JP2016199545A - リモネン−1,2−ジオール等のスダチ成分を有効成分とする糖及び脂質の代謝改善剤 - Google Patents

リモネン−1,2−ジオール等のスダチ成分を有効成分とする糖及び脂質の代謝改善剤 Download PDF

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俊晃 玉置
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理人 宮本
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Abstract

【課題】スダチ成分として、生体細胞のサーチュイン活性をより強く促進し得る物質を解明し、各種疾患の予防や、アディポネクチンの血中濃度の低下、インスリン抵抗性の亢進等に起因する種々の疾患の予防又は治療用の医薬製剤又はそれを含有する食品、飼料を提供すること。
【解決手段】スダチ成分の一つであるリモネン‐1,2‐ジオールとグルカル酸−1,4−ラクトンにSIRT1活性が顕著であることを見出した。これにより、上記リモネン‐1,2‐ジオール又はグルカル酸−1,4−ラクトンを用いて、サーチュイン活性化を促進し、メタボリックシンドロームを改善できることを明らかにできた。その結果、糖尿病や脂質異常症等の種々の代謝異常疾患を改善できる医薬組成物又はサプリメント、食品として、本発明の1,2‐ジオール又は1,4−ラクトンを含有する組成物を提供できるようになった。
【選択図】なし

Description

本発明は、リモネン−1,2−ジオール等のスダチ成分のスダチ成分を有効成分とする糖代謝及び脂質代謝の改善剤に関する。本発明のリモネン−1,2−ジオール等は、食品、医薬製剤、飼料等に好適に適用される。
近年、肥満の進行が先進国を中心として問題化しており、我が国においても、肥満症の患者は年々上昇を続けている。例えば、平成22年の調査では女性の約22%、男性では約30%が肥満状態であると報告されている。
肥満状態にあると脂肪細胞は増加し、肥大化脂肪細胞へ変化する。肥大化脂肪細胞は脂質代謝改善ホルモンのアディポネクチンの分泌を減少し、炎症性サイトカインのTNF−aやMCP−1の分泌を促進させる。また骨格筋や肝臓といったインスリン標的臓器に中性脂肪が蓄積し、細胞内へのグルコース取り込み機能が低下して、その結果、高血糖やインスリン抵抗性が惹起されることになる。
更に、肥満症患者は2型糖尿病、脂質異常症といった代謝関連疾患の発症リスクが高まるという報告があり、肥満の予防および治療は「健康寿命」の延長のためにも有益である。
そこで最近になり、上記の糖と脂質の代謝異常を改善する手段になり得るものとして、SIRT1が注目されて来ている。SIRT1は真核生物の核内に存在する「サーチュイン」遺伝子群のひとつでカロリー制限や運動などの条件下で活性化することが知られている。SIRT1は血管拡張や老化抑制、炎症抑制など多くの生体現象に関与し、その中でも、下流遺伝子PGC−1aの活性化や、糖脂質代謝に重要な役割を果たすAMPKの活性化を通じて、代謝異常を改善する作用のあることが多く報告されている。
このように、SIRT1は代謝関連疾患の抑制や寿命の延長に働くため「長寿遺伝子」とも呼ばれており、新たなSIRT1活性化剤の開発は、多くの期待を集めている分野でもある。
このようなSIRT1活性化試剤としては、植物の感染抵抗性に関与する成分であるレスベラトロールが知られており、動物実験によってコレステロールの減少、心臓病のリスク予防、早期ガンの予防及び進行抑制、血小板凝集予防などの効果が報告されている(非特許文献1,2)。また、近年、SIRT1活性が上昇すると、アディポネクチンの産生が促進されることが明らかとなっている(特許文献1)。
上記の知見に刺激を受け、生体のSIRT1活性を促進させる物質の探索が盛んに行われており、前述のレスベラートルより、更に強いサーチュイン活性促進物質が探索されている(特許文献2)。
なお、植物には多くの成分(例えばポリフェノール類等)が存在し、多くの機能を担っている。レスベラトロールも、その一つであり、レスベラトロール以外にも、生体のSIRT1活性を促進させる物質が存在することが想像される。そこで、柑橘類の中のすだち果皮の有効利用について研究を進め、その含有成分の中に、糖代謝や脂質代謝、更にはSIRT1活性を賦活化できるものを見出そうとする探索研究がなされている(特許文献3)。
特開2008−255040号公報 特開2011−57580号公報 特開2009−126799号公報
中畑泰和、「時間生物学」Vol.17,No.2,69−74(2011) 山盛徹、「北獣会誌」Vol.55,45−49(2011)
本発明の目的は、スダチ含有成分の中に含有される物質の中で、糖代謝及び脂質代謝を活性化させ、更にはSIRT1タンパク質の産生を促進して、生体のサーチュイン活性を促進させる物質を特定することである。更に、その物質を有効成分とするサプリメントや医薬組成物を作製することにより、メタボリックシンドロームに由来する各種疾患の予防を行うことである。特に、アディポネクチンの血中濃度の低下、及びインスリン抵抗性の亢進等に起因する種々の疾患の予防、更にはメタボリックシンドローム、糖尿病やその合併症、動脈硬化、肝臓疾患、消化器疾患等の種々の病態の改善又は予防を行うことを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するためにスダチ成分から35種の化合物を単離し、その内、7種にサーチュイン(Sirt1/Sir2)活性亢進作用を認め、特にその内の2種にはレスベラトロールと同等の活性があることを見出している(特許文献3)。
本発明者らは、更に検討を進め、スダチ果皮由来のリモネン誘導体の中に、新規SIRT1活性化作用を持つ化合物AとBの2つの化合物を見出した。化合物Aは、以下の化学式(2)のD−グルカル酸−1,4−ラクトンであり、化合物Bは、以下の化学式(1)の(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオール(1S,2S,4R−limonene−trans−1,2−diol)である。これらの両化合物は、濃度依存的にSIRT1活性を上昇させ、高血糖条件下の肝細胞、骨格筋細胞へのTG蓄積をSIRT1依存的に阻害することを見出した。
また、上記化合物Aと化合物Bを用いて検討したところ、血中のトリグリセリド(中性脂肪)濃度及び細胞中のトリグリセリド濃度の低下を起こすことが明らかとなった。更に、その作用機序の検討を行ったところ、SIRT1の活性化に伴い、SIRT1遺伝子の下流に存在する脂質分解関連遺伝子(PPARαとCPT1A)の発現量が増加し、また、PGC−1αとAMPKの産生および活性が増大することが明らかとなった。
