(第1実施形態)
以下、図面を用いて、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態のシリンダ回転型圧縮機1(以下、単に圧縮機1と記載する。)は、車両用空調装置にて車室内へ送風される送風空気を冷却する蒸気圧縮式の冷凍サイクル装置に適用されており、この冷凍サイクル装置において圧縮対象流体である冷媒を圧縮して吐出する機能を果たす。
また、この冷凍サイクル装置では、冷媒としてHFC系冷媒(具体的には、R134a)を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、冷媒には圧縮機1の摺動部位を潤滑する潤滑油である冷凍機油が混入されており、冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
圧縮機1は、図1に示すように、その外殻を形成するハウジング10の内部に、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機構部20、および圧縮機構部20を駆動する電動機部(電動モータ部)30を収容した電動圧縮機として構成されている。
まず、ハウジング10は、複数の金属製部材を組み合わせることによって構成されており、内部に略円柱状の空間を形成する密閉容器構造のものである。
より具体的には、ハウジング10は、図1に示すように、有底円筒状(カップ状)のメインハウジング11、メインハウジング11の開口部を閉塞するように配置された有底円筒状のサブハウジング12、およびサブハウジング12の開口部を閉塞するように配置された円板状の蓋部材13を組み合わせることによって形成されている。
なお、メインハウジング11、サブハウジング12、および蓋部材13の当接部には、Oリング等からなる図示しないシール部材が介在されており、各当接部から冷媒が漏れることはない。
メインハウジング11の筒状側面には、圧縮機構部20にて昇圧された高圧冷媒をハウジング10の外部(具体的には、冷凍サイクル装置の凝縮器の冷媒入口側)へ吐出する吐出ポート11aが形成されている。サブハウジング12の筒状側面には、ハウジング10の外部から低圧冷媒(具体的には、冷凍サイクル装置の蒸発器から流出した低圧冷媒)を吸入する吸入ポート12aが形成されている。
サブハウジング12と蓋部材13との間には、吸入ポート12aから吸入された低圧冷媒を、圧縮機構部20の第1、第2圧縮室Va、Vbへ導くためのハウジング側吸入通路13aが形成されている。さらに、蓋部材13のサブハウジング12側の面と反対側の面には、電動機部30へ電力を供給する駆動回路(インバータ)30aが取り付けられている。
次に、電動機部30は、固定子としてのステータ31を有している。ステータ31は、金属磁性材料で形成されたステータコア31a、およびステータコア31aに巻き付けられたステータコイル31bによって構成されており、メインハウジング11の筒状側面の内周面に圧入、焼嵌め、ボルト締め等の手段によって固定されている。
そして、駆動回路30aから、密封端子(ハーメチックシール端子)30bを介して、ステータコイル31bに電力が供給されると、ステータ31の内周側に配置されたシリンダ21を回転させる回転磁界が発生する。シリンダ21は、円筒状の金属磁性材料で形成されており、後述するように、圧縮機構部20の第1、第2圧縮室Va、Vbを形成するものである。
さらに、シリンダ21には、図2、図3の断面図に示すように、マグネット(永久磁石)32が固定されている。これにより、シリンダ21は、電動機部30の回転子としての機能を兼ね備える。そして、シリンダ21は、ステータ31が生じる回転磁界によって中心軸C1周りに回転する。
つまり、本実施形態の圧縮機1では、電動機部30の回転子と圧縮機構部20のシリンダ21が一体的に構成されている。もちろん、電動機部30の回転子と圧縮機構部20のシリンダ21とを別部材で構成し、圧入等の手段によって一体化させてもよい。さらに、電動機部30の固定子(ステータコア31a、およびステータコア31a)は、シリンダ21の外周側に配置されている。
次に、圧縮機構部20について説明する。本実施形態では、圧縮機構部20として、第1圧縮機構部20aおよび第2圧縮機構部20bの2つが設けられている。第1圧縮機構部20aおよび第2圧縮機構部20bの基本的構成は、互いに同等である。また、第1、第2圧縮機構部20a、20bは、ハウジング10の内部で冷媒流れに対して並列的に接続されている。
