壁タンパク質Aga2pにより細胞表面に固着された。
どちらのFc結合ドメイン変種がFc融合タンパク質の非共有結合表面ディスプレーにもっとも適切かを調べるために、EBY100細胞を一方でプラスミドpYD-Zで、他方でプラスミドpYD-ZZで形質転換した。コントロールとして、EBY100細胞をプラスミドpYD1(Invitrogen)で形質転換した。S.セレビシエの受容体a-アグルチニンをFc結合ドメインの表面ディスプレーのための膜アンカーとして用いた。酵母細胞のこの表面受容体は2つのタンパク質Aga1p及びAga2p(それらはジスルフィド架橋を介して連結される)に分割され、このようにして細胞表面でのFc結合ドメインの共有結合固着を担保する。ここではBoderとWittrupによって樹立された酵母細胞での表面ディスプレーの方法が用いられた92。Aga1pはこの目的のためにEBY100のゲノムの染色体によりコードされ(同様にAga2pはエピソームでコードされる)、ガラクトース誘導Gal1プロモーターの制御下にある。AGA1(Aga1p)及びAGA2(Aga2p)の発現はガラクトースの存在で開始される。本実験では、AGA2P発現はZ又はZZドメインとの融合物として生じた(図20)。表面ディスプレーの発現は20℃で72時間実施された。細胞濃度を決定後、1x107細胞を取り出し、細胞表面のFc結合ドメインの変種をマーキングした。マーキングは、ヤギのFITC結合タンパク質A特異的抗体の結合によって実施した。その種の由来のためにこの抗体はそのFc部分を介しては結合しなかった145。その代わりに、結合は、該抗体によって認識されるFc結合ドメインのエピトープを介して生じた。このようにして調製した細胞を続いてGuava easyCyte HT 2Lフローサイトメーターでのフローサイトメトリーによって分析した。Fc結合ドメインをディスプレーした細胞のパーセンテージ含有量をマーカー領域M1の規定を介して決定した。前記マーカー領域は、可能な限り少ない陰性コントロール細胞がこの領域内に存在するように選択された。陰性コントロールは、アンカータンパク質Aga2pのみをディスプレーするEBY100形質転換体であった。測定のヒストグラムは図21に示されている。図19A及びBから分かるように、Z及びZZドメインの両方を72時間にわたってタンパク質A特異的抗体でマーキングしフローサイトメトリーで検出できた。Aga2p融合タンパク質としての発現によって、それらはAga1p及びAga2pの相互作用を介して細胞表面でディスプレーされた。24時間後、陰性コントロール(Aga2p)と比べて両変種は既に強い相対蛍光シグナルを示した。二価ZZドメインをディスプレーした細胞は、一価Zドメインを有する細胞のほぼ2倍強いシグナルを示した(370.7及び636.3を比較されたい)。この発見は、当該配列の二重化のために2倍の数の特異的エピトープが存在することによって説明できる。この状態は72時間後でもなおそれ自体を明白に示し、この時点で両変種のシグナル強度はほぼ30%に低下した(253.0及び445.1を比較されたい)。両変種について各事例で、異なる相対的シグナル強度を有する異なるサイズの2つの細胞集団が検出された。より小さい細胞集団は陰性コントロール(Aga2p)に対応するシグナル強度を示した。大きいほうの細胞集団のシグナルは顕著に高い強度を有していた。結果として、それらを陰性コントロールと明瞭に区別できた。このことから、M1内に存在する細胞はそれらの表面にFc結合ドメインをディスプレーし、このようにして前記細胞を特異的にマーキングできると結論された。ZZドメインの表面ディスプレーを可視化するために蛍光顕微鏡写真を作製した。この目的のために、ガラクトース含有SD培地で48時間培養した後で、1x107のEBY100細胞(pYD-ZZ形質転換体)をヤギのタンパク質A特異的抗体(FITC結合)でマーキングした。プラスミドpYD1(Invitorogen)で形質転換しさらに同様にヤギのタンパク質A特異的抗体(FITC結合)とインキュベートしたEBY100細胞をコントロールとして供した(図22C)。蛍光顕微鏡分析では、表面にZZドメインをディスプレーした細胞のみが陽性蛍光シグナルを示した。この顕微鏡写真の図は図4.20に示されている。