PPARαとCPT1A、PGC−1αの産生増大により、脂質のβ酸化が促進され、AMPKの産生増大により、アディポネクチンの分泌が増加する。従って、化合物AとBのSIRT1活性化作用により、これらの作用機序が働き、糖・脂質の代謝改善が行われることを明らかにできた。
また、化合物Bには、レスベラトロールと同等の活性があることを見出した。
更に、本発明者らは、上記スダチ成分の効果と生合成のプロセスと検討し、以下の一般式(3)と(4)の誘導体に、SIRT1活性亢進作用と、それに伴う一連の効果(PPARαとCPT1Aの発現量の増加、PGC−1αとAMPKの産生と活性の増大、その結果、トリグリセリド濃度の低下を起こすこと)のあることが分かった。
[式中、Rは、水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。Rは、水素原子、水酸基を表す。Rは、酸素原子、メチレン基を表す。Rは、水酸基、炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。RとRは、水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基、アセチル基、ベンゾイル基を表す。Xは、カルボニル基、メチレン基を表す。Yは、酸素原子、2級アミノ基、メチレン基を表す。]
[式中、Rは、水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。Rは、酸素原子、メチレン基を表す。Rは、水酸基、炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。RとRは、水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基、アセチル基、ベンゾイル基を表す。Xは、カルボニル基、メチレン基を表す。Yは、酸素原子、2級アミノ基、メチレン基を表す。]
本発明者らは、以上の知見により本発明を完成した。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)以下の一般式(3)又は一般式(4)
[式中、Rは、水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。Rは、水素原子、水酸基を表す。Rは、酸素原子、メチレン基を表す。Rは、水酸基、炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。RとRは、水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基、アセチル基、ベンゾイル基を表す。Xは、カルボニル基、メチレン基を表す。Yは、酸素原子、2級アミノ基、メチレン基を表す。]
で表される化合物を有効成分とする、SIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤。
(2)一般式(3)と一般式(4)の化合物が、一般式(5)と一般式(6)
[式中、R、R、R、R、XおよびYは、前記と同じことを表す。]
で表される化合物である、上記(1)に記載のSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤。
(3)一般式(5)の化合物が、(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールである、上記(1)又は(2)に記載のSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤。
(4)一般式(6)の化合物が、D−グルカル酸−1,4−ラクトンである、上記(1)又は(2)に記載のSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかのSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤を含有することを特徴とする、メタボリック・シンドロームの治療又は予防用の経口用組成物。
(6)上記メタボリック・シンドロームが、肥満症、糖尿病又は脂質代謝異常症であることを特徴とする、上記(5)に記載の経口用組成物。
(7)上記経口用組成物が、医薬組成物、健康食品またはサプリメントであることを特徴とする、上記(5)又は(6)に記載の経口用組成物。
(8)メタボリック・シンドロームの治療又は予防が、血中又は細胞中のトリグリセリド濃度を減少させることである、上記(5)に記載の経口用組成物。
(9)メタボリック・シンドロームの治療又は予防が、血中の総コレステロール値を低下させることである、上記(5)に記載の経口用組成物。
(10)メタボリック・シンドロームの治療又は予防が、インスリン抵抗性を改善することである、上記(5)に記載の経口用組成物。
(11)脂質分解関連酵素のPPARα又はCPT1Aの産生増強を行うことにより、メタボリック・シンドロームの治療又は予防する、上記(5)に記載の経口用組成物。
(12)PGC−1a又はAMPKの産生増強を行うと共に活性化させ、メタボリック・シンドロームを治療又は予防する、上記(5)に記載の経口用組成物。
(13)メタボリック・シンドロームが、脂肪肝又は肝の線維化である、上記(5)に記載の経口用組成物。
(14)上記一般式(3)又は(4)の化合物を有効成分として10mg/kg以上を含有することを特徴とする、上記(5)〜(13)のいずれかに記載の経口用組成物。
(15)上記一般式(3)と(4)の化合物が、(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールとD−グルカル酸−1,4−ラクトンである、上記(5)〜(13)に記載の経口用組成物。
(16)(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオール又はD−グルカル酸−1,4−ラクトンを100mg/kg以上を含有する、上記(14)に記載の経口用組成物。
(17)(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールを有効成分とする、トリグリセリド濃度の低下促進剤。
(18)上記トリグリセリド濃度が、血中又は肝細胞のトリグリセリド濃度である、上記(17)に記載のトリグリセリド濃度の低下促進剤。
(19)(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールを有効成分として10mg/kg以上を含有する、上記(17)又は(18)に記載のトリグリセリド濃度の低下促進剤。
(20)(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールを有効成分とする、糖・脂質代謝異常症の予防又は治療剤。