さらに、第1、第2圧縮機構部20a、20bは、図1、図5に示すように、シリンダ21の軸方向に並んで配置されている。そこで、本実施形態では、2つの圧縮機構部のうち、メインハウジング11の底面側(軸方向一端側)に配置されるものを第1圧縮機構部20aとし、サブハウジング12側(軸方向他端側)に配置されるものを第2圧縮機構部20bとする。
ここで、図1、図5等では、第2圧縮機構部20bの構成部材のうち、第1圧縮機構部20aの同等の構成部材に対応するものの符号を、末尾のアルファベットを「a」から「b」へ変更して示している。例えば、第2圧縮機構部20aの構成部材のうち、第1圧縮機構部20aの第1ロータ22aに対応する構成部材である第2ロータについては、「22b」という符号を付している。
第1圧縮機構部20aは、シリンダ21、第1ロータ22a、第1ベーン23a、シャフト24等によって構成されている。第2圧縮機構部20bは、シリンダ21、第2ロータ22b、第2ベーン23b、シャフト24等によって構成されている。つまり、図1に示すように、シリンダ21およびシャフト24では、メインハウジング11の底面側の一部が第1圧縮機構部20aを構成しており、サブハウジング12側の別の一部が第2圧縮機構部20bを構成している。
シリンダ21は、前述の如く、電動機部30の回転子として中心軸C1周りに回転するとともに、内部に第1圧縮機構部20aの第1圧縮室Vaおよび第2圧縮機構部20bの第2圧縮室Vbを形成する円筒状部材である。シリンダ21の軸方向一端側には、シリンダ21の開口端部を閉塞する閉塞用部材である第1サイドプレート25aがボルト締め等の手段によって固定されている。また、シリンダ21の軸方向他端側には、同様に第2サイドプレート25bが固定されている。
第1、第2サイドプレート25a、25bは、シリンダ21の回転軸に略垂直な方向へ広がる円板状部、および円板状部の中心部に配置されて軸方向に突出するボス部を有している。さらに、ボス部には、それぞれ第1、第2サイドプレート25a、25bの表裏を貫通する第1、第2軸穴252a、252bが形成されている。
これらの第1、第2軸穴252a、252bには、それぞれ図示しない軸受け機構が配置されており、この軸受け機構にシャフト24が挿入されていることによって、シリンダ21がシャフト24に対して回転自在に支持される。シャフト24の両端部は、それぞれハウジング10(具体的には、メインハウジング11およびサブハウジング12)に固定されている。従って、シャフト24がハウジング10に対して回転することはない。
さらに、本実施形態のシリンダ21は、内部に互いに区画された第1圧縮室Vaおよび第2圧縮室Vbを形成している。このため、シリンダ21の内部の第1ロータ22aと第2ロータ22bとの間には、第1圧縮室Vaと第2圧縮室Vbとを区画するための円板状の中間サイドプレート25cが配置されている。この中間サイドプレート25cも、第1、第2サイドプレート25a、25bと同様の機能を有している。
つまり、本実施形態のシリンダ21のうち、第1圧縮機構部20aを構成する部位の軸方向両端部は、第1サイドプレート25aおよび中間サイドプレート25cによって閉塞されている。また、シリンダ21のうち、第2圧縮機構部20bを構成する部位の軸方向両端部は、第2サイドプレート25bおよび中間サイドプレート25cによって閉塞されている。
換言すると、第1サイドプレート25aは、中間サイドプレート25c、第1ロータ22a等とともに、第1圧縮室Vaを仕切っている。また、第2サイドプレート25bは、中間サイドプレート25c、第2ロータ22b等とともに、第2圧縮室Vbを仕切っている。さらに、中間サイドプレート25cは、第1ロータ22aと第2ロータ22bとの間に配置されて、第1圧縮室Vaと第2圧縮室Vbとを仕切っている。
なお、本実施形態では、シリンダ21と中間サイドプレート25cとを一体的に構成しているが、シリンダ21と中間サイドプレート25cとを別部材で構成し、圧入等の手段によって一体化させてもよい。また、本実施形態では、第1ロータ22aの軸方向長さおよび第2ロータ22bの軸方向長さが同等となっており、第1圧縮室Vaおよび第2圧縮室Vbは、それぞれの最大容積が互いに略同等の容積となるように仕切られている。
シャフト24は、シリンダ21(具体的には、シリンダ21に固定された各サイドプレート25a、25b、25c)、第1ロータ22a、および第2ロータ22bを回転自在に支持する略円筒状の部材である。
シャフト24の軸方向中央部には、サブハウジング12側の端部よりも外径寸法の小さい偏心部24cが設けられている。この偏心部24cの中心軸は、シリンダ21の中心軸C1に対して偏心した偏心軸C2である。さらに、偏心部24cには、図示しない軸受け機構を介して、第1、第2ロータ22a、22bが回転自在に支持されている。
