JP2016198033A - 腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させる方法 - Google Patents

腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させる方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の課題は、腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させる方法や、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドの製造方法や、該製造方法により製造される、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド等を提供することにある。
【解決手段】(A)単離された腸上皮間リンパ球を、腸陰窩オルガノイドと共に、細胞外マトリクスに包埋する工程A:及び、(B)前記腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液中で、前記細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイドを共培養する工程B:を含むことを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させる方法や、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドの製造方法や、該製造方法により製造される、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド等に関する。
腸内において、最も内側の表面を覆う上皮層は、物質通過の部位としてだけでなく、宿主防御の最前線を構成する免疫応答の活性部位としても機能する。上皮は、陰窩上皮構造の底部に存在する成人幹細胞から生じる異なる種類の腸上皮細胞(IEC)から構成されている。腸上皮組織には、異なる系統の細胞の豊富な集団である、腸上皮間リンパ球(IEL)も存在している。IELは、例えば小腸で、IEC5〜10個あたり、IEL1個の密度で分散しており、IECの基底側の表面と密接に接触している。IELは、不均一な(heterogeneous)T細胞であり、他の末梢T細胞区画よりも多くのγd+T細胞レセプター(TCR)T細胞を含んでいる。IELは、それらの表面マーカー発現に基づいて、タイプaとタイプbのサブセットに分類され、γδT IELは、タイプbのIELの主要な分画を構成する。γδT IELは、上皮バリア機能(非特許文献1及び2)及び粘膜恒常性(非特許文献3)において重要な役割を有することが知られている。αβT IELは、不均一な集団を依然として代表しているものの、宿主防御機構にも貢献している(非特許文献4)。
IELは、単離されると、アポトーシスに対する感受性が非常に高くなり(非特許文献5)、それまでの通常のインビトロ培養法では2〜3日間くらいしか維持することができなかったため、IELの機能に関するインビトロ研究は、長い間妨げられていた。そこで、IELをインビトロで維持・増殖できる方法の開発が試みられてきた。例えば、前述の非特許文献5には、単離されたγδ IELをインビトロで培養する際の培養液に、IL−2又はIL−15を添加して培養を行ったところ、IL−15を添加した場合の方が、より多くのγδ IELが得られた旨が記載されている。さらに非特許文献5には、単離されたγδ IELを、IL−15を添加した培養液で培養したところ、該γδ IELが6日目まで増殖した旨が記載されている(非特許文献5の図5A)。しかし、培養から6日目を超えると、生きたγδ IEL数は減少すると共に(非特許文献5の図5A)、アポトーシス率(%)はさらに高くなることから(非特許文献5の図5C)、その後は生きたγδ IEL数が急速に低下していくことが予想される点で、まだ十分実用的とは言えなかった。また、非特許文献5の方法では、γδ IELは増殖させることができているものの、αβ IELは増殖させることができていない(非特許文献5の図1B)。加えて、IELの遊走のインビボ解析ではIELが腸上皮間などを活発に遊走していることが知られているところ(非特許文献6)、非特許文献5の方法で増殖して得られたγδ IELは、そのような活発な遊走を示さないと考えられる。一方、例えば、非特許文献7には、マウス由来の単離IELを、マウス角化細胞株と共培養することによって、該IELを維持する方法が開示されている。しかし、非特許文献7の方法では、IELを維持できるのはせいぜいDay6くらいまでであり、また、IELを増殖させることもできていない(非特許文献7の図4等)。また、非特許文献7では、マウス由来の単離IELをマウス腸上皮細胞株と共培養したり、IL−2、IL−7及びIL−15を含有する上皮細胞培養液でマウス由来IELを培養する等しているが、いずれの培養でも、IELを7日以上維持できてはいない。このように、非特許文献7の方法では、実用レベルでIELを維持、増殖することはできなかった。
一方、近年の技術の進展により、小腸及び大腸の上皮幹細胞の長期培養が可能になった(非特許文献8〜10及び特許文献1及び2)。例えば、かかる技術により、マウス小腸のIECは、絨毛様区画により並んだ中央内腔(central lumen)を取り囲む陰窩様隆起領域を含む三次元腸内オルガノイドとして、ほぼ永遠に増殖させることができる(非特許文献8)。この方法により増殖したIECは、同系マウスに戻し移植したときに、通常の小腸上皮を再構成することができることが示され、このことから、かかる培養工程が小腸上皮細胞本来の特徴の維持に有害でないことが示された(非特許文献11)。
また、前述のように小腸陰窩オルガノイドや大腸陰窩オルガノイドは知られていたが、これらの腸陰窩オルガノイドをIELの維持や増殖に利用することや、IELが増加した腸陰窩オルガノイドについては、これまでに報告はなされていなかった。
特開2012−254081号公報 国際公開第2013/061608号パンフレット
Boismenu, R., and W.L. Havran. 1994. Modulation of epithelial cell growth by intraepithelial gamma delta T cells. Science 266: 1253-1255 Chen, Y., K. Chou, E. Fuchs, W.L. Havran, and R. Boismenu. 2002. Protection of the intestinal mucosa by intraepithelial gamma delta T cells. Proc Natl Acad Sci USA 99:14338-14343 Ismail, A.S., C.L. Behrendt, and L.V. Hooper. 2009. Reciprocal interactions between commensal bacteria and gamma delta intraepithelial lymphocytes during mucosal injury. J Immunol 182:3047-3054 Muller, S., M. Buhler-Jungo, and C. Mueller. 2000. Intestinal intraepithelial lymphocytes exert potent protective cytotoxic activity during an acute virus infection. J Immunol 164:1986-1994 Chu, C.L., S.S. Chen, T.S. Wu, S.C. Kuo, and N.S. Liao. 1999. Differential effects of IL-2 and IL-15 on the death and survival of activated TCR gamma delta+ intestinal intraepithelial lymphocytes. J Immunol 162:1896-1903 Edelblum, K.L., L. Shen, C.R. Weber, A.M. Marchiando, B.S. Clay, Y. Wang, I. Prinz, B. Malissen, A.I. Sperling, and J.R. Turner. 2012. Dynamic migration of γδ intraepithelial lymphocytes requires occludin. Proc Natl Acad Sci USA 109:7097-7102 Chennupati, Y., T. Worbs, X. Liu, F.H. Malinarich, S. Schmitz, J.D. Haas, B. Malissen, R. Forster, and I. Prinz. 2010. Intra- and intercompartmental movement of gammadelta T cells: intestinal intraepithelial and peripheral gammadelta T cells represent exclusive nonoverlapping populations with distinct migration characteristics. J Immunol 185:5160-5168 Sato, T., R.G. Vries, H.J. Snippert, M. van de Wetering, N. Barker, D.E. Stange, J.H. van Es, A. Abo, P. Kujala, P.J. Peters, and H. Clevers. 2009. Single Lgr5 stem cells build crypt-villus structures in vitro without a mesenchymal niche. Nature 459:262-265 Sato, T., D.E. Stange, M. Ferrante, R.G. Vries, J.H. Van Es, S. Van den Brink, W.J. Van Houdt, A. Pronk, J. Van Gorp, P.D. Siersema, and H. Clevers. 2011. Long-term expansion of epithelial organoids from human colon, adenoma, adenocarcinoma, and Barrett's epithelium. Gastroenterology 141:1762-1772 Yui, S., T. Nakamura, T. Sato, Y. Nemoto, T. Mizutani, X. Zheng, S. Ichinose, T. Nagaishi, R. Okamoto, K. Tsuchiya, H. Clevers, and M. Watanabe. 2012. Functional engraftment of colon epithelium expanded in vitro from a single adult Lgr5+ stem cell. Nat Med 18:618-623 Fukuda, M., T. Mizutani, W. Mochizuki, T. Matsumoto, K. Nozaki, Y. Sakamaki, S. Ichinose, Y. Okada, T. Tanaka, M. Watanabe, and T. Nakamura. 2014. Small intestinal stem cell identity is maintained with functional Paneth cells in heterotopically grafted epithelium onto the colon. Gelles Dev 28:1752-1757
本発明は、腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させる方法や、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドの製造方法や、該製造方法により製造される、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド等を提供することを目的とする。
背景技術に記載されているように、単離されたIELをインビトロで維持・増殖させる(維持及び/又は増殖させる)方法には、不十分な点があった。本発明者らは、上記の背景技術の状況下で鋭意研究を行った結果、以下の(H)〜(L)などの知見を見いだし、本発明を完成させるにいたった。
(H)単離したIELを、小腸陰窩オルガノイドと共に細胞外マトリクスに包埋し、次いで、該小腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液中で共培養すると、IL−2やIL−7やIL−15を用いない従来の方法と比較して、IELをより長い期間維持することができること。かかる共培養において、培養液中にIL−7及びIL−15のいずれかを添加すると、IL−2やIL−7やIL−15を用いない従来の方法と比較して、IELをより長い期間維持する、又は、IELをより多く増殖させることができること。特に、かかる共培養において、培養液中にIL−2(好ましくはIL−2、IL−7及びIL−15のすべて)を添加すると、IL−2やIL−7やIL−15を用いる従来の方法と比較しても、IELをより長い期間維持する、又は、IELをより多く増殖させることができること。
(I)上記(H)の共培養方法は、共培養の始めに用いたIELと同様の多様性(γδ型とαβ型の割合など)をおおむね維持しつつ、IELを維持及び/又は増殖させることができること。
(J)単離したIELを、大腸陰窩オルガノイドと共に細胞外マトリクスに包埋し、次いで、該大腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液(但し、IL−2、IL−7及びIL−15を含む)中で共培養すると、IELの増加の程度は小腸陰窩オルガノイドと共培養した場合と比較して若干劣るものの、依然として、IELを培養・維持するための優れた方法であること。
(K)上記(H)の共培養方法により得られたIELについてイメージング解析を行ったところ、IELの遊走のインビボ解析に関する非特許文献6に報告されていたように、活発な遊走を示したこと。すなわち、上記(H)の共培養方法によれば、従来の方法により得られたIELよりも、インビボにおけるIELにより近い動態を示すIELを維持・増殖させることができること。
(L)上記(H)や(J)の共培養方法によれば、IELが増加した小腸陰窩オルガノイドや大腸陰窩オルガノイドを製造することができること。
すなわち、本発明は、
(1)(A)単離された腸上皮間リンパ球を、腸陰窩オルガノイドと共に、細胞外マトリクスに包埋する工程A:及び、(B)前記腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液中で、前記細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイドを共培養する工程B: を含むことを特徴とする、腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させる方法や、
(2)(A)単離された腸上皮間リンパ球を、腸陰窩オルガノイドと共に、細胞外マトリクスに包埋する工程A:及び、(B)前記腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液中で、前記細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイドを共培養する工程B: を含むことを特徴とする、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドの製造方法や、