(21)上記糖・脂質代謝異常症が脂肪肝である、上記(20)に記載の糖・脂質代謝異常症の予防又は治療剤。
(22)(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールを有効成分として10mg/kg以上を含有する、上記(20)又は(21)に記載の糖・脂質代謝異常症の予防又は治療剤。
(23)(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオール又はD−グルカル酸−1,4−ラクトンを有効成分とする、AMPK活性化促進剤。
(24)骨格筋においてAMPK活性化を行う、上記(23)に記載のAMPK活性化促進剤。
(25)上記(23)又は(24)のAMPK活性化促進剤を含有する、運動効果と類似の糖脂質代謝改善をもたらす経口用組成物。
本発明の(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオール(1)又はD−グルカル酸−1,4−ラクトンは、レスベラトロールと同程度以上のSIRT1活性化作用を有し、更に、血中と肝細胞のトリグリセリドの濃度を有意に低下させることができる。従って、これらの化合物を含有する治療剤や健康食品を作製することによって、メタボリック・シンドロームの治療又は予防を行うことができる。その結果として、本発明の(+)‐リモネン‐トランス‐1,‐ジオール(1)、D−グルカル酸−1,4−ラクトン又はこれらの誘導体は、糖尿病やその合併症、脂質代謝異常症、消化器疾患等の種々の病態の治療・予防にも有効である。
FaO細胞を使用し、レスベラトロール(1μM)、スダチ果皮粉末(250μg/mL)を投与した時の細胞中のトリグリセライド濃度(TG濃度)を測定した結果を表した図である。スダチ果皮粉末では、250μg/mLを投与して細胞を刺激することによって、対照群より有意にTG濃度が減少することが見出された。 スダチ果皮粉末のヘキサン抽出物のカラム分画をH1〜H8とした。このカラム画分(H1〜H8)のそれぞれについて、FaO細胞に投与してTG濃度の減少を評価した結果を表した図である。中でも、H4、H5、H9の3画分にTG濃度の抑制効果が得られた。 スダチ果皮粉末のメタノール抽出物のカラム分画をM1〜M5とした。このカラム画分(M1〜M5)のそれぞれについて、FaO細胞に投与してTG濃度の減少を評価した結果を表した図である。中でも、M3、M5の2画分にTG濃度の抑制効果が得られた。 化学式(2)で表される化合物Aを用いてC2C12筋管細胞に投与し、SIRT1活性を測定した結果を表したのが図4の上の図である。化合物Aは、濃度依存的にSIRT1活性を上昇させることが示された。FaO細胞に化合物Aを投与し、TG濃度の変化を評価したのが図4の下の図である。化合物Aは、濃度依存的にTG濃度を減少させることが見出された。このことから、化合物Aは濃度依存的にSIRT1活性を上昇させ、TG濃度の低下作用を示す化合物であることが示された。 化学式(1)で表される化合物Bを用いて、C2C12筋管細胞に投与しSIRT1活性を測定した結果を表した図である。図5の上の図は、0.5〜500μMでの投与を行った実験結果であり、濃度依存的なSIRT1活性の上昇が見られた。また、刺激濃度を500μMに固定し、刺激時間を2時間から24時間に振り分けた場合でも、時間依存的にSIRT1活性が上昇した。このことから、化合物BのTG濃度低下作用にはSIRT1の活性化が寄与し、またこのSIRT1活性化は濃度・時間依存的であることが示された。 化合物Bをラット肝細胞FaOおよびマウス骨格筋細胞C2C12に投与し、両細胞株の細胞内TG濃度の変化を評価した図である。両細胞株共に、化合物Bを投与することで、有意なTG濃度の減少が見られた。 化合物BのTG濃度上昇抑制作用が、SIRT1活性に依存するものであるのか否かを評価した図である。化合物BのSIRT1作用を阻害するため、SIRT1阻害剤のニコチンアミドを用いた。SIRT1阻害剤として用いるニコチンアミドの濃度として3段階を設定した。化合物Bとして500μMを用いて、ニコチンアミドと併用してFaO細胞に投与した。その結果、ニコチンアミドの存在しない化合物B単独群ではTG濃度が有意に減少していた。一方、ニコチンアミド併用群ではTG濃度が減少せず、化合物Bの作用は抑制された。この結果から、化合物BのTG濃度低下作用はSIRT1活性化と強く関連することが示された。
化合物BのTG濃度低下作用の作用機序を解明するために、化合物Bを投与した場合に起きるタンパク質発現の強度変化を表した図である。ウエスタンブロッティング法を用いた検討の結果、化合物Bは、0.5〜500μMで濃度依存的にSIRT1のタンパク発現レベルを上昇させることが見出された。また、化合物Bによる細胞刺激の時間を2時間から24時間に分けて検討した結果、刺激時間の延長に従ってSIRT1およびPGC−1aの発現レベルが上昇した。 普通食負荷マウス(ND)と高脂肪食負荷マウス(HFD)を使用し、HFDに化合物Bを経口投与して体重の変化と、摂食量の変化を評価した図である。化合物Bを2群に分けて経口投与したところ、毎日100mg/kg(High)では体重減少が有意差を持って起きたが、毎日10mg/kg(Low)では有意差が出なかった。一方、摂食量については、いずれの群でも変化はなかった。このことから、化合物Bは、SIRT1活性等の代謝を向上させ、体重減少に寄与することが示された。 マウスに対する経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行い、化合物Bの効果を評価した結果を表した図である。上記図9と同様に化合物Bの経口投与をHFDに対して行った。その結果、化合物Bの高投与群(100mg/kg・日)では、無投与群と比較し、約18%のAUC低下がもたらされた。 マウスにインスリン負荷試験(ITT)を行った結果を表した図である。化合物Bの経口投与により、インスリン抵抗性が改善されていることが示されている。 HFDに対して、化合物Bを図9〜11と同様に経口投与し、インスリン抵抗性の指標(HOMA−IR)を測定した結果を表した図である。HFD群では、インスリン血中濃度が高いが、化合物B投与群では血中のインスリン濃度が改善されている。その結果、HOMA−IRの値も改善されている。 化合物Bが経口投与された高脂肪食負荷マウス(HFD)では、肝重量の増大および肝臓へのTG蓄積が抑制されることを表した図である 化合物Bが経口投与された高脂肪食負荷マウス(HFD)では、血中のTG濃度と血中の総コレステロール値の上昇が抑制されることを表した図である。 化合物Bを経口投与した高脂肪食負荷マウス(HFD)では、肝臓および腓腹筋のSIRT1活性が上昇することを表した図である。 