このため、第1、第2ロータ22a、22bが回転する際には、共通する偏心軸C2周りに回転する。換言すると、本実施形態では、第1ロータ22aの偏心軸と第2ロータ22bの偏心軸が同軸上に配置されている。
さらに、本実施形態のシャフト24では、中心軸C1および偏心軸C2を形成するとともに、偏心軸C2の周囲に第1、第2ロータ22a、22bを回転自在に支持するために、軸方向一端側の径を軸方向他端側の径よりも小さく形成している。
より詳細には、図1に示すように、本実施形態のシャフト24では、中心軸C1を中心とする軸方向一端側の径が最も細く形成され、中心軸C1を中心とする軸方向他端側の径が最も太く形成されている。さらに、偏心軸C2を中心とする軸方向中央部の径が、軸方向一端側の径と軸方向他端側の径との中間値になっている。
また、シャフト24の軸方向一端側は、前述した第1サイドプレート25aに形成された第1軸穴252aに挿入されており、シャフト24の軸方向他端側は、第2サイドプレート25bに形成された第2軸穴252bに挿入されている。このため、第1軸穴252aの径は、第2軸穴252bの径よりも小さく形成されている。
つまり、本実施形態では、第1サイドプレート25aおよび第2サイドプレート25bが、それぞれ特許請求の範囲に記載された小径部側サイドプレートおよび大径部側サイドプレートに対応している。さらに、第1軸穴252aおよび第2軸穴252bが、それぞれ特許請求の範囲に記載された小径部側軸穴および大径部側軸穴に対応している。
また、シャフト24の内部には、図1に示すように、ハウジング側吸入通路13aに連通して、外部から流入した低圧冷媒を第1、第2圧縮室Va、Vb側へ導くためのシャフト側吸入通路24dが形成されている。シャフト24の外周面には、シャフト側吸入通路24dを流通する低圧冷媒を流出させる複数(本実施形態では4つ)の第1、第2シャフト側出口穴240a、240bが開口している。
シャフト24の外周面には、図1、図5に示すように、シャフト24の外周面を内周側に凹ませた第1、第2シャフト側凹部241a、241bが形成されている。そして、第1、第2シャフト側出口穴240a、240bは、それぞれ第1、第2シャフト側凹部241a、241bが形成された部位に開口している。
このため、第1、第2シャフト側出口穴240a、240bは、第1、第2シャフト側凹部241a、241bの内部に形成される円環状の第1、第2シャフト側連通用空間242a、242bに連通している。
第1ロータ22aは、シリンダ21の内部に配置されてシリンダ21の中心軸方向に延びる円筒状部材である。第1ロータ22aの軸方向長さは、図1に示すように、シャフト24およびシリンダ21の第1圧縮機構部20aを構成する部位の軸方向長さと略同等の寸法に形成されている。
さらに、第1ロータ22aの外径寸法は、シリンダ21の内部に形成される円柱状空間の内径寸法よりも小さく形成されている。より詳細には、第1ロータ22aの外径寸法は、図2〜図4に示すように、偏心軸C2の軸方向から見たときに、第1ロータ22aの外周面とシリンダ21の内周面が1箇所の接触点C3で接触するように設定されている。
第1ロータ22aと中間サイドプレート25cとの間、および第1ロータ22aと第1サイドプレート25aとの間には、図2等に示すように、伝動機構が配置されている。伝動機構は、第1ロータ22aがシリンダ21と同期回転するように、シリンダ21(より具体的には、シリンダ21とともに回転する中間サイドプレート25cおよび第1サイドプレート25a)から第1ロータ22aへ回転駆動力を伝達する動力伝達手段である。
この伝動機構については、第1ロータ22aと中間サイドプレート25cとの間に配置されたものを例に説明する。伝動機構は、図2に示すように、第1ロータ22aの中間サイドプレート25c側の面に形成された複数(本実施形態では、4つ)の円形状の第1穴部221a、および中間サイドプレート25cから第1ロータ22a側へ中心軸方向に突出する複数(本実施形態では、4つ)の駆動ピン251cによって構成されている。
これらの複数の駆動ピン251cは、第1穴部221aよりも小径に形成されており、第1ロータ22a側へ向かって軸方向に突出して、それぞれ第1穴部221aに嵌め込まれている。このため、駆動ピン251cおよび第1穴部221aは、いわゆるピン−ホール式の自転防止機構と同等の機構を構成している。第1ロータ22aと第1サイドプレート25aとの間に設けられる伝動機構についても同様である。