結論すれば、表面ディスプレーされた二価のZZドメインは、一価のZドメインよりもタンパク質A特異的抗体及び抗体セツキシマブではるかに強くマーキングされるということができる。したがって、ZZドメインは、更なる全ての実験のためのFc結合ドメインとして選択された。次のセクションは、VHH-Fc融合タンパク質及びIgG分子の非共有結合表面ディスプレーに関する。
EBY100細胞でのZZドメインの首尾よい提示が先行する実施例で示された。前記はさらにまたヒトIgG分子の結合に関して適切な機能性を示した。APO-E株を用いることによって、該タンパク質の精製及び特徴付けのために十分な規模でVHH-Fc融合タンパク質を生産できることが示された。培地添加物PEG8000を用いることによって、培地添加物PEG8000による分泌と比べて、VHH-Fc融合タンパク質の分泌は顕著に増加することが同様に示された。以下の実施例は、EBY100細胞でZZドメインによって媒介されるVHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレー及び遺伝子型-表現型連結の実験的分析の結果を提示する。これらの結果は、VHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌とZZドメインのディスプレーが首尾よく結びつけられて、酵母細胞上で抗体を表面ディスプレーする非共有結合の方法が提供されることを示している。VHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーのために、エレクトロコンピテントなEBY100細胞を、プラスミドpYD-ZZ(Fc結合ドメインのディスプレー)及びpYD-pGal1-app8-VHH1-Fc(VHH-Fc融合タンパク質の分泌)で形質転換した。2つの構築物の同時発現はガラクトース含有培地での細胞の培養により誘導した。VHH-Fcタンパク質の表面ディスプレーに対するPEG8000の影響を分析するために、PEG8000の含有量が異なる(PEG8000無し(-PEG)、11%(w/v)(+PEG))多様な発現培養を調製した。細胞の培養は上記のように実施した。その後、細胞を蛍光マーキング及びフローサイトメトリーの手段によりGuava easyCyte HT 2Lで分析した。細胞上のVHHドメインのマーキングは、ビオチン化抗原hsEGFR(1μM)及びSA-PEとの特異的相互作用により実施された(図24A及びB)。細胞上のZZドメインのマーキングはヤギのタンパク質A特異的FITC結合抗体で実施された(図24C)。
ここまではVHH-Fc融合タンパク質をZZドメインとの相互作用によりEBY100細胞の表面で首尾よくディスプレーすることができた。これは、より複雑な分子(例えば全IgG分子)をZZドメインによりディスプレーすることもまた可能か否かという疑問をもたらした。VHH-Fc融合タンパク質と比べて軽鎖と重鎖のアッセンブリーは抗体のより貧弱なディスプレーをもたらすことは予め推測された。なぜなら、VHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーには2つの同一タンパク質鎖のアッセンブリーを必要とするだけだからである。IgG分子の表面ディスプレーの分析のために、エレクトロコンピテントなEBY100細胞をプラスミドpYD-gGal1-app8-HC、pYD-gGal1-app8-LC及びpYD-ZZ-G418で形質転換し、適切な寒天プレートで選別した。S.セレビシエ株EBY100は形質転換のために2つの自由な栄養要求マーカー(Trp/Leu)を有するだけであるので、プラスミドpYD-ZZ-G418の選別は耐性マーカーG418を介してもたらされた。この目的のために、プラスミドの栄養要求マーカーを耐性カセットkanMX4で相同組換えの手段により置き換えた。このために、プラスミドpFA6a-kanMX4(Biochemie, TU Darmstadt, AK Prof. Kolmar)のkanMX4カセットをオリゴデオキシリボヌクレオチドGR-kanMX4-up及びGR-kanMX4-rpにより増幅し、Bsu361の手段によって直線化したベクターpYD-ZZでクローニングした。Fabフラグメントの配列領域はhsEGFR特異的抗体マツズマブ(Merck Serono)をコードした。Fc部分をコードする配列は抗体セツキシマブから選んだ。