化合物Bの肝臓に対する作用機序を解明するため、マウス肝臓における脂質分解酵素(PPARαとCPT1A)の発現変化を評価した結果を表した図である。PPARαとCPT1Aは、脂質β酸化を促進する酵素であり、化合物Bの投与によって蛋白遺伝子の発現が増大していることは、肝臓における糖新生阻害や脂肪酸の利用を促進し、ミトコンドリアにおける脂肪酸β酸化を促進したことを表している。これらのことから、肝臓での糖新生抑制効果等により、血糖値上昇抑制につながったと考えられる。 C57BL/6J雄性マウスの6週齢から12週齢までの期間、コリン欠乏メチオニン減量45Kcal%脂肪食を与えて作製した非アルコール性脂肪肝(NASH)モデルマウス(45K)に対して、化合物Bを100mg/kg、10日間連続して腹腔内投与を行った結果を表した図である。45Kマウスに化合物Bを投与した群を45K+Lで表す。その対照群として、45KマウスにPBSを投与した群を45Kで表す。化合物Bを投与した45K+L群では、肝機能(ALT、AST)が改善されていることが示された。 図17と同様に、コリン欠乏メチオニン減量60Kcal%脂肪食を与えて作製した非アルコール性脂肪肝(NASH)モデルマウス(60K)を用いて、化合物Bの効果を確認した。化合物Bを投与した60K+L群では、対照群(60K)と比較して肝機能(ALT、AST)が改善されていることが示された。
本発明の一般式(3)と(4)の化合物において、RとR、RとRの炭素数1〜4の低級アルキル基とは、置換基で置換されていても良い低級アルキル基のことであり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基を挙げることができる。好ましいものとしては、メチル基を挙げることができる。置換基としては、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基を挙げることができ、好ましい置換基としては水酸基を挙げることができる。
Yの2級アミノ基とは、水素原子又は炭素数1〜4の低級アルキル基を持った2級アミノ基のことを言い、炭素数1〜4の低級アルキル基は、RとRの低級アルキル基と同じ意味を表す。
本発明の「メタボリック・シンドローム」とは、生活習慣によって引き起こされる内臓脂肪型肥満を共通の要因とする高血糖、脂質代謝異常、高血圧が引き起こされる状態のことを言う。生活習慣病と呼ばれることもあり、肥満症、糖尿病又は脂質代謝異常症を総称するものである。脂質代謝異常症としては、血中のトリグリセリドやコレステロール値の上昇と、それに基づく内臓への脂肪沈着や動脈硬化等を挙げることができる。また、内臓への脂肪沈着としては、脂肪肝とそれが進行悪化した肝の線維化を挙げることができる。
本発明の「経口用組成物」とは、メタボリック・シンドロームを軽減させ、治療又は予防を行うために経口投与される組成物のことを言い、医薬品、健康食品、サプリメントなどの総称である。
本発明の(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオール」とは、上記構造式(1)の化合物であり、R(+)−リモネン(limonene)の酸化代謝体であり、スダチやオレンジをはじめとする柑橘類の果皮に多く含まれ、香気成分としても用いられるサイクリックモノテルペン類である。
本発明のD−グルカル酸−1,4−ラクトンとは、上記構造式(2)の化合物であり、スダチ果皮に特異的に含有されるポリフェノール類である。
本発明の「SIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤」とは、SIRT1遺伝子の発現増強を通じて、SIRT1タンパク質の産生促進効果を示す化合物のことであり、更には、SIRT1タンパク質の阻害物質を排除する効果を示す化合物のことを言う。
本発明のSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤は、メタボリックシンドロームの予防や治療用の医薬品やサプリメントの有効成分としてヒトおよび動物に投与することができる。更には、各種飲食品、飼料(ペットフード等)に配合しても摂取させることができる。本発明のSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤を医薬品として使用する場合には、経口的にあるいは非経口的(静脈投与、腹腔内投与、等)に適宜に使用される。剤型も任意で、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、または、注射剤などの非経口用液体製剤など、いずれの形態にも公知の方法により適宜調製することができる。これらの製剤や各種飲食品には、通常用いられる結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤などの賦形剤を適宜使用してもよい。
本発明の「糖・脂質代謝異常症」とは、上記糖脂質代謝異常症のことをいう。
本発明の「糖脂質代謝改善」とは、上記糖脂質代謝異常症の症状を軽減し、改善することをいう。
本発明の飲食品やサプリメントの中に含まれる有効成分である(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオール又はD−グルカル酸−1,4−ラクトンの含有量は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができ、例えば、1〜10質量%程度とすることができる。特に、保健用飲食品やサプリメント等として利用する場合には、本発明の有効成分を所定の効果が十分発揮されるような量で含有させることが好ましい。例えば、本発明の医薬品の有効成分として(+)‐リモネン‐トランス‐1,2−ジオール又はD−グルカル酸−1,4−ラクトンを投与する場合、その使用量は、疾患の種類、患者の年令、体重、状況などによって異なるが、例えば経口的に服用される場合には、成人1日1回〜数回投与され、1日あたりの有効投与量としては、SIRT1を活性化するに充分な量であれば特に問題はない。例えば、10mg/kg以上を毎日経口投与できれば、有効である。好ましい投与量として、100mg/kg以上を毎日投与することが挙げられる。更に好ましくは、100mg〜300mg/kg程度を毎日経口投与することが挙げられる。
本発明の「トリグリセリド(TG)」とは中性脂肪のことであり、砂糖などの糖質、炭水化物、動物性脂肪などを主な原料として、肝臓で作製される。糖質、炭水化物、動物性脂肪を多く取りすぎると、皮下脂肪の主成分として蓄積される。中性脂肪が血液中に増加してくると、動脈硬化を進める一因になる。そのため、中性脂肪の血中濃度の測定は、動脈硬化性疾患(狭心症、心筋梗塞、脳卒中など)を予防するために重要な数値となっている。