本実施形態の伝動機構によれば、シリンダ21が中心軸C1周りに回転すると、各駆動ピン251cとシャフト24の偏心部24cとの相対位置(相対距離)が変化する。この相対位置(相対距離)の変化によって、第1ロータ22aの第1穴部221aの側壁面が駆動ピン251cから回転方向の荷重を受ける。その結果、第1ロータ22aは、シリンダ21の回転に同期して偏心軸C2周りに回転する。
ここで、本実施形態の伝動機構では、複数の駆動ピン251cおよび第1穴部221aによって、順次、第1ロータ22aへ動力を伝達している。従って、複数の駆動ピン251cおよび第1穴部221aは、偏心軸C2周りに等角度間隔に配置されていることが望ましい。さらに、それぞれの第1穴部221aには、駆動ピン251cが接触する外周側壁面の摩耗を抑制するための金属製のリング部材223aが嵌め込まれている。
さらに、第1ロータ22aと第1サイドプレート25aとの間に配置された伝動機構も、図4に示すように、同様に構成されている。
次に、第1ロータ22aの外周面には、図2、図3に示すように、軸方向の全域に亘って内周側へ凹んだ第1溝部(第1スリット部)222aが形成されている。第1溝部222aには、後述する第1ベーン23aが摺動可能に嵌め込まれている。
第1溝部222aは、偏心軸C2の軸方向から見たときに、第1ベーン23aの摺動する面(第1ベーン23aとの摩擦面)が、第1ロータ22aの径方向に対して傾斜している。より詳細には、第1溝部222aは、第1ベーン23aの摺動する面が、内周側から外周側へ向かって回転方向へ傾斜している。このため、第1溝部222aに嵌め込まれた第1ベーン23aも、第1ロータ22aの径方向に対して傾斜した方向に変位する。
第1ロータ22aの軸方向中央部の内部には、図3に示すように、第1溝部222aと同様に径方向に対して傾斜して延びて、第1ロータ22aの内周側(第1シャフト側連通用空間242a側)と外周側(第1圧縮室Va側)とを連通させる第1ロータ側吸入通路224aが形成されている。これにより、外部からシャフト側吸入通路24dへ流入した冷媒は、第1ロータ側吸入通路224a側へ導かれる。
さらに、図3に示されるように、第1ロータ側吸入通路224aの出口穴は、第1溝部222aに対して回転方向後方側の第1ロータ22aの外周面に開口している。このため、第1ロータ側吸入通路224aおよび第1溝部222aは、互いに区画されて、それぞれの内部空間同士が連通しないように形成されている。
第1ベーン23aは、第1ロータ22aの外周面とシリンダ21の内周面との間に形成される第1圧縮室Vaを仕切る板状の仕切り部材である。第1ベーン23aの軸方向長さは、第1ロータ22aの軸方向長さと略同等の寸法に形成されている。さらに、第1ベーン23aの外周側先端部は、シリンダ21の内周面に対して摺動可能に配置されている。
従って、本実施形態の第1圧縮機構部20aでは、シリンダ21の内壁面、第1ロータ22aの外周面、第1ベーン23aの板面、第1サイドプレート25a、中間サイドプレート25cに囲まれた空間によって、第1圧縮室Vaが形成される。つまり、第1ベーン23aは、シリンダ21の内周面と第1ロータ22aの外周面との間に形成される第1圧縮室Vaを仕切っている。
また、第1サイドプレート25aには、第1圧縮室Vaにて圧縮された冷媒をハウジング10の内部に形成された吐出空間10aへ吐出させる第1吐出穴251aが形成されている。さらに、第1サイドプレート25aには、第1吐出穴251aから吐出空間10aへ流出した冷媒が、第1吐出穴251aを介して第1圧縮室Vaへ逆流してしまうことを抑制するリード弁からなる第1吐出弁が配置されている。
さらに、第1サイドプレート25aには、図1、図4に示すように、第1ロータ22aに対向する側の面を凹ませることによって形成された凹み部253、および吐出空間10a内の冷媒の圧力を凹み部253内へ導く圧力導入通路254が形成されている。この凹み部253は、図4に示すように、中心軸C1の軸方向から見たときに、中心軸C1周りに円環状に形成されている。
より詳細には、中心軸C1の軸方向から見たときの第1サイドプレート25aの面積を小径部側面積SSと定義し、第2サイドプレート25bの面積を大径部側面積SLと定義したときに、凹み部253が形成された領域の面積は、小径部側面積SSから大径部側面積SLを減算した面積差(SS−SL)と同等、あるいは面積差(SS−SL)よりも僅かに大きな値に設定されている。
このため、中心軸C1の軸方向から見たときに、凹み部253が形成された領域の外径は、第2サイドプレート25bの第2軸穴252bの外径と同等、あるいは第2軸穴252bの外径よりも僅かに大きな値になっている。換言すると、本実施形態では、凹み部253が形成された領域の面積が、面積差(SS−SL)以上の大きさに設定されている。