(3)腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液が、IL−2、IL−7及びIL−15から選択される1種又は2種以上を含む、上記(1)又は(2)に記載の方法や、
(4)腸陰窩オルガノイドが小腸陰窩オルガノイドである場合は、小腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液が、分裂促進増殖因子、Wntアゴニスト及びBMP阻害物質を含む培養液であり、腸陰窩オルガノイドが大腸陰窩オルガノイドである場合は、大腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液が、血清アルブミン、Wnt3a、及び、R−スポンジン1を含有し、かつ、血清を含有しない培養液であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法や、
(5)分裂促進増殖因子がEGFであり、WntアゴニストがR−スポンジン1及び/又はWnt−3aであり、BMP阻害物質がNogginであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法や、
(6)大腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液が、上皮細胞増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、及び、Nogginからなる群から選択される1種又は2種以上をさらに含有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法や、
(7)腸陰窩オルガノイドが小腸陰窩オルガノイドである場合は、細胞外マトリクスが、マトリゲルであり、腸陰窩オルガノイドが大腸陰窩オルガノイドである場合は、細胞外マトリクスがコラーゲンであることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法や、
(8)上記(2)〜(7)のいずれかに記載の製造方法により製造される、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドに関する。
本発明によれば、腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させることができる。本発明の方法は、L−2やIL−7やIL−15を用いない従来の方法又はL−2やIL−7やIL−15を用いる従来の方法と比較して、IELをより長期間維持すること又はIELをより多く増殖させることができる。また、本発明によれば、γδ IELだけでなく、αβ IELも増殖させることができる。さらに、本発明によれば、IELが増加した腸陰窩オルガノイドを製造することができる。かかる腸陰窩オルガノイドは、腸上皮間リンパ球の運動性に与える影響を評価する方法に利用することができる。本発明によれば、従来のインビトロ培養法で維持・増殖させるよりも、インビボにおけるIELにより近い動態を示すIELを維持・増殖させることができる。
図1Aには、小腸陰窩オルガノイドの培養後1日目におけるCdh1(カドヘリン)とCD3(上皮間リンパ球[IEL;Intraepithelial Lymphocytes])のz軸スライス蛍光画像3枚を示す。スケールバーは50μmを示す。図1Bの上段には、IELを小腸陰窩オルガノイドと共培養後3日目におけるCD3(IEL)とDAPI(細胞核)のz軸スライス蛍光画像3枚を示し、図1Bの下段には、IELを小腸陰窩オルガノイドと共培養後3日目におけるEGFP(IEL)とDAPI(細胞核)のz軸スライス蛍光画像3枚を示す。なお、図1Bの上段のパネルとその真下の下段のパネルは、同一サンプルの同一のz軸スライス画像において、取得する蛍光シグナルのみが異なる。また、図1A及びB中の蛍光画像における矢頭は、小腸陰窩オルガノイドに組み込まれたIELを示し、図1B中の蛍光画像における矢印は、小腸陰窩オルガノイドの外側に存在するIELを示す。スケールバーは50μmを示す。 図2Aの上段には、IELを、IL−2、IL−7、及びIL−15存在下で小腸陰窩オルガノイドと共培養後1日目、3日目、及び7日目におけるEGFP(IEL)の蛍光画像を示し、図2Aの中段には、図2Aの上段の蛍光画像と、それぞれに対応する位相差画像(PC)とを重ね合わせた画像を示し、図2Aの下段には、図2Aの中段の画像における点線で囲った領域の拡大画像を示す。図2Bの上段には、IELをIL−2、IL−7、及びIL−15存在下で小腸陰窩オルガノイドと共培養後7日目におけるCD3(IEL)とDAPI(細胞核)のz軸スライス蛍光画像を示し、図2Bの下段には、IELをIL−2、IL−7、及びIL−15存在下で小腸陰窩オルガノイドと共培養後7日目におけるEGFP(IEL)とDAPI(細胞核)のz軸スライス蛍光画像3枚を示す。なお、図2Bの上段のパネルとその真下の下段のパネルは、同一サンプルの同一のz軸スライス画像において、取得する蛍光シグナルのみが異なる。また、図2Cの左上には、IELをIL−2、IL−7、及びIL−15存在下で小腸陰窩オルガノイドと共培養後14日目におけるEGFP(IEL)の蛍光画像を示し、図2Cの右上には、左上図における点線で囲った領域の拡大画像を示し、図2Cの左下には、左上図に位相差画像(PC)を重ね合わせた画像を示し、図2Cの右下には、左下図における点線で囲った領域の拡大画像を示す。 図3Aは、IELをIL−2、IL−7、及びIL−15存在下で小腸陰窩オルガノイドと共培養後1日目、7日目、及び14日目におけるIEL数を測定した結果を示す図である。棒グラフは、平均値±標準偏差(SEM)で表す。図3Bは、IELをIL−2、IL−7、及びIL−15存在下で小腸陰窩オルガノイドと共培養後1日目及び7日目におけるTCRαβ及びTCRγδのIEL集団の比率を測定した結果を示す図である。図3Cは、IELをIL−2、IL−7、及びIL−15存在下で小腸陰窩オルガノイドと共培養後1日目及び7日目におけるTCRαβ及びTCRγδのIEL集団について、Ki−67の発現レベルを解析した結果を示す図である。図3Dは、IELをIL−2、IL−7、及びIL−15存在下で小腸陰窩オルガノイドと共培養後14日目におけるTCRαβ及びTCRγδのIEL集団の比率を測定した結果を示す図である。図3Eは、IELをIL−2、IL−7、及びIL−15存在下で小腸陰窩オルガノイドと共培養後14日目におけるTCRαβ及びTCRγδのIEL集団について、Ki−67の発現レベルを解析した結果を示す図である。 図4Aは、IELをIL−2、IL−7又はIL−15存在下、又は、これら3種のILの存在下で、小腸陰窩オルガノイドと共培養後1日目及び7日目におけるIEL数を測定した結果を示す図である。棒グラフは、平均値±標準偏差(SEM)で表す。図4Bは、IELを、IL−2、IL−7及びIL−15存在下で、大腸陰窩オルガノイドと共培養後1日目及び7日目におけるIEL数を測定した結果を示す図である。棒グラフは、平均値±標準偏差(SEM)で表す。 小腸陰窩オルガノイドと共培養したIELの運動解析の結果を示す図である。図5Aには、EGFP−tgマウス由来のIELと、野生型マウス由来の小腸陰窩オルガノイドとを共培養後3日目に、タイムラプス蛍光イメージング(Time-lapse fluorescent Imaging)により解析した結果を示す。上皮細胞単層の基底側に沿った活発な動きを示す代表的なIELの画像(図5A上段)、及び小腸陰窩オルガノイド内部と外部への遊走を示すIELの画像(図5A下段)を示す。スケールバーは10μmを示す。図5Bには、R26−H2B−EGFPマウス由来のIELと、野生型マウス由来の小腸陰窩オルガノイドとを共培養後3日目に、タイムラプス蛍光イメージングにより解析した結果を示す。上皮細胞単層に沿って遊走するIELの画像(図5B上段)、及び小腸陰窩オルガノイド内側と外側への遊走を示すIELの画像(図5B下段)を示す。スケールバーは10μmを示す。なお、図5A、Bの各蛍光画像の右下の数値表示は、イメージングの開始からの経過時間を示す。図5Cには、R26−H2B−EGFPマウス由来のIELと、野生型マウス由来の小腸陰窩オルガノイドとを共培養後3日目に、IEL運動解析した結果を示す。代表的なデータセットの初期(図5C上左図)及び最後(図5C上右図)の静止画像において、IELの細胞核(白色の小さい球)及びその軌跡を4Dイメージで示す。点線で囲った領域の拡大画像を下段に示す。スケールバーは50μmを示す。図5Dには、H2B−EGFPレポーターマウスからTCRαβ及びTCRγδのIEL集団をそれぞれ独立して単離し、野生型マウス由来の小腸陰窩オルガノイドと共培養後3日目に、5μM PD184352で前処理をし(図5D上段)、又は前処理せず(図5D下段)に、IEL運動解析した結果を示す。スケールバーは10μmを示す。図5Eには、H2B−EGFPレポーターマウスからTCRαβ及びTCRγδのIEL集団をそれぞれ独立して単離し、野生型マウス由来の小腸陰窩オルガノイドと共培養後3日目に、IEL内におけるリン酸化ERKタンパク質(phospho-ERK)の発現をフローサイトメトリーで解析した結果を示す。
<1.腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させる方法>
本発明の「腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させる方法」(以下、単に「本発明の維持・増殖方法」とも表示する。)としては、
(A)単離された腸上皮間リンパ球を、腸陰窩オルガノイドと共に、細胞外マトリクスに包埋する工程A:及び、
(B)前記腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液中で、前記細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイドを共培養する工程B:
を含んでいる限り特に制限されない。
(単離された腸上皮間リンパ球)
上記工程Aにおける「単離された腸上皮間リンパ球」としては、哺乳動物の腸上皮間リンパ球であって、かつ、単離された腸上皮間リンパ球である限り特に制限されず、哺乳動物の腸の上皮から直接単離された腸上皮間リンパ球であってもよいし、かかる腸上皮間リンパ球を維持又は増殖することにより得られた腸上皮間リンパ球であってもよい。また、本発明における「単離された腸上皮間リンパ球」とは、腸上皮間リンパ球を含むそのままの生体組織ではないことを意味し、腸上皮間リンパ球のみから構成され、他の種類の細胞を一切含まない状態の他、腸上皮間リンパ球が生体組織の状態よりも濃縮された細胞混合物も含まれる。かかる細胞混合物としては、腸上皮間リンパ球の含有比率(細胞の個数の割合)が10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、80%以上のものを例示することができる。
本明細書における「腸上皮間リンパ球」としては、小腸上皮間リンパ球、大腸上皮間リンパ球が挙げられ、小腸上皮間リンパ球が好ましく挙げられる。本明細書において「哺乳動物」としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等が好適に挙げられ、中でもヒトがより好適に挙げられる。
腸上皮間リンパ球は、哺乳動物の大腸組織や小腸組織から、公知の方法(例えば、Kohyama et al., Proc Natl Acad Sci USA 1999, 96:7451-7455)により単離することができる。より具体的には以下の単離方法が挙げられる。
哺乳動物から採取した腸組織をPBS等の緩衝液で洗い流し、パイエル板を除去した後、薄い(例えば5mm程度の)切片に切断する。その後、Ca、Mgを含まないハンクス平衡塩液に2〜8mM(好ましくは5mM)のエチレン−ジニトリロ四酢酸(EDTA)及び0.3〜2mM(好ましくは1mM)の1,4−ジチオ−D−トレイトール(DTT)を含む容器中で20〜40℃(好ましくは37℃)、10分間〜1時間(好ましくは30分間)、50〜250rpm(好ましくは150rpm)で振盪しながらインキュベートする。次いで、容器内の内容物を、目開き100〜500μm(好ましくは300μm)のナイロンメッシュフィルター及びグラスウールのカラムに通した後、回収された細胞を20〜40%(好ましくは30%)パーコールに懸濁し、10〜30分間(好ましくは20分間)、600〜1000g(好ましくは800g)で遠心分離する。IELは、30分間800g、40/70%パーコール勾配の遠心分離で単離できる。単離したIELは、洗浄し、細胞を計数した後、アッセイに用いてもよい。
上記工程Aに用いる「単離された腸上皮間リンパ球」の数や、「腸陰窩オルガノイド」の数としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されず、前述の「単離された腸上皮間リンパ球」の数としては例えば1.0×10個〜1.0×10個の範囲内、1.0×10個〜1.0×10個の範囲内、1.0×10個〜1.0×10個の範囲内が好ましく挙げられ、前述の「腸陰窩オルガノイド」の数としては例えば10〜10000個の範囲内、50〜200個の範囲内、70〜150個の範囲内が好ましく挙げられる。また、上記工程Aに用いる「単離された腸上皮間リンパ球」の数と、「腸陰窩オルガノイド」の数との比率としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、腸陰窩オルガノイド1個に対して、IELを10個〜10万個の範囲内、100個〜1万個の範囲内、500〜2000個の範囲内が好ましく挙げられる。
(腸陰窩オルガノイド)
上記工程Aにおける「腸陰窩オルガノイド」としては、哺乳動物の腸陰窩オルガノイドである限り特に制限されない。本明細書において「腸陰窩オルガノイド」とは、腸上皮により内面が覆われている中心内腔、及び、外面に突出する複数の陰窩様部位を有する組織構造体を意味する。本明細書における「腸陰窩オルガノイド」として、具体的には、小腸陰窩オルガノイド、大腸陰窩オルガノイドが挙げられ、小腸陰窩オルガノイドが好ましく挙げられる。
腸陰窩オルガノイドは、公知の方法により作製することができる。小腸陰窩オルガノイドの作製方法は例えば特許文献1(特開2012−254081号公報)に詳細に記載されており、大腸陰窩オルガノイドの作製方法は例えば特許文献2(国際公開第2013/061608号パンフレット)に詳細に記載されている。
小腸陰窩オルガノイドの作製方法は、前述のように、例えば特許文献1に詳細に記載されているが、以下に簡単に説明する。哺乳動物の小腸から、鉗子等を利用して、陰窩を含む小腸組織を採取する。かかる小腸組織から、公知の方法にしたがって、陰窩を単離することができる。例えば、キレート剤(基底膜および間質細胞型とのそれらのカルシウムおよびマグネシウム依存性相互作用から細胞を解放する)と、採取した小腸組織を恒温放置することによって、陰窩を単離することができる。この小腸組織を洗浄した後、硝子スライドで上皮細胞層を粘膜下層から剥離し、細切する。この後、続いて、トリプシンまたは、より好ましくはEDTAおよび/またはEGTA中で恒温放置し、例えばろ過および/または遠心段階を用いて、未消化の小腸組織断片と陰窩由来の単一細胞とを分離する。トリプシンの代わりに、その他のタンパク質分解酵素、例えばコラゲナーゼおよび/またはディスパーゼIを使用することができる。
分離して得られた、小腸陰窩由来の複数種の単一細胞を含む細胞集団は、小腸上皮幹細胞を含んでいる。かかる細胞集団を培養することにより、小腸陰窩オルガノイドを作製することができるが、より効率良く小腸陰窩オルガノイドを作製する観点から、前述の細胞集団から単離した小腸上皮幹細胞を培養することが好ましい。かかる小腸上皮幹細胞は、腸の成体幹細胞のマーカーであるLgr5及び/Lgr6を指標に単離することができる。