Fc部分では、297位に存在するアミノ酸アスパラギンをグルタミンに変異させ、酵母で公知のN-グリコシル化時の高マンノシル化を回避した。IgG重鎖及び軽鎖はさらにまたシグナルペプチドapp8を介して分泌された。発現培養は3mLの体積を含み、適切なガラクトース含有SD培地+PEG8000で実施された。発現は6ウェルプレートのウェルで48時間、20℃で実施された。24及び48時間後に、培養の細胞濃度を決定し、1x107細胞を取り出した。前記細胞のマーキングはビオチン化hsEGFR及びSA-PEを用いて実施した。Fc部分のマーキングは、ヤギのFc特異的F(ab’)2フラグメント(AlexaFluorTM 647結合物)で実施した。続いて、このようにして調製した細胞をフローサイトメトリーによりGuava easyCyte HT 2Lで分析した。結果は図26に示されている。コントロールとして、特異的抗原の非存在下でマーキングを実施した。マーカー領域(M1)は、コントロールの測定ではシグナルがM1内で検出されないように規定された(図26C)。図26から、抗体マツズマブ(IgG分子)はZZドメインを介してEBY100細胞の表面で首尾よくディスプレーされ得ることを認めることができる。なぜならば、抗原(hsEGFR)との結合により抗体の特異性を検出できたからである。24時間後(図26A)及び48時間後(図26B)の両方で、陰性コントロールと比べて顕著に強い相対蛍光シグナル(M1)が検出された(図26C)。48時間後に、IgGディスプレー細胞のパーセンテージ含有量は、24時間測定と比べて7%増加した。細胞上のhsEGFRの結合は重鎖及び軽鎖の存在下でのみ生じると推定され、この理由のためにIgG分子の完全な表面ディスプレーが推定された。さらに別の実験で、抗体マツズマブの表面ディスプレーを別の設定で分析した。この理由のために、エレクトロコンピテントな細胞をプラスミドpYD-Aga2p-HC及びpYD-pGal1-app8-LCで形質転換し、適切な選別寒天プレートで選別した。この実験では、IgG重鎖はAga2p融合物として発現され、一方、軽鎖はapp8シグナルペプチドの補助により可溶性分泌された。静止前培養から続いてガラクトース含有SD培地+PEG8000を用いて50mLの発現培養を調製し、通常的条件下で細胞を72時間培養した。24及び72時間後に、1μMのb-hsEGFR及びSA-PE、並びにFc特異的F(ab’)2フラグメントAlexaFluorTM647で1x107細胞をマーキングし、Guava easyCyte HT 2Lフローサイトメーターでフローサイトメトリーにより精査した。結果は図27に示されている。細胞のFACS分析(図27)は、IgG分子のFc部分は実際特異的に検出可能であるが(相対蛍光、赤色)、ビオチン化抗原hsEGFRの結合は検出できない(相対蛍光、黄色)ことを示した。このことから、IgG分子は非機能的にディスプレーされると結論できた。実際、Fc特異的抗体により24時間と比べて72時間後にはほぼ28%の大きな細胞集団を検出することが可能であったが、それにもかかわらず特異的抗原結合は発現時間を延長しても検出できなかった。ZZ媒介ディスプレーと比べて、重鎖の共有結合Aga2p融合物としてのマツズマブ表面ディスプレーはこの設定では成功しなかった。
ZZドメインとの相互作用によるVHH-Fc融合タンパク質の非共有結合表面ディスプレーの安定性を分析するために、VHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーを32時間にわたってフローサイトメトリーで精査した。この目的のために、エレクトロコンピテントなEBY100細胞をプラスミドpYD-ZZ及びpYD-pGal1-app8-VHH1-Fcで形質転換し、適切な選別寒天プレートで選別した。VHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーの発現を48時間実施した。発現を終了し該培養の細胞濃度を決定した後、2x107細胞を取り出し、200μLのPBSに再懸濁し、100μLの細胞懸濁物を別個の反応容器に移した。2つのサンプルをペレットにし、20μLのPBSに再懸濁した。一方のサンプルをb-hsEGFR(1μM)及びSA-PEでマーキングした。他方のサンプルはマーキングしなかった。この2つのサンプルをフローサイトメトリーで分析し、続いて均等部分を混合した。