本発明の「総コレステロール値」とは、体内には、脂肪酸と結合したエステル型のコレステロールと遊離型のコレステロールの2つがあり、これら2つを合わせて総コレステロール(T−Cho)と言い、この総コレステロールの血中の値を総コレステロール値と言う。
本発明の「PPARα」とは、peroxisome proliferator−activated receptor(ペルオキシソーム増殖剤活性化レセプター)のことであり、肝臓や褐色脂肪組織,心臓,腎臓で強く発現している。そして、このPPARαは遊離脂肪酸などをリガンドとして活性化し、血中トリグリセリド濃度の低下を促進することが知られている。
本発明の「CPT1A」とは、Carnitine Palmitoylt ransferase 1A(カルニチンパルミトイル基転移酵素1A)のことであり、パルミチン酸のような長鎖脂肪酸をカルニチンにアシル化する酵素である。このアシル化されたカルニチンがミトコンドリアに取り込まれて、長鎖脂肪酸のβ酸化を受ける。即ち、CPT1Aの蛋白発現が増大すれば、TGの消化が進み、血中のTG濃度の低下が生じる。
本発明の「PGC1α」とは、peroxisome proliferator−activated receptor γ coactivator−1α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ共同因子1)のことであり、ミトコンドリア合成やエネルギー産生を促進している。即ち、PGC−1は筋機能とインスリン感受性に影響を与えている。従って、PGC1αの発現増加により、インスリン感受性が改善される。
本発明の「AMPK」とは、AMP−activated proteinkinase(AMP活性化プロテインキナーゼ)のことであり、AMPKの発現量が増加するか、AMPKが活性化すると、糖や脂肪や蛋白質の合成は抑制され、一方、糖や脂肪や蛋白質の分解(異化)が亢進してATPが産生される。この効果は運動と同じ効果であり、肥満や2型糖尿病の治療にも有効である。本発明では、AMPKの活性化の指標である、AMPKリン酸化(p−AMPK)の亢進が認められている。即ち、AMPKの活性化が引き起こされることが明らかとなった。
骨格筋におけるAMPKの活性化は、糖取込みの促進だけでなく、脂肪酸β酸化の亢進など、身体運動による派生効果と類似した種々の糖脂質代謝改善効果を引き起こすことが明らかとなっている。即ち、AMPKの活性化に寄与する化合物は、糖尿病を含む多くの代謝疾患に対する運動療法と同様の糖脂質代謝改善効果をもたらすものとなっている。従って、本発明の化合物の経口投与により、骨格筋におけるAMPKの活性化が引き起こされ、身体運動と類似の糖脂質代謝改善効果が得られる。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)スダチ成分による細胞内の中性脂肪(トリグリセリド)の抑制作用
(1)試剤
1)使用細胞:マウス骨格筋細胞C2C12(未分化)、ラット肝癌細胞FaO
2)使用培地:5%グルコース濃度の液体培地(10%FBS D−MEM)
3)サンプル:スダチ果皮粉末、また粉末をメタノールあるいはヘキサンで抽出した化合物全13種類、更に細分化抽出物全31種類を使用。また、ポジティブコントロールとして、SIRT1活性化剤のレスベラトロールを使用した。
(2)方法
1)細胞培養:
細胞培養用の35mmディッシュあるいは6穴プレートにFao細胞を播種し、10%FBS D−MEMでコンフルエントになるまで培養した。
2)細胞刺激:
上記培地を吸引し、コントロールのグループは通常培地と、サンプルのグループは任意の濃度でサンプルを溶解した培地と交換した。本実験ではサンプルの最終濃度は50uMとした。N数は1グループにつき最低でも3,5〜6を用意するとより望ましい。37℃インキュベーターで24時間刺激を行った。
3)細胞収穫(Cell harvesting):
以下の手順で細胞刺激を終了し、サイトゾルを回収する。サイトゾルの回収は以下の通りである。まず、培地を吸引し、氷冷したPBSで2回洗った。次に、Lysis Bufferを150μl/wellを加えて(コンフルの場合は250〜300μl程度に増やしても良く、一見して細胞密度が低い場合は50〜100μl程度に減量しても良い。)、氷上で15分放置する。顕微鏡で、細胞質が溶解していることを確認し、セルスクレーパーで掻きとり、エッペンチューブに移した。その後、5秒×3回超音波破砕を行った。次に、12000rpm、4℃で20分間遠心し、上清を他のエッペンチューブに移し、使用するまで−80℃で保存した。
(3)評価結果
上記細胞内の中性脂肪の測定には、刺激後の細胞を氷冷PBSにて洗浄したのち、10%メタノール、90%クロロホルム中にて超音波破砕を行うことにより脂質を抽出した。抽出した脂質は減圧遠心により乾固し、少量の2−プロパノールにて再懸濁した。その2−プロパノール中に溶解している中性脂肪をTGワコー(和光純薬)試薬を用いて定量した。
その結果を、以下に示す。
a)すだち果皮粉末使用群では、FaO細胞を250μg/mlで刺激することによって、対照群より有意に細胞内のTG濃度が減少した。その結果を図1に示す。
b)すだち果皮粉末をメタノールあるいはヘキサンで抽出した化合物の全13種類の分画を使用して、FaO細胞を250μg/mlで刺激した。同じく、対照群より有意に細胞内のTG濃度が減少した。その結果を図2(ヘキサン抽出物8分画)と図3(メタノール抽出物5分画)に示す。
c)更に細分化抽出物全31種類の化合物を使用して、FaO細胞を250μg/mlで刺激した。その結果、3種類の化合物で有意なTG濃度の減少が見られた。その中でも2種類の化合物(化合物Aと化合物B)では、レスベラトロールと同程度のTG濃度の減少が認められた。
なお、化合物Aでは、図4の下図に示されるように、濃度依存的に(1〜1000μMの範囲において)細胞内TG濃度の減少が見られた。
化合物Bでは、図6に示すように、C2C12(未分化)細胞、FaO細胞において、細胞内TG濃度は有意に減少した。
(実施例2)スダチ成分(化合物Aと化合物B)のSIRT1活性の評価
(1)試剤
1)使用細胞:マウス骨格筋細胞C2C12(未分化)
2)使用培地:10%FBS D−MEM
3)サンプル:D−グルカル酸−1,4−ラクトン(2)(化合物A)、リモネン‐トランス‐1,2−ジオール(1)(化合物B)
4)キット:Cyclex社製品「Cyclex SIRT1/Sir2 Deacetylase Fluorometric Assay Kit」
5)サイトゾル回収用緩衝液(Lysis Buffer):10mM Tris−Hcl(pH7.5)、10mM NaCl、15mM MgCL2、250mM Sucrose、0.5% NP−40、0.1mM EGTA
(2)方法
1)細胞培養:
細胞培養用の35mmディッシュあるいは6穴プレートに細胞を播種し、10%FBS D−MEMでコンフルエントになるまで培養する。
2)細胞刺激:
上記培地を吸引し、コントロールのグループは通常培地と、サンプルのグループは任意の濃度でサンプルを溶解した培地と交換する。本実験ではサンプルの最終濃度は50μMとした。N数は1グループにつき最低でも3,5〜6用意するとより望ましい。37℃インキュベーターで24時間刺激を行う。
3)細胞収穫(Cell harvesting):
以下の手順で細胞刺激を終了し、サイトゾルを回収する。
サイトゾルの回収は以下の通りである。
ます、培地を吸引I、氷冷したPBSで2回洗った。次に、Lysis Bufferを150μl/wellを加えて(コンフルの場合は250〜300μl程度に増やしても良く、一見して細胞密度が低い場合は50〜100μl程度に減量しても良い。)、氷上で15分放置する。顕微鏡で、細胞質が溶解していることを確認し、セルスクレーパーで掻きとり、エッペンチューブに移した。その後、5秒×3回超音波破砕を行った。次に、12000rpm、4℃で20分間遠心し、上清を他のエッペンチューブに移し、使用するまで−80℃で保存した。
4)Sirt1活性評価は、Cyclex社製品「Cyclex SIRT1/Sir2 Deacetylase Fluorometric Assay Kit」の説明書に準じて用い、マイクロプレートリーダーで蛍光強度測定する。
(4)評価結果
a)化合物AのSIRT1活性:
図4の上図に示されるように、化合物Aには、濃度依存的なSIRT1活性の上昇が見られた。またTG濃度測定においても、図4の下図に見られるように濃度依存的なTG濃度の減少が見られている。このことから、化合物Aは濃度依存的なSIRT1活性上昇に伴いTG低下作用を示す化合物であることが明らかとなった。
b)化合物BのSIRT1活性:
図5の上図に示されるように、化合物Bにおいても、0.5μM〜500μMでの実験から濃度依存的なSIRT1活性の上昇が見られた。また、刺激濃度を500μMに固定し、刺激時間を2時間から24時間に振り分けた場合でも、時間依存的にSIRT1活性が上昇した。
このことから、化合物BのTG低下作用にはSIRT1の活性化が寄与しており、濃度依存的かつ時間依存的であることが明らかとなった。
(実施例3)TG低下作用とSIRT1活性化の相関性評価
TG上昇抑制作用がSIRT1活性化に由来するものであるのか否かを検証することを行った。まず、化合物Bを用いてSIRT1活性化を行った時に、SIRT1阻害剤のニコチンアミドを用いて抑制を掛け、化合物Bの効果を打ち消すことを行った。
(1)方法
実施例1と2の方法に準じて実験を行った。SIRT1阻害剤としてニコチンアミド(NAM)を使用し、用いる濃度として3段階(0.25mM、2.5mM、25mM)を設定した。化合物Bの500μMと併用してFaO細胞に刺激を行った。
(2)評価結果
図7に示されるように、化合物Bの単独投与群ではTG値が有意に減少していたが、NAM併用群ではTG濃度の減少は抑制され、化合物BのSIRT1活性化の効果は打ち消されていた。この結果から、化合物BのTG低下作用はSIRT1活性化の作用と強く関連することが明らかにされた。
(実施例4)TG低下作用の作用機序の検討
スダチ成分(化合物B)のTG低下作用がどのような作用機序で起きるのかを明らかにするため、SIRT1活性化に伴うタンパク質(PGC−1a、AMPK等)の発現レベルの変動を以下のように評価した。
(1)試剤
1)使用細胞:C2C12細胞
2)使用培地:10%FBS D−MEM
(2)方法
1)細胞培養:
細胞培養用の35mmディッシュあるいは6穴プレートに上記細胞を播種し、10%FBS D−MEMでコンフルエントになるまで培養する。
2)細胞刺激:
上記培地を吸引し、コントロールのグループは通常培地と、サンプルのグループは任意の濃度でサンプルを溶解した培地と交換する。本実験ではサンプルの最終濃度は500μMとした。N数は1グループにつき最低でも3を用意する。37℃インキュベーターで24時間刺激を行う。
3)細胞収穫(Cell harvesting):
以下の手順で細胞の刺激を終了し、サイトゾルを回収する。サイトゾルの回収は以下の通りである。まず、培地を吸引I、氷冷したPBSで2回洗った。次に、Lysis Bufferを150μl/wellを加えて(コンフルの場合は250〜300μl程度に増やしても良く、一見して細胞密度が低い場合は50〜100μl程度に減量しても良い。)、氷上で15分放置する。顕微鏡で、細胞質が溶解していることを確認し、セルスクレーパーで掻きとり、エッペンチューブに移した。その後、5秒×3回超音波破砕を行った。次に、12000rpm、4℃で20分間遠心し、上清を他のエッペンチューブに移し、使用するまで−80℃で保存した。
4)評価:
サイトゾルを融解し、レムリのサンプルバッファーを添加して98℃で5分間加熱処理後、常法に従いSDS−PAGEにて電気泳動による展開を行った。展開したゲルは常法に従い、ウエスタンブロットによるPVDF膜へ転写し、市販の抗SIRT1抗体、抗PGC1α抗体、抗AMPK抗体、抗リン酸化AMPK(p−AMPK)抗体による検出を行った。
(3)評価結果
図8に示されるように、本発明の化合物B(リモネン‐1,2‐ジオール)は、ウエスタンブロッティング法を用いた検討の結果、0.5μM〜500μMで濃度依存的にSIRT1のタンパク発現レベルの上昇が見られた。
また刺激時間を2時間から24時間に区分して検討した結果、刺激時間の延長に従ってSIRT1およびPGC−1aの発現レベルも上昇した。
同様に、AMPKの活性化の指標である、AMPKリン酸化(p−AMPK)の亢進が認められている。即ち、AMPKの活性化が引き起こされることが明らかとなった
以上の結果から、化合物Bは、濃度依存的及び時間依存的にSIRT1遺伝子とそれに関連する遺伝子の蛋白発現レベルを上昇させることが分かった。このことから、化合物BのTG低下作用は、SIRT1活性化に伴うPGC−1aやAMPKの蛋白発現レベルの上昇、AMPKの活性化などに基づくものであることが明らかとなった。
(実施例5)本発明化合物B(リモネン‐1,2‐ジオール)の薬効評価試験
実施例1〜4の結果、本発明化合物AとBには、Sirt1の活性化を促進し、その結果、TG低下作用を有することが明らかになった。そこで、化合物Bを用いて、糖・脂質代謝改善効果を評価することを行った。
(1)方法
1)実験動物: DDYマウス(雄性、4週令)
2)評価化合物:化合物B(リモネン‐1,2‐ジオール)
3)評価試験方法:
4週令のDDYマウスを2週間、高脂肪添加飼料で順化・育成する。その後次の4群に分けて飼料を与え、その影響を評価した。
a)ND群:普通飼料(Normal Diet)
b)HFD群:高脂肪添加飼料(High Fat Diet)