小腸上皮幹細胞又は、該小腸上皮幹細胞を含む細胞集団は、細胞外マトリクスに包埋して、3次元的に培養することが好ましい。かかる細胞外マトリクスとしては、後述の工程Aにおいて、腸上皮間リンパ球として小腸上皮間リンパ球を用い、腸陰窩オルガノイドとして小腸陰窩オルガノイドを用いる場合に利用する細胞外マトリクスと同様のものが好ましく挙げられる。また、細胞外マトリクスへの包埋方法は、後述の工程Aにおける包埋方法と同様の方法を用いることができる。
小腸陰窩オルガノイドを作製する際の培養液としては、後述の工程Bに用いる培養液のうち、「小腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液」が好ましく挙げられる。ただし、小腸陰窩オルガノイドを作製する際の培養液は、後述の「さらなる任意成分」を含んでいてもよいが、含んでいなくてもよく、製造コストの観点から、含んでいない方が好ましい。
小腸陰窩オルガノイドを作製する際の培養条件としては、小腸陰窩オルガノイドを作製し得る限り特に制限されないが、培養温度として、例えば30〜40℃の範囲内、好ましくは36〜38℃の範囲内、より好ましくは37℃を好適に例示することができる。また、培養期間としては例えば4〜12日間が挙げられ、5〜10日間が好ましく挙げられ、6〜7日間がより好ましく挙げられる。培養液の交換は適当な時期に行うことが好ましい。培養液の交換頻度としては、小腸陰窩オルガノイドを作製し得る限り特に制限されないが、例えば1〜5日間経過毎、好ましくは2〜3日間経過毎とすることができる。
一方、大腸陰窩オルガノイドの作製方法は、前述のように、例えば特許文献2に詳細に記載されているが、以下に簡単に説明する。哺乳動物の大腸から、鉗子等を利用して、陰窩を含む大腸組織を採取する。かかる大腸組織から、公知の方法にしたがって、陰窩を単離することができる。例えば、キレート剤(基底膜および間質細胞型とのそれらのカルシウムおよびマグネシウム依存性相互作用から細胞を解放する)と、採取した大腸組織を恒温放置することによって、陰窩を単離することができる。この大腸組織を洗浄した後、硝子スライドで上皮細胞層を粘膜下層から剥離し、細切する。この後、続いて、トリプシンまたは、より好ましくはEDTAおよび/またはEGTA中で恒温放置し、例えばろ過および/または遠心段階を用いて、未消化の大腸組織断片と陰窩由来の単一細胞とを分離する。トリプシンの代わりに、その他のタンパク質分解酵素、例えばコラゲナーゼおよび/またはディスパーゼIを使用することができる。
分離して得られた、大腸陰窩由来の複数種の単一細胞を含む細胞集団は、大腸上皮幹細胞を含んでいる。かかる細胞集団を培養することにより、大腸陰窩オルガノイドを作製することができるが、より効率良く大腸陰窩オルガノイドを作製する観点から、前述の細胞集団から単離した大腸上皮幹細胞を培養することが好ましい。かかる大腸上皮幹細胞は、腸の成体幹細胞のマーカーであるLgr5及び/Lgr6を指標に単離することができる。
大腸上皮幹細胞又は、該大腸上皮幹細胞を含む細胞集団は、細胞外マトリクスに包埋して、3次元的に培養することが好ましい。かかる細胞外マトリクスとしては、後述の工程Aにおいて、腸上皮間リンパ球として大腸上皮間リンパ球を用い、腸陰窩オルガノイドとして大腸陰窩オルガノイドを用いる場合に利用する細胞外マトリクスと同様のものが好ましく挙げられる。また、細胞外マトリクスへの包埋方法は、後述の工程Aにおける包埋方法と同様の方法を用いることができる。
大腸陰窩オルガノイドを作製する際の培養液としては、後述の工程Bに用いる培養液のうち、「大腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液」が好ましく挙げられる。ただし、大腸陰窩オルガノイドを作製する際の培養液は、後述の、IL−2、IL−7及びIL−15から選択される1種又は2種又は3種を含んでいてもよいが、含んでいなくてもよく、製造コストの観点から、含んでいない方が好ましい。
大腸陰窩オルガノイドを作製する際の培養条件としては、大腸陰窩オルガノイドを作製し得る限り特に制限されないが、培養温度として、例えば30〜40℃の範囲内、好ましくは36〜38℃の範囲内、より好ましくは37℃を好適に例示することができる。また、培養期間としては例えば4〜12日間が挙げられ、5〜10日間が好ましく挙げられ、6〜7日間がより好ましく挙げられる。培養液の交換は適当な時期に行うことが好ましい。培養液の交換頻度としては、大腸陰窩オルガノイドを作製し得る限り特に制限されないが、例えば1〜5日間経過毎、好ましくは2〜3日間経過毎とすることができる。
本発明に用いる腸陰窩オルガノイドは、初代培養により得られる腸陰窩オルガノイドであってもよいし、初代培養の培養物(例えば腸陰窩オルガノイド)から採取した細胞を継代培養して得られる腸陰窩オルガノイドであってもよいし、継代培養の培養物(例えば腸陰窩オルガノイド)から採取した細胞を継代培養して得られる腸陰窩オルガノイドであってもよい。継代の時期や頻度としては、腸陰窩オルガノイドを作製し得る限り特に制限されないが、腸上皮幹細胞等の集団(好ましくは腸陰窩オルガノイド)が大きくなってきたタイミングで適宜行うことができ、例えば、4〜12日間経過後又は経過毎、好ましくは6〜10日間経過後又は経過毎とすることができる。継代の方法としては、腸上皮幹細胞等を維持又は増幅し得る限り特に制限されず、細胞外基質から分離した腸上皮幹細胞等(例えば腸陰窩)を、新たな細胞外基質と共存させる方法を例示することができ、中でも、半固形化した細胞外基質(好ましくはマトリゲルやコラーゲン)を分解酵素(好ましくはコラゲナーゼなど)等により分解又は冷却により解重合して分離して得られた腸上皮幹細胞等(例えば腸陰窩)を、新たな細胞外基質に包埋させる方法を好適に例示することができる。
(本発明における工程A)
本発明における工程Aとしては、単離された腸上皮間リンパ球を、腸陰窩オルガノイドと共に、細胞外マトリクスに包埋する工程である限り特に制限されず、例えば、ウェル等の培養容器内において、単離された腸上皮間リンパ球、腸陰窩オルガノイド及び細胞外マトリクスを共存させつつ、細胞外マトリクスを重合させる方法が好ましく挙げられ、中でも、単離された腸上皮間リンパ球と腸陰窩オルガノイドの混合物を、ウェル等の培養容器内に入れた後、該培養容器内に細胞外マトリクスを添加し、該細胞外マトリクスを重合させる方法がより好ましく挙げられる。
好ましい態様として、上記工程Aより前に、単離された腸上皮間リンパ球と、腸陰窩オルガノイドとを、腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液(好ましくはDMEM培養液)中で10分間〜2時間、好ましくは20分間〜1時間、培養することが好ましい。
(本発明における工程B)
本発明における工程Bとしては、腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液中で、「細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイド」を共培養する工程である限り特に制限されない。
本発明の工程Bにおける共培養の培養条件としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、培養温度として、例えば30〜40℃の範囲内、好ましくは36〜38℃の範囲内、より好ましくは37℃を好適に例示することができる。また、培養期間としては特に制限されないが、例えば4〜14日間が挙げられ、腸上皮間リンパ球を増殖させる場合は、より多くの腸上皮間リンパ球を得る観点から7〜14日間が好ましく挙げられ、8〜13日間がより好ましく挙げられる。また、後述するように、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドを製造する場合は、工程Bの培養期間として3〜7日間が好ましく挙げられ、5〜7日間がより好ましく挙げられる。
本発明の工程Bにおける共培養において、培養液の交換は適当な時期に行うことが好ましい。培養液の交換頻度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば1〜5日間経過毎、好ましくは2〜3日間経過毎とすることができる。
本発明の工程Bにおける共培養において、腸陰窩オルガノイドは交換しなくてもよいが、腸上皮間リンパ球をより長期間維持し又はより多く増殖させる観点から、あるいは、腸上皮間リンパ球がより多く増加した腸陰窩オルガノイドを得る観点から、適当な時期に交換することが好ましい。腸陰窩オルガノイドの交換頻度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば5〜8日間毎、好ましくは6〜7日間毎とすることができる。
腸陰窩オルガノイドを交換する方法としては特に制限されないが、例えば、共培養物中のIELを単離した後、かかるIELを、別途培養した腸陰窩オルガノイドと共に細胞外マトリクスに包埋して、腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液中で共培養を継続する方法が挙げられる。なお、共培養物中のIELを単離する方法としては以下のような方法が挙げられる。共培養中の「細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイド」を培養液中から取りだした後、細胞外マトリクスを冷却やコラゲナーゼ等で解重合や分解などして、腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイドを分取する。遠心分離後、上清画分(画分1)を回収する。また、沈殿物を氷上の緩衝液中でインキュベートし、しばらく静置した後、上清画分(画分2)を回収する。さらに、その沈殿物を激しいピペット操作などで破壊し、メッシュフィルター(例えば目開き40μm)を通過させたものを画分3とする。画分1〜3はいずれもIELを含む懸濁液である。画分1〜3のいずれかを用いてもよいが、画分1〜3を合わせることにより、共培養物中からIELをより効率良く単離することができる。
(工程Bの培養液)
本発明の工程Bにおける培養液(以下、単に「工程Bの培養液」とも表示する。)としては、腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液である限り特に制限されない。工程Bにおける培養液は血清を含有していてもよいし、含有していなくてもよいが、含有していないことが好ましい。本発明によれば、血清を用いずとも、IELを長期間維持でき、又はIELをより多く増殖することができる。
工程Bの培養液は、基本培養液成分(糖類などの炭素源、アミノ酸などの窒素源、無機塩)に加えて、以下の必須成分を含む。かかる必須成分は、腸陰窩オルガノイドが小腸陰窩オルガノイドである場合は、分裂促進増殖因子、Wntアゴニスト及びBMP阻害物質(以下、これら3成分をまとめて、単に「小腸必須3成分」とも表示する。)であり、腸陰窩オルガノイドが大腸陰窩オルガノイドである場合は、血清アルブミン、Wnt3a、及び、R−スポンジン1(以下、これら3成分をまとめて、単に「大腸必須3成分」とも表示する。)である。
上記の基本培養液成分としては、培養する腸上皮間リンパ球や腸陰窩オルガノイドが同化し得る糖類等の炭素源や、かかる腸上皮間リンパ球や腸陰窩オルガノイドが消化し得るアミノ酸等の窒素源や、無機塩などを好適に例示することができる。かかる基本培養液成分は当業者に公知のものや、市販のもの(例えば、Invitrogen社製のもの)を使用することができ、具体的には、MEM(Minimum Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、 DMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)、EMEM(Eagle's minimal essential medium)、IMDM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)、GMEM(Glas- gow's MEM)、F12(Ham's F12 Medium)、DMEM/F12、RPMI1640、BMOC-3 (Brinster's BMOC-3 Medium)、CMRL−1066、L−15(Leibovitz's L-15 medium)、McCoy’s 5A、Media 199、MEM αMedia、MCDB105、MCDB131、MCDB153、MCDB201、Williams’ medium E、Advanced MEM、Advanced DMEM、Advanced DMEM/F−12、Advanced RPMI1640、などの培養液を用いることができる。本発明においては、Advanced DMEM/F−12(Invitrogen社製)などを好適に例示することができる。また、上記のアミノ酸としては、グルタミンを好適に例示することができる。
(小腸必須3成分)
腸上皮間リンパ球(すなわち、小腸上皮間リンパ球又は大腸上皮間リンパ球、好ましくは小腸上皮間リンパ球)と小腸陰窩オルガノイドを共培養する場合、工程Bの培養液は、小腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液である。小腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液は、小腸必須3成分(分裂促進増殖因子、Wntアゴニスト及びBMP阻害物質)を含有する。
小腸必須3成分のうちの1つである上記の分裂促進増殖因子としては、上皮増殖因子(EGF)、形質転換増殖因子−α(TGF−α)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、及び、脳由来神経栄養因子(BDNF)からなる群から選択される1種又は2種以上の分裂促進増殖因子が好ましく挙げられ、中でも、EGFやFGFがより好ましく挙げられ、中でも、EGFが最も好ましく挙げられる。なお、FGFとしては、FGF2(bFGF)、FGF7(ケラチン生成細胞増殖因子(KGF)とも呼ばれる)及びFGF10から選択される1種又は2種以上が好ましく挙げられ、FGF7及び/又はFGF10がより好ましく挙げられる。分裂促進増殖因子の好ましい組合せとしては、「EGF単独」や、「EGF及びFGF7」や、「EGF及びFGF10」が挙げられる。
腸上皮間リンパ球と小腸陰窩オルガノイドを共培養する場合の工程Bの培養液における分裂促進増殖因子の濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、EGFの場合、例えば、5〜500ng/mLの範囲内、好ましくは10〜250ng/mLの範囲内、より好ましくは20〜125ng/mLの範囲内、さらに好ましくは30〜70ng/mLの範囲内が挙げられる。同様の濃度をFGF(好ましくはFGF10やFGF7)に対して適用することができる。複数種のFGFを使用する場合は、FGFの前述の濃度範囲は、使用するFGFの総濃度を示す。上記工程Bの培養中、1〜3日ごと(好ましくは2日ごと)に分裂促進増殖因子を培養液に添加することが好ましい。