該細胞混合物に1mLまでPBSを満たし、暗所にて32時間4℃で保存した。所定の時間(図29)に該混合物から細胞を採取し、フローサイトメトリーで精査し、平均相対蛍光を決定した。最初の平均相対蛍光強度を決定するために、細胞を混合した後すぐに測定を同様に実施した(図28B)。この平均相対蛍光強度を仮に100%値と定義した。混合前、1:1で混合及び32時間後のサンプルのFACSヒストグラムは図28に示されている。蛍光マーキングEBY100細胞(赤色)及び非マーキングEBY100細胞(黒色)の蛍光シグナルは図28Aに示されている。2つのサンプルは明瞭に異なる平均相対蛍光強度を示した(黒色:23.9.赤色:260.3)。マーキングされたサンプルでは、非マーキングサンプルの相対蛍光シグナルと一致する細胞の含有量は30.1%であった。これらの細胞はマーカー領域M1内に存在せず、VHH-Fcタンパク質をディスプレーしなかった。これらの細胞のパーセンテージ含有量は2つのサンプルの混合によって増加した。細胞の56.4%がここで非マーキングサンプルと一致する相対蛍光強度を示した(図28A、黒色)。光を排除しながら混合物を4℃で32時間保存した後でパーセンテージ比はほぼ同じままであったが、FACSヒストグラムのピーク形は変化した。最初の測定(図28B)と比べて、ピークの境界は互いにより不明瞭になっている(図28C)。図29では、所定の時点で測定された平均相対蛍光強度が時間に対してプロットされている。図29から、混合物の平均相対蛍光は分析時間の間に低下することが明瞭となった。混合した最初の時点で、平均相対蛍光強度は152.2であった。暗所で32時間4℃での保存後に113.2の値が決定された。これは26.9%のシグナル強度の低下に一致した。この低下は、ZZドメインからVHH-Fc融合タンパク質が解離したことによるか、VHHドメインからビオチン化抗原hsEGFRが解離したことによるか、又は蛍光発色団の退色によって引き起こされた。しかしながらアビジンとビオチンの結合はもっとも強い非共有結合の1つであるので146、この状況は除外することが可能であり、さらにサンプルは光を排除して保存されたので、蛍光発色団の退色は無視され得ると推定された。したがって、シグナル強度の低下は、主にZZドメインからVHH-Fc融合タンパク質の解離及びVHH:hsEGFR複合体の解離よると決定された。ZZドメインとVHH-Fc融合タンパク質との間の結合の安定性は本方法の要求のためには十分であるということができる。なぜならば、十分な時間にわたって安全なものとして前記を検出することができたからである。遺伝子型-表現型連結の安定性をさらに精査するために、更なる混合実験を実施した。
VHH-Fc融合タンパク質の非共有結合表面ディスプレーの方法の性能をさらに実験的に精査するために、酵母細胞で3つの異なるhsEGFRをディスプレーすることができるか、及び抗原結合に対して決定されるシグナル強度がVHHとhsEGFRとの間の生物分子相互作用について前もって決定されたたKD値と相関性を有するか否かを、以下の実験で精査した。個々のVHHドメインの平衡解離定数(KD)の決定を生物層干渉法の手段によって実施した。この目的のために、多様なVHHドメインを酵母発現培養で可溶性製造し、該発現培養の個々の上清をKDの決定に用いた。VHH-Fcタンパク質A(VHH-A)については11nMのKD値、VFF-Fcタンパク質B(VHH-B)については23nMのKD値及びVHH-Fcタンパク質C(VHH-C)については5nMのKD値が測定された(図30)。多様な発現ベクターの作製のために、VHHドメインAの配列(pYD-pGal1-app8-VHH1-Fc)を各事例で相同組換えの手段によってVHHドメインVHH-B及びVHH-Cの配列で置換した。さらにまた、該ドメインを特異的オリゴデオキシリボヌクレオチド(pYD VHHB up/rp及びpYD VHHC up/rp)を用い院内で利用可能にしたpTT5系発現プラスミドから増幅させ、EcoRI及びSacIIの手段によって直線化したプラスミドpYD-pGal1-app8-VHH1-Fcでクローニングした。このクローニングは上記で説明したように実施した。