次に、第2圧縮機構部20について説明する。前述の如く、第2圧縮機構部20bの基本的構成は、第1圧縮機構部20aと同様である。従って、第2ロータ22bは、図1に示すように、シャフト24およびシリンダ21の第2圧縮機構部20bを構成する部位の軸方向長さと略同等の寸法の円筒状部材で構成されている。
さらに、第2ロータ22bの偏心軸C2と第1ロータ22aの偏心軸C2は、同軸上に配置されているので、偏心軸C2の軸方向から見たときに、第2ロータ22bの外周面とシリンダ21の内周面は、第1ロータ22aと同様に、図2、図3に示す接触点C3で接触している。
第2ロータ22bと中間サイドプレート25cとの間、および第2ロータ22bと第1サイドプレート25aとの間には、第1ロータ22aへ回転駆動力を伝達する伝導機構と同様の伝動機構が設けられている。従って、第2ロータ22bには、複数の駆動ピン251cが嵌め込まれる複数の円形状の第2穴部が形成されている。この第2穴部にも、第1穴部221aと同様のリング部材が嵌め込まれている。
また、第2ロータ22bの外周面には、図2、図3に破線で示すように、軸方向の全域に亘って内周側へ凹んだ第2溝部(第2スリット部)222bが形成されている。第2溝部222bには、第1溝部222aの第1ベーン23aと同様に、第2ベーン23bが摺動可能に嵌め込まれている。
第2ロータ22bの軸方向中央部の内部には、図3に破線で示すように、第2溝部222bと同様に径方向に傾斜して延びて、第2ロータ22bの内周側と外周側(第2圧縮室Vb側)とを連通させる第2ロータ側吸入通路224bが形成されている。
従って、本実施形態の第2圧縮機構部20bでは、シリンダ21の内壁面、第2ロータ22bの外周面、第2ベーン23bの板面、第2サイドプレート25b、中間サイドプレート25cに囲まれた空間によって、第2圧縮室Vbが形成される。つまり、第2ベーン23bは、シリンダ21の内周面と第2ロータ22bの外周面との間に形成される第2圧縮室Vbを仕切っている。
また、第2サイドプレート25bには、第2圧縮室Vbにて圧縮された冷媒を吐出空間10aへ吐出させる第2吐出穴251bが形成されている。さらに、第2サイドプレート25bには、第2吐出穴251bから吐出空間10aへ流出した冷媒が、第2吐出穴251bを介して第2圧縮室Vbへ逆流してしまうことを抑制するリード弁からなる第2吐出弁が配置されている。
なお、本実施形態の第2サイドプレート25bには、第1サイドプレート25aの凹み部253および圧力導入通路254に対応する構成は形成されていない。
さらに、本実施形態の第2圧縮機構部20bでは、図2、図3に破線で示すように、第2ベーン23b、第2ロータ側吸入通路224b、第2サイドプレート25bの第2吐出穴251b等が、第1圧縮機構部20aの第1ベーン23a、第1ロータ側吸入通路224a、第1サイドプレート25aの第1吐出穴251a等に対して、略180°位相のずれた位置に配置されている。
次に、図6を用いて、本実施形態の圧縮機1の作動について説明する。図6は、圧縮機1の作動状態を説明するために、シリンダ21の回転に伴う第1圧縮室Vaの変化を連続的に示した説明図である。
つまり、図6のシリンダ21の各回転角θに対応する断面図では、図3と同等の断面図における第1ロータ側吸入通路224a、および第1ベーン23a等の位置を実線で示している。また、図6では、各回転角θにおける第2ロータ側吸入通路224b、および第2ベーン23bの位置を破線で示している。さらに、図6では、図示の明確化のため、シリンダ21の回転角θ=0°に対応する断面図に各構成部材の符号を付している。
まず、回転角θが0°になっている際には、接触点C3と第1ベーン23aの外周側先端部が重なっている。この状態では、第1ベーン23aの回転方向前方側に最大容積の第1圧縮室Vaが形成されるとともに、第1ベーン23aの回転方向後方側にも、最小容積(すなわち、容積が0)の吸入行程の第1圧縮室Vaが形成されている。
ここで、吸入行程の第1圧縮室Vaとは、容積を拡大させる行程となっている第1圧縮室Vaを意味し、圧縮行程の第1圧縮室Vaとは、容積を縮小させる行程となっている第1圧縮室Vaを意味している。
さらに、回転角θが0°から増加するに伴って、図6の回転角θ=45°〜315°に示すように、シリンダ21、第1ロータ22a、および第1ベーン23aが変位して、第1ベーン23aの回転方向後方側に形成される吸入行程の第1圧縮室Vaの容積が増加する。