小腸必須3成分のうちの1つである上記のWntアゴニストとは、細胞中でTCF/LEF介在性の転写を活性化する物質を意味する。Wntシグナル伝達経路は、Wntタンパク質がFrizzled受容体ファミリーの細胞表面受容体に結合し、該受容体にDishevelledファミリータンパク質を放出させることで始まる。Dishevelledファミリータンパク質は通常、β-カテニンシグナル分子を促進するアキシン(Axin)、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK−3)及びAPC(Adenomatous polyposis coli)タンパク質を含む分子の複合体を抑制する。この複合体が抑制されるとβ−カテニンが安定化して核へ入ることが可能となり、核へ入った該β−カテニンはTCF/LEFファミリー転写因子によって転写を促進する。よって、上記のWntアゴニストとしては、Wntファミリータンパク質のありとあらゆるものを含むFrizzled受容体ファミリーメンバーに結合し、活性化する作用を有する物質(狭義のWntアゴニスト)、細胞内β−カテニン分解の阻害物質、及び、TCF/LEFの活性化物質からなる群から選択される1種又は2種以上のWntアゴニストが挙げられる。Wntアゴニストが細胞においてWnt活性を向上させる程度としては特に制限されないが、そのWntアゴニストの存在下でのWnt活性のレベルが、そのWntアゴニストの非存在下でのWnt活性のレベルに対して、割合として10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは100%以上の向上であることが好適に挙げられる。Wnt活性は、公知の方法により測定することができ、例えばpTOPFLASH及びpFOPFLASH Tcfルシフェラーゼレポーターコンストラクトによって、Wntの転写活性を測定することにより調べることができる(Korinek et al.,1997.Science 275:1784-1787)。
上記のWntアゴニストとしては、Wnt−1/Int−1; Wnt−2/Irp(Int−1関連タンパク質); Wnt−2b/13、Wnt−3/Int−4; Wnt−3a(例えばR&D systems社製); Wnt−4; Wnt−5a; Wnt−5b; Wnt−6(Kirikoshi H et al.2001. Biochem Biophys Res Com 283:798-805); Wnt−7a(R&D systems社製); Wnt−7b; Wnt−8a/8d; Wnt−8b; Wnt−9a/14; Wnt−9b/14b/15; Wnt−10a; Wnt−10b/12; Wnt−11及びWnt−16からなる群から選択される1種又は2種以上のWntタンパク質が挙げられる。Wntタンパク質は、分泌糖タンパク質である。ヒトWntタンパク質の概要については、「THE WNT FAMILY OF SECRETED PROTEINS」、R&D Systems Catalog、2004)で提供される。さらに、Wntアゴニストは、分泌タンパク質のR−スポンジン(R-Spondin)ファミリー(これは、Wntシグナル伝達経路の活性化および制御に関わり、4種類のメンバー(R−スポンジン1(NU206,Nuvelo,San Carlos,CA)、R−スポンジン2((R&D systems社製)、R−スポンジン3およびR−スポンジン−4)からなる)及び、高親和性でFrizzled-4受容体に結合し、Wntシグナル伝達経路の活性化を誘導するという点でWntタンパク質のように機能する分泌性制御タンパク質であるノリン(Norrin、ノリー病タンパク質(Norrie Disease Protein)又はNDPとも呼ばれる)(R&D systems社製)を含む(Kestutis Planutis et al.(2007)BMC Cell Biol.8:12)。Wntシグナル伝達経路の小分子アゴニスト、アミノピリミジン誘導体が最近同定されたが、これもまたWntアゴニストとして明確に含まれる(Liu et al.(2005)Angew Chem Int Ed Engl.44,1987-90)。
GSK−3阻害活性を有する既知の物質としては、低分子干渉RNA(siRNA、Cell Signaling)、リチウム(Sigma社製)、ケンパウロン(Biomol International;Leost,M et al.(2000)Eur J Biochem.267, 5983-5994)、6−ブロモインジルビン−3’−アセトキシム(Meijer,L et al.(2003)Chem Biol.10,1255-1266)、SB216763及びSB415286(Sigma-Aldrich社製)、及び、「FRAT−ファミリーメンバー及びアキシンとのGSK−3の相互作用を阻止するFRAT由来ペプチド」が挙げられる。概要は、Meijer et al.(2004)Trends in Pharmacological Sciences 25,471-480により提供される。GSK−3阻害活性のレベルを調べるための方法及びアッセイは当業者にとって公知であり、例えば、Liao et al. 2004, Endocrinology, 145(6):2941-9)に記載のような方法およびアッセイが挙げられる。
好ましい態様において、Wntアゴニストとしては、Wntファミリーのタンパク質、R−スポンジン1〜4、ノリン及びGSK−3阻害物質からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。さらに好ましい態様において、Wntアゴニストは、R−スポンジン1を含むか、又は、R−スポンジン1からなる。腸上皮間リンパ球と小腸陰窩オルガノイドを共培養する場合の工程Bの培養液におけるR−スポンジン1の濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、50〜5000ng/mLの範囲内、好ましくは100〜2500ng/mLの範囲内、より好ましくは200〜1250ng/mLの範囲内、さらに好ましくは300〜850ng/mLの範囲内、より好ましくは400〜625ng/mL、さらに好ましくは450〜550ng/mLの範囲内、最も好ましくは500ng/mLが挙げられる。上記工程Bの培養中、好ましくは2日ごとにWntファミリーのタンパク質を培養液に添加し、また、好ましくは4日ごとに培養液を新鮮なものに交換する。
好ましい態様において、Wntアゴニストは、R−スポンジン(好ましくはR−スポンジン1)、Wnt−3a及びWnt−6からなる群から選択される1種又は2種以上であり、さらに好ましくはR−スポンジン(好ましくはR−スポンジン1)及びWnt−3aの両者が挙げられる。この組み合わせは、驚くべきことにオルガノイド形成に対して相乗効果を有するので、特に好ましい。腸上皮間リンパ球と小腸陰窩オルガノイドを共培養する場合の工程Bの培養液におけるR−スポンジン(好ましくはR−スポンジン1)の好ましい濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、50〜5000ng/mLの範囲内、好ましくは100〜2500ng/mLの範囲内、より好ましくは200〜1250ng/mLの範囲内、さらに好ましくは300〜850ng/mLの範囲内、より好ましくは400〜625ng/mL、さらに好ましくは450〜550ng/mLの範囲内、最も好ましくは500ng/mLが挙げられる。また、工程Bの培養液におけるWnt−3aの好ましい濃度としては、10〜1000ng/mLの範囲内、好ましくは20〜500ng/mLの範囲内、より好ましくは40〜250ng/mLの範囲内、さらに好ましくは60〜170ng/mLの範囲内、より好ましくは80〜125ng/mL、さらに好ましくは90〜110ng/mLの範囲内、最も好ましくは100ng/mLが挙げられる。
小腸必須3成分のうちの1つである上記のBMP阻害物質は、二量体リガンドとして2種類の異なる受容体セリン/スレオニンキナーゼ、I型及びII型受容体からなる受容体複合体に結合する。II型受容体はI型受容体をリン酸化し、その結果、この受容体キナーゼが活性化される。このI型受容体は、続いて特異的な受容体基質(SMAD)をリン酸化し、その結果、シグナル伝達経路によって転写活性が導かれる。
BMP阻害物質には、BMP分子に結合して複合体を形成することによって、BMP分子のBMP受容体への結合を阻止又は阻害する物質や、BMP受容体に結合することによって、BMP分子のBMP受容体への結合を阻止又は阻害する物質が含まれる。後者の阻害物質には、BMP受容体のアンタゴニストやインバースアゴニストが含まれ、より具体的には、BMP受容体に結合することによって、BMP分子のBMP受容体への結合を阻止又は阻害する抗体が挙げられる。
上記のBMP阻害物質が細胞においてBMP活性を阻害する程度としては特に制限されないが、そのBMP阻害物質の存在下でのBMP活性のレベルが、そのBMP阻害物質の非存在下でのBMP活性のレベルに対して、割合として90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下、最も好ましくは0%までの阻害であることが好適に挙げられる。BMP活性は、公知の方法により測定することができ、例えばZilberberg et al.,2007.BMC Cell Biol.8:41に記載されているように、BMPの転写活性を測定することによって、BMP活性を調べることができる。
BMP阻害物質としては、ノギン(Noggin)(Peprotech社製)、コーディン(Chordin)、コーディンドメインを含むコーディン様タンパク質(R&D systems社製)、ホリスタチン(Follistatin)、ホリスタチンドメインを含むホリスタチン関連タンパク質(R&D systems社製)、DANタンパク質、DANシステイン−ノットドメイン(DAN cysteine-knot domain)を含むDAN様タンパク質(R&D systems社製)、スクレロスチン/SOST(R&D systems社製)、デコリン(R&D systems)、及び、α−2マクログロブリン(R&D systems社製)からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられ、中でも、ノギン、DANタンパク質、及び、DAN様タンパク質(サーベラス(Cerberus)及びグレムリン(Gremlin)(R&D systems)を含む)からなる群から選択される1種又は2種以上が好ましく挙げられ、ノギンがより好ましく挙げられる。これらのBMP阻害物質は、BMPリガンドに結合することによって、BMPリガンドがシグナル伝達物質受容体へ結合することを阻害することができる。
腸上皮間リンパ球と小腸陰窩オルガノイドを共培養する場合の工程Bの培養液におけるBMP阻害物質の濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、BMP阻害物質がノギンである場合、例えば、例えば、1ng/mL〜10μg/mLの範囲内、好ましくは10〜1000ng/mLの範囲内、より好ましくは30〜300ng/mLの範囲内、さらに好ましくは50〜200ng/mLの範囲内、より好ましくは70〜130ng/mLの範囲内が挙げられる。上記工程Bの培養中、好ましくは2日ごとにBMP阻害物質(好ましくはノギン)を培養液に添加し、また、好ましくは4日ごとに培養液を新鮮なものに交換する。
(大腸必須3成分)
腸上皮間リンパ球(すなわち、小腸上皮間リンパ球又は大腸上皮間リンパ球、好ましくは大腸上皮間リンパ球)と大腸陰窩オルガノイドを共培養する場合、工程Bの培養液は、大腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液である。大腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液は、大腸必須3成分(血清アルブミン、Wnt3a、及び、R−スポンジン1)を含有する。
大腸必須3成分のうちの1つである上記の血清アルブミンは、哺乳動物の血清に含まれるアルブミンである限り特に制限されず、かかる血清アルブミンとしては、哺乳動物の血清から精製したもの、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えばSigma社製のBSA)のいずれを用いてもよい。血清アルブミンの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒト血清アルブミン(human serum albumin;HSA)や、ウシ血清アルブミン(BSA)を好適に例示することができ、中でもBSAをより好適に例示することができる。また、培養する腸上皮間リンパ球や大腸陰窩オルガノイドが由来する哺乳動物種と同種の哺乳動物に由来する血清アルブミンを用いることも好ましい。
腸上皮間リンパ球と大腸陰窩オルガノイドを共培養する場合の工程Bの培養液における血清アルブミンの濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、前述の工程Bの培養液において、上限として、30重量%以下(例えば20重量%以下、10重量%以下、5%重量%以下など)が挙げられ、下限として、0.01重量%以上(例えば0.05重量%以上、0.1重量%以上、0.3%以上)が挙げられる。より好ましい濃度としては、0.3%以上3%以下の範囲を挙げることができる。
大腸必須3成分のうちの1つである上記のWnt3aは、哺乳動物のWNT3A遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるWnt3aとしては、例えばパネート細胞などのWnt3産生細胞が産生するものを用いてもよいし、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えば、R&D Systems社製のWnt3a)のいずれを用いてもよい。Wnt3aの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトWnt3a(hWnt3a)や、マウスWnt3a(mWnt3a)を好適に例示することができ、中でも、mWnt3aをより好適に例示することができる。また、培養する腸上皮間リンパ球や大腸陰窩オルガノイドが由来する哺乳動物種と同種の哺乳動物種と同じWnt3aを用いることも好ましい。
腸上皮間リンパ球と大腸陰窩オルガノイドを共培養する場合の工程Bの培養液におけるWnt3aの濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、前述の工程Bの培養液において、上限として、3mg/mL以下(例えば、500μg/mL以下、100μg/mL以下、30μg/mL以下、3μg/mL以下、1μg/mL以下など)が挙げられ、下限として、300pg/mL以上(例えば、1ng/mL以上、3ng/mL以上、10ng/mL以上、30ng/mL以上)が挙げられる。より好ましい最終濃度としては、30ng/mL以上を挙げることができる。
大腸必須3成分のうちの1つである上記のR−スポンジン1は、哺乳動物のRSPO1遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるRspo1としては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのRspo1産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えば、R&D Systems社製のR-Spondin1)のいずれを用いてもよい。Rspo1の由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトRspo1(hRspo1)や、マウスRspo1(mRspo1)を好適に例示することができ、中でも、mRspo1をより好適に例示することができる。また、培養する腸上皮間リンパ球や大腸陰窩オルガノイドが由来する哺乳動物種と同種の哺乳動物に由来するR−スポンジン1を用いることも好ましい。
腸上皮間リンパ球と大腸陰窩オルガノイドを共培養する場合の工程Bの培養液におけるR−スポンジン1の濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、前述の工程Bの培養液において、上限として、5mg/mL以下(例えば、1mg/mL以下、200μg/mL以下、40μg/mL以下、5μg/mL以下、1μg/mL以下など)であることが挙げられ、下限として、500pg/mL以上(例えば、5ng/mL以上、50ng/mL以上、250ng/mL以上)であることが挙げられる。
(大腸任意3成分)