c)LOW群:高脂肪添加飼料+化合物B添加(10mg/kg)
d)High群:高脂肪添加飼料+化合物B添加(100mg/kg)
上記a)〜d)の4群の飼料を投与して7日後に、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行った。9日後にインスリン負荷試験(ITT)を行った後、11日目にTG濃度を評価し、殺処分を行った。
(2)評価結果
1)体重と飼料摂取量
図9の下図に示されるように、高脂肪添加飼料を摂食させた3つの投与群では、飼料摂取量に変化はなく、同量の飼料を摂取していた。しかし、図9の上図に見られるように、体重増加は、化合物Bの添加量が高い投与群ほど、体重増加が抑制されることが分かった。
2)経口ブドウ糖負荷試験
糖代謝機能への効果を評価するため、経口ブドウ糖負荷試験を行い、インスリン分泌能を評価した。その結果、図10に示されるように、化合物Bは、High群において、HFD群に対して約18%のAUC低下が認められた。このように化合物Bは、有意に高脂肪食マウスの血糖値上昇を抑制することが示された。
3)インスリン負荷試験
糖代謝機能への効果として、インスリン抵抗性に関する効果を評価した。図11に示されるように、化合物Bの投与により、インスリン抵抗性が有意に改善されていることが明らかとなった。
4)血中のインスリン濃度
試験終了時(剖検時)の高脂肪食マウスの空腹時のインスリン血中濃度と血糖値を測定し、インスリン抵抗性の指標であるHOMA−IRの数値を求めた。
図12の左図で示されるように、高脂肪食マウスのHFD群では、ND群と比較して顕著にインスリン血中濃度が高くなっている。しかし、化合物Bを投与した群では、血中のインスリン濃度が改善される傾向が見られ、HOMA−IRの値も改善される傾向が見られた。
5)肝臓重量の変化
高脂肪食の摂取により、肝臓に脂肪が蓄積し脂肪肝になる。そこで、本評価系において、高脂肪食を摂取したマウスの肝臓重量を計測し、脂肪蓄積の程度を評価した。
図13の上図に示されるように、化合物Bの経口投与により、High群において有意に肝臓重量が軽減されており、また、図13の下図に示されるように、High群において有意に肝臓における脂肪蓄積が軽減されていることが見出された。
以上のことから、化合物Bは、高脂肪食マウスにおいて、肝重量の増大を抑制すると共に、肝臓へのTG蓄積を抑制することが明らかとなった。
6)血中のTG濃度と総コレステロール値
図14に示されるように、高脂肪食マウスの血中濃度を評価すると、化合物Bを経口投与したHigh群において、有意に血中のTG濃度の上昇が抑制され、総コレステロール値の上昇も抑制されることが明らかとなった。
7)肝臓と筋肉(腓腹筋)におけるSIRT1活性の変化
図15に示されるように、殺処分された高脂肪食マウスの肝臓と筋肉(腓腹筋)を採取し、実施例2と同様の方法にて各組織におけるSIRT1活性を評価すると、化合物Bを経口投与したHigh群において、有意なSIRT1活性の上昇が確認できた。
このように、化合物Bは、in vivoにおいても、有意にSIRT1活性を上昇させ、その結果として、糖・脂質代謝が改善できることが示された。
8)脂質分解関連遺伝子の発現促進
血中のTG濃度が低下することから、その要因として肝臓における脂質分解酵素の蛋白産生が向上していることを確認した。即ち、殺処分された高脂肪食マウスの肝臓を採取し、脂質分解関連酵素(PPARα、CPT1A)の発現変化を確認した。
図16に示されるように、化合物Bを経口投与すると、肝臓における脂質分解関連酵素(PPARα、CPT1A)の遺伝子産生が向上し、High群においては有意に蛋白産生が増大していた。このことは、化合物Bが、SIRT1活性を促進し、その結果として、肝臓等での脂質のβ酸化を促進して、TGの消費が進んだと考えられる。また、肝臓での糖新生が抑制され、血糖値上昇の抑制につながったと考えられる。
以上のように、スダチ果皮由来化合物より、SIRT1活性化剤として新たに化合物AとBの2種類の化合物が見出された。化合物AとBは濃度依存的にSIRT1活性を上昇させることが見出され、高グルコース条件下で培養された肝細胞と骨格筋細胞に対して、これら細胞へのTG蓄積をSIRT1依存的に阻害することが見出された。
更に、化合物Bの投与により、SIRT1及びその下流遺伝子PGC−1aの蛋白発現が促進されると共に、AMPKの蛋白発現が促進され、AMPK活性化が生じることが見出された。その結果、脂肪酸のβ酸化や細胞内グルコース取り込み作用が促進され、メタボリックシンドロームの改善が図られていることが明らかとなった。
(実施例6)本発明化合物B(リモネン‐1,2‐ジオール)の肝機能の改善効果評価試験
(1)方法
1)実験動物: C57BL/6Jマウス(雄性、6週令)
2)評価化合物:化合物B(リモネン‐1,2‐ジオール)
3)評価試験方法:
6週令のC57BL/6Jマウスの一群(3〜7匹)に6週間(12週齢まで)、コリン欠乏メチオニン減量45%脂肪食、コリン欠乏メチオニン減量45%脂肪食とコリン欠乏メチオニン減量60%脂肪食を給餌して作製した非アルコール性脂肪肝(NASH)モデルマウス(45K、60K)(日薬理誌144,69−74(2014))を使用した。
上記2種のNASHモデルマウスに対して、本発明化合物Bを100mg/kg、10日間腹腔内に連続投与した。対照群として上記モデルマウス(45K、60K)にリン酸緩衝液(PBS)を投与した群を作製した。化合物Bの投与終了後、血液を採取し、血中のALT、ASTの値をReitman−Frankel法により測定した。
(2)評価結果
化合物Bの投与により、NASHモデルマウスの肝機能(ALT、AST)は、図17と図18に示されるように、10日間の投与で改善される傾向が見出された。
このことは、化合物Bの投与を継続すれば、NASHモデルマウスの肝機能が改善されることを示しており、更には、肝機能の悪化を予防できることが示されている。
本発明のスダチ成分であるリモネン−1,2−ジオール又はグルカン酸−1,4−ラクトンは、新たなSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤であることが見出された。そして、更にSIRT1の下流遺伝子であるPGC−1aやAMPKの蛋白発現が促進され、脂肪酸酸化が増大して、血中のTG濃度が抑制されることを見出した。
このように、本発明のリモネン−1,2−ジオールとグルカン酸−1,4−ラクトンの新たな用途から、これらの化合物を単独で使用し、更にはスダチ果皮粉末などと共に用いて、メタボリックメタボリックシンドロームに関連する疾患の予防と治療、例えば糖尿病や脂質異常症の改善や治療、又は予防を行うことができる。また、本発明のリモネン−1,2−ジオールとグルカン酸−1,4−ラクトンを使用することにより、SIRT1活性を制御して大腸癌などの腫瘍性疾患にも効果が期待でき、これらの病態の改善や治療、又は予防を行うことができる。