これにより、サブハウジング12に形成された吸入ポート12aから吸入された低圧冷媒が、ハウジング側吸入通路13a→シャフト側吸入通路24dの第1シャフト側出口穴240a→第1ロータ側吸入通路224aの順に流れて、吸入行程の第1圧縮室Va内へ流入する。
この際、第1ベーン23aには、ロータ22の回転に伴う遠心力が作用するので、第1ベーン23aの外周側先端部がシリンダ21の内周面に押しつけられる。これにより、第1ベーン23aは、吸入行程の第1圧縮室Vaと圧縮行程の第1圧縮室Vaとを区画している。
そして、回転角θが360°に達すると(すなわち、回転角θ=0°に戻ると)、吸入行程の第1圧縮室Vaが最大容積となる。さらに、回転角θが360°から増加すると、回転角θ=0°〜360°で容積を増加させた吸入行程の第1圧縮室Vaと第1ロータ側吸入通路224aとの連通が遮断される。これにより、第1ベーン23aの回転方向前方側に、圧縮行程の第1圧縮室Vaが形成される。
さらに、回転角θが360°から増加するに伴って、図6の回転角θ=405°〜675°に点ハッチングで示すように、第1ベーン23aの回転方向前方側に形成された圧縮行程の第1圧縮室Vaの容積が縮小する。
これにより、圧縮行程の第1圧縮室Va内の冷媒圧力が上昇する。そして、第1圧縮室Va内の冷媒圧力が吐出空間10a内の圧力に応じて決定される第1吐出弁の開弁圧(すなわち、第1圧縮室Vaの最大圧力)を超えると、第1圧縮室Va内の冷媒が第1吐出穴251aを介して吐出空間10aへ吐出される。
なお、上記の作動説明では、第1圧縮機構部20aの作動態様の明確化のため、回転角θが0°から720°まで変化する間の第1圧縮室Vaの変化を説明したが、実際には、回転角θが0°から360°まで変化する際に説明した冷媒の吸入行程と、回転角θが360°から720°まで変化する際に説明した冷媒の圧縮行程は、シリンダ21が1回転する際に同時に行われる。
また、第2圧縮機構部20bについても同様に作動して、冷媒の圧縮および吸入が行われる。この際、第2圧縮機構部20bでは、第2ベーン23b等が、第1圧縮機構部20aの第1ベーン23a等に対して、180°位相のずれた位置に配置されている。従って、圧縮行程の第2圧縮室Vbでは、第1圧縮室Vaに対して、180°位相のずれた回転角で冷媒の圧縮および吸入が行われる。
このため、本実施形態では、第1圧縮室Va内の冷媒圧力が最大圧力に到達するシリンダ21の回転角θと第2圧縮室Vb内の冷媒圧力が最大圧力に到達するシリンダ21の回転角θも、180°ずれている。
そして、圧縮行程の第2圧縮室Vb内の冷媒圧力が上昇し、第2圧縮室Vb内の冷媒圧力が、第2サイドプレート25bに配置された第2吐出弁の開弁圧(すなわち、第2圧縮室Vbの最大圧力)を超えると、第2圧縮室Vb内の冷媒が第2吐出穴251bを介して吐出空間10aへ吐出される。
第2圧縮機構部20bから吐出空間10aへ吐出された冷媒は、第1圧縮機構部20aから吐出された冷媒と合流して、ハウジング10の吐出ポート11aから吐出される。吐出空間10a内の冷媒は、第1サイドプレート25aの圧力導入通路254を介して、凹み部253内に流入する。
本実施形態の圧縮機1は、以上の如く作動し、冷凍サイクル装置において、冷媒(圧縮対象流体)を吸入し、圧縮して吐出することができる。また、本実施形態の圧縮機1では、電動機部30の内周側に圧縮機構部20が配置されているので、圧縮機1全体としての小型化を図ることができる。
また、本実施形態の圧縮機1では、第1圧縮室Vaおよび第2圧縮室Vbの最大容積が互いに略同等となっており、さらに、第1圧縮室Va内の冷媒が最大圧力に到達するシリンダ21の回転角θと第2圧縮室Vb内の冷媒が最大圧力に到達するシリンダ21の回転角θが、180°ずれている。
これにより、単一の圧縮機構部を備え、この圧縮機構部の吐出容量が本実施形態の第1圧縮室Vaと第2圧縮室Vbとの合計吐出容量と同等となっているシリンダ回転型圧縮機よりも、圧縮機全体としてのトルク変動を抑制することができる。従って、圧縮機全体としての騒音や振動の増加を抑制することができる。
なお、本実施形態における圧縮機全体としてのトルク変動としては、第1圧縮機構部20aの第1圧縮室Va内の冷媒の圧力変動によって生じるトルク変動と第2圧縮機構部20bの第2圧縮室Vb内の冷媒の圧力変動によって生じるトルク変動との合算値(合計トルク変動)を採用することができる。
ところで、本実施形態の圧縮機1では、シャフト24の径に応じて、第2サイドプレート(大径部側サイドプレート)25bの第2軸穴252bの径を、第1サイドプレート(小径部側サイドプレート)25aの第1軸穴252aの径よりも大きく形成している。