腸上皮間リンパ球(すなわち、小腸上皮間リンパ球又は大腸上皮間リンパ球、好ましくは小腸上皮間リンパ球)と大腸陰窩オルガノイドを共培養する場合、工程Bの培養液は、基本培養液成分、及び、大腸必須3成分のみを含んでいてもよいが、それらの成分に加えて、上皮細胞増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、及び、ノギン(Noggin)からなる群から選択される1種、好ましくは2種、より好ましくは3種の成分(以下、かかる3成分を「大腸任意3成分」とも表示する。)をさらに含有することを好適に例示することができる。
大腸任意3成分のうちの1つである上記のEGFとしては、哺乳動物のEGF遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるEGFとしては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのEGF産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えば、Peprotech社製のEGF)のいずれを用いてもよい。EGFの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトEGF(hEGF)や、マウスEGF(mEGF)を好適に例示することができ、中でも、mEGFをより好適に例示することができる。また、培養する腸上皮間リンパ球や大腸陰窩オルガノイドが由来する哺乳動物種と同種の哺乳動物に由来するEGFを用いることも好ましい。
腸上皮間リンパ球と大腸陰窩オルガノイドを共培養する場合の工程Bの培養液におけるEGFの濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、前述の工程Bの培養液において、上限として、200μg/mL以下(例えば、40μg/mL以下、8μg/mL以下、2μg/mL以下、200ng/mL以下、40ng/mL以下など)であることが挙げられ、下限として、1pg/mL以上(例えば、8pg/mL以上、100pg/mL以上、1ng/mL以上、10ng/mL以上)であることが挙げられる。また、EGFのより好ましい濃度としては、1ng/mL以上40ng/mL以下の範囲が挙げられる。
大腸任意3成分のうちの1つである上記のHGFとしては、哺乳動物のHGF遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるHGFとしては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのHGF産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えば、R&D Systems社製のHGF)のいずれを用いてもよい。HGFの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトHGF(hHGF)や、マウスHGF(mHGF)を好適に例示することができ、中でも、mHGFをより好適に例示することができる。また、培養する腸上皮間リンパ球や大腸陰窩オルガノイドが由来する哺乳動物種と同種の哺乳動物に由来するHGFを用いることも好ましい。
腸上皮間リンパ球と大腸陰窩オルガノイドを共培養する場合の工程Bの培養液におけるHGFの濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、前述の工程Bの培養液において、上限として、500μg/mL以下(例えば、100μg/mL以下、20μg/mL以下、4μg/mL以下、500ng/mL以下、100ng/mL以下など)であることが挙げられ、下限として、50pg/mL以上(例えば、500pg/mL以上、5ng/mL以上、25ng/mL以上)であることが挙げられる。また、HGFのより好ましい濃度としては、5ng/mL以上100ng/mL以下の範囲が挙げられる。
大腸任意3成分のうちの1つである上記のノギンとしては、哺乳動物のNOG遺伝子によりコードされるタンパク質である限り特に制限されず、かかるノギンとしては、遺伝子工学的に作成した当該遺伝子発現細胞などのノギン産生細胞が産生するものを用いてもよいし、化学的あるいは生化学的に合成したもの、市販のもの(例えば、R&D Systems社製のNoggin)のいずれを用いてもよい。ノギンの由来としては、哺乳動物である限り特に制限されないが、ヒトノギン(hNoggin)や、マウスノギン(mNoggin)を好適に例示することができ、中でも、マウスノギンをより好適に例示することができる。また、培養する腸上皮間リンパ球や大腸陰窩オルガノイドが由来する哺乳動物種と同種の哺乳動物に由来するノギンを用いることも好ましい。
腸上皮間リンパ球と大腸陰窩オルガノイドを共培養する場合の工程Bの培養液におけるノギンの濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、前述の工程Bの培養液において、上限として、500μg/mL以下(例えば、100μg/mL以下、20μg/mL以下、4μg/mL以下、500ng/mL以下、100ng/mL以下など)であることが挙げられ、下限として、50pg/mL以上(例えば、500pg/mL以上、5ng/mL以上、25ng/mL以上)であることが挙げられる。また、ノギンのより好ましい濃度としては、5ng/mL以上100ng/mL以下の範囲を挙げることができる。
(さらなる任意成分)
工程Bの培養液は、腸上皮間リンパ球(すなわち、小腸上皮間リンパ球又は大腸上皮間リンパ球、好ましくは小腸上皮間リンパ球)と小腸陰窩オルガノイドを共培養する場合であっても、腸上皮間リンパ球(すなわち、大腸上皮間リンパ球又は小腸上皮間リンパ球、好ましくは大腸上皮間リンパ球)と大腸陰窩オルガノイドを共培養する場合であっても、さらなる任意成分を含まなくてもよいが、腸上皮間リンパ球をより長期間維持し又はより多く増殖させる観点から、あるいは、腸上皮間リンパ球がより多く増加した腸陰窩オルガノイドを得る観点から、さらなる任意成分を含むことが好ましい。さらなる任意成分としては、IL−2、IL−7、IL−15、Rhoキナーゼ阻害物質、Notchアゴニスト、抗生物質から選択される1種又は2種以上が挙げられ、中でも、IL−2、IL−7及びIL−15から選択される1種又は2種以上(好ましくは3種)が好ましく挙げられ、中でも、「IL−2」、「IL−2及びIL−7」、「IL−2及びIL−15」及び「IL−2、IL−7及びIL−15」から選択されるいずれかがより好ましく挙げられ、「IL−2、IL−7及びIL−15」が最も好ましく挙げられる。特に、IL−2は、腸上皮間リンパ球をより長期間維持し又はより多く増殖させる点や、腸陰窩オルガノイドにおける腸上皮間リンパ球をより多く増加させる点できわめて優れているため、工程Bの培養液は、任意成分として、少なくともIL−2を含むことが特に好ましく挙げられる。また、上記のRhoキナーゼ阻害物質や、上記のNotchアゴニストは、細胞の生存率や増殖効率を改善する点で好ましい。
上記のIL−2(インターロイキン2)としては、哺乳動物のIL−2である限り特に制限されないが、培養する腸上皮間リンパ球や腸陰窩オルガノイドが由来する哺乳動物種と同種のIL−2が好ましく挙げられる。かかる哺乳動物のIL−2としては、市販されているIL−2(例えば、Roche社製)を用いてもよいし、GenBank等の配列データベースに開示されているIL−2遺伝子のヌクレオチド配列やアミノ酸配列に基づいて化学的に合成したIL−2を用いてもよいし、前述の配列に基づき、遺伝子組換え技術を利用して作製したIL−2を用いてもよい。
工程Bの培養液におけるIL−2の濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、1〜1万U/mLの範囲内、好ましくは10〜1000U/mLの範囲内、より好ましくは30〜300U/mLの範囲内、さらに好ましくは50〜200U/mLの範囲内、より好ましくは70〜130U/mLの範囲内が挙げられる。
上記のIL−7(インターロイキン7)としては、哺乳動物のIL−7である限り特に制限されないが、培養する腸上皮間リンパ球や腸陰窩オルガノイドが由来する哺乳動物種と同種のIL−7が好ましく挙げられる。かかる哺乳動物のIL−7としては、市販されているIL−7(例えば、Peprotech社製)を用いてもよいし、GenBank等の配列データベースに開示されているIL−7遺伝子のヌクレオチド配列やアミノ酸配列に基づいて化学的に合成したIL−7を用いてもよいし、前述の配列に基づき、遺伝子組換え技術を利用して作製したIL−7を用いてもよい。
工程Bの培養液におけるIL−7の濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、0.1〜1000ng/mLの範囲内、好ましくは1〜100ng/mLの範囲内、より好ましくは3〜30ng/mLの範囲内、さらに好ましくは5〜20ng/mLの範囲内、より好ましくは7〜13ng/mLの範囲内が挙げられる。
上記のIL−15(インターロイキン15)としては、哺乳動物のIL−15である限り特に制限されないが、培養する腸上皮間リンパ球や腸陰窩オルガノイドが由来する哺乳動物種と同種のIL−15が好ましく挙げられる。かかる哺乳動物のIL−15としては、市販されているIL−15(例えば、Peprotech社製)を用いてもよいし、GenBank等の配列データベースに開示されているIL−15遺伝子のヌクレオチド配列やアミノ酸配列に基づいて化学的に合成したIL−15を用いてもよいし、前述の配列に基づき、遺伝子組換え技術を利用して作製したIL−15を用いてもよい。
工程Bの培養液におけるIL−15の濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、0.1〜1000ng/mLの範囲内、好ましくは1〜100ng/mLの範囲内、より好ましくは3〜30ng/mLの範囲内、さらに好ましくは5〜20ng/mLの範囲内、より好ましくは7〜13ng/mLの範囲内が挙げられる。
上記工程Bの培養液として、IL−2、IL−7及びIL−15から選択される1種又は2種以上(好ましくは3種)を含む培養液を用いる場合、かかるインターロイキンを1〜3日ごと(好ましくは2日ごと)に培養液に添加することが好ましい。
さらなる任意成分の1つである上記のRhoキナーゼ阻害物質としては、Sigma-Aldrich社製のY-27632((R)-(+)-trans-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩 一水和物)や、Tocris Bioschience社製のH 1152 dihydrochloride((S)-(+)-2-Methyl-1- [(4-methyl-5-isoquinolinyl)sulfonyl]-hexahydro-1H-1,4-diazepine dihydrochloride)が挙げられ、中でもY-27632が好ましく挙げられる。工程Bの培養液におけるRhoキナーゼ阻害物質の濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、前述の工程Bの培養液において、2〜50μMの範囲内、好ましくは5〜20μMの範囲内が挙げられる。
さらなる任意成分の1つである上記のNotchアゴニストとしては、Jagged 1タンパク質、Delta 1タンパク質、DSLペプチド(Dontu et al.,2004、Breast Cancer Res 6:R605-R615)などが挙げられ、中でも、DSLペプチドが好ましく挙げられる。工程Bの培養液におけるNotchアゴニストの濃度としては、「本発明の維持・増殖方法」や、後述の「本発明の製造方法」に用い得る限り特に制限されないが、例えば、前述の工程Bの培養液において、10〜100μMの範囲内が挙げられる。
さらなる任意成分の1つである上記の抗生物質としては、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシンなどが挙げられる。
上記工程Bの培養液として、Rhoキナーゼ阻害物質、Notchアゴニスト、抗生物質から選択される1種又は2種以上を含む培養液を用いる場合、それ又はそれらを1〜3日ごと(好ましくは2日ごと)に培養液に添加することが好ましい。
上記工程Bの培養液の調製方法としては、上記の基本培養液成分及び必須3成分(小腸必須3成分又は大腸必須3成分)の他、必要に応じて、大腸任意3成分及び/又はさらなる任意成分を、水やPBSなどの液体溶媒に配合させる方法や、基本培養液成分を含む培養液に、上記の必須3成分(小腸必須3成分又は大腸必須3成分)の他、必要に応じて、大腸任意3成分及び/又はさらなる任意成分を配合させる方法を例示することができる。
(共培養物からのIELの単離)
本発明の維持・増殖方法は、工程Bにより得られた共培養物からIELを単離する工程をさらに含んでいなくてもよいが、該工程を含んでいることが好ましい。共培養物からIELを単離する方法としては以下のような方法が挙げられる。共培養中の「細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイド」を培養液中から取りだした後、細胞外マトリクスを冷却やコラゲナーゼ等で解重合や分解などして、腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイドを分取する。遠心分離後、上清画分(画分1)を回収する。また、沈殿物を氷上の緩衝液中でインキュベートし、しばらく静置した後、上清画分(画分2)を回収する。さらに、その沈殿物を激しいピペット操作などで破壊し、メッシュフィルター(例えば目開き40μm)を通過させたものを画分3とする。画分1〜3はいずれもIELを含む懸濁液である。画分1〜3のいずれかを用いてもよいが、画分1〜3を合わせることにより、共培養物中からIELをより効率良く単離することができる。
(本発明の維持・増殖方法により得られる腸上皮間リンパ球)
本発明の維持・増殖方法により得られる「腸上皮間リンパ球」(小腸上皮間リンパ球又は大腸上皮間リンパ球)は、哺乳動物の小腸や大腸の上皮内や、該上皮と粘膜固有層との間などに投与することによって、腸上皮のバリア機能の向上、腸粘膜の恒常性の向上、腸における宿主(哺乳動物)防御機構の向上を図ることができると考えられる。なお、腸上皮のバリア機能の向上や、腸粘膜の恒常性の向上は、腸上皮間リンパ球のうち、主にγδT IELの投与により実現することができ、腸における宿主防御機構は、主にαβT IELの投与により実現することができる。
<2.腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドの製造方法>
本発明の「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドの製造方法」(本明細書において、単に「本発明の製造方法」とも表示する。)としては、
(A)単離された腸上皮間リンパ球を、腸陰窩オルガノイドと共に、細胞外マトリクスに包埋する工程A:及び、
(B)前記腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液中で、前記細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイドを共培養する工程B:
を含んでいる限り特に制限されない。
本発明の製造方法における上記工程A及び工程Bは、特に言及がない限り、前述の本発明の維持・増殖方法における上記工程A及び工程Bとそれぞれ同じ工程である。本発明の製造方法により、「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」をインビトロで製造することができる。
本発明の製造方法は、工程Bにより得られた共培養物から「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」を単離する工程をさらに含んでいなくてもよいが、該工程を含んでいることが好ましい。共培養物から「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」を単離する方法としては特に制限されないが、共培養中の「細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイド」を培養液中から取りだした後、細胞外マトリクスを冷却やコラゲナーゼ等で解重合や分解などして、腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイドを分取する方法を挙げることができる。