続いてエレクトロコンピテントなEBY100細胞を多様なVHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌のために該プラスミドで形質転換し(pYD-pGal1-app8-VHH1-Fc、pYD-pGal1-app8-VHHB-Fc及びpYD-pGal1-app8-VHHC-Fc)、ZZドメインのためのプラスミド及び3つの別々の発現培養を調製した。発現は通常的条件下で48時間実施した。その後で各培養の1x107細胞を取り出し、種々の濃度のb-hsEGFRでマーキングした。このために、b-hsEGFRを200nM、150nM、100nM、20nM、10nM、1nM及び0.1nMの濃度でマーキングに用いた。さらにまた、細胞をSA-PE及びFc特異的F(ab’)2フラグメント(AlexaFluorTM647結合物)でマーキングした。陰性コントロールとして、b-hsEGFRの非存在下でサンプルをマーキングした。続いて、サンプルをGuava easyCyte HT 2Lフローサイトメーターで分析した。多様なVHH-Fc融合タンパク質(100nMのb-hsEGFR及びSA-PEでマーキング)の表面ディスプレーの測定の結果は図30で一例として示されている。表面ディスプレーの標準化のために、マーカー領域M1を規定し、これらの集団の平均相対蛍光強度を使用したhsEGFRの濃度に対してプロットした。これらの結果は図31に示されている。前もって実施したKD値の決定のための生物層干渉法測定も図30に付け加えて示されている。表4.3はVHH:hsEGFR相互作用について決定された動態定数を示す。
抗原hsEGFRに対する多様なVHHドメインのKD値の相違は、ZZドメインにより媒介されるFc融合物としてのVHHドメインの表面ディスプレーの事例にもまた反映された(図31)。200から20nMの濃度範囲で、異なる平均相対蛍光強度が表面ディスプレーされたタンパク質で検出できた。同じ量の抗原でマーキングしたとき、VHH-Cは、VHH-A及びVHH-Bよりも強い相対蛍光シグナルを示した。この発見は、予め決定したKD値と比べることによって確認することができた。この実験はこの系の性能を例証した。なぜならば、小さなKDの相違(5nMと11nM)さえもFACS分析で再現可能であったからである。
非共有結合表面ディスプレー系の遺伝子型-表現型連結の安定性を実験的に精査するために、種々の混合実験を実施した147。この目的のために、高過剰のコントロール細胞で標的細胞を希釈し、続いてこれらを磁気活性化細胞分類(MACS)及び蛍光活性化細胞分類(FACS)の連続繰り返しで濃縮した。濃縮メカニズムは、生物分子相互作用の検出に基づく。標的細胞及びコントロール細胞を混合することによって、特異的細胞の高希釈のために一定の多様性を反映するモデルライブラリータイプが作出された。2つの異なる混合実験を実施した(それらは以下で説明される)。混合物の調製のために、酵母培養の光学密度1は1x107細胞に一致するという仮定のもとに細胞数が計算された137。この2つの混合実験の結果は、ZZドメインとVHH-Fc融合タンパク質との間の相互作用は、ディスプレーされたVHHドメインの特異的結合特性の故に、通常のHTS方法(例えばMACS及びFACS)の手段によって超過剰のコントロール細胞から標的細胞を濃縮及び単離するために十分に安定であるという強力な証拠を提供したということができる。
非共有結合表面ディスプレー方法の補助により、選択タンパクを更なる特徴付けのために可溶形で生産することができる。これは、通常の方法とは対照的に、本明細書で提供する方法を用いれば時間を要する中間工程を実施することなく可能である。表面ディスプレーの類似する方法(例えばAga2p融合物として酵母細胞上で共有結合表面ディスプレーを用いる)では、タンパク質の可溶性生産のために選択されたクローンを再クローニングする必要があった。本明細書で提示する方法は、VHH-Fc融合タンパク質はZZドメインとの相互作用を介して非共有結合的態様でディスプレーされるという決定的な刷新を提供する。それにもかかわらず、2つのベクター(Aga2pを介するZZドメインの発現及び共有結合表面固着のための1つのベクター、VHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌のための第二のベクター)を使用する必要性は本方法に固有である。