このため、シャフト24の中心軸方向から見たときの第2サイドプレート25bの大径部側面積SL(第2サイドプレート25bが吐出空間10a内の冷媒から圧力を受ける受圧面積)は、第1サイドプレート25aの小径部側面積SS(第1サイドプレート25aが吐出空間10a内の冷媒から圧力を受ける受圧面積)よりも小さくなっている。
さらに、吐出空間10a内の冷媒圧力をP0と定義すると、第1サイドプレート25aが吐出空間10a内の冷媒の圧力によって受ける小径部側荷重PSは、以下数式F1で算出される。
PS=SS×P0…(F1)
この小径部側荷重PSは、軸方向一端側から他端側へ向かう荷重である。
一方、第2サイドプレート25bが吐出空間10a内の冷媒の圧力によって受ける大径部側荷重PLは、以下数式F2で算出される。
PL=SL×P0…(F2)
この大径部側荷重PLは、軸方向他端側から一端側へ向かう荷重である。
前述の如く、小径部側面積SSは大径部側面積SLよりも大きいので、小径部側荷重PSは大径部側荷重PLよりも大きくなる。このため、本実施形態の圧縮機1では、小径部側荷重PSと大径部側荷重PLとの荷重差(PS−PL)によって、第1、第2サイドプレート25a、25bが固定されたシリンダ21全体に対して、一端側から多端側へ向かう軸方向の荷重がかかりやすい。
このような荷重は、第2サイドプレート25bとハウジング10(具体的には、サブハウジング12)との摺動部位に生じる摩擦力を増加させてしまう。そして、圧縮機1の作動時の機械的損失を増大させてしまう原因となる。さらに、第2サイドプレート25bとハウジング10との摺動部位の摩耗を生じさせ、圧縮機1の耐久性能を悪化させてしまう原因となる。
これに対して、本実施形態の圧縮機1では、第1サイドプレート25aに凹み部253および圧力導入通路254が形成されているので、凹み部253内に吐出空間10a内の冷媒の圧力を導くことができる。従って、小径部側荷重PSと大径部側荷重PLとの間に荷重差(PS−PL)が生じても、これを相殺することができる。
より詳細には、本実施形態の圧縮機1では、凹み部253内へ導かれた圧力によって、軸方向他端側から一端側へ向かう方向の荷重であって、荷重差(PS−PL)を打ち消すための相殺用の荷重を生じさせることができる。
その結果、荷重差(PS−PL)が生じることによって、第2サイドプレート25bとハウジング10との摺動部位に生じる摩擦力が増加してしまうことを抑制することができる。延いては、圧縮機1の作動時の機械的損失の増大を抑制することができる。さらに、圧縮機1の耐久性能の悪化を抑制することができる。
また、本実施形態の圧縮機1では、シャフト24の中心軸方向から見たときに、凹み部253が形成された領域の面積が、小径部側面積SSから大径部側面積SLを減算した面積差(SS−SL)と同等、あるいは面積差(SS−SL)よりも僅かに大きな値に設定されている。これにより、凹み部253の内部に導入された圧力によって生じる荷重を、荷重差(PS−PL)に近づけることができ、荷重差(PS−PL)を適切に打ち消すことができる。
このことをより詳細に述べると、荷重差(PS−PL)を打ち消すためには、シャフト24の中心軸方向から見たときの凹み部253が形成された領域の面積が、面積差(SS−SL)と同等であることが望ましい。
ところが、実際の圧縮機1では、圧力導入通路254における圧力損失やシリンダ21内部の冷媒漏れによって、凹み部253内の冷媒の圧力が吐出空間10a内の冷媒の圧力よりも低下してしまうことがある。このような場合には、凹み部253が形成された領域の面積を、面積差(SS−SL)よりも僅かに大きな値に設定しておくことで、荷重差(PS−PL)を適切に打ち消すための相殺用の荷重を生じさせることができる。
また、本実施形態の圧縮機1では、凹み部253が中心軸C1周りに円環状に形成されているので、凹み部253内へ導かれた圧力による荷重を、シリンダ21の中心軸C1周りに均等に作用させることができる。従って、凹み部253を形成したことによって、シリンダ21がシャフト24に対して傾斜してしまうことを抑制することができる。さらに、複数の圧力導入通路254を設ける必要がなく、1つの圧力導入通路254を設けることで、凹み部253の全域に圧力を導入することができる。
(第2、第3実施形態)
第2、第3実施形態では、それぞれ図7、図8に示すように、凹み部の形状を変更した例を説明する。なお、図7、図8は、第1実施形態で説明した図4に対応する断面図であって、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付している。