<3.腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド>
本発明の「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」(以下、単に「本発明の腸陰窩オルガノイド」とも表示する。)としては、本発明の製造方法により製造される「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」である限り特に制限されない。本明細書において、「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」とは、単離された腸上皮間リンパ球を用いないこと以外は本発明の製造方法と同じ方法で製造した腸陰窩オルガノイドと比較して、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドであることを意味する。かかる「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」として具体的には、工程Bの培養開始から3日目において、腸陰窩オルガノイド1個あたりの腸上皮間リンパ球の数が、腸上皮間リンパ球と共培養しない場合の腸陰窩オルガノイド1個あたりの腸上皮間リンパ球の数に対して、割合で好ましくは8倍以上、より好ましくは16倍以上、さらに好ましくは32倍以上に増加している腸陰窩オルガノイドを好適に挙げることができる。なお、これらの割合の上限は特に制限されないが、例えば200倍以下、100倍以下などが挙げられる。また、本明細書における「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」には、工程Bの培養開始から3日目において、腸陰窩オルガノイド1個あたりの腸上皮間リンパ球の数が、好ましくは2個以上、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは6個以上である腸陰窩オルガノイドを好適に挙げることができる。なお、腸陰窩オルガノイド1個あたりの腸上皮間リンパ球の数の上限は特に制限されないが、例えば36個以下、18個以下などが挙げられる。
腸陰窩オルガノイド中の腸上皮間リンパ球の数は、例えば、蛍光標識した抗リンパ球抗体を用いた免疫組織化学染色法によって測定することができる。標識した蛍光の検出は、市販の蛍光イメージング装置を用いて行うことができる。
また、本発明の製造方法により製造される「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」は、哺乳動物(好ましくはヒト)の腸(小腸又は大腸)に移植して用いる腸疾患の予防・治療剤(予防及び/又は治療剤)として利用することができる。本発明の「腸疾患の予防・治療剤」(以下、単に「本発明の予防・治療剤」とも表示する。)としては、本発明の製造方法で製造される「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」を含有している限り特に制限されない。
かかる腸疾患として具体的には、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患や、化学療法による腸管傷害や、放射線腸炎等を例示することができる。かかる本発明の予防・治療剤を投与すると、「腸(小腸又は大腸)上皮間リンパ球が増加した腸(小腸又は大腸)陰窩オルガノイド」が腸(小腸又は大腸)上皮に生着し、腸(小腸又は大腸)上皮の傷害を予防・治療することができる。
本明細書における「腸疾患の予防・治療効果」とは、腸(小腸又は大腸)疾患の予防効果、若しくは、腸(小腸又は大腸)疾患の治療効果、又は、腸(小腸又は大腸)疾患の予防及び治療効果を含み、腸(小腸又は大腸)疾患の予防効果としては、腸(小腸又は大腸)疾患の発症を予防する効果や、腸(小腸又は大腸)疾患の発症を遅延する効果などを含み、腸(小腸又は大腸)疾患の治療効果としては、腸(小腸又は大腸)疾患の症状を改善する効果や、腸(小腸又は大腸)疾患の症状の悪化を防止若しくは遅延する効果などを含む。なお、本発明の「腸疾患の予防・治療剤」における「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」は、通常の腸陰窩オルガノイドとは異なり、腸上皮間リンパ球が増加しているため、通常の腸陰窩オルガノイド(例えば、特許文献2における通常の大腸陰窩オルガノイド)を用いた場合と比較して、腸上皮のバリア機能、腸粘膜の恒常性、及び、腸における宿主(哺乳動物)防御機構から選択される1種又は2種以上(好ましくは3種)の点について向上を図ることができると考えられる。
本発明の予防・治療剤の投与対象としては、哺乳動物である限り特に制限されず、中でもヒトをより好適に例示することができる。本発明の予防・治療剤に含有させる「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」が由来する哺乳動物種は、投与対象の哺乳動物種と同種であることが好ましい。
本発明の予防・治療剤の投与方法としては、腸疾患を予防・治療し得る限り特に制限されないが、経腸投与、経静脈投与などを例示することができ、中でも、小腸や大腸への経肛門的注腸投与を好適に例示することができる。本発明の予防・治療剤の投与量としては、腸疾患の種類、症状の度合い、投与対象の体重、年齢等にもよるが、1×10〜1×1010/kgの細胞(1〜複数回に分けて投与してもよい)を挙げることができる。
本発明の予防・治療剤の調製方法としては、特に制限されず、本発明の製造方法により製造される「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」に、薬学的に許容される通常の担体、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、生理的食塩水等の水溶性溶剤、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等の等張化剤、ヒト血清アルブミン等の安定化剤、メチルパラベン等の保存剤、ベンジルアルコール等の局麻剤などの各種調剤用配合成分を配合する方法を例示することができる。また、本発明の予防・治療剤には、投与対象の腸(小腸又は大腸)上皮への生着効率を向上させる観点から、I型〜VIII型の各種コラーゲンやマトリゲルといった細胞外基質成分を、より好ましくはマトリゲルを、配合することが好ましい。この他、本発明の予防・治療剤には、本発明の製造方法により得られる「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」の他に、他の腸疾患の予防・治療剤を併用することもできる。
<4.腸上皮間リンパ球の運動性に与える影響を評価する方法>
本発明の「腸上皮間リンパ球の運動性に与える影響を評価する方法」(以下、単に「本発明の評価方法」とも表示する。)としては、
(P)本発明の製造方法により製造される「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」(好ましくは小腸陰窩オルガノイド)に被検物質を接触させる工程P:
(Q)工程Pの後に、前記腸陰窩オルガノイドにおける前記腸上皮間リンパ球の運動性を解析する工程Q:
(R)工程Qの解析で得られた運動性を、被検物質を接触させなかった場合の腸陰窩オルガノイドにおける腸上皮間リンパ球の運動性と比較する工程R:
(S)工程Rの比較の結果、工程Qの解析で得られた運動性の方が高い場合は、その被検物質を、腸上皮間リンパ球の運動性を向上させる活性を有する物質であると評価し、工程Qの解析で得られた運動性の方が低い場合は、その被検物質を、腸上皮間リンパ球の運動性を低下させる活性を有する物質であると評価する工程S:
を含んでいる限り特に制限されない。
上記工程Pとしては、本発明の製造方法により製造される「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」に被検物質を接触させる工程である限り特に制限されず、例えば、該腸陰窩オルガノイドを培養する培養液に被検物質を添加する方法が挙げられる。
上記工程Qとしては、工程Pの後に、前記腸陰窩オルガノイドにおける前記腸上皮間リンパ球の運動性を解析する工程である限り特に制限されず、例えば、市販の蛍光イメージングにより、腸上皮間リンパ球の運動性を解析する方法が挙げられる。
上記工程Rとしては、工程Qの解析で得られた運動性を、被検物質を接触させなかった場合の腸陰窩オルガノイドにおける腸上皮間リンパ球の運動性と比較する工程である限り特に制限されない。
上記工程Sとしては、工程Rの比較の結果、工程Qの解析で得られた運動性の方が高い場合は、その被検物質を、腸上皮間リンパ球の運動性を向上させる活性を有する物質であると評価し、工程Qの解析で得られた運動性の方が低い場合は、その被検物質を、腸上皮間リンパ球の運動性を低下させる活性を有する物質であると評価する工程である限り特に制限されない。
腸上皮間リンパ球の運動性を向上させる活性を有する物質は、例えば、腸内の宿主防御機構を活性化させる可能性のある物質等と評価することができ、腸上皮間リンパ球の運動性を低下させる活性を有する物質は、例えば、腸内の宿主防御機構を不活性化させる可能性のある物質等と評価することができる。また、本発明の評価方法は、腸上皮と、腸上皮間リンパ球との動的相互作用(腸上皮と、腸上皮間リンパ球との相互作用であって、かつ、腸上皮間リンパ球の運動性に影響を与える相互作用)を解析するためにも用いることができる。
(本発明のその他の態様)
本発明には、「腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドを、哺乳動物に投与することを特徴とする、腸疾患の予防及び/又は治療方法」、「腸疾患の予防及び/又は治療のための、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド」、「腸疾患の予防及び/又は治療剤の製造における、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドの使用」も含まれる。
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、インビトロで培養を開始した日にちを、培養後1日目とする。
1.材料と方法
1−1 実験マウス
EGFPがニワトリβ−アクチンプロモーター及びサイトメガロウイルスエンハンサーの制御下で恒常的に発現するEGFP組換えC57BL6マウス(EGFP−tgマウス)(文献「Okabe et al., FEBS Lett 1997, 407:313-319.」参照)は、大阪大学から提供された。また、ROSA26遺伝子座内のヒストンH2BのC末端側に融合したEGFPタンパク質をコードする遺伝子が挿入されたR26−H2B−EGFPマウス(文献「Abe et al., Genesis 2011, 49:579-590.」参照)は、理化学研究所(RIKEN)から提供された(アクセッション番号CDB0203K)。C57BL6バックグラウンドのマウス及び野生型C57BL6マウスは、東京医科歯科大学(TMDU)の動物施設で飼育、維持された。全ての動物実験は、東京医科歯科大学の動物実験委員会の承認を得て行った。
1−2 小腸陰窩オルガノイドの調製
小腸陰窩を、非特許文献9記載の方法にしたがって10〜15週齢の野生型C57BL6マウスから単離し、R-spo1(R−スポンジン1)、EGF及びNogginの存在下で培養した。すなわち、約300個の小腸陰窩を、30μL マトリゲル(BD Biosciences社製)に懸濁し、24ウェルプレートに置き、室温でマトリゲルを重合させた後、500ng/mL mRspo1(R&D Systems社製)、20ng/mL mEGF(Peprotech社製)及び100ng/mL mNoggin(R&D Systems社製)を含む500μL Advanced DMEM/F12培養液(Life Technologies社製)(以下、「小腸陰窩オルガノイド培養用培養液」と表示する。)を加えた。なお、培養液は、以下の実験で使用する直前まで2日毎に新しい培養液と交換した。
1−3 小腸由来のIELの単離
小腸由来IELは、文献(Kohyama et al., Proc Natl Acad Sci USA 1999, 96:7451-7455)に記載の方法にしたがって単離した。すなわち、10〜15週齢のEGFP−tgマウス、又はR26−H2B−EGFPマウスの小腸を、PBSで洗い流し、パイエル板を除去した後5mmの切片に切断した後、Ca、Mgを含まないハンクス平衡塩液に5mMのエチレン−ジニトリロ四酢酸(EDTA)及び1mMの1,4−ジチオ−D−トレイトール(DTT)を含む50mLコニカルチューブ中で37℃、30分間、150rpmで振盪しながらインキュベートし、目開き300μmナイロンメッシュフィルター及びグラスウールのカラムに通した後、回収された細胞を30%パーコールに懸濁し、20分間800gで遠心分離した。IELは、30分間800g、40/70%パーコール勾配の遠心分離で単離した。単離したIELは、洗浄し、細胞を計数した後、アッセイに用いた。なお、マウス1個体当たり、5〜10×10個の生存IELが得られた。また、TCRαβのIEL集団と、TCRγδのIEL集団は、単離した全IELを抗マウスTCR−β―PE抗体(BioLegend社製)、抗マウスTCR−δ―PECy7抗体(BioLegend社製)及び抗マウスCD3ε−APC抗体(Becton Dickinson社製)で染色した後、FACS ARIAII(Becton Dickinson社製)にてソートすることにより調製した(純度>99%)。
1−4 小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養
上記「1−2 小腸陰窩オルガノイドの調製」の項目に記載の方法にしたがって調製した小腸陰窩オルガノイドを2日間培養した後、Cell Recovery Solution(Corning社製)を添加し、氷上で30分間インキュベートすることにより全マトリゲルを解重合させ、小腸陰窩オルガノイドをマトリゲルから回収し、洗浄した後、小腸陰窩オルガノイド100個と、上記「1−3 小腸由来のIELの単離」の項目に記載の方法にしたがって単離したIEL 1.0×10個とを、24ウェルプレート上の400μL DMEM培養液中で混合した。37℃で30分間インキュベートした後、前記混合物を回収し、1分間200gで遠心分離した後、沈殿物(ペレット)を30μLのマトリゲルに懸濁し、24ウェルプレート上に移した。室温でマトリゲルを重合させた後、小腸陰窩オルガノイド培養用培養液500μL、又は100U/mL 組換えヒトIL−2(Roche社製)、10ng/mL マウスIL−7(Peprotech社製)及び10ng/mL マウスIL−15(Peprotech社製)を含有する小腸陰窩オルガノイド培養用培養液(以下、「+IL−2/IL−7/IL−15小腸陰窩オルガノイド培養用培養液」と表示する。)500μLをウェルに加え、37℃、5%CO条件下で7日間培養を行った。なお、培養液は、2日毎に新しい培養液と交換した。
1−5 小腸陰窩オルガノイドとIELとの共培養物からのIELの単離