Claims (25)

  1. 以下の一般式(3)又は一般式(4)
    [式中、Rは、水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。Rは、水素原子、水酸基を表す。Rは、酸素原子、メチレン基を表す。Rは、水酸基、炭素数1〜4の低級アルキル基を表す。RとRは、水素原子、炭素数1〜4の低級アルキル基、アセチル基、ベンゾイル基を表す。Xは、カルボニル基、メチレン基を表す。Yは、酸素原子、2級アミノ基、メチレン基を表す。]
    で表される化合物を有効成分とする、SIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤。
  2. 上記一般式(3)と一般式(4)の化合物が、以下の一般式(5)と一般式(6)
    [式中、R、R、R、R、XおよびYは、前記と同じことを表す。]
    で表される化合物である、請求項1に記載のSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤。
  3. 一般式(5)の化合物が、(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールである、請求項1又は2に記載のSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤。
  4. 一般式(6)の化合物が、D−グルカル酸−1,4−ラクトンである、請求項1又は2に記載のSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤。
  5. 請求項1〜4のいずれかのSIRT1タンパクの産生促進剤又はSIRT1活性化促進剤を含有することを特徴とする、メタボリック・シンドロームの治療又は予防用の経口用組成物。
  6. 上記メタボリック・シンドロームが、肥満症、糖尿病又は脂質代謝異常症であることを特徴とする、請求項5に記載の経口用組成物。
  7. 上記経口用組成物が、医薬組成物、健康食品またはサプリメントであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の経口用組成物。
  8. メタボリック・シンドロームの治療又は予防が、血中又は細胞中のトリグリセリド濃度を減少させることである、請求項5に記載の経口用組成物。
  9. メタボリック・シンドロームの治療又は予防が、血中の総コレステロール値を低下させることである、請求項5に記載の経口用組成物。
  10. メタボリック・シンドロームの治療又は予防が、インスリン抵抗性を改善することである、請求項5に記載の経口用組成物。
  11. 脂質分解関連酵素のPPARα又はCPT1Aの産生増強を行うことにより、メタボリック・シンドロームの治療又は予防する、請求項5に記載の経口用組成物。
  12. PGC−1a又はAMPKの産生増強を行うと共に活性化させ、メタボリック・シンドロームを治療又は予防する、請求項5に記載の経口用組成物。
  13. メタボリック・シンドロームが、脂肪肝又は肝の線維化である、請求項5に記載の経口用組成物。
  14. 上記一般式(3)又は(4)の化合物を有効成分として10mg/kg以上を含有することを特徴とする、請求項5〜13のいずれかに記載の経口用組成物。
  15. 上記一般式(3)と(4)の化合物が、(+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールとD−グルカル酸−1,4−ラクトンである、請求項5〜13に記載の経口用組成物。
  16. (+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオール又はD−グルカル酸−1,4−ラクトンを100mg/kg以上を含有する、請求項14に記載の経口用組成物。
  17. (+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールを有効成分とする、トリグリセリド濃度の低下促進剤。
  18. 上記トリグリセリド濃度が、血中又は肝細胞のトリグリセリド濃度である、請求項17に記載のトリグリセリド濃度の低下促進剤。
  19. (+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールを有効成分として10mg/kg以上を含有する、請求項17又は18に記載のトリグリセリド濃度の低下促進剤。
  20. (+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオールを有効成分とする、糖・脂質代謝異常症の予防又は治療剤。
  21. 上記糖・脂質代謝異常症が脂肪肝である、請求項20に記載の糖・脂代謝異常症の予防又は治療剤。
  22. (+)‐リモネン‐トランス‐1,2−ジオールを有効成分として10mg/kg以上を含有する、請求項20又は21に記載の糖・脂質代謝異常症の予防又は治療剤。
  23. (+)‐リモネン‐トランス‐1,2‐ジオール又はD−グルカル酸−1,4−ラクトンを有効成分とする、AMPK活性化促進剤。
  24. 骨格筋においてAMPK活性化を行う、請求項23に記載のAMPK活性化促進剤。
  25. 請求項23又は24のAMPK活性化促進剤を含有する、運動効果と同等の糖脂質代謝改善をもたらす経口用組成物。
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Chen et al. Anti-aging effects of medicinal plants and their rapid screening using the nematode Caenorhabditis elegans
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Jing et al. Pterostilbene ameliorates glycemic control, dyslipidemia and liver injury in type 2 diabetes rats
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KR101613252B1 (ko) 아르기나아제 억제제를 함유하는 비만 및 지방간 예방 또는 치료용 조성물
Bi et al. Effects of Callistephus chinensis flower polyphones on improving metabolic disorders in high-fat diet-induced mice