プラスミドの単離及び酵母細胞の形質転換再開の手段によるVHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌のためのプラスミドの単離を避けるために、切り換え可能なVHH-Fc融合タンパク質の培養上清への発現と可溶性分泌のためのさらに別のプラスミドを作製した。この目的のために、酵母細胞での相同性組換えの手段によって、プラスミドpYD-pGal-app8-VHH1-Fc中の誘導性Gal1プロモーターを構成的発現プロモーターGAPDHで置き換えた。GAPDHプロモーターのDNA配列をオリゴデオキシリボヌクレオチドgapdh-pYD-up及びgapdh-pYD-rp並びにプラスミドpGAPZ(Life Technologies Corp.)を用いてPCRの手段により増幅させた。上述のオリゴデオキシリボヌクレオチドを用いることによって、プラスミドpYD-pGal-app8-VHH1-Fcと相同な配列領域をその末端に有するPCR生成物が作出された。酵母細胞で相同組換えを開始させるために、このプラスミドを制限エンドヌクレアーゼKpnIで直線化した。制限切断はアガロースゲル電気泳動の手段によって調べた(データは示されていない)。KpnIの認識配列は、プラスミドpYD-pGal-app8-VHH1-FcのGal1プロモーターのDNA配列の領域内に前もって位置特異的変異導入の手段によって挿入されていた。このために、オリゴデオキシリボヌクレオチドpGal-KpnI-up及びpGal-KpnI-rpを用いた。変異導入は、フランキングオリゴデオキシリボヌクレオチド(pYD pex up/rp)を用いる配列決定の手段によって調査及び確認した。酵母細胞での相同性組換えのために、KpnIで直線化したプラスミド及びGAPDHプロモーターの配列のためのPCR生成物をEBY100細胞の形質転換に用いた。選別後、大腸菌の形質転換、プラスミド単離、及びその後に続く所望のプラスミド配列をもつクローンの配列決定が確認された。続いて、首尾よいプロモーター置換を示すプラスミドpYD-pGAPDH-app8-VHH1-FcをプラスミドpYD-ZZとともに、エレクトロコンピテントなEBY100細胞の形質転換に用いた。切り換え可能な発現は、ガラクトース含有SD培地からグルコース含有SD培地への移転を介してこれらの二重形質転換体で達成される(移転の結果として、Gal1プロモーターの抑圧が生じZZドメインはもはや発現されない)。コントロールのために、プラスミドpYD-pGal-app8-VHH1-Fcを同様にプラスミドpYD-ZZとともに EBY100細胞の形質転換に用いた。可溶性VHH-Fc分泌は、ZZドメインの表面ディスプレーと同様にGal1プロモーターによって調節され、その結果、グルコース含有培地への細胞の移転を介するVHH-Fc融合タンパク質の可溶性分泌は生じ得ない。選別を適切な選別寒天培地で実施したとき、各事例で、1つのクローンをグルコース含有SD培地+PEG8000の調製に用いた。培養後に、培養を適切なガラクトース含有SD培地+PEG8000で調製した。ZZドメインの表面ディスプレー及びVHH-Fc融合タンパク質に関する2つのプロモーター対(pGal1/pGal1及びpGal1/pGAPDH)の作動態様は図32に示されている。この目的のために、グルコース含有培養の細胞及びガラクトース含有培養の細胞をFc-特異的F(ab’)2フラグメント(AlexaFluorTM647結合物)及びタンパク質A特異的抗体(FITC結合物)でマーキングし、Guava easyCyte HT 2Lフローサイトメーターで分析した。Fc-特異的抗体及びタンパク質A特異的抗体による細胞の2色マーキングによって、VHH-Fc融合タンパク質及びZZドメインの表面ディスプレーを同時に検出することが可能であった。その結果、フローサイトメーターでのプロモーターの機能態様の調査が可能となった。多様な培養条件下でのVHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーに関する2つのプロモーター対の均一な作動態様は、図32に示すFACSヒストグラムによって例証された。グルコース含有培地での培養によって、ZZドメインも(灰色、図32A及びB)VHH-Fc融合タンパク質も(灰色、図32C及びD)細胞表面でディスプレーされなかった。ガラクトース含有培地で細胞を培養することによって、両プロモーター対の使用は、Fc-特異的検出抗体との相互作用によりZZドメイン(赤色、図32A及びB)及びVHH-Fc融合タンパク質(赤色、図32C及びD)の細胞表面でのマーキング、及びフローサイトメトリーによる検出を可能にした。