上記「1−4 小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養」の項目に記載の方法にしたがって小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養を行った後、Cell Recovery Solution(Corning社製)を添加し、氷上で30分間インキュベートすることにより全マトリゲルを解重合させ、小腸陰窩オルガノイドをマトリゲルから回収した後、500gで5分間の遠心分離後、上清画分(画分1)を回収した。また、沈殿画分中に含まれるIELを回収するために、沈殿物を10分間氷上で5mM EDTA/PBS中でインキュベートし、さらに1分間静置することにより沈殿物を堆積させた後、上清画分(画分2)を回収した。さらに、その後に得られた沈殿画分中に含まれるIELを回収するために、沈殿物を激しいピペット操作を行って機械的に破壊し、その後40μmのナイロンメッシュフィルターを通過させたものを画分3とした。画分1〜3を合わせたものをIEL懸濁液とした。なお、7日目以降のIELの培養は、7日目のIEL懸濁液中に含まれるEGFP陽性(+)のIELを、血球計により計数した後、上記「1−4 小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養」の項目に記載の方法にしたがって小腸陰窩オルガノイドと共培養することにより行った。
1−6 免疫組織染色及び小腸陰窩オルガノイドの三次元イメージング解析
上記「1−4 小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養」の項目に記載の方法等にしたがって得られた小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養物を、4% パラホルムアルデヒド溶液中で40分間固定処理し、0.2% Triton-X含有PBS溶液中で30分間透過処理した後、2% BSA及び0.2% Triton-Xを含むPBS溶液中で40分間ブロッキング処理を行った(全て室温で処理した)。一次抗体(マウス抗CD3ε抗体[Becton Dickinson社製]、及びマウス抗Cdh1抗体[Santa Cruz Biotechnology社製])を一晩4℃でインキュベートし、一次抗体を認識する蛍光物質で標識した二次抗体(抗マウスAlexa Fluor 488抗体、及び抗マウスAlexa Fluor 594抗体[すべてLife Technologies社製])による抗体反応処理を1.5時間室温で行った。細胞核は、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールジヒドロクロリド(DAPI)で染色し、免疫染色試料はその後Vectashield Mounting Medium(Vector Laboratories社製)で封入し、顕微鏡により観察した。小腸陰窩オルガノイドの三次元イメージング解析は、室温でFluoview FV10i システム(Olympus社製)で行い、蛍光画像は、0.85μmのzステップでOlympus 60x対物レンズ(1.35N.A.)を用いて取得した。なお、観察できる最大の深さは250μmであったので、培養又は共培養の開始後2日間培養したオルガノイド全体をカバーするのに十分であった。また、z−スタック画像は、必要に応じてAdobe Photoshopソフトウェアで加工した。
1−7 フローサイトメトリー
上記「1−3 小腸由来のIELの単離」及び「1−5 小腸陰窩オルガノイドとIELとの共培養物からのIELの単離」の項目に記載の方法にしたがって単離したIELを、0.2% FCS含有PBS溶液中に5×10細胞の濃度で懸濁し、室温で10分間、0.2% FCS含有PBS溶液に1:100で希釈した抗CD16/CD32抗体(BioLegend社製)中でFcRブロッキング処理を行った後、FACS CantoII(BD Biosciences社製)によるフローサイトメトリー解析を行った。前方散乱光(FSC)及び側方散乱光(SSC)の環境(setting)を用いて、サイズ及び粒度に基づいたリンパ球(IEL)と腸上皮細胞(IEC)の分離を行った。また、TCRαβのIEL集団(サブセット)と、TCRγδのIELサブセットを定義するために、抗TCR−β−PE抗体及び抗TCR−δ−PECy7抗体を、最適濃度で使用した。
また、細胞内染色は、4% パラホルムアルデヒド溶液中で細胞を固定処理し、Perm II試薬(Becton Dickinson社製)で透過処理した後、抗Ki-67-660eFluor抗体(eBioscience社製)又は抗ホスホ-ERK−Alexa647抗体(Cell Signaling社製)存在下で1時間、室温で抗体反応処理を行った。なお、細胞表面染色の場合は、上記抗体反応処理は、4℃で20分間行った。
1−8 タイムラプス(Time-lapse)蛍光イメージング
タイムラプス蛍光イメージングは、Insight SSI光源を有する蛍光顕微鏡IX-71(Olympus社製)が組み込まれたDeltaVisionシステム(Applied Precision社製)を用いて行った。すなわち、タイムラプス蛍光イメージングは、細胞を含むガラスボトムディッシュ(glass-bottom culture dish)を、チャンバーで覆われた上記顕微鏡のステージ上に置き、5% CO及び95% airからなる加湿した既混合ガスが注入され、かつ37℃で温度制御された条件下で行った。イメージングを開始する前に、細胞核を30分間、1μg/mL Hoechst33342(Nacalai Tesque社製)で染色した。また、5μM PD184352は、イメージングを開始する1時間前に培養液に添加した。核及びEGFPの蛍光画像は、CoolSnap ES2デジタルカメラ(Roper Scientific社製)上のUplansApo 20x 対物レンズ(0.75N.A.)により取得した。単一面イメージングは、2時間、20秒間隔で行った。多面イメージングは、10分間、30秒間隔で行い、一度に5μmステップでzスタックを取得した。これらのzスタックの最大強度の投影データを得るためにSoftWorx ソフトウェア(Applied Precision社製)を使用した。
1−9 IEL運動解析
イメージングデータをImaris 7.5(Bitplane社製)ソフトウェアにインポートした。IELの核は、その後Imarisのスポット追跡特徴(spot tracking feature)を使用して個別に判定し、サイズ予測(size estimate)は10μmであった。核の遊走は、ソフトウェアの「自己回帰運動」追跡アルゴリズムによって分析した。1つのトラック(track:軌跡)が、期間全体を通して同じ核に続くことを確認するために、トラックを視覚的に確認した。データセットは、3Dマトリゲル領域(データ獲得スペース)から得た情報からなるものであるが、スポット(核)の判定は、このデータ獲得スペースの表面に達するために十分に近い場合に不正確であることが多かった。このような周辺効果を避けるために、Imarisのフィルタリング機能を使用して外側データ獲得空間よりも10μm短いxyz方向に沿ったエッジを有するより小さい直方体(内側直方体;inner cuboid)を規定した。観察期間の80%を超えてこのInner cuboid内に留まった核のみを統計分析に使用した。平均速度(Mean Speed)、最大速度(Max Speed)、トラックの長さ(track length)、及び核の転位(Displacement of nuclei)の計算は、Imarisソフトウェアを使用して行った。
1−10 大腸陰窩オルガノイドの調製
大腸陰窩を、特許文献2(国際公開第2013/061608号パンフレット)記載の方法にしたがって、7〜9週齢の野生型EGFP−tgマウスから単離し、血清アルブミン(BSA)、Wnt3a、R−スポンジン1、上皮細胞増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、及び、ノギン(Noggin)の存在下で培養した。すなわち、2000個の大腸陰窩をI型コラーゲン溶液(Nitta Gelatin Inc.社製)200μlに懸濁し、48ウェルプレートに載置した。コラーゲンの重合後、各ウェルに、1%BSA(Sigma社製)、30ng/mlのmWnt3a(R&D Systems社製)、500ng/mlのマウス(m)Rspo1(R&D Systems社製)、20ng/mlのmEGF(Peprotech社製)、50ng/mlのmHGF(R&D Systems社製)及び50ng/mlのmNoggin(R&D Systems社製)を含有する500μlのアドバンストDMEM/F12を加えた(以下、「TMDU培養液」とも表示する。)。この培養液を2日毎に交換した。継代を行うため、XI型コラゲナーゼを含有するDMEMにおいて全ゲルを37℃で5分間消化し、回収した大腸陰窩オルガノイドをBSA含有PBSで洗浄した。この大腸陰窩オルガノイド沈殿物を2mMのEDTA及び0.5%BSAを含有するPBSに懸濁し、激しく振盪した。これにより脱凝集した大腸陰窩オルガノイド小塊をI型コラーゲン溶液と混合して継代培養に使用した。単一細胞から複数細胞よりなる細胞塊までの継代培養に用いる細胞塊の大きさは、顕微鏡下で観察しながらEDTA処理時間を調節した。細胞増殖後の最初の2日間、Rhoキナーゼ阻害剤Y−27632を10μMとなるように培養液に加えた。杯細胞の分化を誘導する場合には、γ−セクレターゼ阻害剤LY−411,575(100nM)で大腸オルガノイドを所定期間にわたり処理した。
1−11 大腸陰窩オルガノイドとIELの共培養
上記「1−10 大腸陰窩オルガノイドの調製」の項目に記載の方法にしたがって調製した大腸陰窩オルガノイドを2日間培養した後、XI型コラゲナーゼを培養液に添加して全ゲルを37℃で5分間消化し、大腸陰窩オルガノイドをコラーゲンから回収した。大腸陰窩オルガノイドをBSA含有PBSで洗浄した後、かかる大腸陰窩オルガノイド100個と、上記「1−3 小腸由来のIELの単離」の項目に記載の方法にしたがって単離したIEL 1.0×10個とを、24ウェルプレート上の400μL DMEM培養液中で混合した。37℃で30分間インキュベートした後、前記混合物を回収し、1分間200gで遠心分離した後、沈殿物(ペレット)をI型コラーゲン溶液(Nitta Gelatin Inc.社製)200μlに懸濁し、24ウェルプレート上に移し、コラーゲンが重合するまで静置した。前述のTMDU培養液にIL−2、IL−7及びIL−15を添加して、100U/mL 組換えヒトIL−2(Roche社製)、10ng/mL マウスIL−7(Peprotech社製)及び10ng/mL マウスIL−15(Peprotech社製)を含有するTMDU培養液(以下、「+IL−2/IL−7/IL−15TMDU培養液」とも表示する。)を調製した。前述のコラーゲンが重合した後、24ウェルプレートの各ウェルに、「+IL−2/IL−7/IL−15TMDU培養液」を500μLずつに加え、37℃、5%CO条件下で7日間培養を行った。なお、培養液は、2日毎に新しい培養液と交換した。
1−12 大腸陰窩オルガノイドとIELの共培養物からのIELの単離
上記「1−11 大腸陰窩オルガノイドとIELの共培養」の項目に記載の方法にしたがって大腸陰窩オルガノイドとIELの共培養を行った後、XI型コラゲナーゼを培養液に添加して全ゲルを37℃で5分間消化し、大腸陰窩オルガノイドをコラーゲンから回収した。この後のIELの単離処理及び計数処理は、上記「1−5 小腸陰窩オルガノイドとIELとの共培養物からのIELの単離」の項目に記載の方法にしたがって行った。このようにして、大腸陰窩オルガノイドとIELの共培養物からIELを単離し、及び、IELを計数した。
2.結果及び考察
2−1 小腸陰窩オルガノイド中に存在するIELのインビトロ培養
小腸陰窩オルガノイド存在下で、IELをインビトロで培養・維持する方法の開発を行うために、本発明者らは先ず、従来の小腸陰窩オルガノイドの培養方法によって、該小腸陰窩オルガノイドに存在するIELを培養・維持できるかどうかを確認した。上記「1−2 小腸陰窩オルガノイドの調製」の項目に記載の方法にしたがって小腸陰窩オルガノイドを単離・培養し、上記「1−6 免疫組織染色及び小腸陰窩オルガノイドの三次元イメージング解析」の項目に記載の方法にしたがって免疫組織染色を行ったところ、培養後1日目の小腸陰窩オルガノイドにおいてCD3T細胞(IEL)が検出された(図1Aの矢頭参照)。小腸陰窩オルガノイドにおけるIEL数を計測したところ、小腸陰窩オルガノイド1個当たりのIEL数は0.21±0.06(n=90)であり、IELが検出された小腸陰窩オルガノイドの割合は16%(n=90)であった。一方、培養後3日目及び7日目についても同様に解析したが、小腸陰窩オルガノイドにおいてCD3T細胞(IEL)は検出されなかった。これらの結果は、従来の小腸陰窩オルガノイドの培養方法では、小腸陰窩オルガノイドに存在するIELを中長期的に培養・維持することはできないことが示された。したがって、通常の当業者であれば、小腸陰窩オルガノイドを、IELの培養・維持に用いるという発想は持つことができなかった。しかし、本発明者らは、通常の当業者の発想にはとらわれずに自由な発想で検討を重ねた結果、小腸組織からIELを単離し、該IELを小腸陰窩オルガノイドと共培養するなどすれば、IELを中長期的に培養・維持できる可能性があるのではないかと考えた。
2−2 小腸陰窩オルガノイドとIELとの共培養
小腸組織からIELを単離し、小腸陰窩オルガノイドと共培養した場合に、IELを培養・維持できるかどうか検討した。上記「1−4 小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養」の項目に記載の方法にしたがって小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養を小腸陰窩オルガノイド培養用培養液中で行い、培養後3日目において上記「1−6 免疫組織染色及び小腸陰窩オルガノイドの三次元イメージング解析」の項目に記載の方法にしたがって免疫組織染色を行ったところ、EGFPCD3T細胞(IEL)が検出された(図1Bの矢頭及び矢印参照)。また、小腸陰窩オルガノイド1個当たりのIEL数は6.9±0.8(n=24)であり、IELが検出された小腸陰窩オルガノイドの割合は100%(n=24)であった。この結果は、単離したIELを小腸陰窩オルガノイドと共培養すると、培養後少なくとも3日目までは効率よくIELを培養・維持できることを示している。また、興味深いことに、EGFPCD3T細胞(IEL)は、小腸陰窩オルガノイド内部だけでなく、小腸陰窩オルガノイドと接触しない状態で小腸陰窩オルガノイド外部に存在していた(図1Bの矢印参照)。一方で、単離したIELのインビトロでの生存期間は、サイトカインの補充やTCR刺激がない条件下では、48時間未満の期間に制限されることが報告されている(「Brunner et al., Cell Death Differ 2001, 8:706-714」、及び「Lai et al., J Immunol 1999, 163:5843-5850」参照)。かかる報告と、上記本実施例の結果(培養後少なくとも3日目までは効率よくIELを培養・維持することができた)を総合的に考慮すると、単離したIELを小腸陰窩オルガノイドと共培養する方法は、IL−2やIL−7やIL−15を用いない従来の方法と比較して、IELをより長い期間維持することができることが示された。また、小腸陰窩オルガノイド外部でもIELが生存・維持できることから、一見接触しては見えないこれらIELも、同一培養内に共存する小腸陰窩オルガノイドから生存・維持に関与する作用を受けている可能性が考えられる。