より具体的には、第2実施形態では、シャフト24の中心軸方向から見たときに、複数の円形状の凹み穴を中心軸C1周りに配置することで、凹み部253aを形成している。複数の円形状の凹み部は互いに一部が重なり合うように配置されているので、凹み部253aは、中心軸C1周りに円環状に形成されている。その他の圧縮機1の構成および作動は、第1実施形態と同様である。
また、第3実施形態では、シャフト24の中心軸方向から見たときに、複数の扇形状の凹み穴を中心軸C1周りに配置することで、凹み部253bを形成している。複数の扇形状の凹み部は中心側が互いに連通するように形成されているので、凹み部253bは、中心軸C1周りに円環状に形成されている。その他の圧縮機1の構成および作動は、第1実施形態と同様である。
従って、第2、第3実施形態のように、凹み部253a、253bを形成しても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、荷重差(PS−PL)が生じることによって、第2サイドプレート25bとハウジング10との摺動部位に生じる摩擦力が増加してしまうことを抑制することができる。
さらに、第2、第3実施形態のように、凹み部253a、253bを形成することで、シャフト24の中心軸方向から見たときの凹み部253a、253bの面積を調整しやすい。例えば、伝動機構の駆動ピンの位置の影響を受けることなく、凹み部253a、253bの面積を所望の値に調整しやすい。
また、第2、第3実施形態のように、複数の円形状あるいは扇形状の凹み穴を組み合わせることによって、凹み部253a、253bを形成する場合は、複数の凹み穴を中心軸C1に対して対象に配置することが望ましい。さらに、複数の凹み穴を異なる大きさとしてもよい。このような凹み部253a、253bは、切削加工、鍛造加工、放電加工等で形成することができる。
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
上述の実施形態では、本発明に係るシリンダ回転型圧縮機1を車両用空調装置の冷凍サイクルに適用した例を説明したが、本発明に係るシリンダ回転型圧縮機1の適用はこれに限定されない。つまり、本発明に係るシリンダ回転型圧縮機1は、種々の流体を圧縮する圧縮機として幅広い用途に適用可能である。
上述の実施形態では、シリンダ回転型圧縮機1の動力伝達手段として、ピン−ホール式の自転防止機構と同様の構成のものを採用した例を説明したが、動力伝達手段はこれに限定されない。例えば、オルダムリング式の自転防止機構と同様の構成のもの等を採用してもよい。
上述の実施形態では、圧縮機構部20を、第1圧縮機構部20aおよび第2圧縮機構部20bの2つの圧縮機構部で構成した例を説明したが、もちろん1つの圧縮機構部で構成してもよい。
上述の実施形態では、第1ベーン23aの外周側先端部と第1ロータ22aの内周面とを摺動させる形式(スライドプレート式)のシリンダ回転型圧縮機について説明したが、本発明に係るシリンダ回転型圧縮機の形式はこれに限定されない。例えば、第1ベーン23aの外周側先端部に形成された固定部(ヒンジ部)が第1ロータ22aの内周面に形成された溝部に揺動自在に支持される形式(スイングプレート式)のシリンダ回転型圧縮機であってもよい。
上述の実施形態では、圧力導入通路254を介して、吐出空間10a内の冷媒を凹み部253内へ導入させた例を説明したが、吐出空間10a内の冷媒の圧力を凹み部253内へ導くことができれば、冷媒以外の流体を凹み部253内へ導いてもよい。例えば、冷媒に混入された冷凍機油を圧力導入通路254を介して凹み部253内へ導いてもよい。
より具体的には、吐出空間10a内にて、第1、第2圧縮機構部20a、20bから吐出された高圧気相冷媒から冷凍機油を分離する。さらに、吐出空間10aの下方側に冷凍機油を貯める貯油空間を形成し、ハウジング10に貯油空間に貯められた冷凍機油を圧力導入通路254側へ導くオイル戻し通路を形成すればよい。
さらに、凹み部253内へ冷凍機油を導くことによって、第1ロータ22aと第1サイドプレート25aとの摺動部位、第1ロータ22aと第1サイドプレート25aとの間に設けられる伝動機構へ冷凍機油を供給することができるので、圧縮機1全体としての耐久性能を向上させることができる。
上述の実施形態では、回転子と一体的に構成されたシリンダ21の外周側に固定子が配置された電動機部30を採用した例を説明したが、電動機部30はこれに限定されない。例えば、電動機部とシリンダ21を、シリンダ21の中心軸C1方向に並べて配置し、電動機部とシリンダ21とを連結させてもよい。また、電動機部の回転中心とシリンダ21の中心軸C1とを同軸上に配置することなく、電動機部の回転駆動力をベルトを介してシリンダ21へ伝達してもよい。