VHH-Fc融合タンパク質の表面ディスプレーのための非共有結合方法の使用を、多様なVHHライブラリーの作出及び酵母細胞での前記の表面ディスプレーによって試みた。VHHライブラリーを文献で公知の多様な技術を用いて作製した。種々の配列多様性を有するライブラリーをそれによって作出した。
上記に引用された文献及び本発明に関係する引用されなかった文献:
Claims (14)
- 以下の工程を含む、特定の特性を有する多様な抗体、生物学的に活性な抗体フラグメント又は抗体ドメインを、酵母細胞の表面での前記抗体、抗体フラグメント又は抗体ドメインの発現、分泌及び提示によって製造する方法:
(a)適切なプラスミドの形態の第一及び第二の核酸分子がトランスフェクトされてある酵母種サッカロミセス・セレビシエの宿主細胞を提供する工程、ここで、該第一の核酸分子は融合タンパク質をコードし、前記融合タンパク質は、細胞表面アンカータンパク質、Fc結合ドメイン、及び培養条件に応じて融合タンパク質の発現を制御する調節可能プロモーターを実質的に含み、該第二の核酸分子は、抗体、軽鎖及び重鎖の形態の前記抗体フラグメント又は抗体ドメインの前記集団をコードし、かつ恒常的に活性なプロモーターの制御下にあり、
(b)分子量が>5000のポリエチレングリコール(PEG)の存在下、培養液中で、多様な抗体、抗体フラグメント又は抗体ドメインを同時に共発現しつつ、酵母細胞において、融合タンパク質を発現させる工程、ここで前記免疫グロブリン分子及びさらに融合タンパク質は酵母細胞から可溶化形で分泌され、
(c)酵母細胞表面に固着されている発現された融合タンパク質のFc結合ドメインに非共有結合形で結合される多様な抗体、抗体フラグメント又は抗体ドメインを該細胞表面でディスプレーする工程、
(d)融合タンパク質又は免疫グロブリン分子に結合されているか又はその中に含まれている検出マーカーの補助により、Fc結合ドメインと結合した多様な抗体、生物学的に活性な抗体フラグメント又は抗体ドメインの所望される種々の表現型特性又は結合特性にしたがって酵母細胞を選別及び単離する工程、
(e)融合タンパク質の発現又は実質的に更なる発現を不可能にする培養条件下で、多様な抗体、生物学的に活性な抗体フラグメント又は抗体ドメインを特定の選別酵母細胞集団で発現させる工程、及び
(f)選択した表現型特性又は結合特性を有する多様な抗体を培養液から単離する工程。 - 細胞表面アンカータンパク質がa-アグルチニン又はアルファ-アグルチニンである、請求項1に記載の方法。
- 融合タンパク質がaga2pであり、Fc結合ドメインを含む、請求項1又は2に記載の方法。
- Fc結合ドメインがタンパク質A ZZドメインである、請求項3に記載の方法。
- 発現され細胞表面で分泌される融合タンパク質が、aga2p及びタンパク質A ZZドメインを含み、さらに該細胞表面に結合しディスプレーされるaga1pサブユニットと結合する、請求項4に記載の方法。
- GAL1プロモーターが、ZZドメイン及びaga2p由来の融合タンパク質の発現のために用いられる、請求項5に記載の方法。
- GAPDHプロモーターが、抗体、抗体フラグメント又は抗体ドメインの発現のために構成的に用いられる、請求項5又は6に記載の方法。
- PEG8000又はより大きな分子量のPEGが用いられる、請求項1−7のいずれか1項に記載の方法。
- 抗体フラグメント又は抗体ドメインがFabフラグメント又はVHHドメインを含む、請求項1−8のいずれか1項に記載の方法。
- VHHドメインがVHH-Fc融合タンパク質である、請求項9に記載の方法。
- 酵母株EBY100が用いられる、請求項1−10のいずれか1項に記載の方法。
- 別々のプラスミドが第一及び第二の核酸分子のために用いられる、請求項1−11のいずれか1項に記載の方法。
- pYD1が出発プラスミドとして用いられる、請求項12に記載の方法。
- 選択された表現型特性又は結合特性を有する全抗体、Fabフラグメント又は他の生物学的に活性な抗体ドメインの作出及び選別のための抗体ライブラリーを作製するための、請求項1−13のいずれか1項に記載の方法。
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