小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養をその後7日目まで行ったものの、検出されるIELの割合は減少した。一方、様々なサイトカインがIELの生存及び増殖に関与することが報告されており、特に、TCRαβのIEL集団、及びTCRγδのIEL集団をIL−2、IL−7及びIL−15の存在下で培養すると、様々なメカニズムを介してこれらIEL集団の生存期間が延びることが報告されている(非特許文献5、「Inagaki-Ohara et al., Eur J Immunol 1997, 27:2885-2891」、「Lai et al., J Immunol 1999, 163:5843-5850」、「Yada et al., Cell Immunol 2001, 208:88-95」参照)。そこで、IL−2、IL−7及びIL−15存在下でIELと小腸陰窩オルガノイドの共培養を行った場合に、IELの生存期間が延びるかどうか検討した。上記「1−4 小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養」の項目に記載の方法、及び、上記「1−5 小腸陰窩オルガノイドとIELとの共培養物からのIELの単離」の項目に記載の方法にしたがって小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養を14日目まで「+IL−2/IL−7/IL−15小腸陰窩オルガノイド培養用培養液」中で行い、培養後1〜14日において上記「1−6 免疫組織染色及び小腸陰窩オルガノイドの三次元イメージング解析」の項目に記載の方法にしたがって免疫組織染色を行ったところ、少なくとも7日目又は14日目までEGFPCD3T細胞(IEL)集団の割合は増加したことが示された(図2A〜C参照)。例えば図2Aには、1日目、3日目、7日目と、培養日数が経過するにつれて、IELのEGFP蛍光(図2Aの白い小さな白っぽい点)が増加したことが示されている。また、図2Bには、7日目において、CD3の蛍光(図2B上段)とEGFPの蛍光(図2B下段)の位置が一致しており、IELが、オルガノイドの上皮の細胞間などに存在していることが示されている。また、図2Cには、培養後14日目において、IELのEGFP蛍光(図2Cの白い小さな白っぽい点)が増加したことが示されている。なお、7日目の小腸陰窩オルガノイドは、三次元イメージング解析するには大きすぎたので、上記「1−5 小腸陰窩オルガノイドとIELとの共培養物からのIELの単離」の項目に記載の方法にしたがってIELを単離し、上記「1−7 フローサイトメトリー」の項目に記載の方法にしたがってEGFPT細胞(IEL)数を測定したところ、6〜7日間でIELの数が約2倍となることが明らかとなった(図3A参照)。この結果は、IELをIL−2、IL−7、及びIL−15存在下で小腸陰窩オルガノイドと共培養すると、少なくとも14日間は、IELが増殖・維持されることを示すとともに、小腸陰窩オルガノイドとの共培養開始後14日目でIELの数を約4倍まで増殖できることを示している。
次に、小腸陰窩オルガノイドとの共培養により、IEL集団に含まれる特定の細胞集団ではなく、IEL集団全体が増殖することを確認するために、TCRαβのIEL集団と、TCRγδのIEL集団の増殖を解析した。上記「1−7 フローサイトメトリー」の項目に記載の方法にしたがって、小腸陰窩オルガノイドとの共培養後1日目及び7日目におけるTCRαβ及びTCRγδのIEL集団の比率を測定したところ、1日目と、7日目及び14日目において、これらIEL集団の比率に大きな変化は認められなかった(図3B及びD参照)。また、TCRαβ及びTCRγδのIEL集団において、細胞増殖マーカーであるKi−67の発現を解析したところ、いずれのIEL集団においてもその大部分がKi−67陽性であった(図3C及びE参照)。これらの結果は、小腸陰窩オルガノイドとの共培養により、IEL集団に含まれる特定の細胞集団ではなく、IEL集団全体が増殖することを示している。
以上の結果は、IEL集団の多様性に影響を及ぼすことなく、IEL集団をインビトロで増殖・維持できる新規培養システムが開発されたことを示している。
次に、単離したIELを小腸陰窩オルガノイドと共培養して、IELを培養・維持する際に用いるIL−2、IL−7及びIL−15のうち、IELの培養・維持にいずれが必須かを検討した。上記「1−4 小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養」の項目に記載の方法にしたがって小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養を小腸陰窩オルガノイド培養用培養液中で行った。ただし、3種のILのうち、いずれか1種のILを用いた実験や、いずれのILも用いない実験も行った。これらの実験におけるILの濃度は、上記「1−4 小腸陰窩オルガノイドとIELの共培養」の項目に記載の方法における濃度にしたがった。培養後1日目及び7日目において、上記「1−7 フローサイトメトリー」の項目に記載の方法にしたがってEGFPT細胞(IEL)数を測定した。その結果を図4Aに示す。
図4Aの結果から分かるように、3種のILのうち、IL−7やIL−15を単独で用いた場合は、培養後7日目(Day7)でIEL数はDay1より減少するものの、3種のILのいずれをも添加しない場合にIELが全く生存できないのと比べ、生存IEL数の改善が見られた。また、3種のILのうち、IL−2を単独で用いた場合は、培養後7日目のIEL数が、培養後1日目のIEL数に対して、約1.8倍にまで増加した。この結果から、3種のILともにIELの生存や増殖を促進する作用を有し、中でもIL−2にこの作用が強いことが示された(図4A)。実際に、3種のIL(IL−2、IL−7及びIL−15)を併用した場合は、培養後7日目のIEL数が、培養後1日目のIEL数に対して、約3倍にまで増加した(図4A)。すなわち、3種のIL(IL−2、IL−7及びIL−15)を併用した場合は、IL−2を単独で用いた場合に対して、培養後7日目のIEL数が、約1.7倍にまで増加した(図4A)。これらの結果から、単離したIELを小腸陰窩オルガノイドと共培養して、IELを培養・維持すること等のためには、3種のILのうち、少なくともIL−2を用いることが特に好ましく、IL−2に加えてさらにIL−7及びIL−15を併用すると、IELの増殖効率の点で顕著な効果が得られることが示された。
2−3 大腸陰窩オルガノイドとIELとの共培養
小腸組織から単離したIEL(すなわち、小腸上皮間リンパ球)を、小腸陰窩オルガノイドと共培養した場合だけでなく、大腸陰窩オルガノイドと共培養した場合であっても、IELを培養・維持できるかどうか検討した。
上記「1−11 大腸陰窩オルガノイドとIELの共培養」の項目に記載の方法にしたがって大腸陰窩オルガノイドとIELの共培養を「+IL−2/IL−7/IL−15TMDU培養液」中で行った。培養後1日目及び7日目にそれぞれ、上記「1−12 大腸陰窩オルガノイドとIELの共培養物からのIELの単離」の項目に記載の方法にしたがってIELを単離し、上記「1−7 フローサイトメトリー」の項目に記載の方法と同様の方法にしたがってEGFPT細胞(IEL)数を測定した。その結果を図4Bに示す。意外なことに、小腸上皮間リンパ球は、大腸陰窩オルガノイドと共培養した場合であっても、培養・維持できることが示された。6〜7日間でIELの数が約1.86倍となることが明らかとなった(図4B)。IEL数のこの増加の程度は、小腸陰窩オルガノイドと共培養した場合(図3Aの7日目)と比較すると若干劣るものの、かかる方法は、IELを培養・維持するための優れた方法であることが示された。
2−4 小腸陰窩オルガノイドにおけるIELの運動性解析
次に、上記「1−8 タイムラプス(Time-lapse)蛍光イメージング」及び「1−9 IEL運動解析」の項目に記載の方法にしたがって共培養後3日目におけるIELと小腸陰窩オルガノイド間の動的相互作用について解析したところ、大部分のEGFPT細胞(IEL)は、高い運動性を有することが示された(図5A参照)。この単一面イメージングでは、正確な三次元的情報を取得することはできなかったものの、焦点が合った画像でも焦点が外れた状態でも移動を示したことから、多くのEGFPT細胞(IEL)がz軸に沿って遊走することが示された。また、小腸陰窩オルガノイドに接触するIELは、上皮単分子層の基底側に沿ってランダム方向に、その細胞形状を連続的かつ大規模に変化させながら遊走することが示された(図5Aの上段参照)。これらのIELは、その細胞質突起又は構造全体を、上皮細胞間に挿入し、上皮細胞の外側面との接触を可能にした(図5Aの上段参照)。また、小腸陰窩オルガノイドの外側にとどまるIELも運動性を有することが示された。これらのIELのいくつかが、小腸陰窩オルガノイドに向かって遊走し、小腸陰窩オルガノイドと直接接触し、その中に一時的にとどまり、その後出ていく様子が観察された(図5Aの下段参照)。これらの結果は、本発明者らが開発した共培養システムにおいて、IELは、高い運動性を有し、多くのIECと接触することを示している。さらに、IELが、この共培養システムにおいて、小腸陰窩オルガノイドに進入し及び小腸陰窩オルガノイドから退出することができ、IECとの接触状況を変化させることが示された。これは、IELとIECの接触が、IELの生存期間を伸ばしたり、IELの増殖を刺激したりすることにより、IELの全体的な増殖を導くことに関与していることが考えられる。
次に、IELの遊走活動を定量的に解析した。EGFP−tgマウス由来のEGFPT細胞(IEL)を用いた場合には、かかるEGFPT細胞の非対称で変形した形状、及び量の多さは、特に2つのEGFPT細胞が極めて接近したときに、適切に個別の細胞の中心を定義することができなかった。このため、融合パートナーヒストンH2Bが局在している核だけがEGFPで標識されるR26−H2B−EGFPマウスに由来するEGFPT細胞(IEL)を用いて、IELと小腸陰窩オルガノイド間の動的相互作用について解析を行うことにした(図5B参照)。その結果、H2B−EGFPT細胞(IEL)を野生型オルガノイドと共培養し、10分間、30秒間隔でイメージングを行い、一度に約20枚のzスタック画像を取得したところ、zスタック画像の最大値投影(maximum intensity projection)により、個々の細胞核はこの方法で明確に検出できることが示された(図5C参照)。その結果、小腸陰窩オルガノイドの上皮層に沿って遊走するIELを観察でき、小腸陰窩オルガノイド内や外へと動的に遊走するIELも観察できた。
三次元データを復元して、画像処理ソフトウェアを使用してIELの遊走パラメーターを測定した。実際には、空間の表面に達した核の正確でない追跡を避けるために、より小さい空間を定義し、観察期間の80%を超える間その中にとどまった細胞だけを分析した。その結果を図5Bに示す。図5BにおけるIELの遊走の平均速度は5.07±0.27μm/分であり、最大速度は9.67±0.60μm/分であった(図5C、及び表1参照)。
一方、共焦点顕微鏡を用いてTCRγδのIELの運動性パラメーターをインビボで評価したところ、平均速度及び最大速度はそれぞれ3.8±0.1μm/分及び7.7μm/分であることが報告されている(非特許文献6)。本実施例で得られた結果は、上記インビトロでの結果を支持することが示された。また、TCRαβのIELと、TCRγδのIELの遊走について両者を比較して解析したところ、両者に顕著な違いは認められなかった(図5Dの上段、及び表1参照)。この結果は、TCRαβのIELが、本質的にTCRγδのIELと同等の運動性を有することを示している。
IELとIECの相互作用に影響を与える因子や要因については、依然として不明な点が多い。インビボ実験において、TNF−αの投与が、TCRγδのIELの遊走や上皮組織内における滞留を変更することが報告されている(非特許文献6)。TNF−α(10ng/ml)で前処理し、IELの運動解析を行ったところ、IELの動態に変化は認められなかった。一方、MEK1/MEK2の阻害剤であるPD184352で前処理した上で、IELの運動解析を行ったところ、TCRαβのIELの遊走は約20%減少したのに対して、TCRγδのIELの遊走については変化が認められなかった(図5Dの下段、及び表1参照)。興味深いことに、フローサイトメトリーによる解析から、ERKのリン酸化は、TCRαβのIELと、TCRγδのIELの両方のサブセットで同レベルで生じることが示された(図5E参照)。これらの結果は、MEK1/MEK2が同様に全IEL集団で活性化されていても、MEK1/MEK2−ERKカスケードが、細胞間遊走活性に関与しているかどうかは、細胞の種類に依存することを示唆している。このように、本発明者らが開発した共培養システムは、IELとIECのインビトロの相互作用を制御するメカニズムを解析するための有用なツールとなることが期待される。
本発明は、腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させる方法や、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドの製造方法や、該製造方法により製造される腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドを提供することができる。

Claims (8)

  1. (A)単離された腸上皮間リンパ球を、腸陰窩オルガノイドと共に、細胞外マトリクスに包埋する工程A:及び、
    (B)前記腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液中で、前記細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイドを共培養する工程B:
    を含むことを特徴とする、腸上皮間リンパ球をインビトロで維持・増殖させる方法。
  2. (A)単離された腸上皮間リンパ球を、腸陰窩オルガノイドと共に、細胞外マトリクスに包埋する工程A:及び、
    (B)前記腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液中で、前記細胞外マトリクスに包埋した腸上皮間リンパ球及び腸陰窩オルガノイドを共培養する工程B:
    を含むことを特徴とする、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイドの製造方法。
  3. 腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液が、IL−2、IL−7及びIL−15から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 腸陰窩オルガノイドが小腸陰窩オルガノイドである場合は、小腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液が、分裂促進増殖因子、Wntアゴニスト及びBMP阻害物質を含む培養液であり、腸陰窩オルガノイドが大腸陰窩オルガノイドである場合は、大腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液が、血清アルブミン、Wnt3a、及び、R−スポンジン1を含有し、かつ、血清を含有しない培養液であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 分裂促進増殖因子がEGFであり、WntアゴニストがR−スポンジン1及び/又はWnt−3aであり、BMP阻害物質がNogginであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
  6. 大腸陰窩オルガノイドを増殖し得る培養液が、上皮細胞増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、及び、Nogginからなる群から選択される1種又は2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。
  7. 腸陰窩オルガノイドが小腸陰窩オルガノイドである場合は、細胞外マトリクスが、マトリゲルであり、腸陰窩オルガノイドが大腸陰窩オルガノイドである場合は、細胞外マトリクスがコラーゲンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 請求項2〜7のいずれかに記載の製造方法により製造される、腸上皮間リンパ球が増加した腸陰窩オルガノイド。

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